刑事A 2022-01-18 14:27:13 |
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( 一度は何も無いと首を振った相手から視線を外す事はしなかった。“何か”きっかけがあるのは間違いないという確信があったからだろう。ややして相手が語った事件には覚えがあった。自分が本部に異動して比較的直ぐの頃、レイクウッド署の管轄で事件があった事は覚えていた。幼い少女が犠牲となった痛ましい事件だったと記憶している。_____相手は、あの日の自分を、幼い少女を救う事ができなかった自分を責め続けているのだと、続く言葉を聞いて気付いた。どうする事も出来なかったと分かっていても、その瞬間の自分の選択、行動を反芻し本当にあれしか道は無かったのかと後悔し続ける。周りの誰に何を言われても、其れを素直に受け止めて自分の気持ちを立て直す事などできない。思い出すのは目の前で起きた惨劇と、其処にいながら何も出来なかった自分への失望。相手の気持ちが漸く分かり、涙を流す相手を見据えて。「……お前の抱える苦しみは良く分かる。必死に、その時自分に出来る最善の選択をしたとしても、最善の結果がもたらされない事はこの仕事をしていると、残念ながら起き得る事だ。ただ、過去をどれだけ悔いても、其の瞬間に戻る事は決して出来ない。」相手に寄り添うような、相手の全てを肯定するような優しい言葉ではないだろう。けれど、似た苦しみを経験しているからこその思いを、言葉を選びながら紡いで。「______前を向けだなんて、俺に言えた事じゃないが。俺は、目の前の仕事に全身全霊を掛けて臨む事だけが、過去への贖罪になると思ってる。…贖罪の為に自分の身を投げ打つべきだと言う事じゃない。犠牲になった子にしてやりたかったと思う行動を、その時は不可能だった“最善”を、次に関わる人達に向けるんだ、」過去に縛られ続けている自分が何を言った所で相手には響かないかもしれないが、涙で潤み真っ赤になった相手の瞳をじっと見つめたまま告げる。自分を犠牲にしてでも人質を救おうと盲目的に行動するのではなく、その時にしてあげたかった事、その時は出来なかった事を、今後自分が刑事として関わる事件で助けを求めている人に差し伸べるべきだと。 )
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