* Say the name! ( 17 / 1:1 )

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名無しさん  2022-12-02 18:14:09 
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◎此方は 17(宝石) nmmnでの1対1限定募集となります。
御相手様が見つかり次第 募集〆です。



募集要項 >>1
サンプル >>2









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  • No.21 by  jh  2022-12-11 09:45:47 






( なんて言ったらいいのか。お前じゃ駄目な理由を探したらそこら中に幾らでも転がってる。趣味は合わないし、何処を取っても正反対。優劣なんてつけられる筈もないんだけど、こうして何年も活動していると特に仲が良い面子も、話しやすい子だって出来るのは突然の事で。... だけど俺はお前がいいんだよ。目まぐるしい日々の中でいつ意識し始めたかなんて思い返せばキリがない。海外のホテルで顔を合わせたあの時だったかもしれないし、練習室であんな遣り取りをした時だったかもしれない。どんなにちぐはぐでも、すれ違ったって、何も問題じゃないんだ。例えば折角手を洗ったのに分かりやすく胸元の服を掴んじゃうその仕草。盗み見た赤く染まった耳だって見逃す訳ないだろ。正直食むのを我慢しただけ感謝してほしいくらい。何より消え入りそうな程微かに自分を呼ぶ情けない声だってしっかり鼓膜に届いていて。それが可愛くていじらしくて胸がきゅん ... っと締め付けられた。それを無自覚でやっているんだから、俺なんかよりよっぽどタチが悪い。こんな風に思ってることもお前は知らないんだろうね。まぁ後々ゆっくり教えてあげるんだけど。目の前で自分の頬を叩いて、再び手を洗う彼を微笑ましく見守りつつも、テーブルの方を指さされては、大人しく聞く筈もなく眉を寄せる。「 やぁ~、せっかく盛り上げようとしてあげたのに。なんだよ邪魔者扱いしてぇ~ 」ぷんすこ、という擬音が正しいのか。間延びした声で言うものだから全く迫力はないが、隣で茶々を入れようと思っていた事を、例に漏れず物は言いようを体現する様に主張して。勿論そこを動かずまな板の上で食材が刻まれていくのを腕を組みながら見下ろすものの、ふと彼からの視線に気がつくけば、可愛らしく唇を突き出した不満げな表情に今度は返事の代わりににんまりとした笑みで返す。そうとなれば行動は早い。そそくさと自らも手を洗い、ケロッとした様子で隣に肩を並べてると置いてある野菜とピーラーを手に持ち。「 ... なんかこうしてると新婚さんみたい 」千切り用のピーラーでそれなりに手際よく野菜を切りながらふと徐に。「 お~ ... それとも同棲中のカップルかな? なんなら片思いの相手の家にお泊りでもいいけど 」視線を手元に落としたまま手を動かし、野菜が残り半分になったところで手を止め、まな板の上に千切りされた野菜が山を作っており。残りは誰かが食べるだろうとラップに包んで冷蔵庫に戻し、再度彼へと視線を向けて。「 設定だよ設定、作る間何もナシじゃつまんないじゃん 」何気なく取っ掛かりになりそうな会話を仕掛ける。つまらないどころか、何もなくたって2人きりで居られるだけで楽しくて仕方ないんだけど、という本音は秘密にしたまま。「 この中から3択ね、... どれがいい? 」こういう軽い会話くらいなら料理の邪魔にはならないだろう。仮にも自ら恋愛の話をすることなんてそうそうないが、目の前に居るのが好きな相手となると話は変わってくるものだ。新婚、カップル、片思い。顔の横に3本立てた指を添え、飽くまで動作を見守りながらもゆったりと首を傾げて。 )




  • No.22 by mg  2022-12-11 22:02:34 






( 今日に限って激しく鳴り続ける心臓の訳を考えたら、どうしたって行き着く先は“彼”になるのだけど。…おかしいんだよ、だって。彼を好きだと気付いて、その感情を自身に受け入れた“その日”から今まで、今日ほど煩く心臓が鳴ることはなかったんだ。何故って、思い返したら。どうやら俺は、“その日”から彼と二人きりになる機会を無意識に避けていたらしい。記憶を遡っても…彼と誰かを挟んでの会話が多く。ふと廊下ですれ違った一瞬、ステージ裏に降り立った時、たまたま傍にいた彼とアイコンタクトで笑いあった瞬間…そんなわずかな一瞬でしか、彼と二人きりの空間を作って来なかった。しかも故意に二人きりになった訳ではなく、どれも偶然。…今日、今この瞬間が必然だとしたら_。とくとくと、いつもより早めな鼓動が心地良いなんてさ。俺はやっぱり彼のことが大好きだと、改めて気づいてしまうから。もう…ヒョンのせいで感情が追いつかないよ。この世界ではない別の世界で彼とまた出逢う運命が存在するなら、友達にもそれ以上にも発展しないで、ただの他人として生きるだろうと考えていたのに。今はそれ以上を願ってしまう程、ハニヒョンしか考えられない。期待薄で示してみたが、ついに野菜とピーラーを手に取った彼を横目に見て満足気にふっと頬を緩める。手伝ってくれてる間は、余計なこと言わないだろ。…なんて、思い込んでいたのはやっぱり阿呆だ。「 …何だって? 」すっかり切り終えた食材はそのまま、熱したフライパンに油を敷いて、豚肉のパックを開けようとしていた時だった。聞き間違いだと信じたくて、一度止めた手をすぐに再開させる。…まぁヒョンがそれを許すはずないよね。「 …。何言ってんの俺ら男同士じゃん。」 ふと横目に見た、野菜を手に視線を下に落とす彼の表情。俺にとっては最早死活問題なのに、のうのうと話す声の柔らかさと表情の緩さ。何度見ても綺麗に生え揃った睫毛、バランスの良いパーツに骨格。手は細いのに骨張ってて、儚くて消えてしまいそうな綺麗さに、どこか芯の男っぽさが滲んでて…。素直な脳内は易々と想像を膨らます。ヒョンと、恋人同士、…。そんな脳内を悟られてはいけないと、態度は少し不機嫌を装い、視線が合ってしまう前に逸らした。火を通した豚肉と具材を一緒に炒めて、頭上スレスレの換気扇のスイッチをようやくオン。設定たって、そんなの…俺の気も知らないでさ。ただのお遊びだと巫山戯るのはさすが彼らしい。だけどそれは絶対に現実になり得ないことに思えて。…実際、その通りだから。「 ヒョンはつまんないかもしれないけど俺は忙しいんだよっ。絶対に選ばなきゃダメ? 」フライパンを振って具材を混ぜ合わせたところで、菜箸で具材をつついて呆れた様子を装い彼を見遣る。もっとこう…他にいい設定あったでしょ、何でよりによって。しかもヒョンが滅多にしない恋愛の話なんか。まるで拒否権はありませんとでも言うように3本立つ指と、ムカつくほど可愛らしい仕草。「 ん~…。ハニヒョンとは絶対同棲できないから、片思いがいい。」もうヤケになって淡々と、少しツンと棘のある答え方をすれば、後は勝手にしてくれとでも言わんばかりにフライパンを持ち直す。ヒョンのせいで舞い上がったり落ち込んだり、早朝から忙しいったらありゃしない。)




  • No.23 by  jh  2022-12-12 18:16:35 






( 大人になってくると何事も段々と期待なんてしなくなってくるもので。何かがあった訳じゃなくても、色んな状況や人に触れると自然とそうなっていく。悲観的なんてとんでもない、寧ろ前向きだよ。だって期待なんてしなくたって生きていけるし、美味しいご飯を食べて楽しく過ごせる。時間が過ぎるのなんてあっという間で、ただ気にせず笑っていれば大概の事は通り過ぎていくんだから。それでいいし、それがいい。…なのにお前ときたら。自分が彼への気持ちを自覚し始めたキッカケなんて思い出せないくらい自然なものだったが。以前はともかく、はっきりと確信を持ってからというもの二人きりになる場面なんてほんの一瞬、数える程度しかなかった。その理由だってなんとなく察しはついている。ただその一瞬でさえ、俺を見るその目が、その表情が。どんなに空笑いしてみたところで、胸に焼けついて消えないんだって。だから、またとないこんな絶好の機会を逃す訳ないでしょ。フライパンに油を引く彼を横目にシンクの前に立ち、洗い物は溜めない方が良いだろうと。すっかり役目を終えたピーラーとまな板に洗剤を付けたスポンジで軽く擦り、のんびりした動作で洗い流せば水切りラックへ。「 うん、ダメ。3択なんだから簡単だろぉ 」不機嫌そうな面持ちの彼に敢えて気の抜ける様な軽い声を掛ける。すると返ってきたのは予想通りというか、不本意というか。…片思い。何となく其れを選ぶんだろうとは思ってたけど。なんだか棘のある口調で言い放つ姿はこの子の綺麗な見た目に妙に合っている気がして、冷美男とでも言うんだっけ。絶対に同棲できないなんて、幾ら平然を装っても好きな相手から出た言葉だと思うと思わず苦笑いが溢れてしまう。実際その通りだなぁ…なんて筋肉質な腕でフライパンを振る彫刻の様な横顔を眺めながら。「 …ん、じゃあ俺の片思いね。」こくこく、納得した様子で数回浅く頷けばぽつりと。その瞬間、炊飯器からご飯が炊けた事を知らせる軽快な音が。本当ならもっと蒸らした方がいいんだろうけど、生憎先程より空腹感を感じていて。棚から食器を取り出しては其れに早めにご飯を2人分盛って、すぐ炒められる様にキッチン台へ。「 はぁ~…ぺごぱ~。」不機嫌な態度なんてお構いなしで。不意に彼の背後に回り自分より少し高い肩へそっと顎を乗せ間延びした甘い声で呟く。…ねぇ、俺の可愛いみんぎゅ。お前は俺に好かれてるって自覚がちょっと足りないみたいだ。だからこれくらい良いでしょ?それこそ、彼が選んだ通り片思いなら意識させないと始まらないんだし。衣服越しからでも分かる逞しい腹筋に腕を回し、体をぴったりとくっけて後ろからぎゅ…っと抱きしめる。「 …2人きりで朝からご飯作って、何でもない話して。好きな人と過ごす時間がこんなに幸せなのに、胸のとこが苦しいんだよ。…もういい大人なのにね。」刻一刻と時間は過ぎて、白んだ朝日はキッチンにまで差し込んでいる。誰も居ないリビングはしん、と静まり返っていて、本当の2人きり。トクン、トクン。徐々に早まって跳ねる鼓動も、彼の背中にぴったりと密着しているせいでこの胸板から伝ってしまったら。どう言い訳しようかな。「 お前のせいだよ、みんぎゅや。」意識させようって目論見だったのに。本音がぽつぽつと溢れてくるから厄介だ、らしくもない。「 ……どうしてくれるの…? 」フライパンの中身を眺めていた目線を間近にある彼の横顔に移動させ、また甘い声で囁く。柔らかい朝日が目元を照らし、淡い白に染まった長い睫毛を目尻と共に下げながら。 )




  • No.24 by mg  2022-12-12 19:37:03 





( 何事も躊躇わず周りを顧みずに突き進むタイプだけど、恋愛となっては違う。そもそも数少ない青春の間の恋愛経験なんて片手に収まってしまう程しかなく、どれだけ過去を遡っても彼のような人に恋慕を抱いたことは一度もなかった。ましてや俺と彼が生きるこの世界で、簡単に恋愛なんて出来たものか。少し普段と違う行動を取ればすぐに指摘され、後にはありもしない話をでっち上げられて。俺が、あろうことかメンバーに“そういう感情”を抱いてしまったことは全て他でもない俺自身の責任だ。彼にも、他のメンバー達にも、事務所自体にも、そしてカラット達にも。どう転んだって悪影響は目に見えてる。だからこの感情は知られてはいけない、と。そう隠し通して来たのに。…ヒョンは、ハニヒョンはさ。高嶺の花だよ。同等の立場に居るはずなのに、手を掴む前にどこかへ行ってしまいそうで、すぐ触れられる距離に居るのに、触れることは叶わない。ヒョン。でももしヒョンが、俺に対して…俺と同じ感情を抱いているとするなら。俺はヒョンに、この想いを伝えるべきだと思う?_ ひたすら目の前の料理を仕上げることに全意識を集中させようとした。変な汗が背中を伝ったのは嫌な予感が的中したから。今は溜まる予定だった洗い物を片付けてくれるヒョンの優しさも、ご飯も二人分盛って用意してくれた手際の良さも、何もかも頭の中から抜け落ちていくようで。「 …っ。」ふわりと彼の髪が首を擽り、甘い声はいとも容易く耳に流れていく。といだ卵をご飯と一緒に混ぜ合わせて炒める光景はきっと食欲をそそるはずなのに。…やぁ。なんで。俺だって、こんなにも幸せなのに。それ以上に苦しくて仕方ないんだよ。「 …なんで、…っ、ハニヒョンは俺を好きじゃないのになんでそんな事言えるんだよ…!」まるで俺を、好きみたいに。口は嘘をつけても、背中越しに感じる温もりと微かに感じとった鼓動まで嘘をつけるなんて絶対に有り得ない。腹に巻き付く細い腕を、思わず片手で掴んだ。そうして無理やり引き剥がそうと入れた力は感情と比例して、朝最初に彼を押した時よりもずっと強く。俺からしたら全部ぜんぶヒョンのせいだ……っ。カラン、と菜箸が床に落ちる音がした。だけどそんなのも目に留めないで、切ない声を出す彼の顔を見てやりたくて。顔を見るまでは、大好きな人の…彼の肩を、思いっきり押すつもりで居たのだから。俺はもう…最低だ。「 ぅっ、ヒョン…、ミアンっ、ミアネヨ…、」だけど、彼の顔は想像と違って声そのものだった。どこか悲しそうで、辛そうで。そう見えたのは一瞬だったかな。でも。所構わず彼を引き寄せるように腕を伸ばすとギュッと力強く抱きしめてしまった。どうしてかな、ヒョンの言うことを冗談に取れなかったのは。もし、俺と同じ感情だとしたら。と思ったけど。わずかに期待してもそうであってと願わないのは、その期待が外れていた瞬間 彼に嫌われてしまうのが何よりも怖いから、だろうね。溢れてしまった感情は止めることができない。情けない、これがただの“設定”だということも次いでに抜け落ちてしまって。)




  • No.25 by  jh  2022-12-13 01:52:52 






( 嗚呼、やっぱり離してやらない。世間からしたら、メンバー達やカラット達からしたら。…彼からしたら。俺は罪深い人間なんだろう。今までそれなりに積んできた経験を省みても、まだ幼かった自分の甘酸っぱい思い出の最中でさえ、色恋沙汰なんて大した興味もなかった癖に。彼を見る目が色を含んだのだって、諦めようと思えば容易くて。だって大人なんだから、周囲の状況や積み上げてきた道筋を蔑ろにしてまで自分の気持ちを押し通すなんて。そんなこと、態々しないでしょ。労力だって掛かるし擦り減るものも沢山ある。けど、俺は自分が思ってるより大人じゃなかったみたいだ。酷く子供染みてて、どうしようもない。…ねぇ、お前は皆のキムミンギュだよ。燃える様に熱くて、それでいて目を逸らしてしまいそうな程眩しい。このまま抱きしめていたら火傷じゃ済まされないんじゃないかってくらい。なのにその燃え上がる熱を、真っ直ぐな光を渇望してる。ヒョンとして、メンバーとして。矢面に立たせる訳にはいかないし、弟達に何かあれば俺達が盾にならなきゃ…いけないのに、今お前を内側からじわじわと毒してしまってるのは他でもない自分自身で。出会って初めて彼を視界に入れてしまったのも、悪戯に触れた事も。全部ぜーんぶ、俺の罪。だから、全部俺のせいにしてくれない?頭に浮かぶ事柄、一つも諦める理由にはならないんだ。──…カラン、何かが床に落ちた音がやけに遠くに感じた。好きじゃないのに、なんて。あり得ないこと言うなよ。その瞬間頭の中でパズルの最後のピースがパチ、と嵌ってしまった。先程力加減をしてくれていた事が顕著に分かるほど手首を強く掴まれては今日初めて表情を歪めて。睫毛を伏せたまま眉間に皺を寄せ、ゆっくりと見上げる。視線を合わせたと思えば、目紛しく変わる視界。抱きしめられたと分かったのは、お前の身体が熱くて堪らないから。彼は何を謝っているんだろう、謝るのは俺の方なのに。「 んーん、…お前はいい子だよ。ずっといい子だった。」包み込むように抱きしめ返せば、少しボサついた髪に指を通して撫でてやる。さっき撫でた時よりも丁寧に慈しんで。背後から抱きしめていた時はそんな風に感じなかったのに、自身の体を力強く抱きしめる鍛えられた腕が、苦しくて熱くて。こんな状況にも関わらず、つい数分前までとは比べ物にならないくらい激しくドクドク、と心臓が脈打つものだからコントロール出来ない。「 …そんないい子に秘密を教えてあげよっか。 」正直こんな含みを持たせている余裕もないんだけど。折角だからゆっくり伝えよう。いつも通り緩くて甘い声に加えて一言一言はっきりと。「 ──…俺ね、ミンギュが好き。」大きな身体を撫でていた頭ごとぎゅう…っとより一層強く抱きしめる。彼は今どんな顔をしてるんだろう。抱きしめた手を緩めて確認することも出来るのに、見たら何かが終わってしまう気がして。睫毛が影を落として瞼を閉じると彼の呼吸に耳を澄ませた。「 冗談でもなんでもない、…お前に惚れちゃったんだよ。好きで好きで、一緒にいると体から火が出ちゃいそう、」こんな熱烈な告白、後にも先にもこの子だけ。自分が思っているより体は緊張している様で、また更に心拍数が上がった心臓は暴れ回って最早手がつけられそうにない。お前だけだよ、俺をこんな有り様にするのは。そんな訳ないのに、もう彼しか要らないなんて思ってしまうから。恋っていうのは恐ろしい。“みんぎゅや…お前が欲しいくてたまらない、ヒョンにちょうだい”すぐ側にある耳元に唇を近付け、切なげに掠れた声でそんな事を囁く。だってもう我慢ならないんだもん。好きな子の身体が腕の中にあって、こんなの。もう離してやれる訳がない。 )




  • No.26 by mg  2022-12-14 00:33:09 






( 衝動的に回してしまった腕は彼に剥がされることなくそのままだった。ふとした瞬間の彼は自身より細くて可憐に見えるのに、勢い余って力強く引き寄せても、何なりと俺を受け止めてくれる強さは女の子と違う。自分の方が背丈もあって体格も大きいはずなのに、それをも凌駕するヒョンの包容力は…昔から変わってないね。他でもないヒョンの手がそっと髪を通した瞬間、どうしようもなく涙が溢れそうになるのは…どうしてかな。まるで母親が我が子に掛けるような優しい声音に、彼にとって自分がどんな存在か分かってしまうその手の優しい動きに。ギュッと唇を噛んで、目の前の肩に顔を埋めた。…、俺はいい子なんかじゃないよ、ヒョンが思うようにね。決意をしたからには最後まで気持ちが露呈しないように隠し通さなければいけない。それなのに俺は、“俺はヒョンのことを好きなのに”とでも取れるような台詞を吐いて。この気持ちが風化することを祈って抑えつけていた、そんな日々についに終止符を打つことになる。ただの、俺のバカのせいで。ヒョンはどうして今も俺の傍に居てくれるの。嫌な顔一つせずに。…今まで俺は、周りが迷惑被らないように自分の気持ちを隠してきたつもりだった。もちろん、それもあるだろうけど。それが全てじゃないと知ったのは、ヒョンの内の気持ちを初めて聞いた瞬間だった。ああ、俺はハニヒョンの心と向かい合って、何より自分が傷付くのが怖かったんだと知った。大好きなヒョンに突き放されるのが、何より怖かったんだと。…。触れ合った体が熱い、これは単に汗っかきな俺の問題じゃないと分かる、重なった全身に伝わるような二人分の強い鼓動。理想もクソもない、ヒョンから紡がれる一言一句が恐ろしくて堪らないこの瞬間を、温もりを共有することで冷静を保とうとするのに。“好き”なんて。俺が一番欲しくて一番怖かった言葉を彼がいつも通りの甘い声音で紡ぐから。「 …、っ分かってる冗談でしょ、」これは全て嘘で、返事をしたら全てが終わってしまうと怖くなるのに。あまりにも熱すぎる体に、重なる激しい鼓動が冗談じゃないって教えてくれてる。既に強く強く抱きしめているというのに、しがみつくように更に強く抱きしめて、情けなく顔を埋めたまま「 うぅ、…っ 」漏らした唸り声はまるで犬が尻尾を下げているかのように。上昇する心拍数が、高まる熱が、もう、もう…何もかも、苦しくてさ。ああもうこのまま爆発してしまえばいいのに。「 …っ何言ってんの意味分かんないよっ。好きってヒョンが言うことじゃない、俺が言うことなのにっ なんで…、ハニヒョンが言うんだよっ…、」頭が追い付かない、当たり前だ。天使に告白されてるんだから…俺はとんだ罰当たりだ。目の前が霞んで、歪んでく。情けないくらいに。溢れそうな何かを唇を噛んで我慢するのは男だからとか、何より大好きな彼にこんな情けない姿を見せたくないだとか、そんなちっぽけな理由で。もう忘れ去られた朝ご飯、空腹なんてどうでもいい。腕の中の君が耳に直接流し込む切なげな声にぴくりと肩を揺らす。…ズルいよ。ヒョンのせいで、今までどれだけ振り回されたと思ってるの。聞き慣れた甘い声に、耳に被る吐息。それで簡単に落ちてしまうこともヒョンはとっくに知ってるんでしょ。「 めちゃくちゃだよ、あぁ、ひょんのせいで…っ。俺が欲しいの…? いいよ、全部あげるよ。」君が望むなら、“僕の全てを君にあげるよ。” 今にも泣きそうな顔で口を結びながら、不意に緩めた腕。そぉっと彼の肩に触れながら距離を離した。未だ視線は下のままだったが、少しずつ上目に見つめた目の前の表情。…限界な心臓は破裂寸前。ばくばくと煩くて、だけど隠す必要もなくなった頬の熱も心臓の音も。控えめに片方の手を伸ばすと、人差し指で彼の左胸をツン、と軽く突いた。「 …あげるから、ヒョンの心を俺でいっぱいにして。」どこか照れくさそうに視線を下へ外すと、肩に触れてたもう片方の手もするりと彼から離して。)

  • No.27 by  jh  2022-12-14 04:52:10 






( 肩へ顔を埋められた瞬間シャンプーと彼自身が混ざった香りがふわり、と。鼻を掠めた香りが心地よい。少しはだけていた首元に彼の顔が来るものだから擽ったくて、睫毛を伏せたまま微かに吐息が洩れる。其処から聞こえてきた切ない唸り声がどうしようもなく胸を締め付けて、そして愛おしい。しがみつくように一層強く抱きしめられると息が詰まる程苦しいのに、すっかり縮こまった身体を包んだ腕も同じ様に頭ごと力強く抱き寄せてしまうんだから、お互い大概冷静じゃないらしい。…、ああ、長い間お前を悩ませていたんだね。彼の苦悩も恐怖も、全て理解なんて出来る筈ないのに重なった熱から全部が流れ込んでくるみたいで。お前は辛いことなんて考えないで。たくさん食べていっぱい笑って、悪戯したらいつもみたいに呆れて。そうすれば残りのことは全部ヒョンが代わりに考えてあげるのに。そんな出来もしないことを考えるだけで目頭に熱が集まってツン、と鼻に僅かな痛みが広がる。…欲深いヒョンでミアネ。どんなに恨まれてもいいから、お前だけには許してほしいと思うのは、いくらなんでもわがまま過ぎるかな。「 …あにぃ、俺が言うことだよ。嘘でも冗談でもないって大切なお前に誓わなきゃ。…それはヒョンの役目。」慰めるように優しく髪を撫でた手と絆すように紡いだ甘い声、側から見ればそんな風に解釈されるのかもしれないけれど。精神的にも物理的にも腕の中の彼をもう離したくなくてどうしようもないなんて、なんて強欲なんだろう。こうも密着しているとぴくりと肩が動いたのが顕著に分かる。…、彼の打てば響くような所が昔から好きだった。反応があれば楽しいし、悪戯もちょっかいも手札はたくさんあるから。けど今はそれが少し毒みたいだ。言い出したのは自分だけど、…全部あげる、なんて。欲しくて堪らないよ、当たり前だろ。じわりと胸が熱くなると同時にゾクリ、と胸の奥底から湧き上がる何か。なんてちぐはぐなんだろう。息が詰まる程巻きついた腕から解放されてしまうとまるで割れ物でも扱う様にそっと体が離れ、いじらしく口を結んで潤んだ瞳とゆっくり視線が絡み。普段は無邪気な大型犬を思わせる彼が、今は耳が垂れ下がった子犬のように見えて。上目で此方を見つめてくる微かに濡れた鋭くもいたいけな双眸に再び胸の奥底から何かが湧き上がり。おまけにその胸を指で突いてそんな言葉を掛けてくるものだから、ほら、もう。「 ん~…どうしようかなぁ~、」俺の心はとっくにお前でいっぱいだよ、…─そんな本心とは裏腹に言葉を飲み込み、胸に指を当てる大きな手を下から掬い上げる。あんな熱烈な告白もしてしまって、今更駆け引きも何もないんだろうけど。そのまま掬い上げた其れを口元へ持っていき、手の甲にちゅ、と軽く口付けて手離す。今度は彼の肩を両手で掴み、少し手荒にキッチンとは向かいの壁に筋肉質な背中をとんっ、と押し付けて。丁度窓から差し込む日差しから死角になってやや薄暗い其処で、彼を壁と自らの身体で挟み「 全部くれるんでしょ…?…、みんぎゅのこれも、俺にくれたら考えてあげる。」片方の手を肩から離せば顎に手を添え、形の良い下唇をゆっくりと親指で撫でてみる。もう俺の恋人になったんだから、目の前にいる人間がどんなに欲深いのか知っておかないとね。「 …欲しいなぁ…、ね?ちょーだい…。」壁際に追い詰めたのは他でもない自分にも関わらず強請るかの如く囁き掛けた声はまるで砂糖漬けのように。目尻に睫毛を落として甘ったるい笑みを浮かべながらも、長い前髪が目元に影を作り。 )




  • No.28 by mg  2022-12-15 02:18:25 






( 温もりが離れても目の前に立つヒョンが此方を離すことなく見つめていたから、思わずじっくりと視線を絡めた…先で、長い睫毛を携える下の瞳が微かに潤んでいるのに気づいてしまえば、激しい胸の鼓動は未だ収まらないまま。_他とは違う感情を相手に抱いたのは何方が先か。見当も付かないけれど、どちらにせよきっと。お互いにすれ違って、辛い思いをしてきた事実は変わらないでしょう。ヒョンが俺と同じ感情を、俺に抱いてくれてから経過した時間がほんの僅かだとしても。ヒョンの気持ちに気付いてあげられなくてごめんね。俺はヒョンの心と真っ向に向き合うのを避けてきてしまったのに、突き放すどころかそれ以上に包み込んでくれるから。胸いっぱいに広がるのは今度不安なんかじゃなくて、あたたかくてやさしい感情。自分のすべてをハニヒョンに捧げてもいいと思える程 俺はいとも容易く浅く惚れていた訳ではないようだ。今更一人のヒョンとして見ることは二度と叶わないくらい、ハニヒョンを欲してるのは俺も同じだって。だから意を決して俺なりに応えたというのに。ヒョンったらまた…。動じずにこの手を掬い上げる様子を見つめていたのに、段々と近付いてく先の唇が肌に触れた瞬間目を丸くする。今更やっぱり好きじゃありませんなんて言わないだろうが、彼らしく駆け引きをする言葉に今は不思議と恐怖心はない。ただ少し不安げに眉を下げると、刹那肩に触れた手と少々無理矢理な動作に「 ぅおっ、むぉや…っ 」と焦ったような声を漏らす。音もなく部屋に差し込む光のように、気付いたら俺は彼に侵食されてしまっていたみたいだ。決して威圧感のある声とは程遠い、むしろ微睡みのようなあたたかい声なのにひとつも抵抗できないまま。…でも抵抗したいなんて思えなくて、寧ろヒョンの言うことなら聞いていたい、とまで思うんだからさ。まるで飼い主に従順な犬のように。彼の紡ぐ言葉、その甘すぎる声の一つ一つに胸が高鳴って、一々ばかみたいに固まってしまうから何かを返す前に触れてきた指先は、俺の感情もタイミングも全て見抜いているんじゃないかって思えてくる。肩を丸くして大きい身を竦め、耐えられず胸の辺りの衣服をくしゅと掴むのは本日2回目だ。爽やかな朝の光が届かない死角で、真っ直ぐで美しいヒョンの目を控えめに、だけど熱く見つめ返す。撫でられた唇が熱い。全身が燃えるように上昇する体温は耳まで真っ赤にして。「 う~…、うぇ、うぇ~ あげるって言ったじゃんヒョンの意地悪…っ もうヒョンのものでしょ、俺って。…ちがうの? 」どれだけ言い訳したって諦めてくれないんでしょう…?じんわりと、新たに侵食していく甘すぎる声音に。ゴクリと息を呑むと、今度は痛くしないよう優しく彼の手首を掴んだ。同時に引き寄せるように腰に片手を回すと、掴んだ手首を自身の首へと回させる。必然的に詰められた距離で、射抜くように見つめる瞳は自分の影に覆われてわずかな潤みできらきらと輝いて見えた。…あぁ、ほんとうに、現実で合ってるよね? 夢心地のような頭は信用ならないけど、こんなにも綺麗な瞳を、睫毛の数を数えられるくらい鮮明な君を…目と鼻の先で見つめられるのはまさか夢じゃありえないよな。手首から離した手、その指先で彼の顔にかかる横の髪を耳にかけてやりながら。「 …俺だけじゃダメだよ。ヒョンも、俺に全部くれなきゃ。… 」少し顔を傾けると、彼との距離がゼロになる。肌を擽る彼の髪がくすぐったい…思わず腰に回す手に力が入って、伏せた睫毛が微かに揺れる。もっと余裕をもって格好よく居たいのに…ヒョンの前じゃ何もかも伝わってしまうのが恥ずかしくて堪らないし、それに。「 …、大好き、ずっと大好きだったんだよ はにひょん。」 優しい瞳の茶色が分かるくらいに少しずつ離れると、彼の頬の膨らみを親指で撫でる。これ以上は…なにか危ない気がして、ふっと浮かべてしまった苦笑いもやっぱり格好つかないな。)


  • No.29 by  jh  2022-12-16 02:30:01 






( だから、そんな反応されたら…。抵抗するどころか自身と壁の間に大人しく収まり、掛けた言葉が唐突過ぎたのか戸惑った様子で表情が固まったかと思えば、先程のように広い肩を丸めて衣服の胸元を掴む姿を目にする。すると加虐心のような庇護欲のような感情が綯い交ぜに湧き上がり、胸をぎゅう…っと締め付けるものだからその仕草は何度見ても敵わない。そんな欲を表情で悟られないよう静かに口元をきゅっと結ぶも、控えめに此方を見つめる熱い視線に呆気なく再度口元を緩めてしまう。…罪悪感はあれども諦めるつもりなんて端から無かったけど、それでもやっぱり折れたりしなくて良かった。この瞬間を想像した事が無い訳ではないけど、こんなに甘いご褒美が待ってるなんて誰が予想出来ただろう。勇気を出して心を開いてくれてありがとう、みんぎゅや。じわり、内側から穏やかな愛おしさが溢れる。二人ならそれだけでも充分なのに、もっと彼の表情を独り占めしたい。もっともっとお前の甘い蜜をちょうだい…なんて本当に強欲の罪で罰を受けそうだけど、お前が俺の手の中まで堕ちてきてくれたから、それも悪くないかな。さっきとは打って変わって優しく掴まれた手首をされるがままに首に回し、距離が縮まると目の前に視界を占領する耳まで真っ赤に染まった肌。今まで散々思い知ったのに、じくじくと疼く左胸が彼を好きだってまだ訴えてくるから。…お前はもう俺のものだけど、こうすればもっと自覚するだろ。脳裏に浮かんだそんな屁理屈も目元に掛かった髪を耳にかけた温かい手、一瞬の事なのに心地よくて口に出さないまま溶けて消えて。「 一度に全部あげたらつまんないでしょ?…奪ってみな、」余裕が滲んだ面持ちでそうは言ったものの。接近する端正な顔に心拍数が上がり、静かに重なった影を薄く瞼を開けたまま受け入れると。腰に回った腕に力が入るのを感じたと同時に首に回した腕にも力が籠り、じわじわと白い肌が熱を持ち始め。単純に想っていた時間が長かったからなのか、…それともお前の火傷しそうなほど蠱惑的な表情に、その熱い唇に、魅力されてるから…?触れるだけの其れはどうにも離れ難く。そんな胸の内とは裏腹にゆっくりと体温が離れてしまい、名残惜しそうに垂らした切ない目尻のまま。「 …うん、お前の気持ちなんてとっくにお見通しだよ。」再び鋭くも熱の籠った双眸と視線を合わせれば、彼の口から紡がれた真っ直ぐな言葉が温かく胸に染み込んでくる様で。頬を撫でる親指を受け止めふにゃん、と顔を綻ばせて柔らかく笑みながら。─…自分でも気が付いてなかったけど、朝からお前に悪戯を仕掛けたり思いを告げてみたり。どんな収録よりも頭をフル回転させたせいで何処かで気が張ってたみたいだ。彼の肩に頭を預けて寄りかかり、より一層密着する様に隙間なく身を寄せ気の抜けたため息を一つ。大きくて熱い身体が体温の低い自身の身体に流れ込んでくるみたいで、いっそのこと混ざり合ってしまいたいなんて。「 ん~…みんぎゅのからだ、熱くてきもちいね…? 」首に回していた片方の手を解きまだほんのり赤い耳朶をふにふにと好き勝手に触れながら、二人だけなのに甘やかな声色でこっそりと。気が抜けた途端にきゅる…と数分前よりは控えめだがまた腹の虫が鳴るのも本日2回目な為一切動じず“へへ”と笑うも、まだ離れたくないなぁ…と何か言いたげに彼の目を見つめて。「 ねぇ、流石にお腹空いちゃった。もうちょっとだけ、…─ 」お腹が空いたなら早く朝食にすればいい、けど今欲しいのは。…再び鼻先が掠るほど顔を寄せては瞼は閉じないまま顔を傾けて薄く睫毛を伏せる。重ねた唇を堪能する様に長く呼吸を止めてから数秒。甘ったるい吐息を溢しつつ角度を変えてまた唇を奪えば腹を満たすかのように優しく食んだのは柔らかな下唇。ぎし、…フローリングが軋む程逞しい身体を壁に押し付け、これでもかってくらい熱情的に抱きしめながら足の指先で彼の足首をすり…と撫でるなんてこと、本能的にやっているんだから良くないな、これ以上は。渋々合わせていた影から少し離れてみると、最後まで味わいたくてほんのり赤くなった自らの唇を舐めて「 んふふ、…美味しい、」同じようにほんのり赤らんだ彼の唇の縁を指でなぞり。俺のものなんでしょ、なんて言うかの如く溢した笑みは悪怯れもなく。 )




  • No.30 by mg  2022-12-17 00:26:08 





( ヒョンは俺の気持ちにいつから気付いてたんだろう。この手できみの柔い頬を包めば、触れなきゃ知らなかった君の体温に心が解けていく。とくん、とくん、と一定のリズムで刻まれる鼓動が君をどれだけ愛しているか教えてくれる。君と通じ合うことを望んでいたようで望んでいなかった、突如現実となった願いは簡単に受け入れられなくて、少しずつ少しずつ、君から与えられる愛を受け止めるのに頭はなかなか追いつかない。…ふわりと大好きな香り、途端に力が抜けたような君を慌てて抱きしめた。まだ少しぎこちないながらも、逞しい腕で君の体を支えるように抱き留めては、片手は優しく梳くように君の髪を数回撫でる。覗き込もうと肩の方を見遣るけど君の顔は見えない。“ ケンチャナヨ? ” 心配で小さく呟いた言葉も、君の緩い言葉ですっかり気が抜けてしまうんだ。つい んふ、と気持ち悪い笑みが零れてしまったのはあまりにも愛おしくて。自分よりも低く感じる体温が心地よくて、ずっとこのままで居たいと目を閉じる。元々体温は高い方だけど、それ以上に燃え上がらせたのは紛れもなくヒョンだ。それを知ってか知らでか可愛らしい発言と好き勝手弄ぶ指、擽ったそうに肩を上げると堪らずもう少し力を入れて抱きしめてしまう。~~、だいすきだ。大好きな人が腕の中で大人しく、甘い声音をぽつぽつと披露するこの時間がなんて幸せなんだろう…。もう少し触れ合っていたい、きみが俺を好きだって確証を、胸に余るほどたくさんほしいんだ。…だけどふと小さくお腹が鳴ったのが聞こえると、「 ん、クレヨ。作っちゃわないと、 … 」頭の中は君でいっぱいなのに先に可哀想な空腹を満たしてやりたくて、素直に腕を緩めた、矢先。離そうと少し浮かせた手はまた髪の柔らかさを知る。キョトンとした表情のまま どうしたのかと問う前に、揺れた君の髪と麗しい表情が目に焼き付いて離れない。…壁に当たる背はぴりりと甘く痺れ、密着した体は高まる熱を逃してはくれない。…~っ、だから、だめだって...。今まで知らなかったんだよ。心から求めてた人と触れ合うのがこんなにも幸せだってこと。胸に広がる多幸感と、同時にぞくっと背筋を走った感覚。_いつの間にか解放された温もりに、茫然と立ち尽くす。目の前で薄らと目を細めてとろんとした瞳を晒す君の笑顔はだいぶ見慣れたものなのに。君の言葉も、仕草も、全部、ぜんぶに俺が含まれているから。次に君の指が唇をなぞったとき、「 …ヒョン、 」熱の篭った目で射抜くように見つめて、その指が離れてしまう前に掴んだ腕はもう二度と離してやらない、とでも言うように。片手で覆い隠すように抱きしめた君の体を、掴んだ腕と一緒に今度はくるりと壁に押し付けて。ああどうしてくれるのヒョン。真っ直ぐで晴れやかなリビングとは違う、光が差し込まないキッチンの一角で。こうして大好きな人と通じ合えばこれから表立って一緒の道を歩んでいくはずなのに。ねぇ、俺らはさ、普通の道を歩めないみたい。こんなにも幸せなことも、これからきっと起こる更に幸せなことも、全部何もかもずっと、二人だけの秘密なんだよ。君は周りに幸せを伝えられて、俺じゃない誰かともっと幸せな家庭だって築けるはずなのに…。_ちゅ、と唇を寄せた瞼、薄らと開いた目の色を焼き付けてから、鼻がぶつからないように重ねた唇は先程よりも深く。自身の唇でそっと優しく挟み、角度を変えては何度も味わう。熱を持ち柔くなった唇を触れ合わせるだけでどうしようもなくしあわせで、きもちよくて、...きみの温もりを知る度に、次から次に想いが溢れて止まないんだよ。最後にちゅっと優しく吸って離した唇、鼻先を触れ合わせると、知らず知らずのうちに力の入っていた手を緩めて君の瞳を覗くように上目に見つめた。ありがとう、俺を好きになってくれて。目の前がまるで水の中にでもいるように歪んで、君の綺麗な顔をじっくり見ることができない。「 ……、ぅ、ヒョン~…、ごはん食べなきゃ、」ふへ、と気の抜けたあほな笑みに目を細めると、目頭から睫毛を伝って雫が落ちて。)



  • No.31 by  jh  2022-12-18 09:23:21 






( どれだけ彼を好きか一通り伝え終わって、一先ず終わりの筈が。自分を呼んだ低く含みのある声に視線だけ上げると射抜くような熱い瞳の瞳孔が開いているのまで鮮明に分かり、次にされることを予測してしまい元々煩かった心拍数が嫌でも上がる。俺がその目に弱いのを、知っててやられる方がよっぽど楽なのに。唇をなぞっていたはずが掴まれた腕はじりじりと焼ける様で。好きだとか惚れた腫れたではこの気持ちは治るわけもないのにまた膨れ上がってしまうから困るんだ。瞬く間に景色が逆転したと思えば。こんな、覆い隠すように抱きしめられてしまって。なのに両手で抱きしめ返すことも許されずに掴まれた手首がじんじんと熱く疼くから、広い背中に回したもう片方の手が求める様にくしゃ、と衣服を掴む。瞼に感じた熱くて少し湿った接吻にぴくん…っと肩を揺らし、深く重なった唇の温度を感じでしまえば先程まで浮かべていたゆとりのある笑みなんて跡形もない。職業柄人の美貌や魅力に態々焦点を当てて見たりしないし、メンバーにだって同じだから彼も大目に見てやってたけど。…お前は自分の魅力を理解している質の男でしょ?なら少しは手加減してくれたっていいんじゃないの。でないと本当にこの熱で溶けてちゃうよ。大きな影に隠れているのを良いことに悩ましげに眉を垂らして、角度を変える度に震える睫毛は何度も切なく揺れる。…ああ、ダメ。そんなことしたら。ヒョンが可愛がってあげるから大人しくしてないとダメでしょ、やっぱりお前は悪い子だ。今頃皆はいつもみたいに眠っているのに、俺たちだけこんな。いつも使っているキッチンのはずが、明るい朝日に溌剌と照らされたリビングと切り離されて影を落とした其処は全くの別世界のようで。「 ……んぅ、…~…。 」不覚にも洩れ出てしまった甘く鼻から抜ける切ない声が空気に消えて、次第に肌が紅潮していく。天にも昇るような幸福感が心を満たして、どうするんだよ。彼だってこうなる前は普通の幸せを願っていただろうし、自分だって漠然と疑わずにいた。だからどんな手でも使って逃げられないようにこの手の中に堕としてしまおうって、それでもどうしても叶わないならば。普通の道を歩んでいく大きな背中を見送る夢だって、見た夜が何度かあったんだよ。なのにさ、お前はそんなものまで壊しちゃうの?…リップ音と共に離れていった唇はやっぱり名残惜しくて、触れ合う鼻先に自らもゆったりすり合わせて「 ─…ばか…、」熱っぽい吐息と一緒に絞り出したのは泣き出しそうなほど掠れた甘ったるい声。てっきり熱の籠った視線を向けられているのかと思いきや、此方を覗き込んでくる子犬の様な切れ長の双眸は予想に反するもので。すっかり蕩けてしまったブラウンの双眸で見つめ返すもののじわじわと涙の膜を溜めて光る瞳はどうしたって美しく、今度はぱちぱちと睫毛を上下させながら瞬きを繰り返し。気の抜けた笑みが視界を占領しては何処か呆れたような困ったような、何より愛おしさを滲ませた柔らかい微笑みを浮かべて。睫毛を伝う雫がなんだか勿体ない気がして、次に溢れてきた涙が頬を伝って落ちてしまう前に人差し指で救ってぺろ、と赤い舌で舐めてみる。…しょっぱい。お前が今までしてきた思いを煮詰めたみたい。「 そうだね、ご飯食べよっか。」首に回した腕は建前だけで紡いだ言葉とは真逆にぎゅう…っ、と離さないとでも言うかの如く抱き寄せ形の良い頭に手を置き赤子でもあやすようにぽん、ぽん、と撫でてやれば。腕を緩めて再び涙に濡れた愛おしい彼を見つめ直し、触れ合っている内に体温が上がりぽかぽかした手の平で濡れた頬を包み込み。「 …これからはもう、我慢したりしないでけんちゃな。だから今日は1日中一緒に居て、おやすみのキスまでしようね…? 」相変わらずの緩い笑みでまるで付け込むように囁き“ ヒョンとの約束だよ ”なんて勝手に約束を取り付けてしまえば、不意に─ちゅっ、と鼻先に触れるだけの口付けを落として。そのまま吸い寄せられこつん、と額同士を合わせて濡れた睫毛に甘い視線を注ぎ込み。これはね、契約のぽっぽ。だって恋人になった時点でお前に拒否権はないんだから。 )




  • No.32 by mg  2022-12-18 23:14:04 



( 彼越しに見たリビングの陽だまりに、ふと“ あの頃 ” を思い出す。騒がしい部屋、狭いシステムベッドから引き摺り起こされて、逃げ出したリビングの床に無造作に倒れ込んだ体。全身を包む陽だまりと、惚けた頭に響く四方八方から聞こえてくる話声、笑い声、物音?煩いったらありゃしないのにその陽だまりの空間を俺は心地良いと思った_。あの頃と同じ陽、今も昔も変わらない陽だまりのように、俺にとってのヒョンであり今は恋人でもある君と過ごす日々がこれから素晴らしく温かくなるといいな。…それに、ほら。やさしく頭を撫でてくれていた手が、自身の頬を包み、綺麗なその手を涙が濡らしていくのに。まっすぐに見つめた瞳は想いをありありと見せてくれる。ドキドキと胸が鳴る、まるで初恋のように可愛らしい鼓動が胸いっぱいに響いた。君のやさしい囁きは影のような暗い空間には似合わない。天使の君にはきっと陽だまりのほうが似合うから。「 ん、ありがとう…ひょん、...。はぁ~...、もう、ひょんがイヤだって言っても離すつもりないよ俺...っ。」ぐず、と泣きべそをかく子供みたいに唇を尖らすのに、やっぱり変わらずの気の抜ける笑みが心をそっと解してくれるんだ。可愛らしい戯れに、つい目元が綻ぶ。鼻先がくすぐったい。「 へへっ.....約束する、 」頬を包む細い手の上へそっと自身の手のひらを重ねる。擦り寄るように目を細めて、涙の跡はそのままなのに無邪気に八重歯を見せて笑うんだからもうちぐはぐだ。少しだけ晴れた視界に彼が映る。触れ合う額から伝う熱と、視界に入る自身の髪と混じった彼の髪の色。此方をじっと見つめる甘い視線を辿って、その奥の瞳に映る自分。ねぇはにひょん。約束する、これからはヒョンと一緒に生きるから、全部二人だけのものだ。ずっとずっと…なんて、気が早いかな。ねぇ、その美しい瞳の奥に俺を沈めて。奥深くに俺を溺れさせてほしい。_ 名残惜しいけど、一段落つくと途端に空腹が蘇って苦しくなる。切なそうに重ねた手と体を離すと、体の横で名残惜しさが残ったまま、片手だけは軽く繋がる。「 あ~っそうだまだ終わってなかったじゃん~!...お腹減ったよ~。 」フライパンの中を覗いては炒めている途中で最悪の結果になった食材に。落ちた菜箸を拾ってぽつぽつと呟きながらシンクへ。分かりやすく目に見えない尻尾を下げつつ、「 ヒョン、ゴメンだけどテーブル拭いてくれる?今すぐ持ってくから座ってていいよ。」渋々手を離すとちらりと彼を見遣ってから目元を腕で拭う。焦げてしまった部分を捨てて、新たに作り直さんと手を洗えばまた料理がスタート。ものの数分で仕上がったキムチポックンパを二つの皿に盛り付け、ふぅ、と満足気に額を拭ったところでどこからか微かに聞こえた物音。...ああ、そろそろ何人かは起きてくる時間かな。慌ただしく動きながらも確認した時計。すっかり部屋に広がった光は完全な朝を告げていて。)

  • No.33 by  jh  2022-12-19 18:43:16 






( 泣きべそをかく彼はなんだか幼い。影を落とす少し暗い視界でも分かる、先程よりぷっくり膨れた涙袋と赤い目元。自分より背丈もある屈強な男を守ってやりたいなんて思うのは間違いなく最初で最後だ。煩いくらい激しく鳴り響いていた鼓動も緩やかな脈拍を刻んでいたのに。一筋に光る涙の跡を拵えたまま尖った犬歯を覗かせて笑うものだから。人懐っこく目を細める姿にいとも簡単に胸が締め付けられてしまって敵わない。今まではそんな顔、1番見せたらいけない相手は俺だったのにね。今は涙もその笑顔だってこうして独り占めしている。天使は神との仲介や人々を導く役割を与えられていると何処かで聞いたことがあるけれど、俺がお前の手を引いて導いているのは紛れもなく禁断への道筋だ。それでもこの先に待っているであろう幸せに浮き足だってしまいそうなんて、口が裂けても言えないけど。今日した秘め事も、これからの秘密だって二人で歩んでいくなら悪くないでしょ?…約束の合意に柔らかく口角を上げては、濡れた頬を包んだ手に重なった掌が離れ自らもゆっくりと手を下ろして。─…お前が嫌だって言っても離してやらないなんて最初からこっちの台詞なんだよ、ミンギュヤ。遠のいていく体温が少し寂しくて、片手だけで繋がった熱を名残惜しそうに握り直していると空気を塗り替える様に降ってきた言葉。「 あ~…けんちゃなけんちゃな、食べれる所はあるよ 」悲惨な状態になったフライパンの中身を覗き込む。誰が原因かは一目瞭然にも関わらず相変わらず能天気に返すものの、内心は料理の途中でほっぽり出した認識はありつつも甘んじていた自覚はあり、今更になって現実を取り戻しては存在しないはずの耳や尻尾をしゅんと垂らしながら菜箸を拾う彼を眺めながら大人気なく年下の彼に手出しをした事に対して自嘲気味に苦笑いを溢して。繋いでいた手が離れるとよしよし、と気休めに少し高い頭を撫でた後「 あるげっすむにだぁ~ 」気の抜けた返事と共にシンクの縁に干していた布巾を濡らして絞り、足早にリビングへ。言われた通りテーブルを拭いていると何人かのメンバーは起床したらしい、微かに聞こえる物音は二人きりの時間の終わりを告げるもので。誰が起きてくるかな、なんて微笑みを浮かべながらキッチンへ戻り引き出しからスプーンを2つ取りテーブルに向かい合わせに並べるも、少し思案して席に着いた頃には隣り合わせに並んだスプーン。すると不意に薄鈍い足音が近付いてくるのを察知し、其方へ視線を移動させて。普段は丸く開かれた目が薄く細められている事から、リビングに来た目的は朝方の自分と同じで大旨目が覚めて水でも飲みにやってきたのだろう。「 お~スングァナぁ、」如何にも眠たそうな彼に声を掛けては案の定怪訝そうな表情を向けられるものだから笑ってしまう。朝っぱらからテーブルに待機して変に思われるだろうか。でもやましい事は…少ししかしてないから大丈夫。爽やかな陽だまりに包まれて上機嫌に頬杖を付いて。 )




  • No.34 by mg  2022-12-19 22:35:03 




( 昨日とは180度変わってしまった彼との関係性。目に映る景色は普段と何一つ変わらないからこそ、昨日までの自分がどのような立ち振る舞いをしていたかが全く思い出せない。遠くから聞こえた物音、やがてドアが閉まるような音が聞こえれば意味もなく背筋を伸ばして息を整える。意識せず普段通りを装えば装うほどぎこちなくなるような気がして、最早今の振る舞いが正しいのか正しくないのかすら判断がつかない。今はこの関係を二人だけの秘密として気を張っているけれど、ずっとずっと俺が想ってた彼の想い人が、まさかの俺で、それでいて通じ合えたという事実が…思えば思うほど嬉しくて堪らず、今すぐ叫びながらリビングを5周くらいし、そのまま宿舎を裸足で飛び出していけるくらいには感情が昂っているのだから、それを実行せずに口元を少しニヤケさせる程度に収められているのを褒めてほしい。小さな箱から初めての大きな舞台で紙吹雪を浴びて、息を呑む程の感動を味わったあの時よりも下手したら幸せだ。あに、絶対そうだろ。昨日までは彼との接触すら避けていたのに、今は不意なスキンシップに危惧することもない。ただ髪に触れられるだけで多幸感は膨らんで。あ~おっとっけぇ…俺のむのむ幸せだ...。思わず目で追う、布巾を取って手と一緒に濡らす動作も、ぺたぺたと向かったテーブルを言う通りに拭いてくれる様子も。ため息が出るくらい幸せで、ヒョンが可愛くて可愛くて仕方がない。一生続いていいよ、ハニヒョンとの時間。そう願うのに、俺ビジョンでゆっくりと映り流れていた時間は、ふと現れたメンバーの顔に急遽現実に引き戻される訳だけど。たんぽぽの綿毛みたいな髪を歩く度に揺らして、半分ほどしか目の開いてないその子が隣に来ては近くのコップを取ってとの声に。...“これ?” 違う “これは?” 違うって “これ、” 違うってばいつも俺が使ってん…ハァーチンチャもういい、とか謎に怒られるから...俺の方が本当にだよ!としょうもないやり取りに突っかかりそうになるが。キレ症と疑うこの子は平気でタメ口を使ってくるからいい気はしない。歳は同じだからってお前と俺とじゃ学年は違うだろ。言いかけた言葉を我慢して呑み込めばため息混じりに。二つの皿を乗せたトレイに新たにインスタントのスープを二つと飲み物を追加するとキッチンを後に。癒しを乞うようにテーブルへ向かうと、陽だまりに包まれた彼はやっぱり似合うと確信する。どうしてこうも見慣れたものなのに、恋ってものは何度君を新鮮にしたら気が済むんだろう。一瞬どこに座ろうか悩んで、とりあえず彼の前へと置いた皿。「 ヒョンっ待たせてごめんね。焦げは取ったけど、もし不味かったら食べないで。美味しく作ったつもりだけど、」 彼を上から見下ろしている間に、指定されている席に気づくと堪え性なく頬は緩み。残りの皿と自分の分まで置き終えると、椅子を引いて腰を屈ませる...昨日までは許されなかった特等席へと座る前に、さりげなく彼の後頭部の寝癖をさらりと指先で辿り。光に透き通るような肌も、何度もブリーチを重ねたのに天使の輪を作る髪の毛も。全部愛おしくて堪らないよ、どうしようか。「 ... ん、どうぞ召し上がってください。 」自分が食べる前に彼の反応を見たくて、今度隣で頬杖をついて眺める姿勢に入ると幸せそうに目を細めて。)

  • No.35 by  jh  2022-12-20 03:49:30 






( 影に覆われた一角で抱き合ったのが嘘みたいに温かい日差しを浴びながら大人しく待っていると、キッチンの方から微かに聞こえてくる簡素な話し声。此処からは綿毛みたいな寝癖と華奢な背中しかよく見えないけど、何故か妙に楽しそうに見えて…。あれ?おかしいな、こんな事昨日まで…あにゃ、つい数時間前まで思わなかったはずなのに。確かに二人共自分の可愛い弟達なことに変わりはないんだけど、理屈じゃ説明出来ない嫉妬の様な何かを胸の片隅に早速発見してしまった。はぁ、おっとっけ。悩ましげな言葉を頭に反芻させ頬杖を付いた方のパジャマの裾で口元を隠して。彼に対する認識は思いが通じ合う前とは明らかに異なって、“ ミンギュは俺の ”なんて子供染みた独占欲が顔を出し始めたのだ。恋愛感情はおろかこんな感情はどうやって取り扱っていいのかさっぱり分からない。そりゃそれなりにこの職業をやってきたんだ、可愛らしく伝える事だって出来るには出来るけど、それにしたってあんなに些細な会話だけで。これってかなり女々しくないか、…やぁ、先が思いやられるな。─色々な思考が飛び交うものの飽くまで涼しい表情は崩さずそんな光景を眺めていると、トレイを両手に持った愛しい彼がやってきて。ぱたぱたと足音を立てて料理を持ってくる姿は飼い主の元にフリスビーを咥えて戻ってくる犬のようで、この庇護欲と加虐心と安心感が綯い交ぜになった様な好意は、世界中どこを探してもお前にしか感じられない感情なんじゃないかな。本当に不思議だ。思わず好きだなぁ…なんて想いがつい溢れてしまいそうになるから油断ならない。頬杖を付いていた腕をしまって膝の上に置き、ついさっきまで触れていたのに待ち焦がれた様に綻んだ顔で見上げて迎えては目の前に置かれた皿の中身に視線を落とし「 わぁ~…!凄く美味しそうなんだけど?スープも用意してくれて…ヨクシ~、うりみんぎゅ 」お世話抜きで一度焦がしてしまったと思えない仕上がりに、空腹も相まって見開いた双眸を輝かせて。輝いた瞳のまま再び視線を上げると何処に座るか迷う素ぶりを見せる彼に小さく笑いを溢す。可愛いなぁもう、ヒョンの隣に座りな。なんて言葉が脳裏に浮かぶが、あからさまに甘やかす様な言葉を紡げばキッチンで水を飲んでいるあの子に冷ややかな目で見られるのは目に見えているから。今は敢えて横目で捉えるだけに留める。思惑通り隣の席に腰を下ろした…と満足気に口角を上げる前に後頭部の髪にさりげなく触れた彼の指は特別な関係を密かに示している様で。たった一瞬で幸せが胸に広がる。こんなに幸せでいいのかな。不意に頬杖を付いて幸せそうな笑みを浮かべながら自分を眺めている彼と視線が合い、自分と同じ気持ちなのが容易に分かってしまって少し照れ臭い。同じ様に緩んだ口元で笑いかけると「 ネ、いただきます 」漸くスプーンを手に取って皿に盛られたポックンパを一口掬って。はむ、と効果音がしそうなほど口いっぱいに頬張ればキムチの味が口の中に広がって、野菜の食感が空腹に染み渡り頬を膨らませてもぐもぐ咀嚼し。「 ん~~…っ、マシンネ~。ほっぺが落ちちゃいそう 」半月型の目を更に細めて心底幸せそうに膨らんだ頬を緩めて呟きつつも食欲にかまけて早々ともう一口。「 ねぇ、美味しいから食べてみて? 」首を傾けながら隣の彼を瞳に映して食事を促しては自然と逞しい二の腕に触れる。キッチンの方から綿毛の様な髪を揺らして帰ってきたその子から先程よりもっと怪訝そうな眼差しでふと何を食べているのか聞かれるものの、見れば分かるから恐らく聞きたいのはそういう事じゃないんだろう。2人仲良く並んで座っている事とか、色々ツッコミ所はあるんだろうけど。“ キムチポックンパ、お前も食べる? ” 機嫌よく問いかけるも返ってきた返事は勿論NO。クレ?と軽く返し、また自室に戻っていく背中を見送ればリビングに再度二人きりの空気が流れるものだから。なんとなく、ただなんとなく気になっていた事をスープを少し啜った後に「 …さっき、何話してたの…?スングァナと。」と囁く様に聞いてみて。単調な遣り取りだったのは何となく分かっているけど、ほんのちょっと気になっただけ。睫毛を僅かに下向きに伏せて半透明のスープに視線を落としたかと思えば彼の横顔にちらっと視線を向けて、微かに唇を尖らせながら。 )




  • No.36 by mg  2022-12-20 14:01:41 




( 本当に心臓がいくつあっても足りないな。ただ大好きな彼の為に美味しい料理を作ることを努めただけ。特別なことなんて何も無いのに、目をまんまるくしてキラキラと輝かせる様は一角での行為を忘れさせるくらいあどけなく愛おしい。~~可愛い、大好きだ本当に。彼の一挙一動に胸が高鳴るんだ、不意打ちなんて幾つもされたらそのうち卒倒してしまうかもしれない。可愛らしく柔い笑みを携えた彼を微笑ましく見つめながら、此方を見つめていた目が皿へと落とされ、スプーンを手に取る様子までじっくりと目で辿り。…大丈夫かな。口に合うかな?スプーンが彼の口へと運ばれると、顔を覗き込んで 「 どう? 」尋ねるのだけど。すぐに答えてくれた感想と、それをありありと表した表情にほんの少しの不安は何処へやら。頬を膨らませて幸せそうにもう一口頬張る様子だって可愛くて堪らず、口元の緩みは抑えられないまま。はぁ。もうずっと眺めていたい。キッチンに居る綿毛さんを記憶から飛ばしたまま、にやにやと幸せに浸っていたのだけど。ふと腕に触れた彼の手に促されるとぴくりと背筋を伸ばし、一瞬瞳の色を見つめてから視線を皿へ落とした。まぁ食欲には抗えない。用意してくれていたスプーンを手に早速一口運ぶと、ほんの少し目を閉じて味わう。んー...ん、美味しい。我ながら良いものを作ったかもしれない。その間聞こえた足音にもぐもぐと咀嚼しながら軽く視線を綿毛さんへと向けた。明らか怪訝そうな視線を向けられるも、その場で分かりやすく疑問を尋ねられるよりいいだろう。素っ頓狂な表情を浮かべてやる。隣の横顔と綿毛さんとを交互に見遣りつつ、もう一口大きめに頬張った所で内心早く二人きりになりたいから帰ってくれ...!と乞う。思いが通じたのか、最後までやや怪訝そうな綿毛さんがあっさりと退散する背中を見送ると心の中でガッツポーズ。遠のいていく足音はまた二人の空間が訪れたことを示唆していて、満悦に手に取ったコップへと口を付ければ…ふと掛けられた言葉に目を丸くする。「 ぉ? 何って、 」数秒前まではご機嫌だった彼の声とは若干違うトーンに まさか、と意外な心当たり。目を見たいのに視線が合わないのは睫毛の長さが伺えるからで。コップを置き、それでも控えめに顔を覗き込んでみれば少しだけ向けられた視線と分かりやすい表情に心当たりは確信に変わった。「 えぇい、なんて事ないよ。ただスングァニが俺のいたとこのコップ取って、って言うからさ。渡したら違うのだってキレるのアイツ。はぁ~っ。」何となくパボなやり取りを晒すのは気が引けるが、彼を見つめる眉を下げた表情はやや不安げだ。「 …変なことじゃないよ、」恐る恐る付け加えた言葉は彼がどうして話の内容を聞いてきたかが分かったから。あいつのことなんか眼中にない。当たり前だろ?そう言いたげに食事する手を止めてまでじっと見つめて。)


  • No.37 by  jh  2022-12-20 20:20:20 






( バタン、扉が閉まる音と同時に心に掛かっていた靄がすぅっと晴れて差し込む朝日のように再び光を取り戻すものだから。やっぱりヤキモチだったんだな、なんて何処か俯瞰的で。ただの日常会話だっていうのは何となく予想出来たし、こんなふうに一々聞いていたらキリがないんだけど、それでも目を丸くしてコップを置いた後真摯に答えてくれた彼が愛おしくて仕方がない。こんなふうにどうしようもない独占欲を抱いているにも関わらず、それでもお前は真っ直ぐに向き合ってくれるんだね。不意に不安気に眉を下げて自分を見つめる切れ長な目と視線がかち合う。だってさ、お前は今昇っている太陽みたいに人懐っこくて皆から愛される子だから。その射抜くような真っ直ぐな視線を独り占めしたいと思うのは不思議なことじゃないでしょ。俺だけ、なのかな。スープカップをテーブルに置き二人きりの空間が再来したことで少しの沈黙が出来れば、それをすぐに破る様にして何処か安心した様に頬を綻ばせて。「 そっか、…よかったぁ 」思ったより間延びした声が漏れ出てしまっては今になって大人気なく問いかけた内容が気恥ずかしく感じる。脳と表情筋が直結してるのかってくらいすぐに顔に出てしまう子だから、その言葉が真実だっていうのは考えるまでもなく分かりきってることだ。結果的に少し意地悪な質問をしてしまったかもしれないけど。そんなお前が大好きだよ。彼の口から紡がれる思っていたより大分無益なやり取りに笑顔を取り戻しせばくすくすと笑い声を溢し、捨てられた子犬の様な両目で恐る恐るといった様子で付け加えられた言葉に少し首を横に振る。変なことを聞いたから不安にさせちゃったかな、ダメなヒョンだなぁ。「 あにゃ、疑ってた訳じゃないんだけど…ちょっとヤキモチ妬いちゃったみたい。ミアネ 」悪怯れる素ぶりこそないがいつものように緩んだ口元ではなく控えめにきゅ、と口角を上げて謝罪をぽつりと。それから徐に手を伸ばしたのはテーブルの下に隠れた筋肉質な太もも。「 …、恥ずかしいから、これも2人だけの秘密だよ…? 」彼がこんな事言いふらすはずもないのは分かっているものの、やはりあんな些細な事で妬いたなんて誰にも知られたくないもので。知っていていいのは目の前に居る恋人だけ。誰もいない静まり返ったリビングでこそこそと隣の耳元で囁きながらも照れ臭そうにはにかむと、太ももに乗せた手の平をすりすりと這わせてゆったり撫でて。束の間乗せていた手を退け再びスプーンを持ち直し「 やぁ~、こんなに美味しいのに冷めちゃったら勿体ないね。食べよっか。」と先程の唇を尖らせていた態度は何処へやら。へら、といつものように緩んだ笑みを浮かべつつもまだ完全に満たされていない空腹に任せて再度一口頬張り、食事を再開して。 )




  • No.38 by mg  2022-12-20 23:13:03 





( 一瞬訪れた静寂は俺ら以外のもう一人がこの場から去ったのを確実にするためで、やっと肩の荷が下りて数分前よりも張っていた気は抜けるものの。今は隣の彼に全意識を集中させ、言葉だけじゃなく表情まで使って想いを伝えるのに必死だ。疑われるような変な行動は一つもしていないのにも関わらず、彼の気持ちがよく理解出来るからこそ真摯に彼と向き合って。とくとくと早めの鼓動を感じながら思い出す。俺自身、他のやつと居るハニヒョンを見る度に何度も不安に駆られて嫉妬心を抱いたもの。誰のものでもないヒョンを俺のものだって勝手な独占欲すら抱いてさ。俺が一番、ハニヒョンと俺としか知らない話をたくさんしたいし、二人だから面白いツボの合う話だとか、二人だけしか知らない景色をたくさん記憶に残したい。恋人という関係になった今だってその感情が無くなった訳ではなくて。彼が自分のものになったからこそ嫉妬心は敏感になりうると思う。不安に揺れる瞳を覗く綺麗な目が、些細な蟠りを解くようにふっと細められれば一気に胸に広がるあたたかい安堵。彼の気の抜けた声が何事もなく前に進めたことを暗示し、一瞬の時だったが張り詰めていた空気が和やかになる。心地いい笑い声を耳に苦笑いを浮かべて へなへな、とでもいうように背もたれに預ける体。「 …謝ることじゃないよ。ひょん、ヤキモチ焼いてくれたんだ。 」少し気を張ってしまったけど、当たり前の感情に謝る必要なんてないよ。むしろ気が休まって落ち着いて知ったのは “ハニヒョンが嫉妬してくれた” なんてちょっと気持ち悪いと思われてしまうかも、そんな喜ばしい感情だったから。何はともあれ彼の笑顔を見られて良かった。俺の不安を汲み取ってくれたのか、わざわざ謝ってくれるヒョンは優しいに越したことはない。満足気に改めて食事を再開しようとしたが、視界の端で動いた手を視線で追うと自身の太ももに乗せられるから。何度か瞬きを繰り返して、きっと後に続けられる言葉を待つ。_...ああ、本当にこのヒョンは。口を寄せるのが分かると、自然と彼の方へと顔を寄せて。こそばゆい吐息と囁かな愛しい声に肩を上げては。「 …ん~、たよなじぃ、こんな可愛いこと言う訳ないじゃん。」どうしようもなく愛おしくてたまらない、とくしゃくしゃに笑う。なんたって、絡んだ視線の先で照れくさそうにはにかむ彼は…世界でいっちばん可愛いと思う。眉も目尻も下げて、どこかあどけなく目を細めるんだ。…俺はこの感情をどうしたらいい? 太ももを這うその手だって、…ああもう本当に。くすぐったくて心地よくて…モンガ、変な気持ちになるから! 思わずその手の上に自分の手を重ねようとしたらタイミング悪く退かされてしまった。うう。悲しい。彼が逸早くスプーンを手に取り食事を再開する様子をしゅん、と上目に見つめて。「 ヒョン~っ。」耐えられず愛おしさが爆発した俺は、腕を彼の肩に回すと邪魔にならない程度に軽く抱き寄せて。首元にぐりぐりと顔まで押し付けて胸いっぱいに満たす彼の匂い。大好きで、大好きでたまらない。ずっとくっついていたいけど、流石に食事の邪魔までしてはいけないとすぐに腕を解いて離れれば両手で顔を拭うついでに髪までかきあげて。「 …ああだめだ俺、ヒョンのこと好きすぎてどうにかなりそう。」困ったように笑うと、自分もスプーンを手に取って食事を再開し。)

  • No.39 by  jh  2022-12-21 05:33:20 






( 温かい太陽光に包まれて懸命に懸念を取り除こうと寄り添ってくれる、お前は本当に優しくて温かいね。俺が勝手に妬いただけなのに。緊張が解けた様に背もたれに預けた逞しい体はちゃんと向き合ってくれた事を示してくれているようで。鼻にかかった声で紡ぐ甘い言葉と共に凛々しい目鼻立ちを崩してくしゃっと笑う彼に、ときめかない子がいるなら寧ろ連れてきて欲しいよ。笑うと現れる目尻の皺とか、自分とは真逆に釣り上がったまま細められる両目。形のいい唇から覗いた犬歯だって全部可愛くて。一口、また一口と口に運んでいる内に空腹は大分満たされたはずなのに、食べちゃいたいくらいには彼に骨抜きな訳で。…ほら、今はまだ誰が来るか分からないリビングだから、なんて心の中で言い訳をしつつ表情から悟られないように咀嚼するので精一杯。多分今手を重ねられたらもっともっと触れたくて我慢出来なくなってただろうし、…しゅん、と存在しない犬耳を下げて此方に可愛らしい視線を向ける彼を横目で捉え胸を痛めながらもすぐに手を引っ込めた自分を取り敢えず褒めてやる。そんな葛藤を知ってか知らずか鍛えられた腕で肩を抱き寄せられ、更には首元に顔を押し付けてくるものだから、思わずぴくりと肩を揺らし。あー…チンチャ。どうしてこうも容赦なく胸を突き刺してくるのかな、お前は。せめて食べ終わるまで抑えようとしていた愛しさが再び溢れ返ってしまい「 あぁ~…みんぎゅや、食べ辛いって 」なんてくすりと笑みを溢すも歯切れ悪く返したのは明らかに心拍数が上がっているから。応えるように首元にある髪に頬擦りをして腕が解けると同時に離すと、顔を拭って髪を掻き上げるよく目にする動作。そんな動きにも胸が高鳴ってしまうのはきっと自分と同じ気持ちを彼が吐露したせい。“ んふふ ”意味深な笑い声を溢しては最後の一口を飲み込みあっという間に綺麗に完食。「 美味しかった~、ごちそうさまでした 」満足気にスープカップと皿を重ね、ふと隣の彼に視線を向け掻き上げ損ねて垂れている横の髪を掻き上げながら撫でて。…あんで、こうして触れると愛おしいのは抑え切れないみたい。やや奥二重気味の目は下から見ると二重がよく分かるから尚の事可愛い。睫毛を垂らして笑みを浮かべつつ覗き込んでじっくり見つめては「 …どうにかなってくれないの…?俺もみんぎゅが好きで堪らなくて、どうにかなりそうなのに…。」と少し追い詰めるような甘ったるい声色で。逃すつもりはないとでも言うかの如く視線離さず絡め続け、徐に伸ばした手は彼の顎へ。まるで本物の犬でも可愛がるように人差し指で顎の下をすりすりと撫でながら自らの唇を舐め赤い舌を覗かせて。「 …この後ヒョンの部屋、おいで。」柔らかくも低めの声で誘いの言葉を近距離で囁けばゆったり目を細めて笑いかけ。…途端にぱっと手を離し寄せていた身体も潔く離せば余韻など残さず緩んだ笑顔でえへへ、なんて子供染みた笑い声を残してテーブルから立ち上がる。食べ終わった食器をキッチンまでそそくさと運んでは彼の方をチラリとも見ないまま通り過ぎてはリビングの扉を閉めて。───…ぼふっ、自室に戻ると今朝起きたままにしていたベッドへ倒れ込む。数時間まであれだけしていた悪戯も関係性が変わった今、少しの悪戯も幾つもの意味を含んでいるからか左胸はまだ小気味良い心音を刻んでいて。…ちょっと強引すぎたかな。それに洗い物、した方が後で楽だったんだけど。今日はそんなのどうでもいいんだもん。だって早く完全に2人きりの空間でいっぱい話して触れたいと思うのは好きなら当然でしょ?そんな思考を巡らせてはもぞもぞと意味もなくベッドを整え。 )




  • No.40 by mg  2022-12-21 20:30:33 



( 柔くて耳に心地いいその笑い声が大好きだよ。彼は少しだけ鬱陶しいような素振りを見せるけど、俺がくっついても嫌がらないことをもう知ってしまったから、断然胸に残るのは満足感。用意した料理を最後まで平らげてくれた皿を見ると、返事の代わりに口角をほんの少し上げる。ちゃんと食べてくれた。嬉しいなぁ。食器の重なる音を耳に、自分も早く食べてしまおうと味なんか関係なくなった食事を急いだ。昔よりもだいぶ長めにカットされた髪は煩わしくもすぐ垂れ落ちてきてしまう。彼の綺麗な髪の毛の一本一本は大切なのに、俺の髪の毛には一々構ってられないよ、と無視をしていたのだけど。視界に肌色が入ると、触られるのかなと意を決しつつスプーンをまた口へ。まるで子供が親にされるように大人しく、手のひらの温もりと優しい動きを感じて。その後の言葉を期待しながら覗き込む目と視線を合わせると、またもや心臓に悪いときめき。綺麗に生え揃った睫毛が上下する様に見とれたまま、何か言わんとするも咀嚼したままでは答えられない。…ヒョンも俺を大好きで居てくれてる。その事実に堪らず想いは高ぶるから愛ってキリのない無限拡張だ。どうにかなったところで困るのはハニヒョンだからね。これ以上俺をおかしくしないでとすら願うように、じっくりと絡まる視線に後退り身を引いた。…本当はそれ以上をも望む自分がいることは…ヒョンに言わないでおこう。耳まで溶かすような甘ったるいその声音は、間違いなく俺しか知らない色。彼の目だけを見つめていたから、顎に触れた指先に気づかずぴくりと肩を揺らしては。すぅと肌を撫でていく感触が焦れったくて目を細めた先、彼の心地いい低音が鼓膜を震わせる。…なんたって、俺の反応を分かってやってるんだこのヒョンは。唇の隙間から覗く舌がその形を辿る様を見遣ればなぜか背筋がぞくっと痺れる。頷く以外考えられず「 …っ、ネ、ネー…。」ごくりと嚥下した後首を数回縦に振った。…昔から 来る者拒まず去るもの追わず そんな人だった。猫のように淡々と、気分屋で。人に執着しない姿は関係の変わった俺を前にしても尚変わらないみたい。先程感じたはずの色気は何処へやら。最初から扉から閉まる最後まで目で追っても一度も視線は絡まないまま、リビングに残される。…パタン。本当にこのヒョンに狂わされたらどうなるんだろう。悪くないな、と思うのは既に相当狂ってる証拠かもしれない。暫く茫然としていたが彼の香りが消えた後急いで残りを平らげ、皿を持って立ち上がり、シンクに洗い物を…置いておくことはできず、今すぐ彼の元へ飛んでいきたい気持ちを抑えて調理器具やら皿やらを手際よく洗ってしまう。水切りラックに置き、手についた水を払い。リビングに出てきてテーブルの横を通り過ぎようとした所で居た堪れず布巾で一通り拭いて…。数分後にようやくリビングを飛び出した。_彼の部屋に向かうまでの間、洗面所に寄って顔を洗うなり歯を磨くなり、調理の際に跳ねたのか油臭い衣服を変えるべく自室に寄り、此方をものともせず布団に潜るジフニヒョンを生存確認した後…慌ただしく辿り着いたドアの前。部屋着であることに変わりないがせっかく服も変えて心機一転だというのに、呼吸を整える間も惜しく。ノックの後少しだけドアを開ければ顔を覗かせるが、隙間から彼の存在を確認すると…待てる訳なんかなくて。嬉々として中に入るとパタンッとドアを閉めた。「 ~!待たせてごめん! 」まるで大きい犬が飼い主の元へ駆け寄るように。彼をも巻き込んで飛びつかん勢いでベッドに寝そべればぼふんっと世界が揺れる。彼の香りで満たされた空間、何もせずとも胸がいっぱいでとくとくと鼓動は早まる。彼の横で待ち望んだ視線を合わせると、へにゃ、と自然と溢れてしまう締りのない笑み。「 来たよヒョン。会いたかったよ~… 」彼の顔にかかる髪を指先でやさしく避けてやる。そうすると鮮明に伺える瞳に、自然と惹き込まれていくんだ。)

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