名無しさん 2022-12-02 18:14:09 |
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( 泣きべそをかく彼はなんだか幼い。影を落とす少し暗い視界でも分かる、先程よりぷっくり膨れた涙袋と赤い目元。自分より背丈もある屈強な男を守ってやりたいなんて思うのは間違いなく最初で最後だ。煩いくらい激しく鳴り響いていた鼓動も緩やかな脈拍を刻んでいたのに。一筋に光る涙の跡を拵えたまま尖った犬歯を覗かせて笑うものだから。人懐っこく目を細める姿にいとも簡単に胸が締め付けられてしまって敵わない。今まではそんな顔、1番見せたらいけない相手は俺だったのにね。今は涙もその笑顔だってこうして独り占めしている。天使は神との仲介や人々を導く役割を与えられていると何処かで聞いたことがあるけれど、俺がお前の手を引いて導いているのは紛れもなく禁断への道筋だ。それでもこの先に待っているであろう幸せに浮き足だってしまいそうなんて、口が裂けても言えないけど。今日した秘め事も、これからの秘密だって二人で歩んでいくなら悪くないでしょ?…約束の合意に柔らかく口角を上げては、濡れた頬を包んだ手に重なった掌が離れ自らもゆっくりと手を下ろして。─…お前が嫌だって言っても離してやらないなんて最初からこっちの台詞なんだよ、ミンギュヤ。遠のいていく体温が少し寂しくて、片手だけで繋がった熱を名残惜しそうに握り直していると空気を塗り替える様に降ってきた言葉。「 あ~…けんちゃなけんちゃな、食べれる所はあるよ 」悲惨な状態になったフライパンの中身を覗き込む。誰が原因かは一目瞭然にも関わらず相変わらず能天気に返すものの、内心は料理の途中でほっぽり出した認識はありつつも甘んじていた自覚はあり、今更になって現実を取り戻しては存在しないはずの耳や尻尾をしゅんと垂らしながら菜箸を拾う彼を眺めながら大人気なく年下の彼に手出しをした事に対して自嘲気味に苦笑いを溢して。繋いでいた手が離れるとよしよし、と気休めに少し高い頭を撫でた後「 あるげっすむにだぁ~ 」気の抜けた返事と共にシンクの縁に干していた布巾を濡らして絞り、足早にリビングへ。言われた通りテーブルを拭いていると何人かのメンバーは起床したらしい、微かに聞こえる物音は二人きりの時間の終わりを告げるもので。誰が起きてくるかな、なんて微笑みを浮かべながらキッチンへ戻り引き出しからスプーンを2つ取りテーブルに向かい合わせに並べるも、少し思案して席に着いた頃には隣り合わせに並んだスプーン。すると不意に薄鈍い足音が近付いてくるのを察知し、其方へ視線を移動させて。普段は丸く開かれた目が薄く細められている事から、リビングに来た目的は朝方の自分と同じで大旨目が覚めて水でも飲みにやってきたのだろう。「 お~スングァナぁ、」如何にも眠たそうな彼に声を掛けては案の定怪訝そうな表情を向けられるものだから笑ってしまう。朝っぱらからテーブルに待機して変に思われるだろうか。でもやましい事は…少ししかしてないから大丈夫。爽やかな陽だまりに包まれて上機嫌に頬杖を付いて。 )
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