ハナミズキ 2014-08-20 16:01:01 |
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朝食を食べる頃にはイアンは戻って来ていた。
戻ってくるなり午後からデニマールの所に行くと言う。
朝、一人で出かけた所は、領主の屋敷だった。
突然の魔王のお越しで城内は騒然となるが、それをしり目にズンズンと城中を歩き領主の部屋まで行く。
「これは魔王様、今日はいかがなされましたかな」
「お前に頼みがあって来た」
「と、申しますと?」
「今回の試験に受かった者から一人譲ってほしい人物がいる」
「どちらの者でしょうか?
「カシス村のヤンと言う者だ。どこに配属になる予定だ?」
「その者でしたら来月からサワズリ国の警備兵になる予定ですが」
「サワズリ国なら今は治安が安定してるから、一人くらい減っても問題はないだろう」
「ではヤンは、魔王様のお付に、という事ですか?」
「お付きというか、あれだ。クリスの話し相手に欲しいのだ」
「これはまた・・何と言いましょうか・・・そのクリスとやらは幸せな子なのですね」
イアンは口角を少し上げながらその場から去っっていった。
職務地辞令を出し、午後にデニマールの所まで出向せよと書き加えられた書を、伝書魔鳥が運ぶ。
その通達書には、「職務地:大陸全土 午後にデニマールのもとへ向かへ。そこで通達する」と書かれていた。
大陸全土とはいったいどういう事なのか訳が分からず、とりあえずは言われた通りにデニマールの所に出向いた。
部屋のドアを開けると、そこには見たことのある顔の人物が居た。
「あああああああああああああ!!!!!」
「ヤン?!」
「なんでお前がここに居るんだよ!?」
「お前こそ何しに来たんだよ!」
「はぃはぃ、二人とも落ち着いてね」ニコリとほほ笑む。
訳が分からないと言う二人の為に、デニマールが説明をし出した。
「ヤン、こちらのお二人がお前の雇い主になるお方だ。
この方達は大陸全土を周る旅をしていてな、お前を一緒に連れて行きたいそうだ」
ヤンは領主のもとで働くか、どこかの貴族の屋敷で働きたかったのだが、どういう手違いか旅の行商人とも芸人ともおぼつかない二人と旅に行けとは・・・思いっきり外れクジを引いた気分になって行った。
「サラ様、イアン様。ヤンを一緒に連れて行かれるんですか?」
「そうだ。お前の良い話し相手になるだろうよ」
ヤンにとっては不服そうだったが、決まってしまった事はどうしようもない。
明日、さっそく出発する事になり、ヤンは急いで旅支度をした。
ヤンの両親は、もっと高貴な方に雇ってもらい、息子の出世を夢見ていたのだが、これもまた運命だと潔く諦める事にしたのだった。
旅立ちの日、イアン達のほろ馬車がヤンの家の前に止まり、ヤンが乗り込む。
それと入れ替わりの様にイアンが降りて行き、一通の手紙を両親に手渡した。
「では、ヤンは責任を持って俺達が預からせてもらう。
後でその手紙を読んでくれ」
美しい姿形の気品漂う男性と、この世の者とは思えないほどの美しい少女が、これから息子ヤンの主になるのかと思うと、少し誇らしい気分にもなってきていた。
馬車の姿が見えなくなるまで見送った家族は、イアンから手渡された手紙を読み、その内容に度肝を抜かされた。
―― ヤン・バージニの身柄は、大陸の王であるイアン・グリスフォードが責任を持って
預かることとする。
だが、この事実を外部に漏らす事はまかりならぬものとし、もしこの事が漏れた時には
その責任は重い物となり、厳罰に処する事にする。 ――
と言う物だった。
貴族のお屋敷より、領主付きの兵より、はるかに素晴らしい職務に就いた事に嬉しく思う反面、何かへまをやらかさないかと心配にさえなってきた。
何も知らないのはヤンただ一人。
ヤンはいつこの事に気が付くのだろうか。
それはまた今度のお話という事で、イアン達の珍道中はまだまだ続くのであった。
―― つづく ――
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