ハナミズキ 2014-08-20 16:01:01 |
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3日後、第3大陸に船が到着をした。
第1大陸からの輸入品が定期的に到着する港なので、海辺近くの港町は活気でみなぎっている。
今晩はここで1泊をし、大陸の中央にある王都を目指すことにした。
一気に魔法で移動をすれば簡単に事が済むのだが、大陸の様子を伺うために、陸路と空から行く事にした。
自分の領地ではない他の大陸であるため、イアンは内部干渉ができない。
したがって、見かけはお気楽なただの旅行者だ。
宿屋を取ると早速港町の見物をし、腹ごしらえをする。
店屋を見物していると、威勢のいい呼び込みがあちこちから聞こえ、ヤンとクリスはすっかりおのぼりさんと化していた。
「凄いですサラ様!こんな果物見た事がありませんよ!」
「サラ!こっちにお前に似合いそうな髪飾りがあるぞ」
笑ながら二人の後をついて歩くサラとイアンだったが、町を少し離れると、人の様子が少し変わってきていた。
先ほどまでは威勢のいい呼び込みに、活気にあふれた人々が大勢いたのに対し、生気も薄れ、露天に並べられている物も質素な物ばかりだ。
石をただ繋げただけの首飾りや、ガラス細工のイヤリングに小枝や草で作ったような飾り物。
イアンはその中から首飾りとイヤリングを買い、サラにプレゼントとして手渡した。
「そんなちゃっちい物じゃなくて、もっと良い物を買ってやれよ。ケチくさいな」
「あら、プレゼントはその人の気持ちなんだからどんな物でも嬉しい物よ」
ニコニコと嬉しそうに、早速身に着けたのだった。
サラが身に着けたその首飾りとイヤリングは、見る見るうちに変化を遂げ、ただの石だった首飾りが、色とりどりの宝石になる。
イヤリングも同様に、徐々に輝きだし、ただのガラス細工が高価なダイヤになったのだった。
驚いたのはヤンだけではない、それを売っていた店の者も驚きを隠せなかった。
一旦身に着けていたその装飾物を首や耳から離し、バラバラにしたかと思うと周りにいた者達に配り始めた。
「これ一粒で当分は生活ができるはずよ。何かおいしい物でも食べてね」
そう言いながら次々に手渡していった。
全てを万遍なく渡し終わると、サラはイアンに謝った。
「ごめんねイアン。せっかく買ってもらったのに・・・」
「謝ることはないさ。サラがしたいようにすればいいんだから」
するとすかさずヤンが先ほど見ていた綺麗な髪飾りをサラに渡す。
「ほらよ。これやるよ」
少し驚きながら丁寧にヤンにお礼を言うと、ヤンがそのピンクの花髪飾りをサラの髪に挿してあげた。
「やっぱその色がサラには一番似合うな」
少し照れたようにサラが笑う。
次の日、本格的に王都に向かって移動する為、買えるだけ沢山の食料をみつくろったのだが、ヤンがこんなに沢山の量をいったい誰が運ぶんだと文句を言ってきた。
そこでサラは天に向かって指笛を吹いた。
すると、どこからともなく馬の鳴き声がし、天から馬が馬車を引いて現れた。
ヒヒヒーン
やって来たのはいつもの馬と馬車に見える。
ただ一つ違っている所といえば、その馬には立派な羽が生えていた。
「これは・・・魔馬か!?」
ヤンが驚いたような声でサラに聞く。
魔馬とは、絶滅危惧種に認定されており、その売り買いには相当の値段が張り、気も荒く乗りこなす事はほとんど不可能と言われている幻の馬の事だ。
魔馬自体が認めた者しか主人とは認識せず、その毛並には魔力を無効化にする性質を持っている。
魔力を使って捕まえる事は不可能に近いし、腕力で捕まえようとしても、側に近寄ることさえ出来ないほどの風圧で跳ね除けてしまう。
そんな魔馬を、どうしてサラみたいな癒しの魔法しか使えない者が所有しているのか不思議だった。
それも2頭も・・・。
しかし、貰える物は貰い、使える物は使うという合理的精神が強いヤンにとっては、そんな事はどうでもいい事だった。
一生のうちで魔馬を見られる事などはまず無いだろう。
見るどころか触って御者までしてるのだ、これは普通に考えればあり得ない事だ。
それに、そんな事をいちいち疑問に思っていたら、この仕事はやってはいけないと本能的に思っていたのだろう。
ヤンは深く考えない事にした。
町のど真ん中にそんな魔馬がやって来たのだ、人々は興味深そうに遠巻きで見ている。
そんな中、一人の男がサラ達に近づいて来た。
「珍しい馬を持ってるな。どこで買ったんだ?」
「買ったのではなく、お願いをして乗せてもらっているのよ」
「お願いしただけで乗せてくれるってか!?これは魔馬だぜ!?」
「でもそうなんですもの・・・ね?チャールズ、ケリー」鬣(たてがみ)を優しく撫でながら馬達に キスをする。
それに応えるかのようにヒヒーンと鳴いた。
「ねぇちゃん。物は相談だけどな、その魔馬俺に売ってくれないか?」
「ごめんなさい。それは出来ません」
「・・・チッ!後で後悔することになっても知らないぜ」
そう捨て台詞を残して男は去って行った。
この男、極悪商人一味の一人で、買える物は安く買いたたき、買えないと分かれば強奪してまでも奪い取る。
そんな悪行を繰り返していて、表の顔は商人で裏の顔は強盗や盗賊などをして奪い、それらを売りさばいているというわけだ。
お頭に魔馬の事を伝えると、当然の様に奪い取れと命令が出た。
その伝令を、サラ達が向かった方向にいる仲間に伝え、強奪の準備がされた。
情報を持ってきた男の話によれば、魔馬と一緒に居るのは旅の若者達4人で、一人は18歳くらいの少女でかなりの美人。
売れば高値が付く上玉だ。
残りの3人は、16~二十歳前後の風貌の少年と青年。
赤茶髪の男は腕っぷしが強そうでガタイも良かったが、他の二人は子供と軟弱そうな優男だという。
赤茶髪の男さえどうにかすれば後は問題なく仕事が終わると踏んだのだろう。
こんな楽な仕事はないとお頭は思ったが、念には念を入れて、魔族の中でもかなり力の強い者達を集め、サラ達が通りかかるのを待ち伏せていた。
旅の若者たちはどうにでもなるが、問題は魔馬だ。
並の魔族では手も足も出ない。
大人しく繋がれている時に不意打ちで拘束しようと考えていた。
盗賊たちにとっては運がいいのか悪いのか、一味が経営をしている宿屋にサラ達がやって来た。
宿屋の亭主は、サービスだと言い、かなり強いお酒を手渡してきたのだ。
しかし、お酒が飲めないサラは勿論飲まなかったが、イアンもそれほどお酒が好きというわけではないので飲まず、クリスとヤンは未成年という事で当然却下された。
結局は誰もお酒を飲まず、後で料理にでも使おうという事になった。
他所の大陸にやって来たばかりなので、当分は4人一緒に寝起きを共にすることにしていたので、この日も4人部屋を取りくつろいでいるところだった。
そこに宿屋の亭主に手引きをされてやって来た魔族の盗賊団達が、ドアと窓から部屋の中になだれ込んできた。
とっさにイアンがサラを壁際に追いやり、守るようにサラの前に立ちはだかる。
ドアから入って来た賊はクリスが、窓からやって来た賊にはヤンが応戦をしている。
ヤンの方は少し倒すのに苦労をしていたようだが、クリスは実践経験が長い分余裕だ。
形勢が悪くなった盗賊一団は魔馬の方に向かっていた仲間を呼び寄せ、狭い部屋の中が乱戦状態となる。
あらかじめ聞いていた情報とは違い、一番強そうに見えたヤンが一番弱いという事に気が付く。
とりあえずチビと優男を、殺さない程度に始末をしろという事になった。
後で売りさばく大事な商品になるという事だ。
乱戦の中、イアンがサラから離れた少しの隙を突かれ、サラが盗賊団に捕まった。
「サラ!!」
「サラ様!」
イアンとクリスが叫ぶ。
「私は大丈夫よ」
「サラ、程々に手加減してやれよ」
イアンが口角を少し上げて気の毒そうな顔をする。
しかしヤンだけが、治癒の能力しかないサラを心配していた。
「サラ!今助けてやるから待ってろ!」
そうは言うが、ヤンも賊の追撃に手一杯のようで、なかなかサラの元には行けない。
サラを人質に取った手下その1が、余裕の表情でサラの首元に刀をかざし脅迫をする。
「大人しくしないとこの女がどうなってもいいのか!」
「・・・クッ・・お前ら・・サラから離れないと後悔することになるぜ」
イアンが不敵な笑みを浮かべながらそう言い放った。
「貴様ら・・・・」
手下その1は刀を持つその手に力を入れ、サラの首元に押し当てられていた剣を少し引いた。
サラの首元に赤い線ができ血が流れる。
しかしその赤い線は直ぐに消えてしまい、何事もなかったかのように綺麗に元に戻ってしまった。
「何!?そうか・・お前は治癒の力が使えるのか。ならばこれならどうだ!」
少し深めに剣をたてた。
首元を切った瞬間に大量の血が辺りを覆う。
ヤンはサラの名前を呼び、動揺をしたせいか一瞬気を抜き、剣を持つ手に力が少し弱まったところを見図るかのように、切り付けられた。
おびただしいほどの血を流し倒れこむヤン。
サラはとっさに力を使い、ヤンの体を包み込むように金色の光の膜を張った。
金光の膜は防護壁にもなり、その中に入れば治癒の力が働く。
どんな傷や怪我、病気などでも瞬く間に治してしまう。
そんな力を使えるのは魔王クラスの者しかいない。
しかし、そんな呪文を使った者などここには居なかった。
ヤンが気を失って倒れている隙に一気に片を付けようと考えたイアンは、眼にも止まらぬ俊足な移動をしながら、次々にと敵を倒していく。
一番弱そうだと思っていた者が、一番強かった事に驚き、盗賊団は逃げ出そうとするが、イアンが放った捕縛の煙にまとわりつかれ身動きが取れなくなってしまった。
捕縛をした盗賊団の手下達をどうしようか迷ったが、この大陸の役所に送り付けても金を積まれて無罪放免になるのは目に見えていた。
したがって、サラ専用の異空間に閉じ込めておく事にした。
異空間とは、次元の狭間の事であり、入り口が無ければ出口もない、ただ暗い闇が広がるだけで時間の流れが止まっている空間の事である。
普段はそこに食料などを保管している。
時間の流れが止まっているため、買った時のまま、又は出来上がった時のままの状態で保存する事が可能な場所だ。
簡単に言えば、冷蔵庫が100段階ぐらいグレードアップした様なものだ。
寒さ暑さを感じず、お腹も減らず、疲れも感じない。
自分が今、生きているのか死んでいるのかさえも分からなくなってしまう様な魔の空間といえよう。
そこに封じたのだった。
2階が静かになり、仕事が終わったのかと宿屋の亭主が様子を見にやって来た。
―― ガチャリ ――
ドアを開け部屋の中を見ると、仲間の姿がどこにも見えない。
居るのは例の4人連れだけだ。
「何か用か?宿屋の主人」
イアンの魔力で部屋の中を元通りに直し、何事も無かったかのように4人はそこに居た。
(ヤンは布団の中に放り込まれた。)
「い、いえ。今しがた大きな物音がしましたので様子を見に・・・」
しどろもどろになって状況を把握しようとしている。
「ああぁ、コソ泥がやって来たみたいだったが、人が居たので逃げて行ったな」
逃げるなんて有り得ない。
あの精鋭部隊が一度だって任務を遂行しないで逃げ帰って来た事はない。
という事はこいつらに遣られた?
しかし死体がどこにも無いし、部屋も荒らされてもいない。
これは一体どういう事なんだ・・・?
「何か不思議な事でもあったか?随分冷や汗をかいてるようだが」
「お・・お客さん方はいったい何者なんですか・・・?」
「何者か知りたいのか。知ればお前がどうなっても責任は持たないがいいのか」
宿屋の主人はゴクリと唾をのむ。
「ならば教えてやろう」
イアンは宿屋の主人の側まで行き、右手を主人の額にかざした。
かざされたその掌から大量の魔力が流れ、その気の強さに驚き腰を抜かす。
更にサラが寄って来て、同じく手を額にかざした。
イアンより遥かに大量の魔力が流れ込み、主人は恐れのあまり気を失いそうになったが、二人はそれを許してはくれず、宿屋の主人も盗賊団同様に異空間へと移動された。
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