検索 2022-07-09 20:46:55 |
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(/一旦こちらだけで失礼します。それではストーカーな話にいたしましょう!刺される所までくっつけで是非シリアスなお話にさせていただければと思います。ストーカーとなりますと普段出歩いている探偵が最近あとをつけられていて、という方が自然でしょうか?そのまま探偵に惚れていて行動がエスカレートしていくのもいいですし、犯人は検索くんを手に入れたくて探偵を排除するために動く、あるいは検索くん宛に何かしら仕掛けてくる、みたいなのもいいかなと思います。最終的に刺される時は相手を庇って、みたいな感じがいいかなーとぼんやり考えたりしていますが、検索様の想定されている展開などなどはありますか?)
(/かなり悩む所なのですが庇って刺される部分のは検索がやりたいと思いましたので探偵君に厄介なストーカーがついていて、熱心なアピールしてきたり検索にちょっとした嫌がらせをしてくる…みたいな流れはいかがでしょうか。初めは探偵君も街の人だからとか元依頼人だからと温和に優しく接すると思うのでそれでますますエスカレートしていき、流石に危ない状況になってからは付きっきりで行動する…みたいなのも面白そうです。最終的に自分の気持ちに応じてくれないのに痺れを切らして探偵君を刺しに行く→検索が庇うみたいな事が発生という展開はどうかなと考えております。嫌がらせで不和を誘ってくるとか何処かズレたプレゼントが送られるとか色々面白そうなことが起こせそうですが探偵様の取り入れたい展開や流れはございますか?)
ただいま。……
(相手と目一杯の幸せを共有しながら眠りに落ちた翌日、目を覚ました後も幸せの余韻を引き摺って互いに擦り寄ってから何とか体を起こし、そこからは後回しにしたものを片付けていく時間となった。事務所に移動すればジンさんから連絡があってあの傍迷惑な装置を全て回収したと報告があった、どうやら捕まえた男が全て吐いたらしい。残念ながら男はただの運び屋で組織に繋がる情報はなかったが街から混乱が取り除かれたのならば良いだろう。そんな日から一週間ほど、パトロールから戻ってくると帰宅の挨拶をするがその声は何処か上の空だった。いつも通りハットを定位置の金具へと掛ける、そのままキッチンへ向かうとストックされていたアイスコーヒーをコップへと注いで一口飲むと帰宅したての体を冷やした。帰宅してからずっと浮かない顔をしたままで体に染み渡るよあなコーヒーを飲んでも違和感は拭えなくて何かを考え込むようにコップの中をじっと眺めていて)
(/こちらも前回大怪我したのが探偵だったので検索くんが刺されてしまうのがいいかなと思っておりましたので今回は検索くんが刺される流れで行きましょう。また流れ考えていただきありがとうございます!こちらも大まかに考えていたのは同じでして、この街の人なら邪険に出来なくて穏便に事を済まそうとする探偵に対して過剰に干渉してくるのに危機感を覚えた検索くんと一時険悪になる、とか出来ればと思います!検索くんが付き添うようになってからあいつがいるから探偵を手に入れられない!と段々と検索くんに嫌がらせが増えてしまったり、周囲を固めるために変な噂を流されたり嘘を吹聴されて批判の的になったりとか追い詰められていく感じができればいいかなと。それではひとまずそれっぽく始めておきます。長編予定ですしいつにも増して好きな展開盛り込んでいきましょう…!/こちらなにもなければ蹴りで大丈夫です!)
おかえり。…?…何かあったのかい?
(幸せを共有して一緒に眠った日から一週間ほど。無事にあのメモリは全て回収されたようで街の混乱はひとまず落ち着いた。開発者や組織に関わる情報は得ることは出来なかったが引き続き警察の方では警戒と調査を続けてくれるらしい。平和を取り戻した事務所でいつものように本を読んでいると聞きなれた足音が近付いてきて思った通り相手が扉を開いて中に入ってくる。いつも通り返事をするもその声は普段よりも軽く、芯がなければ思わず本から顔を上げる。相手はハットを掛けるとアイスコーヒーをコップに注いで一口飲むもそれから浮かない顔でコップの中を見つめていて妙な違和感に立ち上がって相手に近付く。直ぐにこちらに要件を話しかけてこない辺り事件があった訳では無さそうだが上の空な相手にパトロールで何かあったのかと問いかけて)
…、……あーいや、…怒らないで聞けよ?ちょっと前に指輪を無くしたって依頼してきた梓さんっていただろ?その人と、その……最近よく会うんだよな
(自分の思い過ごしか、それとも偶然ではないのか答えの出ない思考をグルグルと回していると相手が近づいてきたのにも気が付かず声を掛けられてようやく顔をあげる、どうやら顔に出てしまっていたらしい。取るに足らないことではあるがどうにも胸に引っ掛かりがあって相手の方を迷うように見る、だがこういうのは言葉にして整理した方がいいだろうと決めると内容が内容だけに一言前置きをしてから説明を始めた。奮発して買った大切な指輪を無くしてしまったと涙を目に浮かべて彼女が駆け込んできたのが少し前、いつも通りクールでハードボイルドな探偵らしく対応をし話を聞いてから探し回った結果カラスの巣から指輪を取り戻した案件があった。あの時彼女はとても喜んでくれて照れくさいのを誤魔化しながら対応していれば相手に睨まれたのを覚えている。きっとデレデレしているように見えたのだろう。そんな彼女だがそれで縁は終わらなかった。パトロールの休憩に自販機を利用しようとした時に再会し『運命ですかね』なんて軽く談笑したまでは良かったがそれから彼女と出くわす回数が増えたのだ。そして出くわす頻度は増えていき今日で三日連続、流石に運命だと冗談めかして言う場合ではなくなってきて「偶然って言う頻度じゃねぇとは思うんだけどよ…ここら辺に越して来たのか?」と頭を悩ませていて)
…ああ、いたね。…君のパトロールの順路とか時間は一定ではないのだろう? なら君を目的にしてる可能性が高い。
(相手に近付いて声をかけるとようやくこちらの存在に気付いたようでやはり何か考えているようだ。その内容について聞くと悩んだ様子から妙な前置きがされた後その内容が説明される。話に出てきたのは以前相手が指輪を取り戻した女性の依頼人の名前だ、妙に感動して相手に何度も感謝を伝えていたのを記憶している。その様子を思い出して少しむっとなるが前置きをされていればそれを飲み込んで頷いておいた。そして相手が彼女とよく会うと聞けば眉を顰める。固定されている時間と場所、例えばいつも同じ出勤時間に特定の場所で鉢合わせるなら行動パターンが一緒なのだろうと理解ができる。だが相手のパトロールは毎日同じ場所を通る訳でなく困っている人を助けたり街の人との雑談が伸びたりしてかなりルートにバラツキがある。それなのに良く出会うなんて偶然とは考えにくい。そうなれば考えられる可能性は1つでじっと相手を見つめながらその可能性を指摘した。以前喫茶店にデートの誘いをかけた彼女といい何かと好意を寄せられがちな相手に恋人としては複雑な気持ちを抱いてしまえは「また好かれてきたのかい?」とつい口にしてしまって)
俺が目的…でも一定じゃねぇからこそ不思議なんだよな。俺が何処に行くかなんて彼女は分かんねぇはずなのになんでしょっちゅう……な、ンなわ、け…
(近頃薄らと感じていた違和感、梓さんと運命以上に巡り会うことを相手に伝えれば一瞬その顔は不満気なものになる、やはり聞いていて面白い話ではないのだろう。だが今の問題はそこではなくて出会う頻度だ。相手の言うようにこちらのパトロールのルートはその日その時によってどんどん変わっていくものでこの日に何処へ行くと決まっているものではない、噂や情報に寄って都度変えているのが現状だ。例え近所に住んでいたって普通ならばこんな頻繁に会うはずはない、相手の言い分通りこちらに会うのが目的ならば頻度の面は納得できるがどうやってこちらと同じ場所に現れているのか分からない。そもそも自分自身が目的とはどういう事かと問う前に相手から暫く見つめられ不満やら不安やらが混じった声で問われると言葉に詰まってしまう、つまりは彼女が自分に好意を抱いているか、という質問だ。反射的に否定しようとするが彼女の印象的な言葉が耳に残っていて語気が萎んでいく、相手を伺うようにみながら「…彼女に会う度に『やっぱり運命ですね!』って言われるんだが、これは…好意を抱かれてるのに入っちまうよな?」と恐る恐る聞いて)
……、…間違いなく入っていると思うよ。 僕の女装に惹かれていた彼も似たような事を言っていたし。
(頻度から見るに相手を探して接近してるのは間違いないだろうが相手の言う通り的確に出会うのは何か策が無ければ難しいだろう。待ち伏せしているのかそれとも何処かで監視をしているのか、どちらにしても不気味で恋人として見逃せるものでは無い。この前の彼女はストレートに相手を誘っていたが今の所会って話をするくらいだ、じわじわと近づいてきているような気配に深く考え込んでしまいながらも今の状況を口にすると相手はそれを否定しようとする。だが思い当たる節があるようでますます相手をじっと見つめていれば【運命】というワードが出てきてますます眉を寄せる。久々に再会した時ならともかく何度も言うのは間違いなく相手を意識してアピールしている証拠だ。以前自分の女装姿に惚れてメモリを使って結婚式まであげようとした男も同じ単語を使っていたのを思い出すと苦い表情を浮かベながら呟いた。多く見る相手に好意を持つ人間とは違う気配を感じると「…夕方のパトロール、僕も一緒に行って良いかい?」と問いかけて)
っ、いたなそんな奴……駄目だ
(彼女に会う度にまるで刷り込まれるように、あるいは洗脳されるように告げられる【運命】という言葉、あれだけ言われれば記憶から切り離す事も出来なくてそれが好意の範疇か聞いてみると間違いないという言葉が返ってきて軽く息を吐く。どうやら彼女に言い寄られているらしい。例として出されたメモリを使ってまで相手と結婚しようとしていた男の存在を思い出せば苦々しい顔をする、確かにあの男も一方的に運命だからと言って相手を無理やり操っていた。頻繁に会っているだけと言えばそうなのだが異様な確率で会い続けていれば気にもなってしまう。どうしたものかと思っていた矢先、相手からパトロールの同行を申し出られると間髪入れずに断る返事をしていた。自分でもその勢いに驚いてしまって直ぐに「悪い」と謝罪を入れる。パトロール中に気になる事は彼女の存在が異彩を放っているがもう1つある、それは歩いている時に感じる視線だ。頬をかきながら「実は彼女の事とは別に最近歩いてると誰かに見られてる気がすんだよ。別に敵意はねぇし近づいてくることもねぇから無視してんだ。あんまり良い状況じゃねぇし、お前はここにいた方が安全だ」と説明し改めて同行を断ろうとして)
え、……なら尚更ついて行くよ。監視されているのは事実なのだろう? 君が不在であることを確認してからここに押し掛けてくる可能性だってあるし共に行動した方が安全だ
(パトロールの同行を申し出ると即座に却下されて思わず声を上げる。相手自身も驚いたのか謝罪が入るも更に反対する理由が述べられると目を見開いた。職業柄他人から感謝も恨みも向けられやすいがずっと見られているなんて明らかに異常だ。相手は敵意が無いから構わないと話しているが寧ろそちらの方がよっぽど気味が悪い。偶然を装って近づく彼女の件といいやはり放置は出来ずに首を振ってやはり着いていくと意思表示をする。こういう時、幾ら相手が心配だからと言っても相棒は大丈夫と言い張って許可してくれない。だがそういう時の対応も心得ていてあくまで冷静に意見を述べるように相手が不在の時にこの事務所に襲撃してくる可能性を提示して単独行動は危険という話に持っていく。二人いればその監視の目の正体を探れるかもしれないし、個人的には彼女のアピールも気になる。無意識に少し強めの口調で共に行動する安全性を主張しながら有無を言わせない視線を送って)
、だから……確かにお前の言うことも一理ある、か。分かった、なら明日から暫くは一緒に行動するか。ただし、危なくなったら事務所戻ってガレージに避難させるからな
(パトロール中に感じる嫌な気配、だが敵意とは少し違うその質感に危機感はなかったが不気味であり煩わしくもあった。そんな小さなストレスが断る際の返事に乗ってしまったのかもしれない。改めて理由を告げるが今度は相手から断られてしまった。再度相手を説得しようとするもその前に先手を打たれてしまって言葉が引っ込む、それにこちらを監視している目的が相手だった場合には確かに厄介だ。組織が雇うようなプロの人間ならこうも簡単に気取られることはないだろうが前回の花嫁騒動の時のような奴が相手を狙っている可能性だってある。こちらを監視する視線に相手まで巻き込みたくないのだが様々な可能性を考えれば一緒に行動するのがベストだろう。それにこちらをじっと見つめる目を見るに何を言おうとテコでも動きそうにない。渋々了承するも万が一の時の約束は決めておく、ガレージであれば誰かがやってきても気づかれることは無く万が一はリ.ボ.ル.ギ.ャ.リ,ーが使えるが相手を幽閉するようなことはしたくないのも本心だ。明日からの方針を決めた後は特に依頼人も来ず事務所を閉めて帰路につく、家へ行く間、そして翌朝事務所へ来る際も気配は感じられなくて今やなんの憂いも無く街を歩けるのはこの時間帯しかない。じわりと精神的疲労を感じながら朝の用事を済ませいつも通りの時間を過ごせばパトロールの時間が近づいてきて)
じゃあ行こうか、翔太郎。
(彼女の存在と妙な視線、その二つが相手に向けられているのならばここは引くことが出来ずにある意味自分を盾にして説得を試みる。その可能性を考えて、あるいは自分が意見を変えるつもりがないのを悟ってか渋々了承されるとその条件に対しても「分かっているよ」と返答しておいた。その日は妙な心地を覚えながらも依頼人が来ることなく事務所を締めていつも通りの一日を終えた。朝も出勤するが何処となく相手が周りに視線を向けているのが分かれば早く解決させなくてはと心の内で決意をしていた。朝の書類整理などを終えるとパトロールの時間が近づいてくる。所長に今日は自分もついていく旨を伝え準備をする相手にも声を掛け、事務所を飛び出した。今日見て回るという相手のルートに従い歩き始めるが五分程したところで妙な気配を感じる。辺りを見回る振りをして振り返ってみても通行人が街を歩いているだけで怪しい人物は今のところいない。さりげなく相手に近づくと「…これが君の言っている視線かい?」と小声で問いかけて)
…、…あぁ。直ぐ気づけるんだが何もしてこねぇから落ち着かねぇんだよな…
(所長に事務所のことを任せて二人で約束通り事務所を出る、すると五分もしないうちにこちらを注視する気配を感じて軽く息を吐いた。直ぐに気配に気づくのに隠れるのは上手いのか未だ尻尾は掴めていない、相手との距離が詰まって問いかけられると口だけを動かして返事をする。誰かに見られている悪寒はあるのにそれ以上がない、この纏わり着くような気配が続くだけ、ただし事務所に帰るまでずっとだ。そのまま気づかないフリをして高校の方へ歩いていくが相変わらず気配は感じたままで離れる気配はない。「前に全力で走って振り切ろうとしたこともあったんだが全然気配が消えねぇんだ」と以前の話をしながら角を曲がろうとしたところで人影が飛び出してきてぶつかってしまう、自分より背の低い人影はぶつかった反動で転びそうになっていて慌ててその体を支える。何とか地面に転がるのは避けられたようで「大丈夫ですか?」と声をかけると『翔太郎?』とある意味聞きなれた声が聞こえて目を瞬かせる、そこには今日で偶然出会うのが四日目になる梓さんがいた。予感はあったもののまた出会ってしまったことに驚いていると彼女は相手のことなどまるで眼中に無い様子で一心にこちらを見つめ支えられたまま『わぁすごい!会えたら良いなって思ってたけどほんとに会えるなんて!今日でもう何日目かな?ほんと私達運命だね!』と弾んだ声で言われて、昨夜の相手との会話を思い出すと苦笑いするしかなくて)
へぇ…、……! …こんにちは。
(先程からまとわりつくような妙な視線を感じて相手に話しかけると言葉だけで肯定の答えが返される。更に相手が全力で走っても振り切れなかったと聞けばますます不可解で何が原因なのかと考えを巡らせていた。相手が進むのにしたがって角を曲がると相手が何かにぶつかる。咄嗟に相手がその人を支えるが聞いたことのある声で馴れ馴れしく相手を呼んでいて、顔を向けると例の彼女がそこに居た。思わぬ出会いに固まっていると彼女は嬉しそうな笑みを浮かべながら相手を見つめ弾んだ声でまた【運命】だと語り出す。こちらのことは眼中になく、体勢を戻すつもりもないようであれば彼女が相手を狙っているのだと確信づいた。嫉妬の波を一息ついて飲み込み、彼女に話しかけるとようやく彼女はこちらを向く。自分を認識した瞬間、顔が歪んだように見えたが直ぐに相手の方を見て『共有はフィリップさんと一緒なんだね!』と話しかけている。正に相手しか見えてないという態度に僅かに眉を寄せるとつい牽制するような言い方で「最近色々と物騒だから暫くは一緒にパトロールすることにしたんだ」と告げ)
俺一人じゃ手が回らねぇかもしれねぇから今日は相棒と一緒なんだ
(連日顔を合わせていればもしかしたら今日も、と思ってはいたが実際に出会って見れば胸に募るのは運命だと浮かれる心ではなく違和感だ。無邪気に喜んでいる姿は可愛らしい女性のそれだが相手に話しかけられそちらに顔を向けた彼女からは一瞬刺々しい雰囲気が溢れ出た気がする。対して相手も何処か威圧するような口調で彼女へと話しかけてる、まるで物騒なのは彼女自身だと告げているようだ。ひとまずは穏便な返事をしておこうとそれらしいことを言っていると彼女は少しだけ鼻を動かして相手を見たまま目を見開く、そして一瞬スっと全ての表情が彼女から抜け出してその顔が能面のように見えた。呆気に取られていたが彼女は再びこちらを向いて『えーほんと?翔太郎ならひとりでなんでも出来ちゃうのに』と嬉しいことは言われるのだが胸に漂う違和感は消えなかった。いい加減体勢を戻したいのだが彼女は一向に自立する気配を見せなくて支えたままの近い姿勢で動けないでいた。そろそろ体を起こして貰おうとした矢先彼女はそのままの姿勢でバッグを漁り始める、そして『今度ウ.ィ.ン.ド.ス.ケ.ー,ルで指輪を買おうと思うの。翔太郎詳しそうだしオススメ教えて欲しいな。ほら、指はこれくらい』とバッグから手を出して小指をこちらへと見せてきた。自分が指輪をつけているのと同じ指、その意味を考えている最中にさらに彼女の手が近づいて耳元でシュッと何かの音がした。驚いている間に反対側の耳元でも同じ音がする、直後体の周囲には酔いそうなほど甘ったるいローズの香りが漂い始めて『これはお礼の先払い。二人一緒のお揃いの香水って良いよね』と言われてようやく何をされたのか理解する。どうやらいつもの香水がかき消されるくらいに彼女の香水を振りかけられてしまったらしく困惑の笑みを浮かべていると彼女は何処か勝ち誇った笑みを浮かべていて)
…ッ、! …確かに素敵な香りだとは思うけど翔太郎には似合わないよ。 それに、これからの予定もお揃いも間に合ってるから。
(あくまで穏便に対応しようとするもずっと支えられたままの彼女を見るとつい気持ちが乱れて牽制するような物言いをする。相手もそれに乗ってくれていると急に何かに気付いたように表情を真っ白にしてからすぐまた笑みを浮かべながら相手に話し掛ける。いい加減離れてもらおうと思った最中、相手はバッグを漁りながら指輪の話をする。まるで相手と同じ位置のお揃いを揃えようとしている言動に大きく瞳を揺らした。外堀から埋めていこうとするような行動に心が落ち着かずに手を握りしめているとシュッと場違いな音が響いた。直後女性モノの甘ったるい香りが漂って、その元が相手の耳元と彼女の手元のボトルだと気づけば怒りが一気に湧き上がって相手の腕を強く引く。支えていた分彼女も起き上がればもう支えは要らないはずでその間に割り込むと感情を押し殺した故の低い声で感想を告げる。きっと彼女はさっきの接近で自分達の香水に気付いたのだろう、ならば遠慮は要らないかと鋭く冷たい目と言い方で更に威圧をかけるよ。「もう良いよね、行くよ翔太郎」と一方的に話を切り上げて腕を引きその場を立ち去ろうとして)
っ、…あー、じゃあな
(あの日、二人で並んだ時により特別になるよう選んだ特別な香り、それが今や彼女の香水一色に塗りつぶされてしまって少なからず動揺していた。彼女は自分達がペアリングの香水をつけているのに気がついてこちらに香水を振りかけたのだろうか、有無を言わさず無理やりお揃いになったことに、そして連日出会ってしまう彼女が運命というこの出会いに、違和感と僅かばかりの嫌悪感を抱いてしまう。こちらが動けない間に相手は無理やり腕を引いて体勢が崩れた直後相手の背中が視界に入る、どうやら彼女は倒れずに済んだらしく一安心した。だがこちらに背中を向けた相手は敵意を隠さずに彼女を拒絶する言葉を告げる、その間彼女は何を言われているのか分からないといったキョトンとした顔をして『えぇ?私は似合うと思うよ?私とお揃いだし』と悪気のない声で言うがそれさえも相手の更なる追撃に遮られた。相手は腕を引き無理やりこの場から離れようとする、無難な挨拶をするが彼女はこちらに近づき手の甲から小指にかけてするりと撫でて『またね!』と次を思わせる言葉をかけていた。去っていく二人の背後で彼女が舌打ちをしたのは知る由もない。十分距離が空いたところを見計らうと隣へと並んで「フィリップ、気持ちは分かるがさっきのはやりすぎだ」と窘めるように声をかけて)
…っ、……あれだけされたのに彼女を庇うのかい?
(強引に彼女から相手を引き離してその場を後にする。何が何だか分からないという反応をするがわざわざ香水を吹きかけた事といい全て計算づくとしか思えない。腕を引いて立ち去るも更に彼女が相手に近付いて手の甲を撫でるのをみればまた感情が大きく荒れてしまって相手を掴む手に力が籠った。それから早足で少しでも距離を取るように歩いた所で相手がいつも通り隣に並ぶ。だが初めに出たのはこちらを窘めるような言葉で同時に彼女の甘ったるい香水が漂ってくれば感情のまま相手を睨み付けて思ったよりも低い声が出た。だがこれでは八つ当たりだと思い直せば一呼吸置いてから視線を逸らし「…すまない、少し取り乱した」と謝罪を挟む。彼女が相手に好意を抱いている事もそれが暴走していることも明らかだ。だが相手が先程も終始穏便な対応をしている事がそれを助長しているのではないかと考えが及ぶと「はっきり彼女にその気は無いって伝えたらどうだい?」と半分私情込の提案をして)
少なくとも悪気はねぇし……そう、だな。このままじゃ前以上にこじれちまうしな
(かなり強引に彼女から離れることは出来たものの最後に小指を撫でられた感触が忘れられなくて何とも後味の悪い時間だ。彼女の行動は目に余る部分はあるが怪我させてしまうような行為は控えるべきなのと少々感情的になりすぎている相手を引き止めるためにも窘めるような言い方をする、すると相手から睨まれながら怒りの混じった返事がされて一瞬たじろいでしまった。直ぐに謝罪されると何処か言い訳のような事を口にする。彼女にそれとない違和感を感じるがそれは邪悪な感情から来るものではなくて好意であるのには間違いない、なんの理由もなく拒絶して彼女を泣かせるのは避けたかった。だが相手からすれば彼女から言い寄られているこちらの姿をみたわけで当然良い気分ではないだろう、その気は無いことを伝えるのを提案されれば彼女を少なからず傷つける選択に一瞬迷いはするものの、自分の答えは決して変わらないのだから誠実であるべきだろうと同意するように小さく頷く。以前依頼人に言い寄られた時には好意に気付かず相手には心労を掛けたわけで、今梓さんがこちらに好意を向けているのが明確ならば断りをいれるのが筋だ。相手の方を向けば「明日、…じゃなくて今度会った時に俺からきっちり伝える」と無意識に明日も彼女に会う予感がしていることに辟易としながらも約束を口にし)
…ああ、そうしてくれ。
(感情的に責め立て一旦落ち着こうとするも相手は彼女を庇うような言い訳を口にする。自分達の関係は限られた人にしか明かしていない。だから彼女が相手に好意を寄せるのは別に悪い事ではないのだがあの時の歪んだ顔が勝ち誇ったような顔が浮かんで感情が落ち着かないでいた。彼女にハッキリと断りを入れる提案をすれば相手は一瞬迷いを見せる、それが他人を無闇に傷つけたくない相手の優しさだと知っていてもモヤモヤしてしまって頷いたのを見てもそれは晴れなかった。最早規定事項のように明日というワードが出てくると瞳を揺らすも小さく息を吐いてから言葉を返しておいた。それからパトロールを再開するも近付くと彼女のつけた香水が漂ってきて、感情が荒れるようになると無意識にいつもより距離を取って歩くようになる。その間も視線を感じていたが大体を見回り事務所に戻ろうとしたタイミングでその気配が消えた。目的を達成したのかと考えながら帰路を進み事務所に戻るとほかの依頼で出ていた所長が先に帰ってきて何やら作業をしていた。「ただいま」と呟きながらそこに近付くと郵便物の整理をしていたようで相手の姿を見るとその中からパステルカラーの手紙を手に取り「翔太郎君宛の手紙来てたよ」と差し出していて)
おぅ、この感じだと依頼ってわけじゃなさそうだな
(彼女にはっきりと断りを入れる時のことを思えば気が重いが彼女に期待だけ持たせるのも失礼で、何より相手に不誠実だ。相手の返事からは不満が消えなくてその後街を歩く際にも物理的にも精神的にも距離を感じる、その間ずっと彼女から付けられた濃いローズの香りが纏わりついていてずっと彼女が傍にいるようだった。空気を変えられないまま事務所に帰ってきていつも通りハットをしまった所で所長から話しかけられる、どうやら郵便を仕分けてくれていたらしい。変な空気を変えるべく意識して明るい声を出しながら手紙を受け取る、表には自分の名前が書いてあるだけで住所は書いておらずどうやら直接郵便受けに手紙を入れたようだ。差出人の名前も見当たらず不思議に思いながら手紙の封を開ける、中身を覗き込んだところで光るものが見えて取り出したところで思わず「え、」と声が漏れてしまった。手紙の中に入っていたのはウ.ィ,ン,ド.ス,ケ.ー,ルの新作の指輪だ、しかも一番の高級ラインでこんな風に裸のまま封筒の中に入れていい代物ではない。「すげぇ高級品じゃねぇかと」驚きながらも手紙の方を読んでみれば中身は依頼解決のお礼らしいが相変わらず差出人の名前はない。しかし読み進めた最後に『同封の指輪はぜひ小指に付けてください』という文字をみれば息を飲む、その瞬間に彼女の言葉と撫でられた感触を思い出した。つまりこれは彼女からの手紙なのだろうか、しかし散々礼は言われたし彼女だと特定できる要素はなくただ困惑して指輪を見つめるしか出来なくて)
……、今日は事務所に寝泊まりした方が良いんじゃないのかい。
(事務所に帰ってくると所長が相手に手紙を手渡す。それにさえ心が波打って一度気持ちをリセットしようとグラスにアイスコーヒーを注いでいると相手が声を上げて思わずそちらを見てしまう。そこには指輪が入っていていつの日か相手がウ.ィ,ン,ド.ス,ケ.ー,ルの新作をチェックした時に乗っていたものと同じであれば息が詰まった。確かその値段は高級品に分類されるものでふと先程の彼女との会話を思い出した。相手の驚く声が喜んでいるようにも思えて牛乳で割ろうとしていた手を止め、アイスコーヒーのまま一気に飲み干した。恐らく、というか間違いなくあの手紙の主は彼女だ。更に確信は無いがずっと感じていた視線も彼女の可能性が高い。口内と胸中に広がる苦味を感じながら今日は家に帰らずにここで過ごした方が良いのではないかと相手の方を見ずに口にして)
……そうかもな。これでほんとに全てが偶然なら彼女が言う運命ってのかもしれねぇが……
(手紙の内容は差出人の名前は無いがごく当たり障りのない感謝の手紙だ、しかしその中で指輪を小指にはめて欲しいという文言だけが嫌に浮き上がって見える。未だローズの香りは体に付きまとっていてじっとりと纏わりつくようだ、無意識のうちにため息をつく。そこで相手にここで寝泊まりするよう言われると少し間をおいた後に同意しながらそっぽを向いている相手に先程の手紙を差し出す、この手紙の内容も気に入らないだろうが現状は把握して貰った方がいい。ひとつひとつを取れば何の変哲もない事柄、しかしその頻度は増えて少しづつ追い込まれているような感覚に息が詰まりそうだ。今は家と事務所の往復の間に彼女に会ったこともなく監視の視線を感じたこともないのだがこうも不穏なことが続いた以上いつその平穏が崩れるかは分からない。何より自分の中で彼女に二人の家を知られたくないという想いが膨らんでいた。その後はいつも通り事務仕事や依頼の相談などを受けて時間を過ごし事務所を閉める時間になって、アキコは『なんかあったらこのスーパー名探偵アキコ様に言いなさいよ!』とわざとふざけたことを言って帰るのを追い返すようにしながらも内心感謝して見送る。シャワーを浴びてようやく彼女の香水が体から離れればまた無意識にため息をついて机の上に置きっぱなしになっている指輪をチラリと見て)
………、翔太郎。
(事態が収まるまではこの事務所で過ごした方が良いと告げると同意の答えが返されながら手紙が差し出される。この指輪を小指につけて欲しいという文面を見ればまた視線が揺れ、彼女から差し出された物だろうと確信を深めていた。その後は普段通り仕事をこなしていたがずっと彼女の言動が脳裏を過ぎってホワイトボードの前で固まったり書類の記入を間違えたりと凡ミスが続いた。所長も何かを察したのか定期的に甘いものを持ってきてくれたり帰り際に**混じりの声がけをしてくれて少し気を抜くことが出来た。だがまた二人になれば先程の微妙な空気が続いていて相手に先に風呂に入るように促す。少しして相手が風呂から上がってくると自分も入れ替わりで入ってこようとしたがその目がテーブルに置かれたままの指輪に向いていればつい名前を呼んでしまう。そのまま近付いて視線を遮るように目の前に立つと時の方に意識を向けさせようとギュッと緩く抱きついて)
ん?…、……フィリップ……心配すんな、俺の運命の相手がいるならお前だろ
(テーブルの上に置かれた値段だけは高い指輪に目を奪われる、きちんとはめてはいないが手に持った感触で言えば小指にぴったりのサイズだ。人に好意を持って貰えるのは悪いことではないのだろうがそれがここまで体に絡みつくような粘着さを持っていると息が詰まってしまう。何故彼女がこうも連日【偶然】出会ってしまうのか冷静に考えなければならないのに彼女が度々口にする【運命】という言葉が思考を邪魔して上手く考えがまとまらなかった。そうやって考える間も食い入るように指輪を見つめてしまったようで名前を呼ばれるとようやく意識を手元に戻して顔を上げる、すると視界には相手が入り込んできてそのまま抱きついてくるのを受け止めた。こちらの名前を呼ぶ声には不安が入り交じっていてこちらからも腕を回して抱き締めると落ち着かせるように相手の背中をポンポンと優しく叩く。しかしそれ以上に自分の中で張り詰めたものが相手の体温によって解かれてゆっくりと息を吐き出していた。どちらにせよ明日彼女にキッパリと断りを入れれば終わる話だ、出来ればそのまま監視の目もなくなることを願いつつ「明日ちゃんとケリ付ける、安心しろ」と落ち着かせるように声をかけて)
…ああ、君が揺らがないのもちゃんと知ってる。……だけど、彼女のあの様子だとキッパリ諦めてくれるだろうか…
(相手の意識と視線がずっとあの指輪に注がれるのが見ていられなくてギュッとその体に抱きついた。こちらの不安などお見通しだったようで腕が回されつ抱きしめられる。たしかに伝わってくる体温といつもの匂い、撫でられる背中の感覚にやっと張り詰めていた糸が解けていくような気配があった。相手も近いものがあったようで二人してお互いを確かめるように抱きしめ合っていた。その状態で優しく自分が運命だと言われると思わず腕に力が籠る。どんなアプローチを受けても相手は自分を選んでくれる。そこに疑いはないが幼馴染の件やメモリの力で相乗りを降りかけた件が脳裏をチラつくと完全に安心しきることはできなかった。マーキングをし直すように首筋に軽く擦り寄っていると明日の話がされる。相手ならばちゃんと断ってくれるだろうが問題は彼女が素直にそれを受け入れるかだ。あの時の顔は間違いなく自分に敵意を向けるようなものだった。ぽつりと不安を口にしながら「勿論僕もついて行くから」と言葉を続け)
、それは…流石に大丈夫だろ。…あぁ、頼む
(相手を安心させるように、そして纏わりつくような悪寒を消し去るために、相手を抱き締めて変わらない気持ちを口にする、相手が回す腕にも力が籠ると張りつめたものがまたひとつ解されて小さく息を吐く。風呂によって香りがリセットされた所に相手が擦り寄ってきて擽ったさに小さく笑みを浮かべる、相手も風呂に入ればきちんとお揃いの香りになるはずだ。それこそ彼女が知りえない夜の間だけのお揃い。またひとつ安堵の息をついていたが相手が零した不安には一瞬動きを止めてしまう。百年の恋も覚めるような事実を彼女に告げるわけだが彼女が目覚めなかったら、とそこまで考えて思考を止める。前回と同じくもう恋人がいるのだと伝えればそれ以上出来ることは彼女には無いはずだ、半分は自分に言い聞かせるように大丈夫だといいながら背中をまたポンポンと叩いていた。ついていくと言われれば今回はこちらからもそれを望む返事をする、ひとりだと彼女の度を超えた熱心な目線に気圧されてしまいそうだ。明日は精神的な負担も多そうでその分エネルギーを蓄える必要がある、背中から頭へと手を移動させてそこを撫でると「風呂入ってこい、あの指輪はどっかにしまっとく」と声をかけて)
…そうだね、あまり心配し過ぎも良くない。 分かった、いつものお揃いにしてくるよ
(彼女の気持ちに応えられないと伝えればきっとこんな思いも抱かずに済む。そのはずなのだが彼女のことを考えると不安が過ぎって思わず口にしてしまう。すると相手も一瞬動きを止めるが大丈夫だと繰り返すように告げられ、落ち着かせるように背中が撫でられた。懸念は残るもののこうして答えの出ないことを考えても気が滅入ってしまうだけだ。今回は同行を相手からも望まれて少し安心する。相手だけならその優しさに付け込まれて押し込められるかもしれないがそうなれば自分が強制的に引き離せば良い。もう一度今日のやり取りを見なければ行けない現実は置いておいて方針を固めていると今度は頭を撫でられながら風呂に入ることを促されると漸く緩い笑みを浮かべて【お揃い】にしてくると告げ、最後にぎゅっと力を込めてから腕を解いた。風呂場に向かい、シャンプーとボディソープで全身を洗って流し、お揃いを香りを纏うと髪を拭きながら出てくる。「戻ったよ」と報告しながら相手の傍に寄って)
おかえり。よし、明日もあるしとっとと寝ちまおうぜ
(風呂に入ることを促せばようやく相手の顔には笑みが灯って何処かギクシャクしていた間はようやくいつも通りに近づいた。離れる間際に抱き締められればまたひとつ張り詰めた糸は解かれて相手を送り出す。事務所でひとりになると再び手紙と指輪を見つめる、限りなく彼女からの可能性は高いが確信がないなら無下にできず結局手紙は他の手紙と同じくケースの中へ、指輪は高級品故雑にしまうことも出来ずデスクの中に入れておいた。暫くすれば相手が戻ってきてこちらへと近づいてくる、出迎えながら頭に乗っていたタオルを手に取るとわしやわしゃと動かして髪を拭いてやった。二人のお揃いを取り戻したのならばあとは体を休めるだけ、彼女は一筋縄ではいかない予感を押し殺しつつ諸々の準備を済ませたあとに二人で簡易ベットへと入る。いつもより少々狭い空間でより相手とくっついて寝転がると「おやすみ、フィリップ」といつも通りに声をかけて軽く口付けを送れば眠りについて)
……翔太郎、これ、また差出人不明の手紙だ。
(風呂上がりに相手に近づくとタオルでわしゃわしゃと髪が拭かれていく。いつも通りの行為だが今はそれが一番安心した。夜の支度を終えると一緒に簡易ベッドへと転がった。明日への不安はもちろんあるが二人なら何とかなるだろう。夜の挨拶とおやすみのキスに緩い笑みを浮かべるとこちらからも「おやすみ、翔太郎」と返して軽いキスを送る。精神的な疲労と相手の腕の中という安心感に包まれると直ぐに瞼は重くなって夢の世界に落ちていった。_翌朝、いつも通りの朝を迎え「おはよう、翔太郎」と声を掛けると朝の準備を始める。着替えや朝ご飯を済ませ郵便受けに朝刊を取りに行くとチラシなどとは別に一通の封筒が入っていて思わず固まってしまう。差出人の名前は書いてなくて今回は宛先も無い。何かが入っているようではないが中は分厚くてひとまず相手の元に持っていきそれを見せる。嫌な予感しかしないが匿名の依頼という可能性も無くはない。その場で封を切って中身を出してみると十数枚の写真が入っていてどれもここ数日の相手がパトロールしている時を盗撮したものだった。一番上には小さなカードが添えられていて『昨日は事務所に泊まったんだね。今日もパトロール頑張ってね!』と書かれていてふと彼女の顔が浮かんだ。また息苦しさを覚えながら確認の為に写真を捲っていると昨日二人でパトロールに出かけた時の写真が出てくる。だが自分が写っているであろう相手の隣に居る人物が顔を中心に真っ黒なペンで塗り潰されていて居なかったことにされていた。そこから感じる悪意に思わず「っ…」と息を詰まらせ絶句してしまって)
っ、……見るなフィリップ。……俺をどう思おうが構わねぇがお前に手を出すの許せねぇな
(いつもの距離で、いつものお揃いの香りで眠りについた翌日、朝の準備を進めていくが残念ながら二人の特別な香水は家に置いてあっていつもの香りを纏うことが出来なかった。それもここ数日の彼女と監視の目のせいなのだと思えばやはり彼女に対する印象は悪くなってしまう、今日不本意にも彼女と出会えればそれで終わりなのだと気を持たせていると相手が郵便物を持って戻ってくる。そして差出人不明の手紙があると聞けばすぐさま彼女の顔が思い浮かんだ。嫌な予感を抱えたまま手紙の封が切られる、中から出てきたのは知らぬ間に撮られた大量の写真で息が詰まった。名前はなくとも添えられたメッセージカードから差出人は明らかでじわりとあの纏わりつくようなローズの香りが蘇ってくる、異常な数の盗撮写真に上手く息が出来なかった。しかし昨日の写真が出てくれば頭の中で糸が切れる音が響く、写真に写る相手の顔が不必要に塗りつぶされていてまるで存在を否定しているようだった。咄嗟に相手の手から写真を奪い取るともう片方の腕で相手の頭を抱え込むようにして、これ以上何も見せないようにこちらの肩口に顔を埋めさせる。塗りつぶした黒から感じるのは明らかな敵意、彼女は相手を邪魔な存在だと感じているらしい。彼女は愛すべきこの街の住人だが相手に手を出すのならば話は別だ、昨日の曖昧なものとは違う決意のある声色で「フィリップ、やっぱりお前はここにいろ。俺が彼女と話をつけてくる」と告げて)
っ、…昨日の時点で良く思われてないのは知ってたし、これくらい平気さ。…この件を問い詰めた所で彼女はシラを切るだろうし、君を一人で行かせる方が心配だ。
(視線だけでなく撮影までしていたなんてその執着さに気分が悪くなってしまうが自分の姿が塗り潰されている写真を見ると息が止まった。その意味を理解してしまった瞬間に写真は相手に奪われ肩口へと抱え込まれる形で視界が見えなくなる。その力強さと聞こえてくる声のトーンから相手の怒りを感じれば漸く息が出来るようになるが一人で彼女の元に行くと告げられると慌てて顔を上げた。彼女からあまり良い印象や存在だと思われていないのはあの短いやり取りの中で分かっていた。張り合うようにお揃いや相棒を主張したのだから相手に強い感情を抱いているのなら必然的に自分が疎ましく感じるのも理解できる。あくまで冷静に大丈夫だと告げ、こちらも強めの口調で一人で行かせることを拒否する。文面や状況証拠で彼女から送られたのだと判断したが客観的に言えばその証拠は無い。知らないと言われてしまえばそれまでだ。どんな手段を使ってもおかしくないと分かった以上一人で会いに行かせたくは無かった。じっと相手を見つめると「不安も責任も僕らは半分こだろう?」と意識的に笑って見せ)
……平気そうには見えねぇが、それは俺も同じだな…分かった。とにかく彼女にその気がねぇのをはっきり伝えて、それで終わりにしねぇと
(自分に粘着質な好意を向けられるのは構わないが自分の一番大切な存在に危害を加えようと言うのなら話は変わる、相手に手を出そうと言うのなら黙ってなどいられない。明確な敵意にもう相手と彼女を会わせない方が良いだろうとひとりで行くことを告げるが相手は即座に顔を上げて強く反対する、無理やり冷静な口調で笑って見せる顔もぎこちなくて相手が精神的にも追い詰められているのは明らかだがきっと昨日と同じくこの状況で相手はこちらの言うことを聞くことはない。それに無理して強がっているのはこちらも同じなのかもしれない、少なくともあの大量の盗撮写真をみて動揺してしまったのは確かなのだから。軽く息をつくと不本意ではあるが相手と一緒にパトロールに出ることを決める、彼女にもう隣の席が空いていないことを告げればこの件はきっと終わるはずなのだから。最後にギュッと強く抱き締めてから離れてまた朝の準備を再開した。暫くして所長がやってくると盗撮写真を見て『翔太郎くんを盗撮するなんて悪趣味ね』とツッコむべきか迷う発言をしていたが相手の顔が塗りつぶされている写真を見ると途端に『何よこれ!』と怒りを顕にしていた。やがてパトロールの時間になってまた二人で出ることを告げると『ほんっと気をつけなさいよ!』と先程の勢いのまま釘を刺されて、それに少々気持ちも解されながら「任せとけ」と返事をしハットを被って相手の方を見ると「行くか」と声をかけ)
ああ。_ っ、……
(大丈夫だと主張するも相手にはその強がりもお見通しのようですぐに指摘が入る。だが精神的に追い詰められているのは相手も同じでその顔色はあまり良くない。譲らない態度に折れるように同行が許可されるとお互いの存在を確かめるようにぎゅっと抱きしめ合ってから準備を再開した。やがて所長が出勤してくると机に伏せていた盗撮写真を見ると強く怒ってくれた。ついでに昨日言っていなかったこれまでのあらましを説明するとその顔は心配そうな表情が浮かんでパトロールの時間になると強く釘を刺された。まだ彼女は自分にだけ敵意を見せているが過剰妄想などで所長に矛先が向かう可能性もないとは言いきれない。『アキちゃんも何かあったらすぐに連絡入れてくれ』と告げて相手の声かけに応じる形で外に出た。いつも通りパトロールを始めてまたすぐあの視線を感じるようになる。相手とアイコンタクトを取って気の所為でないことを確認すれば一先ずはいつものように街を見回った。だがなかなか彼女は姿を表さない。諦めたのかと淡い期待を抱いた所で公園の近くを歩いていると『翔太郎』とあの声が聞こえてきた。そちらを向けば彼女の姿があって『やっぱり翔太郎だ。五日間も連続で会えるなんてやっぱり偶然ってより運命だよね』と弾んだ声で相手に話しかけてくる。彼女があの写真を入れたのかと思い動けないでいると『今日はこの公園でお弁当を食べようと思ったんだ。翔太郎ってお昼ご飯まだだよね?沢山作ってきたから一緒に食べようよ』と明るく紙袋を差し出してくる。その中には当然のように二人分の弁当箱や箸、レジャーシートなどが入っており、嬉しそうに向けるその目は相手しか映してなくて)
……梓さん。梓さんが俺をこうやって誘ってくれんのはありがてぇ。でも俺にはもう大切な人がいる。こいつだって決めた奴がいるんだ。だから俺は梓さんと依頼人以上の関係にはなれねぇ
(二人で事務所をでれば相も変わらず纏わりつくような視線を感じて無意識にため息をつき相手の方を向けば勘違いではないようで小さく頷く、今日も監視の目は外れないらしい。この違和感の中で大量に盗撮されていたのかと思うとまた気が重くなりそうになるがそれも今日が最後だと軽く頭を振って思考を無理やり追い出した。いつも通りに街を見て回って街の人と談笑していれば多少気が晴れていたが公園前に差し掛かったところで彼女の声が聞こえて一瞬息をするのを忘れる。彼女はこちらへ近づいてくるとまたも【運命】という言葉を口にしながら弾んだ声で昼食に誘われるが紙袋を一瞥だけして直ぐに彼女の方を見た。梓さんは一身にこちらを見ていて用意されてるのは二人分の食事だけ、隣に相手がいるのにまるで存在しないかのような振る舞いだ。顔を塗りつぶされた写真が脳内に過ぎると怒りがじわりと湧き上がって彼女を真っ直ぐ見つめながらはっきりとこれ以上の仲にはなれないことを告げた。強めの語気で勘違いがないよう伝えたはずだったが彼女はそれを聞いてキョトンとした顔をして首を傾げる、怒りや悲しみの表情が浮かばないのが逆に不気味だった。妙な静寂の後彼女は突然笑い出して『もー翔太郎ったら何言ってるの?びっくりしちゃった。私達こんなに運命に導かれて出会ってるんだよ?運命には逆らえないんだからね。あ、そっか!分かった、うんうん!』と一切こちらの言葉が響いていない様子で唖然とするしかない。彼女は続けて『もしかしてその彼女さんに何か言われた?それとも…』と口ごもって、首を勢いよく傾げて漸く相手の方に目を向ける、その目は何処か血走っていて『こいつに何か言われた?』と相手を瞳孔の開いた目で見つめていて)
…君が運命だと言っているものはただの妄想だ。ちゃんと翔太郎を見ているなら迷惑がっているのが分からないのかい?
(ここを通るのを見計らったような彼女は自分と相手の分のお弁当を手に食事に誘う。まるで自分のことなど視界に入っていないようで改めてその盲目さに唖然としていると相手がハッキリとした口調でその気がないことを告げる。だが当の本人は何を言われたのか分からないという顔を見せてから笑いながらまた【運命】と口にしていて背筋が冷える。彼女は相手の発言を正面から受け止めず、漸くこちらを見たかと思えば血走った敵意や恨みが籠った目と声を向けられ心臓の裏側がひやりと凍った。その視線は冷たくこちらを突き刺してくる。さらに『翔太郎は優しいから、そいつのこと見捨てられないんだよね。そういう所ももちろん好きだけど翔太郎が最後に選んでくれるのは私だって知ってるよ』と微笑みながら言葉を続けられるとその思考が理解出来なくて頭痛がしてきた。だがここで引く訳にもいかず、じっと彼女を睨むとその発言の全てを妄想だと切り返す。更に相手にとっても迷惑だと言葉を続けるとその表情は一瞬凍るも今度はその瞳がうるうると涙で潤み出して『なんでそんな酷い事言うの…。私はただ、翔太郎が好きで会いたかっただけなのに…』と震え声で呟く。先程までの態度との違いに固まっていると今度は周囲から視線を感じる。ちらりとそちらを見れば通行人がひそひそ話をしながら通り過ぎていて紙袋を持って泣きそうな彼女に同情的な視線が送られていて)
…、…会いたいと思ってくれるのはありがてぇけど、俺は梓さんを選ぶことは、
(あれだけはっきりとこれ以上の発展はないと告げたのに彼女は全くその言葉を聞いていなくてただ笑うだけだ、説得を試みるつもりだったのに対話にすらならないこの状況に背中に冷や汗が伝う。はっきりとした拒絶をすれば終わると思っていたのに彼女が止まる気は無いらしい。それどころか相手に更なる敵意を向け始めて半歩前に出て彼女を牽制する、それもまるで効いていないようで彼女は彼女だけの世界の言葉で話し続けていた。相手が彼女の言葉を妄想だと切り捨てるがまるで響いていない、妙な間の後に彼女が泣き始めると同情の心は湧くが違和感を覚えるのも確かだった。しかし行き交う人々にはこちら側の事情など知る由もなく男二人で女性一人を泣かせているように見えるのだろう、ヒソヒソと噂する声が聞こえてくると軽く息を吐く。彼女は不特定多数の人々をも利用するらしい。知り合いが多いこの街で変な噂が立つのも困る、彼女に近づき声をかけようとしたところで突然手を取られて固まってしまう。顔をあげた彼女は目を潤ませながら『翔太郎も会いたいと思ってくれてるの?嬉しい!』と言ってもいないことをあったことにされ、反論する前に『これもお揃いだね?あ、運命ってことよね!嬉しいなー小指の指輪もお揃いだしね』と矢継ぎ早に言われて圧倒されてしまう。大声を出す力技もこの状況では使えず次の言葉を考えるうちに彼女から右手の小指にはまる指輪を見せられた。そこには昨日送られてきたのと同じ指輪がはまっていて息を飲む、こちらが固まっている間に彼女は『そろそろここの指輪変えた方がいいと思うの』と言いながら勝手にこちらの小指にはまる指輪を外そうとしていて)
余計なお世話だ、あの指輪も翔太郎には必要ない。
(会話をしているはずなのに意味が通じてなくて今度はその目に涙を浮かべながらまるで自分が被害者かのように振る舞う。この街で探偵業をする為にも変な噂が立つのは避けたい。そんな心理を突くような振る舞いに焦りと苛立ちを抱いていると相手が近づいてきたタイミングでその手を取る。彼女の細い右手の小指には昨日送られてきた高級品の指輪と同じものが送られていて目を見開く。そして位置だけで無く全てを【お揃い】にしようとしていれば流石に我慢し切れず彼女の手首を掴んで引き剥がす。毅然とした態度で彼女の行為に拒否を示すとまたじろりとこちらを睨んできてから『もしかして嫉妬してるの?でもごめんね、絶対にこっちの方が似合ってるし受け取ってくれたって事は翔太郎も気に入ってるんだよ』と見当違いのマウントを取ってきて眉を顰めた。ここまで話が通じない人と接するのは初めてでこれ以上は会話をしたら無駄だと判断すると彼女の手から相手の手に掴み直して「行こう、翔太郎。もう何を言っても無駄だ」と声を掛けながら立ち去ろうとする。だが彼女は恋人のようにもう片方の相手の腕にぎゅっと抱き着いていて胸が強くかき乱された気分がした。そんな自分の姿は視界に入らず彼女は女性らしい上目遣いで『フィリップさんと違って私は翔太郎のことを束縛したりしないし、ちゃんと見てるよ。一番好き、だって私たち運命だもんね』と甘い声で好意の言葉を告げて)
あぁ、…っ、……俺は梓さんの気持ちには答えられねぇし好きな人は別にいる。誤解を招くようなことは止めてくれ
(彼女の悪意なき執着に上手く口が回らず周りの人の目があれば振り払うことも出来なくて指輪が抜き取られようとするのに対処が遅れた、しかし指輪に触れられる前に相手が彼女を引き剥がしてくれて助かったと息をつく。相手が強い口調で拒絶するもやはり彼女には届いていない。噛み合わない返事にまた頭が痛くなるのを感じる、そもそも指輪は送り付けられただけで受け取っていない。暖簾に腕押しなこの状況に痺れを切らしたのか相手がこちらの手を取ってこの場を離れようとする、ひとまずこちらの意思は強く伝えたのだからきちんとその意味を考えてくれるだろうか。しかし直後反対の腕に抱き着かれてしまって直ぐさまその希望は崩壊した。こちらを見上げる彼女からはあのローズの香りが立ち上り纏わりついて顔を顰めてしまう。最初に訝しげに見ていた人々もこちらの態度を見て一筋縄ではない空気を察し始めたようだ。ならばもう少し強気な態度に出てもいいだろう。一旦相手から手を離すと両手で彼女の体を傷つけないよう引き剥がしながらよりはっきりと拒絶の言葉を告げる、今は彼女の上目遣いも甘ったるい声も胸焼けしそうなほど重いものにしか感じられなかった。対して彼女はまたキョトンとして目をパチパチさせたが、パァっと顔を明るくして『確かに!誤解を招くような状況は良くないよね。分かった!私に任せといてね翔太郎。ちゃんとしてくる。あ、ほんとは一緒に食べたかったけど用事出来ちゃったから、はいこれ。感想聞かせてね!』と一気捲し立てるように言うと紙袋を押し付けてその場を軽やかな足取りで去ってしまい)
……納得、してくれたわけでは無さそうだね。彼女のいうちゃんとしてくるってのも嫌な予感がする。
(何とか指輪のお揃いは回避したもののずっと彼女の世界の話をしていて全くこちらの話が通じていない。更には恋人のように相手の腕に抱き着いて更に愛を告げ出すが周りも妙な温度の違いに気付いたのかひそひそ話はなくなって遠巻きな視線に変わる。相手が一旦こちらから離れると両手で彼女を引き離して改めて拒絶の言葉を向ける。だが彼女はまたキョトンとした後場違いに顔を明るくして勘違いした言葉をまくし立てると紙袋を相手に押し付けその場を軽やかに去っていった。二人その場に残されることになるがどう考えても相手の言葉を受け入れたようには思えない。つい重たい溜息交じりに呟きを零すとちらりと相手を見る。彼女が最後に残した言葉はこの状況を何とかするために動こうとしているようにも聞こえた。そして彼女の言動を見るにまともな方向に進む気はしなくて眉を寄せ不安を口にした。相手が押し付けられた紙袋に目をやりあの口調からするに手作りだと察すれば「食材がもったいないけどそれも手をつけない方が良い。何が混入しているか分からないからね」と告げて)
何かしに行くから用事が出来たってことだろうな……、…だな、事務所で捨てるか
(嵐のように彼女が過ぎ去って行けば残るのは相変わらず重苦しい空気だけで相手のため息混じりの呟きにはこちらも同意して軽く頷く。こちらの断りの言葉は全く受け入れられず彼女は何かをするためにこの場を離れて行ったのだ、これまでの事を考えればまた厄介事を引き起こすはずだ。彼女と自分が運命であると示すために。手に残った紙袋は中身の割に重い気がする、中に入ったものをどうするべきかと思っていたが何かが混入している可能性を相手に指摘されれば嫌な想像をしてしまって気分が悪くなった。ゆっくり息を吐き出して平静さを手繰り寄せると彼女にバレないよう事務所のゴミとしてこっそり捨てることを決めた。重たいものを引きずるような感覚のままパトロールを再開する、その後彼女に出会うことは無かったが相変わらず影からこちらを盗み見る気配は消えることが無かった。やがて予定していたルートを回り終わり事務所へと帰ってくる、所長は心配そうに出迎えてくれたが簡単に事の経緯を説明するとドン引きした目で紙袋を見つめていた。早く彼女から貰ったものを手放したくてゴミ箱にセットしてあった袋を引っ張りだしついでに事務所内にあった小さなゴミ箱に入った中身も全部ひっくり返して纏め、最後に紙袋を詰め込んでしっかりと口を縛る。そのまま直ぐにゴミステーションに持って行ってコンテナに放り込めばようやく自分の手元から彼女の紙袋は無くなった。事務所に戻ってくれば一息ついて「どうやったら諦めてくれるか考えねぇと」とやや疲れた様子で言って)
…お疲れ様。まだ直接的な証拠がない以上警察も逮捕は出来ないだろうし、また顔を合わせて話しても結果は同じだろうね。
(異常な手を使ってくると分かった以上弁当の中身も安全とは言えない。それに個人的にも食べてほしくなくてそのことを告げると相手の顔色は悪くなった。ひとまずは予定していたパトロールを気持ち手短に済ませると事務所に戻った。心配そうな所長に事の顛末を伝えている間に相手は弁当箱を開けることなく紙袋ごとゴミ袋に詰めていく。念のためゴミステーションに持って行くのにもついていき事務所に戻ってくるとずっと気分の悪そうな相手に麦茶を淹れてくればそれを差し出してひとまずソファーに座るように促した。自分も横の座ると解決策を考える。普通の人ならば想い人に断れれば素直に引くだろうが彼女はその意味すら曲解して理解していないようだった。真っ先に浮かぶ警察への相談も大きな被害が出ていない以上難しく、何より相手の性格上積極的にはしないだろう。だが何回顔を合わせて直接伝えたとて彼女に伝わる気もしない。この街で探偵をやってこの事務所に居ることを公表している以上物理的に距離を取るにも限度がある。重々しい空気にまた溜息を零しそうになりながら相手の方を見ると「今日は早く休みたまえ、精神的にも疲れただろう」と気遣いの言葉投げかけて)
ありがとよ。アプローチの仕方を変えねぇとな……そうだな。考えるのは明日でも…
(漸く彼女のものを手放すことが出来たがまだ終わった訳ではない、あれだけの正攻法を使って全く効果がないとは。盗撮も監視も贈り物も全て彼女である確信はあるが証拠は全くない、彼女はあくまでもそれらを全て運命だと言い張りたいのだろう。自分が作り出したものは運命といえないのなら理屈が通らなくてもきっと自分がやったと認めないはずだ。相手から麦茶を受け取れば礼を言いながらソファへと座る、冷たい麦茶は飲むだけで気を落ち着けられるがそれでもため息が零れそうだ。隣に座る相手の方をみればそれだけで安心しつつ早く休むように言われれば少し考えてから頷く。彼女とどう向き合うかは体力を取り戻した明日にした方が良いかもしれない。早いところ事務所を閉めようとした矢先にス.タ.ッ.グ.,フ,ォ.ンの着信音が鳴る、取り出し画面を見てみるとウ.ォ,ッ,チ,ャ.マ,ンからの電話だった。こんな時間に珍しいと思いつつ「どうした?」と出てみると『もー翔ちゃん水臭いなぁ、ボキに隠し事するなんて』と含みのある言い方をされて眉を顰める、電話越しからでもニヤニヤ顔が浮かびそうな口調だ。「なんだよ、やましいことなんてねぇぞ」と返事をすれば怪しげな笑い声のあと『なぁに言ってんの!前に噂になってた彼女!海外に行ったんじゃなくてちゃんと付き合ってたんじゃあん』と楽しげに言われて、そのテンションとは対象的に嫌な予感が過ぎれば固まってしまって)
何が起こって…もしもし?
(お互いに精神の疲労は大きい。対策は明日から考えても遅くは無いはずだと告げると相手もそれに頷く。普段よりも時間としては早いが所長も心配故か早く閉めることに反対せず店締めに取り掛かっていた。だが突然相手のス.タ.ッ.グ.,フ,ォ.ンの着信音が鳴ると相手が電話に出る。隣にいればその声は漏れ聞こえてウ.ォ,ッ,チ,ャ.マ,ンだと分かるが大きいネタをゲットした時のようなニヤニヤしたような口調かと思った途端彼女というワードが聞こえてきて目を見開く。何故今そんな話が出てきたのかと疑念が生まれその答えに繋がりそうになった所で今度はこちらのス.タ.ッ.グ.,フ,ォ.ンが鳴る。示されたエリザベスの名前に嫌な予感を覚えながら電話に出ると開口一番『フィリップくん、あの書き込みどういうこと!?』と勢い良く聞かされる。「…なんの事だい?」と聞けば電話の先にはクイーンもいるようで『…その様子じゃ知らないんだ。さっきね、この街のSNSに【今日は大切な彼とデート】って書き込みがあったんだけど一緒に載っていた写真が……翔ちゃんの腕に抱きつく女性で』とまで聞いて思考が止まる。明確に顔は写ってないがこの街の人が見れば相手だって分かること、ここ数日一緒に居たところを見たという目撃情報も集まってそこそこ噂になっているという説明をしてくれるが耳から耳に流れていくようにその意味を理解することを拒んでしまう。無意識に手は震え心配する二人に何とか返事をして電話を切った。気遣いの言葉と共に送られたメッセージにはそのアドレスが添えられていてゆっくりとしかうごかない指でそのページにアクセスすると二人が言った通りデート中にしか見えない二人の写真とメッセージが投稿してあって)
……俺に彼女はいねぇよ。もしそんな事言うやつがいたら、それはそいつの嘘だ
(全く身に覚えのない付き合っている女性の存在、そんな嘘を誰がついたのか、こちらの交友関係を把握し外堀を埋めるような行為をしているのが誰なのか、証拠はなくとも確信は持てる。大きく深呼吸をして気を整えていれば隣の相手の電話も鳴り始める、画面に映った名前はエリザベスだ。嫌な予感を覚えつつも『もぉー惚けちゃってー』と未だ茶化す口調に対して真剣な声色で強くその情報が嘘であると告げると電話越しのウ.ォ,ッ,チ,ャ.マ,ンは異様な空気を察したのか『でもその子、翔ちゃんと腕組んだ写真持ってて…あー…もしかしてボキ余計な情報喋っちゃったかも…』と消え入りそうな声をしていて眉間の皺が深くなる、どうやら懇意にしている情報屋に接触して情報を得ると同時に嘘の情報を広めたらしい、なかなか強かだ。電話で話していると隣で電話をする相手の手が震え始める、その異様さにあちらでも何かあったのだろうと察すれば「とにかく、俺に彼女はいない。誰かに聞かれてもそう言っといてくれ」と告げれば一方的に電話を切る。そして相手の画面を覗き込んだところでちょうどSNSが開かれて彼女が自分の腕に抱きついている写真が映り、そこに添えられメッセージにまた上手く息が出来なくなった。咄嗟に画面を手で覆ってこれ以上彼女の異様な執着に晒されないよう情報を遮断すると「…いよいよ野放しに出来なくなってきたな」と絞り出すような声で言って)
……周囲を巻き込んで君との関係を既成事実にしてしまえば誤解ではなくなるっていう考えなのだろう、
(匿名の誰かが、恐らく彼女が相手を彼氏として周りにアピールしている。そのサイトを開くと飛び込んできたのは相手の腕に抱きつく彼女の写真だ。さっきもこの目で見たはずなのに上手くトリミングと加工がしてあって誰が見ても恋人同士の幸せな写真だ。見たくないのに目が離せないでいると相手の手が画面を覆ってやっと意識が元に戻る。追い打ちをかけるような事態に相手の絞り出すような声を聞けばその手に自らの手を重ねて軽く握る。自分達の関係は一部の人を除いて公にしていない、だから他人があの写真を見れば相手がこの女性と付き合っていると信じてしまうだろう。詰まっていた息を意識的に吐き出して冷静さを取り戻そうとしながら彼女の行動の理由を推測する。外堀を埋めて周りからも恋人同士に見られるようになればくっついても誤解ではなくなる、相手も首を縦に振ってくれるだろうと言うぶっ飛んだ思考回路だ。頭痛を通り越して嫌悪感すら感じる行動に顔を歪めながら「サイトに通報してこの投稿は削除して貰おう。噂の方も彼らが否定してくれれば良いけど…」と行動の指針と希望を口にする。それと同時に相手を握る手に無意識に力が籠ると「……君を彼女に取られたくない」と小さくぽつりと呟いて)
どういう理屈だよ……俺がこんなやり方で彼女になびくわけねぇだろ。大丈夫だ、ここにいる
(街の人々とSNSで自分が彼女だと吹聴すれば瞬く間に噂は広まったことだろう、いつも懇意にしている情報屋が容易に噂を耳にできるくらいにはもう周知の事実になっている。こちらのパトロールをずっと監視していたなら交流がある人を特定するのだって容易かったはずだ。じわりと追い詰められた感覚に上手く酸素を吸えずにいると相手の手が重なる、少し呼吸が楽になって相手の方を見た。きっと彼女の思考回路はそんなものだろう、誤解される、というこちらの発言だけを切り取って誤解されない状況を作り上げたのだ。これもまた皆が祝福してくれる、運命だ、なんて言うのだろうか。相手が投稿の削除を提案するが傍からみればただの浮かれた内容でしかなくすんなり削除されないかもしれない、エリザベス達に協力してもらって通報の数を増やせばなんとかなるだろうか。だがそれも場当たり的対策だ、彼女をどうにかしなければこの件は終わらない。いっその事彼女の望みを一度だけ叶えてしまった方が良いのではないかと一瞬思考が過ぎるが相手から手を握られて不安に塗れた呟きがこぼされると電話を置いて再び手を強く握る。彼女に流されてはダメだ、相手は不安に苛まれ彼女の敵意に晒され精神的負荷が大きい。何より相手を守らなければ。背中に手を添えて撫でながら変わらぬ想いを伝える、二人の空気をみて所長は『私が周りに怪しいヤツいないか見てから帰るから安心しなさい!』と宣言してこちらへ目配せしてくると、感謝の意も込めて軽く笑みを浮かべてから送り出した。二人きりになった空間で今度は両手を回して相手を抱きしめる、「彼女がどうやってこっちの動きを把握してるか、カラクリを解かなきゃな」と方針を口にし)
…ああ。アキちゃんもありがとう。 …彼女が君に抱き着いた時カメラを手にしている様子は無かった。だからあの写真は事前に何処かにカメラを隠していたかもしくは協力者が居るのかもしれない
(直接的ではなく街の人までも使って彼女に都合のいい状況が積みあがっていけば徐々に追い詰められていくような、居場所が奪われていくような気がして相手の手を握りながらつい不安を口にしてしまう。すると相手は強く手を握り返してくれて力強い言葉と共に背中を撫でてくれる。更に所長も怪しい人を見て回ってくれるという頼もしい宣言をしてくれると暗い気持ちも幾らか晴れて感謝を伝えた。あの時と違って今回は二人は味方だ、あんな身勝手な言動をする彼女に折れる訳にはいかない。所長にも一応気を付けるように伝えてから送り出すと事務所には二人きりとなった。相手から抱きしめられるとこちらからも腕を回してくっつき、方針を聞けばあの写真から気付いたことを述べていく。どれも彼女の手引きだろうが日中一人でずっと監視するのは流石に無理があるようにも思う。それに事務所を出て数分で視線を感じるようになるのも気になる、ずっと事務所の前を監視しているなら最初から感じるはずだがどうも相手が事務所を出るのを察知してから動いているようにも感じる。自分達がターゲットから情報を入手したい時にどんな手段を使うのかを考えていくと「ここ最近、誰かから貰ってこの事務所に新たに置いている物とかないかい?」と尋ねて)
あぁ、画角からいっても彼女が撮ったものじゃねぇ。ずっとつけられてるのを考えても協力者がいるのかもしんねぇな。…最近貰った……そういやふ.う,と,く.んの人形が送られてきてたな
(相手を抱き締めれば不思議と焦りも気分の悪さも溶けだして息がしやすくなり、同時に頭は冴えてくる。彼女は話や理屈が通じなくて及び腰になってしまうが正攻法で通じないのなら作戦を考えなくてはならない、その為にはまずは彼女を知らなければ。相手から先程SNSに乗せられていた画像の話が出れば同意するよう頷く、あの写真はどう考えても第三者が撮ったものだろう。自動撮影ではあそこまで都合のいい画角にはならない。となれば少なくとも彼女ではない誰かがあの写真を撮ったはずだ。パトロールの間四六時中見られていることを思えば人の手は多い方が向こうにとっては都合が良く協力者がいる可能性はある。しかし彼女にとって何もかも都合がいいように動く第三者がいるのだろうか、彼女はこちらに異常なほど執着しているのだから見返りに彼女の気を引けるわけでもない。悩んでいたところで相手から最近の貰い物について聞かれる。基本的には消え物が多いが依頼のお礼にと置物の人形を貰っていたはずだ。自分の愛する街の愛するマスコットキャラクターならばとデスク脇に飾っていたのだ。一度ソファから立ち上がりプラスチックで作られたそれを持って帰ってくると「これだ」と相手に差し出して)
…一見普通に見えるけどプラスチック製にしては少し重いような…、……っ、盗聴器だ。
(彼女は相手の行動を何かの方法で把握している。だが視線を感じ始める時間差を考えれば事務所近くに待ち伏せしているというより遠隔で見ている可能性が高い。そしてその執着深さを踏まえて一つの可能性が浮かんで相手に最近貰った物がないかと聞けばふ.う.と.く.んの名前が上がる。相手が好きなこの街のマスコットであれば尚更嫌な予感がしてその人形を相手に取りに行って貰う。戻ってきた相手から人形を受け取ると外見を確認した。見た目はいたって普通のお土産売り場などに売ってそうなプラスチック製の人形だ。だが材質に対して妙に中身が重たいような気がする。確かめるために正面と背面をくっつけている継ぎ目に爪を引っ掛けて開けようとするとその間に透明になった接着剤の痕跡を見つける。既成品としては雑な造りだと感じて無理やりこじ開けてみると中に小さな基盤と纏められた配線、ふ.う.と.く.んの目の辺りには小さなマイクが設置されていて思わず息を詰まらせた。小さなアンテナらしき部品もあってこれから置かれてからずっと、そして今も現在進行形でこの会話が彼女の元に聞かれているかもしれない。背筋がぞっと冷たくなるのを感じながら相手の方を見ればマイクに拾われないように小さな声でこれが盗聴器であると告げて)
っ、………
(最近この事務所に増えたものと言えばこれだけだ、相手が人形をいじる間送り主が誰だったか記憶を辿る。確か丁寧な文章で依頼のお礼が書いてあって差出人がなかった、ところまで思い出してスっとキモが冷える。これはあの指輪と全く同じパターンだ。そうやって考えているうちに相手はふ.う.と,く,んをこじ開ける、すると中からは何かの機器が出てきて息を飲んだ。そしてこれが盗聴器だと聞かされれば更に悪寒が走る、つまりこの人形が来てから今まで事務所の会話は聞かれていたということになる。それほど高性能ではなさそうなのを見るに声がはっきりと聞き取れるのはデスク周りだけだろうが音のやり取りで自分が事務所を出るのくらいは簡単に分かるだろう。もしこれがもっと高性能なマイクで相手との会話を全て聞かれていたら、カメラが付いていて映像まで筒抜けだったら、あらゆる可能性が頭に過ぎって上手く酸素が取り込めない。意識して深呼吸をしたあとに贈り物が保管してあるキッチン奥に行くといつか貰った風呂敷を取ってくる、そのまま相手の手の中にある人形を丸ごとくるんで音をなるべく遮断し、さらにデスクの棚の奥に押し込んだ。ひとまずこれで盗聴されることはないだろう、だが自分達が思う前から彼女の手はこの事務所に及んでいたらしい。こうなれば手段は選んでいられない、依頼以外ではあまり使いたくなかったが「フィリップ、あんまり気分は良くねぇと思うけど…梓さんのこと地.球,の,本,棚で調べてくれねぇか?」と頼んで)
…そうだね、何かヒントがあるかもしれない。
(ここ数日デスクに置いていたこの街のマスコットに盗聴器が仕込まれていたと分かれば相手の表情は固まり顔色も悪くなっているように見えた。今のこの瞬間も聞かれているかもしれないと思えば下手に動けなかったが相手が手の中人形を風呂敷に丸め込んで棚に押し込んで帰ってくる。壊しても良かったが流石に盗聴となれば警察沙汰であり証拠維持のためにもこれが一番だろう。相手が検索を頼んで来れば同意するように頷く。むやみやたらに他人を検索して詮索するべきではないと初めの頃に言われた事があるが今回は例外だろう。先に事務所の戸締りをして閉めてしまうと念の為ガレージに降りてから両手を広げ地.球.の.本,棚へと入る。早速彼女の名前を入れ同姓同名を絞るためのいくつかのキーワードを入れるとすぐに一冊に絞られる。それを手にして現実に戻ってくると初めの数ページをめくる。「プロフィールは以前依頼を受けた時に聞いたのと大体一致している。…だけど風.都.に来たのはここ数年の事のようだ」と文字を目で追いながらずっとこの街で暮らしていると言っていた彼女の嘘を指摘する。だが人物の本となると情報が多くてページが多い。パラパラと流し読みしながら「…彼女に関して何かここ数日で気になるワードとか項目は無かったかい?」と話を振って)
あの時は捜し物だったから彼女の周辺はそこまで調べてねぇしな。…あんまりいい趣味じゃねぇが…キーワードは『連絡履歴』、協力者がいるんなら頻繁にやり取りしている相手がいるはずだ
(この地球のほぼ全ての出来事が記録されている本棚ならば個人の情報を引き出すことも容易い、彼女の言葉が嘘であるかも検証すれば答えを導くのは簡単だ。ガレージに移動して早速検索を始めれば手始めとばかりに相手がひとつ彼女の嘘を暴き出すとまるで暗い深淵を覗き込んでいる気になって吐き出す息は重い、だが彼女がこちらに向ける執着がなんなのか解き明かさなければきっとこのままいたちごっこは続くだろう。こちらからは真っ白にしか見えない本を見つめながら多少後ろめたさはありながらも彼女の連絡の履歴を参照するように頼む。ここ数日監視の目は続き毎日会うことに加えてあの写真、彼女ひとりではなく他にもこちらを監視している人物がいる可能性は高い。誰かを協力させて監視するにしても連絡をこまめに取り状況を共有し連絡を取り合うことは必須だろう。その存在を確かめるためにもまずは協力者を炙り出すことにして)
連絡履歴…ここか。……何件かあるけど毎日朝と夕方、そしてその間の時間に通話している人物がいるようだ。
(隣で様子を見守る相手の息は重い。本人の許可無くその素性や行動を暴くのは本来は避ける性格だが今回のことは他に調べようがない。ページをめくりながら相手に見る項目の糸口を尋ねるとまずは協力者の方を炙り出す提案がされる。直ぐにその項目を探せば近日の通信履歴のページを見つける。特に相手が視線を感じるようになったここ数日に絞って見てみると朝から夕にかけて頻繁に電話やメールで連絡を取っている人物を見つける。更に今日と昨日の時間を見るとパトロールのために事務所を出た時間と帰ってきた時間の辺りと一致している事に気付く。恐らくこの人物が協力者だろう。そしてその人物の名前について調べてみると思いがけない情報が出てきて動きを止める。そして相手を見て「…その人物は綾音と言って彼女の妹だ。学生の時の両親の離婚で苗字は違うようだが彼女が風.都に来たタイミングで妹も後追うようにやってきて一緒に暮らし始めたようだね」とその情報を共有する。更に本を読み込んでいきながら「妹は相当姉に懐いているみたいだ、…もしかしたら妹の方も姉の恋のサポートをしているつもりなのかもしれない」と抱いた推測を口にして)
連絡の頻度とタイミングからみて綾音ってのが協力者だな。離婚して暫く離れていた姉に盲目的に従ってんならそこも一筋縄じゃ行かねぇ関係なのかもな…
(相手に連絡の履歴を検索してもらえば協力者の存在はすぐに浮かび上がる、どうやら協力者は身内らしい。相当懐いているのならば梓が盗撮やストーカーなど犯罪まがいのことをしても積極的に協力している、ということだろうか。両親の離婚で引き離され再び出会ったのならば一筋縄ではいかない関係や感情があるのかもしれない、それこそ善悪を超えて姉の恋心を支えたいと思うほどに。愛憎表裏一体で一緒に暮らしながらも姉に逆らえない理由がある、という可能性もある。いずれにしろ綾音さんは梓さんのためならば何でも協力する状態にあるのだろう。彼女が自分達を監視し盗撮した方法もわかったところで次に彼女について知る取っ掛かりは「フィリップ、もうひとつ検索を頼む。彼女の過去の交際相手を調べてくれ。彼女が俺に執着するきっかけがその中にあるかもしれねぇ」ともう一度検索を頼む。彼女との接触は依頼の時だけ、その後最初の再開は偶然かもしれないがあとは運命という名のストーカーが生み出した必然だ。出会った当初に何かあったわけでもない、あれだけの執着を産むには彼女との交流が少なすぎる。となればこの行為は彼女の過去から地続きである可能性が高い。彼女と向き合うためにはこの項目は避けられないだろうと検索結果を待って)
ああ、調べてみよう。…彼女が初めて交際したのは高校生の時の半年間だ。それからは告白されても数日か一週間ほどで毎回別れているみたいだね。…だけど彼女から強くアプローチした人物が何人かいるようだ。
(相手の言う通り姉の犯罪まで踏み込んだ行為に協力しているならあまり正常な姉妹関係とは言い難い可能性が高い。こちらに説得を持ち掛けても諦めてくれる気がしない。更に相手は彼女の交際関係について頼んで来る、パラパラとページが捲られ該当箇所が開くとそこを読み込んでいく。意外にも彼女の交際相手はそれほど多くなく、告白されて付き合った分にはすぐに別れてしまっている。だがその後に記載のある交際までに至っていないケースの欄を見れば僅かに眉を寄せた。「一人目は通っていた塾の先生だ。苦手な教科を時間外まで教えてくれていて積極的にアプローチしていたようだ。二人目はアルバイト先の店長、こちらも優しく教えてくれたり賄いを作ってくれていたらしい。…そして一番新しい三人目が通っていた病院のカウンセラーだ。こちらは段々と来院頻度が増えていき業務内にプレゼントを渡したり退勤時を狙って待ち伏せ行為をしては警察沙汰になって最後には病院を出禁になっている」とその項目を読み上げていく。三人とも、そして相手も含め人に優しく接するような職業であり歳も彼女より上の人物だ。離婚したという事実を踏まえると「妹の方を引き取った父親は以前からあまり子育てに積極的では無かったようだから、優しくしてくれる年上の男性に強い執着があるのかもしれない」と推測を口にして)
最初に付き合った奴と別れたのが両親の離婚の時期と近いな。…そのカウンセラーに渡したプレゼントっての、もしかして指輪じゃねぇか?
(静かなガレージの中で静かに相手の検索結果に耳を傾ける。聞く限りで違和感のない交際は最初だけであとは彼女からアピールしている人物にしか興味がないといった様子だ。愛情の薄い父親に家族の離別と初めての恋人の別れが重なった事実、彼女はそこで何か糸が切れてしまったのかもしれない。彼女が言いよるのは決まって年上の優しい男性、父親から与えられなかった分を取り返そうとしているようだ。自分に特別優しくしてくれる、というのが彼女が執着するようになるトリガーなのかもしれない。相手が検索結果を読み上げて行く中で気になるワードが出てきて記憶を巡らせる。彼女がこちらに贈り物として手紙で渡してきたのも指輪だった。そしてもうひとつ指輪というキーワードには覚えがある、彼女が依頼した捜し物も指輪だった。通勤路で落としてしまったという指輪を生垣の中から捜し出し綺麗にしてからキザったらしいセリフと共に返したのを覚えている。彼女が経験した両親の離婚、出会うきっかけとなったもの、こちらへの贈り物、それら全てが共通していて「もしかしたら彼女にとって指輪ってのは重要な意味を持つものなのかもしれねぇな。両親が離婚したことで意味の無くなった指輪、一方的に好きになった人に贈るのも指輪だ。…俺が依頼で指輪を捜して彼女に渡したのも、彼女にとっては全く別でかなり重い意味になっちまってるんじゃねぇか?」と推測を口にして)
…本当だ、君に渡した物よりも安価だけど当時の彼女にとっては値の張る指輪を渡しているようだ。その可能性はあるね、両親が離婚した際に結婚指輪を置いて出ていったという記述がわざわざあるぐらいだからお揃いの指輪をしていれば結ばれて離れていくことがないと認識しているかもしれない。ならば君が指輪を一生懸命探して綺麗にして渡した事を指輪を大切にしてくれる人、すなわち自分に優しくて結ばれるべき運命の人が現れたと思ってしまったのかも
(彼女の生い立ちや交際関係を探っていけば人物像が見えてくる。今回と同じようなことを過去にも行っているようだが相手がカウンセラーへのプレゼントに反応を示すと更にそこを探って出てきた情報から推測通りだと告げる。続けられた言葉もかなり彼女の芯を掴んでいる気がして更に【指輪】というワードで絞り込むと両親の離婚の際に父親が指輪をその場で外して出ていったという記述を見つけた。この光景を目撃した彼女にとっては想い人との縁や愛情が指輪の存在と根強く結びついているのだろう。そしてそれは指輪に関する依頼を受けた相手も同じで彼女にとっては無くし物が戻ってきた以上に相手が指輪を大切にしてくれた、もしかしたらそんな特別な指輪を送ってくれたとすら思っているかもしれない。理解しづらい思考だが相手に執着する理由が見えてくれば一旦本から相手に視線を向けて「あの指輪を彼女に突き返せばそのつもりは無いと分かってくれそうではあるけど今でさえ手段を択ばない彼女が否定された時どういった手段に出るか読めないね…」と更に悩みを口にして)
あぁ、きっとそうだ。彼女にとって指輪は自分を愛してくれる人の象徴なんだろうな。……カウンセラーの時は警察沙汰にもなってるが…このままにしておくわけにもいかねぇし、彼女に指輪を返すしかねぇだろうな
(彼女の経歴の中、そして自分が経験した中でも強く存在を主張する指輪というキーワード。相手が更に深堀りすればやはり随所に記述は見られるようで彼女にとって指輪が特別なものであるのは明白だ。こちらが依頼として請け負った指輪を捜し彼女に返すという行為も彼女からすれば優しい男性が自分の為に指輪を贈ってくれたと解釈しているのかもしれない。彼女と同じ環境で育った妹ならばその考えに同調、あるいは同情して姉の行動をサポートしているのも頷ける。そうとなれば彼女にはっきりと拒絶の意志を伝えられる方法はひとつだ、相手も同じ意見のようだがその後の顛末に言及されれば目を伏せる。自分の前に執着した時にも大事になっているのならば今回も同じことになる可能性は高い、【探偵から指輪を贈られている】という認識があれば前回以上に取り乱す可能性だってある。だがこのままこの現状を受け入れ続ける訳にもいかない、この状況を終わらせるために、何より相手の心身の安寧を得るためにも彼女の執着を断ち切らなければ。腹を括れば少しでも安心させようと相手の頭を撫でて「明日で全部決着つけちまおう。何かあっても俺達二人なら大丈夫だ。不安も責任も俺らは半分こなんだろ?」と力強い口調で言って)
…ああ、そうだね。いつも通りの日常を取り戻す為にも早めに片付けてしまった方が良い。…翔太郎、
(彼女が相手の言葉を良いように解釈してしまうなら彼女の世界で特別な指輪を突き返せばその意図は伝わるはずだ。だがその後にどんな行動に取るか分からず、そのリスクに躊躇していると相手の手がこちらに伸びてきて頭を撫でる。嫌な方向に傾きかけていた思考が落ち着いて相手の力強い言葉が胸に染み渡ると先程の自分の言葉を引用した問いに頷いた。視線を感じ始めてからずっと相手の表情は重たく硬い。張り詰めたような緊張を解くためにも早くこの件を終わらせてしまうべきだろう。こちらも明日決着をつける覚悟を決めると改めて名前を呼ぶ。先程のように腕を背中に回して軽く抱き着くとそのままじっと見つめて「明日全部終わったら僕たちの家に帰ろう。ここも不便はないけどあっちの方がよく眠れる」と軽く笑みを見せながらその後の予定を提案して)
フィリップ、…あぁ、あそこが一番安心できる。…香水もつけられてねぇしな
(彼女の執着度合いを考えれば明日は何が起こってもおかしくない、本当はひとりで行きたいのだがきっと同じやり取りが繰り返されるだけだろう。ここまで二人で歩いた以上最後まで二人で行くのが筋というものだ。万が一のことがあっても相手を必ず守ることを密かに誓いながら頭を撫でる、俯き掛けていた表情はマシになってこちらも笑みを向けた。そのまま名前を呼ばれると腕が回ってきて抱き締められる、こちらからも名前を呼んでその体を抱き締めるとより強い決意が漲った。目線を交わしたまま明日の約束がされると軽く頷く、ここでだって寝泊まりはできるがより二人だけの空間である二人の家で相手の体温を抱き締めながら眠りたい。それに今ではすっかり当たり前になった二人の特別な香りが抜け落ちてしまっているのも物足りなくて小さな声で付け加えておいた。誤魔化すように目線を逸らすと「そろそろ寝るか」と声をかけて)
ああ、明日のために今日は早く寝てしまおう。
(頭を撫でられながらも相手をぎゅっと抱きしめるとその顔に笑みが浮かぶ。明日を乗り越えればまたいつも通りの日々が戻ってくるはずだ。ご褒美とばかりに家で過ごす時間を提示すればやる気が出てくるというものでぽつりとお揃いの香りを今はつけてない事が呟かれると小さく笑って後頭部を優しく撫でておいた。誤魔化すような声かけに伺うような視線を向けるが今日は大人しく明日に備えて寝るべきだろう。最後にぎゅっと抱き着くと寝る準備をする為に1階に戻った。交代で風呂に入ってお揃いの寝間着を身に付けると先に簡易ベッドの奥に転がる。昨日と同じ狭い空間に相手を招き入れるとまた緩く相手の体に腕を回して抱き寄せた。明日は何が起きるか分からない、まだ不安は残っているが大丈夫だと言ってくれた相手に答えるように額に軽くキスを落とすと「明日無事でいれるようにおまじないだ」と軽く笑って告げ)
……俺からも
(今ではすっかりお馴染みとなり油断すれば簡単に脳内を揺さぶられてしまう香り、それを自ら望むような発言は何となく恥ずかしくて目を泳がせていると伺うような視線を向けられるが同時に頭を撫でられて緊張が解れていくと同時に擽ったい気分になる。互いに強く抱き締めあってから離れると明日のためにも眠る準備を進めた。風呂に入って白と黒のパジャマに着替えるとベッドへと入る、狭いベッドの上で体を寄せあって確かな相手の温もりを感じていた。相手から額におまじないの口付けが落とされる、重苦しいものに纏わりつかれるのも今日で終わりだ。きっと明日には相手と共に二人の家で過ごせるはず。こちらからも顔を寄せて短く唇を重ねる、明日何が起こっても相手を守ると誓う意味も込めた口付けの後に「おやすみフィリップ」と声を掛けて瞳を閉じた。そして翌朝、目覚めるといつも通り身支度を一通り整え、相手に合図を出してから盗聴器が仕掛けられていた人形を元の位置に戻す、これで今日もまた彼女は自分達を監視することだろう。事務所にやって来た所長には筆談で状況を説明しいつも通り振る舞うように伝える。若干ぎこちない気もしたが彼女に問題なく盗聴出来ていると思わせるのには十分だ。その後デスクでいつも通り事務仕事をして途中で彼女から贈られてきた指輪を取り出しポケットに忍ばせる。いつも通りの時間になれば「そろそろ街の方見てくる」と相手に呼びかけるように、あるいは盗聴器に聞かせるように言いながら相手に目配せして)
じゃあ行ってくるよ。…今日は念の為なるべく人通りのある所や防犯カメラのある道を通ろう
(そっとキスをすると相手からも顔が寄せられ唇を重ねる。この場所も温もりも彼女に渡すつもりはない。明日への決意を改めてかためると「おやすみ、翔太郎」と返して目を閉じた。朝を迎えると相手の目配せで盗聴器入りの人形を元に戻す。それからいつも通りの朝の支度をしながら出勤してきた所長にも筆談で情報共有し、変わらない朝を装った音を彼女に聞かせる。朝の軽い書類準備を整えると相手から合図と共にパトロールに誘われる。普段通り応じる返事をしながら所長を見れば心配そうな顔をしていたが大丈夫だと表情と仕草だけで伝えてから事務所を後にした。まだ監視が付いていない内に今日回る道を提案する、強硬手段を取る可能性も考慮すれば直ぐに誰かが気付けたり証拠の残る場所の方が良いはずだ。相談しながら歩いているとあの重たい視線を感じて相手とアイコンタクトを取る。監視がついたならまた彼女が偶然を装って現れるはずだ、普段通り街の人と話して噂話の誤解を解いたりしながらパトロールを続けていると商店街の裏道に入ったタイミングで『翔太郎』とご機嫌なあの声が聞こえて)
っ、その格好……
(ハットを被り街へと繰り出せばすぐに相手から今日のルートについて提案される、もしものことを思えば人目がある方がいいのは賛成で主に繁華街を歩くことを決めて歩みを進めた。少しもしないうちにまた纏わりつくような気配を感じて相手と目配せする、こちらの思惑通り今日も彼女と彼女の妹の二人で監視しているに違いない。いつも通りのパトロールを続け彼女が流した嘘を正しながら歩いていくとやがて商店街の裏道に入って一瞬人目が途切れた。それを見計らったように彼女の声が聞こえて一気に緊張感が走る、軽く息を吐いてから振り替えると目を見開くことになった。そこに居たのは予想通り梓だったが彼女が着ていたのはいつか相手がこちらの彼女に扮した時の格好にそっくりだったのだ。服の雰囲気、色合いもほぼ同じ、過去女装した相手との噂が立ったのを利用しそのものの格好をして噂の彼女に成り代わるつもりだろうか。ウ.ォ,ッ,チ,ャ,マ,ンが言っていた【余計な情報】とはこの事だろう。文句を言うのは後々として彼女は『凄い!今日で連続何日目かな?私、こんなに毎日翔太郎と【偶然】会えて嬉しい。やっぱり私の運命の人って翔太郎なんだね』とひとり盛り上がっていた。今までは彼女に圧倒されるばかりだったが今日は違う、これで終わらせるためにわざと彼女の策に乗ったのだ。こちらの雰囲気が違うのに気づいた彼女は相変わらずキョトンとした顔をしていたが「梓さん、昨日も言ったが俺にはもう大切な人がいて梓さんとは今以上の関係にはなれねぇ」と改めて断りの言葉を入れてからポケットを探る、そして指輪を取り出し差し出すと「これも受け取れねぇから返す。俺にこれは必要ない」とキッパリと言い切った。暫く沈黙が流れる、しかし彼女の目の瞳孔はゆっくりと開いていってわなわなとその場で震えだして)
っ、…! やめたまえっ!
(裏道に入って人目が途切れたタイミングで彼女の声が聞こえる。身構えながら振り返ると彼女がいたがその服には見覚えがある。かつて喫茶店デートに乗り込むために着た女装の服にそっくりだった。あくまであの時だけの格好だったが相手の為に選んだ服を勝手に真似して恋人の座を乗っ取ろうとする意図を感じれば分かりやすく顔を顰めてしまう。彼女はそんな動揺も知らずまた嬉々として運命だと一人盛り上がっている。だがいつまでも声を発しない相手にキョトンとした顔をしていて、改めて断りの言葉を告げられると動きを止めた。そして指輪と共にキッパリと拒絶の言葉を相手がいうと彼女の顔から表情が消える。しばしの沈黙の後、わなわなと震え始め『…なんで? 必要なんて嘘だよ、そんなこと翔太郎は言っちゃダメなんだから』と震えた声でブツブツと語り出す。現実を受け入れられないような態度に様子を見ることしか出来ないでいると突然彼女が差し出す相手の手首をかしっと掴む、突然の強行に彼女を引き剥がそうとするが彼女は『ちゃんと付ければ良いんだよ!ほら、こうやって…!』と必死な声で叫びながら返された指輪を無理やり相手の指にはめようとする。爪が食い込むほど力を込めている姿は異常以外の何者でもなくその動きを押さえ込もうとしても『だって私達は運命なんだから!』と喚いていて指輪を無理やり押し込もうとする彼女と揉み合いのような状態になっていて)
っ、…俺は絶対にこれをつけねぇ。だから、
(彼女の中で愛情と深く結びつき過ぎている指輪、それをハッキリとした言葉と共につき返せば彼女の中でもその意味は通ったようで表情が失われていく。彼女の行動は迷惑であることは間違いないのだが自分の一言で失意に陥る姿はやはり胸が痛むものがあった。彼女は震えながらまた自分だけの世界の言葉を語り出す、それでも指輪を差し出し続けると突然腕を掴まれてしまった。そして指輪をむしり取られると無理やり指に付けようとしてくる、我を失っているせいか掴む力は痛みを感じるほどで一瞬顔を歪ませた。慌てた様子で相手が飛びついてきて彼女を引き剥がそうとする、こちらも腕を振りほどこうとするが血が滲みそうなほど爪が食いこんで動かす事ができない。火事場の馬鹿力と言ったところだろうか。再び言葉によって彼女を動揺させようとするが全てを言い切る前に『何してるの?』と別の女性の声が聞こえてくる。そちらを見れば彼女と何処と無く雰囲気が似ている女性が立っている、きっと妹である綾音さんだろう。綾音さんはゆらりとこちらへ近づいてくる、その顔は何処かやつれて目元は窪んでいて『なんで指輪しないの?お姉ちゃんの運命の人なんでしょ?早くお姉ちゃんと幸せになってよ。はやく…はやく!!じゃないと私の番にならないじゃない!』とまた正気ではない叫び声が響いて彼女は手元のバッグからゆっくりと光るものを取り出した。その手に握られていたのは包丁でスっと体が冷たくなる、女性二人ならば制圧することだって出来るだろうが今綾音さん側の腕は梓さんに掴まれていて自由に動かせず三人を巻き込んだこの揉み合いから離脱するのは難しい。次の瞬間に彼女が包丁を構えてこちらへと迫る、為す術はなくて狂気に染まった彼女の顔をただ呆然と見つめることしか出来なくて)
彼女まで…ッ、翔太郎っ!!…っ、が……、
(彼女に拒絶の言葉を返せば無理やり指輪をつけるという強硬手段に出る。二人がかりで引き剥がそうとしても火事場の馬鹿力のせいかなかなかそれは叶わず焦りだけが募る。そうしていると背後の方で別の女性の声が聞こえてきて振り返れば彼女と雰囲気の似ている女性、つまり綾音がそこに立っていた。その目がやはり尋常ではなくやつれているのにその目は爛々と輝いていてヒステリックに叫び声に近い声を上げている。そして妹は手元のバックに手を突っ込み、取り出した物が光る。それが刃の反射だと気付き、妹の狂気的な目が指輪を受け取らない相手に向いていれば全身が冷えていく。相手を失いたくないという強い感情が全てを支配すると反射的に身体が動いた。妹が叫び声のようなものをあげながら迫ってくる、鋭い声で相手の名前を叫ぶと同時に大きく一歩踏み込んで身体を妹と相手の間に滑り込ませる。空気が張りつめ視界に映る景色がやけにスローモーションに見えた。強く腹部に鋭く冷たい物が押し込まれる感覚、喉の奥から勝手に声にならない短い音が漏れた。包丁で刺されたのだと気付くのに数秒かかって、その間も腹部からは血が溢れだして包丁や服を赤色で染めていく。襲い来る痛みと急激に血が失われていくせいで見えている景色が滲んで足元が揺れているように感じるが相手に危害を及ばせないようの一心だけが身体を動かして包丁の柄の部分を彼女の手ごと強く握り動きを封じる。これでもう相手を刺すことは出来ないだろう。標的を間違えたことと溢れ出る血にパニックになったのか妹は『あ、あ、…やった、お姉ちゃんを邪魔する奴を消せた!これで、きっと!』とこの場に似合わない喜びと興奮混じりの声をあげていて彼女もまた『翔太郎、やっと2人きりになれるね…』と恍惚にも似た表情で名前を呼んでいて)
_____ッ!!フィリップ!!!
(包丁をこちらに構えた綾音さんが近づいてくる、対処の為に動くことも出来ない今ただこちらに迫る刃を見つめることしか出来なかった。痛みを覚悟した矢先に何かがこちらの体を押し退ける、そして彼女との間に割り込んだ。その人影が誰なのかはすぐに分かってそこからは息をするのを忘れてしまう。立ち塞がる相棒で恋人でこの世で一番大切な人、その人の体に彼女の持つ包丁は吸い込まれていく。目の前で起こる光景を認識しているのに受け入れる事が出来なくて世界が急速に冷たく色褪せていく気がした。しかし相手の絞り出したような苦しげな声で意識を取り戻す、そして無意識のうちに声の限り相手の名前を叫んでいた。相手が刺されたというのにこの姉妹はそれを喜ぶように笑っていてブツリと頭の中の糸がちぎれる、こちらを強く掴む手を力を込めて無理やり引き剥がすと爪をたてられたままだった腕には赤い筋が走るが今はそんなことはどうでもいい。薄い息のまま背後から相手へ近づくと包丁を持つ綾音の手首を素早く握って加減を忘れて強く握る、すると先程まで恍惚と笑っていた彼女は悲鳴を上げた。彼女の握力が弱った所でこれ以上ナイフが動かないように相手の手を慎重に外させると相手の体を支えて「絶対動くなよ!」と言いながら相手の体をゆっくり地面へ寝かせた。包丁は深く入り込んでしまっている、下手に動かせば血管を塞ぐものが無くなって更に大量の血を流してしまうだろう。相手の体を支えていると背後から梓と綾音は『ねぇ翔太郎指輪は?』だとか『早くお姉ちゃんと結ばれて』だとか雑音を発していてそれにまた頭の中で何かが切れる音がすると「これ以上俺達に構うな!!」と叫んだ。周囲一帯に声が響き渡る、どうやら騒動を聞きつけたらしい人が集まってきていて警察と救急車を呼んでくれているようだ。相手の頬に手をあてながら「すまねぇ、俺が油断したから……もう一人いるって知ってたのに……フィリップ、」と不安と後悔が入り交じった目を相手に向けつつ呼びかけて意識を保とうとして)
……っ、は…、しょうたろう…大丈夫だ、多分、これくらいじゃ、死ぬことは、ないから…、……
(視界がブレて急激に手先が冷たくなっていく。その中でも相手の声だけははっきり聞こえて背後に相手の存在を感じると気力で立っていた膝は崩れて力なく相手に寄りかかりながら地面に寝かされた。空気が喉の奥に引っかかったみたいで上手く息を吸う事が出来ずに浅くペースの速い空気を繰り返す。腹部は熱と痛みを発しているのに指先は冷たくて先ほどから震えている気がする。周囲の声は水の中に居るみたいにぼやけて彼女達がなにを叫んでいるのかも分からない。そんな中、頬に何かを感じればその主を探すように目を向ける。滲む視界でも相手の顔だと直ぐに分かって無事であることに僅かに安堵の笑みを浮かんだ。一方相手の顔は焦りと後悔で歪んでいるのが見えると血で濡れた手をふらふらと伸ばして相手の手に重ね、弱々しくそこを握った。こんな状況になったのはどう考えても相手のせいではない、彼女達の行動は予測不可能だったのだから。そう伝えたいのに上手く頭も口も動かなくて代わりに短く呼吸を花見ながら命に関わることはないだろうといつもの口調で相手を安心させる言葉を紡ぐ。約束をした相手を一人だけ置いていく訳にはいかない。だがそんな意志に反して体は暗い海の底へ引き込まれていくように重たくなって意識が揺れる。流石に無茶をし過ぎたらしい。遠くでパトカーと救急車が近づいてくるのが聞こえる、相手の名前を再度口にしようとして「…しょう、た…」まで呟くも最後は喉が震えるだけで音にならずに消え、相手を映していた瞳がゆっくりと閉じられていき)
この状態で言うことじゃねぇだろ!…馬鹿野郎、なんで庇ったんだよ……ッ、フィリップ!ダメだ寝るな!フィリップっ!!
(支えた相手の体はみるみると力が抜けていきその体温さえも失われていって相手がこの手から零れ落ちていく感覚に上手く酸素を取り込めなくて呼吸が浅くなる。相手の呼吸はそれ以上に浅くて生命が目の前で消えていくようで頭が真っ白になっていく。それなのに相手はこちらを焦点の合わない目でみて微笑んでいてそれが今生の別れ際に見せる笑みに見えれば相手を取りこぼしたくなくて支える手に力が籠った。相手の手がフラフラと上がってこちらの手に重なる、しかしその手は相手自身の血で染まっていて直接的な死の予感に瞳が揺れた。添えられた手をこちらから包んで強く握る、その指先が恐ろしく冷たくて動揺で吐き出す息が震えた。苦々しい顔であの時あのまま自分が、と口にするが逆の立場ならば必ず自分も同じことをする、相手の行動原理は分かるがそれでも相手を失うなんて耐えられることではない。相手がこちらの名前を呼ぼうとするがそれが途切れて目が閉じられようとする、このまま相手が死んでしまうのではと頭に過ぎれば夢中で相手の名前を叫んだ。相手を呼ぶだけしか出来ないのがただただ無力で声が枯れるのもお構い無しに必死に名前を呼んで手を握って相手の意識を繋ぎ止めようとしていた。不意に肩に誰かの手が置かれて振り返る、そこには救急隊員がいて『病院に運びます!』と声が掛けられる。いつの間にか周囲には救急車とパトカーがいくつも止まっている、梓と綾音は警察に連れていかれているところだった。「お願いします!」と相手を救急隊員に引渡し一緒に救急車に乗る、意識レベルが低いらしく『呼びかけ続けてください!』と言われれば救急車の中でも血塗れの手を握ったまま「フィリップ!しっかりしろフィリップ!!」と名前を呼び続けて)
(遠くから必死に相手が呼びかける声が聞こえる。それに答えなければ、と思うのに全身に重りがついたようで力が入らない。何とか抗おうとするも耐えきれず瞼は落ちていった。相手が救急車に同行して救急車に乗り込むとサイレンを鳴らしながら発射し、救急隊員が数字を読み上げたり手配の連絡をひっきりなしにしていて車内は嫌な緊張感が募る。隊員が呼びかけても反応しなかったが相手が必死に名前を呼び掛けているとその何度目かでほんの僅かにその手を握り返していた。病院にたどり着くと担架に乗せられ院内へと入る。緊急性を示すように『通してください!』と看護師が声を上げ数人がかりで無機質な白い廊下を駆け抜けていった。やがて処置室の自動ドアの前にやってくると相手に対して看護師が『患者のご家族ですか?』と制止も兼ねて尋ねる。そして『こちらでお待ちください』と告げ相手を残して中に消えていると部屋のランプが点って)
そうだ!っ、……頼む……
(救急車で運ばれる間もただ相手の名前を叫んで現世に相手を繋ぎ止めようとする、周囲の救急隊員の声が緊迫しているのが分かれば相手がそれだけ死の淵にいるのだと思い知らされた。名前を叫ぶ中で繋がる手に僅かに力が籠ると相手は大丈夫かもしれないという気持ちとこれが最後の反応かもしれないという気持ちが交互に襲いきて正気ではいられなかった。救急車を降りて病院の廊下を駆け抜ける間も決して手を離さずに相手の名前を呼び続ける、そして処置室にたどり着けば制止と共に問いかけがされて、迷いなく相手の家族だと返事をしていた。ここから先はもう何もすることは出来ない、傍にあったベンチに座ると意識的に酸素を取り込むよう呼吸をして弱々しく言葉を溢れさせる。今自分には何も出来ない、あまりにも無力だ。先程までの喧騒は嘘のように静かになって、代わりに相手が刺された瞬間の映像が何度も脳内を巡る。何があるか分からないと腹を括っていたのにまさか凶器を持っていてしかもそれが相手を襲うなんて。彼女の経歴を思えば考える事が出来た事態だった、妹についてもっと検索して情報を得て対策を考えるべきだった、強引にでも相手を置いていくべきだった、次々に後悔が浮かんできて、もしもこのまま相手を失ったらと冷たい囁き声が聞こえる。最悪の結末を必死に振り払いながら処置が終わるのを待った。そして時間がどのくらい過ぎたか分からなくなった頃、処置中のランプが消えて勢いよく立ち上がる。中から医師が出てくれば無意識のうちに駆け寄っていて「フィリップは?!」と間髪入れずに聞けば『ひとまず命は取り留めました。後は本人の回復力次第です』と言われて、なんとか命が繋がったことに安心と疲労が押し寄せると崩れ落ちるようにベンチへと座って)
(医師が相手に成功の結果を伝え、処置が終わると事務的な入院の手続きへと移る。その途中ふらりと刃.野,刑.事が現れ、検索の無事を知るとあの後の彼女らの話を始める。姉妹は警察に押さえられると『翔太郎と引き剥がされた』『邪魔するフィリップさんが悪いのに』なとど騒いでいたようだが徐々に自分達の置かれている今の状況を理解して大人しくなってきたらしい。調べる中でストーキングの余罪も出てきて重い処罰になりそうと言いながら相手の顔色を見れば『フィリップ君が心配なのは分かるがお前も思い詰めてばかりいないでちゃんと休めよ。フィリップ君が目覚めた時にお前が倒れてちゃかっこ悪いからな』と肩をポンポンと叩く。さらに事情聴取などは落ち着いてからするように話を通しておいたようで刃.野刑.事は調査に戻ると去っていった。それから少しして先程の看護師が近付いてきて『刑事さんからお話を聞きました。まだ意識は戻っていないのですが面会致しますか?』と問いかけて)
、します!お願いします!
(ひとまず命は助かったが相手がまだ目を覚ましていないことを思えば全く安心は出来なくて不安と後悔に苛まれたまま入院の手続きを行った。その途中にジンさんがやってきてその後の姉妹の話を聞く、ジンさんの話を聞くにもう彼女らから被害を受けることはなさそうだったが最後まで彼女らの認識が変わらなかったのが何とも悔しいよう虚しいような気分になる。相手は刺されて命の危機にまで陥ったのに彼女らが罪を数える日はくるのだろうか。無意識にため息をつきながら事務所に証拠品として盗聴器入りの置き人形があると伝えるとジンさんからは休むように言われその後調査へと戻っていく。しかし到底休む気にはなれなくて「あいつが苦しんでんのに休めねぇよ…」と誰もいない空間で呟いていた。入れ替わりで看護師がやってくる、面会するか問われると即座に返事をしてそのまま病室へと連れて行ってもらった。まだ絶対安静だと釘を刺された後に病室に入る、静かな部屋の中、心音を観察するモニターの音が響いて真っ白なベッドの中に相手が静かに眠っていた。配線や管が繋がれ痛々しい姿にまた息をするのを忘れてしまう、足音を立てないように近づくとベッド脇に椅子を置いて座り相手の顔を覗き込んだ。息はしているようだが顔はまだ青白い、あの時の光景がまた脳内に流れて「…俺のせいだ」と小さく呟くと項垂れる。せめて少しでも早く相手が目を覚ますよう祈りを込めるように相手の手に自分の手を重ねると優しく握っていて)
……………、…
(相手が個室の病室に通されると検索が静かに眠っていた。血塗れになった服は入院着のようなものに着替えられていてより普段と違う雰囲気を纏う。静かな病室の中で相手に手を握られながら深く深く眠っていたがそれから数時間程経って項垂れたままの相手が一度手を握り直したタイミングでピクリと瞼が一瞬震える。引き摺られるようにしずんだこの場所は静かで危害を加える物事や苦痛を感じることはない。深く心身が傷ついた状態ではこのまま引きこもったほうが良いのかもしれないと扉が閉じかけるが不意に認識した温もりと接触が意識の水面を揺らした。この感覚は知っている、自分にとって特別な、帰るべき場所の温度だ。そう強く自分の中で確信するとずっと閉じていた目を薄ら開く。見知らぬ天井をぼんやりと見つめ、まだ夢と現実の中を揺蕩うような意識の中、無意識に自らを呼び覚ました特別な何かを探すように視線だけを動かして)
………フィリップ?ッ、フィリップっ!!良かった…
(俯いたまま相手の命を繋ぎ止めるように手を重ねて虚無の時間を過ごす、もしこのまま起きなかったらという不安とあの時もっと何かしていればという後悔が延々と頭を巡っていた。機器類の音しか聞こえない部屋の中で薄らと聞こえていた相手の呼吸音が不意に少しだけ大きくなる、虚無の空間ではそんな僅かな変化すら容易に分かるほど大きな変化で無意識に名前を呼びながら顔を上げた。するとそこには先程まで重く閉じられていた瞼が薄ら開いた相手の姿があって弾かれるように立ち上がり顔を覗き込む、間違いなくその目が開いているのを見れば相手は一命を取り留めたのだと確信して一気に安堵が押し寄せた。まだぼんやりとしている相手にこちらの存在を伝えるため頬に手を添える、何よりも大切な相手を失わずに済んだが同時にあまりにも痛々しい姿に感情はコントロール出来なくて悲痛な顔のまま「すまねぇフィリップ、お前をこんなにさせちまって…お前を守るって言ったのに…ほんとにすまねぇ」と謝罪を重ねて)
…しょう、たろう? …ぜんぶ、僕が独断でしたことだ…彼女たちに、君を傷つけさせたく、なかったからね
(何かに導かれるように薄っすら瞼を開くとぼんやりと天井を見上げる。まだ感覚が覚束なくて夢の中に居るような心地で揺蕩っていたがその視界の中に違う物が映れば視線はそちらを向いた。何かが近づいてきて頬に温かさを感じれば意識を失う前の縋るような顔と目の前の悲痛な表情を浮かべる相手の顔が重なってその大切な人の名前を呼んだ。段々とその時の記憶が蘇り今見える景色と着ている服を見ればあのまま力尽きてしまって処置の為に病院に運ばれたのだと理解する。そして相手が深い後悔や不安の中に居たことが推測出来ればゆっくりと手を伸ばして相手の手を僅かに握る。目覚めたばかりのせいか上手く口は回らないがそれでも謝罪を重ねる相手のせいではないと伝えたくて途切れ途切れに言葉を紡ぐ。医師の診断は聞いていないがあの時刺された場所と処置の痕を見るに深く刺さりはしたが臓器までは到達しなかったのだろう。少しずれていれば致命傷になっていたのはさておき、相手の手を確かめるようにまた力を込めると「あれくらいじゃ、死なないって言っただろう?」と軽く笑みを浮かべて見せて)
それでお前が傷ついてどうすんだよ。俺がこの世で一番大切なのはお前なんだぞ……医者によりゃちょっとでもズレてたら、っ…
(目を覚ました相手の頬に手を添えて見つめれば考える前に謝罪の言葉が口から溢れ出してしまう、相手がこちらの名前を呼べば漸くその声を聞くことが出来て瞳が揺れえ無意識に詰まっていた息を無理やり吐き出すがそれも震えていた。相手の手が重なるがほんの少し手を上げるのも辛そうで直ぐにその手をこちらから握り直して支える。相手がこちらを想って行動したのは理解できる、自分だって必ず同じ事をする。それでも、そのせいで欠ければまともに生きていけないほど自分の中に食い込んだ相手を失いそうになった恐怖に打ちのめされて、自分自身が許せなくて、泣きそうな声を出しながら握った手に僅かに力を込めた。相手は冗談めかして笑って見せるが執刀医から聞いた話ではとてもそんな楽観的な事は言えない、その事実を口にするのも辛くて途中で言葉は途切れてしまった。代わりに優しくコツンと額を合わせる、未だ震える声のまま「…俺をひとりにしないでくれ」と弱々しく乞うよつに呟いて)
…翔太郎。…僕が取った行動に、後悔はない。もう一度あの時に戻っても多分同じ行動を取ると思う。だけど、君を不安にさせるつもりは無かった、ごめん。
(こちらがゆっくりと手を持ち上げるとすぐに相手からも握り返され支えられる。相手の存在を感じれば胸の内に安堵が広がっていくが一方で相手は震えたような泣きそうな声で言葉が返ってくる。自分が意識を失っている間相手はずっと大切な人を亡くしてしまうかもしれないと不安だったのだろう。以前にも似たようなことがあったといえその絶望感は薄まる物でも慣れる物でもない。こちらを気遣うように軽く握り返された手は相手の一番弱い部分が現れているようで震えた声で聞こえた呟きを聞けば思わず口を閉ざした。いつもなら頭に手を伸ばして優しく撫でて安心させるところだが寝たままの状態ではそれも適わない。代わりに名前を呼ぶとじっと見つめる。もっと上手くやればよかったという後悔はあれど、あの時相手を庇った行動に後悔はない。また似たような状況になれば反射的にまた同じことをしてしまうだろう。だが相手にこんな顔をさせたかったわけでは無くて眉尻を下げると謝罪のことを口にした。握っていた手を一度解いて、指を絡めるように繋ぎ直すと「ちゃんとここにいるよ、君を置いて行ったりしない」と誓うように告げて)
…分かってる。あの状況ならお前は何度でも飛び出すだろうし、逆の立場なら俺も同じことをする。お前じゃなくて俺が刺された方が良かったって言ったらお前が怒るのも、知ってる……だから、今俺の傍にいてくれるならそれでいい……
(目を覚ました相手をどっしり構えて迎えなければならないのに感情のコントロールがまるで出来なくて情けない声を出しながら縋るように呟く、大切な存在がこの手から零れ落ちそうになる感覚は何度経験しても慣れるものではない。少し間が開いて相手から名前を呼ばれると額を離して目線を交える、そして相手に後悔はない事と謝罪を告げられると目を伏せた。自分の存在にすら食い込んだ相手の事は少なくないほどには知っている、相手がどうするか、自分ならどうするか、互いに承知しているだろう。相手に謝らせてしまったことが申し訳なくて首を振った。相手に望むことは先程の呟き通り、ただ傍にいて欲しい、それだけだ。握っていた手が一度解けて指が絡まるように繋ぎ直される、より相手の存在を感じることが出来るようになって言葉でも傍に相手がいると伝えられるとゆっくりと息を吐き出した。優しく手を引き寄せると相手の指をこちらの頬に当てる、頬に当てる指先はあの時と違って体温を取り戻しつつあって漸く小さく笑みが浮かぶ。そしてこちらかも何度も交わしてきたのと同じように「俺もお前の傍から何があっても絶対離れねぇから」と最期まで一緒にいる誓いを口にして)
当たり前だ。…うん、僕にとっての居場所はここだから、何度だって君のそばに戻ってくるよ。
(自由にまだ体が動かせない分、その手を握って言葉を送る。きっと互いに危機が迫れば咄嗟に庇ってしまうし、残った方はその度に失うかもしれない恐怖に怯えてしまうのだろう。相手が刺された方が良かったなんて言い出せば露骨に眉を寄せ、強い口調で肯定の言葉を返す。自分が痛くて重傷を負うよりも相手が傷つく方がずっと嫌だ、多分それは相手も一緒だろうけど。さらに相手の存在を確かめるように指を絡ませて繋ぎ直すと相手が息を吐き出したのが分かってそのまま相手の顔の近くに引き寄せられた。そのまま頬に手の甲が触れるとその暖かさとやっと見えた小さな笑みにこちらも表情を緩めると軽くそこを撫でた。改めてずっと傍にいることを誓われると相手の一番であると改めて実感出来て暖かいものに満たされた。自分も同じ気持ちなのだと伝えていればもっと相手に近づいてその存在を感じたくなって体を起こそうとする。だが先程閉じたばかりの腹部が激しい痛みを発して「…っ、ぅ」と言葉にならない声を漏らしながら何とか上体を起こすと繋いだ相手の手を軽く引いて「翔太郎」と呼びながらこちらに近づくように促して)
ッ!馬鹿傷が、…無茶すんなよ……
(こちらの方が怪我にも慣れて体力もあるのだから刺されて無事なのもこちらだろうと思ってはいるのだが、当然相手はそれを良しとしなくて強く否定されると眉を下げる。身代わりで飛び出したのにと言い返したいところだがこれ以上は不毛だろう、命に変えてでも相手を守りたいという想いまできっとお揃いだ。こちらの頬に相手の手をあててなるべく接触面積を増やしていると不意にその体が動き出して苦痛に満ちた声が聞こえれば驚くと共に体の芯が冷える。まだ手術を終えてそれほど時間は経っていない、傷が開けばまた命に関わるだろうと直ぐに止めようとするがその前に相手は上体を起こしてしまってまた不安と焦りが胸の中に渦巻いた。しかし相手が軽く手を引けば何を求めているのか理解して思わず文句を言うように呟きながら体を寄せる、背中に腕を回して支えるようにすると「体の力抜いてもいいからな」と声をかけてこちらも上体を寄せた。腹部の傷を思えば思いっきり抱きしめることは出来ない、肩部分だけを触れ合わせるようにして傷に響かないようにすると相手に軽く擦り寄る。相手の体は随分と体温を取り戻しているが代わりに薬品のような知らない匂いが付いていた。触れ合ってはいるがこれ以上は許されなくて「…早くお前と二人で家に帰りてぇ」と果たせなかった約束をポツリと口にしていて)
だって寝たままじゃあれ以上近付けないじゃないか。…ん、…もう少しだけ待たせてしまうけど早く帰ろう、翔太郎
(何とか痛みにたえながら体を起こすと相手の焦った声が聞こえる。相手が同じ立場なら絶対安静だと寝かしつけただろうが今はただ無事に守れた相手の存在を確かめたかった。手を引けば何をしたいのか理解してくれたようで軽く腕を広げる、文句にはこちらも子供っぽい言い回しをしていたがこちらが望んだとおり相手が近付いてきて腕が回される。相手の言葉に甘えて体に響かない程度に相手に体重を預け力を抜いて抱き着いた。普段よりもずっと緩くぎこちない抱擁だが自分だけのポジションに戻れたことに安堵の息を吐いた。擦り寄ってくる相手の肩に顔を埋めると昨夜抱きしめた時に感じた熱や香りの幾らかを感じることが出来て深く呼吸を続けながら大切な人の存在を感じていた。そうしていると相手からぽつりと呟きがこぼされる。自分が怪我を負った以上傷が塞がってある程度動ける許可が降りなければ家には帰れない。結果的に約束を破ってしまったことになっていれば心苦しいが改めて最短で退院、そして自宅に帰ることが出来るようにと声を掛けた。ゆっくりと持ち上げた後ろ手で相手のアタマを撫で始めながら「そしたらアキちゃんにお休みを貰って、丸一日くっついていようか」と冗談交じりに提案して)
早く帰りてぇけど、傷がちゃんと治ってからだからな……そうしたい。お前と一緒で、家から出たくねぇ…
(さっき傷が塞がったばかりだというのに体を動かす相手に文句を言えば子供っぽい言い訳が返ってくる、だがずっとひとりで不安と恐怖と後悔とに苛まれたこちらも望むことは同じだった。いつも通りとはいかなかったがそれでもやっと相手の存在を感じられる。こちらが呟きを零せばそれを満たすような答えがされて頭を撫でられればゆっくりと息を吐き出し余計な力が抜けていく。今回の件が始まってからあの家に帰れていない、簡易ベッドで寝てはいたが二人だけの特別な空間でなんの憂いもなくお揃いの香りでただ相手を感じる時間が欲しかった。ただしそれもきっちり完治してからだ、ここで無茶をして後遺症が残っては困るのだから。さらに相手から冗談めかした提案がされるが考えるよりも先に心がそれを望んでしまって肯定の返事をしてしまった。相手を外に連れ出したからこうなってしまったのだ、それならばもういっそ、と薄暗い感情が言葉になってしまう前に顔をあげて目線を交えると「とにかく今は寝とけ、大怪我してんだからな」と小さく笑みを浮かべて言えばさらに顔を寄せごく軽い口付けだけを送って)
この前とすっかり立場が逆だ。…なら早く治してアキちゃんに交渉しないとね。…ん、君も疲れているはずだから早く寝たまえ。
(相手を緩く抱きしめてその存在と熱を確かめる。あの時彼女は包丁を手にして勢い良く向かってきていた。あの時庇わなかったら相手にもっと深く突き刺さったかもしれない。口にはしないが庇ったのは間違いでは無かったと改めて思い直しながら抱きしめていると傷が治ってからだと釘が刺されてしまう。相手が大怪我した時には自分が似たような事を言っていたなと小さく笑いつつ退院した後の話に思いを馳せると直ぐに相手からも肯定と渇望の返事がされた。自分も早く相手と触れ合って心ゆくまで一緒にいたい。その為に早く治さなくてはと決意を高めているとまた体が気怠くなってきた。どうやら術後すぐに動いて限界が来たらしい。相手が顔を寄せ唇が重なると幸せを感じるもすぐに物足りなさが出てくる、だが満足に動けなくて退院までのお預けだろう。あれからずっと起きっぱなしなら相手も疲れているはずでこちらからもお返しのキスを送ると相手も体を休めるように促す。また痛みに耐え相手に支えられながら体勢を元に戻すと直ぐに瞼が重くなってくるが今度は冷たく強引に引き込まれるものではなく穏やかで暖かい眠気だ。その瞳で相手を見上げ「…おやすみ、翔太郎」拙い声で告げ)
あぁ、おやすみフィリップ
(相手の冗談めかした言葉を正面から受け止めて返事をすれば相手からも前向きな返事がされて小さく口角をあげる、ずっと事務所で寝泊まりすることを強いられ落ち着かない日々を送っていた分を早く取り戻してしまいたかった。短く口付けを送れば相手の瞼が重そうになっていく、相手との時間は全く足りないのだが今はこれが限界だ。相手からも口付けがされてふわりと幸せが胸に浮かびながら傷に触らないように慎重に体を再び横たえた。穏やかな顔を浮かべる相手にこちらも穏やかな声で返事をする、ゆっくりと瞼が閉じられて相手はまた眠りについた。先程までの命が消えるかもしれない冷たい眠りではなくリラックスした穏やかな眠りだ。先程までと体勢は同じでも感じるものは全く違って安堵の息を漏らすと暫くその寝顔を眺めていた。いくらでも時間が経ってしまいそうだったが相手から早く寝るように言われたのを思い出せば静かに病室を出る、そして看護師に先程一時的に目を覚ましたことを伝えれば彼らもそれならば安心だと安堵の顔を見せていてさらに相手の無事を確信した。それからは事務所と病院を往復する日々が数日続いた。あの約束がある以上ひとりで家に帰る気にはなれなくて相手が退院するまでの間毎日見舞いに行く日々が続いて)
………よし、これでもう帰ることが出来るね。
(穏やかな眠りに誘われて目を閉じた日の翌日から退院に向け非日常の日々が始まった。傷口が開いてしまわないように最初の数日は安静状態で経過観察となり、それから起き上がるのが許可され見舞いに来た相手と話したり依頼の手伝いで簡単な検索くらいはこなしていた。やがて点滴が外れると歩行のリハビリをするようになって一週間程すればスタスタと歩けるようになっていた。お見舞いに来てくれた刃.野.刑事の事情聴取に応じたり所長に休みの件をお願いして何とか許可を貰ったりしながら過ごしていれば当初二、三週間と言われていた入院期間を予想を超えた回復力と駄々を捏ねたことで定期的な通院と激しい運動をしないことなどを条件に一週間半程で退院を勝ち取った。退院が決まった日、荷物を纏めると迎えに来てくれた相手にもって貰って退院の同意書にサインをし、やっと家に帰ることができることに声を弾ませながら相手に話しかけて)
……お前、ほんとに大丈夫なんだろうな?もう何日か様子を見た方がいいって言われてんのに押し切りやがって…
(事務所と病院とを往復し時には相手の衣服を、時には果物などを、時には検索の案件を持って行って毎日見舞いを続ける日々も今日で終わりらしい。最初は寝たままで動く度に苦しそうな相手を見るのに胸がキリキリと傷んだがそれを隠しながら退院の日を楽しみに相手の回復を待った。少しずつ元のように体が動かせるようになり難なく歩いたのにはホッとしたが、その後医者とこちらが渋るのを押し切って通常より早く退院するのが決まってしまった。もちろん漸く相手と一緒に家に帰れることは喜ばしいのだが、帰りたいがために嘘の申告をしていないかと頭の上から足先まで注意深く観察しながら相手の歩く様子を見守る。声を弾ませる相手とは対照的にまた別の心配が増えてしまった気分だ。だが医者が言うには激しい運動をしなければ問題ないとのことで、つまりそれは相手と二人で一日家に籠る言い訳が出来たとも言える。そう思えば段々と楽しみが勝ってきてバイクからヘルメットを取り外すと「安全運転で俺達の家に帰るか」と差し出して)
君は心配し過ぎだよ。病室に居たって本を読むか君と話すか院内を歩き回るかくらいしかしてなかったしそれなら家でも同じだろう? …ああ、頼んだ。
(やっと帰れると上機嫌なこちらに対して相手は相変わらず注意深く心配そうな顔を向けていて改めて平気だと返す。もう殆ど傷は塞がっていて普通に動く分には問題は無い。予定通りの日程だとしてもどうせ病室で経過観察として大人しくしているのなら家で同じ事をしても変わらないはずだ。屁理屈をこねながら病院を後にすると久しぶりの外の空気を吸う。一緒に駐車場に向かい、バイクの元にたどり着いた時には相手も乗り気になっていて差し出されたヘルメットを受け取ると小さく笑って早速被りながら後ろに乗り込んだ。相手の腰に腕を回して抱き着くとバイクが発進して二人で家へと帰る。所長の気遣いで今日明日はお休みを貰っていて無事に約束を果たせそうだ。やがて見慣れた景色が近づいてきて家の駐車場にたどり着くとワクワクを抱きながらバイクから降りてヘルメットを預ける。すぐにでも駆け出したい気分だが医者に禁止されていたのを思い出すと「行こう、翔太郎」と言ってまだ外にも関わらず相手の手をとって家へと向かって)
そういう屁理屈ばっかり思い付きやがって……
(安静にしているのから病院でも家でも確かに同じなのだが見守るこちらとしてはもしもの時を思えば心配ではある、しかし相手の理屈は筋が通っているし何よりようやく相手と家に帰れることが嬉しくて心做しか声も弾んでしまっていた。相手と共にバイクにまたがれば家へ向かって走り始める、ずっと病院に閉じこもっていた相手に久しぶりにこの街の風を感じてもらいながらバイクを走らせれば段々と後ろの相手の落ち着きがなくなってきて、帰宅するのを楽しみにしているのだと分かればヘルメットの下で口角を上げていた。やがて駐車場にたどり着くと自然と手が繋がれる、本来はルール違反だがこれくらいの距離なら構わないだろう。それにこれならば急に走り出さないよう止めることもできる。そんな言い訳を重ねていつもよりゆっくりとした速度で移動すれば二人の家の玄関へとたどり着いた。鍵を使って扉を開けると漸く相手が帰ってきたのだと実感して「おかえり、フィリップ」と噛み締めるように言って)
ただいま、翔太郎。
(相手はやれやれと愚痴を零しているがその声は弾んでいる。あの日約束してからずっと待ち遠しかったがそれはきっと相手も同じだ。バイクから降りて相手の手をとって二人の家に向かうと相手が鍵を開けて扉を開けた。まだ中に入ってもいないのに噛み締めるように帰宅の挨拶を口にする相手を見れば口元がつい緩む。相手の手を引いて二人共が家の中に入ると家に帰ってきた事を伝えるように言葉を返した。ストーカー騒ぎで事務所で寝泊まりしていた期間も含めれば半月程この家には帰ることは出来てなくて何処か懐かしい気分にもなる。靴を脱いでリビングの方までやってくると相手が荷物を置いたりハットを金具に掛けるのを見届けてから近付き、そっと抱き着くと「やっと帰ってこれた…」と呟きを零し)
あぁ、……お前と一緒に帰ってこれて良かった…
(付き纏いにその後の病院もあってこの部屋には長い間帰ってこれず、入院の期間は二人で眠ることさえ出来なかったわけで漸く二人揃ってここに帰って来れた喜びが溢れて止まらない。相手の声で【ただいま】と帰ってくると余計にその喜びは膨らんで相手の存在をより傍に感じて胸がいっぱいだった。繋がれた手が引かれて二人で玄関をくぐる、一度片付けのために部屋には入ったがそれも数分だけでこうやって相手と二人で帰宅の挨拶をしながら二人の特別の空間に帰って来るのが随分懐かしく思えた。片付けを終えたタイミングで相手がこちらへと抱き着いてきて受け止める、あの時と違った暖かな体温を感じ触れることを躊躇う必要もない。緩く抱き着く体をこちらから強く抱き寄せてまた噛み締めるように本音を溢れさせていた。ずっと失っていた心地を取り戻し安堵と喜びとあの時これを失っていたらという不安が同時に膨らんでいく、少しでも取りこぼさないように抱き締める腕でそこにある布を握れば「今日と明日はずっと一緒にいてくれるんだよな?」と確かめるように問いかけて)
随分と待たせてしまったね。…ずっと一緒に居るよ、ちゃんと君のそばに居る。
(こちらから緩く相手を抱きしめると相手はそれを受け止め、さらに強く抱き寄せられた。病室でのこちらを気遣うような中途半端な物ではなくて不足していたものを埋めるような力強さに小さく笑みが零れる。本来ならばあの夜に帰ってこれるはずだったがそれからかなりの間相手を一人にさせてしまった。改めてその事を告げていると相手が縋るようにこちらの服を握り確かめるように尋ねてくれば少しでも安心して貰えるようにその背中を撫でながら今日と明日はずっと一緒に居ると何回も言葉にして約束する。仕事も休みならば他に何か考えたり外に出る必要もない、ずっと相手とだけの時間を過ごせるだろう。抱きしめてくっついた状態で軽く擦り寄って「二日間ずっと独り占めだ」と微笑んで)
おぅ、……いい響きだ
(今や相手と朝から晩まで一緒にいるのが普通になっていて病室で別れを言ってバイクで病院から離れる度に寂しさを感じていた。それが連日続いたわけで、ようやく【また明日】を言わなくていい日々が戻って来たのに安堵すると同時に二度と離すまいと相手を強く抱き締める。暫くは相手と離れられそうにないが二人がかりで所長様を説得して明日までは二人きりでいられるのだ、それを言葉として相手から伝えられさらに【独り占め】だなんて何より優越感を感じる言葉を聞けば嫌でも口角はあがってしまう。早く約束通り一日くっついている時間を始めたいがその為に必要な事がある。顔をあげて目線を交えると「早くお揃いの香りになっちまおうぜ」と待ちきれなくて急かすように風呂に入ることを促して)
ああ、そうしよう。準備するから少し待っててくれ。
(相手からの腕の力は変わらず強いがそれだけ相手を寂しがらせてしまったのだと思えば申し訳なさと、同時に満たされていくような想いがある。今日と明日はきっとお互いに物足りないと思った物を埋め合わせる時間になるだろう。その一つとしてお揃いの香りというワードが出てくると一瞬目を瞬かせてから口端をあげる。別々に生活していたせいで今はそれぞれの別の香りになってしまっていて相手の言う通りお揃いにしてから二人の時間を過ごしたい。直ぐに賛成を示すが今の体ではいつも通りに出来ないことが一つがあって一度腕を解くと病院から持って帰ってきた荷物を漁ってその中の袋を持って脱衣場に向かう。上の服を脱いで腹部の包帯を解くとまだ治り切ってない傷の痕が現れる。退院時に指示された通り患部を防水パッドで濡れないように保護すれば傷も見えなくなり準備完了だ。全て脱いでなんの迷いもなく一緒の風呂に入ることにすると相手の方を見て「髪を洗うのは任せて良いかい?」とお願いして)
………………あぁ。髪だけじゃなくて全部やってやるよ
(二人で何も考えずただくっついて二人だけの時間を過ごすには香りが違いすぎている、相手からは未だ病室の消毒液の匂いが残っているし、こちらは事務所で寝泊まりしていて香水もつけておらずいつもの香りとは程遠い。くっついた時きっとそれらはノイズになってしまって物足りなさへと繋がるだろう。風呂に入ることを提案すれば直ぐに賛成されるが準備と聞いて胸がザワつく、相手は医師から言われた通り傷口に防水パッドを貼るつもりなのだろう。包帯を解いて顕になった傷はまだ生々しく残っていてそこから目が離せなくなる、薄暗い囁きが耳元で聞こえた気がして目線を揺らした。ぼんやりと相手のことを眺めていたが声をかけられ意識を取り戻す、どうやら一緒に入る気でいるらしい。あれを見た後ではひとりで風呂に入らせるのも不安で直ぐに頷くと髪だけでなく全て面倒をみることを告げながらこちらも服を脱いで浴室へと移動した。まずはシャワーで体を温めるところからで「お湯かけるぞ」と言えば腕からお湯を当てる。体前面にお湯がかかってしまわないよう慎重に動かしながら「髪濡らすから上向いてくれ」と声をかけて)
ならお言葉に甘えようかな。…ん、
(準備を終えると何故がぼんやりとしていた相手に声を掛ける。一人で入っても良かったのだが相手のことだから心配で脱衣所辺りで待っているに違いない。ならば一緒に入ってしまった方が時間も短くなり、その間も一緒に過ごすことが出来て色んな意味で効率的なはずだ。あまり時間をかけないようにと言われていることもあって相手に髪を洗うのを任せると全部やると言い出して目を瞬かせる。普段ならば遠慮するところではあるが相手の顔を見れば不安や責任を抱いているのが読み取れて、それを世話することで少しでも解消できるならと考えると声を弾ませ相手に任せることにした。二人で浴室に入ると相手は早速シャワーで気遣いながらも腕から順にお湯をかけてくれる。入院中の特に前半は風呂に入ることが出来なかった分汗を流すことが出来るのはさっぱりして湯気が立って温まっていくのを感じていた。二人で体を洗う為にボディタオルを手に取っていつものボディーソープを泡立て始めていると相手に声を掛けられて手を止める。短く返事をすると言われた通り素直に顔を上げながら目を瞑って相手に身を任せて)
全部やるって言ってんだろ。ほら、先髪洗っちまうから
(髪も体もこちらが洗うことを申し出れば相手からは弾んだ声で返事が返ってくる、その明るさに心は少し軽くなった。医者の言う通り入浴時間は短くしなければならない、素早く傷に障らないよう気をつけて入浴を済ませなければ。ひとまずシャワーで相手の体を温めて腹側に湯がかからないように顔を上向きにさせてから髪にもお湯をあてる、優しく髪をすくように手を動かしてお湯を馴染ませた。その間に相手はタオルにボディソープを泡立てている、あの傷を見た後では相手の体を少しも動かしたくなくて手首を軽く掴んで動きを止めさせた。医者からの許可を得て退院しているのは分かっているがそれでも傷口が開いたらともしものことを考えてしまう。手にシャンプーを出すと両手に軽く馴染ませてから相手の髪を洗い始める、髪自体を軽く洗ってからマッサージするようにして頭皮を含め頭全体を泡立てながら洗っていく。久しぶりに嗅ぐ二人の香りが浴室に広がれば無意識に深呼吸をしていた。じっくり労うように洗いたいところだが医者の言葉を思い出すといつもより手早く髪を洗ってしまう、再び上を向いてもらいシャンプーを洗い流した。頭が綺麗になったところで「次は体だ」とタオルを受け取るため手を差し出して)
流石に過保護すぎないかい?…いつもの香りがする、
(いわれるまま顔を上げて髪を濡らされながら手持ち無沙汰だった手でボディーソープを泡立ているとその手首を急に掴まれてしまう。そして半ば強引に中断されていまうと一瞬困惑しながらも何から何まで全部だと主張されると呆れ半分嬉しさ半分で笑ってしまう。退院したのだからこれくらい何ともないのにあの時上体を起こした時と同じ心配の仕方だ。壊れ物を扱うような態度につい呟きを零しつつも素直に相手に任せることにすると相手の手が頭に触れて洗い始める。絶妙な力加減でマッサージするように動かされると肩から力が抜けて長く息を吐いた。そしてなにより嗅ぎ慣れたいつもの香りが浴室中に広がるとちゃんと二人の場所に帰ってきたのだと実感して満たされるような心地で噛みしめるように呟いた。やがて手早く髪が洗われて声かけと共に泡が流されるとその特別な香りを髪に纏う事が出来た。次が促されると「これぐらいできるのに」と言いながらも泡立てたタオルを相手に手渡す。同時に相手が洗いやすいように向かい合うように振り返って軽く両腕を広げて見せ)
病み上がりなんだからこれくらいやって当然だろ。…今日は大人しく世話されとけ
(医者がもう少し様子見した方がいいと言ったのを押し切って退院してきているのだ、もう大丈夫だと言われていても万が一を考えればなるべく相手には安静にしていて欲しい。これくらい大丈夫だろうという思いが招いたのがこの結果なのだから。相手は呆れるように笑うがこちらからすればこれでも足りないくらいだ。髪を洗うのも手早く済ませたがその間に相手がいつものシャンプーの香りにリラックスしているのが見えれば自然と口角を上げる、こういうひとつの仕草をとっても二人で家に帰ってこれたのだと実感できた。髪が終わり体を洗おうとタオルを受け取れば相手はやはり納得いっていない様子だ、無理して帰ってきた分大人しくしているのは当然だろう。相手がこちらへと振り返り両手を広げる、肌が良く見えて洗いやすい分防水パッドを貼った傷部分も良く見えて思わず目を泳がせてしまった。動揺がバレないうちにタオルを肩に当てて腕を洗っていく、ひとまず前面を避けて脚や背中まで一通り泡で綺麗にした後「あとはここをどうするかだな」と正面に戻ってくる。タオルを絞って余計な水気を落としたあとパッドを避けて胸板や脇腹を洗っていく、一通り泡を纏わせれば「水がかからないようにすりゃ大丈夫だろ」とひとり呟きながらタオルを洗ってボディソープを落としたあと、またタオルを固く絞ってから体前面の泡を丁寧に拭っていき)
…君ってこういう時、凄く丁寧だよね…。
(こちらが文句をつけても相手は譲る様子は無い。こういう所は頑固で何を言ってもやめてくれることはないだろう。大人しく従うことにすると泡立てたタオルを渡して両手を広げた。相手の視線がタオルから自分の体に移り、腹部に向かうとその目が泳いだ。何を思ったのか直ぐに分かったが何も言わないまま手が動かされ始めると大人しく受け入れる。肩や腕、足、背中と順に現れていき、正面に戻ってくると今度は丁寧に胸板や腹部がタオルで洗われていく。その後泡を洗い流したタオルで拭っていく様子をまじまじと見ていればその手際の良さと丁寧さに思わずぽつりと呟きを零す。何かと雑なイメージで見られがちな相手だが世話を焼く時とかは優しく手先も器用だ。その対象が自分であることにまた口元に笑みを浮かぶのを感じながら前面の泡が拭われ、その他の場所も順に流されていった。全身が洗い終えるといつも通りの香りを纏うようになるが今度は相手がまだ染まっていない。浴槽の縁に腰がけると相手を見つめながら「早く君も洗いたまえ」とお揃いに染まる事を促して)
一言余計だ…大切なもんを大切に扱ってるだけだろ。……そこ危ねぇからちゃんとここに座っとけ
(傷は塞がっているとはいえ水に濡れて傷口がふやけてしまえば悪影響なのは間違いない、決して防水パッド周りを濡らさないように、しかし体を洗ってスッキリするように、タオルで丁寧に泡を拭き取っていく。拭き取りとタオルを洗って絞るのを何度か繰り返せばシャワーを使わずとも相手の肌は綺麗になっていく、相手の呟きには思わずツッコミをいれてその後ボソリと当然のことをしているだけだと返していた。いつも雑に扱っている気はないが今日から暫くは特別大切に扱わなければ壊れてしまうかもしれないのだ。前面を拭き終わりあとはお湯がパッドにかからないようにしながら泡を流せば相手の方は終わりだ、相手はこちらが洗い終えるのを待ってくれるようだが浴槽の縁に腰掛けるのを見れば暫くそちらを見つめる。縁は細く体が濡れた状態では滑ってしまう可能性がある、頭を打つのも危険だが今の相手には傷のことを考えるとより危険だ。バスチェアをシャワー前から少しずらした位置に置くと相手の手を引きそちらへ座らせる、今は少しの不安も取り除くべきだ。相手の安全を確保すると立ったまま自分の体を洗い始めるが相手が湯冷めする前にと髪を洗うのも体を洗うのもいつもより手早く行っていって)
、大切なものか……、…ふふ、分かったよ。
(シャワーで一気に流してしまえば楽なのに相手は何度も拭き取ってタオルを洗って絞りを繰り返していてマメな姿につい言及すると直ぐにツッコミが返ってきた。だがぽつりと呟きが聞こえるとそのストレートな物言いに一瞬固まって、その意味を噛み締めるように言葉を口にする。手間暇をかけて気遣うのが苦にならないくらい相手に大切にされていることが嬉しくて、でも照れ臭くて視線を揺らしながら泡を流されていた。こちらの番が終わりすぐに近くにあった浴槽の縁に腰がけて相手が洗うのを待とうとしていると相手がじっとこちらを見つめていてキョトンと首を傾げる。その意図が読み取れないでいたがバスチェアを近くに持ってきて手を引いて座り直すように促してくればまた大切だと言う過保護な行動に思わずまた笑ってしまって諦めたような言い方でありながら楽しそうにその指示に従うことにした。そのまま相手の洗い終わるのを待っていたが相手の風呂の時の行動をこうもまじまじとみる機会は無くて観察するような目を向けると「君ってそこから洗うんだ」とか「髪がぺたんってなってる」など興味深く分かったことを口にしながら待っていた。やがて全部洗い流したのを確認すると立ち上がって二人でまたシャワーを浴びて体を温め、十分になったところで浴室を後にする。バスタオルを手に取ると自分を拭く前に大きく広げ相手に巻き付けるのと一緒に緩く抱き着く、そこからいつもの香りが香ってくれば「これでお揃いの香りだ」と微笑んで)
……あぁ、これで思いっきりお前とくっついてられる
(今は少しでもリスクになりうることを取り去るべきで相手をバスチェアに移動させれば相手は楽しそうに呆れて笑っていて過保護という言葉がまた脳内を駆け抜けていくが少しの油断も今はしたくないのだ。相手を安全な場所に座らせこちらも体を洗っていくが後ろから相手が現状を観察したり実況したりする言葉が聞こえてきて、体を洗うというなんて事のない行為をじっくりと観察されているのが分かれば「逐一実況すんなよ」と照れ隠しで文句を言っていた。その後泡を洗い流し再び二人の体をお湯でしっかり温めてから浴室を出る、体を冷やすのも傷に障るだろうと相手の体を拭こうとするがその前にバスタオルで包まれそのまま抱きしめられてしまう。自然とこちらも腕を回して緩く抱き着くとゆっくりと深呼吸をして二人の体から広がる香りを取り込んで、今度は安堵するように息をついた。付き纏いに気がついてからずっと望んでいたこの家の特別なお揃いの香りを漸く手に入れて足りなかったものが満たされていくのを感じる。このまま一時も離れたくないが相手が湯冷めしては困る、バスタオルを軽く巻き付けると「風邪ひく前にパジャマ着ねぇとな」と声をかければ今度はこちらがバスタオルを手に取って相手の体に宛てがうと全身の水気を拭いていって)
これを着るのも久しぶりだね。…ねぇ、翔太郎。退院のお祝いにアイスが食べたい
(相手を観察していることに文句を言われながらお互いの体を洗い終えると一緒に浴室を後にする。その間もお揃いの香りがするようになれば漸く元に戻ったと昂ってバスタオルで包み込むのを口実に相手を抱きしめた。風呂上がりで温かい体からは心地よくて口元に笑みを浮かべながらその感触や香りを確かめていたが抱きしめ返した相手もその場で深く呼吸するのを感じれば幸せが募る。そうしてお互いを確かめ合っていたがまた相手の過保護が顔を出して今度はこちらの水分をバスタオルで拭われていく。ある程度水分がなくなった所で傷口のパッドをガーゼに張り替えて手当を済ませた後今度はお揃いのパジャマに着替えていけばまた一つ相手とのお揃いが増えることになる。事務所でもお揃いの寝巻ではあるが二人きりで過ごす特別な夜と言えばやはりこの服だ。髪を拭きながら相手も着替え終わるのを待っているとふといいアイデアが浮かんで、じっと相手を見つめると以前購入して冷凍庫に保存されているアイスを若干子供っぽく所望して)
退院祝いなら仕方ねぇな。用意するからベッドで待ってろ
(漸く相手を抱き締めても不満や物足りなさは感じなくなっていつも通りに心から安堵することが出来る、その後全身を拭いて傷口のパッドをガーゼに張り替える時にはまた心がザワついたが風呂さえ終わってしまえばあとは眠るだけだ。寝間着を着てお互いの色をまとえばさらにひとつ特別なお揃いが増えて相手に同意し返事をする、二人の空間で二人だけの時間を過ごすならば相手の色を纏うこの寝間着でなければ。お互いに着替え終わり相手の髪をさらに念入りに拭き終わったところで視線を感じて顔を向ける、こちらをじっと見つめるその顔は何かを要求しているのがよく分かって思わず「なんだよ」と口元を緩めながら聞いてしまった。すると相手が強請ってきたのはアイスでまた口元が緩んでしまう、いつか買ったちょっとお高い大容量アイスを食べる時が来たようだ。体を冷やすからダメだと言いたいところだがこの顔でオネダリされてはどうしようもない、退院祝いという名目まであれば断るのは不可能で湯上りのアイスにありつくことを決めた。相手に待っているよう伝えるとキッチンへと向かう、冷凍庫スペースに入れてあるアイスを取り出し涼しげなガラスの器を二つ出してくると大きめのスプーンを手に持って蓋を開けた。表面をかくようにしてなるべく丸くしてからアイスを取り出し器へと盛り付ける、こんもりとなったアイスを並べるとスプーンを添えてベッドへと戻ってきて「待たせたな」とアイスの盛られた器を差し出して)
やった。ああ、待ってる。……ありがとう、じゃあ早速いただきます。
(お揃いの寝巻を着て相手に髪まで入念に拭いて貰うとこれでいつもでもくっついても大丈夫な状態になるがお風呂上がりの火照った身体には甘くて冷たい物が欲しくなってじっと相手を見ながらアイスを求める。すると相手の口元は緩んで柔らかな笑みとともに許可がされると素直に喜ぶ。特別扱いはまだ続くようで待っているように言われると期待に弾む声で返事をしてベッドに向かうと腰掛けた。少しするとキッチンに行っていた相手がガラスの器を持って戻ってくる。そこにはこんもりと丸められたバニラアイスが盛られていて特別な甘味の登場に目を輝かせる。入院中はもちろんアイスなんて食べることは出来なくてこれも久しぶりのスイーツだ。お礼を言いながらグラスとスプーンを受け取ると相手が隣にやってくるのを待つ、並んで座ったのを見れば早速スプーンを手に取ってバニラアイスをひとすくいすると口へと運んだ。口の中で濃厚で冷たい甘さが広がって幸せそうに目を細める。続けざまにもう一口分すくってまた口に運ぶと「風呂上がりの贅沢だ」と呟きながら味わっていて)
ベッドで食うのも今日だけの特別だ
(子供っぽく問いかけられたオネダリに抵抗できるはずもなく叶えることを決めれば同じく子供っぽい口調で弾んだ返事がされる、今は特別相手を大切にしたいのと同じくらい特別相手の笑顔を見たい。それがアイスで叶うならばお安い御用だ。器に見栄えも良くなるようアイスを盛り付け相手の元へと持っていく、途端に相手の瞳は輝いて久々にみる輝きに胸が擽られた。退院して一番最初に口にするものが相手の好物であるアイスとは良いお祝いになるだろう。ベッドに腰掛け相手の隣に並ぶ、本来ならばテーブルに座って食べるところだが今日は移動が少ない方がいい。それにお陰で風呂上がりにベッドでアイスを食べるだなんてちょっと悪いことを相手と共有するのも特別に思えて沈み込むベッドにかこつけて体を相手の方へ寄せた。相手がアイスをスプーンですくいとって食べる姿をついつい見つめてしまう、病院食には無かった甘みを堪能するように幸せな顔で目を細める姿にはつい笑ってしまった。その後も幸せそうにアイスを食べる相手を眺めながら「先にいっとくが体が冷えるからおかわりはなしだ」と釘を刺しておいて)
確かにそうだね、…え、あんなにまだ沢山あるのにかい?
(相手も隣に並んでグラスに盛られたアイスを食べていく。その甘味に口元を緩ませていると相手が更にくっついてきて二重の意味で満たされることになる。寝るためのベッドの上でアイスを食べるなんて確かに少々行儀が悪いかもしれないがそれも含め特別な時間だと言われると胸が弾んで仕方ない。相手と一緒にアイスを堪能しながら調子よく食べていたが不意にこれだけだと釘が刺されるとその動きを止める。あの時買った大容量のアイスは今手元にある二人分のアイスの分が無くなったとしてもまだ十分に残っているはずだ。その事を主張しつつ退院のご褒美なのに、という意味を込めてじっと相手を見てみるが譲ってくれる気配はない。だが勢い良く食べた分手元のアイスはもう半分ほど食べてしまっている。自分の手元のグラスと相手を交互に見た後、次は相手の手元のグラスに目をつけて一瞬にやりと笑うと「…翔太郎、」と呼んで軽く口を開けて見せ)
当たり前だろ。何事もほどほどにしとかねぇと……っ、…
(相手と共に風呂と就寝の合間というリラックスタイムに共にベッドに座ってアイスを食べる、相手の好物はどんどん器から減っていきその分相手が幸せそうにするのを眺めていた。しかし相手が病み上がりという事実は変わらない、アイスを食べ過ぎれば当然体を冷やすわけで変に体調を崩して傷の回復が遅れるのは困る。特段甘やかしている自覚はあるが傷に障る可能性があるものは徹底的に避けるべきだ、先にそれを宣言すれば相手は不満気な目を向けてくるがこればかりは譲れない。器に取り分けた分くらいがちょうど良いと思っていると相手は自分のグラスとこちらを交互に見た後にまだ手をつけていないこちらのグラスへと目線を移す、相手の思考を理解したときはもう遅くてその顔がニヤけるのがみえた。直後名前を呼ばれ待ち望むようにこちらに向かって口を開けるオネダリの姿に胸が否応無しにグッと掴まれてしまう。こうなればもう相手の思惑通りというもので「ったく、相変わらず屁理屈ばっかり思いつきやがって」と文句を言うもののその口元はどうしようもなく緩んでいて自分の分からアイスをスプーンですくい上げると「ほら」と相手の口に運んで)
…ん、さっきより美味しい。じゃあおすそ分けのお礼だ
(今日は特段甘い気もするがこちらの体調や身体に関することだと厳しく制されてしまう。追加のおかわりが望めないならと目を付けたのはまだ手が付けられていない相手の手元のアイスだ。相手に軽く近づいて名前を呼びながら口を開けば相手の瞳が揺れたのが分かって悪戯な笑みが浮かんだ。こうなればこっちのものだ、そのままじっと見つめていると文句を口にしながらも相手からアイスの乗ったスプーンが運ばれてくる。ご機嫌な笑みを浮かべながら顔を寄せ口にすればバニラアイスの濃厚な甘味が広がって、相手がくれたという相乗効果で更に幸せを感じて噛みしめるように感想を告げた。放置していた分アイスは少し溶けてしまっていてスプーンに残っていたアイスを全部舐め取ると今度は自分が同じスプーンを手にしてアイスをすくう。まだ食べていない相手の為に多めにアイスをすくいあげると今のお礼として相手の口元に得意げに差し出して)
そりゃ何よりだ。…ん、……確かにいつもより甘いな
(相手の思惑など簡単にわかるのにアイスを待ちわびてこちらに期待の目を向ける姿には逆らえるはずもない、アイスをすくいあげ相手の方に差し出せばそれだけでご機嫌な顔になるがそれをみて幸せを感じてしまうのだからどうしようもない。同じものを食べているのだから味は変わらないはずなのだがより美味しいと言われればこちらのアイスを相手にあげて良かったと簡単に思えてしまう。スプーンの上のものを綺麗に食べた相手はそのスプーンをこちらの手から取ってアイスをすくい上げる、大きめのひと口を差し出されれば体を寄せてアイスを口の中にいれた。溶けかけたアイスは冷たくて甘くて、ついでに相手と同じスプーンを使った事実に少々恥ずかしいが共有する喜びを感じる。相手の一部を少しでも取り込んだのだろうかと思考が過ぎれば今のひと口をより甘いものにさせた。そうなればもっとこのアイスを甘くさせたくてさらに体を寄せる、スプーンを介してではなく直接唇を重ねた。そこに僅かに残っていたアイスを軽く吸い付くようにして奪いされば相手の体温と混ざりあってより特別な甘みを感じて「ここのが一番甘い」と冗談めかして言って)
君と一緒の時じゃないと味わう事の出来ない味だ。…、本当だ。…ここはおかわりしても良いのだろう?
(相手から差し出されたというだけなのに特別甘く美味しく思えて自然と口角が上がる。同じスプーンでアイスをたっぷりとすくって相手の口元に差し出すといつも通りのように身体が寄ってきて咥えた。自分で食べるのも勿論好きだが同じものを共有して差し出すのもまた違った喜びがあって同じことを言う相手に一緒に居るからだと声を弾ませていた。さらにもうひとすくいしようとした所で相手がスプーンではなく顔に寄ってきて唇が重なった。軽く吸い付くように表面の溶けたアイスが奪われると一瞬身を固めるも特別な相手の体温も混ざれば先ほどとはまた違った味がし始める。すぐ真正面で相手を見つめると悪戯な笑みとともにまた一口分アイスを口にするそのままこちらから唇を重ねた。相手との体温の間では冷たいアイスの存在は分かりやすくて溶け切る前に相手に口移しする。溶けてしまって唇に残ったアイスを軽く舐め取って味がしなくなっても暫く口づけを続ける、やがて満足したころに僅かにだけ離れると「翔太郎の味がする」と冗談交じりに告げて
あぁ、もちろん。……ん、…この食い方、癖になっちまいそうだ
(相手から与えられて食べるアイスだって特別で相手と一緒でなければ味わえないものだが、相手の唇の上に残るほんの少しのそれを奪ってみればより特別な味がして胸が満たされる、溶けきって唇に馴染んだそれは相手の味がした気がした。唇を離せば目線が交わって悪戯な笑みと共におかわりの可否を問われれば当然良いと返事をする。相手はまたスプーンでアイスをすくい上げて口に含むと直ぐにこちらと唇を重ねる。アイスを食べたばかりのそこはやはり特別に甘い、すると相手の口が僅かに開いて自然とこちらも唇を開ければその間に冷たいアイスが滑り込んできた。冷たいアイスと相手の味が混じった特別なそれは先程よりももっと甘く同時に胸を満たすもので溶けかけのアイスが口内に広がっていくのと同時に幸せが満ちていく、唇についたアイスを舐め取られると思わず体を固くした。その後も唇は直ぐに離れず重なったままだ、病室では短いキスを送るのが精一杯で、なんの憂いもなく相手をただ感じる時間に浸る。やがて唇が離れれば相手も同じことを考えていたようで思わず笑ってしまう、特別なアイスをより特別に甘くする行為を知ってしまえばもっとそれを味わいたくなるものでスプーンでアイスをすくい上げ口に含めば今度はこちらから顔を寄せ片手を相手の後頭部に添えてから口付ける。暫く唇を重ねるだけにしてアイスがトロリとするまで待ったあと唇を開けて口移しする、全てを相手に注ぎ込むようにゆっくり時間をかけて口内のものを相手へ渡したあと悪戯心で舌先を口内へと差し入れアイスを押し込んで)
……ん、……は、…
(おかわりとしてアイスを口にしたままキスをして僅かに開いたそこに滑り込ませる。付着した唇も一緒に舐めとると一瞬固まるものの相手の表情がまた和らいでこちらも笑みを浮かべた。段々とアイスを味わうことよりも特別な相手を感じて触れ合いたい気持ちの方が勝って来た所で相手がアイスを口にして後頭部に手を回してくれば更に身を寄せ待ち望むように唇を重ねる。ただ触れ合うだけでもずっと出来なかった分の幸せが増してきて体の力が抜ける。甘味と相手を欲するように唇を開くとその隙間から溶けたアイスが注ぎ込まれてその特別な味に薄ら目を細めた。小さく息を吐きながら注がれた冷たいアイスを味わい飲み込んでいると不意に熱を持った舌先が入り込んできてぴくっと肩を揺らす。その舌が一番美味しく感じてしまえばこちらからも舌を伸ばして残ったアイスを舐めとるように動かした。次第に小さく水音が立つようになるがそれも気にせず深いキスを続けて)
……っ、……ん、……
(二人でアイスを食べていたはずがいつの間にか二人でしか味わうことが出来ないものを求めることに夢中になっている、二人の間で溶け合うアイスを受け渡しして冷たくて特別に甘いものを享受すれば心はいつも以上に満たされて幸福に胸が華やいだ。少しの悪戯心で、そしてもう少し相手の中へ踏み込みたい欲が湧いて、舌先を口内に入れてみれば相手はまた肩を跳ねさせる。直後相手の舌先が絡みついてそこを舐めとっていけば特別甘い味と行為に脳内がクラりと揺れた気がした。こちらからも舌をもう少しだけ差し入れて二人の間に残る甘味を共有する、相手の味が混じればそこは特別美味く感じて水音が弾けるのも気にせず舌を動かし続ける。何よりも相手の体温と深い所へ入り込む感覚すら久しぶりでずっと足りなかったものをようやく取り戻せると暫くは相手と深い所で互いの味を共有していた。互いの口内からアイスが無くなって互いのもので満たされた頃合に軽く吸い付いて中のものを奪ってから僅かに唇を離す、至近距離にいる相手を愛おしげに見つめながら「アイス溶ける前に食っちまわねぇと」と柔らかな頬に親指の腹をあてて優しくそこを撫でて)
……ん、…翔太郎…そう言いながら食べさせる気ないだろう。 じゃあこれが最後の一口だ
(舌先を触れ合わせるとさきほどよりも強く更に深く相手を感じ取れるようになって身を寄せながら舌を絡みつかせていく。特別に甘く感じる味と相手の熱はどちらも久しぶりに感じる物で不足していた部分を埋め合わせるようにキスを続けていた。アイスの味がしなくなってからも深くキスを続けていたが相手が口内に残った物を吸い取っていくと自分の物を取り込まれたような感覚にぞくっと背筋が震える。僅かにだけ唇を離すと大切な相手が自分だけを見つめていて心のままに相手の名前を呼んだ。まだ残っているアイスのこと言及しながらも親指で頬を撫でられると軽く擦り寄りながらもう先ほどのように普通に食べるのは不可能だとくすくす笑いながら主張する。だが残すのも勿体なくて少しだけ離れてそれぞれのグラスに残ったアイスを一つのスプーンに纏めてすくうと目の前で見せつけるように食べる。グラスとスプーンを近くの棚に置いて自由になった手で相手の肩を抱くとそのまま唇を重ねてまたゆっくりと溶けたアイスを口移しと舌で注いで)
フィリップ……しょうがねぇだろ?やっとお前と二人きりなんだ……ん、…
(アイスの口移しからゆっくりグラデーションをなぞるようにして二人の舌が絡まるようになり深いキスへと変わっていく、十分二人のものが混ざったところで口内のものを奪えば手を添える相手の体が小さく震えてまた脳内がクラりと揺れた。愛しい人から名前を呼ばれればそれに応えるようにこちらからも名前を呼ぶ、そんなやり取りだけで胸は幸せに溢れていく。既に相手しか眼中に入っていないが手元にあるアイスをそのままにしておく訳にもいかない、こちらに擦り寄りながら笑う相手に胸がグッと掴まれて自然と口角を上げるとこちらも普通にアイスを食べる気はもうないことを伝えた。相手が二つの器に余ったアイスをひとつに集めて目の前で口に含む、それを直ぐに飲み込まないことは重々承知していて自然と目を閉じると再び唇が重なった。薄く開けた口に冷たいアイスが注がれる、先程よりももっと甘く感じるそれが脳内をクラクラと揺らしていく。頬に手を添えたままもう片方の手を腰に回して軽く引き寄せるとアイスに塗れた相手の口内に舌を差し入れた。先程よりもより奥へと侵入しそこに残ったアイスと相手の唾液とを舌で絡めとっていく、時折クチュリと響く水音も気にせず深い口付けを続けてアイスと互いの味を共有して)
ん……っ、…ぁ……
(残ったアイスを相手の前で食べると何をするのかお見通しなのか相手は次を待つように目を閉じる。その動きに誘われるように顔を寄せて唇を重ねれば溶けたアイスを注いでいく。相手から腰を軽く引き寄せられるとさらに距離は近づいて甘く熱い舌もさらに口内の奥へ招き入れることになる。少しもアイスを残さないように、もしくはマーキングでもするように根元から先まで舌を擦り合わせて絡めて相手と交わりを深めていく。次第に水音が響き口づけの合間に吐息が零れるのも気にせず相手に没頭するほどキスを続けていけばアイスは完全に溶けて味もしなくなったはずなのにずっと甘く感じられて幸せが脳を満たす。相手の寝巻を握って唇だけそっと離すとその瞳を見つめたまま口内に溜まっていた物をごくりと喉を鳴らして飲み込んだ。冷たく涼んだはずなのにふわふわとした心地いい熱に包まれていて求めるままに相手に寄りかかり、体重をかけてくっつくと「ごちそうさまでした」と微笑んで)
……、…美味かったな
(蕩けたアイスを共有するのを名目にして相手の口内へ舌を差し込む、深いところで互いのものを絡ませ擦り合わせて、水音が弾けるのも気にせず口付けを続けた。時折口から溢れる吐息が胸を掠めて自分にしか許されない行為に幸福と優越感が同時に満たされていく、相手を抱き締めてただその存在を確かめるように甘い時間に浸っていた。やがて寝間着を握った相手が僅かに離れて目線を交えたまま口内のものが飲み込まれれば自分の一部が相手に取り込まれた様にゾクリと体の芯が疼くのが分かる、背徳的な光景に思わず吐息を漏らしてじわりと脳を痺れさせるような幸福が脳内に広がった。幸せな心地のままこちらに凭れかかる相手を抱き留めて緩く抱き締める、冷たいアイスを食べていたはずなのにすっかりその体は幸せな温かさを持っている。就寝までのひと時を過ごしたならば歯を磨かなければならないのだが今はこの幸せな時間にまだ浸っていたい。このまま隣に並んで抱き締めていてもよいのだがより相手とくっつきたくなればその体を支えたまま後ろへと回る、そして両脚で相手の体を挟むように座り直すと相手の腕に自分の腕を重ねるようにして緩く抱き締めた。お揃いの香りになった髪に軽く口付けると「今、すげぇ幸せだ」と夢心地に浸るように呟いて)
…ん、僕も同じだ。この場所が一番幸せで、居心地が良い。
(幸せな心地のまま相手にもたれ掛かると相手からも抱きしめられて温かな体温に包まれる。あの時彼女に奪い取られるかもしれないと思った存在が、失うかもしれないという存在がちゃんと手が届く所にあることが何よりも嬉しかった。さらに体重を預けようとしていると不意に相手がこちらを支えながら体の位置を変える。自分の後ろに回り込んで両足の間に挟まれると背後から包み込まれるような体勢となった。二人きりの特別な時間を過ごすときだけの状態にまた微笑みが零れて腕に手を添えながら身を委ねた。髪にキスされると擽ったくて小さく声を零しつつ聞こえてきた呟きに自分も同じだと言葉を返す。こうやって相手の元にいるのが幸せで、この場所を独占出来るなら何だって出来る。回された右手を手に取ると愛おしさや想いを伝えるようにキスを落とす。指先でもその形をなぞって愛でていたが今は指輪が外されている小指に到達すると「…ここも、他の人のものにならなくてよかった」と安堵を口にしてからその関節にリップ音混じりにキスを落として)
フィリップ、…安心しろ、これまでもこれからも俺の頭の上から爪先まで全部お前のもんだ
(相手を後ろから抱き締めてアイスよりも甘い余韻に浸る、こちらに凭れかかる相手の重みが今は何より愛おしくて腹の傷に障らないように柔らかな力で包み込みつつ体をピタリと密着させていた。思わず言葉が溢れれば相手からも同じ言葉が返ってきて手にキスが落ちる、何気なくてしかし特大の愛情表現に相手の名前を呼びながら軽く擦り寄っていた。そのまま右手の上を指先がなぞって小指に到達する、彼女が執拗に自分のものにしようとしたそこを愛おしげに撫でてまた口付けが落ちると左手を相手の手に重ねて指を絡ませるようにして繋ぎ決して変わらない想いを伝えた。彼女がどれだけ叫ぼうと強行手段に出ようと決して揺るがない事実、口付けを落とされた小指で相手の唇を軽く撫でると「お前が指輪外せって言うなら外すし、変えろって言うなら変える。全部お前の思いのままだ」と優越感を煽るようなことを言いながら相手が唯一無二の特別であることを伝えその証拠代わりに耳の端へリップ音混じりに口付けて)
ん、僕も他の誰にも譲る気は無いよ。…、この指輪は君を象るものだし変えなくても良いけど……やっぱり欲しいかもしれない、君との指輪。
(相手の右手を見れば嫌でもあの光景を思い出す。お揃いだと見せつける彼女の姿や無理矢理相手に指輪を嵌めようとしていた姿は相手が心動くことがないと分かっていても不快で不安を感じるものだった。その記憶を上書きするようにキスをしていれば背後から相手の声で呼ばれて擦り寄られる。左手も相手から繋がれてさらに存在を強く感じるようになりながら真摯な想いを伝えれられると包み込むような安心感に小さく息を吐いた。何度だって確かめ合った誓いだが今も尚変わっていないことに安堵が募り、自分もそのつもりだと伝えながら手を握り返す。自分だけに送られる全てを委ねるような言葉に心の隅々まで満たされ緩い笑みを浮かべながら耳へのキスに小さく反応を示した。彼女がしきりにお揃いに変えようとしていた小指の指輪だって相手のお気に入りで小さく刻まれた傷の数々は一緒に苦難を乗り越えてきた勲章のようなものだ。つけていた痕をなぞるように小指を撫でていたが二人だけの特別な空間では更なる願望が芽生えて、少し沈黙を挟んでからいつの日か話していた二人の指輪のことを口にする。指の根元の辺りを緩く撫でながら「今回のケースは防げなかったかもしれないけど、君に特別な存在が居ることは知らしめたい」とさらに願望を呟いて)
…っ………そう、だな……まぁ、少なくとも前みたいにデートに誘われることは無くなる、よな……俺も欲しい。俺たちがお互いのものだって証拠
(相手を腕の中に閉じ込めてくっついていれば暖かな体温で互いが溶け合うようで次々と接触面積を増やしていく、変わらぬ事実を伝えれば相手からも当然のように独占欲を隠さない返事が返ってきてまた胸は満たされて後頭部に軽く擦り寄っていた。この体全てが相手の思いのままだと伝えると言葉が途切れて視線を向けながら続きを待つ、そしていつか約束していた揃いの指輪が欲しいと伝えられると一気に思考がパンクして体が固まってしまった。直後じわりと相手を抱き締める体が熱くなる、新しい指輪がはまるのを望むように根元を撫でられると嬉しさと幸福が一気に頂点まで達してしまった。互いのものだと周囲に知らしめるような指輪、彼女の場合は特殊ケースだったが隣の席に空きがないのを示せば減るトラブルもあるだろう。軽くパニックにまで陥った中で何とか返事をするが気分は大いに浮かれてしまって互いの手を重ねたまま両腕を肩に回すと消化しきれない気持ちをぶつけるように相手を強く抱き締めて「…お前が俺との指輪欲しいって言ってくれるの、すげぇ嬉しい」)と噛み締めるように呟いて
なら決定だね。…君が全部をくれると言うなら未来の約束の証拠だって欲しくなるだろう?
(いつの日か誓い合った時に約束した指輪が改めて欲しいと伝えると最後の相手の動きが止まったのが分かった。同時に触れる相手の体温が上がるのを感じれば動揺しているのが丸わかりで密かに口角が上がった。お揃いの指輪を持つ意味は知っている、自分に関係ない事ならば単なる風習だと流しただろうが一番大切な人同士が身に着けるのなら相手のその立場だって自分が欲しい。さきほどまでと使ってぽつぽつと噛みしめるような言い方に浮かれているのを感じながら相手も欲しいと伝えられると弾む声で答える。未来の予約でもするように指の根元に触れていると後ろから感情が爆発したように強く抱きしめられてまた笑い声を零す。相手に関するものなら何だって欲しいがこれから先も一緒に居ると誓う証である指輪はより特別で、自分しか持つことの許されない物だ。色々な事情で関係を大っぴらに明かすことは出来ないが指輪をつけていれば近寄ってくる人物への牽制にもなるし、どちらともに関係のある人物にはやんわりとこの繋がりを伝えることが出来るだろう。その時のことを想像して胸が弾むと軽く擦り寄りながら「少し貯金が溜まったらどんなものがあるか見に行こうか。そんなに高くなくても良いから、君と二人で選んだ奴が良い」とその時の約束を持ち掛けて)
あぁ、これからの俺だって全部お前のだ。…だからこれからのお前も全部、俺にくれ……そうだな、俺達らしい奴を一緒に選びにいくか
(思わぬ事態から風.都,タ,ワ,ーが見守る中で行った二人の結婚式、あの時生涯を誓って当然今もその思いは変わっていないが指輪を買う機会は逃していた。あの誓いを改めて口にされればこの幸せな空間の幸福は更に増して冷静ではいられなかった。いつか指輪がはまるであろう指の根元を撫でられて期待が昂って強く抱き締めればそこから笑い声が聞こえてくる、その声さえ鼓膜を揺らせば幸福になって未だ膨れ続ける幸福をぶつけるように後頭部へグリグリと擦り寄った。せっかく一世一代の誓いの証を買うならば豪勢にと言いたいところだが大事なのは二人らしいものであること、何より二人で指輪を選ぶことだろう。そこに値段は関係ない。軽く擦り寄る相手に擽ったさを覚えながら絡まる左手の指をギュッと握って軽く掲げる、大切な人がいる証であり生涯を誓うもの、最期まで一緒である証拠を付けるのが楽しみだ。気持ちは逸るばかりだが相手のことが第一で「まずはお前の怪我を完治させるとこからだな。…暫くもっと健康的なメニューにしてみるか」と結局は浮かれたことを言っていて)
もちろん、僕の全部は君のものだよ。 別に健康的なメニューを食べたからって回復が早まる訳じゃないだろう…
(相手の足と腕の間でつよく抱きしめられて後頭部に擦り寄られる擽ったくて、幸せで口元はニヤけて仕方ない。相手の全てが自分のものであると同じように、自分の全てもこれからも相手のものだと伝える。その証明の指輪も二人で選んでこそで、いつかそこで光るものが出来る左手を相手の手で握られるとその未来が楽しみで仕方なくない。そうしていると相手が楽しそうに今やる事を告げるがその内容は少々引っ掛かる。健康的なメニューといえばやはりバランスの取れた食事となり、そうなれば野菜など普段は避けがちな食材が使われることになる。あくまで効果が無いという方向で指摘を加えつつその案を採用しない方に持っていこうとする。ちらっと相手を振り返ると「それより君がこうしてくっついてくれる方が効果あるよ」と告げ)
なに野菜回避しようとしてんだよ。病院でも山ほど野菜出てただろ。…、…ったく、そう言われると離れられなくなっちまうだろ
(何度も口にして結婚式だなんて大体的なことまでしても恋人の声で改めて相手が自分のものだと伝えられるとこの上なく嬉しくなる、自分が相手のものだと、また相手が自分のものだと知らしめる指輪を買いに行くのが楽しみで仕方がなかった。その為にも何よりまず相手の回復が第一だ、健康的な食事と聞いて相手が何を連想したのかは明白でやんわりと反対する相手にツッコミを入れる。病院食ほどきっちりとした物を作る気は無いが野菜をいつもより多めにするだけでもきっと効果はあるだろう。メニュー改革を推し進めようとするが相手がチラリと振り返って甘えるようなことを言われると軽く目を開く、相手の思惑などわかっているはずなのにどうしようもなくその姿は可愛らしく心を掴まれてしまって観念するように息を吐くと互いの頬をピタリとくっ付けて肩に回す腕に力を込めた。そのまま相手の傷に響かないようゆっくり誘導するようにして体勢を変える、二人で横並びになるようにしてベッドに寝転べば再び相手の後頭部と腰とに腕を回して包み込んで「早く怪我が治るようにずっとこうしときてぇな」と呟いて)
(/お世話になっております。本日なのですがこの後の時間からお返事が難しくなりそうです。明日も週末なペースになるかと思いますのでお返事遅くなってしまいそうです。お待たせしてしまい申し訳ないです。把握よろしくお願いします。)
じゃあ今日はずっと抱きしめる係をして貰おうかな。
(ナチュラルに反対し話題を逸らそうとしたが相手にはお見通しらしい。今の相手なら治すためだとドサッと野菜を一皿で渡してくる可能性もある。さらに手痛い指摘やツッコミが来ない内に振り返ってくっつく方が効果的だと告げる。相手は軽く目を開いたあと、観念したように笑って頬をくっつける。結局こうして甘やかしてくれる所はとても普段自称しているハードボイルドとは似つかないがこれが一番信頼出来る大切な人の姿で好きな所だ。肩を抱く腕に力がこめられてそのままゆっくりとベッドに寝転ぶ。ふたりで横並びになるともぞもぞと動いて相手と向かい合うように体勢を変える。相手から腕が回されて抱き締められるとこちらからも擦り寄って抱き着き距離を詰める。相手の呟きを聞くとくすっと笑って冗談めかして今日はずっとこのままだと告げる。こちらから回した手を後頭部に回してそこを撫で始めながら「今日はこうやって二人で眠れるね」と弾む声で口にして)
(/こちらこそいつもお世話になっております。返信について承知しました。いつも言うようにリアルが最優先ですし、まったりと待たせて頂くのでまた手が空いた時にお返事頂ければ幸いです。よろしくお願いします。/こちら蹴りで大丈夫です)
お易い御用だ。…あぁ、やっとお前と一緒にここで眠れる。…暫くひとりは勘弁だ
(この幸せな距離から離れることなど到底出来そうになくて、更にはもっと相手とくっつくことを望んでしまうと二人の体をベッドに横たえて向かい合うようになる。愛しい恋人の体を抱き締めて傷の治りが早くなるというなら喜んでこの腕で相手を包み込む、何よりその言葉は相手がこの状況を望んでいる事に他ならないのだから目一杯相手を甘やかしたい今望みを叶えない訳がない。抱き締める体がこちらへ擦り寄ると擽ったくて口角があがる、このままの体勢でいることを望まれれば喜んでその任を引き受けた。早く治るようにと抱き締めていたはずなのに頭を撫でられれば途端に顔つきは緩んでしまって愛しい恋人が傍にいることをより実感する、こうやって頭を撫でられるのだって久しぶりなのだ。心が緩めば他人には決して見せない柔い部分も零れてしまって小さく呟く、しかしこれまでの寂しさより今相手と一緒に居ることか嬉しくて心のままに額や目尻、鼻先や頬、瞼と次々に短い口付けを降らせながら「今日はよく眠れそうだな」と幸せを滲ませ呟いて)
やっぱり家のベッドの方が広いし落ち着く。…、ああ。明日も休みだからゆっくり眠れそうだ
(相手と一緒にベッドに寝転がってその体に擦り寄る。一緒に寝るのは事務所でもやっていたがこちらの方がベッドも大きく何より二人だけの空間といった印象が強い。不安から解き放たれて何も悩む懸念もなければお互いの存在だけに集中出来るだろう。手を伸ばしてその頭を撫でてみれば相手の表情はより一層緩くなってその顔を見つめる。そのまま撫でているとずっと堪えていた本音がぽつりと零れてきて、一瞬だけ動きを止めてからその穴を埋めるように大きく手を動かして頭を撫でた。その間相手から短い口付けがあらゆる所に振ってくれば擽ったそうに笑って、もう片方の腕で更に近づくように抱き寄せる。幸い明日も休みで起きなくては行けない時間もない。安心出来るこの場所なら深く眠りに落ちることが出来るだろう。お返しに頬に軽くキスを落とし「こんなにくっついていたら夢の中でも一緒かもしれないね」と冗談っぽく緩んだ表情で告げていれば暖かな体温と安心感で次第にまぶたが重くなっていき)
俺達の場所は間違いなくここだな……あぁ、きっと夢でもこうやってくっついてんだろ
(二人だけの空間で身を寄せあって窮屈に抱き締め合うとベッドの上はこの世で一番安心出来る場所になる、何よりも愛しい相手と体温を共有しただその存在を目一杯感じるのが幸せで堪らなかった。思わず零した寂しさも相手にたっぷり頭を撫でられればすぐに幸せに変換されて緩みきった笑みを浮かべる、お返しにたくさんの口付けを送れば相手は擽ったそうに笑って愛しい人の笑みにまた胸は幸せで満たされていった。頬にお返しの口付けがされると柔らかな感触に浸るようにゆっくりと息を吐いてさらに肩の力が抜けていく、もっと相手ににじりよって鼻先が触れ合う距離でじっと相手を見つめていた。夢で逢えるかもなんて非現実的なことも今は簡単に信じてしまえて夢の中でもこのままであることを望む、腕の中にいる相手がゆっくり瞼を閉じていくのをみればこの場所に安堵と幸福を感じてくれている実感が湧いてこちらまで穏やかな幸せで満たされた。こちらも瞼を閉じれば「おやすみフィリップ」と囁くように言って、最後に柔らかな口付けを相手に送ればゆっくりと意識を沈めていき)
(/お世話になっております!一旦区切りかと思いましてお声掛けさせていただきました。ストーカーなお話でしたが揺さぶられる探偵に対して絶対に傍に居てくれる検索くんがとても頼もしくて、同時に二人で対抗すればするほど梓が暴走していく感じがスリリングでとても楽しかったです!ストーカーの前ではガンと接してくれるのに二人になると不安に駆られる検索くんのギャップも大変良かったです。ストーカーにやられっぱなしも悔しいなと思っていたので検索を介して対抗手段を見つける所も上手く話が繋がって興奮しました。その後検索くんが刺されてしまってからの描写も細かくさせていただいてより緊迫感がありましたし、だからこその二人で家に帰ってきてからの二人だけの時間が幸せに溢れるものになって背後まで幸せでした。今回もありがとうございました!
この後ですがこのまま翌日のお話をするのもいいですし、検索くんが回復してからの休日のお話でもいいかなと思っておりまして…一気に切り替えちゃうのもありですし、検索様はのご希望などはありますか?)
これで正真正銘完治の証明を貰えたのだから今日からいつも通りで良いだろう?
(幸せと温かさを感じていれば安心して力を抜いたせいか眠気がやってくる。相手が直ぐ傍にいるのだと思えばその甘い誘惑には抗い難くゆっくり瞼を閉じていくと小さな声で「おやすみ、しょう、たろ…」と呟いて深い眠りに落ちた。翌日も普段仕事に行く時と同じ時間に目が覚めるも二人で抱きしめ合いながら二度寝をして一日中外に出ることなく幸せで充実した時間を過ごした。お互いの寂しさを埋め合うような休日を終えその翌日からは事務所に復帰することになったが資料の束を持とうとしたり少し外に散歩しに行こうとしただけで相手が慌てて止めに来たりしていた。相変わらず過保護だと主張したが相棒は傷に響くからの一点張りで譲ろうとしなくて早々に説得を諦め相手に任せるような生活をしていた。そんな生活を送って二週間程、舞い込んできた依頼が想定より早く終わったことと通院の最終日の予定が重なってまた1日休みを貰うと午前中に相手に送って貰い病院を訪れた。怪我の治りも良好でもう開くことは無く、薄ら残った傷跡も自然治癒で消えていきもう通院の必要もないと説明がされる。最後の手続きも終えて病院を出るとずっとこちらに気遣っていた相手に向け少し得意げに確認を取って)
(/こちらこそお世話になっております。狂気的なストーカーと対峙する話でしたが二人共の感情の揺さぶりを沢山出来てとても楽しかったです。早々に警戒する検索と探偵君の穏便に済ませようとする温度感の違いや徐々にエスカレートして周りも巻き込んで行くストーカーの犯行に背後共々苦しい場面もあったのですが探偵君が嫌悪感を滲ませたりお互いの存在を確かめあったりと二人の絆を強く意識するような行動に繋がってとても良かったです。二人ならではの推理パートで弱点を見つける事も出来ましたし指輪がキーアイテムになったりと話としても上手く繋がったかと思います。検索が刺された時や搬送や手術中の縋り付くような探偵君が印象的で緊迫感がありながらも好きな描写でした。退院後のお互いを確かめ合うような甘い時間も出来て幸せな時間でした、今回もありがとうございました…!
次ですがせっかくなら回復した後の話はどうかなと思いましてまた二人の時間を過ごすのも良いですし、甘い系に寄った騒動やお話に巻き込まれても良いかなと思うのですがいかがでしょうか。ひとまずどちらにでも繋がるように時間を進めさせてもらったので上手く続けて頂ければ幸いです…!)
まぁガーゼも外れたしな…つっても俺が足で稼いでお前が検索するってのが俺達のいつも通りなんだからな、忘れんなよ
(久しぶりに相手の体温を感じて二人の家でゆっくりとした眠りについた翌日、相手との約束通り翌日も家から出ることはなく大半の時間はベッドの上で抱き締めあう怠惰で幸せな時間を過ごしてずっと一緒にいれなかった分を埋めるように相手と終始触れ合うような幸せな休日を過ごした。そして暫く相手の傷を気遣いながら過ごして今日は病院へ最後の通院日だ。晴れて休日を勝ち取った日でもある今日に医者からは完治を告げられ見た目にも傷はほとんどなくなってほとんど元通りといったところだろう。相手も何処か得意げに完治を宣言するが正直あの時から今までの不安が全て拭い去られたわけではなくて今一度二人の役割を宣言してそれがいつも通りだと釘を刺すように言う。組織が未だ精力的に活動していることを思っても「…もう少しお前が出歩く頻度を減らさなきゃな」とボソリと呟くように言って)
(/それでは回復した後の日としましょう!こちらは退院祝いにアイス食べ放題かデザート食べ放題にいくか、探偵が過剰に検索くんを囲おうとしてしまうお話はどうかなと思っていたのですが、甘い系統で騒動に巻き込まれるお話も楽しそうかなと思いまして…検索様が考えておられる展開とかあったりするでしょうか?)
分かってるよ、…君が一緒に居てくれれば問題ないだろう?
(無事に医者から完治の証明が出れば相手がこちらを気遣う必要はなくなる。それも含め元通りだと得意げに告げたが相手の反応は良いものというだけでは無さそうで普段の役割分担について言及されるとひとまずは頷いた。伺うように相手を見ていればぽつりと自分の外に出る頻度について呟きが聞こえてきて目を瞬かせる。最近は確かに色々と事件や騒動に巻き込まれているがそれは頻繁に外を出歩いているからではないだろう。だが何とか危険から遠ざけたいという気持ちも理解が出来れば少し考える素振りを見せたあと相手と一緒という条件を付けて問いかける。元々興味があるものがない限りはあまり外に出る性分でもない、外に出たいと思った時に相手が着いてくるならこの話も丸く収まるはずだ。それに今日は仕事も休みで特にやることはない。揶揄うような笑みを浮かべると「それとも今からデートをしないつもりかい?」と投げかけて)
(/探偵君が過剰に囲おうとする話面白そうです…!甘い騒動は案に出したものの具体的なのは考えてなくて感情メーターや好感度のようなゲージが可視化されちゃうメモリ、一定の距離を離れるか触れなくなると心身の異変が現れる、お互いに関する願望が実現しちゃう催眠…みたいな甘々メモリしか浮かばなかったのですが興味のあるものや探偵様の案などありますか?)
それは……なら家で映画でも観るか?お家デートってやつだ
(元々自分達の役割分担は相手が安楽椅子探偵でこちらが街での調査担当だ、相手は組織から狙われる身で攫われたことだってあるのを考えれば当然の人員配置だろう。脅威から相手を守るための場所があの秘密の扉の先のガレージで本来なら相手はずっとそこにいる方がいい、だが相手をここに閉じ込めると一度口にした時組織と同じで道具扱いする気かと言われたのがまだ耳に残っていた。だからこそ二人で出かけるなら大丈夫だろうと出歩くようになったがあの日は二人で出歩いていても相手は生死を彷徨ったのだ、自分の力で相手を守りきれなかった。その思いは未だに胸に焼き付いて問いかけにも上手く答えることができない、今日は休日で相手と一緒にいるならば当然デートをしたいとは思うのだが外を出歩くのは何となく避けたくてとりあえず家に帰ることを提案する。家でもやることはあるだろうと適当な候補をあげながら「まだ暑いしな」と心のこもっていない適当な言い訳を積み上げて)
(/こちらも甘めな騒動今のところ思いついていませんで、今回は探偵が過剰に検索くんを囲ってしまうお話をさせていただければと!上げていただいた中では一定時間触れないと心身に何かしらが起こるお話とお互いに関する願望が実現しちゃうお話が気になるのでどこかの機会にやらせていただければ幸いです。それではちょっと薄暗いデート楽しみましょう!/こちら蹴りで大丈夫です!)
…? まあ君がそうしたいならそれでも良いけど。なら家で食べるものとか色々買って帰るのはどうだい?
(自分が心配ならば共に着いてきて一緒に行動すれば良いだろうと普段の理論を振ってみるが相手の歯切れは悪い。何かを考え込んでいるようにも見える素振りに首を傾げていて家デートを持ち掛けられると目を瞬かせた。てっきりこの街の良い所に行こうと誘われるかと思ったのに。だが特に行きたいところがある訳でもなければまだ暑いという妙な言い訳に不審に思いつつも素直に頷いた。相手と過ごせるならば何処だって異論は無い。だがこのままただ帰るのももったいない気がして、何処かでご飯や家で楽しめるものを買って帰ることを相手の顔色を見ながら提案してみて)
だ、……家に帰ってもなんもねぇか。完治祝いのデートだし、お前の好きなの買って帰るか
(相手をなるべく外に出したくない気持ちが働いてしまって家でのデートを提案すれば相手は何処か引っかかりのある顔をしながらもすんなりと受け入れてくれて内心安堵する、今外を歩き回っても相手との時間に集中出来なさそうだ。胸を撫で下ろしたところでこのまま買い物に行こうと言われれば即座に反対する言葉が口から出かかる、だが家にはなんの用意もないわけでこのままではただ家でぼんやりするだけで終わってしまう。デートだと上機嫌な相手の笑みを消したくはなくてなんとか言葉を飲み込むと自分を納得させるように呟いたあと近くの大型スーパーに向かって歩き出した。これまで以上に警戒を強めなければと自分に言い聞かせながらいつもより近い距離で相手の隣に陣取り歩いていて)
…ああ、そうしよう。
(帰るがてら買い物をしてから帰ろうと提案すると相手は瞬時に何か言いかける。直ぐに黙ってしまった姿はやはりいつもと様子が違っていて、だけどその原因に思い当たる物が無ければ首を傾げるしかなかった。だがデートと言う言葉が出てきて好きなものを買ってくれると聞けば目がきらんと輝いて一先ずは受け流すことにした。相手が歩き始めると自分もそれについて行く、いつもより距離も近い気もするがデートと言う響きに浮かれているのだと判断すればこちらからも距離を詰めて大型スーパーに向かった。その道中繁華街を通っていると『そこのお兄さんたち』と急に声を掛けられ思わず足を止める。記憶にない辺り最近出来たようなコスメ屋のようで声を掛けた主である女性はこちらが止まったのを見るなり近付いてきて『お兄さん達めっちゃ肌綺麗ですね。うちの店最近出来たばっかりでオープンキャンペーンとしてコスメの試供とかやってるんですけど興味とかありませんか?』とハンドクリームなどの乗ったチラシを渡しながら食い気味に提案される。以前女装の時に幾らか触ったが未だ未知の世界だ。試供くらいならばお金も掛からないだろうかと『ハンドマッサージ付き!』と書かれたチラシの内容見つめながらその目は興味を示しかけて)
…っ、やめろ!!……あ、
(心は全く落ち着いていないのだが買い物をするのを決めると相手の目は輝いてやはりこの輝きを失いたくないと思う、だが危険な目にあってもガレージに閉じ込めても、きっとその輝きは失われてしまうだろう。どうにもならない矛盾を抱えながら何時でも対応できるように相手の近くにいながら繁華街を歩く、すると女性の声が聞こえてその足音がこちらに近づいてくるとスっと肝が冷える心地がした。女性特有の高い声に迫る影、どうしようもなくあの日のことを思い出してしまえば反射的に相手を庇うように半歩前に出て腕で相手を庇って店員を睨んでしまった。しかしそこにいたのは新しい店を宣伝しにきた店員だ、遅れて心音が緊張で早くなると目を泳がせ腕を下げる。その間に店員は相手がチラシを受け取ったのをみて営業のチャンスだと思ったのか『簡単なのでここでも出来ますよ?』とクリームを片手に相手の手を取ろうとした。その瞬間にまたあの時のことがフラッシュバックして頭に血が上ると怒号に近い叫びを周囲に響かせ相手と店員の間に割って入ってしまう。店員は呆気に取られたあと怯えの表情を見せて、そこで漸く自分がしたことに気がつけば背後の相手を後ろに押しやりながら「悪ぃ、こいつ匂いがきついのはダメなんだ。また来るからその時におすすめ教えてくれ」と取り繕うように早口で言えば相手の腕を掴んでその場を離れて)
…っ、翔太郎? あ、えっとそういう事だからすまない。 ……翔太郎、もしかしてまた似たようなことが起こるって思っているのかい?
(愛想の良さそうな店員がこちらに話しかけてくると相手が半歩前に出て腕でこちらを制する。好奇心で飛びつく自分を制する為の動きだろうかと思ったがその目は店員を鋭く見ていた。相手の勘に引っかかる怪しいサービスなのかとチラシに視線を落として見ているとそれを営業チャンスと思ったのか店員がこちらの手を取ろうとする。その瞬間怒号にも近い声を上げて相手が決定的に割り込んできてその剣幕にびくっと肩が跳ねる。明らかに普段とは違う反応に伺うように名前を呼べば相手もはっとした顔をするも自分を後ろに下げてから早口で嘘の理由を捲し立てて強引に腕を引っ張っていく。今だ怯えと困惑の表情を浮かべる彼女にこちらからも声を掛けつつ相手に引かれるまま繁華街を離れた。注目を向けていた周りの人も無くなり落ち着いた道に出てくると相手の腕を一回ぐいっと引きながら名前を呼ぶ。先ほどから外を出歩くのを躊躇うような態度に退院してからずっと気遣うような仕草、さらに店員がストーカーだった彼女と歳が近かったことを考えればその理由が一つ浮かんで伺うような視線を向けながら問いかける。周りに人が居ないことを確認してから背中に手を添えそこを撫でながら「大丈夫だよ、彼女達は今も捕まっているようだしもうあんな事は起こらないから」と優しく宥めるように言葉をかけて)
っ、……そんな事言いきれねぇだろ?最初は付けられてることも気付いてなかったんだ、俺が気付く前に強硬手段に出てたら……
(こちらの剣幕に店員は完全に怯えている、せっかくこの風の街に新しくやってきた店なのに出迎えるどころか怒鳴りつけるなんて。後日謝りにいくことを決めつつも相手の腕を掴んで人混みを避けるように歩き出した。周囲に人がいるとこちらに敵意を向けている人物が紛れてしまう、人気のないほうが対応しやすいだろう。そうやって警戒心を顕にして歩いていると突然相手に腕を引かれて驚いたように目を開いて相手の方を見る、そしてこちらの胸の内を見透かされるとさらに目を丸くさせた。どうやら相棒にはこちらの考えなどお見通しらしい。背中を撫でられるもののこの体勢では片腕を咄嗟に差し出せない。肩に手を置いて動きを制してから小さく首を振る、彼女らは捕まってはいるが彼女達と同じような人間がいつ出てくるかなんて分からない。それにただでさえ相手は組織に狙われているわけでどんな奴がどんな手を使って手を出してくるのか分からないのだ。ひとりの男性が静かに自分達から少し離れた位置を歩いてくるのが見えれば男性と相手の間に移動して「お前に催眠かける奴だっているし、同級生だっていいながら近づいてくる奴もいた。さっきのだってマッサージだって言いながら腕になんかされたら対処できねぇ」と考えていくうちにまた緊張で心音はあがって相手と目を合わせて無理やり笑みを浮かべると「やっぱお前先に家に帰っとかねぇか?お前を送った後に俺が買い物してくればいいだろ?」と今すぐ帰宅しようと提案し)
翔太郎、…翔太郎! 少し考えすぎだ、それに君と離れる方が危険だし、一人で待つのは寂しいよ
(ずんずんと歩いていく相手の腕を引いて動きを止めた所に推測をぶつければ相手の目が図星をさすように丸くなる。落ち着かせようと背中を撫でながら大丈夫と告げるが普段なら軽く身を預けてくれるのに今日は肩に手を置かれて動きを制される。遠くで聞こえた足音からも自分を引き離すように相手が体の位置を変え。ぽつぽつと聞こえてきたのはあったかもしれない未来とこれからも起きるかもしれない不安で今までの被害を例に挙げながら呟く姿は強迫観念に囚われているように見えた。一度名前を呼んでみてもそれは止める気配はなく濁流のように言葉が紡がれると相手がこちらを見る。目は合っているのに引きつったような無理な笑みを浮かべていてその様子は何とも痛々しい。声を張り上げて名前を呼び真の意味でこちらを向かせるとじっと相手を見ながら落ち着かせるように言葉をかけていく。きっと相手の不安は今までの物が積み重なって噴き出したもので言葉だけでは解消できない。真の意味で大丈夫だと思って貰う必要があるだろう。あくまで二人でないと寂しいという方向に話を持って行くと「じゃあ今日は近くのコンビニで必要なものだけ買って二人で家に帰ろう、それでどうだい?」と大型スーパーではなく手頃な場所で買い出ししてから帰ることを提案して)
あんなことがあったんだから考え過ぎなんて、……そうするか。コンビニなら俺達以外の動向も把握しやすいしな
(これまでに何度も襲いかかった相手を失う可能性のあった危機、順に並べていくだけでも包丁が相手を貫いた時の絶望が脳裏を過ぎって内蔵が冷たくなる。それなのに心音だけは上がり続けて脳内は血が広がったように赤く熱い気がした。今までならばまだ怪我が完治していないのを盾に外出を控えるよう言えたのにその言い訳も今日でなくなってしまったのだ。次第に今すぐにでも相手を安全な場所に帰さなければとそれだけに思考が支配される、しかし強い口調で名前を呼ばれると我に返って動きを止めた。漸くきちんと相手を視界に収めれば考えすぎだと言われて目が泳ぐ、自分でも過剰な心配をしているのを理解している反面薄暗いところから誰かが『フィリップがまた刺されるかもしれない』と囁いている気がした。なんとか相手を帰そうとするが【寂しい】という一言を聞けば思考の暴走が止まる、相手を悲しませることはしたくない。人が多い大型スーパーの代わりにコンビニにいくことを提案されると数度頷く、即座に店の安全性について口にしたのは自分でも気づかなかった。掴んでいた腕を離して、しかし相手との距離は相変わらず近いままコンビニへの道を歩き始める。その間も警戒心は相変わらず発したままでコンビニについても周囲に素早く目を走らせてこちらを伺う目がないかを確認していて)
何を買おうか。家でまったりするならお菓子とか飲み物かな
(ずっと暴走気味で焦りと不安が全面に出ていた相手に対して強く名前を呼んで自らの想いを伝えるとやっとちゃんとした意味で目が合う。このままでは相手も落ち着かない、スーパーに行くのをやめて最寄りのコンビニに行くことを提案すれば了承の返事か返ってくるものの店の安全性に言及していて僅かに眉が下がる。相手が愛するはずのこの街の人物が警戒対象になってしまっていることが妙に居心地が悪い。早くその不安を取り除かなくてはと心に決めながら向かう道を変えてコンビニへと向かった。警戒したままの相手と一緒にコンビニへと入るとカゴを持って店内をぶらつく。スーパーと違ってコンビニは小さな土地の分売り場がぎゅっと詰まっていてその代わりにその店ならではの商品があったりする。期間限定と書かれたお菓子や商品をキョロキョロ見ながら相手に話題振って)
そうだな。あとはアイスも買うか。コンビニになっちまったけどお前が好きなもん買って、…、…
(女性店員がこちらに駆け寄ってきた時からずっと心音が収まらない、視界に誰かが入るだけでその手にナイフを持って相手に駆け寄っていくのではとあらぬ心配をしてしまう。馬鹿げた妄想だと分かっているのに一度その妄想が実現しただけに油断する気になれなかった。コンビニについて店内を見回せば数人の人影が見える、他の客の動向に注意しながらお菓子のコーナーへやってくると相手はキョロキョロと落ち着きなく商品棚を見ていて子供っぽい仕草に僅かに口角をあげた。こんな表情もガレージに相手を閉じ込めらば見れなくなってしまうものだと自分に言い聞かせた矢先、不意に人影が自分達に近づいて相手が見ている棚に手を伸ばしてくる。途端に思考は真っ赤に染まって心音が上がると伸ばされた手を無意識に掴んで制止させた。知らぬ間に呼吸さえ止めていたが『翔太郎くん?』と声を掛けられるとハッとして顔をあげて人影の方をみる。そこには顔なじみの駄菓子屋の店主がいて『どうしたの?』と声を掛けられると意識が引き戻されすぐに手を離して「すみません。ボーッとしてて。お久しぶりです」と返事をした。店主は不思議そうな顔をしているがこの場を誤魔化すように相手の方を向けば「この人は俺がガキん時から通ってる駄菓子屋の店主さんだ。こっちは俺の相棒でフィリップです」と場の空気を無理やり戻しながらそれぞれを紹介して)
なら今日はアイスよりも向こうの、…駄菓子屋、…はじめまして。
(コンビニ店内を見て回っていれぱ幾らか相手の警戒も緩んだ気がしていつものように相談しながら商品を見ていく。せっかくならば冷蔵コーナーにあったコンビニスイーツにしようかなと述べようとしているといつの間にか横から人がやってきていて棚に手が伸ばされた。なんてことない仕草だが即座に相手がその腕を掴んで緊迫の空気が漂うと咄嗟にその人物と相手の顔を見る。だがその空気に反して優しい声が聞こえてきてその後の二人のやり取りから古くからの知り合いだと分かった。不思議そうにしている店主に相手が誤魔化すように双方を紹介してくれて、初めて聞く単語に興味を示すように同じ言葉を口にした。相棒だと紹介されると軽くぺこりを頭を下げ挨拶をすると『君が翔太郎くんの相棒か。たまに話には聞いてたよ、宜しくね』と和やかに挨拶が返される。相手の幼い頃からの付き合いならば無下にする理由もなく少々空気も和やかに戻って軽い世間話をしていると店主は『あ、そうだ』と言って懐を漁る。それから相手を見ると『さっきおまけで出たんだけどウチは飾る所がいっぱいだから、翔太郎くん好きだったよね?』と言いながら手頃なサイズのふ.う.と.く.んのマスコットを差し出す。そのサイズ感は盗聴器の仕込まれていたあの置物とよく似ていて思わず固まってしまうとそれを違うものかと思ったのか『もしかしてフィリップ君も欲しかった?確かこっちにポーズ違いのやつが…』とまた懐を漁って取り出そうとしていて)
ッ!……いらねぇ!!…、…
(相手に伸びてきたと思った手は懇意にしている駄菓子屋の店主のものだった、街を見て回る時に前を通る店でもあって自分が小さい頃から世話になっている人でもある。そんな人の手を乱暴に掴んでしまった事に半分戸惑いと半分罪悪感を抱えなんとか場と自分の気持ちを紛らわせようとした。相手と店主の挨拶も和やかに終わった矢先に店主は鞄を漁って何かを取り出す、出てきたのはあの時に盗聴器を仕込まれていたのと同じふ,う,と,く,んのマスコットで顔が引きつってしまった。店主とは長い付き合いで小さい頃からこちらがふ.う.と.く.ん.が好きなのを知っている、これを差し出しているのも100%の善意だ。それを分かっているのにもしかしたらと警戒してしまう、視界の端に相手の姿が映ると同じく身を固めているのが見えて相手を守らなければと思いが膨らんでぶわりと全身に血が巡った。視界が真っ赤に染まる感覚の間に店主はまた鞄を漁り始めて、そこから光るものが出てくるのではと思えば即座に体は動いて相手を後ろにやりながら店主が鞄を漁る手首を強く掴んで後ろに押しやってしまった。コンビニ中にこちらの叫び声が響き一瞬時が止まる、一拍遅れて店主が呆気に取られた顔をしているのに気がつくと漸く自分が掴みかかっていることに気がついて「すまねぇ、」と慌てて手を離した。店主は目を瞬かせていたが、やがて『翔太郎くん顔色悪いね。高校生の時もそんな顔してたことあったかな…良かったらまたうちの店おいで。美味しいお菓子用意してるから』とにこやかに言うとこちらの肩を軽く叩いて相手に軽く笑みを向けるとその場を去ってしまった。その間呆然と立ち尽くしかなかったが店主がコンビニを出たところで「何やってんだ俺は…」と弱々しく呟いて)
…っ、……あ、……翔太郎。
(店主があの時と似たこの街のマスコットを差し出してくると嫌でもその中に盗聴器を見つけたときの事を思い出してしまう。思わず固まっていると店主が鞄を漁り始め、不意に相手に体を押しやられたかと思えば店主の手首を掴んで威嚇するような声を上げるのが見えた。その叫び声にまたびくっとしてしまうがそれは相手も同じようで素で戻ったように手を離す。急に強い声を向けられて驚いていた店主だったが気にしていない様子で相手の肩を叩きこちらにもすぐにこやかな笑みを向け、優しい大人の対応に上手く言葉が出てこなくて軽く会釈するしか出来なかった。店主がコンビニを後にして周りからの視線も幾らか和らいだ所で相手の自嘲気味な呟きが聞こえてくれば無意識に名前を呼ぶ。相手がこちらを守ろうとする警戒心は顔見知りの人物にまで及んでしまっている、それだけあの時の光景が相手に深く強いトラウマになっていることに酷く胸が痛む。だがこの街の守るべき対象にそんな行動をとってしまった相手の方が動揺しているはずで宙に浮いたままの手を握って「早く買い物を済ませて家に帰ろう」と呼びかける。今のままでは外に居るというだけで相手の精神は落ち着かない。手ごろな飲み物とお菓子、ちょっとしたお惣菜など今日一日家で過ごせるようなものを買うと相手にお会計を頼む。なるべく相手との距離を詰め、反対に他人が近づいてこないように考慮しながら会計を待ってコンビニを後にして)
……そうだな
(あれだけ長い付き合いがあって店主がどんな人か知っているのにあの一瞬、間違いなく相手に襲いかかる敵として認識していた。そんな事あるはずないのに、あるはずのない事が起こっただろうとまた誰かが囁いた気がした。自分が嫌になるのに相手を守りたい気持ちだけが膨らんでいって自分でも折り合いを付けられない、正常でない自覚はあるがこれから相手が自由に外を出歩ける事に強く拒否している自分がいた。呆然としていれば相手がこちらの手を取る、相手自らが家に帰ろうと言っただけで気持ちは随分とマシになった。会計を済ませるとコンビニを後にする、先程よりも近い距離で相手の隣にピタリとついて周囲を警戒するように歩いていた。無言で帰路を歩いていればパタパタとこちらに近寄る足音が聞こえて息が止まる、心音があがって目を見開くと相手を庇うようにしながら勢いよく振り返った。直後『翔ちゃんやっほー!』『え、何それ番犬?』と高い声が聞こえてくれば一瞬身構えるものの距離もあったお陰で「…なんだよ、クイーンとエリザベスか」と気づくことができた。早くなった心臓を抑えるためにゆっくり呼吸しているとエリザベスが相手の方を向いて『フィリップくんやっと退院したんだ!良かったぁ心配してたよ』と相手を労う、クイーンはチラリとこちらを見てから『フィリップくんが入院してる間の翔ちゃん見てられなかったけど、今もやばそうだね』と指摘されてしまい、いつもならば言い返すところも言葉が出ずに目線を逸らしていて)
クイーンにエリザベス、久しぶりだね。例の件は色々手回ししてくれて助かったよ…やっぱり分かるかい? 何というか外を出歩いたらまた僕が危険な目に合うかもしれないと思っているみたいでずっとこの調子なんだ
(精神的に不安定な相手を引きつれ一緒にコンビニを後にする。ほぼくっついているといえるほどの近さで隣り合っていれば普段は心が弾むような時間であるのに相手の視線は周囲を注意深く警戒することに使われていて少し遠くにいるような気分だった。レジ袋を持ちながら帰りの道を歩いていると足音が聞こえる。即座に相手が前に出て庇うような姿勢を取りながら振り返ると見慣れた女子高校二人の姿があった。相手の体から緊張を解く様子を視界に入れながら手を振って彼女達を迎え入れる。例の噂も彼女たちのおかげでかなり払拭出来たと聞いている、真っすぐに労ってくれる姿勢にも胸も暖かくなると素直な笑みとともにお礼の言葉を告げた。一方クイーンは相手をちらりと見てから鋭い指摘をしていて観察眼に感心しながらこちらも目を逸らす相棒に目を向ける。二人には色々とバレているのならとある程度の経緯を明かすと納得するように相槌が打たれた。『でも彼女ってまだ捕まっているんでしょ?』という問いには頷き問題ないはずだと告げるが相手がそれで納得するとは思えない。一人では良い案が浮かばす、口元に指先をやりながら「どうすれば安心してくれるだろうか…」と本人の前で相談を持ち掛けていて)
な、おい勝手に相談すんなよ。…彼女だけじゃなくて他にもいるかもしれね……え、
(こちらに近づく足音にまた思考は真っ赤に染まったが声の主が懇意にしている二人だと分かればなんとか心を落ち着かせる、流石にこの二人が今すぐ相手を包丁で刺すとは思えなかった。だがやはり相手の傍に自分以外の人間がいることは何処と無く落ち着かない、様子が変だと指摘されても上手く言い返せずにいた。こちらが黙りしている間に相手がこちらの状況を説明し始める。風の街全てを警戒しているだなんてこの街の探偵に相応しくないことを暴露されれば慌てて止めようとするがもう遅い、それに彼女が捕まっている話を聞いて即座に自分で彼女だけの問題ではないと答えてしまった時点で言い訳も何も無い。バツの悪い顔をしているとエリザベスが『あーそれ、翔ちゃんに文句言おうと思ってたんだよね。』『めちゃくちゃ落ち込んでるから言わなかったけど』と斜め上の返事が返ってきて間抜けな声が出る。目を瞬かせていると『あのさ、翔ちゃん私達の情報網舐めすぎ。翔ちゃんが彼女いる噂も私達とウ.ォ.ッ,チ,ャ,マ.ンとサ.ン..タ.ち.ゃ.んにかかれば一日で消えたんだよ?』『よーするに、何で私達に言わなかったの?』と次々と文句を言われてしまった。予想だにしない言葉に「あ、え、いや…俺だけでどうにかなると思って…」と戸惑っているとクイーンが『ここで翔ちゃんが私達に頼むべき事ってなんだと思う?』と済ました笑みを浮かべると相手にチラリと目をやって)
…ふふ、どうやらこういう所は彼女たちの方が上みたいだね?
(黙り込んでしまった相手を他所に今の状況を説明すると相手が止めようとするがその後の回答からその言い訳も聞かなくなりバツの悪い顔をする。深刻に悩んでいる相手とは裏腹に2人は続けざまに言葉を返し、目を瞬かせた隙にさらに畳み掛ける。次々と向けられる文句とそれに戸惑う相手の反応に思わず笑い声を零しているとクイーンのアイコンタクトのパスを受け、揶揄う言葉をかけながら相手の方を向く。相手が守ってくれようとしているのは当然嬉しいが今の相手は自分だけで何とかしなくてはと抱え込んでいる状態だ。一人では出来ることには限りがある事を二人で一人の相棒ならばよく知っているだろう。二人を見てから視線を相手に向けると「僕たちはこの街を守る為に動いてるけどそれと同じくらいこの街や人に助けて貰ってるはずだ。誰かに頼るのだって手段の一つだ、ならばこれだって例外ではないだろう?」と言葉を続けて)
……みたいだな。…クイーン、エリザベス。俺はフィリップを今回みたいな目に二度とあわせたくねぇ。だからこの街に異変がおきたら、こいつに危険が及びそうな可能性があるなら、すぐに俺に知らせてくれねぇか?で、困った時には助けてくれ。いつも通りな
(女子高生二人に圧倒されて目が点になっていたが、相手からも揶揄うようなことを言われて漸く二人に言われたことをゆっくりと飲み込む事ができる。そして相手からこの街に助けて貰っているのだと言われれば大事なことを思い出した。この街の涙を拭いたいという思いの原点、それはこの街に育ててもらって助けて貰って恩義を貰ったからだ。この街の探偵として生きてその恩返しをしているつもりだったがまだまだ日々この街に世話になりっぱなしらしい。漸く小さな笑みを相手に向けると二人の方へ向き直る。そして今二人に頼むべきこと、相手を守るためその情報網を宛にさせて欲しいことを、有事には今度こそ相談することを申し出た。クイーンは満足気に『翔ちゃんがそう言うなら仕方ないね』と女王の名に相応しい笑みを浮かべる、一方でエリザベスは『じゃあ今回の報酬はカラオケ奢りね。あ、パーティアラカルトつきで』とさらっと報酬を言い渡されると「はぁっ?!」と声をあげて)
同じく翔太郎に関する危険や情報があったら僕に知らせてくれ、勿論翔太郎が拒否していてもね。 、僕も参加してみたい!
(2人のパスと自分達の、そして相手の原点の話を振ればその表情は先程よりもずっと落ち着いたものになって小さな笑みが浮かんだ。そして2人の方に向き直ると情報網をあてにすることと相談することを告げていた。ついでに相手の横に並び直すと同様に相棒に関する情報は自分の元に持ってくるように依頼しておく。普段事務所に安楽椅子探偵をする分、外の気配や行動には気づきにくい。だが彼女達を含めこの街の情報屋の包囲網があれば相棒が無理をしたり何かをしかけても直ぐに情報が回ってくるだろう。こちらも和やかな笑みを浮かべると2人は満足そうに頷く。さらにエリザベスが行ったことのないカラオケという場所で面白そうな物を相手にねだっていればすかさず自分も参加表明をし、『えー行こ行こフィリップくん』『フィリップ君退院祝いってことでどうせならウ.ォ.ッ,チ,ャ,マ.ンとかサ.ン..タ.ち.ゃ.んと呼ぼうか』と計画が進んでいく。噂の件といいお世話になったのながら良い機会だろう。初めての会に素直に笑みを浮かべると「楽しみだね、翔太郎」と相手に話しかけて)
な、……まぁ、そうだな。今回の事では世話になったしフィリップの退院祝い兼ねて派手にやるか!
(女子高生二人にこれまで以上にこの街に目を光らせ同時に頼りにすることを申し出る、横からは相手がこちらと同じことを言っていて余計なお世話だと言う前にこちらの発言を先読みされてしまい口を挟むことも出来なかった。だが今回のようにこちらの危機が相手の危機へ繋がる可能性があるのを考えると自分達に危機が迫っているのならば知らせて貰った方がいいだろう。何処に危険が潜んでいるか分からないと強く疑念を持っていた思考は薄れていく、代わりに提案されたカラオケはこちらを置いて勝手に相手の退院祝いと盛大なものになっていた。会計のことを思って一瞬思考が真っ白になるが親しげに話す相手と二人を見ればこの街の一人として相手が生きている姿に言い様のない喜びを覚える、愛するこの街に相手がいることに幸せを感じていた。これは相手をガレージに閉じ込めては得られない感情だろう。今回の件で礼は伝えたが改めて感謝を伝えて相手の退院を盛大に祝ってやれるなら開催しないわけがない。漸く口角をいっぱいにあげると弾んだ声でカラオケ会を宣言した。その後は女子高生二人からまた細かく文句があったが概ね和やかに会話は進んで『じゃ、カラオケ楽しみにしてるから』『フィリップくんお大事にねー』と別れの挨拶をして二人を見送った。また二人に戻ったが先程よりも随分と楽に呼吸ができるようになって相手の方を見れば「ありがとなフィリップ、大事なことを思い出させてくれて」と礼を伝えて)
僕は何もしてないよ。守りたいと意気込んでくれるのは嬉しいけど一人で背負いこんで潰れてしまっては意味ないだろう?僕達には頼りになる仲間がいるのだから頼りたまえ
(文句を言おうとしていた相手だったが収集がつかなくなったから、もしくは振り切ったのか口角をあげたいつもの笑みを見せると乗り気にカラオケ会の開催を宣言して三人で盛り上がる。自分の退院祝いと銘打たれると少しくすぐったいがクリスマス会と同様きっと楽しい時間になるに違いない。さっそく予定を確認したりカラオケとやらの仕組みを二人に聞いたりしながら話を進めある程度纏まると二人は用事があるからと去っていく。『またね』と手を振って女子高生二人を見送ってから相手を見ると幾らかさっきよりも顔色や呼吸も良くなっていて伝えられる礼に軽く微笑んだ。相手だけでこの街の全ての悪意を見張るのは物理的にも精神的にも無理がある、一人で気負い過ぎても上手く行かないのは既に経験済みだ。自分の事ではないのが得意げな口調で他の手段も頼るように伝えながら相手の肩をぽんと叩いた。そして周囲に誰も居ない事を確認してから相手の手を取り「皆とのカラオケ会も楽しみだけどその前に今日は二人っきりでデートだからね」と宣言するとその手を引いて人通りの少ない裏路地から帰路を進んでいき)
そうだな。みんなこの街を愛してんのは同じだ。…あぁ、ちゃんとお前とのデート楽しまねぇと
(今回は確かにこちらにとって脅威の存在が現れて相手は命の危機に晒された、しかしこの街の人全てがそんな存在ではない。この風の街に生きていて中には自分達に協力してくれる人もいる。その協力者の面々がなかなか強力な味方なのだから心強い。これまでだって幾度となく自分達を助けてくれたのだ、これからだってそれは変わらない。相手と皆が顔見知りを超えて退院祝いのカラオケパーティーをやるほどの縁があるのだから尚更心強い。そんな当たり前のことを相手を守ることに固執しすぎて忘れてしまっていたようだ。頷き応えていると周囲に人がいないのを確認してから手が繋がれる、そして改めて今日がデートなのだと言われると口角をあげて繋いだ手をぎゅっと握った。そのまま人通りの少ない道を選んで手を繋いだまま二人の家へとたどり着く、そこは相手を閉じ込める場所ではなくて二人で二人だけの時間を過ごす場所だ。玄関をくぐって「ただいま」と帰宅の挨拶をする、ハットを仕舞い買い物袋を適当に置いたのを見計らって「フィリップ、」と愛しいその名前を呼びながら相手を抱き締めて)
ただいま。…ふふ、捕まえたくなったのかい?
(すっかり調子を取り戻したように見える相手の手を取ると強く握り返されて口元が緩むのを感じながらそのまま人通りの少ない道を歩いていく。さっきとは違って何気ない話をしていればあっという間に家に辿り着いて相手に続いて帰宅の言葉を口にしながら中へと入った。買い物袋などをテーブルに置いて整理をしていると相手に名前を呼ばれそちらを向く。その時には既に相手は近づいていてすぐにその腕に抱きしめられた。もうそんな気は治まったと知っているからこそ笑い声を零して悪戯っぽく問いかけながらこちらからも腕を回して相手の体を抱きしめ返す。この身で自分を守ろうとしてくれた嬉しさが気が抜けて時間差でやってくればぎゅっと少し腕に力を込めて「翔太郎、今日はデートだから二人で閉じこもろうか」と楽しそうに告げて)
……ちゃんとあいつらの存在は頼りにしてるけどよ、…でもほんの少しだけ、俺はお前をここに閉じ込めときたいと思ってんだよ
(相手を抱き締めていれば揶揄い混じりの言葉が飛んでくる、きっと冗談のつもりで相手は言ったのだろうがその気持ちが全くないかと言われれば嘘になる。相手をこの部屋に閉じ込めておきたい気持ちはずっと胸の片隅に抱えていたもので今回の件で余計に膨らんでしまった願いだ。二人きりになったからこそ胸の内に潜む薄暗い感情さえ口にしてしまえる、驚異から相手を守るという意味でも誰の手にも触れさせず自分だけのものにするためにもここにずっと閉じ込めておきたいと微かに願いを抱いている。当然それを実行することはない、しかし相手から強く抱きしめられて擬似的にでもその願いが叶えられると言われればどうしようもなく胸は満たされてしまって「あぁ、テーブルに買ってきたやつ広げちまおうぜ」と上機嫌に言って)
…、常にと言うのは無理だけど二人きりの時くらいは好きにして良いよ。 良いね、そうしよう。
(相手を抱きしめながら問いかけると相手はぽつり一番底にあるだろう感情を口にする。相手の願いを何でも叶えてあげたい気持ちはあるがここに閉じ込められてしまえばこの街の二人で一人の探偵にはなり得ない。だが恋人であるときだけでもその感情を受け止めたくて腕に力を込めて自分の存在を知らしめるように相手を引き寄せると2人きりの時はその欲を明かしても良いとその目を見ながら囁いた。どちらにしろ今日はもう一日外に出ることはないだろう。上機嫌に告げられた提案に賛成を示すと一旦腕を解いて買い物袋を手に取る、中から買ってきたお菓子や飲み物などを取り出すとテーブルに並べていく。普段ならば家にストックしない様なものやコンビニスイーツなども並んでいて「ちょっとしたパーティみたいだね」と言いながら楽しげに準備していき)
なら俺達だけで退院パーティーの前夜祭だな
(普通ならば他人に明かせないような行き過ぎた独占欲が滲み出る願望、それさえ体を引き寄せられて見つめられながら肯定されてしまうと胸の底の底まで満たされてしまってじわりと幸せが広がってしまう。口角を上げると「ならそうする」とこちらも薄暗さを滲ませるような呟きで返事をしていた。今日はもうここから出ていく必要もない、それに完治を言い渡されたということは抱きしめる時に手加減する必要もないということだ。最後にぎゅっと強く抱き締めてから腕を解くとコンビニで買ってきたものを並べていく、あの時はあまり心身穏やかではなくて目に付いたものを適当に買い物カゴに入れたがどうやら暦上は秋の訪れのせいかテーブルの上に並んだものは焼き芋関連のスイーツがちらほらある。華やかになったテーブルを前に相手の椅子とこちらの椅子を最初からピタリとくっ付けて並べると左側へと座って相手の方を振り返り「どれから食べるんだ?」と問いかけながらすぐ右隣へ来るように手招きして)
どれにしようかな…まずはシンプルに芋の風味を味わえそうなこれにしよう。
(ありのままで良いと伝えると相手は口角を上げそれを望む返事をする、普段は外に出なければいけない分プライベートでは二人だけの世界に閉じこもったって文句は言われないはずだ。最後に今まで出来なかったぐらいの力強さでぎゅっと抱きしめられると満足げに笑いながら相手から離れた。テーブルの上に買ってきた物が並ぶとその豪華さに気分は上がる、相手が二つの椅子をくっつけてその左側に座ると初めにどれにするか悩むような言葉を口にしながら手招きされるままくっつくような距離でその右隣に座った。二人きりだからこその距離に胸を弾ませつつテーブルの上からまず取ったのは秋らしい見た目のスイートポテトだ。土台はタルトのように赤紫色のクッキー生地になっていて見た目から半分に割った焼き芋っぽいのに加えて手で掴んでも汚れないようなつくりになっている。早速封を開けると黄金に見えるお芋の部分が良く見えて観察するようにスイートポテトを見る。それから「いただきます」と言いながら端っこかた噛り付くと滑らかな舌触りと優しい甘さの芋の味、底のさくっとしたクッキー生地のバランスの良い組み合わせを味わう事が出来てすぐに相手の方を向くと「美味しいっ!」とその感想を伝えて)
…そりゃ何よりだ。……
(ピタリとくっつけた椅子に並んで座って二人だけの退院パーティーを始める、買い物でバタバタしてしまった分ここからは相手の願いを存分に叶える時間にしなければ。数々のコンビニスイーツや飲み物が並ぶ中、相手が最初に選んだのはシンプルなスイートポテトだ、開封して真っ先に観察する姿は何とも相手らしくて胸が擽られて自然と口角があがる。観察の後に相手がスイートポテトへ齧り付くと直ぐ様その顔はこちらに向いて感想を伝えられる、感動をいの一番に伝えられることにまた幸せと優越感を感じれば、やはりこの姿の相手を誰にも渡したくなくて小さく笑みを浮かべながら返事をすれば相手の肩に腕を回して軽く引き寄せこちらのテリトリーの中に相手を入れた。不安に駆られた反動か今相手が側にいてこの家に二人でいる喜びが膨れてしまって溢れる想いのままにまだ甘さが残っているであろう唇に軽く口付ける、そのまま相手が持つスイーツポテトを齧ると肩に腕を回したまま咀嚼して「うん、確かに美味いな」と感想を口にし)
…ん、…芋の素朴な甘さが秋っぽい味だね。
(ぴたりと相手とくっつきながらスイートポテトを頬張れば優しい甘さが口いっぱいに広がって口元がつい緩む。相手にもその感想を共有すると相手の表情にも笑みが浮かんだ。ふわりとした幸せに浸っていると相手の腕が肩に伸びてきて更にぐっと引き寄せられる。さらに近い相手の一番素の部分に招き入れられたような気がしてご機嫌に相手を見つめているとその顔が近づいてきて自然と目を閉じる。軽く唇同士が触れて離れて行けばそれだけでも胸には幸せが満ちて緩い笑みを浮かべ、相手が手元のスイートポテトを齧るとその光景がくすぐったくて照れ隠しに同意の感想を口にしながらこちらも軽く相手によりかかって体重をかけた。あまりに近すぎる距離かもしれないが今日はこのままで居たい。相手とくっついたままもう一度味を確かめるように端を齧って咀嚼すると手元のスイートポテトを半分くらいに割ってから相手に視線を向け「あーん」と言いながらその口元に差し出して)
あぁ、焼き芋の味をシンプルに味わうならこれが一番だな。……ん、…
(おおよそ食事をする時のものではない距離感で相手と共にスイートポテトを味わう、無断で相手の手から一口齧ってみても相手となら二人で分けるのが当たり前で二人でスイーツとこの空間の甘さに浸る。こちらに寄りかかる重みすら愛おしくてしっかりと支えながら相手がまた一口スイートポテトを齧る姿を視界に収める、残りは二つに割られて口元に差し出されると素直に口を開いた。口に含む際わざと指先まで唇に触れさせると軽く吸い付くようにして高いリップ音を響かせる、先程よりももっと甘く感じるスイートポテトを咀嚼すると相手が先程割った残り半分を手に取って口元のすぐ側まで差し出すと「おかえしだ」と言いながら特に意味もなくスイートポテトの欠片で相手の唇を優しくつついて)
もう、…美味しいかい? …じゃあ遠慮なく…ん、
(明らかに近過ぎる距離で相手を感じながら食べる甘味はやはり特別だ。相手にスイートポテトを差し出すと素直に口が開かれて中に含まれていく。だが明らかにわざとの動きで指先に唇が触れるとリップ音が響いて、その悪戯に声を上げるがどうしても声色は弾んでしまう。自分が差し出した物を食べる姿が微笑ましくて咀嚼する様子をついじっと見つめていた。すると相手は手元にあったスイートポテトを取ってこちらに差し出してくる、つんつんとつつかれるとスイートポテトと相手を交互に見てからその端を口にした。だが今回はそのまま離れずにポッキーゲームと同じ要領で食べ進めていき、あと一口までになると一旦口の中のものを飲み込む。そして少し大口で相手の指先ごと口にするとそのままあむと甘噛みしてみて)
……、……美味そうだな
(戯れに指先にリップ音を付けてみれば言葉は文句だが声色は嬉しそうで、ちょっとした悪戯を甘んじて受け入れられることに幸せを覚える。こちらが咀嚼するのを見つめられるのは気恥ずかしくて視線をゆらゆらとさせていたが今度はこちらからスイートポテトを差し出すとポテトは端から順に相手の口の中へと消えていく。最後の一口の手前で止まった後に相手は指先ごと咥えてしまってそこを甘噛みされると柔い刺激に思わず笑みを漏らした。今度は相手が戯れるようにこちらの指先で遊んでいて大して意味の無い、しかしただ相手と触れ合って幸せな二人だけの時間が流れていく。相手の肩をこちらに更に寄せてから唇の上で軽く指先を動かしてみる。軽く歯をなぞったり唇を押したりしながらその様子をじっと見つめて、不意に噛まれていない小指で猫にやるように顎の下を擽ってみて)
、ここもちょっと甘い気がする。…んん、僕は猫じゃないんだけど、
(相手から与えられるスイートポテトを食べ進めていき、最後の一口を相手の指先ごと咥えて甘噛みすると楽しそうな笑みが浮かんだ。相手の指先を悪戯に遊んでいると相手から肩を引き寄せられさらに距離が近付く、その上で唇を押したり歯をなぞられると擽ったそうに笑いながらそこにちゅ、と吸い付いて味の感想を告げた。なんて事ない穏やかな時間を過ごしていると不意に相手の子指が顎下を擽る。今は猫の姿になった訳でもメモリの作用がある訳でもないのだが慈しむように大好きな恋人に撫でられると無意識に気持ち良さそうな声を出してしまう。それに自分で気付いて視線を迷わせ照れ隠しに相手に文句をつけるがその目は甘えるように細くなっていてされるがままだ。好きにされながら相手をじっと見て「…翔太郎」と名前を呼んで)
……甘えたなのは一緒みたいだな。……
(相手の歯の形をなぞり唇の柔らかさを感じながら指先が甘噛みされてその感触に浸る、先程の意趣返しか指先に吸いつかれてリップ音がなればどうしようもなく胸は擽られてしまった。胸から溢れる愛おしさのままに顎の下を擽ってやれば相手は気持ちよさそうな声を出す、まるで猫がゴロゴロと喉を鳴らすようでその指を止める事は出来なかった。文句を付けるその言葉さえ擽ったくて相手の顎下を撫でるのに夢中になっていたが不意に相手の瞳がこちらへと向く、そこにはまたもや猫と同じく目を細める相手がいて甘えるような声で名前を呼ばれれば何を求めているかなんて明白だ。揶揄う言葉を言うがその口調はどうしようもなく上機嫌でさらに顔を寄せる、顎下を撫でていた小指で相手の顎をすくい上げて少しだけ顔を上へ向けた。相手の口のなかに入っていた指で軽くそこを開くようにして指を引き抜くのと入れ替わりで唇を重ねる、先程の軽いキスよりも一歩相手の中に入り込むように唇を擦り合わせ柔らかな肉の内側まで互いのものを触れ合わせる。僅かに開いたそこから漏れ出す相手の吐息さえ甘い気がすれば唇を擦り合わせる動作に時折舌で擽る動作を加えてそこを艶めかせていき同時に顎下を擽るのを止めなくて)
君に撫でられたらこうなってしまうのだから仕方ないだろう…。…ん、……は、ぁ……
(顎の下を擽られると猫でもないのに気持ちが良くてリラックスして甘えるような仕草を見せてしまう。文句を言いながらも大人しく受け入れていたが段々ともっと相手の温もりが欲しくなって当然の事だと主張しながらじっと相手を見つめた。するとそれだけで意図を読み取ったようで上機嫌に顎を持ち上げられると自然に瞼を閉じた。口内にあった指が引き抜かれこの間を塞ぐように唇が重ねられると歓喜に小さく声をあげる。腕で相手を抱き寄せてその服を握りながら唇を深く重ね、擦り合わせていく。呼吸の合間に吐息が零れるようになると相手の舌が不意に唇に触れて小さく肩が跳ねる。同時に顎下を撫でられると更に思考が蕩けていき、自然に唇が開くとこちらからも相手の唇の端から端まで舌でなぞってみて)
……ん、…、……は……
(こちらのテリトリーに相手を閉じ込めたまま軽い口付けから一歩踏み込んだ食むような口付けを交わす、舌先で唇を擽れば腕を回す肩が小さく跳ねてその反応が良くこちらに伝わった。唇を擦り合わせるうちに相手の口は徐々に開いていき舌がこちらの唇へ這えば肩が小さく震える、腹の奥底が悪戯に擽られた気がした。相手の中にもっと踏み込みたくなると肩に回していた手を後頭部に添えて固定してしまうと唇を擽る舌をこちらのもので絡めとってついでに相手の口内へと押し込んで中で絡ませる、同時に顎下を撫でられて上機嫌だった相手の顔が浮かべば小指から人差し指と中指へ添える指を変えてより明確に広い範囲をなぞり始める。喉仏の上辺りから顎の先の方へ、時折顎のラインをなぞるように動かして相手の輪郭を確かめるようにあるいはそこを擽るようにしながら深いキスと共にそこを愛でていて)
…、……ン…ぁ、…
(自らが求めるままに開いた隙間から舌を出して相手の唇をなぞると相手の肩が小さく震える。自分の行動で相手が反応する事が嬉しくて口端を上げていると肩に回っていた腕が後頭部に移動してがっしりとそこを固定される。そのまま押し込まれるような形で舌が絡め取られて擦り合わせるようになれば相手を更に感じることができるようになって深い口付けに夢中になっていく。舌を絡めて時折舌裏など普段触れない所を悪戯に擽って特別なキスの感覚に浸っていると添えられてた指が変わって顎のラインを撫でていく。先程までの心地良さをまた覚えるが同時に深い口付けの最中ではそこを通る呼吸を意識してしまってキスが長引いていくのに比例して吐息の量は増えていき、息苦しさに喉を震えながら舌を動かしていき)
…、…………ん、………
(相手の口内で舌を絡ませ擦り合わせながら顎をたっぷり愛でるように撫でていれば、そこを刺激されているせいかいつもより喉仏が揺れる回数は多くてこちらの口内に吐き出される吐息は多い。平時より熱を持った息はそれ以上に甘い気がして口から入って脳にまで到達しそこへ広がっていく気がする、それに加えて相手にしか触れられない特別な場所を舌先が擽るとさらに脳内は揺れた気がした。揺さぶられた思考は相手の反応がもっと欲しくなって一旦顎に添えた手を腰に添えてこちらに引き寄せてからさらに向こうへ体を傾け口付けたまま相手の顔を上に向かせる、後頭部は固定したまま反対の手を再びあげると相手の首を優しく掴むように添えた。そして顎ではなく喉周りをゆっくりと撫で始める、時折喉仏を親指の腹でなぞるようにして動かしてそこが震える感触を確かめた。その間も深い口付けは止めず上顎の裏や歯列など口内の隅々まで舌を這わせマーキングを施しながら吐き出される吐息を全て奪っていく、顔が上を向く分二人分の唾液が相手の口内に注がれて苦しげに震える喉を慰めるように撫でて愛で続け)
……っ、…ん、は……っ
(夢中になってキスを続けていればいつの間にか手が腰に添えられていてさらに引き寄せられる。相手が体を傾けて自然と上を向くような形となるとその分気道の通りは良くなって声や吐息が零れそうになる。その首を相手の手で包まれて喉仏の辺りを撫でられるとそこに圧迫感や温もりを感じて更に震え始める。人に晒すことの無い、相手だけに触れることを許した場所をなぞられると相手の物になるようマーキングされているような感覚に満たされるものを感じながらギュッと相手の服を掴んでいた。深く絡みつくような深いキスを続けていればだんだんと2人分の唾液が口内に流れ込んできて息がしづらくなりはじめる。酸素が薄くなり薄らと開いた瞳を若干潤ませながらも離れる気はなく、喉を震わせながら相手を求めていた。だがそれも限界に近付いていれば相手をじっと見つめたまま触れられている喉をごくりと鳴らして二人の物を飲み込んだ。少しだけ唇を離して熱い吐息を零すと溢れる思いのまま「しょうたろう」と口にして)
…っ、……フィリップ………ベッドいくか
(深い口付けをしながら相手が喉を震わせ反応する姿が愛おしくて全てを感じようとそこに手を添えたまま舌を絡ませ続ける、傍からみれば首を絞めているような構図だがただ優しく撫でてそこが震えるのに言い様のない興奮を覚えていた。口内を支配していけば縋るように服が掴まれて苦しげに溺れそうになっている相手を慰めるように後頭部を掴む手で軽くそこを撫でる。やがて相手は口内のものを飲み込んでその様子が掌からありありと伝わると腹底がゾクリと疼く、唇を僅かに離せば薄らと涙を目に溜める相手が熱い吐息と共にこちらの名前を呼んでクラリとまた脳内が甘く揺れた。テーブルの上には甘いものがずらりと並んでいるがそれよりも甘い時間を相手と共有したい、移動を提案すると相手の返事を聞く前に肩と脚に腕を差し入れ体を持ち上げる。そのまま移動しベッドへ体を横たえると上から覆い被さった。相手が誰にも触れられないこの空間でさらに自分の下に閉じ込めて逃がさないようにすれば、恋人は正真正銘自分だけのものになる。相手を暫く見下ろし頬を親指で撫でるがその瞳には熱がチラついていて、耳、頬と順に口付けた後そのまま顔を下に移動させて首に何度も口付けを降らせ時折そこを甘噛みし)
…ん、…翔太郎。…は、…んっ…もしかして、ずっと我慢してた?
(二人分の唾液を飲み込んで瞳に相手だけを映しながら名前を呼べば相手の瞳も揺れたような気がする。移動を提案されて返事も聞かない内に体が持ち上げられると回していた腕を相手の首に回してしがみつくようにしながら小さく返事をした。テーブルに沢山の甘味を残してベッドに移動して来るとそこに寝かされてその上から相手が覆いかぶさる。さらに狭く相手と二人だけの世界に閉じ込められてしまえば心臓の鼓動が早くなるのを感じながら恋人の名前を呼んだ。こちらを見下ろして頬を撫でる仕草の優しさは先程と変わらないのにその目には確かな熱が灯っていて無意識にまた吐息を零す。耳や頬にキスが降ってくれば背中に回した腕を軽く引き寄せてもっとと強請る。相手の顔は段々と舌へと降りてきて執着じみたように首筋に何度も唇が触れ、軽く甘噛みされるとぴくっと体が震えた。だんだんと体温があがっていくのを感じながら相手の様子を伺うと一つ思い浮かんだことを悪戯っぽい口調で問う。入院していたときは勿論のこと退院した後も傷が癒えるまで力いっぱいに抱きしめられることもなかった。先ほどの不安と警戒といい長い間我慢させてしまったと思えば後ろ手で相手の頭を撫でながら「今日は何も遠慮せず君の好きにしていいよ」と甘く告げて)
…、当たり前だろ……っ!、馬鹿野郎…加減できねぇだろ……
(ゆらゆらと腹底で熱が揺れるのを感じながら相手の耳に頬、そして首へと口付けを何度も落とす、背中に回る腕が強請るようにこちらの体を引き寄せれば相手を閉じ込めているはずなのに相手の中に誘い込まれているようでまた脳内が揺さぶられる。首を優しく喰らうようにしていれば相手から悪戯な声で問いかけがされて動きを止める。医者からは傷が再び開けば同じように命の危険があると言われていたのだ、自分の欲望をぶつけるような乱暴なことなど出来るはずもなく踏み込んでも深い口付けをするに留めて強く抱き締めることもしなかった。相手を失いたくないのと相反する相手を自分のものにしたい欲望を擽るような悪戯な声は隠して孕み続けた熱を無理やり掻き乱すようだった。絞り出すように返事をした直後、頭を撫でられながら好きにしていいなんて言われれば瞳が激しく揺れて同時に押し込めていたものが一気に喉元まで湧き上がって体温が上がる。今は相手を自分だけのものにしたい、自分の他に誰にも触れられない場所に閉じ込めて相手の全てが欲しい。我慢する必要のなくなった熱を逃がすように熱い吐息を吐き出す、それでも胸に湧き上がる欲は収まる気がしなかった。相手の脚の間に体を差し入れてより逃げ場をなくして体重をかけ動きを制限する、片方の手を後頭部に添え首筋を晒すように固定しもう片方の手の親指を相手の口に差し入れそこを閉じる事を許さないようにした。今からは何をしても許されるのだと思えば優越感と独占欲と劣情がぐちゃぐちゃになって胸に渦巻く、余裕なく「フィリップ、」と恋人の名前を呼ぶと首筋に噛み付く。甘噛みよりも強く、しかし肉を食い破らない程度の強さで首筋を這うように硬い歯を押し付け刺激して)
しなくていいよ、…僕だって君が欲しい。っ……翔太郎、っあ…っ、は……ん、
(浮かんだ疑問を楽し気に相手にぶつければ分かりやすくその動きが止まる。この期間露骨に色を感じることは無かったが思い返してみれば押し込めたであろうタイミングは幾つか思い当たった。絞り出すような声からそれでも普段通りに優しく気遣ってくれていたのだと思えば相手への愛おしさが湧き上がる。だが今日はもう我慢しなくていいと伝えるとその瞳が大きく揺れて触れた部分がさらに熱持った気がして薄らと口角があがる。熱い息が吐き出されるのを感じるとそれに呼応するように底の熱が煽られながら更に腕に力を込めて自らの願望を伝えた。すると相手の体が足の間に割り込んできて体重で強く抑え込まれるとともに頭の位置さえ固定されて親指が口端に入り込む。逃げ場なんてなく相手の好きにさせてしまうような状況にぞくりと背筋が震えていれば触れる所が熱くなるようだった。余裕なく呼ばれた名前に脳が掻き乱され、無意識に期待の乗った声で返していると相手の硬い歯が柔らかい皮膚に噛みついて短い声と共に全身が跳ねた。一度だけでなく何度も硬い歯が肌に宛がわれ強く推しつけられると開きっぱなしにされた口から吐息と声が混じって零れぎゅっと相手の服を抱きしめて)
……ッ、……ずっと、お前のその声が聞きたかった………ン、…は……っ、…
(何よりも愛しくて大切な相手を自らの手で危険に追い込むことなんて出来なくて、しかし愛おしさを感じた分揺らいだ熱を押し込めてきた。その枷を外していいと言われた上に相手からも望まれてしまえば自制など効くはずがない、こちらを呼ぶ相手の声にも色が見え隠れすれば余計に体は昂ってしまう。先程から震えていた首筋をもっと強く愛でれば親指を差し込んだ口からはいつもとは違う声が溢れて熱い吐息が親指に当たってその熱さにまたゾクリと腹が疼く。二人で溶け合う時にしか聞けない特別に甘い声、恋人の自分にしか聞けない最高に甘ったるい声が鼓膜を揺さぶる。一度欲しいと思ってしまえば今は止めるものは何もなくて相手の耳元に口を寄せると唸るような声で囁きかける、そして舌全面でゆっくりと相手の耳を舐めあげた。唾液が煌めくようになった耳へ今度は舌を宛てがう、わざとらしくグチュリと音を鳴らしながら耳穴へは侵入し耳の縁を首にやったように強めに噛み付く。その間吐き出す吐息は全て相手の耳へと吹きかけて自分から出る全てのものを相手へと注ぎ込んでいく。相手の耳を執拗に舐めて水音を鳴らして噛むのを繰り返し、後頭部を固定した掌で前もって慰めるように頭を撫でたあと不意に耳朶に鋭く歯を立ててそこの肉を食い破って)
ん…、っあ……ひゃ、ッ、みみ…ヘンになる、ッあ!?、
(体重をかけられ動けない状況で首筋に絶えず刺激が与えられると口から零れるものに熱がこもる。相手が近付いてきて耳元に唸るような声で囁かれればその中に孕んだありのままの劣情を感じ取ってじってぶわっと全身が熱くなる。さらに耳を相手の舌が這うとその生暖かさに体が跳ねた。それだけでなく舌先が穴に入ってきて淫らな水音が鼓膜の近くで響き一際高い声で啼いた所に縁を強く噛みつかれると声にならない声を上げて体を強ばらせた。その間も熱い吐息と声が注がれていればまともな思考など出来なくて許される範囲の中だけで身動ぎをしながら頭に浮かぶままを口にしていた。相手の唾液で艶めいた耳は舌が動くだけで水音を鳴るようになり注がれる熱と快楽に浮ついたところを噛みつかれまた声を上げる。そうしてとろりと思考が蕩けはじめた状態では頭を撫でられると自然と目を細めるが不意に耳朶を強く噛まれると上擦った声を上げ、相手の下で一際大きく体が跳ねさせながら柔順に反応見せて)
ふ、……ン…ッ、……は、ぁ……フィリップ、お前は俺のもんだ……誰にも手は出させねぇ…絶対に、
(熱い吐息と共に低い声で囁けばそれだけで組み敷く体は一気に熱をもってこちらも熱にあてられるように昂ってしまう。親指を差し入れたお陰で口からは絶えず相手の甘い啼き声が溢れ続ける、強く耳を刺激する度に押さえつけた体は面白い程に反応してこちらから与える全てを受け止め喘ぐ姿にどうしようもなく劣情は煽られてしまった。頭を撫でれば明確に体の緊張が解れてその隙を狙うように耳朶へ赤い痕を刻めば一層高い声が溢れて跳ねる体を無理やり押さえ付け全ての刺激を逃がさないように注ぎ込んだ。痕がそこへ馴染むよう数回強く噛んでからそっと口を離す、すぐにそこへ舌を這わせて耳穴まで舐めあげまたグチュリと音を響かせた。再び水音と、時折痕に吸い付き高い音を響かせながら甘い声が溢れて止まらない口内を親指の腹で優しく撫でればこの声も体温も全てを、なくしたくない気持ちが湧き上がる、昼間に感じた焦燥が僅かに顔を出せば再び刻んだばかりの証を上から噛み付いて黒い独占欲を隠さない言葉を唸るようにして口にしていた。相手は紛れもなく自分のものだ、それを証明したい、相手に刻み込みたい、分からせてやりたい。熱暴走した思考は止まる選択肢などなく舌先を耳裏から首筋沿って滑らせると行き着いた先の肩口に歯を宛てがう、服で見えないギリギリの位置に狙いを定めれば前ぶれなく容赦なしにそこへと噛み付いて所有痕を刻みつけ)
ッあ、ぁ……は、…っあ! …、ぜんぶ、きみだけだ…ン…ッ゛あ!?、っ…
(鋭く強い刺激が耳朶を貫けば反射的に体が跳ねる。だがそれすら無理矢理押さえ込まれて与えられる全てを享受しては相手の下で乱れた。今できたばかりの跡を強く噛まれるとまた息と共に喘ぎ声が溢れ、回した手で相手にしがみつく様に服を握った。離れたのもつかの間舌が再び水音を立てれば熱もった脳内を直接掻き乱されるようで声も体の反応も止まらない。唯一自由に動く足をもっと相手を求めるように絡ませて触れる部分を増やしていれば再びピアス穴のように出来た赤い痕を再び噛みつかれまた上擦った声をあげる。同時に聞こえてくるのは昼間にも感じた黒く重たく粘着質な独占欲の言葉でゾクゾクと背筋が震える。この街に愛されているあの左.翔.太,郎が個人的な劣情とも呼べる強い暴力的な欲を自分にだけ向けている。今回の件が相手にとって深い傷になってそれを埋めようと必死に自分のモノにしようとしている姿に優越感や執着心が満たされて口角が上がった。歯が離れていけば熱い息を吐いて呼吸を取り戻そうとしながら相手の言葉を肯定する。こんな行為を許すのも身を任せたいと思うのも相手だからだ。舌先が熱もった肌をなぞって肩口で止まると歯が触れて体が強ばる。またあの強い刺激が来ると身構えて、あるいは期待して相手の背中に爪を立てると容赦なくそこを噛み付かれてまた悲鳴にも似た声を上げてしまう。思考の全てが塗り潰されるような衝動に体は震え見開いた瞳を涙で潤ませながら訳も分からず「っ、しょ、たろ…あっ」と名前を呼んで)
…ッ……ん…は、……フィリップ……すげぇかわいい…
(溢れるままに自分の劣情を舌を這わせ淫らな水音を鳴らし耳穴を犯して注ぎ込んでいく、所有痕を刺激してやれば背中に回した腕がさらに縋るように力が込められ足がこちらを離さないように絡まると更なる熱を強請られているようで昂った。黒く粘性の高い独占欲さえ喘ぎ声の合間に肯定されてしまって脳が痺れる。相手に暴力的な刺激を注ぎ込んで、それなのに親指を差し入れた口からは甘い声が溢れ続けて、背中に食い込む爪さえ相手がよがっている証だと思えば加減しようなどという理性は何処にも残っていなかった。今しがた刻んだ痕にゆっくりと舌を這わせて体をもたげて相手を見下ろす、そこには涙で目を潤ませながらこちらの名前を呼ぶ相手がいてあまりに煽情的な姿にまた瞳を揺らした。名前を呼びながら思わず腰を相手のそこへグッと押し付ける、体の中で特に熱いそこが擦れ合って思わず吐息を漏らしながら溢れるままの言葉を口にしていた。こちらが刺激を注ぐ度に相手は反応し喘いで啼いて体を跳ねさせる、自分の手ひとつで簡単に乱れる姿が愛おしくて堪らなくて、もっとこの手で相手を淫らにしてしまいたい。歪んだ支配欲を瞳に宿しながら相手の上着を捲りあげる、後でマーキングする事になる下腹部に手を添えて軽く圧迫して先を予感させながら口から手を引き抜き胸板へと落としてゆっくりそこを撫でると「ここはまだ俺のにしてなかったな」と何処か楽しげに、しかし熱を隠さずに呟く。胸板に顔を寄せ無意識に腰を揺らしながら数度だけ狙いを定めるように口付けると予告した場所へ再び歯を立て噛み付き所有痕を刻んで)
…は、ぁ…ンっ!…ぁ、つい…っ、あ、しょうた、ろ…ッ゛あ!、ぁ、
(首元に噛みつかれてくっきりとした赤い痕が刻み込まれるとそこを相手の舌がまたなぞってぴりっとした刺激を与える。また熱い息を吐き出していると相手の顔が離れていく気配がして上手く働かない頭でそちらを見上げる。すると相手の熱を孕んだような瞳と目が合ってその瞬間瞳が揺れた。こちらの名前が呼ばれて中央へ腰が押し付けられると特別な熱が擦れあってまた甘く鳴いてしまう。相手が自分の姿を見て興奮しているのがありありと分かってその先を想像すれば腹底が疼いて眉尻を下げた。相手に可愛いと言われることすら今は嬉しく感じてしまってまた大切な恋人をぎゅっと抱き寄せる。熱に浮かされて相手のことしか考えられなくなっていく中、相手に上着を捲りあげられると赤く熱もった肌を晒すことになる、その下腹部を軽く圧迫されるとそれだけでそこに与えられる刺激を想像しては甘く声をあげてしまった。腹筋を震わせながら口から指が引き抜かれると銀糸が繋ぐ、胸痛を撫でられながら腰が動かされるとそれだけで十分すぎる刺激で動きを止めようと足を相手の体に絡めて抵抗を試みるもその分密着することになり、不意に何度もくちづけが落ちた所に噛みつかれると相手の下で激しく乱れながら痛みだけではない蕩けた声を上げて)
は、ァ……ンっ、……ッ、…フィリップ…好きだ……この世で一番、何よりも……ん、……ハ…
(相手を組み敷いて本能のまま下腹部を押し付ければ相手はそれだけで甘く啼いてまるでもう中へ侵入しているような感覚にグラグラと熱と思考が揺れる、その脳も瞳もとっくに劣情と熱で溶けきっている。体を抱き寄せられるのも喘ぎながら名前を呼ばれるのももっとと強請り煽る行為にしか見えなくてまだ綺麗なままだった白く透き通るような胸板に容赦なく歯を突き立てた。ずっと手を出しておらず傷一つなかったそこへ自分のモノだという証が刻まれる、何度か強弱を付けて噛んで深く深く赤を刻んだあと顔を上げて上から所有痕を見下ろすと支配欲が背筋を駆け上がってゾクゾクと疼き無意識に口角があがった。対して相手は口にもう何もないのに甘い声を上げ続け目には涙を浮かべながら蕩けきっている、自らの手でここまで相手が熱に堕ちていることに、そして悦んでいることに、ぐらりと嗜虐心が湧いて好意を口にすれば両手で相手の頬を掴んで固定し奪うようにして唇を重ねた。最初から遠慮なく舌を絡ませ口内に溜まっていた唾液をじゅるりと音を立てながら奪い去る、その後もグチュリと淫らな音を響かせ節操の無い深い口付けを続けながら腰を揺らした。再び吸い付く音と共に相手のものを奪い去ると僅かに唇を離して至近距離で見つめる、荒く熱い息を吐きながら相手だけを移した熱と劣情が揺れる瞳を向けると「フィリップ、限界だ。お前の全部を俺のものにしたい」と願望を口にする。今度は明確に互いの下腹部を擦り合わせ先程肩に刻んだ痕を親指の腹でグッと押して刺激を与えれば「いいよな?」と余裕無く問いかけて)
…っ、は、…僕も、すきっ、ン、っ……っあ、ん、しょうた、ろぉ…ッん
(まだ何も触れていない胸板に噛みつかれるとまた痛みとそれ以上の快楽が体を駆け抜けて余裕なく相手の下で身を捩る。何度も同じ箇所を噛みつかれてくっきりと深く痕を刻まれていけばその強すぎる刺激でパチパチと脳まで焼かれているような錯覚に陥る。他に思考を回す余裕など微塵もなくただ与えられる物に素直に反応を示していたがゆっくりと相手が離れて行けば涙を浮かべ蕩け切った顔を相手に見せた。相手もまた瞳には熱が揺らいでもう自分しか映していなくて二人きりである証拠に甘い息が零れる。全身が熱くて上手く力も入らなければ成すがまま頬を掴まれて唇が重ねられる、ほぼ開きっぱなしだった口内には唾液が溜まっていて舌を絡ませると節操なく水音が響く。丸ごと相手に奪われて飲み込まれてしまうと不足した分を埋めるようにぎゅっと抱き寄せこちらからも積極的に舌を絡めて、吸い付いて深い口づけに溺れていく。既に受け入れた時の様な熱を帯びて思考すらまともに働かなくなる中、僅かにだけ離れて行けば荒く呼吸を整えながら相手を見つめる。既に相手も熱に蕩けていて寸前のところで踏ん張っているような表情をしていてお願いがされる。あの時周りに向けられた警戒や不安も腹底にため込んでいる深く暗い執着も全部自分の物にしてしまいたい。「っ、ぼくも…」と応えようとして肩の所有痕を強く押されるとまた乱れたように喘ぎながらこちらからもう一度押し付けるようなキスを送り「ぜんぶ、きみのが良いっ…、今まで、我慢していた分もぜんぶちょうだい、翔太郎」ととびっきり甘い声で強請って)
(/いつもお世話になっております。そろそろ暗転かと思いお声がけさせて頂きました。事件後の二人ということで元通りになれて喜ぶ検索と不安を覚える探偵君の温度差が出来てとても楽しい時間でした。何気ない街の人や知り合いまで警戒して反射的に警戒してしまう探偵君が頼もしくもあり不安定で後に罪悪感を抱く所まで本当に好きな描写の数々でした。つい庇って囲ってしまう探偵君から検索への強い感情が伝わってきてドキドキしましたし、女子高校二人との会話を経て大切な会話を思い出す流れもとても好きです。普段大切にしている人や街よりもお互いのことが大切になったり選んでしてしまう瞬間が二人ならではの危うさであり魅力だなと個人的には思っているのでそういう場面がてきて本当に楽しかったです。その後の埋め合わせのような甘く蕩けるような時間も含め充実した時間でした。今回もありがとうございました。
次の話ですが甘い二人の時間を過ごしましたので日常的な話・事件やギャグっぽい話でも良いかなと思うのですが探偵様のご希望等はございますか?今まで出ていた話の中のどれかをやるのでも楽しそうですので興味がある物があれば教えてください)
ッ!……悪いフィリップ、加減できねぇ…
(熱に浮かされるまま乱暴に舌を差し入れ絡ませるのに相手もまた舌を動かし絡ませて二人が愛し合う音が水音として部屋中に弾ける、こんな暴力的な口付けさえ受け入れ求められることにどうしようも無い優越感と支配欲と、同時に幸福を感じていた。至近距離で最後の願いを口にしながら所有痕の存在を主張すれば相手は喘ぎながら返事をして余裕のない短い口付けを受ければ下腹部に溜まる熱がぐちゃりと掻き乱される、そしてとびきり甘い声であらゆる欲望を刺激するオネダリがされるとバチンと最後の理性が弾け飛んだ。このまま相手を熱の底の底まで堕として二人の境界が無くなるまで溶け合いたい。そして、そのままこのベッドの上に相手を永遠に閉じ込めてしまいたい。繋がったままでもいい。熱暴走した思考は飛躍した欲望を膨らませて熱い息を震えさせながら吐き出す、さながら獲物を前にした獣のように相手だけを見つめながら喉を鳴らして生唾を飲み込むと、低く唸る声で形だけの謝罪をし邪魔な布を全て取り払っていった。)
(/こちらこそお世話になっております!この際なので思いっきりやろうとかなり探偵を不安定にさせてやり過ぎかなとも思いましたが気に入っていただけて何よりです。こちらも探偵が愛する街を疑うくらいに検索くんが探偵の存在に食いこんでいること、検索くんのためなら一歩踏み越えたことをしてしまいそうになること等など危ういことが出来てとても楽しかったです!二人の時折常軌を逸してしまいそうな関係こちらも大好きなので不穏な空気共々楽しむことができました。どうやって探偵を元に戻そうか悩んだのですが情報屋の面々を通して二人の根幹を思い出す流れも個人的にお気に入りでした。そしてその後に足りない分を埋めるような甘い時間もたっぷりと検索くんのかわいいところが見られてとても良い時間でした。ありがとうございました!
二人の関係に関わるお話が続いたので今度は思いっきりギャグに振らせていただければと思いまして、以前あげさせていただいたメモリの力で若返ったおばあちゃんに振り回されるお話なんていかがでしょうか?騒がしくもこの街の人と関わるほっこりなお話にできればと思います!)
では満足に歩けないはずの彼女がどこかに行方をくらませたという訳だね。…確かに何か事件性がありそうだ。
(二人だけの熱に落ちて足りなかった部分を存分に満たして溶け合うような一夜を過ごした翌朝、欲望のままにお互いを求めあった代償は大きく、あらゆる場所に跡が残りベッドから立つのも一苦労の有様だった。その調子では当然事務所に出勤してすぐに所長に気づかれてしまい豪快にスリッパを食らったのは記憶に新しい。街の噂にならないことを祈りつつ一足先に秋の装いをしてなんとかやり過ごした日から一瞬間ほど、平和な事務所でコーヒーを飲んでいると40代くらいの女性が慌てた様子で扉を叩いた。中へ招き事情を伺うと地元の集まりに向かった母親が突如姿を消したという。彼女の母親は活動的ではあるものの最近では足腰が悪くどこに行くにも娘の送迎やサポートが必要な状態らしい。そんな母親を趣味の集まりをするたため公民館に送り届け、終わるころに迎えに行くとその姿がなかったらしい。母親の体で自分でどこかに行ったとは考えにくく何か事件に巻き込まれたかもしれないと語る彼女の顔は心底心配そうでとても大切な間柄なのだろう。要点をまとめるとちらり相手のほうを見て答えはわかっているものの「どうする?翔太郎」と声をかけて)
(/それではおばあちゃんの話にいたしましょう。時間制限があったりもどりたいと思わないと戻れないみたいなメモリーにしちゃって若返ったおばあちゃんに存分に振り回されることにしましょう。ひとまずそれらしく初めて見たので上手いようにのっていただければ幸いです。)
当然受ける、彼女の大切な人みたいだからな。安心してくださいお嬢さん。俺達鳴,海,探,偵,事.務,所が貴女のお母様をすぐに見つけてみせますよ
(相手を自分の下に閉じ込めて互いの境界が分からなくなるほど溶け合った日の翌日、完治までの間溜め込んだものを全て注いでしまった結果翌朝の姿は散々なものだった。昨日までひとつの傷も付けないように細心の注意を払って守られていたはずの相手が腰や肩に痛みがある素振りを見せれば何をしたかなんて所長様にはお見通しで甘んじてスリッパを受けることとなった。そうして一週間ほど経ってから事務所にやってきたのは母親を探して欲しいという女性だった。体が不自由なのであれば連れ去りの可能性もあり相手の言うように事件性は高いだろう。だが何より目の前で涙を流している女性がいれば拭うのがこの街の探偵の仕事だ、いつも通りハードボイルドな探偵らしくクールでニヒルに依頼を請け負う返事をすれば彼女は再び必死の形相で頭を下げていていた。その後彼女から居なくなった母親のことを聞く、名前はキミヨさんで今日の服装も教えて貰った。早速情報を持って相手と共に公民館に出向いて聞き込みを開始するもキミヨさんの趣味仲間も突然彼女が居なくなったと証言し施設の管理人に聞いてみても連れ去りの気配はなかったという。一応防犯カメラを確認してもらうよう頼んでから公民館を出ると「とりあえず周り探してみるか」と声を掛けてキミヨさんの痕跡を探すことにした。といっても今のところそれらしい手掛かりはない、足腰の悪いキミヨさんを連れ去るならば車がないと厳しいはずだが防犯カメラに写っているだろうか。そんなことを考えていると街に掲げられた地図を目の前に首を傾げている女性を見つける、何処か歳不相応な気配を感じるも困っているのは明白で「お困りのようですねお嬢さん?」といつもの調子で話しかければ『あぁすみませんねぇ。一番近くのウィドスカルってお店を探しとるんですが、知っとりますか?』と聞き馴染みのない店を聞かれて必死に記憶を呼び起こしていて)
僕も覚えがないね…。………、
(思った通り相手が依頼を受けると返事をして早速調子に乗り出す。最後に行方が分かっている公民館にやってくるがそれらしい情報は得られない。まるで忽然と姿を消したみたいだ。この街の有り得ないことの裏にはメモリの存在があることが多い。連れ去りの他に何かの事件に巻き込まれた可能性を考えていると地図を前に悩み込む女性がいて相手が話しかけに行く。10代か20代前半に見える姿をしているが女子高生二人のように携帯を手にしている様子はなく相手の問いに返す口調も独特だ。その中で出てきた店名らしきワードは相手も知らないようで当然自分も覚えがない。だが何となく気になっては相手が女性と話してる端で軽く目を閉じてキーワードを検索してみた。今いる場所の住所と共に調べると複数冊に絞られる。その内の一つを掻い摘んでから読んでみると思わぬ事実に目を見開き、いそいで意識を現実に取り戻す。相手のシャツの袖を引っ張って軽く名前を呼ぶと少し顔を寄せ「翔太郎、ウィドスカルという店は確かに昔この辺に出店してたようだけど20年ほど前に本社が潰れて全店無くなってるそうだ」とその情報を伝えて)
どうりで覚えがねぇわけだ…あーお嬢さん。残念ながらその店はもうないみたいです。わざわざ風.都まで来てくれたのに…にしてもそんな古い店良く知ってましたね
(必死に記憶を辿るも該当の店名は思い出せない、彼女が困っている限りは助けたいのだがと悩んでいる時に相手にシャツを引かれて軽く顔を寄せる。どうやらこの場で検索してくれたようで該当の店はもう無くなってしまっているそうだ。そんな古い店を訪ねて来てくれたのに店自体がなくなっているとは、申し訳ないと思いつつも事情を説明しふと浮かんだ疑問を口にすれば『あぁいいのよ。私達の時代にウィドスカルといえばハイカラで憧れだけどお値段も張ったから今なら、と思ったんだけどねぇ』と状況に合わないことを言われ目を瞬かせた。まるで20年前にあった店と共に生きたような口ぶりだがどう見ても彼女は自分達と同じ世代だ、容姿に似合わぬことを言う彼女は更に『思い切って孫が着てたのを買いにいこうかしら』と口にしていて「孫?」と思わず声を上げてしまった。そこでようやく彼女は慌てた様子を見せて『あぁいえいえなんでもありませんよ』と後退りを始めるがハッとして目を開く。彼女に何処と無く感じていた違和感、それは自分達と同世代の彼女が来ているその服が年配の女性が着るそれだからだ。そしてその服は依頼人の彼女から教えて貰った服と全く同じなのだ。奇妙な状況だが今現在で考えられる答えはこれしかない、驚きの顔のまま彼女を見ると「その服もしかして、キミヨさんか?!」と驚きと共に声を上げて)
…どうやら正解のようだね。見つからない原因が若返っていたからとは…もしかして、メモリの影響かい?
(相手がこの街に来る前に潰れてしまった店ならば知らないのも当然だが彼女はその店に馴染みのあるような口ぶりでその服装と言い妙に引っ掛かりを覚える。更に孫というワードが出てくればますますその疑いは濃くなって相手が観察するように彼女を見てから探していた人物の名を呼ぶと彼女は驚いた顔をして『ち、違うわよ。私は藤崎キミヨって名前じゃ…』と口にするがこちらが口にしていない苗字までぴったり一致していれば探している人物で間違いないだろう。足腰の悪い人物の行方が分からなかった理由がまさか若返っているからとは思わなかったが一般的ではあり得ないことに加え半世紀ほど若返っていれば周囲が気付けなくても無理はないだろう。その原因になるであろう存在をあげると『めもり?が何か分からないけど、もしかして拾ったこれの事かしら…』と見せてくれたのは木製の小箱のようなものに加工されたメモリだ。一度起動したせいか配線が何本か焦げてしまっていて正規品ではなくジャンク品か試作品なのかもしれない。これまでの傾向を見るに時間経過で元に戻るはずで相手の方を見て「ひとまず無事に保護したと依頼人に報告しようか」と告げていると『あらあら、私まだ帰る気なんてないわよ』と彼女が言い出して)
そうだな、そのうち戻るだろうし……え、…いやマダム、メモリの影響なら大人しくしといた方が……
(見た目は圧倒的に若いもののその服装と言動は探している人そのものだ、彼女がうっかりフルネームを口走れば思わず笑ってしまう。こんな奇妙なことが起こる原因はメモリだろうが毒素にやられている気配もない、相手が問いかければ彼女は相手に木箱のようなものを渡した。相手が調べるのを横から覗き込む、以前猫になった時の装置と似た様な傾向の装置らしいが壊れているということはこれ以上被害が広がることはないのだろう。依頼人の彼女を安心させるためにも相手に同意する返事をしようとしたところでまさかの彼女から拒否の言葉が聞こえてきて言葉が途切れる。今のところ問題は無さそうだがメモリの影響を受けたのなら何が起こってもおかしくは無い、説得を試みるも『ダメ!』と彼女は大声をあげて思わず動きを止める。彼女は眩い笑みを浮かべると『今は私のことキミちゃんって呼んで!こんなに若くて元気なんだから』と要求されてしまい何度か目を瞬かせた。軽く咳払いしてから「キミちゃん、ここは真っ直ぐ」と喋り始めるや否や『イヤ!』とまた拒絶されてしまい『勝手に元に戻るんだろう?それなら戻るまでの間を存分に楽しまなきゃイヤじゃ!!』と何ともなワガママを言われてしまった。気が遠くなりそうだったが同時にこのテンションになったおばあ様はテコでも動かないのに覚えがある、軽く息を吐くと「分かったよ。ただし!異変があったら俺達の言うこと聞いてくれ」と条件付きでワガママに付き合うことになってしまった。だがこちらを期待の目で見つめられるのは悪い気もしない、「俺は左,翔.太,郎,だ」と名乗ると『分かった!たろぽよじゃな!』と変なあだ名がついて「たろ…」と絶句してしまい)
たろぽよ…ふふ、なかなか良いあだ名だね。
(彼女を保護して様子見も含め家に帰す提案をすれば彼女から強い拒否の返事がされる。呼び名の要求に二人して目を瞬かせ、慣れている相手が先にその呼び方を使って説得を試みるも頑固拒否の姿勢を崩さない。確かに自然に元に戻ることを考えればこのままで居るのも帰るのも大きな差ではないが彼女のテンションは高く異常事態にも拘わらず楽しんでいるように見えた。結局は相手が折れて条件付きで彼女が楽しむことに付き合うころになったが相手が自己紹介をした所、個性的なあだ名で呼び始めて何とも気が抜けるようなポップな名前がツボに入ってしまって耐え切れない笑い声も零しながら自分も呼んでみる。全くハードボイルドらしくない名前に絶句する相手の顔が面白くてくすくす笑っていると今度は彼女はこちらを向いて『さっきフィリップと呼ばれておったな。なら今からりっぴーじゃ』と命名され「えっ」と思わず声を上げてしまう。それぞれに名前を付けてご満悦なのかきらきらとした笑みを見せながら『じゃあちょいとウィドスカルの代わりの洋服屋さん巡りに参りましょうかねぇ』と宣言していて)
お前もなかなかいいあだ名だな、りっぴー。…それなら俺オススメのブランドがあるぜ?
(若さを取り戻した彼女はもう一切止まる気はないらしい、ここで下手に依頼人、すなわち娘に引き渡そうとすれば最悪行方をくらませてしまうかもしれない。今彼女の肉体はそれだけのポテンシャルを秘めているのだ。メモリの影響で何かしら悪化する可能性もあれば見守るという意味も込めて彼女の今を楽しむというのに付き合った方が良さそうだ。斜め上のあだ名には流石に固まってしまって相手が楽しげにそれを繰り返せば思わず相手の方を見る、しかし相手は相手でなんとも言えないあだ名を付けられていれば思わずニヤけてしまってこちらも新たな呼び名を揶揄うように口にしていた。それぞれの呼び名も決まったところで彼女はやはり服を所望しているようだ、この街で服を買うならオススメはひとつしかないだろう。自信満々に答えれば彼女はさらに目を輝かせ『おぉ!たろぽよのオススメのとこはなうでヤングでハイカラなのか?!』と最早死語な単語が並べられる、それらの単語に合致しているかはさておき最新のファッションを追うなら行くべき所はひとつだろう。「当然だ」と気取った声で答えたあと早速相手と彼女を連れ立ち近くの行きつけの店へ足を運ぶ、たどり着いたのは当然ウ.ィ,ン.ド,ス,ケ,ー.ルだ。普段は入らない店なのか彼女は何処か恐る恐るな様子で店内へと足を踏み入れる、しかし中に並べられた服や飾られているマネキンをみればさらに目を輝かせて『…ウィドスカルより凄い』と感想を零していて)
僕たち御用達のブランドで今僕が着ているのも翔太郎…じゃなかったたろぽよの着ている服もここのものなんだ。
(彼女は若い体を手に入れてかなり興奮しているようで何を言っても満足いくまでは止まりそうにない。こちらが読んだ名前に仕返しするような形で相手も呼び名に乗っかってくれば聞きなれない響きに落ち着かない様子を見せていた。同行することが決まったところで彼女が服を身に行くことを望めば相手は自信満々に答える。その言い方で行き先を察するも今まで聞いたことのない単語が羅列されると「それは一体何語なんだい」と思わず呟きを零していた。相手の案内でここから一番近いウ.ィ,ン.ド,ス,ケ,ー.ルの店舗の前にやってくると彼女はどこか緊張した面持ちで中に入っていきその後を追う。彼女は店内を見渡した後目を輝かせていて馴染みの店に対する素直な褒め言葉が聞こえてくれば誇らしく感じられて彼女のノリに合わせて相手を名前で呼びながら今二人が着ている服を見せながら説明をする。すると彼女はまじまじと服を見てから『素敵な服ね』と微笑んだ。あたりを見渡してレディースコーナーの服に近づいていけばこちらもその後を追う。明らかに若い人物がターゲットである流行りの服をまとったマネキンが目についたのかその足が一旦止まる。目を奪われたような様子だがその手は伸びることなく迷っているように見える、ちらりとその様子を確認すると「気になるなら試着してみたらどうだい?」と声をかけてみて)
(/お世話になっております。にぎやかな話が始まったところなのですが明日、明後日と少し用事が入ってましてお返事の頻度が下がってしまいそうです…。まったく返せないわけではないのですが間が空いてしまいそうでしたので先にお伝えしておきます。日曜の昼間にはもとに戻ると思うのですが二日間ほどお待たせさせることが多くなりそうですので申し訳ございませんが把握のほどよろしくお願いいたします。)
存分に楽しむんだろ、キミちゃん?
(見た目と飛び出してくる言葉のギャップにそろそろ面白さを感じつつ彼女を自分達が贔屓にしている店へと連れていく、この風の街で最新のファッションを身に纏うならこの店が一番良いだろう。最初は緊張していた彼女だったが店に入った途端目を輝かせ相手が自分達の服もこの店のものだと紹介するとまた見蕩れるようにマネキンを眺めている。しかし眺めるだけで迷う様子が見えれば相手が試着を進める、確かに憧れはあるのになかなか手が出ないあたりまだ元の年齢の時のことを思って気後れしているのかもしれない。こちらからも背中を押すように声をかければ『そうよね…』と意を決したようで近場にいた店員に声を掛けると一式を揃えて試着室へと入っていった。少々時間が経った頃に試着室のカーテンが開けられるとそこにはオフショルダーの白シャツにタイトめな膝丈スカートを履いている彼女の姿があって、なぜか慌てた様子で『こ、これこうやって着るので合ってるのか?!肩もお腹も隠せないんじゃ!!』と声をあげるが「大丈夫、それが今の服だ」と軽く頷きながら言う。それで冷静になったのか『そういえば孫も着とったか…』とぶつぶつ言ったかと思えば服が馴染んだのかゆっくり試着室を出てきて鏡の前でクルクルと何度も回って姿を確かめ始める、その顔はやはり楽しそうに笑ってキラキラと輝いていれば思わずほっこりした気持ちでそれを眺めてしまった。しかし直後更に目を輝かせると『あれも着てみたい!』と別のマネキンを指さす、そこからは店員と、時折自分達手伝いながらキミちゃんのファッションショーが始まってしまって)
(/お世話になっております。お返事お待たせして申し訳ございません。本日朝から背後がかなりバタバタしておりましてお返事のお時間取ることができませんでした…また明日も丸一日お返事が難しそうでしたのである意味タイミング良かったです。いつも通り背後優先ですので、お時間等など余裕がある時にお返事いただけますと幸いです。ゆっくりお待ちしております。逆にこちらがお待たせしてしまうかもしれませんが…よろしくお願いします!/こちら蹴りで大丈夫です!)
…何とも楽しそうだね。……
(こちらが試着をもちかけ相手が背中を押すと一式の服を持って試着室に入っていく。二人で外で待っていると暫くしてその見た目の年代の女の子が着ているような短い服を着て彼女が出てくる。さっきまでの服とはギャップが強いのが慌てた様子だったが相手の言葉を聞き、若くなった姿を鏡で見てもう一度確認すれば服が馴染んだのかその場でくるりと回ったりしていて何とも微笑ましい。店も今は客がほとんどいなくてキラキラと輝く瞳で次の狙いを決めまた試着室に入っていけば隣で並ぶ相手に小さく笑いながら感想を告げる。彼女を見る相手の横顔には覚えがあって自分の要望に付き合う時も似たような顔だった。擽ったい思いを抱きつつ何度目かの試着から出てきた彼女に目を向けた。最初の躊躇は何処へやらすっかり流行の服を着こなしていておばあちゃんとは到底思えない。そして最後に着た服が気に入ったようで『これは幾らじゃ?』と店員に聞いていれば思わず「え、もしかして買うのかい?」と驚きの声を上げてしまう。彼女はその声にむしろ不思議そうにしていて『当然買うわよ、元に戻ったら孫にあげれば良いんだから』と何とも前向きな返事がされて意気揚々とレジに向かうのを見れば呆然とそれを見届けつつ「今までの我慢が爆発してるのだろうか…」と零して)
かもしれねぇな。まぁでもいいんじゃねぇか?キミちゃんが楽しそうなら。…婆ちゃんがあんな風に笑うとこなんてなかなか見れるもんじゃねぇし
(彼女のファッションショーを見守りつつ相手と共に微笑ましくその光景を見つめる、最初こそ二の足を踏んでいたのに今や大はしゃぎだ。やがて彼女は試着した服が気に入ったのか店員に声をかけている、相手は驚いた様子だったがこちらは思わず笑ってしまっていた。勢いに任せて何着も買うと言い出さず孫にあげればいいと算段を立てるあたりはさすが年配者と言ったところか。レジへ向かう彼女を見送りつつ相手の呟きには軽く頷く、年齢や立場のせいで特にあの年齢の女性はいろいろと我慢を強いられることもあっただろう。目の前の彼女は確かに自分たちと同じ年代だが依頼人に現在の写真を見せてもらっていたこともあって時折元の姿の彼女を想像してしまう。あんなキラキラした笑顔を見ることはそうそうない、当然相手を覗いてだが。やがて彼女は購入を済ませてこちらへ戻ってくる、元の服が入った紙袋を持つことを申し出て受け取った。見た目と着ている服にギャップがあったがこれでその問題もなくなっただろう、店をあとにすると「さて、次は何をする?」と乗り気に次の行き先をきけば彼女は目を輝かせ『こんな可愛い服を着たんじゃから次は可愛い食べ物を食べたい!』と要望が飛び出て)
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