ありったけの砂糖を貴方に　/　〆

ええ、そうなんすか ？、 俺も、ちゃんと掃除することが条件って言われて許可もらいました …。 あ、じゃあ今度お裾分けに持ってきましょうか ？、 すげー量だったりするんで、腐る前に食べきるの一苦労なんですよ。 ( 絶対に自炊、なんて自分なら約束は出来ず諦めてしまうのに、続けている相手を純粋に尊敬の目で見て。相手はいつから一人暮らしを続けているんだろう。大学から、はたまた社会人からと言ってもなかなか長いものだと思うので、自分がしていたら、と考えると眉間にシワがよる。一人暮らしの条件、という点では自分も掃除が条件で、いつ親が来るか分からないので常に綺麗にしてある。相手が羨ましそうにするので、今でも残っている自分の親の作り置きを相手にも食べてもらおうかと思いつけば首を傾げて。 次いで投げかけられた問いに、 「 姉と弟がいますよ。2人とも母親と一緒に作りに来たりします。 先輩は兄弟いるんすか ？、 」 家族構成なんて聞かれることも減ったから、言っていなかったことも忘れていて。はたと気付けば上下にいることを告げ、相手はどうなのか気になったので問ひ返す。 はーい、と気の抜けた返事をしつつ、部屋を見渡すと、ゲーム機が転がっていたり、新聞があったりと相手の生活がうかがえるが、何より見たいのは相手が料理をする後ろ姿。 頬杖をつけばキッチンに立つ相手をじっと眺めて。 )

だから部屋が片付いてたんだな。いやいや、嬉しいし有難いけど、それはお前に悪いし申し訳ない。… 本当にいいのか ？（　 相手の話を聞けば、部屋が綺麗だった理由も納得。年下の相手がしっかりしているのだから、自分も部屋を綺麗にしないとと思い。お裾分けに持ってきてくれると聞けば一瞬嬉しそうな顔をするが、冷静に考えたら相手の為に相手の親が作った料理を貰うのは申し訳なく感じ。一度は断るが、腐る前に食べきるのに一苦労と聞けば本当に貰っていいのかと確認し。「 俺はうるさくてブラコンの姉が二人。頻繁に来るから本当に迷惑してんだよ … 」父は単身赴任で家には母と姉二人で女性に囲まれて育ってきた。一人だけの男だったので母からも姉からも可愛がられ、特に姉二人は薫ちゃんと呼んできたり、今でも頻繁に家に来たり溺愛ぶりに迷惑をしていて。溜息混じりに姉の話をし。チーズケーキを作っていると後から視線を感じ。放っておこうと思って気にしないようにしていたが、ずっと見てくるので気になって仕方なく。後ろを振り返って、じと、と相手を見てから再びチーズケーキ作りを再開。オーブンで焼くのに時間がかかるだけで、それより前の工程は暫くしたら終え。オーブンに入れるとリビングに戻って、相手との間に一人分空けて座り。　 ）

怖いんすよ、怒鳴りはされないけど、無言の圧力というか …。 もちろん、むしろ助かりますし。 今度持ってきます。 ( 前に片付けていない部屋を突然訪問されたときの親を思い出しては肩を竦める。 相手は嬉しそうな表情をしたから即答かと思いきや遠慮がちに確認して来る相手が可愛くて、思わず笑みを零してしまう。 「 へー、末っ子なんですね。 いいじゃないですか、愛されてる証拠ですよ。 俺の姉はあんまりしっかりしてる方じゃないんで、どっちが上なんだか。 」 一番下と聞けば普段の相手からは想像できなく驚いた様子で。 頻繁に来るとは愛されている証拠だろう、微笑んでは頷いて。 自分の姉は色々緩く、自分に頼って来るところもあり姉とは思えないことも多く、世話を焼かされる羽目になることが多くて思い出せば苦笑を浮かべる。 じっと相手の後ろすがたを、エプロンも私服も眼鏡も新鮮だなぁと眺めていれば視線が合い、睨まれてしまうが何も悪いことをしているつもりもないので首を傾けて微笑むと。 相手がソファに座るのを見ると、もうオーブンに入れていたし作り終わったのだろうか、一人分空けられた空間をチラっと見て、間を詰めずにそのままに、体を相手に向けては話しやすいように。 )

… 分かる、親からの無言の圧力って一番怖いよな。なら、お言葉に甘えて。ありがとな … って、何笑ってんだよ。（　 無言の圧力、と聞いて自身も経験があるので深く頷き返し。料理が一品増えるだけで自炊は随分と楽になるので相手の言葉に甘えることに。相手が笑っているので、何か変なことでも言っただろうかと気になって相手の方を見て。「 あー、意外だろ。下って言うと毎回そんな反応される。そうか ？ お前のお姉さんくらい緩い方が俺は羨ましいけどな。 」驚いた様子はこの話をすると毎回されるので慣れたもの。キャピキャピした姉に囲まれてきたからか淡々とした性格になってしまったりしただけで、それ程意外なのだろうかと自分からしたら不思議で。とにかく姉達には昔から迷惑をかけられてきたので、しっかりしてないふわふわとした方が羨ましく感じ。詰めて座るのは違うし、だからといって距離を空けて座るのは失礼だっただろうか。チーズケーキが焼き上がる約一時間、相手と何を話せばいいか分からなくて自分からしたら気まずい時が流れる。相手の身体はこちらを向いているし、先輩として自分から気の利いた話題を振らないと、何かを話さなければ、何を話そう、どうしよう … 。考えれば考える程一方的に気まずく思ってしまい、自宅なのに落ち着かない様子で目線を行ったり来たりさせ。　 ）

ですよね、玄関に立って靴も脱がないまま微笑まれた時はもう 、… キツかったっす。 いえいえ、お安い御用ですよ。 … すみません、最近色んな表情の先輩が見れるので、…嬉しくて、つい。 ( 引越ししてまもなく、気が抜けていた頃は部屋が綺麗とは言えず、前日宅飲みした後ということもあってか散らかった部屋に突然母親が訪問してきたことを思い出すと、肩をがっくり落としては呆れ。 自分が最近目にする相手の表情の変化が多く、思わず可愛い、と言ってしまうのを抑え嬉しいと言葉を変える。 「 一人っ子とか、いるとしても弟とかかと思ってました。 面倒見いいし、頼り甲斐あるイメージなんで。 いやいや、緩々も大変ですよ、自分が動きたくないからってお使いだとかよく言われますし、駄々こねも面倒で。 …まぁ俺も断れないんですけどね。 」 意外と言われれば数回頷いて肯定を。あんなに自分の仕事を手伝ってくれたりするから面倒見のいい兄、なんて勝手なイメージがついていて。自分の姉を羨ましいと言われれば首を横に振りながら姉を思い浮かべると、お願いと何度言われてきて何度断れなかったことか。 「 …っはは、先輩、何でそんなに緊張してるんですか、可愛いなぁ。 」 相手をじっと見ていたらどんな悪態をついてくるのだろうかなんて思って見ていれば、何も言わず気まずそうに視線を泳がせていて、耐えきれず笑ってしまった上に、さっきまで抑えていたのに思わず可愛いと言ってしまう。 )

ま、でもそこからちゃんと掃除してるんだから偉いよな。… 俺もそこまで冷淡な鉄仮面じゃねぇよ。笑ったりも泣いたりもするっつーの。（　 やはりこういう所は相手も真面目だな、と感心し、珍しく褒めてやり。嬉しいの意味は自分には分からないが、表情豊かな方ではないが笑う時は思いっ切り笑うと。心を許した人の前だと表情は変わりやすく、鉄仮面ではないと一応否定を。「 それもよく言われる。面倒見がいいって言ってもらえるのは弟や妹が居た時のシュミレーションを何回もしたから … なんてな、冗談。話聞いてる感じだと、お前が一番上みたいな感じなんだな。… それこそ意外 」小さい頃から何度も妹や弟が居たらと考えたことがある。そのせいか年下にどうも弱く、放っておけなくて面倒見がいいと言ってもらうことが多くあり。まさか妹や弟が居たらと何回も想像したことがある、なんて言えないので冗談と付け足し。チャラチャラしている印象を最初は持っていたが、相手と接する内に確りとした性格が垣間見え。話を聞いていると、相手が一番上のように思えるし、それこそ自分からしたら相手の第一印象からしたら意外だと。「 … あっそ、可愛いな。そりゃどーも 」可愛い、また言われてしまった。こんな自分の何が可愛いのか何回言われても理解ができない。もしかしたら女子みたいに何でもかんでも可愛いと言ってしまう性格なんじゃないかと最早思えてきて。ふんっ、とそっぽを向いて軽く流し。言葉では強気に出ているが、内心はやはり可愛いなんて言われるのは慣れなくて動揺していて。　 ）

あー、 … なんか先輩に偉いって言われるの、なんかこう… なんとも言えない気持ちです。 …先輩ってどんな時に泣くんですか ？、 映画とか観たりしてる時 ？、 ( ちゃんとしていて偉い、なんて言われたことがあまりなかったし、それを滅多に褒めない相手が言うもんだから、調子が狂ったかのように視線を泳がせると、紅潮してきている気がする顔の熱をごまかすかのように顔を逸らして後頭部をがしがしと掻く。嬉しい、こそばゆい、何と言えば正解なのか分からずに何とも言えないと言葉を濁して。 相手が笑ったり泣いたりもする、と聞くと、どんな時に泣くのだろうかと気になり首を傾げて。 「 え、俺もしましたよ、結局実際に出来ちゃいましたけど。 …って冗談ですか ！？、 うわめっちゃ恥ずかしい、… よく言われますよ、実際は二番目なんで、俺自身一番上な気はしないんですけど。 …まぁ、甘やかしたい時もあれば甘えたい時もある、みたいな 。 」 弟ができる前は自分が一番下だったがあまり甘やかされることもなく育ったので、純粋に弟がいたらな、なんて思った時期もあり、それがまさか相手にもあったなんて、と嬉しくて自分を指差して言うと、続いた相手の言葉に、浮かれすぎてしまったと肩をがっくり落として。その上あまり人に言ってこなかった事だったため恥ずかしさも込み上げる。兄弟関係には意外だと言われることも多い。個人的には間にいると甘えるのも甘えられるのもどっち付かずなところがあり、願望はあれどそれを他人に求めることはなかったが、なんとなくぼそっと呟いて。 「 まだ俺といて緊張しますか ？、 」 一息ついて気をとりなおし口を開くと、疑問に思ったことを一つ聞いて。未だ自分といて違和感や緊張を覚えてしまっているのだろうか、もしそうならどうにかしたいと思う。 )

それって、嫌だったってことか ？ それだったらごめん。… 映画観ても漫画や小説読んでも泣く。案外、涙脆いのかもな。（　 相手の様子を見たり発言からすると、もしかして嫌な思いをさせたんじゃないかと不安で。偉いよな、なんて上から目線すぎただろうか。滅多に褒めたりしない故に褒め方が分からなく。もし嫌な気持ちにさせてしまったらと思って、いちおう謝り。最近では一人で家で映画を観て泣いたし、漫画でも小説でもよく泣く方なんじゃないかと思い。ねんねん涙脆くなると年齢のせいにしたり。「 ま、末っ子なら誰でも一度は考えることか。… 実際に弟 … 居たとしたら、お前ぐらいの年齢かもな。甘えたい時、か。だから先輩の俺を慕ってくれんの ？ 俺だったら、俺みたいな先輩なんて絶対に嫌だけど 」今は弟がいるとはいえ、相手も末っ子時代があったので、一番下なら一度は考えたことがあることなんだろうと。相手の実際に弟、という言葉を聞いて、もし自分に弟が居たら相手ぐらいの年齢なんじゃないかと想像してみたり。兄弟の話なんてする機会が減っていたので、弟や妹が欲しいという気持ちは薄れていたが、久しぶりに兄弟の話をしたらそんな気持ちが再び強くなって。自分を慕ってくれる理由は甘えたいからなのかな、なんて考え。そうじゃないとこんな自分を慕ってくれる理由が分からなく。「 緊張っていうか、気まずいっていうか … どうやって接すればいいか分からない、 」緊張、違和感、気まずさ、どれも当てはまると言えば当てはまるが、根本は告白もされてキスもして相手にどうやって接すればいいか分からない。こんなことを言ってしまったら失礼かもしれないが、だからといって黙っておくのも失礼だと思って、ぽつりと呟き。　 ）

違いますよ ！、 …先輩に褒められて、嬉しくないわけないじゃないですか。 へぇ、意外です、先輩ってギャップ人間ですね。先輩のこと知るの、楽しいです。 ( 相手が謝ってくるものだから慌てて訂正をと首を横に振る。今まで兄弟関係的にも褒められることは多くなく、しかも滅多に褒めてくれない相手が褒めてくれたなんて嬉しくないはずがなく。 相手がよく映画などで泣くということは、それほど感情が動くということだろうか。 相手が泣いているところなんて想像できなくて、意外さに目を丸くする。 「 俺で良ければ、弟になりましょうか ？、 なんて冗談ですけど。 んー…、 かもしれないっすね。 だから、たまには甘やかしてくれてもいいんすよ ？、 うーん、…俺は先輩が先輩じゃなかったら、こんなに慕ってないですよ。 」 弟がいたら自分ぐらい、なんて言われてしまえば上記を言わずには居られず、悪戯っ子の様に笑っては、冗談だと付け加えては楽しそうに笑うと。 相手はそんなに自分自身が苦手なのか、不思議に思うくらいだったが、相手は相手だからいいんだと主張を。 「 … 先輩からためらいもなくキスしてきたのに、ですか ？、 」 緊張、気まずさ…想像通りの答えであったが、二度も懇願したのは自分であるが、あんなにすんなりしてくれたのに未だにあの口付けを意識しているのだろうか。 どんな顔をしているのか気になって顔を覗き込むようにして見ると。 )

… んだよ、謝って損した。俺だって褒める時はちゃんと褒めんだよ。その反応、俺が泣かないとでも思ってただろ。（　 言葉だけ聞くと雑だが、表情は安堵していて。言葉には出さないが、相手の実は真面目な部分だったり、細かな所で褒めてやりたいことは沢山あり。本当は誰よりも照れ屋で、涙脆くて、よく笑って、元は表情が豊かな方だった。が、それが子供っぽく感じてしまっていつしか表情を隠したり抑えたりするために冷たい自分を装い始め。それが今では自分の中で定着してしまい。「 弟か … んじゃ、沢山こき使わせてもらうか。仕事手伝ったりしてやってんだから、これ以上 俺から甘やかしてやることなんてねぇよ。… あっそ、好きにしろ 」末っ子故に誰かを甘やかしてきた経験はなく、仕事を手伝ったりするのが自分なりの甘やかすこと。これ以上は経験がないので分からないと。自分自身が嫌い、とまでは行かないが苦手だ。なので何で相手が自分に惹かれてくれるのかが更に理解出来なくなり。返す言葉に困って、相変わらずの素っ気ない返事をぽつりと。「 … それは、酒が完全に抜けてなくて勢いで出来たっていうか 、」あの時は朝だったので完全に酒が抜けてなくて、キスして下さいと相手が強請ってきたこともあって勢いで出来てしまったこと。実はあの後思い出しては会社で一人羞恥に耐えていて。素面で口付けをするなんて自分には絶対に出来ない。今も思い出しては恥ずかしくなってくるので、冷静を保っていると相手と目が合う。慌ててふいっと顔を逸らす。　 ）

少なくとも俺みたいな奴には滅多に褒めないタイプですよね 。 … 思いました。 そういうので感情を表に出さない人かと思ってました。でもいいですね、そういう先輩も好きになりそうです。 ( 自分のようにへらへらとしている人間のことはあまり好きではlないんじゃないかと思っていて。だからといってすぐに直せる性格ではないが、少なくとも自分のような奴を褒めることはなさそうで。 相手が自分の考えていることをずばり当ててくると、苦笑しながら肯定を。 表情をあまり動かさない相手が泣くなんて、見てみたい、なんて思う。 相手のそういったところを見ても、むしろ好感がもてそうで。 「 ああ、先輩は弟をこき使うタイプなんすね …。 確かに …、 じゃあ俺が勝手に甘えますね ー。 はい、好きにさせてもらいます。 …あれ、俺が好きにさせなきゃいけないのか、 」 相手は兄になれば弟をこき使う派か、と納得して頷くが、疲れはするが相手なら悪い気がしなくて。そんな考えに至る自分は最近余計に相手が好きになっていっている気がする。 相手はもう十分自分のことを甘やかしてくれていると分かれば、なら少しぐらい甘えても問題はないと受け取るとへらりと笑って。 あいも変わらず素っ気ない返事でも、好きにしろというのならば好きにさせてもらうと。が、違う意味では自分は相手を自分に振り向かせなければいけないことを思い出しぼそり呟く。 「 あー …、 勢いで誰とでも出来ちゃう感じなんですか ？、 なら他の男ともした経験とか ？、 案外スムースにキスしてくれましたもんね、 」 酒が残っていたから。ならば酒が入っていたなら今まで他の人ともしたことがあるんだろうか。嫉妬に心がもやもやしてくれば、覗き込んだまま相手と視線を合わせようと相手の本心を聞き出そうと体を近付けて。 )

ヘラヘラしてる年下な、確かに前までは苦手だったから褒めねぇと思う。… 普段からこんなのだから、そう思われても仕方ないよな。それに、人前で泣くことなんてしないし。（　 相手が入社した頃、誰にでもいつでもヘラヘラしていて正直苦手意識はあった。だが、ちゃんと相手と話をしたりすると、苦手意識はなくなり。前までなら相手のようなタイプは褒めたりしなかったと思うが、今は相手と関わりを持つようになって、ヘラヘラした年下でも偏見もない。気を許した人にしか素直に感情を表に出すことはなく。そういえば、人前で泣いたのなんて何年前なのだろうか。そんなことを考えつつ。「 せっかくの弟なら、こき使わないとな … って、なんで満更でもなさそうなんだよ。…… 好きとは違うけど、後輩としての好感度は上がってる 」普通ならこき使われると嫌そうな反応をするだろうが、相手は違い。寧ろどんな形でも構ってもらえるのなら、と嬉しそうというか満更でもなさそうで。その様子に思わず呆れつつツッコミを入れ。確実に前よりも相手の好感度は上がっている。が、恋愛感情ではないと。簡単に流されやすい故に恋愛感情には高い壁を儲けていて。「 … 、違う、男とキスしたなんてお前が初めて。ってか、男に告白されたことはあるって話したけど、男にキスしてほしいって言われたの初めてだし、 」そんな簡単に誰にでも口付けをすると思われたら侵害だ。これは女性に対してもで、基本的にシャイな自分は強請られた時以外は自分から口付けをすることは一切ない。否定する部分はしっかりと否定を。顔を逸らすのを許さないというように相手が接近してきて、態と開けていた空間は既に埋まっていて。下がろうにも既にソファの端まで来ていたので向き合うしかなく。表情はいつも通りだが、隠しきれない羞恥が薄らと耳を紅く染め。　 ）

今は違う、ってことですよね、嬉しいっす。 へー…。 …じゃあ今度映画観ましょうよ。あ、というかなんか映画あります ？、 ( 前までは、ということは自分への評価が前と変わっているということだろうか。素直に嬉しくて頬を緩ませると。人前では泣かない、と言われればやはりどうにも見たくなる。うずうずとしてくれば、今度映画を観ようなんて誘ってみるが、いやむしろもし相手の自宅に映画があるのであれば今その願望は叶うやもしれない。視線をずらし、テレビの方へ視線を向けて。 「 いやぁ、先輩に言われたら断れないかもなー、って。 それはきっと好きになりますよ、 というかなってください。 」 満更でもないのは相手であるから。想いを寄せている人に頼られたらそれは応としか言えない気がする。 好感度が上がっている、と言われればそれは嬉しいことで、どこで上がっているのかは分からないが、好きとは違うと言われどどうにかして振り向かせたいのでこじつけを。 「 初めて、ですか、そうですか。 そういえば、そう言ってましたね。 … 誰にでもするんじゃなかったら、それでいいです。 … 耳、赤くなってますよ、 」 自分が初めてで、口付けを他の誰にもしない、というのがわかればそれでいいはずなのに、それでいいと言いながらも不満げな顔。 早く好きになってもらうにはどうしたらいいんだろう、なんて考えていれば、相手の表情は変わらないのに、耳だけは赤く染まっていて。 どうしてだろう、なんて不意に思えばその赤くなった耳に手を伸ばし触れてみて。 )

嫌だ、絶対に観ねぇからな。それに俺の家に映画はない。あったとしても観ない。（　 何が ' じゃあ ' なんだと眉間に皺を寄せ。映画を観るのは好きなのでDVDはあるが、ないと嘘を。テレビの周りにごちゃごちゃと何かを置くのが嫌いなので、別場所にDVDは纏めて置いておいてよかったと内心安心し。「 なってくださいって、随分と上から目線で無茶なお願いしてくるんだな 」自分から言われたら断れないなんて、やっぱり相手は意味が分からなく。意味わかんねぇ、とだけ呟き返し。相手の根拠の無い自信はどこから来るのか。挙句の果てには好きになれとお願いされたのだから呆れたように上記を。相手らしいといえば相手らしい発言で。「 … それでいいなら、んでそんなに不満そうなんだよ。それに、別に赤くない … 。」それでいいなんて言いつつも、相手の顔は不満げ。何が不満なのかも分からないし、まるで恋人のような目線で話してくるのも自分には分からなく。耳に触れられた相手の手はひんやりと冷たく、相手の手が冷たいのか自分の耳が熱を帯びているのか。きっと後者だろうが、赤くないと否定し。羞の感情と普段人に触れられることがない耳を触られたからか、緊張していた分の力がへにゃりと抜けてソファに全体重を預けることになり。チーズケーキが焼けるまでのもう暫くの辛抱だと自分に言い聞かせて羞恥を我慢して。　 ）

えー … なんもないんですか ー。 なら今度映画行きましょうよ、 ダメですか ？、 ( 絶対に観ないなんで断言されると不貞腐れたように口を尖らせて。が気をとり直して改めてデートの誘いを。お願いしてもだめであろうか、どうしたらうんと言ってくれるんだろうと疑問に思いながらも、首を傾げて相手の返事を待ち。 「 上から目線のつもりはないんですけど …、 たくさんお願いしたら、折れてくれるかなー、と。 」 たしかに少し偉そうに言ったかもしれない、と反省するも、発言自体は変えるつもりはないので、無茶と分かっていてもこれからもお願いをしていくと、へらりと笑えば頬を掻いて。 「 不満、というか、… まだ俺からの片想いなのに、先輩を誰にも渡したくないっていうか 、 先輩が誰にでもキスできるような人だったら、 その …、 あーもう分かんないっすよ …。 」 未だ関係なんて前と変わらず先輩後輩なのに、詰めたい距離が詰まらなくていじらしい思いもあることを吐露して。でも自分でもその考えに適当な言葉を当てられず、もやもやしたままいくつか言葉を零して濁す。 腑に落ちなさにむしゃくしゃすると、不貞腐れたような、どこか苛ついているかのような表情で視線を逸らすと頭を雑に掻いて。 視線を戻し、相手に触れている耳が熱くなっているのを指先で感じると、なんでこんなに熱いんだろう、なんて呑気に考えている間にほぼソファに寝っ転がっている相手追いかけ覆いかぶさる形になっていて。 なんとなく耳にそって指を滑らせると、耳だけ赤くして可愛い、なんてぼんやりと考えていれば、無意識にその耳に口付けをしていて。 )

… どうしてもってなら、ホラー映画ならいいけど。（　 絶対に泣きたくないという意思は固く。ホラー映画なら得意だし泣いたり驚いたりはしないので提案を。これなら相手も諦めるんじゃないかという企みも含めていて。「 んな簡単に折れねぇよ。もう勝手にしろ 」ここで変なお願いを言うのはもうやめろ、と言っても相手のことだからやめる気なんてないのだろう。飽きるまでやらせてみるかと呆れたように返事を。「 お前に分からないなら、俺にはもっと分からねぇ。… なぁ、お前くらいのイケメンだったら女性からもモテるだろ ？ それなのに何で俺なんだよ 」そこまで相手が自分に拘る理由が理解できない。高身長で仕事も並に出来て、愛想も良くて明るくてオマケに整った顔で … そんな相手だからこそ尚更で。これまで何人にもきっと告白されてきたはずで、人なんて選べるんじゃないのか。自分なんかのどこに惚れたのか、そもそもいつ惚れたのか、なんで自分なのか、聞きたいことは山ほどあるがその内の一つを投げかけ。気が付けば自分の上に覆いかぶさっていた相手。羞恥に耐えて顔に出さないようにすることで精一杯で、何て声をかけたらいいのかまで頭が回らなく。耳をなぞられる様に触られれば、ゾワゾワとした何とも言えない擽ったさが背中を走る。顔が近付いてくると、反射的に相手の肩を押そうとするが間に合わなく、耳には柔らかな感覚が。久しぶりに感じた温かさに、肩を押そうとした手は不思議と抵抗をやめ、相手を受け入れ。それが何でなのかは、自分でも分からなく。　 ）

ホ、ラー、ですか、 …うーーん、 あー…。 … お、俺頑張り、ますよ、 ( ホラー映画なんて観たらその日一人で自宅にいるのもびくびくしているし、寝付けやしないし、ともかくホラーを観た後は一人では居られない。泣いているところを見たいという当初の目的をわすれ、相手と二人で行けるならと悩みに悩んで眉間にしわを寄せ、乗り越えようと決意したのかカタコトではあるが答えを出して。 相手が既にお願いを勝手に言わせてくれている時点で自分にとっては都合がよく、元気よくはい、と返事をする。 「 まぁたしかに、世間的に言ったらモテる男に入るかも知んないですけど、俺はそんなのどうでもいいです。 …先輩は、顔や見た目で判断して寄ってきたり敬遠する奴らがいる中で、そんなのお構い無しに俺を一人の部下として見てくれました。 最初は認められた、って思って嬉しくて。でもだんだん先輩を知っていくうちに、俺のこと、顔とか身長とかそういうので判断しない人なのかな、って思って話したり目で追ってたりしたら、いつのまにか好きになってました。 」 モテる、といわれればそれは散々言われてきた言葉なので否定はしないが、自分にとってはどうでもよくて。見た目で判断して寄ってくる人があまり好きではなく、だからそこから恋愛感情が生まれることはなくて。その中で、相手は見た目はいいとは言うけれど、それで自分を判断して受け入れているわけではないと感じていて。 自分でも気付かぬ内に好きになっていて、気付いたときを思い出すと苦笑を浮かべて。 そっと唇で触れた耳は熱く感じ、抵抗されるかに思えた相手の手はして来なく、いいのかな、なんて単純な思考しかできない頭でそう思えば、次は唇に、と軽く口付けを。 離れ、そこで自分がしたことに気付くとばっと体を離し起き上がり、 「 す、みません、俺、 」 と視線を外し照れを隠せず気まずそうに。 )

頑張ることじゃねぇだろ、無理して来なくてもいいのに。そんな俺と映画行きたいのかよ。（　 ホラー映画と聞いた瞬間に表情が変わった相手の様子から、どうやらホラーは苦手らしく。本来の目的忘れてるぞ、とツッコミたくなるが、自分にとっては好都合なので敢えて黙っておき。苦手なホラー映画を我慢するほど、自分と映画を見に行きたいのかと。「 お前も、俺を見た目だけで判断せずに接してくれただろ ？ それはすっげぇ嬉しかった。いや、何ていうか … そんな考えてくれてるとは思ってなかったから、正直戸惑っている、正解が分からない … 、 」相手も自分を見た目だけで判断せずに、中身をしっかりと見てくれた。初めてのことだったので、それは本当に嬉しかったと。こんなに自分のことを想ってくれているとは予想外で、戸惑いが隠しきれず。相手のためにも気持ちに応えてやるのがいいのか、だがそんな同情とも捉えられる浅はかな気持ちを向けるのは酷過ぎると思い。相手にどんな言葉をかけてどんな行動をしてやるのが、相手にとって幸せなのかが正解を導き出せず。唇に感じた柔らかな感覚は、記憶の片隅にある相手の唇の感覚と一致し。恋人でもないのに、二回も口付けしてしまった気持ちは何とも言えない複雑な気持ちで。だが、嫌ではなかった、嫌だったらとっくに抵抗している。相手が離れると暫くはぼーっとし、謝られたことで漸く起き上がり。二人して気まずそうにしていると、タイミング良くチーズケーキが焼けた合図が。「 … いや、お前が謝ることじゃ、」と言ってから足早にキッチンへ向かい。一人になると、我慢の限界を迎えて耳だけではなく顔も薄らと赤く染め。ふぅ、と深呼吸をして落ち着かせるとチーズケーキを出したり切ったりし。　 ）

別にホラーが苦手とかじゃないっすよ ！、 … 先輩とならどこへだって行きたいんです。 ( 怖いものが苦手、と知られれば男なのにと言われてしまうんではないかと危惧して、あからさまではあるが慌てて否定を。映画に限らず、相手と出かけられるならきっと何処だって楽しく感じると確信があって、大きく頷くと微笑んでは。 「 自分がされて良く感じないことを他人にしないだけです。 … 嬉しいって思ってくれてたなら、よかった。 … 俺こんなに想っていること口に出すの、人生で初めてっすよ …。 …？、 正解とか良くわかんないっすけど、俺は俺が先輩を好きなことを間違いとは思ってないです。 俺は、ただ自分の気持ちにバカ正直なだけですけどね。 」 いつも他人を見た目で判断してこなかったのは、自分がそうされていい気持ちではなかったから。それを嬉しいと言われれば嬉しさもあり安堵もあり、安心したように目を細めて微笑んで。自分の想いこんなにストレートに吐露するのは初めてで、改めて考えると小っ恥ずかしく視線を逸らして。 相手が正解がわからないというが、言葉の意図が分からず首を傾げる。少し考えこんで、話の流れ的に自分の言う事が真っ直ぐ過ぎたから返事が分からないのだろうと考えれば、正直すぎる自分の言動を少し反省したようで苦笑をする。 何も考えずに口付けをしてしまい、恋人でもないのに何してしまっているんだと恥ずかしさと、なぜ相手は抵抗をやめたのかという謎と、この後なんて声をかければいいか分からず気まずさに押し潰されそうになったところで、キッチンの方からケーキが出来上がった合図が。そちらに向かう相手の背中も見れずにどこかほっとしていると、いい匂いがしてきて。そういえば相手のケーキを食べにきたんだと立ち上がればキッチンの方へ向かうと、相手の手元にある美味しそうなケーキを見れば目をきらきらさせて。 )

苦手じゃないんだったら、とびっきり怖いホラー映画で決まりだな。（　分かり易く " 怖いものが苦手です " と顔に書いてあるが、慌てて否定する姿は見ていて面白く。これは映画を観る時も反応を見るのが面白そうだな、と期待を。微笑まれると調子が狂い、自分のペースに戻すように上記を述べ。「 こんなに想ってること言われたのだって初めて。… ああ、いや、俺が何て言葉を返せばいいか正解が分からなかっただけ … んで、今でも困ってる。気の利いた言葉も行動も出来なくてごめんな 」良かったと言って安堵したように微笑む相手の笑顔に裏はなく、本当にそう思っているんだと伝わり。疑い深いところもあるが、あんな笑顔を見せられたら相手の言葉を信じるしかなく。相手がこんなに想っていること口に出すのが初めてなら、自分はこんなに想っていることを伝えられるのは初めて。何となく甘酸っぱくて擽ったい気持ちの感覚があり。何に対して正解と言っているのか困惑している様子だったので簡単に理由を説明し。こんな時、何て返すのが、行動するのが正解なのだろうか。気の利いた言葉も行動も出来なく、情けなく小声で謝り。キッチンへ来て、チーズケーキを見るなり目を輝かせる相手は普段通りで変に安心し。なるべく自分も普段通り、普段通りに接することを心掛け。ケーキを切ると皿に一つを乗せ、それを相手と自分の二皿用意。珈琲も用意すると、机に運び。ホールで作ったチーズケーキの半分を丁寧に崩れないようにラッピングすると、紙袋に入れてそれも一緒に持って行き。椅子に座ると 「 … ん、これお土産 」と言って先程の紙袋を渡す。いただきます、と手を合わせてから味の反応が気になって、心配そうに相手が一口食べるまでの様子を見守り。　 ）