刑事A 2022-01-18 14:27:13 |
|
通報 |
( 求めていたのは“ベンチに行く前”のエスコートだ。案の定食い気味に返した返事は「そういう事じゃない」の一言で。相手がスープジャーの蓋を開けた事で海風に乗ったコンソメの香りが隣に座る己の元まで届いた。勿論味見もしているし香りだけで味を断定する事は基本無いが、これはなかなかに良い出来だろうとひっそり胸中で呟いた自画自賛は相手からの何より嬉しい賞賛の言葉で膨れ上がると言うもの。「良かった、」と微笑み自分用のスープジャーの蓋を開け中の温かいスープを一口。同じ海を見ながら同じ風に吹かれ同じものを飲む___不思議な事では無いけれど、不思議な気持ちになるのは何故か。暫く互いに沈黙が続き、穏やかな波の音の間で隣から溢れ落ちた言葉を拾い、思わず弾かれた様に顔を向けた。刑事で在り続けたい、けれど心身は確実に悲鳴を上げ痛みも苦しみも消え去ってはくれない。楽になりたいのに自分だけが許されてはいけないとも思い、過去は何時だって顔を覗かせる。“どうしたら良いか”それは何十年も相手自身が一番自問自答し苦しみ続けて来た事だろう。続けられた余りに穏やかな呟きに何故が心臓が大きく跳ねた。理由はわからない。何かを口にしようとした唇が薄く開き、結局言葉無く閉じ、頭は再び正面へ。次の沈黙は先程よりもずっと長いもので、水平線を見詰めたまま数分___「……海の近くで一緒に住むのは…?」相手に視線を向ける事無く紡いだ問い掛けは思いの外小さかったかもしれない。「…ほら、それだったら捜査で苦しくなっても、家に帰って来て窓の外を見れば少しは気持ちが楽になるかもしれないし、今よりずっと短い時間で来れる。__今すぐとかじゃなくて…エバンズさんがそれもありだなって思えた時とか、……」結局肝心な所で臆病な己はまるで言い訳の様な説明文を早口で紡ぐのだ。海の近くに住むだけなら別に2人一緒じゃなく相手1人でも良い、と言う客観的な所は勿論見えないまま )
| トピック検索 |