白む空に燻る紫煙 ---〆

白む空に燻る紫煙 ---〆

刑事A  2022-01-18 14:27:13 
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  • No.3977 by アルバート・エバンズ  2023-11-01 22:58:35 

 






( 相手はまるで子どものようにパッと顔を明るくして直ぐに車のキーを手にした。その後助手席に乗り込み家まで送って貰ったものの、相手は当然のようにエンジンを止めて悪戯な笑みを浮かべるのだ。夕食だけ食べて帰るとか、少し話をしたら帰るという選択肢もあるわけで「…泊まれとは言ってない、」と曖昧な表情で返事をして。部屋に入りジャケットを脱ぐといつものようにソファの背凭れに適当に掛けネクタイを解く。相変わらずほとんど物は入っていないのだが「冷蔵庫にあるものは好きに食べて良い。」と相手に伝えておき。 )






 

  • No.3978 by ベル・ミラー  2023-11-01 23:27:25 





( 曖昧な表情で返されたこれまた素直さの欠片も無い返事は華麗に無視。本当に泊まりを拒否したい時の相手はこんな風な言い方もしないし、そもそも間違い無く問答無用で家に帰るよう突っぱねて来る筈なのだから。__部屋の中は何時来ても殺風景で必要最低限の家具しかない。だがゴチャゴチャとしていないそこは酷く安らぎを運び、何時しか自分の家と同じくらい安らぐ事の出来る場所へとなっていた。相手と同じようにしてジャケットをソファの背凭れに掛けてその足でキッチンへと向かえば軽く頷きつつ徐に冷蔵庫を開ける。中身がまだ半分以上残っているミルクと、簡単に食べられそうなお惣菜各種のタッパーが数個確認出来た。「…ホットミルク飲む?」然程空腹を感じている訳では無い為に、惣菜の一つを取り出し顔を相手に向けると、恐らく相手1人ならば手間だと思いなかなか作る事をしないだろう飲み物の提案を )




  • No.3979 by アルバート・エバンズ  2023-11-02 02:42:26 

 






( 相手は此方の言葉を無視して冷蔵庫を開けた。拒絶されている訳では無いのならと帰らない選択をしたらしい。此方のの反応が曖昧な物か、それとも本気で拒絶したい時の物か_____そういう所の見分けばかり敏くなるのはどういう訳か。此方も居座る様子の相手に何を言うでもなくソファに腰を下ろすと背凭れに身体を預ける。じわじわと倦怠感を感じるのは薬が切れてきているからだろう、薬が効いている時は体調など気にもならず目の前の事だけに集中出来るのだから薬を飲み繋いででもその状態を維持したいと思うのも仕方のない事。相手からの問いには「…飲む、」とひと言頷いて。 )






 

  • No.3980 by ベル・ミラー  2023-11-02 07:32:04 





( 相手からの返事には「了解。」と一言。冷蔵庫から取り出したミルクを小さめの鍋に注ぎ入れ、弱火で底が焦げつかないように静かに混ぜる。熱が加わった事で更にまろやかな香りが強まりその優しい香りが部屋中に静かに広がる頃、火を止め二つのマグカップに白を静かに注ぐと、先ずはそれらを両手に相手の座る目前のテーブルへと置き。続いて蜂蜜とお惣菜のタッパー、相手が食べるかはわからないが一応二本のフォークも運ぶ。そうやって全ての物が揃った事で相手の隣に腰掛けると「少しでも薬が効いてる内に、今日は早めに寝よう。」点滴の効果諸々が最早後数時間程しか持たないだろう事がわかるからこその言葉を掛けつつ、ホットミルクに琥珀色の蜂蜜をたっぷりと溶かし甘味を増した温かな白をゆっくりと胃に落としていき )




  • No.3981 by アルバート・エバンズ  2023-11-02 17:25:22 

 






( 今は体調が良くても、其れが薬によってもたらされた一時的な効果である事は相手も当然把握している訳で、其の声掛けはもっともだった。暖かなマグカップを受け取りつつ特段抵抗を示す事もなく「…そうだな、」とだけ頷くと縁に口を付け。温かくまろやかなミルクが胃に落ちる感覚は穏やかなもの。何度か飲んだ後に蜂蜜の瓶を手にして甘みを足すと深く息を吐いて。身体が少しずつ怠さを訴えるようになっている所為でこの後の事を思って重たい気持ちにさせて。 )






 

  • No.3982 by ベル・ミラー  2023-11-02 18:17:12 





( “良い夢が見られますように”だなんて嘘でも言えない。薬で強制的に意識をシャットダウンでもさせない限り相手が悪夢に魘される事は最早決まって居るようなものなのだから。何を言っても気休めにしかならず、そんな言葉で相手の気持ちが晴れるとも思わなければ何も言葉にする事無く徐に伸ばした片手で相手の肩を優しく数回撫でて。そうやって暗に傍に居る事を示した次は、余計な言葉ではなくただ「…エバンズさんと同じ所で眠りたい。」と、あくまでも此方側の要望を音として伝えて )




  • No.3983 by アルバート・エバンズ  2023-11-03 00:55:22 

 






( 自分が抱いている心細い感情に気付いてか、相手に肩を撫でられるともうひと口ホットミルクを飲んで。「…ゆっくり眠れないと明日に響く、」と答えたのは、同じ場所で眠ったのでは相手が十分な睡眠を取れない可能性が高いと考えたから。ホットミルクの甘さと温かさを身体の中に感じながらソファから立ち上がると、「先に休む。シンクはそのままで良い、」と告げて寝室に戻ってしまい。 )







 

  • No.3984 by ベル・ミラー  2023-11-03 08:58:19 





( あっという間に寝室へと消えた後ろ姿に小さな溜め息を吐き出す。何を今更。暗い部屋の中1人で眠る事に恐怖するのならばそれを少しでも和らげる方法だけを考えれば良いのに。ゆっくり眠れないだなんて、例え夜中悪夢に魘される相手に起こされる事になったとしても隣で眠れる事の方が何倍も嬉しくて安心出来るのだ。__結局そのままで良いと言われたシンクを片付け、眠る支度を整えると数分後には相手の後を追って寝室に入り。「エバンズさんの隣じゃないと、もうゆっくり眠れない。」軽く布団を持ち上げ相手の隣に横になるや否や、そんな訳あるか、と言われても可笑しくは無い言葉を小声でさらりと紡ぎつつ、暗闇の中で見える背中に片手を添え、静かに摩るようその手を動かして )




  • No.3985 by アルバート・エバンズ  2023-11-04 02:28:01 

 






( 早々に寝室に来てしまったにも関わらず、キッチンの方で水を流す音がして程なく相手もリビングの電気を落として寝室にやって来た。自分の隣でなければゆっくり眠れないのだと言いながら布団に入って来た相手に、案の定「…そんな訳あるか、」と呆れたように返事をして。背中を摩られながら目を閉じていたものの、相手に背を向けたままの体勢で「…捜査を降りる以外の道を示してくれて助かった、」と、相手が一緒にアダムス医師に処置を頼んでくれた事に対する感謝を伝えて。自分で捜査を請け負うと言い出しておきながら不調に苦しめられ、捜査を全うできないかもしれない状況にやるせなさを抱えた。相手が捜査を降りる以外の道筋を示し導いてくれた事で助けられたと。 )





 

  • No.3986 by ベル・ミラー  2023-11-04 09:39:02 





でも、この場所が安心出来るのは本当。
( 呆れた様子の相手に「ふふ、」と小さな声を漏らしては、背中を撫でていた手を止め一度だけそこに額を軽く押し当て。凡そ数秒で離れると再び相手の背中を先程と同じようにして撫でつつ「うん。__きっと選べる道は沢山ある、私もまた一緒に考えるから。」と。今回不調や薬を飲んでいる事を相手は隠した訳だが、それは気付かれると直ぐに捜査を降りて休め、と言われると思ったからだろう。結果的に隠す事で更に辛くなる訳で、それなら先ずは捜査を出来る事を優先に、という新たな考えが生まれる切っ掛けでもあった。でも、と前置きしてから再び口を開くと「…本当に限界だろうって思った時は、ベッドに縛り付けてでも休んでもらうからね。」冗談か本気か__本気でやりかねない事を、それでも冗談めいた声色で伝えそれから静かに目を閉じて )




  • No.3987 by アルバート・エバンズ  2023-11-04 14:33:37 

 






( いつか強い薬の所為で無理をして身体を動かす事さえままならなくなった時、相手が自分に無断で捜査の指揮官を変えるべきだと警視正に掛け合った事があった。言うなれば其れが“限界だと判断した”時だったのだろう。実際にあの時は捜査の継続が不可能な状態だったわけで、ある意味相手の見立ては正しかったと言える。「…前例があるから、お前がテコでも動かない事は知ってる。」と答えると、そのまま目を閉じて。---極浅い眠りの中に居る状態でなかなか深く寝付けないまま数時間が経過していた。薬はすっかり切れ、必然的に呼吸は浅いものになる。息が苦しく背中には汗をかいて居て、水を飲もうとゆっくり上体を起こして。 )







 

  • No.3988 by ベル・ミラー  2023-11-04 15:03:04 





( __目を閉じてから眠りの淵へ沈むまではあっという間だった。何時の間にか意識は無くなりただただ相手の隣で布団に包まれる温もりだけを感じながら規則正しい寝息を繰り返して。ふ、とシーツの擦れる音と共に布団が僅かに持ち上がった感覚を頭の片隅で拾った。意識こそ完全に浮上する事は無いものの、何処かで相手の身動きする存在を感じているのか夢現の中、無意識に伸びた手が緩く、指先を引っ掛けるだけの力で以て相手の服に掛かると、簡単に離れる事が出来るだけの指先の力ながら、何処か満足そうにまた静かに胸元を上下させて )




  • No.3989 by アルバート・エバンズ  2023-11-05 22:55:52 

 






( 上体を起こした所で相手の指先が服に緩く掛かると、隣で寝ている相手に視線を落とす。目を覚ましている訳では無さそうで、規則正しい呼吸と穏やかな表情を見つめると起こさない程度に髪を軽く撫でてやりそっと服に掛かった手を外して布団の中に入れるとベッドを出て。寝室の扉を静かに閉めてキッチンに向かうと薬を流し込んでからコップに水を汲み、一度ソファに腰を下ろす。暗い部屋、しんと静まり返っているのはいつもと同じなのに少しばかりひんやりとした空気が和らいでいるように感じるのは相手が家の中に居る事によるものか。酸素が薄く感じるような苦しさがあるのだが、今ベッドに戻っても眠れそうにない。寝付きを良くする為にとアルコールを摂取するのは久しぶりの事、相手が見ていたら薬を飲んだのだからと嗜められたであろうがワインをコップに注ぎぐっと呷った。少し落ち着くまでとソファの背もたれに頭を預け、暫し目を閉じて。 )






 

  • No.3990 by ベル・ミラー  2023-11-05 23:17:17 





( 相手が寝室を出てから凡そ10分後の事。ふ、と意識が浮上したのは寝返りをうった時に隣に障害となるものが無かったから。夢現の中で隣に相手が居ない事を理解すると自然と瞼は持ち上がり。「……」暗い部屋の中で伸ばした手は空を斬り、誰も居ないベッドをぽふぽふと叩くだけ。居ないのか、ぼんやりとする頭で再確認する様な間を空ける事次は数秒。徐に身体を起こすと静かにベッドの縁に腰掛け床へと両足を降ろし。足の裏から全身に冷たさが巡った事で一瞬だけ音にならない声が漏れる。そのまま立ち上がり静かに寝室の扉を開けると暗いリビングには人の気配があり、矢張り相手は起きていたのだと思えば「…エバンズさん、」と声を掛け近付いて。距離を詰めた事で暗闇の中でもテーブルに置かれたワインに気が付くと「…飲んでたの?」と、一言。それから相手を見付けたからと言って寝室に戻る事をしなければそのまま隣に腰を下ろし、布団から出たばかりで慣れぬ寒さから少しだけ身体を寄せて )




  • No.3991 by アルバート・エバンズ  2023-11-06 01:16:30 

 







( 寝室の扉が開き名前を呼び掛けられた事で目を開くと、間接照明だけが灯る薄暗い中でも起きて来た相手と視線が重なる。「…起こしたか、」と尋ねつつも、相手の問いにテーブルの上に置いたグラスに視線を落とし「…少しだけな。寝付けない、」と素直に言葉を返して。相手が隣に腰を下ろすと自分も再び背凭れに身体を預ける。過去の記憶がフラッシュバックしてしまいそうな状態ではないものの、呼吸が苦しく倦怠感がある為に身体が辛い。休みたいと身体は渇望しているのに寝付けない事もストレスで、暫し目を閉じていたもののグラスに残っていたワインを飲み干してから深く息を吐き出して。無理矢理身体を動かす為に打った薬は不調を覆い隠し日中の助けになるが、薬が切れてからの身体に不眠のような症状を引き起こしていた。隣の相手の肩に頭を寄せると軽く目を閉じて。 )







 

  • No.3992 by ベル・ミラー  2023-11-06 07:50:55 





( 目が覚めたのは相手に起こされたからでは無いと軽く首を左右に振り、僅かに触れ合う箇所から生まれる小さな熱を手繰り寄せる。肩に軽い重みを感じて視線だけを流せば、珍しく発作に苦しめられてる状態では無い時に甘えを見せる相手の形の良い頭がありその重みすらも心地良い。「昼間少し無理したからね。」凭れ掛かられている反対の腕を持ち上げサラサラとした焦げ茶の髪を優しく撫でたのは決して子供扱いをしている訳では無く言うならば労り。テーブルに置かれたグラスはもう空になっていて、それを一瞥してから腕を下ろし少しだけ頭を傾ける事で相手の頭と触れ合わせると「…お酒より良く眠れる方法があるんだけど、知ってる?」と、徐に問い掛けて )




  • No.3993 by アルバート・エバンズ  2023-11-07 20:36:31 

 






( 相手に髪を優しく撫でられ、その体温を間近に感じて少しばかり気持ちが落ち着くのを感じた。相手の問い掛けに目を開くと「…睡眠薬はアルコールと摂取しない方が良いんだろう、」とつい先日捜査中にも聞いた事を告げる。其れを言うなら別の薬もアルコールと一緒に服用すべきではないのだろうが。アルコールよりもよく眠れる方法と聞いて思い付くのは薬の摂取で、それ以外は思い当たらないとばかりに。 )






 

  • No.3994 by ベル・ミラー  2023-11-07 21:05:01 





( 何でもかんでも薬を飲んで全ての不調諸々を解決しよう、そう出来ると信じて疑わないその返答には“相手らしさ”を再確認する。思わず滲んだ苦笑いを直ぐに引っ込め微笑みに変えると共に静かに立ち上がると、睡眠薬云々の話には返事をする事無く「来て、」と相手の手を取り__リビングの間接照明を消して共に寝室へ。不思議そうながらにもベッドの右端に横になった相手を確認してその隣に寝転ぶと、向かい合う形で相手の頭を緩く抱き竦める。自身の胸元に苦しく無い程度に顔を埋めさせて「…これがお酒より良く眠れる方法。__効きそうでしょ?」優しく、優しく、先程と同じ様な慈愛を含ませながら相手の後頭部の髪を梳く様に撫でながら“答え合わせ”を )




  • No.3995 by アルバート・エバンズ  2023-11-07 23:24:11 

 






( 相手に手を引かれ寝室に向かえばそのままベッドに横になるよう促される。されるがままに催眠術でも掛けられるのかと訝しむ気持ちを抱えたまま相手に視線を向ければ、不意に頭を包み込むように抱き竦められていて。相手と共に眠るようになって、人の体温が心を落ち着け穏やかな眠りを引き連れてくれる事を知ったのだが、気恥ずかしくあるのも確か。「……眠れはするかもしれないが、…」と歯切れ悪く答えたものの、背を摩られているうちに僅かに浅かった呼吸は深いものに変わる。軈てふ、と身体の奥に眠気が灯ったような感覚に小さく息を吐いて。 )





 

  • No.3996 by ベル・ミラー  2023-11-07 23:40:33 





( この体温を知って尚、矢張り葛藤があるのか素直に受け取れぬその様子がまた相手らしい。「眠れるならそれでいいんだよ。後の事は何も考えないで、…大丈夫。__お酒の力で眠るのはエバンズさんが1人の時だけ。私が居る時はこっちを選んで。」焦げ茶の髪を梳く様に撫で、背中を優しく摩り、そうやって相手の身体から僅かに力が抜け近い距離で小さく息が吐き出されたのを感じると、直に眠りの淵へと落ちて行くだろうと予測する。選択肢を提示しつつも控え目な要望を最後に「…おやすみなさい。」と、一度だけ相手の頭を抱くその腕に僅かに力を込め直ぐに緩めて )




  • No.3997 by アルバート・エバンズ  2023-11-08 18:31:22 

 







( _____そんな夜から、およそ2ヶ月。これと言って混み入った捜査を担当する事もなく、署では比較的穏やかな日が続いていた。その日相手を含めた刑事課の十数人が飲みに出掛けている事は、数日前に誘いの声を掛けられた事や早めの時間に署員達が楽しげに帰り支度をして居る事から知っていたが、いつもの如く断りを入れ家に帰って来ていた。軽い食事を済ませ、午後11時を過ぎた頃にはシャワーを浴びて部屋着に着替えるとソファに腰を下ろして暖かい紅茶を飲んでいて。 )






 

  • No.3998 by ベル・ミラー  2023-11-08 19:07:50 





( __相手の来ない飲み会は最早普通の事で、正直な話“堅物警部補”の事が怖くて相手が飲みの席に居れば萎縮してしまう署員や、まともにご飯も喉を通らない署員が居るのも確か。相手に慣れきった己は勿論、サラやアシュリーは元々の性格から相手が居ようが居まいが十分にお酒を楽しむ事は出来るのだが。何はともあれ飲みの席が大いに盛り上がった事は確か。飲み過ぎないように、以前の様な失敗はおかさないように、と最初は注意していたものの、午後7時前から始まった飲み会が終わりを迎えた午後11時前になれば最早その思考は遥か彼方へと追いやられている状態で、案の定前回同様泥酔状態なのである。比較的お酒に強いサラが事ある毎に『大丈夫?』『ちゃんと帰れる?』と世話を焼いて聞いてくれる言葉の全てにだらしなく弛緩した表情で「もちろん、タクシーにさえ乗れれば後は運転手さんが家まで連れて行ってくれるからねぇ。」と答え確りとタクシーに乗り込んだまでは良いが__伝えた住所は自宅では無くエバンズの住む家。タクシーが向かう方向は一緒の為に誰も車内での会話の可笑しさに気が付く事は無く、また、運転手も勿論わかる筈が無いものだから客の要望通りに伝えられた“エバンズの家”に向かい。__「……」ふらふらとした覚束無い足取りで相手の家の前に棒立つ事数分、徐に片腕を伸ばすと玄関横のチャイムを押して。扉が開き相手と視線が合ったならば「…こんばんは。」と、頬を朱に染めた明らかに酔っている事がわかる緩みきった笑顔で、律儀な挨拶を贈るだろう )




  • No.3999 by アルバート・エバンズ  2023-11-08 22:21:34 

 







( 不意に玄関のチャイムが鳴ったのは午後11時を過ぎた頃。こんな時間に誰が何の用かと訝しみつつ玄関を開ければ、そこに立っていたのは飲みに行っていたはずの相手で。見るからに酔っている相手は何故か当然のように自分の家の前に立っていて、視線が重なれば律儀に夜の挨拶を。あまりに状況が飲み込めず、暫し扉を開けたまま相手を見つめ静止していたものの「______どうしてお前が此処にいる、…此処は俺の家だ。」と、ようやく口を開いて。酒を飲んでいる以上相手が自分で此処まで運転して来る事は不可能なわけで、自分でタクシーにここの住所を伝えでもしたのだろうか。家に上げれば面倒な事になるのは目に見えているのだが、酔っ払いを相手に帰れと追い払う訳にもいかない。考えた末に「……一旦上がれ、タクシーを呼んでやる。」と告げると扉を開いて。 )







 

  • No.4000 by ベル・ミラー  2023-11-08 22:59:34 





( 律儀な夜の挨拶に対して同じものが返って来る事は当然の如く皆無な訳で、温度差の違う緑と碧とが交わる長い沈黙の後に漸く落とされた言葉には「一日の最後にエバンズさんに会えたら、それはとっても素敵な事だなって思ったんです。だから来ちゃいました。」普段捜査の時以外2人で居る時には使う事の無い敬語で、更にはお酒が回っているせいか普段よりもゆっくりとしたテンポでそう静かに語る。そうして言葉の終わりに相手と会えた事が本当に嬉しいのだとばかりにはにかんで見せるのだが__扉が開いた所までは良かったがどうやら相手は再び己をタクシーに戻す事を決めているらしい。玄関へと足を踏み入れ、扉の閉まる音を聞き届けてから、それはゴメンだとばかりに緩く首を振ると、「私はタクシーの運転手さんに、自宅じゃなくて此処の住所を伝えたの。」と、返す。暗にちゃんと自宅に戻る事も出来たが自分の意思で此処を選んだのだと言っている事に繋がるのだが、そこは矢張り酔っ払い。こんな夜遅くに約束も無く突然訪れる迷惑は今の所何処かへすっ飛んでいて。断固として家には帰りません、とばかりに相手の横を通り過ぎリビングに入るや否や、何度も座り慣れているソファへと静かに腰を下ろし満足そうな溜め息を吐き出して )




  • No.4001 by アルバート・エバンズ  2023-11-11 02:23:33 

 







( 敢えて此処の住所を伝えたのだと言い切る相手を前に「……お前な、」と呆れたように言葉を紡ぐ。帰るつもりは無いとばかりにソファに腰を下ろす相手を見ると溜め息混じりにキッチンへと向かい、グラスにミネラルウォーターを注いで相手の前に置く。「この時間に酔っ払って上司の家に押し掛ける部下なんて前代未聞だ。」と言いつつ果たしてどう対処したものかと、座っている相手を見下ろしたまま思案する。相手が泊まる事自体はよくある事なのだが、ここまで酔っているとなれば家まで送り届けた方が得策に思える。しかし帰らないと主張するなら少しでもアルコールが抜けるまで此処で安静にさせておくべきか、と。 )






 

  • No.4002 by ベル・ミラー  2023-11-11 11:52:22 





( 差し出されたグラスを素直に受け取り、中の水を一口喉に流す。帰らないと主張こそすれど駄々を捏ねる訳でも無い、水を飲まないとグラスを突っぱねるでも無い、支離滅裂な事を言いながらご機嫌に相手に絡む訳でも無い__以前程の酔いは無いと相手は思うだろうか。もう一口水を飲みグラスを目前のテーブルに置くと、此方を見下ろす相手と視線を合わせる為頭を持ち上げ「…エバンズさん怒ってますか?」相手が怒って居ようが居まいが、普段ならば絶対に聞かない問い掛けを傾けた首に釣られ送り。それから次は此処に座れとばかりに自身の横をポン、と叩き。「一緒に飲も、」己の訪問前に飲んで居たのだろう、まだ紅茶の残っているマグカップを一瞥して )




  • No.4003 by アルバート・エバンズ  2023-11-12 15:48:45 

 







( 以前酔っ払った相手を家に連れ帰った時のように、泥酔して何もかもが可笑しいとばかりに笑っていた相手とは様子が違う。前回ほど酔っている訳では無さそうだと思いつつも、突拍子も無く向けられた問いには「…別に、怒ってはない。」と答えておき。更には隣に座るよう促されると何故自分が相手のペースに乗せられそうになっているのかと曖昧な表情を浮かべつつ、果たしてどの程度酔っているのか見極めるべく立ったまま相手を見下ろして。しかし相手は可笑しな言動を取るわけでもなく大人しく座っているため、溜め息を吐くと隣に腰を下ろして残っていた紅茶を飲み。 )







 

  • No.4004 by ベル・ミラー  2023-11-12 17:49:19 





( 返って来た言葉は此方が望んでいたもの。こんな夜中に泥酔状態で押し掛け、タクシーを呼ぶとの申し出にも首を横に振り居座りを決め込んで居るのに僅かも怒ってない筈は無いのだが、怒りや呆れの感情の違いを読み取れる状態では無い。ただただ返って来た言葉のみを受け取り「ふふ」と控え目ながら嬉しそうに笑って。相手が隣に腰掛けた事で僅かに沈んだスプリング。その極僅かな縦揺れに一瞬くらりとした目眩を覚えて隣を見る。見慣れている筈なのに紅茶一つ飲むその姿すらも美しく思うのはお酒のせいか。__伏せられた長い睫毛の奥にまるで宝物を見付けた様な気持ちになったのは、相手の褪せたブルーの瞳がやけに眩しく見えたから。合わさっていた唇が僅かに開き、正しく“見惚れている”状態で相手を見詰める事数秒。「……、…」ソファに手を付き徐に身を乗り出すと、あろう事か無言で相手の手からマグカップを取りそれをテーブルに起き。その行動は止まる事を知らない。縫い付けられた様にブルーの瞳から視線を逸らさぬまま、右膝を相手の開かれた足の間に、左膝を相手の右足の横に付き腰こそ下ろさぬが跨ぐ形を取る。両手は相手の頬に、整ったその顔を僅かに持ち上げる事で相変わらず言葉は発する事無く、ただ、熱に浮かされた僅かに潤む瞳で、相手の瞳をもっと近くで見詰めたいのだと強請るように親指の腹でその目元を緩く撫でて )




  • No.4005 by アルバート・エバンズ  2023-11-16 18:46:41 

 







( 不意に手にしていたマグカップを取り上げられ、何をするのかと抗議の声を上げようとしたものの続いた相手の行動に思わず其れは喉元で止まる。かなりの至近距離で、脚を跨ぐような形で此方を見つめる相手は何を言うでもなくただ此方を見据えるだけ。その瞳は熱っぽく潤んでいて酔っている事は一目で分かるのだが、普段と纏う空気があまりに違うからか酔っ払いは早く寝ろと一蹴する言葉も口からは出なかった。目元を緩く撫でられる感覚に小さく息を呑むと、ようやく「……近い、」と口を開いて。 )






 

  • No.4006 by ベル・ミラー  2023-11-16 19:29:35 





( 上司の足を跨ぎ普通では有り得ない程に顔を近付けたその行為は何時かの日の“ベッドに押し倒し事件”に匹敵する過ちなのだが勿論泥酔状態では気が付く筈も無い。余りに透き通って見える碧眼を上から見下ろし、今この瞬間自分だけに与えられた幸福であるかの如く、うっとりした表情のままに相変わらず薄くはなるが消える事の無い隈を撫で、時折長い睫毛の先を柔らかく謎り__“近い”と相手の唇が動いた事で視線も指先も碧眼から引き寄せられる様にそこへと落ちた。抗議の言葉に耳を貸す事無く、薄く色付く唇を熱を帯びた瞳で見詰め、中指の腹で下唇を右…左…また右、と撫でる。それから指の腹は唇に押し当てたまま視線を持ち上げ再び相手の瞳と重ねては「…キス…したい…」とたった一言。余りに自然に落ちたその言葉には確かな熱と欲が混じり、触れ合いを求める。「……エバンズさんと、キスがしたい、」相手からの何かしらの反応の前にもう一度、今度は先程よりもはっきりとしたお強請りを口にしては「駄目…?」と問い掛けつつ、唇に宛がっていた指を僅かに動かして )




  • No.4007 by アルバート・エバンズ  2023-11-20 00:17:35 

 







( 真っ直ぐに虹彩を見据えていた相手の若葉色の瞳が動き視線が下へと落ちた事に気付く。同時に仄かに熱を持った相手の指先が唇をゆっくりとなぞれば、何とも表現し難い空気に言葉に詰まり押し黙ってしまい。再びゆっくりと向けられた視線と共に告げられた言葉は、普段の相手からは決して紡がれる事のない_____上司と部下という関係である以上聞くことすら無い筈のもの。一度ならまだ譫言として聞き流せたが、あろう事かもう一度はっきりと音にして紡がれた願いに思わず身体が固まる。駄目に決まっている、相手は明らかに酔っていて、それ以前に自分たちは“極一般的な”仕事上の付き合いしかないのだから。_____確かに、互いの家に泊まったり、同じベッドで眠ったりするのは“極一般的な”上司と部下の関係とは言い難いかもしれないが_____と、そんなことをぐるぐると考え、多少”特殊な“上司と部下の関係かもしれないとだけ考え直す。思考ばかりが働いてその間身体はぴくりとも動かず、声を発する事もない。あまりに想像だにしなかった状況に驚き、状況の処理が追いつかない事による反動とでも言うべきか。ようやく僅かに吐息が漏れ、「……酔いすぎだ、」というひと言を紡ぐと相手の片手を掴み唇から離させて。 )








 

  • No.4008 by ベル・ミラー  2023-11-20 08:37:07 





( 己が投下した爆弾には勿論の事気が付かない。けれども手首を捕まれ距離を僅かに離された事で唇が視界から遠ざかり、それが“駄目”だと示された事だけには気が付くと「__私、誰にでもこんな事言わない。エバンズさんだけです、」何処か拗ねた様な、言い訳の様な言葉を明らかに不満そうな声色で紡ぐもそんな子供じみた表情を晒したのは一瞬。再び普段は決して見せる事の無い熱を帯びた瞳で相手を見据えると「…キスしなくてもいいから……もう少しこのまま、エバンズさんに触れていたい…。」一度は強請った口付けを諦めると言葉にする代わり。けれども相手を解放する事はしなければ、繰り返すお強請りの為、自由になる手を次は相手の頬に添えその際自らの身体を支えきれぬ為か体重こそ掛けぬものの、相手の足の上に腰を下ろす形を。__「……」頬に添えた手は輪郭を謎る様にゆっくりと動き、続いて首筋へ。人差し指、中指、薬指の三本の指で筋を撫でる。相手の身体が固まってもその行為は止まる事無く、指先が上へと移動し耳朶を緩く掠め耳の縁を撫でた所で口端を少しだけ持ち上げた穏やかな笑みを浮かべると「…気持ちいい?」と、爆弾発言的問い掛けを。されどその言葉の危うさ以上に滲むのは柔らかさで、目を細め相手の反応を確かめる様に首を擡げて )




  • No.4009 by アルバート・エバンズ  2023-11-27 16:09:57 

 







( 自分だけだと言われたからと言って此の状態を容認する訳にも行かず、かと言って何か適切な言葉を紡げた訳でもなく、ただ自分の足に跨る相手を見据える事しか出来ずにいた。相手が可笑しな酔い方をしている事は理解出来るのだが、どう対応すれば良いかはさっぱり分からないのだ。首筋を撫で、耳朶に触れる指先の感覚に僅かに身体を強張らせたものの、相手の問いかけや表情はまるで大切なペットか何かに触れるような_____或いは言ってしまえば恋人を相手にしているような雰囲気があるものだから、それに臆してしまい結局言葉を紡ぐ事には繋がらなかった。「……俺を誰かと勘違いしてないか、」と辛うじて尋ねたのは、本来彼女にはこういう雰囲気を纏うに相応しい適切な相手が他にいる可能性を考えたから。耳朶に添えられていた手を取り軽く握り込む事で静止させると目の前の潤んだ瞳を見つめて。 )







 

  • No.4010 by ベル・ミラー  2023-11-27 20:30:35 





( 問い掛けに対しての返事は無かった。されどそれに次なる問いを重ねる事はせずに熱を持つ指先を相手の耳の縁に這わせるのだが。再び手を掴まれ、更には僅かに力を込められる事でその行動を静止させられれば抗う事無く動きを止め。重なる瞳は真っ直ぐに相手を捉える。__勘違い、勘違い、と熱に浮かされぽわぽわとした思考で相手の言葉を脳内復唱した後「…アルバート・エバンズ警部補、」少しも勘違いなどしていないと主張するように態々フルネーム+役職で呼んでみせ。熱を帯びた己の手に、冷たい相手の手は酷く気持ちが良かった。内側で火照り続ける熱がゆっくりと冷まされていく様な感覚にほぅ、と小さな息が漏れる。やがて浮かれた頭の中に欠片ばかりの理性が顔を出すと、今度はその冷たさを求めるかの如く掴まれている己の手を引き寄せ、相手の手の甲を額へとくっつけ。「……」僅かに俯き、瞳を閉じ、先程迄のように可笑しな言葉を並べるでもなくただ黙したままで居て )




  • No.4011 by アルバート・エバンズ  2023-12-04 15:59:55 

 







( 相手がしっかりと自分の名前を、役職を口にした事で恋人か誰かと勘違いしたまま接しているという可能性は消えた。しかしだからと言ってこの問題が解決する訳でも無く、相変わらず相手は熱に浮かされた様子で此方を見つめているのだ。引き寄せられた手は相手の額に押し当てられ、それっきり相手が言葉を発する事は無くなった。酔っているが故の譫言だったと片付けられる状況に些か安堵したのは、相手が仮に本気だった場合どうして良いのか全く持って分からなかったから。「…水を持ってきてやるからもう寝ろ。お前が酔うとタチが悪い事は十分わかった。」と言うと、一度相手をソファに座らせようと立ち上がるよう促して。 )





 

  • No.4012 by ベル・ミラー  2023-12-06 21:43:41 





( 額は熱を持ち、冷たい相手の手の温度をあっという間に上げるかと思われたがそうはならなかった。ただひたすらに気持ちが良く同時に熱が下がった事で睡魔も顔を出す。水、との単語に閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げ一度相手を見据えると促されるままに素直に相手の足の上から降りて隣に座り直し。「…エバンズさんも一緒に寝ますか?」テーブルに置かれているグラスに手を伸ばしそれを相手に手渡すだけの理性は取り戻した。明らかに眠さを湛えた瞳をゆっくりと瞬かせそう問い掛けては、その後の間は水を望むものか、答えを待つものか )




  • No.4013 by アルバート・エバンズ  2023-12-12 02:37:36 

 







( 相手にグラスを手渡されると其れを手にキッチンへと向かい、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出す。透明なグラスにそれを注ぎ入れると再び相手の座っているソファまで戻り、手渡しつつ「…お前が押しかけて来る前は眠る準備をしていたんだ、」とひと言。シャワーも浴びて温かい紅茶を飲み、眠る準備を整えていた所だった。相手を一晩此処に泊める事を決めると「飲んだらベッドで休め。」と告げつつ相手が可笑しな行動に移らないよう立ったまま相手を見下ろして。 )







 

  • No.4014 by ベル・ミラー  2023-12-12 11:14:37 





( わたされたグラスを受け取り中の冷たい水を喉に流す。火照った身体を体内から静めるような冷たさにホッと息を吐き出すとグラスの縁から唇を離し相手を見上げ。「じゃあ__眠る邪魔しちゃったお詫びを今度しなきゃ。」大して悪びれた様子も無くクスクスと喉の奥で小さく笑った後。今このタイミングで見下ろされた事によって長い睫毛の下から覗く碧眼が妙に綺麗に思えると暫しの沈黙を置いて無言のままグラスを目前のテーブルに置き、「…行こ、」立ち上がると同時に相手の手首を緩く掴みそのまま寝室に連れて行こうと引っ張って )




  • No.4015 by アルバート・エバンズ  2023-12-12 22:59:24 

 







( お詫びと相手は言うが、きっと今夜の事は覚えていないだろうし特段悪びれている様子でも無い。話半分に聞き流しつつも、水を飲み終えた相手が不意に立ち上がり此方の腕を引くと、暫し考えた後抵抗する事はなく相手の促すままに共に寝室へと向かい。先に寝ろ、と言った所で駄々を捏ねられる可能性もあれば、また眠る気を無くしてソファに居座るかもしれない。相手を寝かしつけなければ本当の意味での平穏は訪れないと、子どもを相手にしているかのような思考のままにベッドへと向かい。 )







 

  • No.4016 by ベル・ミラー  2023-12-13 08:42:51 






( 特別抵抗も無く寝室に来た相手と共にベッドに横になる。背を向けた相手の前に来るように態々身体を移動させ悪戯にはにかんだと思えば。__徐に顔を近づけ口付けと呼ぶには余りに一瞬の、ほんの一秒にも満たない触れ合いをその冷たい唇へ。直ぐ様顔を離し暗い中至近距離で次に見せた笑みは何処か強気なもの。「…私が諦めたと思って油断したでしょ。」口角を持ち上げたその表情のままにしてやったり。先程ソファで出来なかった勝手に望む行為をこれまた勝手に無事成し遂げた後は、至極満足そうに身体を仰向けの体勢へと変えて眠る為静かに目を閉じて )




  • No.4017 by ベル・ミラー  2023-12-15 07:36:57 





( 特別抵抗も無く寝室に来た相手と共にベッドに横になる。背を向けた相手の前に来るように態々身体を移動させ悪戯にはにかんだと思えば。__徐に顔を近づけ口付けと呼ぶには余りに一瞬の、ほんの一秒にも満たない触れ合いをその額へ。直ぐ様顔を離し暗い中至近距離で次に見せた笑みは何処か強気なもの。「…私が諦めたと思って油断したでしょ。」口角を持ち上げたその表情のままにしてやったり。先程ソファで出来なかった勝手に望む行為をこれまた勝手に無事成し遂げた後は、箇所こそ違えど至極満足そうに身体を仰向けの体勢へと変えて眠る為静かに目を閉じて )




  • No.4018 by アルバート・エバンズ  2023-12-16 10:16:09 

 







( 不意に相手との距離が近付き、何が起きたのかを理解するには数秒の時間を要した。唇に温もりが触れ、一瞬で離れた感触だけは感じたものの気付けば目の前には笑みを浮かべた相手の顔。やがて深い溜め息を吐き出し「…お前な、」とひと言。ニコニコと満足げな表情を見る限り自分が何をしているのかよく分かって居ないのだろう。気が大きくなって飲み会の場で誰彼構わずキスをするような事になっていなければ良いがと、今自分が置かれた状況よりも其方の心配をしてしまう。酔っ払いの一時の戯れと思えばそれ以上大きな反応を見せる事もなく、それでいて相手の口元まで布団を引き上げるとぎゅうと押し付けて「早く寝ろ。」と告げて。 )







 

  • No.4019 by ベル・ミラー  2023-12-16 10:53:59 





( 引き上げられた布団が口元を覆い隠し、更にはその上から圧迫されれば「ゔ、」とくぐもった呻き声を漏らし。されど抵抗する事は無く言われるがままに大人しく眠る事を決めると、隣に居る相手の温もりと体内を回るお酒の力とで時間を掛ける事無くあっという間に眠りの淵へと落ちて。__夜中に一度も目を覚ます事は無く、ふ、と意識が浮上したのは空が白み始めて来た頃。やけに重たい瞼を無理矢理持ち上げた次は此処暫く感じなかった酷い頭痛を覚え、思わずギュ、と目を閉じ身体を丸めると、中指の腹で痛みを少しでも和らげるべくコメカミをグリグリと揉み解して )




  • No.4020 by アルバート・エバンズ  2023-12-17 12:38:35 

 






( 相変わらず眠りは浅く夜の内に幾度か意識が浮上したものの、その夜は幸い悪夢に魘される事は無かった。目覚めた時に隣で眠る相手が息をしているか確認し、すうすうと規則正しく寝息が聞こえる事に安堵して再び眠りにつくという事を繰り返し____相手が朝方目覚めた時には、反対に此方は眠りについていて。普段は相手を起こしてばかりで、或いは浅い眠りが故に相手よりも早く目覚めていて、静かに眠っている姿を見せるのは寧ろ珍しい事。相手が目を覚ました事には気付かずに隣で寝息を立てていて。 )






 

  • No.4021 by ベル・ミラー  2023-12-17 13:22:48 





( ガンガンと脈打つ様にして痛む頭に不愉快そうに眉間に皺を寄せ、モゾモゾと寝返りを打った所で隣に眠る相手の存在に気が付いた。不機嫌そうな色宿る虹彩に次は驚きと戸惑いの色が滲む。「……え、」と。薄く開いた唇から漏れた音は至極小さく相手を起こす程のものでは無かったがこの状況の理解が追い付かない。__昨夜職場の皆と飲み会をして、心配する同僚に大丈夫だと告げて確りとタクシーに乗った。タクシーに乗って、その後は。__自宅に帰ったと胸を張って言えないのは記憶が無いからと明らかにこの場所が自宅ではなく上司の家だから。泥酔した己は夜中に相手の家に押し掛け、もしかしたら家には帰らないと駄々を捏ねたのかもしれない。2度目の過ちに頭痛が余計に酷くなりそうな感覚を覚え、このまま布団に潜り込み籠城を決め込みたいと思ったのだが。隣で静かに眠る相手は、眉間に皺を作る事も無く穏やかに眠っている。悪夢に魘されてもいない、静かな眠りだ。その表情をぼんやりと見詰めている内に、今度は何故か頭痛が落ち着いていく様な気がして胸には暖かさが宿った。起こさない様に注意しつつ、布団の中から出した手を相手の頬に滑らせる。愛おしい上司の頬を優しく何度も何度も撫でている内に、再び眠気が来ればうつらうつらとし始めて )



  • No.4022 by アルバート・エバンズ  2023-12-17 22:09:20 

 







( 目を覚ましたのは朝の7時ごろだった。眠れない事による身体の重怠さは無く、しっかりと眠れたようだと思う。気付けば頬には相手の掌が添えられ、小さく寝息を立てる相手がすぐ隣に居た。軽く寝返りを打つ事で相手の手が離れると身体を起こし、朝のコーヒーを淹れるべくキッチンへと向かい。今日は休みなのだから早くに起き出す必要も無いのだが、せっかく穏やかな朝を迎えたのだからゆっくりと時間を過ごしたかった。相手が起きて来たら、自分の許容を超える程の飲酒は控えろと、上司としてひと言忠告しなければならないと思いつつソファでコーヒーを啜り。 )







 

  • No.4023 by ベル・ミラー  2023-12-17 22:31:07 





( 2度目の目が覚めたのは相手が起きてから1時間程が経ってからだった。先程よりも頭の痛みは薄れていて具合の悪さも無い。隣で眠って居た筈の相手の姿はそこに無く深く息を吐き出してからベッドを降り寝室の扉を開ければ、ソファに座る相手の後ろ姿とコーヒーの香りが鼻腔を擽った。何かを仕出かしていたとしても覚えてはいないのだが、これは100%怒られる事間違い無しの事案である事は理解している為、一瞬声を掛ける事を躊躇ったものの「__おはようございます。」と、静かに朝の挨拶を。続いて相手の隣に腰掛けると、一先ずその表情を伺うべくちらりと視線を流して。「…おかわり淹れる?」なんて白々しい問い掛けを )



  • No.4024 by アルバート・エバンズ  2023-12-17 23:50:20 

 







( 背後で物音がして、何処か気まずさを感じさせる声色で相手の挨拶が聞こえるとコーヒーの入ったカップを呷る。相手が隣に腰掛けた事で視線を重ねると、おかわりの有無には反応しない代わりに「…どうして此処に居るか、覚えてるか?」と問い掛けて。ソファの前のテーブルには僅かに水の残ったグラスが置きっぱなしになっていて、果たして昨晩の事を相手はどこまで覚えているだろうかと。 )






 

  • No.4025 by ベル・ミラー  2023-12-18 07:47:37 





( 返って来たのはYESでもNOでも無い問い掛け。「…えっと、」と歯切れの悪い音をモゴモゴと鳴らしながら一度相手から視線を外せば、テーブルの上にある水の残るグラスが視界に入り矢張り酔っ払って押し掛けた事が伺える。「飲み会の後タクシーに乗って…多分、家に帰らないで此処に来たんだと……思います。」正直な所その辺りの記憶もあまり無い。ただ、物凄く相手に会いたくなったその気持ちだけは覚えていて恐らくそれに従い押し掛けたのだろう。再び相手に視線を向けるとピッと背筋を伸ばし「ごめんなさい!」深々と頭を下げ謝罪を口にして )



  • No.4026 by アルバート・エバンズ  2023-12-18 14:01:36 

 






( やはり相手は昨晩の記憶を無くしていて、曖昧な返答の後に謝罪を受けると呆れたように深々と溜息を吐き出す。再び相手と重ねた視線、その目が説教モードに入っている事は長く仕事を共にしている相手なら口を開く前から分かった事だろう。「_____飲むなとは言わないが、自分の限界を考えろ。夜中にお前の介抱をさせられたのは2回目だ。ついでにお前は、酔うと誰彼構わず愛想を振り撒く傾向がある。飲み会を楽しむのは良いが周りに気を許し過ぎるなよ。」タクシー代わりに迎えを頼まれた前回に続き、今回は寝る直前に家に押しかけられた。相手にキスをせがまれた事も、キスをされた事も、“自分だから”とは当然思わない。酔うと誰にでも甘えるようになるのでは心配だと、忠告しておき。そこまで言ってようやく「…コーヒーのおかわりをくれ。」と答えて。 )







 

  • No.4027 by ベル・ミラー  2023-12-18 19:12:12 





( 重なった碧眼の奥に叱咤と真剣な色が宿っているのがこの数秒でわかれば悪いのは此方。視線を僅かに下げた反省モードで時折小さく頷きながら相手から降り注ぐ説教を浴びて。“誰彼構わず”の言葉を拾い持ち上げた顔、言い訳も揚げ足を取る様な事もしない。けれど__「それ…愛想を振り撒くってやつ。誰でもじゃなくて、エバンズさんにだけならいい?、」思わず漏れた一言は反省していないと捉えられても可笑しくは無いもの。空のマグカップを受け取り立ち上がり、背を向けて「なんて、」と先の言葉を無かった事にしては、キッチンでコーヒーのおかわりを作って )




  • No.4028 by アルバート・エバンズ  2023-12-20 21:08:57 

 






( 大人しく説教を聞いていた相手だったが、不意に顔を上げて聞かれた言葉には眉を顰め「_____俺だけだったら良いとか、そういう話じゃない。お前はもっと危機感を持て、あんな事を誰彼構わずやっていたら好意があると勘違いされるぞ。」と、昨夜のような事は誰に対してもやるべきでは無いと、相手の言葉の真意に気付くことはなく上司としての忠告を続け。 )







 

  • No.4029 by ベル・ミラー  2023-12-20 22:32:04 





( 相手の言う“あんな事”は勿論記憶に無いが、好意があると勘違いされると言い切る辺り、抱き着く、キス、口説く__その辺だろうか。幾ら泥酔していたとは言え自分がそんな事を相手に仕出かした等と本当は信じたく無いが。何故その“勘違い”が相手には全く適応されないのか。今回悪いのは明らかに此方なのに思わず漏れそうになった溜息を飲み込み2杯目のコーヒーが入ったマグカップを相手に手渡す。「エバンズさんはしなかったの?勘違い。」その際僅かに片眉を持ち上げ、不躾にもそう問い掛けると、しなかったからこその忠告を受けているのだと、返って来る答えの前に1人納得をし「後1時間だけ此処で寝させて下さい。」と、まだ完璧には治らない頭痛を治めるべく相手の寝室を占領するお願いをして )




  • No.4030 by アルバート・エバンズ  2024-01-05 21:36:02 

 







( 二日酔いの相手が結局昼過ぎまでエバンズの寝室を占拠した日から数ヶ月_____何かと物騒な事件が続き刑事課の人手が足りないため応援の刑事が来ると聞かされたのが今朝の事。大きな事件では無いものの窃盗やら薬物やらの騒ぎで現場に出ている刑事も多く報告書も次々に上がって来る為、応援が来ると言うのは素直に有難い話だった。---昼休みも終わり、少しずつ人が戻り始めた刑事課のフロアに姿を現したのは1人の男性。すらっとした長身にシンプルなスーツを纏い、決して華美な雰囲気では無いものの圧倒的な“爽やかさ”を持った人物だ。ちょうどフロアを出ようとしていた女性署員が思わず彼を見上げて一瞬立ち止まりかける程には美形の男だった。彼の背後から現れた警視正は『バーリントン署から応援で来てくれたフォックス巡査部長だ。』と紹介して。『フォックスです。お世話になります。』と明るい笑みを湛えて挨拶した彼を見て女性署員が密かに色めき立つ中、相手の隣の席のアンバーも『待って、こんなイケメン久しぶりに見た。』と小声で相手に告げて。一方、ちょうど昼食を買いに出ていたエバンズがフロアに戻って来たのも同じタイミング。コーヒーを手に、フロアに立っている人物へと視線を持ち上げ彼を認識すると、驚きと共にあからさまに眉を顰めて。『久しぶりだな、エバンズ。』と声を掛けられても尚表情はそのままに「_____フォックス、何でお前が此処に居る。』とひと言。明らかに嫌悪の滲んだ声色だが、名前ははっきりと覚えているようで。 )







 

  • No.4031 by ベル・ミラー  2024-01-05 23:11:18 





( 刑事課のフロアの扉が開く事は当たり前ながら決して珍しい事でも無く言うならば日常。ただ今回違ったのはそこに居た人物が見慣れない人だと言う事。『え、だれだれ!?もしかして、』と言った女性捜査官の小さな声の波紋が広がりフロアの大半が見知らぬ男性へと視線が向いた。それと同時に後ろに居た警視正が男を紹介し、彼が応援に駆け付けてくれた“フォックス巡査部長”だと言う事を知れた訳だが、これまた見事な程の美形。細身で、身長もあり、爽やかな笑顔。所謂“王子様系”だろうか。シンプルなスーツもとても良く似合っていて彼の爽やかな雰囲気を助長させている。誰々がカッコイイ、とか。そういう話にそこまで敏感に食い付くタイプではないアンバーも思わず賞賛の声が漏れる程だ。「モデルさんになれそう。」此方もまた同じく最大限の賞賛を送ったタイミングで開く扉。次に現れたのは丁度買い物から戻って来た相手で__フォックス巡査部長がイケメンである。という事にも勿論驚いたのだが、それ以上に驚いたのは相手が彼の名前を口にしたと言う事だ。基本的に人の顔と名前を覚える気のない相手が確りと覚えているのは珍しい事だからこその反応で。恐らく本部に居た時の仲間なのだろうと察するも、相手の表情と声色で余り“仲良し”では無いのかもしれないとも思う。2人の間に微妙な空気が流れる中、相変わらずフロア内の女性署員達は密やかに色めき立ち続けて )




  • No.4032 by アルバート・エバンズ  2024-01-06 01:13:11 

 







( フォックスは嫌悪感を露わにしたエバンズに怯む事も無く『もちろん応援要員だよ、バーリントン署から来た。』と答えると、自分たちの関係性を周囲の署員たちは知らないだろうと『エバンズとは同期なんです。』と直ぐにフォローする。周りが取り残されないようにという気配りなのだろう。一方のエバンズはその言葉に同意を示す事もせず、かと言って警視正を前に“仕事の邪魔はするな”と釘を刺す訳にも行かず、それ以上言及する事なくとっとと自分の部屋に引っ込んでしまい。---その後フォックスのデスクがフロアに一時的に作られ、報告書のチェックなどはエバンズと二人体制で進められる事になった。現金なもので、フォックスがフロアに居るだけで女性陣の空気が変わる。彼に報告書を見てもらおうと集中して資料の作成に取り組む者も多く、生産性が上がっているのは明らか。反対にエバンズは普段以上に部屋から出てくる事が無く、専用の部屋の扉は閉まったままで。 )






 

  • No.4033 by ベル・ミラー  2024-01-06 01:40:48 





( フォックスが瞬時に見せたその気配りにこれまた隣に居たアンバーが『…これはこうなる訳だ、』と尚も本来見える筈の無い“ピンク色”が具現化し空気中を漂うかの様な女性陣達の様子をやたら冷静に分析し。アシュリーに至っては『警部補が“黒”ならフォックス巡査部長は“白”って感じ。__昔のベルだったら間違い無く狙ってたね。』なんて真顔で言ってくるものだから、これには最早苦笑いしか返す事が出来ない。__彼の人当たりの良さ、紳士的振る舞い、向けられる爽やかな笑顔。その数々を体験する度に女性陣の熱は上がり、何時しかお昼休みには別の課の人達もフォックスの姿を見る為訪れるようになり。生産性こそ間違い無く上がっているが果たして良いか悪いか、相手は専用の部屋で籠城を決め込んで居る。普段から定期的に出て来て署員と交流をする様なタイプではない為に、特別珍しい事ではないが、その心中は如何にか。「_入りますね。…ちゃんと休憩して。」2度のノックの後に扉を開け部屋に入ると、デスクに座り書類を見ている相手の前にコーヒーが注がれたマグカップを置いて。「苦手?」それは主語の無い問い掛けだったが、相手ならばまさかコーヒーと勘違いしたりはしないだろう。誰の事を言っているかは直ぐにわかる筈だ )




  • No.4034 by アルバート・エバンズ  2024-01-06 20:11:26 

 






( 昔から馬の合わない同僚が応援としてレイクウッドに来ただけでも気分は良くないのに、彼は相変わらずの空気感と人当たりの良さを撒き散らして周りの人間が色めき立っている。彼が連れて来るこの落ち着かない空気も昔から好きではないのだ。ピリピリとした空気のまま書類に目を通していると扉が開き、誰が入って来たのかと視線を持ち上げると其処に立っていたのは相手。デスクに置かれたマグカップを見て眼鏡を外すと「_____苦手じゃない、嫌いなんだ。」とひと言。マグカップを手にコーヒーをひと口飲むと、苛々している事を窺わせる溜息をひとつ。 )







 

  • No.4035 by ベル・ミラー  2024-01-06 22:39:54 





( “苦手”では無く“嫌い”だと余りにも素直過ぎる言葉が返って来れば「でも仕事は効率良く進んでるよ。そこだけはエバンズさんも認めるでしょ?」仕事の進みが遅い事を何よりも嫌う相手、現状明らかに生産性が上がっている事に関しては認めるべき所であろうとコーヒーを啜る横顔を見詰めた後「何かあったら呼んでね。」と、一言だけ告げて部屋を出て。__フォックスの仮デスクは比較的近くに作られた事もあって、彼に簡単な書類を見せる事や会話をする事も必然的に多くなっていた。此方から話し掛ける事もあれば、人当たりが良く、気遣い上手な彼が困っていないかと話し掛けてくれる事もある。今も窃盗に関する簡単な書類を渡す為に彼の元を訪れており、「確認お願いします。」と一枚の紙を手渡して )




  • No.4036 by アルバート・エバンズ  2024-01-06 23:52:49 

 






( 仕事の効率が上がっている事だけは認めるべきだという相手の言葉には相変わらずの顰めっ面のまま、返事をする事もなくコーヒーを啜り再び書類に目を戻してしまい。---相手から書類を手渡されたフォックスは直ぐにパソコンから視線を持ち上げ『了解、目を通しておく。』とにこやかに答えて其れを受け取った後『____ミラーさんはエバンズと組む事が多いんだって?別の子から聞いたよ、あいつと仕事をするのは大変だろう。』と、話を振って。エバンズと仲が良く連絡を取り合っている、なんていう人物は同期の中でもほとんど居ない。実際自分も嫌われているのは当然自覚があるし、出世頭である彼に密かなる闘争心を抱いているのも確か。仕事が出来て将来が期待されているのに間違いはないが、一緒に組むとなると部下という立場では尚更難しいだろうと。 )






 

  • No.4037 by ベル・ミラー  2024-01-07 00:24:30 





( 手渡した書類を受け取る際、彼は真っ直ぐに己と瞳を合わせ柔らかく微笑んだ。別に比べるつもりは無く、エバンズの行動に文句がある訳でも全く無いが、そう思えばあの顰めっ面の上司は書類を受け取る時大半は視線も合わせず、否、受け取ればまだ良し。“そこに置いておけ。”なんて時も珍しくは無い。正に白と黒。アシュリーの言葉がぼんやりと脳裏を過ぎった時、ふいに仕事に関する世間話を振られれば、「私の初めての殺人事件捜査で、一緒に組んだのがエバンズさんだったんです。それからは何かある度にペアになってて__最初は確かに凄く大変でした。慣れない捜査に加えて、エバンズさんは仕事の出来る人だから足を引っ張らない様にって。でも今は、エバンズさんと一緒の方がいいです。」前半は過去を思い出す様な少しゆっくりとした口調で、後半は楽しげな笑みさえも携えてそう答え。「フォックスさんは、バーリントン署勤務なんですよね?何時本部から其方へ?」隣のデスクが空いている事で、その椅子を借りて腰掛けると、少しだけ話がしたいという気持ちのまま、次は此方から話を振って )




  • No.4038 by アルバート・エバンズ  2024-01-10 14:32:06 

 




キース・フォックス



( 同期として同じ年にFBIに入った彼は、本部で一緒になった頃から冷たい目をしていて誰をも寄せ付けない空気を纏っていた。その為彼と仕事をする事を自ら望むような刑事は居なかったし、彼自身も誰かと組んで仕事をする事を避けていた様に思う。しかし目の前の相手は“彼と一緒が良い”とさえ、楽しげな笑みを浮かべて語るものだから思わず驚いた表情で相手を見つめて。『____驚いたな、エバンズと組んで仕事をする事を楽しんでるような子は初めてだ。大抵の子は嫌がる、見ての通りあいつは誰に対しても友好的とは言えないからね。』未だ閉ざされている部屋の方へと視線を向け冗談めかして肩を竦めつつ相手のような存在は珍しいと。隣に腰掛けた相手からの質問には『バーリントン署に移ったのは2年前かな。本部には4年居たけどエバンズは俺が異動して来る前からずっと第一線で活躍してた。初任が本部だったのは、同期ではエバンズとジョーンズっていう女性刑事の2人だけなんだ。優秀な刑事だよ。』と、彼の力量を誉め。いつも本部で大きな仕事を任され上からの信頼も勝ち得ていたエバンズに同期として密かに複雑な思いを抱いていたのは確かなのだが、その仕事っぷりは認めざるを得ない。 )






 

  • No.4039 by ベル・ミラー  2024-01-10 17:53:48 





私、少し変わってるのかもしれないです。エバンズさんも“変な奴”って思ってるだろうし。
( 驚愕を全面に出した彼のその気持ちは良くわかる。確かに未だ相手の事を怖がり萎縮する署員は多く、全く友好的では無い相手の様子を見ていれば驚かれても無理は無いだろう。表現が正しいかは微妙な所だが“慣れた”のだ。だからこそクスクスと小さな笑い声と共に此方もまた小さく肩を竦めた戯言を紡ぎ。“ジョーンズ”の名前が出た事で再び表情はパッと輝いた。「ジョーンズさんも此処に応援に来てくれた事があったんですよ。後本部に居た人で言うと……ダンフォードさんも。」知り合いの名前が出ると言うのは何故か嬉しく感じるもので、加えて相手の事を褒める言葉ならば尚更だ。__楽しく弾む会話の中、ふ、と思ったのはフォックスは相手の過去を知っているのだろうかと言う事。“冷たい目”の理由を、誰も寄せ付けず、心に厚い氷を張った理由を、知っているのだろうか。何となしに、つ、と視線を相手が閉じ籠る部屋の扉に向けて )




  • No.4040 by アルバート・エバンズ  2024-01-12 12:15:45 

 



キース・フォックス



( 自分は変わっているのだろうと言いながら笑う相手に釣られて優しい笑みを浮かべつつ、相手がジョーンズとダンフォードを知っていた事には驚いた様子を見せ。『ダンフォードさんの事も知ってるのか。ジョーンズはいずれ本部の女性警視正に抜擢されるんじゃないかって噂されてる。面倒見も良いし仕事も的確だ、彼女にはなかなか勝てない。ダンフォードさんは面白い人だよ、あの人も面倒見が良くて…エバンズの事を気に入ってた。』本部時代の仲間の話に花が咲く中、相手が彼の部屋へと向けた視線は少しばかり翳りのあるもの。相手は異動してきたエバンズの過去を知っているのだろうと思い言葉を止める。同期の中で彼がアナンデール事件に関わっていた事は当然有名で、その事件後から彼が変わってしまった事はよく知っていた。新人の頃、配属前に同期全員が集まって飲む機会があり話こそしなかったもののその場に居た彼は目を惹く存在だったし、今ほど冷たい目はしていなかったのだ。ただ、妹が犠牲になったという事実は当時本部で一緒だったジョーンズしか知らない事、あの事件を間近で見た事とその罪悪感が彼を変えてしまったのだと理解していて。『____本部にいた頃はあいつもかなり無理をしてた。レイクウッドで落ち着いて仕事に励めているなら良かったよ。』と告げて。 )






 

  • No.4041 by ベル・ミラー  2024-01-12 13:51:35 





( 相手の浮かべたその余りに優しい笑みに思わず一度瞬く。そうして、嗚呼、これは女性達にモテる訳だ。と1人納得した。もし自分がエバンズに恋愛感情が無ければ目の前の彼を素敵な男性だと思い少しは心が揺らいだかもしれない。アシュリーの言う通り、紛れも無く彼は過去の自分の好みの男性像にピッタリに感じられるのだから。__と、そこまでぼんやりと思案して直ぐに思考を相手との会話に戻す。“本部の女性警視正”だなんて女性警察官ならば誰もが憧れる地位ではないか。「そこまでは知りませんでした。凄い…本当に凄いです。私も何度も何度も助けて貰ったんですよ。」憧れる大好きで尊敬する上司がまさかそんな噂の真ん中に居るだなんて。胸の内が温かくなるような、幸せで、それでいて自分ももっともっと頑張らなきゃと思えるような、そんなやる気が湧いて来る。続いてダンフォードの話になると何時かのお酒の席を、エバンズの意識が戻らなかった時の事を思い出し同意を示す様に大きく頷いて。「2人の間にある詳しい事は勿論何も知らないけど、きっと確かな信頼があるんだろうなって思います。」嫌そうな顔をしながらも何だかんだでダンフォードに付き合うエバンズ、そんなエバンズをある種愛おしそうに見るダンフォード。思い出して再び先程とは別の温かさが胸に宿り。__目の前の彼は“落ち着いて仕事に励めているなら”と言ったが、果たしてそうだろうか。確かに本部に居た頃よりは纏まった休みが取れたり、四六時中難解な事件に追われ続ける事は無くなったのかもしれないが、根本的な精神状態は決して落ち着いたとは言えない気がするのだ。…だとしたら彼は何時本当の意味で落ち着く事が出来るのか。扉から相手に視線を向け直し何処となく曖昧な笑みを浮かべると「エバンズさんがゆっくり休める為に、皆には心穏やかに過ごしてもらわなくちゃですね。事件が起きたらそれこそ休めなくなります。」それでも軽い口調で以て小さく肩を竦めて見せて )




  • No.4042 by アルバート・エバンズ  2024-01-13 13:58:11 

 




キース・フォックス



( 相手の口からジョーンズとダンフォードの話を聞き、やはりあの2人は誰からも慕われるのだと柔らかい表情で頷いて。やがてエバンズの部屋から此方へと視線を戻した相手は、彼が此処でゆっくりと過ごす事を望んでいるようだった。____元々エバンズが本部に居続ければ、本人の手腕とこれまでの組織への“貢献”も手伝って本部での警視正への昇進は堅いと思われていたが、彼は突然地方の署へと異動してしまった。同期の中でも“エバンズが本部から出る事は無いだろう”と噂されていただけに驚いた記憶があるが、今思えば彼自身の心身の状態を優先させての決定だったのだろう。一度彼を呼び戻そうという動きがあったような事を聞いたが、現に彼は此処に警部補として留まっている。『……あいつは、本部に戻るつもりは無いのかな。』不意に口を突いて出たのは純粋な疑問、いつも1人先を行く彼に密かな闘志を燃やしつつも、その力量を分かっているからこそ“ライバル”がまた第一線に戻って来る事を何処かで望んでしまう自分が居るのも確か。そんな言葉を紡いで少ししてからハッとした表情を浮かべると『____俺がどうこう言う事じゃないね、エバンズは此処でしっかりやってる。ミラーさんみたいな子に慕われていると知れただけでも同期として安心したよ。』と笑って見せて。 )








 

  • No.4043 by ベル・ミラー  2024-01-13 14:29:19 





( __相手が独り言の様に溢したたった一言が妙に胸に残った。何時かの日、本部に戻るかレイクウッドに残るかの選択を迫られたエバンズから距離を置かれた日の事を思い出したから。あの時エバンズは最終的に此処に残る選択をしたが、果たして“今”もし再び本部へ戻る話が出たとして、以前と同じ選択をするだろうか。あの時はまだ此処に赴任して半年程しか経っていなかったからもう少し…と考えたかもしれないが今は既に年単位を過ごしている。その間に様々な事もあった。加えてエバンズはそもそも此処に移動させられた事を良しとは思っていなかった筈だ。当然本部に戻りたいに決まっている。此処に残りたいと思える為の何もが無い状況に一瞬物凄い恐怖が過ぎり、あくまで相手との間の他愛無い話の中だけなのに息が震えた。それを誤魔化す為に相手に釣られる形で口角を僅かに持ち上げた笑みを浮かべると、「…今すぐじゃないかもしれないけど、何時か戻るような…そんな気がします。あくまでも“気がする”ですけどね。」考えたくない、けれど何時かはきっと訪れるだろうと思う素直な未来を口にしつつ、「エバンズさんが此処に居る間は、嫌がられても一緒に仕事をしますけど。」と、最終的には少しの明るさを以て言葉を返し。「…私そろそろ仕事に戻ります。書類よろしくお願いします。」椅子から立ち上がると、流石に戻って仕事をしなければ自分の仕事も相手の仕事も止まる事になると頭を下げ自身のデスクへと戻って行き
)




  • No.4044 by アルバート・エバンズ  2024-01-13 20:57:48 

 





キース・フォックス



( 元々人の感情や場の空気を読むのは得意で、だからこそ相手にとってエバンズが本部に戻ると言うのはあまり喜ばしい事ではないのだろうという事も直ぐに察する事が出来た。『…どうかな、俺が早く本部に戻ればあいつは嫌がって来ないかもしれない。』と、敢えて彼が此処を離れない可能性を提示した上で、書類は見ておくと軽く手を上げる事で応えて。---フォックスが来て以降、署内の人間にとっては明らかに働きやすくなったと言えるのだが其れに比例するようにエバンズの機嫌は下降していく。一番のストレスは他の部署からも取り巻きのようにやってくる女性署員とフロアに渦巻く黄色い声。其れはフォックスが来てから数日が経っても止む事はなく、部屋の中に居ても時折聞こえるその声にいよいよ我慢の限界を迎えると扉を開け放ち「_____いつまで騒いでる!全員持ち場に戻れ、煩くて仕事にならない!」と声を荒げて。 )







 

  • No.4045 by ベル・ミラー  2024-01-14 02:02:32 






( フォックスが刑事課に応援に来てからと言うもの、飽きる事無く訪れる女性署員の数は最初と比べ僅かも減らずそれどころか増え続ける始末。それに比例する様に浮き立つ甘い声もその声量を増すものだから相手の我慢が限界を迎えたのも言わば必然と言うもので。扉が開くや否や、そんな黄色い声を掻き消さんばかりの怒声がフロア中に響き渡れば此方は思わず苦笑いを、そうして別の課の人達は一目散に蜘蛛の子を散らす勢いでその場から逃げるように去って行き。一方苦笑いと共に小さく肩を竦めたフォックスは、隣で怒声により肩を跳ねさせた女性署員に『俺が長々と話し過ぎたせいだね、ごめん。続きは休憩時間に話そう。』と、一つの謝罪を入れた後立ち上がり。『…エバンズ、煩くして悪かった。…少し話をしないか?』険しい表情を浮かべる相手の前まで歩みを進めると、相手にもまた一つ謝罪を口にしてから今しがた扉の開いた専用部屋に視線を流して )




  • No.4046 by アルバート・エバンズ  2024-01-14 22:44:51 

 






( 明らかにピリピリしている此処数日の様子に“フォックスさんに警部補の座を取って代わられる事を警戒しているんじゃないか”なんていう噂話が出るほど。蜘蛛の子を散らすように去って行った署員の背中を見届けると再び部屋に戻ろうとしたのだが、彼から声を掛けられると僅かに眉を顰めて振り返る。「…仕事の邪魔をするな、此処を引っ掻き回す為に来たのか?」と皮肉を込めつつ返事をするも、話をしたいという申し出を突っぱねる事は出来ず相変わらずの苦い表情のまま無言で部屋の扉を開けて。 )








 

  • No.4047 by ベル・ミラー  2024-01-14 23:15:16 





キース・フォックス



( 相変わらず眉間に皺を寄せた険しい表情のまま紡がれた皮肉に『そんなつもりは無かった、悪かったよ。』と、再び素直なまでの謝罪を口にしつつ、表情とは裏腹に此方の申し出を聞き入れてくれる様子には柔らかく微笑み開かれた扉から部屋へと入って。電源の点いたパソコンの置かれるデスクは余計な物が無く確りと整理整頓されていて相手の性格を表しているようだった。仕事人間の相手と休憩時間でも無い時間帯に会話をするのは嫌がられてしまうだろうが、この時間帯で無ければ相手は何処かへ行ってしまい、此方は女性署員に取り囲まれとてもゆっくりと腰を据えて…なんて無理な話なのだ。デスクと向かい合う様に置かれたソファに腰を下ろし相手に視線を向けると、『まさか此処の応援に呼ばれるなんて思ってもいなかったよ。…元気にしてたか?』仕事には関係無い世間話を持ち出して )




  • No.4048 by アルバート・エバンズ  2024-01-15 13:07:44 

 






( 部屋の扉を閉め先程まで座っていたデスクの椅子に腰を下ろすと、相手も向かい合ったソファに腰を下ろす。マグカップに入ったすっかり冷めてしまったコーヒーを口にしつつ相手へと視線を向けると、仕事とは何の関係もない謂わば軽い雑談の雰囲気に眉間の皺は深くなる。「_____見れば分かるだろう、この通り問題なくやってる。」雑談の意味を無視したバッサリと切り捨てるような返答をしたものの、少しの沈黙の後に「…お前の方こそどうなんだ、」と、ぶっきらぼうながらひと言返し。 )







 

  • No.4049 by ベル・ミラー  2024-01-15 13:42:02 





キース・フォックス



( “見ればわかる”と相手は言うが、数日間、限られた時間のみを見た所でわかりはしない。けれど相手の中にあの時の事件が尚も色濃く渦巻き、太い鎖の様に巻き付いている事は確かだろう。自らを戒めようとする冷たい瞳は変わっていないのだから。ソファの背凭れに体重を掛け軽く足を組み二・三頭を縦に動かしてから『…そうか、なら良かった。』と微笑み返し、続いて返された問いには『そうだな、』と前置きをした後に『俺の方も何も問題は無い。バーリントンに勤務してからもう2年も経つしな、流石に慣れた。本部程忙しく無いのも自分の時間を取れやすくて助かってるよ。』相手の様に一言で終わらせる事の無い返事を返して。_ふ、と先程ミラーと話した事が頭を過ぎり一拍程相手を見詰める。『…エバンズ、お前本部に戻るつもりは無いのか?』あくまでも純粋な疑問として問い掛けた言葉。果たして今の相手はどう考えているのだろうか )




  • No.4050 by アルバート・エバンズ  2024-01-18 02:47:22 

 






( 決して仲が良いとは言えないが、それでも同期。自分に与えられた場所で滞りなく業務に邁進しているのならそれで良いとばかりに頷き、それ以上話を広げる事もしなかったのだが。少しの間の後に投げ掛けられた問いに、モニターに向けていた目を相手へと移動させる。突然何を言い出すのかと少しばかり怪訝な表情を浮かべたものの「____今は考えてない。本部を希望している奴は大勢居るだろう、俺が急いで戻る必要も無い。」と答えて。望まない異動ではあった訳だが今すぐに本部に戻りたいとは思わない。一度抜けた自分が本部に戻るまでもなく、将来有望で本部に行く事を希望している刑事は国内に大勢いると。しかし、過去への贖罪を果たすのならいつかはまた本部に戻らなければならないとも感じていた。其の義務感で動くのはある意味自己犠牲をも厭わない危うさを孕んでいるものの、其れだけが原動力なのだ。 )







 

  • No.4051 by ベル・ミラー  2024-01-18 08:07:00 





キース・フォックス


( 戻れるものなら今直ぐ、と言う答えも予想していたが返って来た返事は急ぐ様なものでは無かった。それにまた瞬きを一つ送り再び『……そうか。』と。どうやら此処を心底嫌悪している訳では無さそうで矢張り同期として、密かにライバル心を燃やす者として、相手が悪く無いと思える場所に居られるのは其れは其れで少なからず嬉しいもの。勿論本部に戻りバリバリ活躍して欲しい気持ちも有るが。__『そう言えば、』と次の音を乗せたのは暗にまだ戻る気が無いという意思表示。『此処には本部からの応援が随分多かったんだな。さっきミラーさんに聞いたよ…ジョーンズにダンフォードさんまで来たって。』楽しそうに、または懐かしそうに本部に居た自分も知っている人達の話を話題としながら、ブラインドの隙間からフロア内を何となしに覗き。はてさて、仕事中の雑談、相手の我慢に再び限界が来て追い出されるのは近いだろうか )




  • No.4052 by アルバート・エバンズ  2024-01-23 02:33:07 

 







( 本部に戻る気は無いのか、という質問にはしっかりと答えた。其れに納得した様子を見せたのも束の間、次なる話題に繋がる言葉が相手の口から紡がれると眉間に皺を寄せて再び視線を持ち上げる。確かに共通の知人であるジョーンズもダンフォードも応援に来た。しかし目の前の相手と懐かしい話に花を咲かせて盛り上がるような空気でも、間柄でも無いのだ。その話題には返答する事なく「____お前は此処を談話室か何かと勘違いしてるのか?見ての通り俺は仕事がある、良い加減出て行け。」と、ストレートに告げると返事を待つ事なくモニターに視線を戻して。 )






 

  • No.4053 by ベル・ミラー  2024-01-23 11:22:47 





( 案の定続きの会話は打ち切られたものの、それは想定内。寧ろ仕事中に仕事人間の相手とこれだけ話が出来たのだから上々だろう。『わかってる、これ以上は邪魔しない。』軽く両手を上げて素直に出て行く事を示しては相手とはうって変わって柔らかな笑顔のままに部屋を出て行き。__2人の捜査官が窃盗事件を担当し捜査し始めたのがこの日から。元よりエバンズの事を苦手とし、そんな時に何時も笑顔を絶やさないキースが応援に来てくれていると言うのは酷く心強いもので、必然的に相談事や捜査の進み具合などもキースに報告し話を聞いてもらうようになっていた。そうして女性署員の色めき立つ声も相変わらず消える事は無く、ミラーもまた席の近いキースと会話をする事も増え、それがあっという間に日常化する事となり )




  • No.4054 by アルバート・エバンズ  2024-02-02 17:08:20 

 







( 彼が応援に来てからと言うもの煩わしい事ばかりが続いた。彼見たさに刑事部の辺りを彷徨いているのであろう他部署の取り巻きの女性たちの媚びた声も、腹の内で何を考えているかは分からないものの顔を合わせる度に愛想良く挨拶をしてくるキース本人も、元の想定以上に彼へと流れる仕事も。加えてミラーが彼と楽しそうに話をしている姿も度々見かけるようになり、その様子に複雑な感情を抱いてしまう。複雑、とは言っても自分でもよく分からない感情で_____快か不快かの2択で考えれば“不快”なのだがよく分からない。よく分からない事に感情を乱される事も不快なのだ。そんな状態で日増しにイライラしているのだから当然周囲は其れを察知し、“警部補はこの所機嫌が悪い”と認識して尚更近付き難くなる。本来エバンズに依頼すべき仕事についても話しやすいキースに相談する者も居た。---相変わらず部屋の扉を閉め切ったまま目を通していたのは窃盗事件に関する報告書。大きな情報の欠陥がある訳ではないのだがわかりにくいのは要点が纏まって居ないからか。苛立ちを感じつつ読み進めていると途中から容疑者の名前のスペルミスがある事に気付き。しかも以降全て誤ったスペルに置き換わっており、深い溜息と共に苛立ちは最高潮に達する事となり。報告書を手に扉を開けてフロアに出ると「ウォーカー!いるか?」と報告書を書いた張本人の名前を呼び。当然その声に苛立ちが乗っている事には皆気づき、何事かと視線が向けられて。 )







 

  • No.4055 by ベル・ミラー  2024-02-02 20:02:22 





ウォーカー


( 彼が担当していた窃盗事件は然程難解なものではなく、犯人も直ぐに逮捕される事となった訳だが何せ余り捜査経験が無いのだ。つまりエバンズが今見ている報告書も苦手分野に入る訳で、此処最近滅多に開く事の無かった部屋の扉が開き“怒ってます”と誰がどう見てもわかる表情と声で名前を呼ばれたウォーカーはパソコンの画面から視線を外すや否や『っ、はい!』と弾かれたように勢い良く立ち上がり。その衝撃でキャスターの着いた椅子が後ろへ下がり、そこに居た別の署員に軽くぶつかったのだがそれを気にする余裕がある筈もなく恐る恐る右足を前に、相手との距離を詰め、まだ何も言われていないのにも関わらず蛇に睨まれた蛙宛ら、カチンコチンに硬直して )




  • No.4056 by アルバート・エバンズ  2024-02-05 22:19:48 

 







( 慌てた様子でウォーカーがやって来ると手にしていた報告書を相手の前に突き出し「今回の容疑者は誰だ?この事件の担当はお前だ、捜査に関わったお前の報告書が事件の全貌の記録になる。」と告げて。どういう意味だろうかと困惑した様子で報告書に視線を向けたウォーカーは程なくして名前のスペルミスに気付き謝罪を口にした。「____致命的なミスだ、スペルが一文字違うだけでも別人になる。途中から全て置き換わっている事に気付かなかったのか?」自分のミスに気づいた彼を前に畳み掛けるように告げる言葉は棘のあるもの。「それに要点が纏まっていない所為で事件の全容を掴みにくい。」ウォーカーは当然反論などしていないのだが苛立ちのままに紡がれる言葉に萎縮した様子で。 )








 

  • No.4057 by ベル・ミラー  2024-02-05 22:56:55 





キース・フォックス



( 苛立ちをひしひしと含んだ言葉の棘に突き刺され萎縮し、顔を上げられなくなっているウォーカーの様子はミスをした張本人なれど同情を引くもの。ましてやエバンズの此処最近の様子はとても心穏やかと言えるものでは無いのだから尚更だ。俯きながら謝罪を繰り返す彼の姿を見たフォックスが飲みかけのコーヒーを置き椅子から立ち上がったのは、相手が尚も責めの言葉を続けようとした時だった。『__どれ、』と、ウォーカーの後ろから顔を覗かせ彼に突き付けられている報告書を見、その内容を読み終えると顔を上げ相手を見詰め。『確かにスペルのミスはあるし、報告書の内容が100点満点とは言えないかもしれないが__そこまで追い詰める程のものでは無いだろ。萎縮してしまっては、直せるものも直せなくなる。』ぽん、とウォーカーの肩を叩き彼を擁護する言葉を続けて )




  • No.4058 by アルバート・エバンズ  2024-02-05 23:37:22 

 






( 目の前のウォーカーではない誰かから発された声、其れに反応して視線を其方に向けると此方にやって来たのは他でもないフォックスで。不快さを露わに「お前には関係ない、首を突っ込むな。」とすぐさま切り捨てるような言葉を向けたのだが、相手は報告書を取り上げ軽く目を通した後にウォーカーを擁護する言葉を紡いで。相手に憧れを抱く署員たちからすれば、性格の悪い上司に追い込まれているウォーカーの元に颯爽と現れ、救いの手を差し伸べた聖人か何かのように見えているのだろう。しかし無責任な報告書を許容するなど到底許せず、怒りは彼を擁護したフォックスにも向けられて。「_____此処はお前の署じゃない、無責任な考え方を軽々しく許容するな。それ程のミスかどうかは俺が決める。」---フォックスに対する嫌悪感と機嫌の悪さが普段以上に威圧的な態度に結び付いているのは確かで、張り詰めた空気がフロアに流れる事となり。 )










 

  • No.4059 by ベル・ミラー  2024-02-06 00:37:24 





キース・フォックス



( フォックスに肩を叩かれ擁護されたウォーカーはと言うと、そこで漸く顔を上げ何処かホッとした表情を隠せる事も無く露にしたのだが。再び相手の威圧的な言葉が続き、フロア内に緊張した空気が流れてその苛立ちがフォックスにも向けば少しだけ持ち直した気持ちは再び急降下、力無く俯き。そんな彼に軽く視線を流したフォックスは軽く息を吐き出し『完璧な人間なんて居ないんだ、誰にでもミスはある。俺も…勿論君にだってある筈だ。__謝れば済む事ばかりでは無いが、今回の件は謝罪をし、次同じミスをしなければそれで良いだろ。』相手のこうした仕事に完璧に向き合う姿勢は勿論評価に値するもので、だからこそこの若さにして警部補にまで上り詰めたのだとは思うが。ミスを僅かも認めず頭ごなしに苛立ちをぶつけ、部下を萎縮させてしまっては後に残るものは何も無い筈だと )




  • No.4060 by アルバート・エバンズ  2024-02-06 14:37:46 

 






( スペルミス如きで、と言ってしまえば其処までだが、間違いに気付かず報告書として完成させ上に提出しているのだから誤りは追及すべきだと言うのが自論だった。以前から彼の報告書にはケアレスミスが多く、提出前に確認を徹底するようにというのは何度も言っている事。苛立ちのままに声を荒げた事は否定出来ないが、言い過ぎだと言いたいのだろう。尚も反論しようと口を開きかけたものの、これ以上此処で言い合って居ても埒が開かない。溜息を吐いた後に「……報告書は修正しておけ。要点は項目ごとにまとめ直して今日中に提出しろ。」とだけ告げてウォーカーに報告書を突き返すと部屋の扉をバタンと閉めて。フォックスとはそもそもの考え方が違い言い合いになるのは本部時代から変わらない。フロアではウォーカーが彼に感謝と共に頭を下げて。 )








 

  • No.4061 by ベル・ミラー  2024-02-06 19:19:52 





( 部屋の扉が閉まり相手の姿が消えた事で張り詰めていたフロア内の空気が晴れた。何処からともなく酷い喧嘩にならなかった事に安堵する溜め息が聞こえ、ウォーカーは急ぎ報告書の修正をする為に自席へと戻り。__そんな日から数日後。後数日でレイクウッド署での仕事が終わるフォックスに感謝と労いの意を込めた飲み会が開催される事となり、仕事を早めに終わらせた署員達はこの後の楽しみにソワソワと浮き足立ちフロアを出て行き。_画面の電源を落としてから向かう先は相手の居る部屋。扉を開けて顔を覗かせては「__お疲れ様です。今から皆でパブに行くけど、」と声を掛けるも、“エバンズさんは?”と言う言葉が続かないのは、ほぼ100%来ないだろうと思っているからで )




  • No.4062 by アルバート・エバンズ  2024-02-06 21:12:57 

 





( 部屋の扉が開いた事でパソコンのモニターから視線を持ち上げるも、相手が続けた言葉には殆ど間を空けずに「楽しんで来い。」と告げ、暗に行かない事を即答して。やがて皆が退勤して静かになったフロアに人知れず安堵感を覚えつつ、仕事を再開し。---フォックスを囲んで行われる飲み会は、かつてないほどの盛況だった。盛り上がるパブには刑事課以外の部署の人もちらほら居て、皆一様に彼にもっと長くレイクウッドに留まって欲しいと願っていて。主役であるフォックスは、人数が多くテーブルがひとつに纏まらない為定期的に座るテーブルを変えながらなるべく全員と会話を楽しもうとしているようだった。そうして相手の隣にやって来ると『お疲れ様。今日はこんなに素敵な会をありがとう。』と朗らかに皆に告げると、軽くグラスを重ねて。暫し会話を楽しんだ後、『本当にミラーさんにはお世話になったね。』と相手に声を掛けると、『_____ダメ元で聞くけど、バーリントンに異動する気はない?』と、声のボリュームを落としつつ突然尋ねて。 )






 

  • No.4063 by ベル・ミラー  2024-02-06 22:22:31 





( 相手を除いた飲み会は他の部署の人達も来た事により想像の何倍も盛り上がりを見せた。テーブルには早いスピードで空になったグラスが次から次へと並び楽しげな笑い声が飛び交う。女性署員はフォックスと一秒でも長く会話をしたいと次から次へと質問を重ね、またフォックスも持ち前の紳士的対応でその全てに嫌な顔一つする事無く答え、そんな様子を時折見遣りながらお酒を嗜む事数十分後。律儀に一つ一つのテーブルを回っていたフォックスが隣に腰掛ければ、そこからまた軽い会話が始まり、場は盛り上がる。__ふいに直接的な言葉を掛けられ相手に視線を。「そんな、お世話になったのは此方です。」と、首を振ったのだが続いて声を潜めた、他者には聞こえないよう配慮された中で想像していなかった所謂“引き抜き”の問い掛けが来れば思わず目を見開き。「……え、」と落ちた言葉は声にならない驚き。まさか、沢山居る署員達の中で自分を選び、この先も共に仕事をしたいと暗に言ってくれているようなその言葉は何と嬉しく誇らしいものか。けれど__。「私は……この町が好きです。此処の仲間達が好きで、此処でやる仕事が好き。だから、とっても嬉しくて、本当に有難いですが、今は此処を離れる気はありません。」一番最初に浮かんだのはエバンズの顔。彼が此処に居るから、なんていうのは理由として不純だろうか。それでも真っ直ぐに相手を見詰め紡いだ断りの言葉には、その答えに少しの後悔も躊躇いも無いもので )




  • No.4064 by アルバート・エバンズ  2024-02-06 23:24:49 

 




キース・フォックス



( ダメ元で、と言った通り以前話した時の雰囲気から、引き抜きの話を持ち掛けた所で断られるであろう事は分かっていた。其れでもいざ断られてしまうと残念なもので、『そうか……君が来てくれると心強いと思ったんだけどな。』と残念そうに言葉にして。『俺が警部補に上がったら、君を巡査に推薦しても良い。人の心は変わりやすいって言うし、戻ってからまた連絡するよ。連絡先、登録しておいて。』また機会を狙って引き抜きの声をかけるつもりだという事を伝えつつ、少しばかり冗談めかしてからバーリントン署の名刺を相手に渡して。 )








 

  • No.4065 by ベル・ミラー  2024-02-06 23:49:40 





( 相手の表情からも、声色からも、本当に残念だと言う事が伝わって来て疑っていた訳では勿論無いが本気で己を引き抜こうとしていた事が伺える。後悔はしていないが申し訳なさは膨らむもので「…本当にごめんなさい。」と、眉下げた謝罪をするが、どうやら相手は一度や二度で諦めるタイプでは無かったらしい。先の話を含ませた冗談めかした言葉と共に名刺を渡されると、少しばかりしんみりとした様に感じられた空気が一瞬にして晴れたのを感じ思わず笑みが溢れ「此処が好きだけど、私も警察官だから昇進に全く興味が無い訳じゃないんです。」と、此方もまた冗談めかした返事をし名刺を受け取り__それを名刺入れに入れる為鞄を開けて、そこで漸く財布が無い事に気が付いた。「え、」と漏れた声の後に中を探すが矢張り見当たらない。一先ず目的の名刺入れの中に受け取った名刺を挟み、考える事数秒。パブに来る前にどうしても缶コーヒーが飲みたくなり休憩室の自販機で買った時に財布を出した。そして自席に戻り、それを鞄では無くデスクに置いたのだ。それからアシュリーに急かされ__「…すみませんフォックスさん、財布を署に置いてきちゃったみたいでちょっと取りに行って来ます。」間違いなくデスクの上だと確信すると、隣の相手に苦笑いと共に一度署に戻る事を伝え、「直ぐ戻ります。」と頭を下げ席を立ち署に向かうべくパブを出て )



  • No.4066 by アルバート・エバンズ  2024-02-07 10:51:35 

 






( 飲み会の代金は一旦自分が持つのでも構わないし、時間も時間なため必要なら一緒に署まで行く事も提案したものの相手は直ぐ戻るから大丈夫だと言ってパブを後にして。---一方のエバンズは誰も居なくなった署で一人作業を続けていたものの、突然強い眩暈に襲われ手を止めざるを得なくなった。疲れが取れきれないような感覚を感じる事はあったものの、此の所は大きく体調を崩す事もなく落ち着いている筈だったのだが。息がしづらい感覚に眉を顰め一度目元を覆う。しかしそれは直ぐに落ち着くものではなく、マグカップを手にすると立ち上がり部屋の電気はそのままに給湯室へと向かって。水を汲み薬を飲もうとしたのだが再び平衡感覚が分からなくなるような眩暈にシンクに掴まったまましゃがみ込む。此の所然程体調は悪くなかった為少し油断していた。浅くなる呼吸を抑え付けながら落ち着くのを待つばかりで、ポケットに入れているスマートフォンで相手に電話を掛ける事は選ばなかった。 )








 

  • No.4067 by ベル・ミラー  2024-02-07 11:43:38 





( 署までの道のりは然程遠く無く辺りは車通りも多い大きな道路もある。明かりの点いてるお店も並び人も行き交う為夜ではあるがそこまで神経を張り詰めなければならない程の治安の悪さでは無い。早足で街灯に照らされる道を歩く事凡そ10分。署に到着すると鞄からIDを取り出し認証を完了させて刑事課のフロアへと。中は当然暗くなって居たが相手の部屋の電気だけは点いている事で、まだ帰る事無く1人仕事をしているのだと思えば呆れと心配の入り交じる息を吐き出しつつ扉を開け。「エバ__、」呼び掛けた名前の尾が切れたのはそこに誰も居なかったから。まさか電気の消し忘れか、とも思ったが鞄もコートも確りとある事から帰宅したとは考えられない。トイレか、飲み物でも買いに行ってるのか、と次なる考えを巡らせたその時、給湯室の方から小さな物音が聞こえればそこに居るのかと納得し部屋の扉を閉めて。__給湯室に顔を出し、名前の呼び掛けが再び詰まったのは呼吸を乱し明らかに体調を崩したとわかる相手がその場にしゃがみ込んで居たから。「っ、エバンズさん、わかる?」相手の傍らに膝を着く様にしてしゃがみ、意識の混濁の有無を確かめる。過去と現在がわからなくなっているような感じでは無いが呼吸が苦しそうな事には変わりなく、一先ず背を摩る事で様子見て )




  • No.4068 by アルバート・エバンズ  2024-02-07 13:12:34 

 






( 突然のフラッシュバックを起こしての症状とは違い、意識ははっきりしていた。ただ酷い目眩と勝手に上擦り始める呼吸を抑える事が出来ず暫し立ち上がる事が出来ずにいて。不意に足音が聞こえて、未だ残っていた署員が居たのかという焦りから無理矢理にでも立ちあがろうとしたのだが、程なく聞こえたのは聞き慣れた声。背を摩られながら、意識ははっきりしているのだと伝えるべく其の問い掛けに軽く頷くと呼吸が落ち着くのを待ち。暫くして僅かながら落ち着いて来たタイミングで身体を起こすと、もう大丈夫だと手で制する事で相手に伝え薬をシートから取り出すと水を汲んだまま放置していたマグカップを手に流し込んで。未だ顔色は良いとは言えずまたあの酷い目眩に襲われる可能性もある。早く帰ろうと思いつつようやく相手と視線を重ねると「_____どうしてお前が此処に居る、」と尋ねて。 )







 

  • No.4069 by ベル・ミラー  2024-02-07 13:42:30 





( 此方の問い掛けに首を立てに振る事で返事が返ってくれば一先ず声がきちんと届いている状態に安堵する。やがて至極ゆっくりとした動作ながら相手が立ち上がるとそれに釣られる様にして此方もまた身体を起こし、薬を飲む様子を見届けてから視線を重ねて。何時からこの場所で経った1人苦しんで居たのか、酸欠が起こり脳に上手く酸素が回らなかったであろう、酷い気持ちの悪さを感じでいたかもしれない。加えてきっと寒さも身体と同じくらい心に突き刺さった筈だ。何時も以上に真っ白になっている顔を見詰め「財布取りに来たの。」と、簡単に問に答えた後は「…何で電話してくれなかったの?此処までの距離なら、走れば数分で着けたんだよ。」責める訳では無いし、自分が居れば相手の苦しみは治まる、なんて烏滸がましい事を言うつもりも無いが、少なくとも1人で耐える必要は無かった筈だと瞳に真剣な色を宿して )




  • No.4070 by アルバート・エバンズ  2024-02-07 14:51:11 

 






( 何故電話をしなかったのかという言葉には少しばかり眉を顰めつつ曖昧な表情を浮かべ「…電話するほどの事じゃない。それにあの状況で電話なんて出来る筈がないだろう、」と告げる。相手はフォックス達と楽しく飲んでいたわけで、其処に水を刺す事も出来なければ、そんな状況で電話をして自分が相手を呼び出したと思われる事も避けたい。フォックスと仲睦まじく話していた事も知っている、今だってこれ以上此処に留めておく必要は無い筈だ。「もう戻れ、財布はあったんだろ。」と、何処か突き放すような言葉を向けると相手の返答を待つ事もなく給湯室を出て、普段よりゆっくりとした足取りながら自分の部屋へと戻って。 )




  • No.4071 by ベル・ミラー  2024-02-07 18:49:24 





( “電話をする程の事じゃない”と相手は言うが、現に目眩や呼吸の狂いで立ち上がる事も出来なかったではないか。それに今回は運良く持ち直す事が出来たかもしれないが、更に症状が悪化して倒れでもしてしまえばフロアには相手1人きりだったのだ、最悪取り返しの付かない事になっていた可能性だってある。勿論自分に電話をするのではなく病院に電話をするべきなのかもしれないが、病院嫌いの相手がそれをする事は無い。普段よりゆっくりとした足取りで以て給湯室を出て行くその斜め後ろから後を追う様に歩みを進め、“あの状況”を飲み会で楽しんでいる中で、と解釈しては「確かに飲み会の最中ではあったけど、幾らでも理由を付けて抜ける事は出来るんだから。エバンズさんの調子が悪い事がバレる事も無いんだよ。」と言葉を返し、明らかに冷たい相手の後に続いて戻る事をせず部屋に入り扉を閉め。「…何か冷たくない?そんなに私が来た事嫌だったの?」と、軽い口調で問い掛けて )




  • No.4072 by アルバート・エバンズ  2024-02-07 21:00:05 

 







( 飲み会を抜ける事は出来るだろうが、相手も楽しみにしていたであろう機会。彼は程なくバーリントンに戻るためいつでも開催出来る会では無いのだ。「_____折角あいつと飲める数少ない機会なんだ。水を差したりしない。」と告げつつ部屋まで戻ると椅子に深く腰を下ろして。飲み会に戻れと言ったはずの相手は何故か此方の部屋の中に居て、怪訝な表情を浮かべて再び相手と視線を重ねる事になる。相手の問い掛けに対しても「此処に居たって何も面白い事はない、早く戻らないと会が終わるぞ。」と、執拗に相手に戻る事を促すのは意固地になっているからか。もう大丈夫だとは言ったものの目眩は治まっておらず状態としては不安定なもの。少し此処で休んでから家に戻るつもりで。 )







 

  • No.4073 by ベル・ミラー  2024-02-07 22:35:53 





( 相手の言う“あいつ”が間違い無く飲み会の主役であるフォックスを指している事は明白で、確かに彼はもう直ぐ本来勤務している署へと戻ってしまい、飲み会が出来るのはもしかしたらこれが最後になる可能性もあるかもしれないとは思うのだが。此方の問い掛けにも答えず、何故だか執拗に飲み会に戻らせようとしてくる相手は何処か意固地になっているようにも感じられ、バレぬ様に小さく肩を竦めやれやれと小さな息を吐き出すと、「もう十分飲んだからいいの。」と、首を横に振り。静かに伸ばした手を相手の首元へ、そのまま脈の乱れを確認するかのように指を滑らせた後、その手を鞄に突っ込むと、名刺入れと携帯を取り出して。「もう少し休んだら一緒に帰ろ。」そこから先程フォックスに貰った名刺を出しつつ相手にそう声を掛け、載っている番号を携帯に打ち込み発信ボタンを押せば程なくして彼へと繋がり、声が聞こえたならば「…フォックスさん、ミラーです__」と、話を切り出すだろう )




  • No.4074 by アルバート・エバンズ  2024-02-08 06:16:16 

 






( 相手の手が首元に触れ、まだ不安定な状態である事を脈拍から感じ取ったかは定かでは無いが暗に飲み会には戻らない事を告げられると曖昧な表情を浮かべる。自分に構わなくて良いと言いたいのに、側に居て貰う事には何処か安堵感を覚えるのだ。しかし返事をしない内に相手がスマートフォンを取り出し電話を掛け_____その口から紡がれた名前が彼のものだと認識するや否や、連絡先を交換する程の仲だった事を思い知らされ頑なな態度に戻ってしまい。電話が切れたタイミングで「やっぱり良い。早く戻れ、あいつが待ってるんだろ、」と告げると、此方はパソコンの電源を落とす。自分がここに居ては相手も戻りにくいだろう。フロアで目にした愉しげに話すフォックスとの様子が思い出され何とも言えない感情がまた湧き起こるのだが其れに懸命に蓋をする。帰る為にコートを取るべく立ち上がり____まだ不調が残っているにも関わらず勢い良く動いたために案の定直ぐに椅子に戻る事になり。 )







 

  • No.4075 by ベル・ミラー  2024-02-08 09:21:38 





( 電話口からフォックスの声が聞こえ、財布を取りに来たが調子が悪くなり申し訳無いがこのまま帰宅する事、飲み会の代金はアンバーに立て替えを頼む事、そして最後に冗談めいた口調で確り番号を登録した事を伝え電話を切り。__さて、これで問題は無いと相手に視線を向けた刹那。今の電話を聞いていたにも関わらず再び飲み会に戻れと繰り返し、あまつさえパソコンの電源を切った相手に流石に眉を寄せると「何でそんな意固地になってるの。」と、呟き落とす様な声と共に、身長差の生まれた相手を見上げ。そのまま帰ると思われた相手はコートを取るよりも、部屋を出るよりも先に再び椅子へとその腰を落とす事となった。それは明らかに自分の意思では無く身体が着いて来なかった結果によるもの。不機嫌そうな、だが何処か不貞腐れているようにも見える相手の顔を少しの間ジッと見詰め、ややして目線を合わせるべく腰を折ると「私は今、エバンズさんの傍に居たいの。飲み会で皆と騒ぎたい訳でもなく、フォックスさんとお酒を飲みたい訳でもなく、此処に居たい。……エバンズさんはどうしたい?1人になりたい?」先ずは自分がどうしたいのかを、続いて少しだけ声に柔らかさを滲ませ“何か”に蓋をして意固地になっているであろう相手がちゃんと素直な要望を言えるようにと緩く首を傾けて )




  • No.4076 by アルバート・エバンズ  2024-02-09 01:40:47 

 







( 相手が腰を折った事で距離が近付きすぐ近くで視線が重なると、何処か言い聞かせるような口調に気まずさを覚える事となる。まさに“意固地になっている”訳で、此処まではっきりと言葉にされてしまえばこれ以上理由もなく飲み会に戻れとは言えそうにない。「……楽しみにしてたんだろう。あいつと話してるのを何度も見かけた、」と言葉を紡いだのは、折角楽しみにしていた機会なら其れを放棄してまで自分と居る必要はないと伝えるため。「俺は帰るだけだ、気を遣わなくて良い。…電話番号を交換したなら直ぐに合流出来るだろ、」と少しばかり不貞腐れた色の浮かぶ声色ながら、此処に居たいという相手に促して。実際此処に居たいとは言っても此れから飲みに出掛ける訳でもないのだから。どうしたいのかと尋ねられ、結局行き着くのは「____お前の好きにしろ。」という言葉で。 )








 

  • No.4077 by ベル・ミラー  2024-02-09 07:46:52 





( 近い距離で見詰めた褪せた碧眼は今まで見た事の無い不思議な揺らぎを見せている気がした。意固地になり、何処か不貞腐れた様子を見せ、そのどれもに相手の言葉を借りるなら“あいつ”が絡んでいる様な。何かとフォックスの話を出し、最終的には態々電話番号を交換した事にまで触れて来る。「フォックスさんとは席が近いしそれは何回も話すけど、名刺を貰ったのは別に__、」互いの席が近い事は相手も当然知っている筈で、そんな事を言えば別に彼と良く話をしていたのは決して自分だけでは無い。確かに引き抜きの話こそはあったかもしれないがこれから自分の署に戻る人間がお世話になったと別れの名刺を渡して来る事は決して珍しい事では無いし__と。そこまでの説明が音にならなかったのは一つの結論に行き着いたから。それは余りに自意識過剰で傲慢な考えかもしれないし、相手と己とではその“気持ち”に違いはあるだろうが。もし、もし、本当にそうなら__この嬉しさをどう表せば良いのか。途端に目前の相手が無性に可愛らしくて、愛おしく感じると「……ね、ハグしてもいい?」見る人が見ればそれはそれは幸せそうな笑みで、最終的に紡がれた返事に対する答えとは関係の無い、何の脈略も無い問い掛けをしつつ、返事を聞くよりも先にふわりと焦げ茶の頭を緩く抱き締め、自身の昂る感情を落ち着かせる為か一度だけ大きく深呼吸をして )




  • No.4078 by アルバート・エバンズ  2024-02-14 02:44:57 

 






( フォックスとの関係性は然程深いものではないのだと話していた相手だったが、不意に言葉を止める。視線を持ち上げると、何やら急に笑みを浮かべている相手の表情が目に入り、嫌な予感ともいうべきか、対照的に嫌そうな表情を浮かべて。続いた相手の問い掛けは先程までの話とは何の関係もなく、嫌な予感が当たったとも言える突拍子もないもの。「_____やめろ、」と当然のように拒絶する言葉を口にしたものの相手の方が早く、既に頭を抱き竦められた後。相手に抱き締められているという状況に身を固めたまま「……離せ。」と不機嫌そうな声を上げて。 )







 

  • No.4079 by ベル・ミラー  2024-02-14 13:02:56 





( __勿論相手にとっては“只でさえウマの合わない同僚なのに急に現れて、良く一緒に仕事をしている部下が懐きだした。”程度の不愉快さだとは思うのだが例えそうだとしても嬉しいと思う気持ちは自由だ。案の定不機嫌極まりない声色で吐き出された拒絶の言葉だが相手の不機嫌さには良いか悪いか慣れっこ。今一度ぎゅうと苦しくない程度に腕に力を入れて、髪の先を撫でるように指を動かす際、さり気なく首筋に触れさせた指の腹で再び脈の乱れをはかり。ある程度落ち着いてきたと判断しては今度は相手の要望通りに直ぐにその腕を解く。「仰せのままに、」と、些か巫山戯た返事を返して、けれど表情だけは穏やかなままに相手のコートを手に取るとそれを手渡しつつ「帰ろうか。」と、矢張り飲み会に戻る事はしない選択でデスクの上の財布を鞄にしまい、相手を家まで送り届けるべく署を後にして )




  • No.4080 by アルバート・エバンズ  2024-02-15 19:48:14 

 





( 因縁の同僚は程なく応援対応の期間を終え自分の署へと戻って行ったのだが、平穏な時間は然程長くは続かない。1年の中で最も気分が沈む日_____あの事件の起きた、妹の命日が近付いていた。事件から12年経つ事になる訳だが、それでも気持ちが楽になる事も、世間があの事件を忘れ去る事もない。“其の”情報を目にしたのは事件の日から1ヶ月前の事。街中で偶然目にしたワイドショーの画面に“アナンデール事件”という文字を、そして“衝撃の新証言”という表記を見つけたのだ。今日発売の週刊誌が報じた、あの事件で子どもを亡くした母親の証言として当時事件に関わり今も警察に重要ポストに着いている“警察官E”の心無い言動が語られていた。その人物が自分を指している事は直ぐに理解できたが、報じられているのは身に覚えのない事ばかりで思わず絶句する。遺族の言う“警察官E”は、打ちひしがれている遺族のの自宅を訪れ「あの事件は防ぎようの無いもので、お子さんが亡くなったのは仕方なかった。泣いていても死んだ子は戻らない」と冷酷にも吐き捨てたと言うのだ。更に警察に責任は一切無いと主張し、自ら命を絶った遺族の事を“面倒くさそうに”話に挙げ、貴方たちもそんなふざけた事をして警察の手を煩わせるなと言い放ったと。そんな男が、罪悪感から死を選んだり職を退く警察官が多い中その事件を踏み台にして、未だに警察の重要ポストに着いている_____と。頭を殴られたような衝撃だった。この“遺族”は何を語っているのか。週刊誌やワイドショーは何故それを“事実”として扱っているのか。---署に戻り部屋に1人になってもその事ばかりが思考を邪魔して仕事が一向に手に付かなかった。 )








 

  • No.4081 by ベル・ミラー  2024-02-16 01:22:08 





( __その日、相手が署を出てからとある署員が持って来た週刊誌を囲みフロア内は騒めき立っていた。フォールズチャーチにあるアナンデール幼稚園で過去に起きた残虐な事件の“新情報”が出たからだ。“警察官E”と名前こそぼかされているがそれが誰を指すのか皆わからない筈が無い。『相変わらずキツい言い方するよな…』と言った1人の嫌悪に塗れた呟きがフロア内に広がりそれを切っ掛けに『例えそうだとしても、警察に非が無いなんて遺族には絶対に言っちゃ駄目な言葉だろ。』『あの人機嫌悪いと結構酷い言い方するしね。』と、“遺族”の言葉を信じた相手を非難する呟きが泡ぶくの様に隅々から湧き上がり。その声が一度静まったのは外に出ていた相手が戻って来た時。皆が皆一斉に相手に視線を向け、部屋に消えるその背中を見届けた後にまたヒソヒソと嫌な言葉が飛び交うのだ。__その情報を初めて目にしたのは車内でだった。休憩中にコンビニで買った週刊誌に“あの忌まわしい事件からもうすぐ12年目”と書かれていて、何の話か直ぐにわかったものだから思わず表情が曇るのだが。読み進めると表情が曇る、なんて言葉では言い表せない文字が並ぶ事並ぶ事。絶対に100%そんな事を言う筈が無いと言い切れる“警察官E”の言葉に深く傷付き絶望したと語る遺族の話。喉の奥で息がつっかえ、週刊誌を助手席に叩き付けると昂る感情のままに車を走らせ署へと戻り__目にしたのはフロア内で集まる人集りの中にある開かれた週刊誌と、余りに不穏な空気。「…ッ、信じるの…?」と、自分でも驚く程に低い声が漏れた。しん、と静まり返る中で次を発する事無く相手の部屋の扉を開けては「…何かの間違いに決まってる。」後ろ手に開けた扉を閉めて、この空気の中では相手が既にこの話を知っているだろうという確信の元で、言い切って )




  • No.4082 by アルバート・エバンズ  2024-02-16 10:11:56 

 






( フロアに入った時に署員たちから向けられた視線で、彼らは週刊誌の内容を知り、其れを当時の自分の言葉だと信じた上で不快感を抱いて居るのだという事を感じ取る。そして其れが、記事を目にした世間の人々の正常な反応である事も。---ノックもなく扉が開き相手の声が聞こえると、相手に視線を向ける事なく「_____初めは何かの間違いでも、あれが世に出れば…もう、誰も間違いだとは思わない。」と答えて。その答えはやけに冷静で、絶望に打ちひしがれた風でも無く何処か諦めたような色さえ浮かぶもの。記事に書かれた“警察官E”はあまりにも冷酷で、人の痛みを分からない身勝手な男だ。事件を利用して権力を得ようとする狡猾さのある人物として、過去の自分に関する記事とも結び付く事だろう。偽りの情報で自分は大勢から蔑まれる事になり、妹の命日を静かに過ごす事は叶いそうにないと深く息を吐いて。 )








 

  • No.4083 by ベル・ミラー  2024-02-16 13:56:04 





( 此方の昂る感情とは真逆の、余りに冷静で抑揚の無い声。絶対的に真実では無い記事や周りの態度に異を唱える事もせずただ“疎まれる事が当たり前”だと諦めの傍にある受け入れ。違うと__何もかもが違うし知った様な事を言うなと声を荒げれば良いのに。何故そんな事を言ったのかわからない遺族にも、それを信じ大々的に取り上げた記者にも、相手と同じ場所で働き少なからず相手を見て来た筈の署員達のあの目も__全てを諦めているような相手にも、怒りの様な、悔しさの様な、兎に角胸の奥の奥にある言い表す事の出来ない複雑な気持ちの塊が暴れ煮立っている感覚に細く吐き出した息が震える。「……此方見て、」と、一向に視線が交わらない相手の顔を上げさせるべく呟く様に落とした言葉の後。「私も、クレアさんも、ダンフォードさんも、あの記事の内容が事実だとは思わない。見た人全員が信じる筈無い。絶対に。」と言い切り。されど相手の気持ちがこんな言葉で浮上しないであろう事もわかっていれば、一ヶ月後に来る12年目、そしてセシリアの命日を思い、身体の横で握り締めた手に力が入り )




  • No.4084 by アルバート・エバンズ  2024-02-16 15:31:34 

 






( あの事件に関して、自分が憎まれる事にも蔑まれる事にもある意味慣れてしまっていた。自分が全ての責任を背負うべきだとは思わないが、一切の責任がないとも思わない。犯人も、共に事件を担当した捜査官も居なくなった今、自分にその矛先が向くのは当然の事のように思うのだ。其の感覚は何年経っても、全ての責任を背負う必要は無いと幾度言われてもなかなか変わらないもの。_____誰かに矛先を向けて憎しみを燃やさなければ、自分が駄目になってしまうような恐怖心も理解出来ない訳ではないからか。「……そう思ってくれる人間が数人でも居れば、それで良い。」とひと言答える。---相手が部屋を出る頃には集まっていた署員たちもそれぞれの席に戻り、共用のデスクに新聞に混ざって週刊誌が閉じて置かれているだけだった。一瞬相手に視線を向けた者も居たが、相手の前でエバンズの事を噂するのは良く無いと思ったのだろう。噂は数日で落ち着く事が多いが、あの事件に関しての報道は“嫌悪感”を心に植え付けるもので、数日が経っても空気はなかなか戻らず、エバンズが部屋を出入りする度に視線が注がれる事となった。 )







 

  • No.4085 by ベル・ミラー  2024-02-16 21:06:57 





( 一度週刊誌に出た内容は消える事は疎か、時間を重ねるに連れてその量を増し内容もより鮮明になった。そのどれもが相手の心を抉るには十分過ぎるもので日を増してフロア内の空気も悪くなる。__そんなある日。1人の署員が『最近記者増えたよな、』とブラインドの隙間から外を覗いてウンザリした口調で呟いた。それに対して『そりゃあ…まぁ、そうなるでしょ。』と、声を潜めチラ、チラ、と相手の仕事部屋を見ながら言葉を返す署員は続けて『問題が大きくならないといいけど、』と。幾ら気づかない振りをしてもこの手の話は矢張り耳に届き、その度に心に氷を張り、気持ちに蓋をし、瞳に宿る光が消えていく様な相手を思い唇を噛み締め。また、そんなミラーを心配そうに見詰めるサラとアシュリーはどうにも出来ない歯がゆさを感じ。__『…お仕事お疲れ様です、エバンズさん。この記事についてお気持ちを聞かせて欲しいんですけど、ねぇ、少しだけでいいんでちょっとお時間下さいよ。』時刻は19時を過ぎた頃。仕事を終え帰路につく筈の相手を署の外で待ち構えていた記者の1人が録音機を手に近付いて来て )




  • No.4086 by アルバート・エバンズ  2024-02-17 01:50:08 

 






( 連日の報道と至る所で目に入る週刊誌の表紙、そして署員からの冷めたような視線と署の前に張り込む記者たちの存在。その全てが、幾ら見ないフリをしても心を抉り生気を奪うようだった。遺族を蔑むつもりなど、週刊誌に語られたような事実など一切無いのに、強いストレスの所為か遺族の証言通りに、自分が其の言葉を吐き捨てる夢を見るようになったのは報道から数日後の事。夜眠れなくなるのに時間は掛からなかった。---仕事を終えて署を出た時、闇に身を潜めていた記者が突然現れて録音機を突き付けられると視線を彼へと向け「______お話する事はありません。あの証言は事実じゃない、」とひと言告げる。そのまま足を止める事なく記者を振り切り、駐車場へと向かい。 )







 

  • No.4087 by ベル・ミラー  2024-02-17 14:05:30 





( 足を止める事を勿論しない相手だが記者とて、はいそうですか。と引き下がる筈も無く、駐車場に向かう相手と同じ歩幅で横を歩き尚も小型録音機を突き付けながら『次は遺族の言葉を“事実では無い”と言いますか。__打ちひしがれて、一向にあの事件の痛みを癒す事が出来ないで苦しみ続けて居るのに…。冷酷な言葉を吐き捨て、更には証言すらも嘘だと…同じ人の血が流れているとは到底思えませんね。』信じられないとばかりに大きな溜め息を吐き出し、『こんな人が今も刑事として居座り続けているなんて、警察も大した事無い。』畳み掛ける様に、警察そのものに問題があるとさえ )




  • No.4088 by アルバート・エバンズ  2024-02-17 15:03:34 

 






( あの事件の痛みを未だに癒す事が出来ないのは自分も同じだと叫びたくなる衝動を必死に抑え、記者の前で感情を乱すなと手を握り締める。何一つ過去の事を知りもしないで、自分が刑事として働いている事さえ責められ組織自体を悪く言われるのなら一体どうすれば良いと言うのか。「_____今回の件は個人的な問題です。署に押し掛けたり、他の署員を巻き込むのはやめていただきたい。」と、冷静に言葉を紡ぐ。自分を名指ししての問題の所為で警察の業務自体を滞らせる訳にはいかないと。其れでも尚録音機を突き付け、此方の感情を乱そうと紡がれる挑発にも似た言葉の数々に思わず「っ、良い加減に_____」と声を荒げ手を振り払えば、録音機が音を立てて地面へと落ち。 )







 

  • No.4089 by ベル・ミラー  2024-02-17 17:45:05 





( 相手が冷静を装えば装う程、詰めて来るのがこの記者の性格の悪い所。『個人的な問題とは言いますけどね、今回の様々な発言は人間性も勿論疑う所ですが、明らかに“指導不足”でしょう。貴方を指導した上司も疑うし、そんな貴方に指導される部下のこの先も疑わざるを得ない。』あの事件に関わったのは相手かもしれないが、今回の記事の件はそれだけでは無いと__ふいに相手が振りかぶる様にして動かした手が記者の手に当たり、録音機を地面へ落下させる最悪の事態を招いた。一瞬驚いた表情を見せたが、態とらしく『痛、』と声を漏らし、やけに大きな音で落ちたそれを拾い上げた時、記者の顔はもう嫌な笑みに変わっていて、傷こそ付いたが録音や再生に問題は無く壊れていない事を確認するや否や『…次は暴行と器物破損ですか。まさか現役の警察官からこんな酷い事をされるとは思ってませんでしたよ。…今の遣り取りも確り録音してますし証拠としては十分な筈、数日後に出る記事を楽しみにしてて下さい。』ニヤニヤと嫌な笑みはそのままに、録音終了のボタンを押し録音機を鞄にしまうと、後は何も聞かないとばかりにさっさとその場を離れ。__記者の言う通り、数日後には新しい記事が出て、そこには“現役警察官による暴行と器物破損”の文字が。勿論“警察官E”と書かれていてそこに行くまでの流れや再び過去の話も出。それを見た署員達の噂は更に大きくなり、警視正も勿論信じてはいないが頭を抱える事となり )




  • No.4090 by アルバート・エバンズ  2024-02-17 18:29:04 

 






( 記者の前で少しでも動揺した素振りを見せれば、挑発に乗って感情を乱せば、それが不利に働く事くらい知っていた。だからこそ何を言われても冷静を保っているべきだったのに、其れはもう後の祭り。録音機が地面に落ちる音も、痛いという記者の声も、その前に荒げた自分の声も全て録音されており、“証拠として十分”という彼の言葉は正しかった。数日後に出た記事は直前までの記者の言葉を全て省かれ、取材を試みるも殺気だった様子で記者に暴行を加え録音機を破壊しようとした、と描写されるのみ。酷い悪夢に魘される日が続けば体に不調を来たすのも当然で、薬を飲み繋いでなんとか仕事をこなしているような状態だったがあくまで署では気丈な振る舞いを続けた。一方でそれが“心がない”と囁かれる事にも繋がったのだが。やがて記者が接触を諦める時間まで署に残るようになり、フロアから署員がいなくなると誰も残っていないと思わせる為に部屋の明かりを落とした。テーブルに付いた電気の灯りとパソコンのモニターの光の中、目元を覆うようにして深く溜め息を吐いて。 )








 

  • No.4091 by ベル・ミラー  2024-02-17 20:19:01 





( 相手が記者に心無い事を言われ、新しい記事が出た日から更に数日後。険しい表情の警視正から呼ばれ何事かと思えばまさかこのタイミングでの出張の指示。「待って下さい!指示に背く訳じゃありませんが、今は…っ、せめて12年目を迎える日は此処に居させて下さい!」この署に警察官は己1人しか居ない訳では無い、何故今なのだと到底理解出来ないとばかりに拒否の姿勢を見せるのだが、今回の出張の適任者である事を告げられ、説得されれば拒否など出来る筈が無いではないか。最後まで渋るが決定は覆る事無くあからさまに不満だと言わんばかりの表情で警視正の部屋を出て、向かうは相手が仕事をしている専用部屋。「__エバンズさん、」と、呼び掛け相手の顔を見る。明らかに眠れていない事がわかる濃い隈と、何処か暗い瞳。胸が締め付けられる痛みに思わず下がった眉のまま、一歩、歩み距離を詰め。「…あれは違う、全部全部作り話、」気休めの言葉にしかならなくとも記事を信じていない人がちゃんと居る事を今一度伝えたかった。こんな状況で何が出張だと警視正に吐き捨てたかったのに出来ない、相手を1人置いて行ける筈が無いと出張の事を口に出せずただ静かに視線を下げて )




  • No.4092 by アルバート・エバンズ  2024-02-17 21:03:05 

 






( 扉をノックする音に思わず身構えてしまったのは此処暫くの心労によるものか。相手だと認識すると一瞬力の入った身体は直ぐに緩み「……お前か、」とひと言。週刊誌の記事を見て、周囲の反応を見る毎にまるで本当に自分が報じられた通りの言動をしたかの様な気分になるのは一種の洗脳にも近い状態なのだろう。「_____あの事件の起きた日が過ぎれば、騒ぎは収まるのか?…いつまで耐えれば良い、」紡いだ言葉はこの状況にかなり参っている事を示していて、同時に相手にだけは弱音とも取れる思いを吐露する事が出来た。自分はただ、あの事件の起きた日を静かに迎えて妹を、犠牲者を弔いたいだけなのに。一瞬吐き出す息が震えて、感情を昂らせるなと自分に言い聞かせるとゆっくりと息を吸い込む。「…何か用があったんだろう、」と自分自身を奮い立たせるようにして顔を上げると、用事があったから此処に来たのだろうと尋ねて。 )







 

  • No.4093 by ベル・ミラー  2024-02-17 22:06:40 





( “大丈夫”と普段の様に強がる嘘の言葉を吐く事も出来ない程に精神的にも肉体的にも相当なダメージがある事が見てとれる。何時まで、も、耐える、も相手の口からは聞きたくない言葉だからこそか鼻の奥がツンと痛む感覚に開き掛けた唇が一瞬震え。「何時までもこのままなんて事は絶対に無い。でも、もし__もし、この状況が長引くなら私が絶対何とかする。記者にも遺族にも会いに行って全部訂正してもらうし、署員や皆の誤解もなるべく多く解く。だから、」だから__の後には耐えてくれも、我慢してくれも、続けられる筈が無い。結果的に懸命に訴えるだけで言葉尻は萎み代わりに此処に来た理由を問う言葉に息を飲む。だって、こんな、弱音を口にした相手を1人置き去りにして出張なんて。「……」僅かに開いた唇は閉じられ、また開き、を数回繰り返した後漸く意を決するのだがその瞳は相手とはまた違う不安定さに揺れ。「…出張が、…今回は別の人にって頼んだんだけど、どうしてもそれは難しいって…。」普段よりも何倍も小さな声でまるで白状でもするかのように紡いだ用事に相手は果たしてどんな気持ちになるだろうか )




  • No.4094 by アルバート・エバンズ  2024-02-17 22:48:39 

 






( 相手が遺族や記者に訂正を乞うたり署員の誤解を解いたりする義務など一切ないのに、相手の言葉と其の真剣な表情は、何らかの形で自分を支えようとしてくれている事が伝わるものだった。しかし此処に来た理由を問うと不自然な間が空き、視線を持ち上げれば何かを言おうとしては躊躇する様子を見せる相手に静かに視線を向けて。---暫しの後に相手の口から出たのは“出張”という言葉。急な仕事が入る事などよくある、相手が自分に対して申し訳なさを感じる必要など全く無いというのに____それでも、今のこの状況で相手がレイクウッドを離れると言うのは絶望的な事のように感じてしまった。署内に味方が一人も居なくなってしまうような孤独感とでも言うべきか。瞳に浮かぶ暗い色が僅かばかり濃くなるも「……そうか、」と静かに返事をする。「お前を見込んでの仕事だ、行って来い。それに、今此処に居るよりずっと良い。」相手の背中を押す言葉を掛けつつ、記者たちに張り込まれ嫌でも不穏な空気の漂う場所に居るよりも気分が晴れるだろうと。_____其れはあくまで上司としての言葉だ。本当は不安で離れないでくれと子どものように相手に縋りたくて堪らない、光を見失った自分をいざという時に引き上げて欲しい。しかし其れを言葉にする事はなく「…仕事に戻れ、」とだけ告げて。 )








 

  • No.4095 by ベル・ミラー  2024-02-17 23:33:43 





( “出張”その言葉を聞いた途端に相手の瞳の暗さがより色濃くなった事が目に見えてわかるものだから、こうなるとわかって居たのに相手とはまた違う絶望に支配される。例え上司の命令無視で謹慎処分を受ける事になったって断固として行かないと言う姿勢を貫き、誰に何を言われても全ての言葉を無視して相手の一番近くで寄り添い続けるべきなのに。「ッ、」“行って来い”と、どんな気持ちでその言葉を絞り出した。どれだけの痛みと孤独に蓋をした。まるで死刑宣告をしてしまったかのような気がして、やっぱり、と薄く開いた唇の隙間から此処に残ると言い直そうとしたのだが。それよりも先に相手は仕事に戻る様にと告げたものだから言葉が止まる。行かない選択など出来ない事は最初からわかっているのだ。ならば、自分に出来る最優先事項は。「__1日でも早く事件を解決して此処に戻って来ます。毎日連絡するし、どの時間でも連絡がつく様に常に携帯も傍に置いておくから。苦しくなったり、辛くなったり、少しでも私に電話を掛けたいと思った時は、例え夜中だろうが早朝だろうが躊躇わないで…っ、」相手が決して仲間の1人も居ない孤独な訳ではないのだと、絶対に戻って来ると、今出来る懸命さで以て訴えて )




  • No.4096 by アルバート・エバンズ  2024-02-18 00:27:07 

 






( 相手の必死の訴えに、今回の件でかなり心配を掛けている事を改めて実感させられる。しかし部下が正当な理由で抜擢された仕事に行く事を自分が躊躇させるようではいけない。あの事件に関して冷ややかな目で見られるのも、子供たちを見捨てたと罵られるのも、ずっと一人で耐えて来た事だ。相手の言葉に小さく頷けば「_____分かってる、大丈夫だ。」と言葉を紡いで。---いつものようにフロアから大方人が居なくなった頃に部屋の電気を消し、ブラインドの隙間から外を見る。未だ数人の記者が残っていたがあと数時間もすれば居なくなるだろう。薄暗い部屋で報告書に目を通しながらも、何故こんな事になったのかとぼんやり考えて。子どもを失った遺族が身に覚えのない証言をしたのは何故か、何処かに責任を押し付けなければ自分が壊れてしまうと思ったのだろうか。相手の言うように自分を信じてくれる人が一体どれだけいるのだろうか。_____セシリアは、どう思うだろうか。ズキリと胸の奥が痛むような感覚と共に呼吸がしづらくなる感覚に眉を顰めて。 )







 

  • No.4097 by ベル・ミラー  2024-02-18 01:15:01 





( 相手は今度弱音を吐く事無く“大丈夫”と口にした。それは此方に少しでも心配を掛けない様に、仕事に集中出来る様に、まるで自分自身にも言い聞かせる様な嘘。それが嘘なのだと簡単にわかるのに、抱き締め一緒に眠る事の出来ない数日を迎える事が酷く恐ろしかった。__時間が進むに連れて1人、また1人、とやるべき仕事を終えてフロアを出て行くのだが、その多くは扉を開ける直前に相手の居る暗くなった部屋を控え目に見る。決して部屋に入ったり相手を呼ぶ事はせずに、それでも色々な理由で気にはなるのだろう。サラやアシュリー、スミスなんかは、只でさえフロアの空気は悪く戸惑う中、ミラーが出張に行けば更に困惑する状況になるのが目に見えてわかる為に今から頭を抱えたい気持ちだ。__今日の仕事を終え、出張は急だが明日そのまま現地へ行ってくれと言われた為に、準備をしなければいけないミラーは後ろ髪引かれる気持ちで昼過ぎに帰宅していた。やがてフロアに残る最後の1人が帰り、その数時間後に署の周りをウロウロとしていた記者も諦め、中も外と相手を残し静まり返った頃。カツ、カツ、と相手にとっては聞き覚えのある革靴の底を打ち鳴らす様な音が廊下に響き、フロアの扉が静かに開けられる。その音は次にフロア内に響き、相手の居る部屋の扉が開いた時、そこにはアーロン・クラークの姿があり )



  • No.4098 by アルバート・エバンズ  2024-02-18 02:13:49 

 






( ゆっくりと深く息を吸って、呼吸のペースが乱れないように意識する。此の状況でフラッシュバックを起こせばあっという間に現実との区別が付かなくなるほど深く引き摺り込まれてしまうのは目に見えていた。じっとりと背中に汗が滲むのを感じながらも呼吸の正常なペースを掴み始めた頃、聞き覚えのある足音に思わず身体が強張った。この時間ならば警備員が巡回していても可笑しくはないと思いながら、以前“彼”が此処に姿を現した時の事を思い出す。そのまま廊下を通り過ぎてくれと願ったその足音は、ゆったりと此方に近づいて来る。靴底を床に叩き付け、響かせるような其の足音は間違いなく彼のものだと理解するのと、扉が開くのは同時だった。警戒と竦然の入り混じった視線が相手と重なり、ギュッと心臓を掴まれるような感覚に直ぐに言葉を紡ぐ事は出来ずに。 )









 

  • No.4099 by ベル・ミラー  2024-02-18 09:55:01 





アーロン・クラーク



__なるほど、余り上手な“隠れんぼ”とは言えませんが、“これ”が限界ですね。
( 扉の先の部屋は薄暗く、デスクに備え付けられている電気の小さな明かりだけが相手の顔を照らしている。相手の気持ちとは裏腹に部屋に入り扉を閉め、そこに2人きりの空間を作り上げると、部屋の中をぐるりと見回し。この暗さとピッタリと閉じられているブラインドに直ぐ記者と接触したくないが為の抵抗なのだとわかれば、傷付きたくないと考えるその健気さにクツクツと喉を震わせ低い笑い声を溢して。『大丈夫ですよ、俺が来た時にはもう誰も居ませんでした。…それより警部補、随分と機嫌が悪かったんですね。ミラーと喧嘩でもしてたんですか?』相手が何も言わない──言えないのを良い事に勝手にソファへと腰を下ろせば、相変わらずの態とらしい声色で僅かもそんな筈が無いとわかっていながら、手にしていた週刊誌二冊を態々相手の発言のあったページを開き見せ付けるように突き出して )




  • No.4100 by アルバート・エバンズ  2024-02-18 11:27:11 

 






( さも当然かのように部屋に入って来てソファに腰を下ろす相手に「_____何をしに来た、」と問い掛ける。相手はいつも、一番悪いタイミングで自分の元にやって来るのだ。外に記者が居なかったと言うなら、この場所で相手と2人きりになるよりも署を出た方が現時点では得策だと思うのだが、続いた言葉と共に週刊誌のページを見せ付けられる。相手がこの手の情報を入手していない筈がないと分かってはいたのだが。「……その記事は誇張されているだけだ。記者に暴行なんて働いてない。」記事の内容を否定する言葉を返しつつ、直ぐに帰れるように荷物を纏め始めて。 )








 

  • No.4101 by ベル・ミラー  2024-02-18 11:46:06 





アーロン・クラーク



( “何をしに来た”との問には『特に何も。久々に顔を見たいなって思っただけですよ。』と、何て事のない口振りで答えるのだが態々週刊誌を用意して来た辺り“何も”では無い事は相手が一番良くわかるだろう。記者が居ないとわかるや否や、此処で2人きりで居るのは御免だとばかりに帰る支度を始めた相手の様子をソファの背凭れに体重を掛け、すっかり寛ぎモードで足を組み替えつつ見詰める。相手に見せ付けていた週刊誌を器用に反転させ内側のページに視線を落とし『…そうですか、』と、内容の否定に簡単に返事をしパタンと閉じては『暴行の件はまぁ、どうでもいいです。俺には関係無い。…じゃあ此方は?この遺族の証言も嘘だと、“俺に”言いますか?』もう一冊を軽く揺らし、暗に“遺族である”を含ませた言い方で緩く首を擡げて見せて )




  • No.4102 by アルバート・エバンズ  2024-02-18 12:30:36 

 






( わざわざ週刊誌を2冊も持参しておきながらどの口がと思いはするのだが、突っかかった所で何も変わらない。相手の返答を無視してパソコンを閉じようとしたものの、続いたのは初めに出た方の週刊誌の内容を追及する言葉。同じ立場の自分に、遺族の証言が嘘だと言えるのかとばかりに尋ねる相手に視線を向けると暫しの間相手を見据えた後に「______全くの事実無根な内容だ。俺はそんな風に遺族を冒涜したりしない。大切な人を失う痛みは分かっているし、警察に一切の責任がないとも思っていない。」と告げて。自分があの事件の遺族でもある事を知らないからこそ書ける記事だとずっと思っていた。勿論それを公表するつもりはないが、週刊誌に書かれたような事は決して言うはずがないと。 )







 

  • No.4103 by ベル・ミラー  2024-02-18 13:03:15 





アーロン・クラーク



( 薄暗い部屋の中で相手の褪せた碧眼が真っ直ぐにクラークを見据えた。目下の隈は色濃く相手自身も今回の騒動でダメージを受けていると言うのにその記事の__遺族の証言は事実無根だと答える声は揺れない。『…そうですか。』と、再び先の週刊誌の記事の時同様に軽い返事をし二冊目のそれも閉じるとこれらにもう用事は無いとばかりにソファの端に放って。『__そうですよねぇ、警察がもっとまともに捜査を進める事が出来ていれば、あの時犯人は自殺しなかったかもしれないしあれだけの犠牲者を出さずに済んだかもしれない。…貴方も“遺族”なのに、これじゃあセシリアさんの命日にゆっくりお墓参りに行く事も出来ないですね。』表情は極めて穏やかな笑み。口調も落ち着きのあるもの。けれど警察官を責め、態々“遺族”という単語やセシリアの名前を出す辺りは“ただの”世間話をしに来た訳では無い事が滲み出ていて。相手を絶望に落とす為の強い言葉を選ばずに様子を伺う、それはまるで狙いを定めた獲物をゆっくり、じっくり、追い詰めていくその過程がとても楽しいのだと言っているようなもので )




  • No.4104 by アルバート・エバンズ  2024-02-18 13:28:37 

 






( 相手にとって週刊誌の内容が真実かどうかは然程重要では無かったようで、自分の主張を勘繰るでもなく頷くと冊子はソファに放られた。記事の内容に限らずとも何かしらの形で自分を追い詰める事が出来れば満足なのだろう。今回の件で特に辛いのは、本当は同じ立場でもある自分が心無い言葉で遺族の思いを軽んじて居ると受け取られる事と、騒ぎのせいでセシリアの命日を静かに過ごす事が出来なくなるかもしれない事。心の内にずっと渦巻いている後悔をわざわざ言語化するような相手の言葉は、じんわりと、其れでも確かに心の傷を抉る。「……それは、12年が経つ今でも後悔してる事だ、」とだけ答えると「もう良いか?記者が居ないなら早く帰りたい、」と告げて。家に戻った所で眠れる訳でも無かったが、少しでも安心できる場所で身体を休めたかった。過去の事を嫌でも思い出してしまう状況に加えて気を張っている日が続いている為、肉体的にもかなりぎりぎりの状態で。 )






 

  • No.4105 by ベル・ミラー  2024-02-18 14:12:30 





アーロン・クラーク



貴方のその“後悔”が皆に伝わるといいですね。…そうだ、実は自分も妹を失った遺族なんだって話してみたらどうですか?もしかしたら同情されて貴方を責める人が減るかも。
( 12年が経つ今でもあの時の事件に縛られ続ける相手を哀れだと感じるクラークは。果たして己もまた、こうしてその時の話を出し相手を苦しませに来ている事を“縛り”だと気が付いているのか。“帰りたい”と訴える相手の言葉を華麗に流して名案を思い付いたとばかりに立ち上がると、パソコンの画面を閉じられた事で更に暗くなった部屋の中、相手に近付き耳元で何処か楽しげにそう提案しつつ、されど。結局はまともに相手に寄り添うつもりなど無いのだから『…許されるかどうかは別、ですけどね。』あからさまな悪意を隠す事もせず全面に音に乗せて。__さて、今日の楽しみはこれで終わったと自分勝手に終止符を打つ。相手が帰るなら折角だからと駐車場まで共に行くようで、攻撃性など最初から持ち合わせていないとばかりの爽やかな笑顔であまつさえ扉を開け、エスコートを )




  • No.4106 by アルバート・エバンズ  2024-02-18 15:12:36 

 






( 相手の煽るような言葉に僅かに眉を顰める。妹を出しに使って同情を誘い自分の苦しみを和らげるなんて、あまりに身勝手だ。妹の事はメディアに騒ぎ立てられたくはないし、表向きの同情など必要としていない。悪意に満ちた声で紡がれる言葉に「……妹を軽んじるな、」とだけ答え部屋を出て。駐車場まで着いて来た相手は自分が車の鍵を開けたタイミングでわざとらしくエスコートでもするかのように扉を開けた。運転席に乗り込み扉を閉めると、一瞬視界がぐらりと揺らぎ息を詰めるのだが今は早く相手から離れ、署を後にしたかった。エンジンを掛けると「もう署には来るな、お前は犯罪者だ。」とだけ忠告して。 )






 

  • No.4107 by ベル・ミラー  2024-02-18 15:33:33 





アーロン・クラーク



貴方こそ、俺がルーカスの兄である事を忘れないで下さいね。
( 妹の話を出した途端に纏う空気を変えるその様子が面白くて仕方が無いと再び楽しそうに笑えば、此方とてただ理由も無く相手を玩具の様に扱う悪人では無く“あの事件の遺族”だと言う事をちゃんと記憶しておけとばかりに。__車の扉を開けた本来険悪の対象になるであろうエスコートにも相手は不満を見せる事は無かった。それはそれだけ心身共に調子の悪さに蝕まれて居るという事か。ただ一言、落とされた忠告には態とらしく肩を竦めて見せ『貴方に俺を縛る権限は無いでしょ。俺は俺の行きたい所に行くまでですよ。』と何処吹く風。そうして最後に『…貴方も、ある意味では“犯罪者”ですけどね。』と、その単語の部分だけを態々聞き取りやすく、ゆっくりと口を動かし後は去っていくであろう車に軽く手を振って。__その日の夜。クラークが署に来た事を知らないミラーは約束通り相手の携帯へと電話を掛け様子を問う事とし )




  • No.4108 by アルバート・エバンズ  2024-02-18 16:02:45 

 





( 相手と居た時間は其れ程長いものではなかったものの、彼も事件で大切な人を失った遺族で警察に恨みを抱いているのだという事を改めて釘を刺され、お前も犯罪者と変わりはないのだと自責の念を植え付けられる。大勢から向けられる蔑むような冷たい視線が、大々的に報じられた自分に関する記事が、確実に心を消耗させていた。彼に何を言う事もなく車を走らせ家に戻り、暗い部屋に明かりを付ける。スーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを引き抜くと薬の入った袋を掴み中からシートを取り出して2錠を口にして。胃の辺りの痛みは強くなっていて、ソファに身体を預けると目を閉じる。此処数日眠れない日が続いていたため、微睡むのに時間は掛からなかった。浅い眠りの中で薄らとあの日の夢を見ていたものの不意にスマートフォンが着信を知らせ、ビクッと肩を震わせる。ほんの数分の浅い眠りだったが僅かに息は上がっていて、深く息を吐き出すと「______エバンズだ、」といつも仕事の電話を受ける時の口ぶりで電話に出て。 )








 

  • No.4109 by ベル・ミラー  2024-02-18 16:58:52 





( 呼出音が鳴ったのは数コールだった。直ぐに相手の声が聞こえ先ずはその事に安堵したのだが、名前を名乗ったと言う事は電話の相手の名前を見る事無く反射的に通話ボタンを押したか。電話越しでも僅かに乱れる息使いを感じ取り悪夢に魘される眠りの中に居たのかもしれない事を思えば、頭に響かぬ様声を少しだけ落とし、されど確りと繋がっている事を表す為に「うん、お疲れ様ですエバンズさん。」と、先ずは相手の名前を復唱する形で労いを。スマートフォンを耳に宛て、そこから読み取れる僅かな情報も聞き逃さないようにしようと思いつつ「…そんなに複雑な事件じゃ無いからきっと直ぐに解決出来ると思う。…薬はまだある?」此方の状況を軽く伝えた後に相手に掛ける言葉が一瞬出なかったのは、大丈夫か、も、眠れているか、も、どれもNOに決まっているから。結局薬の有無を確かめるだけとなりそんな自分にも思わず深い息が漏れて )




  • No.4110 by アルバート・エバンズ  2024-02-18 17:56:23 

 






( 反射的に取った電話だったが、聞こえて来たのは相手の声。この時間に仕事の電話が掛かって来るはずも無いと思いつつ、背凭れに身体を預ける。出張先で担当する事件は然程複雑なものではないらしく、暗にすぐ戻ると伝えてくれているのだろうと思えば「…そうか、」と頷いて。続いた問い掛けには「ある。此方の事は気にするな。」と告げるに留めて。相手との会話の最中、不意にまた視界が揺らぐ感覚に襲われて思わず顔を顰める。それは先程のように直ぐに治まるものではなく、平衡感覚がわからなくなるような気分の悪さを伴うもので一瞬吐き出す息が震える。「_____明日も早いんだろう、…もう休め。」と告げれば早々に電話を切ろうと。 )







 

  • No.4111 by ベル・ミラー  2024-02-18 18:12:20 





( 薬がまだ残っている事自体は喜ばしい事だ。例え手元に無かったとしても病院嫌いの相手は度々行く事を拒むのだから。しかしながら表情や一瞬の動きを見る事が出来ない今、それが果たして本当の事なのかはわからずアダムス医師に連絡をしたい気持ちすらも湧くものだから困ったもの。「エバンズさんの事を常に考えてないと仕事が捗らないの。」明らかにそんな事は無いとわかる軽口でこの会話を終わらせ次へ__と思ったタイミングで一瞬相手の息が詰まり続いて吐き出した息が僅かに震えた。それは本当に一瞬だったのだが長く相手の近くに居れば例え機械を通しても気が付くものだったようで、正しくその不調を悟られまいと早急に電話を終わらせようとする様子に「待って、」と、通話終了を拒む。「苦しかったら何も話さなくていい。だからこのまま少しだけ繋げてて。」それが相手にとって良いか悪いかは正直な所わからなかった。けれど電話を切ってしまえばその僅かの繋がりも無くなり相手は1人きりで苦しみを耐える事になる。傍に居て背を擦る事も出来ない事実は重たく伸し掛るのだがどうしても今を終わらせる事が出来ず )




  • No.4112 by アルバート・エバンズ  2024-02-18 20:29:59 

 






( ほんの僅かな息の乱れからも、相手は此方の状況を瞬時に把握する事が出来たようで電話を切る事を拒む声に、通話終了ボタンを押そうとしていた手が止まる。何も話さないままに電話を繋いでおけば、それこそ相手の時間を奪う事になると思うのだが相手は今電話を切ることを良しとしないようだった。自分もまた、相手の訴えを無視して通話を終わらせる事も出来たのに、どこかに心細さがあったのだろう。視界が揺らぐような眩暈と共に感じた息が詰まるような感覚は、やがて呼吸を狂わせた。気分が悪くてソファの手すりに額を押し付けたものの、浅くしか酸素が取り込めなくなり明らかに可笑しなペースへと変わって行く。クラークの言葉や記者の声が頭に渦巻いて居るのだが、此れに取り込まれてしまえはフラッシュバックを起こす事にも繋がりかねない。「っ、はぁ…ッ、」懸命に今に意識を繋ぎ止めようとしながらスマホを持つ手に力が入り。 )







 

  • No.4113 by ベル・ミラー  2024-02-18 23:11:22 





( 繋がった電話の向こうから聞こえた声は言葉にはならず、やがて時折喘ぐ様な悲痛な音が漏れる様になった。噛み締める事で軋んだ奥歯、木枯らしが吹く様な掠れた息。鼓膜を揺らすそれらが、相手がどれだけの苦痛をその身に受けているのかを知らしめている様で双眸にはあっという間に涙の膜が張る。「大丈夫…ッ、続かないから、苦しいのも、痛いのも、…ちゃんと終わるっ、!」無責任な“大丈夫”を傍で抱き締める事も出来ないのに言うべきでは無いかもしれない、ましてや明確な“何時”も言えない終わりなんて尚更。けれどたった1人孤独に耐え、痛みに耐え、涙を流しているかもしれない相手に何も言わない事も出来ないのだ。どうか少しでも早くこの苦しみが終わり眠りにつける様に、その時に決して孤独の中眠るのでは無いと思えるように、声だけは僅かでもいい届いて欲しいと )




  • No.4114 by アルバート・エバンズ  2024-02-18 23:56:22 

 






( あの報道が成されてから今まで、ずっと自分の中で耐え続けていたものが崩れてしまいそうだった。上手く酸素を取り込めない所為で浅く掠れた呼吸を何度も繰り返す。蓋をし続けていた筈の、周囲から向けられる白い目も、自分を蔑むコメンテーターや記者の言葉も、貴方は犯罪者と同じだと言ったクラークの言葉も、全てが痛みとなり心を抉る。酷い酸欠の所為で一瞬意識が遠退き相手の言葉に反応せずにいたものの、時間にしてどれ程だったかは定かではないが少しばかり波が収まり呼吸が深くなる。視界がはっきりして来ると冷たく痺れた指先に力を込め、汗に濡れたワイシャツのボタンを震える手で外すとそのままソファに身体を横たえて。スマートフォンを手から離し耳元に置いたまま、自分に呼び掛ける相手の声が聞こえて視界が滲んだ。目元を手で覆い、小さな嗚咽だけが漏れて。 )








 

  • No.4115 by ベル・ミラー  2024-02-19 00:22:29 





( 喘ぐ様だった呼吸が僅かに落ち着き、肺の奥深くまで酸素が届けばそこからは呼吸が乱れる事は無いと思うものの、次に襲い来るは大きな疲労の波か。電話越しに聞こえる音が小さな嗚咽だとわかり相手は涙を流しているのだと言う事が確信に変わる。傷付いた心を抱えたまま眠り、それも悪夢が朝までの安眠を保証しない。外に出れば眩しい程の光が記者を連れて来て、署では相変わらず相手を責める様な空気が漂う。全部嘘なのに、相手は何も悪くないのに、許されていい筈なのに、何処までもまるで呪縛の様に付き纏う“12年目”が相手を逃がす事をしない。「__身体、しんどいでしょう。お水を飲んでから一緒に眠ろう。…この携帯を繋げたまま、私が何時も眠る所に置いて。」何時しか相手の心に同調する様にして溢れ出した涙は頬を滑り止まらないのだが、拭う事もせずに優しく話し掛ける。きっと汗もかいたし喉もからからの筈だ。少しでも水分を補給した方が良いし、少しでも多く眠れる時間を確保した方が良い。時折小さく鼻を啜りながら、お泊まりをする時、自分が相手の隣で眠る時の様に携帯を傍に置いて欲しいと再び要求して )




  • No.4116 by アルバート・エバンズ  2024-02-19 03:38:18 

 






( 呼吸が落ち着いた先に重たい倦怠感が襲うのはいつもの事。起き上がる事すら億劫な程の身体の重さを感じつつ、普段であればそのまま眠りに落ちてしまう事もあるのだが水を飲むようにという相手の言葉に、ややして身体を起こしゆっくりと床に足を付ける。ひんやりとした床の感触を感じつつ未だ微かに震えの残る身体に力を入れて立ち上がると、キッチンのシンクでグラスに水を汲み其れを飲み干して。汗の染み込んだワイシャツを脱ぎ楽な部屋着に着替えるとソファへと戻りスマートフォンを手に「……水は飲んだ、____こんな時間まで悪かった。」とようやく声を発する。ベッドに向かい身体を横たえると「…携帯は此処に置いておく。必要があったら電話を掛けるから、お前ももう休んでくれ。」と、電話を切って眠ることを促して。息も付けぬ程の苦痛は治まっていたが、夜中に魘された時に出張に出向いている相手にまで迷惑を掛けるのは心苦しい。自分の事ばかり気にさせては仕事にも影響が出てしまう事も考え、必要な時は電話を掛けると伝えて。 )








 

  • No.4117 by ベル・ミラー  2024-02-19 08:40:04 





( 水が流れシンクを打つ音や、衣服の擦れる僅かな音の後に再び相手の声が聞こえる。その声は苦痛に耐え涙を流した事で掠れていて酷く疲労し、話すのもやっと、と言う状態だ。「まだ寝る時間じゃ無いからね。エバンズさんが謝る事は何も無いよ。」謝罪を聞きながら軽く首を左右に振り問題無い事を伝えながら、頬を湿らせていた涙の痕を拭い己もベッドへと身を横たえる。人の温もりが無い布団の中はひんやりとしていて、相手も同じ寒さを感じているだろうかと思えばそれにもどうしようもなく胸が締め付けられるのだ。枕を少し立ててそこに背を預けた後に眠る事を促されては、少しばかり考える間が空き。「__約束だよ。迷惑だなんて思わないから、」折れたのは、電話を繋げたままではもしかしたら此方を気遣い自由に身動ぎをし眠る事も出来ないかもしれない、目覚めた相手が物音一つ立てず耐えるかもしれないとも考えたからで。それならば本当に電話をしたいと思った時、相手はその心にまだちゃんと従える事を信じようと )




  • No.4118 by アルバート・エバンズ  2024-02-19 23:39:56 

 






( 電話越しでは相手に伝わらないと分かって居ながらも、紡がれた相手の言葉に小さく頷く。「_____お前も其方で頑張れ、」とだけ告げると「…おやすみ。」と呟くように言葉を紡ぎ、電話を切って。引き摺り込まれるようにして眠りに落ちた後、夜中に悪夢に魘されはしたものの現実との区別が付かなくなる程に酷いものではなく、その夜は結局相手に電話を掛ける事はしなかった。---翌朝、倦怠感は重たく身体に纏わりついていたものの当然出勤しなければならない訳で、身体を起こすとキッチンで薬を流し込む。少しでも記者が少ない時間にという思いから普段より1時間近く早く署へと向かい。 )







 

  • No.4119 by ベル・ミラー  2024-02-20 00:09:32 





( __翌日。相手は記者との接触を出来る限り避ける為に時間をずらし出社した訳だが、その考えが読めない程経験の浅い人は今日は居なかった。相手が来るよりもずっと早くから署の見える物陰で張り込んでいた記者は、相手の姿を確認するや否や相変わらずの録音機を片手に足早に近付き隣への位置取りを明確なものにして。『…今日はまた随分と早い出勤ですね。』朝の挨拶もろくにする事無く、相手が自分達を避けている事に確信を持っていながらそんな戯言を掛けると、続けて『遺族への弁解の言葉はもう決まったんですか?それとも、自分は悪く無いと開き直るつもりで?』一番最初に記事に出た、相手からすれば全く身に覚えの無い遺族の証言を持ち出し尚もあの話の続きはどうなったとばかりに詰め寄って )




  • No.4120 by アルバート・エバンズ  2024-02-20 01:36:56 

 






( 普段と時間をずらした甲斐も無く、車を降りるや否や記者たちに囲まれる。ただでさえ体調も思わしく無いと言うのに、飽きる事もなく朝から責め立てられストレスで可笑しくなりそうだった。弁明の言葉も何も、例の証言は間違いで自分は遺族に対してそんな風に暴言を吐いた事は一度たりとも無いのだと何度も主張しているのに、結局自分達に都合の良い内容しか受け止めるつもりはないのだろう。何を言っても本筋を歪められ悪役に仕立て上げられるのなら、何も言わない方が良い。署内にさえ入ってしまえば記者たちは中に入ることは出来ないため、ひと言も口を開く事なく、記者たちと視線を合わせる事もなく署の正面玄関へと歩みを進めて。 )







 

  • No.4121 by ベル・ミラー  2024-02-20 08:10:38 





( 『何も言わないと言う事は、開き直りは肯定と取りますよ!』__結局はこうなのだ。何かを言っても言わなくても結局の所事実を捻じ曲げた可笑しな自論も含め、相手を責める為だけの記事は世に出る。相手が署内へと入ってしまえば記者達はそれ以上追い掛けて来る事は無くその分のストレスからは解放されるかもしれないが、決して平穏が訪れる訳では無い。アナンデール事件に関するニュースや遺族による偽りの証言は今や署内に居る人達の殆どが知る事となっていて、フロア内では勿論の事、廊下で擦れ違う他の部署の人達も相手に白い目を向ける日々が続き。__その間も定期的にミラーは相手と連絡を取り合って居たのだが、当初の見立てより事件解決は遅れを見せていた。証拠や証言も取れ解決も間近だと思われていたのに、何故だか事件当日容疑者の完璧なアリバイだけが崩せないのだ。レイクウッドから離れていてもアナンデールのニュースは嫌でも目に留まるものだからその度に相手の事を思い、気持ちを乱す。__署に再びクラークが訪れたのは、尚も相手が記者達から逃れる為に誰も居ないフロアの中、デスクの小さな明かりだけを頼りに報告書に目を通している時だった。此処に来る事が、来れる事がさも当たり前だとばかりの態度で扉を開けるや否や『…こんばんは警部補。相変わらず“隠れんぼ”は継続されてるんですね。』と、目だけは全く笑っていない微笑みを向けて )




  • No.4122 by アルバート・エバンズ  2024-02-21 00:27:00 

 






( 何日経っても記者たちが諦めたり別の事件や話題に関心を持って減って行く事もなく、毎日待ち構えられ心無い言葉を投げ掛けられる日が続いた。一連の週刊誌の記事は勿論、それに関する問い合わせやクレーム、記者たちが署の近くに張り込んでいる事などで署員の負担も少なからずあり署内で向けられる視線も冷めたもの。事件の日が近付くにつれて特集などの形で報道が為される事も多く、日に日に追い詰められて行き。---夜のフロアで、暗がりの中報告書に目を通していると不意に硬い靴音が響き、ハッとして顔を上げると其処にはまたクラークの姿。また犯罪者だと罵りに来たのかと警戒の色を浮かべつつもその顔にはかなりの疲労が見て取れ、目の下の隈も色濃い。「_____もう来るなと言った筈だ、」と嫌悪の表情で告げて。 )







 

  • No.4123 by ベル・ミラー  2024-02-21 11:15:44 





アーロン・クラーク



大丈夫ですよ。此処に来てる証拠は全て消してあるし、貴方が俺と会ってる事がバレる事はありません。
( 嫌悪に塗れた言葉にも何処吹く風。証拠云々の話を心配している訳では無いとわかっていながら、何も問題無いとばかりに躊躇いなく犯罪を口にする神経は最早ご存知の通りだろう。『…後3日で“あの日”ですね、』ふ、とクラークの紫暗の瞳から光が消えた。疲弊し、窶れて見える相手の瞳を真っ直ぐに見据えながら自分達にとって大切な2人の話を持ち出し、数日前と同じ様にソファへと深く腰掛ける。『……ミラーも出張で居ないようですし、そんな大切な日に貴方1人だなんて…可哀想に。』ミラーの出張の話を何処で聞いたのか、そうして僅かも“可哀想”だなんて思っていない癖に何処か普段よりも刺々しい吐き捨ての様な音で溜め息混じりの言葉を落として )




  • No.4124 by アルバート・エバンズ  2024-02-21 15:05:35 

 






( バレなければ良いという話では無いのだが、其れを相手に説いた所で無駄だろう。相手の口から“あと3日”という言葉が出れば心が軋むような感覚を覚えて視線を落とす。あと3日で事件から12年を迎える。あの日からそれ程の年月が経ったのかと思うも、いつだってあの日の記憶は直前に見た出来事かのように鮮明で、幾ら時が経っても決して色褪せる事は無い______むしろ生前に見ていた筈の妹の笑顔だけが、少しずつ霞んでいく。あの“赤”が目の奥に散らついた気がして、目元を覆って。何故ミラーが出張に出ている事を知っているのかという問いは今はしない、あの事件の日を1人で、この喧騒に包まれた状況の中で迎えるのは確かなのだ。果たして事件の当日、自分が署に出勤した時にはどれほどの記者が詰め掛けるのか。其れを思うだけでも胃を掴まれるような嫌な感覚になり「……もう、何も言わないでくれ_____」と、懇願するような色を含んだ声色で相手に告げて。 )







 

  • No.4125 by ベル・ミラー  2024-02-21 17:39:02 





アーロン・クラーク



もしかして、ミラーがそれ迄には事件を解決して戻って来てくれるって__少しは期待してたりします?、だとしたらそれは無駄ですよ。何か思いの外手こずってるみたいですし、俺の見立てでは後一週間掛かるかどうかって所ですかねぇ。
( 相手の目線が落ち、掌が目元を覆った事で視線が交わらなくなって尚真っ直ぐに見据え続けた瞳は薄暗い。3日後に控える“その日”を考え、当日押し掛ける記者やアナンデール事件一色に染まるニュース、その時の自分の立場、ミラーの居ない署、妹の姿、銃声、赤__様々な事が一瞬で頭を過ぎったであろう相手の唇を震わせ、まるで懇願するかの様な言葉が落ちれば、聞かれてもいない事を態々悪意たっぷりに伝える。果たしてそれが嘘か本当か今の相手は確認すら出来ないかもしれないがそれで良いのだ。『沢山の人が死んだのに、貴方だけは傷付きたくないと?』何を言っているのだとばかりに緩く首を擡げて見せて )




  • No.4126 by アルバート・エバンズ  2024-02-21 21:32:43 

 






( 本来相手が知る筈もない捜査の_____其れもレイクウッドから離れて捜査に当たっているミラーの状況が相手の口から語られる。ミラーが戻って来るかどうかなんて自分は聞いて居ないし、相手の語る事が真実かどうかも分からない、もしかしたらと縋るような思いを一方的に叩き潰さないで欲しい。もう全てを投げ出して、外部との接触を断ちたいと思う程に心身共に痛め付けられているのだが、相手は其れに構う事もなく尚も心を抉ろうと言葉を紡ぐ。まるで人権が無いかのような言い草だった。あの日過ちを犯した自分は、一生周囲から傷付けられて良い存在で其れを甘んじて受け入れるべきだとでも言うような。喉の奥で掠れた息が震え、其れをきっかけに呼吸が上擦り始める。相手のペースに流されてはいけないと思うのだが、制御が効かない程に既に心は弱り始めていた。 )







 

  • No.4127 by ベル・ミラー  2024-02-21 22:18:29 





アーロン・クラーク



セシリアさんは__ルーカスは貴方なんかよりもずっと痛かった筈でしょ。
( 此方の紡ぐ悪意ある言葉の数々に、まるで引き摺り込まれる様にして呼吸を乱した相手を冷め切った瞳で見据える。相手にとって大切な妹の名前を出し、自らにとって大切な弟の名前を出し、“相手の感じる痛みなど微々たるものだ”と言わんばかりに責め立てる言葉を吐く唇は閉じる事を知らないかのよう。__薄暗く静かで冷たい部屋、相手の乱れた呼吸音がやけに大きく響く中、ややしてゆっくりとした動作で以てソファから立ち上がったクラークは、そのまま相手に近付き僅かに腰を折ると、散々な言葉を吐き捨て心を切り刻んだにも関わらず、それは幻か何かであったかの様な優しい手付きで何も言わずに頭を撫でて )



  • No.4128 by アルバート・エバンズ  2024-02-22 02:01:53 

 






( あの事件の被害者たちに比べれば、今感じている痛みなど微々たるものだと言わんばかりの冷静な言葉。その言葉は心が傷付けられ続けた今の状況では残酷ながら腑に落ちてしまうもので、自分がこうして苦しむのも仕方がない事なのだという思考が湧き上がる。_____相手の言葉はいつも“楽になる事は許されない”という強迫的な思考を植え付け、その度に絶望に突き落とされるのだがその瞬間は、その可笑しさに気付けないのだ。上擦った呼吸は徐々にそのペースを狂わせ、肺の奥まで届くものが少なくなって行く。「…っは、ぁ…ッは、」額に汗が浮かび、記憶の波に飲まれてはいけないと必死で落ち着かせようとするのだがコントロールのしようもない。偽善的に頭を撫でる相手の手を振り払う事もできないまま身体は痛みから逃れるように前のめりになり。 )







 

  • No.4129 by ベル・ミラー  2024-02-22 08:42:52 





アーロン・クラーク



( 嫌悪する相手に頭を撫でられると言う本来屈辱的なその行為にすらも抵抗しない──出来ない相手は、苦しさから身体を僅かに折る体勢で懸命に襲い来る痛みから逃れようとする。柔らかな焦げ茶の髪はワックスで整えられている訳では無い為にサラサラとクラークの指の隙間を擽り、それが無性に楽しいと、この場には全く似つかわしくない事を思いながら何度も何度も髪を梳く様に撫で続け。やがてその一方的な行為に満足すれば、次は強引に顔を持ち上げ汗で額に張り付く相手の前髪を掬う様に払ってやり__その指を下げ懸命に息を吐き出す唇に宛てがう。小さく震えている赤みを失ったそこはひんやりと冷たく、此処から許しを乞う言葉が漏れ、己の名前を呼ぶのだと思えば、何とも言えない愛おしさがふつふつと湧き上がると言うもので。『苦しいですね、警部補。』唇に押し当てた指を軽く左右に滑らせながら、瞳を覗き込む様に顔を近付け、今一度『ね?』と微笑んで )




  • No.4130 by アルバート・エバンズ  2024-02-27 02:58:31 

 






( 幾ら懸命に息を吸っても一向に楽になる事はなく、身体は小刻みに震える。不意に抗う事の出来ない強い力で顔を持ち上げられ相手と視線が絡む。涙の膜の張った瞳に浮かぶのは怯えたような、虚ろな色。あまりに苦しい事が続き過ぎた。記者に付き纏われアメリカ中を敵に回すような記事を書かれた挙句、署内にも味方は居ない______唯一寄り添ってくれていた、いつからか心の拠り所になってしまっていたミラーも今は居ない。まもなく事件から12年、妹の命日を迎えるというのに静かに想いを馳せる事さえままならないのだ。「……っ、…もう、嫌だ_____」震える唇から漏れたのは、滅多に紡ぐ事のない“弱音”。ミラーにならまだしも、其れを相手を目の前にして紡ぐ事など普段であれば何よりも嫌がる事の筈だったが、心は傷付き立ち上がる事は出来ないと、全てを投げ出したいと悲鳴をあげているのだ。全てを投げ出し、“セシリアの所”へ行きたいという思考に辿り着くのも時間の問題か。上手く出来ない呼吸が喉に引っ掛かり、苦しさから表情が歪む。目を伏せると足元へと涙が溢れ。 )







 

  • No.4131 by ベル・ミラー  2024-02-27 11:08:40 





アーロン・クラーク



( 然程の抵抗も無く持ち上がった相手の顔。褪せた碧眼には薄く涙の膜が張り“気力”が感じられない。至極弱々しい音が溢されたのはクラークの指先が冷たい唇から離れた調度その時だった。ぱち、と紫暗の瞳を一度瞬かせ、まるで珍しいものでも見る様な眼差しを向けた後、重力に逆らい落ちた涙を一瞥してから『まだ始まったばかりでしょ?』と、血も涙も無い一言を。『今そんな弱気でどうするんですか。そんなんじゃ、当日本当に1人で乗り切れませんよ。』聞く人が聞けば励ましの言葉かもしれないがその裏に潜むのはれっきとした悪意。まだ“あの日”は訪れていない、その日相手は孤独だ、と。それでもミラーが此方に戻って来れない以上相手を好きに出来ると言う気持ちも持ち合わせていれば、態とらしく何かを思案する間を空けた後『…まぁ、ミラーも間に合わないですし__貴方が“本当に1人”なら慰めに来てあげてもいいですよ。仕事も無く、誰にも縋れるず、本当に1人ならね。』何処か含みを持たせた言葉で相手の反応を伺って )




  • No.4132 by アルバート・エバンズ  2024-02-28 00:52:38 

 






( 今自分が署に来る理由は果たしてあるのだろうか。記者は自分を待ち構えながらも話を聞きもしない、あの記事や記者たちの出待ちによって業務にも影響が出ている事は確かだ。仕事に来さえしなければ記者と顔を合わせる事も、周囲の喧騒に心を擦り減らす必要もない。今自分が必死に立っている意味が分からなかった。相手の“慰めに来る”とは果たしてどういう意味か______しかしその言葉には小さく首を振り。誰にも干渉されず、一人で命日を迎えたいと言うのが今の願い。僅かに呼吸が落ち着きを取り戻し始めると、弱々しい色は薄れ少しばかり普段の鋭さを宿す。警視正には自分から数日の有休消化を申し出ようと考える余裕は未だあり、ネクタイを緩めつつ「……もう帰ってくれ、」と言葉を落として。 )








 

  • No.4133 by ベル・ミラー  2024-02-28 11:00:15 





アーロン・クラーク



( 此方の申し出に首を横に振る事で拒絶を示した相手は、続いて数秒前に見せた弱々しいものでは無い普段の通りの鋭さを僅かながら取り戻した瞳を向け、そうして確かな言葉で以て更なる拒絶を続けた。“まだ堕ちて無い”そう思える状況がそれはそれで面白いと僅かに視線を下方に、クツクツと喉の奥で低く笑ってから相手と視線を交わらせると『わかりました、あまり無理はしないで下さいね。』あっさりと相手の要望を聞き入れ、あまつさえ口先だけの心配をして見せつつ何事も無かったかのように部屋を出て行き。__事件から12年目を翌日に控えた今日。ミラーが携わる事件はと言うと、捜査が難航しクラークの言う通り少なくとも後1日で犯人逮捕まで持ち込み、全てを終わらせてレイクウッドまで戻って来られる状態では無かった。最後まで諦めないとは決めたものの結果的に昼には可能性が確実に0へとなり、至らなさや不甲斐無さ、様々な気持ちから泣き出してしまいそうな気持ちを無理矢理押し込めて相手に謝罪の電話をしたのだった )




  • No.4134 by アルバート・エバンズ  2024-02-29 22:32:11 

 






( ミラーからの電話を受け、気にしなくて良いと、今は目の前の捜査に集中しろと告げて電話を切ったものの心の何処かでは彼女の帰りを望んで居たのだろうか。明日という日をたった1人で過ごさなければならない事に酷く絶望した。記者たちも大勢集まってくるであろう明日、署に出てくるだけの気力もなければ周囲に迷惑を掛ける訳にはいかないと判断し1日だけ有給を取っていたものの事件から12年の明日を過ぎれば一切の報道陣が居なくなるとも限らない。寝不足と身体の不調により仕事に集中する事も出来ず、それでもせめて明日自分が休んでも支障がない程度に仕事を片付けてしまおうとその日も夜遅くまで署に残る事となり。 )







 

  • No.4135 by ベル・ミラー  2024-03-01 13:58:29 





ルイス・ダンフォード



( __あの事件から12年目を迎えようとする中で、日を増して過熱する報道や署に張り込む記者の数、そうしてその渦中に居るエバンズの体調が思わしくない事を危惧した警視正からダンフォードに急遽応援の連絡が入ったのは、今朝の事だった。自身の勤務先での仕事を全て終わらせてから車を走らせ、レイクウッドに到着したのは夜遅くの事。駐車場から見る署内は暗く流石にこの時間残ってる人は居ないかと、翌日からの仕事を少しでもスムーズに進める事が出来る様に、今署員が担当している事件の進み具合やその他諸々を確認する為に刑事課のフロアを訪れ。__フロア内に光は無かったが、ふ、と視線を向けた先。エバンズ専用の部屋の隙間から僅かに薄い光が漏れてるのに気が付いた。外からは気が付かなかったがまだ残って居たのかと一度壁に掛かってる時計の時間を確認した後、扉を一度だけノックし『…エバンズ?』と、声を掛けて )




  • No.4136 by アルバート・エバンズ  2024-03-01 22:04:15 

 






( 今日の仕事さえ片付けてしまえば、明日は静かに過ごせると思っていた。体調は思わしくなかったが耐えられる程度のもので、仕事に大きな支障は無い筈だった。棚にしまってある資料を取り出そうと席を立ち棚に手を掛けた時、突然酷い目眩に襲われて一切の平衡感覚が分からなくなる。自分が地面に足を付いて立っているのかすら分からなくなる程気持ちの悪い目眩。咄嗟に伸ばした手は何を掴む事も出来ず地面に半ば倒れ込むようにして蹲り。視界が回るような目眩で治まれば良かったものの、デスクの上にあったマグカップか何かが反動で落ちたのだろう。何かが割れる音がして、自分の意思に反して記憶の波が一気に押し寄せていた。追い込まれた状態で発作を起こしても、過去にさえ意識を奪われなければ耐える事が出来た。しかしあまりに鮮明な銃声____と誤認してしまった音_____が引き金となれば最早正常な状態ではいられない程に心は弱り切っていた。「っ、…ぐ、…かは、ッ……」あっという間に呼吸が上手く出来なくなり、瞳は暗く沈む。吐き気に襲われえずくのだが、何かを吐き出してしまう事も出来ずに苦しさに悶えるばかり。鮮やか過ぎる程の赤と血の気を失った妹の顔、恨みを湛えた遺族の暗い瞳と追いかけて来る記者の波。酸素を取り込む事が出来なくなった事で身体は痙攣を始め、棚に凭れ掛かるようにして身体は力を失う事となり。思いがけない来訪者が部屋の扉をノックした時、意識を失う一歩手前の状態で掠れた極浅い呼吸を繰り返し、身体は冷え切っていて。 )







 

  • No.4137 by ベル・ミラー  2024-03-01 22:28:55 





ルイス・ダンフォード



( ノックに応える声は無く、時計の秒針が時を刻む音だけが静かに響くと思われたフロア内__ドアのぶに指先が掛かった所で、部屋の中から人の気配と極僅かな物音の様な音が聞こえれば一瞬だけ怪しむ様に目を細め『…入るぞ、』と、扉を開け。FBIの署に侵入する怖いもの知らずな犯罪者は居ないとは思うが__勿論クラークの事は知らないから言える事__念の為に細心の注意を払い落ちた視線の先にはデスクから落下したのか床で砕けるマグカップと、数枚の書類。それから棚に凭れる様にして掠れた危うい呼吸を懸命に繰り返す相手。『ッ、エバンズ!!』息が止まるかと思った。相手の名前を声を張り上げ呼び、床に片膝を付きその背に腕を回し引き寄せるのだが、身体には力が入っておらず、此方を認識出来ているのかも怪しい所。『おい!しっかりしろ!』片腕で相手の身体を確りと支え、もう片方の手で上着のポケットにあるスマートフォンを取り出すと、“レイクウッド総合病院”へと電話を掛け夜間の救急患者受け入れを要請し。電話口の看護師は直ぐに救急車を手配すると告げ、それまでの間、冷たくなっている相手の身体を懸命に擦り、意識を手放す事が無いようにと話し掛け続けて )




  • No.4138 by アルバート・エバンズ  2024-03-02 00:16:18 

 






( 相手が部屋に入って来た事を、自分の名前を呼んだ事を、認識する事は出来なかった。フラッシュバックに襲われ暗く冷たい記憶の中に囚われたまま、深い水の底に沈んでいるかのように呼吸が苦しくて懸命に息を吸おうと口を薄く開くのだがまともな酸素を取り込む事さえ出来ない。意識が朦朧とした状態の中で不意に暖かさを感じた事で少しばかり意識が浮上するのだが、それによって麻痺していた苦痛もぶり返す。掠れた呼吸の中に苦しげな音が混ざり、肩を上下させながら懸命に酸素を取り込もうとするのだが其れは喉に引っ掛かり咳き込む事となった。「…っ、ゲホ……ッは、ぁ゛…」相手が要請した救急車のサイレンが聞こえ始めた頃、完全に相手に凭れ掛かる形になり辛うじて保っていた意識は失われる事となり。 )








 

  • No.4139 by ベル・ミラー  2024-03-02 01:03:02 





ルイス・ダンフォード



( 救急車の中で、呼吸の手助けの為に相手の口元には酸素マスクが、人差し指の先には血中酸素と心拍を測る為の器具が取り付けられその状態のまま病院へと運ばれる事となり。__夜間の救急専用の入口から担架に乗せられた相手は一先ず個室の病室へと寝かされた。心身共にかなり衰弱しており、命に別状こそ無いものの今はゆっくりと寝かせ、暫くは安静にしなければならない事の説明を受けたダンフォードは、眉間に皺を寄せた険しい表情で頷き。エバンズの担当医師である【アダムス】は明日の朝一番に来るとの事で、検査や容態の確認、今後の詳しい進み方などは彼と話す事となるだろう。__真っ白のベッドで酸素マスクに助けられながら静かに眠る相手の顔を見詰め、重たい息を吐き出す。こうして意識の無い相手を見るのは2度目だ。あの時とは違いきっと明日には目を覚ますだろうが、意識を取り戻した時はもう既にあの事件から12年目を迎える当日、相手の心に掛かる更なる痛みを思い思わず額に手を当て顔を俯かせる。警視正にも、相手によく懐いているように見えるミラーにも連絡をしなければならないが、それは明日の朝だ。相手専用の部屋に散らばるマグカップの欠片や書類の片付けは…どうせ誰もあの部屋には入らないだろう、朝早くから出勤し片付ければそれでいい。額から手を離し顔を持ち上げ、再び眠る相手に視線を向ける。それから静かに伸ばした手で目元に掛かる前髪を払ってやると、もう少しだけ此処に居る事を決め、何とも言えぬやるせなさに再び深い息を吐き出して )




  • No.4140 by アルバート・エバンズ  2024-03-02 02:12:31 

 






( 息も吐けない程の苦痛はいつの間にか緩やかに楽になっていたのだが其れが何故かは分からない。暗闇から徐々に過去の記憶が浮かび上がり、自分自身も深い水の底から少しずつ水面に向かって浮かび上がっているような感覚に、僅かに眉を顰め身じろぐ。______セシリアの後ろ姿が見えた。緩くカールした焦茶色の髪が風になびき、暗闇はやがて昔よく散歩した緑豊かな川沿いの煉瓦道へ。彼女の後ろ姿を眺めているうちに、景色はよく見知った幼稚園の教室の中へと変わっていて、心臓に冷たい刃を当てられたような感覚になる。歩いている彼女の後ろ姿を見ていた筈が、気付けば床に倒れて動かなくなった背中があり、思わず「セシリア、」と声を上げるのと同時に意識が浮上して。呼吸は乱れていたが、酷い苦痛をもたらさなかったのは口元に宛がわれた酸素マスクのお陰。しかし夢から醒めたばかりで、自分の置かれた状況を直ぐに理解する事が出来ずに。身体には酷く汗をかいていて、夢の恐怖から身体は小刻みに震えていた。 )







 

  • No.4141 by ベル・ミラー  2024-03-02 09:07:08 





ルイス・ダンフォード



( 眠る相手の傍らでパイプ椅子に座りながら静かに目を閉じる事数分か、数十分。ふいに僅かなスプリングの軋みと切羽詰まった様な声が鼓膜を震わせ瞼を持ち上げると、真っ白の布団上で目を覚ましている相手が。恐怖を感じる夢を見たのだろうか瞳孔は開いているのにその瞳は不安定に揺れていて、それに比例する様に身体も小刻みに震えている。寒さから来る震えでは無い事は一目瞭然で間違い無く今の状況を瞬時に理解出来る程に思考は動かないだろうと思えば、静かに椅子から立ち上がるのと同時、骨張った片手を布団の上から相手の胸元付近に置き一瞬ほんの僅かに力を込め『…大丈夫だから、起き上がるな。』相手が状況確認の為に動き出してしまう事の無い様に、低く落ち着い声色で大人しく眠る事を促した後は、胸元に宛がっていた手を上へ、相手の焦げ茶の前髪を軽く撫で払う仕草で落ち着かせようと試みて )




  • No.4142 by アルバート・エバンズ  2024-03-02 10:53:04 

 






( 浅く吐き出された息は震えながらペースを乱すのだが、再び酷い酸欠に苦しむ事にはならず補助されるように酸素を取り込む事が出来ていた。不意に胸元を抑えられ、混乱した表情のまま視線を向けた先にはダンフォードの姿。「_____どうして、…」と言葉を紡いだもののあの酷い眩暈の症状は残っていて、無理に起き上がっては居ないものの視界が揺らぐ感覚に僅かに表情を歪めて。目の前にダンフォードが居る事、その事実から派生してこの場所が署ではなく病院であることに気がつくと自分が置かれていた状況を思い出し、また胸が重たくなるような感覚を感じて。相手はあの記事を読んだだろうか、と思うのと同時に今は一体何日の何時かと時計に視線を向けて。 )







 

  • No.4143 by ベル・ミラー  2024-03-02 13:05:36 





ルイス・ダンフォード



( 相手の頭が僅かに持ち上がり目線が時計に向いた事で、今置かれて居る状況を理解したのだろうと判断する。『__夜中の0時を回った所だ、』モニターからの薄い明かりがあるとは言え、この暗い部屋の中では正確に時間を確かめる事は出来ないかもしれない。それを良い事に誤魔化す事は出来るのかもしれないが、それはあくまでもその場凌ぎであり何にもならぬ行為だとわかるからこそ時間だけを静かに告げ。0時と言う事は日付的にあの事件から12年目の当日と言う事になる。相手が今再び眠りに就き、次に目が覚めた時は既に日が昇っていて嫌でもそれを実感する事になるだろうか。『署で倒れてるお前を見付けてな、悪いが救急車を呼ばせてもらった。…朝になれば担当医が来て、詳しい事を教えてくれる筈だ。』遅れて、先程の“どうして”に対するザックリとした返答を続けては、普段の様な軽いトーンではない真剣な声色で以て『…もう一度、眠れるか?』と尋ねて )




  • No.4144 by アルバート・エバンズ  2024-03-02 19:09:13 

 







( 自分が有給を取っていた為か、ダンフォードが応援の要請を受けていた事を初めて知る。そして自分があの眩暈を起こしたあと倒れていた事も。こんな状態で、其れも病室で12年目を迎えるなど、もしあの記者やクラークが居たら“自分だけ逃げるのか“と罵る事だろう。しかし相手を長く此処に引き留めておく訳にはいかず、投げ掛けられた問いには心配は要らないと小さく頷いて「大丈夫です、…ご迷惑をお掛けしました。」と、普段よりも弱った声ながらもあくまで普段通りの毅然とした態度を崩す事はせず。有給をとっているのは今日だけ、少し休んで落ち着き次第直ぐに復帰すると相手にさえ弱さを見せる事なく告げるのは、無理をしてでも立って居なければ駄目になってしまうと、自分でも思う程に一連の出来事によりダメージを負っているからか。「_____この事は誰にも言わないで下さい。…朝まで此処に居なくても、もう大丈夫です、」酸素マスクに呼吸を補助されなければ直ぐにでも上手く呼吸が出来なくなるというのに、あの発作は極一時的なものだったとばかりに虚勢を張り。 )







 

  • No.4145 by ベル・ミラー  2024-03-02 22:01:31 





ルイス・ダンフォード



( 相手が繰り返す“大丈夫”を虚勢だと見抜けぬ程部下に無関心だった訳でも鈍感な訳でも無い。けれど昔から弱っている姿を見られるのを嫌う野生動物みたいな所のある相手だ、下手に己が此処に居続けるとかえって逆効果な場合もある。『こんなのは迷惑の内に入らねェよ。』先ずは受けた謝罪に軽く首を左右に振る事で全く問題無い事を伝え、続けて要望を言われれば僅かに片眉微動させ『誰にもって、警視正やミラーの嬢ちゃんにもか?』正直な所、朝担当医が来て話によっては相手の有給を延ばす事になり、そうなれば警視正には嫌でも伝えなければならないだろう。けれども相手と共に捜査をする事の多い、相棒の様な存在の部下である彼女にもなのかと確認を )




  • No.4146 by アルバート・エバンズ  2024-03-03 00:02:17 

 






( こんなのは迷惑の内に入らないと、自分が謝った時、昔から相手はいつも首を振りそう言い聞かせてくれる気がした。相手からミラーの名前が出れば頷き「_____出張中なんです。ただでさえ別の町で、一人で捜査に加わってる。今回のタイミングと重なった事を気にしているから尚更…ミラーには何も言わないでください、」と告げて。「ダンフォードさんも、もうホテルに戻って休んで下さい。」病院まで付き添ってくれた事に礼を述べつつ、明日出勤しなければならない事を考えると早くホテルに戻って休んだ方が良いと促して。 )







 

  • No.4147 by ベル・ミラー  2024-03-03 11:00:34 





ルイス・ダンフォード



( 相手が倒れて今病院だ、なんて言えばきっと血相を変えて飛んで来るか、相手の事が心配で捜査も手につかない状態になるかもしれない。きっとあの部下にはそう言った__FBIとしては些か冷静さに欠ける所があるのかもしれないとぼんやり思っていた。だがそれはきっと相手の事を心の底から心配しているからなんだろうとも。そして相手もまた、彼女の事を少なからず心配している。『わかった、嬢ちゃんには連絡しない。』相手の気持ちを汲み取りそう約束しては、繰り返される帰る事を促す言葉にやれやれと肩を竦ませ『…嗚呼、わかったよ。明日の仕事の事は何も心配せずゆっくり休め。夕方また見舞いに来るから、その時医者とどんな話になったか教えろよ。』椅子から立ち上がり鞄を片手に頷けば、ちゃっかり仕事終わりにまた来る事を告げその日はホテルに戻る事として。__それから迎えた朝。事件から12年目の当日。アダムス医者は朝から相手の居る病室の扉をノックし起きているかを確認して )




  • No.4148 by アルバート・エバンズ  2024-03-03 15:37:42 

 






( 相手が帰ると病室はしんと静まり返る。無用な心配を掛けないようにと普段通りを装っていたものの一人になると倦怠感に抗う事なく寝返りを打ち息を吐き出して。自分の前では無理をする必要は無いと彼は言うだろうが、ただでさえ応援として余計な労力を掛けているのだ。あの記事が自分の身近な人に与える影響は大きい_____お前の部下だろうと、自分の知らない所で嫌な思いをさせている事だってあり得る。あの事件から12年。今日は至る所であの事件の報道が成され、冷酷で心無い捜査官として自分の話題が持ち上がり、そうしてあの夢を幾度と見るのだろう。---微睡んでも鮮明な悪夢によって眠りは阻害され、まともに眠る事が出来ないまま朝を迎えた。胸が締め付けられるような苦しさやフラッシュバックに襲われるのは、病院であっても変わらない。扉がノックされた時も、極浅い眠りの中に居て意識は直ぐに浮上した。特段返事をする事はなかったものの、扉へと視線を向けて。 )







 

  • No.4149 by ベル・ミラー  2024-03-03 16:50:23 





アダムス医者



( ノックに対する返事は無く、この段階で相手は未だ眠って居ると思う者も多いかもしれないが、例え起きて居たとしても返事をしない事がある事を彼の専属医であるアダムスは知っていた。体調が悪かったり意識がぼんやりとしている時、1人になりたい時、はたまた病室に連れて来られたのを不服と思っている時何かも子供じみた機嫌の悪さを醸し出す時がある。少しの間を空けて静かに扉を右へと引き中を確認すれば、起き上がってこそ居ないもののぼんやりと目を開け此方を見ている相手と視線が交わり。機嫌の悪さからの無視では無い事だけは確認し後ろ手に扉を閉める。『おはようございます。…少し来るのが早すぎましたね。』ゆっくりとした足取りでベッドの脇まで歩みを進め、傍らで立ち止まると至極穏やかな声色で小さく微笑みつつモニターに映し出される心拍や酸素濃度を確認し頷き。『__多少の乱れはありますが、一応安定しています。けれど、ご自身でわかっている通り、身体にも心にも相当な負荷が掛かりもう既に限界を迎えている筈です。…数日、入院しましょう。』続けてその瞳に真剣な色を宿すと、穏やかながら、拒否は認めないとばかりの医師としての僅かな圧を滲ませ。__一方その頃。相手が倒れた事を知らないミラーは早朝に送ったメールへの返事が無い事に少しばかりの不安を感じていた。朝早かった為に眠っていてまだメッセージを見ていないとも思うのだが、一度膨らんだ嫌な予感はそう簡単に消える事が無く、それは“今日”だからこそ尚更であり )




  • No.4150 by アルバート・エバンズ  2024-03-05 00:50:45 

 






( 朝届いたミラーからのメールに返事をする事はなかった。それだけの気力もなく、目眩の所為で長く画面を見ている事も出来ずに。---休職、療養、入院______そういった言葉を幾度彼の口から聞いただろう。変わらず優しく微笑む相手でさえ、報道の事は知っている筈だ。休職も入院も、結局はその場凌ぎにしかならず、その時身体を休めても何かが変わる訳ではなく根治には至らない。「……12年経っても、何も変わらない。」とだけ独り言のように言葉を紡ぎ。体調が悪くても素直に身体を休める事を受け入れられないのは歪んだ贖罪の形______身体の事を顧みず仕事にのめり込み、いつか自分が壊れてしまう事を心の何処かで望んでいるからなのだろうか。“ルーカスとセシリアさんはもっと苦しかった“という言葉は心に突き刺さったままだった。入院を促す言葉には黙り込んだままだったものの「……外出の許可が欲しい、」とひと言。意識には僅かに靄が掛かったような状態で、正常な思考とは言えない。今の状態で1人で出歩く事は愚か、車を運転する事など不可能に近かったが妹の墓参りに行かなければならないと思ったのだ。 )






 

  • No.4151 by ベル・ミラー  2024-03-05 19:33:39 





アダムス医者



__痛みが完全に消える事は無いでしょう、けれど12年掛けて少しずつ変化してはいる筈です。…貴方にとっては気休めでしかないかもしれませんが。
( 一人言の様に溢された言葉に返事をするべきだったかは定かでは無いが。痛みや苦しみの渦中に居る人にはその“負”の大きさの変化には気が付かないものだと、加えて相手は“自分だけ楽になる事は悪”だと言う考えを心の奥底に宿している。楽になりたい、けれど許されない、その拮抗し合う気持ちの狭間で身動きが取れず、頭も、身体も、心も、いっぱいいっぱいになってしまうのだ。そうやって負荷が掛かり過ぎた事で人は時に正常な判断を失い__最悪を招く事だって十二分に有り得る。『…本当に変わらなくてはいけないのは、貴方を取り巻く環境なんでしょうね、』ぼんやりとしたままの相手を見詰め、思うのは周囲の身勝手な騒ぎ。周りが、悪いのはあくまでも事件を起こした犯人だけで相手は悪く無いと声を揃え、記者やマスコミが相手を責め立てるような記事を書かず、誰しもが相手をそっとしておけば、もしかしたらこんなにも深く苦しみ続ける事は無かったかもしれない。痛みは消えずとも、もっともっと周囲に頼る事が出来たかもしれない。__何が、誰が、“悪”だろうか。週刊誌の内容を思い出し思わず目を伏せるも、ふいに入院に対する拒否の言葉ではない、外出の許可を所望されると再び顔を上げ。『…今はまだ無理です。妹さんの命日だと言う事はわかっていますが、とても許可出来る状態じゃない。』今日がどれ程の日か、わかってはいるが無理なものは無理だと首を左右に振り残酷にも拒否を。今の相手を1人病院から出す事は、それこそ何よりも危ない事だとわかっているからで )




  • No.4152 by アルバート・エバンズ  2024-03-05 21:19:32 

 







( 誰も事件の事など知らない場所で静かに暮らしたいと思わない訳では無かったが、それは罪から逃げる事だとも感じていた。結局根底には罪の意識がこびり付いて居て、それが楽になる事を_____過去の記憶から解放される事を赦さない。周りの誰でもなく、自分で自分を許せないからこそ苦しみ続けているのかもしれない。今回の件も、声を大にしてあの証言は嘘だと反論し、弁護士を雇って戦う事も出来たがそこまでしようとは思えなかったのだ。当然ながら外出を許可される事はなく、この場所で一人無意味な時間を過ごす事に対してやるせない気持ちを抱えるも、医師の決定に食い下がる事はしなかった。「……休みの申請をしておく、」とだけ答えたのは、入院をする意思があるという事。同時に、今刑事として働く意義を見失っているという事でもあった。---警視正の元には、午前中の内にエバンズから明日以降休みを貰いたい旨のメールが届いていた。自己都合による休みで復帰に数週間を要する可能性もあるため有休消化が難しければ休職の扱いでも構わないと。事件から12年、本人が想定した通りレイクウッド署の前には大勢の記者が集まりエバンズの姿を探していたが、出勤している様子がない事に気付き逃げたのかと不満を露わにする記者も居た。メールに詳細は書かれて居なかったが、体調を崩したのは明らかでメールを開いたままやるせなさから深い溜息を吐き。 )








 

  • No.4153 by ベル・ミラー  2024-03-05 23:47:22 





( 仕事人間の相手が休みの申請をするとなれば、よっぽどの事があると判断され却下される事は間違い無く無いだろうとアダムス医者は頷き、入院の諸々の手続きをする為に一度病室から出て行き。__刑事課フロアでは何とも言い難い空気が朝から漂っていた。此処数日で一番数の多い記者達の姿を見た署員も多く、アナンデール事件から12年目を迎えた今日、悪い意味で話題となっているエバンズ本人は出勤していない。遺族に謝罪をしに行ってるだとか、この記者の数じゃ署に来れる筈が無いだとか、勝手な憶測が飛び交う中で、今日から応援に来ていたダンフォードは事情を知っているだけに表情も険しさが増して。__その日の夕方。朝からエバンズに送っているメールにも電話にも返事が無い事に不安を覚えたミラーは、相手の様子を確認すべくサラに電話を掛け。彼女の第一声の後「エバンズさんってまだ居るかわかる?」と、尋ねて )




  • No.4154 by アルバート・エバンズ  2024-03-06 01:31:07 

 






( 入院に同意したものの、全てが変わってしまったあの瞬間______具体的には、突入のタイミングを窺う為に時計を見ていた当時の捜査官がけたたましい銃声を聞いた午後3時過ぎ、その時間が近付くに連れて体調は悪化していた。嫌でも当時の情景が鮮明に蘇り、妹が命を落とすその瞬間に向けて時をなぞるように記憶が繰り返される。幾ら嫌だと、見たくないと拒絶しても記憶の波は其れを許さないのだ。呼吸が可笑しくなり、苦しさからシーツを握り締める。自分が現場に入った時、不安そうな表情で園児を膝に乗せ抱き抱えながらも視線が重なったあの一瞬、確かにセシリアは自分に向けて大丈夫だと、信じていると頷いたのに。フラッシュバックに襲われ、昨晩と同じような酷い発作を起こしてしまうと思わずナースコールを押していて。---スマートフォンが着信を知らせ画面を見ると、そこには主張に行っている同僚の名前。電話に出て『どう?捜査は順調?』と尋ねたものの、相手が電話を掛けてきた理由は分かっていた。『警部補、今日は出勤してないの。署の前を張り込んでる記者もすごい数で…これは来なくて正解だと思う。』と告げて。 )






 

  • No.4155 by ベル・ミラー  2024-03-06 08:49:51 





( ナースステーション内、相手が入院している病室の番号のランプが光ったと同時にナースコールによって2つの部屋が繋がる。『どうしました?』と言う看護師の問い掛けに返事と言う返事は無く明らかに様子の可笑しい呼吸音だけが聞こえる状況に、これは不味いと判断した看護師は点滴の準備をするや否や『直ぐ行きますからね!』と部屋を飛び出して。病室の扉を開けた時、相手は酸素マスクをしている状態ながら酷い発作に襲われていた。それは意識を失っても可笑しくは無いと思えるもので駆け寄った看護師は『エバンズさん、わかりますか?大丈夫ですからね、大きく息を吸って下さい。』と、励ますような声を掛けその腕に点滴の針を刺し。点滴パックからは軽めの安定剤が滴り、管を通り、相手の身体の中へと入る事だろう。__てっきり相手は出勤しているものとばかり思っていた。だからこそサラの言葉に思わず息が詰まった。例えどれ程の記者が署の周りを取り囲んでいたとて、相手は休む事を選ばない。けれどそれをした…せざるを得ない何かがあったと言う事ではないのか。「……今日までには全部解決して、戻るつもりだった。」ぽつり、不甲斐無さの中に自分自身にあてる恨み言のような声色で答えたのは、暗に順調では無いという返事。それを彼女に言った所で急に犯人が自首する訳ではないと百も承知なのだが。「…悪いのはエバンズさんじゃないのに…あの記事だって、絶対デタラメなのに、」1人出張に行ってる事が気持ちを不安定にさせているのか、相手の様子を知る事が出来ないのが怖いのか、一度口をついて言葉が落ちればそれは後から止まる事は無く、友人である同僚に結局気持ちをぶつける事となって )



  • No.4156 by アルバート・エバンズ  2024-03-07 23:19:28 

 






( 酸素マスクの補助によって、酸欠になったり呼吸ができなくなったりする事はない筈だった。それでもパニック的に呼吸が乱れてしまえば正常なペースを保つ事は難しい。安定剤が打たれた事で少しずつ、鮮明だった記憶が遠くなり数十分もすれば呼吸は落ち着き眠りに落ちるだろう。---相手の言葉を聞いたサラは『…捜査が思い通りに進まないのはどうしようもないよ、誰も悪くない。』と答える。どれだけ経験豊富なベテラン刑事であっても、捜査が思い通りに進まないというのは往々にしてある事なのだ。今回の件で焦っているのは分かるが、戻って来られなかったのは相手のせいではないと。『分かってる。…けど、署内でもここ数日警部補への風当たりが強かったのは確か。今日で収まれば良いけど…』相手の言葉に同意を示しつつ、署内の空気は良いものでは無かったという事だけは事実として伝えておき。節目の今日を過ぎて、明日から記者も世間の話題も、全て別の所に移れば良いと。 )








 

  • No.4157 by ベル・ミラー  2024-03-08 13:26:22 





( 此方の思い通りに事件が起きる訳でも、此方の思い通りのタイミングで犯人が逮捕出来る訳でも無い。加えて捜査中は何があるかわからないのだから彼女の言う通り“どうしようもない”のだと理解はしているが時期が時期なだけにどうしても自戒の気持ちは消えず。「捕まえたら、出来るだけ長い時間刑務所に入れてやる。」と、権限など無いに関わらず公私混同を投げ遣りに吐き捨てて。相手の言う通り矢張りあの記事も、報道も、署員達の中では大きな塊として燻り続けて居たようだ。全員がそれらを全く信じる事無くエバンズの味方__なんて上手くはいかない事は百も承知だが、その空気に晒され続けた彼がどれ程の苦しさを抱えたかは想像出来る。思わず深く重い溜め息を吐き出し視線は下方へと落ち「…例え事実と違ったとしても、世間が警察じゃなくて遺族側の言葉を信じるのは仕方無いと思う。、思うけど……それじゃあエバンズさんは何時まで耐え続ければいいの…っ、」世間への恨み言が漏れたのは、今日で報道も何もかもがピッタリと無くなり話題が他に移るとは考え難いから。__安定剤が効きエバンズが眠りに落ちた頃、早めに仕事を終わらせたダンフォードは相手が眠る病室の前に居た。アダムス医者から数日入院をする事が決まり、相手もそれを承諾した事を聞いて正直胸を撫で下ろす。家に1人で居てまた倒れる事になったら、と思ったからだ。小さなノックの後、静かに病室の扉を開ければ真っ白のベッドの上には相変わらず酸素マスクを付けられ点滴を打たれている相手が眠っており、点滴パックの中身が安定剤だとわかれば少なからずパニックを起こした事が伺えて。__時刻は午後3時を過ぎ、正しくあの事件が起きたその時間。沢山の人の命が一瞬にして散り、セシリアもまた、命を落とした時刻。眠る相手はどんな夢を見ているのか…その正確な時間を知るものはあの時あの場所に居た相手だけで、その寝顔を見ながらダンフォードもまた、やるせない思いを抱えて )




  • No.4158 by アルバート・エバンズ  2024-03-09 15:33:17 

 






( 彼に対する相手の想いを知っているからこそ、気持ちはよく分かる。きっと相手の言う通り全てが真実ではないのだろうが、険悪な空気の中に居ても、白い目で見られていると分かっていても、彼は其れを否定したり感情を露わにする事をしなかった。矢面に立ったまま、自分を庇う事もせずに矢を受け続けているような______相手の言う通りたった一人で耐え続けているかのようだった。『警部補を見ていて…自分を庇う事をしない人なんだと思った。分かりやすく嫌な空気を出してる人なんて一蹴しちゃえば良いのにって私は思うけど、警部補は見ないふりをするだけ。ベルが代わりに怒ってた理由がちょっと分かったかも。』相手が居ない間、遠目に彼の事を見ていて思った率直な感想を言葉にする。同時にいつも彼の事で、自分ごとのように怒っている相手を思い出して少しだけ困ったように笑うと『ベルも1人で大変でしょ。あんまり焦り過ぎないで、でも早く帰って来るのを待ってるから。』と、敢えて悪戯に少し矛盾した言葉を掛けて。『そうそう、こっちは応援でダンフォードさんが来てるよ。署内の雰囲気が良くなると良いんだけど、』と付け足して。---ふと意識が浮上した時、目に入った時計はあの瞬間と同じ時を指していた。当時の捜査官が銃声を聞いたと後に証言したのは、午後3時26分。何も変わらないまま時だけが過ぎて12年が経ってしまった。耳の奥で連続する銃声が聞こえるかのような感覚を覚えたものの、意識はぼんやりしていた。安定剤の効果に加えて、度重なるストレスや不眠によって免疫が下がったのか熱があるようで身体は酷く重たく感じて。視線を動かせばベッドの隣にはダンフォードの姿があり「……ダンフォードさん、」と小さく相手の名前を紡いで。 )








 

  • No.4159 by ベル・ミラー  2024-03-10 00:50:54 





( __そう、サラの言う通り相手は“見ない振り”をするのだ。それは決して自らの心を守る為の行為では無く何方かと言えば“諦め”。そしてきっと諦めと同じくらい強い“自己犠牲”と“贖罪”。あの事件で悪いのは間違い無く自殺した犯人ただ1人なのに、相手はあの時人質となった人達を助ける事が出来なかった、と言う罪を背負い続け、悪いのは自分だと降り掛かる全てをその身に受け続ける。「…もっと、自分を許して欲しい。」どれだけ願っても今の彼には届く事の無い思いを溢した後は、これ以上暗い気持ちにさせまいと此方を気遣い敢えて悪戯な言葉を選んだ相手の優しさに小さく笑い、「帰りを待たれてるって最高。居場所があるっていいね。」と、同じく悪戯に言葉を返しつつ「__そっか…うん、それ聞いて少し安心した。ダンフォードさんが居るならきっと直ぐに良くなるよ。」思いもしなかった応援相手に僅かに胸を撫で下ろしてはまるで自分にも言い聞かせる様に頷き。それから少しの時間互いに他愛の無い話をし、エバンズの事で何かあれば連絡をして欲しい旨を伝え電話を切って。__ふいに弱々しい声で名前を呼ばれ、視線を向ければ目を覚ました相手が此方を見ていた。安定剤の影響か、褪せた碧眼にはぼんやりとした色が纏っていて意識が確りしているのかも怪しい所。『…嗚呼、』呼ばれた名前に軽く頷き応えては、『まだ寝てて構わない。』と、緩い笑みを口角に携えて )




  • No.4160 by アルバート・エバンズ  2024-03-10 22:11:46 

 







( 昨晩相手と会った時には言及しなかったものの、相手がレイクウッドに来る予定だという事は聞かされていなかった。だとすると自分が今日の休みを取った事で急遽応援を要請したのだろうか。「_____迷惑を掛けてすみません、…」署での応援業務以上に負担を掛けていると謝罪の言葉を口にしたものの、意識は朧げで苦しそうに息を吐き。本来一番しっかりしていなければならない今日という日に、自分自身が治療を受けているというのはなんと情けない事か。「……妹の目が、忘れられないんです…恐怖の中に、ほんの少しの安堵と信頼が確かにあった______俺たちが来たから、きっと大丈夫だと思ってくれていたに違いない、…其れを、裏切った。」酸素マスクに阻まれて僅かにくぐもった声で、朧げな意識の中不意に言葉を紡ぐ。胸が押し潰されそうに痛い、今はフラッシュバックを起こすほどに鮮明な記憶ではないものの忘れられない瞬間だった。安定剤が効いている為か時折ふと意識が遠のくように眠りに引き込まれそうな瞬間がある。深く息を吐くと目を伏せて。 )







 

  • No.4161 by ベル・ミラー  2024-03-11 00:09:58 





ルイス・ダンフォード


( 相手は朧げな意識の中で謝罪をし、続けてあの瞬間の少しの出来事を話始めた。それは相手の中に未だ絡み付く決して解ける事の無い鎖で、許されない__許されたいけれど、そうであってはならないと思い続けている“罪”。相手の言う通りきっとそうであっただろう。妹だけでは無くあの場で人質になっていた人達全員が警察の姿を見て確かに安堵した筈だ。これで大丈夫、これで犯人は逮捕されて自分達は助かる、と。そう言う人達の目を己も数え切れない程見て来た。『__たった1人、恐怖だけを感じて絶望の中死ぬ被害者は山の様に居る。そんな中で一瞬でも希望があったなら、…お前の姿を見る事が出来たのなら、少なくとも“孤独”では無かった筈だ。』途切れ途切れに紡がれる後悔の言葉、それに返したのはもしかしたら優しいだけの寄り添いじゃないかもしれない。けれどどんなに後悔して自分を罰した所で亡くなった人は__妹は戻らないのだ。薄らと光を集めていた碧眼が瞼で覆い隠されたのを見て、一瞬目の奥が熱くなる感覚を覚えた。どんな時でも相手は楽になる事が無いその事実が無性に苦しくて悔しく感じる。『…代わってやりたいよ、』ぽつり、溢れた言葉は良いか悪いか。勿論己の大事な人が亡くなれば良いとは僅かも思わないが、相手の抱えるその気持ちだけを肩代わり出来たら、とそう思う。可愛い部下の残りの人生、その苦しみを肩代わり出来るのなら喜んで、と )




  • No.4162 by アルバート・エバンズ  2024-03-12 03:11:26 

 






( 結果的には死の直前、妹と視線を重ねる事が出来たのは良い事だったのだろうか。言い知れぬ恐怖と孤独を感じさせるよりも_____例え一瞬でも安堵できた事は救いになったのだろうか。再び意識を手放す間際、相手の声が聞こえた気がした。いつまでも絡み付いて離れない、解放される事を自分自身許せずに居る苦しみを誰かに背負わせる事なんて出来ない。しかし一緒に背負いたいのだと言ってくれる言葉は、時に自分を絶望の淵から救ってくれるのだ。---免疫が落ちている事による熱は直ぐには下がらず、日が暮れる頃にはその症状はより重いものになっていた。浅い眠りの中で12年前の夢を何度も繰り返しながら、熱に加えて肺が炎症を起こしているのか過呼吸を起こしていない状態でも息をするのが苦しい。ミラーからのメールや電話には相変わらず反応しないまま時間ばかりが過ぎていて。恐らく世間では様々な報道がされ、妹の名前や写真が流れ、刑事Aは冷酷な極悪人として注目を集めているのだろうが自分は何もしないまま12年目を終えようとしている。必死に見ないふりをして過ごしていたものの、一度心身のバランスが崩れてしまえばまるでストッパーが外れたかのように状況は悪い方へと転じるばかりで。 )








 

  • No.4163 by ベル・ミラー  2024-03-12 11:16:12 





( 眠る相手の様子が可笑しい事に気が付いたのはダンフォードだった。過呼吸を起こしている訳では無いのに酸素マスクの下の呼吸は酷く荒れていて木枯らしが吹く時の様な掠れた危うさまである。呼吸が苦しいからか、はたまた夢の中であの時間を彷徨っているのか、時折僅かに眉が顰められそれを見てナースコールを押せば駆け付けた看護師と医師によって肺雑音を確認され、免疫が落ちている事で恐らく肺炎を引き起こし、それによって高い熱が出ている事を告られ心だけでは無く身体までも相手を苦しめるのかとやるせない気持ちが膨らみ。安定剤の影響は勿論あるだろうが、眠れる時に寝るべきだと、そういう医師の言葉で相手が目を覚ましてから胸部のレントゲンを撮り最終的な肺炎の判断を下すと決定した後は病室には2人きりとなり。『……』細く吐き出される息で時折白く濁る酸素マスク、苦しげに寄せられた眉、窶れて見える頬、何もかもが痛々しく、何も言葉を発する事はしないものの徐に伸ばした指先は静かに相手の目元を滑って。__報道を極力見ないようにしているミラーだが、出張先の署でも街中でも少なからずアナンデールの話題は出るもので、その度に一向に返事が無い相手が心配でたまらなくなった。一方レイクウッド署では相手の知らぬ所でもう一つ悪い出来事が起こっていた。記者にしつこく付き纏われ“相手はどの様な刑事か”を幾度となく問い掛けられた若手の署員が“冷たい感じの人です。”という旨を答えたのだ。勿論その言葉に悪意は無く、署員からすれば普段見ているエバンズの性格を簡単に伝えただけの返答だったのだが、記者がそのままの意味で捉える事は勿論の事無く、これはチャンスとばかりに歪んだ捉え方をされた結果、これ見よがしに更に相手を悪く言う記事を書き始め。それは恐らく来週の週刊誌に掲載される事だろう )




  • No.4164 by アルバート・エバンズ  2024-03-12 23:31:03 

 






( ふと意識が浮上するも、初めに視界に入った白い無機質な天井は嫌な歪み方をしていた。ゆっくりと形を変えながら揺らいでいるように思えて、思わず一度目を伏せる。息は出来ている筈なのに酸素を上手く吸えていないような、呼吸をする度に胸に鈍い痛みを伴うような感覚。其れでいて、つい先程まで見ていた夢にほんの些細なきっかけで足元を掬われ何処までも深く堕ちて行ってしまうような恐怖があった。そして目を覚ます度に、今日はあの事件が起きた日なのだと言うことを嫌でも思い出す。言いようのない不安感に襲われ、一瞬呼吸が上擦る。自分はたった一人だ、皆自分の元から去り一人取り残されてしまったのだという恐怖感で身が竦む。そして自分だけが、あの事件に関わった唯一の人間として憎悪を向けられ続けるのだと______高熱の所為だろう、側に相手がいる事に気が付かないままそんな思考に囚われて、元々浅かった呼吸はさらにペースを乱しマスクを曇らせて。 )








 

  • No.4165 by ベル・ミラー  2024-03-13 08:51:33 





ルイス・ダンフォード



( 隈が色濃く残る目元を親指の腹で撫で続けながら、ふと相手の呼吸の上擦りを感じて瞳を合わせる。薄く開いた目は再び静かに閉じられた後だったが目を覚ました事はわかり、加えて肺炎によって引き起こされている胸の痛みや熱による苦しさに苛まれている事、何より目を覚ました後の“繰り返す今日”に絶望している事も手に取るようにわかった。明らかに狂ってしまった呼吸を繰り返す相手の頬を軽く叩く事で意識を留まらせる事は出来るだろうか。『エバンズ、わかるか?』見下ろす様な形で相手の顔を見遣りつつ、此処に居る自分の事を認識させる。頬から額へと移動した掌に伝わるのはどれだけの高熱かを思い知らせる熱さで、安定剤に加えて解熱剤も必要となる状況に些かの不安も覚える事となり )




  • No.4166 by アルバート・エバンズ  2024-03-18 11:58:39 

 







( 頬を叩かれる刺激に再び瞼を持ち上げれば、揺らぐ視界の中に居たのはかつての上司。相手は確か自分の代わりに応援に来たと言っていた筈で、少し前にも言葉を交わした記憶があった。「_____ダンフォードさん、…」小さく言葉を紡ぐと、不意に腕を持ち上げ相手の手を掴む。点滴の管が揺れたが其れを気にする事はなく、ただこの言いようのない不安感の中で彼が側に居てくれる事が救いだった。「…あんな事、俺は言っていません……あの事件と、遺族に、誠実に向き合ってきたつもりです…っ…事件を踏み台になんてしてない、」相手を見据えたまま徐に紡いだのは週刊誌の記事に対する否定。意識が朧げなまま、せめて相手にはあの記事が事実ではないと知っていて欲しいと思ったのだろう。浅い呼吸の中で懸命に言葉を紡ぎ、訴える。木枯らしのような掠れた音が細く唇から吐き出され、その痛みに眉根を寄せつつ「……妹の、墓参りに行きたいんです…今日行ってやらないと、…」と譫言のように紡いで。 )







 

  • No.4167 by ベル・ミラー  2024-03-18 18:23:20 





ルイス・ダンフォード



( 焦点の合わない碧眼が彷徨う様に朧気に此方を見、紡がれた名前に続けて弱い力で以て手を掴まれる。何かを訴える様に、傍を離れていくなと言う様に、薄く開かれた唇からは懸命な音が漏れ、それを確りと聞き届けるや否や、ちゃんとわかっているとばかりに頷き。『ああ、わかってるよ。お前が週刊誌に書かれている様な奴じゃない事は俺がちゃんとわかってる。…ジョーンズも、警視正も、ミラーの嬢ちゃんもお前の味方だ。』何も心配する事は無い、相手が悪だと思う人は少なくとも近い距離の人達の中には決して居ないと、安心させるようにそう言葉にしつつ窶れ冷えている頬を指の腹で軽く撫で。そのまま再び意識を落とすかと思われた相手は、朦朧とした中でも今日が何の日かを確りと認識しているようで、頻りに“お墓参り”に行きたいと所望する。狂った呼吸に阻まれながら、それだけはやり遂げねばならぬ使命感の様に。けれど相手の願いを今は聞く事が出来ないのだ。断らねばならぬ事にやるせなさを覚えながら、朦朧としている意識の相手に声が届く様にと僅かに顔を近付け『__叶えてやりたいが、今は絶対安静なんだ。免疫力が低下してるせいで肺炎になってる。…身体辛いだろ?』聞こえていようがいまいが、返事があろうがなかろうが、子供に言い聞かせるような何処と無く柔らかい声色で今の状態の説明を )




  • No.4168 by アルバート・エバンズ  2024-03-20 03:42:39 

 






( 夢現な状態だったかもしれないが、それでも相手の言葉は確かに届き”味方だ“という言葉は少しばかり心を落ち着かせた。週刊誌に書かれた記事、其れを目にした殆どの人が自分を遺族に辛く当たり人の心が無い冷酷な男だと思っても、真実ではないと理解してくれている人が身近に居る。幾ら目を背けても、記者に付け回され周囲から白い目を向けられた時間は酷く長く感じて、心を抉られる苦しい時間だったのだ。---妹の墓参りに行く事は出来ない、と相手は自分に語り掛けたのだろう。しかし其れに反応を示すよりも前に再び意識を手放し眠りに沈む事となり。安定剤の効果により発作を起こしてしまうような状態ではないもの、肺の炎症の所為で呼吸は相変わらず浅く掠れたもの。高熱も続いており、今の状態では職務に復帰できる見通しは立たないと言わざるを得ないだろう。 )








 

  • No.4169 by ベル・ミラー  2024-03-20 10:20:41 





( __相手が再び意識を手放してから数時間の間、意識の波の揺れはあり薄らと目が覚めた時にアダムス医師により手早いレントゲン検査と血液検査が行われ、酸素マスクは暫く外せない肺炎である事が明らかとなった。点滴の管からは解熱剤が流され、意識が混濁し発作に苦しめられる様になると出来るだけ軽い安定剤に変える__それが繰り返され面会時間が終わりになる事にはダンフォードは一度帰宅し。更に時間は過ぎて二度目の看護師の巡回が終わった夜11時30分過ぎ。何時ぞやと同じく盗んだ白衣に袖を通したクラークがニコニコと楽しそうな笑みを携えて相手の眠る病室の扉を開けた。そのまま眠る相手に近付き、枕元の間接照明を点けてモニターと点滴を確認してから上から顔を覗き込む。ぼんやりとしたオレンジの明かりに照らされた相手の顔は、数日前に署で見た時よりも遥かに窶れていて相当苦しんでいる事が伺えるものだから、思わず笑みも深くなると言うもので )




  • No.4170 by アルバート・エバンズ  2024-03-20 13:44:58 

 






( 精神的な苦しさに加えての身体の不調と言うのは堪え難い苦痛だった。一度発作を起こして仕舞えば弱った身体が付いて来ず、まともに呼吸が出来なくなる。意識は僅かに沈み込んだまま、身体も鉛のように重い。そんな中で、幾度と事件の、あの日の夢を見るのだ。______僅かに意識が浮かび上がり、睫毛が震えると閉じていた瞼が薄く開く。ぼんやりとした灯りの中、此方を見下ろす人物は白衣を着ていて、医師の巡回だろうと思えば再び意識を手放しそうになり。変わらず酸素を供給されているにも関わらず、胸は重たく息はし辛いままだった。ふと、今は何時だろうかと思うのだがスマートフォンに手を伸ばす事さえ億劫で、暗い部屋の中では時計を確認する事も出来ずに。 )








 

  • No.4171 by ベル・ミラー  2024-03-20 14:12:00 





アーロン・クラーク



( 暫しの間微笑みだけを浮かべ何も言葉を発する事無く眠る相手を見下ろし続けて居たのだが。ふいに長い睫毛が震え静かに瞼が持ち上がると、相手の持つ褪せた碧眼がオレンジの間接照明の光を僅かに浴びる。相手の意識はぼんやりとしていて白衣を着ている己を巡回中の医師と勘違いしているのだろうか。__医師は、こんな事しないですよね。そう言いたげに口角をより持ち上げると徐に片手を相手の胸に添え。__皮膚の、筋肉の、その下にある肺を押し潰す様に力を加える。酸素マスクをつけているとは言え、その加減を知らぬ行為は相手を肉体的に苦しめるには十分だろうか。相変わらず何も言葉を発する事無く、けれども相手の胸を押さえ付ける片手に込めた力だけは決して緩める事無く、己の見下ろす相手が苦しむ様を眺め続けて )




  • No.4172 by アルバート・エバンズ  2024-03-20 14:33:43 

 






( 幾度となく短い覚醒と眠りを繰り返しているように、再び意識が静かに閉じる直前だった。不意に胸元に手が添えられた感覚を感じたのも束の間、其れは摩るような優しいものではなく明らか押し潰そうとするかのような強い力が込められて、呼吸を阻害する。「_____っ、かは…ッ、…」ただでさえ苦しかった呼吸はより浅く、酸素を取り込めなくなり胸に強い痛みが走る。その行為に、当然相手が医者などではない事は直ぐに理解して力の入らない手で相手の手を退けようとその手首を掴むのだが、びくともしない。外から圧が加えられた事で渇いた咳が唇を震わせ、喘ぐような呼吸に変わると苦しさから表情が歪み。 )








 

  • No.4173 by ベル・ミラー  2024-03-20 15:02:59 





アーロン・クラーク



( 胸を押さえ付けた途端に襲い来る苦しさを逃がす術が無くなったのだろう、相手の薄く開かれた唇から喘ぐ様な呼吸が漏れたのを聞き、それが更なる加虐心を煽るものだから胸を押す手の力はどんどん強くなる一方で。もっと、もっと、と膨れ上がるその気持ちは最早正常な思考では無い。苦痛から逃れる為にと伸ばされた相手の指先が手首へと掛かるが、今の状態ではそんなものは幼子の力と然程変わらぬものであり何の役にも立ちはしないのだ。『__こんばんは、警部補。夜中なので静かにして下さいね。』漸く発した言葉はこの場、この状況を作り上げている当人とは思えない程の柔らかな挨拶とある意味周りへの配慮。その言葉の柔らかさとは裏腹にもう片方の手を伸ばした先は相手の口元で、あろう事か酸素マスクさえも外してしまうと『苦しいですか?』と、答えられない事も、状態も、わかりきっている問いを投げ掛けて )




  • No.4174 by アルバート・エバンズ  2024-03-20 22:44:49 

 







( ただでさえ肺炎の所為で呼吸が苦しい状態の中、胸を押さえ付けられた上に酸素マスクまでもを口元から外されてしまえば酸素の薄い場所に放り出されたかの如く上手く呼吸が出来なくなる。言葉は声にならず、掠れた音ばかりが唇から吐き出され喘ぐように浅く上下する胸も徐々に早くなって行き。今日はあの事件から12年の日。自分に恨みを抱き続ける彼が大人しくしている筈などないと分かっていたのに。相手の囁くような声は、最早深い罪悪感と共に過去の記憶を蘇らせるトリガーにさえなっていた。穏やかな口調の裏で相手の考えている事が、一人逃げるのかと責め罵られる事が分かってしまうからこそ、身体は正直に恐怖を感じる。安定剤で辛うじて繋ぎ止められていたものが、今にも断たれて苦痛の波に押し流されてしまいそうな恐怖感。辞めてくれと訴えるように小さく首を振ったものの、暗紫の瞳に記憶を引き出されるような感覚に呼吸の乱れは徐々に大きくなっていき。 )








 

  • No.4175 by ベル・ミラー  2024-03-21 00:00:19 





アーロン・クラーク



( 案の定相手は何も答えない。否、答える事が出来ないと言った方が正しい状況でゼェゼェと繰り返される呼吸音だけが静かな病室に響き。酸素マスクを外したとて息が出来なくなり死んでしまう事は無いだろうが、相手は今それ程の恐怖を感じている筈だと思うと、その感情を与えたのが自分自身である事に表情は無意識に満足気なものへと変わり。苦しげに顰められた眉、薄く開く唇、懇願するように首を振る仕草、それらを全て余す事無く見届けてから、そこで漸く外した酸素マスクを再び相手の口元に近付けるとそのタイミングで胸を圧迫していた片手も離し。『__解熱剤も、安定剤も、今日の貴方には必要無いものでしょう?』数秒前の狂気じみた行為が何も無かったかのように自然な動作で傍らの椅子に腰掛けては、先程迄の笑みの消え失せた真顔で同意を求めるような言葉を送る。そうして視線を一度相手から枕元にある時計に移すと時間を確認し、__『もうすぐ今日が終わります。事件から12年が過ぎ、セシリアさんの命日も終わる。…でもルーカスの命日はまだこれからだ。』確かにあの事件に弟は巻き込まれたが、即死では無かった為に命を落としたのは翌日の事だ。視線をゆっくりと相手に戻し、人差し指と親指で挟む様にして点滴の管を上から下へとなぞる。辿り着いた先は針の刺される相手の腕。針を固定する白いガーゼの部分を静かに撫でながら『…これ、必要ですか?』と、選択肢は相手にある問い掛けだと言うのに、何処か答えは一択しかないとばかりの圧の感じられる口調で緩く首を擡げて見せて )




  • No.4176 by アルバート・エバンズ  2024-03-23 00:30:59 

 






( 妹の命日は、事件の日は間も無く終わる。しかし“ルーカスの命日はこれから“という言葉は心に深く突き刺さった。以前彼の口から聞いた通り、彼の弟のルーカスは銃弾を胸に受けながらも直ぐに命を落とす事はなく、苦しみながら事件の翌日に亡くなったのだ。全員がせめて即死であったならという願いは幻想に過ぎず、痛みに苛まれ苦しんだ被害者が居る事を知った絶望は大きかった。そんな彼の命日を前に、自分一人楽になろうだなんて_______心身共に弱った状態ではそう洗脳されるのに時間は掛からず、相手の問いに喘ぐような呼吸の中で小さく首を振る。結局いつも突き落とされる先は“彼らを見殺しにした自分が楽になって良いはずがない”という罪悪感。一度その思考に足を取られて仕舞えば、正常な思考は働かない。自分が苦しむのは当然で、楽になる処置を受ける事など許される筈がない、と。 )








 

  • No.4177 by ベル・ミラー  2024-03-23 12:54:25 





アーロン・クラーク



( 身体の苦しみも心の苦しみも余す事無く受け止めねばならぬ状況の中で、それでも相手は此方の問い掛けに首を横に振った。“必要無い”と__その答えを受けてそれで良いとばかりに満足そうに一度頷けば『貴方の望み通りにしてあげますね。』と。それは決して“相手自ら”望んだ事では無く言うならば誘導の果の洗脳なのだが。__再び時計を見れば時刻は夜の11時55分。素晴らしい時間だ、と今一度ガーゼの上を緩く撫でてから、皮膚が引っ張られる痛みを少しでも軽減させる様に静かにテープを外し、これまた痛みを極力感じさせぬ様にと優しい手付きで以て腕から注射針を引き抜く。その行動は相手を苦しめようとする者とはとても思えぬ程に思い遣りに溢れて居るのだが、実際そうでは無い事は相手自身が一番良くわかっている事だろう。注射針をそのままベッドの脇に放った後は『…ちゃあんと苦しんで下さいね。』と微笑み掛け、小さな止血、とばかりにガーゼを再び相手の腕に貼り直しその姿を呑気に椅子に座りながら眺め。時刻は夜11時57分。セシリアや他の犠牲者が亡くなった今日も、後3分後に訪れるルーカスの亡くなった日も、何方も相手は苦しまねばならぬのだとばかりに )




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