ありったけの砂糖を貴方に　/　〆

… ぅえ ？、 え、あ、 待ってください、！ ( 相手が下を向いてしまえば、もしかして何か失礼なことを言ってしまったのだろうか、不安で表情が曇る。と思いきや自分の言葉に顔を上げる相手の表情は先程と何も変わらず、先程の俯きはなんだったのだろうか。チョコの食べすぎか？、なんて思っていれば聞き逃し難い言葉が聞こえる。この後付き合え、とは、これはまさか飲みのお誘い。思っても見なかった急展開に素っ頓狂な声を出してしまうも、さっさと出て行ってしまう相手を視界に入れながら自分も荷物を持ってすたすたと行ってしまう相手を追いかける。すぐに追いついては、一歩後ろを歩きながら問いかけられれば、 「 そんなことないですよ ！！、 俺、すっごい楽しみです ！、 まさか先輩と飲みにいけるなんて …！ 」 と勢いよく嬉しさを言葉に連ね、言葉に乗り切らない部分は緩んだ表情と軽い足取りに出ている。 )

… っ ！ そ、そうか、それなら良かった。楽しみって … んな期待するなよ。 （　 まさかそんな勢いよく嬉しさを表す言葉が出てくるとは思っていなかったので引き気味に吃驚し。相手のテンションに圧倒されつつ。偶には先輩らしいことも、と思って誘ったので喜ばれて良かったと心の隅で内心思い。見た目とは裏腹にお酒にかなり弱く、直ぐに酔ってしまうので多くは飲めなく。話上手でもないので、楽しみと期待させるわけにはいかなくて。期待するなとハードを下げる。先輩の誘いで渋々飲みに行くことはあっても、自分からしかも後輩に誘うのは初めて。情けなく緊張の気持ちも少しあり、廊下が何となく長く感じ。会社を出ると駅の方に向かい。飲める場所なんて幾らでもあるが、行き付け … とまでは言わないが、友人とよく行く居酒屋に入り。顔見知りの店員さんに会えば、会社では見せないような所謂控えめな営業スマイルで対応。居酒屋といってもガヤガヤした感じではなく、落ち着いた小洒落た雰囲気。それに合う小さめの個室に通されて椅子に座り。　 ）

っすみません、舞い上がっちゃって …、 いえ、もう2人でいるだけで嬉しい上にというか …、 ( 先程から勢いよく喋ってしまい、先輩に向かってあまり噛みつきすぎも嫌われてしまうか、と比較的控えめになるも、その表情が締まることはなく。 そういえば、あまり後輩を飲みに誘っているところを見たことがない。もしやかなりレアなのではないか？そう思えばさらに嬉しさがまして調子に乗ってしまいそうである。大人しく相手の後ろを付いていくと、なんだか落ち着いた雰囲気の居酒屋。いつもがやがやしたところに行きなれていたからか、久々に洒落た居酒屋に入ると、その上想いを寄せている人と入るともなると少し緊張。 「 失礼します、 」 しかも個室。相手が椅子に腰掛ければ一声かけてこちらも相手の目の前の席に腰掛ける。メニューを手に取り色々見ているが、まぁ手始めはビールだろう。自分は学生時代から飲みなれていてある程度は飲めるが、相手はどうなんだろうか、色々知るのに今日はとてもいい機会だと嬉しそうにメニューを眺めて。 )

お前の嬉しい気持ちは充分伝わったから、そのへらへらした締りのない顔やめろ （　 相手の態度から楽しい嬉しいという言葉が嘘ではないことは分かる。自分が口下手なので相手みたいにガツガツ話してくれた方が沈黙の気まずい時間が流れなくて済むが、素っ気ない態度と辛辣な言葉しか綴ることが出来ないので、ガツガツ来られては戸惑う二つの複雑な気持ちがあり。一先ずは先程からへらへらとした締りのない顔をどうにかしろと。基本的に一人で居るのが好きだし、友人と居ても静かで落ち着いた場所を好む。故によく行く店は、今日来た居酒屋のような場所が多くて。失礼しますだなんて律儀に一声かけてくれ、表情を見た感じ緊張している模様。緊張を解すような気の利いた言葉は生憎持ち合わせてなく、逆に何を話したらいいか戸惑い。相手に続いてメニューを開くと、一通り目を通す。相手も決まったようなので店員さんを呼ぶと、幾つか小皿をおつまみとして注文してから最後に 「 あと、カシスオレンジ。… お前は ？ 」と相手の注文を促し。とにかく酒に弱く、一番最初からカシスオレンジを頼むなんて男として後輩の前で情けなく感じ。　 ）

あ、すみません、ちゃんとします、 ( 気持ちが伝わったなんて、と嬉しさが込み上げてへにゃりと緩んでしまいそうな顔に鞭を打って、普通の顔をしようと心がける。先程は店が気になって相手を見ていなかったが、店員と話している時の相手は、笑っている。今まで見たことのない顔で、吃驚して思わず見惚れてしまって。綺麗な顔立ちな上にあの笑顔は反則だ。じっと見ていたところ、その相手と目があって。どうやら自分のを聞かれたみたいだった。 「 えっ、あ、ビールお願いします。 」 見る必要もないメニューに一旦目を下ろしてから、いや自分には一択だったと顔を上げて店員に向かって微笑んで。 店員が去って行った後、メニューを元の位置に戻し、後輩の自分が話題を出さないと、と先程頼んでいたドリンクについて話そうと口を開く。 「 先輩お酒も甘いもの好きなんですね。俺にオススメの甘いお酒とかあります ？、 先輩ほどじゃないですけど、俺も甘いもの好きなんで。 」 おしぼりやその他手を動かしながら、緊張が声に出ないように話し始めると。 )

オススメ ？ … この後、毎回俺はピーチフィズとか注文する。 （　 互いに注文を終え、店員が当たり前だが去ってしまう。さて、何を話そうか。ここは先輩として気の利いた話題を振るべきだと考えていれば先に口を開いたのは相手。しかも一番触れてほしくなかったお酒について。お酒は好き、好きだけど弱くて日本酒だって本当は大好きで飲みたい。けど、酔ったら面倒臭いから比較的甘いカクテルばかりを選んでしまうのだ。いきなり酒が弱いなんて先輩として言うのは恥ずかしく感じ、その事を伝えるのは控え。更にいうとピーチフィズもピーチリキュールを多めに入れて更に甘くしてもらってるなんて絶対に言えない。多くは言葉を並べず、必要最低限のことだけを伝える。甘いものが好きなら、駅前に新しくオープンしたケーキ屋のガトーショコラが美味しいだとか話したいことは本当は沢山ある…が、勿論言葉には出さず。注文してから来るのが早いのがここの店を好むもう一つの理由。例によって今回も暫くしたら店員の笑顔と共に酒や洋から和まで様々なおつまみが運ばれ。　 ）

そうなんすねー、俺もこの後カクテルにしようかな …、 お、来るの早いですね、雰囲気も良いし、俺この店気に入っちゃいました。 先輩もこのお店、好きって事ですよね ？、 ( 自分が言い終われば少し緊張もなくなったのか目の前にいる相手を見て。目の前からこうして相手をじっくり見られるのは初めてに近くて、柄にもなく緊張している自分がいる。だがこんなに相手を見られる機会は少ないので、思わず顔が緩んでしまうが、先程相手に言われた言葉が頭の中を反芻して、控えめに微笑んで。相手がここに自分を連れてきてくれた、ということはここは相手の好きなお店なんだろうか、もしかしたら趣味が合うかもしれないし、こういう相手の好きなお店に付いていくことでもっと相手を知れる、と踏んで確認のために問いかける。相手は相変わらず言葉が少ないが、あまりこの話題には乗り気ではないのだろうか。ちょっと違和感を感じるが、その違和感に関して考える前に料理がいくつも並べられ、自分の好きなものも並んでいて、目をきらきらとさせる。相手に取り皿を渡したり、手慣れた様子で取り分け始めようと手を動かして。 「 あ、乾杯してませんでしたね、しちゃいましょう。 」 途中で手を止めれば、手元にあるビールの入ったグラスを手にそう言って。 )

ん、気に入ったなら良かった。俺も好きでよく来るし、一人でも入りやすいんだよな。 （　 一瞬だけ相手の表情が緩んだと思えば、次には控えめに笑っていて。健気に先程の自分の言ったことを覚えているのかな、思い。好物を目の前にして待てをされている犬のように思えて笑いそうになるのをぐっと抑え。相手の言う通り、この店の一番良い所は雰囲気。気に入ってくれた様子なので誘った側としては嬉しいし、実は自分と趣味が合うんじゃないかと相手を見直し。友人と来たりもするが、酔っている姿を人にはあまり見せたくないのか豪快に飲みたい時は一人で来ることも屡々。運ばれてきた料理に子供のように目を輝かせる相手の姿に、我慢していた笑いは堪えられなくて控えめにクスッと笑う。人前で笑ったりするのは恥ずかしいし、イメージと違う気がして出来るだけ常に冷静を装っていて。イメージをそこまで大切にするのは、スイーツや甘い物が好きということを " イメージと違う "と言われたことがあるから。故に自分からしたら見た目と中身の数々のギャップがコンプレックス。そんなことを思っていたり思い出したりしていると、気が付けば相手は取り分けを始めていて。お礼を言ってから乾杯、とだけ小声で言ってグラス同士を合わせる。口に広がる果実の甘い味に幸福を感じつつ、料理をつまみ。　 ）

へぇ、たしかに1人で来ても良さそうです。 今は先輩といるから、何割増しかで良く感じるのかもしれないけど。 ( 個室だし、ここに案内される時も何人か1人の客を見かけたし、相手が1人で来れると言うのも納得がいく。数回軽く頷きながら、自分がこんなにも雰囲気がいいと感じるのは相手と居るからかもしれない、というかそうという確信の元で上記後半を続けて。 「 あ、じゃあ今度似たような雰囲気のお店見つけたら誘って良いですか ？、 俺、あんまり落ち着いた雰囲気のお店に一緒に行ける友達いなくて、 」 好き、ということは似たようなお店なら誘えば来てくれるだろうか。自分の友人はみな騒がしい奴ばかりで、だからなのかその真反対のような相手が気になり始めて、好きになったわけで。今がチャンス、と言わんばかりに期待の目を向けて。 料理が来て、思わず見入ってしまいハッとして顔をあげると、控えめだが、相手が笑った。 「 …先輩、今笑いましたよね … ？、 うわ、俺今めっちゃラッキーじゃ、 」 全ての動きが停止し、数回瞬きをすれば、手の甲で口元を抑え、嬉しさを隠しきれずにいて。今まで見たことのない、きっとあの笑顔は先程の店員に向けたそれと異なった、素の笑顔だった。率直に言うと、惚れずにはいられなかった。 )

なーにが何割増だ。調子のいいことばっかり言いやがって。 （　 普通の人ならば、こんな素敵なお店に自分と居たら寧ろ雰囲気が悪く感じるだろう。それが相手は違った、そういえば相手は普通じゃなかったんだ。言葉では上記みたいに悪態をつくが、内心は悪い気はせず。我ながら言葉一つで内心は一喜一憂しているんだから、チョロさが心配になってしまう。「 誘うなら、ここよりも良い店紹介しろよ 」いつも明るくて友人も多そうな相手が落ち着いた雰囲気の場所に行ける友達がいないというのは嘘なんじゃないかと疑い。ある種の類は友を呼ぶなのか、確かに相手の周りには騒がしくて明るい人が集っている印象があり。素っ気ない態度に返事だが、自分なりの遠回しで肯定的な意味の返事で。それに、そこまで期待の眼差しで見られたら断るにも断れなく。相手の言葉で今の自分の表情を理解し、料理をつまんでいた箸を止めて分かり易く目線だけじゃなくて顔ごと逸らす。何がラッキーだ、そのラッキーの意味が自分には全く理解出来なく。それに、何でそんなに嬉しそうな表情をするんだ。今更言っても嘘つけ、と言われるだけかもしれないが 「 笑ってねぇよ 」とだけ呟き、グラスに入ったお酒を半分までぐいっと一気飲みし。　 ）

本当ですよー ？、 俺嘘つくの下手くそなんで。 ( 相手がどんな反応をしようと、こちらの気持ちは変わることはなく、最近は相手は本当は優しい人なんだから、もしかしたら照れ隠しとかかもしれない、なんて思えて来て。同僚にそれを言えば絶対違うと言われるが、今はやっぱり照れ隠しなのかな、と自分の都合のいいように受け取ってはへらりと笑って。 「 うわ、ハードル高いですね。 でも、頑張りまっす。 そうだ、 雰囲気というより甘いもの関連ですけど、 駅前にできたケーキ屋とか、なんとなーく先輩っぽいなーとか思うんですよねー、 」 紹介しろよ、と言われれば、これは肯定の意味だろうか。どっちにしろ否定の空気ではなかったので肯定と受け取り話を進める。通りすがりの見つけた店の話でもしようかと、まぁ本当は甘いものが目に止まれば相手のことを思い出すに等しくその線の話はきっと尽きないだろう。 思わず嬉しさが込み上げて来てしまったが、相手は気分を害しただろうか。だが笑ったことを否定する相手に、 「 絶対笑いましたよね ！？、 …っ俺、先輩のそんな顔見たことなかったんで、その、 …嬉しいんです、 」 思わず身を乗り出してしまう。 店の雰囲気からあまり大声は出せないはずが、こればかりは大きくなってしまって。 しまった、と思い声を小さくして、目を逸らしたままの相手をじっと見ながら続けて。 )

そう言う奴に限って、無駄に嘘つくの上手いんだろ。 （　 嘘でもお世辞でも自分と一緒だから良く感じる、なんて言ってくれてありがとう。それは自分の心の中に留めておいて。へらへらとした笑顔も慣れてきたのか、今更態々ご丁寧にやめろだなんて言わなくなり。「 ハードルは高い方が燃えるだろ ？ ま、頑張れよ。… ん ？ ああ、あの店はメインで売り出してるチーズケーキよりもガトーショコラの方が美味いんだよな … 」随分と遠回しの言い方をしたので、肯定の意味だとどうやら伝わったようなので安堵し。頑張れよ、なんて上から目線な発言が出来るのも先輩の特権である。甘いもの関連の話となれば気分も上がり。休日はこそっと一人で甘いものを食べに行くことが多く、勿論駅前の店もオープンの日に堪能済。普段は口下手で口数は少ないが、好きなことになると饒舌に。「 … 笑った、確かに笑った。そんな俺の笑った顔見たくらいで嬉しいって、やっぱり俺にはお前が分からねえよ 」大声でしかも身を乗り出してきたので人間の反射的に身体を引いてしまう。ここまで来られたら認めざるを得なく、素直に笑ったことを認め。強い目線を感じ、そっと目線を相手の方に戻す。会社での可愛いという発言や、今の嬉しいという発言が未だに理解が追いつかずにいて。一つだけ分かったことは、どうやら相当厄介な後輩ということ。　 ）

信じてくれないんすねー …。 ま、良いですけど。 ( 相手の言葉に、あまり自分は信用されてないのか、と感じ取れば不貞腐れたように唇を突き出しては視線を逸らして。関わりが多い方ではないから無理もないか、と軽く息を吐く。 「 燃えますけど、ジャッジは程々にしてくださいね ？、 …先輩、もうすでに通なんですね。 俺まだ行ったことないんですよ。 ガトーショコラ、買ってみます。 先輩のおすすめなら、きっとめちゃくちゃ甘いですね。 」 甘いものの話になると、心なしか言葉の数が多くなっている気がする。この話題はやはり好きなんだろうか。これからも沢山話題に出そう、そう思いながらうんうんと笑顔で頷き相槌を打って。 「 見たくらい、って、 … そりゃ、 好きな人の笑った顔、見たら、嬉しいし、 」 体を引かれてしまえばこちらもすとんと元の座っていた位置に戻り、肩をすくめ、わからないと言われてしまえば、頭をがしがし掻いて、縮こまりながらブツブツと上記呟いて。 )

程々にな、程々に。… ガトーショコラが一番おすすめなんだけど … お前さ、普段甘いものとか食べる ？ （　 分かり易く不貞腐れたような表情をしたり、あからさまに不満げだったり少し落ち込んでいる様子だったり、相手の表情の変化が最早見ていて楽しく。自分が表情豊かではない分、羨ましく感じたりなんて。おすすめしたものに興味を持ってくれたのは嬉しく思う。けど、相手の言う通り、濃厚な甘さなので普段から甘いものをあまり食べない人はくどいと感じてしまうだろう。故に確認したくて、初めて自分から相手に問いかけ。「 … っ、お前な、好きとか可愛いとか … そういう言葉を軽率に言うな。ちゃんと恋愛的な意味で好きな人のためにとっておけ 」自分が女性なら、相手の軽率な可愛いや好きという言葉に確実に勘違いしてしまっているだろう。今の相手に彼女が居るかは分からないが、本当に好きな人だけにそういう言葉を使えと。鈍感な自分でも、何となく相手の好きという発言が軽率なものじゃないと薄らと感じ取ったが、きっとそれは気の所為。　 ）

先輩の程々って程々じゃない気が …。 甘いものですか ？、 うーん …、 人並みには食べますけど、あんまり甘すぎるのは胃が吃驚するかもしれません。 ( 程々、と二度と繰り返す相手の言葉に苦笑いを浮かべるも、これはちゃんとリサーチしなくては、と俄然やる気に。相手からの問いかけが珍しい、というか初めてに近くて、今日は初めて見る先輩ばかりだと嬉しさがこみ上げ弾んだ声になる。 が、相手の問いかけに、実はそこまで甘いものを嗜まず、差し入れの甘いものなどは同期の女子にあげたりしていたから、若干嘘を付いている気分になるがここはオブラートに包もう、と言葉を選んで。 「 あ、え、うーん …、 確かに思わず言っちゃいましたけど …、 俺、先輩のこと、ちゃんとかわいいって思ってますし、ちゃんと好きって思ってます。 」 軽く流される、と思っていたが、今日は相手が自分の言葉によく返してくる。会話が続いていいこと、なのだが、これに限っては今のように返されては調子が狂ってしまう。本当はもうすこし時間をかけて距離を縮めて、なんて密かにあまり回転の良くない頭を使って考えた粗末な作戦は思うようにいかず、ええい、言ってしまえ、はっきりと一度言って、また何度も繰り返し言って段々わかって貰えばいい、と頭を横に振って開き直り、相手をしっかり見据え、どうか信じてほしい、と思いを込めながら告げて。 )

… それなら、ガトーショコラはお前向きじゃねぇかもな。フルーツタルトの方が甘さ控えめで、フルーツの爽やかな甘さが口に広がって … 兎に角、フルーツタルト食ってみろ。 （　 相手からの返答に少し考えながら、駅前のケーキ屋で食べたものを思い出す。甘い甘いケーキも好きだが、お酒でもフルーツ系のカクテルを好んで選んでいるほど、フルーツのスッキリとした甘さも好きで。故に相手にはフルーツタルトをすすめ。良さを伝えたくてキャラに合わず食べた時の感想を饒舌に語り始めてるが、ふと我に返り咳払いをして話をまとめる。「 … ああ、そうかよ。人たらしも程々にしないと、女子からモテないぞ 」この個室には二人しか居ないわけで、沈黙が続いたら耐えきれないと思って相手の言葉に返してきたが、今回ばかりは本当に無視しようかと思い。好き？可愛い？俺が？いやいや、自分は男で相手とは同性で。二十代後半の男が三十代の男に可愛いとか好きだとか、意味がわからなくなる。きっとこれは後輩が先輩として好いてくれているということだろう。相手の周りには人が多いし、きっと人たらしなんだろう。きっと、きっと、きっと … 。そうじゃないと、頭の中の混乱が治まらないのだ。今回は普段通り軽く流したが、少し黙った後に相手と目が合って改めて、どういう意味だよ、と聞き返し。　 ）

…、 甘いものの話してる時の先輩、すげぇ生き生きしてますね。 ( 相手が自分の好きなものの話をしている時はこんなにも喋るのか。どことなく楽しそうに話している相手を、テーブルに頬杖をついて眺めていると、途中でいつもの先輩に戻ってしまう。もう少し見ていたかった、と名残惜しいが素直に思ったことを告げ、頬を緩ませ微笑む。フルーツ系なら自分も気兼ねなく食べられるだろう、相手はカクテルもフルーツ系だし、フルーツ系もいける口か、と数回頷きながら記憶し。 「 人誑しって、そんな人聞きの悪い。俺そんなに誑しに見えます ？、 …よね、知ってます。 」 人誑し、と言われてしまえば、そう思われてしまっては今後に関わると反論しようとするも、今までの人生この顔面で誑しと言われて来た回数は両手を超える。生まれつきの顔や人懐っこさからそう思われるのは仕方なく、諦めたように視線を外して首を掻く。 ああ、気まずい雰囲気になってはいけない、と視線を相手に戻したかと思うと、どう言う意味かと聞かれ、話題が変わっていない。 不器用な手前答えを考えることはせず、相手を真っ直ぐに見据えて告げる。 「 そりゃあ、世間的にはおかしいって思われても仕方ないですし、先輩が男色じゃないことも分かってます。 … でも、好きになっちゃったんですよね。 あ、答えとか別にいいんです。 これから俺のことを知ってもらって、先輩に俺を好きになってもらえればいいんで。 」 やはり告白、とは緊張するもので、少しばかり早口になるもなんとか言い切っては、へらりと微笑んで。 )

好きなものの話をしてれば、誰だって生き生きするだろ。 お前だって、… そういえば、お前の好きな物とか趣味って何だよ。（　 好きな物はスイーツや甘い物、趣味はスイーツ作り、と、生活は甘いもの中心に回っていると言ってもいいほど。そんな大好きなものの話をしているんだから、生き生きするのは当たり前だろうと。お前だって、と例を出そうとしても相手の好きな物や趣味を知らない為止まり。「 いや、違ぇよ、何というか、俺が言いたかったことは … 人懐っこいよなってことであって … ！ 」何か反論してくるかと思っていたら、反抗的な言葉は一つも返ってこなく、これでは調子が狂う。何にせよ、相手を傷付けたりしてしまったので否定して言い直し。「 … えっと、その … こんな俺を好きになってくれてありがとう。… ごめんな、今はこれが精一杯なんだ 」告白をされた … ？ いくら鈍感な自分でも、これが告白ということは理解できる。後輩から、しかも同性から、たしかに告白をされたのだ。正直、相手の言う通り男色ではない。だからと言って、偏見があったり告白されて気持ち悪いとは思わなかった。ただ、動揺と照れが凄まじい。きっぱりと断った方が期待をさせなくて相手にとってもいいのかもしれないが、真面目に自分のことが好きと言ってくれた相手に性別を理由に断るのは申し訳なく感じ。下手な返事は出来なくて、今の自分が答えられる精一杯の言葉を返して。　 ）

俺のですか ？、 んんー …、強いて言うなら、食べることと、先輩を見ることです。 ( また、質問をされた。相手から質問を投げかけられ自分のことを話すのはなんだか照れ臭くて答えに迷ってしまう。食べることが好きで、おかげでここまで大きく成長していることは事実。相手のように甘いものには限定されないが、基本的に好き嫌いはない。あと、最近の趣味を付け加えて。 「 いいんすよ、… けど、先輩って少し言い方きついけど、実際本当にそう思ってるわけじゃないんですね。 」 相手がわざわざ自分の様子を見て言い直してくれているのを見て、なんと律儀な人なのか、自分的には放っておいてもらっても良かったのに言い直してくれるんだ、となんだかまた新しい一面が見られて嬉しく思い表情が緩む。 「 いいですよー、 分かってるんで。 でも諦めてませんから。 」 今振られたことには間違いなく、一瞬表情を曇らせるが、分かっていたこと。 どうやっても性別の壁は大きいのは今まで生きてきて知っている。が、諦める気は毛頭なく、自分に振り向くまでどうにか頑張ってやろうと決意の眼差しを。…というか、好きになってくれてありがとうと言ってくれた。これは脈なしではないし、押していこう、と割りと既に前向き。 )

通りでここまで成長したわけだ。けど、よく太らないよな。 （　 決して自分の身長が低い訳では無いが、相手は高身長で正直羨ましい。無意識に座っている相手の身体を上から下に見て、顔も女子が好きそうなイケメンで高身長で、神は不平等だと小さな溜息を一つ。見る限り太ってはいないので、そういう体質なのか？と思いつつ。もう一つの趣味に関しては、触れたら負けだと思って綺麗に何も聞かなかったかの様にスルーし。「 言い方きつくて悪かったな。… ああ ！ もう、そういうやめろ！ 」実際のところは相手の言う通りで、照れ隠しだったり不器用で思ってもないきつい言葉を並べてしまうことが多々。褒められることや好き等の言葉を言われのは、恥ずかしくて反応に困るからという理由で言われるのは苦手。故に遠回しに優しいと褒められている気がして上記述べ。「 … あっそ。んじゃ、お前が振られた慰め会で久しぶりに俺も飲むか 」遠回しに今は振ったことになるので、気まずくなると思ったが雰囲気は変わらず。いつも通りの相手で、寧ろ好きという気持ちを言えてスッキリしているようにも自分からは見え。気を遣わずに接することが出来るので、相手の明るくポジティブな性格には助けられ。上記は自分なりの場の和ませ方。アルコール度数が高めの酒も大好きだが、調子に乗って沢山飲んでしまうと呆気ないほど簡単に酔い。なので、少しだけと自分の中で決めて、比較的度数が高めの日本酒を注文し。　 ）