ハナミズキ 2014-08-20 16:01:01 |
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広い部屋の中央に細長いテーブルが置かれ、その上には見た事も無いようなご馳走が所狭しと並んでいる。
各々自分の連れの側に行き、空いてる席に座るように促される。
テーブルを囲むように、壁を背にして衛兵が立ち、こちらを見張っていた。
遠慮なく食べろと言われても、領主を目の前にしては食事も喉を通らない。
いくら見た事も無い美味しそうな料理を食べても、緊張のあまり味など全く分からない始末だ。
そんな中黙々と食べている者が若干5人ほどいた。
旅芸人の3人とサラとイアンだ。
サラとイアンは納得できるが、旅芸人のその図太さには驚きを隠せない。
先ほど別室で行商人から聞いた話を、魔王候補その2の青年の耳に入れ、見たところ魔王様さしき人物が見当たらない事を確認すると、即興で自分達がその魔王様一行の振りをしようという事にしたそうだ。
旅芸人なだけに役作りはお手の物で、団長が目付け役の従者で、スケベ親父風の男は魔王様を護衛する騎士と言う役割の様だ。
領主とその臣下達は、食事の様子を見ながら一組の人物達に狙いを定めた。
「ではそろそろ本題に入りとうございますが、皆様方にお越しいただきました訳は
この国に魔王様がお通りになるとお聞きしまして、それなら我が城でごゆるりと
休んでいただこうかと存じ上げた次第でございます」
「あら、それなら誰が魔王様なのかもうご存じなのですね?領主様」
領主である自分におくする事無く物申すその少女に目線を置いた。
「お前は誰に物申しておるのか分かっておるのか!」
臣下の一人が厳しい表情でたしなめてきた。
「あら、だって、誰が魔王様なのか知ってるなら、私達がいつまでもここに居てはまずいのでは?」
「ほほぅ。ではお前達は魔王様とその供の者ではないと言うのだな」
「それはどうかしら?領主様にはもうお分かりだと思っていましたが」
イアンがサラの横からクイクイと腕を突く。
「おぃ、サラ・・いい加減にしろよ・・」小声で呟いている。
その場の空気が一瞬にして凍りついたしまったので、旅芸人たちがその場をとりつくろう事にした。
「で、その魔王様にいったいどの様なご用件があるのでしょうか」
ふん、やはりな。と言う顔で話しだす。
「いえ、用件などは何もございません。
せっかくこの地にお越し入りくださったのですから、少しばかりの歓迎の義にございます。
ですが、私共の願いが一つだけあります」
サラとイアンの顔がピクリと動く。
「この地は見ての通り辺境の地でございます。
魔王様に任されました土地を十分に使いましても、千年前からお承りましたブドウ園が
手狭になってまいりまして、町外れの山ひとつ分開拓しとうございます」
「それなら直接王室の方に信書を出せば良い事だろ」
思わずイアンが口をはさむ。
「信書は何回も出しましたが、なにぶんこんな辺境の地にございましては、相手にされないので
ございます。
魔王様に謁見のお伺いを立てても、忙しいとの一点張りでお目通りが叶うはずもなく
こうして無礼だとは思いましたが、直接お話を聞いてもらうほか思いつかなかったので
ございます」
なるほど、そう言う訳だったのかと納得をした。
「それでその・・どうでしょうか魔王様・・」
領主の視線は旅芸人一行に向いていた。
『えっ?俺?一体なんて答えればいいんですか団長』小声で団長に聞く。
『今の話を聞いちゃ、了承するしかないだろうが、こんな大事なこと勝手に決めちまったら
後で俺たちの命が無くなる事は確実だ。
なんとかうまく誤魔化せ』
『誤魔化せって・・・いったいどうやって・・・』
「それは今すぐにでも許可をしたい所なんだが、私一人で決めかねる事案だな。
一度城に戻り協議にかけなければならない。
そう言う訳で今すぐに答えを出すのは待ってほしい」
「そうですか、分かりました」
サラとイアンはその無難な返答に関心をしたが、その議案が城に届くことは一生無い。
少し領主が可愛そうになってきた。
サラが透視をしたところ、領主の言っている事に間違いはなさそうだ。
「イアン、いいんじゃない?」
「そうだな。サラがそう言うなら本心なんだろうな」
周りの者が一斉にこちらを見る。
一番驚いているのが、なにをかくそうクリスだった。
――― ぇっ?えっ?えええぇぇぇぇぇっ!? ―――
声にならない声で口をパクパクさせている。
「それはいったいどういう意味ですかな?お若い方」
領主もいまいち把握していなかった。
「だ~か~ら~、開拓すれば良いって言ってんだよ」
「ですが魔王様がいましがた一度城に戻ってからと・・」
「その魔王が民の為になるなら明日からでもしてもいいと言ってるだろうが」
「ですって、領主様♪」
「「「「「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」」」」」
部屋が揺れ動くようなどよめきが響いた。
「そんじゃ飯も食ったし、行くか」
「飯じゃなくてご飯でしょ?イアン。」
「はいはい。」
「返事は1回よ」ペシリとおでこを叩く。
「へーぃ」
クリスは驚きのあまり腰が抜けて立ち上がれないようだった。
そんなクリスをイアンが担ぎ上げ、3人はそのまま部屋を退室して先ほど居た部屋に戻るのだった。
サラ達はイアンにあてられた部屋に入り、大笑いをしている。
「ねっ?言った通り面白い事が起こったでしょ?」
「いやぁ~、まさかこういう展開になるとは思わなかったな(ハハハ」
「あ、あの・・・確認のために聞きますが、イアン様は魔王様なのですか?」
「あぁ、そうだよ。俺がこの大陸の魔王だ」
驚きはしたが、どこかでそうじゃないかと言う事は、以前から少し思っていた。
堂々として気品があって、魔術だって呪文を唱えず繰り出すその腕前は、一大陸の王に匹敵するのではと常々思っていたからだ。
「では・・あの・・サラ様は・・いったい・・」
魔王であるイアンに意見をし、行儀が悪いと怒り叩く。
イアンもサラには頭が上がらないようだが、サラの事を信頼しサラに危険が及ばないように片時も離れないその姿は、深く愛し合ってるようにも見える。
いったい二人はどういう関係なのだろうかと、不思議に思った。
「クリス」
「はい」
「伝説の魔女って知ってるか?」
「はい!知ってます!・・・・って・・・まさか・・・・」
「そのまさかだよ」悪戯っぽく言った後に、あははと笑い出した。
――― ぇっ?えっ?えええぇぇぇぇぇっ!? ―――
イアンとサラを交互に見ながら口をパクパクとさせていた。
『僕はなんて幸せ者なんだろうか。
両親を亡くしてからは、おじさん達に親切にしてもらい
今は魔王様と伝説の魔女様と一緒に旅をさせてもらってる。
僕は・・・僕は・・・』
感謝と感激のあまり涙を流していた。
「ほらほら、泣かないの」
優しく抱きしめ頭を撫でるサラだった。
次の日、城を立つ際に、いまだ半信半疑な領主にむかい
「あの山で良いだな」
「はい、そうでございます」
イアンが山の方に手をかざしたかと思うと、山肌が姿を現した。
山に生えていた木々たちは、サラの変化樹木魔法で山一面にブドウの木となり、新たなブドウ畑が誕生をした。
「これでいいだろ」
魔王の力を目の当たりにした領主達は、恐れ敬いながら3人の姿が見えなくなるまで見送っていた。
とうとう二人の正体を知ってしまったクリスだったが、怖いと言うより、やはり尊敬の念の方が先にたったようだ。
「よし!次は海のある町に行こうぜ!」
「もぅイアンったら・・・遊びじゃないのよ?」
3人は海のある町に向かって馬車を進めるのであった。
―― つづく ――
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