YUKI 2015-09-20 23:21:52 |
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【プロローグ】
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薄暗い室内を微かな光が照らす。
研究員達は、それぞれのパソコンやらの機材をじぃっと見ている。熱心なことだ。
既に実験の成功予測は96.58%にまで上昇している。もう堅っ苦しくデータ観測なんてする必要も、利益もどこにもない。それに、データは全てメインデータボックスシステム、通称«ブラック・ボックス»に記録されているのだ。データを見ているより、実際に現象を見た方が早いし面白いだろうに。
私、ユイナ=ハイティエルはお気に入りの鈴を右手の指でくるくる回して弄びながら目の前の分厚いガラスの壁の向こうを見つめる。
そこにあるのは、高さ2メートルはありそうな、七色のに輝く大きな結晶。
その名を«永久不滅の結晶»、通称をエターナル・クリスタルという。次元の歪みで生まれたというこの結晶は、その名の通り、ドリルで削ろうが、金槌で叩こうが、100トン以上の圧力を掛けようが、割れることはおろか、傷つくことすらない。終いには硫酸でも溶けないという、正に永久不滅と言える代物だ。
故に加工しようにもできず、結果的に結晶をそのままの形で岩から削り出して研究所に運ばれたという。
まぁ、興味はないのだけれど。
「やぁ、ユイナ君。相も変わらず、ドの付くほど真顔じゃあないか。」
突然声を掛けられ、声の主を見ると、そこには一人の白髪の老人が居た。
名前は、分からない。忘れた。
「……別に、真顔にドもレもないでしょ。私はただ見てるだけ。」
「カッカッカッ。そうだなぁ……言い方を変えようか。」
老人はそう言うと、私が座るイスの隣に立ち、言い放った。
「ずいぶんと、“気に入らなそう”だな。のぅ?ユイナ君?」
「……今はあなたが気に入らない。」
「そうかい。けど、俺よりももっと大きい物を気に入ってないんじゃないのかな?ん?」
老人は何がおかしいのか、からからと笑い出す。まるで私を嘲るようで、気に入らない。けれど、老人は突然笑うのを止め、困ったと言わんばかりの表情を作った。
「………全く、迷惑にも程がある。“この世界が気に入らない”からと言って、次元レベルでの消滅を起こそうなんてねぇ?やれやれ、俺もとんだ天才様に手を出したもんだわなぁ……」
そう思わんかね?
私は何も答えず、じっと正面の«永久不滅の結晶»を見つめる。エターナルは相変わらず、七色の輝きを孕んでいて、その輝きこそが次元を破壊し得る力の根元が結晶に内包されている証拠だ。
あれに巨大な力を集め、それを意図的に暴走させることで力を爆散させる。それが今の私のやることだ。
私は着ている白衣のポケットから小型の端末を取りだし、画面の数値を見て確信する。
「………実験の成功予測、99.08%……」
「…………だがまぁ、君が仕掛けた不純データは、俺が既に全て排除してやったんだがなぁ?」
私は視線だけを老人に向ける。老人はまるでゲームに勝ったような、勝利を確信したような笑みを浮かべる。
……気に入らない。だから、壊す。そう。
「___気に入らないものは全て壊せばいい。」
私には、それをやるだけの『力』があるから。
異変は、その瞬間に起こった。
「ッ!?博士ッ!レイヴィル博士ッ!!」
「んっ?どうしたっ?」
突然、研究員の若い女が声を上げた。レイヴィルと呼ばれたその老人は、大急ぎで走って行く。
が、異変はあちらこちらで次々に起こり始めたのだった。
「メ、メインデータボックスが、オーバーヒートしていますッ!!」
「た、大変だぁッ!!メインジェネレーター反応、基準値を大幅に越えてるぞッ!?」
「エ、エターナル・クリスタルの周囲に異常なエネルギー反応ありッ!!メインジェネレーターと同期していますッ!?う、うそでしょっ!?エネルギー総量、計測不能!?!?臨界値を越えてますよこれッ!!!」
様々な声や、アラートがなり響く中、レイヴィルは立ち尽くしてエターナルの方を向いていた。
まるで、この世の終わりを見ているような目で。
しかし、目の前にあるのはまさしく世界の終わりだ。エターナルの周りは、今や赤黒い稲妻が出現し、研究員達は大パニックに陥っている。
するとレイヴィルは、私の方へ大股で歩み寄って来た。そして
「……貴様ァ……この小娘が………この女狐がァッ!!一体何をしよったァッ!!」
私の胸ぐらを掴み上げ、剣幕を張って怒鳴る。手は怒りのあまり震えていた。
「……何を?決まっているでしょ。研究所ごと、エターナルを暴走させて、反次元暴走を起こしたの。」
そんなこと、見れば分かるでしょう。
私が冷たく挑発気味に言い放つと、レイヴィルは顔を真っ赤にして更に憤慨する。
全く愚かな話だ。私の目的を知っていながらわざと泳がせて、最終的には、“私が反逆とも言える行動をするのを予期して、裏で働きかけて阻止する”、などというマンガやアニメのようなシチュエーションにでもするつもりだったのだろう。
その場合、レイヴィルの働きかけで実験は何事もなく無事終了し、私は計画を阻止されて悔しがるという、正義に悪が断罪される脚本が出来上がる“予定だった”のだろう。けれど
「……悪役が負けるって、誰が言ったの。」
私は、冷たく、言い放った。
笑わず
怒らず
ただただ、冷たく無表情に。
するとレイヴィルは、私の胸ぐらを掴む手を力なく落とし、畏怖とも怒りとも困惑ともつかない表情で私を見た。
……知ったのだろう。私という存在を。
「お……お前は……本気で……」
「……私はただ、楽しさが無いのが、面白さが無いのが、嫌いなだけ。それ以外はない。」
「……ユイナ………ユイナ=ハイティエル……………何と……恐ろしい娘だ………」
「………さようなら。レイヴィル=ライトクーパー博士。」
その瞬間、エターナルは反次元暴走で次元レベルの爆発を起こし、
私達の存在が消えた。
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