ありったけの砂糖を貴方に　/　〆

( 自分のどこがいけないんだろうか、とどんなに行動を振り返り今までしてきたことを思い返して悪かったと思われる候補をいくつも挙げるが、最終的にぶつかる大きな壁は、同性であるということ。どうにもならない壁になす術もなく、ボーッ窓の外を眺めて。 実際には振られてはいないが、あの態度はもう嫌になったに違いないと勝手に判断すると、もう頑張れる気がせずに視界がじわりと滲んでいく。 すると誰も来ないと思っていた会議室の扉が開き、誰かと思い視線を向ければ今一番会いたくない人がそこに居て。 「 先、輩 … ッはは、みっともないところ見せちゃいましたね、 最後まで格好付かないなぁ … もう少ししたら落ち着くんで、 ちゃんと仕事にも戻るんで、 … 今は1人にしてくれませんか、 」 思わず椅子から立ち上がるも、目から溢れた涙で我に帰ると、目をゴシゴシと擦りながら同時に目元を隠しながら、なるべくいつもの自分のように振る舞おうとするが、声は震えるし早口で。 )

（　 笑っている顔、驚いている顔、喜んでいる顔、いつも明るい相手の泣いた顔を見る日が来るとは思ってなく。相手の本機の想いを受け取って、押しに押されて気が付けば惹かれていた。ただの後輩ではなく、気になる後輩になった相手の見たくない泣いた顔をさせてしまったのは自分で。あまりにも不器用すぎた自分の結果。相手は何もしていないのに勝手に避けたことへの謝罪、最後までなんて終わりみたいな言い方をしないでくれ … 他にも言いたいことは沢山あるのに、言葉が出るすき間を与えないように喉がキツく。シャイで恥ずかしがり屋で、更に恋愛対象として男に全く興味のなかった自分がやっと若しかしたら相手のことが好きなんじゃないかと自覚し始めた頃、最後だと言って相手は去ってしまうのだろうか。そんなのはお互いに酷すぎると思い「 … 、嫌だ。お前が泣き止むまでここにいる 」と半ば無理矢理に会議室の椅子に座り。　 ）

随分と …、 残酷なんですね、 ( ここに留まると言い椅子に座る相手の顔を見れず視線を落とし足元を見ながら、1人にしてくれと言ったのに、させてくれないのは情けなんだろうか。もう好かれるはずも無い相手からの情は同情しかなくて、同情で此処に居るというのかと思い込めば顔を歪め、心の悲痛が表情に出る。 椅子に座ったということは本当にここに居るつもりなんだろう。 でもここを出たらきっとまた先輩と後輩の関係に戻ってしまう、それならいっそその前に最後に、と椅子に座る相手に近付けば、 「 … 俺に同情してるなら、 最後に一回くらい、ッ … 」 と顔を近付け、相手の唇に口づけをしようとするも、やはり嫌がる相手に無理やりする事なんて出来ない、と動きを止めて。 項垂れると、口付けをしようとした時に相手の肩に置いた手が震え、どうしようもない恋情がどうにもならなく下唇を噛みしめる。 )

… よく言われる。お前もそれは知ってんだろ。（　 今の相手にとって最も酷なことをしているという自覚はある。だが、ここまでしないと互いにモヤモヤとしたままで終わってしまうと思い。特別に相手の顔を見るわけでもなく、ただ窓の外を見つめ。相手の歪んだ顔は、都合よく見て見ぬ振を。こういう所が積み重なって自分だけでもなく相手まで傷付けてしまうんだと、情けなさが募る。窓の外は相手によって遮られて肩に手が置かれると、突然のことだったので驚いた様子で。次第に状況が掴めてくると、肩に添えられた相手の手が震えていることに気が付き。こんな中途半端で終わるのは嫌で、後先何も考えずに咄嗟に行動が先に出て。目線が逃げないように相手の目を真っ直ぐに見つめ「 何が同情だ、最後だ … 勝手に最後にしてんじゃねぇよ 」と言って、乱暴な言葉とは裏腹に優しい口付けを送り。　 ）

こんな時でも、先輩は先輩らしいんですね。 ( 自分はこんなに取り乱しているというのに、相手はどこまでも相手らしくいてむしろ羨ましくさえも思えてきて。 ちらりともこちらを見ようとしない相手を見れば、心がちくりと痛む。 「 … え、 あの、 … え ？、 」 今まで交わらなかった視線が合い逆に戸惑いを隠せないまま、触れた唇にも驚きを隠せずに。 何故、何故今唇が触れたんだろう、しかもこんなに優しくなんて、勘違いしてしまいそうな気持ちを抑えて。 最後にするな、と言われれば、余計に訳が分からなく、目を丸くして思考の止まった顔で交わった視線を外さずに固まる。 )

( 今の相手の言葉は褒めているのだろうか。それとも、こっちの気持ちも考えろと言われているのだろうか。咄嗟のことで、自分でも口付けをしたことに驚いていて。そっと顔を話離すと「 … ここからは、お前が得意な都合よく勘違いしろ。これ以上俺に言わせるな 」自分から好意的な言葉を口にすることは出来ないので、今の口付けの意味を都合よく捉えて勘違いしろと。普段なら勘違いするな、と言っているが、今回は自分の気持ちに少しでも気がついてほしいがための半ば強制的な命令口調で。照れ隠しでそっぽを向けば、机に肘をついて相手とは違う方向を見つめ。　 ）

都合良くって 、 … え、 … 先輩、俺本当に都合よく考えちゃってますけど、 いいんですか …？、 ( そっぽを向いてしまう相手を見つめながら、相手の言葉を耳に入れ、頭にインプットするまで時間がかかり。都合よく解釈していいということは、相手から口付けをしてきたということは、最後にするなということは、と順に追っていると、最終的に辿り着いた答えは、相手からの好意があるということ。その答えに辿り着けば、ぶわっと顔が赤くなり、熱くなって、嬉しさで頭が沸騰してしまいそうで、思わずその場にしゃがみ込んで。 恐る恐る相手の机の上にない方の手に自分の手を伸ばせば、指先を触れさせて、本当にいいのかと不安げに見つめながら首を傾げる。 )

… ん、都合よく考えろ。何回も言わせんな。（　 若しかしたら、相手の言う通り同情かもしれない。少しの興味だったり、一時的な気の迷いかもしれない。それでも、相手と一緒に居てみたいと思う気持ちは確かで。無意識に早くなる鼓動と微かに染まる頬。緊張して煩く高鳴った鼓動が聞こえるのではないかとすら思え。不意に感覚が走った自分よりも少し大きい相手の手。照れていることがバレないように、未だに相手とは目を合わせようとはせず。だが、言葉に出せない代わりに答えとして触れてきた手を控えめに指先だけを握り。そこで漸く相手の方をチラッと見て 「 … ん、まあ、何て言うんだろうな 」と、言葉にしたいけど言葉に出来ないもどかしさを抑え。　 ）

ッ先輩 … ！！、 俺、俺先輩のことが好きです …！、その、俺は、先輩ともっと一緒に、同じ時間を過ごしたいなって、思って、ます。 ( 都合よくなんて何て贅沢なんだろうと思うが、 指先だけではあったが触れて、相手の意思で握られた手を指を絡め握り返して。手を握り嬉しさに声が震えながらも、何度目であろうが構わないと床に膝をつき、相手を見上げる形で改めて気持ちを勢いよく告白をすると。後半はなんだか恥ずかしくてたどたどしくなり勢いは弱まって、けど最後までは言い切って。 「 嫌われたかと思った、 」 今の今まで思い違いをしていたこともぼそりと告げ、なんだかその思い違いが恥ずかしく感じて来て苦笑いを浮かべる。 )

耳にタコができるほど聞いた。何勝手に嫌われたって勘違いしてんだよ … って言いたいけど、勘違いさせるような態度とった俺のせいだな、ごめん（　 握り返されている手を普段なら直ぐに振り払うが、今は精一杯羞恥を我慢して握られたままに。相手から自分のことが好きだなんて何回聞いたのだろうか。最初は厄介な後輩に好かれたと思っていた感情が、今では自分からも好意を多少なりとも持つようになって。数えるのを止めた何回目かの告白は、少し特別に聞こえたり聞こえなかったり。会議室に来た理由を思い出し、勘違いさせてしまっていたことはしっかりと謝り。謝った後に相手につられ、ふっと珍しく控えめながらも笑った顔を見せ。　 ）

でも、それでも何度でも言いたいんです。 あ、いえ、…ッ！、 … 今その顔は反則っすよ、 ( 相手に飽きられても何度でも言いたい言葉で、何度言っても足りないくらいに好きで仕方なくて、それが緩んで、けれど幸せそうな表情に出る。 謝られてしまえば、いや勘違いを勝手にしたのはこっちの方で、なんて続けようとしたものの、ふと相手の笑顔が見え、それに対しての驚きで言葉を失って。 あまりに唐突で相手の気持ちがやっと知れて嬉しいところに相手の滅多に見れない表情を見ては固まって、そしてきっと真っ赤であろう顔を隠したくて、直視できなくて、力が抜けたように相手の膝に頭を項垂れる。 )

んだよ反則って。やっぱり三好に笑った顔見せんのはまだ早かった。当分見せねえからな（　 何も考えずに自然と笑顔を見せていた、それに相手の様子を見て気が付き。やはり笑った顔を見せるのはまだ恥ずかしくて、そっぽを向いたように可愛げのない発言を。然し、相手を " お前 " という呼び方から " 三好 " とちゃんと呼ぶようになったのは、照れ屋な自分からしたら頑張った方で。自分の膝の上で項垂れる相手の頭を、シャキッとしろという意味で痛くない程度に軽く叩き 「 … ったく、そろそろ仕事戻るぞ 」と相手を退かして立ち上がり。相手を残して先に会議室を出てデスクに戻ると、我慢していた分の恥ずかしさが急に込み上げてきて、きっと顔は真っ赤に染まっており。　 ）

えぇ、そんな事言わずに見せてくださいよ ー！、 ( あんなに可愛い、もとい素敵な笑顔だったのにもうこれきりなんて、もっと見ておけば良かったと後悔し、ばっと顔を上げるももうあの笑顔はなく。しかしはっきりと自分の苗字をよんでくれた相手をじっと見れば嬉しそうに笑って。 「 いて、もう行っちゃうんですか、 … 行っちゃった、 … あー。 」 頭を軽く叩かれれば反射的に痛いと言ってしまうが、全く痛くないのは相手の優しさなんだろうか、と考えていれば既に会議室を去って行ってしまった相手。パタンと閉まるドアを見ながら立ち上がり、目元を抑えちゃんと仕事に戻らないととにやけた顔を引き締める為に気休めに数回頬を叩いてから会議室を出る。 途中会った同じ部署の女性に顔がにやけていると指摘され何があったと言われても言えるはずなく、違う話題振って話しながら自分のデスクに戻ると。相手の顔を見たかったがすぐに仕事を振られ、相手を見る暇もなく仕事に没頭し。 )

（　 恥ずかしさから直ぐに会議室を出てしまい、仕事をしながら、あの時にもっと話すべきことはあったんじゃないかと少し後悔を。そういえば、前にホラー映画を観に行くと約束していたことを思い出し。仕事が一旦落ち着くと 『 映画、夜でもいいし休日でもいいけど。行くって約束してただろ 』一度した約束は絶対に守りたい性格故にメッセージを送り。送ってから、これだとまるで自分が映画の約束を楽しみにしているみたいで何となく悔しく恥ずかしく感じ。毎日コツコツと仕事をこなしてきたからか、急な案件が入らなかったからか、定時には帰れそうで。少し余裕があるので、途中で飲み物を買ってきたりしつつ、順調に仕事を進めていき。　 ）

… ！、 ( 振られた仕事をなんとか終わらせて一息つくと、ふと目に入ったメッセージは相手からのもので、吃驚して体を揺らし、顔がにやけてしまいそう、というかもうにやけているので口元を抑える。内容を見ればこの間話した映画の事。今日夜話そうと思っていたことだったから、同じ事を考えていたなんて嬉しくて思わずふふっと笑ってしまい、それを何人かの同僚に小突かれるも軽くあしらい、 『 俺も同じ事考えてました ！、 俺夜映画館行ったことないんで、夜行ってみたいです。 いつも暇なんで、先輩の予定に合わせられますよ ！、 先輩との映画デート、超楽しみです。 』 とすぐにメッセージを送り、体を起こして相手のデスクの方へ視線を向けるとへらりと微笑んで。 今日の分の仕事はほとんど終わっているが、休日に気兼ねなく過ごせるよう他の仕事も少し進めてしまおうとより張り切って。 )

… あいつ暇人かよ。（　 あまりに早く返信が来たので吃驚して独り言を述べた後に相手の方を見ると、嬉しそうにへらりと笑っている相手と目が合い。そんな相手とは対象的に、表情を一切変えずにスマートフォンへと目線を戻すと返信を打ち始め。『 それなら明日の夜で。それよりも何勝手にデートってことにしてんだよ。映画観に行くだけだからな 』と返信を。今日の夜はさすがに急すぎるので明日の夜はどうかと提案し。それよりも気になったのは後に続いた映画デートということ。自分も相手のことが少し気になってきたと分かってもらっただけで、まだ付き合ってもいないわけで。それなのにデートは気が早すぎると思い、というか単に恥ずかしく。今日は何だか気持ち的にとても疲れ、疲労からのため息を一つすると、丁度定時の時間に。ノルマは達成しているので定時ぴったりに立ち上がると、周りにお疲れ様ですと挨拶をした後に直ぐに帰るために車を停めてある駐車場へと歩き始める。　 ）

( 視線が合ったとは思うが、無表情だったし、目が合ってなかったのかと思えばすぐに返事が返ってきて、予定が決まると早速スマホのカレンダーに予定を入れて。明日のことなので忘れる筈もないが、なんだか残しておきたくて、‘ 映画デート ’なんて書いてしまう。 『 都合良く取れって言ったのは先輩ですよ ？、 楽しみにしてますね。 』 先ほどの会議室で都合良く取れと言った相手の言葉を思い出しながら返信をすると。完全にデートと思っていれば仕事もはかどり、定時には上がれて。さっさと帰ってしまう相手に一声かけようかと思うも同僚たちに食事に誘われてしまい、横目で相手が去っていくのを見て。もっと話したかったなぁと思いつつ誘われた食事に赴くも、頭の中は相手の事ばかり。返事は来てないだろうかと何度もスマホを見て。 )

（　 誰よりも早く駐車場に向かって自宅へと帰り。帰宅すると一番最初にコンタクトを取って眼鏡に変え、キツめの目薬で疲れた目を癒して。着替えるのを面倒くさがってスーツのままキッチンに立つと、簡単な夕飯を作り。食べ終わると直ぐに風呂へ入り、今日は濃い一日だったとぼーっと考え、珍しく長風呂を。風呂から出てベッドに寝転がると、相手からメッセージが来ていたことに気が付き。遅れながらも 『 勝手にしろ 』とだけ返信をし、何だかんだ言いながら明日は何を観ようかと公開中の映画一覧を検索。目当てのホラー映画が見つかると、URLを相手に送り。全てが終わって落ち着くと、ゲームに更けて気が付けば毎日恒例の寝落ちをし。　 ）

( 食事と言っても居酒屋の為酒も入り、気分がよくなったあたりで解散をして帰路につく。家についてソファに座り、一息ついたところでスマホを見ると相手から返事が。相変わらず素っ気ないなと思いつつも今日のことを振り返る悪い気はしなく、むしろ少しでも自分の事を考えてくれていると思うだけで嬉しくて。URLが送られて来て、なんだろうと思い開いてみると、ヒッと声を上げてスマホを一旦伏せる。出てきたのはホラー映画のタイトルとポスターで、そういえばホラーを観に行くんだった、と思い出せば、頭を抱えて。どう考えても格好の悪いところしか見せられないし、どうしようと考えても、いい案が思い浮かぶわけでもなく悶々していたら寝る時間になってしまい。急いで風呂に入り就寝しようとするも、何故か得体の知れない恐怖があるみたいで寝付けず、睡眠不足のまま朝を迎えて。少しクマのできた目で出社すると、話しかけられる人ほとんどに心配されては大丈夫ですと流して。楽しみだけど楽しみじゃない、とどっちつかずの感情でため息が多い日である。 )

（　 寝落ちしてから早朝に一度起き、有ろうことか二度寝をしてしまい。起きた時には普段なら出勤している時間。朝食を後回しにして先に身支度を整えるとギリギリセーフ、遅刻は免れ。安堵からの溜息を零すと、朝食を食べていないので腹が減り。少しでも気を紛らわすために珈琲を淹れに行こうと立ち上がる。自販機まで行く途中に相手のデスクを通るので挨拶をしようとするが、明らかに寝不足気味の顔を突っ込まずにはいられなく「 おはようござ … 、ってお前、今日どうした ？ 」と。昨晩は夜遅くまで呑んでいたのだろうか、夜にドラマでも見ていたのだろうか、それとも他の理由なのだろうか。どんな理由にせよ、普段の明るすぎる相手の表情との違いが大きすぎて、余計に心配で。　 ）