刑事A 2022-01-18 14:27:13 |
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( アンナの遺体を目にした事で、当時の絶望の中で思い出さないようにと、恐らく無意識な自衛として蓋をしていた記憶までもが甦っていた。十数年間“忘れていた”記憶。せめて苦痛を感じる事なく何が起きたのかも分からぬままに…と、ずっと願っていた。______けれど。自分は知っていたのだ。立ち尽くした自分の目の前で、犯人が自害し現場が喧騒に包まれる中、妹が自分の名前を呼んだ事を。小さく震える声で“お兄ちゃん”と、セシリアが声を上げた事を。自分の姿は見えて居なかっただろう、血溜まりが靴の先まで広がる中で白い手が縋るように伸ばされ、靴に触れた。しかし身体が動かず呆然としている間に、しゃがみ込んで彼女の手を握ってやる前に、彼女は動かなくなった。痛みの中で自分を探した彼女を安心させてやる事も出来ず、一人で逝かせてしまったのだ。相手に引き摺られるようにして車に連れて行かれる間、意識が彷徨っていたのはそんな記憶の中。背もたれが深く倒された助手席のシートで、痛みを逃すように身体を僅かに横に向けるのだが呼吸は一向に落ち着く気配がない。相手の言葉さえ届かない中、酷い発作的な症状は数十分は続いただろうか。皮肉にも、意識を今に戻す手助けをしたのは“痛み”だった。鋭く走った痛みに思わず鳩尾を抑えた時、意識が“今の”痛みに向いたのだろう。自分が車に居る事に気が付き、暗く沈んでいた瞳にほんの僅か光が映ると、視線は虚げに宙を彷徨って。 )
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