白む空に燻る紫煙 ---〆

白む空に燻る紫煙 ---〆

刑事A  2022-01-18 14:27:13 
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  • No.4836 by アルバート・エバンズ  2025-03-10 22:44:51 

 





( 一度は此方の呼び掛けに気付き足を止めたかに見えた相手だったが、小屋の窓の奥を見つめたまま拳銃を構え直す小さな仕草を見て、突入するつもりなのだと理解して。綿密に作戦を練り機動隊をそれぞれの持ち場に配置した上でタイミングを見計らって突入の指示を出すのが正しい順序なのだが、未だ体勢も何も整っていない。けれど相手は既に行動を起こそうとしている。犯人が完全に丸腰で逃亡を続けているとは考えにくく、其処に1人で飛び込むなど危険極まりない行為だ。面と向かって対峙した状態で拳銃を向けられればどうなるか。_____しかし、この状況で相手を止める事は既に出来ないと判断し、相手が小屋の扉に手を掛けるのとほぼ同時に「ミラーを援護しろ!」と指示を出して。響いた銃声が誰によるものかも分からず、体制が整って居ないと自負しているだけに重傷者が出るかもしれないという恐怖が確かに纏わりついていた。---生憎犯人はFBIに張り込まれている事には気づいておらず、突然の突入に驚き腰の拳銃に手を掛けるのが遅れた。その数秒と、急な指示にも関わらずすぐさま状況を汲み取り援護に動いた隊員達の瞬発力によって、程なく犯人は確保され。 )







 

  • No.4837 by ベル・ミラー  2025-03-11 00:01:00 





( 小屋の中は窓という窓にカーテンが閉められ昼間だと言うのに何処か薄暗く、扉を開いた後の事はまるで一種の早送りの様に流れたと感じた。響いた銃声は己の物でも犯人の物でも無く相手の咄嗟の指示で突入した機動隊員の物。その銃弾は誰も負傷させる事無く奥の壁に傷を付け、直ぐ様取り押さえられた犯人は抵抗も虚しく隊員数名によって小屋の外へと出され、待機していた捜査官に手錠を掛けられ逮捕となった。「__もう、大丈夫です。」泣き腫らした真っ赤な瞳になみなみと溢れんばかりの涙を溜め震える女性は、何度も頷きこそすれど余りの恐怖に言葉を紡ぐ事は無い。その女性の傍らに膝を着きつつ手首を縛る紐を解き、安心させる様に声を掛けたのだが人質を無傷で助け出す事が出来た確かな安堵がある筈なのに、それは間違いないのに、地に足が付かない様な不安定な感覚も同時に覚えているのは何故だろうか。銃声とはまた違う大きな音が、聞こえる筈が無いのに耳の奥で震えている。やがて力の入らぬ縺れる足を懸命に動かし、隊員に両脇を支えられる様にして女性が小屋を出た事で、室内に残ったのは自身だけとなった。外は騒がしいが先程までの激しさは今此処には無い。「……、」やや俯き加減のまま、女性が座り込んでいた場所を静かに見詰めて )




  • No.4838 by アルバート・エバンズ  2025-03-11 00:37:57 

 





( 犯人は手錠を掛けられ、中にいた人質と見られる女性は隊員に支えられながら病院へと搬送された。相手が真っ直ぐに彼女の元へ向かい声を掛ける姿を見れば、恐らく犯人の動向を監視する中で人質の存在に気が付き、思わず身体が動いたのだろうと想像は出来る。小屋の中に人質が囚われているという情報は無かったため、怪我も無く無事に救出出来た事に安堵こそするのだが。犯人の移送と女性のケア、病院への搬送を隊員たちに指示するのと同時に、体勢が整わないままの危険な突入となった事を謝罪し、一瞬の判断での援護に感謝を述べる。この一件については隊員達の直属の上司にも自分から詫びを入れると伝えて。---「______どういうつもりだ、」小屋へと足を踏み入れると、相手の背中越しに低く怒りの滲んだ声で言葉を投げ掛ける。「俺が指示したのは中の監視だけだ。誰が突入を許可した。」相手と視線は重なっておらず、どんな表情をしているかは窺い知れない。どんな思いがあってその行動に出たのかも分からないが、冷ややかな声で言葉を紡ぎ。 )






 

  • No.4839 by ベル・ミラー  2025-03-11 01:08:39 





( ___背後で床を踏みしめる足音が聞こえ、その音が真後ろで止まったかと思えば続いて怒りの滲んだ低く静かな声が落とされた。一拍程の僅かな間の後にゆっくりと振り返り相手と視線を合わせる。碧眼には一目見ただけでわかる冷たさが宿っていて、その瞳を見た途端に先程までの何処か浮世離れしたかの様な不安定さが影を潜め、浮遊していた感覚が戻った。__自分は何をした。相手の言う通り、指示されたのは小屋の中の監視で突入では無い。ましてあの時、まだ相手は機動隊員と綿密な作戦を練っている真っ最中で、己は勿論、他の隊員の誰にも突入の指示は出ていなかったのだ。“助けて”と、その言葉と人質の女性の姿を見て咄嗟に身体が動いてしまった。途中、確かな制止の言葉を聞いたのに。明らかな、絶対におかしてはいけなかった単独の突入に弁解の余地は無い。「……誰も、」僅かに視線を落とし、誰の許可も受けてはいないと消え入りそうな声で返事をした後、「…申し訳ありませんでした…。」と、これまた変わらぬ声量での謝罪を告げて )




  • No.4840 by アルバート・エバンズ  2025-03-11 09:02:00 

 





( 小さな声で紡がれた謝罪に、自分がした事の重大さが分かっているのかと思わず声を荒げる。「お前1人の勝手な行動で、あの場にいた全員が危険に晒された!考え無しに突入して、相手が拳銃を手にしていたらどうするつもりだった?体制も整っていない、機動隊の咄嗟の援護が無ければ死んでいた可能性だってある!」1人の誤った判断や身勝手な行動、或いはそれよりも些細な事象でさえ、積み上げてきた全てを崩壊させる可能性がある事を知っている。状況を頭で処理するよりも早く、一瞬にして奪われる命がある事を知っている。自分自身の危険さえ顧みない相手の無謀な行動もまた許せなかった。「人質の存在が分かっていれば、より安全に配慮した作戦を選べた!今回は運良く被害が出なかったが、時に1人の身勝手な行動で全てが水の泡になる。自分の行動がどれだけ周りに迷惑を掛けるものだったか、よく考えろ!」怒りのままに言葉を紡ぎ、人質さえ危険に晒す可能性のある行動だと非難して。銃を構え直す、その些細な仕草で一瞬にして現場が地獄へと変わった時の事が今も脳裏に焼きついている。自分の行動をもう一度客観的に見つめて反省するようにと告げて。 )







 

  • No.4841 by ベル・ミラー  2025-03-11 16:03:45 





( 感情を剥き出しにする様に荒げられた怒声に肩が跳ね身体が強張る。睨まれる事や注意される事はあれど此処まで大きな怒りをぶつけられたのは初めてだった。容疑者を相手に取り調べをする時の刺す様な冷たい威圧感とはまた違う、ビリビリとした産毛が逆立つ様な恐怖はあっという間に身体に纏わり、視線を逸らす事すら出来ない。けれど相手の言う事は何一つ間違って無いのだ。もしあの時犯人が此方の無謀な突入に気付いていて扉の前で銃を構えていたら、もし機動隊の援護が遅れ激しい銃撃戦になっていたら、もし犯人が1人では無かったら__全て“死”に結び付く。どれ程危険で、浅はかで、愚かな行為だったのか確りと理解している筈なのに。「…っ、」再び脳裏を過ぎったのは、爆発物を身体に巻き付けられたった1人泣き崩れていた少女の姿。“助けて”と繰り返す懇願も、タイマーが作動しカウントダウンを告げる機械音も、“退避しろ!”と叫ぶ隊員の声も、昨日の事の様に思い出せる。あの時、先に爆弾を解除した妹の方を抱き抱えていた己は、退避する道しか選べなかった。__「…人質が助かるなら構わない…っ!」__言ってはいけない、特に相手には絶対に言ってはいけない言葉が売り言葉に買い言葉の様に感情に任せて口を着いていた。勿論本心では無い。自分の命であれ何かと天秤にかけ軽んじるつもりは毛頭無いのだが、ハッとした時にはもう既に後の祭り。「__違…、……、」失言だとわかるからこそ弁解しようとして、一度口から出してしまった言葉はもう戻らないと気が付く。今度は視線を合わせている事が出来ず俯いて )




  • No.4842 by アルバート・エバンズ  2025-03-11 20:57:49 

 





( 相手の瞳が不安定に揺らいだ後、紡がれたのは“人質が助かるなら構わない”という言葉。______そんなものは結果論だ。人質が救われ誰も怪我をしなかった今回だから言える事であって、独断での行動は危険性の方が高い事は間違いない。人質が助かるなら、“他の何が犠牲になっても”構わない、と暗に言っているようなものだ。「……人質が救われさえすれば、刑事は死んでも良いのか。自分が、機動隊員が犠牲になるのは“仕方ない”事なのか。」命の重さを天秤に掛けるようなその考え方は、あの事件の時、マスコミが、世間が、暗に自分達に向けた言葉と同じではないか。相手の言葉の背景に何があるのか、其れを知る由はない。低く、怒りを抑え込むようにして紡いだ言葉には、過去の事件に対する感情が加わり、相手の言わんとする事に対して穿った受け取り方になっていたかもしれないが、今は其れを分析できるほど冷静ではなかった。「お前が言っているのはそういう事だ。身勝手な自分の行動を正当化するな!」人質を救うための咄嗟の行動であることは理解するが、独断で行動する事の危険性を受け入れず、人質が救われたから良いと言わんばかりの言葉を許す事は出来なかった。「独断での行動が正しかったと思っている限り、刑事として捜査に関わる資格はないと思え。」冷たく相手に言葉を投げ掛けると、相手を残したまま小屋を出て行き。 )







 

  • No.4843 by ベル・ミラー  2025-03-11 21:47:11 





( 先程迄の怒声とは違い、まるで失望を纏ったかの様な低く冷たい言葉は一瞬にして身を凍らせた。“人質の命”も“刑事や機動隊員の命”も何方も重さの全く同じ尊いもの。___何時かの日“生きる事を諦めない、死なない努力をする”と他でも無い目の前の相手に心の底から誓ったのに、同じ唇で今度は全く正反対の事を紡いだのだ。喉の奥で息が引っ掛かり、警告音の様な音が鳴り響いている感覚がある。違う、と。相手の言葉を否定したい気持ちの片隅で確かに今回も“あの時”もこの命を犠牲に助ける事が出来るならと思ったのだから。身勝手極まりない思考で、行動だった事は頭では確りと理解出来ているのに心が別の所にある。冷たい正論をその身に受けながら、震える唇を噛み締め立ち尽くしたままで居たが、ややして相手が小屋を出て行くと口元を掌で覆い崩れる様にして床に膝を着き。「__…っ、ぁ…、」溢れ返りそうなそれが何かはわからない。もう一度謝罪をしたいのか…それは果たして誰に。泣き喚きたいとしても“あの時”の事に関しての涙は何故か流れないのだ。修復出来ない、何か大きなものが壊れる音が聞こえた気がした。___相手が小屋から出た時、既に犯人を乗せた警察車両と、人質の女性を乗せた車はその場に無かった。残るのは機動隊員と警察官が数名、その中に最初は居なかった筈のアンバーの姿があった。応援としては間に合う場所に居なかったものの、一先ずの解決を無線で聞き駆け付けたのだ。そうして相手が小屋の中でミラーと居る間に何があったのかを近くに居た機動隊員から聞いた。『……お疲れ様です。』と、鋭い空気を纏う相手に軽く頭を下げて )




  • No.4844 by アルバート・エバンズ  2025-03-11 23:18:10 

 





( 今回の一件については報告書を書かなければならない上、機動隊に赴き謝罪をする必要もある。それ程の重大な事案にも関わらず独断での行動を正当化しているように見える相手の態度に怒りを抱えたまま外に出ると、先ほどまでは居なかったアンバーに声を掛けられその姿を視界に捉えて。小屋に残る相手を待ち共に署に戻るつもりはないようで「_____署に戻る、車を出してくれ。ミラーに用があるなら小屋の中だ。」と告げて。アンバーに署までの運転を頼もうと思ったものの、相手に用があるなら自分は先にタクシーで戻ると。 )






 

  • No.4845 by ベル・ミラー  2025-03-12 00:16:09 





サラ・アンバー



( 相手はミラーの運転する警察車両で此処に来た筈だ。それなのにまだ小屋の中に居るミラーを残し署に戻る為の運転を頼んで来るなど事件解決した今何も無ければ考えられない。__そして正しく、“何か”あったのだ。『ミラーには後でメールしておきます。…今はきっと1人で居たいでしょうから。』と答えつつ、暗に何があったのかある程度把握している事を滲ませながら署まで送る事を了承し。___相手が助手席に乗り込んだのを確認してから何処と無く真剣な面持ちでバックミラー越しに一度だけ小屋へと視線を向けた後、車を出発させ。何とも重苦しい空気が流れる中、車が町へと入った所で『……ミラーの事、今回が初めてじゃないんです。』と、静かな口調ながら唐突に切り出す。今の相手の心情的に話をしたい気分では無い事は容易に想像が付くのだが、共に働く彼女の同僚として、友人として、相手に知って欲しいと言うある意味身勝手な気持ちが働いたのだ。『…何時からなのか、正確な日時はわからないんですが、捜査や事件を解決させる為のやり方が変わった気がするんです。何て言うか__強引ともまた違う…自分の身を危険に晒すのを厭わない様な、そんなやり方が目立つ様になってきてて、』真っ直ぐ前を見据えながら話した内容は、ミラーの仕事中の変化の一部。___“あの時”何があったのかをアンバーを含めた署員達は勿論知っている。けれど、その後ミラーに表立った特別大きなな変化は無かったのだ。だからこそ心に絡み付く様にして根を張った闇に誰も気が付けなかった )




  • No.4846 by アルバート・エバンズ  2025-03-12 01:33:22 

 





( 助手席に乗り込み、車が動き出すといつものように車窓へと視線を向ける。車内には沈黙が広がっていたものの、不意にその沈黙を破るように相手が口を開いた。“初めてではない”というのは捜査に関する今回の一件のような事を指しているのだろう。自分がレイクウッドを離れていた2年近くの間に、相手の中で何かが変わったのか。だとするならば、きっかけとなる“何か”があった筈だ。ミラーの心を揺さぶりコントロールが効かなくなるような何かが。けれど、自分自身を敢えて危険に晒すような自暴自棄な遣り方は大きな危険を孕んでいる。「______捜査に於いて、自己犠牲の覚悟は破滅に繋がる。窮地に立たされた時の咄嗟の行動なら勿論責めたりしないが、今回のはあいつ自身の意思による明確な命令無視だ。」ハンドルを握る相手と視線を重ねる事はしないものの、自分が感じている懸念を言葉にして。「…自分はどうなっても良いから人質を救出したいという気持ちは分かる。だが刑事なら、人質の無事を願うなら、何処までも冷静であるべきだった。」---人質を誰1人助けられなかったあの事件の後、他の事件を担当しても人質の救出に固執して周りが見えなくなった瞬間が自分にもあったと言えよう。居なくなった人が戻るわけでもないのに。けれど、その危険性も今なら分かる。「______あの不安定な状態で捜査を任せるのはリスクが大き過ぎる、」と、先程のやり取りの中で感じた不安定さを引き合いに、一体いつから“あのやり方”での捜査を続けているのかと眉を顰めて。 )








 

  • No.4847 by ベル・ミラー  2025-03-12 13:55:03 





サラ・アンバー



( 最初から最後までをその場に居て見た訳では無い為、あくまでも機動隊員からの話を聞いて知り得た情報だけがある状態ながら“命令無視”は捜査に於いて破滅に繋がると言うのは全く持ってその通りだと思った。冷静であるべきだと言う事も。『__今回の件、どんな事情があったにせよミラーに非がある事は明白です。彼女の肩を持つ気はありません。』1人の刑事として、幾らミラーが友人であっても擁護する事は出来ないと険しい面持ちで冷たくも聞こえる言葉を返すのだが。小さく息を吐き出し“ですが”と続けた後『…命の重みを知らない程、愚かな刑事でもありません。それだけは胸を張って言えます。』と、真剣な声色で真っ直ぐにそう告げる。『ミラーが何を考えて“遣り方”を変えたのかはわかりませんが、彼女の中にある本質はきっと変わってない筈なんです。…だからどうか、警部補が今まで見て来たミラーの事を疑わないで下さい。お願いします。』普段のデスクワークの遣り方、署員達と話す時の振る舞い、性格そのものが変わってしまった訳では無くあくまでも捜査の時のみ見せる危険な変化。だからこそ周りは何処まで触れるべきか迷ってしまった部分が正直あったのだ。赤信号で車を停めた時、顔を相手の方に向け深々と頭を下げる。その頼みこそがある意味擁護に繋がっているのだが、このまま修復不可能な状態が続き、今迄の何もかもが壊れてしまうのを見る事はどうしても阻止したかった。『…生意気な発言だと言う事は重々承知です、』と、最後に付け足した言葉は、緊張を含んだ少しだけ声量の落ちたもので )




  • No.4848 by アルバート・エバンズ  2025-03-12 23:57:25 

 





( ミラーがチームワークの一切を無視するような身勝手な人間だとは思わない。寧ろコミュニケーションを重んじ、被害者や遺族に寄り添う事が出来るという“強み”を持った刑事だ。今回の一件もきっと何か思う所があり、感情をコントロール出来なかった結果なのだろう。本質は変わらない、その言葉は理解できる。しかしある時からのミラーの捜査の進め方について、皆が一様に危うさのようなものを感じ違和感を覚えつつも見守る事しかできなかったのならば、自分が今ブレーキを掛けなければならないとも思った。「_____今はそうかもしれないが、此のまま放っておけば本質まで変わりかねない。お前が違和感を感じるようになってからも、此処までの行動に出た事はなかったんだろう。」捜査において“問題”を起こしたのは今回が初めてだとすると、放っておけば更に危険な行動に出る可能性があるという事だ。「あいつが自分の間違いを認め、自分自身と向き合うまで捜査には関わらせない。」---側から聞けば厳しすぎる決断だろう。相手は“自分が悪かった、命令無視は二度としない”と言うかもしれないが、表向きを言葉で取り繕った所で根本の解決にはならない。アンバーも感じている“違和感”を取り除くまで捜査を任せるつもりはないと言い切り、やがて署に車が到着すると運転への礼を述べ執務室に戻って行き。 )








 

  • No.4849 by ベル・ミラー  2025-03-13 13:46:50 





( “本質まで変わりかねない”との言葉に首を横に振る事が出来なかったのは、可能性が0では無い事がわかるから。___最初は違和感とも呼べぬ程の些細な変化だった。遅くまで署に残り、過去の事件の報告書や資料を読み漁るミラーの姿をほぼ毎日の様に見たし、休日だと言うのに射撃訓練場に閉じ篭り何時間も銃の正確性を確かめている姿も見た。それらは全て“仕事熱心”だと言う風に周りには映ったが、ある意味最初の“違和感”だったのかもしれない。相手の厳しい言葉に異を唱える事はせず、署へと戻った後は普段通りに仕事を始めて。___アンバーから“警部補は署に戻っている”とのメッセージを受け取った後、誰も居なくなった小屋の中から出る事をせず暫くの間佇んで居た。たった1人で自分の強引な単独突入と相手の言葉を何度も何度も思い出す。そうして自分が言ってしまった取り返しのつかない言葉も。最初から最後まで、どの部分を切り取っても正当化出来る箇所は無く100%全面的に己が悪い。これまでも相手から“冷静になれ”と言う指導をされてきたのに、一瞬の感情の昂りでそれがあっという間に頭から抜けたのだ。___重い心を引き連れて署に戻ったのは外が暗くなってからだった。刑事課フロアの扉を開ける前に思わず中を確認すれば、署員の殆どはもう居らず相手の姿も無い。けれど執務室の電気が点いている事から中に居るだろう事だけはわかり。途端に普段は感じる事の無い恐怖を感じたのだが、このままで良い筈も無く、数回の深呼吸の後にフロアへと入り。デスクには先に退勤したアンバーから“スマイルマーク”ただ1つ書かれた付箋が貼られている缶のカフェラテが差し入れされていた。その細やかな、けれど確かな優しさに少しだけ恐怖が薄れると、フロアに残っていた署員全員が帰ったのを見届けた後に執務室の扉を軽くノックし。「……ミラーです。…入ってもいいですか…、」と、顔も見たくないと思われている可能性も十分ある為に緊張がありありと滲み出た声色で扉越しに声を掛けて )




  • No.4850 by アルバート・エバンズ  2025-03-14 05:16:29 

 





( 署に戻り報告書を書きながら、思い出すのはあの事件の後の事。妹を失い、大勢の罪無き人々が犠牲となり、事件に関する報道が加熱する中。あまりに大きな、凄惨な事件となった為幾度となくFBI内での検証会議などが行われ、心身が擦り減っていた頃。思い返せば“人質”という言葉に酷く敏感になっていたように思う。絶対にミスを犯してはいけない、何があっても救わなければ、と。突入を強行した相手の気持ちが分からない訳ではないのだが、普段と異なる頑なな態度は気になった。---機動隊を統括している上司の元に赴き、自身の監督不行き届きによって危険な状況で対応させた事への謝罪と感謝を述べ、報告書を纏め、としている内に気付けばフロアの明かりは一部消えていて。不意にノック音が響き相手の声が聞こえる。“帰れ”と拒絶する事こそしなかったものの、普段のように入室を許可する事もなく、パソコンの画面に視線を向けたまま手を動かしていて。 )







 

  • No.4851 by ベル・ミラー  2025-03-14 08:50:06 





( 執務室の電気は点いていて、中に人の気配もある。席を外して居る訳では無いと思うが入室の許可が来る事は無く、それにドクドクと心臓が早く脈打った。僅かに薄れた緊張と恐怖が再び首を擡げ両足が震えそうな感覚に矢張り今日は帰るべきだとすら思ったのだが。入室の許可こそ貰えなかったが、“帰れ”と拒絶もされなかった。本来許可が無ければ入る事は無いのだが、カラカラに乾いた喉で一度僅かに唾を飲み込み数回深呼吸をした後「……失礼します、」と、意を決した様に静かに扉を開ける。__中には案の定相手の姿があり、けれど此方を見る事は無い。扉を閉め、その前に立ち尽くしたまま酷く強張った…言うなれば相手の事を怖いと思っている署員が見せる緊張した表情に近いそれで僅かに視線を床へと落としつつ「…あの…さっきの小屋での事。…本当に申し訳ありませんでした、」先程と同じ謝罪を繰り返した後頭を下げる。命令を無視し強行突入した事も、相手に言ってはならぬ事を言った事も、何もかもがもう取り返しは付かなく謝る事しか出来なかった )




  • No.4852 by アルバート・エバンズ  2025-03-16 00:57:21 

 





( 暫く沈黙が続いたものの、やがて控えめな音と共に扉が開いた。相手が入ってきた事には当然気付きつつ視線を向ける事はなく、報告書を打つ手を止める事もしない。小さな声で言葉が紡がれてようやく相手に視線を向けると「______何が悪かったか分かったのか?言葉だけの謝罪なら要らない。」とだけ告げる。相手を見つめる瞳には、先ほどの小屋でのように怒りが滲んでいるわけでは無い。それでいて、何処か冷ややかな色は拭い切れていないというのが相手の受ける印象だろう。上辺だけを取り繕った、この場を収める為だけの謝罪なら受け入れる気はないとばかりに相手を見据えて。 )






 

  • No.4853 by ベル・ミラー  2025-03-16 19:38:45 





( 小屋での相手は当たり前ながら本気で激高していた。今はその時程の強い怒りが表立って見える事は無いものの、碧眼に宿る冷たい色は健在で、射抜く様な鋭いその瞳は言葉を詰まらせるには十分なのだが。身体の横で握り締めた拳に一度グッと力を込め相手の言葉に小さく頷く。「…はい、…エバンズさんの命令を無視して勝手に突入した事も、感情を抑える事が出来なかった事も、自分自身の命を軽視した事も__私の言動の全てが間違っていました…。」あの時の自分の行動1つ1つを思い出しながら紡ぐ中、言葉が詰まり、一度震えた息を細く吐き出すと「…結果的に、機動隊員の命も人質の命も危険に晒しました…っ、」と。冷静になった今、襲うのは恐怖。盲目的なまでに人質を助ける為と思い行った行動が、最悪を招き兼ねなかった事に遅く気が付いたからだ。相手を見詰めるその瞳には確かな後悔と、それとはまた違う揺らぎが滲んでいて )




  • No.4854 by アルバート・エバンズ  2025-03-17 00:43:24 

 





( 震える声で相手が紡いだ言葉には確かな後悔が感じられ、先ほどのように自分を正当化するような、盲目的な様子も見られなかった。深い溜め息と共に眼鏡を外すと、ようやくデスクワークの片手間ではなく、正面から相手と向き合う。「…1人が勝手な行動をすると全員に危険が及ぶ。綿密に組み立ててきた作戦も、何もかもが水の泡だ。人質が助かれば良いなんて、そんなのは結果論でしかない。たった1つ、一瞬の選択を誤るだけで、逆に人質の命を危険に晒す事にも繋がる。如何なる場合でも冷静さを欠くな。自分の選択が正しいという傲りは捨てろ。」静かな声色で、けれどひとつひとつの言葉は相手に対して言い聞かせるように言葉を紡いで。---相手が先の一件を悔いている事は分かった。けれど未だ聞かなければならない事がある。相手が我を忘れる程に、自分を投げ打つ事も厭わずに、人質の救出に固執した理由。危うさを抱えたまま捜査に打ち込む理由だ。「______彼処までお前を駆り立てたのは何だ、」と、相手を見据えたまま尋ねて。 )






 

  • No.4855 by ベル・ミラー  2025-03-17 13:39:31 





( __そう、己に圧倒的に足りないのは揺るがない冷静な判断だ。何時だって様々な事に気持ちが引っ張られ、冷静さを欠いて感情的になり、結果良かった事など無いではないか。相手の言葉の1つ1つを聞きながら無意識の内に再び頭を垂れる様に視線は足元へと落ちるのだが__“根本的”な話に問い掛けが移った瞬間、弾かれた様に顔を上げ相手を見詰める。緑の虹彩は驚愕と怯えの混じった様な複雑な色に揺れ言葉を発する事が出来なかった。“駆り立てた原因”は間違い無くあの時の事件と言えよう。けれどそれを知られたくないと思ってしまったのは、相手が本部に居た間に起きた事で、1人でも確り刑事としてやれていると思って欲しかったからか、人質の死の話を相手にはしたくないと思ったから。何にせよたっぷりの沈黙の後「……何も、」と、一度は首を横に振るのだが、此方を真っ直ぐに見据える相手の瞳は誤魔化す事も嘘を突き通す事も不可能なのだと思わせるある意味“圧”の様なものがあり、報道規制であの事件に関係した警察官達は表に出なかったとは言え、本部の刑事だった相手には報告書が届けられていたかもしれないし、そうでなくても調べられれば気付かれるのがオチ。結局隠し通す事など不可能なのだ。あの時の光景を思い出し震え出しそうな身体を抑える為片手で腕を抱く。強く鳴る鼓動を感じつつ「……2年前、レイクウッド郊外で起きた爆弾事件です…。」と、消え入りそうな声で答え。___あの日、妹だけでも連れ帰った自分を周りは労い良くやったと褒めた。あの数十秒の中でとる事の出来た最善だったと。けれど、褒められれば褒められる程、違うと叫び出したい気持ちが膨れ上がり、心は闇に覆われたのだ。「…1人を助けられたんじゃない、1人を“助けられなかった”んです!最善の選択じゃない…っ、“それしか選べなかった”んです…っ!」殆ど事件の説明をしないまま、溢れ返る感情を言葉に乗せる。あっという間に溜まり溢れ落ちた涙は顎先を伝い床に落ちるが止める事は出来なかった。相手を見る緑眼には涙と、それから自分自身に対する大きな怒りが滲んでいて )




  • No.4856 by アルバート・エバンズ  2025-03-17 22:50:17 

 




( 一度は何も無いと首を振った相手から視線を外す事はしなかった。“何か”きっかけがあるのは間違いないという確信があったからだろう。ややして相手が語った事件には覚えがあった。自分が本部に異動して比較的直ぐの頃、レイクウッド署の管轄で事件があった事は覚えていた。幼い少女が犠牲となった痛ましい事件だったと記憶している。_____相手は、あの日の自分を、幼い少女を救う事ができなかった自分を責め続けているのだと、続く言葉を聞いて気付いた。どうする事も出来なかったと分かっていても、その瞬間の自分の選択、行動を反芻し本当にあれしか道は無かったのかと後悔し続ける。周りの誰に何を言われても、其れを素直に受け止めて自分の気持ちを立て直す事などできない。思い出すのは目の前で起きた惨劇と、其処にいながら何も出来なかった自分への失望。相手の気持ちが漸く分かり、涙を流す相手を見据えて。「……お前の抱える苦しみは良く分かる。必死に、その時自分に出来る最善の選択をしたとしても、最善の結果がもたらされない事はこの仕事をしていると、残念ながら起き得る事だ。ただ、過去をどれだけ悔いても、其の瞬間に戻る事は決して出来ない。」相手に寄り添うような、相手の全てを肯定するような優しい言葉ではないだろう。けれど、似た苦しみを経験しているからこその思いを、言葉を選びながら紡いで。「______前を向けだなんて、俺に言えた事じゃないが。俺は、目の前の仕事に全身全霊を掛けて臨む事だけが、過去への贖罪になると思ってる。…贖罪の為に自分の身を投げ打つべきだと言う事じゃない。犠牲になった子にしてやりたかったと思う行動を、その時は不可能だった“最善”を、次に関わる人達に向けるんだ、」過去に縛られ続けている自分が何を言った所で相手には響かないかもしれないが、涙で潤み真っ赤になった相手の瞳をじっと見つめたまま告げる。自分を犠牲にしてでも人質を救おうと盲目的に行動するのではなく、その時にしてあげたかった事、その時は出来なかった事を、今後自分が刑事として関わる事件で助けを求めている人に差し伸べるべきだと。 )








 

  • No.4857 by ベル・ミラー  2025-03-18 00:06:10 





( 相手の紡いだ言葉は慰めでも幾度となく送られた称賛でも無かった。此方の想いや行動とは裏腹に最善が齎され無い結果がある事、例え深い絶望でも起こり得る事で、どれだけ悔やんでも決して戻る事は無い…それが現実なのだと。一見酷く厳しく労りの欠片も無い言葉に聞こえるが心はそうは捉えなかった。周りが喜び労ってくれた“良くやった”の言葉は余りに重すぎたのだ。次から次へと溢れ出る涙は呼吸を上ずらせ、薄く開いた唇からは嗚咽が漏れる。__最善の結果が齎されない事が起こり得る事も、その瞬間には決して戻れない事も、その絶望を誰よりも相手が一番知っているだろう。誰よりも一番苦しんで来ただろう。途端に“2つの事件”と“2つの気持ち”が交差した事で痛みが倍増した感覚を覚えた。“犠牲になった子にしてあげたかった事”は__大丈夫だと抱き締めてあげたかった。妹と2人一緒に抱えて母親の元に連れて行ってあげたかった。幸せだったであろう日常の中に戻してあげたかった。それはつまり全部__「っ、…助けて、あげたかった……!」引き攣る喉を震わせ、漸くそれだけを言葉にした後は思わずその場に蹲る。助けてあげたかったのだ。どうしても、助けてあげたかった。けれど、出来なかった。__相手は“あの日”犠牲になってしまった人達に、妹に、何をしてあげたかっただろうか。きっと己と同じ様にただ、助けてあげたかったに違いない。絶望は、後悔は、自分自身への失望は、こんなにも痛いのか。相手はこんなにも重い痛みの中に居るのか。声を上げ泣き叫びたいのを押し込める様に片手で口元を覆いながら、指の隙間から漏れる嗚咽と共に肩を震わせて )




  • No.4858 by アルバート・エバンズ  2025-03-18 01:11:12 

 






( 全てをひっくるめて、被害者を“助けたかった”というのが全てだろう。だからこそ相手は人質となった女性を助けようと行動した。結果的にその行動は賞賛されるものではなかったが、“助けたい”という其の一心で。自分はあの日、不安そうな妹を大丈夫だと安心させてやりたかった。だからこそ、例え緊迫した状況であったとしても刑事として捜査に当たっている時には不安を滲ませる事はしない。自分が毅然と対応を続ける事で、少しでも恐怖心を薄れさせて欲しいと思うから。______真っ直ぐな相手の言葉と、堰を切ったように溢れる嗚咽に立ち上がると、しゃがみ込んだ相手の側に歩み寄り、頭に手を置く。罪無き人が事件に巻き込まれ命を落とすというのはあまりにもやるせないものだ。特に自分自身が刑事として捜査に関わっていた場合、自分自身を責め、過去を後悔し続ける事になる。その気持ちは否定できない。「……自分を責めるなとは言わない。人に何を言われた所で、心はそう簡単に変わらないだろう。ただ______自責の念に押し潰されて、心を壊さないでくれ。自暴自棄になって、自分を犠牲にするような危険なやり方はするな。」心が壊れかける苦しさを、相手に味わって欲しくはない。自分を危険に晒すような無謀な捜査も見逃す訳にはいかない。膝を突き相手と視線の高さを合わせると、相手の肩を抱き寄せるようにして耳元で言葉を紡いで。「……被害者の事を忘れず、自分自身の戒めとして進むしかない。立ち続けろ、」泣きじゃくる相手に贈ったのは“呪い”だ。酷な言葉だろう、此れ程辛い思いをしている相手に対して、立ち止まる事を許さないと言うのだから。けれど自分たちは”立ち続けなければ”ならない。過去への罪悪感に押し潰される事なく、せめてもの償いとして多くの人を救う為に。嗚咽と共に小さく上下する相手の背中を静かに摩り続けて。 )








 

  • No.4859 by ベル・ミラー  2025-03-18 13:37:27 





( 頭の上に静かに置かれた手の感触もまた涙腺崩壊に拍車を掛けた。心が壊れ掛ける苦しさも、自らの命を投げ打つ様な無謀な捜査が齎す危険性も、僅かも想像出来ない程無知な新米の刑事では無かった筈なのに。「…ごめ、っ、」“ごめんなさい”と再度紡ぎたかった謝罪の言葉は引き攣る喉と嗚咽に邪魔され言葉尻が音になる事は無かったが、そのまま肩を抱き寄せられると恥も外聞も無く相手に縋る様に服を握り締め、肩口に額を押し付ける様にして泣き続ける。約2年、この事件に関して流した初めての涙だったように思う。__耳元で静かに、それでいて真っ直ぐに紡がれた言葉に思わず涙に濡れた双眸が見開かれ、勢い良く顔を上げた。至近距離で相手を見詰めたまま息を飲む。この先も刑事であり続けるのなら、多くの人々を助けたいのなら、例えどれ程の痛みを抱えたとしても立ち続けなければならない。再び溢れた涙はその言葉の重さによる絶望からでは無かった。余りに酷な言葉の筈なのに何故だろうか、それは壊れ掛けそうだった心に光を灯し、もう一度刑事として立ち上がる為の決意を思い出させてくれるものだったのだ。“最善”の為に、救いたい命を確りと救える為に。__痛みの中、相手も両の足で確り立っているではないか。相手を見詰める涙に濡れた瞳の中、絶望を纏う不安定な色では無く強い意志がじんわりと広がったのが伝わっただろうか。「__今だけ…許して下さい…。」掠れた声でそう許しを乞うてから、再び相手の服を緩く握り肩口に額をあてる。直ぐに気持ちの何もかもを変える事は出来ないかもしれない、それでも冷静である事を心掛け、被害者や関わる人達に誠心誠意向き合い、もう一度全ての命の重みに目を向けよう。今この時、相手が許してくれるのならばありったけの想いを涙として落として、今度こそ救いたい命の為に立ち続けよう。__一頻り泣いた後、次に顔を上げ相手を見るその瞳からはもう涙は流れていないだろう )




  • No.4860 by アルバート・エバンズ  2025-03-18 14:41:20 

 





( 相手の中に、先程までの危うさや不安定さは感じない。涙と共に、胸の奥につかえ燻り続けていた物が漸く流れ出ているのだろう。しかし、今回の一件はきっと、今この瞬間に終わりを迎え清算出来るようなものでは無い。この先も幾度と無く其の苦しさを思い出す事になるだろう。けれど、相手の瞳に灯った光は、強い意志は、そう簡単に消える事は無いはずだ。「…どうしても無理だと思ったら、その時は立ち止まっても良い。だが、お前の中に刑事としての熱意がある限り、事件に巻き込まれた人たちに寄り添いたいという思いがある限りは、立ち続けろ。」_____かつて自分に掛けたのと同じ“呪い”を相手にも掛ける自分は、狡猾な人間だろうか。立ち続ける事の苦しさを知っていながら、それでも尚立ち止まるなと。ただ、相手には其の呪いに耐えられるだけの芯があると思ったのだ。泣き止んだ相手を見ると引き寄せていた相手の肩を離し立ち上がると「今日はもう帰って休め。」と告げて。 )







 

  • No.4861 by ベル・ミラー  2025-03-18 19:56:03 





( 心が磨り減り限界を訴えた時、どうしたって立ち止まってしまう事はあるだろう。けれど例え立ち止まったとしても“倒れない事”。それが“立ち続ける事”に繋がる筈だ。相手の紡ぐ言葉は何処か相手自身にも言っている様で瞳にはほんの僅かに切なさにも似た色が滲むのだが。泣き腫らし真っ赤に染まる瞳ながら力強く頷いた後「__…もう二度と命令に背く様な事も、誰の命であれ軽視する様な事もしません。…約束します。」と、告げ立ち上がり。__帰宅を促されても何故か背を向ける事はしなかった。仕事が残っている訳では無く、相手の言う通り今日は休む事がベストだとは思うのだがその瞳は表情を伺う様に揺れ。「……あの…帰って来てくれますか…?」問い掛けた言葉は珍しく推しの強さの失せた敬語が消えぬ控え目なもの。今は相手の纏う空気に怒りは無いが、だとしても己の過ちは大きかった。ホテルで寝泊まりする事を決めてしまった可能性も十分にあると思っての事で )




  • No.4862 by アルバート・エバンズ  2025-03-18 23:02:35 

 





( 相手が誓った言葉に偽りの色は無く、其の事に漸く安堵すると頷いて。続いた問い掛けは控えめなものだった。実際残業を終えた後はホテルに泊まる事も一度は考えた。あの状態で相手と顔を合わせても、冷静で居られるとは思えなかったからだ。けれど、相手が過ちを認め懸念していた不安定さが薄れた今なら、いつものように帰れるだろう。「______嗚呼、これを片付けたら帰る。先に寝てろ、」と、居候している相手の部屋に戻る事を告げると、今取り掛かっている仕事を終えたら帰ると伝えて。 )







 

  • No.4863 by ベル・ミラー  2025-03-19 00:15:32 





( 相手の口から“帰る”と言葉が出た事に酷く安堵した。その安堵は表情にありありと滲み、吐き出した息に纏う。先に眠っている事は出来そうに無いと思ったが静かに頷くと「…ありがとうございます。」と頭を下げ執務室を出て。___家に帰った後は冷凍庫に入っていた保冷剤で両眼を冷やし少しでも腫れを消そうと試みるが、これだけ泣いたのだ、きっと朝起きて鏡を見た時に駄目だった事を知るだろう。冷たい水を飲み身体中から全て出尽くしたのではと思う程の水分を補給し、帰って来た相手がお腹を空かせていたら困ると軽い野菜のスープを用意する。そうこうしている内に泣いた事による疲労が今になって現れたのか、目が霞み瞼が重く閉じる感覚に何度か抗いはするものの、結局ソファに座りながらウトウトとする時間を過ごす事となり )




  • No.4864 by アルバート・エバンズ  2025-03-19 02:40:01 

 





( その後仕事を片付けて相手の家へと戻ると、ソファで眠っていた相手の姿を見つけ毛布を掛ける。用意してくれていた野菜スープを温め、少し照明を落とした部屋でゆっくりと其れを口に運んで。_____部屋が見つかれば直ぐに出て行くという話ではあったのだが、忙しなく過ぎる日々の中、不自由無く生活が出来ている状態に少なからず甘えてしまい、落ち着いて不動産屋に行く時間を取る事がないまま相手の家に居候して1ヶ月程が経っていた。レイクウッドに居た頃と変わらず捜査に奔走し、刑事たちの報告書に目を通し、与えられた警部補としての務めを果たそうとはしているのだが、非常勤のため限られた時間の中で出来る事はどうしても少ない。同時に身体の不調を感じる事が増え、以前のように無理が効かなくなった実感があった。薬を飲み繋ぎ、なるべく症状が出ないようにはしているのだが、反動が夜に来る事があるのは変わらない。自分が夜中に何度も目を覚ますのでは相手も落ち着いて眠れないだろうと、きちんと家を探さなければとは改めて思いはするのだが。---その日も日中は捜査の為聴取に出ており、戻ってからは資料を取り寄せ読み込んだり、部下の報告書に目を通したりと忙しなかった。それでも普段より早く21時前に家に戻ったのだが、重い疲労が付き纏っているような感覚に息を吐き出しつつ脱いだジャケットをソファの背凭れに掛けて。「…リアーナの証言は不明瞭な点が多かった。アリバイの裏も取れてない事を思うと、警戒しておいた方が良さそうだ。」家に戻っての第一声とは思えない、普段執務室で相手と話している時と同じような言葉を口にしつつ、ソファに腰を下ろすと背凭れに深く身体を預けて。  )








 

  • No.4865 by ベル・ミラー  2025-03-19 08:51:45 





( ___署での仕事が終わり帰宅したのに相手の第一声は捜査中の“刑事”そのもの。ソファに腰掛けたのを一瞥し何時もよりミルクと砂糖を多めに入れたコーヒーを目前に置くと軽く頷きつつ「何かを隠してるのは間違い無いと思うけど、それが何か…。__明日もう一度リアーナの友人付近をあたってみる。」一度は引っ張られる様に明日の捜査方向の話をするのだが。相手の隣に腰掛けた途端に座り慣れたソファの程良い弾力と調度良い角度の背凭れに刑事としての張り詰めていた空気が解けた。仕事モードの終わりを示す様に深く息を吐き軽く首を回すが隣の相手が纏う空気は未だ捜査中の時のそれ。「…エバンズさん、明日も朝から忙しいだろうし今日は早めに寝よう。ワイシャツなんて着てたら休まるものも休まらない。」険しくも見える表情を見遣り、少しだけ困った様に笑みを浮かべた後休息を促す。その際ほんの僅かの戯言も織り交ぜつつ、寝室に置かれている相手のスウェットを持って来て )




  • No.4866 by アルバート・エバンズ  2025-03-19 11:39:28 

 




( ミルクの入った甘めのコーヒーを口にしながらも、考えるのは事件の事。早めに休もうという相手の提案には、そうすべきだろうと大人しく頷きつつ渡されたスウェットを受け取って。確かに仕事の時に着ているこのワイシャツでは、気持ちも身体も休まらない。シャワーを浴びて髪を乾かし、スウェットに袖を通すと、少しは張り詰めていた気分も解れたような気がして。促されるままベッドに入ると、途端に身体は休息を求め沈み込む身体を起こすのが億劫になる。未だ事件の事を頭で整理しようとしていたのだが、眠気に襲われ其れは諦めて。「_____先に休む、…」とだけ相手に告げると、程なく眠りに落ちていて。 )







 

  • No.4867 by ベル・ミラー  2025-03-19 13:33:03 





( その言葉に頷きつつ、程無くして小さな寝息が聞こえると安堵を胸に浴室へ。熱めのシャワーを浴びながら考えるのは此処最近の相手の事で。昼間捜査に出て居る時は薬の服用もあってか目に見えて大きく体調を崩す事は無いものの、その反動の様なものは確実に夜現れていた。悪夢を見て魘される頻度も多くなった様に思うし、目下の隈も薄れる事無く鎮座し続けて居る。本部で悪化した体調はレイクウッドに戻って来たからと言ってそう簡単に治るものでも無いのだろう。__凡そ30分程でシャワーを終え脱衣所に出る。湿った髪の毛を乾かし黒のスウェットを身に纏い、眠る支度は整った。窓の向こうに見える月は丸く輝き、それをぼんやりと見ながら少しの休憩の後にリビングの電気を消して寝室を覗けば相手はまだ眠りの底に居る様で。起こさぬ様注意を払いつつ静かに隣に寝転ぶと、背を向ける相手の髪の先を数回控え目に撫で、その後は遅い来る眠気に抗う事もせずに眠りの淵へと落ちて行き、何時しか深い深い眠りの中でぼんやりとした夢を見て )




  • No.4868 by アルバート・エバンズ  2025-03-19 14:57:47 

 





( 揺蕩うような眠りの中に居たものの、不意に意識が浮上した。意識の遠い所で過去の事件や血の色を見ていたような気はするのだが、いつものように悪夢に魘され引き摺り出されるような寝覚めではない。ただ鳩尾に重たくのし掛かるような不快な痛みがあり、此れの所為かと理解する。もう一度眠ろうと目を閉じたものの痛みに意識が行ってしまい眠れそうもなく、少しして隣の相手を起こさないよう静かに起き上がると寝室を出て。明かりの落ちたリビングは何処かひんやりとしていて、しんと静まり返っている。シンクの前で鎮痛剤を水で流し込んだものの、少しして徐に冷蔵庫を開ける。中には、少し前に相手とゆっくり夕食を食べた時に開けて未だ残っているワインの瓶が入っていて。それを取り出すと手近にあったグラスに注ぐ。ソファに戻り、明かりを点ける事もしないままに其れを口にしつつ、背凭れに身体を預けて。此の痛みや息苦しさの所為で、思うように仕事が出来ない。暫くの間ソファに座っていたものの、痛みと余計な思考を振り払いたくて、仕事用の鞄の中から煙草の箱を取り出して。気を紛らわせる為にしか吸わない為、一箱を消費するのに何ヶ月と掛かるのだが、お守りの様に鞄に入れていた。煙草を一本咥えた所で、流石に相手の部屋で吸うわけには行かないと、静かに窓を開けて。ベランダに出ると冷たい風が吹き抜け緩やかにカーテンを揺らす。窓を閉めると煙草の先端にライターで火をつけ、深く煙を吐き出して。 )







 

  • No.4869 by ベル・ミラー  2025-03-19 20:11:30 





( 相手が寝室を出た事にも気付かぬ程深い眠りだったのだが、無意識に寝返りを打った時に隣に誰も居ない事で意識がゆっくりと浮かび上がった。未だ眠気まなこで僅かに上半身を起こし隣を、続いて寝室全体を確認するが矢張り相手の姿は何処にも無い。けれど涙に濡れた声や苦しげな呼吸音が聞こえず静かな事から恐らく直ぐに戻って来るだろうと再び身体を布団に預け目を閉じるのだが。一度浮上した意識は今回そう簡単に眠りに落ちてはくれなかった。目を閉じたまま暫し黙し、仕方無い…と胸中で呟くと水を飲んでから眠る事にしようと比較的ゆっくりとした動作で以てベッドを降りて寝室を出。__リビングは暗く相手の姿は無かったが、ふ、と視線を向けた先。カーテンの隙間から差し込む月明かりがフローリングを照らしていた。そのまま瞳だけを持ち上げると、窓の外、部屋に背を向けた相手が立って居て細い紫煙が立ち昇っている。ドクン、と心臓が高鳴った。それが恐怖によるものだと認識するよりも早く足は動いていて、窓の縁に指を掛けるや否や勢い良く開け放ち。冷たい風を纏い伸ばした手は煙草を持たぬ相手の片腕を強く掴む。「__どう、したの…、」その絞り出した問い掛けは切羽詰まった様な唐突なもの。どうもこうも無い、見た通り煙草を吸っているだけなのだが、暗い空に昇る紫煙の様に月明かりに照らされた相手が消えてしまいそうで、何故だかそんな漠然とした不安に襲われたのだ。その表情には先程までの眠気は無く焦燥が滲んでいて )




  • No.4870 by アルバート・エバンズ  2025-03-20 09:30:30 

 




( 吐き出した煙は、明るい月の光に照らされて輪郭が鮮明になったのも束の間、冷たい風に浚われてあっという間に闇夜に溶けて消えた。其れを眺める褪せた青色の瞳にも月が冷たく光を落として。肺を満たした煙が唇から吐き出されて夜空に溶けて行く様は、何故か心が落ち着くような静けさを感じた。不意に窓が勢いよく開く音がして、振り返るよりも前に腕を掴まれていた。此処は相手の家なのだから相手以外に居ないのだが、腕を掴む手の力が強かったため少しばかり驚いた表情で相手と視線を重ねて。幾許かの焦りや不安のようなものが滲む相手の問い掛けに「_____悪い、起こしたか。」と尋ねると「…目が冴えて、少し吸いたくなった。」とだけ答えて。未だ痛みは落ち着いておらず、ワインも煙草も気を紛らわせる為の行動なのだが、その事には触れなかった。 )






 

  • No.4871 by ベル・ミラー  2025-03-20 10:34:30 





( 此方を振り返った相手の碧眼に斜めから差した月の光が反射し、一瞬涙の膜が張っているかの様に感じたのだがそうでは無かった。ただ、闇夜で淡く光っただけ。落とされた謝罪とこんな夜の寒空の下此処に居た理由を聞き吐き出した息は次は安堵から来るもので。「…少し喉が渇いただけ。」と答えるも、その指先の力こそ抜けど相手の腕を離す事はしなければ「部屋で吸っていいからもう戻って。風邪ひいちゃう。」夜風に晒され冷えている事は掴んだ箇所のスウェットの冷たさで知っている。そこで漸く腕から手を離すと相手の背中に軽くその手を添える様にして部屋の中へと促し。__窓を閉め間接照明を点ける代わりにカーテンを開ければ、差し込む月の光がその量を増し部屋をぼんやりと照らした。ソファに腰掛ける相手の足に膝掛けを掛け、少しでも冷えた身体を暖める手助けになればと行った行動により、テーブルの上にワインボトルとグラスが置いてある事に気が付く。寝る前は無かったのだから目が覚めた相手が飲んでいるのは間違い無いのだが。煙草を吸う事も、夜中に目覚めお酒を飲む事も、相手にとっては理由のある事だ。ただ単に目が冴えてしまいもう一度眠る為の軽い時間潰しの時も勿論あるだろうが、殆どの場合そうでは無い事を長く相手を見て来て知った。悪夢が尾を引き眠れないか…身体の調子が悪く睡魔を連れて来ないか…。「……。」徐に相手の隣に腰を下ろすと、何も聞く事無く、何も言う事無く、ただ、無言のままに相手の鳩尾付近に手を当てて )




  • No.4872 by アルバート・エバンズ  2025-03-20 12:35:59 

 





( もう少し此処に居ると言おうと思ったのだが、冷えるからと促されれば携帯灰皿に煙草を押し込んでリビングへと戻り。中に入ると、暖房を入れていないにも関わらず暖かさを感じて外の寒さを思い知る。グラスに注いだ赤ワインを呷り息を吐くと、不意に相手の手が鳩尾に触れて。痛みがある為、相手の手が触れる瞬間僅かばかり身体が強張ったものの、外傷ではない為当然強い痛みを引き連れて来る事もなく、程なく緊張は解ける。鎮痛剤も未だ効いていないのだろう、何か気が紛れる事をしていないと痛みに意識が行ってしまう。「……思うように、仕事を進められない。身体がどうしても着いて来ないんだ、」弱音とも取れる言葉を不意に吐き出したのは、月明かりだけが周囲を照らす薄暗さの中だったからだろうか。もう一口ワインを口にして。 )






 

  • No.4873 by ベル・ミラー  2025-03-20 14:52:30 





( 鳩尾に手を当てた瞬間に相手の身体が強張ったのを感じ、夜中の意識の覚醒が何によるものだったのかを知る。程なくその身体からは力が抜けるが恐らくまだ痛みが完全に無くなった訳では無いのだろう。鳩尾から手を離す際、相手の足に掛けた膝掛けを僅か引き上げる事で腹部までを覆い。__以前とは異なりお酒では無く温もりによる睡眠の継続を促す事はしなかった。それは儚くも美しくも感じられる月明かりの中だからか、相手がふいに漏らした気持ちにもどかしさが宿っていたからか。普段痛みを隠し強がる相手が落とす本音は、どうしたって感情を揺さぶられ、緑の瞳にはグッと切なさが滲むのだ。「…前にアダムス医師に点滴してもらったの覚えてる?どうしても駄目な時は、また助けて貰おう。」病院を嫌がる相手ではあるが、強い薬でその場限りを押さえ付け副作用として別の問題が出るのでは本末転倒。彼に助けを求める事は決して悪い事でも恥ずべき事でも無いのだと優しく微笑みつつ、「今は焦らないで、って言った所で納得出来ないのはわかってる。」と、告げては軽く肩を擦って )




  • No.4874 by アルバート・エバンズ  2025-03-20 17:34:04 

 





( ワシントンの医者に罹っていた時に貰った大量の薬があるため、レイクウッドに戻って来ても未だアダムス医師と顔を合わせる事はしていなかった。ワシントンの医者は、専門外ではあるが同じ薬を処方する事なら出来ると、診察もそこそこに一気に数ヶ月分を処方するようなタイプだったのだ。どうしても辛くなったら、一時的な処置をしてもらう事も可能だという相手の言葉には小さく頷いて。「向こうでは…どうしても、些細なきっかけであの頃の記憶が呼び覚まされた。その環境も良くなかったんだろうな、」本部での2年間が症状を悪化させた理由は当時と結び付いてしまっている環境の所為でもあっただろうという自覚はあり、そう呟いて。「______セシリアと、最後に食事をした店を数年ぶりに見かけた。…ワシントンには辛い記憶が多すぎた、」ワイングラスの中の赤に月が光を落とし、妙に感傷的になっているのだろうか。ワシントンでの事を断片的に言葉にしつつ、息を吐き。 )





 

  • No.4875 by ベル・ミラー  2025-03-20 22:25:36 





( グラスの中の赤を呷りながら静かに話し始めた相手の言葉に耳を傾ける。月明かりに照らされたその横顔に赤みこそ差している訳では無いが、体内を巡るアルコールは少なからず相手の心にも作用し、だからこそ普段よりも饒舌に__そうして“セシリア”の名前を出し過去の話をしたのかもしれない。“あの事件”があったまさにその場所に約2年もの間身を置いた相手は、例えどれ程望まなくたって当時を思い出す様々に触れた筈だ。それは当時と変わらずそこに有る建物であり、風に混じる仄かな香りであり、移り変わる天気すらももしかしたら。「…ワシントンに居る以上避けては通れなかったもんね。全てを回避する事は出来なかった。」同意する様に頷きを落とし、相手が如何に過酷な状況の中に居たかを思い少しだけ表情が険しくなるが。同時にその中に居る事でどれ程の負荷が心身にのし掛かっていたのかを自覚していても尚、己を…他者を無用な脅威から遠ざけようとしてくれたその不器用な優しさに胸が痛むのだ。__相手とセシリアが最後に食事をした場所は果たしてどんな所だったのだろうかと想像する。その場所に行ってみたい、だなんてとても口には出来ないがその時の2人はきっと美味しい食事を前に幸せに笑っていたのだろう。「…何時か__…何時か、思い出すワシントンの記憶が辛いものじゃなくなればいいな。…セシリアさんと食事をしたお店を見て、あの時のご飯は美味しかった、妹は笑顔だったなぁって。エバンズさんの記憶に強く残る“あの事件”の時のセシリアさんじゃなくて、今は少し見えなくなっちゃってる…エバンズさんを笑顔に出来るセシリアさんの記憶で、何時かエバンズさんの心がいっぱいになって欲しい。」暗い壁を僅かに揺れる瞳で見詰めながら、静かに、普段よりも遥かに穏やかな声色で紡ぐのは己が望む相手の幸せだ。今直ぐには無理な事で、笑顔の妹を思い出す事で辛さが増す結果になるかもしれないが、それでも何時か…辛さを感じる心の隙間すらも“相手の望む”セシリアの姿で埋め尽くされて欲しいと思う )




  • No.4876 by アルバート・エバンズ  2025-03-21 11:26:06 

 






( “あの事件”の時ではないセシリアの姿。事件から十数年が経って漸く、其れを______幼い頃の断片的な記憶や、ワシントンに居た頃の記憶を時々思い出すようになった。幸せな記憶を振り返るべきではないと、未だに自分でブレーキを掛けてしまう事が多いのだが。「……そうなったら良いな、」とだけ、静かに同意を示して。一番最初に思い出してしまうのは、悲しくも“あの日”の姿。辛い記憶で埋め尽くされてしまわぬように、せめて笑顔の妹を忘れずに居られるようにと、財布の中に妹の写真を入れている。けれど幾ら其の笑顔を記憶に焼き付けようとしても、あの瞬間の姿がフラッシュバックしてしまう、そればかりは自分でコントロールする事が難しかった。_____だからだろうか、笑顔の相手を見ると、明るいその瞳を見ると安心するのだ。薄暗い中で、隣に座る相手に視線を向けると、柔らかな月光を湛えた相手の瞳を見つめて。 )





 

  • No.4877 by ベル・ミラー  2025-03-21 13:47:29 





( 静かに落とされた同意の言葉は相手自身が一番渇望している事だろう。一度だけ見せて貰った事のある財布の中に大切にしまわれた1枚の写真。幸せそうなセシリアのその笑顔が何時だって相手の中にあって欲しい。「__なるよ。時間は掛かるだろうけど、何時か必ずそうなる。」暗闇を見詰めたまま紡いだのは何の根拠も無い未来を確定する言葉。その言葉を躊躇いも無くハッキリと落とした後に隣の相手に顔を向け、緑の瞳を細める事で柔らかく微笑むと「大好きなお兄ちゃんの事を、何時までも苦しめる筈無いからね。」まるで出会った事も話をした事も無いセシリア事を知る様な言葉を。続けて「エバンズさんの記憶に残るなら笑顔じゃなきゃ。」と、これは己が思う事。もし何時かの未来__相手と離れる時が来た時。思い出して貰える表情は矢張り笑顔だったら良いと思うから。幸せな人生だったのだと、身勝手にも思って欲しいのだ )




  • No.4878 by アルバート・エバンズ  2025-03-21 23:51:16 

 





( 記憶が悲しい瞬間で途絶える事ほど辛いものはない。それまでがどれほど幸せな笑顔で溢れていたとしても、残酷にも一瞬にして全てを塗り替えられてしまう。その奥にあった笑顔を思い出す事さえ酷く難しくなってしまうのだ。相手の瞳に浮かぶ色は、穏やかな、楽しげな、明るいものであって欲しい。其れは決して、今は亡き妹と重ねて“妹の分まで”と願っての事ではなく、相手自身が幸せであって欲しいと願うから。言葉を発する事はしないままにグラスの赤を飲み干すと、くらりと視界が揺れる。薬が効き始めている事と僅かな酔いとが結び付いたようで、不快な痛みは薄れつつあった。「…せめて2年前のように、人並みに働けるように精進する。」とひと言告げると、ワインの瓶にコルクの蓋を閉めて。 )






 

  • No.4879 by ベル・ミラー  2025-03-22 13:11:02 





無理だけはしないでね。…私が近くに居る事を忘れないで。
( “人並みに”と相手は言ったが2年前の相手は少なくとも“人並み以上に”働いていた。沢山の痛みや苦しみを1人壊れそうな心に押し込めて捜査に万進するその姿は“刑事の鏡”と言えば聞こえは良いが、決してそんな言葉で片付けて良い事では無い筈だ。頷きと共に返すのは矢張り心配の乗る、相手には幾度と無く掛け続けた言葉で。相手の中にある自分自身に対する苛立ちやもどかしさは、身体が着いて来ない事によるもの。誰かに頼るのでは無く自分で確りと仕事をしたいと思う人にとっては“頼れ”と言うのは心を楽にする言葉では無いかもしれない。特に変に気を遣われたりする事が嫌いな相手にとっては余計にだろう。それでも側に居る以上相手を支え、力になりたいと思うのは当然だ。ワインボトルに蓋を閉めた事でこれ以上飲まないのだと判断すれば「…眠れそう?」と
問い掛けて )




  • No.4880 by アルバート・エバンズ  2025-03-22 15:06:25 

 




( “頼れ“と直接的に言われるよりも”近くに居る事を忘れるな“という言葉は、真っ直ぐに胸に落ちた。人に頼る事が苦手な自覚はある為、頼って欲しいと言われてもどうすれば良いかが分からずいつも曖昧な返答になってしまう。けれど、”近くに居る事を忘れない“事なら、自分にも出来る気がしたのだ。「…やってみる、」とだけ素直に頷くと、ワインボトルを手に立ち上がる。冷蔵庫に其れを戻すと、「…多分な。少し痛みも落ち着いた、」と答えて。もう一度横になって少し眠ろうと思えば、グラスの中身を飲み干した。 )






 

  • No.4881 by ベル・ミラー  2025-03-22 22:30:33 





( 返って来たのは随分と素直な返事。珍しい事もあるものだと思いつつもそれを言葉にする事無く破顔するだけで終え。__相手が冷蔵庫にワインボトルをしまったのを見届け2人で寝室に戻る。隣同士に寝転べば久し振りを感じた僅かな煙草の残り香が鼻腔を擽り、再び仄かな切なさが胸中に渦巻くのだが静かに目を閉じる。瞼の裏の暗闇を見詰めたまま「きっと今日は朝まで眠れる。…おやすみなさい、エバンズさん。」掛け布団の中で身体を丸めるように微動し、少しだけ相手の方に身を寄せつつゆっくりと言葉を紡ぎ、後は温もりと呼ぶ温かさの中で眠る事として )




  • No.4882 by アルバート・エバンズ  2025-03-23 01:06:52 

 





( ______“その事件”が起きたのは、レイクウッドに戻り、漸く少しずつ働き方のペース感覚を掴み始めていた頃だった。郊外で女性の遺体が見つかったという一報が入り、現場に向かう事となった。ミラーは別の件で出ており署内には居なかった為、電話を掛けて今対応している件が一段落したら現場に来て欲しいと伝える。「警備にはお前が遅れて来る事を伝えておく。現場の住所はメールで送るからそっちが落ち着いたら来てくれ。」と。---現場は市街地から40分ほど離れた郊外。少し鬱蒼とした林道を抜けると湖に出る。其の湖畔にあるコテージは夏や冬の一定の期間しか使われておらず、それ以外の時期は管理を任された人が時々掃除をしているらしい。今朝いつもの様に外を掃いていると、玄関の鍵が壊されているのを見つけ、不審に思い中に入った所、若い女性の遺体を見つけた______というのが通報内容だった。コテージの手前には規制線が貼られ、警備の為に立っている警官からの敬礼に軽く答えつつ「後から、レイクウッド署のミラーという女性刑事が来る。」とだけ伝えてコテージの中に足を踏み入れて。雨戸が締め切られたコテージ内は暗く、ソファなどの家具には埃除けの布が掛かっている。リビングに当たる場所の暖炉の前に女性が倒れているのを見つけ、ジャケットのポケットから手袋を取り出して其れを嵌めると静かに近づいた。此方に背を向けるように倒れた女性の焦茶色の髪が床に広がっている。外傷を確認する為正面に回り込み________薄く開かれたままの瞳と目が合った瞬間、“見てはいけない”と警告が鳴り響くのを感じた。ひゅ、と喉の奥で掠れた音がして、一瞬にして“同じ情景”の記憶の波が押し寄せていた。薄く開かれたままの緑色の瞳や青白い肌に生気はない。自分はこの光景を見た事がある、そして彼女を知っている。其れを理解した瞬間、此の場にこれ以上留まる事は不可能だった。身体に強い痛みが走るのと同時に吐き気に襲われ、まともに立っていられる状態でもない。リビングを出て壁に掴まりながら、逃げるようにコテージの奥へ奥へと向かい、ゲスト用の寝室であろう部屋へ移動して。床に崩れるも呼吸が上手く出来ない。どうか嘘だと言って欲しい。自分ではどうする事も出来ないままに鮮明な記憶の中に引き摺り込まれ。 )








 

  • No.4883 by ベル・ミラー  2025-03-23 10:21:54 





( ___請け負って居た別の事件が大方片付き一段落した事で、向かった先は既に相手が現場検証を初めて居るだろうレイクウッド郊外にある湖畔の別荘。道の左右から木々が伸びる薄暗い道を抜け湖の手前で車を停めると、規制線の前に立つ警備員にFBI手帳を見せ「レイクウッド署のベル・ミラーです。」と名乗り手袋を嵌める。規制線を潜り、壊された玄関の鍵を一瞥してからコテージの中に入れば何処かひんやりと感じられる空気に身が引き締まり、相手の姿は無いものの何か気になる箇所でも発見したのだろうと、先に遺体を確認するべく暖炉の前に倒れる様にして亡くなっている今回の被害者の傍らに歩み寄り__「……え、」その顔を見た時、余りの衝撃に一瞬呼吸が止まり身体が硬直した。彼女を知っている。決して忘れる事の無いその女性は、以前エバンズが妹の記憶以外を無くした時に【セシリア・エバンズ】として相手の前に立ってくれたカフェの店員だ。セシリアに瓜二つの風貌で、兄である相手も見間違える程。記憶を取り戻した相手と、今度お礼も兼ねてお茶をしに行くと決めて居たのに、結局沢山の事件捜査に追われ未だ叶っていなかった。彼女の名前は【アンナ】だ。__知り合いが事件の被害者になる捜査はこれが初めてで、薄く開かれた光の無い緑の瞳を見下ろしながら立ち竦んで居たも、ふいにリビングに隣接する部屋の奥から物音が聞こえ、弾かれた様に顔を上げる。何処か霧掛かって居た意識が引き戻され、その瞬間に頭の中はこの光景を既に見ているだろう相手の事でいっぱいになった。不味い、と早鐘を打つ胸のまま閉められた扉の一つ一を開け放ち__コテージの一番奥の寝室らしき部屋に相手は居た。床に崩れ落ち、狂った呼吸を元に戻す事も出来ないでいるその姿を見て警告音が鳴る。「…っ、エバンズさん、ミラーです!わかりますか、」早足に相手の側に歩み寄り両膝を床に付く形で座り込むと、上下する背中を擦りながらやや声を上げる様にして名を名乗り。焦燥を纏いながらも先ずは相手の意識が今“何処”にあるのかの確認をして )




  • No.4884 by アルバート・エバンズ  2025-03-23 18:59:39 

 





( セシリアに瓜二つな彼女の遺体は、過去の記憶を鮮明に呼び起こした。そして十数年を掛けて少しずつ思い出せるようになって来ていた事件前の彼女の姿を一瞬にして掻き消し遠ざけてしまう程に、強い衝撃を与えた。光を失った緑色の瞳が、あの日アナンデール幼稚園で見た妹の瞳と重なる。血が流れ出し、彼女の身体の下に赤黒い血溜まりを作っていた。ほんの少し前まで、自分を信じて子どもを抱きしめる様にして此方を見ていた妹は、一瞬にして命を奪われたのだ。_____アンナは、あまりにもセシリアに似ていた。「……っ、はぁ゛…ッセシ、リア……許してくれ、」譫語のように漏れるのは過去への懺悔。あの日、あの時、あの場所で感じた心の痛みが甦り顔を覆うようにして蹲る。アンナの姿が目に焼き付き、セシリアと重なり、意識は過去を彷徨っていた。息が上手く出来ず、鋭い痛みが鳩尾に走り身体を起こしておくことが出来ない。相手の声も、今は届かなかった。 )







 

  • No.4885 by ベル・ミラー  2025-03-23 20:36:34 





( 顔を覆い床に蹲る相手の唇から漏れるのは妹の名前と繰り返される謝罪の言葉。当然ながら相手の意識は“今”に無く過去を__“あの時”を彷徨って居る。アンナの遺体とセシリアの遺体が重なったのは明白で、この発作を伴うフラッシュバックが短い時間で治まらない事もわかるものだから、今出来る最善策は。__「少し離れるよ、直ぐ戻って来るから待ってて。」落ち着け、落ち着け、と自分自身に言い聞かせながら相手の背中から手を離し一度寝室を後にする。アンナの遺体の横を通り抜け、玄関から入って来た検視官と顔を合わせると「…すみませんが席を外します。直ぐに戻るので先に検視をお願い出来ますか、」と告げコテージを出。足早に向かうのは湖の手前に停めた自身の車の元。相手の姿を探すのに室内を歩き回った際、ゲスト用寝室の廊下の突き当たりに裏口を見付けたのだ。その裏口の横に車を停め直し、再び正面玄関から相手の居る寝室まで戻って来ると、「__エバンズさん、苦しいのはわかるけど立って。此処に居ちゃ駄目、」床に蹲ったまま尚も謝罪を繰り返す相手の両脇に腕を回し上半身を起こす。身体に痛みが出ている事は承知だが、此処に居続ければ時期に検視官や他の警察官がやって来て相手にとって最も見られたくない姿を見られる事になる。身長差も体格差も違う成人男性を持ち上げる事は一苦労なのだが、放置の選択肢がある筈も無く、殆どチカラの入らぬ相手を支え半ば引き摺る様な形で壁伝いに一歩一歩廊下を進み裏口から外に出ると、停めた車の助手席を開け崩れる形で相手を座らせ。肩で大きく息をしながら、席のサイドにあるレバーを引き背凭れを倒す。鳩尾に負荷の掛からないだろう所で止め、そこで漸く運転席に移動すると、未だ少しばかり上がる呼吸のまま「…聞いてエバンズさん、あそこに居たのはセシリアさんじゃない!」と声を掛け肩を擦るも、この状態の相手に届く確信は無かった。同時に相手がこの事件の捜査指揮を執るのは絶対に駄目だという確信もあり。水を飲む事も出来ないだろう相手が薬を飲み込める筈も無く、今は僅かでも落ち着くのを待つ事しか出来ない絶望的な時間が続き )




  • No.4886 by アルバート・エバンズ  2025-03-24 03:39:57 

 






( アンナの遺体を目にした事で、当時の絶望の中で思い出さないようにと、恐らく無意識な自衛として蓋をしていた記憶までもが甦っていた。十数年間“忘れていた”記憶。せめて苦痛を感じる事なく何が起きたのかも分からぬままに…と、ずっと願っていた。______けれど。自分は知っていたのだ。立ち尽くした自分の目の前で、犯人が自害し現場が喧騒に包まれる中、妹が自分の名前を呼んだ事を。小さく震える声で“お兄ちゃん”と、セシリアが声を上げた事を。自分の姿は見えて居なかっただろう、血溜まりが靴の先まで広がる中で白い手が縋るように伸ばされ、靴に触れた。しかし身体が動かず呆然としている間に、しゃがみ込んで彼女の手を握ってやる前に、彼女は動かなくなった。痛みの中で自分を探した彼女を安心させてやる事も出来ず、一人で逝かせてしまったのだ。相手に引き摺られるようにして車に連れて行かれる間、意識が彷徨っていたのはそんな記憶の中。背もたれが深く倒された助手席のシートで、痛みを逃すように身体を僅かに横に向けるのだが呼吸は一向に落ち着く気配がない。相手の言葉さえ届かない中、酷い発作的な症状は数十分は続いただろうか。皮肉にも、意識を今に戻す手助けをしたのは“痛み”だった。鋭く走った痛みに思わず鳩尾を抑えた時、意識が“今の”痛みに向いたのだろう。自分が車に居る事に気が付き、暗く沈んでいた瞳にほんの僅か光が映ると、視線は虚げに宙を彷徨って。 )







 

  • No.4887 by ベル・ミラー  2025-03-24 16:46:27 





( 声が届かぬとわかっていても、肩を擦り声を掛け続けるしか無かった。___時間にしてどれ程が経ったか。過去を彷徨い暗い闇を湛えて居た碧眼にほんの僅か…注意して見ていなければわからない程の光がチラついたのに気が付くと、前屈みになるような体勢で相手の顔を覗き込み冷たい頬を軽く叩く事で意識と共に視線も此方に向けさせる。「ミラーです、エバンズさんは今車の中に居るの。…わかる?」と、声を掛けた後「ゆっくり、大きく呼吸して。…大丈夫、ちゃんと落ち着くから。」痛みに耐える為必然的に浅く早くなりがちな呼吸を意識的に変えるのが必要な事。浅い呼吸は身体に十分な酸素を回せず、やがて酸欠状態になり指先の震えや頭がぼんやりとする症状に繋がってしまうから。徐に相手の手を取り、その指の腹を自身の手首に誘う。一定の感覚で微動する脈拍を感じて貰いそれが少しでも呼吸の感覚を取り戻す手助けになればと思っての事で。___コテージの中では検視官が検視を進めていた。犯人特定に繋がる証拠品は今の所出ていないものの、自殺や事故死の可能性は極めて薄く、“他殺”と言う結果になるだろう )




  • No.4888 by アルバート・エバンズ  2025-03-26 03:50:21 

 





( 酸欠で頭が回っていなかったものの、相手の言葉を聞くと数度小さく頷く事で理解していると示して。未だ浅い呼吸が胸に痛い。相手の首筋に触れた指先から伝わる脈拍で少しずつ呼吸のペースを取り戻し、上擦っていた呼吸がようやく落ち着き始めるのにはまた時間を要した。後に残るのは、身体を押し潰すかのような重たい倦怠感。「_____セシリアは、…」と僅かに掠れる声で言葉にしたものの、自分で意識に混濁がある事に気づき其れを振り払うように頭を振った。妹が亡くなったのはもう随分前の事だと自分に言い聞かせる。自分が今すべき事はセシリアの安否を問う事ではなく、捜査を続ける事だと。「……被害者は、」と言い直したものの、その先の言葉は続かなかった。被害者は誰なのか、どういう状態なのか、何故彼女なのか。考えるだけで、あの光景に思考が向かいそうになるだけで、呼吸が再び上擦りそうになるのだ。せめて今この場所では、記憶に一度蓋をして“正常に”刑事として在るべきだと、深く息を吐いて。 )







 

  • No.4889 by ベル・ミラー  2025-03-26 11:14:35 





( 長い時間を要して漸く相手の呼吸や意識が少しばかり落ち着きを取り戻したのを確認すると、脈拍へと誘っていた手を離す。一度は“セシリア”と落とした名前、それが“今”では無い事に気が付いた相手の振り払う様な動作を苦しげな瞳で見詰めつつ、その後に言い直された、後半こそ続かなかった“被害者”への問いに「…被害者の名前はアンナ。以前私達が行った事のある、あのカフェの店員で間違い無いと思います。」と静かに答えた後「検視官が先に検視を行ってるけど、まだ終わってません。…私は中に戻るけど、エバンズさんは絶対に車から降りないで。…約束して下さい。」ドリンクホルダーに置いていたミネラルウォーターのペットボトルの蓋を外し相手に手渡しながら、酷く真剣な瞳で相手はこの場に留まるべきだと言う事を告げる。それは相手の思いとは真逆であろうとも。拒否の返事を聞く前に運転席の扉を開けると車外へ出。窓ガラスを挟み今一度念を押す様に首を左右に振ってから、コテージへと戻り。___別の警官から被害者の名前は【アンナ・ハミルトン】でカフェの店員である事聞き、矢張りあの時の女性で間違い無いのだと胸には重たい鉛の様な気持ちが落ちた。驚きこそすれど、嫌な顔一つする事無く“セシリア”を演じてくれた彼女の屈託の無い笑顔はもう見られないのだ。__部屋に争った跡は無く、衣服の乱れも無い。腹部を撃たれた事による出血死と思われるが、薬莢が見付からない事から犯人が拾い持ち帰ったのだろう。人を殺しておきながらそれだけの冷静さがあったのだとしたら気味が悪い。犯人に繋がる証拠品も現段階では出て来る事無く、死亡推定時刻も不明。後の詳しい事は検視官から纏めて送られて来るとの事で一度署に戻る事となり。___コテージを出、車に戻ると重たい息を吐き出す。「……署に戻るね。」被害者の事に触れぬまま、それだけを告げてエンジンを掛ける。相手がこの捜査に関わるべきでは無いと言う思いは僅かも薄れてはいなく、寧ろ強まるばかりで )




  • No.4890 by アルバート・エバンズ  2025-03-27 08:15:16 

 






( やはりあのカフェの店員だったのかと表情は暗くなる。“セシリア”として自分の前に立ってくれた心優しい彼女が、何故事件に巻き込まれたのか。車から降りないようにと念を押され、更に釘を刺すように外からも視線を送られると、分かっていると大人しく背凭れに身体を預け直して。中に戻り検視官と話をしたかったのだが、未だ微かに足が震えて居て、今立ち上がってもふらつく可能性があった。少し落ち着いたからと言って、今再び同じ光景を目にしてフラッシュバックを起こさないという確証も無い。脳裏に焼き付いてしまった光景を思い出さないように意識を別の所へ向けつつ、鞄から薬を取り出し安定剤を多めに服用する。痛み止めも1錠。やがて相手が戻ってくると、多くを語らず車のエンジンを掛けた相手に「______分かった事はあるか、」といつも通り報告を求めて。 )







 

  • No.4891 by ベル・ミラー  2025-03-27 09:36:17 





( 此方が意図的に事件の話をしないようにしても、案の定捜査の指揮を執る立場にある相手は検視の報告を求めて来る。無視をする事も出来る筈無く、静かに車を発進しつつたっぷりの間を空けた後「___争った形跡や衣服の乱れも無く、抵抗出来ぬ間に襲われたか、もしくは顔見知りの犯行の可能性もあります。…詳しい事は署に戻り次第、報告書が送られて来るかと、」前を見据えたまま現段階の…アンナの死因の部分だけを省いた説明をして。___署に着き、警部補執務室に入るや否や、後ろ手に扉を閉め開口一番の言葉は「…エバンズさん、この捜査には関わらないで下さい。」だった。扉を背に、デスクに座った相手を真っ直ぐ見据える緑の瞳は真剣そのもので、この事件に関わったら最後、もう“戻って来られない”何かを予感として感じてしまっているからで )




  • No.4892 by アルバート・エバンズ  2025-03-30 20:26:42 

 




( 車内で聞いた相手の報告には違和感があった。検視が始まっているなら、想定される死因について現場レベルで話があるはずだ。しかし相手が報告したのは、抽象的な現場の状況と、想像の範囲を出ない事だけ。外傷の有無だけでも捜査を進める足がかりになるというのに、其れを口にしない相手に違和感を感じつつも、車内で其れを問い詰めなかったのは少なからず自分の中に“聞きたくない”という思いがあり、其れを直ぐに拭い切れる程割り切れて居なかったからだろう。---署に戻り執務室に入るな否や相手から告げられた言葉に視線を向けると「_____此の捜査の指揮官は俺だ。お前に指示される立場じゃない、」とだけ答え、相手の言葉を受け取る素振りも一切なくデスクに腰を下ろして。 )






 

  • No.4893 by ベル・ミラー  2025-03-30 22:44:38 





それはわかってる!__…わかってます。この事件の捜査指揮官がエバンズさんだって事も、部下である私が指示を出すのが間違っている事も、わかってるけど、何も言わない訳にはいかないの。
( 案の定聞く耳持たずの相手に思わず声を荒らげもう一度視線を合わせるべくデスクを挟み目前に移動するも、此処で感情的になっても駄目だと思えば1つの深呼吸で気持ちを調えた後。それでも今回ばかりはと首を横に振り。「…今回の事件、エバンズさんの精神が安定した状態で捜査出来るとは思えません。…事件に長く身を置けば置く程きっと取り返しのつかない事になる。エバンズさん自身が一番わかってるでしょ?」諭す様な、それでいて懇願する様な響きを纏う語調で断言的な言葉を真っ直ぐに告げ。___丁度その時、相手のパソコンに検視官からの検視結果を記したメールが送られて来て。そこにはアンナの身体の外傷の有無や死因などが記されていて )




  • No.4894 by アルバート・エバンズ  2025-03-31 10:03:15 

 





( 今回の事件捜査に長く関わる程、取り返しが付かない事になる_______相手の懸念が間違っているとは思わない、自分でさえ其の危険性は感じているのだから。それでも、今捜査から手を引く決断をした場合、また自分は何も出来なかったという後悔と罪悪感を抱え続けるだろう。「……あの時何も出来なかった事をずっと悔いている。あれ以降、無念な思いを抱える家族や被害者を1人でも減らし、犯人に相応の罰を受けさせる______其れだけが使命だと思ってやって来た。…今我が身可愛さに責務を放棄して逃げたら、俺はまた後悔する。せめて彼女が最期に残した悔いを晴らしてやりたい、」感情的にではなく、自分の思考を整理しながら言葉を紡ぐ。アンナとセシリアを重ね合わせて情が移っている事は否定できないが、彼女と彼女を取り巻く近しい人間の無念を晴らしたいという思いが強かった。---受信したメールは現場を担当した検視官からのもので、アンナの死因や致命傷となった箇所、死亡推定時刻などが纏められていた。腹部を撃たれた事による失血死。貫通した薬莢は見つかっていない。_____目に入る言葉のひとつひとつが過去の記憶と繋がり、再びフラッシュバックが起きそうになるのを一度目元を覆い情報を遮断する事で拒む。自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をした後に再び相手と視線を重ねると「…捜査を降りるつもりは無い、」と断言して。 )







 

  • No.4895 by ベル・ミラー  2025-03-31 13:30:04 





( “あの時”__犯人の強行に何故もっと早く気が付く事が出来なかったのか、何故逮捕出来なかったのか、何故大勢の人の命を、妹の命を助ける事が出来なかったのか。__相手が数十年経った今も尚その後悔や罪悪感を抱え続けて居るのは勿論知っていた。悪夢に魘され安定剤を飲み、心身共にボロボロの状態であっても立ち続ける理由もまた。___感情的になる事も無く、気持ちを吐露する事を苦手とする相手が真剣に1つ1つ言葉を紡ぐその顔を真っ直ぐに見詰め、思わず奥歯を噛み締める。“その時出来なかった最善”を、“その時してやりたかった事”を、相手は今回成そうとしているのか。胸の奥が締め付けられる様な苦しさに思わず目を伏せ、それでも今回は降りて欲しいと伝え続けたいのに出来なかった。そうこうしている内に相手は送られて来た事件の詳細を目にしたのだろう、再び重ねられた断言する言葉に「……だったら、」と音を振り絞った後「…無理だけはしないって約束して。調子が悪い時はちゃんと休んで、私に仕事を振って。…エバンズさんの事を大切だって思う人が居る事を、どうか忘れないで。」再び相手を真っ直ぐに見詰め、真剣な色を瞳にも言葉にも乗せながら1つ1つ挙げていき。後半の言葉に僅かの震えが出たのはそれだけ心が揺れたから。「無理だと思ったら、引き摺ってでも病院に連れて行きます。」そうやって最後、少しばかり強い口調で以て締め括って )




  • No.4896 by アルバート・エバンズ  2025-04-03 14:23:32 

 





( 心優しい彼女が無念の内に其の生涯を閉じたのなら、刑事として最善を尽くし彼女や遺族が望む物を義務がある。かつて自分と過去とに寄り添ってくれたアンナが今回の被害者である以上、尚の事捜査を離れるという選択は出来なかった。助ける事が出来なかった、無念を晴らしてやる事さえ出来なかったあの日の後悔を、二度と繰り返したくは無いのだ。「______分かった、」と相手の言葉に視線を落としたまま小さく頷く。拒否すれば捜査に関わる事までもを反対されると当然理解していて、ある意味自分が捜査を続ける為の返事でもあったのだが。それでも続いた相手の言葉には少しばかり驚いたような色を乗せた瞳で相手を見つめた。自分の事を“大切”だなどと表現する者が居るとは、自分でも思ってもみなかった為意表を突かれたというのが正直なところ。「……分かった、」と、全く同じ言葉を繰り返したものの、相手の気持ちを受け取り、先ほどの上辺だけのものより少しばかり自分の中に落とし込んだ、素直な返事だっただろうか。 )







 

  • No.4897 by ベル・ミラー  2025-04-03 19:51:17 





( 一度目の“分かった”が、今この場を乗り切り捜査を続ける為の上辺だけの返事だと言う事に気が付けない程浅い付き合いでは無い。気持ちの無いその頷きと了承に思わず吐き出しそうになった溜め息が喉の奥で止まったのは、その後直ぐの相手の表情が驚きを纏ったから。一度は飲み込んだ筈の溜め息が漏れた後、顔には仕方の無さそうなほんの僅かの呆れと、それよりも遥かに大きな慈しみの色が滲み「__ちゃんと言葉にして良かった。」と、独り言にも似た声量に続けて「驚いてるようだけど、エバンズさんの事が大切なのはずっと前からだからね。…大切だから、苦しむ姿を見たくないって思うのは普通の事でしょ。」至極穏やかな笑みと共に言葉を重ね。二度目の“分かった”に今度は少なからず空っぽさを感じなかった事に満足そうに頷いて。___執務室の扉がノックされたのは部屋を出て行こうとしたその時だった。入室許可の返事の後に入って来たのは顔馴染みの鑑識官で、茶封筒を相手に手渡すや否や『現場で撮影した写真と、死亡推定時刻の報告です。』と簡単に中身の説明をし再び部屋を出て行き。良いか悪いかこのタイミング、死亡推定時刻はまだしも殺害現場の写真を見なければならないと言う事は、どうしたって遺体の写真も見ると言う事。部屋を出る事は選ばず険しい表情のまま相手の目前から横に移動して )




  • No.4898 by アルバート・エバンズ  2025-04-04 02:44:00 

 





( 相手が自分の事をいつも気に掛けて居る事は理解していたものの、”大切“だと其れを言葉にされるのは慣れず、曖昧な表情を浮かべつつ小さく頷くに留まり。---ドアがノックされ、入ってきた鑑識官が手にしている茶封筒を見ると表情は硬いものに変わる。中に何が入っているかは聞くまでもない。彼が再び部屋を出ていくと、受け取った茶封筒を手にデスクに腰を下ろし封を開ける。リビングの暖炉の前に倒れている位置関係が分かるよう遠目から撮った写真、そして彼女の顔や身体の傷が分かる写真。倒れたセシリアの姿が、クラークからいつか見せられた写真が、重なるようにフラッシュバックするのを感じて目を閉じた。ゆっくりと息を吐き出し、意識的に呼吸を整えた後に写真を捲ると腹部と胸部に受けた銃痕が目に入り。銃弾を受け、赤黒い血が流れ出すその色が鮮明に思い出され呼吸が上擦る。冷静に捜査に向き合うと決めたのに、たったこれだけ______写真を目にしただけで、心は嫌だと悲鳴を上げる。未だ見なければならない資料は残っている、捜査は降りないと断言した以上支障なく捜査に関われる事を証明しなければならないのに現場の写真は心を深く抉った。 )






 

  • No.4899 by ベル・ミラー  2025-04-04 13:25:29 





( 茶封筒の中から出て来た写真の鮮明度は高く遺体の様々な角度から何枚も何枚も撮られていた。直ぐ隣の相手から吐き出される息は細く震え、“2人の遺体”が重なり記憶の中の過去が蘇った事で心が悲鳴を上げているのが手に取る様にわかるものだから、「…エバンズさん、」たった一言名前を呼んだ後、相手の手の中にある写真を横から静かに取ると角度的に見えない様再び目前に移動しソファへと腰を下ろしつつ「手分けしよう。私は写真を見るから別の資料はお願いします。」捜査を降りるのでは無い相手の望む形で、それでも相手の心に大きく負荷が掛かるものはなるべく此方にと。それが現段階で出来る最もベストな事だと思うからこそで。___【アンナ】の姿は矢張り写真で見たセシリアに余りに似過ぎて居た。瞳の色も髪の色も、何もかも。朗らかに笑ったその女性が今は瞳に光を宿す事無く血に濡れ、その命の炎を消してしまっているのだ。彼女や遺族の無念を晴らす為、そうして相手の心身の状態を考え早急に事件を解決しなければならない。険しい表情で写真を見詰めながら、それと同時に今夜家に戻り眠る相手の悪夢の不安がどうしても首を擡げていて )




  • No.4900 by アルバート・エバンズ  2025-04-07 03:31:25 

 





( 手分けをする、という提案は相手なりの配慮だろう。自分に負担が掛かり過ぎないようにと、過去の記憶に直結する写真を見なくて済むようにと。相手の言葉には大人しく頷いて、資料に目を通し始める。実際に視覚情報としてアンナの遺体の写真を見るよりも、活字で書かれた報告書を読む方が未だ楽だった。---アンナの死因は、拳銃で撃たれた事による失血死。現時点で犯人に繋がる直接的な証拠は現場には残されておらず、今後コテージの持ち主や周辺の靴跡、タイヤ痕などの解析を進めると。防犯カメラがあるような場所でも無いため、捜査の初動は多少なりとも難航するだろう。「…彼女の勤務先での聞き込みと、コテージの持ち主の聴取から進めていくしかなさそうだな、」資料を読み終えると眼鏡を外し、眉間を解しつつ明日以降の捜査の動きについて思いを巡らせつつ言葉を紡ぎ。明日から捜査に追われる事となる為、帰れるのであれば今日は早めに休んだ方が良いと相手に促すも、自分も相手の部屋に戻る事には些かの抵抗があった。夜眠るのが怖い。相手にも迷惑を掛けるだろう。しかし同時に、ホテルに泊まると言い出せば相手が許さないであろうことも理解していた。「…捜査の間、ホテルを借りる事も出来る。」とだけ伝えて、相手の反応を伺い。 )






 

  • No.4901 by ベル・ミラー  2025-04-07 13:28:03 





( “誰でも良かった”と言う理由なのだとしたら、態々町外れにあるコテージに来て施錠された鍵を壊してまで犯行に及ぶのは考え難い。だとすれば最初からアンナ1人を殺害する事を目的としていたのか。もしくはコテージの持ち主が何らかの理由で犯行に及んだか。__「アンナさんがコテージを訪れた理由を、従業員の誰かでも知ってれば良いけど、」と答えつつ、枚数のある写真を捲るも唐突に捜査中の相手自身の住処の話をされれば視線だけを持ち上げる。己同様に相手も夜中の不安が少なからずあるのだろう。けれどその不安は悪夢を見る、と言うそれに関してだけでは無く、その結果近くで眠る己を起こす迷惑を思ってのものも含まれている事は直ぐにわかった。だからこそ再び視線を手元の写真に落とし「…コテージまで1時間も掛からないし、ホテルをとる程の距離じゃないよ。」相手の言いたい事を確りとわかっていながら、何食わぬ顔で敢えて距離の話を返し。そうやって今度は此方が相手の反応を伺う様にその視線を上げ直し、「もう少ししたら一緒に帰ろう。」最終的にホテルの話は却下だと言う様に“一緒に”を少しばかり強調しつつ。資料諸々を見、明日以降の捜査の話をした後は共に家に帰るべく車を走らせる事として )




  • No.4902 by アルバート・エバンズ  2025-04-07 23:10:35 

 





( 普段であれば資料を読み込み捜査の進め方を頭の中で組み立てるのだが、その作業がこれ程困難だと感じたのは初めてだっただろうか。直接写真を見ないにせよ、ふとした瞬間に現場で目にした記憶と過去の事件の記憶とが絡まってフラッシュバックしそうになる。目の前の現場を、事件を見なければいけないのに、事あるごとに過去が首を擡げるのだ。其れでも決して降りないと断言した捜査、手を抜く訳にはいかず集中して資料と向き合い気付いた頃には夜も遅い時間になっていて。---確実に心身を擦り減らす事に繋がるであろう今回の捜査。相手の家へと戻る車内で、多く服用していた薬の効果が既に切れるのを感じていた。身体の痛みが強く出て、首筋や背中に汗が滲む。痛みを逃す為に浅くなる呼吸と、ほんの些細なきっかけでフラッシュバックに襲われそうな不安定さを自分でも感じていて意識を今に繋ぎ止めておくことに必死だった。相手の部屋に着くと、ジャケットを脱ぐよりも先に鞄から取り出した鎮痛剤を手にシンクで水を汲む。「_____…っ、」強い痛みに軽く唇を噛む事で耐えつつ、痛みの波が引くのを待ち。 )








 

  • No.4903 by ベル・ミラー  2025-04-07 23:45:38 





( ___執務室では細い糸の上を綱渡り状態、ギリギリの所を保っていた相手だったが道中でその全てが崩れ去った様だった。安定剤も鎮痛剤も既に効果は無くなってしまっているのだろう、繰り返される浅い呼吸の合間に苦しげに漏れる小さな声が聞こえる度、胸が締め付けられた。署から部屋までは然程の距離では無い筈なのに、とんでもなく長く険しい道に思えてしまうのは気持ちばかりが急ぐから。やがて体感にして1時間以上に感じられた運転が終わり、相手と共に漸く部屋に入るのだが着替えるよりも、何をするよりも先に相手がとった行動は痛みから逃れる為、追加の鎮痛剤を胃へと流し込む事だった。その行動と、唇を噛み懸命に痛みに耐える表情に思わず“もういい”と捜査の終了を叫びたくなる気持ちを懸命に押し込める。グッと奥歯を噛み締め静かに相手の横に立ち、背中を擦る表情は苦しげに歪んだ。この手に鎮痛剤と同じだけの力があれば良いのにと何時だって思うのに、何時だって何も取り去る事など出来ないのだ。ただ、隣で背を擦り痛みが、苦しみが、過ぎ去るその時を共に待つしか出来ない事の無力さが、何故だか何時にも増して大きく重く伸し掛る。「……」背を擦る合間、なるべく負荷が掛からぬ様に注意を払いつつ、ゆっくりと相手のジャケットを脱がせるとそれを片手にまた暫し落ち着く時間を取り。どれ程の時間そうしていたか。シンクの前に立ったままでは楽な体勢もとれぬだろうと思えば「…横になれる?」と、ソファかベッドまで行けそうかを決して焦らせる事は無い穏やかな声色を努め問い掛けて )




  • No.4904 by アルバート・エバンズ  2025-04-08 01:22:07 

 





( 今回の捜査に刑事として関わる事が得策でない事は、当然自分でも理解していた。到底万全とは言えない状態で心身の不調を騙し騙し捜査に当たれば周囲にも無用な迷惑を掛ける事も。此の事件に固執するのは謂わば自分の“エゴ”だ。十数年前に果たせなかった事を、かつて自分を引き戻してくれた_____妹に瓜二つのアンナには、せめて。じっとりと汗ばんだ背中を摩られるも、相手の問いには小さく頷いて。ワイシャツの首元を緩めベッドに横になる。眠るのが怖いという思いはありながら、身体は疲れていて程なくして浅い眠りに落ちていた。---夢は、酷く鮮明だった。あのコテージで真っ赤な血溜まりに立つ自分の前にはアンナの遺体。現実の昼間と同じように現場の状況を確認するために部屋を1つずつ開けていく。奥に進みある部屋の扉を開けると、折り重なるようにして被害者が倒れる幼稚園の一室が広がっていた。声にならない悲鳴と共に飛び起きた身体には痛みが襲う。「……っ、あ゛…はぁ…ッ…!_____違う、っ…」自分に言い聞かせるように紡いだのは、記憶の混同を感じる防ぐための言葉。酷い発作に引き摺り込まれる事を避けたいという思いから、なんとか意識を繋ぎ止めようとするのだが、ベッドの上に身体を起こしたまま徐々に呼吸は浅くなっていき、瞳には暗い翳りが落ち。 )







 

  • No.4905 by ベル・ミラー  2025-04-08 11:08:44 





( 普段より遥かに覚束無い足取りで寝室に向かいベッドに横になった相手の後を追い、尚も背中を擦り続ける事暫く。鎮痛剤の効果が僅かに効き始めて来たのかやがて酷い痛みに耐えていた相手がまるで気を失うかの様にして眠りに落ちたのを見ると、汗で額に張り付く前髪を一度だけ払ってやった後静かに寝室を出て。相手のジャケットを丁寧にハンガーに掛けながら視界が滲んだのは心が揺れているから。唇を噛み締め溢れだしそうな感情を抑え込む様に一つ深呼吸をし、続いて水道水をグラス半分飲み干してからソファに腰掛け鞄の中から事件の資料を取り出し真剣な表情で目を通す。出来る事はたった一つ。今回の事件を一分でも、一秒でも早く解決する事だ。___細かい文字を何度も何度も読み、遺体の写真を隅々まで凝視し、この静まり返った部屋の中で壁に掛かる時計の秒針の音も認識出来ない程没頭していた脳に唯一届くもの。良いか悪いかそれは相手の声にならない悲鳴だった。弾かれた様に資料から顔を上げ寝室の扉を開けると暗い部屋の中、ベッドの上で座り込み狂った呼吸を懸命に押さえ付け様としている相手の姿があり。「っ、!」直ぐ様傍に駆け寄り枕元の間接照明を点ければ、その勢いのままベッドに上がり相手の頬に両手を添え顔を持ち上げて。真正面から見る褪せた碧眼は暗く翳り、彷徨いを見せている。「…エバンズさん、」と呼び掛け強引に視線を合わせようとしながら、親指の腹を頬に滑らせ「…此方見て、私がわかる…?」意識が今何処にあるのかを確かめるべくその顔を覗き込んで )




  • No.4906 by アルバート・エバンズ  2025-04-08 21:38:09 

 





( 苦しさを抱えながら懸命に呼吸を繰り返す中で相手と視線が重なると、妹の瞳が記憶の奥で揺れた気がした。目の前に見えているのは確かにベル・ミラーなのだが、セシリアとアンナの瞳がちらつくように重なり“今”を記憶に阻害されている感覚があった。分かると、相手の言葉に頷いたのだが其れも長くは続かず意識が過去に引き摺り込まれる。過去の事件が、新たに思い出してしまった事実がフラッシュバックした事で取り乱した様子を見せると、呼吸は一層浅く喘ぐようなものに変わる。「____っ、セシリア、…っ悪かった…許して、くれ…ッ…は、ぁ゛…セシリア、」血の色が頭から離れない。浅い呼吸を繰り返していた身体は徐々に痙攣を始め、譫言のように妹の名前を呼びながら身体は震えが止まらなくなっていた。意識を今に引き上げようと、抵抗のように強く握り締め爪を立てた腕には鬱血した痕が残る。---酷い発作が落ち着く兆しを見せたのは、40分以上が経ってからの事。ふと目の前の相手が“見える”ようになり、それと同時に褪せた碧眼からは涙が溢れた。あまりに苦しい状況に対する絶望と、相手を認識出来た事に対する安堵とが入り混じる。「……手を、…っ握って、やれなかった…あんなに苦しんだのに、…1人で逝かせてしまった、…!」涙ながらに言葉にしたのは、今回の一件で思い出した記憶と、その後悔で。 )






 

  • No.4907 by ベル・ミラー  2025-04-08 22:41:13 





( 此方の問い掛けに頷きが返って来た事で安堵が胸に落ちるも、それは長く続かなかった。己を認識出来たのは僅かの間だけで、再び狂いを見せた呼吸と共に一瞬“今”にあった意識は過去へと落ちた様子。直ぐ近くで喘ぐ様な呼吸が繰り返され、その合間合間に何度も紡がれる妹の名前と謝罪に一度きつく双眸を閉じると、恐らく相手自身の意思とは関係無く止まらなくなっているのだろう震えを押さえ込む様に、先ずは近くの掛け布団を手繰り寄せ相手の背中に掛け、その後痙攣を繰り返す身体を確りと抱き竦め「…許してるよ、ちゃんと許してる。…大丈夫だから、」此方の声が今の相手に聞こえていなくとも何度も“大丈夫”を伝え続けて。___酷い発作が漸く少し落ち着き、身体の震えが治まりを見せて来た頃、次は先程まで翳りを見せていた相手の碧眼からとめどない涙が溢れた。同時に紡がれたのは“あの日”の後悔。“あんなに苦しんだのに”の一言を拾い思わず驚愕に見開かれた目で相手を見る。セシリアは…即死では無かったのか。至近距離の相手の表情は余りに悲痛な色に染まり、涙に邪魔され引き攣る喉から絞り出される後悔は重い。薄く開いた唇から何か言葉を発するよりも先に頬に冷たさが滑り、己もまた泣いている事に気が付いた。相手の涙を見たからか、その言葉で2人のその時を想像してしまったからか、物理的には有り得ないのにまるで抱き締めた相手の身体から絶望や痛みや後悔が…あの時の記憶が、流れ込んで来るかの様なそんな感覚を感じてしまったからか。思わず俯き、そこで相手の腕にある鬱血痕に気が付き涙の量は増す。以前駄目だと制した所謂自傷は、今回は列記とした抵抗だったのだろう。__セシリアは死の直前、相手に手を伸ばしたのだろうか。兄の姿は見えていたのだろうか。幼い園児を庇いながらもその心はきっと恐怖でいっぱいだった筈だ。流れ出る血の感覚を、撃たれた箇所の熱や痛みを、感じてしまっただろうか。相手は…伸ばされた手を握る事すらも出来ない程の絶望に一瞬にして染まってしまったのか。「…っ、ふ…ぅ、」痛い、なんて言葉が生温く感じられる程の余りに大きく重たい何かが胸の奥に根を張り体内から締め上げる様な感覚に俯いたまま嗚咽する。何に対しての涙なのかはわからなかった。泣き続けるべきなのは己では無く相手なのに、ただ、心が痛いのだ。相手の腕を緩く掴んだまま、何か言葉を発する事も出来ずにいて )




  • No.4908 by アルバート・エバンズ  2025-04-08 23:49:49 

 





( 相手が泣いている事に気付いたものの、思い出した過去の出来事について語るだけの体力は残っていなかった。ただ相手が己の腕を握る仄かな体温を感じ小さな嗚咽を聞きながら、気を失うようにして意識を手放していた。---発作が長く続いた事による疲労の所為だろう。皮肉にも齎された眠りは深いもので、明け方まで目を覚ます事はなかった。明け方、空が青みを帯びて白み始めた頃になって目を覚ますと、身体の重さを感じて深く息を吐き出す。たった1日で、かなり無理をして捜査を進めた時と同じような______自分自身で身体の不調を自覚する程に、影響を受けている事を思い知らされて。自分の直ぐ隣で布団も掛けずに寄り添うように眠っていた相手の頬に涙の跡が残っている事に気付くと、指の腹でその跡を拭うように頬を撫でる。布団を相手に掛けた後、静かに起き上がるとシャワーを浴びてじっとりと身体にかいていた汗を流して。リビングに戻ると、煙草を取り出してベランダに出る。アンナの事件捜査には関わらないと言ってしまえば楽なのだろうが、どうしてもそれは出来なかった。深い溜息と共に煙を吐き出すと、風に攫われた其れは静かに紺碧の空に溶けて。 )







 

  • No.4909 by ベル・ミラー  2025-04-09 11:08:13 





( ___何時眠りに堕ちたのかはわからなかった。頬撫でられた事も、布団を掛けられた事も、相手が寝室を出て行った事にも気が付かず眠っていたのだがその眠りは決して穏やかなものでは無く。右も左も、上も下も真っ暗な闇の中でたった1人相手がその場に蹲って居るのだ。顔は見えずとも震える背中と漏れる嗚咽で泣いている事はわかる。傍に寄り背中を擦りたいのにその足は僅かも動かず「エバンズさん」と唇は動くのにその名前が音になり相手に届く事は無い。相手はたった1人で泣き続けて居る。__ふ、と意識が浮上した時既に部屋の中は夜中の様な暗がりに染まってはいなかった。隣に相手は居らず、目の奥が重たい様な感覚に一度眉間を軽く解してから静かにベッドを降りて寝室を出。相手はあの日の満月の夜の時と同じく部屋に背を向ける形でベランダに居た。漂う紫煙は直ぐに風に乗り形を崩す。__朝が、来なければ良いのにと一瞬思ってしまった。悪夢に魘される夜が続けと言う事では無い、ただ、朝が来てしまえば相手は再び心身に鞭を打ち苦しみを背負いながら捜査を続けるのだから。今度はあの日の様に勢い良く開け放つ事無く静かにベランダに続く窓を開ける。朝の冷たい風が吹き抜け身体に纏わりつく感覚の中、伸ばした手は相手の腕へ。隣に立ち、煙草の煙の香りに混じりボディーソープの香りが鼻腔を擽れば「__風邪ひくよ。」と、小さく声を掛け身長差のある相手を見上げ。その表情は柔らかく穏やかな笑みなれど、何処か切なさも滲んでいて )




  • No.4910 by アルバート・エバンズ  2025-04-10 10:51:05 

 





( 窓が開く音がして相手の声が聞こえると、隣に立った相手に流し目で視線を向ける。シャワーを浴びて少しばかり熱を持った身体に冷たい風が纏わりつく感覚は涼しくて心地が良いのだが、風邪を引くと言われれば其れもその通りで。「…お前も、何も掛けずに寝てただろう。」と、風邪を引くのは相手も同じだとばかりに返事をして。深い溜息に煙を乗せて、青みがかった空に視線を向ける。「……鮮明な夢を見るのは、きついな。」現実と錯覚する程にリアルな夢。血の色も、血溜まりを踏んだ時の感覚も、目の前に倒れる人たちも、全てが鮮明なのだ。それが心を深く抉ると口にして。けれど捜査を続けると決めたのは自分。「夜中に付き合わせて悪かった、…捜査に集中しないとな、」昨晩酷い発作を起こした自分の側に相手がずっと寄り添ってくれていた事はわかっていて、感謝と謝罪を。立ち止まっている場合ではない、きちんと捜査に集中しなければと、自分に言い聞かせるように言うと煙草を灰皿に入れて。落ち着いている今のうちに多めに薬を飲んでおこうと考えつつ、相手と共にリビングへと戻り。 )






 

  • No.4911 by ベル・ミラー  2025-04-10 13:25:51 





__そうだっけ?全然覚えてない。
( 何かに引き摺り込まれる様にして眠りに落ちた事は理解していたが、目が覚めた時身体は確りの掛け布団の中にあったものだから、それはつまり先に目が覚めた相手が態々掛けてくれたと言う事。少しばかりおどけた様に笑い肩を竦めて見せた後は吐き出された紫煙を追う様にして同じく空を見上げ。「…そうだね。…今回は特に、」今請け負っている事件捜査がどうしたって”あの事件“を思い起こさせる事は確か。小さく頷き言葉尻を切る事で、次は謝罪に対して首を横に振り気にしていない事を伝えるのだが。その謝罪の後の言葉には頷く事が出来なかった。捜査に集中するべきなのは絶対で、それが刑事である事の努めで、被害者や遺族に対して真摯的な向き合い方だ。わかっている。わかっているのに、これ以上相手の苦しむ姿を、涙を流す姿を、見たくないと思ってしまうのだ。結局何も返事をする事が出来ないまま相手と共にリビングに戻ると「…コーヒー淹れるね。何時もより少しだけ甘いやつ、」と、顔を向け__「待って、」ケトルにお湯を沸かすよりも先に相手が取り出した薬の量に反射的に制止の言葉が口をついて出た。一度に飲んでも良い数は知っている。捜査の”障害“となる全てを抑え付ける為に規定以上の数の薬を飲もうとしている相手の考えも。それで全てを押さえ込む事が仮に出来たとしても、後に襲うのは大きな副作用と薬を飲む前以上に何倍にも膨れ上がる苦しみだ。心の底から苦しんで欲しく無いと思うが、それでも、見過ごす事は出来ない。「……」相手を見上げる真剣な瞳は暗に“駄目だ”と物語っていて )




  • No.4912 by アルバート・エバンズ  2025-04-10 23:58:42 

 





( 甘い珈琲を淹れると言う相手の言葉に頷いてソファの方へと向かうと、昨晩置きっぱなしにしていた鞄から処方薬を取り出す。シートを手に水を汲んだコップを手にした所で制止されると、相手と視線を重ねる。規定を超えた量を飲んだ時の副作用を案じているのだろう。決められた量以上の薬を独断で飲むのは当然良い事ではないと分かっては居るが、普段の薬だけで制御し切れるとも思わなかった。「______いつもの薬だけで乗り切る自信が無い、」感じている率直な不安を口にしたものの、だからと言って勝手に多量の薬を服用して良いという事にはならないだろう。結局規定の2錠を水で流し込み残りを鞄へと戻すと、代わりに資料を取り出してソファに腰を下ろし。 )







 

  • No.4913 by ベル・ミラー  2025-04-11 00:23:44 





( 相手のその不安は正直な所己も感じている事だった。事件が事件である為身体にも心にも掛かる負担は相当なもので、普段の薬で湧き上がる様々な症状を綺麗に取り除けるとはとても思わないのだが。「__エバンズさん、此処はレイクウッドだよ。エバンズさんの事を確りとわかってる医者の居る所。…点滴とかの処置も出来るかもしれないし相談してみよう。」それでも駄目なものは駄目だ。結局規定の量だけを飲んだ姿を見て表情をまた僅か笑みに戻すと、相手が病院嫌いだと言う事は重々承知の上でアダムス医師の話を出し。__普段より少しだけ砂糖とミルクの量を多めに入れたコーヒーを資料を避ける様に相手の目前に置いては、隣に腰掛けつつ己もまた別の資料に目を通し出勤時間までの間、少しでも犯人逮捕に繋がる何かを得ようとして )




  • No.4914 by アルバート・エバンズ  2025-04-11 01:36:53 

 





( _____事件の発覚から1週間ほどが経っても、捜査線上に有力な容疑者が上がる事はなかった。カフェの同僚、学生時代からの友人、常連と、アンナを取り巻いていた人間関係を洗い出しているものの捜査に“進展は無い“というのが現時点の評価だろう。進展がないにも関わらず、この事件の捜査に長く身を投じていれば心身は徐々に蝕まれる。少し眠っても夜中に酷い発作を起こし、明け方近くまで其れが続く事もあった。不調は少しずつ日中にも影響を及ぼすようになっていて、薬の効きが悪いと感じるようにもなっていた。---現場検証の写真は必要が無い限りなるべく見返さないようにしていたものの、鑑識の説明を受ける時などはそうもいかない。現場に残された痕跡について追加で分かった事を説明に来た鑑識官と、写真を見ながら其の内容を聞く。光を失った緑色の瞳が自分を真っ直ぐ見据えているように思えて、血の気を失った白い肌に真っ赤な血が流れる様が思い出された気がして、平静を装う事に必死だった。説明を終えた鑑識官が部屋を出て行った後、思い出すなと自分に言い聞かせながら写真を封筒に戻す。けれど既に呼吸は浅くなり始めていて、椅子に腰を下ろすとなんとか其れを押さえつけようと目元を覆いつつ深く息を吐き出して。この時間は報告書を持って来る署員も多い。此処で発作を起こす訳にはいかないと、パソコンに目を向けて報告内容を追記しようとするのだが、視界は不安定に揺れていた。 )







 

  • No.4915 by ベル・ミラー  2025-04-11 08:52:41 





( ___殺害現場が限られた人しか来ない付近に監視カメラも無い辺鄙な場所、と言う事もまた捜査難航を助長させているのかもしれない。有力な証言を得る事が出来ない日が続き、それでもほんの僅かの切っ掛けで捜査が軌道に乗る事もあると今日もまた朝から聞き込みに出ていた。___署に戻って来たのはお昼過ぎ。成果は0だがもう一度アンナを取り巻く周辺の人達の証言を纏め直そうと思っての事。自身のデスクに立ち寄り上着を脱いでからその足で警部補執務室へ。何時もならノックの後直ぐに入室を許可する返事があるのだが今回はその声が返って来る事は無く、数秒待ってから中を覗き見る様に静かに扉を開け。デスクに座りパソコンの画面を見詰める相手の眉間には皺が深く刻まれ心做しか呼吸が安定していない。調子を崩したのは明らかで部屋に入り扉を閉めるや否や、軽くその背に掌を宛てがい。「…最後に薬飲んだの何時?」パッと見、デスク付近に薬も無いし足元のゴミ箱に空のシートが捨てられている気配も無い。相手の事だから周りに怪しまれない様にと細心の注意を払いゴミを別の場所に捨てた可能性もあるが。背にあてた手を軽く上下に動かす事で少しでも落ち着く事が出来るならと )




  • No.4916 by アルバート・エバンズ  2025-04-11 12:25:17 

 





( 扉が開いた事で僅かに身構えたものの入って来たのは捜査に出ていた相手だった。目元を覆い、押さえ付けるようにゆっくりと呼吸を繰り返す。「…朝、2錠飲んだきりだ、」決められた量を決められた時間に飲んだ以外は服用していないと答えて。---不意に、外で救急車のサイレンの音が響いた。署の近くの道を通過しただけ、それだけの事だったが不安定な今はその音が記憶に直結してしまった。自分がどうする事も出来ずに血の海に立ち尽くす中、要請を受けて現場に急行したのであろうパトカーや救急車のサイレンの音が、遠くで幾つも響いていたのだ。その光景が鮮明にフラッシュバックし、喉の奥が詰まるような閉塞感を覚えた。その時に感じた恐怖が、絶望が、血の色と共に押し寄せる。「_____っ、は…ッあ、……っ、」目元を覆ったまま、途端に不規則になった呼吸は肺に酸素を届けない。鳩尾の痛みが強まり、ワイシャツを握りしめたまま意味を為さなくなった呼吸を喘ぐように繰り返すこととなり。 )







 

  • No.4917 by ベル・ミラー  2025-04-11 18:18:32 





( 相手の返事に腕時計に視線を落とす。前回の服用から既に十分な時間は経っていて今飲んでも問題無いと判断すれば相手の背から手を離し鞄の中にあるだろう処方箋の袋を取ろうとしたのだが。__遠くに救急車のサイレンの音が聞こえ署の近くの道を通過したのだろう、音が大きくなり再び遠く消えていったのを鼓膜が当たり前に拾った時、相手の呼吸音が変わった。ハッとして顔を向けると先程までの狂いそうなのを辛うじて抑え込めていた呼吸とは違い、肺まで確りと酸素が届いていない、喉の奥で引っ掛かる様な息遣いの相手がその苦しさと鳩尾の痛みに耐える様にシャツを握り締めていて。浅い呼吸に混じり喘ぐ様な声が漏れるこの状態ではとても錠剤を飲み込む事など出来ないだろう。先ずは少しでも呼吸のペースを取り戻し、薬を飲む事が出来る所まで回復しなければならない。この時間帯、署員が何時この部屋の扉をノックしても可笑しくは無い状況もまた焦燥が募るもので。過去の思い出したくない記憶が強制的に呼び起こされているのならば、塗り替える切っ掛けが必要だ。徐にポケットからスマートフォンを取り出し開いたのはアルバムのフォルダー。何時かの日、相手と共に訪れた陽の光が反射しキラキラと輝く青い海を撮影した動画を流すと、それを相手の前に置き。「…ほら、見て。海綺麗だったよね?少し肌寒かったけど、ちゃんと潮の匂いもした。…覚えてるでしょ?」波が寄せては返す一定の音が静かに部屋に流れる中、相手の背を擦りながら、血に濡れた記憶では無い別を思い出せる様にゆっくりと話し掛けて )




  • No.4918 by アルバート・エバンズ  2025-04-13 22:41:28 

 




( あの日鳴り響いていたサイレンの音と、目の前に広がる絶望的な光景。身体の奥から恐怖が湧き上がってくるような感覚を覚える中、“違う音”が記憶の波の中に挟み込まれる。寄せては返す波の音は、辺りが血の海と化した教室では聞き得ないもの。手繰り寄せられる記憶は、赤ではなく穏やかな青に近い色の筈だ。目元を覆っていた事もあり、相手のスマートフォンの画面に流れる映像は目にしていなかったものの、波の音はフラッシュバックした記憶を徐々に追いやり、別の記憶を齎した。浅くなった呼吸はそれ以上苦しげなものになる事はなく、落ち着けるように浅く繰り返されるばかり。ややして上げた顔には汗こそ滲んでいるものの、其の瞳に過去に支配された暗い影は落ちておらず「______大丈夫だ、…覚えてる、」と小さく答えて。鳩尾の痛みは完全には引いていなかったものの、鞄から薬を取り出すと僅かに震える指先で錠剤を取り出し水で流し込んで。 )







 

  • No.4919 by ベル・ミラー  2025-04-14 00:18:50 





( 相手の背中を擦りながらどうにか意識を別の所へ、と語り掛ける事数分か。顔を上げたその表情に倦怠感の様な色こそ滲んでいるものの先程までの酷い発作は治まっているのが確認出来れば安堵を胸に落とし薬を飲む姿を一瞥し。けれど100%の安堵に支配された訳では無いのが正直な所。本来調子が悪い時でも救急車のサイレンで意識が持っていかれる事など無かった筈だ。それ程までに今の相手は心身共にギリギリの…もしかしたら既にそのギリギリすらも通り越した所に居るのかもしれない。発作に加えて痛むのだろう、鳩尾付近を押さえる仕草も此処数日間で何度も目撃した。動画を終わらせスマートフォンをポケットに戻した後、再度腕時計に視線を落としてから「…エバンズさん、もう一度周辺の聞き込みに行こう。」と提示したのは、この時間、此処に居れば多くの署員が報告書の確認やら何やらで出入りして来る、そうなれば不調を勘づかれる可能性があると思っての事で。___署を出て、相手の座る助手席側の窓を少し開け風の通りを良くしてから車を走らせる。真新しいミネラルウォーターのペットボトルは相手が何時飲む事があっても良い様にドリンクホルダーに欠かさない。アンナの職場であるカフェに続く一本道、事故か何かでもあったのか、今日は何故か車通りが多く普段以上に進みが遅かった。やがて赤信号でも無いのに前方車が完全に停車し、己の車も後続車も次々と停車し完全なる渋滞が出来上がる中、運転席側の窓も少し開けたタイミングで何処かの車が大きく、長く響くクラクションを鳴らした。そんな事をしたって渋滞なのだから車は動かないのだと内心溜め息を吐きながら反応する様に小さく肩を竦めて )




  • No.4920 by アルバート・エバンズ  2025-04-14 00:38:26 

 





( 調子が良くない中、執務室に居て署員たちと幾度と顔を合わせる事は避けたいという思いもあった為、相手が聞き込みの提案をして来た事には素直に同意を示して。重たい倦怠感を抱えつつ、少し背凭れを倒して窓の外へと視線を向ける。車の進みが徐々に遅くなり、殆ど進まなくなった事で正面へと視線を向けると、赤いランプがかなり先まで続いているのが分かった。「…この道で渋滞は厄介だな、」抜ける道が無いため、渋滞の解消を待つしかないと思えば溜息と共にそう告げて。再び視線を窓に戻した時、長いクラクションの音が響き思わず肩が跳ねた。それと同時に、ほぼ強制的に事件の記憶が引き摺り出されるような感覚。先ほど執務室での発作からそう時間が経っていない上、安定剤も服用したというのに。何度も過呼吸の症状が起きれば当然身体にも大きな負担が掛かる。先ほどよりも浅くなった呼吸は戻るための糸口を見つけられず、更には身体の痛みも先ほどより強い。背凭れから身体を起こし前のめりになるも、酸欠の所為で目の前は真っ白だった。「……っ、…く、ぁ゛…っは、」自分の意思も関係なく脳裏に鮮明に蘇る記憶。銃声が耳にこびり着き、フラッシュバックが直ぐに止む事はなく。 )







 

  • No.4921 by ベル・ミラー  2025-04-14 01:19:51 





( 何処の誰が鳴らしたクラクションかは知らないが渋滞が困るのは捜査に出ている此方とて同じ事なのだと肩を竦めたその直後、隣に座る相手の肩が小さく跳ねたのと同時に先程執務室で起きた状態と同じ…否、それよりも酷く感じられる浅く狂った呼吸を繰り返す姿があれば思わず目を見開く。このフラッシュバックの発作が何によって誘発されたものか、それが数秒前のクラクションであると直ぐに察したものの、今の相手の状態では何が引き金となるかは未だ読めない。響くその音が過去の銃声やもしかしたら現場に駆け付ける警察車両が鳴らした音に繋がってしまったのかもしれない。「っ、落ち着いて、大丈夫だから…!」前屈みになり身体を丸める様に鳩尾の痛みに耐え、発作に苦しむ相手に片手を伸ばし肩を擦るのが精一杯なのは今運転中と言う最悪の状況だから。おまけに抜ける道の無い中での渋滞。アクセルから足を離し相手を抱き締める事も、こんな道の真ん中に車を完全に停車させる事も出来ない。前を見、進みを確認しなければ事故に繋がる可能性もあるし下手すれば後続車に次なるクラクションを鳴らされる可能性もある。為す術の無い四面楚歌な状況に焦りばかりが募り、思わずハンドルを握る片手が小さく震えた。早くこの渋滞を抜けて何処かに車を停めたいのに、1人苦しむ相手を抱き締め呼吸を戻す手助けをしたいのに。「何も起きてない、さっきのは事件とは全く関係の無い音で、急に鳴ったからエバンズさんは少しビックリしちゃっただけ。…だからねっ、大丈夫なんだよ、」時折前方を確認しながら何時の間にか震えていた手で相手の肩を擦り続け、記憶にある悪い音じゃないのだと、大丈夫なのだと、声を掛け続けるのだがそんな簡単に落ち着く事が無いのも知っている。手の震えに釣られる様に徐々に言葉にも震えが混じり、焦りとは別に恐怖も生まれる中、それでも一向に解消されない渋滞はまるでそれすらも意思を持ち、嘲笑いながら相手を苦しめる為に送り込まれた何かの様にすら感じてしまい )




  • No.4922 by アルバート・エバンズ  2025-04-14 01:59:36 

 




( 呼吸を元のペースに戻す為のきっかけも無く、浅い呼吸がただ苦しい。身体が震えるのを抑える事が出来ず、動かない車の中でどれ程苦しんだか。“今”を映さない瞳にも、フロントガラスの向こうの赤いランプの光は届き、それが血濡れた記憶をより鮮明にさせた。「______っ、セシ、リア…ッ、あ゛、はぁ…っ、」身動きの取れない車内で譫言のように何度も妹の名前を呼び、襲い来る記憶の波に耐える時間が数十分は続き、漸く此処が車内だと認識出来るまでに戻ったものの意識はまだぼんやりとしていた。酷く汗を掻いた身体は鉛のように重たく感じられ、目の前で起きているかのような過去の記憶を鮮明に繰り返した所為で心は不安定になっていた。些細な音が記憶を呼び覚まし、耐え難い苦痛を齎す今の状況はあまりにも負担が大きい。此の苦痛を繰り返したくない一心で、処方薬へと手が伸びる。先ほど飲んだばかりの発作止めと、2回分の鎮痛剤。明らかに過剰摂取なのだが、この苦痛をこれ以上繰り返したくなかった。今この瞬間、苦痛が抑えられるなら後で苦しむ事になっても構わないとさえ思ったのだ。相手が運転中で此方に気付かない、或いは気付いても直ぐには止められない状況下で薬を水で流し込むと、襟元を緩めて背凭れへと身体を預けて。 )







 

  • No.4923 by ベル・ミラー  2025-04-14 13:05:37 





( 狭い車内に相手の苦しみに喘ぐ呼吸と、繰り返される“セシリア”を呼ぶ声が広がる。助けられなかった事を懺悔する様に何度も何度も譫言の様に繰り返される彼女の名前は、余りに悲痛な想いを纏っていて耳を塞ぎたくなる程に心を乱される。視界が滲んだのを唇を噛み締め、ハンドルを強く握る事で抑え込むと、そこで漸く前方車両が緩やかに動き始め「…もう抜けられるからね。」と、一声掛けて車を発進させ。前方を見詰めある程度の車間距離を保ち運転をしていた為、相手の手が水のペットボトルに伸びた時にはもう既に何もかもが遅かった。取り出された薬の量も過剰で、それを飲んでも良いだけの時間は未だ経っていない。けれど……制止の言葉は音にならなかった。仮に車が停まっていたとして、それでも薬を飲むなと言えただろうか。署内でも、車内でも、あれだけ苦しみ、それからどうしても逃れたいと言う相手の気持ちがまるで流れ込む様に伝わってしまった。後に来る副作用の怖さなど、考えられない程に苦しかった筈だ。奥歯を噛み締め、“見なかった事”を決めた心は重く揺れる。___やがて一本道を抜けた先にあるカフェが見えて来たのだがスピードを緩める事はしなかった。犯人の足取りが掴めず捜査が難航している事は百も承知なのだが、私情だなんだと言われても今優先すべき事はカフェに聞き込みに行く事では無い。「__エバンズさん、降りて。」車を停めた場所は病院の駐車場。未だ過呼吸や身体に纏わりつく痛みが尾を引く倦怠感が続いているだろう相手に真剣な表情でそう告げると、自身が先に降りた後に助手席側に回り扉を開ける事で促して )




  • No.4924 by アルバート・エバンズ  2025-04-14 15:23:26 

 





( 眠っていた訳では無かったが、一瞬意識が飛んでいたのだろうか。普段であれば相手が目的地を外れ病院へと向かっている事には道を見て目敏く気付く筈だったが、今日ばかりは相手が目的地であるカフェを素通りした事に気付けなかった。気付いた時には既に車は停まっていて、助手席の扉が開く。其処でようやく、見慣れたレイクウッド総合病院の駐車場に居る事を理解するのだ。見慣れて居るとは言え、レイクウッドに戻ってから病院に来るのは初めてで、2年以上訪れて居ない事になるのだが。車を降りる事を拒絶しなかったのは、今は医者の助けが必要だと自分でも感じたからだろう。重たい身体を起こして外に出ると「______お前は捜査に戻れ、」とだけ伝える。相手まで巻き込んでこれ以上捜査に支障を来たす訳にはいかない、後は自分でなんとかすると。 )







 

  • No.4925 by ベル・ミラー  2025-04-14 16:20:47 





( 病院嫌いの相手の事、扉を開けたまま行く行かないの押し問答も覚悟していただけに拒否の言葉一つ飛んで来ず素直に車を降りた相手に一瞬だけ瞬くのだが。直ぐに、相手自身が病院を拒絶出来る程身体も心も安定していない自覚があるのだと思えば再び心は小さく痛み。助手席の扉を軽く閉め病院へと踏み出した右足が止まったのは、ある意味予想していた通りの事を言われたから。病院に用事があるのは相手で、己はあくまでも捜査実行するのがこの場合の最善だと言う事はわかっているが__「私も行きます。」間髪入れず口を着いたのは相手の意に背く同行を望むもの。「一緒に話を聞かせて下さい。もし検査や長く掛かる話し合いになるなら、確り捜査に戻るから、」今の相手の状態を見て医師はこの先どんな判断を下すのか、今回の事件解決までの間出来る処置はあるのか、聞きたい事は山ほどあるのだ。相手に何を言われた所で最初の話だけは聞くと貫けば、後に何を言われた所で聞かない振りをし、半ば強引に院内へと入る事として )




  • No.4926 by アルバート・エバンズ  2025-04-14 23:57:16 

 





( 付き添いは不要だと言っても相手が其れを受け入れる事はなく、結局半ば強引な形で相手と共に待合室へと向かう事となり。短い期間に二度も発作を起こした事で身体には重たい倦怠感が纏わりついて居た。身体の痛みも強く出ていたものの、流石に2倍量の鎮痛剤はよく効いたようで診察を待つ間にだいぶ楽になっていて。早く捜査に戻りきちんと事件と向き合わなければならないのに、余計な事に足を引っ張られている。自分が指揮を取っている事で事件解決の遅れに繋がる、という事だけは避けなければならないという焦燥感を抱えながら、名前が呼ばれると診察室へと向かい。主治医であるアダムス医師と直接顔を合わせるのは、彼が学会の為ワシントンに来ていた時以来だろう。 )







 

  • No.4927 by ベル・ミラー  2025-04-15 00:16:30 





アダムス医師



( 診察室の扉が開かれ相手と__付き添いで来たのだろうミラーの2人が入って来れば両方に視線を合わせ緩く微笑む。その笑みはもしかしたら患者に向ける医師としては何処か微妙な点において違和感のあるものだったかもしれないが、2人がまた一緒に居る姿を見る事は理由はどうであれ喜びと安堵に繋がるのだ。相手が戻って来た理由、その他諸々を根掘り葉掘り聞く事はせず『お久し振りですね。元気では無いから此処に来たのだと思いますが、調子はどうですか?』と、先ずはあくまでも医師として今日相手が受診した理由を問い。2年前の相手のカルテをパソコンの画面に出し、新たに症状として表に出る様になった“鳩尾付近の痛み”の事、“時折現れる脈の乱れ”が尚も続いているのか、ならばその頻度や強さの具合が果たしてどの様に変化しているのかを確かめなければならなかった )




  • No.4928 by アルバート・エバンズ  2025-04-15 00:35:09 

 





( 2年という月日の経過を感じさせない程に彼は変わっていない、というのが率直な印象だった。数ヶ月前にも罹ったような気さえする程に普段通りの彼に対して、多くを語る事はしなかった。「______フラッシュバックを起こす事が増えた。捜査に支障が出ないように、2週間で良い、強い薬を処方してくれ。」“何故”フラッシュバックを起こす事が増えたのか、自分が今どういう状況に身を置いているのか、本来伝えるべき詳細は口にする事なく、薬を強い物に変えて欲しいと。今起きている症状がかなり重く、容態が悪化していることも深くは言及しないまま、いつものように診察はするのだろうとネクタイを解き襟元を緩めて。「鎮痛剤も貰いたい、」と付け加えた事で、今は痛がる素振りを見せていないものの、痛みは未だに症状として顕著に出ている事が相手に伝わっただろう。 )







 

  • No.4929 by ベル・ミラー  2025-04-15 01:08:59 





アダムス医師



( “捜査に支障が出ない様に”と言う事は、相手は今此処レイクウッドで再び刑事としての日々を送って居るのだろう。生きる活力がそこにあるのなら相手は刑事で居続けるべきだと思う反面、沢山の事件に向き合い、数え切れない遺体を目にする日々がまた続く中での体調面の不安もあった。そんな中で相手が語ったのは詳細を省いた短い不調と、相変わらずの要望。そんな所ばかり以前から変わっていないと吐き出したくなる溜め息を飲み込み、診察をする事がわかっている手馴れた動作に『今処方している薬は、副作用が極力出ないギリギリの強さのものです。はいどうぞ、と直ぐに変えられるものではありません。__“何故”フラッシュバックが起きる頻度が増えたのか、心当たりはありますか?』今一度薬の説明をしつつ、その根源となる所の認識を確かめながら緩められた襟元から聴診器を入れ心音を静かに聞き。___今現在酷い心雑音は聞こえないが、少しばかり鼓動が早い。少し前に発作を起こし過呼吸の状態が暫く続いた可能性も示していて、聴診器を抜いた後は相手の腕を取り脈拍を図る。親指の腹に伝わる脈の動きは一定で、不整脈は無いと判断できるが相手の場合それが何時起きても可笑しくは無いストレスの掛かる中に居る事は確かで、今が大丈夫だからこの先も、と安心出来る訳では無い。加えて付け足された鎮痛剤の所望は痛みが消えていない事の証明だ。相手の腕から手を離し、状態を記録する為キーボードを叩いてから再び向き直ると『懸念している不整脈は今の段階では確認出来ません。けれど、ストレスの強く掛かる中に身を置き続ければ何時かそうなる危険性もある。…不整脈は心臓の病気に繋がる可能性が高い症状です。そうなる前に、働き方を見直すべきです。』真剣な眼差しで一つ一つ言葉にし、そうして最終的には矢張り仕事のストレスが大きく占めてくるものだから刑事を辞めろとまでは言わずとも、変えられる何かはある筈だと。『鎮痛剤は、今と同じものを二週間分出します。…痛みを自覚した最初の頃に比べて、強さや治まるまでの時間に変化はありましたか?』視界の端に映るミラーは少し俯き加減で話を聞いている為、確りとした表情を伺う事は出来ないが、大きな不安を心に秘めているのは確かだろう。相手に痛みの具合を確認しながらもまた違う一抹の不安を感じていて )




  • No.4930 by アルバート・エバンズ  2025-04-15 02:01:47 

 






( 当然と言えば当然だが、自身の“主治医”であるアダムスはワシントンの医者のように自分の答えた事に相槌を打ちものの数分で薬を処方する、という事はしなかった。此れが本来の診察なのだが、医者を相手に問答が続く事に妙な違和感を感じる程には、自分自身ワシントンでの生活に慣れていたのだろう。「…今追っている事件が、少し……“あの事件”と似ている点がある。」心当たり“しか”ないものの、其れを律儀に相手に説明していては、言われる事はただひとつ______その捜査に関わるな、だ。その確信があるからこそ、今を乗り切れるだけの情報を口にするという姑息な手段に出ざるを得なかった。「……働き方を見直した結果、レイクウッドに戻って来た。この事件が一段落したら、もう少し暇になる。」と、この捜査が終わるまでは休めない事を告げて。強い痛みに襲われると、息をする事さえ痛みに繋がりそうで呼吸が浅くなる。動けない程の痛みに苦しめられる事もある為、今と同じ鎮痛剤を2週間分では直ぐに市販のものに頼らなければならなくなるという不安があった。「……少し痛みが強い。薬を強められないか、」痛みの程度が増大している事にはあまり触れず、もう少し効果が強い物をと食い下がり。______相手がふとした瞬間に不安げな表情を浮かべる事が増えた事には気付いていた。自分が居ない間に起きた事件が未だ尾を引いているのだろうと思ったものの、今回は人質が関係するような事件ではない。原因は定かではないが、今回の事件や自分が不安定な事も関係している可能性は十分に考えられた。「……ミラー、先に現場に行ってろ。もう少し掛かりそうだ、」と、未だ診察が長引く為現場に向かっておいて欲しいと告げ。 )







 

  • No.4931 by ベル・ミラー  2025-04-15 13:27:49 





アダムス医師



( 相手が口にした“心当たり”の事件内容までは当然知らないし、刑事である相手が事件の詳細を事細かく一般人に話せ無い事もまた理解はしていた。だからこそ深く追求する事はしないものの“少し”であれ相手を最も苦しめる全ての原因となった“あの事件”と似ているのならば掛かる負荷は相当なものの筈だ。思わず表情が険しくなり何かを考える様な間が僅か空いた。『…捜査を降りる事は?』と、静かな声で問い掛けたものの、返って来る返事は100%確信を持って“無い”である事はわかっている。だからこそ『今回発作や痛みが増えた原因は、貴方自身も“心当たり”として感じている通りでしょう。…原因がわかっているのならば、それから遠い所に身を置き少しでも負荷が掛からない様にする事が一番です。__とは言え貴方が刑事であり続ける理由を、捜査を第一に考える事を辞めない事も知っています。』と、言葉を続けるも今度は溜め息を飲み込む事はせず。此処に戻って来た事は大変喜ばしい事、けれど問題は“今”請け負ってる事件だ。終われば暇になるとか言う問題では無い筈なのに。今一度隠す事もしない深い溜め息で再び考え込むと、ややして『……これ以上強い薬は服用した後が怖い。けれど痛みで日常生活をスムーズにおくる事が出来ないのは本末転倒です。…朝、病院に寄る時間を30分程作れますか?』1つの案を進ませる為の確認を。__相手から現場に戻れと言われたミラーは一瞬躊躇う様な素振りを見せたものの、従う様に頷くと「…わかりました。何かあれば連絡下さい。」と答え席を立ち。アダムス医師に深く頭を下げてから診察室を出、言われた通りカフェでの聞き込みと事件現場となった場所に行く為車を走らせて )




  • No.4932 by アルバート・エバンズ  2025-04-15 14:08:29 

 






( 捜査はそう簡単に放り出せるものではない、ましてや自分の為の勝手な都合で降りる事など。相手の問いには首を振る事でその意思が無い事を伝えて。セシリアと瓜二つの女性が被害者となった今回の事件、写真を見てあの日見た光景が鮮明に思い出されるのは当然だ。けれどそれだけに留まらず、些細なきっかけで当時の記憶が首を擡げる事が増えたのはそれだけ強いストレスが掛かっていると言う事か。「……善処はするが、朝早くから捜査に出ている事もある。毎朝は厳しい、」相手が譲歩してくれた以上なるべく従おうという気はあるのだが、毎朝時間を作るのが現実的に可能かどうかは怪しい所だった。時間が取れる日は通院する事を了承しつつ、ミラーが指示通り診察室を出て行った事を確認すると再び相手に向き合う。「______あいつにも負担を掛けている事は間違いない。ミラーの前で体調を崩す事がかなり増えている。…共感性が高いあいつの事だ、あまり側に置き過ぎない方が良いとは思っているんだが、」と、今感じている懸念を相手に告げて。---この時は未だ、ミラーの事を考えられるだけの余裕があったと言えるだろう。更に追い込まれ体調も悪化して行く中で、ミラーさえもが“きっかけ”になり苦しむ事になるとは、今は知る由も無い。 )







 

  • No.4933 by ベル・ミラー  2025-04-15 20:38:27 





アダムス医師



( 相手の返事に再び考え込む事数十秒。『__痛みが出た時に飲む錠剤をこれ以上強める事は出来ませんが、点滴と言う手段があります。フラッシュバックや発作を起きなくさせる効果は勿論無いですし、そこから引き起こされる痛みを全て抑えてくれる訳でも無い。ただ、慢性的な痛みはかなり軽減出来て、錠剤よりも持続時間が長いのは間違い無い。』と、相手の望む今より強い鎮静剤を出す代わりの提案をしつつも、『ですが、その時の体調や免疫力の低下具合などで、点滴後に副作用が出る事もあります。30分程は万が一に備えて処置室に居てもらうのが絶対条件になりますが、』点滴を終えたからと言って直ぐに帰す事は出来ず、全ての時間を合わせれば結果的に1時間近くは自由を拘束する事に繋がると。『朝が難しい時は、夜の診察が終わった後でも構いません。勿論これは特例なので、口外されるのは困りますが__こうでも言わなければ病院に来る事は疎か、鎮痛剤の過剰摂取をされる可能性も0では無さそうですからね。』相手の仕事上、病院の診察時間に合わせられない事があるのは理解出来る。ただの医師と患者と言う関係で、相手だけを特別に扱う事は本来出来ないしやってはいけないのだが、相手の性格を思えば致し方ないと、結果的に甘い選択肢を、珍しく態とらしい表情と皮肉で投げて。___話が居なくなったミラーの調子に移れば再び表情は医師のそれに戻る。彼女の共感性の高さは何度か顔を合わせ話をする中で感じていて、相手が懸念する理由もわかるのだが。『確かに貴方が苦しむ姿を見る事で、同じ様に心を痛めるのは間違い無いでしょう。近くに居る貴方が一番わかっている通り、彼女は優しい女性ですからね。…けれど、見えない所で貴方が苦しんでいるのではないかと常に不安に思う事もまた、ミラーさんにとっては心を大きく磨り減らす事に繋がるのではないでしょうか。一概に何方が良いかを選ぶ事は出来ないですが、あくまでいち医者が客観的に見た意見を言うのならば…距離を置き過ぎるべきでは無いと思います。』相手がワシントンに居た約2年程、相手を想い電話を掛けて来たあの時のミラーの不安そうに揺れる声は未だに覚えている。お互いの心の為に、取り返しが付かない程に離れる決断をするのは避けるべきだと。けれど相手同様にこの先起きる事を知る由もないからこそのアドバイスだった。まさか当たり前に相手の近くに居たミラーが__緑の瞳が、恐怖の、拒絶の、過去を甦らせる切っ掛けになるなんて。相手が拘束時間を許可し、時間外の診察と処置を望むのならば、その日からどうにか点滴や安定剤でやり過ごす日々を送る事になるのだが、やがてその点滴や処方する薬の全てが効かなくなる程に強く重たいストレスが相手の身体にも心にも伸し掛る事となるのもそう遠くない話で )




  • No.4934 by アルバート・エバンズ  2025-04-16 10:40:25 

 





( 痛みを軽減し効果が長く続く点滴で処置をして貰えると言うのは有り難い話だった。慢性的に起きる痛みが落ち着くだけでも負担は減る。朝に時間が取れなければ夜の診療時間外でも“特例として”処置をして貰えるのであれば、なるべく時間を取ろうと頷いて。「…助かる。行く前には連絡を入れるようにする、」と口外しない事を約束した上で此方の“我儘”を受け入れこの捜査の期間中はサポートしてくれる事に対して礼を述べて。---自分が見えない所で1人苦しむ事に不安を抱え心を擦り減らす事に繋がる。相手の言う其の懸念は正にその通りだと思った。相手を巻き込まない為、無用な心配を掛けない為、距離を置く事は出来る。けれどその結果これまで以上に相手が不安に苛まれバランスを崩す可能性がある事も心配だった。「…もしもミラーが貴方に不安を吐露する事があれば、あまり不安にならないようにしてやってくれ。」ミラーの不安を増長しないように計らって欲しいと伝えて。---その後、時間を見ては点滴の処置をして貰い、治療を同時進行しながら捜査を続けたものの状況は悪い方へと堕ちていくばかりだった。眠る事が出来ず夜をソファーで、ワイングラスと共に過ごす事も増えた。聞き込みに行ったカフェで、彼女の姿を思い出して体調を崩し席で休ませて貰う事もあった。夜に打ってもらった薬の効果が切れる夕方頃に署で過ごす時間が最も気を張った。その日も薬が切れ掛けている事を感じながら、温かい飲み物で気を紛らわそうとマグカップを手に給湯室へと向かい。 )







 

  • No.4935 by ベル・ミラー  2025-04-16 13:30:29 





( ___相手が短期間の内にみるみる調子を崩し、回復の兆しが見えていない事は診察をするのに顔を合わせるアダムス医師も、捜査を共にし、今は同じ部屋で暮らしているミラーも当然気が付いていた。けれど長く効果を発揮してくれると思っていた薬が効かない以上出来る事は限られてしまうのだ。___その日は小雨が降り少し肌寒い天気だった。聞き込みを終えて署に戻って来たのは日が落ちた夕方近く。重たく纏わりつく疲労を少しでも回復する為休憩しようと給湯室で紅茶を淹れようとした正にその時。マグカップを片手に相手が入って来れば自然と顔はそちらに向き、此処に来た目的に気が付くと何時もと変わらず微笑み「…淹れるよ。」と、マグカップを受け取るべく片手を伸ばして )




  • No.4936 by アルバート・エバンズ  2025-04-17 02:29:38 

 






( 給湯室には明かりが点いていた。後ろ姿で中に居るのが相手だと分かり聞き込みの成果について尋ねようと思ったのだが、振り向いた相手に飲み物を淹れると言われれば「…悪いな、」とだけ答えつつマグカップを手渡して。相手と視線が重なり手が触れ合う_______謂わばよくある日常のひとコマ。それなのに、一瞬ぐらりと視界が揺らぎ、何かは分からない急な不安感が顔を覗かせた気がした。一瞬脳裏に過った“何か”を深追いするべきではないと、僅かな心の騒めきには気付かない振りをする。しかし確かな不安、恐れ、そんな類の感情が湧き起こった気がしたのだ。「…っ、……」一瞬の違和感は同時に痛みを引き連れて来て、ぎゅっと締め上げられるような痛みが走るとシンクに手を突きつつ深く息を吐き出す。少ししてやや痛みの波が治まると「…このまま捜査に進展がないと、来週ごろから人繰りが厳しくなる。…未解決にはしたくない、」と、捜査が長引く事による影響が出て来そうだと告げて。 )







 

  • No.4937 by ベル・ミラー  2025-04-17 13:32:07 





( 指先が触れ合うと同時に相手の持つマグカップが此方の手に移動する。それはこれまで何十回と数え切れない程にあった特別ではない当たり前の遣り取り。それなのに__此方を見る相手の碧眼の奥に“揺れ”が見えた気がして思わず動きが止まった。「…エバンズさん…?」思わず名を呼ぶも、その“揺れ”が何に対してのものか、どんな感情なのか具体的な事はわからずそれを確かめる前に相手は不調を訴えたものだから、シンクに手を付き痛みに耐えるその背中を軽く擦り。ややして険しい表情と共に告げられたのは今請け負っている捜査進展について。紅茶で良いかを確認し、己と相手の2つのマグカップにアールグレイのティーバッグを入れそこに沸かしたお湯を注ぎながら「それだけは絶対に駄目。」と、未解決だけは避けたいと同意を示し。「アンナさんの彼氏にも話を聞いたけど確りとしたアリバイがあるし、他の捜査線上にあがってる人達も同じ。…何か見落としがあるのか、それとも無差別な犯行だったのか__明日からはもう少し範囲を広げて聞き込みします。常連じゃなくてもカフェを訪れた事のある人は出来る限り探し出して。」ティーバッグから染み出る紅を真剣な表情で見詰めながら考えを巡らせる中でゆっくりとした口調の返答を。砂糖とミルクは相手に委ねる事とし、出来上がった紅茶を渡す為マグカップを差し出しつつ、「…少し落ち着いた?」と、痛みの具合を問い掛けて )




  • No.4938 by アルバート・エバンズ  2025-04-19 00:52:06 

 





( 一瞬感じた騒めきは長引く事はなく、引いていく波のように静かに消えた。相手の問いには問題ないと頷き、淹れてもらった紅茶を手に執務室へと戻ると再び捜査の記録を見返して。---夜に病院に行く時間を取る事が出来ないまま家へと戻り、ベッドへと入ったものの相変わらず眠る事は出来なかった。眠っている相手を起こさぬように布団を出てリビングに向かうと、ワインをグラスに注ぎソファに腰を下ろして。アルコールを摂取すれば、泥のように眠れるかもしれない。そんな淡い期待と共に、空が白み始める頃までリビングにいる事もあった。捜査を進展させなければならないという焦りと、これ以上この事件に関わりたくないと拒む心の狭間で必死に立っている。間接照明を灯すと、何か少しでも手がかりになる事を見つけられないかと、鞄から資料を取り出してそれを読み始めて。 )







 

  • No.4939 by ベル・ミラー  2025-04-19 01:49:13 





( ___相手がベッドを出た事に気が付かぬまま暫くは落ち着いた寝息を立て眠っていたのだが。時間にして凡そ1時間程が経ってからか、深く落ちていた意識が何かの拍子に浮かび上がり浅い眠りを引き連れたそこから更に数十分後。ふ、と目が覚め瞼を持ち上げると寝室はまだ暗く布団から出ていた片足が冷たい。今何時だろうか、ほんやりとした頭でそんな事を思い片足を布団の中にしまい込んだ所でベッドの広さを感じた。それは隣に相手が眠っていない事を表していて、此処数週間は気が付けば同じベッドに相手の姿が無い事が多々あった。ベランダで煙草を吸っている事もあれば、リビングでお酒を飲んでいる事もある。何もせずただ暗い部屋の中ソファに腰を下ろしたままじっと動かないでいる姿を見た事もあった。その度に胸が張り裂けそうな痛みを覚えるのだ。静かに手を伸ばし横のシーツに触れる。ひんやりとしたその生地は相手が寝室を出ていってからある程度の時間が経った事を示していて、ゆっくりと上半身を起こし薄い掛け布団を手にすると寝室を出。__リビングには間接照明が灯されていて、ソファに座る相手を照らしている。テーブルに置かれたワインが注がれたグラスを一瞥してから「……晩酌にしては随分遅い時間だね。」と、驚かせないように静かに声を掛けつつ隣に腰掛け、手にしていた掛け布団を相手の足に掛けて。その際距離の近い位置で相手に微笑みかける。緑の瞳は相手の目にどう映ったか )




  • No.4940 by アルバート・エバンズ  2025-04-19 03:17:16 

 





( 資料をいくら見返しても新しい何かに気付く事はなく、事実をただなぞるばかり。現場の状況、被害者の外傷と遺留品、交友関係_______気付かない内にかなり没頭していたらしい。小さな物音に顔を上げると、目を覚ましたのであろう相手が立っていて、最後に時計を見てから既に1時間程が経過していた。「あぁ、…眠れなくてな、」と答えつつ、目元を解す。眠気は微かにあるのだが、眠れない。足元に掛けられた掛け布団の温かさで、少し身体が冷えていた事に気付く。ふと重なった視線______薄暗い暗がりの中で、相手の緑色の瞳が光を受けて煌めき、揺れた。相手の瞳は穏やかな色を宿していた筈だ。けれど、一瞬同じ色をした______妹の瞳が重なる。其れは楽しそうに笑った、優しい色をした瞳。相手と視線が絡んだまま、相手の瞳のその向こうにある色を見た。しかし其れは長くは続かず、次の瞬間には光を失った暗い色がフラッシュバックしていた。「______っ、」相手を見つめていた褪せた碧眼には一瞬にして恐怖が浮かび、思わず身体を折り曲げ襲い来る記憶の波と痛みに耐える。鳩尾を握り締め身体を俯かせ、相手と再び視線を重ねる事が出来なかった。呼吸はものの数秒で浅く上擦ったものに変わる。「……ッ、やめてくれ、…っぁ゛、あ!」一瞬にして恐怖に支配され、そこから堕ちるのは早かった。点滴の処置が出来なかった事も手伝って息をするのも辛い程の痛みに襲われ、酷い発作を引き起こしていて。 )







 

  • No.4941 by ベル・ミラー  2025-04-19 11:15:11 





蜂蜜いれたホットミルクでも飲んでみる?身体が暖まって眠れるかもしれないよ。
( 眠れる時に確り__とは言え眠れないからこうして事件の資料を読み漁っているのだとは思うが、夜中に頭を使い脳を活性化させてしまえば来る眠気も来ない筈だとワインでは無い別の飲み物の提案をしつつ、片手でさり気無く広げられた資料を纏め。___「…ッ、?」重なっていた相手の瞳の奥に“揺らぎ”が見えた気がして息を飲む。その揺らぎは給湯室で見たそれと同じもの。そうしてものの数秒でその揺らぎは“恐怖”の色を纏ったものだから、思わず大きく目を見開く事となり。何に対する恐怖なのかわからなかった。鳩尾を握り締め痛みを訴える相手の呼吸は今までの正常なものでは無く浅く狂いを見せていて、発作とフラッシュバックを起こしている。ただ、フラッシュバックに繋がりそうな音も何も無かった筈なのだ。一瞬様々な考えが頭を巡るも、今はそれ所じゃないと直ぐに相手の足に掛けていた掛け布団を今度は震えるその身体を包む様に背後から肩に掛ける。「っ此方見て!ほら、何も無い。…ね?」その状態で此方に凭れ掛からせるのに目前から抱き竦めるのだが。“緑の瞳”が原因で相手がフラッシュバックを起こした事に気が付いていない為、どうにか意識を今に、少しでも落ち着いて貰おうとする行動は必然的に今まで同様相手の顔を持ち上げ瞳同士を重ねると言うそれで。__怖い事は何も無いのだと伝えながら、今相手が最も怖いと感じているものを見せ続けている。…ある意味皮肉な話だろう )




  • No.4942 by アルバート・エバンズ  2025-04-21 04:25:00 

 






( 苦しげな呼吸を繰り返し、痛みに耐える。身体は自分の意思とは裏腹に震え、まるで目の前で起きている出来事かのように鮮明に再生される記憶を止める事など出来なかった。これまでは過去に堕ちてしまった時、酷いフラッシュバックに苛まれた時、相手と視線を重ねる事が今に戻る手助けになった。その色を妹の瞳だと錯覚する事で、幾らか落ち着く事があった。_____けれど、今はどうだろうか。相手の緑色の瞳を見て思い出されるのは、光を失い虚ろげに此方に向けられた瞳。それは恐らく、アンナの遺体を見た事で鮮明な記憶として上書きされている事が大きな原因のひとつだったが、美しい色の瞳は“恐ろしい記憶”に直結した。「…っあ、…は、ぁ゛……ッ、」相手と重なる碧眼には明らかな恐怖と涙が浮かんでいるものの、首を小さく振るばかりで恐怖が言葉になる事はなかった。思い出してしまった記憶が、彼女の白い手が伸ばされる光景が押し寄せて呼吸はより喘ぐような意味を成さないものに変わっていき、熱を失った指先は冷え始めていて。 )






 

  • No.4943 by ベル・ミラー  2025-04-21 13:35:02 





( 重なる碧眼から恐怖の色が消える事も、その身体から震えが消える事も無い。掛け布団の上から懸命に背を擦るが相手の発作は治まらず直ぐ近くで聞こえる苦しげな息遣いが落ち着く事も無いのだ。アダムス医師の提案によって点滴による治療を受けている事は勿論知っていたし、それが相手を少しでも楽にすると思っていたのに、実際は殆ど効果が見られず__否、効果はあるが相手に掛かるストレスがそれを上回っているのだろう、悪い方悪い方に堕ちるばかり。悪夢に魘される云々の前に、眠る事すら出来なくなっている。__何も出来ない、それが一番苦しかった。嫌だと首を振りまるで幼子の様に懸命に拒絶を表す相手の涙に濡れる瞳は心を締め付けるのだ。同調する様に緑の瞳にもまた涙が浮かび、俯く事で重なっていた視線が漸く外れた。出来る事は痛みを取る事でも、苦しみを和らげる事でも無い。ただこの小さな明かりだけが灯る薄暗い部屋の中、物理的な寒さを感じない様にと相手の背中を擦る事だけ。“無力”と言う言葉がピッタリの状況ではないか。「……痛いね、…苦しいね…っ、」相手の感じる絶望を言葉にし肯定しながら俯いたまま、片手で背を擦り、もう片手は鳩尾を握り締める相手の手に重ねる。酸素が上手く回らないせいか細く骨張った指先は冷たく小さく震えていて、誰か助けてあげてと叫び出したくなるし、このまま何も感じぬよう意識を失って欲しいとさえ思う。___ただ、相手の瞳に唐突に滲む恐怖の色だけは何故かある種の疑念を植えて残ったのは確かで。ふ、と遡った記憶の1日。給湯室で相手と顔を合わせた時も、その後捜査の話をしに執務室を訪れた時も、何気無い会話の中で視線が絡んだ時も、相手の瞳には大小あれ恐怖を纏った揺らぎが見えていた。背を擦る手が止まり、息を飲む。100%では無い、けれど可能性としては0では無い浮かんでしまったその考えは身体を硬直させ顔を上げる事を躊躇わせるには十分で )




  • No.4944 by アルバート・エバンズ  2025-04-22 12:21:42 

 






( 相手と重なっていた視線が外れ、背中を摩られながら懸命に苦しい呼吸を繰り返した。相手の瞳の色が見えなくなった事で強制的に引き出されていた記憶は少しずつ薄れ、軈て自分が今居る場所を理解すると、背中を摩る相手の手の動きが糸口となり時間を掛けながらも酷い過呼吸は徐々に落ち着きを見せて。______後に残るのは倦怠感。汗ばんだ身体は重たい疲労に押し潰されそうだった。発作の症状が落ち着いてからも何処か朦朧として相手と視線が重なる事のないまま、少しして糸が切れるようにソファで眠りに落ちていて。酷い発作は、束の間の眠りの後に痛みをもたらした。数時間意識を失うようにして眠ったものの、痛みに意識を引き戻される。身体が辛い状態が続くと精神面にも影響が出るもので、もう捜査に関わりたくない、全てを放棄して逃げ出してしまいたいという気持ちに苛まれていた。痛み止めを飲もうとゆっくり身体を起こし、サイドテーブルに掴まりながら立ち上がり。 )






 

  • No.4945 by ベル・ミラー  2025-04-22 14:00:20 





( ___狂った呼吸を繰り返し、涙ながらに痛みに耐えた相手が意識を失う様にして眠りに落ちたのは果たしてどれ程の時間が経ってからだったのか。テーブルの上のグラスをシンクに置き、捜査書類を相手の鞄に戻してからソファに横になるその身体に起こさぬ様静かに掛け布団を掛ける。暖色の間接照明にぼんやりと照らされた相手の顔は青白く、長い睫毛の下の碧眼は閉じられた瞼により見えない。小さな小さな疑念の種は確かに心の奥底に植え付けられ、相手の顔を見詰める緑眼に揺らぎがチラつく。___ベッドに戻る事も無く床に座り込み、ソファの端に頭を乗せる体勢で何時しか浅い眠りに落ちていた。掛け布団が擦れる音と、直ぐ側で人の動く気配を感じ意識が浮上すればゆっくりと頭を上げ。果たしてそこには目を覚ました相手の姿があり、身体を支える様にサイドテーブルに掴まり立っている。「……何取る?」少しの沈黙を置いてから驚かさない様に抑えた声量でそう問い掛け、暗に座ってて欲しいと。その際視線を合わせなかったのは胸の奥で燻る何かを認識しているからか、無意識か。それは自身もわからぬ咄嗟の行動で )




  • No.4946 by アルバート・エバンズ  2025-04-23 03:02:58 

 





( 不意に相手の声が聞こえて其方に視線を向けたものの、相手と視線が絡む事は無かった。かと言って相手が敢えて目を合わせないようにしているような不自然さも感じず「……鎮痛剤を貰えるか、」と素直に答えるとソファに座り直し。もう少し薬を増やしてでも楽になりたいと思う程に調子は良くない。朝方アダムス医師に連絡を入れる事を考えつつ、相手が錠剤と水を持って来てくれた事に対して礼を言い其れを飲み込んで。浅い眠りを繰り返すだけで頻繁に目を覚ます事を思えば、ベッドに戻る気にはならなかった。「…悪いが、今日は此処で休む。お前はベッドで休め、」と告げて。 )






 

  • No.4947 by ベル・ミラー  2025-04-23 08:42:30 





( 鎮痛剤を飲み込む相手の横顔を控え目に見詰めつつ、謝罪と共に紡がれた眠る場所の指定には素直に首を縦に動かす事が出来なかった。少しだけ下げた視線と共に沈黙を挟む事数秒。「__私も此処で寝るって言ったら?、」視線はソファでは無くその下の床。その控え目な聞き方は初めて相手と共に“お泊まり”をした時に少しだけ似ていただろうか。最もその時同じ場所で眠りはしなかったのだが。そうして思い出すのはもうひと場面。何時だったか、たった一度だけ相手と共に床に横になり眠った事があった。行儀は悪かったがあの時はあれで良かったとさえ思った気持ちはまだ覚えている。___だが、今回はどうだろうか。相手の返事次第では1人で眠る事になりそうだと、何方の返事が来た所でこれ以上は何も言わず頷く事を決めれば、ぼんやりとした間接照明の中で立ったまま相手の言葉を待って )




  • No.4948 by アルバート・エバンズ  2025-04-24 02:01:08 

 





( “此処”というのはソファの下、床の事を指しているのだろう。控えめな問いに少し困ったような表情を浮かべた後「_____身体を冷やす。今日はベッドで休め、明日も忙しくなる。」と告げて。床で眠ったのでは身体が冷えるだろう、此の所の捜査も思わしく進まない事で相手にも少なからず疲労が溜まっている筈だ。ゆっくり休むようにと伝えて、ベッドへと促して。痛みが少しでも落ち着く事を願いながらソファの上に身体を横たえ、目を閉じて。---どれ程の時間眠れたかは自分でも分からなかったが、うとうとと浅い眠りに落ちては目を覚まして暗闇の中でただ横になっている、という事を繰り返している内に朝になっていた。痛みは少し抑えられているものの、昨晩の発作が響いているのだろう。身体は重たく感じられ、執務室での事務作業ならまだしも、捜査の為に現場に赴く事は困難に思えた。ゆっくりと息を吐き出し、ソファに身体を起こすと朝の薬を取り出して。 )






 

  • No.4949 by ベル・ミラー  2025-04-24 11:05:48 





( 返って来た返事はNOなればそれ以上は何も言わず促されるまま寝室に行き。ベッドの真ん中に寝る事をせず端に身を横たえたのは何時もの感覚があるからか。それとももしかしたら夜中目を覚ました相手が戻って来る可能性があると思ったからか。伸ばした手で相手の居ない横のシーツを軽く撫でながら、掌に感じる冷たさと共に何時しか眠りに落ちていて。___朝方、目を覚まし顔を洗ってからやる一番最初の事はコーヒーを淹れる事。何だか無性に苦いのが飲みたくて、泥の様に濃いコーヒーに砂糖もミルクも入れる事無くキッチンで立ったまま飲み進め。ソファに横になっていた相手が身動ぎをした事で視線は其方に流れる。薬を取り出す動作を一瞥してからグラスに水道水を注ぐと静かに歩み寄り。「…おはようございます。」朝の挨拶と共にグラスを手渡した後、再びキッチンに戻ると胃に負担が掛からぬ様次は少し薄めに淹れたコーヒーをソファ前のテーブルに置き。「__仕事行く前に病院寄ろう。1人で良いって言うなら、私は先に聞き込みしてるから。」此処数日、相手の様子は目に見えて悪い方に急下降していた。だからこそ出す病院の話で、捜査に穴を開ける事を良しとしないそこから拒否するのならば、己は付き添わないと道を作って )




  • No.4950 by アルバート・エバンズ  2025-04-26 04:16:57 

 




( 朝、相手に手渡された熱いコーヒーを口にして脳を目覚めさせる。病院に行くと言う提案を拒否しなかったのは、自分でもそうすべきだと感じていたから。軽く頷く事で病院に寄る意思がある事を伝えると「…病院の駐車場まで送ってくれ。終わったら直ぐに向かう、悪いが先に捜査を進めていて欲しい。」と告げて。点滴なりなんなり、軽く処置をして貰って直ぐに捜査に合流すれば少しのタイムロスで済むだろう。「監視カメラの映像も取り寄せていた分が午後に届く。アンナの行動を洗い出そう、」午後には監視カメラの映像が届くはずだった。アンナが事件に巻き込まれるまでの足取りを掴み、接触した人物を特定するため_____地道ではあるが、映像を片っ端から確認する作業が発生する。のんびりしている暇は無いと自分自身に言い聞かせつつ、朝の準備を整えて。 )







 

  • No.4951 by ベル・ミラー  2025-04-26 10:54:00 





( 病院に行く事を拒否されなかった事に安堵を抱きつつ頭を縦に動かして。__相手からの連絡を受け取ったアダムス医師は午前診察としては早い時間だが快く了承してくれた。病院に到着次第診察室1に入って来て欲しいと相手のスマートフォンにメッセージを残し。__朝の準備が終わり、総合病院の駐車場に相手を下ろす。「何かあれば直ぐに連絡してね。」と、相変わらずの心配を滲ませつつも言われた通り捜査を進める為現場へと車を走らせ。___指定した診察室に入って来た相手を見るや否や、アダムス医師は僅かに眉間に皺を寄せた。それは相手の顔色も目下に住み着く隈もとんでもなく悪い色だったから。挨拶もそこそこに『点滴の前に診察をしますね。』相手の腕を取りそこから血圧測定を、それから心音や脈の乱れの確認を険しい表情で進めていき )




  • No.4952 by アルバート・エバンズ  2025-04-27 15:16:21 

 





( 相手に病院まで送ってもらい、駐車場で別れて指定された診察室へと向かう。顔を合わせたアダムスは普段よりも険しい表情で診察を促すものだから、顔を見ただけで体調が悪化している事が分かるのだろうと気不味い表情を浮かべつつも椅子に腰を下ろして。淡々と行われる血圧測定や脈拍の確認の様子を静かに見ていたものの「______正直、此れまで担当したどの事件よりもきつい。被害者が……妹に似過ぎているんだ。違うと頭では分かっていても、些細な事でフラッシュバックが起こる。」と、徐に言葉を紡いで。“少しあの事件に似ている”と伝えていた今回の事件、被害者が妹に瓜二つなのだと打ち明けて。「眠れない上に、1日に何度も発作を起こす。捜査が進展せず長引く程に、目を背けて逃げ出したい気持ちばかりが膨らむ、」これまで“捜査を続ける為に”と治療を求めて来た自分としては、医師に対して弱音を吐く事など無かったかもしれない。けれど今は、あまりに辛くて、捜査を降りたいとさえ考えている。しかし仮に捜査を降りたとしたら、身勝手な都合で全てを放り出した自分を許す事が出来ず、また根深い後悔と自己嫌悪が刻み込まれるのであろう事も理解していて、安易に選ぶ事は出来なかった。「…少しでも良いから、楽にしてくれないか、」紡いだ言葉は、かなり追い詰められている事が伝わるものだっただろうか。 )







 

  • No.4953 by ベル・ミラー  2025-04-28 00:21:32 





アダムス医師



( 不整脈の兆候も見られず、心音もやや速めではあるが今の段階で特別急ぎの処置をしなければ命の危険がある訳では無い。数日前のカルテと見比べつつ、相変わらずの険しい表情で慎重に状態を確認していた正にその時。思いもよらぬ“告白”が鼓膜を揺らせば驚いた様に相手を見詰め。数秒、珍しく心配から来る僅かな怒りを滲ませた口調で『…それは“少し”とは言わないんですよ。』と。以前相手が事件の説明をした時の曖昧な言葉は確りと覚えていた。『今回の事件の被害者が妹さんに似ていると言う事は、どうしたって“あの事件”を思い出す事に繋がる。それは貴方自身が良くわかっている通り意志とは関係無くです。そんな状態で捜査を続ければ、普段は何ともない筈の些細な物音や匂いが事件や妹さんに結び付いてどんどん悪い方に堕ちて行くのは当たり前です。』相手を真っ直ぐに見詰めながら厳しい口調でそう告げるのだが。続いた相手にしては珍しい弱音には険しい表情を僅かに緩め『__エバンズさん、私は刑事ではありませんので無責任に聞こえるかもしれませんが、全ての事件を貴方が解決しなければならないんですか?“逃げたい”と言うのが今の貴方の正直な気持ちなら、その心の声に従ってあげて下さい。貴方が今無理をして倒れれば、この先どの捜査も出来なくなる。それでは本末転倒でしょう。』まるで言い聞かす様なゆっくりとした言葉を紡ぎつつ、それでも簡単に選べる道でも無い事は理解していた。簡単に選べていたのなら、今相手は此処には居ないだろう。『__ひとまず点滴の処置をしますね。前回とは違う薬で、時間は1時間程です。…睡眠薬に似た成分も入っているので少し意識が朦朧とするかもしれませんが、直ぐに治まるので安心して下さい。』まるで懇願の様にも聞こえる追い詰められた言葉に一度目を閉じてから見せた表情は、不安を煽らない様にと浮かべた穏やかな笑み。相手を処置室に促しベッドでその細く感じられる腕に針を刺すと『暫くの間は落ち着いていられる筈です。』管を通った液が相手の体内に確りと入っている事を確認し、『目を閉じて下さい。』例え眠る事が出来なくても今のこの時間だけは少しで良い、身体も心も休めて欲しいと )




  • No.4954 by アルバート・エバンズ  2025-04-28 03:39:46 

 





( フラッシュバックが起こり易くなるのも当然の環境だと、相手は自分の言葉に対して怒りを滲ませた。「些細な事が、自分の意思とは関係なく過去の記憶に繋がる……その状況は、薬で抑える事は出来ないのか、」と尋ねたものの、精神安定剤や発作止め以上の何かは期待出来ないだろう。相手の言う通り、全ての事件を自分が解決しなければならない訳ではない。それなのに勝手な使命感と義務感に駆られて、自分で自分を追い込んでいると思われても可笑しくないだろう。けれど其れは、あの事件以降続く”焦燥“のようなもの。目の前で起きている事件をなんとか解決しなければと、のめり込んでしまうのだ。______自分の気持ちに正直に、と言われて思うのは、”逃げ出したい”という気持ちと同じくらい、それ以上に“アンナの無念を晴らしてやりたい”という気持ちがある事だった。明確な言葉で応える事はしないままに、ベッドに横になり相手の説明に頷く。普段より長い時間が掛かる処置だったが、少しでも身体が楽になるならという思いで言われた通りに目を閉じる。---静かな室内で、やがて相手が説明した通りにぼんやりとした感覚が身体を包んだ。閉じた瞼の奥、暗闇の中で身体が宙に浮いているような感覚。眠りの狭間を漂いながら少しだけ息がしやすくなっていくような気がした。 )







 

  • No.4955 by ベル・ミラー  2025-04-28 11:10:22 





アダムス医師



( 相手の問い掛けには首を横に振る事で無理だと伝える。___正確に言えばそんな薬が無い訳ではない。様々な種類の薬を組み合わせ多くを服用すれば痛みを完全に取り除く事も、過去の記憶を閉じ込め発作もフラッシュバックも起こさなくする事も出来るだろう。けれどそれは諸刃の剣だ。後に残る副作用は自我を喪失させ生きる屍と言っても過言では無い程に生命力を奪う。真っ白のベッドの上でただ寝たきりのまま、僅かな光だけを瞳に宿した状態で何かを考える事も誰かと会話をする事も無い。それは果たして生きているだろうか。相手の望む“楽”の地点はそこでは無い筈だ。___ポタ、ポタ、と落ちる薬液のスピードを調整しつつ、目を閉じたまま静かな呼吸を繰り返す相手を見下ろす。“贖罪”の為に立ち続ける相手から仕事を奪えばそれこそ生きる意味を無くしてしまうかもしれない。けれど心身に伸し掛る不可は重く茨の様に絡み付きその鋭利な棘で心を傷付け続けるだろう。何が、どれが、相手にとっての正解なのかわからないのは己も、ミラーも、そうして相手自身も思う所なのかもしれない。それでも医者として、長く相手と向き合って来た者として、楽になって欲しいと思うのは当然だ。何時か色濃く浮かぶ隈が少しでも薄れて欲しいと一度だけ小さな息を吐き出し後、診察室へと戻って行き )




  • No.4956 by アルバート・エバンズ  2025-05-01 00:33:06 

 




( 強い薬と言うのは際限なく、自分を生きた屍にしてしまうものもある。これ以上強い効力を持った薬は無いと相手が言うのは、今の生活を維持出来る上限が此処だと言うことなのだろう。それ以上食い下がる事はなく、静かに目を閉じたままでいて。---意識が宙を揺蕩うような感覚に包まれたまま、少しは眠っていたのかもしれない。目を覚ますと身体はだいぶ楽になっていて、此れなら聞き込みに出る事も問題なさそうだと思うと身体を起こして。意識が朦朧とするような感覚も既に消えていた。相手に点滴を外して貰い小さなパッチを貼られると捲っていた袖を下ろしてボタンを止める。「……今投げ出したら、きっと深い後悔に苛まれる事になる。妹を、______2度救えなかったと思いたくない。」徐に告げたのは、先ほど吐いた弱音への自分なりの現時点での考え。今は身体が楽になったからそう言えるのだ、と相手は思うかもしれない。けれど、一生後悔を引き摺るのは嫌だった。「…また連絡する事になると思う。タイミングが合えば、また頼む。」と、今日のような処置をまた頼みたいと言いながらジャケットに袖を通して。 )






 

  • No.4957 by ベル・ミラー  2025-05-01 11:09:32 





アダムス医師



( ___1時間と少しが経ち点滴の処置が終われば腕に血が滲んでいない事、副作用らしき症状が出ていなく処置前よりも僅かではあるが顔色も良くなっている事、動きに可笑しな点が無い事をザッと確認しつつ最後にもう一度だけ手首から脈拍を測り。その折徐に告げられたのは処置前の話の続き__相手の今の着地地点。一度視線だけで相手を一瞥し再びその視線を手首へと落とすと、その言葉の端々に滲むある種の覚悟と想いを感じ取る事となり。そうなれば医師に出来る事は一つしか無いのだ。脈拍に異常が無い事を確認し今度は真っ直ぐに相手を見詰めると『__時間は作ります。貴方が処置が必要だと思った時は連絡を下さい。』と、後の点滴の件は了承した上で『…今回の事件、貴方にとって特別な捜査になるのでしょう。私はもう止めません。けれど、被害者の無念を晴らし事件を解決した後は精密検査を受けに来て下さい。恐らく3日程は入院になるでしょうが__それが私が今貴方を此処から帰す条件です。』至極真剣な眼差しと共にそう告げる。3日の入院と言う事は、その間は仕事を休まねばならないと言う事。相手が検査も入院も嫌う事は重々承知ながら譲らないとばかりに。相手がそれを了承したのならば、後は何も言う事無く見送る形を取り )




  • No.4958 by アルバート・エバンズ  2025-05-09 03:48:03 

 





( 特別な処置を複数回施して貰う以上、入院を伴う精密検査の申し出について拒否する事は出来ず曖昧な反応ながらも小さく頷く事で同意を示して。その後も体調の不安定な状態が続いたもののその度に点滴などの処置をしてもらい、捜査に大きな支障が出る程に体調を崩す事は無かった。一方で被疑者として浮上している複数の人物のアリバイの裏付けなどに奔走され、未だ捜査の道筋が見えたとは言えない状況。難航する捜査に焦燥を募らせつつ、事件と向き合い続ける日が長く続いて。---その日はアンナが働いていたカフェを訪れ店長と話をした後、手掛かりを探しつつ遅い昼食を取る事とし案内された窓際のテーブルに腰を下ろして。偶然にもその席は、初めて立ち寄った際に案内されたのと同じ席。相手の肩越しに見えるカウンター席の向こうで、忙しなくも楽しそうに働いていたアンナの姿が思い出され、その瞳にはぐっと悲哀の色が浮かぶ。妹と瓜二つのその姿に心揺さぶられ、時に現実逃避のように此処に通い詰めた事もあった。一刻も早く事件を解決しなければという思いと切なさに、カウンターの向こうに視線を向けたまま暫しメニューを捲る手が止まり。 )







 

  • No.4959 by ベル・ミラー  2025-05-09 13:15:13 





( ___案内された窓側のテーブル席は或る意味“始まり”の席。もう一度だけで良いから妹に会いたいと切望し続けた相手がこの場所で妹に瓜二つの容姿を持つアンナを見た時、果たしてどれ程の衝撃を受けただろうか。此処に“妹”に会う為通い詰めたその時の心を測る事は出来ないが、“幸せか”と言う問いに相手は“辛くは無い”と答えたその言葉と表情だけは決して薄れる事無く脳裏に焼き付いている。__ふ、とメニューを捲っていたの相手の手が止まった事でその表情を伺い見れば、褪せた碧眼には確かな悲哀の色が浮かんでいて今何を思っているのかわかってしまった。【アンナ】と【セシリア】は相手の中でどうしたって切り離せない所に居て、それは善し悪しでは無く心が感じる正直な事。「__思い出すね、」静かに口を開く。それは人を指してか出来事を指してか。何であれメニューを決める事を急かす事はせず相手の視線に釣られる様にして首を捻り、一度だけカウンター席の向こう側へと視線をやって )




  • No.4960 by アルバート・エバンズ  2025-05-15 11:56:54 

 




( 初めてこの場所で彼女を目にした時の衝撃を忘れる事は出来なかった。あの時の自分にとって此処は“夢と現実の狭間”だった。ただ此処で“生きているセシリア”の姿を見られればそれ以外はどうでも良いとさえ感じていたのだ。相手の声にふと今に意識が引っ張られると、「…そうだな、」とだけ小さく頷きつつ再びメニューに視線を向けて。相手は知らないだろうが、この場所で以前彼女におすすめを聞いた事があった。あの瞳が、声が、笑顔が自分に向けられる瞬間を見たかったのだ。その時はローストビーフのサンドイッチを注文した記憶があるが、もうひとつ彼女が何かおすすめしてくれた物があった筈_______そう考えてメニューをめくり目を走らせると、ややして「…キッシュとホットコーヒーにする。」と告げて。 )





 

  • No.4961 by ベル・ミラー  2025-05-16 13:30:39 





( 返って来た短い同意にはそれ以上言葉を続ける事はしない。相手の視線がメニュー表に落ちた事で己も並ぶ写真と文字を謎り__「…珍しいね。お腹減ってた?」相手が数多くある食べ物の中でキッシュを選んだ事で顔を上げると、記憶にある中では初めてのそのチョイスに一度瞬いた後再び手元のメニュー表へと視線を戻し「私は……ブルーベリーマフィンとカフェラテにしようかな。」粒の大きいブルーベリーがトップに散りばめられている良い焼き具合のマフィンの写真に口元を緩ませつつ、丁度通路を通った店員に2人分の注文を。___然程時間掛からずして頼んだ物が来ると先ずはカフェラテを一口。矢張り自分で淹れるよりお店の方が格段に美味しいと小さく息を吐き出す。マフィンもまたブルーベリーの甘酸っぱさと生地の風味が良い具合に混ざり合い、程良い甘さで美味だ。しかし___優雅な昼食の時間を楽しみながらも、頭の中がそれだけで占められる訳では無い。捜査中と言う事もあり考える事は山程あるのだ。「…容疑者を絞り込めない事に腹が立つ。」手元のマフィンを見詰めたまま珍しく少しだけ荒さのある言葉を紡ぐと、「誰に聞いても恨みを買う様なタイプじゃなかったって言うし…突発的な犯行だとしたら、監視カメラが付近に無いのは厳しいよ。」カフェラテをもう一口飲んだ後、やや抑えた声量と共に相手を見 )




  • No.4962 by アルバート・エバンズ  2025-05-17 20:57:56 

 





( あの頃の自分にとっては、例え現実逃避であったとしても救いだった彼女の存在。普段であれば自分からは選ばないであろうキッシュも、些細な思い出のひとつだった。「…以前、彼女に勧めてもらった。」と、言葉少なにその理由を告げる。頼んだキッシュにはベーコンやほうれん草が使われていて卵の風味と香ばしい味わいで美味しいのだが、食はあまり進まなかった。考える程に、めぼしい容疑者さえ絞り込めていない状況に焦燥ばかりが募る。「…もう一度現場で情報を整理して…遺留品や鑑識からの検査結果を見直そう。このカフェの周辺と彼女の家の近くの監視カメラの映像に複数回映っている人物も割り出す、」今後の捜査の方針を話しつつ、また点滴の処置をして貰わなければと考える。担当医は“特例”の処置が長く続く事を良しとしていないながらも、此方の気持ちを理解し未だ協力してくれていた。相手にとってもアンナは面識のある人物。心身が疲弊していない訳が無いだろうと思えば「…きつくなったら、お前も少し休め。半休を取っても構わない、」と告げて。自分も処置の為に数時間遅く合流する事がある為、相手も必要な時は言うようにと。 )






 

  • No.4963 by ベル・ミラー  2025-05-18 01:32:59 





( “以前”が何時を指すのかは想像に容易い。適当に頷き話を終わらせるでも無く、言葉少なではあるが素直に紡がれた理由にこれまた珍しさを感じつつも僅かに微笑むと「それじゃあエバンズさんのお気に入りって訳だ。」お勧めを聞いたのならてっきり前回も同じ物を頼んだのだろうと言う勝手な想像での言葉を返し。卵の鮮やかな黄色にベーコンやほうれん草の色が混ざるそれはとても美味しそうに見えるのだが、減りはとてつもなく遅い。心も身体も本調子では無い相手には普段以上に食が進まないのだろう。紡がれる捜査方針にマフィンを咀嚼しながら時折相槌を打ち、飲み込んだタイミングで口を開き。「__現場での情報整理には私が行く。それと、彼女が亡くなる数週間前からお店に来る頻度が増えたって言ってたあの男性、彼のアリバイがどうにも引っ掛かるの。並行して調べる。」殺害現場となればどうしたって遺体を思い出しそれが“別の記憶”にも繋がる。それを危惧するからこその申し出を先に、続けて容疑者としては挙がっていないが話には出た男性の詳細の調べ直しを伝えて。___口元にまで上げたカップが止まったのは気遣いを受けたから。本当にきついのは他でも無い相手自身だろうに、こんな時だってその優しさは此方に向く。カップの端に唇をつけカフェラテを一口飲んでから静かに下ろすと同時に小さく頷きつつ「…まだ大丈夫だけど、正直変な感じはしてる。知り合いだから尚更だね。…きついって言うより、亡くなったっていう実感が確りわかないのかもしれない。」鼻から抜ける様な溜め息の後、何処と無くふわふわとしている感情を吐露して )




  • No.4964 by アルバート・エバンズ  2025-05-18 02:35:43 

 





( 彼女が勧めてくれたキッシュの味は、今初めて知った。だから“美味しかった”と伝える事は叶わない。「…前はもうひとつ勧められたサンドイッチを頼んだんだ。此れは初めて食べた、」と答えて。“食べるか?”と付け足して皿を相手の方に押しやるとコーヒーを啜る。「_____俺が記憶を無くした時、あの人に救われた事を思い出す。」此の席がそうさせるのか、ぽつりと言葉を紡いで。---相手は自分の負担を軽減する為にといつも以上に忙しく走り回っているような気がしていた。心身に影響を来たす可能性がある要素をなるべく自分から遠ざけるかのように、先回りして捜査を行う。普段の事件に比べて相手が受け持つ割合が多いと感じざるを得ない。「お前1人で担わなくて良い、必要な捜査は手分けして進めよう。」相手にばかり負担を強いる訳にはいかないと普段通りの分業で進めて行く事を伝えて。「……寝て覚めたら戻って来ているんじゃないかと思う事は、未だにある。知り合いの死は尚の事、受け入れるのには時間が掛かる、」相手の言葉を受けての返答は、自分自身が過去に体験した喪失に基づくものか。ゆっくりと、深く溜め息を吐いて。点滴などの処置が今はきちんと効果を発揮している影響もあるのだろう、この捜査を始めてからの一時期に比べるとだいぶ不安定さは軽減されていて、取り乱す事なく言葉を紡いで。 )







 

  • No.4965 by ベル・ミラー  2025-05-18 12:17:04 





( “あの期間”でアンナとした会話はもしかしたら極短いものだったかもしれない。それでも普段なら聞く事の無いお勧めを聞き、それを頼むと言うその行為それこそが相手の心情をありありと表している様で。「…そっか。それも美味しかった?」口元の笑みを少しだけ濃いものに変え問い掛ける。当時食べたサンドイッチも、今目前にあるキッシュも何方も相手にとっては大切な思い出の味だろう。だからこそ押しやられた皿との距離が近くなった時、普段なら間髪入れず一口貰う所を一瞬躊躇ったのかもしれない。「……、」傍から見ればただのカフェメニューの中の一品でしかないキッシュは、それでも相手とアンナ__セシリアを繋ぐ特別な一品の様に感じられたのだ。視線だけを僅かに持ち上げ目前の相手の表情を伺い見るも、相手はコーヒーを啜るだけ。ややして「…少し貰おうかな。」と、控え目に端にフォークを突き立てる。口内に運んだ途端広がるのは絶妙な旨味。卵の焼き具合も丁度良く塩味のバランスも最高だ。「__凄く美味しい。…優しい味がする。」そう答え、何故だか目頭が熱くなった。静かにお皿を相手の前に戻し揺れた感情を落ち着かせる為にカフェラテを啜る。___今日の相手は普段よりずっと思い出を言葉にする事が多い様だ。唐突に落とされた過去の話に同じ様に相手が記憶を無くした時の事を思い出す。「……セシリアさんの振りをして欲しいって頼んだ時、嫌な顔ひとつせず引き受けてくれた。」そんな優しい彼女は、もう居ない。同時に思い出すのは、アンナをセシリアだと思っていた相手のあの見た事も無い穏やかで優しい笑顔。「…全部覚えてる?」と、静かに問い掛けて。___現場の情報整理に1人で行く、と言った理由に矢張り相手は気付いた様で、何時もと同じ分業で進めると言われれば暫し沈黙を落とした後、それでも従う様に小さく頷いて。目が覚めたら戻って来ている……それはこの数十年幾度となく相手が渇望してきて事だろう。全て夢であれば、と。現実の余りの残酷さに深く息を吐き出し「そうだね。……本当に、そう。」重たい同意を落としては「明日の朝、目が覚めた時に1人は嫌だな。」此処何日も相手はソファで眠っている事を指しての言葉をこの流れで。「…今日は一緒に寝てもいい?」声量を抑え、控え目に共にベッドで眠る事を願い出て )




  • No.4966 by アルバート・エバンズ  2025-05-23 00:18:02 

 





( あの時の出来事は、確りと記憶に刻まれていた。相手の問いに頷きつつ、どういう状態だったのかは説明出来ないが確かに記憶が抜け落ちていて、セシリアの事も相手の事も、あの瞬間だけは“覚えていなかった”のだと懐古する。セシリアだと名乗るアンナと顔を合わせた時、大きな幸せと安堵にも似た感情を感じた事を覚えていた。控えめに落とされた相手の問いに相手と視線を重ねると、暫し返答に迷うように間が空く。「…未だ、あまり本調子じゃない、」そう答えたのは、幾らか落ち着いているとは言え捜査に関わる前よりも体調が良くないのは分かりきっているから。同じベッドに寝ていれば、敏い相手は自分の僅かな変化や動きを察知して目を覚ますだろう。けれど其れに対して“1人で抱え込まず自分を頼って欲しい”と、常から相手が言っている事も理解していて。「……しっかり睡眠を取った方が良いんじゃないか、」と、暫しの間の後拒否ではなく相手に判断を委ねる形で返答し。 )







 

  • No.4967 by ベル・ミラー  2025-05-24 20:54:52 






( 今となっては憶測でしか無いが。“妹の死”に繋がる記憶を消す事で相手の脳は壊れ掛けていた心を守ったのかもしれない。___返事が返って来るまでの暫しの沈黙はお皿に残った僅かのマフィンを食べ終える事で消化する。咀嚼しカフェラテを啜ってから再び相手と視線を重ね、その後判断を此方に委ねる返答には今度は己が間を空ける。無言のまま、視線を逸らす事無く真っ直ぐに相手を見詰める時間が数十秒。「…私の“しっかりした睡眠”にはエバンズさんの存在が必要だけど__エバンズさんは?隣に私が居たら休まらない?」声色はあくまでも穏やかに。だが些か狡い聞き方だと言う自覚はあった。相手の思う“しっかりした睡眠”と己の思うそれは同じでは無い。例え夜中にどれだけ目が覚める時間があったって、相手の側に居られると言うそれだけで、十分身体も心も休める事が出来るのだから。本当に拒否をしたい時は問答無用でNOを突き付けて来るとわかっているからこその問い掛けで )




  • No.4968 by アルバート・エバンズ  2025-05-25 00:40:40 

 





( 自分が隣に居ては“しっかりとした睡眠”が取れる筈が無いと思うのだが、相手の言う其れとは意味合いが違うのだろう。「……そういう訳じゃない、」とだけ相手の言葉を否定すると、未だ残っていたキッシュに再び手を伸ばして其れを口に運んで。其処で話が終わったという事は、今夜は相手のベッドで眠る事を受け入れたという事になるだろう。---此の場所で働いていた、明るい笑顔を向けてくれたアンナの為に、事件を追い続けなければならない。コーヒーを啜りつつ捜査に使っている手帳を見直して、一瞬セシリアの記憶が脳裏にちらついた。此方に伸ばされた、血塗れの白い手。現場を見た直後に“思い出してしまった”遠い記憶の欠片。発作を引き起こす程の鮮明な物ではないものの、鼓動が少し早くなるのを感じて水をひとくち飲んで。 )






 

  • No.4969 by ベル・ミラー  2025-05-25 14:05:17 






( 受け入れの返答に軽く頷き返してから「良かった。この流れならハグして眠る事も許されるかもしれない。」口角を僅かに持ち上げた悪戯な笑みを。あくまで“ベッドで一緒に眠る事”を許可されただけで勿論の事それは理解しているのだが。理解しているからこそ次は拒否される__無視される事も想定内の、相手に向けたと言うよりは勝手な独り言に近い色を纏った音を落として。___相手が手帳を開いた事で視線は自然とそこに落ちた。座る位置的に逆さまに見える文字はその角度ですら真っ直ぐで丁寧。聞き込みをした内容、事件現場での発見、それらが詳細に記されている。…何かの違和感を感じた訳では無い。けれどこの場所は或る意味“特別な場所”だ。聞き込みで来なければいけないとしても様々な事を思い出してしまう場所。「…一度署に戻る?」相手が何を思い出したのかはわからないが、視線を上げコーヒーでは無く水を飲む姿を見ると、お店を出る事の判断を委ねる問い掛けを )




  • No.4970 by アルバート・エバンズ  2025-05-26 03:16:32 

 





( まるで独り言かのように紡がれた聞き捨てならない呟き。眉間に皺を寄せて相手に視線を向けたものの、聞こえていない事にしたようで何か言葉を発する事はせずに無視を決め込み。---手帳のページは日に日に増えているのに核心に迫れていないというのは結局焦りを生むばかりで、何か行動しなければという思いに駆られる。過去の記憶を思い出す隙がないように動いていなければと。「…そうだな、」と答えコーヒーを飲み干す。この場所は心が揺らぐ。冷静に捜査と向き合うには些か不向きな場所だと思えば、相手の言う通り署で改めて捜査の今後の進め方について議論するのが良いだろうと。 )






 

  • No.4971 by ベル・ミラー  2025-05-26 19:56:38 





( ___カフェでの昼食をとったその日から数日後。周辺の聞き込みと並行して何度目かの事件現場での情報整理を行う中、容疑者がある程度絞られ犯人に繋がる証拠を掴み掛けている今日。その証拠を確実なものにするべく相手と共にアンナが殺害されたコテージの中に居た。犯人はどの位置から彼女を射殺したのか、今一度その弾道と床に横たわった彼女の姿を思い出し空間の把握を。ギシ、と踏み締めた床が音を鳴らし、彼女がその命を散らした場所にしゃがみ込む。彼女の姿はそこにはもう無いが、床に散らばった綺麗な焦げ茶の髪も、流れ出る赤黒い血も、光を失った緑眼も、全てを僅かの薄れも無く思い出す事が出来た。怖かっただろうに__。「…わざわざ近付いて2発目を撃つ必要なんて無かった、」相手に背を向けた状態で床を見詰めながら紡いだのは、怒りの纏う言葉。1発目の銃弾は玄関付近から放たれ彼女の腹部を貫いた。恐らく衝撃で床に崩れる様に倒れただろう。その姿を見ても尚逃げる事も無く犯人は彼女に近付き、今度は見下ろす形で至近距離から2発目の銃弾を胸部に放ったのだ。__傷の付いた床に指を触れさせようとして、手袋を嵌めていなかったのを思い出す。「…エバンズさん、手袋取ってくれますか。」しゃがみ込んだ体勢のまま振り返り、相手を見上げる形で側にある手袋が欲しいと片手を伸ばして )




  • No.4972 by アルバート・エバンズ  2025-05-26 22:42:59 

 






( 彼女を此処に監禁し、どうするつもりだったのか。カフェでの仕事を終え退勤したアンナの後を付け、人気が無く防犯カメラも少ない場所で彼女を誘拐し此処に連れて来たのであろう事は此処までの捜査で分かっていた。逃げようとした彼女を、或いは怯えていただけの彼女を容赦無く殺害した犯人の残虐性は、相手と同様怒りが湧くもので。「…人の心を無くした怪物だ、」と、同意する様に言葉を紡ぎ。---点滴での処置に少し身体が慣れてしまったのだろう。初めこそ強く効果が出て幾分持ち直していた体調も、再び不安定になりつつあるのを感じていた。だからこそ捜査に支障が出ないようにと安定剤も鎮痛剤も朝服用し、比較的安定した状態で捜査に当たっていたのだが。それは、余りに突然だった。床にしゃがみ込んだ相手の背後に立ったまま事件について考えを巡らせていた。不意に相手に“手袋を取って欲しい”と頼まれ、すぐ隣のテーブルに置かれていた手袋を手にし______相手に手渡す前に、視線が重なった。相手と目を合わせるなど特別な事でもなく、普段の生活の中でも多々ある事。しかし此の場所が引き金となったのか、相手の瞳の色を認識した瞬間に強い恐怖と後悔、絶望、様々な“当時の”記憶が湧き起こり一瞬にして身体を支配した。「______っ、…」光を失った緑色の瞳が、広がっていく赤が、フラッシュバックする。相手に手袋を手渡す事は叶わず、次の瞬間には心臓を鷲掴みにされたような痛みと恐怖に襲われ正常な体勢を保って居られなかった。身体をくの字に折り曲げるのと同時に床に崩れ、一瞬で可笑しくなった呼吸を繰り返しながら胸元を握り締める。「…っあ゛、ぁ……ッセシリ、ア…!、」妹の名前を口にし、恐怖と痛みに支配されながらも何とか意識を引き上げようと、抗おうと、意識を手放さぬよう腕に強く爪を立てた。 )







 

  • No.4973 by ベル・ミラー  2025-05-27 00:10:56 





( ___油断していた。相手の心身の不調を忘れていた訳では当然無いが、此処数日は点滴が効果を発揮してくれていたのか比較的落ち着いて見えていたのだ。瞳の奥の光も何時も通り鋭く、不自然に動きを止める姿を見た事も無い。勿論安定剤や鎮痛剤を服用する姿は見たが、相手が薬を飲むのは言わば“日常的”な事。だからこそ、少しの気の緩みがあった。___手袋が己の手に渡る直前、重なった碧眼にありありとした恐怖とその他様々な“闇”が一瞬にして広がったのがわかった。思わず目を見開くも、何か言葉を発するよりも先に相手の身体は床に崩れ、あっという間に意味をなさなくなった呼吸音が響く。苦しいのだろう、耐えられない痛みの中に居るのだろう、胸元を握り締める骨張った指先は白く、辛うじて口にした“セシリア”の名も途切れ途切れに震えている。「っ、エバンズさん!しっかりして!!」矢張りこの場所は駄目だった。瞬時にそう思ったのだが、“瞳の色”にまで意識が向かなかったのは、今目前で苦しむ相手をどうにか落ち着かせたいと言う気持ちが強かったからか。抱き竦める様に背中に片手を回し、もう片方の手は意識を保つ為だろう、腕に深く爪を立てる相手の手に重ね、そのまま握り込む様に僅かに力を入れる。「大丈夫だから…っ、直ぐ楽になれるから、!」その体勢のまま相手の耳元で懸命に言葉を紡ぎ、その意識が落ちない様にと )




  • No.4974 by アルバート・エバンズ  2025-05-27 06:57:32 

 





( 上手く息が出来ず胸が押し潰されそうな苦しさの中で、懸命に呼吸を整えようとする。此の記憶に、苦痛に、呑まれてはいけない。けれど若葉のような明るく柔らかな緑色の瞳は、此の場所に倒れていたアンナの______あの日幼稚園で事切れたセシリアの、光を失った暗い瞳と結び付き恐怖と絶望を煽っていた。相手に身体を支えられながら、血が滲むほどに強く爪を立てた腕の痛みも感じない。朦朧とし始めた意識の中で、白い腕が此方に伸ばされる様子がフラッシュバックし、息が詰まる。床に溢れ出す血も、腕の白さも、瞳の色をきっかけに全てが鮮明に思い出された。「……っ、は…ぁ゛、許して、くれ…っセシリア、」手を握ってやれなかった事を、助けられなかった事を、幾度と無く繰り返した謝罪が溢れる。大きな負担が掛かった為か、鳩尾の痛みが強い。過去の記憶に支配され褪せた碧眼は暗く闇を携えて。額を滑った汗が握りしめた腕に落ち、ぐらりと身体が傾くと相手に支えられていたバランスが崩れてそのまま床に崩れる。その時点で意識を失っていたか、或いは既にしゃがみ込んだ体勢だったため衝撃こそ少なかったものの床に頭を打った事がきっかけか、抵抗の甲斐も無く意識を手放していて。 )








 

  • No.4975 by ベル・ミラー  2025-05-27 11:09:17 





( 幾ら呼び掛けても腕の中の相手の苦しみは取れない。鳩尾の痛みに耐え様とする身体には力が入り、必然的に呼吸も短く浅くなるのだがまともに呼吸が出来ない状態でそれは逆効果だ。あきらかに十分な酸素が脳に回らず酸欠状態に陥って居るだろうが、恐らくそれ以上の苦しみと痛みで意識が朦朧としている筈。涙声で何度も何度も懸命に紡がれる妹への謝罪に「許してるっ、…誰も責めてない!」と、引っ張られた感情をそのままに己もまた涙声で声を上げるのだが。__「……エバンズさん…?」その懇願の声がピタリと止み、腕の中にあった身体から力が抜けると同時に相手の身は床に倒れ込む様に崩れた。その際床に頭を打ち付ける鈍い音が響き、一瞬にして顔面は蒼白になる。___そこからはあっという間だった。震える指先で救急車を呼び、その後アダムス医師に相手の意識が無い事と救急搬送された事の連絡を。ストレッチャーに乗せられた相手は口元に酸素マスクが装着され直ぐにMRI室に運ばれた。その後、脳に異常が無ければ次なる処置に移行すると説明されたものの、医師の言葉も看護師の励ましも何処か遠い所を浮遊している感覚だった。ただ、相手の意識が回復する様に、無事であるようにと待合室の椅子に浅く腰掛けたまま祈る事しか出来ない時間が続き )




  • No.4976 by アルバート・エバンズ  2025-05-27 15:48:34 

 






( エバンズが救急搬送されたという知らせを受け、アダムスは急ぎ処置を行なっている部屋へと向かった。倒れた時に頭を打った可能性があるとの事だったがMRIの結果は問題なく一先ず安堵する。直ぐに入院での治療が必要な程に重篤な状態ではないものの、かなり負担が掛かっているのは間違いない。時折僅かに脈が乱れる症状が再び出ており、薬を点滴することでまずは心身の状態を安定させ、安静にする必要があると判断して。---待合室で待っていた相手の元に歩み寄ると「ミラーさん、」と声を掛ける。此方を見上げた相手の表情は不安げで、少しばかり憔悴したようにも見えるもの。安心させるように微笑むと「少し発作の症状が重かったようですが、一時的なものなので心配はいりませんよ。今は少し安静にして、捜査が終わればもう少し体調も安定するでしょう、」と告げて。“此の捜査が終わるまで”という彼の思いを尊重して直ぐに入院をと促す事はしないが、早く負担がなくなるようにと願わずにはいられない。「…診察室に行きましょうか。」と声を掛け相手を連れて自身の診察室へと向かうと扉を閉める。今はエバンズの事だけではなく、相手自身の話を聞きたいと思ったのだ。「……ミラーさんは休めていますか?」と、椅子に座り相手と向き合いつつ尋ねて。 )







 

  • No.4977 by ベル・ミラー  2025-05-27 20:25:25 





( 頭上から声が落ち、見上げると目前に居たのは穏やかな笑みを携えたエバンズの主治医。その姿を見ただけでも溢れ出した安堵は続けられた“一時的なものなので心配はいらない”と言う言葉によって確かな光となり胸中に広がった。「…ありがとうございます、」と、やや憔悴した表情ながら同じく微笑み礼を述べた後は促されるままに診察室へと行き。__背後で扉の閉まる音。キャスターの着いた丸い椅子に腰掛け、膝の上で鞄を抱える。先に口を開いたのは相手の方だった。エバンズの容態や捜査の話では無く尋ねられたのは己の調子。ほんの僅か考える間が空き即答こそ出来なかったものの控え目に頷く。「…大丈夫です。事件が事件なだけに十分とは言えないかもしれませんが、夜もちゃんと眠れているし、私は大丈夫。」“大丈夫”と2回繰り返したのは己への言い聞かせか、はたまた“本当に大丈夫じゃない人”に心が向いているからか。本日何度目かの力の無い微笑みを浮かべた後。「___ただ、」と唐突に言葉を落とすと目前の相手を見、直ぐに視線を僅か下方に落とし。「エバンズさんが何度か見せた表情が頭から離れないんです。…発作の原因が、私にあるんじゃないかって、」言葉少なに語ったのは懸念。考えたくは無い、勘違いであって欲しいそれはどんな時も終始付き纏い時折顔を覗かせたのだ。今回もまた、あのコテージで。相手が意識を失う程の発作を起こしたのは“視線が重なった後”だった )




  • No.4978 by アルバート・エバンズ  2025-05-28 17:38:35 

 




( 相手の言う“大丈夫”は、彼と比べれば、という狭い中でのものだろうか。自分自身に言い聞かせているようにも聞こえるその言葉を今は変に深掘りする事はせず小さく頷くと、続いた言葉に視線を向ける。彼が苦しむ原因が自分にあると考えるのは、いつもエバンズに寄り添い支えている相手にとっては辛いものだろう。意識を失うに至るほど酷い発作を起こした理由を知らない為「…何故、そう感じたんですか?」と静かに尋ねて。同時に“あまり不安にならないようにしてやってくれ”と、少し前にエバンズに頼まれた事を思い出す。嘘を吐いてまで安心させるつもりはないが、あれは彼の中に漠然としたものであれ、一抹の懸念があっての事だったのだろうか。彼が辛い状況に身を置きつつ仕事に必死に邁進する姿を隣で見ながら共に捜査を続けるというのは、少なからず相手にも負担が大きい事だろうと思わずにはいられない。 )






 

  • No.4979 by ベル・ミラー  2025-05-29 00:10:20 





___瞳の色が、セシリアさんと同じだから。
( 静かに紡いだ返事は自分でも驚く程に震えた。勿論エバンズから直接的に拒絶をされた訳でも“怖い”と言われた訳でも無い。それでもあの褪せた碧眼の奥が揺らいだ時、そこには“恐怖”の色が見えた気がしたのだ。「…偶然かもしれません。本当にたまたま、調子が悪い時と重なっただけかもしれない__確信は無いけれど…“緑の瞳”が過去と結び付いて、酷い発作を引き起こしてる気がするんです。」偶然、と言う単語を頭に持って来たものの、一度発芽した不安の種は消える事は無い。再び相手と重ねた瞳は不安定に揺れ。「…セシリアさんを重ねる事で落ち着けるのなら構わないんです。でも、逆に発作の原因になってしまうなら、私はどうすれば…っ、」己の持つ瞳は、悪夢に襲われ混乱した彼の意識を過去から掬い上げる事の出来る色。一瞬でも“妹”と彼が触れ合える色。悪い事の無かったその瞳が、今は逆にエバンズを苦しめているのなら。「もう、苦しんで欲しくないのに…、」吐き出した音も、息も、震えたまま。“緑の瞳”である事を、こんなにも恨んだ事は無かった )




  • No.4980 by アルバート・エバンズ  2025-05-29 23:47:31 

 




( 彼の妹と同じ色だという相手の瞳は、罪悪感と後悔の闇に沈んだ相手を今に引き上げる事が出来るものだった。けれど、その妹に瓜二つな被害者の遺体を見た事で一時的に記憶が上書きされ、事件の時に見た亡き妹の瞳と記憶が結び付いてしまった_____というのは十分に考えられる事だ。彼を掬い上げていた筈の、支えになってきた筈の瞳が彼を苦しめていると考えるのは辛い事だろう。『……今回の事件に携わった事によって、“緑色の瞳”が一時的に過去の辛い記憶と結び付いてしまった、というのは考えられない事ではありません。ただ、仮にそうだったとしてもあくまで一時的なものです。この事件から離れ心身の状態が落ち着けば、必ず此れまで通り彼の支えになる。これまで幾度となく、暗闇に突き落とされた彼を掬い上げて来たのはミラーさんです。』可能性はあると、相手の言葉を否定する事なく医師としての見解を伝えた上で、それでも悲観することは無いと伝える。『軽い鎮静剤を服用すれば、今のように過敏に反応してしまいフラッシュバックを頻繁に起こしてしまう状況は抑えられますが…感覚の鋭いエバンズさんからすると、普段と比べて思考が明瞭では無いと少しの違和感を感じるかもしれません。強い薬ではないですし、飲み合わせも悪くない。必要があれば処方は出来ます。』と、相手にひとつの提案を。この提案はどちらかと言うと目の前の相手の気持ちに寄り添ったもの。鎮静剤を使えば、瞳の色や特定の音など記憶と繋がる些細なきっかけで発作を起こしてしまうという事は減る筈だった。これ迄処方していなかったのは、鎮静効果で少しぼんやりして捜査に支障が出ると思ったからだが、相手の心を守り彼の負担を軽減する為の可能性の一つだと。 )







 

  • No.4981 by ベル・ミラー  2025-05-30 16:05:01 





( 静かに紡がれる見解を視線を下げ僅か下方を見詰める様にして聞いていたのだが。此方を安心させる“一時的”との言葉には自然と顔が持ち上がる。__不安だったのだ。今回の事件、被害者が彼の妹と瓜二つの女性であるとわかったその時から、胸中には消し去る事の出来ない大きな不安がべったりと張り付き、片時も離れなかった。エバンズはきっと大丈夫だと幾ら自分に言い聞かせても、捜査が進むにつれ苦しむ頻度が増え、眠れなくなる頻度が増え、安定剤や鎮痛剤もなかなか思う様に効果を発揮しない中。そうして“緑の瞳”が恐怖の対象となった可能性のある彼の意識は今無い。__けれど今、不安の全てが拭われた訳では無いが1人悶々と考え悩むより遥かに心が楽になった。やや憔悴し不安定に揺れていた瞳は再び“彼の隣に立つ”意志を呼び覚まし、心に灯った確かな明かりに背中を押される様に頷く。そうしてその明かりがより強さを増したのは続けられた1つの提案を聞いたから。最後まで聞き届けてから「…それは、捜査に影響が出る程なんでしょうか、」と問い掛ける。頻繁に起きる発作や恐怖心を少しでも減らし、彼の心身に掛る負担を軽減出来るのなら。個人的な気持ちは何の躊躇いも無くYESなのだが“思考が明瞭では無い”と言う部分が引っ掛かったのだ。それは今回の事件捜査が彼にとって物凄く重要である事を、アンナの無念を晴らしたいと言う強い気持ちを知っているから。「__“捜査を続ける為”にその鎮静剤を使う事が出来るなら…エバンズさんを説得します。」今回ばかりは問答無用で勝手に決断出来ないと悩んだ末、個人差があり確実な事は相手も言えないであろう事は理解しつつも、副作用の話、捜査続行の話をもう少ししたいと )




  • No.4982 by アルバート・エバンズ  2025-05-31 00:29:12 

 




アダムス医師


( 憔悴し不安げに翳っていた相手の瞳に、少しばかり普段の光が宿った気がした。『…捜査に影響がない、とは言い切れません。鎮静剤ですから、感覚を鈍らせ落ち着かせる効果があります。少しの眠気やぼんやりするような感覚、倦怠感は起こりやすくなるでしょう。無理をしにくくなる、というのはあるかもしれません。ただ同様の効果がある薬の中では効き方が穏やかで、比較的副作用は少ない部類の薬です。』相手に分かりやすいよう薬について説明しつつ、大きな負担が掛かる中で身体に鞭打つようにして立ち続けている彼を思う。『今、彼が捜査を行えているのは、謂わば精神力です。実際どれ程の負担が掛かっていて、張り詰めていたものが切れた時にどんな影響が出てしまうか、未だ分かりません。…それでも、今のエバンズさんに捜査を降りるよう言う事は…私にも出来ない。捜査を続ける為、その中でも掛かる負担を最小限に抑え、なるべく無理をした反動を小さくする為に…鎮静剤は効果的だと思います。』医師として正しい選択ではないかもしれないが、捜査を続けながらも反動が小さい方法を模索して。 )








 

  • No.4983 by ベル・ミラー  2025-05-31 10:01:35 






( 100%副作用の無い薬などある筈も無く、けれど丁寧に繰り返される説明は安堵に繋がる。__何時の事だったか、相手では無い医師に急遽処方して貰った鎮静剤は確かにエバンズの苦しみを取り除く役割は果たしたが副作用が余りに大き過ぎた事をまだ鮮明に覚えていた。鋭いまでの瞳は翳り、無気力状態の彼はまるで生きる屍のようだったのだ。__“捜査を続ける為”、相手のその言葉は“医師”としての他に“友人として”彼の意志を尊重したものに思えた。2つの角度から彼を心配し、心を寄せてくれる人の存在がまるで自分の事の様にこんなにも嬉しく感じるなんて。今度は良い意味で揺らいだ感情のままに頷くと「…私も同じです。最初はあんなにもこの事件に関わって欲しくなかったのに__今は他の誰でも無くエバンズさんに解決して貰いたい。」そう告げた後に「私個人の意思としては、鎮静剤の処方をお願いします。」と、頭を下げつつも、目を覚ました相手が鎮静剤の服用を直ぐに了承するとも思えずに )




  • No.4984 by アルバート・エバンズ  2025-06-01 13:27:15 

 





( 実際はエバンズ本人の了承を得ない限り薬の処方を決める事は出来ないものの、相手の気持ちは分かった。そして相手が説得してくれると言うなら、最終的にはエバンズも渋々ながら了承する事になるであろうことも、これ迄の経験上感じていて。『分かりました。処方の準備は進めておきますね。』と告げて。---エバンズが病室で目を覚ましたのは数時間後の事だった。目を開くと白い天井が目に入り、嗅ぎ慣れた薬品の香り。直ぐには状況を理解出来ずに僅かにみじろぎすると点滴の管が揺れ、此処が病院だと気付く。同時に自分は捜査の為に現場に居た筈だと思い出し、酷い発作に襲われ息を吐く事も出来ない程の苦痛に耐え切れず意識を失ったのだと思い至り。どれ程の時間が経ったかは定かではないが、投薬のお陰だろうか、身体はかなり楽になっていて。 )






 

  • No.4985 by ベル・ミラー  2025-06-01 14:00:08 





( アダムス医師が鎮静剤の処方準備を進めてくれている間、点滴の管に繋がれ眠る相手の脇にただ黙したまま座って居たのが数時間。___僅かに瞼が微動しゆっくりと持ち上げられ覗いた碧眼はまだ少し朧気に揺らいでいる様に見えるが、此処が病室であるとわかった瞬間に何があったのかを直ぐに察する事が出来ただろう。「…エバンズさん、」驚かせない様に相手の名前を静かに呼ぶ。視線が此方に向いたのならば「苦しくない?」と、今の体調を問い掛けつつ、相手の瞳の奥に“恐怖”が燻っていないかを確認すべくやや控え目にその瞳を覗き込んで )




  • No.4986 by アルバート・エバンズ  2025-06-02 01:01:49 

 





( 相手に名前を呼ばれて視線を向けると、心配げな相手と視線が重なる。薬のお陰で今は落ち着いて居る事もあり、相手の瞳を見て恐怖を感じる事はなかったものの、一瞬身構えそうになったのは先ほどのような前例があるからだろう。「……大丈夫だ、」と答えて時計を見上げる。現場に居たのは昼前頃、今は夕方という事は殆ど丸一日を無駄にしているという事だ。点滴の管が繋がる右腕には赤っぽい鬱血痕が残り、どうにか意識を繋ぎ止めようと爪を立てたその痛みを思い出す。「______悪かった、もうだいぶ楽になった。」と告げて枕に背中を預ける形で少し身体を起こし。今日出来ることはもう限られているかもしれないが、この時間であれば仕事に戻れると。 )







 

  • No.4987 by ベル・ミラー  2025-06-02 13:21:11 





( 点滴等の処置が効いているお陰だろう、瞳が重なっても相手が恐怖する事も発作を起こす事も無かった。これなら顔を見て話をする事が出来ると先ずは安堵を胸に「良かった。」と微笑み。__さて、目が覚め身体の調子が比較的良い状態の相手は眠っていた時間を取り戻すべく仕事に戻ろうと考えるだろうが、本題は此処からなのだ。ふ、と短く息を吐きやや背筋を伸ばす。「…エバンズさん、大切な話があるの。」相手を見詰める瞳も静かな声色も決して重たくは無いが真剣そのもの。何処から切り出すべきか考える僅かの間の後「…エバンズさんが眠ってる間にアダムス医師と少し話をしたんだけどね。…普段飲んでる薬と併用して、もう一種類、軽い鎮静剤も飲んでみない?」先ずは話の主となる鎮静剤の存在を伝えた後「勿論副作用は0では無いけど、頻繁に起きるフラッシュバックとか、エバンズさんの中にある恐怖心とかが軽減されるんだって。」“副作用”と言う単語は隠す事無く口にしつつ、果たしてどんな反応を見せるかと表情を伺って )




  • No.4988 by アルバート・エバンズ  2025-06-03 10:26:52 

 





( 真剣な口調で切り出された言葉に再び相手と視線を重ねる。服用する処方薬を増やす事で体調が安定するなら直ぐにでもと思ったものの“鎮静剤”という言葉が引っ掛かった。思い出されるのは、いつか別の医師に打たれた鎮静剤のこと。酷い発作を起こす事こそなかったが、強い薬は正常な思考さえも奪いその期間の事は殆ど覚えていない。もう一つは、捜査の指揮官を途中で交代せざるを得なくなった事件の事。精神力だけでは抗えない程に身体が辛く、眠気にも抗えず遂には捜査を続ける事が出来なくなったではないか。副作用がゼロではない、という事はまたあの時のように苦しい思いをする事になる可能性が高いという事だ。「_____鎮静剤は、事件に関わっている限りは飲みたくない。」とだけ答え、相手の提案を拒絶する。前のような状況になれば、此の捜査を途中で投げ出す事にもなりかねない。「点滴を外してくれ、休んだら落ち着いた。もう大丈夫だ。」と告げて、捜査に戻ろうと。 )






 

  • No.4989 by ベル・ミラー  2025-06-03 21:23:40 





__大丈夫じゃないよ。今は安定してるかもしれないけど、時間が経てばまた頻繁に発作が起きる。…私の目、見れなかったよね?
( 案の定相手はこの提案を拒絶した。ただその返事は想定内で捜査に戻ろうとするのも想定内。相手の中にある“鎮静剤”のイメージが最悪なのは過去の事例があるのだから仕方が無い事。けれど今回はその鎮静剤が相手を救うと思っていた。だからこそ“大丈夫”を首を横に振る事で否定した後、相手自身が“恐怖の対象”に気付いて居るかはわからないが、一拍程の間を空けて問い掛けた確認は切なさとほんの僅かの苦しげな表情を纏い__それも一瞬。今度は努めて柔らかな声色で「“あの時”みたいな事にはならない。エバンズさんが信頼する先生が処置する薬なんだから。__それに私も、もう勝手に指揮官を変えて欲しいなんて言わない。“事件を解決する為”に、少しだけ苦しいの取ろう。」相手が懸念する全ては何も起こらないと諭しつつ、点滴の管に繋がれる手の甲を親指の腹で緩く撫でて )




  • No.4990 by アルバート・エバンズ  2025-06-04 10:09:13 

 





( 相手の口から紡がれた問い掛けに、思わず言葉を失う。いつからか相手の瞳が過去の記憶と結び付き不安や恐れを感じるようになって居た事に、其の所為で無意識ながら相手と視線が重なるのを避けてしまっていた事に、相手は気付いていたのだろう。少なからず傷付いていた事を、一瞬翳ったように見えた表情から察するとそれ以上の拒絶の言葉は続かなかった。「……自分でもどうしようもないんだ、…意思とは関係なく、過去の記憶が呼び起こされる。気付いた時には、記憶の波に飲まれた後だ。」相手の言葉を否定する事なく、やがて視線を落としたまま言葉を紡ぐ。相手が悪い訳でも、自分がそれをコントロールできる訳でもない。些細なきっかけがフラッシュバックを引き起こし、何が起きたのか理解出来ないままに苦痛の中に突き落とされるのは、酷く辛い事だった。---事件を解決する為に鎮静剤を使う_______確かにこれまでのトラブルでは、自分の事をよく知らない医師による薬の処方が原因となっていた。主治医が、副作用が少なく気持ちを落ち着ける事が出来ると言うのなら、それに頼るのは悪い事ではないのかもしれない。現に頻繁に発作が起きコントロール出来ない状況には疲れ果てていた。手の甲を撫でる相手の指先を見つめながら、何と答えるべきか決めかねていて。 )








 

  • No.4991 by ベル・ミラー  2025-06-04 19:30:19 





( 沈黙の後、視線を落とし紡がれたのは否定では無かった。つまり互いに“緑の瞳”に思う所はあると言う事だ。責める事は勿論せず言葉を肯定する様に一度軽く頷き「わかってる、誰のせいでも無い。」優しい相手が罪悪感を覚える事の無い様に柔らかく微笑む。今、何よりも優先すべき事は相手の苦しみが僅かでも良い、軽減される事だ。骨張った手の甲を撫でている指の動きはそのままに、様々な事を考えて居るのだろう、沈黙を落とし続ける相手のやや伏せられた瞳を見詰める事数秒。「__思考が上手く働かない時は、もどかしいかもしれないけど私も一緒に考える。この捜査を担当してるのは私達2人だよ。…薬を飲んで、仕切り直そう。」此方まで薬の副作用に意識引っ張られ考え過ぎては、それを飲む本人はもっと不安になるだろうと、努めて普段通りの声色を心掛けつつ、“捜査を続ける”事を中心に置いた声掛けを )




  • No.4992 by アルバート・エバンズ  2025-06-04 22:13:15 

 






( 此れまで幾度と助けられて来たのに今になって“相手の瞳が怖い”だなんて。相手を傷付けるという事も分かっているのに、自分ではこの恐怖心をどうしてもコントロールする事が出来なかった。続いた相手の言葉は、変わらず自分を支えようとしてくれているもの。その上捜査を外れなくて済むようにという思いが籠っているもので、これ以上拒絶を続ける必要もないと思えた。やがて小さく頷くと「_______分かった、」と鎮静剤を処方して貰う事を了承して。---倒れた時に頭を打った事で少しズキズキとした痛みはあったものの身体は楽になっていて、主治医も今すぐに入院による加療が必要だという見解ではなかったようで捜査に戻れる事に安堵する。ようやく犯人に近づく事が出来たのだから、このまま解決まで導かなければならないと決意を新たにして。 )







 

  • No.4993 by ベル・ミラー  2025-06-04 22:58:38 





( 正直な所、数時間による説得も覚悟の上だった。それ程迄に相手が鎮静剤に良いイメージを持っていない事はわかっていたから。だからこそ100%の納得では無かったとしても了承してくれた事に大きな安堵を覚え。___MRIの結果も問題が無く、処方される事となった鎮静剤は朝食後に一錠飲めば夜まで効果が緩やかに持続する軽いもの。アダムス医師から相手へ、直接注意事項や現在飲んでいる安定剤や鎮痛剤と併用しても問題が無い事が告げられ、点滴終了後に病院を後にする事となり。___空は薄い雲と、隙間から漏れる夕日の橙がコントラストを描いていた。「点滴の効果が切れる前に、もう少し証拠を掴もう。」相手と共に車に乗りエンジンを掛けると、告げたのは家に戻り休む提案では無く、暗に署に戻ると言うもの。今が相手にとって一番身体が楽な時である事は明白で、事件現場で倒れ、何時間も捜査が出来なかったもどかしさを抱えて居るだろう事もわかっていた。だからこそ、今日はこれ以上休めと口煩く言うつもりは無く。車を発進させながら考えるのは明日以降の事。明日の朝飲む鎮静剤は、幾ら軽いものとは言え果たしてどれ程の副作用を相手に齎すのだろうか )




  • No.4994 by アルバート・エバンズ  2025-06-05 00:48:40 

 




( 倒れたのだから休むようにと言う事も無く、いつも通りに相手が署へと車を走らせた事はありがたい選択だった。時間を大幅にロスしている分、薬が効いて落ち着いている今は捜査を少しでも進めたい。自身の思いを、相手も主治医も少なからず汲んでくれている事は理解できて、礼を述べる事こそしなかったものの其れは信頼に繋がるだろう。---翌日、1錠増えた薬を朝食後に飲みいつも通り仕事へと向かう。薬が効き始めている事を感じたのはその数時間後。体調は安定していて、焦りや不安が胸の内にさざめく事もない。けれど倦怠感や頭がぼんやりするような感覚があり、少し身体が重い。報告書や資料に目を通すも、内容を理解し読み込むスピードが普段より遅いように感じた。「……ミラー、コーヒー淹れてくれ。」少しして相手に頼んだのはブラックコーヒー。少しでも頭を覚醒させたいと思っての事だった。 )






 

  • No.4995 by ベル・ミラー  2025-06-05 11:04:22 





( ___朝飲んだ鎮静剤が効果を発揮しているのか、唐突に響く物音や遺体の写真で発作を起こす事も無く、視線が重なっても相手の褪せた碧眼に恐怖の色が滲む事は無かった。けれど副作用もまた同じ様に顔を覗かせているのだろう。資料に目を通して居た相手からふいにコーヒーを所望されれば、頷き直ぐに給湯室へと向かい。__相手専用のマグカップの中に注がれた黒はその水面を揺蕩わせ香り良い湯気を生んだ。「お待たせしました。」と声を掛け相手にマグカップを手渡すと、「どんな感じ?」と問い掛ける。それは勿論の事、報告書や書類についてでは無く鎮静剤を服用した相手の体調、その副作用についてだ )




  • No.4996 by アルバート・エバンズ  2025-06-06 13:47:01 

 





( 身体が有無を言わさず休息を欲するようになるのも、鎮静剤の副作用なのだろう。以前も、そして今も、普段のように少しの無理をする事が出来なくなる。確かに此れまで鎮静剤を服用していた時のように身体が辛いという感覚は無いのだが、普段に比べて格段に情報の処理スピードが落ちる事はストレスだった。些細なきっかけが発作に繋がる事はなく、其処の“結び付き”も鈍くなる一方で他の感覚も鈍くなっているのだろう。相手から手渡されたマグカップを受け取り、コーヒーを口にしつつ「……内容が頭に入って来ない、」とひと言。思考が思うように働かない事に少なからず苛立ちを感じているのは明らかで、こめかみを抑えて。 )






 

  • No.4997 by ベル・ミラー  2025-06-06 20:14:35 





( アダムス医師が言った通り“違和感”は顕著に現れている様で、返事の端々に苛立ちの色が滲んでいるのを感じた。頭の回転が早く感覚が鋭い相手の事だ、もしかしたら他の人が同じ鎮静剤を服用した時に現れる副作用の倍の違和感を感じているのかもしれない。前程では無い…なんて言葉は相手にとっては何の慰めにもならないだろう。「…文字を追うより、映像として視覚に働き掛けた方がまだ頭には残るかも。」此処は書類と向き合うのでは無く、監視カメラ映像等の直接動き、音の出る物に意識を、と別の角度からの提案するも、“副作用”として現れる以上全て消し去る事は出来ないとも理解していた。そうして己に出来る事が殆ど無い事も。「__これ、気休め程度にしかならないかもしれないけど。何も無いよりは良い筈だから。」ジャケットのポケットから取り出したのは眠気防止のタブレット。強い清涼感のあるそれは、夜遅くまで捜査をした日の帰り道に運転に集中する為食べている物。ほんの僅かでも何か変われば良いと思っての事で )




  • No.4998 by アルバート・エバンズ  2025-06-07 02:18:39 

 





( 全てが何の犠牲も無く丸く収まる、という事は何事に於いても滅多に起き得ない。発作が頻繁に起きる辛い状態を脱するのと引き換えなのだから、少しの我慢が必要な事は分かっていたが、それでも不便さや違和感に苛立ってしまう。「…ああ、」と気のない返事ながらも大人しく相手が手渡してくれたタブレットを受け取り。---相手の提案通り防犯カメラの映像や、任意聴取をした時の録音などを再確認したものの、やはり情報の処理スピードの遅さは痛感させられる事となった。疑わしい人物としてマークしている為把握していたはずの複数の被疑者の内、名前と被害者との関係性、アリバイが結び付かず資料を確認する手間が増えた。倦怠感が纏わり付き、集中力がいつものように持続しない。夜になる頃には積み重なった苛立ちを分かりやすく醸し出す事となり。---『…ねぇ、警部補と何かあった?かなり虫の居所が悪そうだけど、』相手にこっそり話しかけて来たのは、隣の席のアンバー。彼が感情を露わにする時は相手が関わっている事が多い、という此れまでの経験を元にしたイメージのままに相手に尋ねる。『さっきもロドニーが、“要領を得た説明をしろ”って怒られてた。』と、肩を竦めて。 )







 

  • No.4999 by ベル・ミラー  2025-06-07 23:00:17 





( わかり易い程の気の無い返事に若干困った様な苦笑を浮かべるも、これ以上あれこれと言えば苛立ちが募り続けるだけだろうと軽く頭を下げ警部補執務室を出て。___夜になる頃には刑事課フロアに居る署員のほぼ全員が相手の苛立ちに気が付いて居た。フロアは何時にも増して静かで、何処となく微妙な空気も漂っている。八つ当たりをされたくないと、極力相手に話し掛け無いようにしている署員が居るのも傍目に感じていた。思わず溜め息が漏れた時、ふいに隣の席のアンバーが此方に身を寄せた事で顔を近づけると、尋ねられたのは矢張りこの空気を生み出して居る相手の事。彼の機嫌が悪い時、確かに己が関わっている事が多いのは認めるが、アンバーの中でもその認識だったなんて。今回は違うと思わず態とらしいジト目を向けるも直ぐに肩を竦め「捜査が思う様に進まなくてね。…さっきコーヒー頼まれたんだけど、お菓子も付けなかったから怒ってるのかな?」まさか体調の事や薬の事をあれこれ説明する訳にもいかず、捜査と言う無難な単語を出しつつも、不穏な空気を少しでも払拭すべく有り得ないと互いにわかる冗談を一つ。それから名前の上がったロドニーを一瞥する。少しばかり表情が暗いものだから「……エバンズさんと話してみるよ。」と、呟き視線を再びアンバーに向け小さく微笑んで )




  • No.5000 by アルバート・エバンズ  2025-06-11 03:59:30 

 




( 主治医の想定通り、鎮静剤を服用する事で体調は改善したと言えるだろう。この事件の捜査を始めてから大小こそあれど1日に何度も発作を起こすようになっていて、何が其の引き金になるかも分からなかった。けれど今は其の不安定さはない。正しい処置なのだろうと分かって居ながらも苛立ちを拭い切れないのは、今の状態があまりに自分の“理想”とかけ離れているからだろうか。真剣に向き合い解決しなければならない、被害者の無念を晴らさなければならないと何よりも強く願っているのに捜査の進展は遅く、自分の思考も追い付いていない。焦りばかりが先行して、自分の感情をコントロール出来ていないのだと少し冷静になれば分かるのだが。苛立ちを抑えられず集中力も持続していない今の状態で署に留まっても良い事はないと見切りを付け、仕事は持ち帰ろうと、普段よりも早い時間に執務室を出た。相手のスマートフォンに「帰る頃に連絡をくれ」とメッセージを入れたのは、相手が家に戻る時間まで別の場所で時間を潰そうと思ったから。未だ署員達もまばらに残っている時間帯、執務室の明かりが消えた事に驚きと少しの安堵が入り混じった表情で目配せをする者も居ただろう。 )








 

  • No.5001 by ベル・ミラー  2025-06-11 13:59:56 





( アンバーと相手の機嫌の話をし、折を見て様子を確認しようとしていた矢先。警部補専用執務室の扉が開き鞄を持った相手が出て来れば、身構えた署員達数名を筆頭にフロア内が一度わかり易い程に静まった。続けてデスクに置いたスマートフォンがメールの受信を知らせ、見れば普段よりも随分と早い帰宅を示す文面が。鎮静剤の効果で調子の悪さはかなり軽減されている中、仕事人間の相手がこんな早く帰ると言う事は矢張り副作用が大きく影響しているに違いない。そのメールに返信する事無くノートパソコンの電源を落とすと、カーディガンと鞄を引っ掴み、隣のアンバーに挨拶をして小走りに刑事課フロアを出て。___「…エバンズさん!、」相手の背中に声を掛けたのは署を出た所。小走りで駆け寄りその距離を縮めては「帰る頃になった。」さも当たり前の様に微笑んだ後「先に寄りたい所があるからちょっと付き合って。」と。___相手を助手席に乗せ車を走らせたのは街を抜けた静かな道。この道を以前も通った事はあるがその時はまだ昼間だった筈。やがて到着したのは相手の記憶にもあるだろう数回訪れた事のある海。昼間の様に海の青さを感じる事は無く、夜特有の暗く冷たい雰囲気こそ漂うが、騒がしくも無いこの場所は今必要な場所の様に思えたのだ。ライトを消しエンジンを切ると隣の相手に顔を向け「…少しだけ、寄り道しない?」と既に目的地に到着した後ながら提案をして )




  • No.5002 by アルバート・エバンズ  2025-06-17 13:11:33 

 





( 突然背後から自分の名前を呼ぶ声が響いて振り返ると、鞄を手にした相手の姿。つい先程、執務室を出た時には未だデスクに居たはずの相手がもう”帰る頃になった“と言って此処に居るのだから可笑しな話だ。自分に合わせて無理に急がなくて良いと伝えようとしたものの、付き合えと言われては其の言葉も飲み込み、ややして大人しく助手席へと乗り込んで。---車は町を抜け静かな道へと入り、やがて暗がりの中でも緑が目立つようになる。軽く倒した背もたれに身体を預け、何を語るでもなくぼんやりと車窓へと視線を送り、見覚えのある道だと気付いたのは随分と目的地に近付いてからだった。エンジンを切り静けさと波音ばかりが響くこの場所で徐に向けられた提案には「…普通着いてから言う事じゃないだろう、」と呆れたようにひと言告げたものの、その提案自体を無碍にする事はしない。帰ると言う事はせず、車内から海を眺められれば良いのか、或いは波打ち際の方まで行きたいのかと視線で相手に問い。 )






 

  • No.5003 by ベル・ミラー  2025-06-17 21:22:00 





細かい事は気にしない。…それにね、此処なら8割断られないだろうって自信があったんだ。
( 遅過ぎる提案に返って来たのは案の定呆れを前面に出した返事。全く細かい事では無いものの、悪戯に口角を持ち上げ肩を竦めた後、何処からそんな自信が来るのか今度は僅かはにかんだ笑みを送り。遠くに街灯はあるものの車のライトを消してしまえば辺りは闇に飲まれる。一度フロント硝子から外を見て考える間を空けたのは、静まった車内で視線で問われた選択に若干の遠慮をしたから。けれど本当に嫌な選択は選択肢から除外するだろう相手の事、此方に委ねてくれているのだと判断すれば「__近くまで行きたい。」と、言葉にし車を降りて。___吹き抜ける柔らかな海風はこの季節の蒸し暑さを消し去ってくれるようだった。砂浜を踏み締めた時の独特の感触が靴を履いていても足の裏に伝わる。暗い空と暗い海、一定間隔の波の音。「…暗いね、」なんて極当たり前、見たままを小さく呟くと軽く相手を見上げて )




  • No.5004 by アルバート・エバンズ  2025-06-20 17:18:40 

 





______着いてからじゃ断りようも無いだろう、
( 相手の言葉に対してぶっきらぼうな返答をしたものの、実際帰りたいと言う事もなくこの場に留まっている事がその証明とも言えるだろう。足元が見えにくいとか靴の中に砂が入るとか、多少なり日中の苛立ちを引きずっている状況で言いたい事は色々あるのだが、それを言葉にする事はせず波打ち際まで相手と共に向かう。海を眺めるのは嫌いではないのだ。「…夜だからな、」相手から落とされた言葉には、此方もまた至極当たり前の、そして相も変わらずぶっきらぼうな返答を。波が来ない場所に徐に腰を下ろして暗闇の中寄せては返す波に静かに視線を向けて。 )






 

  • No.5005 by ベル・ミラー  2025-06-20 22:19:12 





( 相手はそう言うが果たしてどうだろうか。本当に嫌だった場合、例え既に目的地に到着していたとしても“帰る”と主張し続けただろうし、まして波打ち際まで行くかどうかと言う選択肢を此方に委ねて来る筈が無い。ぶっきらぼうな返事の裏にある“別に良い”を勝手に抜き取り「確かにそうだね。」と頬を緩ませると相手と同じく隣に腰を下ろして。___返って来た当たり前の返事には小さな笑みを。その後互いに口を開かなければ聞こえるのは波の音だけ。酷く居心地が良く感じるこの時間で、職場での相手の苛立ちに此方から触れる事は辞めようと思った。その代わり海を見詰める端正な顔を、冷たい月の光を受ける碧眼を横から見「…帰ったら、何も考えなくて良い時間を作ろう。甘さ控え目のホットミルクと、アーモンドチョコで寝る前の贅沢な時間を満喫するの。今日は月が明るいから、電気点けないで過ごすのも良さそうじゃない?」語調こそ穏やかなものなれどやけに饒舌な理由は自分でも説明が出来ない。そうして静かに伸ばした手で相手の袖口を軽く掴んだその理由もまた、説明の出来るものでは無かった )




  • No.5006 by アルバート・エバンズ  2025-06-24 14:29:17 

 






( 普段なら執務室でパソコンと向き合っている時間。それなのに今は暗い海を前に波音を聞きながらこうして砂浜に腰を下ろしている。隣の相手も日中の自分の態度に対して思う事もあるだろうに何を言うでも無くこの後の過ごし方を提案されると、ややして「……偶には良いかもな、」と答えた言葉は、幾分棘の抜けた声色で紡がれて居ただろう。未だ夜更けでも無いのに少しの眠気を感じるのも薬の影響か。しかし相手と話している分には不自由を感じる事が無いため、確かに医師の言う通り副作用が最小限に抑えられた薬ではあるのだろう。「_____思考が不明瞭なのがストレスだ。…自分の思考に、意識が追い付いて来ない。」日中に感じていた苛立ちを静かに言葉にした。その背景には、一刻も早く事件を解決しなければならないのにという“焦り”ばかりがある事は自分でもわかっているのだ。 )





 

  • No.5007 by ベル・ミラー  2025-06-25 18:36:15 





( 静かに返された同意の言葉に微笑んだのは、そこに滲む僅かな穏やかさを拾ったから。袖口から手を離し意味を持たない直接的では無い触れ合いを終えて視線はまた暗い海へと向く。___波音と共に鼓膜を揺らしたのは静かに吐露された気持ちだった。再び隣の相手を一瞥し、そうして視線を前に戻す。確実に犯人逮捕まで近付いているこの段階で思考が不明瞭だと言うのは、相手自身が一番苛立つ事だろう。それを感覚の鋭さで敏感に感じてしまうから尚更の筈だ。「__焦らないでゆっくり…なんて悠長な事を言ってる場合じゃない事も、到底そんな気持ちになんてなれない事もわかる、」と、共に事件の捜査を担当しているからこその、そこの部分の共感を口にした後。「靄が掛かってる感じ?」相手の苦しみの部分を静かに問い掛けて )



  • No.5008 by アルバート・エバンズ  2025-06-28 13:35:01 

 






( 頭が上手く回らない此の感覚を、どう言葉にすれば良いのか分からなかった。相手に問い掛けられた事で改めて苛立ちの原因を冷静に分析すると、考えながら言葉を紡ぐ。「靄掛かっているのとも少し違う。……データを開く処理速度が遅いと言うべきか、…時々思考が途切れるような感覚が近い、」と言葉にして。考えたい事があり、いつも通りに色々な状況を頭の中で整理したいのに、パソコンが重くて一向にデータが開かない時のように思考が付いていかない。途切れそうになる思考を保とうと躍起になる事も、自分のペースで物事が進んでいかない事も苛立ちに直結するのだと。「……でも、確かに身体は楽だ。過去の記憶が強制的に引き出されるあの感覚が薄れている事に、助けられてる。」実際副作用と引き換えにずっと辛かった身体の状態が少し落ち着いているのだと正直に言葉にする。感覚が鈍っていると言うべきか、些細な事で発作を起こしていた苦しさから解放されている今の状況は大きい。医師の見立ては正しかったと言うべきだろうと、暗い海に視線を向けつつ小さく息を吐き出して。 )







 

  • No.5009 by ベル・ミラー  2025-06-29 10:52:12 





( “データを開く処理速度が遅い”と言うのは自然と想像の出来るわかり易い例えだった。急ぎの書類を作成しなければならない時、被疑者の勾留時間が残り僅かしか無いのに絶対的な証拠を見つけられない時、一分一秒も無駄に出来ない中で一向に開かないデータを前に募るのは間違い無く焦燥と苛立ちだ。「それは__物凄く腹が立つ。新しいパソコンに買い替えたくなるくらい。」100%全ての気持ちをそれで代弁出来る訳では無いだろうが、想像し眉の寄った険しい顔でそう静かな言葉を落とした後。それでも副作用と引き換えにした辛さが軽減されている、との素直な言葉には確かな安堵が生まれた。本来ならば何かと引き換えになどせずとも常に痛みからも苦しみからも解放されていて欲しいのに__。「……今はきっとエバンズさんに必要な物だよ。」捜査を降りる選択を決してしない相手に掛けた鎮静剤が“必要”と言う言葉。けれど心の奥底で燻る不安もある。事件解決後、心身に大きな負荷が掛かった相手に襲い来る何か嫌なものが具現化されそうな感覚。杞憂であって欲しいと願う反面、どうしても逃れられない気がしてしまうのだ。___吹き抜ける海風に冷たさが増した気がして隣に視線を向ける。「風、冷たくなって来たね。そろそろ帰る?」終わりの選択は相手に委ねようと問い掛けて )




  • No.5010 by アルバート・エバンズ  2025-06-29 13:06:50 

 





( 波が寄せては返す音を聞きながら涼しい風に当たり、相手の言葉を聞いている内にささくれ立っていた心が幾らか落ち着きを取り戻したのは確か。「______泣き言を言ってる場合じゃないな。此処まで捜査を積み重ねてきた、1日でも早く逮捕に踏み切れるように進めるのみだ。」決意を口にしつつ、“その先”の事は自分でも見通せない。必死に自分を奮い立たせ、心身に鞭打って立ち続けて来た今回の事件。ただ一つの目的はこの事件を解決する事、其れを達成した後の事は考えても居なかったが、今のように立っていられるだろうか。そんな珍しく弱気な考えが顔を出しそうになるのを振り払うと、「あぁ、戻ろう。」と頷いて立ち上がり、軽くスーツに着いた砂を払うと相手と共に車へと戻って行き。 )







 

  • No.5011 by ベル・ミラー  2025-06-29 14:54:28 





そうだね。私も悩んでる時間が惜しい。
( 相手が口にした決意は“らしい”もの。同意する様に真っ直ぐに海を見ながら頷いた後、少しの名残惜しさの様な感情の揺れを抱えたまま相手と共に車に戻り来た道を引き返し家へと帰って。___暗い海で話した通り、テレビも点けない静かな部屋の中で共にソファに座り蜂蜜入りのホットミルクとアーモンドチョコレートで穏やかな一時を過ごした。カーテンの隙間から射し込む月明かりが部屋の中をぼんやりと照らし、何処か神秘的な空間に染め上げる中でする会話は決して多くは無いが居心地の良い時間。多少特殊な上司と部下の関係を物語る一つのベッドで眠ると言うそれもまた、余す事無く安心へと繋がる。そうやってその日の1日を終え、翌日から変わらず一分一秒でも早い犯人逮捕を目指し捜査を続ける日が続いて )




  • No.5012 by アルバート・エバンズ  2025-06-29 19:26:34 

 





( ______事件解決までの道のりは長く、当初の想定よりもかなりの時間を要したと言えよう。しかし最終的に掴んだ証拠から容疑者として浮上した、カフェの客だった男の偽装されたアリバイを崩し、逮捕状を男に突き付けたのが今朝の事だった。“俺じゃない”と何度も無実を訴え喚いていた男だったが、隠蔽工作や偽装されたアリバイの証拠をひとつずつミラーが提示して行くうちに大人しくなり、その後『仕方なかったんだ!』と再び喚き始めた。犯行を認める言葉に深く息を吐き出した後、「……連行しろ、」と控えていた署員に指示すると暴れる男は手錠を掛けられ車に乗せられた。車がひと足先に走り去り、相手と2人になった家の前でもう見えない車の方向を向いたまま、終わったのかと妙に冷静に考えていた。喜びや達成感とは程遠い、犯人を逮捕しても尚胸の内に渦巻くのは虚無感に近い感情。犯人が明らかになり、身勝手な動機や浅はかな人間性を目の当たりにした事が寧ろ虚無感を増長させたと言っても良いかもしれない。“彼女”はこんな男の、一時の感情によって殺されたのか、と。外で吸う事は滅多に無いのだが、ジャケットの内ポケットに入れていた煙草を徐に取り出し火を点けると、犯人の家の敷地で階段に腰を下ろして煙を吐き出した。やりきれない感情をどうにかしたかったのだが、煙草の煙で身体を満たした所で気が晴れる訳でもない。「……事件は解決した。…犯人は裁かれ自分の罪を償う事になる、」相手にも労いの言葉を掛けられぬまま、自分に言い聞かせるかのように言葉を紡いで。 )






 

  • No.5013 by ベル・ミラー  2025-06-29 21:38:46 





( 散々無実やら身勝手な理由やらを喚き散らしていた男が連行され辺りは静かな住宅街の色を取り戻した。数台の警察車両に何事かと表に出て来ていた近隣住人の姿ももう無い。後に残るのは事件を解決しても尚残る重たい空気だけ。___追い風の微風に乗って香ったのは煙草の紫煙だった。振り返ると階段に腰を下ろした相手が煙草を燻らせていた。寝付きが悪く気持ちを落ち着かせる時など、たまに部屋の中で吸っている姿を見る事はあれどこうして仕事中、外で吸っている姿を見たのは恐らく初めての筈。煙に続いて吐き出された言葉はきっと己に向けたものでは無く、言うなれば相手が相手自身に言い聞かせる為に落とした言葉の様に聞こえた。「…そうだね。出来る限りの重い刑で、一生償い後悔し続ければいい。」相手の隣に腰を下ろし、低く冷たい声色でそう答えれば、一度深く息を吐き出し。「__…やりきれないね、」続けたのは短い素直な気持ち。犯人は逮捕されたがだからと言って彼女が生き返る事は無いのだから )




  • No.5014 by アルバート・エバンズ  2025-06-29 22:20:18 

 





( この事件をなんとか、自分の手で解決しなければと必死になって来た筈だった。犯人逮捕だけを目標に、正に捜査に心血を注いだ筈だった。けれど其の悲願を達成しても晴れる事のない気持ちを抱え、中途半端に取り残されてしまったような、虚無感にも似た感覚ばかりが纏わり付いている。相手も似た気持ちを抱えているのだろうと思えば、その言葉には小さく頷く事で同意を示し。座り込んだ場所から立ち上がるのが酷く億劫に思えたが、一番に向かうべき所はあのコテージだろう。短くなった煙草は家の前にでも捨ててやろうかと思ったものの、余り使われず新品同様の携帯用灰皿へとしまい立ち上がる。「…コテージに行こう。彼女に報告したら署に戻る、」と告げて、車へと歩き出し。 )






 

  • No.5015 by ベル・ミラー  2025-06-29 22:52:35 





( 正直な気持ち的には再びコテージに行く事に一抹の不安があった。例え事件解決の報告であってもあの場所は“思い出す”には十分過ぎる場所だからだ。けれど同時に心身を擦り減らし此処まで来た相手だからこそ、報告をすると言うのは矢張り必要不可欠な事だとも思うのだ。それは刑事としてだけでは無く1人の人として。___車を走らせ辿り着いたコテージは相変わらず鳥の鳴き声と風が葉を揺らす耳心地の良い音が聞こえる静かな場所だった。この場所で悲惨な殺人事件があったなどと、言われなければ誰も信じないだろう。___エンジンをきって車を降りる。落ち葉を踏む音がやけに大きく聞こえる中、相手の斜め後ろを歩きその背を見詰める。余りに大き過ぎる苦しみを背負い、それでも立ち続ける相手が何時か消えてしまう様な、そんな漠然とした不安を此処最近感じる様になっていた。手を伸ばし、その腕を取り、もう良いのだと言う事が出来れば…否、例え出来たとしても相手の歩みは止まらないだろう。「…痛みを感じた時間が、ほんの僅かであって欲しい。」中へと足を踏み入れた開口一番はそれ。即死では無かったのだから、どうしたって痛みも恐怖も感じてしまっただろう。それならばせめて、と。外の澄み切った空気とは違い、コテージの中は酷く重たく“死”を強く感じた気がした )




  • No.5016 by アルバート・エバンズ  2025-06-29 23:24:06 

 





( 此の場所は記憶を色濃く甦らせる。少しでも気を抜くと過去に意識を奪われるという恐怖心は少なからずあり、目の前の物だけを見据えて中へと足を進め。彼女が死の間際何を思ったかは分からないが、相手の言う通り痛みや苦痛、悲しみと言った負の感情を感じる時間が少しでも短ければ良いと思ってしまう______実際そうで無くても、残された者はそう願い続ける。---彼女が倒れていた場所は暖炉の近く、絨毯の上。其の光景が鮮明に甦りそうになり軽く目を閉じて再び開く。その場所で静かに手を合わせるも、犯人を逮捕した事を彼女が“喜んでいる”と思う事が出来なかった。自分の行動を悔いている訳でもない愚かしい犯人を逮捕してその目的が少なからず果たされた途端、進む道が途絶えてしまったかのようだった。「……犯人を逮捕するために、必死になっていた筈なのに…あの男を逮捕しても、虚無感ばかりが残る。事件を解決すれば、何かが変わると思った______でも、何も変わらない。セシリアも、アンナも、生き返らない。」事件を解決した事を喜び、いつものように相手の働きに感謝の言葉を述べる事も今はままならず、どうしたら良いのか分からない不安定な思いが溢れていて。 )







 

  • No.5017 by ベル・ミラー  2025-06-29 23:57:55 





( 相手の隣で視線を絨毯の敷かれる床へと落とす。広がる染みが何かなど考えるまでも無い。艶やかな髪の散り具合も、寸前まで恐怖を宿していてだろう光を失った緑眼も、これだけの日数が過ぎても昨日の様に思い出す。___不安定に揺れる静かな相手の声が静まり返ったコテージの中で大きく聞こえた。刑事に出来る唯一の事は犯人を逮捕し事件を解決する事。それが被害者が天国で喜んでくれる事に、残された遺族の心の痛みを僅かでも軽減する事に繋がるだろう。そう信じるしか無い。だが、実際どうだろうか。犯人逮捕は勿論望まれる事だ。だがそれを果たしたとて、亡くなった人が戻る事は決して無いのだ。遺族が、被害者本人が心の底から望む事はたった1つ、“今まで通りの日常”であろう。それを叶える事はどうしたって出来ない。「……私達は、無力だね。」相手の言葉を聞き、思わず漏れたのは余りに苦しい現実。「…身勝手な理由で奪って良い命なんて、そんなのある筈無いのに。…昨日まであった日常が急に消えて、それが、その傷が、簡単に癒される筈なんて無いのに__何で…そんな簡単な事もわからないで、」絨毯を見詰めたまま続けた言葉は途中喉に引っ掛かり、音を止めた。拳を握り締めた掌に爪が食い込み、その痛みが心の痛みと繋がる。相手は今、どんな顔をしているだろうか。見上げる事が何故か躊躇われ、深く息を吐き出した後、拳の解いた手を隣の相手の背に軽く添えて )




  • No.5018 by アルバート・エバンズ  2025-06-30 00:19:03 

 





( 自分たちに出来るのは、起きてしまった事件の真相を突き止め犯人に裁きを受けさせる事。多くの場合、未然に事件を防いだり人の命を救う事は叶わない。だから相手の言う通り“無力”なのだ。日常が壊れた後にしか、自分たちは動けない。背に添えられた相手の掌の温度を感じて、視線を落としたまま静かに息を吐き出す。やりきれない思いを抱えているからと言って、幾ら泣き言を言っても何も変わらない。またいつものように、刑事として進んでいく______其れが自分の望んだ道だ。「……今回は、色々とお前に助けられた。感謝してる。」それ以上弱音を吐く事は選ばず、普段の毅然とした態度でそう言うと署に戻ろうと相手を促しコテージを後にする。このままやるせない気持ちを抱えながらもいつも通り次の仕事が舞い込んで来て、捜査に赴くのだと、この時は思っていた。 )






 

  • No.5019 by ベル・ミラー  2025-06-30 00:42:36 





( 紡がれたお礼に返したのは首を横に振ると言うそれだけ。犯人逮捕に全力を尽くした事は事実、けれど事件と並行して“相手の心”を助ける事が出来たかは別だ。事件に集中しなければならないと、それが刑事である己の務めだとわかっていても心をそれだけに向ける事など出来ないのだ。例えFBI失格だと言われても。___相手に促されコテージを出る前、最後にアンナが倒れていたその場所に視線を落とす。笑顔の彼女の姿だって確りと覚えている。誰も居ないそこに一度だけ軽く頭を下げてコテージを出れば相手と共に署へと向かって。___それから2日後、出張に出ていた警視正が帰って来た。報告書の提出と共に口頭での事件解決の報告や詳細を伝える為先に警部補専用執務室の扉を開ける。「エバンズさん、準備出来ました。」仕事の区切りをつける事が出来、警視正の元に行けると伝え。___この2日間、相手に対して“違和感”を感じていた。それは何か説明の出来ない程の小さなものだったが、確かに頭の奥で警告を鳴らす様な違和感。それが何か、この時はまだわからずにいて )




  • No.5020 by アルバート・エバンズ  2025-06-30 01:53:17 

 





( 事件を担当する上で感じる虚無感や無力感というのは、刑事であれば誰もが通る道。其れは時間の経過や仕事に追われている内に徐々に薄れ行くのが常なのだが、今回は何故だろうか。日ごとに虚無感が深く根を張り心を絡め取られるような感覚があり、仕事に向き合う事が出来なくなっていた。“糸が切れた”と表現するべきか、あの事件で犯人を逮捕した瞬間から捜査に対する情熱のようなものが消えてしまった気さえするのだ。精神力だけで立っていた物が崩れつつあるのか、今は体調が酷く悪いと言う訳では無かったが身体が重たい感覚があり、鎮静剤の効果も相まってか仕事に向き合う事が億劫に感じられた。こんな状態では捜査に当たる事は愚か、刑事たちの上に立ち業務を遂行する事さえままならないと言えよう。---相手の声掛けに顔を上げると「…あぁ、今行く。」と答えて立ち上がる。胸の内は空虚なのだが、身体も未だ持ち堪えていた為、ここ数日普段通りに振る舞う事は出来た。この感情を、言い様のない苦しさを、相手に話す事はしていない。此れから警視正に話そうとしている事を相談する事も。警視正の部屋をノックし相手と共に入室すると、捜査報告書を手渡し「_____容疑者のアリバイ捏造や証拠の隠滅などもあり、想定よりもかなりの時間を要しましたが容疑者の逮捕に至りました。」大まかな捜査の流れや鑑識との連携の改善点などを交えながら、今回の捜査の報告を行い。 )







 

  • No.5021 by ベル・ミラー  2025-06-30 11:03:37 





ウォルター警視正



( 相手から手渡された報告書にザッと目を通した警視正は、同時に口頭で紡がれる捜査報告を時折相槌交え聞き終えた後『__改善すべき点がお前達の中で確りとわかっているのなら問題は無い。ご苦労だった。』と、両者に順番に視線を向け労いの言葉を掛けた。それから受け取った報告書をファイルの中に仕舞い込み、別のファイルから一枚の書類を取り出すとそれを相手に差し出しつつ『…2人にはパインストリートに向かって貰いたい。近隣住人から不審者を見たとの通報があってな、勿論地元警察も巡回は強化すると言っているが__どうにも心配性なご年配女性がFBIに、と譲らないらしい。』若干の困った様な苦笑いと共に次なる仕事を告げ。それは相手の心身に今何が起こって居るのか、それに対して相手がこれから話そうとしている事を知らないからこそで )




  • No.5022 by アルバート・エバンズ  2025-06-30 14:44:27 

 





( 労りの言葉に軽く頭を下げ、報告が以上であれば引き続き警視正と話を、と思ったものの次の捜査依頼と共に資料を差し出されると、その紙に視線を落としたものの受け取る事のないまま動けなくなる。次の仕事を受けるのは簡単だ、いつも通り資料を受け取り内容を確認して現場に赴けば良い。それも重大な事件性が有るものではないため負担も少ない。けれど。結局其の紙を受け取る事はせずに顔を上げると「_____警視正、少しお話があるのですが。」と言葉を紡いで。本当は相手が席を外した状況で話そうと思っていたのだが、自分たちに捜査を依頼されている状態で今から退室を促すのも可笑しいだろう。「……少し、休みを頂けませんか。次の捜査も依頼いただいている状況で申し訳ありませんが、少し勤務日数を減らしたいと考えています。」特別具合が悪そうな様子も、憔悴した様子も見せずいつも通りと言えばいつも通りの毅然とした態度ながら、願い出たのは非常勤での勤務。「管理業務はなるべく影響の出ないように行います。事件の捜査に関しては…暫く、別の刑事に。_____中途半端な勤務が支障を来たすようなら、休職も視野に入れています。」表向きはいつも通りを装っていても、心の穴は広がるばかり。張り詰めていた糸が切れた今、そう時間を要さずに“前借りしたもの“のツケが回ってくる。いつ内側から崩れ始めるか分からないような不安定な状態を、自分自身は感じていた。 )







 

  • No.5023 by ベル・ミラー  2025-06-30 20:18:13 





ウォルター警視正



( 相手の手に渡らない資料を挟み3人が微動だにしない静かな時間が数十秒続いた。明らかに変わった空気に警視正は怪しむ様に僅か眉を寄せ、ミラーは隣に立つ相手を神妙な面持ちで見詰める。__と、その静寂を破ったのもまた相手だった。その口から出た休みの所望に今度は警視正は一瞬目を見開き、ミラーは思わず「え、」と声を漏らし表情に隠し切れない驚愕と不安を滲ませた。それはそうだろう、何があっても仕事を優先させ幾ら此方が休めと言った所で聞く耳を持たない事が常な相手が自ら非常勤での勤務を望み、更には休職も視野に入れているとまで言い放ったのだ。理由など聞かずともわかってしまう。それだけ調子が悪い…否、限界だと言う事だ。一瞬にして顔色が悪くなったミラーを一瞥し、一度は相手に手渡そうとしていた資料を引っ込めた警視正は『…わかった。』と、悩む素振り無く相手の望みを聞き届けた後『休職に関して、此方から何かを言うつもりは今の所無い。非常勤でも難しいと感じたその時、お前の口から教えてくれ。』休職の事は一先ず置いておくと保留を持ち出し。再び訪れた沈黙はまた数十秒。俯き視線を落とすミラーの表情は翳ったまま。『……限界か?』相手を真っ直ぐに見据え、その口から今の気持ち、状態を聞いておきたいと静かな口調でみじかい問いを投げた警視正の表情もまた、真剣な中にやるせなさの様な色がうっすらと入り交じっていた )




  • No.5024 by アルバート・エバンズ  2025-06-30 22:36:42 

 






( 2人の反応はもっともだ、自分が余りにも急に周囲に迷惑を掛ける事を願い出ている自覚はあった。けれど長い沈黙の後、非常勤での勤務を許可する言葉を警視正が紡いだ事に安堵する。日数を減らし療養しながらの仕事であれば、少しずつ心身の状態は元に戻って行くかもしれない。正直な所今休職を選択する事には、戻れなくなってしまうかもしれないという一抹の不安もあったため続いた警視正の言葉に頭を下げて感謝を示す。たったひと言、問いかけられた言葉に目の前の警視正の瞳を真っ直ぐ見詰め、少しして小さく頷くと「_______恐らく、」とだけ言葉を紡いだ。恐らく、この状態を”限界“と言うのだろう。胸の内に渦巻く苦しさを何処へも追いやれない。どういう訳か捜査に一切の熱を持てず、ただ全ての事件から離れた所に居たいと感じた。間も無く手持ちが切れる鎮静剤を服用しなくなれば、たちまち体調を崩す可能性もある。恐らく限界なのだ、自分の心身は。 )







 

  • No.5025 by ベル・ミラー  2025-06-30 23:22:23 





ウォルター警視正



( その一言に全ての気持ちが籠っている気がした。『…わかった。』と、先程と同じ言葉を返した警視正は、尚俯いたままで居るミラーの名前を呼び相手に手渡す予定だった書類を渡し『この捜査はお前に任せる。スミスが今何の捜査も請け負っていない筈だ、彼と行ってくれ。今直ぐにだ。』と、或る意味での退室を促し。若干の戸惑いを見せたものの、命令に背く事無く頭を下げミラーが部屋を出て行くと残されたのは2人。改めて相手を真っ直ぐに見据え、深く長い息を吐き出してから少しばかり表情を緩めると『お前の選択はきっと正しい。非常勤であっても、例え休職する事になったとしても、居場所が無くなる事は決して無い。…頼られる事を望む人が近くに居る事を忘れるなよ。』刑事に拘る相手が抱えるだろう不安を少しでも払拭出来たらと言う思いでの前者を、そうして暗に自分もその内の1人なのだと含ませた後者を告げつつ、『話しておきたい事は他にあるか?』と問い掛けて )




  • No.5026 by アルバート・エバンズ  2025-07-01 00:01:40 

 






( 捜査を命じられた相手が部屋を出て行くのを見届けると、警視正に向き直る。続いた言葉には迷惑を掛ける事への申し訳なさも募るのだが、“居場所はなくならない”という言葉は漠然とした不安を和らげてくれるものだった。「……犯人逮捕だけを目指して捜査に心血を注いで来た筈なのに、男を逮捕した後に残ったのは虚無感だけでした。其処で、“糸が切れた”のだと思います。少し足を止めないと、これ以上前に進めない気がして、」自分が休みを貰いたいと申し出るに至った感情を、あくまで理性的に伝える。薬を飲まなくなれば、嫌でも無理をした皺寄せが来るだろう。心が壊れてしまう前に、少し休む時間が必要だと自分自身で感じていた。「迷惑をお掛けしますが、非常勤で出来る事はきちんと熟すつもりです。」と告げ、それ以上今話す事は無いと首を振り。 )





 

  • No.5027 by ベル・ミラー  2025-07-01 09:28:20 





ウォルター警視正



___今回の事件の被害者の顔は、私も確認している。心身にどれだけの負荷が掛かるものだったかは想像に容易い。…心が壊れる前に、お前自身が気付けて良かったよ。
( 目前の相手が語る言葉は普段通り理性的で、その表情や声色にも特別大きな不調が見える訳では無かった。だが、今は逆にそれが恐ろしいと感じた。まるで嵐の前の静けさの様な。出張から戻って来て直ぐに2人が請け負った捜査の被害者と犯人を確認して絶句したのは今朝の事だった。被害者が余りに見覚えのある顔___勿論記憶にある女性とは別人だと理解していたが似過ぎていたのだから。背凭れに体重を掛ける様に重心をずらし座り直すと、首を振る相手に頷き『では、もう戻って構わない。仕事の日数や時間は任せる。』と、勤務のやり方は相手に委ねる形を取り。___一方スミスと共に指定された場所の巡回をしていたミラーの心は酷く不安定だった。勿論それをおくびにも出さず平静を装いはしていたが、あの相手が自分から非常勤を願い出て休職を視野に入れているとまで言ったのだから当然と言えば当然だ。アダムス医師から臨時処方されている鎮静剤の残りは後僅かの筈、当然飲まなくなれば副作用が現れるのは時間の問題だろう。思わず漏れそうになった溜め息を飲み込み、近隣に住むご婦人に“FBIが巡回した”事を、地元警察も巡回を強化する事を伝え、また何かあれば連絡を、とスミスと共に署へと戻って行き )




  • No.5028 by アルバート・エバンズ  2025-07-01 16:38:12 

 





( その後、月水金の3日を勤務日とする事が決まり、其の日に纏めて報告書などを確認する事となった。翌日の休みに備えて既に上がって来ている報告書に目を通しているうちに気付けば夕方になっていた。鎮静剤の効果で、矢張りまだ意識が途切れるような感覚があるものの捜査のように頭をフル回転させる必要のない業務では、そこまで大きな不便さを感じる事は無い。寧ろ鎮静剤が切れた時、また以前のようにほんの些細な事で頻繁に発作を起こす状態に陥る事が怖かった。報告書に目を通し終えると眼鏡を外し、中身の冷たくなったマグカップを手にしてコーヒーを啜る。ちょうど相手とスミスが出先から帰ってきたのだろう、窓の向こうで部屋の外の人の動きが目に入るとそちらに視線を向けたものの、相手に声を掛ける事は選ばなかった。 )






 

  • No.5029 by ベル・ミラー  2025-07-01 22:49:45 





( 署に戻り直ぐ警視正に近隣住人の不安を落ち着かせる事が出来たとの報告はしたが、そこで相手の願い出た非常勤の話を聞く事はしなかった。警視正もまたその話題に触れる事は無く、刑事課フロアに戻ればスミス捜査官とは互いに別れ自席へと。___頭の中にあるのは勿論先程の相手と警視正の会話だ。鎮静剤の服用が無くなった後の副作用については勿論懸念していた。けれどそれよりも前の段階で、相手を襲っていた虚無感の大きさを見誤って居たのが正直な所だ。この後の反動の大きさも、最早想像が出来ない。険しい面持ちで席を立ち警部補専用執務室の扉をノックする。中から入室の許可が来れば扉を開け、その表情は意識的な微笑。「戻りました。そろそろ熱いコーヒーが必要な頃かと思って、」手を伸ばし、マグカップを受け取る姿勢を見せて )




  • No.5030 by アルバート・エバンズ  2025-07-01 23:21:21 

 





( 部屋に入って来た相手が先程の事を意識してか、いつもよりほんの僅かにぎこちない微笑を浮かべた事に気付く。コーヒーを淹れると暗に言われると「…よく分かったな、」と、先ほど空になったばかりのマグカップをおとなしく相手に手渡して。熱いコーヒーをマグカップに淹れて戻ってきた相手に礼を述べひと口其れを啜ると「不安がってる地域住民は大丈夫だったのか、」と先程の捜査の事を尋ねて。お互いに本質に触れぬよう出方を窺っているような状況だとも思う。「_____休みの日は、家に居ても良いか?」と徐に尋ねたのは、相手が仕事に出て自分が休みの時他人を家に残す事を相手が快く思わない可能性を考慮しての事。近場のホテルにも空きはあったと付け足し、必要ならそちらに移ると。なんだかんだで相手の家に居座っている状況も、そもそも何とかしなければならないのだろうが。 )







 

  • No.5031 by ベル・ミラー  2025-07-01 23:45:50 





( 熱いコーヒーを淹れたマグカップを相手に手渡し、そこで再び自席に戻る事は選ばなかった。執務室の扉を閉め備え置きのソファに腰掛けると問い掛けられた捜査状況に「一先ずは問題無いかな。地元警察の巡回強化の説明もしたし、納得してくれたと思う。…スミス捜査官が凄い親身でね、結構頑固なお婆さんって聞いてたんだけどすっかり打ち解けて、今度お茶でもって誘われてた。」後半先程のぎこちないものでは無い、普段通りの屈託のない思い出し笑いと共にそう答え。___と、先に“本質”に繋がる部分に触れたのは相手の方だった。流れる空気が僅かに変わったが、それは決して悪いものでは無い。「勿論。」と、僅かの間を空ける事も無く了承する。「寧ろ今更ホテルに泊まられる方が嫌。もう1人で眠れる自信無いし、いっその事このまま一緒に住めば良いとさえ思ってるくらい。」念の為声量こそ落としたものの、淀見なく紡ぐ言葉の数々は勿論心の底から思っている事だが相手には戯言くらいの軽さで捉えられるだろう。言い切ってから一つ息を吐き出した後。沈黙を置いてから「__今は苦しくない?」と、今度は此方から“本質”に繋がる問い掛けを )




  • No.5032 by アルバート・エバンズ  2025-07-02 08:58:34 

 





( 相手の言葉にスミス捜査官の性格を思い、今回のような件には適任だろうと納得する。仮に依頼通り自分が行っても、住民と打ち解ける事は到底出来ない。本当の意味で住民を安心させ信頼を勝ち得る事が出来たのは2人の功労だろう。相手から返ってきたのは了承の言葉。このまま一緒に住みたい、という冗談めいた言葉には呆れたような反応を示しただけで。いつも通りのやり取りの中で、相手から紡がれた問いに再び視線を持ち上げる。「…体調は問題無い、」と答えたものの、胸のうちに広がる苦しさのようなものは容疑者を逮捕したあの日から心に纏わり付き、気力を削いで行くようだった。「_____事件を解決してからの方がしんどい。…目的を持って捜査をしている時は、突き動かされるように動けて居たのにな。」と言葉を落として。かなりの無理をして捜査を続けた結果にもたらされた虚無感に絶望した、精神力が切れたというような事なのだろうが、この苦しさを取り払う事が出来ないのだ。何も考えずに眠り込んでしまいたいとさえ思った。 )





 

  • No.5033 by ベル・ミラー  2025-07-02 13:33:00 





( 案の定返って来た言葉の無い呆れた表情に態とらしくにっこりと微笑み終了を。鎮静剤や鎮痛剤のお陰で物理的な痛みや苦しみに襲われはせずとももっと別の___自分自身では何処にやる事も出来ない虚無感にまるで全身を覆い尽くされ、内側からじわじわと侵されて居る感覚があるのだろうか。そうしてそれは事件解決と共に多くの“氣”を奪い去って行った。正しくそれが“糸の切れた状態”だろう。「…本来立ち止まるべきだった時に、薬を使って強引に進んだからね。沢山の無理と沢山の気持ちが溢れて、きっと少し疲れちゃったんだよ。身体が、休むのは今だよって教えてくれてるんだと思う。」抱える虚無感を取り除く事はどうしたって己には出来ないだろう。それでも静かに紡いだ言葉はあくまでも穏やかなもの。「後の事は何も心配しないで。確りやるから。」と続けてから、「…鎮静剤、後何日分残ってる?」もう1つの、次はそれが無くなった後にも来るだろう副作用の心配からそう問い掛けて )




  • No.5034 by アルバート・エバンズ  2025-07-02 15:52:26 

 





( レイクウッドに赴任し相手と共に捜査を始めた当初は、殺人事件の捜査経験もない新人さながらの捜査官で戦力になるどころかお荷物だとさえ思っていた訳だが、今はどうだろうか。“心配しないで”という言葉を何の違和感もなく受け入れている自分が居た。「…お前もそろそろ、独り立ちできそうだな。」相手の頼もしい言動と捜査経験を鑑みれば、小さな事件からであれば任せられる日も近そうだと純粋な感想を述べたのだが、今の相手を不安にさせるものだっただろうか。鎮静剤は今朝飲んだ時点で残りが2錠だった事を思うと、休みの明日は飲まずに翌日の仕事の為に取っておくべきかもしれないと考えつつ「あと2日分残ってる。必要な日の為に取っておくべきかもな、」と告げて。 )






 

  • No.5035 by ベル・ミラー  2025-07-02 20:23:48 





( 何も心配する事無く、自分自身の心と身体を一番に考えて確りと休める様に。そんな想いで自信満々に送った笑顔と言葉だった。だからこそ相手からの返事は望ましいもので認められた気持ちに本来喜びこそ湧けどこんな…心臓が嫌な脈打ち方をする筈が無いのに。何故だか何処から溢れたのかわからない恐怖心に身体が固まる。言葉を間違えた訳でも、返事が意味深だった訳でも無い。それなのに___「っ、勿論、エバンズさんの直属の部下だからね。でも…やれるのは今回だけ。エバンズさんが休んでる間だけで、今まで通りの勤務に戻ったら、また隣に立ってくれなきゃ、」相手に見えている表情は焦燥や、恐怖や、不安が入り交じったものなれど自分自身ではどんな顔をしているかわからなかった。ただ、やけに必死に訴えた言葉がFBI捜査官として甘ったれたものだと言う事だけは頭の片隅で気付いたのだが、それ以上に不安感が勝ったのだから仕方無い。鎮静剤の残り数は思ってた以上に少なく、取っておく、との言葉には同意を示す様に頷きつつも「家で1人の時、もし苦しくなったら躊躇わずに飲んで。」仕事の時を思って耐えるのは駄目だと念を押して )




  • No.5036 by アルバート・エバンズ  2025-07-02 22:15:23 

 





( 相手の働きを認める意味で発した自分の言葉に対して、相手は不安や焦りの入り混じった表情を浮かべた。今の状況で相手を一人前と認める事は、相手を置いて自分が居なくなる事を連想させたのだろう。正直な所、暗に自分が居なくても相手は大丈夫だと言葉にしておきたかったという気持ちが、微塵も無い訳ではない。内側から崩れて行きかねない不安定さを抱えたままでは、“万が一”を考えてしまう。万が一自分が刑事である事を諦めたら、相手は1人でやっていかなければならないのだ。けれど相手の表情を見て、其れを言葉にする事は選ばなかった。「お前が待ち構えてると思うと、気が休まらない。」と言いつつ呆れた表情を浮かべて。辛かったら鎮静剤を飲むようにという言葉に頷きながら「…もうすぐ片付く。」と徐に告げ、然程遅くならずに帰れる事を伝えて。 )






 

  • No.5037 by ベル・ミラー  2025-07-02 23:10:49 





( 己はもう捜査1つ請け負った事の無い新人さながらの捜査官では無い。まだまだ未熟な面は多々あり日々反省の毎日ではあるがそれなりに経験も積んだし、様々な人や事件とも向き合って来た。相手が居なければ何も出来ない、なんて甘えは許されない筈だと言うのはわかっているが、一度相手の儚さに触れてしまった心はその恐怖を直ぐ様思い出す様になってしまっていたのだ。悪夢に魘され苦しんだ夜が明け空が白み始めた頃、漸く発作が落ち着いた相手の瞳に大きな疲労と空虚な色が宿っているのを何度も見た。眩しい程の月明かりの下、その光を集めた碧眼が切なそうな、寂しそうな色を宿したのも何度も見た。何時か__何かのタイミングで、居なくなってしまうのでないかと言う漠然とした不安が付き纏い続けていた。相手が返した言葉は何時も通りの色を纏ったもので、表情もまた見慣れた呆れ顔。「何それ。私の事ストーカーか何かだと思ってるの?」と、じっとりとした瞳を一瞬向けたがその口元には明らかな安堵を宿した笑みが浮かび。___仕事を終えた相手と共に署を出たのは30分程が経ってから。帰宅後、部屋着に着替えソファに座る相手を一瞥し寝室に行くと、戸棚の引き出しの奥から一つの鍵を持って戻って来る。「…エバンズさん、これ。」それを相手に差し出しながら「この部屋の予備の鍵、持ってて。私が仕事でも自由に外に出られるように。」鍵を渡す理由を説明しつつ、軽くはにかんで見せて )




  • No.5038 by アルバート・エバンズ  2025-07-02 23:51:16 

 






( 相手の家に戻りソファに身体を預けていると、寝室から出て来た相手に“何か”を手渡される。視線を落とせば、それは銀色の鍵。相手の家の合鍵だと理解すると、少し驚いたように再び視線を相手に戻したものの何を言おうか迷って言葉は出なかった。自分を気遣っての事だと言うことは分かるのだが、仮にも女性の部下の家の合鍵を受け取るのは如何なものかと考え、同時にこの状況も端から見れば十分問題だと思い直す。再び視線を手元の鍵に戻し、頭の中には色々な思考が入れ替わり立ち替わりしていたのだが、ようやく「……悪いな、落ち着いたら返す。」と言葉を発し、今は受け取る事として。身体は疲れて居るのだが、相変わらず眠る事が怖かった。鎮静剤の効果で落ち着いている日もあったのだが、今夜はまた夢見が悪いかもしれないと思いながら眠りに着くのはどれほどの月日が経っても慣れないものだ。今夜は睡眠薬を飲んで眠ろうと、錠剤を取り出すとキッチンで水を汲み其れを飲み込んで。 )







 

  • No.5039 by ベル・ミラー  2025-07-03 00:25:06 





( その反応は至極自然なものだろう。少しの驚きを表情に此方を見たり手元の合鍵を見たりを繰り返す相手の姿を緩い笑みのまま見詰め、ややして漸く受け取る気を見せた様子に口元の笑みを色濃いものにすると「返さなくても良いよ。何時かエバンズさんが此処を出て行った後も、何時でも泊まれる様に。」何の躊躇いや淀み無く、これまた絶対に相手は困惑するだろう返事を返しつつ、その表情を見たいと言う若干の意地悪心を持ちながらも、敢えて何事も無かったかのように相手に背を向け部屋着に着替える為寝室に戻り。再びリビングに来た時、相手は丁度錠剤を飲み込む所だった。それが安定剤か睡眠薬かまでを一瞬の判断で出来る訳も無かったが、何方にせよ眠る事に少なからず恐怖心を抱いている事は間違い無いだろう。人が身体を休める為、当たり前に訪れるその時間が、相手にとっては恐怖や苦しみの時間となる事が酷く心を締め付けた。「…ラベンダーの香りは苦手?」唐突にそう問い掛け相手を見上げる。「新しくアロマを買ったの。強い香りじゃないし、もし苦手じゃなかったら寝室に置こうかなって。」ストレスを緩和してくれる香り、なんてそんな物で楽になるなら誰も薬など飲まないと思うのだが、“そう言うもの”を少しだけ取り入れるのも悪くは無いと思ったのだ。気休めでも、何だって。軽く相手の背に触れ、その手を緩やかに動かす事で言葉の無い“大丈夫”が少しでも届くと良いと )




  • No.5040 by アルバート・エバンズ  2025-07-03 02:33:13 

 






( さも自然な事かのように紡がれた言葉に、再び相手に視線を戻す事となる。一緒に住んでいる訳でも、家族でもない、謂わばただの上司である自分が相手の家の合鍵を持っていていつでも出入り出来る、なんていう状況はどう考えても可笑しい訳で返答に困った事でやや眉間に皺が寄り。結局言葉を発するよりも前に相手は寝室へと戻っていき、鍵に視線を落とすと大人しく其れを鞄へとしまい。リビングへと戻って来た相手からの突然の問い掛けには少し首を傾げたものの、ラベンダーの香りのアロマを、という言葉に納得して軽く頷く。「強い香りじゃなければ大丈夫だ。」と答えて。やがて仄かなラベンダーの香りが室内に漂うと、確かに気持ちを落ち着ける効果はありそうだと思いつつベッドに横になり。 )






 

  • No.5041 by ベル・ミラー  2025-07-03 07:32:11 





( 部屋の中に漂うラベンダーの柔らかな香りを感じながら相手の隣に横になる。先程飲んでいた錠剤が効果を確りと発揮し朝まで静かで安らかな眠りを相手に齎す様に、と願うのだがそれが幾度となく裏切られて来た事も知っていた。だからこそ相手の恐怖は消えないのだ。此方に向けられる背に先程と同じ様に掌を当て優しく擦りながら「__何かあったら私を起こしてね。」と告げて目を閉じる。それから暫くの間眠る事は無かったものの、やがて背を擦る手の動きがゆっくりとしたものに変わり、ややしてその動きが完全に止まった頃静かな寝息をたて眠りの淵へと落ちて行き )




  • No.5042 by アルバート・エバンズ  2025-07-04 01:49:06 

 





( 睡眠薬は深い眠りをもたらした。夢を見るよりももっと深い場所に沈んで眠っているような、遠くで何かの夢を見ているような、そんな感覚だけがあったが内容までははっきりと認識できない。いつもは睡眠薬を飲んでも悪夢を見て眠りから引き摺り出される事が多々あったが、今は落ち着いているようだった。---鎮静剤によって抑えられていた物が、その抑えを押し退けて浮かび上がろうとしているかのうように遠かった夢がやがて少しずつ鮮明になり、”何の夢か“に気付きそうになった事で目が覚める。少し呼吸が上擦り鼓動が速くなっていた。未だ外は暗く遠くの空が青みを帯び始めた夜明け前。相手が隣で小さく寝息を立てているのを見ると、音を立てないようにそっとベッドを抜け出してキッチンへと向かって。無理をしていたにも関わらず此の所体調が落ち着いていたのは、間違いなく鎮静剤のお陰だろう。副作用も少なく効果が緩やかだと言って処方された薬だが、あくまで一時的な対処法。この薬も長く連続服用する事は出来ず、楽だからと言って大量に処方して貰える物でもない。そして其の鎮静剤の効果が切れかけている事で、身体の不調や夢見の悪さが程なく戻って来る事も感じていた。其れが怖くて、少しでも長く安寧の中に居たくて、睡眠薬をもう一錠飲みベッドに戻る。やがて少しずつ微睡み始め、相手が目を覚ます朝になっても身体を丸め眠り込んでいて。 )






 

  • No.5043 by ベル・ミラー  2025-07-04 08:50:38 





( ___目が覚めたのは携帯のアラームが鳴る数分前。鳴り出す前にOFFのボタンを押し隣を見れば珍しい事に相手は静かな寝息をたて未だ眠っていた。普段は相手の方が先に目覚める事が多く、こうして寝顔を見るのは此処最近ではとても珍しい事。表情は苦しげでは無いものの、それはきっと薬が効いてるからだろう。その寝顔を暫し見詰めながら起こさない様に柔らかな焦げ茶の髪を緩く撫でる。起きている時には出来ない行為ではあるが、例え上司とて愛おしいと感じる時は思わず抱き締め撫でたくなるのだ。このまま悪夢の無い眠りの中に少しでも長く居て欲しいと、相手を起こす事は選ばずリビングに行き身支度を済ませて。___家を出る迄の残り時間は紅茶と共に過ごす事にした。ソファに座り少し濃いめに淹れた紅を飲みながら、音量を小さくした情報番組を見る。この地域への台風接近、数日後には直撃を知らせるニュースと、少しばかり強くなった風が窓ガラスを叩いたのは同時だった。数日は晴れの空を見る事は出来ないのかと小さく息を吐き出し、その後続く番組をぼんやりと眺めながら、それでも頭の片隅にあるのは相手の日々の過ごし方や体調の事で )




  • No.5044 by アルバート・エバンズ  2025-07-04 13:21:06 

 





( 睡眠薬が手伝った深い眠りから呼び覚ましたのは、窓の揺れる音だった。弾かれるように肩が揺れ眠りから引き摺り出されたものの、其れが何の音かは分からなかった。ベッドに身体を起こし、随分と長く眠っていたようだと思いつつ手近にあったカーディガンに袖を通して。鎮静剤の効果は既に切れているだろう、倦怠感が身体に重たく纏わりついているのだが睡眠を取れた事が体調を幾らか安定させていた。寝室を出て、ソファに座っている相手に「…おはよう、」と声を掛けつつキッチンで相手が沸かしたお湯を使い紅茶を淹れて。時折強まる風が窓を叩くのだが、やけにその音が大きく聞こえて頭に響く。頭痛を引き起こしそうな不快感があって窓の外へと視線を向けると「…随分風が強いな、」と言葉を落として。テレビから聞こえて来る声も妙に反響しているような気持ち悪さがある。ソファではなくテレビから少し離れたダイニングテーブルの椅子に腰を下ろすと、紅茶をひと口啜って。 )






 

  • No.5045 by ベル・ミラー  2025-07-04 13:51:54 





( 台風の直撃に備え今から準備を、と警告を促す気象予報士の言葉を聞きながらマグカップの底の紅を飲み干したその時。寝室の扉が開き目を覚ました相手の声が聞こえれば頭を其方に「おはようございます。」と微笑んで。普段ならば飲み物を淹れた後相手が座るのはソファ。けれど今日は何故か角度的にテレビも見辛いだろうダイニングテーブルの椅子で、その本来気にする事も無い些細な変化に一瞬不思議そうに目を瞬かせたのだが。此方が疑問を投げ掛ける前に再び強い風が窓を叩き、自然と視線は移動する。窓を見詰めたまま「…台風が近付いてるんだって。予報では明後日に直撃らしいよ。」と、溜め息混じりに答え。それからを相手に向き直ると「家を出るのが億劫になる、」軽く肩を竦めつつ、中身の無くなったマグカップをシンクで濯いで )




  • No.5046 by アルバート・エバンズ  2025-07-04 16:12:55 

 





( 窓を揺らす風の音に肩が跳ねそうになる。これ程の強風では外に出るのも危ないのではないかとさえ思い「…大丈夫か?出勤停止という事は無いと思うが、風に煽られないように気を付けろよ、」と、警報級の悪天候時の対応は適用されないかもしれないが今日は注意した方が良いと告げて。マグカップを洗う水の音は嫌な大きさで反響するような感覚があった。今日は色々な音がやけに耳障りに思えて眉を顰めつつ眉間を解して。相手が出勤するのを見届けたらもう少し休もうと思いつつ紅茶を飲み干して。 )






 

  • No.5047 by ベル・ミラー  2025-07-04 19:33:53 





ありがとう。落ち着いてるようだったら早めに帰って来るから。
( 心配と注意に素直に頷き鞄を肩に掛ける。普段より数十分早い出勤だが、この悪天候では何があるかわからない為時間に余裕を持った方が良いだろうとの判断で。___案の定仕事は落ち着きを見せていたが、それに反比例する様に天候は悪くなり続けていた。朝はまだ風だけだったがお昼を過ぎた頃から風の強さは勿論、大粒の雨も降り出す様になっていて、これ以上酷くなる前に帰れる者は帰る様にと促しに来た警視正の言葉で、己を含めたフロアの殆どの署員が帰宅をしたのが16時過ぎの事。道路は雨によって溜まった水が浅い川の様に続き、ワイパーを最大で動かさなければ視界不良で事故の危険性がある程だ。無意識に寄った眉間の皺をそのままに車を走らせ、無事駐車場に車を停めた時に安堵の息を吐き出す。それから足早に階段を駆け上がり玄関の扉を開け部屋に入るや否や、「…外すごいよ!明日には上陸するんじゃないかな、」と、開口一番、挨拶もそこそこに外の現状報告を。この時はまだ朝少し触れた相手の違和感の正体に気が付けていなかった )




  • No.5048 by アルバート・エバンズ  2025-07-04 20:20:00 

 





( 相手が出勤して部屋に1人になってからも“音の感じ方“への違和感は増すばかり。徐々に、耳を塞ぎたくなるような不快感と頭痛に襲われるとベッドに横になり。少し微睡んでも、雨風の強い外から聞こえる音に意識を引き戻された。昼過ぎに音をきっかけに発作を起こした事で、まるで抑え付けられていたものが外れたかのように些細なきっかけで過去がフラッシュバックする状況に再び陥っていた。夕方には一層外の状況は悪くなり、耐え難い騒音に苛まれる事となる。扉が開く音がして相手の声が聞こえたものの、その声もいつも以上に頭に響く大きな声に聞こえる。横になっていたものの、相手が自分の姿を探して寝室にやって来ると「______少し声量を落としてくれ、」と告げて。 )






 

  • No.5049 by ベル・ミラー  2025-07-04 20:52:55 





( 寝室の扉を開け最初に目にしたのはベッドに横になる相手の姿。追う様にしてやや掠れて聞こえる声で要望が来れば反射的に「あ、ごめんなさい。」と謝罪を口にするのだが。実際叫んだ訳でも無くあのくらいの声量であれば相手は幾らでも聞いた事があった筈。それが今の相手にとって引っ掛かるものになるのであれば___「…頭痛い?」体調が悪い…頭痛に苦しめられていると考えるのが一般的。開けた扉の前から動かずに先程よりも遥かに落とした声量で以てそう問い掛けてから「薬持って来ようか、」と。この会話の最中も強まる雨は容赦無く窓ガラスを叩き、隙間を縫うような風音は何処か不協和音の様な響きを晒して )



  • No.5050 by アルバート・エバンズ  2025-07-05 12:52:14 

 






( 鎮痛剤を飲めば少しは楽になるだろうか。相手の問いに頼むと小さく頷いたものの、強い風によって外で誰かの自転車でも倒れたのだろう。隙間風の音に加えて、ガシャンと大きな音が鳴ると突然意識は過去に引っ張られた。窓ガラスの割れる音、悲鳴、銃声______過去の記憶と反響する音とが繋がり、途端に呼吸は不安定なものに変わっていて。「……っ、はぁ…ッ、は、」上擦った呼吸が苦しいのだが、乱れた自分の呼吸音さえ酷く頭に響くように感じて思わず頭を抑える。反響するように聞こえる強弱のある風の音は人々の声のようにも聞こえて、野次馬が大勢集まる中幼稚園を出た時の此方を見る冷めた視線と囁き声、責任を問い詰める記者たちの声が思い出された。 )






 

  • No.5051 by ベル・ミラー  2025-07-05 13:32:36 





( 薬を所望されれば直ぐに頷き寝室を出ようとしたのだが。それよりも先に風の音に混じり窓の外で何かの倒れる音が鳴り、同時に横になっている相手の唇からは発作を示す不安定に乱れた呼吸が漏れた。「!、エバ__、」不味いと咄嗟に相手の名前を呼ぼうとしたのだが、頭を押える仕種に数秒前の遣り取りを思い出し言葉は止まる。相手が今“音”に反応しているのは間違い無く、それが頭痛や発作に繋がってしまったのもほぼ確定だろう。しかしながら外の天気が一瞬にして回復する筈も無く、完全防音では無いこの部屋の中で、周囲の音を完璧に遮断する事は不可能なのだ。加えて発作中は薬を飲む事も出来ないだろう。先ずはどうにか落ち着かせなければならないと静かに近付き、驚かせない様にベッドの端に座り。それから足元にある掛け布団を持ち上げ徐に相手の頭から爪先までを覆う様に掛ける。こんな事で音の遮断が出来るとは思わないが、何かが変われば良いとの思いだった。「…大丈夫、大丈夫、」と、殆ど囁き声に近い声量でゆっくりと繰り返しながら、掛け布団の上から相手の背中を擦り続けて )




  • No.5052 by アルバート・エバンズ  2025-07-08 14:43:43 

 





( 布団が掛けられた事で、ほんの僅か反響する音が遠かったような気がした。それでも頭痛と記憶のフラッシュバックはそう簡単には消えて行かない。浅い呼吸を繰り返しながら背中を丸めるようにして布団の中に縮こまり、落ち着くまでに数十分は要しただろうか。ここ暫く落ち着いていた発作が今日だけで数回起きている為、身体は酷く疲弊していた。未だに嫌な響き方をしているものの幾らか呼吸が整うと「…鎮痛剤を貰えるか、」と頼んで。相手が戻って来ると薬を受け取り、水で流し込む。未だ窓を揺らす風の音は頭に響いていて、その度に不安定に心が揺らぐのを感じた。「_____音が、異様な程に反響して聞こえる、」と、今感じている症状をぽつりと溢して。 )






 

  • No.5053 by ベル・ミラー  2025-07-08 20:43:44 





( ___その姿は今布団に隠れ見えない。けれどどんな体勢をしているかは容易に想像が付く。痛みや発作を抑え込む為__もしかしたら外部から晒される様々な“負”に耐える為、これまでも幾度と無く見て来た背を丸め身体を縮こませる体勢で居る事だろう。そうしてその姿は酷く心を揺さぶるのだ。それはきっと周囲からの非難や罵倒を真正面から受け続け、自分は責められて当然の人間だと何も言わず痛みに蓋をし心に氷を張り続けた相手が、苦しみの中無意識の内に心を懸命に守ろうとしている姿の様な、そんな気がするからだろう。___鎮痛剤を飲み、それでも翳った表情の相手が徐に漏らした症状に思わず僅か眉が寄り険しくなる。「…それって、鎮静剤を飲まなくなった副作用?」相手に問うた所で完璧にそうだとわかる訳では無いかもしれないが、今思い当たるのはそこで )




  • No.5054 by アルバート・エバンズ  2025-07-17 03:31:05 

 





( 相手の問いには分からないと首を振る。「…薬を飲むようになる前も、こんな症状は無かった。…音が響いて辛い、」鎮静剤を飲み始めてから確かに発作の症状は落ち着き、感覚が鈍くなるのを感じた。けれど薬を飲まなくなったからと言って逆に感覚が鋭くなり過ぎる、なんて事があり得るのだろうか。薬を飲んでいなかった以前も、此処まで過敏に音に反応する事は無かった。何はともあれ、台風が近付いているというこの状況では外の騒音はそう簡単に静かにはならないし、明日になればいつものように出勤しなければならない。慣れるしかないのだろうと思いつつも、大きな音が外で鳴る度に言い様のない恐怖心が掻き立てられ、心が不安定に揺らぐのは辛いものだった。 )






 

  • No.5055 by ベル・ミラー  2025-07-17 22:32:27 





( 鎮静剤を飲まない副作用として現れた症状である可能性も高いが、そもそも無理をした結果、糸が切れた事による反動の可能性も十分考えられた。普段滅多に弱音を吐かない相手が素直に口にする感情にはどうしたって心が揺さぶられる。「…理由については、今は深く考えないようにしよう。」音が騒音となって聞こえる中で、症状の解明にこれ以上思考までもを負に落とすのは苦しみを倍増させるだけだと思えば、そう静かに告げてから、ふ、と思い付いた事が1つ。「__駄目だったら別々に寝れば良いから、試してみない?」一度己の胸に軽く手を当てる仕草の後の提案は、相手が聞こえる音の多くを心音で占める事。何時かの日、ゆっくりと刻む心音で相手が落ち着きを取り戻した記憶があるからなのだが、その時は今の様に音に敏感だった訳では無かった。今はそれすらも不快に響く可能性があるものの、何もせず外を吹き荒れる雨風の音に耐え続ける夜を過ごすのを見るのは辛い。軽く両手を広げ、所謂“ハグ”の動作と共に緩く首を擡げてみせて )




  • No.5056 by アルバート・エバンズ  2025-07-18 01:45:10 

 





( 嵐の音は心を不安定に騒めかせても、相手の鼓動の音なら嫌な響き方はしないかもしれないと思えた。相手の提案を拒否する事はせず、促されるままに相手の直ぐ近くまで身体を寄せる。鼓動の音は確かに普段よりも大きく聞こえる気がしたものの、頭に響くような騒音ではない。相手がベッドの窓側に居ることで、外からの音も1人で横になっていた時よりも聞こえにくくなっている気がした。騒音と頭痛、いつまた発作が起きるか分からない恐怖心から強張っていた身体から漸く少し力が抜けると「……此処に居てくれ、…」と目を閉じたまま言葉を紡ぐ。漸く訪れた束の間の安寧。相手は未だ夕食を取っていない筈だ、それに気付く事も出来ず鎮痛剤が効き始めた事も手伝って再び微睡み始めていて。 )







 

  • No.5057 by ベル・ミラー  2025-07-18 18:10:48 





( 然程考える間も空けず身を寄せて来た相手を緩く腕の中に閉じ込める様にして抱き竦める。相手を苦しめるものは何も無いと、この腕の中に居れば安全だと、実際はそんな事は勿論無いのだが今この一瞬だけで良い、僅かでもそんな錯覚を覚えてくれたらどれ程嬉しいか。胸元付近で落とされた小さな小さな願いに微笑み相手の肩付近を擦ると「…大丈夫、何処にも行かない。」と、安心出来る様に静かに答えつつ、恐怖無く相手が眠りに落ちるまでその手を動かし続け。お腹が小さく鳴ったのは数分後の事。その音で夕飯を食べていなかった事に気が付いたのだが、この腕を解き寝室を出る気にはなれなかった。何もかもが明日の朝で良いと思ったのだ。それよりも何よりも、相手が目を覚ましていないかの方が肝心だ。息を潜め、僅か視線を下げるも暗がりと位置的に表情は見えない。相手が眠り続けているのならば、安堵の息を小さく吐き己もまた眠りにつき )




  • No.5058 by ベル・ミラー  2025-07-18 18:10:48 





( 然程考える間も空けず身を寄せて来た相手を緩く腕の中に閉じ込める様にして抱き竦める。相手を苦しめるものは何も無いと、この腕の中に居れば安全だと、実際はそんな事は勿論無いのだが今この一瞬だけで良い、僅かでもそんな錯覚を覚えてくれたらどれ程嬉しいか。胸元付近で落とされた小さな小さな願いに微笑み相手の肩付近を擦ると「…大丈夫、何処にも行かない。」と、安心出来る様に静かに答えつつ、恐怖無く相手が眠りに落ちるまでその手を動かし続け。お腹が小さく鳴ったのは数分後の事。その音で夕飯を食べていなかった事に気が付いたのだが、この腕を解き寝室を出る気にはなれなかった。何もかもが明日の朝で良いと思ったのだ。それよりも何よりも、相手が目を覚ましていないかの方が肝心だ。息を潜め、僅か視線を下げるも暗がりと位置的に表情は見えない。相手が眠り続けているのならば、安堵の息を小さく吐き己もまた眠りにつき )




  • No.5059 by アルバート・エバンズ  2025-07-19 12:15:19 

 





( 夜中数回目を覚ましたものの、酷い発作を幾度と起こす事にならなかったのは一重に相手のお陰と言えるだろう。朝いつもより少しだけ早い時間に目を覚まし、身動ぎをすると窓がガタガタと風で音を立てている事に気付く。相変わらずその音は頭に響き耳を塞ぎたくなるような騒音なのだが、相手が側に居た事で眠っている間はそれに邪魔される事なく、比較的穏やかな睡眠を取ることが出来ていた。身体を起こしリビングへと向かうと、鎮痛剤を流し込む。これで頭痛を抑える事が出来れば良いのだが、音に敏感なこの症状は鎮痛剤ではどうしようもない。今日の仕事に支障が出なければ良いと思いつつ、コーヒーを淹れて。 )







 

  • No.5060 by ベル・ミラー  2025-07-19 19:27:20 





( ___目が覚めたのは相手が起きてから数十分後。枕元の携帯を開けば台風のスピードが想定より速く、今日の夕方頃には直撃となるであろう速報が入っていて、軽く寝返りをうち窓の外に視線を向ける事数秒。静かにベッドから降り寝室を出ればリビングに広がるコーヒーの香りと、相手の姿。「おはようございます。」と送った挨拶は普段よりもずっと声量の落ちたもので。洗面台で顔を洗い歯を磨き、朝の準備を終えた後は再び寝室へと戻る。そうしてリビングに戻って来たその手には冬に使う紺色のイヤーマフラーが握られていて、徐に相手の傍に寄るや否や、躊躇無くそれを相手の両耳を隠す様に頭に付け。「__少し変わる?流石に仕事中つける訳にはいかないけど、家に居る時は私しか居ないんだから。ね?」急遽の応急処置にしかならないかもしれないが、一先ず職場に行くまでのこの朝の時間が少しでも相手の気持ちを楽にするものであればと )




  • No.5061 by アルバート・エバンズ  2025-07-24 03:06:22 

 





( 起きて来た相手と挨拶を交わし、相手がリビングを離れている間に相手のマグカップにもコーヒーを淹れておく。2つのマグカップを手にソファに向かい腰を下ろすと、片方をテーブルに置き自分のコーヒーを啜って。不意に耳に何かが当たる感覚と共に響いていた音が遮断される。驚いて顔を上げれば、相手の言葉から冬に使うイヤーマフラーが着けられている事に気づき。冬でもイヤーマフラーを着ける事が無いため初め違和感があったものの、頭に響く嫌な音は確実に小さく感じられ聞こえ方は楽だった。「…助かる、音が遮断されて幾らか楽だ、」と答えて。---いつもの時間に出勤したものの、多くの署員が行き交うフロア内は想像以上にきつかった。タイピングや電話のコール音、紙を捲る音などほんの些細な物音が嫌に反響して頭痛を引き起こす。執務室に居れば幾らかマシではあるものの、音に異常に敏感な今の状態はかなり精神を擦り減らすものだった。 )





 

  • No.5062 by ベル・ミラー  2025-07-25 16:20:35 





( ___フロア内は直撃した台風の話題と仕事の話題が大半を占めていた。こんな日に強盗なんて空気を読めだとか、何故大人しく家に居てくれないんだとか。兎に角相手が非常勤勤務になった事は知って居たがその理由、今の症状までもを知る署員は居らず、唯一感じてる事と言えば“警部補の機嫌が余り良くない”と言う事だけ。そしてそれは最悪のタイミングで訪れた。数日前に担当した事件の報告書を相手に提出し、執務室を出る為扉を開けた丁度その時。給湯室から出て来た署員と、別の事に気を取られ視野が狭くなっていた署員が衝突し、持っていたマグカップが硬いフロアの床に落ちた。当然マグカップは音を立て割れ、中の紅茶は広がる。後を追う様にして『すみません!』と言う2人の謝罪と、少しの騒めき。___驚きこそすれど稀にある事。けれど“今の相手”はどうか。反射的に執務室の扉を閉め背後の相手を振り返り )




  • No.5063 by アルバート・エバンズ  2025-07-29 00:43:25 

 





( 扉が開く度に署員たちが働くフロアの騒めきが響き、書類の提出や捜査の報告などに訪れる署員の声は皆一様に大きく頭痛を引き起こす。騒音の中に身を置き、午後にはかなりの疲労を感じるようになっていた。相手と言葉を交わし、受け取った報告書をトレイに入れた時。不意に耳をつんざくような音が響き、一瞬にして過去の記憶が押し寄せる。いつか防犯カメラの映像を確認している時に聞こえた銃声にフラッシュバックを起こした事もあったが、大きな衝撃音は十数年前の記憶に直結してしまうのだ。銃声と悲鳴、赤黒い血、______その光景が一瞬で甦り、呼吸が上擦る。身体を支える為にデスクを掴んだ手には指先が白くなるほど力が籠るのだが、浅い呼吸は意味を成さないものに変わり鳩尾に鋭い痛みを感じて。「……っは、ぁ゛……ッ、あ」自分の荒い呼吸さえ反響するような感覚。此処は署内で、扉をたった1枚隔てた先には大勢の署員が居るというのに意識は過去へと落ち掛けていて苦しげな呼吸ばかりが響き。 )






 

  • No.5064 by ベル・ミラー  2025-07-29 11:07:19 





( 扉を閉めた事でフロア内の騒ぎは僅か音を潜めたが“衝撃音”として認識された音は相手の意識をあっという間に今から離した様だった。浅く狂った呼吸と共に苦しげに上下する背中は痛みも引き連れて来ているのだろう。「っ、」他の署員が何らかの用事でこの部屋を訪れた時に不審に思う可能性もあったが、言い訳は後で幾らでも考えると先ずは扉を施錠し、続いてフロア内と繋がる窓のブラインドを降ろして外から中の様子が見えない様にする。そうやって相手の斜め後ろに立ち、腰を折る体勢で背中に掌を添えると「大丈夫です、ゆっくり呼吸して。」頭に響かないよう小声で声を掛けながらその掌を何度も動かし。そんな時間を凡そ数分、未だ整わない呼吸を繰り返す相手の背中から一度手を離し、両手で相手の両耳を塞ぐ形で顔を持ち上げ視線を強引に合わせると、「此処はエバンズさんの良く知る署内で、さっきの音はマグカップが割れた音。怖い事は何も起きてない。…ね?」口の開閉を敢えて大きく、一言一言をゆっくりと、大丈夫なのだと擦り込む様に努めて穏やかに伝えて )




  • No.5065 by アルバート・エバンズ  2025-07-31 16:28:33 

 





( フラッシュバックの合間に相手の声が聞こえた。過去と現在が綯交ぜになったような状態でどちらにも引っ張られ、視界が揺らぐ。引き攣れた呼吸は一向に落ち着かず、徐々に姿勢を保っている事が難しくなり身体を支える為にデスクに着いた手に力がこもり。不意に顔を持ち上げられ相手と視線が重なるのだが、此方に呼び掛ける相手の声が、乱れた自分の呼吸音に阻害されて聞こえ辛い。先程銃声と認識しトリガーとなったあの音は、マグカップの割れた音。相手の声と唇の動きを自分に刷り込むように過去から意識を引き剥がし、懸命に呼吸を立て直そうとして相手の瞳に意識を向けて。 )






 

  • No.5066 by ベル・ミラー  2025-07-31 19:32:10 





( 荒く狂った呼吸の中、それでも碧眼が確かに己を真っ直ぐに見詰めていれば、嗚呼、意識の全てが過去に堕ちてしまっている訳では無いのだと。懸命に浮かび上がろうとしているのだと知る。「__そう…ゆっくり、上手です。」重なる相手の瞳に映る己の表情が焦燥を纏ったものでは無い様に、安心出来る様にと微笑みながら親指の腹で相手の頬を緩く撫で続け。___時間にしてどれ程か。最初より幾らか落ち着きを取り戻した事を継続的な呼吸音で知ると、そこで漸く両の手を離し。「署内もこの天候で落ち着いてるし、少し早めに帰って休もう。…何か、食べ易そうな物作るから。」台風の影響で事件も無くこれ以上確認しなければいけない報告書があがって来る事も無いだろうと帰宅を促し、朝から飲み物こそ飲む姿は見れど殆ど食事をとってる姿を見ていなければ食欲が無いのだと理解しつつの提案を付け加え。この時はまだ知らなかった。“糸が切れた”相手を襲う不調が、音の聞こえ方の変化だけでは無い事に )




  • No.5067 by アルバート・エバンズ  2025-08-07 00:55:41 

 





( 時間を掛けて幾らか落ち着きはしたものの、背中は汗に濡れ顔色も良くはない。もう少し時間が経たない事には、顔を合わせた署員にも不調に気付かれてしまうだろう。少し早めに帰ろうと言う相手の言葉にも、自分でもそうすべきだという思いがあった為か拒否する事もなく「……あぁ、そうする。」と軽く頷いて。---次の勤務日まで持ち越す事の出来ない急ぎの書類を片付け夕方頃には退勤すると、家に戻り早々にベッドに横になった。身体から怠さが抜けず、ひと言で言えば体調が悪い。決められた薬は飲んでいる為これ以上出来る事もないのだが、1日のデスクワークさえまともに出来ない程調子が良くないとは自分でも想定していなかった。少し微睡んでは外の物音で意識を引き戻され、という事を繰り返していて。 )







 

  • No.5068 by ベル・ミラー  2025-08-07 22:18:20 





( ___帰宅した後、結局相手は何かを胃に入れる事も無く眠りについた。周囲の音を過敏に拾ってしまう症状も勿論だが“糸が切れた”その不調自体がどの程度続くのか、医師に診て貰った方が良いのか、何もかもがわからずじまいだ。そして相変わらず勢いを緩めない雨風の音に僅かな睡眠をも邪魔される相手が目を覚ました夜中、軽く背中に掌を当て「少し起きる?」と問い掛けたのが数十分前。間接照明だけを点けたリビング、ソファに腰掛ける相手に手渡したのは何時もより少しだけ蜂蜜を多めに入れた甘いホットミルクで。このまろやかな白が相手の苦しみの全てを取り除くとも、静かな空間に導いてくれるとも思わないが、ほんの僅かでも気持ちが落ち着いて欲しいと願っての物。相手の隣に深く腰掛け同じ白の注いだマグカップの端に静かに唇を付けて )




  • No.5069 by アルバート・エバンズ  2025-08-08 03:24:15 

 





( 雨風が窓を揺らす音が絶えず大きく響く事で、漠然とした不安のようなものが胸の内に広がっているのを感じていた。目を覚ましベッドに身体を起こすと、少しして相手に促されるままに一度リビングへと。手渡されたマグカップからは柔らかく甘い香りが漂い、包んだ掌に伝わる温もりと共に気分を落ち着けてくれるのだが。少し冷ますように息を吹きかけてからゆっくりと飲んだホットミルク______それが胃に落ちるよりも前に感じたのは“苦味”だった。思わず反射的にマグカップを口から離す。見た目と、香りと、味と、全てが乖離している状況が飲み込めず隣の相手を見遣ると、何かあったのかとばかりに不思議そうな表情を浮かべて此方を見る相手と目が合った。相手も確かに同じホットミルクを、今此処で口にしていた。普段であればまろやかな甘みと共に落ち着きと眠気を運んでくるはずのホットミルクは、どういう訳か“鋭い苦味を持った温かい液体”に成り下がっていた。「……作り方を変えたのか、?」と、仮にそうだったとしても此の味になる筈がないと思いながらも相手に聞かずにはいられなかった。 )





 

  • No.5070 by ベル・ミラー  2025-08-08 08:49:42 





( まろやかな白が胃に落ち、鼻に抜ける様な甘く優しい香りに包まれながら思わず深く息を吐き出すも相手は正反対の反応を見せた。更には“作り方を変えたのか”との予想外の問い掛け。思わず自身の持つマグカップに視線を落とすのだが何か特別な作り方をしたつもりは無い。再び視線を持ち上げ隣の相手を見「…変えてないよ?」と不思議そうな声色で答えるのだが此処で唯一思い当たる事があった。「__もしかして甘過ぎた?何時もより少し多めに蜂蜜入れちゃったんだ。ミルク足そうか、」普段はスプーン一杯の蜂蜜を溶かすのだが今日は優しい甘さの余韻に少しでも長く浸って欲しいと一杯半ほどに増やしたのだ。もちろん相手が感じているのが“苦味”だとは思わない為、やり過ぎてしまったかと苦笑いを浮かべつつ、淹れ直すと片手を伸ばしマグカップを受け取る意思を見せて )




  • No.5071 by アルバート・エバンズ  2025-08-08 19:20:46 

 





( 作り方を変える事はしていない、寧ろ普段よりも多めに蜂蜜を入れたのだと言われれば再び手にしたマグカップに視線を落とす。いくら蜂蜜を多くしたからといって、甘みどころかこんなにも苦味を感じる筈がない_____とすれば、可笑しいのは味ではなく自分の味覚なのかもしれないと。「いや、……」と曖昧な返答で入れ直す必要はないと暗に告げるのだが、この味では飲み進める事は困難だった。正直に味への違和感を告げるべきか、黙っておくべきか悩みもう一度ホットミルクを少し啜ったものの結果は同じだった。ややして「……すごく、苦く感じる、」と正直な感想を言葉にしたものの、相手の淹れ方が悪いと言いたい訳ではないのだと言い訳をするように「薬が、口の中に少し残っていたのかもしれない。」と続けて。 )






 

  • No.5072 by ベル・ミラー  2025-08-08 20:32:47 





( 相手は歯切れの悪い何とも曖昧な返事でマグカップを此方に渡す事をしなかった。もう一口中身を啜るその様子を見詰めたが矢張り相手はそれ以上飲み進める事はせず、また何とも言えない微妙な空気と共に間が空く。「__無理に飲まなくても、」と、甘過ぎるのに我慢してまで飲む必要は無くただ淹れ直せば良いだけの話だと伝える言葉は最後まで続かなかった。それはマグカップを渡されたからでも“甘い”と言われたからでも無い。「…え、苦いの?」告げられたのが余りに予想外の言葉で思わず聞き返してしまった訳だが、こんな嘘を相手がつく筈も無いし、かと言って“薬が残ってた”と言う言葉が此方を気遣う言い訳だと言う事を察する事が出来ない訳でも無い。「一口飲ませて。」相手のマグカップを受け取り控え目に中身を啜る。胃に落ちた白から苦味を感じる事は無く、自分のには蜂蜜を一杯、相手のには一杯半入れた訳だから寧ろ今まで飲んでいたやつより僅かに甘く感じる程。「……薬、残ってたのかな。」直接的に苦くない、とは言わなかったが言葉を借りたその返答は暗にそういう事。けれども相手の感じた違和感を疑う気はこれっぽっちも無く緩く微笑むと「今夜は水にしようか。」と、これ以上は飲めないだろうと判断し中身の入ったマグカップをシンクに下げてから、別のグラスに冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを注ぎ今度はそれを手渡して )




  • No.5073 by アルバート・エバンズ  2025-08-09 02:28:55 

 





( 相手の反応から察するに、やはり此のホットミルクの味が可笑しい訳ではないのだろう。ミネラルウォーターを手渡されるとまた苦味を感じたらと僅かに警戒した様子ながら少し口に含むと、苦味を感じる事はなく安堵する。何が原因か明確な事はわからないが、物を口に入れる事、味のあるものを食べたり飲んだりする行為自体に少しばかり気が引けてしまい「…今日は夕食はいい、」と告げて。何も胃に入れる事なく眠っていた為もう一度眠る前に少しでも何か食べようかと思ったものの、その気は失せてしまっていた。明日の朝目を覚ましてから少し食べれば良いだろうと考えて。---けれど、音によるストレスと異常な味覚の変化による食欲の減退は、少しずつ、けれど確実に身体を蝕むものだった。神経が過敏になっている上に栄養が不足している状態は、非常勤で確保した休息を上回る勢いで心身を追い詰めた。薬を飲んでいなくても苦味を感じる状態は続き、食は一層細くなって数日で体重が少し落ちるに至り。『…ねぇ、ベル。警部補少し痩せた感じしない?最近顔色良くないよね、』と、署内でフロアに出て来ていたエバンズの姿を見たサラが、相手に声を掛けて。 )






 

  • No.5074 by ベル・ミラー  2025-08-09 12:28:23 





( ___ミネラルウォーターを口にした相手から再び違和感を訴えられる事は無かった。“味のあるもの”が苦味を引き連れて来るのかと可能性を考えている中で相手は結局夜に何も口にする事無く眠り、それは翌日の朝も、夜も、また次の日の朝も……数日続いた。___元々細身の相手、ストレスに加えて食欲減退でみるみるうちに痩せ顔色も悪くなった事はフロア内の署員数名も気が付いていた様で、そこには比較的観察眼の鋭いアンバーも勿論含まれていて。「…最近まともに食事をしてるの見てないんだよね。」エバンズを一瞥し、直ぐにアンバーに向き直ると軽く頷きつつ声を潜める。話す事を僅か躊躇うが、このままの状態が後数日、数週間と続けば倒れてしまう事は目に見えているものだから、エバンズが執務室に戻ったタイミングで「__此処だけの話にして欲しいんだけど、味覚に違和感を感じてるみたいなんだ。…甘さも苦味として感じるって、」周囲には聞こえない様アンバーだけにそう告げたのは、彼女の誠実さや口の堅さを知っているから。「…ストレスが大きく影響してるんだとは思うんだけど…、」と、視線を落として )




  • No.5075 by アルバート・エバンズ  2025-08-09 22:12:13 

 



サラ・アンバー


( エバンズが執務室に戻った後、声を潜めて告げられた言葉に思わず数度瞬きをする。そして勿論他言はしないと頷いてから執務室の方を一瞥し『…味覚が可笑しい時は亜鉛のサプリなんかが良いってよく聞くけど、ストレスから来る物だとあんまり効果が出ないかな、』と呟いて。エバンズと言えば元々痩せ型で、署内で食事を摂っている所を目にする事も少ない。普段以上に食べる量が減っているとなれば少し痩せたように思えるのも当然だろう。『食べられないのは心配だよね。元々味が薄いものとかだったらどうかな。パンとか豆腐、温野菜とか。』と、食べられそうなものを提案して。『最近非常勤になったし、あまり体調が良くないんじゃないかって心配してたの。いつかベルに頼まれて、仮眠室に水を届けに行った事があったけど…警部補が貧血持ちだった覚えがあって。ベルもあんまり悩みすぎないでね、警部補が元気ない時はベルも元気ない事が多いから。』彼の事も、相手の事も心配しているのだと、あまり重くなりすぎないような言葉選びで伝えて。 )






 

  • No.5076 by ベル・ミラー  2025-08-10 12:52:37 





サプリ…___それかもしれない。ほら、例え亜鉛が効かなくても、それなら多少の栄養は補えるだろうし苦味を感じ辛いかも。
( その言葉に今度は此方が瞬く。“食事”と言う事ばかりを考え視野が狭くなっていたが、味のしない錠剤を飲み込むだけであれば何も食べないよりはまだマシなのでは、と。けれど本来サプリメントは補う役割しか果たさない事も知っていた。食べ物を咀嚼する、と言う行為が人間にとってどれ程大切な事かも。だからこそ続けられた提案を聞く表情は真剣そのもので「…確かに元々の味が薄ければ、仮に苦味を感じたとしても僅かかもしれないよね。…今は、どの可能性も試したい。」相槌を数度、それは続けられた彼女の優しい思い遣りにも返したもの。エバンズに水を持っていった事を覚えていて、少なからず彼の身を案じていて、更には彼が元気の無い時の此方の状態までもを確りと見ている__こう言った思い遣りを向けられた時、むず痒い気持ちと共に心には明るさが蘇る。尽く、自分は沢山の人達に助けられているのだと実感する。「…ありがとう、サラ。」やや眉の下がった緩い微笑みと共にお礼を述べた後「……痛みからも、苦しみからも、ずっとずっと遠い所に居て欲しい、」と、思わず溢れた言葉は決して言おうと思ったものでは無かった。けれど、何時だって感じている事。遅れて返事に困らせてしまうだろうかと過ぎれば「難しい事だけどね。」と微笑み直して )




  • No.5077 by アルバート・エバンズ  2025-08-11 11:21:39 

 




( きっと相手はエバンズの事を誰よりも大切に思っていて、誰よりも幸せになって欲しいと願っている。普段から其れは感じていたけれど、少し困ったような微笑みを見て、その言葉を聞いて矢張りそうなのだと知る。彼が抱えている物が何か、極断片的にしか知らないものの相手はその傷に寄り添い続けている。『…好きな人の幸せを願うのは当然の事だよ、』と微笑んで。---味覚の異常により食が細くなってからは、当然ながら貧血のような症状が起きる事も増えていた。何か食べなければという思いはあるものの、味が分からないもの、苦味を感じるものを“食べる”という行為が苦痛で食が進まない日が続いていた。執務室で鎮痛剤を飲もうとした時、普段は何の滞りもなく薬を摂取出来るのだがこの日は何故か______喉に引っ掛かるような違和感を覚え、思わずえずきそうになる。水を飲み込み、口の中には錠剤が残ったまま。もう一度水を口に含んだものの、錠剤を飲み込もうとすると結果は同じだった。薬が飲めない事などこれまで一度も無かったと一抹の不安を抱えつつ、口の中で溶かした其れをなんとか飲み込む。しかし酷い苦味が残り、急に気分の悪さを感じて部屋を出るとトイレへと向かって。個室に入り、咳き込むようにして戻してしまうと、ハンカチで口元を抑える。食事も満足に取れない状態で薬や水さえ吐いてしまっては、其れこそ飢餓状態に陥っても可笑しくない。徐々に足元が崩れていくような不安を覚えつつも、軽く水で口を濯いでから執務室へと戻り。 )






 

  • No.5078 by ベル・ミラー  2025-08-11 12:13:28 





( “好きな人”と言うアンバーの言葉に返したのは微笑み。寄せる想いはこんなにも心を揺るがす。___エバンズが錠剤を飲み込む事が出来なくなっている事を知らない中、アンバーと別れ先に向かったのは自身のデスク。鞄の中から新品のミネラルウォーターと、普段定期的に飲んでいるビタミンのサプリの袋を取り出し次に向かったのは警部補専用執務室で、扉をノックし中から入室の許可が出れば部屋へと入り。青白い顔が目下の隈をより濃く見せていて、普段から細身の身体は一層線が細くなっている。一目見ただけでも調子の悪さがわかる様子に自然と眉は下がり、ペットボトルを相手のデスクに置いてからサプリの袋を差し出すと「…今はこれしか無いけど、何も口にしないよりは良い筈だから。…試しに飲んでみて?」これがもし苦味を感じないならば、多少の栄養を補う役割は出来る筈だと )




  • No.5079 by アルバート・エバンズ  2025-08-11 12:27:38 

 




( 執務室に入ってきた相手が手にしていたのは、捜査の書類ではなくミネラルウォーターとサプリメントの袋。仕事の用件ではなく、自分の体調を案じて此処を訪れたのであろう事は容易に想像が付いた。けれどタイミング悪く、今は相手を安心させる事は出来ないだろう。錠剤を飲み込む事で吐き気が催される恐怖は、薬やサプリメントさえ遠ざけた。「…助かる。後で飲んでおく、」到底飲む気にはならなかったものの相手を不安にさせないよう、今この場ではなく後で飲むつもりがあるのだと言葉にすると有り難く受け取る姿勢を見せて。 )






 

  • No.5080 by ベル・ミラー  2025-08-11 12:40:15 





( 拒否されなかった事で微笑み軽く頷くのだが。__何故だろうか、特別な理由がある訳では無いし相手の言動に違和感を感じた訳でも無いのに、無性に心が変な騒つきを感じて動きが止まった。何かを言う事も、部屋を出て行く事もせず相手を見詰めたままの時間が数十秒。「……もしかして、もう試して駄目だった?」漸く口を開いた問い掛けは、“錠剤自体が飲み込めない”と言う事からは少しズレたもの。既に何らかのサプリを試し、結果それも“苦味”に繋がり結局飲めなかったのでは、と言う推測で )




  • No.5081 by アルバート・エバンズ  2025-08-11 15:08:28 

 




_____少し、苦味は感じた。
( 相手は自分の言葉に納得して出ていく事はしなかった。相手は勘が良い、何らかの違和感を感じての言葉だったのかもしれない。どう答えるべきか少し悩んだ後、“苦味”の所為であまり積極的に飲みたい物ではないのだと言い訳をする。錠剤自体が上手く飲めないとは、心配しているであろう相手に言う事は出来なかった。「…でも飲めない程じゃない、少し落ち着いたらもう一度試してみる。」と告げて。 )





 

  • No.5082 by ベル・ミラー  2025-08-11 17:35:41 





( 今回は“飲めない程じゃない”と言う言葉を信じた。それは素直に苦味を感じた事を伝えて来たからか、はたまた前向きな言葉で締め括られたからか。何にせよ「わかった。駄目だったらまた考えよう。」と此方もまた前向きな返事を返し今度こそ執務室を出て行き。___夜になる頃には直撃していた台風は過ぎ去っていた。雨は相変わらず降っているものの豪雨と言える程では無く、風も比較的緩やかになった。とは言え相手を悩ませる騒音の一部が落ち着いただけであって周囲に音は山ほど溢れている事には変わりない。___ある程度の仕事を終わらせ共に家に帰る。今日の夕飯は昼間アンバーに提案された温野菜。ドレッシング諸々をつける事はせず、それだけを夕飯として出すのは普段ならば絶対に有り得ないが、今は食べられる物を見付ける事が最優先で。「もし苦くて食べられなかったら、悪いなんて思わないで残してね。」相手が此方に気を遣う必要が無いように先にそう声を掛け向かいの椅子に腰掛けると、一先ず自分の分も作った鮮やかな色の人参を口に運びつつ、視線を向けて )




  • No.5083 by アルバート・エバンズ  2025-08-11 19:13:37 

 




( 夕食に出された温野菜の中から、小さなブロッコリーのかけらを口に入れる。実際美味しいと思えるような味ではなかったのだが、他の物に比べると苦味は弱く少しなら食べられるかもしれないと、小さく切った野菜を少しずつ口にして。野菜を飲み込む時にも、昼間錠剤を飲み込む時に感じた引っ掛かるような感覚や吐き気は無く、僅かながら安堵していた。ドレッシングなどが掛かっていなかった事も、苦味を感じにくかった要因だろう。「……少しなら、食べられそうだ。」目の前に座る相手にそう伝えて。 )






 

  • No.5084 by ベル・ミラー  2025-08-11 20:11:04 





( 比較的味が薄く余計な味付けをしていなければ多少なら食べられる事がわかり、その量の少なさで体重を増やす事は出来ないだろうが少なくとも何かは胃に落とせる事に安堵する。「良かった。もしかしたら白米も食べられるかもしれないね。…勿論、ドロドロじゃないやつ。」ホッと息を吐き出し今瞬間的に思い付いたのは日本人の主食。お米単体ならば味も然程しない為に可能性はあるかもしれないと提案しつつ、何時かの日、入院している相手にお見舞いとして持って行ったはいいが“食べない”と一蹴された所謂“お粥”の話も少しの冗談交じりに付け足し。グラスにミネラルウォーターを注ぎ相手の前に置いたタイミングで「…安定剤飲んでおく?」と、問い掛けたのは今回ばかりは凶だろう。比較的落ち着けている今の内に飲み少しでも夜の睡眠を安定させられたら…との提案だったが、そもそも錠剤を飲み込めない事を知らないからのそれで )




  • No.5085 by アルバート・エバンズ  2025-08-11 21:51:02 

 





( 相手から出た“白米”のワードには微妙な表情を浮かべる。ドロっとしたお粥でなければ未だ良いが、然程馴染みもない為好き好んで食べるかと言われればそうではない。「…それならパンで十分だ、」と告げておき。グラスに水が注がれ、薬の話が出ると昼間の事を思い出す。喉に引っ掛かったような感覚と気分の悪さが、あの瞬間だけでなく薬を飲もうとする度に起きるかもしれないと思うと、未だ飲む気にはならなかった。固形の食べ物も少量であれば食べることが出来るのに、何故錠剤が上手く飲めないのかは分からない。「……いや、今は良い。後で飲んでおく。」と答えて。 )





 

  • No.5086 by ベル・ミラー  2025-08-11 22:11:24 





( どうやら“お粥”が嫌いな訳では無く“米全般”を余り好んでいないのかもしれないと思えば「じゃあ明日の朝は食パンかな。」と頷き。署内でのサプリメントといい、安定剤といい、何かと先延ばしにしている様な感じがするのは相手の体調に敏感になってる為の所謂疑心暗鬼だろうか。「…そっか、」と答えたものの納得している訳では無く微妙な沈黙と共に皿に残った温野菜を食べ終えて。__些細な音が今の相手にとっては騒音となる為、テレビの点いていない部屋の中は静かなもの。時計の秒針の音や時折窓の外から聞こえる僅かな雨の音だけが何時もよりハッキリ聞こえるだろうか。相手がまだ飲まない、と言うならばそこまで口を出す必要は無いし、過剰に心配をすれば逆に不安にさせたり、居心地悪い思いをさせるだけだと思えば「…台風、思った以上に早く過ぎて良かったね。きっと徐々に音も気にならなくなるし、味覚も元に戻るよ。ずっとは続かない。」重たくならない様な声色でそう告げ、お皿をシンクに下げる際に座る相手の肩に軽く手を置いて )




  • No.5087 by アルバート・エバンズ  2025-08-11 23:50:39 

 




( 少しの温野菜を口にして、夕食の時間は終わりを告げる。皿同士がぶつかる音が出ないように気を遣いながら皿を下げる相手から告げられた言葉には軽く頷き「……そうだな、」とひと言。台風による音が収まり徐々に自分の聴覚や味覚も正常に戻る事を願わずにはいられない。---相手がシャワーを浴びている間、ようやく重い腰を上げて薬を飲むためにシンクへと向かい。ミネラルウォーターをいつもよりも多めにグラスに注ぎ、安定剤を2錠掌に乗せる。それを口に入れて水を飲み____喉につかえるような感覚と共に吐き気に襲われ、やはり飲み込む事は出来なかった。薬を奥歯で砕いてから更に水を口にしたものの結果は変わらず、トイレに向かうと咳き込んで。吐いてしまうのが苦しいのだが、薬を飲めないまま夜を迎える事も怖かった。 )





 

  • No.5088 by ベル・ミラー  2025-08-12 00:32:52 





( ___シャワーの時間は凡そ20分程。脱衣所で髪の毛の水分を何時もの倍時間を掛けてタオルに吸収させるのは、ドライヤーの音が鳴る時間を短縮させる為。そうやって早急に乾かした髪を後ろで一つに括りリビングに戻って来るのだがそこに相手の姿は無く、視界に映ったのは台所に置かれた中身の入ってない安定剤の空シート2つ。先程感じた違和感は矢張り疑心暗鬼になっていたせいの勘違いだったのだと一瞬の安堵は、トイレから聞こえた空咳とは違う苦しそうな咳によって一瞬にして散った。足早に向かえば急いでいたのかトイレの扉は半開きになっていて、そこには背中を丸めた体勢で背を向ける相手の姿があり。前にも一度だけ見た事のあるこの姿。調子が悪くなっているのは一目瞭然で、驚かせない様に小声で相手の名前を呼んだ後、傍らに膝を着き背中に掌をあてがうと「…苦しいね、」その手を大きく動かし背を擦りながら、大丈夫を繰り返し。けれど安定剤は吐き出してしまっているだろう。飲めないまま夜を迎える不安は相手と同じ様に感じていて )




  • No.5089 by ベル・ミラー  2025-08-12 00:39:57 




( ___シャワーの時間は凡そ20分程。脱衣所で髪の毛の水分を何時もの倍時間を掛けてタオルに吸収させるのは、ドライヤーの音が鳴る時間を短縮させる為。そうやって早急に乾かした髪を後ろで一つに括りリビングに戻って来るのだがそこに相手の姿は無く、視界に映ったのは台所に置かれた中身の入ってない安定剤の空シート2つ。先程感じた違和感は矢張り疑心暗鬼になっていたせいの勘違いだったのだと安堵するも、それはトイレから聞こえてきた空咳では無い苦しそうな咳によって一瞬にして散った。足早に向かえばトイレの扉は半開きになっていて、そこには背中を丸める体勢で背を向ける相手の姿があり。過去に一度だけ見た事のあるその姿。調子が悪い事は一目瞭然なものだから、驚かせない様小声で名前を呼んでから傍らに膝を着き背中に掌をあてがう。「…苦しいね、」その手を大きく動かしつつ、大丈夫、を繰り返すも、安定剤は吐き出してしまっているだろう。薬を飲めない状態で夜を迎える不安は相手と同じ様に感じていて )




  • No.5090 by ベル・ミラー  2025-08-12 01:01:45 





( ___シャワーの時間は凡そ20分程。脱衣所で髪の毛の水分を何時もの倍時間を掛けてタオルに吸収させるのは、ドライヤーの音が鳴る時間を短縮させる為。そうやって早急に乾かした髪を後ろで一つに括りリビングに戻って来るのだがそこに相手の姿は無く、視界に映ったのは台所に置かれた中身の入ってない安定剤の空シート2つ。先程感じた違和感は矢張り疑心暗鬼になっていたせいの勘違いだったのだと安堵するも、それはトイレから聞こえてきた空咳では無い苦しそうな咳によって一瞬にして散った。足早に向かえばトイレの扉は半開きになっていて、そこには背中を丸める体勢で背を向ける相手の姿があり。過去に一度だけ見た事のあるその姿。調子が悪い事は一目瞭然なものだから、驚かせない様小声で名前を呼んでから傍らに膝を着き背中に掌をあてがう。「…苦しいね、」その手を大きく動かしつつ、大丈夫、を繰り返すも、安定剤は吐き出してしまっているだろう。薬を飲めない状態で夜を迎える不安は相手と同じ様に感じていて )




  • No.5091 by ベル・ミラー  2025-08-12 01:10:55 





( ___シャワーの時間は凡そ20分程。脱衣所で髪の毛の水分を何時もの倍時間を掛けてタオルに吸収させるのは、ドライヤーの音が鳴る時間を短縮させる為。そうやって早急に乾かした髪を後ろで一つに括りリビングに戻って来るのだがそこに相手の姿は無く、視界に映ったのは台所に置かれた中身の入ってない安定剤の空シート2つ。先程感じた違和感は矢張り疑心暗鬼になっていたせいの勘違いだったのだと安堵するも、それはトイレから聞こえてきた空咳では無い苦しそうな咳によって一瞬にして散った。足早に向かえばトイレの扉は半開きになっていて、そこには背中を丸める体勢で背を向ける相手の姿があり。過去に一度だけ見た事のあるその姿。調子が悪い事は一目瞭然なものだから、驚かせない様小声で名前を呼んでから傍らに膝を着き背中に掌をあてがう。「…苦しいね、」その手を大きく動かしつつ、大丈夫、を繰り返すも、安定剤は吐き出してしまっているだろう。薬を飲めない状態で夜を迎える不安は相手と同じ様に感じていて )




  • No.5092 by ベル・ミラー  2025-08-12 01:27:54 





( ___シャワーの時間は凡そ20分程。脱衣所で髪の毛の水分を何時もの倍時間を掛けてタオルに吸収させるのは、ドライヤーの音が鳴る時間を短縮させる為。そうやって早急に乾かした髪を後ろで一つに括りリビングに戻って来るのだがそこに相手の姿は無く、視界に映ったのは台所に置かれた中身の入ってない安定剤の空シート2つ。先程感じた違和感は矢張り疑心暗鬼になっていたせいの勘違いだったのだと安堵するも、それはトイレから聞こえてきた空咳では無い苦しそうな咳によって一瞬にして散った。足早に向かえばトイレの扉は半開きになっていて、そこには背中を丸める体勢で背を向ける相手の姿があり。過去に一度だけ見た事のあるその姿。調子が悪い事は一目瞭然なものだから、驚かせない様小声で名前を呼んでから傍らに膝を着き背中に掌をあてがう。「…苦しいね、」その手を大きく動かしつつ、大丈夫、を繰り返すも、安定剤は吐き出してしまっているだろう。薬を飲めない状態で夜を迎える不安は相手と同じ様に感じていて )




  • No.5093 by アルバート・エバンズ  2025-08-22 05:18:10 

 





( せっかく少し口にする事が出来た夕食も身体に栄養を届けるには至らなかったかもしれない。浅く背中を上下させつつ、首筋に薄らと汗が滲む不快さを感じていた。相手の声がして僅かに肩が跳ねたものの、背に触れる掌の感覚に驚く事はしなかった。「_____上手く、錠剤が飲み込めない、…」背を僅かに丸めた状態のまま、言葉を紡ぐ。やがて幾らか気分の悪さが落ち着き動けるようになると、水を流してゆっくりと立ち上がる。安定剤も何も飲めていなかったが、これ以上無理に薬を飲み込もうとする方が辛いと判断しベッドで休む事を告げ。 )







 

  • No.5094 by ベル・ミラー  2025-08-23 11:39:28 





( その言葉で漸く今相手の身に起きている“次なる症状”を理解した。あの時サプリメントを直ぐに飲まなかったのもそれが錠剤だったからなのだろう。音の嫌な反響、味覚の異常、それに加えて嚥下困難なんて。___次々に襲い来る不調の数々に膨らむ不安を胸の内に抱えながら、酷く憔悴している相手の言葉に小さく頷き立ち上がり。「…わかった。…錠剤が飲めなくても方法は幾らでもある。明日一番いい方法考えよう。」重たくならない声色を心掛けながら寝室に行く相手を見送った後。相手の鞄の中から2錠の安定剤を取り出すと、それを以前買ったきり使用していなかった小さなすり鉢で粉末状に砕く。なるべく音をたてない様に慎重に慎重に…。粉末状にした事で次は苦味を多く感じ結局飲む事は出来ないかもしれない、それでも可能性があるならと )




  • No.5095 by アルバート・エバンズ  2025-08-24 01:24:49 

 





( ベッドに身体を横たえると、重たい疲労感に襲われる。まともに栄養を摂っていないのに、体力ばかりが削られ薬も飲めない。自分が“負の連鎖”に陥っているのは分かっていたが其処から這い上がる術までは見出せず、相手が寝室に来るよりも前に意識を手放していて。---夢の中で、幾度と繰り返したあの日のあの場所に立っていた。園児を抱きしめた妹の姿も、助けを乞う教諭たちからの視線も、控えている刑事の姿も、いつも夢で見るものと同じ。けれど、何故か周囲はスローモーションのように見えていて、自分が真っ直ぐ歩みを進めているのはライフルを持った犯人の元だった。報道で幾度と目にした写真ではあるものの、これほど鮮明に犯人の顔が思い出される事は、夢の中で妹ではなく犯人に視線が向いている事はこれまで無かったと言えよう。当然夢の中ではそんな事に気付くはずもなかったが、至近距離で向き合った犯人に強い殺意が湧き起こったのは確かだった。犯人が手にしたライフルを奪い取り、今この場で、この男を撃てば。そんな事を頭の片隅で考えたものの、まるでタイムリミットだとばかりに銃声が響き夢の世界は崩れていく。一気に意識を引き戻され、呼吸が浅くなるのと同時に強い痛みが鳩尾に走った。痛みが増大しないようにゆっくりと呼吸をしたいのだが、一度喉に張り付いた呼吸はペースを乱し徐々にに浅く苦しげなものに変わっていき。 )






 

  • No.5096 by ベル・ミラー  2025-08-24 12:16:59 





( 安定剤に続いて睡眠薬や鎮痛剤も粉末状にし、終わった頃には僅かあった眠気が覚めてしまっていた。そうなると意識は矢張り相手の不調やこの先の事に向き思考を占領する。ソファに深く腰掛け暗闇に慣れた瞳をぼんやりと点いてもいないテレビに向けながら過ごした時間は果たして数十分かそれ以上か。流石に眠らなければと寝室に行き眠る相手を起こさない様に慎重に隣に潜り込むのだが、直ぐに眠れる訳も無く目だけは閉じるものの意識は今に残ったまま。___隣で眠っていた筈の相手が身動ぎと共に苦しげな息を吐き出した。「…エバンズさん、」と声を掛けてからベッドサイドの間接照明を点ける。身体を丸め蹲る様な体勢で、浅く荒い呼吸を繰り返すその姿を見るのは当たり前ながら慣れる事は無く胸が締め付けられるのだ。「待ってて、」一度寝室を出てキッチンで用意するのはグラスに3分の1程注いだミネラルウォーターの中に粉末状の安定剤と鎮痛剤を入れたそれ。飲み切れる保証は無い。「__錠剤じゃない。水に溶かしてあるから…飲んで?」片手で背を擦りながら、グラスを口元に近付けつつ顔を覗き込んで )




  • No.5097 by アルバート・エバンズ  2025-08-29 07:48:22 

 




( グラスが差し出されると、それを受け取り少量を口に含む。酷い苦味が口に広がったものの、錠剤を飲めていない以上少しでも飲まなければと飲み込んで。苦味の余韻と共に、反射的に吐き気を感じたもののややしてそれは落ち着く。結局時間を掛けて数口は飲んだものの、半分以上残った水はそれ以上飲み進められず、同時に身体の痛みが強まった事で相手にグラスを戻して。ベッドの上に蹲るようにして背中を丸め痛みに耐えていたものの、身体を横たえる事さえままならない程に痛みが強まっていて、思わず縋るように相手に手を伸ばす。深く息をする事は痛みに繋がる為、呼吸は極浅いもの。首筋や背中には汗が滲む。「……っ、…痛い、…」どれ程の時間を耐えれば良いのだろうかという不安が渦巻く中、相手の片方の手を握り締め懸命に痛みをやり過ごす。少しずつ、それでも確実に、あの事件捜査以降悪い方へと引っ張られ足場が崩れて行く不安定さを自分自身が痛感していた。 )







 

  • No.5098 by ベル・ミラー  2025-08-30 13:13:15 





( 懸命に嚥下する最中は背中を擦るも、相手の胃に落ちた水の量は極僅か。直ぐにグラスを返されそれをベッド脇のサイドテーブルに置き今度は掛け布団を掛けようとするのだが。ふいに縋る様に伸ばされた手が己の手を握り締めれば痛みの中の加減を知らぬ強さに思わず目を見開き。骨張った指先は酸素が確りと巡っていないせいか冷たく僅か震えている。“痛い”と、そう訴える相手の声が余りにも苦痛を纏っていて息を飲んだ。痛くない筈がない、苦しくない筈がない。まともな量の鎮痛剤を飲めない以上相手の身体を襲う痛みはそんな簡単に消える事は無いだろう、夜中いっぱい耐え続け意識を失えたら本望だとすら思うだろうか。「…っ、」奥歯を噛み締め、汗の滲む熱い背中を擦る事しか出来ない事の、一秒でも早く痛みが消える事を願うだけのなんて無力な事か。共に分け合える痛みなら、苦しみなら、何の迷いも無く貰い受けるのに。__視界が滲み、緑の虹彩から溢れた涙が己の手を握り締める相手の手の甲に落ちた。震える息を抑え付け、相手の手を僅か持ち上げ己の額に押し付ける。「__何で…エバンズさん、悪い事何もしてないのにねっ…、」何時だって相手ばかりが苦しむ。楽になる事を許さないとばかりに降り注ぐ絶望の数々を受けるのは本来相手では無いのに )




  • No.5099 by アルバート・エバンズ  2025-09-02 16:27:04 

 





( 相手の涙が手の甲を濡らした。自分の痛みをまるで自分の事のように悲しみ怒ってくれる相手は、行き場のない自分の感情を代弁してくれているかのようだ。痛みに耐え、やがて意識を失うようにして眠りに落ちる。けれどその状態が直ぐに解消される事はなく、非常勤で休みを十分確保しているにも関わらず幾つもの不調に日に日に追い詰められていく事となり。---エバンズの様子が普段と違う事には、数日前までよりも多くの署員が違和感を感じ始めていた。しかし特別捜査に追われているという訳でもなく、寧ろ休みを取っているタイミングだけにアダムス医師にまた無理を言って点滴を打って貰う訳にはいかない。薬を上手く飲めない事も伝えてはいなかった。自己都合で多くの休みを貰っているのだから、せめて出勤している時は自分の仕事をこなさなければという思いに駆られていて。夢の中だけで現れていた幻影が、徐々に現実世界にも侵食し始めている事には、自分自身でさえ未だ気付いていなかった。 )






 

  • No.5100 by ベル・ミラー  2025-09-02 22:06:13 





( ___薬を飲み込む事が出来ず嘔吐く姿を、夜中に悪夢に魘され涙を流す姿を、果たして何度見ただろう。日に日に痩せ線の細くなっていく身体と比例する様に濃さを増す隈は、碧眼に宿る命の灯りすらも消してしまいそうで膨れ上がる恐怖心は僅かも消える事は無かった。___そんな現状が好転することも無いままに数日が経った今日。器物破損と傷害の疑いで事情聴取を受け終えた若い青年が、女性捜査官に連れられて署内の廊下を歩いていた。真一文字に口を結んだ不機嫌そうな男の表情は先の聴取も何もかもが納得がいかないと物語っており、床を踏み付ける足音も何処か荒々しい。そんな状態で周りに視線を向ける事も無くただ真っ直ぐ前を見詰めたまま、丁度刑事課フロアを出た直後の相手の目の前を通り過ぎようとして )




  • No.5101 by アルバート・エバンズ  2025-09-02 22:46:15 

 





( フロアを出るタイミングで視界が揺らぎ眩暈を起こした、と思った。バランスを崩す事こそ無かったものの、一瞬眩んだ視界が元に戻った時最初に目に入った廊下を歩く男の顔。捜査官に連れられて歩く男は、黒い服を着ていた。たったそれだけ。背格好は近しいものがあったかもしれないが、特別顔が似ている訳でもない。_____けれど、数日前に見たあの夢が思い出された。あいつを殺さなければ、と思ったあの時の焦燥が湧き上がる。一度瞬きをすると、目の前を通過して行った不機嫌そうな男の顔が犯人のものに変わった。十数年も前の事件の犯人が、其れも自分たちの目の前で命を絶ったあの男が生きている筈がない。正常な思考であればそう考えた筈だが、立ち止まる事は最早出来なかった。何を見ているのかと気怠げに向けられた視線、其れを、此方を煽るような嘲笑と錯覚したのと同時に、男の襟首を背後から掴み殴り掛かっていた。ただ、胸の内が焼き切れそうな程の怒りと、憎しみと、やり場のない感情に支配されていた。大きな音と共に男が地面に引き倒され、悲鳴が上がる。「_____っ、殺してやる!!!お前の所為でセシリアは死んだ!!」何が起きたのか理解出来ていない男に怒声を浴びせると半ば馬乗りになるようにして掴み掛かっていて。 )







 

  • No.5102 by ベル・ミラー  2025-09-03 11:14:19 





( 男と捜査官が相手の前を通り過ぎ__また今日と言う日常が始まり出すと思っていた、のだが。何の躊躇も無い力で殴られた男が床に崩れる音と共に彼を連れていた捜査官の悲鳴と、廊下を歩いていた他の捜査官や事務員の悲鳴が重なった。それに被せる様にして誰よりも大きな相手の怒声が響き渡り一瞬にして場は混乱と混沌を生み出した。相手に殴られた男は床に尻餅をついたまま自分の上に馬乗りになる相手を驚愕と恐怖の入り交じった表情で見詰めたまま、わなわなと動かす唇からは結局何か声を発する事が出来ず。__「ッ、!」刑事課フロアから飛び出した己とスミス捜査官はほぼ同時だった。他数名の署員達が扉から顔を覗かせ騒めく中、男に馬乗りになる相手をスミス捜査官が脇に両腕を入れる形で背後から強引に引き剥がし、状況を把握出来ず床に座り込む男を別の捜査官が無理矢理立たせ、相手と距離を取らせる為に足早にエレベーターの方面へと引っ張って行き。「…エバンズさん!…っ、警部補!!」未だ強い強い怒りを瞳に宿し完全に我を忘れている相手の名を、役職を、焦燥の滲む表情と声色で叫ぶ様に呼ぶ。__相手が男に殴り掛かった直後、確かに聞こえた“セシリア”と言う名前。それが胸の奥に残り続け )




  • No.5103 by アルバート・エバンズ  2025-09-03 22:02:10 

 





( 背後から羽交締めにされるようにして男から引き離されたのだが、胸の内に生まれた激しい怒りは直ぐに落ち着く事はなかった。「______っ、離せ!あいつの所為でセシリアは…!」あの男だけは自分の手で制裁を下してやらないと気が済まないのだと、自分を抑えているスミス捜査官の腕を振り解こうとする。ただ怒りと憎しみの衝動に突き動かされ、周りなど見えていなかった。しかしまた不安定に視界が揺らいだ事で動きが緩み、再びエレベーターの方に居る男と視線が重なった時、犯人とは全く似ても似つかないその顔に思わず言葉を失い動きも止まる。確かに、今の今まであの事件の犯人が目の前に居て、此方を嘲笑したではないか。けれど目の前に広がる光景は、ほんの数十秒前まで自分が見ていた物とは全く違っていた。口の端が切れ怯えたような表情を向ける男と、不安そうに此方の様子を伺う幾つもの視線。理解が追い付かず、一体何が起こっているのかと半ば放心状態で廊下に座り込んだままで居たものの碌な栄養を摂っていない中で暴れた事による反動だろう。突然意識が遠退くのを感じ、誰かの別の悲鳴を聞いたのを最後に意識は途絶えていて。 )






 

  • No.5104 by ベル・ミラー  2025-09-03 22:43:28 





( ___当たり前ながら呼ばれた救急車は意識を失った相手を乗せレイクウッドの総合病院へと向かって行った。騒ぎを聞き付けた警視正がミラーとスミス捜査官を含めた数名の署員達、それから現場を最も良く見ていたであろう男を先導していた女性捜査官に詳細を聞き、重たい溜め息を吐き出したのは救急車のサイレンが聞こえなくなってから。“言葉1つ交わしていないのに警部補が急に男を殴った”と言うのが皆の証言であるものの、それはあくまでも“セシリア”が誰なのかを知らないから。相手の見続ける悪夢を知らないから。謹慎という名の療養で暫く休職してもらう、と言うのが相手自身にはまだ伝えていない警視正の判断となり。___意識の無い相手に最初に施されたのは点滴による栄養補給だった。痩せて酷い顔色の相手が運ばれて来た時、まさか此処まで状態が悪いとはアダムス医師も思っていなかった。勿論相手からの連絡も無かったし、診察に来る事も無かったのだから気付く事が出来ないのはある意味当然なのだが、これでは先に身体が悲鳴をあげてしまう。___その後、遅れて病院に来たミラーから此処数週間の相手の状態、それから倒れる前の状況を伝えられ“セシリア”と口にした事から恐らく幻覚を見た可能性が高いと判断したアダムス医師は、点滴に安定剤も足して。___病室のベッドの上、白い布団を掛けられ眠る相手の姿を何度見たか。閉じられた瞼に掛かる焦げ茶色の前髪を軽く払い、白く骨張った片手を両の手で握り締める。“あの日”犯人が自殺をした事で相手の胸の内にある怒りも、悲しみも、絶望も、ぶつける先を失ったのだろう。けれどそれらは決して消える事無くふつふつと煮えたぎるマグマの様に常に相手の中にあり続け、それがきっと爆発した。“殺してやる”と、そう叫んだその言葉こそが嘘偽りの無い相手の感情だ。大勢の人達の命を奪い償う事無く自殺など、余りにも無責任で、余りにも残酷ではないか )




  • No.5105 by アルバート・エバンズ  2025-09-04 19:13:28 

 





( 目を覚ました時、視界に広がる白い天井を見て直ぐに病院だと理解した。点滴によって薬を投与されているからだろう、ここ最近の調子が悪過ぎたのだが今はだいぶ身体が楽で思考もクリアな状態だ。当然最後の記憶である騒動についても忘れては居なかった。ゆっくりと横に視線を向けると相手が座っていて、自分が目を覚ました事に気が付くと立ち上がる。此方を覗き込みつつ、意識が戻った事を伝えるべくナースコールを押そうとした相手の手を掴み制止して。相手に、何よりも先にまず聞かなければならない事があった。「_____俺が殴ったのは…誰だった、?」覚えているのだ、確かに”あの男“が自分の目の前を通り過ぎ、此方を振り向いて嘲笑した事を。その顔は紛れもなく、幾度と夢に見た、あの事件を引き起こし身勝手にも逃げ仰せたあの男だった。現実的に考えればそんな筈が無いと分かっていても、其れが間違いなく自分が目にした光景だった。近くに居た相手が其れを否定するなら、自分が”可笑しくなっている“のだと。 )






 

  • No.5106 by ベル・ミラー  2025-09-04 21:31:06 





( 思わず双肩が跳ね驚きに目を見開いたのは、まさか制止が掛かると思っていなかったから。続けられた問い掛けは数時間前の署での騒動を確りと覚えているものなれど、“誰だったか”と問う辺り“見た”男の顔は__そう言う事なのだろう。掴まれた手を引く事無く再び椅子に腰掛け直し、相手を真っ直ぐに見る瞳には真剣さと少しの困惑の様な色が入り混じる。「昨晩起きた事件の重要参考人として聴取を受けていた男性です。…エバンズさんと面識は無いかと、」一度軽く息を吐き紡いだ言葉は誤魔化すでもない正直なもの。“あの事件”には全く無関係の男なのだと言い切った後。「…此処数日の不調で、いっぱいいっぱいになってたのが溢れちゃっただけ。」それでも付け加えたのは相手にとって納得のいかない気休めにすらもならない慰めになってしまっただろうか。男は何もしておらず、過失は100%相手自身にあるのは己も相手自身もわかっている事なれど、どうしても擁護したいと思ってしまうのは相手の心にある感情に触れたからか )




  • No.5107 by アルバート・エバンズ  2025-09-05 04:56:56 

 





( 少しの困惑を孕んだ相手の返答を聞き、腕を掴んでいた手が緩むとやがて離れる。やはり、可笑しいのは自分だったという事だ。あれ程鮮明に見えていた筈の物は自分が作り出した幻影。悪夢に魘された時などに夢と現実の区別が付かなくなる事はこれまでにも時折あったが、それは眠りから覚めたばかりのその瞬間の事。今日のように普通に活動をしている日中にそんな状態に陥る事など、これまでただの一度も無かったというのに。「……そうか、」とひと言だけ答えたものの、自分への失望は大きかった。なんの落ち度もない男性に突如暴力を振るったとなれば、相応の処分が下されるだろう。いつか、精神科でのより高度な治療がとっくに必要な状態だと吐き捨てた医者がいたが、あながち間違いでは無かったのかもしれない。自分で自分を抑えることができず、過去の幻影に振り回されてはいつ何をするか分からない。相手を自分の側に居させる事さえ憚られた。「______騒ぎを起こして悪かった。お前は仕事に戻れ、」と告げて。 )






 

  • No.5108 by ベル・ミラー  2025-09-05 13:32:17 





( たった一言、その一言に余りに暗く重い失望が纏っているのを感じてしまい膝の上できつく拳を握る。その後に続ける言葉を何も紡げないまま少しの沈黙が流れ__先の騒動の謝罪と共に退室を促されれば軽く首を左右に振り。「やらなきゃいけない仕事はもう終わらせて来てる。」此処に居た所で何が出来る訳でも無いのだが、仕事面で残る署員に迷惑を掛ける事は無いと、暗にまだ居たいと言う事を滲ませた後。「……可笑しくなった、なんて思ってますか?」と、徐に問い掛けて。その声色は真剣で、静かなもの。褪せた碧眼に宿る色が不安定なのを感じているからで )




  • No.5109 by アルバート・エバンズ  2025-09-09 05:11:58 

 





( 相手の言葉に直ぐに返事を返す事はしなかった。胸の内に巣食う虚無感や苦しさ、其れに抗う事に疲れてしまったというのが正しい表現だろうか。事件に関わった大勢がFBIを去り、この世をも去った人が居る中で、懸命に刑事で在り続けようとして来た。けれど時々、“その意味”を見失いそうになるのだ。もう良いのではないかと、そう諦める為の糸口を自分自身が探しているような。其れでいて”可笑しくなったのなら仕方ない“と、無理やり自分自身を納得させようとしているのかもしれない。「_____あいつは俺たちの目の前で死んだ。悪夢と現実の区別も付かなくなるのは、そういう事だろう。」と、静かな口調で言葉を紡ぎ。一方で胸が焼き切れそうな激しい感情を思い出し、瞳が揺らぐ。「可笑しいのは分かってる。薬で治るなら其れでも良い、…少しで良いから、____“あの日“から解放されたい、」その言葉が全てだ。事件以降ずっと付き纏って来る”あの日“を忘れ、縛られている心を解放してやりたいのに、其れが出来ないのだ。強い薬で其れが叶うと言うなら、或いは医師の言う通りにする事で楽になるなら、今は甘んじて其れを受け入れようとさえ思えた。 )






 

  • No.5110 by ベル・ミラー  2025-09-10 20:07:10 





( 相手から視線を外す事はしなかった。ただ、静かに返事を待つ事数分。余りに落ち着きを払って溢す様に落とされた言葉に僅か眉を微動させると「違う。」と、先ずは真っ向から否定し。「幻覚の1つや2つ見たからと言ってエバンズさんが可笑くなった訳じゃない。…それだけ苦しいからでしょ?心が限界だからでしょ?__私が1番エバンズさんの近くに居る。その私が違うって言うんだから何も可笑しくなんかない。」懸命に訴えたのは或る意味強気にも取れる内容。それが本心だ。何時かの日、アダムス医師では無い別の医師が相手に普段服用している物よりも何倍も強い安定剤を処方した時、吐き捨てた言葉を忘れた事は無かった。精神異常者の様に言い、まるで薬漬けにするかの様な。違うのに__相手は不器用で、優しくて、繊細なだけ。それでいて自分自身の負の感情に蓋をして、心を殺し罪を全て受け入れようとする。だからこそ、そんな相手だからこそ、切望した“解放されたい”と言う気持ちを尊重してあげたい。けれど__「…強い薬での解放には、目を瞑れません。」一度奥歯をきつく噛み締めた後に絞り出す様に伝えた言葉は相手の心を切り裂いただろうか。絶望のドン底に落としただろうか。「私に出来る事は僅かだし…もしかしたら何も無いかもしれない。寄り添うだけじゃエバンズさんの苦しみを取り除く事は出来ないってわかってるけど、それでも薬以外でエバンズさんが少しでも楽になれる事があるなら何だってする。犯人に言いたかったであろうどんな言葉も聞くし、夜中に一緒に起きる事も構わない。だから___もう少しだけ私と一緒に立って。」視界が滲み声に涙が混じる中、“もう良い”とは言わない。妹を、多くを亡くし10年以上苦しみの真ん中で生きている相手を前に血も涙もない残酷な部下だと思われたとしても。何時かの日、暗闇の底に居た己に相手が掛けた“立ち続けろ”と言う言葉を、思い出すだろうか )




  • No.5111 by アルバート・エバンズ  2025-09-15 20:46:45 

 




( 相手は“もう良い”とは言わなかった。もがきながらでも立ち続けろと______其れはいつの日か、自分が相手に掛けた言葉と、“呪い”と同じ物だ。けれど、自分と一緒に立っていて欲しいと言う言葉は相手の優しさだと理解出来た。もう良いと言ってしまえば、自分が破滅へと沈み込んで行く事を相手は分かっているのだろう。「……優しくないな、」先程までの不安定さが完全に消えた訳ではないものの、そう告げた言葉には相手を揶揄うような呆れたような普段通りの色が少しばかり戻っていて、相手を責めている訳ではない事は伝わるだろう。「…自分でもどうしようもない程、胸の内が焼き尽くされるような感情だった。今此処で、自分があいつを殺さなければと______夢と同じだ。確かにあの男だと思った。……これ以上は不味い、」天井を見つめながら、あの瞬間の苦しい程の感情を思い出す。可笑しくなどなっていないと相手は言うが、現実との境界が曖昧になる状態は当然良い兆候ではない。これ以上落ちていく訳には行かないと思っているからこその言葉を紡いで。 )






 

  • No.5112 by ベル・ミラー  2025-09-16 19:52:20 





優しいだけじゃFBIには__エバンズさんの隣には立てないでしょ。
( 己の告げた余りに酷な言葉に返って来たのはほんの僅か不安定さの薄れた、所謂“らしさ”の感じられるものだった。肩を竦め口角の上がった表情で言い返し、その後続けられた冷静な言葉に思うのは相手と同じ事。立ち続けて欲しいが幻覚を見る程までに不安定な状態のままは絶対的に良くは無く、その状態が長引くのは不味い。再び表情に真剣さを滲ませ数回の相槌の後「…強い薬を使うのは反対だけど、エバンズさんの心が限界な事も、幻覚がその内治まる、なんて無責任な話じゃ無い事もわかります。この先どんな治療が必要になるのか、…エバンズさんは嫌だろうけど入院の話も出るかもしれない。何にせよアダムス先生の話を聞こう。__それと、恐らく今日中に警視正から連絡があると思う。」先ずは相手の思い、考えを否定する事無く聞き届け、主治医であるアダムス医師が出すこの先の治療法の話を。それから間を空けやや控え目に続けたのは、皆まで言わなくとも相手は察するであろう内容の話で。___病室の扉がノックされたのは直ぐの事。廊下に漏れた話し声で相手が目を覚ました事に気付いたのか、入って来たのは穏やかな、けれど何時も無理をする相手に困った様な笑みを浮かべるアダムス医師で、第一声は『調子はどうですか?』 )




  • No.5113 by アルバート・エバンズ  2025-09-21 03:42:23 

 




( アンナの事件が自分に与えた影響は間違い無く大きい。非常勤という働き方を選びながら此処まで状態が悪化してしまった以上もう少し方法を考えなければならない訳だが、薬で治るなら甘んじて受け入れると言っておきながらも“入院”という言葉は余計に気分を沈ませた。警視正からの連絡______それは確実に、騒動を受けての処分についてだ。あの瞬間の記憶は鮮明だったが、周囲の状況に関しては曖昧でどれ程の騒ぎになっていたかは正直覚えていない。どれ程の署員が、自分の可笑しな言動を目にしていたのかも。ただ少なくとも、全く無関係の男を殴ったとなれば停職は免れないだろうと覚悟はしていた。---扉が叩かれ入って来たのは主治医であるアダムス。投げ掛けられた問いには「……最悪だ、」とひと言。今、というよりは現在に至るまでの事を指した答えなのだが。薬のお陰で幾らか落ち着いているものの、酷い症状の数々に悩まされた。特にこの所はかなり調子が悪く、幻覚を見ても可笑しくないほどに状態が悪かったのは自覚している。「…休む努力はした、其の証拠に今は非常勤だ。…でも、どうにもならなかった、」と、告げて。 )






 

  • No.5114 by ベル・ミラー  2025-09-23 18:52:48 





アダムス医師


( 返って来たのは強がる訳でも無い余りに素直な言葉。今この時の話では無く此処に運ばれる迄の数日間の事も含めた言葉なのだろう事は容易に想像が着くものだから、点滴を確認しながら『そうでしょうね。』と答えたアダムスの返事は、聞いておきながら声色に想定内だと滲み出ていて。点滴が一定の感覚で相手の中に流れるのを見、特別早さを変える必要も無いと判断した後は、2人だけで話す事もあるだろうと売店で飲み物を買って来ると病室を出たミラーに軽く頭を下げ再び相手に向き直り。『…今回の事件は余りに重たいものだったでしょう。それこそ貴方の言う通り、どうにもならなかった程に。』事件の詳細を鮮明に知っている訳では無いが、被害者の女性が相手の妹と瓜二つだと言うそれがもう全てだと言う事は感じていた。『ただ、幻覚を見ている以上、このまま何もせず帰す事は出来ません。一先ず今日1日は点滴による水分と栄養補給を優先に、明日からは暫くの間入院をするか、それとも休職をし自宅で療養するか__選択は貴方に任せます。』敢えて選択肢を作りそれを選ばせたのは、相手が入院を兎に角嫌がる事を知っているからで )




  • No.5115 by アルバート・エバンズ  2025-09-24 13:07:11 

 





( あれ程鮮明に見えた“犯人の顔”は、自分の生み出した幻影_____実際あの場に居たのは無関係の男で、当然犯人が生きている筈も無い。頭では理解できるのに、犯人が通りすがりに此方を嘲笑したあの瞬間が脳裏には焼き付いて居て、幻覚を見たのだと言われても未だに整理が付かないというのが正直な所だった。---相手が提示した選択肢は2つ。入院して治療を受ければ身体が楽になるのは間違いないのだが、1人病室に居る時間が苦手だった。整然とした病室で何もせずベッドの上で過ごすのは余りに無力な自分を思い知らされ、“自分だけ楽になる”事への心苦しさに苛まれる瞬間がある_____後者は“あの男”に植え付けられた余計な感情なのだが。しかし、これ迄の状態を思うと家で過ごす事への不安もあった。「……出来るなら、家で療養したい。ただ、…いつもの薬だけで過ごすのは心許ない、」点滴による処置などを直ぐに受けられる病院と違い、家では体調を崩しても直ぐには対処できない。今の体調を思えば病院ではない場所で、それでいてある程度医療の体制が整った状況、或いは追加の薬を処方して貰って過ごせれば其れが最善なのだが、それは我儘と見做されるだろうか。 )






 

  • No.5116 by ベル・ミラー  2025-09-24 18:33:32 





アダムス医師


( 相手が選んだのは“自宅での療養”。けれど本人が一番良く感じているのだろう、“何も無いまま”の療養には不安があるようで。しかしその不安を感じているのは此方も同じだった。暫し考える間を空けた後『……今処方している安定剤の強さを変える事はしませんが、幻覚を抑える薬は追加で出します。ただ、あくまでも抑えるだけ。頻度が少なくなるだけで全く見なくなる、と言う訳ではありません。…厳しく聞こえるかもしれませんが、貴方が自分で幻覚だと認識する事がとても重要なんです。』至極真剣な表情で紡いだのはある種の“乗り越え方”。苦しみの真ん中に居る相手だけれど、元に戻れないとは感じていなかった。次に表情を穏やかなものに変えた時、そこには医師でありながら相手がどう思っているかはわからぬものの、友人としての柔らかな笑みがあり。『私は長く貴方を見て来ました。今の貴方は昔に比べてずっと周りに助けを求められる様になったし、痛みや苦しみを言葉に出来る様にもなった。今回のように休む事も出来るようになりましたね。…次は、ほんの僅かでも良い、自分自身を許してあげて下さい。“あの時”貴方が最善を尽くした事は間違い無いんです。』一言一言を言い聞かせる様に、確かに前に進めているのだと変化を言葉にして伝えていく。それから『療養期間中、貴方を助けてくれる人は私を含め沢山居る筈です。傍に居て欲しいと言われて、嫌な顔をする人は居ないでしょう。』と、例え悪夢を見ても、幻覚を見ても、その時1人では無いと安心させる様に締め括って )




  • No.5117 by アルバート・エバンズ  2025-09-25 03:11:52 

 





( 自分で幻覚だと認識する事。どれほど鮮明に見えていても、其れが過去にまつわる有り得ない状況ならば悪夢を断ち切り“今”を見なければならない。それはかなりのエネルギーを消費する事になるだろうと思いつつも、小さく頷いて。自宅で療養する事を選べば、再び相手の家に戻る事になる。相手に負担を強いる事になるだろうかと立ち止まりそうになった時、アダムスの紡いだ言葉に、迷惑だとは思わないと事あるごとに言葉にするミラーの事を思った。「______レイクウッドには、お人好しが多いからな、」と余計なひと言を溢しつつも、其処に嫌悪の色はない。錠剤を飲み込めず吐き気が強い時の為に制吐剤も処方して欲しいと頼み、いずれの薬を飲んでも体調が改善せず辛い時は病院に来る事を約束する。今回の処分として謹慎する期間は未だ定かではないが、皮肉にも身体を休めるだけの時間はあるだろう。それだけ重大な事案だと理解もしていた。アダムス医師が病室を出ていくと、再び天井に視線を向けて彼が紡いだ言葉の意味を考える。“あの時の自分を許す”事など出来るのだろうか。いつかそれが出来た時にようやく、縛り付けられたあの事件から解放されるのだろうか、と。 )





 

  • No.5118 by ベル・ミラー  2025-09-25 13:05:17 





( 相手に言われた通り制吐剤と、幻覚への抑制剤、それから普段処方している安定剤と睡眠薬、それから鎮痛剤を明日帰る時に窓口で受け取る様にと伝え病室を後にしたアダムスの後、飲み物を買いに行くだけにしては随分遅くミラーが戻って来て。___「色々迷ってたら遅くなっちゃった。」とはにかみ相手に手渡した袋の中には、甘さの種類様々なコーヒーや紅茶、フルーツジュースなんかも入っており、その中の1つ、カフェラテのパックにストローを挿しながら「…アダムス先生と話せた?」と問い掛け。___丁度その時、相手のスマートフォンにあの騒動の詳細は他の署員から聞いた事、最低1週間の謹慎処分とする事、心身共に回復しない場合は1週間以上療養を許可する事、それから何かあれば何時でも話は聞く、と言った旨のメールが届いて )




  • No.5119 by アルバート・エバンズ  2025-09-26 14:06:33 

 




( ややして戻って来た相手の手には、大きな袋。たくさんの飲み物が入った中身を見て重かっただろうと思うものの、無糖アイスティーのペットボトルを手にするとそれをひと口飲んで。「…入院はせず、家で療養する事にした。もし____…」相手に家で療養する事を告げたものの、言い掛けた言葉は途中で止まる。もし、迷惑になるようなら休職している間はホテルに泊まる、と言おうとしたのだが、先程のアダムスの言葉を思い出したのだ。“傍に居て欲しいと言われて、嫌な顔をする人は居ない”。迷惑じゃないと、目の前の相手がそう返してくる事が想像出来た為、言葉が続かなかったのだ。「……いや。なんでもない、」とだけ告げると、メールを受信したスマートフォンの画面に視線を落とす。文章に目を通すも、騒動を思えば1週間の謹慎は寛容過ぎる処分だ。警視正の優しさと此方への気遣いが感じられて、小さく息を吐き出して。「…1週間は休む。薬は支障の無い範囲で増やして貰ったから、1人で大丈夫だ。」と告げて。相手は通常通り仕事に出る事を思い、心配は要らないと伝えておき。 )





 

  • No.5120 by ベル・ミラー  2025-09-26 20:58:26 





( ストローを咥えながら入院では無く家での療養を選んだ話を黙って聞いていたものの、“もし”の後に続く言葉を直ぐ様察し唇を開き___言葉は続かなかった。100%と断言しても過言では無く“ホテルに泊まる”と言い出すと思ったのに相手自身で話を終わらせたからだ。思わず瞬きをし目前の相手を見詰めるも、此処で何か余計な事を言えば想定通りホテル泊まりを強行されかねない為、再びストローを咥える事で言葉を飲み込みつつ頷くだけで留め。メールの受診を知らせる音の後、相手が口にした療養の期限は1週間だった。直ぐに警視正からだとわかり、同時に己もまた彼の優しさと気遣いを感じた。厳しい所も勿論あるが、部下思いでお茶目な所もある彼は、きっと陰ながら相手の事を思っているのだろう。「…1週間か、」“1人で大丈夫”をまるで聞かなかった呟きを落とした後、カフェラテを両手で包む様に持ち膝の上に下ろし。「私も後半休み貰おうかな。家の中ばっかりだと気分も沈むだろうし。…謹慎処分中の療養だって事は勿論わかってるけど__海行きたくない?」此処には2人だけしか居ないものの、少しばかり声量を落として紡いだのは誘惑となり得るだろうか、1つの提案。何処となく悪戯な、または不敵な笑みと共に相手の表情を伺い見て )




  • No.5121 by アルバート・エバンズ  2025-09-27 12:30:21 

 





( 1人で大丈夫だと告げた後に続いた相手の言葉に「…お前が休む必要はない、」と返事を返す。体調が安定せず相手に心配を掛けるよりも、1人の方が良いという思いは未だに拭いきれなかった。海、という言葉には曖昧な表情を浮かべる。「謹慎中に海で遊んでいたなんて、其れこそ反省が見られないと見做されて停職になる。」と、呆れたように言葉を紡いで。穏やかな波の音は時に不安を和らげ、上擦った呼吸を落ち着かせてくれる。不安定な時こそ海を眺めてゆっくり時間を過ごしたいという気持ちこそあれど、謹慎中に海にドライブをしに行くという訳にはいかないだろうと。 )





 

  • No.5122 by ベル・ミラー  2025-09-27 14:40:35 






今週は後半に2日休みがあるから、貰うのは実質1日だけ。__私だって有給消化しないといけないんだから。
( 1週間まるまる休みを貰う訳では無く、連休になる様に繋げるだけだと言い返し再びカフェラテを啜る。気持ち的には1週間びっちり相手の傍に居たいと言うのが本音ではあるものの、気を遣われるのを余り好まない相手の事だ、そんなにも長く張り付かれては居心地悪く感じ逆に休めないかもしれないと、己なりの勝手な妥協点で出した休暇3日。空になったカフェラテのパックをゴミ箱に入れ、提案に対して曖昧な色を滲ませたその碧眼を覗き込む。決して遊びに行く訳では無く、あくまでも目的は心を落ち着かせる療養なのだから問題は無いと思うものの、変な所で真面目な相手には通じない。で、あれば。「__最近海沿いの治安の悪さが目立ってるんだって。」ドライブには直接関係しない、余り脈略の感じられない話を唐突に振る。治安が悪いなんて話は勿論出ていないがそれはそうだ。「もしかしたら変な勘が働いて、休みの日だけど見回りに行く事になるかも。私1人じゃ何かあった時に対処しきれないから…エバンズさんは謹慎中だけど駆り出されるかもしれないね。」今この場で作ったとは思えない程淀みなく、さも仕方が無い事だとばかりにそんな戯言を言い放った後は返事に聞く耳を持たないとばかり口角だけは機嫌良く持ち上げたまま視線を他所に向けて。___それから翌日にはアダムス医師から処方された多めの薬と共に相手は退院し、1週間の謹慎処分+療養に入るだろう )




  • No.5123 by アルバート・エバンズ  2025-09-27 18:12:31 

 





( 自分を外へ連れ出そうと画策しているのであろう相手の口からスラスラと紡がれる言葉に、怪訝そうな視線を向けたものの何かを言い返す事はせず。---退院し家での療養が始まると、点滴などの処置をしてもらい幾らか身体は楽になっていたものの、この数週間で悪化した体調を戻す事が必要だった。錠剤を上手く飲み込めない症状は少しばかり改善していて、制吐剤を飲んで少ししてから他の薬を飲む事で戻してしまう事はなくなり。ただ倦怠感が抜けず、横になっている時間は此れ迄よりも少し長くなっただろうか。悪夢を見る事がきっかけで現実との区別が付かなくなり、幻覚を見るようになるのではという恐怖があり、処方された睡眠薬は飲んでいなかった。 )






 

  • No.5124 by ベル・ミラー  2025-09-27 18:59:31 





( 最初の数日は普段通り仕事に行き、夕方に家に帰って来て相手と共に軽い夕飯を食べ他愛無い話をする時間が続いた。ソファに横になり身体を休める相手を背に、床に座り込みキーボードを叩きながら時折声を掛ける。反応が無くなり背後を伺うと少しばかりうつらうつらしている様子が見れて嬉しくなった。けれど安定剤や制吐剤を飲む姿は見ても睡眠薬を飲む姿だけは見なかった。眠る事で悪夢を見る事、その悪夢が幻覚を連れて来る可能性がある事に少なからず恐怖心を抱いているのは簡単に想像が出来るのだが、人間ある程度纏まった睡眠をとらねばそれこそ心身が悲鳴を上げる。___時刻は夜の10時過ぎ。共に寝室のベッドに横になっている体勢で、普段は背中合わせなのだが今日は向かい合わせだ。背を向けた相手の目前に故意的に潜り込んだから。一瞬怪訝そうな表情を浮かべた相手に徐に手を伸ばし、親指の腹で濃くなってしまった隈を緩く撫でる。「__目を閉じて。」そう静かに声を掛け微笑んでから「大丈夫、…目が覚めた時に今が分からなくなってても、ちゃんと戻って来れる様に引き上げるから。」僅かでも眠る時間を作れる様に、一瞬でも不安が薄れる様に、親指を数回動かした後はその手を相手の肩に移動させ、今度はそこを軽く撫でて )




  • No.5125 by アルバート・エバンズ  2025-10-10 14:05:46 

 





( 向かい合わせになった相手の、ゆっくりと目元を撫でる温かい指先は直ぐに眠気を連れて来た。眠ってはいけないと反射的にブレーキを掛けそうになるのだが、肩を摩られ静かな相手の声を聞いている内に抗う事を辞めていて。程なくして眠りに落ち、やがて意識の遠い所で夢を見る。初めは何の夢かも分からない程に朧げで遠く、徐々に近付いて鮮明に。繰り返し見る“あの日”をなぞりながら、悪夢は記憶よりも凄惨で誇張されたものになる事も暫しある。幾度記憶に残る“赤”に苦しめられたか。妹に近付いた時の靴底で水を踏む様な感覚を今でも覚えていて、足元から背筋が粟立つような、背中が凍るような恐怖心もまた鮮明だった。初めは夢だと朧げに認識していた其れも、目を覚ます頃には現実との区別が付かない程に心を持って行かれている。「_____っ、!」そうして思わず飛び起きた後、悪夢の残像か、手が血に濡れていると錯覚した事でパニックを引き起こし一瞬にして呼吸は意味を成さない浅い物に変わっていた。相手が隣にいる事も今は頭に無く、汚れ切った此の手をどうして良いか分からず片方の手で自分の手首を握りしめる。無意識に爪が食い込むほどに力が籠り、木枯らしの様に掠れた音が唇から溢れ肩を震わせて。 )






 

  • No.5126 by ベル・ミラー  2025-10-11 18:03:04 





( 瞬きがゆっくりしたものに、やがて瞳が完全に閉じられ静かな寝息が聞こえてくれば微笑と共に肩から手を離し掛け布団を引き上げて。___深い眠りの底にあった意識が引っ張られ浮上したのは隣で眠った筈の相手が飛び起きたから。勢い良く捲られた掛け布団と大きく揺れたスプリング、直ぐに追い掛ける喉の奥で引っ掛かる様な枯れた呼吸音。弾かれる様に上半身を起こし、殆ど反射的な動作でベッドサイドの間接照明を点ける。暗闇が柔らかな暖色の明かりに包まれ、パニックの中で肩を震わせる相手の姿が浮かび上がるのだが、その長い指は片方の手首を爪を立てる様に握り締めており、どれだけの力を込めているのか爪先は赤い。「…エバンズさん、痛いのは駄目。ね、大丈夫だから離して。」勿論の事夢の詳細はわからないが、例え発作を治める為とは言え自ら傷を付ける事は容認出来ない。諭す様に極めて穏やかな口調を心掛けながら、相手の両手を下から掬い上げる様にして持ち上げ包み込む。そのまま親指の腹で爪を立てる手の甲を撫でつつ、力が抜けるようにと )




  • No.5127 by アルバート・エバンズ  2025-10-18 14:40:08 

 





( 浅い呼吸の中、強い力で握り締めていた手が一度は相手の成すがままに離れたものの、包み込まれた手の甲を相手の指先が撫でる感覚で視線が手元に落ちる。手が血に染まっている、其れが幻覚だとは今は分からなかった。「…っ、触るな!!」思わず相手の手を振り払うと、徐にベッドを降りる。視界が揺らぐのだが、そのまま覚束ない足取りで寝室を出てシンクへと向かうと蛇口から水を出す。「____汚い、…っ落ちてくれ、」血塗れた手を洗おうとしたのだが、洗っても洗っても嫌な赤は落ちない。懇願するような言葉が苦しげな吐息と共に唇から漏れ、今はただ悪夢が引き連れて来た“血の記憶”に取り憑かれていた。自分の状態を客観的に見てこれが幻覚だと気づく事も出来なかったが、こうやって可笑しくなって行くのかと何処か遠い所では僅かに感じていただろうか。 )





 

  • No.5128 by ベル・ミラー  2025-10-18 23:26:43 





( このまま発作が落ち着き再び眠りに___は進まなかった。切羽詰まった声と共に手を振り払われ思わず瞠目し一瞬身体が固まるのだが、相手はまるで何かに取り憑かれて居るかの様に、突き動かされているかの様に、朧気な足取りで寝室を出て行くものだから数秒後には慌てた様に後を追う事となり。暗いリビングにシンクをうつ水の音が響く。それと混じり繰り返される懇願はこんなにも胸を締め付ける。その言動で相手の見た夢の内容が容易く想像出来てしまい、熱くなった目頭から涙が溢れる前に一度きつく双眸を閉じ、開くと同時に横から手を伸ばし水に晒され冷たくなった相手の手を取り。「__大丈夫…っ、これだけ洗えばもう綺麗だよ、」幻覚だと、幾ら伝えた所で今の状態の相手を納得させる事は出来ない気がした。それならば否定はせずに、相手のとった行動で大丈夫になったのだと伝え戻って来てもらおうと。同じ様に相手の手に“付着する血”を洗い流す為の動作を数回、直ぐに蛇口の水を止めタオルで互いの手を拭く。勿論“赤”は無い。「…ほら、何も汚くないでしょ?」そのまま冷たくなった相手の片手を引き己の頬にあてる。ひんやりとした冷たさが熱を一瞬奪うがそのまま手を離す事は無く、暗い部屋の中、泣きそうな微笑みを携えたまま微動だにせず居て )




  • No.5129 by アルバート・エバンズ  2025-10-19 01:05:17 

 





( 幾ら水で洗い流しても落ちる事の無い赤、焦燥と罪悪感ばかりが募り胸が押し潰されそうになる。そんな自分の手を背後から取ったのは相手だった。水を掛けて、そして水気を拭ったタオルにべっとりと赤が纏わりつく事は無かった。掌に人肌の温もりを感じ、目の前に立つ相手の泣き出しそうな表情を認識する。手は汚れていない。しかし未だ不安定なのだろう、相手だと認識した直後に妹の姿が重なり目の前に居るのが何方なのか分からなくなる。_____過去から逃れたい、あの事件の所為で心を壊したくない、けれど過去を忘れる事は“罪”だ。そして現実に犯した“罪”を幾ら後悔した所で、生涯消える事はない。其の葛藤を十数年繰り返し、徐々に深みに足を取られているのだ。---目の前の”妹”の顔を見つめ、そっと頬を撫でる。謝罪を述べようと僅かに開いた唇は音を紡ぐ事はなく、仄かな光を纏って潤んだ相手の若葉色の瞳を見据えた。肩に落ちるのは真っ直ぐなシルバーの髪。「_____ミラー、…」相手の名前を紡ぐと、僅かに眉を顰め視線が落ちる。「……心が、…壊れそうに痛い、」楽になりたいのに、記憶が其れを阻む。けれど、幻覚は消えていた。掌を相手の頬に添えたまま、自分を取り戻そうと深く息を吐いて。 )






 

  • No.5130 by ベル・ミラー  2025-10-19 12:58:13 





( 頬の体温と掌の冷たさが徐々に混じり合い、そこに仄かな熱が生まれた頃。頬に引き寄せた相手の手の指先が僅かに動き確かな動作で以て撫でる仕草をすれば、それが“誰に”向けたものかなど今この瞬間は然程重要じゃないとすら思えた。緩く首を傾け少しばかり擦り寄る仕草を見せた後、震える唇から溢れたのは紛れも無く己の名前。これで今相手の意識が過去に置き去りになっている訳では無い事、さっきまでの“赤”が見えなくなっている事がわかり深い安堵が胸に落ちた___が。だからと言って何事も無かった様に再び眠りに…とはならない。認識した痛みは鋭い棘を纏い心を雁字搦めにし、深い深い所でまるで浮上を許さないかの様に『お前の罪だ』と囁き続けるのだろう。悲痛な色を纏う言葉に、奥歯を噛み締め震える声で「…うん、」とたった一言を返す。それから半歩前へ、その距離を詰めやや重心を前に倒す事で相手の胸元付近に額をあてると「…痛くない筈が無い__背負うものが重すぎるよね…。」隠しきれない涙声でそう続け。一つ深呼吸を置いて「__エバンズさんの痛みが全部全部移ればいいのに、」と、溢れた想いはずっと願い続けている事。触れ合う箇所から相手の痛みが流れ移るなんて有り得ない話なのに、そうわかるのに、可能であればどれ程良いかと思ってしまう。大好きで心の底から幸せになって欲しいと願う相手がこの先痛みに涙を流さず済むのなら、どんな大きな痛みも引き受けたいと思うのだ。想いと比例する様に額を押し付ける強さが僅か強まって )




  • No.5131 by アルバート・エバンズ  2025-10-19 20:12:11 

 





( 胸元に額を押し付ける相手の声には僅かに涙が滲んでいて、軽く背中に腕を回した。掌に血が付いて居ない事に安堵しつつ、続いた言葉には少しだけ表情を緩めて。「……全部移るのは困る、」此の痛みを、苦しみを、相手には感じて欲しくないのだ。相手を守りたい、という感情とは少し違うかもしれないが、同じような苦しみを被る事が無いようにと願わずにはいられない。夜中のリビングは少し冷えていて、今が本来であれば眠りに就いている筈の時間であることを思い出す。心の内に渦巻いていたやりきれない感情は落ち着いていて、少しして相手の身体を離すとグラスに水を汲んで。幻覚の症状を落ち着ける薬と安定剤を1錠ずつ飲むと、「……もう大丈夫だ、少し落ち着いた。」と静かに告げて。そうして寝室へと戻ると、ベッドに入り身体を軽く曲げるようにして横になり再び眠る事として。 )






 

  • No.5132 by ベル・ミラー  2025-10-19 20:36:26 





( 相手から返って来た返事は予想していたもの。だからこそ胸元から静かに額を離し顔を上げると「だったら半分。__私の気持ちは少しも変わってないよ。」と答え。同じ経験をしていない以上物理的に痛みを分け合う事は出来ないとわかっていながらも、相手を1人闇の中に立たせるなど出来る筈が無かった。何年も前、心の奥底に閉じ込めていた妹を失った過去を吐露した相手に“一緒に背負いたい”と伝えた気持ちは僅かの変化も無く健在なのだから。___少しの落ち着きを取り戻した相手と共に再び眠りにつき、迎えた朝。柔らかな秋風が吹く今日、天候は晴れ。様々な薬を飲んでる中で余り胃に負担を掛けない様にと、普段淹れるブラックコーヒーでは無く多めのミルクを注いだマグカップを相手に手渡しソファに腰掛ける。同じ様にミルクと、相手のより多めの砂糖を入れたコーヒーを啜りながら向けたのは笑顔。「お昼頃に海沿いの見回りに行こうと思ってて。…警部補の同行があれば心強いんですけど、」数日前の病室での遣り取りを徐に、態とらしい敬語と役職呼びで以て計画を遂行させようとして )




  • No.5133 by アルバート・エバンズ  2025-10-21 00:55:16 

 





( ソファに腰を下ろし、カーテンを揺らす涼しい風を感じながら温かいミルクを口にする。窓から差し込んでくる日差しは普段出勤前に家で感じているものよりも温かみを帯びて、昼間の柔らかさを纏い始めていた。見回りという言葉選びも、わざとらしい警部補呼びも、自分を連れ出す為の策だと分かっていながら相手の言葉に視線を向けると「……見回りなら仕方ないな、」と、暗に誘いに乗る返事をして。身体を休めるとはいえ、何もせず家に篭っていたのでは逆に参ってしまう。気分転換に外に出るのも良いだろうと。---いつも捜査に行く時のように相手の車の助手席に乗り込んだものの、今日は仕事ではないためいつもよりも深く背もたれを倒す。少し窓に隙間を開けて、海沿いに着いた時に外から少し海風が入ってくるように。シートベルトを締めると、窓の外に視線を向けて。 )






 

  • No.5134 by ベル・ミラー  2025-10-21 16:12:59 





( 病室では怪訝な表情を見せた相手だったが、矢張り部屋の中で缶詰状態は息が詰まるのだろう。今度は拒否も無く誘いに乗ってくれた。それに破顔し胃に落としやすい様にとスープジャーに温かいコンソメスープを入れて簡易お昼ご飯もお供に。___走り慣れた道路は然程混んでいる事も無く比較的スムーズに進む事が出来た。こじんまりとした町を抜ければ並木道が広がり木々の香りが風に乗り、更に進めば助手席側には壮大な海が広がる。相手の開けた窓の隙間からは優しい海風が車内に入り込み、特有の潮の香りが鼻腔に届くだろう。それから凡そ15分程で目的地に到着すれば近場のスペースに車を停め「怪しい人物は居なさそうだね。」と、既に見回りが建前だとバレている事をわかっていながら満足そうに口角を持ち上げ。車内から一歩外に出れば潮の香りも強くなると言うもの。吹き抜ける柔らかな海風に靡く髪を押さえ付けてから耳に掛け、備え付けられている木のベンチに視線を向けた後。何を思ったか笑顔のまま相手を見上げるや否や「…エバンズさんのエスコートが欲しいな、」と、珍しい角度の強請りを一言。パーティ会場でもあるまい、たかだか木のベンチまで行くだけにエスコートも何もと言う話だし、そもそも相手はそんなタイプでは無いとわかっていながら楽しげな雰囲気を纏い返事を待って )




  • No.5135 by アルバート・エバンズ  2025-10-24 22:26:23 

 




( 窓の外を流れる景色からは徐々に建物が消え、やがて広い空と輝く海面が見えるようになる。外吹き込んでくる潮風を浴びながら外を眺めていると、やがて車は砂浜の側へ。未だ見回りの建前を崩さない相手の言葉に「……お前の動体視力は犬並みだな、」と、あのスピードで車を走らせていて見回りも行っていたのならば超人だと真顔で冗談めかして。車を降りれば靴底に感じる砂の柔らかさ。遠巻きに海を眺めていれば唐突な相手の言葉に呆れたような怪訝そうな色を浮かべ「此処はパーティー会場か何かか?」とひと言。そうしてさっさと1人でベンチまで歩いて行くと腰を下ろし、ベンチの砂を軽く手で払い。到底エスコートとも言えないような些細な事だが、レストランの座席を引いてやるのと似たようなものだろうと。 )






 

  • No.5136 by ベル・ミラー  2025-10-24 23:22:38 





( 相手が冗談を口にする事は非常に珍しいと認識していた。だからこそ双眸を瞬かせ真顔を崩さないその表情を一瞬見詰めるのだが、誰がどう聞いても褒められていない事は明白にも関わらず「…優秀でしょ?警察官としても、“番犬”としても。」態とらしく誇らしげに首を擡げて見せた後、何時かの日に“番犬”や“小型犬”の軽口を言い合った事を持ち出して。案の定怪訝な表情を浮かべた相手は、手を差し伸べてくれるどころかエスコートを一刀両断すると同時に此方を振り返る事も無く1人砂浜を進んで行く。「ちょ、!」わかってはいたが思わず非難の色を纏った音が唇から漏れ、歩きにくい砂浜を小走りで相手の後を追い。「___…どーも。」先にベンチに座った相手の手が腰掛けるすぐ横の砂を払ったのを見て、素直さの欠片を失った不貞腐れた様なお礼が出た。勿論本気で不貞腐れた訳でもなければ機嫌を損ねた訳でも無い。更に言えばその細やか行為に照れた訳でも無い。これもまた遣り取りを勝手に楽しむ軽口に似た態とらしい態度だ。だからこそ隣に腰掛けた時にはすっかり表情は穏やかなそれに戻っており、鞄の中から2つのスープジャーを取り出すと、片方を相手に手渡しつつ「暖まるよ。」と、一言。頭を前に戻し、太陽の光を浴びながら寄せては返す穏やかな波を、遠い水平線を見詰めて )




  • No.5137 by アルバート・エバンズ  2025-10-28 16:56:35 

 





( あからさまに不服そうな表情と声色の相手に「…ハンカチでも敷いてやれば良かったか?」と、すぐに“そういう事じゃない”と食い気味な返事が返って来そうな返答を涼しい顔でひとつ。手渡されたスープジャーを受け取ると、蓋を開ける。コンソメの良い香りと共に湯気が立ち上り、煮込まれた野菜も入っているようだ。それをひと口飲んで小さく息を吐くと、身体の内側に仄かな熱が生まれた気がした。「…美味い、」とひと言感想を告げる。此の所は精神的にも追い込まれ、寒さにも似た恐怖心を抱く事が多かったのだが、少し肩の力が抜けるようだった。未だ鳩尾に痛みが走る事はあったが、日中はやり過ごせる程度の痛みだ。水平線に視線を向け、寄せては返す波の音を聞きながら柔らかな風の中に居ると、心は自然と落ち着いて来る。当然凄惨な事件現場にいるよりも、穏やかな海辺に居る方がずっと負荷は少ない_____此れが”事件捜査から離れて身体を休めろ”と何度も医者が言っていた理由だと、こうして静かな場所に身を置けば分かるのだが。10年以上其れを拒み続けて来た。「……どうしたら良いんだろうな、」紡いだ言葉は、相手に何かを問いかけ答えが欲しいと思って紡いだ物ではなく自然と溢れたものだった。刑事として在り続けたいという思いは変わっていない。休息が必要な事も理解はしている。けれどこのまま立ち止まれば確実に、自分は良くない方向へと沈んで行くだろう。「…海は良い、」と水平線に静かに視線を向けたまま穏やかな声色で呟いて。 )






 

  • No.5138 by ベル・ミラー  2025-10-28 20:16:55 





( 求めていたのは“ベンチに行く前”のエスコートだ。案の定食い気味に返した返事は「そういう事じゃない」の一言で。相手がスープジャーの蓋を開けた事で海風に乗ったコンソメの香りが隣に座る己の元まで届いた。勿論味見もしているし香りだけで味を断定する事は基本無いが、これはなかなかに良い出来だろうとひっそり胸中で呟いた自画自賛は相手からの何より嬉しい賞賛の言葉で膨れ上がると言うもの。「良かった、」と微笑み自分用のスープジャーの蓋を開け中の温かいスープを一口。同じ海を見ながら同じ風に吹かれ同じものを飲む___不思議な事では無いけれど、不思議な気持ちになるのは何故か。暫く互いに沈黙が続き、穏やかな波の音の間で隣から溢れ落ちた言葉を拾い、思わず弾かれた様に顔を向けた。刑事で在り続けたい、けれど心身は確実に悲鳴を上げ痛みも苦しみも消え去ってはくれない。楽になりたいのに自分だけが許されてはいけないとも思い、過去は何時だって顔を覗かせる。“どうしたら良いか”それは何十年も相手自身が一番自問自答し苦しみ続けて来た事だろう。続けられた余りに穏やかな呟きに何故が心臓が大きく跳ねた。理由はわからない。何かを口にしようとした唇が薄く開き、結局言葉無く閉じ、頭は再び正面へ。次の沈黙は先程よりもずっと長いもので、水平線を見詰めたまま数分___「……海の近くで一緒に住むのは…?」相手に視線を向ける事無く紡いだ問い掛けは思いの外小さかったかもしれない。「…ほら、それだったら捜査で苦しくなっても、家に帰って来て窓の外を見れば少しは気持ちが楽になるかもしれないし、今よりずっと短い時間で来れる。__今すぐとかじゃなくて…エバンズさんがそれもありだなって思えた時とか、……」結局肝心な所で臆病な己はまるで言い訳の様な説明文を早口で紡ぐのだ。海の近くに住むだけなら別に2人一緒じゃなく相手1人でも良い、と言う客観的な所は勿論見えないまま )




  • No.5139 by アルバート・エバンズ  2025-10-29 16:57:06 

 





( 隣の相手が小さな声で紡いだ問い掛けに、海から視線を外して相手を見る。続いた言葉を聞きながら再び視線を前に向けると、「…あぁ、其れも良いかもな。」と、同意を示すようにひと言。海の見える家で暮らす、悪夢に苛まれた夜にも波の音を聞きながら月の光を湛えた水平線を窓から眺められるかもしれない。其れはとても良い環境だと思えた。しかし、いつかの未来の事として考えた訳ではなく、言うなれば絵空事。そんな空間に身を置く事が出来たらきっと幸せだろうと、現実には起こり得ない空想上の話として受け取っていた。コンソメスープをひと口飲むと、小さく息を吐く。相手がどんな思いでその言葉を紡いだかまでは気づく事が出来ず「…お互い、いつまでレイクウッドに居るんだろうな。」と溢して。きっといつかは、相手も本部やフィラデルフィア署に異動するのだろうという前提があっての言葉で。 )






 

  • No.5140 by ベル・ミラー  2025-10-29 19:39:54 





( 前を見ていても視界の端で相手が此方を向いた事がわかった。勿論隣を見る勇気などある筈がなく、頭は固まり視線は縫い付けられたかの様に水平線を見詰めたまま。けれど予想もしていなかった同意の言葉が隣から聞こえた時、次は己が弾かれた様に相手を凝視し。___驚愕と自然と湧き上がった喜びは、続いた言葉で空気の抜けた風船の様にあっという間に萎んだ。先程の同意は此方の気持ちに応えてくれてものでは無く、更に言えばその想いすら届いていないのだ。勿論真っ直ぐなわかりやすい告白では無かったし、逃げ道を作ったのは紛れもない己だ。けれど部下である時間の長さは想像以上に長く隔たり、また、どうしたって越えられない壁がある気もした。胸の奥が小さく痛み、それを誤魔化す様に「そうだなぁ、」なんて悩む素振りを見せる。“愛している”と、確りとした告白をし直す事は選ばない。代わりに小さな笑顔で「本部に戻る時は連れて行ってくれる約束でしょ?」と、首を擡げながら約束もしてはいない勝手な過去の要望の話を持ち出した後。「…私は余程の事が無い限りきっとレイクウッドに居る。それで、あの辺の高台にこじんまりとした家を建てるの。__その時もしエバンズさんが今回みたく住む場所のない状況だったら、一部屋貸してあげる。」一度後ろを振り返り近くの高台を視線で示しつつ、おどけた様な色を纏い直して )




  • No.5141 by アルバート・エバンズ  2025-10-29 22:19:17 

 




( 本部に戻る時は連れて行って欲しいと言われた事は覚えて居たが、少し前に本部に戻って居た時もその約束は果たせなかった。「…気が向いたらな、」と答えつつ、自分は再び本部に戻る事はあるだろうかと考える。その思考を遮るように紡がれた相手の言葉を聞きながら、示された後ろの高台に視線を向けると少し笑って「…民泊のビジネスでも始めそうだな、」と冗談めかして。相手の心の内に気づくことはできなかったが、海を眺めて他愛も無い話をする時間は穏やかなもので胸の内に渦巻く不安は落ち着いて居た。相手に支えられながら過ごす療養の期間は、負荷が掛かり傷付いた心を日ごとに癒す事だろう。 )






 

  • No.5142 by ベル・ミラー  2025-10-29 22:55:44 





( 相手の微笑と冗談に、今度は一瞬にして先程感じた胸の痛みが消えた気がした。海を見、波の音を聞き、他愛無い話をする事で相手は一瞬でも痛みや苦しみから遠い所に心を置けるならばそれが全てなのではとすら思えたのだ。「刑事って副業OKだっけ?“色取りの良いサラダ”を出すカフェも隣接させたいんだけど。」と、此方も冗談めかした返事を返し。___それから相手の心身の状態も少しずつ少しずつ回復していった。安定剤や睡眠薬は常備しているものの、味覚異常や幻覚、吐き気などの症状も落ち着いている様で、比較的穏やかに過ごせている事に安堵出来る日々が続いて )




  • No.5143 by アルバート・エバンズ  2025-10-29 23:45:21 

 





( 謹慎期間よりも少し長く休みを取った後、支障無く仕事に復帰出来るだろうという医師の診断を受けて職場に復帰する事となり。騒ぎを起こした事を署員に詫びこれまで通り仕事に復帰する事を伝えると、長らく暗かった執務室に再び明かりが灯る。例の一件を目撃していた者も、あの日のエバンズの状態が普通では無かった事は理解して居て、体調が改善している様子に安堵したようだった。---復帰から暫くして、事件の一報が入る。郊外の空き家で、幼い少年の遺体が見つかったというもの。通報者は空き家を訪れて居た3人の少年だった。「ミラー、車を出してくれ。郊外の空き家で遺体が見つかった。現場に向かう。」執務室の扉を開けると、デスクで仕事をしている相手に声を掛け、コートや資料を手にすると駐車場へと向かって。 )






 

  • No.5144 by ベル・ミラー  2025-10-30 00:05:43 





( ___普段通りデスクで仕事をしている時に掛けられたのは此処数日無かった事件の報せ。直ぐに頷きパソコンの電源を落として相手と共に署を出れば社用車に乗り込み。運転席に座り、エンジンを掛ける前に相手から受け取った書類にザッと目を通す。「…5歳、」と、漏れた言葉と共に眉間に皺が寄った。勿論大人の遺体ならば良いなんて話では無く勿論そんな事は僅かも思わないのだが、矢張り子供の遺体は気分が重くなる。直ぐに書類を相手に返し現場まで車を走らせて。___郊外に建つ空き家の周りには規制線のテープが貼られていた。先に居た警察官に警察手帳を見せて手袋をはめ家の中へ入ると、そこには書類にあった通りまだ幼い男の子の遺体があり、周囲には無造作に散らばった薬剤が。「…エバンズさん、これ。」少年の傍らにしゃがみ薬剤の一つを摘み上げ相手に手渡す様に見せて )




  • No.5145 by アルバート・エバンズ  2025-10-30 01:05:00 

 





( 現場でまず目につくのは相手が指摘した薬剤。遺体の近くに散乱しており、劇薬の可能性も否定出来ない。転がっている茶色い瓶に薬剤の名前は書かれて居なかった。「…鑑識に回して成分を調べる。検視の結果とも擦り合わせる必要があるな。」と同意を示すように告げて。少年の遺体の傍らに膝をつき状態を観察すると、口の端に血の混ざった唾液が付着している事に気付く。転落した可能性は無いかと家の方を見上げたものの、頭などに目立った外傷はないため線としては薄いだろうか。頭だけではなく、遺体に外傷は見られなかった。頭や首、腹部、手首、致命傷となり得る部位は全て綺麗な状態で。「……現時点では死因が特定出来ないな、」と言いながら立ち上がり。死因の特定には検視結果を待つ必要がある、今は目撃情報や防犯カメラの映像を集める事が急務だろうと。 )







 

  • No.5146 by ベル・ミラー  2025-10-30 14:21:58 





( この薬剤が何なのか、現段階では全く判断する事は出来ないが5歳児の遺体の周囲に散らばっていた事が妙な恐怖を湧きたてた。目視で確認出来る外傷は無く内臓系に何らかの損傷がある可能性もあるが、其方もまた今の段階では判別不可。後ろから来た鑑識が持つ証拠保管袋に薬剤を入れ立ち上がると相手の言葉に頷きつつ「周辺の聞き込みと監視カメラの映像が先ですね。…彼の両親にも話を聞かなきゃ、」と、答え。扉が施錠されていた訳でも無ければ立ち入り規制があった訳でも無く、言うなれば誰だって好きにこの場所を出入りする事は出来た。ただ、もし被害者がたった1人で此処に来たと言うのであればそれは些か疑問がある。一先ず情報収集を、と相手と共に車に戻りこの場所から一番近い監視カメラの場所の把握と、周囲への聞き込みを開始する事として )




  • No.5147 by アルバート・エバンズ  2025-10-30 15:53:54 

 




( 現場検証の過程で手袋をして触れた少年の身体は、既に生気を感じる事ができなかった。つなぎのズボンのポケットに何かが入っているのを感じポケットに手を入れると、中から出て来たのは棒の付いたキャンディが1本と小銭。近くのショップで買い物でもしたのだろう。監視カメラの場所を把握するために相手が車を走らせている最中、スマートフォンで近くの駄菓子屋を探す。「…よく菓子を買いに訪れるショップがないかも、親に確認する必要があるな。」と告げて。---聞き込みの中で上がって来たのは、空き家は誰でも自由に出入りができる上、家具などが残されていることもあり地元の子どもなどが遊び場にしている事は多々あったという事。そして周辺の住民の中に物音など不審な音を聞いた人は居ない事。スマートフォンが着信を知らせ、被害者の母親と連絡がついたという報告を受けると「現場から直ぐの家に母親が戻ったらしい。話を聞きに行くぞ。」と指示を出して。 )






 

  • No.5148 by ベル・ミラー  2025-10-30 18:27:26 





( 車内で相手の持つスマートフォンが着信を知らせれば前方を見ながらも意識の破片は其方に向く。その後出された指示の元向かった被害者の自宅には凡そ5分程で到着し、呼び鈴を鳴らせば憔悴しきった母親と思われる女性が玄関から顔を覗かせた。「レイクウッド署のベル・ミラーです。」と警察手帳を見せ相手と共に家の中へ。促され女性と向かい合う形で椅子に腰掛けて直ぐ、女性は涙ながらに『…私がもっと早く気が付けていれば…っ、』と、後悔を口にしたものだから、矢張りどれだけの年月、殺人事件に向き合って来たとしても心が抉られそうな気持ちになるのだ。大切に大切に育てて来たであろう我が子が、突然目の前から居なくなりもう二度と声を聞く事も笑顔を見る事も出来ない。「…貴女のせいじゃありません。」なんてまるでお決まりの言葉を掛ける事しか出来ず、けれど話は聞かなければならない。「__息子さんの事、お辛いでしょうが聞かせて貰えますか?」と鞄から手帳を取り出して )




  • No.5149 by アルバート・エバンズ  2025-10-30 22:15:43 

 





( ミケルの母親は涙ながらに昨日の事について話し始めた。『昨日もあの子は、昼過ぎに外へ遊びに行きました。私は夕方には仕事に出てしまうので、その後の事は分かりません。でも今朝家に帰ったら、冷蔵庫の中に昨日の夕食に作っておいたスープが残っていたんです…!姿も見当たらないから警察に通報して、それで…っ』顔を覆って泣き始めた彼女の言葉を手帳に書き記す。「…出掛ける時には、彼にお金を?」と尋ねると、母親は顔を上げ『…はい、1ドルだけ渡しました。寂しい思いをさせているから…せめておやつくらい、ほんの少しですけど、好きなものを食べさせてやりたくて、』と答えて。 )





 

  • No.5150 by ベル・ミラー  2025-10-30 23:25:16 





( 女手一つ、まだ幼い息子との生活を守る為に彼女自身も息子に付きっきりになる事の出来ない日常に寂しさを感じていた筈だ。朝がた家に居る筈の息子の姿が見当たらなかった時の恐怖はどれ程のものだっただろうか。相手からの問い掛けに鼻を啜りながらも答えた母親に「ミケル君が、普段お菓子を買うお気に入りのお店とかに心当たりはありませんか?例えば…棒付きのキャンディを買っていたお店とか、」と、静かに問いを重ねる。それから続けて「それと、此処最近困っていた事や、気になっていた事__些細な事でも構いません。何かあれば、」少しでも手掛かりを得る為、彼女自身の身の回りの事でも、息子の周囲の人間関係の事でも、話しておきたい事があればと聞く姿勢を見せて )




  • No.5151 by アルバート・エバンズ  2025-10-31 00:35:00 

 




( 相手の問いに彼女は『棒つきキャンディ……ミケルのお気に入りの店があります。地元の子どもたちにも人気の店で…ミケルはよく行っていました。店名は確か、“シュガーリー”です。』と答えて。『チョコレートやグミなんかも置いていたけど、あの子はいつもキャンディで…色がグラデーションになっているのもかっこいいんだって、』話しながら過去の記憶が蘇ったのだろう、もう会えない息子を思って涙を流す母親の姿に胸が痛む。『生活は裕福ではなかったけど…でも、あの子の為なら仕事も頑張れたんです。ミケルは友達が多い方では無かったけど、マイペースで、1人で遊ぶのも好きな子でした。悩みを聞いた事はありません。_____どうしてうちの子が、あんな事に…』と項垂れる母親に「…事件と事故の両面から捜査を進めて居ます。ちなみに、持病やいつも服用している薬などはありましたか?」と尋ねたものの、答えはNo。捜査を迅速に進めることを約束し、何かあればいつでも連絡して欲しいと伝えると立ち上がり。 )






 

  • No.5152 by ベル・ミラー  2025-10-31 11:02:25 





( 母親の返答から“シュガーリー”と言うお菓子屋の存在が明らかになった訳だが、最も不可思議に思える遺体の傍にあった薬剤は未だ謎のまま。軽く頭を下げ玄関を出る間際に彼女の肩を軽く擦ってから相手と共に車に乗り込み。「…“どちら”であっても、最後まで立ち直る手助けがしたい、」道中、前を見据えたままポツリと口にしたのは悲しみにくれる母親の泣き顔が脳裏を離れなかったから。“当たり前”に居る人、日々が何の兆候も無く突如として消え失せる事の計り知れない喪失感は、隣に座る相手が誰よりも身をもって知っている事だろう。___シュガーリーはこじんまりとした、けれど鮮やかな看板が目を引く綺麗な外観だった。中に入れば沢山のお菓子が陳列されていてそのどれもが良心的な値段。お小遣いを貯めた子供が集まって来るのも頷けた。入口から近い棚の一つに“鮮やかなグラデーションの棒付きキャンディ”が売っていてそれを手に取る。「…子供が喜びそう。」と、小さく微笑み相手に軽く見せてから、店内に設置されている防犯カメラの位置を確認すべく頭を持ち上げて )




  • No.5153 by アルバート・エバンズ  2025-10-31 14:10:43 

 





( 彼女のようにただ1人の家族である息子を大切に思い、息子の為に身を粉にして働いて居る母親であれば、尚更喪失感に打ちひしがれてしまうだろう。遺族の心のケアを行い、時にカウンセラーなどの適した支援機関を紹介する事も大切だと相手の言葉に頷いて。---明るい雰囲気の店内には様々なお菓子が並び、子どもが入れ替わり立ち替わりやってくる。被害者の少年がポケットに入れて居たキャンディの金額を見て、釣り銭もぴったりだという事を確認するとレジに向かい。「レイクウッド署のエバンズです。」と、女性店員に警察手帳を見せつつ、ミケルの写真を示す。「この少年に見覚えはありませんか。」と尋ねると、店員は『あぁ、この子。よく来てくれるんです、確か昨日も来ましたよ。』と答えた。『もしかして…近くの空き家で遺体が見つかったって、この子なんですか?、』と聞かれ小さく頷くと「……捜査を行っています。防犯カメラの映像をいただく事はできますか?」と続けて。 )






 

  • No.5154 by ベル・ミラー  2025-10-31 20:02:17 





( 女性店員が昨日のミケルの来店を覚えていたと言う事は証言的には大きいだろう。控え目な相手の頷きに対して『そうですか…。』と悲しげに眉を下げた店員は続けられた要望に何の躊躇いも無く『勿論です、少し待っていて下さいね。』と答えるとお店の奥に引っ込み、少しして映像の入ったUSBを手に戻って来て。『これにも映ってると思いますけど、昨日は3時頃に来てくれました。…何時も“お母さんがくれた”って嬉しそうに小銭を握り締めてたんです。……もう、顔を見れないんですね、』それを相手に手渡す際、生前のミケルの無邪気にはにかむ笑顔を思い出したのか、切なそうな呟きを落とし。「…普段と違うと感じたりは?」との問い掛けには『いいえ、何時も通り元気そうでした。』と、特別変わった様には見えなかったと答え。___検死結果の報告があがるまではまだ時間が掛かるだろう。まずはこの店の防犯カメラ映像の確認作業をするのに署に戻るのが得策かと、隣の相手に視線を向けて )




  • No.5155 by アルバート・エバンズ  2025-11-01 04:05:55 

 





( USBを受け取ると、店員に礼を言う。防犯カメラに残っている映像と死亡推定時刻とを照らし合わせ、最後に被害者の少年が目撃されてからの足取りを掴む必要があった。また話を聞きにくる可能性がある事を伝え了承してもらった後、相手と共に店を後にする。「防犯カメラの映像を確認する。まだ目撃証言が少ないが、行動範囲は限定されている。街中の防犯カメラの映像と合わせて証言を募るぞ。」と相手に告げ、先ずは入手した映像の確認を行う為に署へ戻り。---店員の証言通り、事件があった日の15時頃_____具体的には15時16分に、ミケルは1人で店を訪れていた。滞在時間はほんの数分、店頭を眺めたものの悩み込む事はなく、キャンディを手に取りレジへと向かう。店員と会話を交わし、おまけのような小さな包みに包まれたチョコレートを受け取ると嬉しそうにそれを口に放り込んだ。店員が手を出し、ミケルはゴミを手渡すと小さく手を振ってドアを開け、右側の方向へと歩いて行った。映像に残っていたのはそんな数分の出来事で。 )






 

  • No.5156 by ベル・ミラー  2025-11-01 09:48:28 





( 防犯カメラに映るミケルは、店員の言った通り気落ちした様な様子も無く元気そうに見えた。お店に来たのは1人で出て行った時も1人___もし誰かに声を掛けられてあの空き家に行ったのならこの後の話になるし、誰かとあの場所で待ち合わせをしていた可能性も十分にある。更に言えば別の場所で殺害されあの家の中に遺棄された可能性も。「…検死結果、急いで欲しいね。」と溢したのは彼の口元に付着していた血液の混じった唾液が気になっていたから。相手も確認した通り高所からの落下であるならなんらかの外傷があっても可笑しくはないが、それらが何も無かったと言う事は矢張り周辺にあった薬剤が関係しているのか。一度給湯室で紅茶を淹れマグカップを相手に手渡した後、次は彼が向かった方向にある防犯カメラ映像を一つ一つ確認しつつ、不審な人物や見落としが無いかを調べていき )




  • No.5157 by アルバート・エバンズ  2025-11-01 12:20:58 

 




( 相手の言葉に同意を示しつつ紅茶をひと口啜る。空き家や彼の家がある方は監視カメラの設置台数が少ないというのが正直な感想。空き家の敷地の入り口が見えるカメラは無かった。外傷が無いとなると、死因はかなり絞られる。薬剤の誤飲の可能性、或いは毒を盛られたり、不慮の事故という事も考えられるだろう。彼が何を口にしたか、という事を考えた時に先ほどの監視カメラの映像が甦り「…あの店で貰ったおまけのチョコレートに毒が入っていた、なんて事はないか。彼が亡くなる前に口にした事が確認出来ていて、ゴミは店員が預かっている。」と、言葉を溢し。協力的な店員だったが、状況的にあり得ないと断定は出来ない。被害者の少年を認識していた事を思うと、彼にだけ毒入りを渡す事だって不可能では無いはずだと。 )





 

  • No.5158 by ベル・ミラー  2025-11-01 13:07:27 





( 肝心な所に監視カメラが設置されていないのは良くある事。「住人の居る居ないに関わらず、全ての建物の入口にはカメラ設置義務の法律が欲しいくらい。」とボヤくものの、それが叶わない今そんな事を言った所で事態が好転する訳でも無い。紅茶を啜りながら何度も目だけを左右に動かし映像を凝視する中。相手の言葉に思わず動きが止まった。唇から静かにマグカップを離し身体ごと相手に向き直る表情は真剣ながら何処か複雑さも見え隠れするもの。「…可能性はあるね。心情的には疑いたくない所だけど、即効性のある毒物じゃなければあの家まで行けただろうし、口元の血も説明がつく。」包み紙は既に破棄されているだろうし、人が人を殺す動機など考えたくは無いがそこら中に転がっているのだ。「……母親だってわからない、」と苦しげに溢したのは、“全てを疑え”と言う相手の最初の教えが基盤になっているからか。「1人で育てる事に疲れきって、“あの子が居なければ”って思っても__。…ただ、そうじゃないって信じたい。」静かに身体を前に戻し再び映像を見詰めながら、それでも最後の言葉は心からのもの。甘さは抜けないと思われるだろうか )




  • No.5159 by アルバート・エバンズ  2025-11-01 15:43:27 

 




( 例えどう思われようと、捜査の上では全てを疑い、考え得る可能性は全て潰しておく必要がある。「…検視結果が出たら、もう一度2人には話を聞きに行く。外傷が無い以上、考えられる死因はかなり狭まるからな。」と告げて。刃物などの凶器が使われた訳でもなく致命的な傷が無いとなると、今できる事は結果を待つ事と聞き込みを行うことだ。毒物を盛られた可能性も視野に入れれば、既に話を聞いている2人も例外ではない。---検視よりも先に直ぐに結果が出たのは、薬剤の成分分析だった。夕方になって分析の担当官がやって来ると資料を手渡し『現場にあった薬は、抗うつ剤でした。子どもが誤飲すれば、死に至る危険は十分あります。』と告げて。何らかの理由で薬を誤飲した、或いは飲まされたと考えれば殺人は成立するのかと考え込みつつ「助かった、」とだけ告げて担当官を帰らせて。 )





 

  • No.5160 by ベル・ミラー  2025-11-01 23:34:42 





わかりました、周辺の聞き込みも続けます。
( 検死結果が出るまでの間のこの時間はどうにも気が焦る。早く確実な証拠が欲しい、早急に犯人を逮捕したいと思えば思う程に多くの情報をと思うのは当たり前なのだが。鼻から抜ける様な溜め息を一つで頷けば夕方にまた聞き込みを再開しようと。___それから時間が経ちカメラ映像の確認に一区切りがついた頃、扉のノック音と共に入って来た分析の担当官が手渡した資料に思わず眉が寄った。“抗うつ剤”だなんて、そもそも誰が。「…空き家を使っていた誰かの忘れ物を偶然見付けて、ラムネか何かと思い誤って飲んだ事故死か__誰かが明確な目的で飲ませたか。何方にせよあの歳の子が買える物じゃないし、母親が服用していた可能性もあります。エバンズさん、もう一度ジョイの家に行こう、」椅子から立ち上がり、鞄を片手に持つと足早に執務室を出て )




  • No.5161 by アルバート・エバンズ  2025-11-02 04:10:04 

 





( 好奇心から立ち寄った空き家で瓶に入った錠剤を見つけ、ラムネと勘違いして誤飲する______大人であれば到底考えにくい話ではあるが、被害者はまだ5歳の子ども。突拍子もない事をしても何ら可笑しくは無い年齢だ。「…事故か事件かの判別も付かないな、」と、状況証拠からだけではそれさえ掴めない状況に少しばかりの苛立ちを見せて。相手と共に再び訪れた被害者の家。母親は、今日は仕事を休ませて貰ったのだと言って再び自分たちを居間に通した。抗うつ剤を服用した事はあるかと尋ねると彼女は首を振り『いいえ、生活は楽ではなかったけれど…あの子と2人の生活は幸せでした。夜の仕事なんて大変だけど、でもお店のみんなも優しくて、私、辛くなんてありませんでした。』と、再び涙ぐみながら答えて。 )






 

  • No.5162 by ベル・ミラー  2025-11-02 12:00:17 





( 母親の話を信じるのなら抗うつ剤は矢張り誰かの置き忘れか、別に存在する犯人の物と言う事になる。彼女やお菓子屋の店員の周りから確実な情報を得る事が出来ればと手帳に書き込みをしながら思案し、最後に母親の働くお店の名前も書き留めて家を出て。その後の地域住民への聞き込みも犯人に繋がる目ぼしい情報は出なかった。ただ、ミケル自身大勢の友達と遊び回るより1人で遊ぶ事の多いタイプだった事、案の定施錠もされていない空き家は子供達の溜まり場になっていた事、がわかり運転席で背凭れに体重を掛ける様に座り一度息を吐き出して。「今日の夜はとんでもなく甘い物が食べたい、」と呟いたのは、捜査が思う様に進んでない状況に対する疲労からか。ハンドルを握り直し次に向かったのはお昼頃にも行った“シュガーリー”。店の前に車を停めて「行きますか、」と一つ気合いを )




  • No.5163 by アルバート・エバンズ  2025-11-03 03:07:12 

 





( めぼしい目撃証言も、被害者に関する有力な情報も無い状況に思わず溜め息が出る。脳を使っているからだろうか、捜査が行き詰まった時などに甘い物を欲する気持ちは共感出来るもので。再び店を訪れた自分たちを少し驚きつつも迎え入れた店員は、監視カメラに映っていたやり取りについて、いつも子どもたちには“おまけ”をあげているのだと言った。商品として販売されているものより小さなチョコレート。ミルクとホワイトがあり、透明な包みに入っているそれは、レジ下のカゴの中に入っていた。『買い物をしてくれた子には、1人1つだけあげています。あの子はいつもホワイトを選ぶんです、昨日もそうでした。』と答えて。持って帰る子もいるが今食べていくと言ったため包みを預かったと。『ゴミ箱は、昨日今日はまだ取り替えていません。』疑われている事を少なからず察したのだろう、レジの足元にあるゴミ箱を示して『必要なら持って行ってください。』と。 )





 

  • No.5164 by ベル・ミラー  2025-11-03 11:14:06 





( 店員の話を軽く頷きながら聞く。特別不審に思う点も無く、包み紙のゴミを預かったのも子供がその場で食べると言うならば自然な事だろう。何かを察した様にレジ下のゴミ箱を示されるとその隠し事の無い行動に一拍程の思案の間を空けた後「…失礼します、」と箱から袋を抜き取り持ち帰る事として。最後にレジ横に売られている包み紙に包まれた丸いミルクチョコレートを二つ摘みお金を払うと、捜査協力への感謝を述べてお店を出て。___署に戻り先ずは袋の中のゴミの中からおまけのチョコの包みを避ける作業、そしてそれらを成分分析官に渡し調べて貰う事の順なのだが。手袋をする前に鞄から先程買ったチョコレートを取り出すと一つを相手に手渡しつつ「夜まで待てなかった。」肩を竦め、甘いそれを口の中に放り込み満足気に息を吐いて )




  • No.5165 by アルバート・エバンズ  2025-11-10 04:09:14 

 





( 捜査協力に対する謝礼の意味を込めて店頭の菓子を購入したのだとすれば、相手の気分を害さないようにと随分気を遣った対応だと思って見ていたものの、そうでは無かったようで。執務室でチョコレートの包みを手渡されると、自分も其れを口に放り甘い味わいを堪能して。「糖分を摂ると幾らか頭が働くようになる。」と言いつつ、手袋を嵌めると包装紙の仕分けを始めて。---残っていたゴミは大量ではなく、おまけのチョコレートの包装紙は19枚。それを全て成分分析の部署に引き渡すと分析を依頼して。相手と共にデスクを挟んで座ると、必要な情報を整理する。「まず、現時点で最後に被害者が目撃されているのは事件当日の午後3時16分、シュガーリーの店だ。検視結果は明日には出るだろう、死亡推定時刻と擦り合わせる。後は死因の特定と、現場に残されていた薬の出所だな。不審な車や人物、物音に関する情報も地域住民から集めたい。」と告げて。検視結果が出る明日までに出来る事と言えば、不審な物を見聞きしていないかという聞き込みだろう。 )





 

  • No.5166 by ベル・ミラー  2025-11-11 11:10:01 





__キャンディーを買った足で真っ直ぐ空き家に向かったのか、それとも何処か別の場所に立ち寄ったのか…死亡推定時刻が出ればある程度の足取りも掴めるだろうけど、それまでにもう少し情報が欲しいね。…薬瓶から誰かしらの指紋が出れば良いけど、そうじゃなきゃ病院をしらみ潰しって事にもなり兼ねない。
( 今現在の状況整理に相槌を打ちながら手元の手帳に視線を落とす。頭の中でお菓子屋周辺の凡その地図と、ミケルの家までの道筋、そして空き家までの道筋を思い浮かべながら次なる聞き込みの範囲を絞込みつつ「夜は、ジョイの働くお店の周辺の聞き込みに行って来る。」と、数時間後の予定を告げ顔を上げ。__デスクを挟み座る相手は至極真剣な顔をしている。孤高たる気高さの様な雰囲気を纏い捜査に打ち込むその姿の内に、秘めた繊細さや儚さがある事など、今の表情からは想像も出来ないと、今でも時折思う。僅かその顔を見詰め、「…調子は悪くない?」出た問い掛けは殆ど無意識下で音になったようなもので )




  • No.5167 by アルバート・エバンズ  2025-11-12 10:15:41 

 




…解決の糸口になる情報が出れば良いんだが、
( 未だ分からない事が多い今回の事件。鑑識の捜査や検視結果から、事件の解決に繋がる情報が出れば良いと願わずにはいられない。相手の言うように今は聞き込みで地道に情報を集める以外無いだろうと頷いて。向かい合った相手の視線を感じて顔を上げると、相手と視線が重なる。何だと問い掛けようとしたものの、相手の方が先に言葉を紡いだ為それは音にはならず。「…問題ない、薬も飲んでる。」そう答えると、再び視線を資料に落として。一時幻覚を見るまでに悪化した症状はだいぶ落ち着き、普段通りに仕事をこなせる迄には回復していた。未だ疲れやすいのか、夜家に帰ってから感じる疲労は少し重くなっている気はするものの、日中に支障をきたす程では無い。薬をきちんと飲めば体調に問題はないだろうと。 )





 

  • No.5168 by ベル・ミラー  2025-11-12 16:55:32 





( 一瞬重なった瞳は、相手が視線を落とした事で交わりを無くした。確かに痛みや目眩等を訴える姿を此処最近は見ていない為、相手の返事に素直に頷きそれ以上の心配や詮索をする事は無く。___その後、“解決の糸口”となる情報をどうにか得る為に暗くなった町へ。ジョイの働くお店周辺での聞き込みの結果は、捜査が大きく進展する様な有益な情報に恵まれなかった。けれど集合住宅が多く並ぶ付近での聞き込みの結果は別。“今回の犯行は自分がやった”と自白している“女の子”が居ると、被害者であるミケルと同年代の子供が居る親からの証言が数件出たのだ。大人では無い、女の子の自白…面白半分や軽い冗談のつもり、もしくは注目を浴びたい承認欲求の様なものによる作り話かと思うのが最初の正直な感想だった。___署に戻り、執務室の扉をノックする。「戻りました。」との挨拶の後、何とも曖昧な表情で「…エバンズさん、“女の子”が犯人の可能性ってあると思いますか?」と、何の前置きも無い唐突な問い掛けをして )




  • No.5169 by アルバート・エバンズ  2025-11-12 19:24:01 

 




( ノックの後、聞き込みから戻ってきた相手が部屋に入って来て発した言葉に、思わず怪訝そうな表情を浮かべて顔を上げる。言葉を発した本人も曖昧な表情をしていて、“女の子”という言葉選びに「……犯人が子どもだという事か?」と尋ねて。子ども同士がふざけていて薬を誤飲した可能性は拭えないかもしれないが、外傷が見当たらない以上遊んでいる最中の事故というのは考えにくい。「子どもに関する証言でもあったか、」と、聞き込みで得た情報の説明を相手に求めて。 )





 

  • No.5170 by ベル・ミラー  2025-11-12 19:59:01 





( 案の定此方の問い掛けに怪訝な表情を浮かべた相手に、曖昧な表情のまま「“本人”曰く。」と頷きながらデスクを挟んだ向かい側の席に腰掛け。「“自分が犯人だ”って話してる女の子が居るらしくて。子供の冗談のつもりだとは思うけど、それを聞いたのが1人や2人じゃないから、」子供の冗談だとしても笑える話では無いが、矢張り周囲にそれを言って回る行為はとても犯人だとは思えない。「…何方にせよ、検死結果が出ればわかる事だけど。」と、終わらせた後は、果たしてこの聞き込みの結果を相手はどう考えるのかと返事を待つ間を空けて )




  • No.5171 by アルバート・エバンズ  2025-11-12 23:22:34 

 






( 地域を不安に陥れているであろう事件を、自分の仕業だと吹聴して回る子どもの存在と言うのは確かに気になるが、その証言があるからと言ってその子が犯人だと言う結論には至らない。例え子どもの不注意で起きた事故だったとしても大抵の場合は其れを隠蔽しようとする筈で、自分が殺したのだと周囲にまで誇示しているということは、注目を集める為の虚言だと考えるのが普通だろう。「気になる証言ではあるが______大方、注目を集めたくて言っているんだろう。証拠が出れば別だが、特段急いで被疑者としてマークする必要性は無さそうだな、」と、被疑者として捜査をする必要性までは現時点で感じないという判断を示し。---夜、そろそろ切り上げて帰ろうかという時分になって、不意に部屋がノックされ、入って来たのは検視官。『夜分にすみません、明かりが点いているのが見えたもので、早い方が良いかと…』少し早く結果が出た為夜のうちに渡せるならと思って持って来たという彼は、執務室の扉近くにいた相手に検視結果を記した書類を手渡して。 )







 

  • No.5172 by ベル・ミラー  2025-11-12 23:59:13 





( 相手の意見もまた、注目を浴びる為の虚言だろとの事。「だね。」と同意を示す様に頷き、後は明日にでも出るだろう検死結果を待つだけだと帰り支度をしようとした矢先。部屋の扉がノックされ、続いて入って来たのは検視官だった。頭は自然と彼に向き、その言葉だけで渡された書類が何か直ぐにわかったものだから、お礼を述べた後、文字列に視線を落として。「__…午後3時から4時頃…、」先ず最初に目に入った死亡推定時刻を小さく呟き、紙を相手も見やすい様デスクに置く。「……薬の成分が検出されてないなら、あの抗うつ剤はたまたまって事?__これじゃあ死因が特定出来ない。」毒の成分は疎か、遺体の周りに散らばっていた薬の成分も検出されず、外傷も無い。加えて最も可能性の高い“窒息死”も除外されるのならば、死因については殆ど進展の無いままだ。思わず表情が険しくなり、隣の相手に視線を向ける。「…明日、司法解剖の許可をとりますか?」と、尋ねて )



  • No.5173 by アルバート・エバンズ  2025-11-13 00:30:59 

 





( 検視結果が記された資料に目を通す。死亡推定時刻は分かったが、薬物や毒物の反応は無く外傷も無い。死因を特定する事が困難な結果に思わず眉を顰めて。「外傷が無く、毒物の反応も無い_____あの状況で自然死なんてあり得るか、?」当然殺人事件の可能性を視野に捜査を進めていた訳だが、死因の特定さえ困難な状況。偶然あの場所を訪れた少年が、偶然あの場所で体調を崩して亡くなるなんて事があり得るだろうか。少年の遺体の周りに散らばっていた薬はどう説明するのか。「…死因が特定出来ない以上、医者の見立ては必要だな。」と相手の言葉に同意を示して、司法解剖の申請を進めるよう指示を出して。全てがバラバラで真実が見えて来ない状況に、何か解決の糸口が無いかとここ迄の捜査記録と検視結果を照らし合わせて。---重たい疲労を感じてパソコンから目を離し時計を見上げると、日を跨いで少し経った頃。「……聞き込みと、司法解剖の結果待ちだな。死亡推定時刻を考えると、ほとんどあの周辺以外に移動している事は無いはずだ。エリアを絞って話を聞こう、母親にももう一度会いたい。」と告げ、今日は切り上げようと。 )






 

  • No.5174 by ベル・ミラー  2025-11-13 01:05:59 





( 検死結果が出れば死因が特定され、少なからず犯人に近付くと思っていただけに、この予想外の結果には流石に困惑を隠し切れなかった。捜査の進展どころか、下手したら殺人事件だと言う見立てすらも間違いで振り出しに戻される可能性がある。「偶然が重なり過ぎてるし、抗うつ剤がたまたま遺体の周りに散らばったって言うのも、正直納得は出来ない。」と、矢張り疑問点は数多く残されていて“殺人”を除外する事は出来ないと首を横に振り。裁判所に司法解剖の許可をとる為の申請書諸々は明日の朝一番にやる事として、死亡推定時刻から、今度の聞き込みの範囲はかなり絞られる。被害者の家の周辺、空き家の周辺を重点的に聞き、相手の言う通り母親であるジョイにも再び話を聞く必要がありそうだと頷き、帰宅する事として。___家に着いた途端に襲い来る睡魔は、確かに疲労していた事を告げてきた。深く息を吐き出してから、身体が欲するままに淹れたのは蜂蜜たっぷりのホットミルク。それを作るのは幾ら疲れていても少しも苦にならないのだ。相手のは自分のより少しだけ甘さを控え目にして「…流石に予想外だったね。」と、マグカップを手渡しつつ、口にしたのは検死結果の内容に関する感想で )



  • No.5175 by アルバート・エバンズ  2025-11-13 04:45:44 

 





( 相手と共に家に帰り、ソファに腰を下ろして背もたれに背中を預けるとどっと身体が重たくなるのを感じた。張っている肩を片手で軽く解していると、程なくキッチンから甘い香りが漂ってくる。ややして相手から差し出されたマグカップを礼を言って受け取ると「…殺人だとしても、あんなに綺麗な状態で殺せる手段が思い当たらない。毒物の類でも無いとなるとな、…」と、相手の言葉に同意を示しつつ見立てが見当違いだった検視結果を思い出し考え込む。甘いミルクを一口飲むと、張り詰めていた疲労は僅か和らぐ感覚があり、小さく息を吐いて。温かなホットミルクは、穏やかな眠気を引き連れて来る。睡眠薬は飲まずに眠る事が出来そうだと。 )






 

  • No.5176 by ベル・ミラー  2025-11-13 13:17:13 





…極小量の毒を毎日摂取させて__いや、それだって体内に全く残ってない筈は無いか…。
( 相手の隣に腰掛け険しい表情で考え込む。これと言った薬物類の検出も無く外傷も無い状況で“殺人”として考え難いのは確か。けれど自然死と片付けるには余りに偶然が重なり過ぎている。甘くまろやかな白を胃に落とし、体内から柔らかな熱に包まれるのを感じながら思考を止めた。今あれこれ考えた所で何が進む訳でも無い。明日再び聞き込みをし、司法解剖の結果を待つ事が出来る事だろうと「…こんな時間だし、取り敢えずもう寝よう。」一度眉間を揉み解し、マグカップの中を飲み干して。それから眠る準備をして相手と共にベッドに入る。時刻は既に夜中の1時を過ぎた頃。ホットミルクの温かさがそのチカラを十分に発揮し、相手に訪れる睡眠が少しでも優しいものである様にと願いつつ瞳を閉じて )



  • No.5177 by アルバート・エバンズ  2025-11-13 19:32:22 

 





( ____夜中に悪夢に魘され目を覚ましはしたものの、少しの息苦しさを感じゆっくりと呼吸を繰り返しているうちに意識は再び眠りに沈み、発作を起こしてしまう事はなく。---朝目覚めても身体が重い気がするのは、連日の捜査で少なからず疲れが溜まっているからだろう。出勤すると、司法解剖の申請書を相手が出したのを確認してから共に町へと出る。まずジョイの元へと向かうと、彼女は自分たちをリビングに通した後、少し表情を暗くした。『実は…少し前に女の子が家に来たんです。ミケルに会いたいって。ミケルよりは少し歳上の子でした。あの子は居ないと伝えると、”ミケルが居なくなって悲しい?どんな気持ち?“って、何度も聞かれました。ちょっと怖くなって……後で聞いたら、地域では有名な問題児だって。孤児院の子みたいでした。』と。その少女が、相手が昨日噂を聞いてきた“犯行を自供している少女”と同一人物だと考えるのが普通だろう。思わず相手と顔を見合わせて。 )







 

  • No.5178 by ベル・ミラー  2025-11-13 19:58:09 





( 少女の自供は“注目を浴びたいが為のタチの悪い作り話”、そう思っていたがそれは間違いだったのかもしれない。実際に少女が犯人ではなくとも、何かしらの形で事件に関わっている、もしくは何かを知っていると考えるべき証言だ。相手と顔を見合せ幾許かの焦燥と驚愕を表情に浮かべるも直ぐに手帳を開くと「…その子の名前はわかりますか?」と問い掛ける。実際少女が名乗っていなかったとしても、それだけの問題児として有名ならば地域住人の誰かしらはわかる事だろう。「他にも、もし何か気になる事を言っていたなら教えて下さい。」遺体の周りに散らばっていた抗うつ剤の事、少女が本当に犯人ならばその動機や殺害方法___もし自分達警察しか知らない事を少女が口にしたとなれば、それは大きな証拠になる。何方にせよその少女から話を聞く為署に呼ぶ事は間違いないだろうが、その前に何かあれば、と )




  • No.5179 by アルバート・エバンズ  2025-11-13 23:07:14 

 





( この事件の犯人は自分なのだと周囲に誇示するように吹聴し、被害者の遺族の元を訪れ接触を図ろうとする。余りにも堂々としていて、どうしても殺人を犯した者の行動には思えず考え込む。相手の問いにジョイは首を振り『名前はわかりません。それに、他には何も…帰るように言ったら大人しく帰って行きました。“孤児院の少し変わった女の子”って言えば、知っている人には通じると思います。』と答えて。未成年の子どもを、物的な証拠がない中すぐに署に連行する事は不可能だろう。先ずはその少女についての証言を集める必要がある。ジョイに礼を言い家を後にすると、「その少女についての話をもう少し集めたい。一度接触出来れば良いが、」と言いながら車に乗り込み。 )






 

  • No.5180 by ベル・ミラー  2025-11-13 23:42:35 





( 結局少女の名前や別の情報は出なかった訳だが、ジョイの言った“孤児院の少し変わった女の子”と言うキーワードがあれば、近い内に少女の身元を判明する事は出来るだろう。車に乗り込み「署に連行出来るだけの証拠が見つかれば良いんだけど。」と、答えつつエンジンを掛け車を走らせた先は、昨晩聞き込みをし少女の話しが多く出た住宅街。付近には学校もあり、此処ならば少なからず有益な情報が得られる筈だと道路の脇に車を停め。「名前がわかれば、孤児院で探す事も出来る。手分けしよう。」この場所に1時間後に落ち合う事を決め、相手と反対側の道沿いでの聞き込みをする事に。結果的に得た情報は少女の名前は【リディア・オルセン】である事、問題児としてこの地域では有名である事、虚言癖があるだろう事、だった。地域住民も虚言癖を疑う程だと言う事は、矢張り少女の自供は余り信憑性が無いのかもしれない。1時間後に車に戻り、得た情報を相手と共有する。「…孤児院に事情を話して、任意同行出来ないかな、」と、まだ何も証拠が無い中だが相手同様、少女と接触をし、話を聞きたい旨を伝えて )




  • No.5181 by アルバート・エバンズ  2025-11-14 00:11:32 

 





( 相手と同様、聞き込みで得た情報は彼女が地域では有名な問題児でいつも嘘を吐いているという事。事件に関わっているという言葉も聞いた人が何人か居たが、誰もそれを信じてはおらず“いつもの事”と流している様子だった。地域の孤児院に行けば、彼女に会う事はできるだろう。「話を聞くにしても、11歳を1人で署には連れて行けない。証拠が出ていない以上、まずは孤児院で話を聞くのに留めた方が良い。」と、慎重な姿勢を見せる。未成年、それもたった11歳の少女が相手なのだ。言動の真意は聞く必要があるが、先ずは孤児院で接触できれば良いと。 )






 

  • No.5182 by ベル・ミラー  2025-11-14 11:04:03 





( 矢張り相手は慎重だった。証拠も無く、まだ11歳の少女を任意とは言え署に連れて行く事は様々な面をとってもリスクがあるだろう。「わかりました。」と食い下がる事なく頷くとこの地域の孤児院をスマートフォンで調べ。それは街中から少し外れた比較的閑静な場所にあった。周りは木々で囲まれており自然も豊か。航空写真で見るとどうやら近くには小川もあるようで庭が広い印象。___車を走らせ数十分後、孤児院に到着すると、出迎えてくれたのはこの孤児院の院長の女性で。丸い眼鏡の奥から覗く瞳は優しく、自分達に交互に視線を向けると、柔らかな口調で『こんにちは。此処の院長をやらせて貰っています、マリアです。』と名を名乗った後、『本日はどのようなご用件ですか?』と、問い掛けて )



  • No.5183 by アルバート・エバンズ  2025-11-14 13:40:03 

 





( 自然豊かで閑静な場所にある孤児院。院長の女性に出迎えられると、警察手帳を示し「レイクウッド署のエバンズです。此方はミラー。此処にいるリディア・オルセンさんに話を聞きたいのですが。」と告げると、院長は表情を曇らせた。『リディアですか……あの、これ迄も刑事さんや役所の方が来た事がありますが、何も無かったんです。嘘を吐いて場を掻き乱している事は私どもも把握しています。私たちも手は尽くしているのですが、…』と答えて。どうやらこれまでも、彼女の吐いた嘘によって近くの警察署や役所が動いた事があったようで。彼女は未だ帰って来ていないと言われ、ロビーのソファを勧められ腰を下ろす。院長によると、動物を殺したと吹聴して実際に猫の死骸が見つかった事もあり、警察や役所が来たというのだ。証拠もなく“虚言”として片付けられたが、彼女の問題行動には手を焼いていると告げて。 )






 

  • No.5184 by ベル・ミラー  2025-11-14 20:59:14 





( 少女の__“リディア”という名前を聞いた途端に表情を曇らせたその反応を見るだけで、彼女が相当の問題児だった事を直ぐに察する事が出来た。言葉を選ぶ様に、申し訳なさそうにリディアについて語り謝罪をする院長の表情は少しも晴れる事が無いものだから「謝らないで下さい、責めている訳ではないんです。」と、少しでも院長に纏う重たい空気が払拭されればと微笑み。けれど“動物を殺した”と吹聴する少女はどうしたって理解し難かった。それが本当だとして理由は何だ。“殺し”に美学でも感じているのか。まだ10を過ぎたばかりの子供が__。それに人殺しをしようとなんて思うのだろうか。それとも一緒に遊んでいた中で偶然__。様々な事が頭の中を巡り表情が険しくなる。「…2日前の、リディアさんの行動がわかる人は居ますか?」手帳を捲りつつ、持ち上げた視線を院長に合わせ、そう問い掛けて )




  • No.5185 by アルバート・エバンズ  2025-11-14 23:46:28 

 




( 院長は相手の問いに控えめに首を振ると『院外での行動は、私たちにも分かりかねます。いつものように朝学校に行って、夕方ごろ帰って来たと思います。』と答えて。ちょうどその時、黒髪をおさげにした少女が入口の扉を開けて入ってくる。直ぐに院長が“リディア”と声を掛けた事で、この少女が探していた人物だと理解して。見た目は年相応な極普通の少女、といった印象だったが、此方に視線を向けた少女は何処か嬉しそうに表情を明るくした。院長の静止も聞かず此方に駆け寄ると『私に話を聞きに来たの?あの子の事でしょ、いつか来てくれると思ってたの!』と、まるで楽しい話をするかのように声を弾ませて。『院長先生、私1人で大丈夫。ちゃんと話を聞くから。』と、自分1人で大丈夫だと言って院長を立たせるとソファに座って鞄を隣に置き。対面した2人を興味深そうに見つめ、『お姉さんも刑事なの?』と相手に尋ねて。 )





 

  • No.5186 by ベル・ミラー  2025-11-15 00:05:51 





( 孤児院なのだから刑務所とは違い、1人1人の1日の行動の全てを把握している訳では無かった。これは矢張り少女から話を聞き、その中でどれが嘘でどれが真実かを確りと見定めなければならないと思った矢先。院長が肩越しに視線を向け“リディア”と口にした事で、自然と頭は扉の方へ。そこに立つのは長い睫毛に縁取られた大きな瞳を持つ少女。お人形の様だと形容出来る程整った顔立ちで、笑った顔は年相応に幼く可愛らしい。この子がリディア___と、目前のソファに腰掛ける様子を頭を戻し見詰め、軽く微笑む。“あの子”とは間違いなくミケルの事だろう。「そうよ、私はミラーで、彼はエバンズ。」興味深そうな視線を受け止め、問い掛けに頷き肯定すると、己と隣に座る相手の名を告げた後「“あの子”ってミケル君の事?お友達?」と、口元の笑みを消さぬまま、怖がらせない様にという配慮から至極穏やかな優しい口調で問い掛けて )




  • No.5187 by アルバート・エバンズ  2025-11-15 00:19:28 

 



リディア・オルセン


( ミラーと名乗った女性刑事は、敵意のない表情で自分を真っ直ぐに見つめていた。緑色の瞳が綺麗だなとか、自分とは反対のシルバーの髪が素敵だなとか、そんな憧れを持って目の前の相手を見つめて。隣の男性刑事はあまり友好的な雰囲気ではなく、見定めるような冷たい瞳をちらりと見ただけで直ぐに相手に視線を戻し。『友達かどうかは分からない。けど時々会ってたの。あの子も1人でよく遊んでたから。でも死んじゃった、私が殺したんだけど。』と、スラスラと惑う事もなく言葉を紡ぐ。『だから、早く警察が私の事を見つけてくれないかなってずっと思ってたの。ねぇ、これって取り調べ?』相変わらず一切の怯えも罪悪感も感じさせない口調で、楽しい話をするように会話を続けて。 )





 

  • No.5188 by ベル・ミラー  2025-11-15 09:20:50 





( “友達かどうかはわからない”は恐らく真実だろう。けれど続いた“私が殺した”と言う告白はどうだろうか。一瞬空気が凍り、隣の相手の放つ圧が鋭さを増した気がした。リディアの表情や声色に変化は無く、相変わらず楽しそうなままで、11歳の少女を前に初めて不気味だと思ったかもしれない。__ふ、と“知っている”と感覚的に思ったが明確な答えは出ないまま。「……、…何で殺しちゃったの?喧嘩した?」暫く何と返すべきか返答に迷い、薄く開いた唇から音が出る事は無かったが、ややして“その部分”を信じたと捉える事の出来る問いを重ねて。「今日はただ話を聞きに来たの。“取り調べ”は警察署に行かなきゃ駄目なんだ。」楽しく、好奇心に溢れた様な少女の言葉は、それだけを聞けば矢張り殺人を犯したとは思えない。“警察署”と言う単語を出しつつ、様子を伺って )




  • No.5189 by アルバート・エバンズ  2025-11-15 10:26:53 

 



リディア・オルセン


( 周りの人間は皆、自分の言葉を嘘だと信じて初めから取り合わない。何を言っているのかと、嫌悪を持った視線を投げ掛けられるばかり。だが、目の前の相手はどうだろう。はなから嘘だと決めつける事なく、自分の話を聞いてくれる。『ううん、喧嘩はしてない。興味があったの、死んだらどうなるんだろうって。それを見てみたくて。人が死ぬのって一瞬なのね、』と、相手の質問に素直に答える。誰も見てくれない自分を、相手はきちんと見てくれていると感じた。『なーんだ、そうなの。私、警察署行っても良いよ。』一切動じる事無く告げれば、その言葉に被せるようにして「____どうやって殺した?」と、相手の隣の刑事が問いかける。子どもを前にしているとは思えない鋭い目、少し隈が目立つ。優しさの無い冷たい空気感があまり好きではなかった。『…それを推理するのが警察じゃないの?』とだけ答えると、直ぐに相手に視線を戻す。『ね、お姉さんも推理するんでしょ?ミステリー小説の探偵みたいに、』と打って変わって明るい表情を見せて。 )




 

  • No.5190 by ベル・ミラー  2025-11-15 12:52:30 





( “興味”で殺人等出来るだろうか。こんなにも幼い少女が。罪悪感も躊躇いも感じさせない、まるで御伽噺でも語るかの様な口調と心底楽しげな表情__矢張り“虚言”なのではと疑ってしまうのが普通の反応な気がした。少女の言葉に返事をする事無く一度落とした瞳の奥には表現し難い感情が乗る。__刹那、隣から聞こえた相手の声は、その顔を見なくともわかるくらいに冷たく放たれた。子供相手に向けるとは思えない程に鋭い瞳は、聴取の時の容疑者に向けるものと同じだろう。一瞬にして空気が変わり、重たい圧を真正面から受ける容疑者は、例え大人であっても言葉が出なくなったり嘘を吐けなくなったりする、或る意味“恐怖”を抱くのだ。相手の取り調べがそれ程までに厳しく恐ろしい事は己が良く知っている。けれどこの少女は涙を浮かべるでも、怯えるでも無く問い掛けをはぐらかし、あろう事か笑みさえ浮かべる始末。「__そうだね。犯人に繋がる証拠を見付けて、現場の状況から、その時何があったのかを考える。…私達は刑事だから、犯人を逮捕して罪を償わせるの。そこが探偵との違い。」視線を持ち上げ、少女を真っ直ぐに見詰めながら一言一言を静かに落とす。未成年の少女を署に連れて行けるだけの確実な証拠を見つけなければ、そう強く思うのは“虚言”と片付けられない何かを感じるからだろうか )




  • No.5191 by アルバート・エバンズ  2025-11-15 21:29:09 

 



リディア・オルセン



( 相手の言葉を聞いて少し首を傾げると『じゃあ、私に繋がる証拠が現場にあったの?その時何があったのか、考えてみて分かった?』と尋ねる。純粋な好奇心、同時に煽る様な色も僅かに混ざっただろうか。自分に気付いて欲しくて、わざわざ証拠まで残したのに。母親が遺した薬の瓶をひっくり返し薬剤をばら撒いたのは、現場を“それっぽく”する為だった。---話をしている内に、目の前のミラーという女性刑事ともっと話がしたいと感じるようになっていた。誰も聞こうともしなかった自分の話に耳を傾け、自分の目を見てくれる。彼女は、自分を“見つけて”くれる。小さな“執着”の芽が胸の内に芽生えた瞬間だったのかもしれない。隣に座る男性刑事が邪魔だと思ったものの、この状況で催眠術を掛ければ彼女からも怪しまれるだろうと思い、目を合わせる事をせず相手と2人の対話を続けて。 )






 

  • No.5192 by ベル・ミラー  2025-11-15 22:50:04 





( “やりにくい”。少女と顔を合わせ会話を続ける中で消えぬ正直な気持ち。純粋な好奇心と楽しげな色の中に混ざる煽りに気が付いた時、僅かに眉が微動した。「いいえ、まだ何もわからない。だからリディアちゃん、貴方が犯人だと言う証拠も何一つ見付かってないの。」返したのは素直な現状。捜査状況をペラペラと喋る事は良いとされていない事はわかっているが、これが適切だと思ったのだ。「だから、貴女を警察署に呼んだ時は、その証拠が見付かった時。__1つ教えてくれる?私が見て来た多くの人達は、悪い事をしたらそれを隠そうとしたの、でも貴女は違う。…逮捕されたい?」手元の手帳を閉じて、少しばかり重心を前に。僅か縮まった少女との距離の中で、何より一番理解の出来ない箇所の問い掛けを )




  • No.5193 by アルバート・エバンズ  2025-11-15 23:10:55 

 



リディア・オルセン


( 相手の言葉を聞いて少しムッとした表情を浮かべる。これ程自分が犯人だと声高に言っているのに、この自供が証拠になるというのに、相手もまた自分の言葉を信じてはくれないのかと。『私の証言は証拠にならないのね、』とつまらなそうに言うとソファの上で足をぶらぶらさせる。続いた問い掛けには少し首を傾げ『隠す事なんてしないわ。私は“見つけて欲しい”だけ。何千人も、何万人もいる人の中から、私だけを見つけて欲しいの。あなたがやったのねって、選ばれる1人になりたいの。』と答える。自分だけを見て欲しいという歪んだ欲望を、純粋に口にする。生まれた時から誰も自分を見てはくれなかった、自分の存在を認めてくれなかった。だから、見つけて欲しいのだ。『逮捕されても別に良いわ、此処とそう変わらないだろうから。』と答えてソファから飛び降りると、『証拠を見つけて、また来てね。次はお姉さんだけで。』と相手に笑顔を見せて、部屋の方へと帰って行き。 )





 

  • No.5194 by ベル・ミラー  2025-11-15 23:36:46 





( ここはまだ余り知識の無い11歳の子供だ、真実を話せばそれが証拠になると思っている。言葉だけでは証拠にならず、逮捕するには絶対的な物的証拠が必要なのだが。会話を始めてから初めて見せた、笑顔ではない不貞腐れた様な表情が11歳の本来の顔をチラつかせている気がした。そうして続けられた“見付けて欲しい”という願い。それは“私を見て”と言う心の叫びと同類ではないのか。“やりにくさ”がまた別の角度から顔を覗かせた事で、一瞬言葉が詰まるのだが、その間に少女はソファを飛び降り部屋の方へと帰って行く。ちゃっかりと次に会う時の約束までを取り付けて。「……やりにくい、」少女の姿が見えなくなった事で、胸にあった、最後まで残り続けた気持ちが小さな呟きとして落ちた。独り言の様な言葉の後に深く息を吐き出しては、「署に戻ろう、」と何とも言えない複雑な気持ちを抱えたままソファから立ち上がって )



  • No.5195 by アルバート・エバンズ  2025-11-16 00:05:02 

 




( 終始相手のペースで話を進められている感覚。聞きたい事は飄々とはぐらかされ、自分の主張を貫き此方を翻弄する。似たような聴取をかつてした事がある、と思った。たった11歳の少女ではあるが、本質はあの男に似ている______危険な少女だと、直感的に感じた。リディアが重要参考人である事は確かだが、虚言癖のある子ども。明らかな物的な証拠がない限り、彼女を犯人だと結論付けるのは不可能だろう。「…侮れないな、」と、相手の本音に同意するように頷きつつ、また話を聞きに来ると院長に告げ孤児院を出る。車に戻る道すがら、部屋の窓から少女が此方を見つめていた事には気付かず、相手と共に署へと戻り。---妙な空気感に気を張っていたのか、執務室で思わず深い溜め息を吐く。僅かな痛みが出ていた鳩尾を無意識に軽く摩りつつ、眼鏡を掛けて検視結果の資料に再び目を通し。受信したメールを開くと“現場の薬瓶からは子どもの指紋が検出された”という報告の文章。リディアが持ち込んだ可能性は高いが、これが明らかな証拠だと手放しに喜べないのは、被害者の死因に薬は関係なかったから。指紋が一致したとして、彼女が現場に行った証拠にはなるが、殺人の証拠にはならないと再び深い溜め息を。 )






 

  • No.5196 by ベル・ミラー  2025-11-16 00:28:35 





( 署に戻り、執務室で相手が鳩尾の付近を擦っていた事には気が付いていた。恐らくまだ軽いものかもしれないが痛みを感じているのだろう。___此処で遺体の周りに散らばっていた抗うつ剤の瓶から指紋が出た事が新たにわかった訳だが、“殺人の証拠”にはならない。間違いのない死因が特定出来ない以上、リディアが何を言い続けた所で100%の自白にはならないのだ。「…明日、瓶から出た指紋の話で署に呼ぶ?殺人の証拠としては弱いけど、私はあの子が無関係だとは思えない。」相手の向かいでキーボードを打ちながら一度顔を上げそう告げた後、また視線を画面へ。リディア・オルセン__彼女との話の後、院長に聞いたのは過去の一部。幼い頃に虐待をされ、母親は自殺。引き取り手が居ない為に孤児院で暮らす事になったと。“私を見て”という叫びは、遣り方こそ間違いなれど彼女の心の全てなのだろう。それが何処かで歪んだ。寂しい、悲しい、苦しい、そういった負の感情が真っ直ぐな形で表される事の無かった状態が、今なのかもしれないと )




  • No.5197 by アルバート・エバンズ  2025-11-16 01:44:01 

 





( 相手の言う通り、現場に指紋が残されているというのは署に呼ぶ口実にはなる。「…そうだな。本人も事情聴取を嫌がってる訳じゃない、院長にも話をすれば了承は得られるだろう。」と同意を示して。未成年の為、強制的に事情を聞く訳にはいかないが、保護者がわりである孤児院の院長と彼女自身の同意があれば問題は無いと。現場に意味ありげに残されていた薬瓶と彼女の指紋、死因を特定できない少年の遺体、少女の理解に苦しむ言動の数々。それぞれがバラバラで捜査にも進展がない事は気持ちを焦らせた。その焦燥感が痛みを引き連れて来て気が散る。彼女の瞳が、口ぶりが、あの男を思わせるものだった事も負担になっているのかもしれない。彼女の聴取と、司法解剖の結果次第で事が少しでも動けば良いのだがと思わずにはいられず。 )






 

  • No.5198 by ベル・ミラー  2025-11-16 12:43:50 





( 少女自身、あの感じならば何の躊躇いも無く署に来るだろうし、院長も捜査協力を惜しまない人の様に思えた。何かが大きく変わるとすれば明日の事情聴取と司法解剖の結果次第だろうと相手と同じ様な事を思いながらパソコンの電源を落とし。___時刻は午後4時。明日の聴取の為今日はもう帰ろうと相手と共に帰宅する。数十分で着いた家の中はひんやりとしていて、ヒーターを点ければ小さな起動音が部屋を包んだ。ソファの背凭れに掛けてあった膝掛けを相手に手渡し、少しだけ距離を詰める様にして相手の隣に腰掛けると、膝掛けの上から相手の鳩尾付近にそろりと触れ。「…何飲みたい?」痛みを感じぬ様、殆ど力の入れていない加減で掌を動かしながら問い掛けた声は穏やかなもの。捜査に大きな進展が無い事、掴み所の無い少女の存在、謎の死因、全てが嫌な感覚を引き連れて来ている事は明白で )




  • No.5199 by アルバート・エバンズ  2025-11-16 13:15:16 

 





( 明日に備え、珍しく相手と共に仕事を早く切り上げて帰宅する。ソファに腰を下ろし、手渡された膝掛けを受け取ると相手の手は痛みを感じていた鳩尾へ。痛む箇所へと手を伸ばされても身構える事をしなかったのは、これまでの経験が培ったある種の“信頼“か。自分では痛みを訴えた覚えがなく、何故気付いたのかと思ったものの問い掛けには「…温かいミルクティーが飲みたい、」と素直に答える。湯を沸かしキッチンでマグカップの準備をする相手を眺めながら、リディアの事を思い出していた。ほんの11歳の少女だが、彼女は侮れない。あの男によく似た言動をする_______いつだったか、鳩尾を押さえ付け耐え難い痛みを与えられた事を思い出して背筋が冷たくなる。「…”あいつ“の取り調べを思い出した。」と、徐に言葉を紡ぐ。きっと彼とリディアの似た空気感のようなものは相手も感じていただろうと。 )






 

  • No.5200 by ベル・ミラー  2025-11-16 20:01:11 





( 相手の望む通り優しい甘さのミルクティーを用意している背後から、ふいに掛けられた言葉に動きが止まった。“あいつ”が誰を指して居るのか__あの奇妙な類似感の正体がはっきりとし、自然と表情は固くなる。相手の心を躊躇いの無い鋭利な刃物で切り付け苦しみの底に落とし続けようとする男。害など有りませんという様な人の良い笑顔の裏に、明確な悪意や歪みを潜ませ、相手に執着し続ける。「…余りに似すぎてたね。」と、彼の姿を思い出し僅かの嫌悪が滲む表情を隠す事もせずに頷きつつ。マグカップを手渡し隣に腰掛けては「あの子が本当に今回の事件の犯人だとしたら、論理感や道徳観が欠落しているのは間違いない。…でも__甘いってわかってるし、だから人を殺して良いって事には勿論ならないけど、寂しいのかなって…、」相手と同じものを淹れたマグカップの、そのまろやかな水面を見詰め、自身の心の内にある葛藤の様な気持ちを吐露して。それと同時に別れる最後、リディアが口にした“次はお姉さんだけで”と言う言葉が妙に耳に残っており。それは単に懐かれたからなのか、それともこの女刑事なら良いように出来ると思われたからなのか。「…実はクラークと繋がっていた、なんて事ないよね。」と、肩を竦めつつ、ミルクティーを一口飲んで )




  • No.5201 by アルバート・エバンズ  2025-11-17 00:07:36 

 




( 複雑な家庭環境、心を殺すしか無かった過去の経験が彼女の本質を歪ませた。残虐な事件を起こした犯人が過去に暗い影を抱えているというのは往々にしてある事で、その事実にやるせなさを感じるのは理解できる感情だった。「彼女の年齢を考えると…心を歪ませたのは、間違いなく周囲の大人たちだからな、」と、相手の葛藤にも多少の理解を示して。「あいつの取り調べはお前の方が適任だ。俺も同席はするが、聴取はお前に一任する。」此方をちらりと見たリディアの冷めた目を思い出し、彼女を署に呼んでの聴取は相手に委ねる事を告げて。クラークとの繋がりを疑う言葉には「______流石に無いだろう。あいつは子どもをどうこう出来るタマじゃない。」とだけ答えておき。温かいミルクティーは疲弊していた心身を緩め、少しばかり痛みも和らいだように感じられた。明日の聴取に備えて、今日はいつもより早く休んだ方が良いだろう。 )






 

  • No.5202 by ベル・ミラー  2025-11-17 14:18:23 





( 中でも虐待と母親の自殺は少女の心を歪ませるには十分だった筈。此方に向けられた理解の言葉に僅か表情を緩ませ頷き。その表情が引き締まったのは聴取一任を告げられたから。相手が隣に座っていてくれるだけで心強いものではあるが、容疑者はあの掴み所の無い何が嘘で何が本当かもわからぬ少女。より気を引き締めなければならない。「…後は院長がなんて言うか、」リディア本人だけならふたつ返事でYESと答えて来るだろうが、未成年で院長が保護者代わりのなっている以上彼女の許可取りも必要だ。あの感じであるならほぼ100%の確率で許可をしてくれるとは思うが何があるかはわからない。ミルクティーを啜りながらリディアの顔とクラークの顔を交互に思い出し、相手がそう言うならそうなのかもしれないと納得を。___そうして迎えた聴取当日。昨晩はお互い早めの就寝をして、午前中の内に孤児院に行けば案の定リディアは躊躇いの無いYESの返事を、院長もまた困惑こそしたが首を縦に振ってくれた。___2人が署に来たのはお昼過ぎ。院長の同席を最初は考えていたのだが、孤児院で話した時の感じとリディア本人の申し出から彼女1人での聴取が決定し。黙秘権を行使出来る旨の説明をした後、目前に座る少女を真っ直ぐに見詰めると「…現場にあった薬瓶から、リディアちゃん、貴女の指紋が検出されました。あれは貴女ので間違いない?」先ずは出たばかりの指紋証拠の話から始めて )




  • No.5203 by アルバート・エバンズ  2025-11-17 15:45:10 

 




( 署にやってきたリディアを取調室に通し、相手と共に再び対面する。無機質な取調室に入っても尚、彼女の調子は変わらず『次はお姉さんだけでって言ったのに。』と不服そうに言いながら、足の付かない椅子に座り足をぶらぶら動かして。此方をちらりと見る視線には、明らかに邪魔者を見るような色が浮かんでいる。証拠が見つかった時に呼ぶ、と言われた事を覚えていたのだろう。薬瓶の話をされても全く動じる事もなく『そうよ、あれはお母さんの薬。家にあったから、孤児院に行く時に持ってきたの。ただ子どもが倒れてるだけより、薬が散らばってた方が事件っぽいでしょ?私は使わないし。』と答えて。 )





 

  • No.5204 by ベル・ミラー  2025-11-17 19:16:58 





( 確かに“1人で”と言う話は出たが勿論約束した訳ではない。その部分に返事はせずに、誤魔化すでも否定するでも無くあっさりと薬瓶の所持を認めた様子を見据え。その話が本当ならば彼女の指紋が出た事も、遺体から薬物反応が検出されなかった理由も頷ける。「…確かに事件を複雑には出来たかもしれない。でも、お母さんの物だったのに良かったの?あんな風に捨てちゃって。」事件を“それっぽく”する為だけに、亡き母親の私物をあんな風に扱えるものなのか。勿論過去に虐待があった事は把握済みの元、少女の心の内を覗こうと )




  • No.5205 by アルバート・エバンズ  2025-11-17 21:16:18 

 




リディア・オルセン


( 目的は犯行を隠し通す事ではない。むしろ現場に自分の痕跡を残し、自分がやったのだと声を大にして主張し、見つけて貰いたかった。自分がやった事なのだとアピールしたかったのだ。だから手袋もせずに触った薬瓶をそのまま現場に放置した。『別に良いの、』とだけ相手の問いに答えると、瞳にぐっと影が射す。『あんな物飲んだって何の意味も無かった。結局私を散々苦しめて、最後は自分で飛び降りて死んじゃったんだから。…でも、返してくれるって言うなら貰うわ。親の遺品を大切に持ってる女の子なんて、健気でしょ?』最後には普段通りの明るさを持って、冗談めかしたように告げる。子どもには抱えきれない程の負の感情を全て飲み込んだ結果、多少の事では心は傷まないし揺れ動かなくなったのだ。『ねぇ、お姉さん。私を逮捕する?子どもがサツジン犯だなんて、ニュースになるかしら。きっと、みんなが私の話をするわね。』笑顔で問い掛けても、相手が笑い掛けてくれる事はない。困惑したような憐れむような怒ったような、2人ともそんな顔をするばかりで。 )





 

  • No.5206 by ベル・ミラー  2025-11-18 00:01:36 





( 感情の空気が僅かに変わった時、本人に認識はあるのか瞳の奥が翳る。それを見て、頭の片隅で一瞬クラークとの違いを思った。幼い心が抱えきれぬ程の傷を負い血を流し、それが治る間もなくまた新たな傷に晒される。そうやって長い時間を繰り返す内に、何時しか心は痛みを認識出来なくなる。まるで冷たい氷に覆われた様に__一瞬感情が引っ張られたのは、クラークと少女のでは無い別の類似感を覚えたから。細く息を吐き出す事で感情の揺れをおさめ、「今すぐには無理だけど、リディアちゃんが望むなら必ず返す。」“健気”に対しては触れぬまま、至極真剣な表情でたったそれだけを返した後。滲むのはおさえきれない複雑な感情。笑顔など返せる筈が無いではないか。「…貴女が殺人犯なら逮捕する。だから、正直に教えて欲しい。どうやってミケル君を殺したの?」自分を見て欲しい、と言う事に異様なまでに拘りその為なら手段を選ばない、きっとこの少女はそういう子だ。けれど笑顔の裏の顔を見れる程、時間を共にはしていない。以前相手も問うた問い掛けをもう一度投げ掛けながら、胸に巣食う靄掛かる嫌な感情を感じていて )




  • No.5207 by アルバート・エバンズ  2025-11-18 12:48:53 

 




リディア・オルセン



( 事件を解決しようと奔走している2人だが、隠蔽しようとすらしていないにも関わらず核心を掴めてはいないようだった。『分からないの?なんにも隠してないのに、』と首を傾げつつも、相手になら話しても良いかと思い徐に身を乗り出す。相手の首に手を掛けようと腕を伸ばすと、突如横から伸びてきた手が其れを阻んだ。警戒心を隠そうともしない鋭い灰青色の瞳、自分の行動に危機感を感じて咄嗟に彼女を守ったつもりなのだろう。遮られた事で相手の首に手を添える事は叶わず身を乗り出すのを辞めると、自分の首に手を掛ける。『…こうやって首を絞めただけ。簡単でしょ、ずっと顔を見てたのよ。命が消える瞬間を見てたの、』と答えてにっこり微笑んで見せ。 )






 

  • No.5208 by ベル・ミラー  2025-11-18 15:41:04 





( “隠していないから”より複雑になっているのだと頭の片隅で思った刹那、身を乗り出した少女の腕が躊躇いなく此方に伸びたのを捉え、反射的に僅か身を仰け反らけるのだが。その手が此方に届く前に横から長い指が少女の細い腕を掴んだ。一瞬にして緊張に包まれた取り調べ室の中で、息を飲み隣の相手に頭を向けると、鋭い眼光を宿した横顔が映りそれだけで安堵が胸に落ちる。深呼吸一つで気持ちを立て直し、再び目前の少女を見据え「…途中で、やめようとは思わなかった?」既に出ている検死結果から絞殺の可能性は無いとされていながらも瞳には僅かに怒りの色が乗る。___と、その時、取り調べ室の扉がノックされ隙間から署員が顔を覗かせた。『警部補、ちょっと、』室内をぐるりと見回し相手に視線を向けると、扉の所まで来た相手に【イーサン・キャロル医師】が書いた司法解剖結果の書類を手渡しつつ何とも言えない微妙な表情を浮かべて )




  • No.5209 by アルバート・エバンズ  2025-11-18 20:20:35 

 




( 目の前の相手の瞳には怒りに似た色が浮かんでいる。『別に、思わなかったわ。目の前で命が消えるのを見る機会なんてないから、美しいと思ったの。』と、悪びれる事もなく答えて。---取調室の扉が叩かれ、顔を覗かせたのは捜査官の1人。視線が合い呼ばれると立ち上がって扉に近づく。手渡されたのは司法解剖の結果。目を通し、思わず眉間に皺が寄る。医師の判断によって導き出された死因は自然死______つまり事件性そのものが否定された事になる。捜査自体が必要なくなるという事だ。幾ら少女の証言があれど、その犯行を証拠づけるものはない。薬瓶の指紋も殺害に直結するものではないという判断になるだろう。この状況では何を言おうと、捜査の継続が不可能な事は長年刑事事件に携わってきた為理解できた。「…分かった、下がって良い。」と捜査官に告げると、取り調べが行われているデスクに戻り、録音を停止する。「お前の言い分は分かったが、もう帰って良い。」と一方的に告げ。 )





 

  • No.5210 by ベル・ミラー  2025-11-18 21:29:59 





( 少女の感性はどうしたって理解出来ない。尚も問い掛けを続けようとしたが、それよりも先に今まで一言も言葉を発さなかった相手が一方的な聴取終了を告げた。それが相手を揺さぶる目的では無い事は声色からも録音を停止したその行動からも伝わるのだが。「待って下さい、まだ聞きたい事が__、」流石に納得がいかないと声を上げようとして、語尾が萎んだのは先程捜査官が持って来た書類を見せられたから。“自然死”その文字が何を意味するか…この聴取だけでは無く事件捜査そのものの終了だ。真実はどうであれ目の前の子供は殺人を認めているのに。思わず困惑と不服の滲む表情で相手を見るが、こうなってしまえば捜査続行は不可能で、どうする事も出来ない。リディアもまた受け入れ難いとばかりに椅子から飛び降りると、『何でよ、私の事逮捕するんでしょ?だから此処に呼んだんでしょ!?』相手の態度も、冷たい瞳も、一方的な聴取終了も、何もかもが気に入らないとばかりに詰め寄って )




  • No.5211 by アルバート・エバンズ  2025-11-19 00:30:05 

 




( 相手は書類を見て、捜査が打ち切りとなる事を直ぐに理解したようだった。聴取を切り上げる事について不服だとばかりに詰め寄った少女は、先ほどまでとは違い素直な感情を露わにしていた。彼女が関わっている可能性は十分に考えられたが、真相は闇の中。「お前がどう言おうと、聴取は終了だ。逮捕はしない、大人しく孤児院に戻れ。」と、少女を見下ろして淡々と告げて。犯人だと認められる事、自分の仕業だと公になる事をたった11歳の彼女は望んでいたが、良いか悪いか其の歪な願望は叶わない。最後まで自分への反抗的な態度を崩さず此方を睨みつけていた少女は、院長に連れられて署を後にして。---ミケルの母親に、医師の判断により突然死と結論付けられた事を伝えた帰り道。納得がいかないのだろう、本当に事件性は無いのかと何度も尋ねられ、リディアについても調べて欲しいと訴える母親に捜査の終了を伝えるのは精神を擦り減らすものだった。車を止めたコンビニの駐車場で、溜め息と共に背凭れを倒す。拭きれない不完全燃焼感を感じ、直ぐに署に戻る気にはなれない。沈黙の車内には重い空気が漂い。 )






 

  • No.5212 by ベル・ミラー  2025-11-19 13:32:45 





( ___“自然死”の結果、捜査終了を告げた時の保護者の反応は真逆だった。殺人事件は痛ましい事であるものの、院長は緊張の中に隠しきれない安堵の色を滲ませ、ジョイは対照的に涙を浮かべながら捜査続行を訴えた。___重たい空気が充満する車内、互いにやり切れない気持ちを抱えたまま暫く無言で居たものの、暫くしてシートベルトを外すと「…コーヒー買って来るね。」と一言告げ店内へ。相手用の微糖と何だか物凄く苦い物を飲み下したい気持ちで無糖のコーヒーを買い車内に戻れば、微糖の缶を相手に手渡しつつ、プルタブを開け中の黒を呷り。普段は絶対に飲まないそれは僅かの甘みも感じさせる事無く胃に落ち、舌に残る苦味に顔を顰めるのだが、甘さが欲しいとは思わなかった。味わうでも無く流し込む勢いで一気に飲み干した後、前を見据えたまま「…流石に苦しい、」と、本当に苦しく悲しいのはジョイだと思いつつも素直な感情を口にして )




  • No.5213 by アルバート・エバンズ  2025-11-19 14:28:45 

 





( 相手が買ってきた微糖のコーヒーの缶を開け、中身を呷る。少女の供述を全て信じ切る事は出来ないながらも、もう少し詳しく調べる必要はあると感じていた。だからこそ、強制的に捜査を終了せざるを得ない状況に蟠りが残るというのには同意でき。しかしこうなって仕舞えば新たな証拠や他殺の可能性を立証できない限りは現場でどうこう出来る事ではないと理解しているからこそ、互いにやりきれない思いを抱えながら手にした缶に視線を落とす事しかできずに。---ミケルの一件が事件性のない突然死と判断されて数週間。緊急性の高い立て篭もり事件として、刑事課に連絡が入る。雑貨や食品を扱う小さなマーケットから、少女の声で助けて欲しいと通報が入ったというのだ。店員とみられる男が居ない隙を見て電話をしたという少女は、怖いから女の人に助けに来て欲しいと訴えたと______其れによって白羽の矢が立ったのがミラーで、相手と共に現場に急行する事となり。 )






 

  • No.5214 by ベル・ミラー  2025-11-19 21:23:56 





( 何を言った所で覆る事は無い、強制的な捜査終了の嫌な余韻は数日続いた。けれど他の事件も舞い込んで来ると言うもので、漸く気持ちを切り替える事が出来たと感じた今日この日。立て篭もり事件の一報が入り現場に駆け付けた時には既に周りには人集りが出来ていて、既に到着済みの警察官の姿も。その内の1人の捜査官から、小学生くらいの女の子を人質に男が立て篭もっている事、男はこの店の店員で、説得にも聞く耳を持たず無言を貫いている事を告げられ緊張が走る。周囲にこれだけ警察官が居れば通報があった事は直ぐに男にもわかるだろうし、それによって人質に危害を加えられる可能性もあるだろう。少女の要望通り、女性である自分が出来る限りの事をしようと気を引き締め___硝子扉の奥の人の姿を視界に捉えた時、思わず驚愕から言葉が出なかった。人質となっている少女が、一週間前に聴取をした【リディア・オルセン】その子だったからだ。息を飲み、瞬間的に駆け巡った様々な感情を言葉では言い表す事が出来ない。「…エバンズさん、」思わず相手の名前を呼び、隣へと視線を向けて )




  • No.5215 by アルバート・エバンズ  2025-11-19 22:31:44 

 





( 現場に到着し状況は把握したものの、中に居る男にどう接触したものかと考える。店員の男は説得にも応じず、一方で何かを主張する事もしない。何のために立て籠っているのかもわからない状況なのだ。そんな中で相手に名前を呼ばれ、相手の視線の先を見れば見知った少女の姿が見える。彼女もまた此方を見ていたのだが、視線が重なった瞬間、少しばかり瞳に敵意にも似た色が宿った事には気付かない。「……偶然か?この間の今日で再会するとは思わなかったが、」と言葉を紡ぐ。つまり“女性の刑事を”と要望を述べたのはリディアだった訳で、やはり相手に執着しているようにも感じられるがただ不安だったのかもしれないとも思う。男が要望を言わない以上、少しずつ近付いて、向こうの出方を伺いながら少女の救出を試みるべきだろう。「_____ミラー、行けるか?男の目的は分からないが…出方を伺いながら少女を助け出す。近づいて男が此方を威嚇するような行動を見せたら一度退け、」と指示を出して。 )






 

  • No.5216 by ベル・ミラー  2025-11-19 22:58:17 





( 余りに短期間での予想外の再会に驚きはすれど、状況が状況なだけにそれ以上の感情が湧く事は無かった。少女が顔見知りであれ、今は兎に角人質となっているのだから無傷で保護する事が絶対的な第一優先だ。相手からの指示に「わかりました。」と、頭を縦に動かす事で問題無い事を示すと、大きく深呼吸をしてから緊張感の漂う空気の中、扉の方へゆっくりと歩みを進め。中程まで差し掛かっても男に特別大きな動きは無く静けさが漂うだけ。言い知れぬ不安感や焦燥感を胸に男から視線を外す事無く一歩、また一歩と足を動かし、手を伸ばせば扉に触れる事の出来る位置で一度足を止めると、視線を一瞬少女へと向け、“大丈夫”とでも言うかの様な目配せをして )



  • No.5217 by アルバート・エバンズ  2025-11-20 01:36:52 

 




( 相手が歩みを進めても、男が大きく反応する様子は見られない。何を目的に少女を人質に立て籠ったのかが分からないものの、彼女も隙を見て逃げ出す事は出来ない状況でSOSを出したと考えると慎重に事を進める必要があった。---扉の直ぐ外までやって来た相手は、此方を見て目配せをする。危険を顧みずに自分を助けに来た相手は、いつも自分を気に掛けてくれる存在。あの男が一緒でなければ、相手はもっと自分だけを見てくれるのに、と独占欲のような感情が湧き起こる。店の中にいる男は此方に危害を加えるような事はしないし、元々立て篭もるつもりさえなかった筈で、ただ自分に操られてその場に留まっているだけ。相手が助けに来てくれれば、それがゴールなのだ。男に不審な動きが無いことから店内に入る事を許可された相手がゆっくり扉を開くと、『お姉さん…っ、怖かった、』と相手にしがみついて。 )






 

  • No.5218 by ベル・ミラー  2025-11-20 11:09:11 





( 男の手元に拳銃など武器の類も確認出来ず、何か反応を示す事も無い。扉に手を掛け、開くと同時に僅かな音が鳴るがそれにも無反応。そのまるで人形の様な雰囲気に眉を顰めるも、それ以上を考える前に此方に駆けて来た少女が腰にしがみつけば、両腕でその小さな身体を受け止めると同時に店の外へと連れ出し扉から距離を取り。「もう大丈夫、何処も怪我してない?」安心させる様に微笑みながら軽く背中を撫で、地面に両膝をつく形で少女と目線の高さを合わせると、頭の天辺から足先までをざっと見、怪我の有無を確認し。人質である少女が店の外に出た事で店内に残る犯人の逮捕も直ぐだろう、後は他の警察官達に任せるとし立ち上がると少女の手を引き相手と視線を合わせるように振り返り問題無い事の表しで一つ頷いて見せて )




  • No.5219 by アルバート・エバンズ  2025-11-20 13:54:15 

 





リディア・オルセン



( 自分を店の外へと連れ出し、膝を突いて目線の高さを合わせた相手を正面から見据える。綺麗なグリーンの瞳には自分の姿が映っていて、その感覚が初めてで喜びを感じた。相手の目に、今自分だけが映っている瞬間が嬉しかったのだ、此れまで誰も自分を真っ直ぐに見詰めたりしなかったから。そうして再び立ち上がった相手が此方を振り返った後に目配せをしたのは、遠くから此方の様子を窺う、あの男性刑事だった。途端に満たされていた心にはどす黒い靄が湧く。取調室でのあの時も、自分の行動を遮った彼に向けた視線には確かな信頼が宿っていた。思わず相手の手を引くと、振り返った相手を見つめる。『”お姉さんの大切な人が______私に危害を加えようとしてる“の!助けて、あの人に殺されちゃうかもしれない!』催眠を掛ける暗示として小さく指を鳴らしてから、顰めた声で相手に助けを求める。相手が彼に思いを寄せているなら_____催眠に掛かりさえすれば、彼を敵と見做すだろう。自分を守るために、腰に据えた拳銃を彼に向けるドラマチックな瞬間も見られるかもしれないと、無邪気な考えで心の内で笑みを浮かべて。 )





 

  • No.5220 by ベル・ミラー  2025-11-20 19:49:04 





( 合わさる視線、その長い睫毛に縁取られた大きな瞳と緑眼が重なった瞬間、顰めた声で告げられたのは恐怖を孕んだ言葉。“大切な人”その一文だけが何故かはっきりとした音で鼓膜を揺らし___少女の細く小さな指が鳴らした音を最後に何故か意識に靄が掛かった。“あの男から少女を護らなければならない”まるで文章の様に頭に流れ込むそれは己の気持ちでは無いのにそれすらもわからないのだ。エバンズとリディアの間に立ちはだかり、少女を彼から護る様に片手で己の背後に隠す。明るい緑眼は暗く濁り、感情が抜け落ちた様な表情は宛ら人形。そうやって無言のままエバンズを見詰めると、腰に据えた拳銃を抜き、あろう事かその安全装置を外し銃口を真っ直ぐに彼へと向けて )




  • No.5221 by アルバート・エバンズ  2025-11-20 23:43:01 

 




( 不気味なまでに立て籠っている男に動きがない事を不審に思いつつも、店内に入って直ぐに無事少女を助け出した相手は、そのまま何事も無く戻って来ると思われた。しかし、次に此方を見た相手の瞳には、一切の生気が無いように思えた。少女を背後に庇った後、腰の拳銃に手が伸びるのを見て一体何を考えているのかと言葉を失う。あの少女を救出すると言う目的は同じで、それは滞りなく遂行されようとしていた。それなのに一瞬で状況が変わり、気付けば拳銃の先は自分に向いているのだ。「_____ミラー、」と、相手を制止するように両手を軽く上げ、撃つなと牽制する。「何を考えてる、其れを下ろせ。」静かな口調で、冷静になるように促して。何が起きているのか理解が出来ずにいて。 )





 

  • No.5222 by ベル・ミラー  2025-11-21 00:08:36 





( 一瞬にして誰もが理解出来ぬ方向に変わった状況。それを唯一理解しているのは、不敵な笑みを警察官からは見えぬ角度で浮かべる少女だけ。___相手が両手を上げ抵抗や危害を加える意思は何も無いと示しているにも関わらず、銃口は降りない。その事に周りに居た警察官達も騒めき、狼狽え、けれど、このままでは理解不能ながらエバンズが撃たれる可能性もあると、ミラーに銃口を向ける者も数名居た。余りに緊迫したこの状況でも相手の声は届かず、真っ白で無機質な空間に揺蕩う様な感覚は、何もかもを奪い去る。「……」相変わらず全くの表情の無い顔のまま、少女を背後に庇った状態で一歩、また一歩、と狭い歩幅で相手との距離を詰め、やがてその距離が拳銃を挟み大人1人分の間しか無い程に詰まった時、漸く足を止め「…動かないで。あの子に危害を加えるなら撃ちます。」と。その声は静かで、冷たく、まるで機械の様に抑揚の無いもので )




  • No.5223 by アルバート・エバンズ  2025-11-26 23:53:05 

 




( 状況が全く読めないながらに緊迫した状況。少女に危害を加えるつもりなど毛頭無いのだが、相手は異様な迄に其れを警戒している様子だった。「______落ち着け、その子に危害を加えるつもりはない。」両手を挙げたままそう告げて、相手の言う通りにその場で静止する。「このまま動かない、お前が彼女を車に乗せてやれ。」危害を加えられることの無い安全な場所まで自分で誘導すれば良いと、自分は少女に関わるつもりはない事を伝えて。それでも相手が銃を下ろす事をしなければ「……撃つなよ、」と牽制した上で、腰の拳銃を外し地面に置く。今は店内で動かない男よりも此の状況の方がずっと危険だと判断しての行動だった。背後で控える警察官たちにも下がるよう合図をすると、同時に銃を下げ撃たないよう手で牽制する。足元に置いた、安全装置を付けたままの拳銃を警察官たちの側に軽く蹴り、改めて危険を及ぼす事は出来ないと示す。「丸腰だ、危害は加えない。何も心配することはない、」と、静かに語りかけるように言い聞かせて。 )





 

  • No.5224 by ベル・ミラー  2025-11-27 13:28:43 





( 相手は確かに要望通りその場で静止した。彼女を車に、との言葉には首を縦に振る事も横に振る事も無くただ真っ直ぐに相手を見据えたままで居たものの。牽制の言葉と共に相手の手が腰の銃に伸びた時、一瞬だけ僅かに何かの感覚を感じたのだがそれが何かはわからなかった。『警部補!』と、周りの警察官達が銃を手放したその行為に危機感を覚え相手の名を叫んだが、重厚感のあるそれは既に相手の手を離れ地面に置かれた後で、張り裂けそうな緊張感は更に広がる事となり。___その一部始終を警察車両に乗る事も、何か言葉を発する事も無く口元に僅かな笑みを携えたまま見詰めるリディアの瞳には、今のこの状況が楽しくて仕方が無いと言った純粋で嬉々とした色が滲んでいて。___視線を逸らす事無く真っ直ぐに向けられる碧眼は静けさを湛えていて、言い聞かせる様に紡がれる言葉はこの状況であっても恐怖一つ滲まない冷静なもの。“心配する事はない”という音が鼓膜を揺らし、胸の奥に沈み、虹彩にじんわりと広がる光が戻った時。「…っ、」思わず身体が硬直した。視線がずれ、瞳に映る拳銃を認識し、次は両手が小刻みに震える。「…私……何を…、」状況を認識出来ぬまま、張り付く喉からかろうじてそれだけを発すると困惑と怯えと様々な感情が混じり合う瞳を向けて )




  • No.5225 by アルバート・エバンズ  2025-11-28 19:32:38 

 



( 相手の瞳に光が戻ったのを感じると同時に、相手は手放した意識を取り戻したかのように、まるで今初めて自分で状況を理解したと言うような反応を示した。直感的に今の相手に危険は無いと判断すると、手を伸ばして此方に向けられている銃口を下に下げ、相手の手から受け取るように自然な動作で拳銃を取り上げる。安全装置を掛けてから「…その子を安全な車の中に。お前も一緒に居てやれ、」と告げて、少女を安心させる名目も兼ねて2人でパトカーの中に居るよう促す。そして警官たちに問題がない事を告げると、店内に1人残る店員への対応を続け。反応を示さず武器を手にしている訳でも無いため店内に入って確保する事とし、男は抵抗することもなくあっさり確保されて。---署に戻り、リディアと立て籠りの男、それぞれを聴取する必要がある中で、初めの聞き取りを一度別の刑事に任せて相手を待たせた部屋へと向かい。「______落ち着いたか、」扉を開けて中へと入ると、相手に尋ねてから椅子に腰を下ろして。 )





 

  • No.5226 by ベル・ミラー  2025-11-28 20:35:37 





( ___覚えているのは背後に居た少女に呼ばれた事と、何かを鳴らす小さな音だけ。後は意識がまるで自分のものでは無い…更に言えば魂の抜け落ちた抜け殻の様な物体になった感覚の中を揺蕩い、次に気が付いた時は目前に相手が居てあろう事か自分はその相手に拳銃の先を向けていた。あんな至近距離で、安全装置も外し。___あの時の拳銃の重たさと、張り詰めた空気は例え動揺していても感じていた。それを思い出し背中から恐怖が駆け上がったその時、扉が開き相手が部屋に入って来ると自然と視線はそちらに向き。問い掛けに「…少しだけ。」と曖昧な微笑みと共に素直な返事を返した後、「__何であんな…エバンズさんに銃を向けたのか、幾ら考えてもわからないの。信じてもらえないだろうけど、気が付いたらあの状況で、」僅かに視線を落とし自分自身も未だ理解が出来ていないあの時の事を思い出しながは静かに話しつつ、最後にまた視線を持ち上げ「…誰も怪我してない?」と尋ねる。それはリディアの事、立て篭りの男の事、そうして己が相手を含めた誰かを傷付けていないかと暗に含めたもので )




  • No.5227 by アルバート・エバンズ  2025-12-01 00:16:16 

 




( 相手と言い立て籠っていた男と言い、まるで抜け殻になったようで暗い目をしていた事を覚えている。「…あぁ、大丈夫だ。お前にも怪我が無くて良かった、…危険な状況だったからな。」と軽く肩を竦めつつ答えて。周囲に怪我は無かったものの、寧ろ相手が撃たれる可能性もゼロでは無い状況だったと。「あの瞬間、何を考えてた?」と相手に尋ねる。魂が抜け落ちたようなあの状況で、相手は何を考えていて、どういう判断で自分に銃口を向けたのかを知りたかった。「…男は相変わらずの調子だが、武器を所持していなかった。何も話さない理由は分からないが、“立て籠もり事件”についてはリディアの虚言の可能性は高い。事件をでっち上げたとなれば、然るべき機関に指導を委託する必要も出てくる。」と、状況を伝えて。少女から通報はあった事で事件として警察が出動したものの、結果的に男は武器を所持しておらず抵抗も見せていない。そもそも“立て籠もり事件”とは言えないという判断で、少女が虚偽の通報をしたという扱いになる可能性が高いと。彼女を巡り不穏な事件が多々あるというのは率直な感想で、溜め息を吐いて。 )





 

  • No.5228 by ベル・ミラー  2025-12-01 01:23:51 





( 今なら相手の言う“危険な状況”がわかるのに、あの時はそれすらも理解していなかった。丸腰の相手に至近距離で拳銃を向け、背後に控える別の警察官が何時発砲しても可笑しく無い状況だったのに“何も見えなかった”のだ。あの場に居た誰もに怪我が無い事だけが唯一の救いだと軽く頷き、続けられた問い掛けに思案するのだが矢張り何も思い出す事は出来ない。「__…わからない。周りの音が何も聞こえなくて、エバンズさんを認識してたかどうかも、」首を横に振り、説明したくとも出来ないあの時の状況に、自分自身の行動や感情に、若干の苛立ちの色を含み答えるのだが。「…ただ、」と口にしたのは唯一覚えている事があったから。「あの子を守らなきゃって思ったの。そんな事絶対ある筈が無いのに、エバンズさんがあの子を傷付けるんじゃないかって。」普段ならば絶対にそんな事思わないのに、あの時は兎に角それに突き動かされた様に思う。何故そんな事を思ったのかは、また説明出来なかった。「…凄く嫌な感じがする。今のまま、何もせずに孤児院に帰す事には不安が残るし、指導や必要ならカウンセリングも…専門家の力が必要だと思う。」聞かされた状況も矢張り“少女の虚言”が引き起こしたもの、更には証言して欲しい男は沈黙を貫いたままとなれば、“此処”だけでは限界が来る。何となく胸の奥がザワザワと嫌な騒めき方をするのを押し込め「あの子の聴取は今誰がしてるの?」と尋ね。名前を聞き次第「私が代わりたい。」と、要望を )




  • No.5229 by アルバート・エバンズ  2025-12-01 14:51:20 

 





( あり得る筈が無いと思いながらも、まるで少女に操られていたかのようだと感じた。守られるべき罪なき少女を自分が傷付けようとしていたら、確かに相手の行動は理解できる。しかし自分は彼女を傷付ける素振りも見せず、相手も何故そう思ったか説明ができないというのだから、不可思議な状況に変わりはなく。「今はアンバーが話を聞いている。」少女が男性刑事を警戒する事もあり、アンバーに一時的に対応を頼んでいると言いつつ相手が聴取を担当する事には賛成で相手を聴取室に連れて行き。扉を開けると、顔を上げたリディアがパッと表情を明るくして『お姉さん!』と声を上げた。立ち上がったアンバーは此方に近づいて少し声を顰めると『…すみません、警部補。今回の件については殆ど話して貰えませんでした。ミラーと話したいの一点張りで、』と申し訳なさそうに告げる。「…分かった。後は代わる、助かった。」と答えると、アンバーは軽く頭を下げそのまま部屋を出ていき。 )





 

  • No.5230 by ベル・ミラー  2025-12-01 18:55:17 





( ___薄暗い独特な雰囲気を醸し出す聴取室。無垢な笑顔で会えた事が本当に嬉しいとばかりに声を上げた少女を一瞥し、部屋を出て行くアンバーの背中にお礼を述べて椅子に腰掛ける。目前の少女は矢張り無害そのものの幼い表情をするものだから、その赤く小さな唇の隙間を縫って発せられる危険な言葉の数々が一瞬霞むのだ。「…お店に居た男の人とは知り合い?」背凭れに浅く腰掛け、開口一番は挨拶でも怪我の心配でも無く問い掛け。別室に居る男が話をしない、ならばこの少女から全てを聞き出さなければと向ける瞳は普段よりも鋭いもので )


  • No.5231 by アルバート・エバンズ  2025-12-01 20:58:20 

 




( テーブルで向き合った相手と少女、相手の隣ではなく少し後ろで椅子に腰を下ろし2人のやり取りを見守る。直ぐに向けられた“本題”に少しつまらなそうな表情をする少女を見て、やはりあの男に似ていると感じていた。『…知り合いじゃないわ。怒られたの、店の外で遊ぶなって。別にお店の中で騒いだり物を盗ったりした訳じゃないのに。』と、リディアは不服そうにそう答えた。『脅されてすごく怖かった。だからお姉さんが助けに来てくれて嬉しかったの。囚われたお姫様を助けにくる王子様みたいだったわ!』この場所、この状況に似つかわしくない明るい声でそう言った少女は、キラキラした目で相手を見つめる。羨望のような憧れのような、そんな年相応な少女の反応に思えた。 )






 

  • No.5232 by ベル・ミラー  2025-12-01 21:23:02 





( “本題”を前に一瞬表情が変わった少女を見詰めたまま思案する。この子が望むのは堅苦しい会話や疑念が渦巻く空間では無く“愉しい”と感じられる会話や場所。現にまるで御伽噺を語る様な口振りの時は、こんなにも年相応にキラキラと瞳を輝かせるのだから。矢張り“やりにくい”と言う感情が消える事は無く「じゃああの男性は、リディアちゃんがお店の外で遊んでいたのに腹を立てて、立て篭ったの?…武器も持たず、扉に鍵も掛けないで?」一言一言を確認するようにゆっくり紡いでいく。少女は“脅された”と言うが、あの状況でそう捉える人はほぼ居ないだろう。「__今ね、違う部屋で別の警察官が男性に話を聞いてるんだけど、何も話してくれないみたいなの。リディアちゃんは、お店の中であの人と何か話した?」何処か恍惚な色にも見える光を蓄えた双眸から視線は外さず、少女の作った“物語”には触れぬまま更に質問を重ねて )




  • No.5233 by アルバート・エバンズ  2025-12-01 22:12:00 

 


リディア・オルセン

( 実際は、怒られた事に腹を立てて男が立て籠もるよう“仕向けた”訳だが、相手の問いには少し首を傾げて『んー…まぁ、そんな所。』と曖昧な答えを。男にはまだ催眠術が掛かっているのだろう。何も話さないという言葉を聞くと少し肩を竦めて『ほとんど何も喋ってないわ。犯人が何も喋らないのって大変よね、』と他人事のように告げる。自分のように犯行を自供すれば相手のような刑事たちは助かるのだろうと子どもながらに考えたのだが、あの男は催眠から覚めても何も話せないだろうと思えば少し笑う。『あの人無口だから、きっと何も話せないわね。』と付け足して楽しそうに笑って。 )





 

  • No.5234 by ベル・ミラー  2025-12-01 22:40:45 





( “何も話せない”理由は“無口”とは別の所にある気がしたが、それはあくまでも此方の勘繰りで実際には確かめる術の無い事。屈託の無い楽しげな笑顔を見詰め「…じゃあ、最後の質問。」と前置きをしてから少しだけ身体を前のめりに、少女に内緒話を持ち掛けるかの様に顔を近付け「__私に“何か”した?」と潜めた声で問い掛ける。それは後ろに控える相手には聞こえなくて良いと、まるで自分達2人だけの秘密の共有だとでも言うかのような行動で。少女を至近距離で見詰める緑眼には、意識的に刑事としての色を消し、少しの好奇心にも似た色を滲ませるだろう )




  • No.5235 by アルバート・エバンズ  2025-12-01 22:54:48 

 



リディア・オルセン


( 不意にぐっと相手との距離が近づき、煌めくグリーンの瞳を間近で見る事になると少し驚いた年相応の表情を浮かべる。それも束の間、気付いてくれた事が嬉しいとばかりににっこりと微笑み『______私ね、“催眠術”が使えるの。』と声を潜めて答える。催眠術だなんて、大人は信じないだろうと相手の顔を見てくすくす笑う。相手は自力で催眠状態を解いてしまったし、きっと店員の男もそろそろ自然と意識を取り戻すだろう。『大人になったら、もっと長く掛けていられるようになるかしら。プリンセスを守る騎士みたいに、お姉さんが私を守ってくれたらもっと素敵だったのに。』無邪気な響きを持って紡いだ言葉は、逆を返せば“彼を撃てば良かったのに”という酷薄なもの。『もう一度やってみる?』と後ろの彼に視線を一瞬だけ向けて、楽しそうな瞳で相手を見つめて。 )






 

  • No.5236 by ベル・ミラー  2025-12-01 23:19:13 





( 返って来たのは僅かも想像していなかった返事で、思わず至近距離で少女を見詰めたまま沈黙する。心理学的な話で言えば決して“催眠術”が嘘だとは言えないだろうし、実際医療で使う事があるのも知識としては知っているが___こんな幼い少女に出来るものだろうか。それこそ虚言なのではないかと瞳には僅かに疑念が浮かび。けれどもしその話が真実であるならば、あの状況で言葉を発する事も無く微動だにしなかった男性の事も、まるで意識を乗っ取られたかの様に記憶に靄が掛かり、意志とは関係無しにエバンズに銃を突きつけた己の行動も説明がつく。けれど…と。そんな事を考えている途中で、余りに無邪気に紡がれた次の言葉の裏がわかった途端に背筋が凍りついた。あんな距離で発砲しようものなら彼の命は無かったであろう。「っ、…もう結構よ、」瞳に滲んだ恐怖を隠しきれぬまま、静かに首を横に振り身体を引く。催眠術を信じた訳では無かったが、あの時の恐怖を思い出した事は確か。そして仮に催眠術が本当だったとして、それを証拠として少女を逮捕する事は出来ないのだから、どうしたって罰を受ける事は無いだろう。此方から聞く事はもう無いと、少し後ろに座る相手に目配せして )




  • No.5237 by アルバート・エバンズ  2025-12-01 23:55:40 

 




( 相手が催眠術を信じたかは分からなかったが、もう一度彼に銃口を突き付けたいとは思わなかったようでつまらなそうに肩を竦めて見せ。まだ相手と話していたかったのに、それ以上深堀りされる事はなく聴取は終わろうとしていた。立ち上がった男性刑事が此方にやって来て「…今回の件は事件性の無い”虚偽の通報“として処理するが、連日のお前の問題行動は目に余る。一度然るべき機関でカウンセリングと指導を受けろ。話は付けてある。」と告げられる。その言葉に反応すると『カウンセリングなんていらない!勝手な事しないでよ!』と声を荒げて。『お姉さん、もう少し此処で話そう。何でも話すわ、あいつみたいに黙ったりしない。』相手の気を引こうと言葉を紡ぎながら、椅子から立ちあがろうとせず。 )





 

  • No.5238 by ベル・ミラー  2025-12-02 00:19:39 





( 先程まで場違いなくらいニコニコと楽しげな笑みを浮かべたり、時に不貞腐れた子供の様に退屈を全面に押し出したりしていたのに___狭い聴取室に少女の荒らげた声が響いた。それは今まで椅子に腰掛け黙したまま成り行きを見るだけだった相手が、取り調べの終了と共に別の機関への委託の話を出したから。矢張り相手には物凄い敵意を剥き出しにするのだと改めて感じる中で、けれどその声には怒りの他に小さな苦しみの破片も見えた気がしたのだ。椅子から降りず部屋の中に居座ろうとする少女の目前に移動し、少し腰を折る形で目線の高さを近付ける。催眠術への、少女への、言い知れぬ恐怖が無くなった訳では無かったが、このまま此処で長いお喋りを続ける事は幾ら懇願されても出来ない。「お話は終わり。もう家に帰らないと、あまり遅くなったら皆心配するよ。」軽く片手を出し、少女がその手に小さな手を重ねるのならば共に部屋を出ようと )




  • No.5239 by アルバート・エバンズ  2025-12-02 00:33:36 

 





( 先ほどまで相手に見せていたのとは180°違う剣幕で、カウンセリングなど不要だと喚く。警察を動かす程の虚言は子どもだからと許される物ではなく、周囲へ与える影響を理解させる必要があり適切な指導を受けさせるのが大人の義務でもあるだろう。嫌だと喚いていた少女だったが、相手が手を取ると途端に大人しくなる。相手の手を握り返し、少しして言われるがまま歩き始めると、扉を出る間際に此方に睨むような視線を一瞬向けて、部屋を出て行き。---立て籠もっていた男が証言を始めたと言う報告があったのは、その数分後だった。 )






 

  • No.5240 by ベル・ミラー  2025-12-02 08:45:53 





( ___余りに長い時間だったように思えた。今まで沈黙を貫いていた男が急に話し始めたのもまた不可解で、矢張り少女の言った“催眠術”が関係しているのかもしれないと頭の片隅では100%の疑いは既に無くなっていて。「…相変わらず子供に好かれないね。」と、肩を竦め小さな戯言を口にしたのは、大きく纏わりつく疲労感や何かに飲み込まれてしまいそうな自身の気持ちを変えたかったからか。給湯室で淹れた紅茶を相手に手渡し、デスクを挟んだ向かい側のソファに腰掛けると「__あの子“催眠術”が使えるんだって。」唐突にそんな話をし、視線を持ち上げ。「今回の一連の騒動が全て“催眠術”によるものだって言われたら、エバンズさん信じる?」果たして相手はこう言った類の話を信じるのかと表情を伺い見る様に首を擡げて )




  • No.5241 by アルバート・エバンズ  2025-12-02 11:30:18 

 




( ようやく一段落して執務室に戻ってくると、どっと疲労感を感じる。椅子に腰を下ろし背中を預けると深い息を吐き、相手が給湯室から戻ってきて紅茶を手渡されると礼を言って其れを受け取り。「…好かれないどころか、嫌われてるな、」と肩を竦めつつ紅茶を啜る。相手が切り出した話には思わず眉を顰め、相手と視線を重ねた。催眠術を使って人を操り、立て籠もり事件が起きたかのように装い、更に相手に自分へと銃口を突きつけさせたと言うのか。「…そんな事があり得るのか、?」と疑問を口にしたものの、不可解な現象は全て説明がついてしまう。相手が突然自分に銃口を突き付け、少女を守らなければという使命感に突如駆られた理由も、何も反応を示さなかった男がふと我に帰ったように話を始め、何も覚えていないと語る理由も。「いつもの虚言の可能性は高いが…完全にあり得ないとも言い切れない状況なのが、また不気味だな、」100%信じられるかと言ったらそうでは無いが、反対も然り。非現実的なことのように思えるが、否定もできないという状況に嫌悪感を示して。「暫くは例の機関が対応するから問題ないと思うが、彼女の動向は注視しておこう。」と告げて。 )





 

  • No.5242 by ベル・ミラー  2025-12-02 16:16:35 





( 相手の疑問は正しくで、正直な所直ぐに信じられる様な事でも無かった。“催眠術”が全ての原因だと報告書に書く事だって出来る筈が無い。「普通は選択肢から除外されるよね。」何か事件が起きた時に“催眠術”の可能性を視野に入れる事はほぼ100%無いのだから。だが、今回は絶対に有り得ないと言えない出来事が多過ぎた。現に催眠術に掛かっていたと言われた方が納得の出来る事が、実際自分の身に起きていた。「もしあの子の言う事が全て本当で、“ああいう使い方”をこれからも続けるなら、かなり脅威になる。…あの歳で抱えるものが大き過ぎる気もするし。」と、不安を口にしつつも然るべき機関が主となり少女を指導し、時に支えるのならば後は此方が表立ってどうこうする事は無いだろうと頷き。「__撃たないって確信があった?」少しの間を空けて問い掛けたのは、ずっと聞きたかった事。あの時相手の瞳に恐怖の色は見えなかった。拳銃を手放し、至近距離で避難する事も無く立ち続けた相手はどんな気持ちだったのだろうと )




  • No.5243 by アルバート・エバンズ  2025-12-02 18:33:24 

 




( 彼女を巡っては不穏な動きも多い。これ以上騒ぎが起きないことを願いつつ、まずは然るべき機関の対応と指導に任せる事として。相手の問い掛けに再び顔を上げると、あの時の事を思い返す。動揺こそあれど、恐怖は無かったように思う。至近距離で安全装置を外した銃口を突きつけられるという危険な状況ながら、確かに考えてみれば相手に撃たれるとは考えていなかった。「…言われてみればそうだな、あの状況でもお前に撃たれるとは考えていなかった。」と答えて。拳銃を捨て反撃できない状況だった訳だが、相手は撃たないという確信があったのだろう。「撃たれていたら、その時はその時だ。」なんとも適当な言葉を付け足しつつも、相手への信頼があったのは確かで。 )




 

  • No.5244 by ベル・ミラー  2025-12-02 19:26:41 





( あの状況では誰がどう見ても危険だと判断しただろうし、拳銃を突き付ける人間を目の前にして反撃する事も逃げる事も無く、あろう事か唯一持っている武器を捨てるなど正気とは思えないと言われても反論出来ない筈。けれどあの時の相手には何の躊躇いも無かったのだろう。余りに真っ直ぐ断言された言葉に息を飲む。自分で聞いておきながら流石に驚いた。「……そっか。…うん、良かった。本当に。」返って来た言葉を心の中で繰り返し、灯った暖かさはきっと言葉で表す事は出来ない様に思えた。ただ、あの時撃たなくて、相手が怪我をしなくて、良かったとそれだけが残り。続けられた付け足しは危険な目にあった当事者とは思えないもので、思わずじっとりとした視線を投げる事となった訳だが、相手らしいと言えばらしい気もした。「そんな適当な事言ってたら早死にするよ。」と、肩を竦め、その後、こんな遣り取りがまた当たり前に出来る事が嬉しいのか小さく笑みを浮かべて紅茶を啜り )




  • No.5245 by アルバート・エバンズ  2025-12-02 22:01:00 

 




( ______不完全燃焼な幕切れながら、リディアの一件が片付いてから数週間。いつもと変わらない署内に、突如として不穏な空気が立ち込めた。普段通りに仕事をする刑事課のフロアに突然硬い革靴の音が幾つも響き、見慣れない人物達が入って来たのだ。乱れの無いスーツの胸にはバッジを付け、友好的な態度など一切持ち合わせていないと言わんばかりの厳しい表情でフロアを見渡す。そうして令状のような物を取り出すと『とある犯罪組織に、警察の内部情報が流出した。レイクウッド署が流出源と見て、これより強制捜査に入る。』と唐突に宣言して。フロアの署員たちも状況を飲み込めず騒つく中、何事かと執務室から出て来ていたエバンズも同様に眉を顰め困惑した様子で思わずミラーに視線を送る。状況が読めないと首を振ったミラーから再び男たちに視線を戻した時には、男たちは証拠品を押さえようとフロアに散り散りになった後で。 )





 

  • No.5246 by ベル・ミラー  2025-12-02 23:04:12 





( ___一瞬にして空気が変わり騒めくフロア内で署員達は状況を理解出来ぬまま、無遠慮に歩き回る男達と接触しない様にと反射的に壁際に寄る事しか出来ず、それはミラーも同じだった。壁に背を付ける形で成り行きを見守る事しか出来ない時間が凡そ数十分。やがて男2人が相手の横をすり抜けて警部補執務室へと足を踏み入れた事で、更に空気が変わる。棚の物を全て取り出し勝手に中身の書類を確認し、相手が綺麗に片付けているデスクの上も今や書類まみれ。マグカップは隅へと追いやられた。引き出しを開け中の物を一つ一つ険しい顔で凝視し、最終的に唐突な強制捜査は相手のノートパソコンにも向けられ、男の1人が扉から顔だけを覗かせ『アルバート・エバンズ警部補だな。パソコンのパスワードを、』と、顎で部屋の中に入る様にと促して )




  • No.5247 by アルバート・エバンズ  2025-12-02 23:38:33 

 





( 署内を無遠慮に引っ掻き回す男たちは、その様子を見ていた自分の横を通り過ぎ断りも無く執務室の中へ。ファイリングされた書類も何もかもを無造作に引っ張り出している様子に「____捜査資料を乱さないでくれ、」と不愉快そうに眉を顰めて告げたものの、男たちは聞く耳を持たない。やがてパソコンのパスワードまで求められては「全員分のパソコンの中まで確認するつもりか?急ぎの仕事を抱えている署員も居る、捜査の邪魔はしないでくれ。」と告げながら、求められたパスワードを入力する。強制捜査の権限を持っているとは言え、あまりに横柄だというのが印象だった。 )






 

  • No.5248 by ベル・ミラー  2025-12-03 00:03:12 






( 正確なパスワードによって画面が開けば、男は静かに椅子に腰掛けマウスに手を乗せた。散々荒らされた執務室にはクリック音やタイピングの音だけが響き、次から次へと中の情報が開かれていく。『当然、全署員のパソコンを確認させてもらうが__今最も重要視しているのが此処だ。我々は“内通者”の存在を疑っていてね。捜査の邪魔をするつもりは無いが、暫くの間監視はさせてもらう。』パソコンの中身を確認している男は無言、代わりに丁寧にファイリングされた書類に目を通していた男が、相手に視線を向ける事無く淡々と答え。“内通者”として今一番に誰が疑われているのか、このたった一回の遣り取りで鋭い相手は勘付くだろうか。パタン、と音を立てて閉じられたファイルは元の場所へと戻され、そこで漸く男が相手を見た。『…貴方には聞きたい事が山のようにある。この時間、使われていない部屋はあるか?』相変わらず淡々と、けれど拒否権は無いとばかりに嫌な威圧感を放ちながら扉を一瞥して )




  • No.5249 by アルバート・エバンズ  2025-12-03 00:30:02 

 




( 此の場所を最重要視している_____つまり、この執務室に情報流出に関する証拠があると踏んでいる、という意味に聞こえて思わず眉を顰める。ハッキングなどではなく、誰かが意図的に犯罪組織に情報を流したと推測して捜査を行う中、この部屋を重点的に探るというのは“疑っている”と言われているようなものだ。「疑われるような事をした覚えは無い。」と告げたものの、男たちは聞く耳を持たない。威圧感を持って紡がれた言葉に鋭い視線を向けるのだが、捜査を拒否した方が怪しまれる事は当然理解していた。「……3階の会議室が空いている。」と答えて、疑いを晴らす為なら取り調べには応じようと会議室へと案内して。明かりをつけテーブルを挟んで男たちと向き合うと「手短に頼む、」と告げる。当然聞き取り調査の一環で、1時間も掛からずに解放される事を想定していた。 )






 

  • No.5250 by ベル・ミラー  2025-12-03 00:55:23 





( 相手は“疑いを晴らす為”にこの部屋に。しかし男は“証拠となる証言を得る為”にこの部屋に来ていた。相手が内通者であると既に決め付け疑って掛かるのだから、当然1時間やそこらで解放される事は無いのだが、今この時はまだ知らない事実だろう。___相手と向かい合う形で椅子に腰掛けた男は数枚の紙を鞄から取り出し相手の目前に並べた。それは最初に告げた犯罪組織の、今現在知る限りの情報が書かれている紙で、相手が一番最初に薬の取引きに踏み込んだ組織である事がわかるだろう。そうしてもう一枚の紙には数十人の組織メンバーの写真が貼られていて、中には相手が最も嫌悪する男の顔もあった。『この男の名前はアーロン・クラーク。今は組織の幹部で、過去にFBI捜査官としてこの署にも勤務していた男だ。当然見覚えはあるな?』と、クラークの写真を指差し確認をとった後『一度は逮捕されたが、無罪放免で釈放されている。…その後コイツと会った事は?』矢継ぎ早に次なる問い掛けをするのだが、その目は明らかに相手への疑いに揺れていて )




  • No.5251 by アルバート・エバンズ  2025-12-03 07:43:21 

 




( 並べられた資料を見て、薬の取引の捜査で関わった組織だと理解する。同時に“あの男”との接触が、恐らく疑われている要因だとも。「…当然だ、そもそもこいつは俺が逮捕した。危険な薬物を流通させ、かなり規模の大きい組織だった。」と、クラークについて当然知っていると肯定した後、組織について告げる。実態はまだ分からない事が多いが、多くの薬物事件に関わる危険な組織である事は間違いない。男の問い掛け、その答えはYESになる訳だが、言葉の端々に疑いの色が見え隠れする事には当然気付き眉を顰める。「会った事はあるが______逮捕された事が気に入らないんだろう、街中で数回接触された。そもそもこいつを無罪にしたのは俺じゃない、疑われるような事は何もない。」と答えて。 )





 

  • No.5252 by ベル・ミラー  2025-12-03 11:14:49 





( 相手は嘘をつく事無くクラークとの接触を認めた。けれどそれは相手の意思ではなくあくまでもあの男が勝手に会いに来ているだけであり、幾ら嫌がっても何処吹く風で付き纏い続ける男に完全に非があるのだが。そもそも相手の事を疑い逮捕に漕ぎ着けようとしている政府機関の役人達にはそんなのはどうでも良い事なのだ。『理由はどうあれ、接触を続けていると言う事に問題があるんだ。』と、尚も相手を解放する事無く___何だかんだと理由を付けて組織との繋がりを暴こうとする強引な聴取は既に3時間が経とうとしていた。当然刑事課フロアに居る署員達はミラーも含め相手がこれだけの時間拘束されている事、この荒らされたも同然の部屋に一抹の不安を覚える事となり。___それから更に時間は経ち、漸く男が立ち上がったのは聴取開始から既に4時間が経った後だった。隠しきれない疲労感やうんざりとした表情を浮かべる相手に目を合わさぬまま机に並べた書類を纏め鞄にしまい直すと『以前証拠品として押収したクラークの携帯は、此方で預からせて貰う。』と告げた後。漸く合わせた瞳の奥は歪に光り『薬の取り引き現場に居たのは貴方1人__取り逃したとしても仕方が無い話だ。』と。それは暗に“お前が見逃したんだろう”と言っているようなもので )




  • No.5253 by アルバート・エバンズ  2025-12-03 18:57:26 

 




( 自分から接触をしている訳でもなく、此方からは避けようの無い状況下での事だといくら説明しても、役人たちは納得しなかった。何を言っても聞き入れられず、事実を捻じ曲げてでも向こうが勝手に作った筋書きに無理やり当て嵌めようとするようなやり方で拘束される事、4時間。生産性のないやり取りを続け、疲労感と苛立ちを隠し切れなくなっていた。“疑って掛かる”というのは捜査を行う上では必須と言えるが、この男たちの遣り口はそれとは違う。誘導尋問で事実を捻じ曲げようという魂胆が見えるその手法は当然不快なもので、同時に自分が犯人と一番に疑われている事を嫌でも理解させられた。会議室を出ようとした時に告げられた言葉に思わず怒りと不快感を露わにすると「確かにあの現場に居たのは俺1人だが、薬を打たれて成す術が無かったと言っているだろう!故意に逃したと思っているなら、警視正に状況を聞いてくれ。」と告げて。仕事にも一切取り掛かれて居ない状況で4時間も無意味に拘束され、向こうの一方的な主張で責め続けられるというのは間違いなく心身を消耗するものだった。 )





 

  • No.5254 by ベル・ミラー  2025-12-03 19:32:06 





( 相手の纏う疲労や苛立ち等知らぬ存ぜぬの態度で『勿論、警視正にも話は聞くつもりだ。数日間は監視対象となる事を忘れるなよ。』と答えた男は、4時間にも及ぶ聴取と言う名の一方的な拘束とそれに伴う公務妨害に謝罪の言葉一つ無くさっさと聴取室を出て行き。___相手が刑事課フロアに戻って来た時、既に黒服の男達は強引な捜査を終え帰った後だった。戸惑い、困惑、怯え、疲労、様々な負の感情が混じり合い呼吸が苦しく感じられる程の空気が漂う中、署員達の口数は普段の倍少なく、黙々と散らばる書類や諸々を片付けていて。「…エバンズさん、」と、控え目に声を掛け相手に近付く。そのまま促す様に共に執務室へと入れば扉を閉め「__一体何が、」状況がこれっぽっちも理解出来ていない、4時間何の話を…そもそも何故相手がそんな長時間引き留められたのかと困惑がありありと浮かぶ瞳で見詰めて )




  • No.5255 by アルバート・エバンズ  2025-12-04 01:36:07 

 





( 刑事課のフロアを我が物顔で引っ掻き回す男たちが居れば、仕事が手に付かない事など分かりきっている。案の定フロアの署員たちも通常通りの業務に当たっている者は少なく、役人たちが証拠と称して持っていった物の後片付けをしている者さえいる状況。4時間も不在にしていた自分に向けられる視線には一様に困惑が浮かんでいて、相手に声を掛けられるとそのまま執務室へと入り扉を閉めて。執務室の中も“荒らされた”と言って良い状態で、椅子を引っ張ると腰を下ろし深い溜め息を吐く。身体中に疲労が纏わりついているような感覚だった。「……無茶苦茶な取り調べだ。誘導尋問どころじゃない、何を言っても聞き入れられず堂々巡りだ。」苛立ちをそのままに、無意味な聴取についてぼやく。「_____クラークとの接触を散々指摘された。薬物事件で犯人を検挙出来なかった事も、意図的だと。」間違いなく疑われている状況、一方的に責め立てられるばかりで精神を消耗していた。 )





 

  • No.5256 by ベル・ミラー  2025-12-04 13:33:11 





( 椅子に腰掛けたその動作にすら疲労感と苛立ちが滲んでいて、目下に影を落とした隈の張り付く表情を見ただけで如何に愚かな聴取だったのかを察する。4時間と言う長時間、相手の話には僅かも耳を貸さず既に“内通者”だと最初から決め付けていたと言う訳だ。つまり彼らの主な目的は刑事課フロアと言うよりも“この部屋”の捜査で、署員達の監視よりも“相手”を逮捕する事。有り得ない、と湧き上がる怒りをそのまま口にしようとした時。続けられた聞き覚えのあり過ぎる名前に思わず目を見開く事となった。彼らの言う“とある組織”とはクラークが幹部として鎮座している組織の事で、あろう事か相手をその組織の内通者だと言っているのか。「っ、何も答える必要なんてない!」と、思わず感情的に声を荒らげた。あの男に関わると最悪な事にしかならないのは既に互いに身を持って経験している事で現に今も、だ。胸の奥に渦巻く怒りを深い深呼吸で立て直し、冷静に、と自分に言い聞かせた後。「___接触はエバンズさんの意思じゃないし、そもそも疑う相手を間違えすぎてる。…逮捕なんて出来る筈がない。」と、真剣な眼差しで答えるのだが、それが甘い考えであった事は後々知る事となる。___執務室の扉がノックされ、警視正が入って来た。壁際に居るミラーを一瞥し、部屋の中を見渡し、次に相手に視線を向けると『…酷い目にあったな。』と、相手が長時間聴取室に拘束されていた事への第一声を溜め息と共に。『流石にやりすぎだ。』滲む怒りを吐き出して )




  • No.5257 by アルバート・エバンズ  2025-12-06 10:19:04 

 





( 犯人と決め付けるかのような無意味な聴取に対して、相手が怒りを露わにした事に少しばかり救われる思いだった。クラークとの接触は自分の意思でも無ければ避ける事も出来なかったのだと幾度説明しても聞く耳を持たれなかったのだ。重い疲労を感じつつ相手と話していると、不意に扉が開き、入って来たのは警視正だった。少し背筋を伸ばした後、彼の言葉には同意を示すように頷いて。『政府の機関とはいえ、あんまりです。誘導尋問のような捜査で、事実を捻じ曲げてでも俺を犯人扱いしようとしてくる_____いつまでレイクウッドに居るつもりなのか…監視対象だと言われました。」と告げて。明日もまた同じように男たちがやって来て、無用な時間を取られるのは避けたかった。 )






 

  • No.5258 by ベル・ミラー  2025-12-06 13:01:36 





ウォルター警視正



お前が内通者だと言う証拠が出て来る筈は無いが、アイツらはしつこいだろうな。発言の一つをとっても歪んだ受け取り方をしてくる可能性がある。__私も出来る限りの事はするが、用心しろ。
( 組織に情報が流れている、この署に内通者が居る可能性がある。そこまでは100%無いとは言えない為些か不愉快ではあるが頷ける。ただ、問題はその内通者が何故相手だと言う方向で進んでいるのかだ。当たり前ながら証拠がある筈も無いのに真実を捻じ曲げてでも“決めた筋書き通り”に事を運ばせようとしている気がして、相手は勿論の事納得がいく筈が無い。険しい表情で腕を組み、明日、明後日と男達に好きなようにされる事への懸念を抱きつつ『クラーク逮捕時の証拠品は、再確認すると引渡しになった。報告書や書類関係も全てだ。』相手が聴取を受けていた時に起きていた状況を説明した後。『…今日はもう帰って休め。ミラー、お前も帰って良い。』何より一番心配なのは相手の心身の事。どうやったって役人達が数日間居座る事を避けられないのならば、そうじゃない時はせめて少しでも落ち着ける場所に居た方が良いと帰宅を促すと同時に、心底心配し怒りに震えているであろうミラーにも同じく帰るようにと告げて )




  • No.5259 by アルバート・エバンズ  2025-12-07 13:53:34 

 




( クラーク逮捕時の一件を掘り返されるのは好ましい物ではなかった。自身の判断で捜査線上に上げなかったミラーの一件や、あの時打たれた薬の事、根掘り葉掘り聞かれたくない事が多い事件なのだ。それでもあくまで、心を消耗させようとする男たちのやり方に屈する事なく、何を言われても自分は犯罪組織への情報流出には一切関わっていないと主張を貫く迄なのだが。警視正に無用な配慮をさせている状況も申し訳ないもので、帰るようにと促されると頷き「午後は在宅勤務にさせて貰います。」と告げて、全く進んでいない仕事は家で進める事として。---相手と共に家に戻ると、ソファに身体を預けて深く息を吐く。身体に疲労が纏わりついていて嫌な怠さがあった。「…悪いな、巻き込んで。」と告げたものの、「無い証拠が出るはずが無い、直ぐに飽きて帰るだろう。今だけの辛抱だ、」と、何処か自分にも言い聞かせるように言葉を紡いで。内通者では無いのだから、当然証拠が出る筈もない。役人たちがそれに気付くまで、監視やら尋問やらに耐えれば良いのだと。 )






 

  • No.5260 by ベル・ミラー  2025-12-07 19:51:54 





( ___まだ日も出て居る時間帯、比較的暖かい部屋の筈が何故か無性に寒く感じるのは互いにそれぞれ感じる疲労が影響しているからだろうか。ソファに腰を下ろし深い深い溜め息を吐き出した相手を一瞥し、キッチンで小型の鍋にミルク沸かす。背中に掛けられた謝罪に振り返り「エバンズさんは何も悪くないよ。あの人達がどうかしてるだけ。」首を軽く左右に振り返した言葉は未だ相手を犯人扱いする男達に憤りを感じているから。けれど相手の言う通り、そもそもが無実なのだから幾ら署を引っ掻き回し、相手を長時間拘束し聴取した所で証拠など出て来る筈が無い。鍋の表面に張った白い膜を丁寧に取り除き、それぞれのマグカップに注いだ白の中に普段より少しだけ多めの蜂蜜を溶かしてから隣に腰掛け。「そうだね。全部終わったら公務執行妨害で逮捕しよう、それくらいやったって許される。」片方を手渡しつつ、気持ち的には大真面目だと言っても過言では無い冗談を口にし肩を竦め。___ホットミルクが半分程無くなった頃、ふいにマグカップを目前のテーブルに置くと何を思ったのか頭を相手の方に、それから軽く自身の膝を叩き「…大分前に膝枕したの覚えてる?久々にしたいな。」と、あくまでも此方の要望なのだと言いながら、唐突にもそんな事を微笑みと共に向けて )




  • No.5261 by アルバート・エバンズ  2025-12-07 23:29:34 

 





( 温かなホットミルクを口にした事で、未だ聴取を引き摺って知らず知らずのうちに張り詰めていた緊張感が解けるのを感じた。相手が膝を叩くジェスチャーに視線を向ければ、膝枕をしたいという要望。少しばかり躊躇したものの身体が疲れているのは事実で、少ししてからゆっくりとソファに身体を横たえ相手の膝に頭を乗せて。相手の体温を感じながら、少しばかり微睡んだだろうか。1日だけでも心を消耗させ重たい疲労感をもたらした長時間の聴取がこの先何日も続き、周囲の人間にさえ徐々に疑心暗鬼な心を植え付けて行く事をこの時は未だ知る由も無い。 )






 

  • No.5262 by ベル・ミラー  2025-12-08 00:04:52 





( 一度は拒否が返って来ると思っていたが、その予想は外れ多少の躊躇のみで直ぐに膝には軽い重みが。それ程迄に心身に負荷が掛かり疲労が蓄積していたのだろう、目を閉じた相手の髪を梳く様に撫でながら、薬を打たれ増大した恐怖に苦しみ涙を流した相手の、あの錯乱した状態を何も知らず犯人だと疑う役人の顔を思い出し無意識のうちに眉間に皺が寄り。___それから数日間、言葉通り男達は相手を監視し続けた。その異様な空気は刑事課フロアに蔓延し、やがて署員達の中にはまるで洗脳の様に相手を疑い出す者も現れ、仕事にも集中出来ずミスが続き、悪い方悪い方へと全てが進みつつある中。今日もまた男の一人が相手に声を掛け、会議室へと連れて行き。___『薬の取り引き現場に居たのは貴方一人、そして潜入捜査が失敗となった後も、度々外でクラークと接触している姿が目撃され、クラークが取り調べで唯一話すのも貴方だけだと言う証言があった。…証拠品として押収したスマートフォン、それを最後に持っていたのも貴方だ。更に言えばその時何かの画像を消去した痕跡がある。…時間が経ちすぎている為復元は出来なかったが__正直に言え、何を消した?』相手が犯人で間違い無いとでも言いたげに淡々と告げる内容は、どれもこれも本当の事ではあるが、しかし、決して内通者だと言う明確な証拠にはならぬものばかり。それでも男の威圧的な態度は変わらず、その当時クラークが持っていて、相手が押収したスマートフォンのデータの話を出して )




  • No.5263 by アルバート・エバンズ  2025-12-08 00:56:10 

 





( 長時間に渡る高圧的な聴取は連日続き、幾度同じ話をしたか。明日には男たちも諦めるだろうと、ソファで互いに言い聞かせる様に言葉を交わした家での時間も徐々に短くなり、帰っても直ぐに横になるようになっていた。それ程に、堂々巡りの聴取は体力を削り取るものだった。今日も呼び出されて向かった会議室で男達と向かい合い、幾度と投げ掛けられた質問を飽きもせず浴びせられる。「……薬物事件の捜査は上の指示で行った物だ、ずっと追っていた事件じゃない。クラークの聴取は確かに担当したが、口を割る割らないは俺がコントロール出来る物ではなかった。外での接触も同様だ、信じないなら監視カメラの映像でも見てみれば良い。」同じ説明を繰り返している為、答える内容は同じ。澱み無く説明できる程度には繰り返されてきた質問だった。しかし次に問われたのはスマートフォンのデータについて。削除したデータについて聞かれると「______データを削除した覚えはない。」と答える。あの件を此の場で公にする事は選ばなかった。なんの画像が入っていたのかは記憶にない、データを削除した覚えもないと、再三の問い掛けにも同じ答えを返し続ける。強引な聴取で初めて吐いた“嘘”だったが、捜査には関係のない写真だったと言った所で余計に怪しまれるだろう。削除されたデータについては知らないという答えを貫いて。 )






 

  • No.5264 by ベル・ミラー  2025-12-08 11:17:38 





( 今日も今日とて薄暗い部屋の中で繰り返される堂々巡り。復元こそ出来ないが“何かのデータ”があの当日に消去された事は間違い無く、周囲への聞き込みや捜査の結果、翌日証拠品として署に届けるまで所持していたのは相手なのだから疑われて当然だと言う主張の元、男は言い切った相手の返事にあからさまに眉を寄せ沈黙を落とし。しかし此処で数日間の聴取と異なる事が起きた。男は暫し黙したまま相手を見据えていたも、ややして細く息を吐き出すと徐に立ち上がり椅子を戻す。そうして『__まぁ良い、データの件はゆっくり思い出すといい。』と、不穏にも告げた後。『貴方が何らかの形で関わっている事は明白、後の事は我々の管轄内で聞く事にする。…荷物を纏め次第、同行を。』と、強制的な連行を決定し )




  • No.5265 by アルバート・エバンズ  2025-12-08 16:38:30 

 





( 写真の削除は自分ではなく持ち主だったクラーク本人によって成されたものである可能性もある訳だが、其処を疑う事は一切しない。はなから自分が内通者だと決めつけて事を進めている事を改めて感じさせるもので、険しい表情のまま口を開く事はなく。しかし、政府機関の管轄の場所に同行せよと言われれば、思わず顔を上げる。署内での取り調べに散々応じて来たというのに、そして一貫して自分ではないと主張しているというのに、無理やり連行しようというのか。「っ、何処で話しても同じだ!俺は組織との件には一切関わっていない、いくら訊かれても答えは変わらない。こんな無意味な事に時間を割いている暇はない、」と、同行を拒否して立ち上がり。 )





 

  • No.5266 by ベル・ミラー  2025-12-08 19:39:19 





( 声を荒らげ拒否を示した相手に、まるで容疑者として聴取している人物が一向に罪を認めず手間取らせて来る__とでも言いたげな視線を向けた男が口を開きかけたその時。部屋の扉が開き、相変わらず皺の一つ無いハリのある黒スーツに身を包んだ別の男が入って来た。その手には相手が普段から使っている私物のノートパソコンがあり電源が入っている。その画面を2人で見詰め、何やら険しい表情で一言、二言、の会話をした後相手に向き直ると『__どうやら“無意味な事”では無さそうだ。』と、パソコンの画面を相手に見せる様に反転させ。そこには相手には身に覚えの無いまるで暗号の様な字列や“極秘”と書かれた赤文字、内部情報のあれこれがはっきりと記されていて。『組織と関わりが無いのならば、何故貴方のパソコンからこんな物が出て来たのか。…これが他所に送信された痕跡もある。“証拠”が出た以上、貴方に拒否する権利は無い。連行する。』これ以上此処での遣り取りは無用だとばかりに扉を開け、『署員達の前で手錠など掛けられたくないだろう。』と、相手自身がその足で同行する様にと今一度。___勿論相手のパソコンにあった内部情報は、相手がどうこうしたものではない。本当の内通者が別に居て、その男が遠隔操作により相手のパソコンから組織へと情報を送り続けたまでの事なのだが、勿論相手を犯人だと疑う政府機関の男達では辿り着けない所。FBIの情報を得て、更には邪魔な…脅威の存在となる相手を消す事が出来ればと言う目論見で )




  • No.5267 by アルバート・エバンズ  2025-12-09 09:57:59 

 




( 突き付けられたパソコンの画面には、全く身に覚えのないファイル。どういう事かと思わずパソコンを確認するも自分が使っている物に違いなく、あり得ない状況に混乱する。直ぐに反応する事が出来ずにいたものの、出る筈の無かった証拠が出た以上、置かれた状況はかなり厳しいものだと嫌でも理解して。拒否をすれば手錠を掛けられて強制的に連行されるのだろう。「______分かった、」と答えて。一度荒れた執務室に戻り、荷物とコートを手にする。此方を伺う署員たちの視線も、強制捜査が始まった当初に比べて困惑よりも疑心の色が濃くなっているのを感じていた。何故こんな状況に陥っているのかは自分でも分からないが、一先ず今は男たちに従うより他はない状況。「…少し出て来る、」とだけ自席にいた相手に告げると、そのまま答えを待つ事もなくフロアを後にする。一階で待ち構えていた男たちと署を後にすると、政府機関の建物へと連行される事となり。 )





 

  • No.5268 by ベル・ミラー  2025-12-09 13:35:15 





( ___正に最悪な状況。足早にフロアを出て行った相手の背を焦燥に縺れる足で追い掛けるも、途中で警視正に引き留められ説明されたのは相手が連行されたと言う事実。幾ら相手の使っているパソコンから内部情報流出の証拠が出たからと言って、それが相手が内通者であると言う100%の証拠にはならない筈だ。パスワードを調べた外部犯の可能性もあるし、ハッキングによるものの可能性もある。そもそも相手がそんな事をする人間では無い事は近くで共に働いていれば簡単にわかる事なのに__『今は落ち着け』と悔しさを滲ませながら諭す警視正に、そんな悠長な事を言っているから相手は連れて行かれたのだと、感情のままに噛み付いたのだが、現状何も出来ない事は明白で。___相手がFBIとは別の政府機関に連れて行かれ、留置所での問答無用の勾留が決まったのはそれから直ぐの事。何かの間違いだと直ぐに釈放されると思っていただけに、この異例過ぎる速さでの勾留には流石の警視正も焦燥を隠せず。___“起訴前勾留”の間は可能な面会、直ぐに時間を作り面会に訪れたのは1日が経過してから。ガラス越しの相手には触れる事も出来ず、このたった一枚のガラスがとてつもなく大きく高く聳え立つ壁に思えて、吐き出した息が震え。「…エバンズさん、…」今一番状況に混乱し不安なのは紛れも無い相手、此方はあくまでも冷静を心掛け、余計な不安を与えないようにと心では思うのに感情は着いて来ない。震えた息に釣られる様にして、相手の名を呼んだその声もまた震えを纏っていて )




  • No.5269 by アルバート・エバンズ  2025-12-09 23:49:40 

 




( 連れて行かれた機関で取り調べを受け、殺風景な留置場で過ごす夜は余りにも惨めな物だった。犯罪組織に情報を横流しした事実など無く、ありもしない証拠が出る筈もないというのに。誰かに嵌められて居るのか、恨みを買ったのか、状況さえ把握できないまま成す術もなく厳重に管理された部屋で一夜を過ごす。心身への負担は体調に顕著に現れ、浅い眠りの中で幾度となく悪夢に目を覚まし、発作に苦しむ事となった。持って行った荷物は男たちの管理下に置かれ、薬も飲む事が出来ずに迎えた翌朝。面会だと連れて行かれたのは分厚いガラスで阻まれた小さな部屋で、犯罪者と接見した事こそあれど自分が此方側というのは想像もしない状況だった。不安がありありと浮かぶ相手と対面すると「_____どうしてありもしない証拠が出たのか、其れさえ分からない。何か裏がある筈だが…此処からじゃ其れも確認できない、」と溢して。更に体調が不安定な事も不安を増大させていて、外部から持ち込んで貰えば受け取れるだろうかと考えて相手に切り出す。「……悪いが、次来る時に処方薬を持って来てくれないか。持ち物は全て回収されていて、手持ちがない。」連日の聴取と不当な拘束を受けている今、かなり心身を擦り減らしているのは確かな状況で。 )





 

  • No.5270 by ベル・ミラー  2025-12-10 07:46:49 





( ガラス越しでもわかる程に相手の顔色は悪く、目下の隈も濃い。心身共に疲弊し体調が悪いのが一目瞭然なものだから、思わず奥歯を噛み締める事で湧き上がる焦燥や政府機関に対する強い怒りを無理矢理抑え込み。「今、警視正が上層部に掛け合ってる所。誰かがエバンズさんに罪を着せようとしてるのは間違い無いから、後はそれを立証するだけ。…大丈夫、私もやれる事は何だってするから、もう少しだけ辛抱して。」勾留されている相手では捜査はおろか、誰かに話を聞く事も調べ物すらも出来ない。警視正は朝から晩まで相手の無罪の証拠を集めるべく駆け回り、サラやアシュリーもまた、担当している事件の合間を縫って情報集めに協力をしてくれていた。落ち着け、と自身に言い聞かせ、至極真剣な、それでいて普段と変わらない事を意識した柔らかさをもった微笑と共に緑眼を僅かに細め、ほんの一瞬でも不安感が薄れて欲しいと現状を伝えた後。所望された薬に頭を大きく縦に動かす。「勿論、明日朝いちで持って来る。…後は?薬の他に何か必要なものない?」安定剤、睡眠薬、鎮痛剤、相手が処方されている薬は全て持って来る事を約束し、不便をしているだろう現状を少しでも打破出来る差し入れが何か無いかと問い掛けて。___この時はまだ知らなかった。薬の持ち込みが許可されない事も、それどころか面会すらも出来なくなるなんて )




  • No.5271 by アルバート・エバンズ  2025-12-12 03:23:46 

 





( 外部と遮断された空間で拘束されている自分は何も出来ないが、警視正や相手が無実を立証する為に動いてくれているというのは励みだった。労力を掛けている彼らには申し訳ないが、身に覚えの無い罪が1日でも早く晴れるようにという思いで。薬を持って来てくれるという相手の言葉に少し安堵すると、他に必要な物はないと首を振り。何かを持って来てもらった所で持ち込める物は極限られている。相手との面会で、一方的で横柄な取り調べに耐える気力が湧いたのも束の間______次の日の午後になっても面会に呼ばれる事は無く、薬も届くことはなかった。相手が約束を反故にするとは思えず、見回りの男に声を掛ける。「……レイクウッドから女性刑事が来なかったか。持病の薬を届けて欲しいと頼んである、」と尋ねて。 )





 

  • No.5272 by ベル・ミラー  2025-12-12 13:26:31 





( ___翌日、約束通り相手が処方されている薬全てと、少しでも別の所に気持ちが向くと良いと考えた末の小説を数冊持って面会に来たのだが。そこで係の男に告げられたのは、如何なる理由があっても薬は全て持ち込み禁止である事と、今朝になって急遽面会は許可出来なくなったと言う事。昨日は普通に会えて、更には相手は逮捕をされた訳でも起訴された訳でも無い、あくまでも勾留段階で何故面会が出来ないのかと詰め寄り、食い下がったのだが男は“NO”の一点張り。結局1時間以上の押し問答の末、半ば強引に建物外へと連れ出されタクシーに押し込まれ。薬を渡せないとなれば、相手があの部屋でそれを手に入れる方法は無い。つまり服用出来ない状態でたった1人、悪夢や発作に耐えなければいけないと言う事だ。絶望的過ぎる状況に、タクシーの中で溢れる涙を堪える事は出来なかったが、何も諦めるつもりは毛頭無い。___相手から声を掛けられた男は足を止め、直ぐに今朝の騒動の事かと頷いた。『午前中に来てはいたが、そもそも面会自体が許可されなくなった。今後貴方が話せるのは弁護士のみと言う事だ。』そうして相手がまだ知らされていなかった決定事項を淡々と告げ、まだ何かあるか、と言う様に片眉を上げて見せ )




  • No.5273 by アルバート・エバンズ  2025-12-12 14:16:29 

 




( 男の返答には思わず絶句する。面会の禁止は、逃亡や証拠隠滅の恐れなど相当な理由がある場合に限られるはずだ。明らかに、あらかじめ決めた筋書き通りに自分を逮捕する為無理矢理外部との接触を断つ不当な行為だと言えよう。しかし幾ら此処で喚いても接見禁止が解除されるとは思えず、より不利な状況に陥る事も考えられた為、言葉を飲み込む。深く息を吐き出してから、「……せめて、薬は貰えないか。無理なら警察医の診察を受けさせてくれ、」と告げて。薬をひとつも飲まずに此処での時間を過ごす事はあまりに苦しいものだ。連日の高圧的な聴取に耐え、また鳩尾に痛みも出るようになっていて。 )






 

  • No.5274 by ベル・ミラー  2025-12-12 19:51:45 





( 午前中に来た女刑事は薬を渡せない事、面会が出来なくなった事、に猛抗議をしたと聞いたが、目前の男は思う所があるだろうに、留置所に入れられている今尚やけに落ち着いている__と男は頭の片隅で考えていた。“持病の薬”が何かは此方で既に調査済み。飲まなければ本当に命の危険がある薬ではないという判断が下されており、だからこそ渡す必要は無いと上司から言われている為首を横に振ると『言っただろう、弁護士以外の外部の者と接触は出来ない。意図的な薬の過剰摂取による自殺も懸念されているんだ。』相手の要望は全て聞き入れられないという姿勢を貫き。___その頃ミラーはと言うと、何も解決策が無く警視正からかなり不味い状況だと言う事を聞かされていて。署内の雰囲気も、証拠が出た事から相手が本当に内通者なのではという噂が囁かれる様になって )




  • No.5275 by アルバート・エバンズ  2025-12-16 19:38:58 

 





( 証拠を隠滅する為に自殺する可能性を危惧しているのかもしれないが、そもそも犯人ではないのだから薬物の過剰摂取などする筈がない。しかし何を言おうと、弁護士以外と接触できないという決定は変わらないのだろう。この状況で暫く薬を飲めないとなると、体調は確実に悪化する。少しでも早く無罪を実証するより他なく、頑なな政府機関の態度には疲弊仕切っているのだが「_____弁護士を呼んでくれ、話をしたい。」とだけ告げて。---ミラーや警視正が、自分の無罪を立証するために動いているとは聞いていたものの、面会も出来ない中で1人拘束されていると、状況も確認できず何も分からない不安と孤独に苛まれる。薬を飲めないまま時間が経ち、頻繁に発作を起こす程に不安定な状態に陥っていた。痛み止めを服用する事も出来ず鳩尾の痛みに耐え、意味を成さない長時間の取り調べを受ける日が続き。 )






 

  • No.5276 by ベル・ミラー  2025-12-16 20:11:10 





( ___警視正が幾ら上層部に掛け合おうと、どれだけ相手は内通者では無いのだと訴えようと、身に覚えの無い証拠が全てだと聞く耳を持たず、自分達の都合の良いように物事をでっち上げ、外部との接触を許さず相手を精神的に追い詰め孤立させる…そんな違法捜査とも呼べる事を何の正義も無く遣って退ける役人達には最初から何を言った所で無駄で、このままでは、ほぼ100%相手は起訴され有罪が確定してしまうと漸く気が付いた時。取れる手段はたった1つしか思い付かなかった。___この時間は使用されていない会議室。扉に鍵を掛けスマホの画面を険しい表情で見詰める。そこにあるのは何故か消していなかった【アーロン・クラーク】の名前。相手を傷付け、苦痛を与える事に喜びを見出すサイコパスで、此方側からは絶対に近付いてはいけない男。過去の出来事の様々が一瞬にして走馬灯のように脳裏を駆け巡り、一度重たい溜め息が漏れたのだが。“これしかない”のだ。次の溜め息は自身の気持ちを落ち着かせ、迷いを払拭するもの。クラークの名前を押し電話を掛けると、数コール後に聞こえた記憶から抹消したくとも出来ないその声に「……今すぐ私と会って。」と、挨拶すらも無い一方的な要望を緊張と、警戒心と、覚悟と、様々な感情が入り混じる声で告げて )




  • No.5277 by アルバート・エバンズ  2025-12-20 13:30:04 

 



アーロン・クラーク


( 手元のスマートフォンが着信を知らせ、画面に相手の名前が表示されると、其れを手に取り笑みを浮かべる。思った通りのタイミングだ。エバンズが組織との内通の罪で勾留されている事は当然知っていた。ミラーがそろそろ痺れを切らす頃だと言うことも想定済みで。電話に出てすぐ相手から告げられた言葉には「_____勿論、ミラーからのデートの誘いを断る訳がないよ。」と、考える暇もなく聞き返す事もせずに、相変わらず飄々とした明るい口調で答える。「そうだ、郊外でやってるクリスマスマーケットでも行こうか。ツリーを見ながらホットワインでも飲もうよ。」相手の本当の用件を理解していながら、まるで恋人相手に話しているかのような素振りで言葉を続けて。 )





 

  • No.5278 by ベル・ミラー  2025-12-20 22:29:55 





( 電話口から聞こえる声は明るさを携えていて、その巫山戯た言葉全てに嫌悪感が募るものだから、眉間に皺が寄るのも自然な事。「デートなんかじゃ無いし、クリスマスツリーも見ない。今から1時間後に駅前のカフェで待ってるから。」険しい表情のまま、またも要件を伝える事無く淡々とした一方的な約束を取り付け電話を切って。___約束の10分前。連れが後でもう1人来る事を店員に伝えお店の奥の席、扉が見える方向の椅子に腰掛ける。メニューに視線を落とせばそこには“オススメは搾りたてミルクを使ったふんわりパンケーキ”と書かれているのだが、全く以て魅力的に感じないのは今から来る人物のせいか、エバンズの事で頭がいっぱいだからか。ふいに扉に括り付けられている鈴の音が鳴り顔を上げると、そこには鮮やかな金髪を整え皺ひとつ無いスーツを身に付けた相手が店内に入って来た所で、此方に気が付いたのだろう、明るい笑みと共に近付いて来るものだから「__変わってないね、」と、見上げる形で皮肉を一つ )




  • No.5279 by アルバート・エバンズ  2025-12-20 23:44:49 

 





( 季節を意識したロマンチックなデート場所は通常喜ばれる筈だが、相手は違ったらしい。一方的に指定された駅前のカフェは駅に近い事もありいつも賑わっているが、せっかくミラーに呼び出されるならもう少し色気のあるカフェだったら良かったと1人肩を竦める。それでも時間ぴったりに、一切乱れのない整った姿で待ち合わせ場所に現れると相手の向かいの席に座る。「ありがとう。ミラーも相変わらず可愛いよ。」褒められていないにも関わらず礼を述べると相手にも言葉を投げ掛ける。「これ良いね。俺は搾りたてミルクのパンケーキにアイスクリームトッピング、あとホットコーヒーを1つ。ミラーはどれにする?」メニューにあったパンケーキを指さすと、ちょうど水を持ってやってきたウエイトレスに注文をして相手にも尋ねる。相手とお茶を楽しみにきたと言った様子で、署で問題になっている内通の件やエバンズが置かれている状況を知っていながらも何も切り出すことはしなかった。 )





 

  • No.5280 by ベル・ミラー  2025-12-21 00:58:37 





( “変わってない”は褒め言葉じゃないし、相手から可愛いと言われた所で僅かの喜びも湧かない。そういう事を全てわかっていて清々しい顔で言って退けるその根性が真底嫌いだと、返事を返す事無く溜め息を吐き出すだけで。「…ホットのカフェモカを一つ、以上です。」微笑みながら此方の注文を待つウエイトレスには飲み物だけを頼み、目下のメニュー表を閉じてテーブルの端へ。水を一口飲んでから目前の相手を真っ直ぐに見据えると「__今日呼んだのは、エバンズさんの事で話があったから。…貴方の組織に署の情報が流出してて、エバンズさんが内通者だって疑われてる。…でも、それは絶対に有り得ない。真犯人は誰?クラーク、貴方どこまで関わってるの?」真剣な、それでいて怒りも見え隠れする緑眼は普段よりずっと遅い瞬きで相手をとらえる。相手の事だ、今起きている全ての事を既に知っているだろう、そうして絡んでいる可能性も十分に有り得ると、纏う雰囲気はまるで被疑者を取り調べる時の様なそれで )




  • No.5281 by アルバート・エバンズ  2025-12-21 10:23:47 

 




( 折角の2人きりでのデートだと言うのに。注文を終えるや否や相手が持ち出したのは彼の話で、真剣な色を纏って問われると態とらしく肩を竦める。彼が内通者として疑われ、勾留されている事は知っていた。薬の服用も、警察医の診察さえも許可されず、日に日に体調が悪化している事も。「…クリスマスマーケットでホットワインを買って、差し入れた方が良かったかもね。あの人は痛みを和らげたい夜、ワインを飲むから。」そんな意味深な事を言って微笑む。白い錠剤をボルドーの液体で流し込む姿を見た事がある。月明かりに照らされて、その姿は儚く、美しく自分の目に映ったのだ。薬を飲めない日が続いているなら強い効果を欲している事だろうと。「俺は何も関わってないよ。全部政府機関の主導だろう?」飄々と答えながら、運ばれてきたパンケーキにメープルシロップを掛ける。いただきます、と律儀に手を合わせてパンケーキを口に運ぶと甘さが口一杯に広がり「美味しいよ、ミラーもひと口食べる?」と相手を見つめて。 )





 

  • No.5282 by ベル・ミラー  2025-12-21 11:11:53 





っ、…そのホットワインも差し入れ出来ない状況なの。…わかってるでしょ。
( 意味深に落とされた言葉に頭に血が昇ったのがわかったのだが、膝の上で両手を握り締める事で感情を抑え込むと、煮え滾る様な渦巻く昂りとは裏腹にあくまでも冷静な言葉を返して。しかしこの紡がれた言葉により相手が今の現状を全て把握済みだと言う事は確実なものになった。エバンズが薬を飲む事も出来ずたった1人で夜な夜な苦しんでいる事も、自分や警視正がどれ程駆けずり回って情報を集め上層部に懇願した所で何も変わらない事も、相手は全て知っていて、恐らく今回掛けた電話口で微笑んでいたのだろう。“何も関わってない”なんて、相手の組織の内通者である事を疑われているのだから信じる事は出来ず「政府機関内に、それこそそっちの組織の内通者が居たって可笑しくは無いでしょ。貴方がその人に裏で指示を出してる可能性だってある。___それこそ、“本物の内通者”がレイクウッド署に居る可能性も、」美味しそうにパンケーキを頬張る姿を睨む様な瞳でとらえながら、尚も相手の関与を疑い続け。「いらない。」パンケーキのお裾分けには間髪入れずに拒否を示し、目線を落とす事で重なった視線を解きカフェモカを啜り。「……」長く重たい沈黙の流れる事数十秒。「___このままじゃ本当にエバンズさんは逮捕される。…貴方なら助けられる?」例えこの件に相手が関わっていて、四面楚歌状態の彼や己を見てほくそ笑んで居たとしても。彼が逮捕されてしまえばもう何もかもが終わりなのだ。その前にどうにか無実である事を立証しなければならない。その為には、目前の相手の力に頼るしか今選べる道は無いとわかっているからこそ、悔しさの滲む声色で問い掛けて )




  • No.5283 by アルバート・エバンズ  2025-12-21 13:16:57 

 




アーロン・クラーク


( 相手の言葉を聞いて少し驚いたような表情を見せると、直ぐに可笑しそうに笑う。「なんだ、警部補のために必死になってるのかと思ってたけど。警察はこれだけ時間を掛けても何ひとつ掴めてないんだね。_____内通者はいるよ、レイクウッドの中に。警部補だったら良かったけど、あの人は俺の誘いをいつも無碍にするから。」肩を竦めて見せつつ、何ひとつ証拠を得られていない警察の“無能さ”を嘲笑うように言葉を紡ぐ。組織に情報を流したのは、レイクウッドの署員だ。その罪を彼になすり付けた結果の今なのだが、相手を始め其れを掴めている者は未だ誰も居なかったのだと知り、随分悠長だと笑って見せる。そんな事くらい、数時間もあれば掴めるだろうと言うのが、ハッキングや犯罪に長けた自分の意見なのだが。相手からの問いには間髪入れずに、当然だと頷く。「勿論。…お城に閉じ込められたプリンセスを救う騎士の如く助け出せるよ。方法なんて幾らでもある。」と得意げに答えて。 )




 

  • No.5284 by ベル・ミラー  2025-12-21 14:35:25 





( 警察は決して無能では無いし、エバンズの無実を証明する為に何もしなかった訳では無い。けれど“エバンズのパソコンから出た証拠”が彼を内通者であると決定付け、政府機関の役員達もそれを疑う事が無かった。そうして“真っ当な捜査”では彼を救う事が出来ないのだと気付いてしまったのだ。「……反論する気は無い、」と至極小さな声量で答えたのは勿論言いたい事は山程あれ、結局彼を助け出す事が出来ていないのが現状だから。チョコレートと香りが仄かに香るカフェモカは、本来なら優しい甘さを連れて来る筈なのに今日は無性に苦く感じる。相変わらずの役者か何かかと思わさる演技掛かった独特な口調で、得意げに紡がれた言葉には思わずまた眉間に皺が寄るのだが。その自信が本物である事を嫌でも知っているのも確か。「……だったら私に手を貸して。エバンズさんの無罪を証明して、本当の内通者を逮捕する。」犯罪者に助けを乞う等、本来あってはならない事。けれど相手と会う覚悟を決めた時にそんな正義も甲藤も捨てて来た。“こういう状況”に楽しみを見出す相手の事だ、二つ返事で了承するとは思えず見返りを求めて来るだろう事も想定済み。少しばかり緊張の混じる間が空いて )




  • No.5285 by アルバート・エバンズ  2025-12-21 18:42:25 

 




アーロン・クラーク


( 相手は“違う”と語気を強める事はしなかった。自分たちも彼を救出する為に精一杯動いているのだと反論してくるかとも思ったのだが、結果が伴っていない事を理解しているのだろう。続いた言葉には僅かばかり首を傾げて相手を見つめる。「_____手を貸して、俺にどんなメリットがある?ミラーと警部補から泣いて感謝されるって言うなら悪い気はしないけど、俺だって危ない橋は渡りたくない。犯罪組織の幹部がのこのこ出て行って『情報をくれたのはこの人じゃないですよ』って証言でもするの?」クスクスと笑って見せながら、どう手を貸せと言うのかと肩を竦める。手を貸せと言うなら相応の見返りが必要だ。自分にメリットが無ければ動かない。現状自分にメリットがあるとは思えない為、興味を示す事もなくパンケーキを口に運んで。 )






 

  • No.5286 by ベル・ミラー  2025-12-21 21:36:49 





( 確かに相手の言う事はごもっともだった。相手には何のメリットも無い上に最早丸投げ状態の頼み、更には次は相手自身が逮捕されてしまう可能性だってある訳だから見返りを求めて来るのは当然と言えば当然か。既に当初の熱を失ったカフェモカを口元まで運ぶが、マグカップの端が下唇に緩く触れただけで中身を胃に落とす事はしなかった。「___今エバンズさんに接触出来るのは弁護士だけ。だから、政府機関の息が掛かってない弁護士を紹介して欲しい。それから、その人経由で処方薬を届けて貰って。…エバンズさんの無実が証明されて、本当の内通者が逮捕されたら……クラークが望む事を一つ叶える。勿論私に出来る事で、誰にも迷惑が掛からない事が条件。法を犯す事も駄目。…十分なメリットでしょ。」わかりやすい程に興味が無いです、を全面に押し出す相手に持ち掛けた見返りは、僅かでもメリットとして捉えて貰えるものだろうか。結局中身を飲まなかったマグカップをテーブルに置き直して返事を待って )




  • No.5287 by アルバート・エバンズ  2025-12-21 22:34:30 

 


アーロン・クラーク


( “望む事を叶える”という言葉にようやく興味を示すと、パンケーキから相手へと視線を向ける。けれど続いた制約に、それではつまらないと肩を竦めて。「それじゃあ出来ない事ばかりだ。面白くない。」と答えたものの、ある事を思い付く。「_____弁護士か。…組織側の弁護士を動かすのは簡単だけど、俺が行ってみようかな。可哀想な警部補を見る事が出来るし、勾留されてる限りあの人は俺にしか頼れない。」言葉にしてみると、それはとても魅力的な事のように思えた。孤独と不安に耐えている彼を、自分が救う。例え自分に憎しみを抱いていても、頼らなければ逮捕される事になるのだ。「ついでに、警察はもう無罪の証拠なんて探してない、とっくに諦めたとでも伝えてみようか。また彼が絶望する表情を見れるよ。」と、楽しそうに笑って。弱っている彼の心の隙間に入り込み、相手との絆を壊す。そうすれば彼は自分に縋るようになるかもしれない。「我ながら良いアイディアだ。そう思わない?」と、固い表情の相手に笑みを向けて。 )





 

  • No.5288 by ベル・ミラー  2025-12-22 11:04:57 





( “出来ない事ばかり”と相手は言うが、まともな道徳心を持つ人間ならばそんな事は欠片も思わない筈なのだ。夕食を奢ってくれれば良いとか、今度少し高い贈り物をとか___そもそも相手に“一般的道徳心”を当て嵌める事の方が間違いなのだが再び興味を失ってしまった様子に僅かな焦燥が募り。次なるメリットを考える為に口を開こうとして___先に音を落としたのは相手の方だった。つらつらと流れる様に紡がれる少し未来の話に思わず背筋が凍る。弁護士を、と言っているのに何故相手が行くと言う案になるのか。そもそも相手は弁護士じゃないから面会は出来ないのに。何かしらの手を使い拘留所に忍び込みエバンズの目前で悪意ある言葉を吐き捨て微笑む、そうしてそんな事をしておきながら唯一その場に居る相手自身に縋る様に仕向ける___相手なら本当にやる気がした。「全く思わない。エバンズさんの事傷付けたら許さないから。」同意を求めるかの様な問い掛けに、纏う空気は冷たくなる。緑眼の奥には燃える様な怒りと牽制、放つそれは“殺気”と呼んでも良いかもしれない。けれど___彼を傷付けないという絶対的な約束があれば、組織の弁護士より此方との連携もまだ取りやすいと思う気持ちも無い訳ではなかった。ややして「……クラーク、貴方がエバンズさんに会って薬を渡す。勿論彼を傷付ける様な言動は一つも無し。それから、真犯人を逮捕してエバンズさんの無実を証明する。その全てが出来るのなら……“私の事は”好きにして良い。それならどう?」相手が彼に会う事で話を進め、その中で条件を提示し、再び告げたメリットは大きく離れはしないものの、先程よりも少しだけ強い色を持つもので )




  • No.5289 by アルバート・エバンズ  2025-12-22 14:26:12 

 



アーロン・クラーク


( 犯罪組織としては近寄りたくもない政府機関という場所に潜入しながら、彼を傷付けるも事なく薬を渡して無罪を証明するなんて、究極のお人好しか人に救いを与える事に喜びを見出す天使かでなければ喜んでやろうとは思わないだろうと肩を竦める。「_____でも、俺がやらないって言ったら警部補は逮捕される。そうだろう?もっと劣悪な状況でこの先何年も収監されて、自殺の危険性があるからって薬を飲む事も出来ないかもしれないね。…そこから救い出そうとしてるんだ、頼んでいる側のミラーが俺の望みを制限する資格なんて無いと思うけど。」微笑みを湛え飄々とした物言いながら、相手が従わざるを得なくなる言葉を選び此方からも牽制する。目の奥は笑っていない。「ミラーに何をしてもらうかはじっくり考えておくよ、楽しい事が良いからね。」と告げて。「……どうする?悪魔の取り引きだ。警部補を助ける為に、俺に魂を売る?」愉しそうに笑いながら尋ねて。 )





 

  • No.5290 by ベル・ミラー  2025-12-22 18:55:45 





( 口元こそ微笑む様に弧を描いているが、紫暗の瞳の奥は暗い闇を携えている。相手の言う通り拒否されてしまえばエバンズをあの牢獄から助け出す事は出来ない。狭く暗い部屋の中で長い長い年月をたった1人苦しみながら過ごす事になる。更には漸く出て来る事が出来たとしても彼には常に犯罪者のレッテルが貼られ、二度とFBIに戻る事は出来ないだろう。この場で取り引き内容を決める事が出来ないのは、とてつもなく大きなリスクを払う事になるが___「…わかった。その代わり、途中でやっぱり出来なかったは契約違反、代償は払って貰うから。」僅かも視線を逸らさぬまま覚悟と共に頷き、けれど頼んでいる立場ながら強気な姿勢は崩さない。絶対に、何としてもエバンズを助け出さなければ取り引きも何も無いのだから )




  • No.5291 by アルバート・エバンズ  2025-12-23 00:28:56 

 



アーロン・クラーク



( 強い意志の宿る相手の言葉に笑みを深めると「_____取引成立だ。」と手を差し出して握手を求めて。「ミラーも、後で出来ないはなしだからね。」と念を押しておくと、この後の計画を考える。「…そうと決まったら、俺は弁護士としてあの機関に潜り込む。警部補に接触した上で、証拠品のパソコンをハッキングして、流出した資料が後から“送り付けられた”事が分かるログを表面化させておくよ。」ペラペラとこの先の事を話すと、さも簡単な事のようにエバンズへの疑いを晴らすための方針を告げて。「隠されてるログが表面化すれば、警部補のパソコンが不正アクセスを受けた事が明らかになる。送り主も直ぐに辿れるようにしておくよ。」と。 )





 

  • No.5292 by ベル・ミラー  2025-12-23 13:16:40 





( 握手を求める様に差し出された手に視線を落とす。この手を取れば正に“悪魔との取り引き”が成立する訳だが今はもう迷いは無かった。無表情で軽く手を握り返し、一秒にも満たない速さで直ぐにその手を離し引けば、無意識か一度己の手を握り込む仕草を。___さて、これで晴れて取り引き成立となった訳だが。饒舌に紡がれる計画に思わず眉間に皺が寄ったのは、内容が内容だと言う事もあるがそれ以上に余りに簡単な事の様に話すから。つまり相手にとってはこれくらい造作もない事で、息をする様にあっという間に出来てしまう事なのだろう。…“こういう事”を、幾度となく繰り返して来たのだろう。「…エバンズさんに会ったら渡して。」と、告げてから鞄から取り出したのは、彼が服用している処方薬。安定剤と、鎮痛剤と、睡眠薬が1週間分。いつ面会が解禁されても良いようにと常に持っていたもので、これらが彼の元に届けば調子の悪さは幾らも軽減される筈だと )




  • No.5293 by アルバート・エバンズ  2025-12-24 01:27:47 

 



アーロン・クラーク


( 手が握り返されたのはほんの僅かな時間だった。葛藤があるとは言え、相手はもう自分との契約を結んだのだ。背景がどうであれ、違法な手段が使われる事を理解しながらそれを見過ごし、犯罪組織の幹部に依頼をしたというのは事実だ。「…罪な人だなぁ、」と、微笑を浮かべつつ小さく呟いたのは、そうまでして救出したいという想いを向けられた彼の事。彼が絡まなければ、相手は決して悪魔と契約を結んだりしない。それをさせている彼は、間違いなく“罪深い”と言えよう。薬を受け取ると中身を確認し「_____可哀想だよねぇ、あの人は薬が無いとあっという間に自滅するくらいぼろぼろなんだ。いつまで経っても、何も変わらない。同じ夢にずっと囚われて、同じように目を覚ます。良い加減慣れれば良いのにね、」と肩を竦める。常用している薬を飲む事も叶わず、身体は辛い状態かもしれない。けれど、自分自身を苦しめているのは彼自身だ。彼が事件を過去の事にさえすれば、全て“終わる”事なのに、自分で自分にいばらのツルを巻き付けている。「ミラーは優しいよね、警部補の事になると。」と呆れたような口調で言いながら、すっかり溶けていたアイスクリームをスプーンで掬い口に運んで。 )





 

  • No.5294 by ベル・ミラー  2025-12-24 16:15:48 





___犯罪者である貴方に頼った事も、契約を結んだ事も、全部私の意思。この判断が間違いだなんて少しも思わない。
( 可笑しそうに落とされた呟きにキッと睨む様な視線を向ける。確かに全てはエバンズを救い出す為で相手にとって彼は“罪な人”と言う位置付けになるのだろう。けれど誰に強制された訳でも頼まれた訳でも無く最終的な判断は己が下したのだ、何も間違いでは無いと言い切り。渡した薬に落ちた紫暗からは心の内が読めなかった。相手の言う通り、彼は永遠と悪夢に魘され薬を飲み、自分自身を責め続けている。誰よりも幸せになって欲しくて、誰よりも救われて欲しいのに、彼自身がそれを良しとしない。相手の紡ぐ言葉の中の一文を拾って瞳の奥が揺れた。「……大勢の人達が亡くなって、その中には妹も含まれていた__“慣れる”なんて無理だよ。…クラークは慣れたの?」簡単にその言葉を言ってのけた相手は慣れたのか、それとも“慣れた振り”なのか、問い掛けには無意識に悲しみが纏い。「何言ってるの、皆に優しいよ。」彼限定、とでも言いたげな言葉には同じく軽く肩を竦め小さな訂正を入れはするものの、「__でも、エバンズさんは優しい世界で生きて欲しい、」と、呟き。その音には慈愛と、願いと、確かな想いが滲むのだがそれもまた自分自身が気付くものでは無く )




  • No.5295 by アルバート・エバンズ  2025-12-29 09:36:56 

 



アーロン・クラーク


( 慣れる事など無理だと相手は言うが、あの苦しみの中では“慣れる事でしか“自分を、心を守る術がなかったのだ。『…苦しみに慣れざるを得なかったのは、警部補たちの所為だよ。』慣れたとも、慣れていないとも明言せず、そうとだけ答えると意味深に笑みを浮かべる。大勢の人の心に傷を残した彼らの罪は重い。『あの人だけが優しい世界に守られるなんて、俺には納得できないけどね。』そう言って肩を竦めて見せつつも『_____まぁ、契約だからあの場所からは助け出すよ。また進捗は報告する。見返りの件はまた話そう。』と告げて。 )




 

  • No.5296 by ベル・ミラー  2025-12-29 11:22:23 





( 相手は何方との名言はせずに普段見せる時と変わらない笑みを浮かべるだけ。確かにあの場所に居た当時の警察官達は誰も救う事が出来なかったかもしれないが、決して人質を見捨てた訳では無かった筈だ。相手も___彼もまたあの事件の被害者である事は間違いのに。返される言葉の全てに押し黙ったのは“何も言えなかった”から。そんな事を感じられる筈が無いのに、目前に居る相手と、今は遠くに居る彼の重たい絶望が混じり合い息が出来なくなりそうな、聞こえない罵倒や悲鳴に耳を塞ぎたくなる様な、何故だかそんな気持ちになるのだ。相手は、“痛い”と口にしないのだろうか。涙を流さないのだろうか。もう、そう言う事から遠い所に心を置いて来たのだろうか。“悪魔との取り引き”を終えた後は、残った何とも言い表す事の出来ない気持ちを抱えたまま署に戻る事となり。___クラークとミラーの“密会”が終わった数時間後、相手の元には役人が来て居た。『面会だ。新しい弁護士が来てるそうだ。』とぶっきらぼうに告げた男は相手を普段のガラスを挟む面会室では無い、取調べ室の様な部屋へと連れて行き。薄暗い部屋の中、椅子に腰掛けていたのはクラークなのだが、普段のセットされ纏まった金髪は後ろで緩く結ばれた黒髪に、時折闇を携える紫暗の瞳は茶色に、腕時計も、鞄も、スーツも靴も、普段身に付けている物より少しだけ安いものになっている今、果たして相手は気が付くだろうか。男が出て行き2人だけになった部屋の中、相手と視線を合わせたクラークは緩く笑みを浮かべ先ずは何か言葉を発する事無く片手を差し出して )




  • No.5297 by アルバート・エバンズ  2025-12-30 01:09:58 

 




( 薬を飲む事が出来ないまま既に数日が経過し、繰り返されるのは同じような取り調べばかり。自供を促すような揺さ振りも増え、何かの拍子に発した言葉を悪用される危険性も考えて反論の言葉も返さず沈黙を貫くようになっていた。身に覚えの無い罪を着せられ心身共に限界に近い状態だったからこそ、弁護士の面会というのは一筋の光のように思えた。拘置所に入れられている今署に居る時の高潔な姿は無く、皺の入ったワイシャツに、何かを隠し持つ事が出来ないようにとポケットさえ付いていない黒いズボン。少し痩せて窶れた顔つきで、目元の隈も深い。---監視に連れられて入った部屋には黒髪の男が1人座っていたが、その姿を見ても、当然クラークだとは思わなかった。目の前に腰を下ろし、差し出された手を握り返して相手と視線を重ねた時、一拍遅れてようやくその正体に気付く。黒髪も茶色い瞳も、何もかもが自分の知っている彼の物とは違ったが、此方を見る表情と顔立ちは確かにクラークのものだ。「……どうして、」と、思わず呟きにも似た声が漏れる。胸には弁護士バッジを付け、政府機関であるこの場所で自分の目の前に立っている。此処で不用意な事を言うべきではないが、一体どういう事かと僅かに眉を顰め、相手に視線を向けて。 )






 

  • No.5298 by ベル・ミラー  2025-12-30 01:46:55 





アーロン・クラーク( ウィル・フォスター )



( 薄暗い部屋の中でも相手の目下の隈は主張を貫くものだから、薬が飲めていない事も相俟って心身共に相当のストレスが掛かっているだろう事は一目瞭然。何処と無く覇気の様なものを失った相手と握手を交わし、その骨張った指にも然程力が入っていない事でこれは相当だと内心小さな溜め息をつくのだが。褪せた碧眼と普段とは違う茶色の瞳が交わった事で相手は此方の変装に気が付いたのか、その表情に僅かな驚きと怪しむかの様な色を浮かべて見せた。誰がどう見てもわからない変装では無いものの、それでも己が“アーロン・クラーク”である事に瞬時に気が付いて貰えた事に気分の高鳴りは絶好調と言えよう。軽く手を動かし短い握手を終えた後、口元の笑みを更に濃いものへと変えつつ『初めまして。今日から貴方の担当弁護士になります、ウィル・フォスターです。前任の弁護士は少々手が離せない用事が出来てしまった為、私が引き継ぎますね。』と、すでに正体がバレているにも関わらずそんな戯言と偽名での自己紹介をして見せ。続いて部屋をぐるりと見回す。机の上の録音装置は取り調べでは無い為電源は入っていないようだが、隅に取り付けられている監視カメラは作動しているのだろう。何か物を手渡す為にはカメラをどうにかしなければならないと僅かに目を細め、それからまた笑みと共に相手に視線を向け。『貴方にクリスマスプレゼントがあるんですけど、それはもう少し待って下さいね。…先に今の状況について__どんな気持ちなのか聞かせて貰えますか?』椅子の横に置いてある鞄の中の軽い説明と共に、到底己には関係ないだろうと言われても可笑しくは無い問い掛けを送って )




  • No.5299 by アルバート・エバンズ  2025-12-30 11:09:07 

 




( 相手と幾度と顔を合わせていなければ見抜けない変装だったと言えよう。此方を見る表情と口元に浮かべた緩やかな笑みは隠しきれないが、一見すると何もかもが”クラークではない“のだから。引き継ぎの担当弁護士として自分の前に現れたこの男が、無罪を証明しこの場所から解放してくれるかもしれないという一抹の希望は消えていなかった。______どんな気持ちかと、相手にはこれまでにも度々聞かれてきた質問だ。「…俺は無実だ、犯罪組織に情報を流したりはしていない。出るはずの無い証拠が出た事にも…困惑と憤りを感じる、」あくまで冷静に、この状況を説明するに相応しい言葉を選ぶと”お前なら分かるだろう“という意味を込めた視線を向ける。劣悪な環境下で体調も悪化し、自分が犯人だと決め付ける男たちと無意味なやり取りを繰り返すばかり。鳩尾の痛みもかなり定期的に走るようになっていた。「パソコンを調べてくれ、俺が送ったものじゃない。」と、訴えるように告げる。相手が本物の弁護士かどうかなどどうでも良い、自分に接触が許された人物だけが、自分の無実を証明できるのだ。レイクウッド署でも奔走してくれているとは聞いていたが、それ以降の情報は遮断されている。例え接触してきたのが目の前の相手であれ、今はとにかく証拠を探して欲しいと頼まざるを得なかった。 )







 

  • No.5300 by ベル・ミラー  2025-12-30 12:25:41 





アーロン・クラーク( ウィル・フォスター )



( ミラー同様に無実を訴える相手の吐露される心の内を軽い相槌を挟みながら愉しげに聞き届けた後。『そうでしょうね、内通者は貴方では無く別に居る。貴方のパソコンから流出した情報は他所から意図的に流されたもので、頭の硬い政府機関の連中は、それに気が付く事も無く無駄な時間を過ごしていると言う訳です。』相手の無実を僅かも疑う事無く全て知っています、とばかりにヒラヒラと片手を閃かせ言葉を並べ立てた最後『ちなみに、本当の内通者はちゃーんとレイクウッドに居るんですよ。』と距離を詰める為僅か身を乗り出す形で微笑み。そうやって“種明かし”をした後再び身体を引き座り直すと、『勿論、貴方が犯人では無いという証拠は直ぐに出します。___でも正直この状況を楽しみたい気持ちもあるんですよ。わかります?FBIの大半は貴方が犯人だと疑っていて、唯一信じているミラーも結局は何も出来ずお手上げ状態。貴方が頼れるのは“弁護士”である俺だけ。そして貴方の無実を証明出来るのも俺だけなんです。貴方のこの先の人生を、俺が握っていると言っても過言では無いでしょう?』すっかり弁護士の顔では無い、何処か恍惚とした狂気すらも滲む表情でやけにゆっくりと言葉を連ね、相手の感情の揺れを見物でもするかのように緩く首を擡げて見せて )




  • No.5301 by アルバート・エバンズ  2025-12-30 12:45:45 

 




( 相手がさも当然の事かのように自分の無実を認めた事に、思わず言葉を失う。組織側の人間である相手は真実を知っているだろうと思ってはいたのだが。”本物の内通者はレイクウッドにいる“______その言葉が意味する所は、同じ職場にいた内通者に罪をなすり付けられたという事だ。自分が犯人ではないという証拠を直ぐに出すと言ってのける相手は、今この瞬間、この状況においては、唯一自分を救い出す事ができる強力な存在だった。しかし続いた言葉は、”いつもの“彼らしいもの。タダでは協力しないと言わんばかりに、此方を揺さぶり自分に都合の良いように仕向けようとする。「_____お前が此処に来たという事は、それ以外の道は全て潰えているという事だろうな。」そう言葉にしたのは、この男をもってしか、自分を救い出す術がないという事だと理解していたから。恐らく相手を此処に差し向けたのはミラーだろう。きっと其れが、最後の手段だった。つまり、この男を逃せば自分は無実の罪を着せられ逮捕される可能性が非常に高い状況だという事だ。「この状況では、お前しか頼れない事は理解してる、」とだけ答えて。 )




 

  • No.5302 by ベル・ミラー  2025-12-30 13:25:57 






アーロン・クラーク( ウィル・フォスター )



( 心身共にボロボロの状態であっても尚、冷静に今の状況を分析し最善策を手繰り寄せる目前の相手の姿と、涙を流し己に縋る相手の姿___掛け離れたその両の姿を思い背中に走るのは圧倒的な快感とも呼べるそれ。内心歪に笑いながら『その通り、貴方が賢くて良かった。』と頷き。となると己が此処に居る理由もミラーが絡んでいると察しているのだろう。そこで漸く焦げ茶の革の鞄からノートパソコンと一つの袋を取り出す。パソコンは机の上に、袋は開けてその中から相手が何時も服用している安定剤を取り出し___それを渡す事はせずに見易い様に胸の位置で軽く揺らすと『これ、ミラーからの“クリスマスプレゼント”なんですけど欲しいですか?』と問い掛け。『勿論これだけじゃありません。他にも鎮痛剤と睡眠薬も入ってます。』相手が今一番欲しているであろう物は全て此処に…己の手の中に揃っているのだと )




  • No.5303 by アルバート・エバンズ  2025-12-30 13:57:47 

 




( 相手が鞄から取り出してちらつかせた袋に入っていたのは、普段自分が服用している処方薬。何一つ薬を服用することが許されない今は、いつ終わるかも分からない苦痛に夜な夜な耐えるしかなかった。せめて安定剤を飲む事ができれば、幾らか楽になるだろう。面会が禁止されてからも、ミラーはずっと自分に薬を届けようとしてくれていたのだということを漸く知る。「…欲しい。此処では薬が飲めないのがしんどい、」と、ミラーから託された其れを渡して欲しいと伝えて。 )





 

  • No.5304 by ベル・ミラー  2025-12-30 15:07:48 





アーロン・クラーク( ウィル・フォスター )



( 素直に薬を所望した相手に喉の奥で低く笑う。『そうですよねぇ、喉から手が出る程欲しいですよね。これがあれば貴方の苦しみは何倍も緩和される。』希望を目の前でチラつかせるだけチラつかせて簡単に与える事はしない。ふ、と葛藤を抱えながらも真剣な瞳で此方と取り引きをしたミラーの顔が脳裏を過ぎり、数秒思案する。『___でもね警部補、これを渡すには条件があるんですよ。ミラーには何も言わず渡せと言われたんですけど、貴方に教えないのはフェアじゃないですし___実はね、この薬を貴方が受け取れば、ミラーは俺の言う事を何か1つ聞かなきゃならないんです。拒否権は無い、そう言う取り引きをしたんでね。でも貴方がこれを受け取らないなら、ミラーとの取り引きは無くなる。その代わり、貴方の有罪は確実です。逮捕され、数年間は牢の中。勿論出所してもFBIに戻る事は出来ず世間からも白い目で見られ続ける。…貴方は、どちらを選びますか?』取り引きをしたのは本当だが、その内容に薬は無関係。けれどこの条件を突き付け選択肢を与えた時、相手はどうするのかと興味が湧いたのだ。悩むだろうか、それとも珍しく感情的になって罵声でも浴びせて来るだろうか、実際はちっぽけな絆だったら尚面白い。手に持つ薬を机に置き、ほんの僅かだけ相手の方に移動させて )




  • No.5305 by アルバート・エバンズ  2025-12-30 18:26:03 

 





( 薬を飲む事で和らぐ苦痛があるだろうと同意を示しながらも、相手が其れを手渡してくる事はなかった。相手がのらりくらりと続けた言葉には思わず表情を固くする。この男の言う事を聞く、というのは途轍もない危険を孕んでいる事くらい相手はとうに理解している筈だ。そんな危険を冒してまで、自分を救い出そうとしたという事か、と理解して。薬を受け取らない事で其の取り引きが破棄されるなら、薬は要らないと突き返す事を選んだだろう。しかし______無実の罪を背負い逮捕されるというのは、あまりにもリスクが大きかった。ミラーを犠牲にすべきでは無いが、このままなす術もなく罪をなすり付けられ有罪になる訳にもいかない。言葉を発する事なく黙り込んでいたものの、少しして顔を上げる。「______其れは、俺とお前の間で成されるべき取り引きだ。無罪を証明して、俺を此処から出してくれ。その代わり、俺がお前の望みを聞く。……薬を届ける事がミラーとの約束なら、それはいらない。」と、言葉を荒げる事なく告げて。今頼れるのが彼だけという現状を思えば、彼の神経を逆撫でする事は避けるべきだ。しかし自分を助ける、という契約がミラーとクラークの間で成されたのなら、それは助けられる自分と彼との間で成されるべきもの。残る薬の受け渡しに関して、自分がそれを受け取らなければ______ミラーを巻き込む事にはならないだろうと。 )






 

  • No.5306 by ベル・ミラー  2025-12-30 20:13:00 





アーロン・クラーク( ウィル・フォスター )



( 相手からの返事は少しだけ予想外のものだった。あくまでも冷静に理論的に、そして此方の感情を揺らさず神経を逆撫でしない言葉達。それでいてミラーには何の迷惑も危険も無い取り引きを持ち掛けて来る___これがミラーとの性格の違い、更に言えばFBIとしての…人生の経験の差なのだろうかと珍しく分析を巡らせながら、次は表情をコロリと変える。試す様な眼差しから一変、害など僅かもありませんと言いたげなやや幼い笑顔で机の上の錠剤と、薬の入ってる袋を相手の目前まで滑らせて。『冗談です。貴方がどんな反応をするか見てみたかっただけ、薬はちゃんと渡しますよ。ミラーとの約束ですしね。』薬では無く“相手を助け出す事”が本来の契約なのだがそこは伏せたまま『監視カメラの事は気にしなくて良いですよ、後で何とかしておきます。』と付け加え鞄から新品のミネラルウォーターを取り出しそれも手渡して。『貴方と取り引きするのも魅力的ですが、今日は気分が良いんです。だから“無償で”。』笑みを浮かべたまま、相手が薬を飲むのを見届けた後は、自身のノートパソコンから証拠品として保管されている相手のパソコンが不正アクセスを受けていた事がわかる様に、隠されていたログの表面化をあっという間に済ませ。『___はい、終わり。貴方の仕事ぶりは評価に値しますが、こんな事も出来ないFBIには心底呆れますね。』パソコンの画面を相手に見えるように回しつつ、ついでにFBIの仕事ぶりにケチを付ける事も忘れずに )




  • No.5307 by アルバート・エバンズ  2025-12-30 20:30:03 

 





( 冗談だと言って相手は笑顔を見せたが、其れを直ぐに信用することが出来なかったのはこれ迄の相手の行いの所為だろう。ミネラルウォーターを手渡され、苦痛を和らげる唯一の手段である薬を飲むようにと促されれば、それに抗う事はしなかった。薬が直ぐに効果を発揮する事を願いながら、安定剤と鎮痛剤を飲み込んで。目の前でパソコンを叩いた相手は、ものの数秒で作業を終えたようだった。「此れで_____本当の内通者が明らかになるのか?」と尋ねる。其の問いには、今すぐにでもこの場所から解放されたいという願いが滲んで居ただろうか。FBIは仕事が出来ないと言いたげな言葉が紡がれたが、サイバー犯罪の捜査で裁判所の許可が降りない限り、FBIは安易にハッキングする事は出来ない。正式な手順を踏んでいるのであれば、犯罪組織とスピードが異なるのは当然と言えよう。相手の言葉に反応する事はせず「組織に情報を流していたのは誰なんだ、」と尋ねて。 )





 

  • No.5308 by ベル・ミラー  2025-12-30 21:10:26 





アーロン・クラーク( ウィル・フォスター )



( 胃に落ちた錠剤が溶けその力を発揮するまで、どれだけ早くても30分以上は掛かる筈。それが長いか短いかは相手次第だが、少なくとも薬を飲めたと言う安心感はその心を満たすだろう。だからだろうか、張り詰めていた心が僅か緩んだのか何処か急かす様な問い掛けに困った様に笑うと『そうですよ、貴方は直ぐに自由の身になれます。』と肯定した後。『名前はポール・アドキンズ。レイクウッド署の情報セキュリティ課に配属されているんですが、刑事課の署員と顔を合わせる事は殆ど無いでしょうし、知らなくても不思議じゃない。』あっさりと本当の内通者の名前を告げ。勿論彼は今こんな所で裏切りが発生しているとは思っていないだろうが、組織のメンバーが1人や2人居なくなった所で特別支障は無いし、ミラーとの取り引きやこの状況の方がよっぽど愉しく魅力的なのだから、罪悪感も勿論ある筈無く。___徐に立ち上がるとあっという間に相手の横に立つ。そうやって腰を折ると何の断りも無く両手を相手の頬へ添え『…こんなに窶れて。でも貴方が此処で過ごすのは今日だけ。あと1日、辛抱すれば良いんです。簡単でしょう?』その指先を緩く動かしながら何を考えているのか、まるでありったけの優しさを与えるかの様に、そうして諭す様に、ね?と同意を求めて )




  • No.5309 by アルバート・エバンズ  2025-12-30 21:51:45 

 




( 相手は躊躇する事もなく、本当の内通者の名前を口にした。その名前の人物に心当たりはなく、同時に刑事課の見知った署員でなかった事に何処か安堵したのは、身近な人物からの恨みを買って悪意を向けられた訳ではないと思えたからか。この男は犯罪組織の幹部で、これ迄も散々苦しめられてきた______けれど、今この絶望的な状況から確かに自分を掬い上げてくれた、其れが出来る唯一の人物だった事は間違いない。「……助かった、」と一言だけ感謝を述べて。此れで自分が内通者ではないという証拠が直ぐに公になる筈だ。不意に頬に手を伸ばされると僅かに身体は硬くなるのだが、優しく紡がれた言葉には促されるままに小さく頷いて。善意や優しさとは掛け離れた所に居るこの男の事だ。信用すべきではないだろうが、今回の件については感謝せざるを得なかった。 )





 

  • No.5310 by ベル・ミラー  2025-12-30 22:46:34 





( 相手が溢したのは珍しいお礼。この状況下で相手が縋れるのは自分だけで、己は相手の望みを叶え見事助け出すのも目前と言えよう。『囚われの“プリンセス”を助け出す役目を担えて光栄ですよ。』なんて砂糖の如く甘ったるい言葉を何の恥じらいも無く紡いだ後は『次はこんな薄暗い部屋じゃなくて、イルミネーションの綺麗な公園で会いましょう。』暗に出られるのだと言う事を今一度確りと告げ再び自分の席へと戻り。___面会時間は凡そ1時間、けれどその中で相手の無実を証明する証拠を出したのはほんの数分。後は全て一方的な雑談に回しただけの事。相手がたった1人孤独に耐えなければいけないのは今日だけで、明日の朝一番で本当の内通者の存在が明るみに出て拘留は終わる。それと同時にレイクウッド署にも相手は無実だったと言う連絡が政府機関から入るだろう。たった一言の謝罪で全てを終わらせようとする役人達に激怒し、それ相応の処罰を求めた警視正の行動は自然な事で。残るはクラークとミラーの間で交わされた契約だけとなった訳だが___「薬を渡してくれた事も、エバンズさんの無実を証明してくれた事も、……ありがとう、」釈放の後、念の為に1日だけ検査入院を、と無理矢理病院に連れて行かれたエバンズには内緒で、今カフェで顔を合わせている相手は今回の件の立役者。先ずは確りとお礼を述べるのだが、緊張が抜けないのは契約内容がまだ不明だからで )




  • No.5311 by アルバート・エバンズ  2025-12-31 08:04:29 

 



アーロン・クラーク


( 彼を犯人と決め付けていた政府機関の役人たちは、流出した極秘資料が外部から送り付けられた形跡を見つけると謝罪もそこそこに彼を解放した。一瞬で終わる事に何日も掛けていたFBIの行動の遅さには呆れるのだが、自分が彼を救い出す貴重な任務を遂行し感謝されたのだから良しとしよう。カフェでミラーと顔を合わせて礼を言われると、機嫌の良さそうな顔で『気にしないでよ、ミラーと警部補の役に立てて良かった。感謝されるって気持ちが良いね。』なんて言って朗らかに笑って見せる。まるで無償の善行をしたかのような言動だが、当然相応の“見返り”は貰うつもりだった。『今回、ミラーと警部補の両方と話をして、お互いを思い合う”絆“って言うのかな。それに感銘を受けたよ。だから…これは、俺からのプレゼント。』そう言って、液体の入った小瓶を2つ相手の前に差し出す。『相手の為なら、自分を犠牲にしても構わない_____それって、すごく美しい感情だよ。もっと見ていたいと思った。…安心して。困難を乗り越えてこそ、信頼関係は強くなるって言うし、』にっこりと微笑むのだが、相手には此の小瓶の中身が何か伝わるだろうか。『ひとつはミラーが自分で、自分に打つ分。もうひとつは、ミラーが警部補に打つ分だよ。』そう言って、とんでもなく事を言っていながら安心させるようににっこり微笑んで。 )






 

  • No.5312 by ベル・ミラー  2025-12-31 10:18:33 





( 表情にも声色にも機嫌の良さが溢れているのだが、それが逆に恐怖を与えて来る事を相手は知っているのだろうか。対照的に険しい表情のまま話を聞き続けるも、軽い音と共に何かの液体が入った小瓶2つが目前に置かれた途端にその表情は一変した。目を見開き、身体が硬直する。この薬の中身を己は知っている___穏やかな波の様に数回揺れた水面も、害などありません的な笑顔も、何もかもが恐怖だ。そして何が一番恐怖かって、それを散々苦しみ続けたエバンズに打たなければならない事だ。「っ、ちょっと待って!」と引き攣る喉から思わず声を上げれば周りのお客さん達数人が此方を見るものだから、結局感情を抑えるしかなく。ぐ、と膝の上で拳を握り締めてから「…これが取り引きだって事はわかってる、でも___エバンズさんは巻き込まないで。薬なら両方とも私が自分に打つ。ね?それだったら良いでしょ?」これ以上の苦しみを彼に与える事は絶対的に避けたいのだと、懇願がありありと浮かぶ瞳で“出来ない”は無しだと言われたにも関わらず取り引き内容の少しの変更を求めて )




  • No.5313 by アルバート・エバンズ  2025-12-31 11:29:49 

 



アーロン・クラーク


( 両方の薬を自分に打つ代わりに、彼は巻き込まないで欲しい______まさに、無機質な部屋でエバンズから頼まれた事と同じではないか。“自分は犠牲になっても良いから、代わりに相手を助けろ”と。『…っあははは、!本当、考える事は何処までも一緒なんだね。警部補も同じ事を言ってたよ、自分との取り引きにしようって。ミラーは巻き込まないで欲しいってさ、』可笑しそうに笑うと、目尻に滲んだ涙を拭いながらそう告げる。けれど、そんな言葉あまりに薄っぺらいじゃないか。『2人とも“自分が肩代わりする”ばっかりで飽き飽きしてたんだよ。だから2人の意見を平等に聞いた。なのに……これでも未だ文句があるの?』自分は振り回されているのだとばかりに肩を竦める。言葉尻は穏やかだが、瞳は笑っていない事に相手は気付くだろうか。『それに、お互い“出来ない”はなしっていう約束だったよね。ミラーがその気なら、俺も約束を反故にしたって問題ない。……“あのログ”を捜査したのが犯罪組織の仕業だって分かるように細工をしようか。警部補は、自分が罪を逃れるために別の署員からデータが送り付けられた痕跡を捏造した______可哀想な情報セキュリティ課の署員こそが、謂れのない罪をなすり付けられた張本人だって事になる。何年刑が加算されるかな、FBIでの信用も失墜するね。』相手を追い詰めるため、そんな事を微笑みながら告げる。『これは悪魔の取り引きだ。契約した以上、選ぶしかない。戻るも進むもイバラの道_____身動きなんて取れなくなる。分かってて俺に助けを求めたんだろう?』と、言い聞かせるように穏やかな口調で言葉を続けて。 )




 

  • No.5314 by ベル・ミラー  2025-12-31 13:05:15 





( 突如心底可笑しいとばかりに目尻に涙まで滲ませながら笑いだしたその声に思わず反射的に双肩が跳ねた。“警部補も”と言う事はこの取り引き内容を彼は知っていると言う事なのか。すっかり混乱してしまった頭で落ち着けと自分自身に言い聞かせるのだが、今置かれている立場はどう考えても相当不味い。まるで蛇に睨まれた蛙の如く逃げ出したいとさえ思うのに身体は動かず視線を逸らす事が出来ないのだ。逃げ道を塞ぐ様に、徐々に追い詰める様に___人質を取られている人の気持ちは正にこれなのではとさえ思う程。___彼が薬を打たれその大き過ぎる苦しみと恐怖の中、涙を流しながら助けを求めた姿がフラッシュバックし、思わず身体が震える。あの恐怖を再び、明確な己の意思で相手に与えろと言うのか。人の心を持たない正しく“悪魔”。僅かでも感謝したのが間違いだったと揺れる瞳で射殺さんばかりに睨み付けるのだが。この“悪魔”と取り引きをした時点で後戻りは出来ないのだ。「………何時、やればいいの、」唇に血が滲むほど噛み締めた後、聞こえるかも怪しい至極小さな声でこの先の進み方を問うて )




  • No.5315 by アルバート・エバンズ  2025-12-31 18:31:20 

 




アーロン・クラーク


( 今からでも彼を有罪に出来ると言った自分の言葉に、相手は観念したようだった。『いつでも良いよ、でも自分に薬を打つ時に、1人閉じ籠るのはなし。警部補の目の前でやる事が条件だ。…そうだ、あのバーにしようか。病院を出たらバーに来るように警部補に伝えてさ、素敵な演出だろう?』と楽しそうに提案する。彼の目の前で自ら薬を打たせる事で、彼の罪悪感を高める。自分を助ける為に、彼女は不要な苦しみを味わっているのだと見せつけるのだ。同時にミラーを自分に縋らせて、自分から離れて行く絶望も味わえば良い。『警部補への連絡は俺に任せてよ。俺の誘いなら絶対に来てくれるから。』笑みを浮かべながらそう言ってスマートフォンを軽く見せて。 )





 

  • No.5316 by ベル・ミラー  2025-12-31 20:18:49 





( 彼が病院に行ってる間に薬を打ち、鍵の掛けた部屋の中で1人耐える事が出来れば___その後何事も無かった様に笑顔でまた彼を出迎える事が出来れば、暖かい部屋の中ホットミルクでも飲んで、眠たくなれば同じベッドで眠る…そうしてまた繰り返される同じ日常の中に身を置けば、それで全てOKだったのに。何が素敵な演出だ。「…地獄に落ちろ、」出した事の無い程低く、冷たい声で告げたのはありったけの殺意と嫌悪を纏った音。今この場で殺してやりたいとすら思うけれど契約はどうしたって執行されるのだ。「___やるなら、早くして。」出されたスマートフォンを叩き割りたい気持ちを抱えたまま、視線を逸らす事無く睨む様な瞳で見据え続け、呼ぶのなら早くしろとばかりに )




  • No.5317 by アルバート・エバンズ  2026-01-03 05:17:13 

 




アーロン・クラーク


( 怒りを滲ませる相手の言葉にも『情熱的だなぁ、ゾクゾクするよ。』なんて笑って見せる始末。相手に急かされてエバンズの電話番号を押すと電話を掛ける。数コール後に彼の声が聞こえると『出所、おめでとうございます。体調は大丈夫ですか?…実は、貴方を解放した見返りに、ミラーにお願いする事が決まったんです。“あの“バーに来てください、懐かしい遊びをしましょう。』と告げて。バーへの呼び出しに悪い予感がしたのか、焦った様子で此方を問い詰めようとする彼に対して『此れは契約なんです。貴方だって、ミラーを犠牲にしてでも冤罪を免れたかったんでしょう?助けたのにとやかく言われるのは心外です、俺の気が変わらない内に直ぐ来てくださいね。』と微笑むと、一方的に電話を切って。そうして此方を睨んでいた相手に視線を向けるとにこりと笑い『______さぁ、此れで役者は揃った。バーに行こう、カクテルは奢るから。』と、相変わらず演技がかった口調で声を掛ける。同時に牽制の意味も込めて『…文句を言うのは無しだよ、危険を犯して助けたのに何も感謝されないなんて事になったら、気分が良くないからね。』と脅しておくことも忘れない。せっかく言われた通りに力を貸して彼を助けたのに責められてはたまったものじゃないと。エスコートするかのように相手に手を差し出すと、共にローズバンク通りのバーへと向かい。 )






 

  • No.5318 by ベル・ミラー  2026-01-03 10:49:31 





( 牽制の言葉にも返事を返す事無く睨み付けるだけ。差し出された手を取る事も無く立ち上がり、自分が頼んだ飲み物のお金だけはきっちりと払うと重たい両足を引き摺る様にしてお店を出て。___BARの中は相変わらず薄暗く独特の雰囲気を醸し出していた。此処には嫌な思い出が多過ぎる。自然と表情は強張り、立ち竦みそうになる足を懸命に動か促されるまま店の奥の方へ進むと、ややして壁に凭れる様にして再び相手に睨む様な視線を向け「…そんなに人が苦しむのを見るのが楽しい?、」と、徐に問い掛ける。あの電話の内容ならばエバンズは間違いなく此処に来る。そうして来たら最後、再び薬により増幅された恐怖を一身に受け苦しむ事になるのだ___もう既に十分過ぎる程苦しんで生きていると言うのに。例え“あの事件”の遺族だったとしても、彼を苦しめる権利は何処にも無いのに )




  • No.5319 by アルバート・エバンズ  2026-01-03 12:19:01 

 



アーロン・クラーク


( 今は店として営業していないバーだが、中にはウイスキーやリキュールなどの瓶が幾つも残っている。カウンターの中に入り、グラスを光に翳して汚れていない事を確認すると、カシスのリキュールを開ける。カクテルを作る準備をしながら、相手の問いには自然な雑談のように微笑を浮かべて頷いて。『_____勿論楽しいよ。人が追い詰められた時の表情が好きなんだ、最も人間的で…最も美しいだろう?』そう答えながら恍惚とした表情を浮かべる。『それに、ミラーが苦しめば警部補は自分を責める。“また守れなかった”って。…あの人のああいう顔が堪らなく好きなんだよ。俺にとってはミラーも警部補も大切だから、壊れていくところまでちゃんと見ていたい。自然な感情だろう?』そんな事を言いながらグラスの中身を混ぜていると、バーの入り口の扉が開く。息を切らせたエバンズが立っているのを見ると『…来てくれたんですね。出所して直ぐに呼びつけちゃってすみません。』と肩を竦めて笑う。政府機関で顔を合わせた時と同じく未だ隈は濃い。彼とミラーが顔を合わせるのは1週間と少しぶりくらいだろうか。『お約束通り、警部補が犯罪者になってしまう前に助けました。代わりにミラーが苦しむ羽目になったんですけどね。…まぁ座ってください、今カクテルを出しますから。』と促して。 )






 

  • No.5320 by ベル・ミラー  2026-01-03 13:07:14 






( まるでバーテンダーが客との会話を楽しむ様な様子だがその内容は酷く歪んでいた。“大切だから壊れていく所まで見たい”と言う気持ちが自然な感情だと笑顔で言ってのける相手を理解する事は到底出来ない。「…私には一生わからないし、わかりたくもない。」と低く吐き捨てた後は視線を静かに下方へと落とすのだが。今はもう営業していないBARの扉が開いた事で弾かれた様に顔が持ち上がる。そこに居たのは今最も顔を合わせたくなかったその人。会いたかったけどこの場所に来て欲しく無かった___相反する2つの気持ちが複雑に絡み合い、この先に起きる全ての事を想像し泣き出しそうな気持ちになる。クラークがカウンターの中で優雅にカクテルを作ってるのを確認し、足早に相手の元に駆け寄ると、1週間ぶりの挨拶諸々も置き去りに相手の片腕を掴み「聞いてエバンズさん…!、確かに私はクラークと取り引きをしたけどそれは全部私の判断。自己犠牲なんかじゃないし、ましてやエバンズさんのせいだなんて事は少しも無い。これが最善だと思ったから選んだの。忘れないで、」まだ取り引き内容が何かを知らない相手に十分な説明も無いまま、伝えなければと思う感情だけを焦燥を纏った早口で告げつつ、それでも瞳の奥にある覚悟の色だけは消えていないだろう )




  • No.5321 by アルバート・エバンズ  2026-01-03 17:18:12 

 



( 病院を出て直ぐにタクシーに飛び乗り、指定されたバーの近くの大通りで車を降りる。裏道に入ると、嫌な記憶の蘇るバーには、“Closed”と書かれた看板が斜めになって掛かっていた。中に入ると、暗い店内には2人の姿。バーテンダーかのようにカウンターでカクテルを作るクラークの姿を認識し直ぐに歩みを進めようとするのだが、それよりも早く相手が自分の片腕を掴んだ事で視線が落ちる。矢継ぎ早に訴えるように相手が紡いだ言葉に首を振ると「_____お前は戻れ、此れは俺とあいつの間で取り交わした契約だ。」とだけ告げて、扉の方へと相手を押しやる。其のやり取りを見ていたクラークは、マドラーで中身をゆったりと掻き混ぜながら『…ミラーが此の店から出た瞬間に、貴方が全ての罪を被る事になりますよ。犯罪組織に情報を売りながら、無関係な情報セキュリティ課の署員に罪を擦り付けた。ログを操作する事なんて造作も無い。何年刑務所に入る事になりますかね、』と告げて。身動きを取れなくなった2人を片目に『今日は、カクテルに“あの薬”を混ぜてみたんです。飲んでから効果が出る迄、注射よりは時間が掛かるでしょうね。…時間が経つごとに恐怖に追い詰められる。』と告げて、相手にグラスを差し出して。 )





 

  • No.5322 by ベル・ミラー  2026-01-03 19:16:14 





( たった一言で身動きが取れなくなる程に、彼の言葉は強く或る意味呪いだ。そして一瞬で終わらせず敢えて苦しみが長引く方法を選ぶ彼は紛れも無い悪魔だろう。最も恐れるのは増幅された苦しみの渦中に身を置く事では無く、そんな己を見た相手が自分自身を責め再び過去の痛みを思い出してしまう事だ。受け取らない選択など出来る筈もな無く、冷たくなった指先に力を入れ彼からグラスを受け取る。赤紫がグラスの中で揺れ、カシスの香りが仄かに鼻腔を擽るそれは“何も混ぜられてなければ”とても美味しいカクテルだっただろう。___これを飲んで、このBARを出て1人になる事も、何処か別の部屋に閉じ篭る事も出来ないのだ。「……、」せめてもの抵抗とばかりにクラークを再度睨み付け、2人から少し離れた壁際にある椅子に腰掛けた後、深い息を吐き出してから中身を煽る。薬自体は無味無臭なのだろう、特別変な味や香りを感じる事無く赤紫はあっという間に胃に落ちた。___それからものの数分、ドクン、と心臓が大きく脈打ち言い表す事の出来ない嫌な感覚が全身に広がるのだが、彼の言う通り注射じゃない為じわじわと恐怖が膨れ上がるのだろう、まだパニック発作を起こす程では無いが時間の問題なのは自分自身が一番良くわかった。荒い息が漏れ、掌に爪が食い込む程握り締めながら僅かに俯く。落ち着け、大丈夫だ、と言い聞かせるのだが、やがて小さな身体の震えから徐々に恐怖に追い詰められて行き )




  • No.5323 by アルバート・エバンズ  2026-01-03 23:42:12 

 



( 飲むなと叫びたかったのに、相手が其の赤紫のカクテルを呷る姿をただ見ている事しか出来なかった。自分の事は良いから彼女を助けてくれと赦しを乞えば良かったのか、けれど謂れの無い罪を背負って一生其のレッテルと共に生きて行く事はそう簡単に選べなかったのだ。自分の保身の為と言われればその通りだ。直ぐ近くに居るのに何も出来ないという無力感は、“あの事件”を思い起こさせた。また、何も出来ずに自分だけが傷付かない道を選ぶのか、と。『…警部補、其処から動かないで下さいね。“貴方が”ミラーに此の決断をさせたんです。貴方を救おうとしなければ、俺と取り引きなんてしなかったでしょうね。…今回も、其処で見ていてください。』ミラーがカクテルを飲み干したのを見届けると、ややしてクラークはそう言って笑みを浮かべた。彼女が苦しむのは全てお前の所為だと刷り込むように紡がれる言葉。少し離れた場所で立ち尽くしたままでいると、彼は相手へとゆっくり近付いた。そうして、まるで見せ付けるかのように相手の座る椅子の傍らに膝を突き、相手を見上げながらそっと手を握る。『_____ミラー、大丈夫だよ。俺は此処に居る。…こんなに震えて、可哀想に。本当はこんな苦しみとは無縁の筈だったのにね、』呼吸を上擦らせている相手に優しく声を掛けながら、寄り添うように背中を摩って。 )





 

  • No.5324 by ベル・ミラー  2026-01-04 03:22:22 





( ___喉を通った薬は体内から静かに、けれど確実に過去の恐怖を増大させ連れて来た。身体がまるで痙攣を起こしているかの様に震え、それを自分の意思で止める事が出来ないのもまた恐ろしい。クラークが傍に来た時には既に残り僅かだった理性は恐ろしい記憶に飲み込まれた後で、手を握られ背中を擦られた事で勢い良く顔を上げると、もうその緑の瞳には彼の姿しか映ってはいなく。あっという間に溜まった涙は頬を伝い大粒の雫となって顎先から落ちる。殆どまともに出来ていない呼吸の合間に「…め、なさ…いっ、ごめ…っ……!、」と、途切れ途切れの謝罪を繰り返すのだが、それが誰に向けたものかは不明。暗い地下室で見た男、助けられなかった沢山の被害者達、そうして幼い少女の姿。数秒の間に様々な人達の幻覚が見えた。目前に居るのがクラークであると認識出来ぬまま、伸ばした指先は彼の服を緩く掴み、離れないで欲しいと訴える。怖くて怖くて、誰かに縋っていないと心を保てなかった。「…1人に、しないで…っ!」身体を無理矢理動かし、彼の首に両腕を回し、懸命に抱き着きながら嗚咽する。___と、見えていた恐怖の種類が変わった。一度大きく双肩が跳ね、声にならない悲鳴が漏れた。“エバンズさん”と唇は動いたのだが、音として出る事は無く、ただ、虹彩には恐怖と別に絶望の色が広がり )




  • No.5325 by アルバート・エバンズ  2026-01-04 16:41:12 

 





( 相手が恐怖に沈む姿を、泣きながらクラークに縋り付く姿を、ただ見ている事しか出来なかった。あの時と同じ、頭では動くべきだと分かっていても身体が硬直してしまって動かないのだ。『…この耐え難い恐怖の中にも、警部補が居るんだね。』ミラーを抱き寄せ背中を摩るクラークは耳元でそう囁きながら慈しむように相手の髪を撫で、やがて此方を見て微笑む。『貴方は罪な人ですよね。貴方の存在がミラーを苦しめる。そして、その苦しみの中にも貴方は現れる。_____彼女を自分に縛り付けているんですよ。ミラーは光の側に居た筈なのに、貴方が闇に引き摺り込んだ。』クラークの言葉は、鋭利な刃物のように心に突き刺さる。彼の言う事は間違いではなく、自分と関わりさえしなければ、相手はこんな闇を知る事もなかったのだ。過去の様々な辛い記憶がフラッシュバックし、泣きながら震えている彼女の苦しみは計りきれず、クラークの服を握りしめる手にも力が籠っている。クラークの狙い通り、相手の側に居るべきではないという想いばかりが膨らんでいた。 )




 

  • No.5326 by ベル・ミラー  2026-01-04 17:37:16 





( 頭の中に流れる恐怖の映像は実際にあった過去の出来事から、何時の間にか“創り出した”映像に変わっていた。___風景は暗く周りに明かりは無いのにエバンズの姿だけは確りと見える。相手の背後に聞こえる音は恐らく波で、だとするならば此処は海だろうか。名前を呼び、伸ばした手は強い力で振り払われ、己を見る褪せた碧眼は酷く冷たい色が滲んでいる。「エバンズさん」ともう一度呼び掛けたのだが返って来た返事は「誰だ、気安く呼ぶな。」と言う冷徹なもの。相手は己を知らない。___再び映像が変わり足元には少女の遺体。その傍には相手が立っていて矢張り冷たい目をしている。そうして「助けられなかったのか、お前には心底失望した。」と吐き捨て背を向けるのだ。___“エバンズが居なくなる事”“失望される事”が何より恐ろしいのだとこの薬は正直な気持ちを押し上げてくれるものなれど、“毒薬”だ。奇しくも相手が離れなければと思う気持ちと、己が恐ろしいと感じる事は同じ。「行かないで…っ、」と、絞り出した声は小さく震え、至近距離に居るクラークにしか聞こえていないだろう。後は何も言葉無く、ただただ絶望と恐怖の中に身を置き、ややして体力や精神力の限界が来たのか徐々に身体の力が抜けていき彼に身を預ける形となり )




  • No.5327 by アルバート・エバンズ  2026-01-04 19:33:51 

 





( 自分が離れて行く事を相手がどれ程恐れているか、知る由も無かった。「____此れは、俺とお前の取引きだった筈だ。…っ頼むから、解毒剤を打ってやってくれ、」相手が苦しむ姿を見ている事に耐えられず、そう言葉を振り絞る。崩れるようにしてクラークに身体を預ける相手と、上下する肩を摩る彼。そして、成す術もなく立ち尽くしている無力な自分。相手が犠牲になる必要など何処にもなかったのに、今苦しみを受けているのは全て自分の為だ。“自分が、闇に引き摺り込んだ”______クラークの言葉は棘のように心を抉る。また“失う“かもしれないという思いは、重くのし掛かるばかりで。 )





 

  • No.5328 by ベル・ミラー  2026-01-04 20:17:25 






( 頭の中に流れる映像は電源が切られた様にぷっつりと途切れ真っ暗になったのだが、漠然とした恐怖心は理由無く心身を蝕み意志とは関係無く流れ続ける涙を止める事も出来ず、ただただ力の入らぬ身体を唯一ある“温もり”に委ねるだけ。___真下にあるミラーの柔らかなグレーの髪を梳く様に撫でながら相手からの懇願に再び顔を向ける。一歩たりとも動く事が出来ずに居る相手に『身勝手に闇の中に引き摺り込んでおいて、自分の力で助け出す事も出来ない。…貴方、“ミラーの人生”を壊すつもりなんですか?』目だけは全く笑っていない微笑みで、まるでミラーに寄り添う様な辛辣な言葉を吐き捨てた後。それでも既に虚ろな目で言葉を発する事も出来ない腕の中のミラーにこれ以上の“愉しさ”は望めないと思えば、器用にその身体を支えながら内ポケットから望み通りの解毒剤を取り出し。『俺が取り引きをしたのはミラーですよ。でも、予想以上に愉しませて貰ったので後は貴方たちの観察をする事にします。』と、告げつつ解毒剤をミラーの首に打ち、そのままぐったりしている身体をソファへと横たわらせて。『はい、ドーゾ。お返しします。』態とらしく両手を軽く上げて一歩後ろへ下がり、そのまま位置的に良く見えるバーカウンターの中へと再び戻って行き )




  • No.5329 by アルバート・エバンズ  2026-01-06 16:35:38 

 





( 自己犠牲でも、自分の所為で起きた事でもないと相手は言ったが、其れは嘘だ。あの拘置所から自分を救い出す為に_____その為だけに、相手はクラークと契約を結び、襲い来る恐怖に苦しんだ。そして、自分の力だけでは彼女を助ける事も出来ず、クラークに縋り付く姿を見ている事しかできない。無力感が心に影を落としたものの、相手に解毒剤が打たれクラークが離れると、ようやく相手の側に近づく事が叶うようになる。「____っ、ミラー、」相手の名前を呼び、ぐったりしている相手の肩を揺する。そうして棚に何本もストックされているミネラルウォーターのペットボトルを手にするとキャップを開け、始めに注射針を刺された首元を濡らし、相手の口元へと近づける。「直ぐ楽になる、…こっちを見てくれ、」視線が合わない事に焦りを感じ、相手に呼びかけながら頬を撫で。 )





 

  • No.5330 by ベル・ミラー  2026-01-06 19:56:12 





( 胃に落ちた薬とは違い、注射器で直接血管を通り流された解毒剤は遥かに短い時間で恐怖を取り去った。けれど身体に残る倦怠感は大きく、過呼吸による酸欠状態になっていた為か指先は冷えてしびれが残ったまま。呼び掛けに応える事も身体を動かす事も出来ず、上手く焦点を合わせる事の出来ない瞳が捉えたのは口元に近付けられたミネラルウォーターのペットボトルで、飲みたいと言う意思で重たい唇を開くが空いた隙間は極僅か。結局少量の水すらも飲み込む事が出来ず、苦しそうに眉を寄せ数回咳き込み、その際口の端から溢れた水は頬とソファを濡らす事となり。頬を撫でる相手の指先の温もりを感じ取れているかは定かでは無い。虚ろな目に真っ直ぐ相手は映っていないものの、たっぷりの時間を掛けて漸く少しばかり呼吸が落ち着いてくると、「……帰りたい…、」とだけ、絞り出した至極小さな声量で告げて )




  • No.5331 by アルバート・エバンズ  2026-01-08 18:08:16 

 




( 差し出した水は相手の頬やソファを濡らし、胃の中へと落ちる事はない。苦しそうな様子にどうしようもなく胸が痛むのだが、今自分が相手を不安にさせるような表情や振る舞いをするべきではないと感じ、それを表に出す事はしなかった。相手が絞り出すように紡いだ言葉に頷くと「……あぁ、分かってる。直ぐに帰ろう、」と同意を示す。様々な感情が渦巻いてはいるものの、もうこれ以上この場所に留まっている必要はない。カウンターの中にいるクラークには見向きもせず、相手を家まで送り届けるためソファに身体を起こさせると背凭れにもたれさせて。 )





 

  • No.5332 by ベル・ミラー  2026-01-08 19:05:34 






( 全体重を掛ける様にして背凭れに凭れ、その際重たい腕を持ち上げ相手の腕に力の入らぬ指先を引っ掛ける。倦怠感や僅かに残る震えから握るだけの力は無いものの“近くに居て”の意思表示だ。___そんな2人の遣り取りを珍しく黙って見ていたクラークだったが、家に帰るとの話になれば別。契約の1つは達成されたかもしれないがまだもう1つが残っているのだから、それを無かった事には出来ない。『__ちょっと待って下さい。』と言いながらカウンターから出て相手の元に近付くと、スーツの内ポケットから次は液体の入った小さな小瓶を取り出し中身を揺らす様に見せ『…これ、ミラーが飲んだ薬と同じものなんですけど、実はもう1つ契約がありましてね。貴方も飲まなきゃいけないんですよ。…今この場で飲んでもらうか、それともまた日を改めてミラーが元気な時にするか__これをミラーが貴方に打つ姿も唆られますよねぇ。どんなシチュエーションが一番良いかずっと考えてるんですけど、折角だから貴方の意見も聞きたいなぁ。』恍惚とした表情とまるで物語を語るかの様な口調で緩く首を傾けつつ。最後には、『貴方を助ける為に、貴方を苦しみに落とす契約をする、皮肉ですよね。』と締め括り、ぐったりしているミラーに徐に手を伸ばし涙の跡の残る頬をゆるゆると撫でて )




  • No.5333 by アルバート・エバンズ  2026-01-09 02:53:43 

 





( カウンターの中で黙って成り行きを見ていた彼だったが、そのままクラークを無視してバーを出る事は叶わなかった。呼び止められ、近づいて来た彼が徐に取り出したのは先ほどと同じ薬の入った小瓶。相手を苦しみに突き落としておきながら、これ以上を求めるのかと思わず絶句する。この男と“取り引き”をすると言うのはこういう事なのかと理解させられる状況だった。この薬を、ミラーが自分に打つ______あの耐え難い恐怖と苦しみを思い出すだけで背筋が凍るのだが、相手の心を守る事も考えなければならない。この状況を覆せないのなら彼に従うしか無いのだが、今相手の意識が朦朧としている状態で終わらせるべきか、それとも間違いなく精神的に落ちている相手にこれ以上の負担を掛けない為に今は避けるべきか。答えなど出る筈もない。弄ぶように相手の頬を撫でる手を強引に掴み離させると、そのまま「…其れを寄越せ。今、自分で飲む。」と告げて。クラークを見つめる瞳には、冷ややかな憎しみと葛藤と恐怖とが渦巻いているものの、振る舞いはあくまで理性的なもので。相手に薬を打たせるという状況はやはり避けたかった。今目の前に薬があるのだから、自分で飲んだって構わない筈だと。 )





 

  • No.5334 by ベル・ミラー  2026-01-09 13:17:04 





アーロン・クラーク



( ミラーの柔らかな頬を撫でていた時間は僅か。強い力で以て引き剥がされれば、その行動に可笑しそうにクツクツと喉の奥で低く笑い。至近距離で見る相手の碧眼に渦巻く感情の色は様々で、覗き込む様な角度で暫し何も言わず表情を眺める。薬を飲む事でどんな恐怖に襲われるか___何度も体験している相手が一番良くわかっていて本来ならば嫌だと拒絶したい筈なのに、その恐怖とミラーの心を守る狭間であくまでも冷静に、理性的に振舞おうとするその何と健気な事か。『本当、可愛らしい人ですよね。』と、しみじみ呟いた後は。けれど、望み通り渡す事なく『それも悪くは無いんですけど……やっぱりミラーに頼みます。それが最初の契約だった訳だし、どんな顔で貴方に薬を打つのか見たいですしね。__と、言う事で。ミラーの意識がしっかりするまでは此処に居て下さい。ミラーに付き添ってても良いし、暇なら俺がお喋りに付き合っても良い。此処から出なければ何をしても自由ですが…一歩でも外に出ればどうなるかは、態々言わなくてもわかりますよね。』薬を再び内ポケットに戻してから、“進み方”を勝手に決定しつらつらと説明した後、『お酒が飲みたかったら作りますから、遠慮無く。』なんて微笑み、またカウンターに戻ると自分が飲む分を先に作り始めて )




  • No.5335 by アルバート・エバンズ  2026-01-15 01:31:44 

 




( 最悪な状況下で考え得る限りの最善策は、ことごとく打ち砕かれた。自分で飲む事も許さず、相手の意識がはっきりするまで待てと。「______何処までも悪趣味だな、」とだけ吐き捨てると、カウンターの方へ向かう事はせずソファに横たわる相手の側に留まって。取り乱さないよう、表向きはあくまで冷静に取り繕っているが思考はそうはいかない。自分を救う為に相手を苦痛に沈めてしまったという罪悪感は冷たく背中を這い上がって来るのだが、同時に此れは自己犠牲ではないのだと訴えた相手の真っ直ぐな瞳が其れを押し留めようともしていた。自分が相手の近くにいる限り、クラークはそれを“弱み”と見做し相手に危害を加えかねないという不安は、レイクウッドを離れた時の心情とよく似ていた。“身勝手に闇に引き摺り込んだ”というクラークの言葉と、ソファでぐったりしている相手の姿とが気持ちを追い詰め、相手の肩をゆっくりと撫でていた手に思わず僅かに力が籠り。 )






 

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