刑事A 2022-01-18 14:27:13 |
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( 重なる碧眼から恐怖の色が消える事も、その身体から震えが消える事も無い。掛け布団の上から懸命に背を擦るが相手の発作は治まらず直ぐ近くで聞こえる苦しげな息遣いが落ち着く事も無いのだ。アダムス医師の提案によって点滴による治療を受けている事は勿論知っていたし、それが相手を少しでも楽にすると思っていたのに、実際は殆ど効果が見られず__否、効果はあるが相手に掛かるストレスがそれを上回っているのだろう、悪い方悪い方に堕ちるばかり。悪夢に魘される云々の前に、眠る事すら出来なくなっている。__何も出来ない、それが一番苦しかった。嫌だと首を振りまるで幼子の様に懸命に拒絶を表す相手の涙に濡れる瞳は心を締め付けるのだ。同調する様に緑の瞳にもまた涙が浮かび、俯く事で重なっていた視線が漸く外れた。出来る事は痛みを取る事でも、苦しみを和らげる事でも無い。ただこの小さな明かりだけが灯る薄暗い部屋の中、物理的な寒さを感じない様にと相手の背中を擦る事だけ。“無力”と言う言葉がピッタリの状況ではないか。「……痛いね、…苦しいね…っ、」相手の感じる絶望を言葉にし肯定しながら俯いたまま、片手で背を擦り、もう片手は鳩尾を握り締める相手の手に重ねる。酸素が上手く回らないせいか細く骨張った指先は冷たく小さく震えていて、誰か助けてあげてと叫び出したくなるし、このまま何も感じぬよう意識を失って欲しいとさえ思う。___ただ、相手の瞳に唐突に滲む恐怖の色だけは何故かある種の疑念を植えて残ったのは確かで。ふ、と遡った記憶の1日。給湯室で相手と顔を合わせた時も、その後捜査の話をしに執務室を訪れた時も、何気無い会話の中で視線が絡んだ時も、相手の瞳には大小あれ恐怖を纏った揺らぎが見えていた。背を擦る手が止まり、息を飲む。100%では無い、けれど可能性としては0では無い浮かんでしまったその考えは身体を硬直させ顔を上げる事を躊躇わせるには十分で )
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