【 魔女と王子 】旅路編

【 魔女と王子 】旅路編

ハナミズキ  2014-08-20 16:01:01 
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あらすじ

力を制御しコントロールする為の、視察と言う名目で修行の旅に出た、ブライアン改めイアンとサラ。
ブライアンはサラを1人の女性とみはじめていたが、サラからは昔と変わらず子共扱いをされる日々。

そんなサラに、1人の男としてみてもらいたいブライアンは、試行錯誤をする。



エピソード【魔女と王子様】はこちらになります。

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  • No.11 by ハナミズキ  2014-08-27 23:17:49 

「それで、武官を辞めてここに引っ込んでる訳は何なんだ?」

「彼はこう言ったわ」


―――― サラ様、私の命は王陛下に拾って頂いた様な物です。
     他の大陸に住んで居る者を、見捨てる事が出来ないと
     拾って連れ帰っていただいたばかりか、衣食住に教育まで
     して頂きました。
     それに、何処の誰とも分からない私に、王室付きの武官にまで
     して頂き、大変感謝しております。
     あの日から私は、王陛下にこの命を捧げる決心をした次第であります。
  
     その王陛下がお亡くなりになったいま、私の使命も終わったかと
     存じ上げます。
     ですが、今度の王は魔力も何も持たない人間の王にございます。
     私は、生涯唯一ただ一人の主君王陛下たっての願いにより
     次の魔王であらせられるブライアン様がご即位なさるまでの間
     現王陛下をこの命に代えても守らせていただきとう存じます。

     ブライアン様が王陛下におなりあそばされた暁には、私はこの城を辞し
     ブライアン様の御ために、働いてくれる者を育成したいと思っている
     次第であります。                          ―――


「そう言ったのよ」

「・・・・・。」

イアンは何も言えなかった。
自分の知らない所で、何人もの人が自分を守ろうと、最善策を作ろうと働いていることなど全く知らなかったのだ。
知ってしまったからには最大限の援助をしたい。
そう思った。

話し終わった二人は門をくぐり、中に入っていった。

  • No.12 by ハナミズキ  2014-08-28 16:56:48 

二人がこちらに近寄ってくる姿を見たデニマールは少し眉をひそめ、少し何かを考えている様子だ。

「何か御用ですかな、旅のお方」

頭の回転の速いこの男は、瞬時に判断したのだろう。
サラとブライアンが招待を隠し、大陸を回っている事に。

「少し見学をしてもいいか?」

「ええ。構いませんよ。ごゆっくりどうぞ」

あくまでも初対面の振りをする。

訓練の風景を見ていた二人は、顔をピクリと動かした。

「お気づきになられましたかな?」

「「ええ。(ああ)」」

二人は同時に返事をした。

年のころは2・3と言ったところだろう。
キレのある身のこなし、相手の行動の先を読む力、瞬時簿判断力、どれをとってもずば抜けていた。
それに、伸びしろがまだ見えていない。

――― 欲しい ――― イアンはそう思った。

「あの子は試験に出るのか?」

「いいえ。あの者たちは官僚や武官にはなれません。
 よほどの後ろ盾がない限りは・・・。」

官僚や武官になれる者は、平民以上の者であり、その日暮らしを虐げられているような者は、一番下っ端から始め、伸し上がっていくしかないのだ。

「イアン、あの子が気に入ったの?」

「サラ、俺、あの子を育ててみたい。ダメかな?」

サラはクスクスと笑いながら

「人を見る目は確かなようね。 
 館長、あの子を私たちに預けてはもらえないかしら」

「それはもったいないお言葉ですな。
 あなた方がそうお望みでしたら、こんなに喜ばしい事はありませんよ」

館長が子供を呼び、この者たちと一緒に旅に同行をしろというと、子供は目を丸くして驚いていた。
この二人が一体どんな人物なのかは、館長からは一切説明がない。
旅をしていればその内分かることだから、それまで楽しみにしていなさいと言うだけだった。

館長の言う事はいつも正しい。
館長の言う事を聞いていれば、自分のためになるという事は良く知っていた。
でも、何も話してくれないで、ただ一緒について行けというからには、何か事情がある二人なのだろうと判断をした。

見た感じ悪い人たちには見えない。
それどころか、どこか気品に溢れていて、なんと言ってもその容姿には目を引かれる。
絹糸のようにさらさらと風になびく金髪にグリーンの瞳・・・かっこいい。
女の人の方は、栗色の髪にブルーの瞳、綺麗というよりは可愛い・・・。
まるで天使の様だとさえ思える二人だった。

そんな事を考えながら、顔を紅く染めながらボーっとしていると

「この子の名前はクリスと言います。
 両親は数年前に亡くなってはおりますが、この子は魔族です。
 きっとあなた方のお役にたつと思いますよ」

「クリス、俺たちと一緒に来るか?」

「はい!お供させてください!」

嬉しそうに満面の笑みでそう答えた。

  • No.13 by ハナミズキ  2014-08-28 18:38:56 

いつもと違うクリスの様子に気が付いた、同じ訓練生でもあり、同じ集落の子供たちが集まってきた。

「なんかあったのか?クリス」

クリスは嬉しそうに

「僕ね、この方たちと一緒に旅に同行することになったんだ!」

集まってきた子供たちは、サラとイアンを間近に見て、それぞれが顔を朱色に染めた。

「なんでクリスなんだ?!クリスより俺の方が強いのに!」

そう言ったのは集落一番のガキ大将ヤンだった。
ヤンはいかに自分の方が強いか、自分には才能があるかを語り始めた。
ヤンに限らず、ここに居る者たちはみな、武官や警備隊などのきちんとした職業につき、家族のために働きたいと思っている。
欲を言えば、どこかのお屋敷の警備や護衛武官として名をはせたいとも思っていた。
だが、いきなりそんな所に勤められるわけもなく、始めは何処かのお店などで用心棒として働き、その働きを認められヘッドハンティングされる日を夢見ているのだった。

お店の用心棒にしても、まだ年端もいかない子供を雇うはずもなく、いまはただひたすらに腕を磨くべく精進するしかなかったのだ。
それなのに、この訓練所に入ってまだ半年のクリスが、いきなり現れた旅の二人連れに用心棒として雇われたとなっては、ヤンや他の子供たちも面白くはないはずだ。

「クリスはこの訓練所に来てまだ半年だぜ?こんな奴が用心棒なんか勤まるはずないぜ!
 どうせなら俺にしときなよ、旅の人」

「ごめんね。クリスは用心棒に雇ったんじゃないのよ?」

「はぁ?!じゃあ、なんで連れて行くんだよ」

そうだそうだと子供たちがまくしたてる。

「クリスの将来を見越して連れて行くのよ?
 この子ならきっと、将来優秀な武官になれるわ。
 それに、イアンの片腕にもね」

クスリと笑いながらクリスの頭を撫でるのだった。
頭を撫でられたクリスは、顔を紅くしうつむいて困った顔をしている。



その時、門の方から爆音とともに黒い煙が上がった。
何事かと駆け寄ってみると、いかにも人相の悪そうな5人組が次々にこの訓練所を破壊し始めた。

子供たちの話によると、元々あったもう一軒の訓練所の館長が雇った人たちで、いままではそこに入門する人がほとんどだったが、そこの訓練所は、ノルマが達成できないと厳しい罰を与えられ、無料で教えてくれるのはいいが、そこを出て就職をしたのち、多大な寄付金と称しお金を毎月請求されるという。
教えてもらったその礼金というわけだ。

そこに対し、ここは礼金など一切受け取らず、その者の魔力に合った術を丁寧に指導してくれる。
そしてその能力を最大限伸ばしてくれる。
そんな噂が噂を呼んで、向こうから移ってくる人たちが増えたという。
それを逆恨みして、度々この様な嫌がらせを仕掛けてくるというわけだった。

館長のデニマールが一人で応戦していたが、今日は向こうに一人、結構な魔術使いがいるようだ。
デニマール一人では応戦しきれてはいなかった。
子供たちは怯え、泣き出す子も現れた。

「イアン・・・助けてあげて」

「了解!」

にやりと笑い駆け出す。

「あ・・・イアン!手加減はしなさいよ!」

「わかってるって」

サラは木の枝で子供たちを囲むように大きな円を描いた。

「みんな、この円から出てはダメよ? 
 この円の中にいれば安全だから、絶対に出ないようにね」

そう言って子供たちを自分のそばに呼び寄せ、抱きしめる。

イアンの参戦によりあっという間に片が付いたが、何故か警備兵隊たちが大勢押しかけてきた。
不法侵入及び、爆破破壊の犯人たちを取り押さえるためではなく、狙いはデニマール達の方だった。
イアンは警備兵隊たちに捕縛の術をかけ拘束した。
呪文も唱えず捕縛の術をかけたので、みな一体何が起こっているのかさえ分からない様子だ。

サラは防護壁で守られている円の外に出て、警備隊長に尋ねる。

「これはいったい何事ですか?」

「きさまら!いったい何をした!」

「聞いてるのはこちらですよ?
 私の質問に答えてくれなければ、捕縛は解きません」

「ほ・・・捕縛だと?!呪文も唱えず捕縛などできるはずがない!
 嘘を言うな!」

「あら・・・あなたは知らないのかしら?呪文を唱えず術をかけられる者がこの世に二人いる事を」

「はぁっ?!・・・そんな事出来る者と言えば、魔王様と伝せ・・・つ・・・」

何かを感じ取ったのか警備隊長の顔が見る見るうちに青ざめていく。

「ピンポーン♪正解。」

あわあわと慌てふためく警備隊長。

「で?誰に何を言われてここに来たのかしら?」

笑顔で問いながら右手で警備隊長のおでこに触れる。
サラに触れられた警備隊長は、顔面蒼白を通り越して今にも倒れそうな勢いだ。
それもそのはず、普段は気配を人間並みに抑えてはいるが、サラの采配ひとつで、サラが触れた者に対してだけその莫大な気を、全身に流れ込ませることができる。
流れ込まされた気に、ほんの少し力を加えただけで、その本体は一瞬にして消し去られてしまう程の
強い気だ。

気の強さは、魔族なら本能的に理解できる。

「・・・尚武館・・の・・・館長に・・・ここで子供の売・・り・・買いを・・・してると・・・」

ガクガクと震えながら話しだした。
話し終わるとサラは、イアンに捕縛を解くように言うと目をつむり静かにほほ笑んだ。
その直後、西の方角から物凄い爆音と黒い煙が上がったかと思うと、先ほど壊された門や屋敷が綺麗に元通りに戻っている。

「・・・・サラ・・・、やった?」

イアンが恐る恐る聞く。

「ん?人聞きの悪い事言わないでよね・・・ちょっと取り替えっこしただけじゃない」

ぷくぅっと少し膨れたように舌をペロッと出して笑った。

『容赦ねぇよな・・・この人は・・・』と思いながらはにかむイアンだった。

  • No.14 by ハナミズキ  2014-08-28 21:32:17 

防護壁の中にいた子供たちには、外の様子は見えるものの、外の音は遮断されており、イアンが呪文も唱えず魔術を使った事などは全く知る由もなかった。
ただ、魔術で警備兵隊たちの動きを止めて、サラが警備兵隊に話をしに行った。
そういう風にしか見えていなかった。

しかし、二人とも人間の気配程度にしか気を出していなかったので、先ほどの魔術もデニマールがやったものだと思い込んでいた。





次の日、武術と魔術の試験を見学し、魔王が来ると言う噂がただの噂であり、今回の試験を盛り上げて受験生の数を少しでも増やし、この町の経済効果を計ろうという趣旨だった。
そのおかげかどうかは分からないが、経済効果はもちろんの事、優秀な人材もいつもより多く現れていた。
しかし、こんな人騒がせな事はもうするなと、魔王であるイアンに、領主がきつく咎められたのは言うまでもない。
が、その反面、良く行き届いた教育の場を、身分に関係なく平等に与えていることに関しては、魔王直々に感謝の言葉を頂いたのである。

魔王に直に言葉を頂いたばかりか、いままで噂でしか聞いた事のなかった伝説の魔女にも会う事が出き、その美しさにしばし見とれるほどだった。
人前には決して姿を現さないその魔女が、いまはこの大陸の魔王様と一緒に行動をしている。
これは国民にとっても、臣下にとっても大変名誉な事である。
そして何よりこの二人、お互いを信頼し合っている姿がとてもお似合いに見えた。






すべての用事が終わり、二人はクリスを迎えに行った。
訓練所に行くとすでにクリスはそこに居た。

両親はすでに亡くなってはいたものの、親戚の人が面倒を見てくれていたのだ。
しかしその家も生活が苦しく、日々の食べるものにさえ事欠くような生活だった。
だが決してクリスを邪魔者扱いをせず、我が子同然の愛情を注いでくれていた、そんな感情がサラとイアンに流れてきた。

クリスの資質をみいだし、共に旅に行こうと声をかけてくれた二人だったが、その二人の素性がまったく分からない事に不安を隠しきれていない保護者の気持ちも二人には流れてきた。

「あの、二人にお話があるんですが、ちょっといいですか?」

サラは少しでも不安を取り除いてあげようと、この保護者には本当の事を打ち明ける決心をした。
保護者二人とイアンを連れて別室に行き、自分たちの旅の目的とクリスを同行させる目的を話した。
当然のことながら保護者達は腰を抜かさんばかりに驚き、勿体ない勿体ない、ありがとうございますと、何度も何度もお礼を言い涙ぐんでいた。

定期的に連絡を入れる事と、クリスが一人前の働きをするようになったら、それに見合う賃金を払う事を約束し、3人はほろ馬車に乗り込みこの地を後にした。

そして新たに3人での旅が始まったのである。









―― つづく ――

  • No.15 by 匿名さん  2014-09-01 13:50:42 

もう終わりなの?

  • No.16 by ハナミズキ  2014-09-01 21:29:54 

すみません。
少し気分転換をしてました。

もう少し続くと思いますので
いましばらくお付き合いいただけると
嬉しく思います。

  • No.17 by ハナミズキ  2014-09-01 23:07:48 

旅にクリスが加わり、3人での旅となったこの御一行様は、王室を離れて早3年の月日が流れていた。
クリスが加わってからの旅も、そろそろ1年が経とうとしていた。

この1年の間で、クリスは随分成長をした。
ほろ馬車での移動中は、サラに国歴・各領主の名前及びその家系の歴史・貴族の名前及びその家系の歴史・薬学など、さまざまな学問を鬼の様に叩き込まれた。
イアンからは剣術及び魔術を、馬車から降りている時や実戦で叩き込まれた。

見た目は14歳ほどの子供なのだが、その腕前と知識はA級ランクの実力を備え付けられた。
A級ランクというのは、武官なら中隊クラスの大将で、文官であれば各省庁のNo3当たりと言ったところだろうか。
だが本人には全くその自覚がなく、二人の前では従順かつ忠実な弟子に徹していた。








日暮れまでに次の町まで到着する事が出来ず、今日は途中の山間で野宿をすることになった。
近くに川などはないが、自然を意のままに操れるサラには、そんな事は関係がなかった。
目をつむり両手を天にかかげて、呪文も唱えずただつぶやくだけ。

「水の粒子よ、我に集え」

そうつぶやくだけで空にはキラキラとした粒子が集まり、それを吸収したサラが入れ物に手をかざしただけで水が湧き出てくる、摩訶不思議な魔術だ。
火を起こすために使う小枝もそうだ。
イアンが片手でクイッと右から左に手首の先を動かすだけで、森の中に散らばっている小枝が手元にやってくる。

クリスとこの二人の決定的な違いは、呪文を使って魔術を行うかそれとも呪文なしで魔術を行うかの違いだった。
ただ、イアンの魔術の凄さは訓練をつけてもらい、実戦でも目の当たりにしているので物凄く尊敬をしていた。
しかし、サラは普段魔力をほとんど使わず、学問の師匠としては尊敬していたが、魔術が苦手な人だと思い込んでいた。

イアンも、いつもサラを守るように戦っていたので、クリスは何の疑いも持っていなかった。
二人の正体も明かされていなかったので、勝手な憶測で、言葉使いと学問の知識量から推理すると、どこかの貴族のお嬢様ではないかと思っていた。
イアンは、そのお嬢様に同行している護衛騎士ではないかと、勝手に推測をしていた。

辺りが暗くなり夜も更けってくると、大勢の人の気配が感じられた。
クリスとイアンがおもむろに立ち上がり戦闘態勢に入る。
気配からして2・30人は居そうだ。
この山一帯を根城にしている山賊の様だ。
それも魔族の山賊一味だった。

いきなり放たれる風塵かまいたちや雷弾、葉切刀などをかわしながら、確実に敵を倒していく。
本来ならこの程度の人数は1分もかからないのだが、クリスのための実践として、イアンはサラを守ることに徹し、戦闘そのものはクリスに任せていた。
たまにクリスが絶ち損じた敵をイアンが倒すという、そんな戦術だった。

万が一クリスが怪我をすれば、サラが治癒の術で手当てをしてくれる。
この1年でクリスが学んだ事は、戦闘魔法はイアンで、回復と補助系の魔法がサラだという事だった。
つまり、サラに戦闘能力がないと判断していたのだ。

ほぼクリス一人の戦闘でも、この程度の魔族なら10分もかからない。
あっという間に倒すと風に乗せて近くの町にある役所に送りつけた。

「腕を上げたな」

「もう立派な騎士ね」

二人に褒められたクリスは嬉しさを隠しきれず、満面の笑みを浮かべ飛び上がって喜んでいる。

意気揚々と次の町に到着をしたが、街に入るなりいきなり警備兵に呼び止められ、通行手形を見せるように言われ、手渡した。

「お前たちはどこから来た」

「それに書いてある通り、王都から参りました」

「そうか。では我々に同行してもらおう」

「何故ですか?理由を教えてください」

「理由など知らぬわ。王都からの通行人はすべて城に連れてこいとのご命令だ」

サラとイアンは顔を見合わせうなずく。
しかしクリスだけは、訳が分からずガタガタと震えていた。
こういう所はやはりまだ子供であった。

ほろ馬車を取り囲むかのように警備兵に囲まれ、3人は城へと連行されて行った。

  • No.18 by ハナミズキ  2014-09-02 16:57:23 

連行されたと言っても、縄や捕縛の術などはかけられておらず、騒がなければ何もしないと言うその兵士の言葉を信じ、前後で挟まれるような感じで歩いて付いて行った。
着いた先は牢屋などではなく、たいそう立派な貴賓室の様な所に通され、そこで迎えが来るまで大人しく待っていろと言うと、兵士たちは出て行ってしまった。

「サラ、これはいったいどういう事なんだ?探ったんだろ?」

「なんか今日は面白い事になりそうよ」クスクスと笑いながら言う。
「大丈夫よ、クリス。そんなに怖がらなくても」クリスを抱き寄せ背中をポンポンと叩いた。

サラに抱きしめられると気分が落ち着く。
何故だか分からないけど安心するのだ。
その理由をイアンは知っていた。
サラはその者(物)に触れただけで心の不安、体の疲れを取ってくれる不思議な力があった。
イアンも小さい時にはよくサラに抱きしめられていたからだ。
家族と離ればなれの寂しさや、魔族に人として理不尽に扱われていたくやしさ、親しい人が死んでしまう悲しみ、そんな時にいつもサラが抱きしめて、この世の理(ことわり)を教えながら、静かに心を癒していく不思議な力。
大きな愛情に包まれているかのように、しだいに気持ちが穏やかになっていく。

クリスが落ち着きを取り戻し、ゆっくりと目を開けてイアンの方をふと見てみると、早く離れろ。いつまでくっ付いてる気だ!と言う目つきで睨まれてしまった。
慌ててサラから離れ照れ笑いをするクリスだった。

「クリスも落ち着いたようだし、説明するわね」

3人は椅子に腰をかけ、サラの話を聞き始める。

「ここの領主は何処かで私たちの事を噂で聞いたみたいなの。
 その噂からすれば、今月中にはこの町を通過すると判断したのね。 
 例え領主だとしても、私達にはそう簡単に会えない事を知ってるから
 王都から来た者たちを片っ端から連れてきては謁見してるみたい。
 唯一分かっている情報は、イアン、あなたの姿形だけらしくて、該当する者達すべてを
 この城に連れてきては接待をしてるみたい」

「接待?なんでだ?」

「お近づきになりたいのと、恩を売っといて親しくなろうって魂胆じゃないかしら」

「今後色々と便宜を図ってもらおうって言う事か」

「その通りよ。それからね、この後私たちは離されるから、もしもの時のために
 あなたに術をかけとくわ」

サラは椅子から立ち上がり、イアンの側に行くと肩に手をかけ、深い口づけをした。
何気ないいちゃつきなら普段嫌と言うほど見せつけられていたクリスだったが、目の前で、それもよく知っている人物のラブシーン(?)は初めて見た。
目のやり場に困り、顔全体が真っ赤になっている。

「////////////」

「これでいいわ」

「今の術は・・・まさか」

「ふふっ、移し身の術よ」クスリと笑う。

「ちょっと待てよ!それじゃサラが・・」

そう言いかけるとイアンの口にサラの手で塞がれ、言葉を苛(さいな)まれた。

「大丈夫よ、私は。知ってるでしょ?・・・イアン」

サラは何があっても絶対に死なない。
それは分かっている。
分かってはいるが、サラに傷一つ負わせたくはないと言う男心も少しは分かってほしいと思うイアンだった。

しばらくすると兵士がやってきて、サラとクリスを連れて部屋を出て行ってしまった。
二人が連れてこられた場所には、先に連れて来られていた、王都からやって来た旅の者達だった。
姿形が該当する者以外はすべてこの部屋に入れて置くきだ。









領主の部屋では、臣下を数名集め報告書を見ながら審議をしていた。

「今日連れてこられた方の中に、本当に魔王様はいらっしゃるんでしょうか」

「今までの情報からすれば確率は高いですな」

「金髪・グリーンアイ・年の頃は二十歳前後。
 今日の3人の中に必ずいるはずだ」

「やはり魔王様というくらいですから、供の物も大勢釣れているのでは?」

「いや、学問の都に訪れた時には、お連れは1人だったと聞くぞ」

「ですが今回の中に二人で旅をしてる方はおらぬではないか」

「あれから1年近く経ってますぞ。従者も増えようて」

「ならば、王にだけしか分からぬ質問をして炙り出してみるか」

結局ほとんど何も確定しないままに晩餐会の時が来てしまった。

  • No.19 by ハナミズキ  2014-09-02 17:43:38 

サラ達が入れられている部屋には、魔王候補1の連れである男4人。
この者たちは旅の行商人だった。
いくつかの国を1年かけて順番に周り、その生業で生計を立てていた。
この町に入るなり、いきなり警備兵に連行され、理由も聞かされていないので、ガクガクと震えている。

魔王候補その2の連れは、男女合わせて15人ほどだ。
この人達は旅の芸人だという。
いろんな国を周っていると、たまにこういうトラブルに巻き込まれるのか慣れているようだ。
疑いが晴れれば直ぐに解放される事をよく知っていた。

「今回は何の疑いで連れてこられたんだ?」

「知らねぇよ!それにしたってなんでヒジリだけ連れてかれたんだか・・」

「おぃ・・・もしかしてその連れてかれた人って、金髪でグリーンアイの青年か?」

「そうだよ。なんで知ってんだお前」

「やっぱりそうか・・・あの噂は本当だったんだな・・」

「噂ってなんだよ!知ってんなら教えろ!」

旅の行商人は、途中の町で聞いた噂を話し始めた。

「俺が聞いた話じゃな、この大陸の魔王様がお忍びで各小国を視察して歩いてるって話よ。 
 そんで、性質の悪い領主がいれば即刻お払い箱だっていう話だ」

「お払い箱って?」

「これだよ」片手で首をチョンと刎(は)ねる素振りをして見せた。

そこに居た者が皆一斉に生唾を飲み込む「ゴクリ」。

「おぃ、ねえちゃん。お前さんとこの連れも金髪にグリーンアイなのかぃ?」

「はい、そうです」

「・・・・しっかしねえちゃん・・・美人だな・・・ひっひっひ」

サラを舐めまわすようにジロジロと見だした。
するとクリスが突然サラの前に立ちはだかり、剣を構える。

「サラ様に指一本でも触れたら僕が許さないからな!」

「おぅおぅボーズ。威勢がいいねぇ」

ニヤニヤとしながら芸人の一人が嘲笑った。

「クリス、落ち着いて。ねっ?」

クリスに微笑みかけながら抱き寄せ落ち着かせた。
サラのその姿がまるで天使のように見えた男達は、羨ましそうにクリスを見ている。

だいたいの事情が呑み込めた部屋の人たちも、しだいに落ち着きを取り戻し、開放されるまで大人しく待つことにした。
しかし、いくら大人しく待っているとしても、いい加減お腹が空いてきた。

その時、急にドアが開き、衛兵が供の中から各自二人だけ付いてくるように言った。
行商人達はじゃんけんで行くものを決め、芸人一座は団長らしき人物と、先ほどいやらしそうに舐めまわしていた男の二人、そしてサラとクリスの計6人が、領主様主催の晩餐会に連れて行かれたのだった。

  • No.20 by ハナミズキ  2014-09-02 20:54:04 

広い部屋の中央に細長いテーブルが置かれ、その上には見た事も無いようなご馳走が所狭しと並んでいる。
各々自分の連れの側に行き、空いてる席に座るように促される。
テーブルを囲むように、壁を背にして衛兵が立ち、こちらを見張っていた。

遠慮なく食べろと言われても、領主を目の前にしては食事も喉を通らない。
いくら見た事も無い美味しそうな料理を食べても、緊張のあまり味など全く分からない始末だ。
そんな中黙々と食べている者が若干5人ほどいた。
旅芸人の3人とサラとイアンだ。

サラとイアンは納得できるが、旅芸人のその図太さには驚きを隠せない。
先ほど別室で行商人から聞いた話を、魔王候補その2の青年の耳に入れ、見たところ魔王様さしき人物が見当たらない事を確認すると、即興で自分達がその魔王様一行の振りをしようという事にしたそうだ。
旅芸人なだけに役作りはお手の物で、団長が目付け役の従者で、スケベ親父風の男は魔王様を護衛する騎士と言う役割の様だ。

領主とその臣下達は、食事の様子を見ながら一組の人物達に狙いを定めた。

「ではそろそろ本題に入りとうございますが、皆様方にお越しいただきました訳は
 この国に魔王様がお通りになるとお聞きしまして、それなら我が城でごゆるりと
 休んでいただこうかと存じ上げた次第でございます」

「あら、それなら誰が魔王様なのかもうご存じなのですね?領主様」

領主である自分におくする事無く物申すその少女に目線を置いた。

「お前は誰に物申しておるのか分かっておるのか!」

臣下の一人が厳しい表情でたしなめてきた。

「あら、だって、誰が魔王様なのか知ってるなら、私達がいつまでもここに居てはまずいのでは?」

「ほほぅ。ではお前達は魔王様とその供の者ではないと言うのだな」

「それはどうかしら?領主様にはもうお分かりだと思っていましたが」

イアンがサラの横からクイクイと腕を突く。

「おぃ、サラ・・いい加減にしろよ・・」小声で呟いている。

その場の空気が一瞬にして凍りついたしまったので、旅芸人たちがその場をとりつくろう事にした。

「で、その魔王様にいったいどの様なご用件があるのでしょうか」

ふん、やはりな。と言う顔で話しだす。

「いえ、用件などは何もございません。
 せっかくこの地にお越し入りくださったのですから、少しばかりの歓迎の義にございます。
 ですが、私共の願いが一つだけあります」

サラとイアンの顔がピクリと動く。

「この地は見ての通り辺境の地でございます。
 魔王様に任されました土地を十分に使いましても、千年前からお承りましたブドウ園が
 手狭になってまいりまして、町外れの山ひとつ分開拓しとうございます」

「それなら直接王室の方に信書を出せば良い事だろ」

思わずイアンが口をはさむ。

「信書は何回も出しましたが、なにぶんこんな辺境の地にございましては、相手にされないので
 ございます。
 魔王様に謁見のお伺いを立てても、忙しいとの一点張りでお目通りが叶うはずもなく
 こうして無礼だとは思いましたが、直接お話を聞いてもらうほか思いつかなかったので
 ございます」

なるほど、そう言う訳だったのかと納得をした。

「それでその・・どうでしょうか魔王様・・」

領主の視線は旅芸人一行に向いていた。

『えっ?俺?一体なんて答えればいいんですか団長』小声で団長に聞く。

『今の話を聞いちゃ、了承するしかないだろうが、こんな大事なこと勝手に決めちまったら
 後で俺たちの命が無くなる事は確実だ。
 なんとかうまく誤魔化せ』

『誤魔化せって・・・いったいどうやって・・・』

「それは今すぐにでも許可をしたい所なんだが、私一人で決めかねる事案だな。
 一度城に戻り協議にかけなければならない。
 そう言う訳で今すぐに答えを出すのは待ってほしい」

「そうですか、分かりました」

サラとイアンはその無難な返答に関心をしたが、その議案が城に届くことは一生無い。
少し領主が可愛そうになってきた。
サラが透視をしたところ、領主の言っている事に間違いはなさそうだ。

「イアン、いいんじゃない?」

「そうだな。サラがそう言うなら本心なんだろうな」

周りの者が一斉にこちらを見る。
一番驚いているのが、なにをかくそうクリスだった。

――― ぇっ?えっ?えええぇぇぇぇぇっ!? ―――

声にならない声で口をパクパクさせている。

「それはいったいどういう意味ですかな?お若い方」

領主もいまいち把握していなかった。

「だ~か~ら~、開拓すれば良いって言ってんだよ」

「ですが魔王様がいましがた一度城に戻ってからと・・」

「その魔王が民の為になるなら明日からでもしてもいいと言ってるだろうが」

「ですって、領主様♪」

「「「「「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」」」」」

部屋が揺れ動くようなどよめきが響いた。

「そんじゃ飯も食ったし、行くか」

「飯じゃなくてご飯でしょ?イアン。」

「はいはい。」

「返事は1回よ」ペシリとおでこを叩く。

「へーぃ」

クリスは驚きのあまり腰が抜けて立ち上がれないようだった。
そんなクリスをイアンが担ぎ上げ、3人はそのまま部屋を退室して先ほど居た部屋に戻るのだった。

サラ達はイアンにあてられた部屋に入り、大笑いをしている。

「ねっ?言った通り面白い事が起こったでしょ?」

「いやぁ~、まさかこういう展開になるとは思わなかったな(ハハハ」

「あ、あの・・・確認のために聞きますが、イアン様は魔王様なのですか?」

「あぁ、そうだよ。俺がこの大陸の魔王だ」

驚きはしたが、どこかでそうじゃないかと言う事は、以前から少し思っていた。
堂々として気品があって、魔術だって呪文を唱えず繰り出すその腕前は、一大陸の王に匹敵するのではと常々思っていたからだ。

「では・・あの・・サラ様は・・いったい・・」

魔王であるイアンに意見をし、行儀が悪いと怒り叩く。
イアンもサラには頭が上がらないようだが、サラの事を信頼しサラに危険が及ばないように片時も離れないその姿は、深く愛し合ってるようにも見える。
いったい二人はどういう関係なのだろうかと、不思議に思った。

「クリス」

「はい」

「伝説の魔女って知ってるか?」

「はい!知ってます!・・・・って・・・まさか・・・・」

「そのまさかだよ」悪戯っぽく言った後に、あははと笑い出した。

――― ぇっ?えっ?えええぇぇぇぇぇっ!? ―――

イアンとサラを交互に見ながら口をパクパクとさせていた。

『僕はなんて幸せ者なんだろうか。
 両親を亡くしてからは、おじさん達に親切にしてもらい
 今は魔王様と伝説の魔女様と一緒に旅をさせてもらってる。
 僕は・・・僕は・・・』

感謝と感激のあまり涙を流していた。

「ほらほら、泣かないの」

優しく抱きしめ頭を撫でるサラだった。







次の日、城を立つ際に、いまだ半信半疑な領主にむかい

「あの山で良いだな」

「はい、そうでございます」

イアンが山の方に手をかざしたかと思うと、山肌が姿を現した。
山に生えていた木々たちは、サラの変化樹木魔法で山一面にブドウの木となり、新たなブドウ畑が誕生をした。

「これでいいだろ」

魔王の力を目の当たりにした領主達は、恐れ敬いながら3人の姿が見えなくなるまで見送っていた。
とうとう二人の正体を知ってしまったクリスだったが、怖いと言うより、やはり尊敬の念の方が先にたったようだ。

「よし!次は海のある町に行こうぜ!」

「もぅイアンったら・・・遊びじゃないのよ?」

3人は海のある町に向かって馬車を進めるのであった。









―― つづく ――

  • No.21 by ハナミズキ  2014-09-03 18:39:26 

城を離れて5年。クリスを仲間にして旅を始めてからは3年の月日が経っていた。
この頃になると、イアンはほぼ魔力のコントロールができるようになり、SS級ランク(大陸の王クラス)の魔族が5人で束になって攻撃して、やっと相打ちで勝てるのではないかと言う実力の持ち主になっていた。
クリスの方はと言うと、年の頃は16歳程度の少年に育ち、背は170cmとイアンよりは13cmほど小さかったが、武術の腕前はAAAランクまでに上がっていた。

AAAランクと言うのは、王直属の護衛官の中でも、中隊長クラスの腕前である。
統括責任者の大隊長でSランク、中隊長でAAAランク、小隊長がAAランクだ。
Aランク→警備・衛兵・近衛隊などの、統括大隊長
Bランク→その他もろもろの隊長クラス
そして、街の警備等をやっている衛兵達は、一番下っ端のFランクの者達。

普通に職に就くとFランクから始まるのだが、学問の都で行われる年2回の試験に合格すると、Cランクからから始まる。
それなりの実力がないと受からず、年間で採用される人数は50人にも満たない。
この試験に受かれば、各領地に配属され、領主内の警護に当たることになる。
いわばエリート候補生なのだ。

補欠で受かった者達でも、各領地に配属され、その地の警備及び衛兵として活躍していた。
たまに、貴族の魔族に勧誘されてお屋敷付き護衛官になる者もいる。

そんな学問の都に、イアンたちは再び訪れた。
今回は試験の視察などではなく、クリスの里帰りのためにやって来たのだ。

「なんか懐かしいです!この風景!まだ3年しか経っていないと言うのになんか変ですよねw」

「まぁ、クリスったらそんなにはしゃいじゃって」クスクスと笑うサラ。

「しょうがないんじゃね?まだ子供なんだし」ニヤニヤしながら眺めているイアンだった。

「僕子供じゃありません!もう16になったんですからね!?」

頬を膨らましながらイアンに抗議をし出した。
イアンとサラが、大陸の魔王と伝説の魔女だと知った時は、しばらく萎縮をしてはいたが、この二人がいつもと変わらず気さくに話しかけてき、自分の事をとても大事にしてくれ、兄弟の様に接してくれていたのでいつの間にか、師弟関係とか主従関係とか言う事をすっかり忘れてしまっていた。

クリスにとってのこの二人は、絶対的存在で、自分の命に代えても守らなければならない、そんな思いが強かった。
しかし、実際には守られているのは自分だという事もよく分かっていた。
二人の力には到底及ばないが、それでも自分が自分らしく生きる為には、サラとイアンに降りかかる火の粉はまず自分が先頭を切って排除する。
それがこの二人への最大の恩返しになることをよく知っていた。

そんなクリスの気持ちを理解していたので、クリスには好きなようにやらせていたのだった。

「クリスは先にお家の方に帰っていなさい。私達はデニマールの所に寄ってから行くから」

「サラ様たちが行くのでしたら僕もお供します!」

まぁwとクスクス笑いながら3人はデニマールに会いに行った。

「これはこれはいつぞやの旅のお方ではないですか」

馬車から勢いよく飛び降りて、駆け寄ってくるクリス。

「先生!ご無沙汰してます!クリスです。覚えていらっしゃいますか?!」

「クリス。大きくなったね。元気そうで安心したよ」

「はい!」

クリスは満面の笑みで嬉しそうに微笑んだ。
その後クリスは訓練場の方に居る昔の仲間の所に駆け寄って行ってしまった。

「そう言えば、あなた方が来た次の試験からあの子たちも試験が受けられるようになったんですよ。
 何かいたしましたね?」

「さぁな、何の事だかな」

顔を見合いながら、二人の口角が少し上がる。

「そうそう、クリスより2つ上のヤンが先日の試験に合格したんですよ」

「まぁ、あの子が?それは良かったですわね。
 ずいぶん強くなったんじゃありませんか?」

「はい。どこに配属されるか楽しみにしている様子でしたよ」

「へぇ~、あのガキがね・・・」

「イアン、まさか・・・」

「ん?面白そうな人材じゃね?」

「やっぱり・・・ハァ・・・」小さなため息をついた。

この3年、クリスを連れて旅をしていて時々思った事がある。
似たような年頃の友がクリスの側に居てくれればと。
自分の立場をよくわきまえているクリスは、サラとイアンに危害が及ばないかと、いつも気を張っている。
悩みがあったとしても、サラやイアンに打ち明けられるはずもなく、自分で処理をしようと常に自分自身を追い込んでいるようなものだ。
悩みを聞いてやろうとしても、その口は頑なにつむがれなかなか本心を言わない子だった。
それなら少しでも気心の知れてる者が、友として側に居たとしたら少しは気が休まるだろうとの考えだった。






クリスの家に向かう途中、馬車の中でサラがクリスに大きな布袋を渡した。
何が入っているのかずっしりと重かった。

「これは何ですか?」

「あなたの今までのお給金よ」

中を開けてみてみると、大量の金貨が入っていた。

「こ・・・こんなに沢山!?」

「そうね、でも、ちゃんと諸経費は引いてあるから」クスリと笑う。
「あなたお金なんてほとんど使わなかったでしょ?
 毎月渡してたお小遣いだってその中からあげてたのよ?」

「でもこんなに沢山は貰えません・・・」

「なに言ってんだ、クリスが頑張ったから、今のお前の腕前なら王室付きの中隊長クラスなんだぞ。
 それ相応の金だ。遠慮しないで貰っとけ」

「ありがとうございます・・・。」

クリスは喜びのあまり少し涙ぐんでしまった。

クリスの家に着くと、久しぶりに帰ってきた元気そうなクリスを見て皆喜んだ。
大きくなったな。とか、立派になったわね。とか口々に先を争う様に言い合っている。
そしてこの3年で溜めたお金をおじさん達に渡すと、腰が抜けるほど驚いていた。

「こんな大金いままで見たことがないわ・・・」

「本当だな・・・でもこれはお前が稼いだものだろ?お前の物だ」

「ううん。僕はいいんだ。持ってても使う事がないから」

「ですって。貰ってあげてください。クリスに必要なお金でしたら、月々ちゃんと渡してますから
 心配はありませんよ。ねっ?クリス」

「はい!僕が稼いだお金を持って歩いてたら、馬車がそのうち潰れてしまいますw」

悪戯っぽく笑いながら言った。
それならばと、ありがたく頂戴する事になった一家だった。

その日はクリスの家に泊めてもらう事になり、イアンは朝早くに何処かに一人で出かけた。

  • No.22 by ハナミズキ  2014-09-03 22:26:15 

朝食を食べる頃にはイアンは戻って来ていた。
戻ってくるなり午後からデニマールの所に行くと言う。


朝、一人で出かけた所は、領主の屋敷だった。
突然の魔王のお越しで城内は騒然となるが、それをしり目にズンズンと城中を歩き領主の部屋まで行く。

「これは魔王様、今日はいかがなされましたかな」

「お前に頼みがあって来た」

「と、申しますと?」

「今回の試験に受かった者から一人譲ってほしい人物がいる」

「どちらの者でしょうか?

「カシス村のヤンと言う者だ。どこに配属になる予定だ?」

「その者でしたら来月からサワズリ国の警備兵になる予定ですが」

「サワズリ国なら今は治安が安定してるから、一人くらい減っても問題はないだろう」

「ではヤンは、魔王様のお付に、という事ですか?」

「お付きというか、あれだ。クリスの話し相手に欲しいのだ」

「これはまた・・何と言いましょうか・・・そのクリスとやらは幸せな子なのですね」

イアンは口角を少し上げながらその場から去っっていった。
職務地辞令を出し、午後にデニマールの所まで出向せよと書き加えられた書を、伝書魔鳥が運ぶ。
その通達書には、「職務地:大陸全土 午後にデニマールのもとへ向かへ。そこで通達する」と書かれていた。

大陸全土とはいったいどういう事なのか訳が分からず、とりあえずは言われた通りにデニマールの所に出向いた。
部屋のドアを開けると、そこには見たことのある顔の人物が居た。

「あああああああああああああ!!!!!」

「ヤン?!」

「なんでお前がここに居るんだよ!?」

「お前こそ何しに来たんだよ!」

「はぃはぃ、二人とも落ち着いてね」ニコリとほほ笑む。

訳が分からないと言う二人の為に、デニマールが説明をし出した。

「ヤン、こちらのお二人がお前の雇い主になるお方だ。
 この方達は大陸全土を周る旅をしていてな、お前を一緒に連れて行きたいそうだ」

ヤンは領主のもとで働くか、どこかの貴族の屋敷で働きたかったのだが、どういう手違いか旅の行商人とも芸人ともおぼつかない二人と旅に行けとは・・・思いっきり外れクジを引いた気分になって行った。

「サラ様、イアン様。ヤンを一緒に連れて行かれるんですか?」

「そうだ。お前の良い話し相手になるだろうよ」

ヤンにとっては不服そうだったが、決まってしまった事はどうしようもない。
明日、さっそく出発する事になり、ヤンは急いで旅支度をした。
ヤンの両親は、もっと高貴な方に雇ってもらい、息子の出世を夢見ていたのだが、これもまた運命だと潔く諦める事にしたのだった。

旅立ちの日、イアン達のほろ馬車がヤンの家の前に止まり、ヤンが乗り込む。
それと入れ替わりの様にイアンが降りて行き、一通の手紙を両親に手渡した。

「では、ヤンは責任を持って俺達が預からせてもらう。 
 後でその手紙を読んでくれ」

美しい姿形の気品漂う男性と、この世の者とは思えないほどの美しい少女が、これから息子ヤンの主になるのかと思うと、少し誇らしい気分にもなってきていた。

馬車の姿が見えなくなるまで見送った家族は、イアンから手渡された手紙を読み、その内容に度肝を抜かされた。

―― ヤン・バージニの身柄は、大陸の王であるイアン・グリスフォードが責任を持って 
   預かることとする。
   だが、この事実を外部に漏らす事はまかりならぬものとし、もしこの事が漏れた時には
   その責任は重い物となり、厳罰に処する事にする。                 ――

と言う物だった。
貴族のお屋敷より、領主付きの兵より、はるかに素晴らしい職務に就いた事に嬉しく思う反面、何かへまをやらかさないかと心配にさえなってきた。

何も知らないのはヤンただ一人。
ヤンはいつこの事に気が付くのだろうか。

それはまた今度のお話という事で、イアン達の珍道中はまだまだ続くのであった。









――  つづく  ――

  • No.23 by 匿名さん  2014-09-04 18:22:28 

ヤン頑張れ!

  • No.24 by ハナミズキ  2014-09-05 22:40:47 

4人の珍道中に向かう前に、サラ・イアン・クリスの旅篇で、ショートを一つ書きました。

ほのぼのまったりではありませんので、ほのぼのまったり以外は受け付けないという方は読まないほうがいいかと思います。

もう少しだけ刺激があってもいいかな?という方は
こちらの方を経由してお越しください。
↓↓↓

http://www.saychat.jp/bbs/thread/518879/?use_url=http://www.saychat.jp&text_color=666666&font_size=12


※ 尚、経由先でのコメントはお控えくださいますようお願いいたします。

  • No.25 by ハナミズキ  2014-09-06 13:30:35 

ほろ馬車の御者台には、クリスとヤンが座っている。
イアンとサラは、幌の中で休んでいたが、サラの方がイアンの肩にもたれ掛るように居眠りをしているようだ。
馬車の揺れでサラが倒れないように、イアンがサラの腰に手を回し体を支えていた。
ヤンが後ろをちらりと見ると、クリスに小声で話しかける。

「なぁ、あの二人ってできてるのか?」

「ん~・・・、できてるって言うか、相思相愛なのは間違いがないとは思うけど・・」

「それにしてもサラって美人だよな」

「ヤン!サラ様を呼ぶ捨てにするな!」

急にクリスが大声を出したので、後ろでうたた寝をしていたサラが目を覚ましてしまった。

「ん・・・どうしたの?クリス・・」眠い目を擦りながら言う。

「何でもありませんよ、サラ様」

「ん・・・」

まだ眠そうに小さな返事を一つして、サラはまた眠りに入ってしまった。

昼食をとるため、程よく開けた草原に馬車を止め、近くにある小川に水を汲みにクリスとヤンが出か出た。
イアンとサラは竈の準備と小枝拾いだ。
準備と言っても、ちゃちゃっと魔法でやってしまうのですぐに済んでしまう。
汲んできた水でお湯を沸かし、スープを作り、中に入れる材料をサラが幌の中にとりに行く。

幌の一番奥にある布状のカーテンの中に入っていったサラは、どこからともなく野菜や肉類を持って現れた。
ヤン以外はカーテンの向こうでサラが何をしているのか知っているが、この旅に同行したばかりのヤンには皆目見当もつかないでいた。

「なぁ、サラってあれどっから持ってくんだ?」
「サラ様だ」

「どっちだっていいだろ?どうせ貴族様じゃないんだしよ」

悪い子ではないのだが、ヤンは今のところ目先の利益しか興味がないようだ。
イアンとサラの事を、同じ平民だと思い込み、いくら雇い主だとは言っても、見るからに自分より年下のサラに媚を売るようなまねはしたくなかった。
イアンにしても、自分と大した変わらない年恰好なので、雇主というより友達感覚なのだ。
その態度に青くなったり赤くなったりして焦っているのがクリスというわけだ。

「よし!食事も終わったし、ヤン、剣の稽古するぞ」

「お前が俺に勝てるのかよ」

「あら、クリスは強いわよ?イアンの次にねw」

サラが冗談を言ってると思い、ヤンは本気にはしてなかった。
昔、訓練所に居た時は、クリスよりヤンの方が強かったわけで、それに今年、あの難関だと言われている試験にも合格をした事に、ヤンは少し有頂天になっていた。

が・・・、サラの言っている事が正しいという事がすぐに分かった。
あっという間に勝負がついてしまい、何度やっても勝てない。

「お前はもっと相手の先読みをした方がいいよ。
 俺一人なら何とかなるかもしれないけど、複数になったら死ぬぞ?」

「はん。そんなへまはしねぇよ」

「いやいや・・・マジで死ぬって」

そんな二人のやり取りを聞いていたイアンとサラは、やっぱりヤンを同行させて正解だったと、楽しそうに、生き生きとして話しているクリスを見つめながら思っていた。

まだ実践を経験していないヤンにとって、軽く考えていたこの事は、この後すぐに身に染みて分かることになる。

  • No.26 by ハナミズキ  2014-09-06 13:31:53 

稽古も終わり山の谷間を移動してる途中で、旅人を狙う山賊一味に襲われた。
馬車を止め先陣を切って飛び出していくクリス。
その後を追うようにヤンが行くが、相手の山賊一味は20人程いた。
当然一対一の戦闘には持ち込めず、一対数人という形になってしまう。
イアンは相変わらずサラを守り、サラの側から離れようとはしない。
ヤンが一人倒す間にクリスは3人ほど倒し、ヤンとクリスの間をすり抜けてきた賊は、イアンの所で瞬殺される。

すべての山賊を倒し終わった後、ヤンは自分の剣が実践では殆ど役に立たず、今まで驕(おごって)っていた自分が少し恥ずかしくなってきた。
それでもヤンの腕前は、試験に合格したばかりにしてはなかなかの物であり、決して恥ずかしい事はなかったのだが、二人の腕前を目の前で見せられてしまっては、ぐうの音も出なかったようだ。

「ハァハァ・・・お前すげぇな・・・」

息切れをしながらクリスの側に寄って来る。
しかしクリスの方は息切れひとつしていなかった。
そしてチラリとイアンの方を見れば、相変わらず震えながらサラにくっ付いているように見えた。
戦闘中周りを見渡す余裕がまだないヤンには、そう見えたのだった。



ここでヤンから見た人物紹介をしよう。

サラ  可憐で清楚、可愛さの中にもどことなく漂う色気も加わり、とても美しい少女だ。
    栗色の髪にブルーの瞳、守ってあげたくなるほどの、儚げさが漂う。

イアン 金色の髪にグリーンアイ、端正な顔立ちで俗にいうイケメンだ。
    知的聡明で、ヤンから見れば腹黒さにも見えていた。
    学問はできそうだが、武術はからっきしの優男。

クリス 昔は自分の方が、全てにおいて優秀だったが、今は少しだけ認めてやっている。
    黒髪で茶色の瞳、どこにでも居そうな普通の少年だ。

そしてヤンは思う。

『やっぱサラとお似合いなのはこの俺様だな!
 クリスじゃどう見ても弟って感じだし、イアンはサラに危険が及んでも助けられる
 とは到底思えないしな。
 さっきも震えながらサラにくっ付いてたほどだし。
 やっぱここは、この俺様がサラを守ってやらないとな!!』

そんな妄想を密かに抱いていたのだった。


町に着き、宿屋に到着すると、空いてる部屋が2つしかないという。
それも二人部屋が2室だ。
男3人が一つの部屋に入り、一人が椅子か床で寝るのかと思いきや、クリスとヤン。
イアンとサラが同室になるという。

「その組み合わせじゃ、サラが誰かにお襲われそうになった時、だれが助けるんだよ」

「イアン様が居るから大丈夫だよ」

「イアンじゃ役に立ちそうにないから言ってるんだろ!?」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」

「・・・大丈夫よヤン。こう見えてもイアンは、私の次に強い人だから」

『・・・つまりそれって・・・この中で一番弱いのがイアンだと言ってないか・・・?』

ヤンはそう思ったが、敢えて言わないでおこうと思った。
何かとんでもない勘違いをしているヤンだったが、根は真面目(多少私利私欲は入る)で、護衛官としての使命は忘れてはいなかった。

この時期宿屋が埋まるほどの何かがあるのかと、宿屋の店主に尋ねると、この町がなんと、あの伝説の魔女が生まれた土地だと言う。
それを祝って毎年誕生祭を行っているらしい。
それに、毎年この日だけは、あの伝説の魔女がこの地にやって来て、人々に祝福の光をささげてくれるらしい。

「すっげぇええええ!!あの伝説の魔女に会えるのか?!」

目をキラキラと輝かせてヤンが飛び上がって喜んでいる。
3人は顔を見合わせながら小首を傾げながらため息をついた。

「また偽物ですか・・・」

クリスが小声でつぶやいたが、誰にもその声は届いてはいなかった

「何処に行けば伝説の魔女に会えるんだ?」

「向こうに見える山の神殿にお越しになるそうですよ。でも・・・」

「でも?」

「伝説の魔女にお会いになる為には、奉納金が必要になりまして」

「金を取るのかよ・・・」

「はい。1万ゴールド程かかるそうです」

ヤンの給金が月々180ゴールド、日本円にするなら18万というところだ。
つまり、1000万程かかるという事だ。

「ぼったくりかよ!!??」

「いえいえ、それだけご利益があるという事ですよ」

「・・・・・ちょっと会ってみたいわね、噂の魔女さんにw」

「行くのか?」

イアンが呆れたように尋ねた。

「だってぇ~、気になるじゃない」

クスクスと笑いながら、楽しそうに答える。
こうなってしまったサラを止める事は誰にもできないのであった。

次の日、朝早くから誕生祭の祝福を個人的に受けるために、大勢の人々が神殿のそびえ立つ山に向かい歩いていた。
神殿に近ければ近いほど、その祝福の量は盛大に受けられる。
お金を持っている貴族や豪商たちは、奉納金を払い神殿の中まで入っていき、直接祝福を受ける事ができるのだ。

神殿の前まで来ると、怪我をしている者や病気などで苦しんでいる者が、少しでも伝説の魔女の祝福の恩恵に授かろうとやっきになっていた。

「押すなじじぃ!邪魔なんだよ!」

「お前こそどけろ!俺は今年の商売がかかってんだ!」

など、罵声が飛び交っている。

「ひっひっひ。早速ご利益か?こんな所に綺麗なねぇちゃんが居るぞ」

見るからに悪人顔の人がサラを見ながら舌なめずりをする。
それに気が付いたヤンとクリスがサラの前に立ちはだかり、男達に威嚇をする。

「ガキがなに偉そうにガン飛ばしてんだ?ぁん?!」

その場にいた男達と軽く乱闘が始まった。
しかし、力の差は歴然であり、決着は直ぐにつく事になる。

しかしその後も、同じ輩の男共から幾度となくいやらしい目で舐め回されるサラだった。
当のサラは慣れているのか気にする事もなく、その後始末に明け暮れていたのがヤンとクリスだったのだ。

祝福を授ける時間になり、空から大量のキラキラと光る美しい光が降り注いできた。
人々はそれを全身にくまなくまとい付けると、生気が少し元に戻るようだ。
怪我や病気が完治するわけではなく、少し良くなるだけの様だ。

「これが祝福なのか??」

ヤンが不思議そうな顔をしている。

「これだけ大勢の人に平等に分けてくださってるんだから、ありがたい事ですよ」

隣にいたおじいさんとその連れの息子らしき人がそう言った。
おじいさんとその息子が言うには、おじいさんの体の調子は少し回復をしたが、息子の目の病は回復する兆しが無かったと言う。
そもそもおじいさんは、息子の目が治るようにと、わざわざこの神殿まで連れて来たようだ。
個人的に奉納金を払って診て貰えば、直ぐに治るのだろうが、この人達にはそんな大金は払えない。
だから限りなく近いこの場所までやって来たという事だった。

「ちょっと診せてね」

サラが息子の目に手をかざす。
ほんのり暖かい空気に包まれ、息子が閉じていた目を少しずつ開けると、今まで真っ暗で何も見えていなかったその瞳に、眩いばかりの光が飛び込んできた。
その光に慣れ始めたころ、周りの景色もはっきりと見えだしたのだ。
喜んだその息子はその事を父親であるおじいさんに言うが、おじいさんがいくら周りを探しても、先ほどの少女の姿は見つけられなかった。

ある意味、本当に伝説の魔女の祝福を受けたのは、この息子だけなのかも知れない。

  • No.27 by ハナミズキ  2014-09-06 13:34:53 

夕方には伝説の魔女を接待する為に、伝説の魔女と懇意にしていると言われる貴族と魔女が、伝説の魔女とともに領主の城に招かれていると噂が入って来た。
この噂を聞きつけたサラとイアンは、領主の城に行く事にした。

時間を見計らい、宿屋の部屋で4人で談笑をしていると、ヤンが突然妙な事を言い出す。

「やっぱり、サラと一番お似合いなのは俺だな」

「はぁ?!ヤンのわけないだろ!サラ様とお似合いなのはイアン様だ!」
「イアンなんて、今日の騒ぎに手も足も出なかったじゃねぇかよ」

「出なかったんじゃなくて出さなかったんだ!!」

「まっ、物は言いようだな」
「サラ、少しは俺に惚れただろ?」

自身たたっぷりに言うヤンだった。
その自身はどこから来るのかと言うと、今までヤンは、庶民の中では剣の腕も立ち、それなりの知識も持っており、文武両道と言ったところだろうか。
容姿も野性味あふれる男前で、赤茶色の髪がよく映えていた。
その為、女性からも良くモテていて、言い寄られてくることも珍しくはない。
その辺の自身が今に繋がっているのだろう。


ほどなくして領主の城に出かける時間がやって来た。
ヤンとクリスには少し出かけてくると言い残し、部屋から出て行ってしまった。
護衛に付いて行くというヤンを振り切り、二人は領主の城の中に入り込んだ。

中では盛大に晩餐会が開かれていた。
二人はテラスの上から下を覗き込むように伝説の魔女を探す。
居た。
たぶん領主の隣に座ってる人がそうだろう。
悪い感じには見えなかったが、伝説の魔女の隣にいる貴族と魔女からは不穏な色の空気を纏っている感じが読み取れた。

「あの二人はほっとくとヤバイな」

「そうね。面倒なことになる前に摘み取ってしまいましょう」

二人はドア付近に移動をし声をかける。

「貴方が伝説の魔女なの?お初にお目にかかりますわ」

「誰だ貴様は!この不審者をひっ捕らえろ!!」

「動くな!」

イアンが叫ぶと誰一人として、指一本も動かせなくなってしまった。

「な・・・なんだこれは?!いったいどういう事だ・・」

「伝説の魔女ならこれ位の拘束なんて直ぐ解除できるんじゃなくって?」

「伝説の魔女様、お願いです、この術を解いてください」

何やらブツブツと呪文を唱えながら術を解除しようとしている。

「あら?おかしいわね?本物の伝説の魔女なら呪文なんて使わないはずよね?」

「おい!これは一体どういう事だ?!」

領主が問いただす。
オドオドとしはじめた偽伝説の魔女。
その様子を見ていた貴族と魔女が

「早くしなさい!何をやっているの!」
「何のためにお前を雇ったと思ってるんだ!」

「雇った?」

しまった!と言う顔をする貴族達。

「お前は偽者なのか?!」

領主は何も知らないようであった。

「私もね、普通に祝福を与えてるのなら見逃したんですけどね、あんなに莫大な奉納金を
 受け取って、あくどい商売をしてるとあってはねぇ・・・」

「ごめんなさい・・・私もやりたくてやってたわけじゃないんです」

偽伝説の魔女が泣きながら訴えだした。

「人より少し魔力が強い事をこの人達に知られてしまって、お金になるから一緒にやらな
 いかと言われたんですけど、そんな人を騙すような事はしたくなかったんで、一旦は断っ
 たんです。
 でも・・家族を人質に取られてしまい、どうする事も出来なくなってしまって・・・」

「事情はよく分かった。なら、処罰の対象はそこの貴族と魔女だな」

「貴様は何者だ!」

あくまで強気に出ている貴族だった。

「俺の名は、ブライアン・グリスフォード。この名に心当たりは?」

「ブライアン・・・グリスフォード・・・・あっ・・!?」

「思い出したようだな。この大陸の王だ」

城内が騒然となった。
領主でさえ滅多にお目にかかれないという王がそこに立っているからだ。

「お前たち二人は、伝説の魔女の名をかたり、人々を困惑させた罪で罰を受けてもらう」
「汝、その魔力を封印し、寿命も人間並みとする」

イアンがそう言うと、二人の体からみるみると力が抜け落ち、ただの人間になってしまった。

城内の拘束を解き、この事件に関わった者達の記憶をすべて消し去った後、領主には今後この様な事が二度と起こらないようにきつく言うと、二人は早々に立ち去って行ってしまった。

何も知らずに宿屋で待っていたヤンは、どこに行ってたのかとしつこく聞いてきたが、のらりくらりとかわすイアンだった。

「終わったんですね」
「あぁ」

イアンとクリスが交わしたこの言葉を、ヤンが聞くことはなかったのである。









― つづく ー

  • No.28 by ハナミズキ  2014-09-09 23:03:54 

旅をして諸国を回っている時、サラは異変を感じた。
この異変はサラにしか感じられず、ほかの皆は普段と変わらない。
体にピリピリとくる痺れにも似たような感じが、何とも言い難く不快だ。
目を瞑り、その異変の方角を読み取ると、第3大陸の方から感じられる。
更に神経を集中させ、異変の原因を読み取ると、大陸内で大きな戦争が始まったようだ。
第3大陸では、私利私欲のため殆どの資源を取りつくしてしまい、砂漠化が広がってきていた。
人や動物達の住む所でさえ、その範囲は徐々に狭まり、居住地を争っての小さないさかいが絶えず頻繁に起こっていた。

大陸を預かっている魔王の力が弱まったのか、大陸を収めるに値する魔王がそこには居ないのか、とにかく荒れ果て、廃坑の末路を辿っているようだ。
サラは暫く空を見上げながら何かを考えていた。
そして一つの決断を下したようだ。

「私、ちょっとお出かけしてくるわね」

「出かけるってどこまで・・・?」

「第3大陸まで」

「「はぁ!?」」

素っ頓狂な声を出したのは、ヤンとクリスだった。
それもそのはず。サラ達が今居る所は第1大陸であり、第3大陸に行くには船で三日はかかる。
もちろん魔法を使って飛べば一瞬だったため、この場合一人で行動するか、イアンを同行させるのが妥当なところだろう。
何故なら、クリスとヤンには、海を渡るほどの長距離移動が出来ないからだ。
しかし、サラとイアンが不在となると、残るクリスとヤンの事が心配だ。
したがって、サラ一人で単独行動をするしかないだろうという事になる。

「他の大陸なんて危険です。何をしに行くんですか!?」

「ん~・・これは私の義務なの。だから行かせて頂戴。クリス」

「駄目だな。いくら義務だと言っても女一人じゃ行かせられるわけないだろ」

ヤンも反対をする。

「船で三日というとこか。俺たちも付いてくぜ」

結局4人で船に乗り、第3大陸まで行く事になってしまった。

「うっわぁ~・・・やっぱり海は広いですね・・・。
 海以外何も見えませんよ・・・」

大きな感動を胸いっぱいにし、嬉しそうに船の甲板から海を眺めているクリス。
それとは反対に、船酔いでぐでんぐでんになって横たわっているヤン。

「だから付いて来るなって言ったんだよ」

船酔いで青い顔をしてゲロゲロ吐いているヤンを横目に、イアンが呟く。
それに同意するかの様に、サラとクリスも小さく頷いたり溜息をついたりした。

「うるせぇ・・・俺は平気だ」

強がってはいるが、かなり具合が悪そうだ。
仕方がないのでサラがヤンの背中を摩ってやると、癒しの力が働き少し気分が良くなる。
が、また直ぐに船酔い状態になり、第3大陸に着くまで何度もサラに背中を摩ってもらう事になる。
しかしこの事が、ヤンの妄想に火を付けたのは言うまでもなかった。

『サラはやっぱり俺に気があるんだな。じゃなかったら、こんなに心配してくれるわけがない。 
 しかたがないから恋人にしてやるか・・・』

そんな妄想を抱いていた。幸せな男である。

  • No.29 by ハナミズキ  2014-09-09 23:07:02 

3日後、第3大陸に船が到着をした。
第1大陸からの輸入品が定期的に到着する港なので、海辺近くの港町は活気でみなぎっている。
今晩はここで1泊をし、大陸の中央にある王都を目指すことにした。
一気に魔法で移動をすれば簡単に事が済むのだが、大陸の様子を伺うために、陸路と空から行く事にした。
自分の領地ではない他の大陸であるため、イアンは内部干渉ができない。
したがって、見かけはお気楽なただの旅行者だ。
宿屋を取ると早速港町の見物をし、腹ごしらえをする。

店屋を見物していると、威勢のいい呼び込みがあちこちから聞こえ、ヤンとクリスはすっかりおのぼりさんと化していた。

「凄いですサラ様!こんな果物見た事がありませんよ!」
「サラ!こっちにお前に似合いそうな髪飾りがあるぞ」

笑ながら二人の後をついて歩くサラとイアンだったが、町を少し離れると、人の様子が少し変わってきていた。
先ほどまでは威勢のいい呼び込みに、活気にあふれた人々が大勢いたのに対し、生気も薄れ、露天に並べられている物も質素な物ばかりだ。
石をただ繋げただけの首飾りや、ガラス細工のイヤリングに小枝や草で作ったような飾り物。
イアンはその中から首飾りとイヤリングを買い、サラにプレゼントとして手渡した。

「そんなちゃっちい物じゃなくて、もっと良い物を買ってやれよ。ケチくさいな」

「あら、プレゼントはその人の気持ちなんだからどんな物でも嬉しい物よ」

ニコニコと嬉しそうに、早速身に着けたのだった。
サラが身に着けたその首飾りとイヤリングは、見る見るうちに変化を遂げ、ただの石だった首飾りが、色とりどりの宝石になる。
イヤリングも同様に、徐々に輝きだし、ただのガラス細工が高価なダイヤになったのだった。

驚いたのはヤンだけではない、それを売っていた店の者も驚きを隠せなかった。
一旦身に着けていたその装飾物を首や耳から離し、バラバラにしたかと思うと周りにいた者達に配り始めた。

「これ一粒で当分は生活ができるはずよ。何かおいしい物でも食べてね」

そう言いながら次々に手渡していった。
全てを万遍なく渡し終わると、サラはイアンに謝った。

「ごめんねイアン。せっかく買ってもらったのに・・・」

「謝ることはないさ。サラがしたいようにすればいいんだから」

するとすかさずヤンが先ほど見ていた綺麗な髪飾りをサラに渡す。

「ほらよ。これやるよ」

少し驚きながら丁寧にヤンにお礼を言うと、ヤンがそのピンクの花髪飾りをサラの髪に挿してあげた。

「やっぱその色がサラには一番似合うな」

少し照れたようにサラが笑う。

次の日、本格的に王都に向かって移動する為、買えるだけ沢山の食料をみつくろったのだが、ヤンがこんなに沢山の量をいったい誰が運ぶんだと文句を言ってきた。
そこでサラは天に向かって指笛を吹いた。
すると、どこからともなく馬の鳴き声がし、天から馬が馬車を引いて現れた。

ヒヒヒーン

やって来たのはいつもの馬と馬車に見える。
ただ一つ違っている所といえば、その馬には立派な羽が生えていた。

「これは・・・魔馬か!?」

ヤンが驚いたような声でサラに聞く。
魔馬とは、絶滅危惧種に認定されており、その売り買いには相当の値段が張り、気も荒く乗りこなす事はほとんど不可能と言われている幻の馬の事だ。
魔馬自体が認めた者しか主人とは認識せず、その毛並には魔力を無効化にする性質を持っている。
魔力を使って捕まえる事は不可能に近いし、腕力で捕まえようとしても、側に近寄ることさえ出来ないほどの風圧で跳ね除けてしまう。
そんな魔馬を、どうしてサラみたいな癒しの魔法しか使えない者が所有しているのか不思議だった。
それも2頭も・・・。

しかし、貰える物は貰い、使える物は使うという合理的精神が強いヤンにとっては、そんな事はどうでもいい事だった。
一生のうちで魔馬を見られる事などはまず無いだろう。
見るどころか触って御者までしてるのだ、これは普通に考えればあり得ない事だ。
それに、そんな事をいちいち疑問に思っていたら、この仕事はやってはいけないと本能的に思っていたのだろう。
ヤンは深く考えない事にした。

町のど真ん中にそんな魔馬がやって来たのだ、人々は興味深そうに遠巻きで見ている。
そんな中、一人の男がサラ達に近づいて来た。

「珍しい馬を持ってるな。どこで買ったんだ?」

「買ったのではなく、お願いをして乗せてもらっているのよ」

「お願いしただけで乗せてくれるってか!?これは魔馬だぜ!?」

「でもそうなんですもの・・・ね?チャールズ、ケリー」鬣(たてがみ)を優しく撫でながら馬達に キスをする。

それに応えるかのようにヒヒーンと鳴いた。

「ねぇちゃん。物は相談だけどな、その魔馬俺に売ってくれないか?」

「ごめんなさい。それは出来ません」

「・・・チッ!後で後悔することになっても知らないぜ」

そう捨て台詞を残して男は去って行った。

この男、極悪商人一味の一人で、買える物は安く買いたたき、買えないと分かれば強奪してまでも奪い取る。
そんな悪行を繰り返していて、表の顔は商人で裏の顔は強盗や盗賊などをして奪い、それらを売りさばいているというわけだ。
お頭に魔馬の事を伝えると、当然の様に奪い取れと命令が出た。
その伝令を、サラ達が向かった方向にいる仲間に伝え、強奪の準備がされた。

情報を持ってきた男の話によれば、魔馬と一緒に居るのは旅の若者達4人で、一人は18歳くらいの少女でかなりの美人。
売れば高値が付く上玉だ。
残りの3人は、16~二十歳前後の風貌の少年と青年。
赤茶髪の男は腕っぷしが強そうでガタイも良かったが、他の二人は子供と軟弱そうな優男だという。

赤茶髪の男さえどうにかすれば後は問題なく仕事が終わると踏んだのだろう。
こんな楽な仕事はないとお頭は思ったが、念には念を入れて、魔族の中でもかなり力の強い者達を集め、サラ達が通りかかるのを待ち伏せていた。
旅の若者たちはどうにでもなるが、問題は魔馬だ。
並の魔族では手も足も出ない。
大人しく繋がれている時に不意打ちで拘束しようと考えていた。

盗賊たちにとっては運がいいのか悪いのか、一味が経営をしている宿屋にサラ達がやって来た。
宿屋の亭主は、サービスだと言い、かなり強いお酒を手渡してきたのだ。
しかし、お酒が飲めないサラは勿論飲まなかったが、イアンもそれほどお酒が好きというわけではないので飲まず、クリスとヤンは未成年という事で当然却下された。
結局は誰もお酒を飲まず、後で料理にでも使おうという事になった。

他所の大陸にやって来たばかりなので、当分は4人一緒に寝起きを共にすることにしていたので、この日も4人部屋を取りくつろいでいるところだった。
そこに宿屋の亭主に手引きをされてやって来た魔族の盗賊団達が、ドアと窓から部屋の中になだれ込んできた。

とっさにイアンがサラを壁際に追いやり、守るようにサラの前に立ちはだかる。
ドアから入って来た賊はクリスが、窓からやって来た賊にはヤンが応戦をしている。
ヤンの方は少し倒すのに苦労をしていたようだが、クリスは実践経験が長い分余裕だ。
形勢が悪くなった盗賊一団は魔馬の方に向かっていた仲間を呼び寄せ、狭い部屋の中が乱戦状態となる。
あらかじめ聞いていた情報とは違い、一番強そうに見えたヤンが一番弱いという事に気が付く。
とりあえずチビと優男を、殺さない程度に始末をしろという事になった。
後で売りさばく大事な商品になるという事だ。

乱戦の中、イアンがサラから離れた少しの隙を突かれ、サラが盗賊団に捕まった。

「サラ!!」
「サラ様!」

イアンとクリスが叫ぶ。

「私は大丈夫よ」

「サラ、程々に手加減してやれよ」

イアンが口角を少し上げて気の毒そうな顔をする。
しかしヤンだけが、治癒の能力しかないサラを心配していた。

「サラ!今助けてやるから待ってろ!」

そうは言うが、ヤンも賊の追撃に手一杯のようで、なかなかサラの元には行けない。
サラを人質に取った手下その1が、余裕の表情でサラの首元に刀をかざし脅迫をする。

「大人しくしないとこの女がどうなってもいいのか!」

「・・・クッ・・お前ら・・サラから離れないと後悔することになるぜ」

イアンが不敵な笑みを浮かべながらそう言い放った。

「貴様ら・・・・」

手下その1は刀を持つその手に力を入れ、サラの首元に押し当てられていた剣を少し引いた。
サラの首元に赤い線ができ血が流れる。
しかしその赤い線は直ぐに消えてしまい、何事もなかったかのように綺麗に元に戻ってしまった。

「何!?そうか・・お前は治癒の力が使えるのか。ならばこれならどうだ!」

少し深めに剣をたてた。
首元を切った瞬間に大量の血が辺りを覆う。
ヤンはサラの名前を呼び、動揺をしたせいか一瞬気を抜き、剣を持つ手に力が少し弱まったところを見図るかのように、切り付けられた。

おびただしいほどの血を流し倒れこむヤン。
サラはとっさに力を使い、ヤンの体を包み込むように金色の光の膜を張った。
金光の膜は防護壁にもなり、その中に入れば治癒の力が働く。
どんな傷や怪我、病気などでも瞬く間に治してしまう。
そんな力を使えるのは魔王クラスの者しかいない。
しかし、そんな呪文を使った者などここには居なかった。

ヤンが気を失って倒れている隙に一気に片を付けようと考えたイアンは、眼にも止まらぬ俊足な移動をしながら、次々にと敵を倒していく。
一番弱そうだと思っていた者が、一番強かった事に驚き、盗賊団は逃げ出そうとするが、イアンが放った捕縛の煙にまとわりつかれ身動きが取れなくなってしまった。

捕縛をした盗賊団の手下達をどうしようか迷ったが、この大陸の役所に送り付けても金を積まれて無罪放免になるのは目に見えていた。
したがって、サラ専用の異空間に閉じ込めておく事にした。
異空間とは、次元の狭間の事であり、入り口が無ければ出口もない、ただ暗い闇が広がるだけで時間の流れが止まっている空間の事である。
普段はそこに食料などを保管している。
時間の流れが止まっているため、買った時のまま、又は出来上がった時のままの状態で保存する事が可能な場所だ。
簡単に言えば、冷蔵庫が100段階ぐらいグレードアップした様なものだ。

寒さ暑さを感じず、お腹も減らず、疲れも感じない。
自分が今、生きているのか死んでいるのかさえも分からなくなってしまう様な魔の空間といえよう。
そこに封じたのだった。

2階が静かになり、仕事が終わったのかと宿屋の亭主が様子を見にやって来た。

――  ガチャリ  ――

ドアを開け部屋の中を見ると、仲間の姿がどこにも見えない。
居るのは例の4人連れだけだ。

「何か用か?宿屋の主人」

イアンの魔力で部屋の中を元通りに直し、何事も無かったかのように4人はそこに居た。
(ヤンは布団の中に放り込まれた。)

「い、いえ。今しがた大きな物音がしましたので様子を見に・・・」

しどろもどろになって状況を把握しようとしている。

「ああぁ、コソ泥がやって来たみたいだったが、人が居たので逃げて行ったな」

逃げるなんて有り得ない。
あの精鋭部隊が一度だって任務を遂行しないで逃げ帰って来た事はない。
という事はこいつらに遣られた?
しかし死体がどこにも無いし、部屋も荒らされてもいない。
これは一体どういう事なんだ・・・?

「何か不思議な事でもあったか?随分冷や汗をかいてるようだが」

「お・・お客さん方はいったい何者なんですか・・・?」

「何者か知りたいのか。知ればお前がどうなっても責任は持たないがいいのか」

宿屋の主人はゴクリと唾をのむ。

「ならば教えてやろう」

イアンは宿屋の主人の側まで行き、右手を主人の額にかざした。
かざされたその掌から大量の魔力が流れ、その気の強さに驚き腰を抜かす。
更にサラが寄って来て、同じく手を額にかざした。
イアンより遥かに大量の魔力が流れ込み、主人は恐れのあまり気を失いそうになったが、二人はそれを許してはくれず、宿屋の主人も盗賊団同様に異空間へと移動された。

  • No.30 by ハナミズキ  2014-09-09 23:10:15 

次の日、主人を失ったこの宿屋をどうしようか考えたが、誰かに任せてもまた直ぐに盗賊一味がやってくる事だろうと思い、そのまま放置をして宿を後にした。

魔馬に乗り、空から下界の様子を見ると、どこまでも続く砂漠が見える。
この大陸の砂漠化は相当深刻なようだ。
そのまま一気に王都まで進み、魔王の居る城に着いた。
門番や衛兵たちはどうにでも出来るが、なるべくなら穏便に事を進めたいと思っているサラは、城の外堀から城内に力を使い移動をした。

移動をした場所は魔王玉座の間だった。
天井付近にある窓枠に立ち、中の様子を伺っていた。

「何!?また住民が第一大陸に逃げただと!?
 見つけ出し即刻連れ戻せ!!」
「いや待て、これは良い機会かもしれん。
 あの大陸は昔から豊かな土地と豊富な資源が眠っておるはずだ。
 それに、あの大陸の王は魔力も使えぬ者だと聞く。
 私がその王に代わって大陸を収めてやろうではないか」

「御意」

「どうする?イアン」サラが笑いながらイアンに問う。

「なんでイアンにそんな事聞くんだよ。イアンに聞いてもしょうがないだろ」

ヤンがぶつくさ言っているが、サラ達は気にもしていなかった。

「まぁ、一応話し合いだけでもしとくか・・・」

そういうといきなりイアンは玉座の前に移動をした。
遠くからその光景を見つめるサラ達だったが、イアンの事を心配したヤンが後を付いて行ってしまった。

「あらら・・・ヤンったら・・・」

急に目の前に現れたイアンとヤンに、第三大陸の魔王が大声を出した。

「貴様ら!何者だ!?どこから入って来た!!」

「今俺の事を話してただろ。
 で?俺の大陸をどうしたいって?」

「貴様の大陸だと?」

「俺が第一大陸の王だ。奪い取るとか何とか言ってたよな?」

『おぃおぃ!ちょっと待てよイアン!いうに事欠いて自分が魔王だと?!』

「ほほぉー。貴様が魔力も使えぬひ弱な王か」

「それはどうかな?」

『イアン、やばいって!それ以上はったりかますなって!!』

ヤンは心の中で焦っていた。
今まで肝心な時に限って居ないか、気を失ってるかのヤンは、イアンの本当の力を知らなかったからだ。

「一つ言っておこう。私はこの大陸に来て不埒な行いをする者は問答無用で始末できるが、
 他の大陸から来た者が、この大陸に住む者の命を奪う事は許されてはいないという事を知っておる のか?」

「当然知ってるさ。だから俺はお前を殺しに来たんじゃなく、話し合いに来たんだ」

「話し合いだと?無駄な事を・・・」

呪文を唱え攻撃を放つ。
しかしイアンには傷一つ負わせる事が出来なかった。

「な・・なんだと!?」
「貴様今いったい何をした!!」

「別に何も。あんなのが当たったら危ないだろ。だから相殺したまでだ」

「くっ・・・、皆の者!一斉に攻撃じゃ!」

部屋中に呪文を呟く声が響き渡る。だが。

「そこまでよ。第三大陸の魔王」

サラがイアンの横に現れた。

「サラ!何しに来た!危ないから隠れてろ!」

ヤンが叫びながらサラの腕を引っ張ろうとしたが、サラはその手を払いのけた。

「大丈夫よ、ヤン」
「第三大陸の王よ、貴方にはもうこの大陸を収めるには値しないと判断しました。
 したがってその任をたった今解きます。
 民を守るどころかないがしろにし、領地は荒れ果て、この様はなんですか!?
 任された責任を全うできなかった場合、貴方はご自分がどうなるかわかっていますね?」

「何の事だかな。貴様にそんな権限はない!」

「それがあるのよねぇ~」
「消えなさい。第三大陸の魔王よ」

サラがそう言うと、魔王の姿がキラキラとした光の雫と化し消えていった。

「えっ!?ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

ヤンが驚きのあまり、間抜けな顔で口をパクパクさせてサラの方を見ている。
サラはそんなヤンを尻目に、玉座に座り訓示を出した。

「今を持ってこの第三大陸は、わたくしサラが取り仕切ります。
 そして、この荒廃した大陸は今より第一大陸とくっ付け、新羅大陸と名付けます。
 新羅大陸の魔王となる者は、今ここに居る、第一大陸の魔王、ブライアン・グリスフォードに一任 するものとし、今より彼の者の配下に下ることを命じる。
 以上の事を即刻、かつ迅速に各諸国に伝達をすること」

そう言い渡すとサラが立ち上がり、1本の杖を空間から取り出した。
その杖を持ち城の外に出て、天に向かって振りかざした。
すると、ゴゴゴゴッという音と共に大陸が移動を始める。
大陸と大陸がピッタリとくっ付くのではなく、大陸同士の一部が、大陸にかかる橋の如くくっ付いたのだった。

やっと正気に戻ったヤンが

「ちょっと待ってくれサラ・・・サラっていったい何者なんだ?
 それにさっき、イアンの事魔王って言ってなかったか?」

「ええ。言ったわよ?」

「えっ?ええっ?ええええええっっ!?」
「お前は知ってたのかよクリス!?」

「うん。知ってるよ?」

「じゃ・・・サラっていったい何者・・・?」

「ヤンは、伝説の魔女って知ってるかぃ?」

「そりゃ知ってるさ。有名な人だしな。」
「・・・・・・まさか?」

「そのまさかだよ」

クリスが苦笑いをしながら言った。

「えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ?!」

今まで二人に対する無礼の数々が脳裏を過ぎる
一瞬、「俺も消されちゃう?」などと考えてしまった。

「さてっと。これからが大仕事ね。
 イアン、貴方にも手伝ってもらうわよ」

「了解。
 で?俺は何をすればいいの?」

「貴方には水源の引き方を教えたわよね。
 水源を引いたら、緑化の応用で森林を増やしてちょうだい。
 ここから南半分は貴方に任せるから。
 出来る?」

「了解。
 後は適当に整地しとけばいいんだろ?」

「その通りよ。私は北半分を担当するわ。 
 ヤン。付いて来なさい」

「は、はい!サラ様!」

ヤンが「サラ」から「サラ様」に呼び名が変わった瞬間である。
二人は手分けをして砂漠化していた土地に水源を引き、緑を増やし、痩せていた土地には栄気を吹き込み、作物がよく育ちそうな豊かな土地にした。
土地争いをしていた者達も大喜びをして、元より住んでいた自分の故郷に戻って行ったのであった。

突然の事態に反旗をひるがえす者達は、容赦なく懲罰、又は極刑を申しわたされ、悪だくみを考えていた者達は、全て一掃された。
多くの領主たちが捕えられ、その後見には代理の者がたてられ、その選抜に大忙しになったのだった。
その為、イアン達は一度城に帰る事にした。
城に戻り、新しく領地になった国の領主を決めている間、クリスは王専属の側近及び護衛官として働き、ヤンは近衛隊で訓練をさせられていた。
しばらく大陸が落ち着くまで、この生活は続きそうだ。

そしてサラはと言うと、一人で旅に出たのである。
イアンは不満そうだったが、サラが居てもやる事が無かったので、いつもの様にどこかの国でひっそりと暮らすようだ。

サラがどこに居ようとも、イアンだけにはサラの居場所がわかる為、暇を見つけては逃げるように時々サラに会いに行っている。
その度に置いて行かれたクリスが悔しそうな顔をして

「イアン様――――!!」と、空に向かって叫ぶのだった。







―  完  ―

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