SS小説(著者別2本立て)

SS小説(著者別2本立て)

YUKI  2015-09-20 23:21:52 
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※ここはSS小説の部屋です。
※荒し・なりすまし・マナー違反はお止めください
※ご意見・ご感想は2本とも読み終わった後にお載せください
※なお、勝手に参加する真似はお止めください。著者はすでに決まっていますので、よろしくお願いいたします



では、一本目は僭越ながらYUKIが書かせていただきます

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  • No.4 by YUKI  2015-09-21 01:38:06 

それが、この花街の決まり事なのだから。
「こんにちは、美しい花魁」障子を開け、客らしき男が入ってきた。
「ようこそお客さん、私のことは椿でいいわ」
私は客の側に寄り、クスリと笑いながら客をよく見てみた。
漆黒の黒い髪は耳にかかり、瞳は鋭く私を見つめている。
背丈は180は有りそうで、少し筋肉質に思えた。
着物は紺に牡丹の柄が映える、少し派手な着物のよう。
「さぁ、どうします?お酒が先か、私が先か。どちらでもお好きなように」と薄紅色の着物を翻し、私はお客を見つめ微笑む。
いつもの事と、慣れた口調で私は客とともに布団に崩れる。
しかし、その客は今までとは少し違っていた。
今までの客はどれほど奥手でも崩れれば、すぐに椿に手を出してきた。
しかしこの男は崩れ、縋る椿を自分から引き剥がし、すっと立ち上がり座椅子へ向かう。
「俺はそんなつもりで此処にきた訳じゃない。貴方と一度話してみたいと思った。ただ、それだけだ」

  • No.5 by YUKI  2015-09-21 02:04:31 

男は私を見ながら座椅子に腰を掛け手招きをした。
布団の上で驚いていた私は急いで男の隣に座る。
「私と話?いったい何を聞きたいのかしら?」と私は男を見上げあざ笑う。
「君は、外に出たいとは思わないのか?いつもまるで諦めたかのように、けれど愛しそうに外を見ているだろう。他の花魁とは違う目だ」
突然の言葉に、私は頭が混乱しそうになる。
私、そんな風に外を見ていたかしら?そもそもこの男はいつから私を見ていたのだろう?
それ以前にこの男は何者なのだろうか?
そんなことが頭の中を巡り続ける。
「お客さん、貴方は何者なのかしら?初対面の女性が名乗ったのだから、そちらも名乗るのが礼儀でしょう」
少し怒った顔を見せ、男の名ぐらいは知りたいと思い、椿は男に訪ねる。
「あぁ、これは失礼。俺はこの花街の片隅で、帯紐屋をやっている夜冬(ヨフユ)という者だ、よろしくな花魁」
夜冬という男は飄々と応え、私をからかうように笑いながら花魁と呼んだ。

  • No.6 by YUKI  2015-09-21 02:28:11 

「わかったわ。私もお客さんのこと夜冬さんと呼ぶことにします。だから貴方、夜冬さんも私の事は花魁ではなく、椿と呼んでちょうだい」
納得したような顔をして私は頷き、自分の事を名で呼ばせるために客の事を名で呼ぶと決め、夜冬に訴えた。
「わかったよ、椿さん」
夜冬も客と呼ばれなくなり満足したのか、ようやく花魁ではなく椿と呼んでくれた。
「ところで、さっきの話の続きなのだが、椿さん。貴方、外に出てみたくはないか?」
夜冬は私の手を握り、にやりと笑いながら再び聞いてくる。
外に出たくないといえば嘘になる、しかし事実上此処を出ることは不可能だろう。
それは、この花街の者なら誰もが知っていることなはずだ。
それなのにこの男は何を言っているのだろうか?
「あの、夜冬さん。貴方何も知らない訳じゃないわよね?この花街では一度花魁になった者は死ぬか老いるまで外には出れないのよ?」
私は呆れたように諭し、夜冬を可愛そうな者を見る目で見つめた。

  • No.7 by YUKI  2015-09-21 03:10:59 

「そんな目で見るなよ、分かってるよそんなことは。でも、もしも出られるとしたら出たいかって聞いているんだ」
目線の意図が分かったらしく、夜冬は拗ねたように言い、なおかつ私に聞いてくる。
「そうね。もしもの話なんて意味がないかもしれないけど、出れるなら出てみたいわ」
私は窓の外を悲しそうに見つめ、ため息混じりで応えた。
しばらく静まり返った部屋の中で、一階から女将の声が聞こえる。
「そろそろ時間切れのようね」と悲しげに私は夜冬へ声をかけた。
「あぁ、もう時間か。また明日来る。それまでに考えといてくれ」
夜冬は身支度を整え、私を見つめ優しく髪を撫でて言う。
「わかったわ」と私は一言述べ、「お客さんのお帰りー」と一階に聞こえるように言った。
「じゃあ、また明日来る」
たった一言残し夜冬は店を後にした。
そしてその後私はその晩数人の客を相手にしながら、明日また来ると言った夜冬を思い明日を待ちながら眠りにつく。

  • No.8 by YUKI  2015-09-21 13:08:22 

次の日、約束通りに夜冬は店にやってきた。
「椿、昨日の返事を聞きに来たぜ」
夜冬は部屋に入るなり座椅子に腰を降ろし、椿を上目使いで見つめ椿の返事を待つ。
その瞳で見られると、私は頬を少し染め目をそらしながら応えた。
「出たいわ。外に出たいに決まっているでしょう?でも、どうやって此処から出るの?それに出れたとしても、その後は?」
今にも泣きそうな目で夜冬を見つめる椿を、夜冬は椿の右手を掴みそのまま自分の方へ引き寄せた。
不意に手を引かれバランスを崩した私は、そのまま夜冬の胸に崩れ落ちる。
「何を」
私は突然の事に顔を赤くし、驚いた顔のまま夜冬を見た。
「何もしない、だから泣くな」
不器用にそう一言述べ、夜冬は優しく椿を抱きしめた。
「俺は、貴方が好きだ。貴方が望むなら、この店から出してやる。その後は別の土地に行って、当分は二人で暮らせばいい。生活は、俺には帯紐を作る仕事があるし、当面の生活費の蓄えもある。だから、心配ない」
夜冬は窓の外を見て、さらりと言い切った。

  • No.9 by YUKI  2015-09-21 13:54:01 

「でも、私貴方を好きかなんてまだ分からないわ」
伏せ目がちで申し訳なさそうに私は呟く。
「別にいい、見返りがほしい訳じゃないからな」
私を見つめ夜冬は微笑みながら呟く。
「それよりも、此処を抜け出す方法だが明日、俺はこの店に火を放つ。とわいえ、すぐに燃える訳じゃない。火薬を使って時限発火装置を作る。それをこの店の裏に仕掛け、俺はこの店の客として貴方の部屋に向かい、火事の中隙を見て貴方と逃げる」
凛とした顔で夜冬は私を見つめ、しっかりとした口調で話す。
「きっと火事のさなかなら、皆が外に逃げる。その中なら逃げきれるはずだ」
夜冬は心配ないと言わんばかりの顔で笑う。
「でも、それって夜冬にも危険があるわ」
不安な顔し、夜冬を見つめ私は言った。
「多少の危険があっても椿を外に出してやれるなら価値はあるさ」
夜冬は笑いながら椿を抱きしめる。
「あ、ありがとう」
私は頬を染めながら、夜冬の胸の中で礼を述べた。
「とにかく、明日また来るから身支度を整えて、待っていてくれ」
夜冬はそう言うと立ち上がり身支度を整え始めた。
私も夜冬の身支度を整えるのを手伝い、最後に後ろから抱きついた。
「待ってる。でも、無理はしないで」

  • No.10 by YUKI  2015-09-21 14:37:03 

その声に気づいていないふりをして、夜冬は店を後にした。


     第二章 散りゆく火の花

次の日、私は期待と不安に満ち、身支度を整えながら夜冬の来店を待ち望んだ。
もう少ししたら私はこの格子の外に出ることが出来る。
ずっと前に諦めていた外に出ることが出来るなんて夢のようにすら思えてしまう。
「早く逢いたい」
不意に言葉が漏れた。
この言葉は早く外に出たいと思うが故なのか、それとも夜冬を思うが故なのか、自らの言葉に自問自答してしまう。
思い悩んでいるうちに夜冬が来店してきた。
「椿、仕掛けてきたぞ。もう後には引けない」
夜冬は部屋に入るなり椿を抱きしめ言う。
「大丈夫、私も覚悟を決めたから」
私はその腰に腕を回し、目を細め愛しげに抱き返す。
「あと、どれくらいで火が回るのかしら」
私はそのままの体制で夜冬に問う。

  • No.11 by YUKI  2015-09-21 15:23:18 

「ん、半時程だとは思うが、一階が騒がしくなれば丁度いい時間だろう」
すっと抱きしめた手を離し、座椅子の側に夜冬は向かい歩いていった。
私は夜冬の左手に導かれ、後に着いて歩く。
座椅子に腰を降ろした夜冬に酒を注いであげようと思い、特別に用意した酒の入った切り子を取ろうとすると夜冬は私の手に触れ小さく首を振った。
そしてそのまま私の右手を掴み夜冬は自分の方にその身を引き寄せる。
私は言葉もなく、そのまま夜冬の体に寄りかかった。
私達は格子窓の外を見つめ、騒ぎが始まるのをただ待ち続ける。
不意に夜冬の顔を見つめた私を夜冬も見つめ返し、時が止まったように思えた。
月明かりに照らされた夜冬の顔はとても綺麗に思え、月明かりに輝く鋭い瞳は私自身を射ぬいているように私の目に映る。
ゆっくりと近づく陰に私は捕らわれてしまったのように固まり、そのまま夜冬の口付けを受け入れた。
夜冬の事が好きかどうかは分からない、けれどその口付けは決して嫌なものではなかった。
なぜか心地よく、安心できる気持ちにさせられるそんな感覚に感じてしまう。

  • No.12 by YUKI  2015-09-21 15:41:46 

「悪い、貴方が俺を好きかも分からないのに勝手なことをして」
夜冬は唇を離し、目をそらしながら私に謝る。
「そんな、謝らなくてもいいわ。私も嫌ではなかったし」
私の方も目を合わせられずにいながらも、夜冬に嫌ではなかったことを告げた。
「そうか、ならよかったが」
目をそらしながらも照れているのかうっすら頬を染める夜冬を月が照らしている。
そして私はそんな照れている夜冬が可愛らしく思い、自分から夜冬に抱きついた。
しばらくの沈黙の後、一階が騒がしくなるのを感じ私は夜冬を見る。
夜冬も騒音に気づいたのかすっと目を開けた。
「そろそろか」
吐息のように声を漏らし夜冬は窓の外を見つめる。
外では皆が騒ぎ急いで押し合いながら店の外へと駆けだしていた。
「そのようね」
私も体を起こし、窓の外を見て頃合だろうかと確認する。

  • No.13 by YUKI  2015-09-21 21:29:51 

「これ、羽織って。ちょっとの間なら目眩ましになるだろう」
夜冬は自分の上着の羽織を、私の肩に掛けてくれた。
「あ、ありがとう」
私は夜冬の羽織を肩に羽織って、少し気恥ずかしそうに礼を述べる。
「よし、行くぞ。俺の後ろに隠れながら着いてこい」
夜冬は私が羽織を羽織ったのを確認して、私の右手を掴み部屋の障子を開けた。
焦げ臭い臭いに私は顔をしかめながら、夜冬に手を引かれ一階に降りた。
店の者達は皆外に逃げたらしく、人の気配はどこにもない。
着物の裾で口を覆い、私達は勝手口の方へと向かい歩く。
あらかじめ勝手口から離れた場所に火を放ち、逃げ場を確保しておいたのだ。
それを知らない店の者は、皆表の広い入り口から出たはずだろう。

  • No.14 by YUKI  2015-09-21 22:03:03 

私たちはこの大火の燃える店の中勝手口にたどり着いた。
ところがそこには予想の範疇にない物があったのだ。
勝手口には南京錠がかかっていて、扉は思いの他頑丈そうに思える。
恐怖の余りに後ろを振り返ると、すでに大火は私達の退路を塞いでいた。
「どうしょう、このままじゃ」
不安におびえた声をあげた私を夜冬は抱きしめ「大丈夫だ。貴方だけは必ず此処から生きて出すから」と力強く笑いながら呟く。
そして夜冬は私から離れたと思うと、力強く勝手口に体を打つけ力ずくで扉を壊そうとし始めた。
夜冬は何度も力一杯体を打ちつけるが、扉は頑丈な木材を使われているらしく、びくともしない。
大火は徐々に私達を追いつめるかのように燃え広がっていく。
私自身も煙を吸いすぎたせいか、息苦しく力が弱っていく。
何度目か夜冬が扉を壊そうとしたとき、私は弱々しく夜冬の名を呼んだ。
「夜冬、もういいのよ。どのみちきっともう助からないわ」
すでに立ち上がる力もないほど弱っている私に気づいて、夜冬は私の元に駆け寄ってきた。
「椿、後もう少し待ってくれ。必ずあの扉を壊して貴方を助けるから」
今にも泣きそうな顔をして夜冬は私を支えてくれる。

  • No.15 by YUKI  2015-09-21 22:28:37 

「もう、無理よ。貴方も気付いているでしょう?だから、どうせ助からないなら、貴方に伝えたい事があるの」
私は弱々しい声で夜冬を優しく見つめ言う。
「私貴方のことを好きになっていたみたい。自覚したのは今日貴方が此処に来る前の事だったけど」
クスリと微笑みながら夜冬の頬に触れ私は言った。
夜冬は此処を出れなかった事を無念そうな顔をしながら私の顔を見つめる。
「すまない。貴方をこの店から生きて出してあげたかっただけなのに、俺が考えなしの行動をとったせいで」
今にも意識が途絶えそうな私を見つめ、夜冬は私の頬に付いた煤を拭い、謝った。
店の小さな柱が焼けて倒れ、大きな音をたてた。
「夜冬、謝らないで。私、嬉しかったのよ?私を本当に好きになってくれて、この店から助け出そうとしてくれて。だから、謝らないで」
もう目を開けるのすらも辛い私は、必死に声を絞り出す。
夜冬は私を抱きしめ頷き「俺も、嬉しかった。半年前に偶然貴方を見つけ一目募れをした。その時から貴方を愛していた。貴方が外を恋しそうに見ているのに気付いてからは、何とか外に出してやりたいと思った。」と私への募る思い口にしてくれた。

  • No.16 by YUKI  2015-09-21 23:07:29 

「嬉しい、ねぇ、このまま、最後まで、抱きしめて、いて」
もう目を開く力もなく、瞳を閉じたまま私は途切れ途切れに呟く。
さすがに夜冬も苦しくなったのか、私を抱きしめ崩れるように床に寝転がる。
「あぁ、最後まで一緒だ。あの世で逢えたらまた逢おう」
夜冬の最後の言葉に私は消えうる意識の中思う。
確かに店の外に生きては出られなかったが、愛する人とともに死をもってこの店から解放されるのならばそれも悪くはないのかもしれない。
そう思い私と夜冬はこの世を去った。

  • No.17 by YUKI  2015-09-21 23:31:59 

     ~ エピローグ ~

店の火災は次の日迄かけてようやく消火したのだが、店の花魁達は蜘蛛の子を散らすように一人残らず戻ってはこなかった。
店の中には顔がほぼ分からないほどに焼け焦げた男女の遺体が二つあり、唯一焼け残っていた着物の柄から女の方は椿という花魁であることが判明する。
二つの遺体は抱き合うように崩れていたことから、おそらく愛し合う者同士が逃げ遅れ此処で朽ち果てたものだろうと思われた。
花街の店の火災は領主にまで届き、花街では新たな決まり事が作られることになり、住民は誰しも驚きを隠せないでいる。
『花街の花魁達は、皆自ら、または客が店に100両払うことが出来れば店を辞めることを許可する』という領主からの命令が下ったのだった。
花街での花魁と客の悲しい思いを悟り、領主からのわずかばかりのお慈悲だろう。
花魁と客は喜び、店は渋々了承した。
二つの遺体は街外れの寺にともに埋葬され、小さいながらも墓石も建てられた。
そしてそのご命日にはお寺側から毎年一輪の椿が供えられ続けているらしい。


     E N D

  • No.18 by YUKI  2015-09-21 23:44:30 

          ~ あ と が き ~

はい、完結いたしました。今回はすっごく短い小説にチャレンジいたしました(^^;)
これには訳がありまして、実はもう一方と小説対決をすることになったのです。
もちろん読者様には関係のない事と分かってはいます(-_-;)
でももしよかったら二本とも読んでご意見頂けたらなーなんて思っています(^^)
まぁ、そんなこんなで次は二本目です。
著者はアマツさんですよー(^o^)
荒らし・なりすまし・マナー違反はしないでね?
みなさんを信じていますからね(*^_^*)
ご意見・ご感想も二本目終了後にまとめてお願いしますm(_ _)m
では、始まりますよー☆

  • No.19 by アマツ  2015-09-22 00:08:28 

【タイトル】

~ 廻る世界に終焉を ~

【あらすじ】

「___気に入らないモノは全て壊せばいい。」

とある研究所にて、次元歪曲の産物である«永久不滅の結晶»、通称エターナル・クリスタルの次元共振実験が行われた。
そこで、ユイナ=ハイティエルはつまらなくなった今の世界を次元レベルで崩壊させてみようと、研究所そのものを暴走させ、大爆破を発生させた。
だがしかし、爆発し、自分の存在が消えるのを感じたその後、見知らぬ森で目を覚ましたユイナ達が見たのは………

今、王道なる物語の幕が上がる。

  • No.20 by アマツ  2015-09-22 02:21:24 

【プロローグ】

_________________

薄暗い室内を微かな光が照らす。
研究員達は、それぞれのパソコンやらの機材をじぃっと見ている。熱心なことだ。
既に実験の成功予測は96.58%にまで上昇している。もう堅っ苦しくデータ観測なんてする必要も、利益もどこにもない。それに、データは全てメインデータボックスシステム、通称«ブラック・ボックス»に記録されているのだ。データを見ているより、実際に現象を見た方が早いし面白いだろうに。

私、ユイナ=ハイティエルはお気に入りの鈴を右手の指でくるくる回して弄びながら目の前の分厚いガラスの壁の向こうを見つめる。
そこにあるのは、高さ2メートルはありそうな、七色のに輝く大きな結晶。
その名を«永久不滅の結晶»、通称をエターナル・クリスタルという。次元の歪みで生まれたというこの結晶は、その名の通り、ドリルで削ろうが、金槌で叩こうが、100トン以上の圧力を掛けようが、割れることはおろか、傷つくことすらない。終いには硫酸でも溶けないという、正に永久不滅と言える代物だ。
故に加工しようにもできず、結果的に結晶をそのままの形で岩から削り出して研究所に運ばれたという。
まぁ、興味はないのだけれど。
「やぁ、ユイナ君。相も変わらず、ドの付くほど真顔じゃあないか。」
突然声を掛けられ、声の主を見ると、そこには一人の白髪の老人が居た。
名前は、分からない。忘れた。
「……別に、真顔にドもレもないでしょ。私はただ見てるだけ。」
「カッカッカッ。そうだなぁ……言い方を変えようか。」
老人はそう言うと、私が座るイスの隣に立ち、言い放った。
「ずいぶんと、“気に入らなそう”だな。のぅ?ユイナ君?」
「……今はあなたが気に入らない。」
「そうかい。けど、俺よりももっと大きい物を気に入ってないんじゃないのかな?ん?」
老人は何がおかしいのか、からからと笑い出す。まるで私を嘲るようで、気に入らない。けれど、老人は突然笑うのを止め、困ったと言わんばかりの表情を作った。
「………全く、迷惑にも程がある。“この世界が気に入らない”からと言って、次元レベルでの消滅を起こそうなんてねぇ?やれやれ、俺もとんだ天才様に手を出したもんだわなぁ……」
そう思わんかね?

私は何も答えず、じっと正面の«永久不滅の結晶»を見つめる。エターナルは相変わらず、七色の輝きを孕んでいて、その輝きこそが次元を破壊し得る力の根元が結晶に内包されている証拠だ。
あれに巨大な力を集め、それを意図的に暴走させることで力を爆散させる。それが今の私のやることだ。
私は着ている白衣のポケットから小型の端末を取りだし、画面の数値を見て確信する。
「………実験の成功予測、99.08%……」
「…………だがまぁ、君が仕掛けた不純データは、俺が既に全て排除してやったんだがなぁ?」
私は視線だけを老人に向ける。老人はまるでゲームに勝ったような、勝利を確信したような笑みを浮かべる。
……気に入らない。だから、壊す。そう。
「___気に入らないものは全て壊せばいい。」
私には、それをやるだけの『力』があるから。

異変は、その瞬間に起こった。
「ッ!?博士ッ!レイヴィル博士ッ!!」
「んっ?どうしたっ?」
突然、研究員の若い女が声を上げた。レイヴィルと呼ばれたその老人は、大急ぎで走って行く。
が、異変はあちらこちらで次々に起こり始めたのだった。
「メ、メインデータボックスが、オーバーヒートしていますッ!!」
「た、大変だぁッ!!メインジェネレーター反応、基準値を大幅に越えてるぞッ!?」
「エ、エターナル・クリスタルの周囲に異常なエネルギー反応ありッ!!メインジェネレーターと同期していますッ!?う、うそでしょっ!?エネルギー総量、計測不能!?!?臨界値を越えてますよこれッ!!!」
様々な声や、アラートがなり響く中、レイヴィルは立ち尽くしてエターナルの方を向いていた。
まるで、この世の終わりを見ているような目で。
しかし、目の前にあるのはまさしく世界の終わりだ。エターナルの周りは、今や赤黒い稲妻が出現し、研究員達は大パニックに陥っている。
するとレイヴィルは、私の方へ大股で歩み寄って来た。そして

「……貴様ァ……この小娘が………この女狐がァッ!!一体何をしよったァッ!!」

私の胸ぐらを掴み上げ、剣幕を張って怒鳴る。手は怒りのあまり震えていた。
「……何を?決まっているでしょ。研究所ごと、エターナルを暴走させて、反次元暴走を起こしたの。」
そんなこと、見れば分かるでしょう。

私が冷たく挑発気味に言い放つと、レイヴィルは顔を真っ赤にして更に憤慨する。
全く愚かな話だ。私の目的を知っていながらわざと泳がせて、最終的には、“私が反逆とも言える行動をするのを予期して、裏で働きかけて阻止する”、などというマンガやアニメのようなシチュエーションにでもするつもりだったのだろう。
その場合、レイヴィルの働きかけで実験は何事もなく無事終了し、私は計画を阻止されて悔しがるという、正義に悪が断罪される脚本が出来上がる“予定だった”のだろう。けれど
「……悪役が負けるって、誰が言ったの。」
私は、冷たく、言い放った。
笑わず
怒らず
ただただ、冷たく無表情に。

するとレイヴィルは、私の胸ぐらを掴む手を力なく落とし、畏怖とも怒りとも困惑ともつかない表情で私を見た。
……知ったのだろう。私という存在を。
「お……お前は……本気で……」
「……私はただ、楽しさが無いのが、面白さが無いのが、嫌いなだけ。それ以外はない。」
「……ユイナ………ユイナ=ハイティエル……………何と……恐ろしい娘だ………」
「………さようなら。レイヴィル=ライトクーパー博士。」


その瞬間、エターナルは反次元暴走で次元レベルの爆発を起こし、


私達の存在が消えた。

  • No.21 by アマツ  2015-09-23 00:37:24 

【第一章『目覚めの森』】
_________________

何かが、背中の上で動いている。
起き上がって目を開くと、目の前にリスがいた。
「う、うわわっ!」
僕は慌てて立ち上がる。けれど、目の前のリスは動じない。何だこいつ?
「……ここは……」
視線をリスから外し、周囲を見回す。
辺り一面、木と草だらけの森だ。僕以外、人は見当たらない。
「一体、何なんだ……?」
僕はさっきまで研究所にいたはずだ。
そこで«永久不滅の結晶»(エターナル・クリスタル)の次元共振実験の最中、原因不明のシステム暴走が発生し、反次元暴走を引き起こした。
メインジェネレーターのエネルギー総量が測定不能の臨界値まで上がったことから、きっと高い次元レベルで歪みが発生しただろう。そこにエターナルというトリガー的存在があったため、何かしらの現象が起こった、という感じで何かがあったのだろう。きっとそうだ。そうに違いない。
………だってそうじゃないとここが天国になってしまう。
「それだけは嫌だなぁ………」
今年で17歳になったばかりの僕には、天国はまだ早すぎる。というか、『遅かれ早かれ』でも、天国なんてお断りだ。
「はぁ……天国なんかじゃありませんように……」
半ば本気で祈りつつ、歩き出す。
まずは、この森から出なければ。どれだけ広くても、じっとしてるわけにはいかない。何事も前進あるのみ、だ。
それに、せめて川か泉くらいは見つけなければ、喉が渇いて死んでしまうだろう。
食料は木の実や何かを見つけたられればいい。幸い、植物の知識はそれなりにある。
「全く……本当に何が起こったんだよ……」
着ていた白衣を整えて歩き出す。
すると、ズボンに何かがしがみついてきた。
見てみると、さっきのリスがいた。
「何だ?一緒に行きたいのかい?んー………ま、いっか。ほら、おいで。」
僕が手を差し出すと、リスは一気に肩まで登った。
「さて、行くか……」
こうして僕は歩き始めた。
どこかわからない森の中で、とにかく生きることを最優先にして。大袈裟かもしれないが、この森の雰囲気がそんな考えをさせる。
一体、どれだけ歩けば森を抜けられるだろう……?


◇ ◇ ◇


………マジでどれだけ歩いただろう?
一時間か、二時間か。もしかしたらそれ以上かもしれないし、それ以下かもしれない。
時間の感覚が薄れると共に、とうとう限界が訪れた。

「ぐはぁぁ~~~……もう無理ッ!も、もう死にそ……」
とにかく喉が渇いて仕方ない。
研究所で水分補給をしようとしたときにあの騒ぎがあったから、まともに水分補給できていない。
そんな状態で長続きするわけがなかった。
あのときしっかり水分を摂っておけば良かったと後悔するが、後の祭りなので意味がない。それに、誰がこんな状況になることを予測できようか?できるなら神様か、それともこうなることを事前に知らされている人だけだ。
「あー………うー………」
そろそろ本気でまずい。
身体が急激に重くなり、その場に大の字でうつ伏せになる。
もう指先一本動かせる気がしない。
真面目にヤバイかもしれないというか確実にヤバイ。もう眠いし。多分寝たら本当に天国生きだ。ここが天国じゃなければ。

ああ、うん。ダメだ。眠い。疲れた。
もう無理に決まっている。
諦めよう。

そう思って、目を閉じたそのときだった。

「………大丈夫?」
「………………ぇ…?」

僕は目を開き、そして見た。
日の光に照らされて、白銀に輝く美しく長い髪をした、美しい少女を。
「……て……天、使……?」


◇ ◇ ◇


沈黙。
私は、足下に大の字で転がる男の人を見下ろす。
男の人は、白衣に、赤いフレームのメガネをしていて、黒い髪は短い。
多分、研究所にいた人間だろう。
男の人の頭の上には、何故かリスが一匹乗っかっている。リスは、私が近づいても逃げなかった。この人のペットだろうか?

それはまぁいいとして、男の人をよく見てみる。唇がかなり乾いている。多分、脱水症状だ。
「ちょっと待ってて。」
着ている白衣の内側から、ステンレス製の平たい非常用の特注水筒を取り出す。
男の人を起こし、口許に水筒を運ぶ。
中身はすぐになくなった。
少量だが、症状は多少良くなるだろう。
何せ中身はスポース飲料だから。

男の人は、喉が潤って安心したのか、眠ってしまった。
かなり疲れていたのだろう。
私は男の人に白衣をかけて、近くにある木の下に座った。
一旦、今の持ち物や状況を整理しよう。
まず、ここはどこか?
知らない。
何をするべきか。
まずは森を出る。
必要なもの。
水、食料。
持っているもの。
マッチ一箱・飴6個・ナイフ25本・ハサミ1本・空の非常用水筒1個・小型の端末1台・お気に入りの鈴1個。

「……とにかく森を出るしかない、か」
結局、わかっているのは自分の周りのことだけ。
まずはここから出なければ、最悪、死んでしまう。
それと、私の考えが正しいなら、ここは……

「……んん……… あ、あれ……?」
「………!」
あれこれ考えていると、男の人が起きたようだった。
妙に早く目覚めたと思えば、さっきのリスが頭の上にいた。
きっと、あのリスが動き回っていたから目が覚めたのだろう。
男の人は、周りを見回して私を見付けると、目を見開いた。
「………君は…………………んしょっと」
身体を重そうに引きずりながら私の方へ歩み寄ってくる。
そして、私の前まで来ると、彼にかけていた私の白衣を差し出す。
私はそれを無言で受け取った。
「君が、僕を助けてくれたの?」
「ええ。軽度の脱水症状だったので。少量ですが、水分補給を。」
「そっか……ありがとう。君は命の恩人だ。僕の名前は、大穹 巽(オオゾラ タツミ)。よろしく。」
巽と名乗った彼は、右手を私に差し出した。握手をするつもりらしい。
私は、握手なんて一度もしたことがないから、どう反応すればいいかわからず、困ってしまう。
それを知るよしもない巽は、「あ、ごめん……嫌だった?」などと申し訳なさげに言う。
私は普段、傲慢な科学者を相手にしているからこういう、立場が弱くて、礼儀正しく、相手のことを考えて言動するような善人の相手をするのには慣れていない。
とにかく「よろしく」とだけ言って、ぎこちなくだが手を前に出してみる。
すると
「ああ、よろしく。」
「あっ………」
巽が私の手を取った。
生まれて初めての握手。
それは、とても暖かかった。


◇ ◇ ◇


森の中を歩きながら、今後どうするかを話し合った。
まずは、森を出ることを第一目標にし、その中で最も重要なのが、水と食料の確保という考えでまとまった。
「やっぱり森は早く抜けたいな。ずっとここに長居なんてしたくはないし。君もそうだろう?……えっと?」
「……ユイナ。ユイナ=ハイティエル。」
「ユイナ、か。いい名前だね。」
「そ、そう。ありがとう。……で、森を抜けるにしても、どっちに行くの……?」
「あー……そこはやっぱり川とかを見つけることが重要になるかな。川とか、水の流れがわかるものが見つかれば、進むべき方向がきっとわかるよ。」
つまり、まずはひたすら歩くしかない、ということだ。
何にせよ歩くのには変わりないらしい。
当たり前だけど。
「じゃあ、まずは川を見つけよう…………ん?」
巽の肩にいたリスが、急に自分で歩き始めた。
早く来いと言わんばかりに私達の方を振り返る。
私はリスを追うことにした。どうせ歩くのだから、動物の勘に付いて行っても問題ないだろう。
もしかしたら、案外森の外に出られるかもしれない。
「え、ちょっ……」
巽も慌てて付いてくる。
そのまま私の隣に並ぶと、前を行くリスについて話し始めた。
「あのリス、一体何なんだろう。人間を怖がらないし、僕が目を覚ましたときには既に近くに居たけど……」
「……巽のペットじゃないの?」
「いきなり呼び捨て………ま、変に遠慮されるよりいいけど。ペットではないよ。でも、ペットか………いいかも」
あのリス、僕のペットにしようかな?


………こうして、誰かと普通に会話するのも、いつ以来だろうか。
会話といえば、研究がどうだとか、利益がどうだとかという話だけだった私にとって、こうして他愛ない話をするのはひどく新鮮だった。正直、何と言えばいいのか考えるので精一杯だ。
だから私なりの精一杯を出してみる。
「あのリスなら、捕まえやすいからすぐ食べれる。マッチは持ってるよ。」
「えッ!?食べるためにペットにするんじゃないよッ!?」
けれど、努力も虚しく巽にツッコミで一刀両断されてしまった。


◇ ◇ ◇


しばらく歩いて、それは現れた。
透き通った綺麗な水の流れる小川。
リスは一目散に小川へ飛び込み、気持ち良さそうに水に浸かっている。
一方巽も喉の渇きを潤すため、一目散に水を飲みに小川へ近寄った。
「ん……んぐ…………っはぁぁ~!生き返る!いや死んでないけど!」
喜ぶリス&巽を無視して、小川が流れていく方向を見る。
しかし、少し先からは小川が曲がっていて先が見えなくなっていた。
「ふぅ………あ、エイナさん、何か見えますか?」
「いえ、特には。」
「そっか……じゃあ、今度はこの小川に沿って歩こう。」
「ええ。そう……ん……………………ッ!!」
嫌な気配を感じて一方後ろに下がった。
その途端、さっきまで私の頭があった場所を、“それ”は弾丸の如く通過していった。
地面に着地し、獰猛な獣の唸り声を出す。
狼に似たそれは、しかし、形こそ狼だが、明らかに狼とは違うものだった。
針金のような毛並み、黄色く濁った目に灯る獰猛な光、縦に細長い瞳孔。
暗い灰色をした動物だ。
これは、普通じゃない。

白衣の内側から、ナイフを2本取り出して両手に握る。
「ユ、ユイナさん!?あれは一体……!?」
今、巽と話をするわけにはいかない。
もし意識を一瞬でもそらせば、喉笛を噛み千切られるかもしれない。
けれど、私もそんなに柔じゃないつもりだ。
あんな狼もどきの一匹や二匹、対応して見せる。
「グルル………グガァッ!!」
次の瞬間、狼もどきは地面を蹴って私の方へと跳躍した。

___速い。

けれど追い付けないわけじゃない。
この相討ち覚悟で腹部を切り裂く為に構えた。
しかし、狼もどきが私へ突っ込んでくることはなかった。
「っ?」
狼もどきは、「キャゥンッ!!」と犬が潰れたような声を出して横へ吹き飛んでいった。
わけがわからず、ただただ立ち尽くす。
狼もどきに何かが直撃したようだった。
狼もどきが吹き飛んで行ったのと逆の方向を見てみると、5人の男女がいるのが見えた。
………彼らが何かをしたのは明確だろう。

  • No.22 by アマツ  2015-10-02 14:28:20 

【第ニ章 連合皇国都市ミカヅチ】
_________________

森を流れる小川に沿って、僕達は歩みを進めている。

あの後、狼のような生物は、黒い霧になって肉体が消滅し、代わりに赤黒い石が残っていた。
僕もユイナさんも、わけが分からずに立ち尽くしていると、そこへ例の5人組が現れて、僕達は保護された。
そのまま特にコレと言った話はせずに5人組に連れられて今に至る。

「すまないねお二人さん。ちょいと急がなきゃならねぇから、詳しい話とかは後でな。」
「は、はぁ……」
急に赤い髪の青年にそう言われて、とりあえず返事をする。
ユイナさんは黙ったままだ。

そうしてどれくらい歩いただろうか。
それほど長い道のりではなかったと思う。多分だが。
すると、視線の先に森の終わりが見え、安堵感に包まれる。ユイナさんも同様だったようで、少し表情が柔らかくなったように思える。
「………さて。」
「うわびっくりしたっ!」
突然、僕の前を歩いていた金髪の男が振り返り、驚いてしまった。
急に振り向くなよぶつかったらどうするんだ。
そんな僕の驚いた表情か反応が可笑しかったのだろう。金髪の男の隣にいる少女がくすくすと笑いを堪えていた。
……要らない恥をかいたかもしれない。
いや、必要な恥っていうのがあるのかは知らないけど。

「ははっ。何てアホな顔をしているのかな。と、それは置いておくとして」
「いや置いとくなよッ!?何げに人のことアホ呼ばわりして普通に会話しようとするなよッ!?何ッ!?新手の嫌がらせッ!?」
出会って早々にこんなことされるなんて心外だよッ!
いやむしろ侵害だよッ!主に心のッ!
周り見ろよッ!!
苦笑い1人と真顔4人だよッ!!
「巽、落ち着いて。」
「あっ……すみません……」
ユイナさんに真顔で諭されて平常を取り戻す。
そうだ。仮にも命を助けてくれた人だ。僕があれこれ文句を言える立場ではない(ということで納得しよう)。
反省しなければ。
素直にそう思うことにした。
………したのだが。

「ほぅ。尻に敷かれているんだね。それは実に嘆かわぁぐッ!?」
「アンタ一体何なんだよッ!!!」
意味わかんねぇッ!!
こんな一言も二言も多い人に助けられたのかよッ!?
殴っていいッ!?
もう回し蹴りしたけどッ!!
「…………巽」
「不可抗力です。」
「うん。」
ユイナさんの了解は得た。
これで特に問題ないだろう。うん。
そう考えているうちに、男はのっそりと起き上がった。
そしてよろよろと僕の方へ向かって来る。
……ヤヴァイ。
本能でそう感じた。
あの人を怒らせてはいけない。もう手遅れだろうけど。
そして、男は顔を上げずに僕の肩に手を乗せた。
「あ、あの……ごめんなさい大丈夫ですか!?」
「あはは……」
男は笑う。
そして、その顔を上げた。

「心配はいらない。大丈夫だよ。」
その顔は、涙と鼻血と土で汚れていた。
それはもう、見事に。

「この程度、どうということはない。安心し……ゲフォッ!!…………安心したまえ。」
「いや安心できねぇよッ!?今吐血したッ!?鼻血ヤバイんじゃねぇのッ!?」
マジでこの人大丈夫だろうか?(いろんな意味で)
ある種の不安を、感じざるを得なかった。

◇ ◇ ◇


この世界は、やはり私達の知る世界ではなかった。

話を聞くと、ここは連合皇国都市ミカヅチから南に離れた場所にある『目覚めの森』という場所だと言われた。
全く聞いたことがない。
やはり、ここは異世界と見て間違いない。
研究所の出来事を思い出せば、何ら不思議ではないだろう。
「ふぅん。で、あなた達はその爆発に巻き込まれて、目を覚ましたら森に居た、と。」
赤の強いピンク色の髪に、赤い瞳、黒い尖り帽子にゴシックロリータを着た少女が、私と巽に問う。
「そう。そしてあなた達に出会った。」
「ふんふん。なるほど……」
「あの……」
「ん?なになに?」
巽がおずおずと手を挙げる。
そして、私も思っていたことを言った。
「こう言うのも失礼なんですけど、目的は何ですか?」
「………」
沈黙。
恐らく、何かしらの目的を持っていると見て相違だろう。
「どうして、そう思うの?」
少女は巽に問う。
けれど巽は、「ちょっとした勘です。」とだけ答える。
少女はそれに苦笑した。
「鋭いね。そう。私達にはちょっとした目的がある。単刀直入に言うと」
「“次元の漂流者”の保護、でしょ。」
「む、ご名答。もしかして経験あったりするの?」
「いえ。ただの勘。」
ふぅん、と少女は興味深そうな目をする。
「まぁでも正解。確かに私達は次元を漂流してきた人を保護してるよ。」
「まぁ、全部人間とは限らねぇけどよ。」
予想は正しいようだ。
仮説だが、多分この世界は、空間が不安定な場所がいくつか存在するはず。
そこに私達のような、別の次元や世界から飛ばされる人間がいてもおかしくはないのだろう。
そして、人間が来れるなら、他のモノも来れる。

それにしても、さっきから5人のうちの二人の男女が無言のままだ。
片方は、長い灰色の髪をした少女。
もう片方は、焦げ茶色の髪を後ろで束ねている、タキシードを着た執事のような男。
二人はそれぞれ、ぼーっとしていたり、目を閉じたまま微動だにせずに立っていたりしている。
憶測だが、この二人には別の目的か何かがあるのかもしれない。そうでなければ、ここまで無関心なのはちょっとアレだ。

「………なぁ、今更なんだけどさ。」
赤い髪の青年が言う。
ごく一般的で、本当に今更なことを。

「自己紹介、した方が良くね?」

◇ ◇ ◇

「というわけで、自己紹“会”を始めまーす。ドンドンパフパフいえーい」
「では、まず私から始めよう。」
突然始まった自己紹“会”。
トップバッターは、巽に顔を蹴られた金髪の男。
「コホン……私の名前はジラード=レグレイス。24歳独身だ。特技は剣術。よろしく頼む。」
ジラード=レグレイスと名乗った男は一礼した。
彼は穏和で大人しそうな雰囲気をしているが、彼の目は戦う者の鋭い眼光を灯しており、特技が剣術というのも頷ける。
次に、赤い髪の青年が前に一歩出てきた。
「よし、じゃあ次は俺だな!」
そう言って、何故か私の方に向き直る。
「俺はゼノ。ゼノ=ユノウェイン。特技は………ないな。あるとしたら、戦闘そのものだ。ってなわけで、よろしくな!!あ、19歳な!」
ゼノと名乗った青年は、私に手を差し出す。
握手のつもりらしい。
そうだとわかっていても尚、私は冷ややかな視線を送り続ける。
やがて彼は、肩を落として戻って行った。
その際に巽の方を睨んでいたような気がするが、気のせいだろう。

「はいじゃあ次は私いきまーす。」
次はあのゴスロリの少女の番のようだ。
「えっと、アリア=デュミエンドです。えー………多分214歳、かな?よろしく。あっ、特技は魔術です!」

…………………もはやここは何でもありのパラレルワールドなのだろう。
年齢が214歳で、しかも魔術が得意ときた。
アリアと名乗った少女?は、見た目こそ16、17といったところで、とても200年も生きてきたようには見えない。
これには私も、興味を持たざるを得ない。
なかなかどうして、面白い世界に来たのかもしれない。ここなら退屈せずに済みそうだ。
そうこうしているうちに、長い灰色の髪をした少女が前へ出る。
少女は、眠そうな目をしながら、静かに語り出す。
「……モルテ……16歳……死刑、執行するの……。…………レド……」
それだけ言って、黙り込む。
『死刑執行』と『レド』に関しては何かは分からない。
結局、それで終わりのようだった。
そんな彼女の隣に、焦げ茶髪タキシード執事が立つ。
そのまま、隣にぼーっと立っているモルテを気にするでもなく、すらすらと語り始めた。
「私の名は、ヴェルナーゼ=フラウアーディスと申します。以後お見知りおきを。何かお困りの際には、お気軽に声をお掛けください。」
そうしてキッチリと礼をすると、彼もまた、元の場所で無言で立つ。
残るは私と巽だけ。
最初に語るのは
「えっと、じゃ次は僕が。」
巽。
「はじめまして。大穹 巽と申します。えっと、17歳です。特技などは特にありません。よろしくお願いします。」

そして、ラストは、私。
「………ユイナ。ユイナ=ハイティエル。17歳。」
それだけ言って終わりにした。特にコレと言って、伝えることもない。
こうして、自己紹“会”はあっけなく終わった。
「………ふむ。じゃあ、行こうか。」
「行くって、どこにですか?」
巽はジラードに問う。
そんな巽に、ジラードはいい放った。


「連合皇国都市ミカヅチへ、だよ。」


◇ ◇ ◇

三日後。
連合皇国都市ミカヅチは今、私達の目の前に迫っていた。
ミカヅチは、東、西、北を大きな山岳地帯に囲まれており、南は海に面しているという、これまたちょうどいい場所にある。
無論、様々な特産物が多くあるのだそうだ。
船の上から港を見る。大小様々な船が出入りするあの港は、長さ10キロメートルほどにもなる規模があると聞く。

あれから三日、私と巽はいろんなことを教わった。
巽は話を熱心に聞いていたようだが、私は特に興味のないことばかりだったのでほぼ聞き流した。
けれどその中で、私の興味を大いに刺激するものがあったのも事実で
「やっほー。ごめんユイナ!待った?」
「ううん………と言いたいけど、アリア、遅すぎ。」
「あ、あはは……だって入港場所の確認やら荷物整理やらで時間が………あ、それとユイナの為に良いもの持ってきたんだよ?」
そう言って、私は小さな箱を渡された。
中身を見ると、何やら模様の入った紙が大量に入っている。
「……これは?」
「«式紙»って言って、東方の国でよく使われてる魔道具だよ。でも、今使われてるのは全部模倣品で、本物は神様を呼び出せるんだって。」
すごいよねー。

アリアは«式紙»と呼ぶソレを一枚手にして、ひらひらさせる。
「この«式紙»はね、原理こそそこらの模倣品と一緒なんだけど、実は私のオリジナルなの。」
「オリジナル?」
「そ。まぁ私にしてみれば、こんなののオリジナルなんて、理解を深めればいくらでも作れるものだよ?それに、これなら魔術の勉強にもうってつけだし。」

魔術。
それが、私が最も興味をもったもの。
三日間の間、アリアに魔術についていろんな話を聞いた。
魔術と魔法の話から始まり、実際に見せてもらったりもした。
実に面白い。
「前にも言ったけど、魔力適性のない世界の人間には、魔術や魔力は使えないから、こういう魔力が予め内包されている魔道具が必要になるのよね。」
「アリア」
「ん?なに?」
「アリアには魔力適性はあるの?」
ちょっとした疑問をぶつけてみる。
実のところ、三日間の中でアリアは、必ず何かしらの道具を使用していて、アリア自身が魔術や魔法を使うところを見たことがない。
「あるっちゃあるけど……」
「けど……?」
そこまで言って黙り込む。
そして、何やら決意をしたような顔をして私を見た。

「……この際だから言っちゃうけど、実は私、魔力適性が半端じゃないのよね。」
それはもう普通じゃ考えられないくらいで。

「………それで?」
この後はだいたい予想できる。
きっと、多くの人に………
けれど、返ってきたのは、私の予想をある意味越えたものだった。

「………たっくさんの人に求婚さんたの。」

「………………………………………………は?」

…………は?え?求婚?
さすがの私も、キョトンとする。

求婚?
普通、その力を恐れた人々に迫害されるとかじゃないの?
よりにもよって求婚?
…………………何だか、世界の広さを改めて実感させられる。
「やー……大変だったなー………買い物とかしようにも、外に出ればとんでもない数の貴族の男がずらーっと……」
「で、その男達は……?」
「吹っ飛ばした。」

だよね。私でもそうする。
話を聞いて、早く魔法でも魔術でも、使ってみたくなった。
研究し甲斐がありそうだし、何より面白そうだし。

  • No.23 by アマツ  2015-10-04 19:40:56 

「ま、とにかく今はその«式紙»を使って、いろいろ見たりしてね。«式紙»は設定されてる合言葉を言うだけで起動するから。」
「わっかた。」
こうして私は、魔の道に進んでみることにした。

◇ ◇ ◇

船は無事に港へと着いた。
皆、纏めた荷物を持って港に足を踏み入れる中、私だけは“足をつく”ことはなかった。
「ん…?うわっ!ユイナさんが浮いてる!?」
「ふっふっふっ!見よ!これがアリア特製、ゼロ・グラビティなのです!もともと重い荷物とか運ぶのに使ってたんだけど、人体にも使えるんだよね。」
つまり私は今、アリアの作った«式紙»、ゼロ・グラビティとやらの効果で空中に浮いている。『浮遊』の«式紙»だ。
実は、さっきからずっと«式紙»の効果を確認していた。主にこのゼロ・グラビティを。

まぁ、一応は他の«式紙»も調べた。
『発火』や『凍結』、『爆発』といった危険なものもあったし、『変身』、『治癒』、『風起こし』といったものもあって、実に面白い。
まぁ、実際に使ってみたのはこの『浮遊』の«式紙»だけなのだが。
ゼロ・グラビティの名の通り、フワフワした感覚がある。
それでいて、進みたい方向に苦もなく進めるので便利だ。
「へぇ、いいじゃん。アリア、俺にも«式紙»くれよ!」
「ダメです。これは全部ユイナのだから、ゼノにはあげない。あ、『爆発』の«式紙»ならあげるけど。」
「俺に爆発しろと!?」
「いやその発想はおかしいでしょ………そこいらのリア充でも爆発させときなさいよ。」
「お前一体俺を何だと思ってんだよッ!?」
………“こっち”にもリア充なんて言葉あるんだ。
そうこうしていると、船からモルテが降りてきた。
何やらフラフラしていて顔色も悪い。きっと船酔いでもしたのだろう。
「アリア、治癒の«式紙»。」
「え?あ、うん。はい治癒の。」
「ん。」
アリアから素早く«式紙»を受け取り、モルテのところまで移動する。
浮遊していると、積み荷や段差などの障害物が全く気にならないのて本当に便利で楽ちんだ。
「あぅ……うぅぅ……」
「モルテ」
「……なに?……うっ……」
«式紙»を使用する対象を認識する。
あとは、合言葉で起動するだけ。
「『万の薬宝を模倣せよ』」
「……!」
唱えると同時に、«式紙»が青白い光を放つ。
やがて«式紙»は、ピンポン玉くらいの光の球体になって空中に浮いた。
光の球体はそのままモルテの左胸の辺りへと沈んでいく。
私もモルテも、目を丸くしてその光景を眺めていると、やがて完全に光が消えた。
「……気分は?」
「………」
モルテは私の問い掛けに答えず、ぼーっと自分の手を眺めている。
どうかしたの?と問い掛けようとした、その時、モルテが顔を上げた。
「……いい。」
「そう。ならよかっ……」
た、と言おうと思って、声をつまらせる。
モルテが、私の方に身を乗り出して来たのだ。
何事かと目を見張る。出会ってから三日間、こんな反応をされるのは初めてで、少々狼狽えてしまう。
「…………かい」
「?」
頬を少し赤くしながら、何やらモソモソと呟く。
「も、もう一回」
「???」
はっきり聞こえても尚、意図が読めない。
そもそも意図があるのかどうか……

「あー……きっと心地よかったんだろうねー」
後ろでアリアが呟く。
心地よかった、とはどういうことだろうか?
そんな私の疑問を読み取ったように、アリアは説明を始める。
「その治癒の«式紙»も、私のオリジナルなんだよね。で、普通のと違って私のは『魂』にほ影響するから、その不思議な感覚が心地いいんだよ。きっと。」
そうなのか。
それは………別に私がまた«式紙»を使う必要はない。
だから、浮遊してその場を離れる。
「ま、待って……!」
モルテは必死に私を追いかけるが、障害物のせいでうまく追ってこれないらしい。
アリアの隣に着地して、私は彼女の肩に手を置いて言った。
「あとは、よろしく。」
「………え?ちょ」
それだけ言って、別の場を求めて移動しようとした、その時

クイッ___

白衣を引っ張られた。
後ろを見る。
「………」
「………」

案の定、モルテが居た。
何かを期待する目を、私に向けている。
……非常に、面倒だ。

どうしようかと考える。
そして

「はっ!?空飛ぶラティメリア・メナドエンシスっ!?」

虚空を指差し、適当に考えついたことを言う。
ちなみに、ラティメリア(略)とは、簡単に言えばシーラカンスだ。多分。
モルテが何事かと余所見をした隙に、浮遊して逃げる。
モルテは、しまったという顔をして、肩を落とした。
「んなにッ!?ラティメリアッ!?マジか一体どごふぉッ!!」

…………白衣を着た男が約一人、海に落ちたが多分気のせいだろう。

少し先にジラードを発見し、そっちに向かって移動する。
後ろをチラリと見てみると、肩を落としたモルテを、アリアが必死に慰めているようだった。
「………期待されるのは、好きじゃないから」

ポツリとそんなことを呟いて、私は再び前へ向き直った。

◇ ◇ ◇

「ですから、あなた方のお荷物は全て運び出しましたし、ましてやそのようなものを盗むなどと……」
「しかし、現に今朝はあったものが無いのです。リストにもチェックされていない。」
「で、ですか……」

ジラードの方へ近付くと、何やら中年の男と話をしている。
内容を察するに、何かが紛失したのだろう。
「こっちも面倒そう。」
別のところに行こう。

そうしてその場を後にする。
後ろから「何で話し掛けてくれないのー……」と絶望混じりの空耳が聞こえたが気にしないでおこう。
他に何か面白そうなものはないだろうか。

◇ ◇ ◇

ラティメリア…………
どこにもいない。
はっ!?『空飛ぶ』だから海の中を探しても意味ないんじゃ………そもそも海には落ちただけだし。

けれど、今更気付いてももう遅い。

「ぶくぶくぶく………」


僕、カナヅチなんだよなぁ……

◇ ◇ ◇

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