名無しさん 2022-12-02 18:14:09 |
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( 影に覆われた一角で抱き合ったのが嘘みたいに温かい日差しを浴びながら大人しく待っていると、キッチンの方から微かに聞こえてくる簡素な話し声。此処からは綿毛みたいな寝癖と華奢な背中しかよく見えないけど、何故か妙に楽しそうに見えて…。あれ?おかしいな、こんな事昨日まで…あにゃ、つい数時間前まで思わなかったはずなのに。確かに二人共自分の可愛い弟達なことに変わりはないんだけど、理屈じゃ説明出来ない嫉妬の様な何かを胸の片隅に早速発見してしまった。はぁ、おっとっけ。悩ましげな言葉を頭に反芻させ頬杖を付いた方のパジャマの裾で口元を隠して。彼に対する認識は思いが通じ合う前とは明らかに異なって、“ ミンギュは俺の ”なんて子供染みた独占欲が顔を出し始めたのだ。恋愛感情はおろかこんな感情はどうやって取り扱っていいのかさっぱり分からない。そりゃそれなりにこの職業をやってきたんだ、可愛らしく伝える事だって出来るには出来るけど、それにしたってあんなに些細な会話だけで。これってかなり女々しくないか、…やぁ、先が思いやられるな。─色々な思考が飛び交うものの飽くまで涼しい表情は崩さずそんな光景を眺めていると、トレイを両手に持った愛しい彼がやってきて。ぱたぱたと足音を立てて料理を持ってくる姿は飼い主の元にフリスビーを咥えて戻ってくる犬のようで、この庇護欲と加虐心と安心感が綯い交ぜになった様な好意は、世界中どこを探してもお前にしか感じられない感情なんじゃないかな。本当に不思議だ。思わず好きだなぁ…なんて想いがつい溢れてしまいそうになるから油断ならない。頬杖を付いていた腕をしまって膝の上に置き、ついさっきまで触れていたのに待ち焦がれた様に綻んだ顔で見上げて迎えては目の前に置かれた皿の中身に視線を落とし「 わぁ~…!凄く美味しそうなんだけど?スープも用意してくれて…ヨクシ~、うりみんぎゅ 」お世話抜きで一度焦がしてしまったと思えない仕上がりに、空腹も相まって見開いた双眸を輝かせて。輝いた瞳のまま再び視線を上げると何処に座るか迷う素ぶりを見せる彼に小さく笑いを溢す。可愛いなぁもう、ヒョンの隣に座りな。なんて言葉が脳裏に浮かぶが、あからさまに甘やかす様な言葉を紡げばキッチンで水を飲んでいるあの子に冷ややかな目で見られるのは目に見えているから。今は敢えて横目で捉えるだけに留める。思惑通り隣の席に腰を下ろした…と満足気に口角を上げる前に後頭部の髪にさりげなく触れた彼の指は特別な関係を密かに示している様で。たった一瞬で幸せが胸に広がる。こんなに幸せでいいのかな。不意に頬杖を付いて幸せそうな笑みを浮かべながら自分を眺めている彼と視線が合い、自分と同じ気持ちなのが容易に分かってしまって少し照れ臭い。同じ様に緩んだ口元で笑いかけると「 ネ、いただきます 」漸くスプーンを手に取って皿に盛られたポックンパを一口掬って。はむ、と効果音がしそうなほど口いっぱいに頬張ればキムチの味が口の中に広がって、野菜の食感が空腹に染み渡り頬を膨らませてもぐもぐ咀嚼し。「 ん~~…っ、マシンネ~。ほっぺが落ちちゃいそう 」半月型の目を更に細めて心底幸せそうに膨らんだ頬を緩めて呟きつつも食欲にかまけて早々ともう一口。「 ねぇ、美味しいから食べてみて? 」首を傾けながら隣の彼を瞳に映して食事を促しては自然と逞しい二の腕に触れる。キッチンの方から綿毛の様な髪を揺らして帰ってきたその子から先程よりもっと怪訝そうな眼差しでふと何を食べているのか聞かれるものの、見れば分かるから恐らく聞きたいのはそういう事じゃないんだろう。2人仲良く並んで座っている事とか、色々ツッコミ所はあるんだろうけど。“ キムチポックンパ、お前も食べる? ” 機嫌よく問いかけるも返ってきた返事は勿論NO。クレ?と軽く返し、また自室に戻っていく背中を見送ればリビングに再度二人きりの空気が流れるものだから。なんとなく、ただなんとなく気になっていた事をスープを少し啜った後に「 …さっき、何話してたの…?スングァナと。」と囁く様に聞いてみて。単調な遣り取りだったのは何となく分かっているけど、ほんのちょっと気になっただけ。睫毛を僅かに下向きに伏せて半透明のスープに視線を落としたかと思えば彼の横顔にちらっと視線を向けて、微かに唇を尖らせながら。 )
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