2人掛けの玉座 【〆】

な、公園……？！もしかして街をよく見渡せるベンチがある公園か？ここから行くと途中にコンビニがある……？
(こちらの断りに明らかに残念がる相手を見ると正直胸が痛む、その顔に傷ついた表情が浮かべたくはないが、恋人と真に向き合うのなら魔王たる常磐ソウゴを諦めたくはなかった。自分が心惹かれ愛している人を取り戻すためならばどんな努力も惜しむべきではないだろう。明るい表情に切り替える姿も、胸が軋むがここでこちらが悲壮な顔を浮かべては余計に相手を傷つけるだけ。冷静に話を聞こうと思ったがその決意は早々に破られる。この辺りで公園といえば、まさに昨日訪れたあの公園しかない。2人で2回も行った特別な場所、これから何度でも訪れようと約束したあの場所がないなんて。机越しの相手へ身を乗り出す、よほど鬼気迫る顔をしていたのか大叔父がアイスティーを2つ運んでくるも、気まずそうな笑いを浮かべながら素早くアイスティーを置いてそそくさと立ち去ってしまい)

う、うん、その公園だと思うけど。…何か俺達が仲良くなるきっかけを邪魔してるみたいだよね
（思い出話の思わぬ所に食いつかれて身を乗り出されるとその圧に押されながらも素直に頷く。この辺で似たような条件の公園は他に無いし同じ公園で間違いないだろう。そしてこの表情を見る限り相手にとって特別な＿恐らく自分も縁のあるスポットなのだろう。何となくそんな気がする。相手にとっての元の時間軸と今の時間軸は大分違っているらしい。それも二人に縁がある所ばかりが。気まずそうに大叔父が運んできてくれたアイスティーのストローで中身をくるくるかき混ぜながら思考する。居候するはずだったクジゴジ堂の部屋は喫茶店部分に改築され、思い出があるのだろう公園も既に更地だ。学校ではクラスだって別で、今朝声をかけてくれなければこうして向かい合って話をする事も無かったかもしれない。もし、それが目的なら。分からない事だらけだがひとまずは何となく浮かんだ印象を口にしてみて）

俺たちが仲良くなるきっかけ……俺たちの関係や行動を把握して、かつ俺たちが近づくのを嫌う人間が1人だけ居たな。となると敵は俺たちの思い出の場所を順番に潰しているはずだ。残りの場所は……ゲームセンター、ショッピングモール、遊園地のなかでまだ残っている所はあるか？
(相手から出た呟きに似た言葉にひっかかりを覚えて目を伏せ考えを巡らせる。確かにその通りだ、この事態の犯人はまるで2人の仲を割くために次々ときっかけを潰しているように見える。しかしその2人にとって大事な場所を知っている人間はそうそうに居ない。大叔父やツクヨミに行き先を告げることもあるが全てを把握しているわけではないだろうし、そもそも2人が恋人だと知っているはずもない。それは敵たるタイムジャッカーやアナザーライダーも同じはず。それらを除いて2人の全てを把握している悪趣味な奴はたった1人しかいない、ウォズだ。あの意味ありげな笑みが脳裏に浮かぶ、大方タイムジャッカーに情報を流してアナザーライダーに該当箇所を潰させているのだろう。そうなれば行き先は絞られてくる。2人がより近づくきっかけとなった場所を順にあげていき)

思い当たる人がいるんだ…、ちょっと会ってみたいけど。ゲームセンターは移転しちゃったし、ショッピングモールは一部改装中だから…その中では遊園地が一番変わってないと思う。何なら今から行ってみる？
（自分は検討もつかないが思い当たる人がいるらしい。普通の高校生である自分達の行動を把握してそれを邪魔するなんて相当物好きな人だ。だが、ちょっと興味惹かれるのも事実。原因を追えばその人にも会えるかもしれないと好奇心滲ませた声色で呟き。あげられた場所について記憶を辿る。どれも不自然なほど移転や改装工事が行われていて何気なくあげた目的の信憑性が増してきた。だがその中で唯一遊園地はそういった類の話は無かったはすだ。相手の話を正解だとするならまだ手が回ってない場所と考えてよさそうだ。それにしても二人の思い出の地は随分と多くてそれだけ相手と仲が良かったということだろう。あまりイメージは湧かないが自分にとっても相手は特別な存在だったはずだ。初めは困った民を助けるといった気持ちだったが、今では早くこの時時間軸の捻れを元通りにして笑った相手の顔を見たいと思う。思い立ったが吉日って奴で今からその遊園地に行ってみないかと首を傾げつつ誘いをかけてみて）

……お前を大好きなあいつがそれを聞いたら喜ぶだろうな。それだけ俺たちに縁深い場所が無くなっているなら間違い無い。よりにもよってあそこを最後に残すとはな…よし、遊園地にいくぞ。
(相手のお人好しというか、好奇心というか、そういうところは相変わらずだ。会いたいと呟く相手に明らかな嫌悪感を顔に出してしまう、魔王の従者たる奴が聞けば飛んで喜ぶだろう。ともかく目的地は決まった、これ以上2人にとって大事な場所をなくされるわけにはいかない。遊園地は決定的に2人の関係が変わった場所だ、そこさえ無くなってしまった時にはもしかすると今自分がもつ記憶さえなくしてしまうかもしれない。それだけ自分と相手とそしてこの時代とを繋ぐものとして遊園地は重要な場所だ。相手の誘いに即答で頷き返事をする。デートだね、なんて緩い笑みで言う相手の姿が目に浮かんだ、あの顔を取り戻すためにも遊園地を守らなければならない。席から立ち上がるとクジゴジ堂を出てバイクライドウォッチを起動させる。普通の高校生である相手がライドウォッチを持っているはずもないだろう、バイクには再び相乗りだ。店から出てくる相手に向かいヘルメットを差し出しながら「乗れ」と一言声をかけ)

ふふ、何だか面白そうな人だね。了解、おじさんにも伝えてくる。＿ わ、バイクが出て来た。魔法みたい！
（相手はその人のことが嫌いなのか露骨に嫌そうな表情をするのを見てつい笑いが漏れる。わざわざ二人の仲良くなるきっかけを邪魔するなんて物好きではあるが自分の事を好いてくれてるならそこまで悪い人じゃないのかもしれない。急過ぎる提案かとも思ったが相手も同じ気持ちらしい。とりあえず大叔父にその旨を伝えると今からかと驚かれたが何とか納得してもらえて、相手の後を追ってクジゴジ堂を後にする。外では相手が何か時計みたいな物を操作したかと思えばバイクが出現して見知らぬテクノロジーにワクワクしてしまう。どういう仕組みなのかと無邪気に関心向けていれば、ヘルメットを手渡され言われたまま相手の後ろに跨る。振り落とされないように腕を回してぎゅっと抱きつけば不思議と見知ったような懐かしい感覚覚えつつも発車を待ち）

俺にとって奴は警戒すべき相手でしかないがな……元の時間軸に戻ればお前も使えるようになる。____いくぞ。
(自分にとってウォズは裏切り者で考えの読めない不気味な奴だ。相手にとっては従順な下僕かもしれないがあの預言者のことを簡単に許せる間柄でもない。2人の仲を引き裂こうとしているなら尚更だ、必ず表に引きずり出し謝罪させる必要がある。そもそも、分かってはいたが相手との関係を全て把握されていたのも気に食わない。落とし前を付けさせなければ気が済まないのだ。そうカッカしながらバイクに跨り相手が乗るのを待っていると、不意に背中側で相手が抱きつく感触があった。相乗りするなら当然の体勢だが計算外で密着されると嫌でもドキリと胸が打つ。ついこの前まで当たり前のはずだったのに今や懐かしい感触だ。思えば2人でバイクに乗るのもあの遊園地に行った以来で様々な感情が胸に込み上げてくる。愛おしさ、寂しさ、懐かしさ、孤独、そんなものを感じているうちに無意識にこちらの体に回す相手の腕に手を添えていた。暖かくて安心する、消して失いたくなくて誰にも渡したくない。思考が巡ったのも束の間、ハッと意識を取り戻すと声をかけバイクを発進させる。学校終わりで時刻は夕方に差し掛かっているが閉園少し前には到着するだろう。車の間をすり抜けながらバイクを走らせ遊園地へと急いで)

なら、早く元の時間軸に戻さないと。…明光院？ ＿＿ あ、見えてきた！ やっぱ大きいね
（その人について気になるのも事実だが、何はともあれこの状況を作り出した主であるのなら何とか説得して元通りにしてもらうしかない。自分のことを好いてくれているのなら上手く言いくるめることも出来るかもしれない。そんな事を考えながら相手に抱き着いて発進を待っていたが動く気配はなく逆に回した腕に手が重ねられる。その手は暖かくて、優しくて何処かで知っているような気もするのだ。悪くない感覚を覚えながらも不思議そうに声をかけると漸く意識を取り戻したのかバイクが発進される。初めての二人乗りだが相手が運転するからか不思議と恐怖もなく大人しく身を預けて先を急ぐ。暫くして目的地である遊園地のジェットコースターや観覧車が見えてきた。写真などで見た景色と変わらず営業しているみたいだ。直接大きなアトラクションを見た興奮に浮かれては邪魔しない程度に相手の身体ぺちぺち叩き指さして）

……なんでもない。あれは何度見ても大きいな…、おいはしゃぐな。これから敵と鉢合わせるかもしれないんだぞ。
(夕暮れに差し掛かった道をバイクで走る。あの時は帰りの夜道を走ったが、今日はその時とはまた違う風景で、不本意ながら違う関係だ。背中に暖かな相手の体温を感じるとまた誘惑に負けそうになる。記憶を違えてしまってと常磐ソウゴと居れるのならば良いんじゃないかと、これ以上相手に悲しい顔をさせる必要はないんじゃないかと心が揺れ動いた。軽く息を吐く、迷いを振り払うようにアクセルを吹かした。やがて遊園地に近づいてくると真っ先に見えてきたのは観覧車だった。この時代に居ることを決め、王の隣に居ることを決めた場所。今でも日を背負い輝く王たる相手の姿を覚えている。そんな思い出に浸っているというのに当の本人は興奮気味にこちらを叩いていて、窘めるように後ろへ声をかけた。あの日電車を降りて遊園地に訪れた時もアトラクションにキラキラとした目を向けていた、やはり本質は変わらないと相手に見えないところで苦笑しながら遊園地のゲートをくぐった。バイクを止め入口の方を見やる。騒がしい音が聞こえないところをみるにまだ敵は暴れだしていないようだ。ウォズが絡んでいるのは厄介だが相手の言うことなら聞くだろうか、とはいえ記憶を無くしている状態でどこまで奴を説得できるかは分からない。ひとまずは遊園地内に入ってみるしかないだろうと入口ゲートへ行こうと合図を送り)

だって遊園地とか久しぶりだし！ 大丈夫だって。なんか危険な事があったら明光院が守ってくれるでしょ？ じゃあ早速入ろっか
（小さな頃に両親と行ったきりなはずの遊園地につい心が踊る。意図せずとはいえどちらも制服姿で遊園地っていうのもより青春って感じだ。またあの表情にさせるのは申し訳ないからせめて顔の見えない相手の頼もしい背中の裏でこの時間を全力で楽しむことにして。遊園地のゲートを潜れば遠くで見えていた観覧車がより大きく見えてつい見上げてしまう。夕方ということもあって遊園地を楽しみきって帰っていくような客も多い。その表情はどれも幸せそうなもので自分まで満たれたようなきもちになる。バイクから降りれば合図を受けてその流れに逆らうように入口ゲートへ向かう。予測通りなら相手の言う敵がこの遊園地を狙っているという話だがそこまで警戒心は持たず寧ろ楽観的に歩みを進める。何とかなりそうという直感と万が一何かあったとしても相手なら守ってくれるだろうという全幅の信頼の上だ。確信じみた笑みと共にその事を告げれば入場ゲートに辿り着いて早速チケットを購入する。高校生料金で二人分だ。夜には花火が上がるということを係の人に教えて貰えば目的も忘れて浮かれそうになりながらもチケットの片方を渡して入場ゲートを通り）

まったく、そういう警戒心のない所と人をすぐに信用する所は相変わらずだな。それに遊びに来たわけじゃないからな、とりあえず観覧車の方に行くぞ
(相手はすっかり遊園地に浮かれていてため息が出る。だが無条件にこちらへ信頼を向ける様はどこか懐かしくもあって、こちらも相変わらずその態度に呆れる素振りをみせる。最初もこんな風に始末すると宣言しているにも関わらず全幅の信頼を置いてくる相手になんて甘くて警戒心のない奴だと思ったものだ。はしゃぐ相手の頬を指でぶにとつついてやり釘を刺しておいた。入園券を受け取り入口ゲートをくぐる。遊園地内は人も疎らになってきて花火を見る客以外は帰宅していっている。この遊園地でも様々なアトラクションにのった、お化け屋敷だけは二度とごめんなのでまた行きたいと言い出さなければ良いが。そこ数々のアトラクションのなかで仲良くなるきっかけを潰すとなると2つ、観覧車か花火だろう。花火は夜に始まるならばまずは観覧車だ。相手に声をかけ乗り場へと移動する。やがて見えてきた乗り場の前、人々が行き交う中1人だけただ観覧車を見上げる人影があり)

ふふ、ちゃんと分かってるって。 遊園地ね、了解。＿ お兄さん、どうかしたの？
（呆れるような素振りではあるがいつもの事みたいな雰囲気を感じる。頬にぷにと指でつつかれると一度手元に視線向けそれがじゃれあいの類の物だと分かれば更に笑みが深まる。入場ゲートをくぐれば綺麗に彩られた広場と売店が広がり、夜も近い為かお洒落な電灯に明かりが灯っている。人は疎らではあるが楽しげな空気が伝わってきてテンションが上がってしまうのも仕方ないだろう。辺りを見ていれば行先が先程見上げた観覧車に決まれば弾んだ声で受け入れて相手の隣に並んで乗り場に向かう。いざ近付いてみるとより観覧車の大きさが分かる。夕焼けの中に街を一望するなんて綺麗な風景に違いない。その中で一人だけ観覧車に乗る列に並ぶ訳でも去る訳でもない人物に気付けば何となく気になって隣に並んで声を掛けてみる。少し変わった服装をした男性は自に気付けば少し驚いたような表情をしたかと思えば直ぐに薄ら笑みを浮かべ、こちらに向き直る。そして自分の右手を取ったと思えば｢これこれは、この時間ではお初にお目に掛かる、我が魔王｣と仰々しい台詞と共に膝まつかれると｢え、え？｣と困惑してしまい助けを求めるように目の前の男性と相手の顔を交互に見て）

……ソウゴを取り返しに来た。いい加減にしろウォズ
(観覧車を見上げていたのはこの事態の元凶、鼻につく預言者だ。日が落ちるのも近く幻想的に輝き始めた園内の雰囲気と妙に合っているのが腹立たしい。近づくべきか思案していると不意に相手がウォズへと近づいていった。好奇心故の行動だろうがあれが敵だったらどうするんだと小言を言ってやりたい、今は我慢しておく。驚いた顔をしたものの奴は奴で平常運転らしく、いつも通り魔王の従者としての振る舞いを見せた。奴にしてみれば計画通りなのだろうか。時間軸を曲げ、傍に未来からやってきた自分がいない今なら前よりも王に近づけるとでも思っているのだろうか。仰々しく手を取る姿にグラリと嫉妬心が揺れる。このまま常磐ソウゴを渡してなるものか。助け舟を受けるとツカツカと2人の間に近づきウォズが取っていた相手の手を奪い取る。こちらが元の時間軸の記憶を保持しているのを察するとさらに驚いた顔をしていたがすぐに平静を装う顔に戻る。「ゲイツくん、せっかく我が魔王と再び出会えたのに邪魔しないでもらえるかな。それに今君にはやる事がある」とすまし顔で言われ顎でさされた方を見やる。そこには様々な怪人が観覧車へ向かう姿があって目を見開いた。あの観覧車を壊されればおそらく終わりだ、なんとしても阻止しなければならない。相手はウォズが守るだろうが、その間に奴の考えを変えられるか……ソウゴに託すしかない。ベルトを装着するとライドウオッチを取り出す。「変身！」の声と共にベルトを起動させ装甲を纏うと怪人の方へ走り出し)

…もしかして、明光院が言ってた俺の事大好きっていう人？ …あれ、なんか見た事があるような…。…ねぇ、ウォズ。単刀直入に言うけど俺達を元の時間軸に戻してくれない？ こうやって高校生として過ごすのも良いけど、俺は…皆のいるあの時間軸で王様になりたい
（仰々しい台詞とこちらを見つめる視線、そして相手の態度から先程話していた人物だと察する。魔王とはいえ自らを王として敬う姿は従者と言っても差し支えないのかもしれない。突然のことにただ困惑するばかりだったが、相手が間にはいり手を取ってくれたことで漸く正気に戻る。ウォズ…これも聞いたことのある響きだ。お互いを認識して二人の間に敵対の火花が散ったような空気。ウォズと呼ばれる男性は相手の話をさらりと受け流したかと思えば何かを顎でさして、自分もそれを目で追ってみる。そこには今にも観覧車を壊してしまおうとばかりの怪人達。ここも二人を繋ぐ大切な場所で、壊されたら不味いと直感が訴える。どうしようと相手に視線を向ければベルトみたいなものと先程バイクを取りだした時計のまた違うデザインのものを取り出したかと思えば装甲を纏った。赤地に黄色のラインのそれは見覚えがある。それにその姿だけじゃなくて何処かで、…ゲームセンターで、お揃いだといったストラップの色だ。観覧車が壊されるのが間近だからか、自分が前の時間軸の事を思い出しそうだからか、またはその両方か。時空が揺らいで観覧車の全体にノイズの様なものがチラつく。ここが大きな分岐点だろう。相手が時間を稼いでくれている間に何とかしなければ。緊張を解すように一息ついて目の前の従者を見つめる。前の時間軸のことを完全に思い出した訳ではない。だが、あの時間がかけがいのない物だったのは心の内の自分が訴えている。いつの日か争いのない世界で単なる高校生として相手と過ごす時間を願ったことがなかったと言えば嘘になる。そちらの方がこの世界も平和になるかもしれない。それでも、例え戦いの渦中に巻き込まれるとしても大叔父がいて、ツクヨミがいて、ウォズがいて、そして相手が隣にあるあの時間軸が自分にとって唯一で心の底から居たいと思う場所なのだ。ちらりと戦闘中の相手の姿を見る。こうやって守られるんじゃなくて、肩を並べて戦うような王様が自分の目指す姿だ。もう一歩従者に近付けば揺るがない意思を持った瞳でそれを伝えて）

っ！！＿＿＿……はぁ……はぁ……ソウゴ…
(観覧車へと侵攻する怪人をジカンザックスで次々に薙ぎ払っていく最中、観覧車にノイズがかかる。それと同時に頭に痛みが走って思わず額を押さえた。知らない入学の風景、部活の様子、クジゴジ堂でテスト勉強に勤しむ時間、おそらく歪んだ時間軸の記憶が入り込もうとしてきているのだろう。覚えのない記憶ばかりだが懐かしいという気持ちが一緒に入り込んできてまるでこれが当然とばかりに主張してくる。仲間も自分も死に直面することがない穏やかな世界。だがその中には相手の姿はない、そのたった一点が入り込んでくる記憶を押し返す気力となる。怯んだ隙に怪人の拳が頬に入って口の中に血の味が広がると後ろへよろける。だが逆に頭はクリアになった、足に力を込め踏みとどまると反撃の一撃をお見舞いし、さらに他の怪人へ追撃する。視界の端では相手がウォズに語りかけていた。微かに相手の声が聞こえてくる。その言葉はまるで元の時間軸の記憶を取り戻したような言い草で、芽生えた可能性に息が詰まった。同時に頭の痛みが引き、戦士としての力が一気に戻ってくる。ソウゴが元の時間軸を選択した影響だろう。一方ウォズはというと、元の時間軸へ帰りたいという王に対してまた目を丸くさせていた。一呼吸置いて苦笑いを浮かべると困った笑顔で語りかける「まさか元の時間の記憶を微かでも呼び起こすとは、さすが我が魔王。……君の覇道にゲイツくんは要らないというのに。クジゴジ堂さえ歪めておけば大丈夫と思っていたが、この観覧車を先に潰すべきだったかな。心配ご無用だ我が魔王、あいつらを全て倒せば全て元に戻る手筈になっている。」遠目で何を言っているのか全ては聞き取れなかったが相変わらずの薄ら笑いを浮かべていて実に腹立たしい。だが相手の決心によって未来は定まった、みなぎる力のまま最後の一体を斧で切り裂く。同時に観覧車にかかっていたノイズは止んだ。変身を解除するとしっくりとくる感覚、どうやら服が制服からいつもの未来服へ戻ったらしく、自身の体に目線を向けると安堵の息を吐き。これできっと全て元通りだ、それはすなわち全ての歪みが正されたことを意味する。もう自分の想いを隠さなくても、似て非なる笑顔を見なくても良いのだ。相手の方へと振り返る、しかしまだきちんと記憶が戻ったのは分からなくて呟くようにして相手の名前を呼んで)

俺はこの時間でゲイツと一緒に最高最善の魔王になるよ、いつかウォズが認めてくれるくらいのね。＿＿ ゲイツっ！ ただいま
（今の時間軸と元の時間軸の記憶が混ざり合いそうになる。だけど相手と共に王になって世界を平和にしたいと誓ったのはあの時間軸の話だ。その言葉を受け取った従者は目を丸くて困ったように笑う。自らを王として慕ってくれるのは有難いが、彼の言う魔王は誰も適う事の無い強大な力を持ってひとりぼっちで君臨する寂しい存在だ。ただ強い力を持つだけの王では不十分だと相手と交流する中で感じたのだ。この時間で仲間と、明光院ゲイツと共に最高最善の魔王になる。そうこの観覧車の中で誓ったのだから。晴れ晴れとした表情で得意げにそう伝えればウォズは諦めたようなそれでいてこの結果が分かっていたような笑みを浮かべてはストールを使って去ってしまった。それと同時に怪人に最後の一撃が決まり、時空が元に戻る。帰って来る事が出来た、2人で守ると誓ったこの時間軸に。ちゃんと存在してあの時のように回っている観覧車の姿を見上げればやっと緊張が解けて安堵の息をつく。変身を解きいつもの未来服に戻った相手に名前を呼ばれる。歪んだ時間軸の中で、この時間軸と自分を選んで元に戻そうと頑張ってくれた愛おしい恋人。そう思えばいてもいられなくなって勢いのまま普段の呼び方と共に相手に抱きつく。存在を確かめるようにぎゅっと抱き締めれば今日1日一緒にいたはずなのに凄く久しぶりのような気がしてより腕に力がこもり戻ってきたのだと伝えて）

っ、……ソウゴ……ソウゴっ！やっと目を覚ましたか？
(こちらに向けられた目を見た時に全てを理解した。あそこにいるのはごく普通の高校生常磐ソウゴじゃない。未来からやってきて出会い、ゲームセンターやショッピングモール、そしてこの遊園地に行った大切な恋人だ。勢いのまま飛びついて来た相手を抱き止める。たった半日ほどこの手を離れていただけなのに長く消えてしまっていたかのように懐かしい。そしてやはりこの感触は何物にも代え難い、たったひとつ大切なものだ。その存在を確かめるようにこちらからも強く相手の体を抱きしめ返す。じんわりと相手の体温が伝わってきてこちらの胸に広がると安堵が胸に満ち溢れて、やっとこの悪夢が終わったのだと思えた。ゆっくり吐き出す息が震える、もう相手から他人を見るような目を向けられることもない、自分と相手が恋人なのだと口にすることも許される。相手の後頭部に手を添えて首元に顔を埋めて改めて名前を呼んだ。感情が込み上げて溢れそうになったのをギリギリで耐えると顔を上げて互いの顔が見えるようにする。愛しい恋人の目を見つめながら、笑顔を見せるとからかうようにそう問いかけ)

うん、遅くなっちゃってごめんね。それと…俺を選んでくれてありがと、ゲイツ。
（半ば飛びつくように抱きついたこの身をしっかりと受け止められる。温かくて頼もしくて漸く自分の居場所に戻ってきたような安堵感だ。ゆっくりと吐き出す息も埋められる顔も添えられる手もそれだけ相手が不安な想いを抱えていたのが伝わってきて、今はただそれが少しでも溶けるように身をよせる。顔が上がり視線が交われば相手の顔に笑みが浮かぶ。例え2人が高校生の平和な世界線に行こうともこの笑顔が見れないのなら意味がない。背中に回していた手を相手の頬に添える。からかいに乗っかるように緩い笑みと共に謝罪を口にする。時間軸の歪みが原因とはいえ、相手のことを忘れていたのは事実だ。それだけ不安定な足場の上で成り立ってる関係性だと改めて実感した。それに自分が記憶が取り戻せたのは根気強く元に戻ろうと解決策を探してくれた相手のおかげだ。もし、相手が普通の高校生の常磐ソウゴを選んだのなら観覧車の存在は消え今の自分だって居なくなっていただろう。指先で頬の輪郭なぞってはしっかり相手の目を見て言葉伝え）

、……俺は何度生まれ変わってもお前の隣にいると誓った。しかし今の俺が一緒に居たいのはお前だ、ソウゴ。これからも何度だってお前を選ぶ。
(相手の手が頬へと添えられる。柔らかな温かさに包まれてそれだけで夢見心地だが、視界いっぱいの相手の顔がいつもの緩い笑みに変わると、やっとこの顔を取り戻せてのだと心底安心する。2人で寄り添ったまま感謝の言葉を受けると、ようやく先の見えない不安から開放された気がしてまた感情がせりあがってきて顔が崩れそうになってしまった。一旦目を閉じて深く呼吸をして気持ちを落ち着けると、ゆっくり目を開いてまた相手と視線を交わす。もし2人が生まれ変わって今回のように互いに普通の高校生になったとしても必ずまた相手の隣に立つだろう。しかしその時の自分と今の自分は違う。自身にとって隣に居たい人間、そして恋人はたった一人しかいないのだ。決して揺るがない誓いを示すようにその唇にゆっくりと触れるだけの口付けを落として)

…ふふ、そっか。 俺もこの時間で今のゲイツと一緒に王様になりたいって改めて思った。＿ わ、花火だ！
（先程から感極まったのか戦士らしかぬ崩れた表情になりそうになってそれを落ち着かせるという行為を繰り返しいる相手に思わず笑みが零れる。第三者の介入であんなにも簡単に揺らいでしまう時間軸の中、どんな状況でも自分を選んでくれるという相手の言葉は頼もしくて安心出来る物だ。関係が大きくあの日と同じくゆっくりと触れるだけの口付けをする。この瞬間が何よりも幸せで、もう二度と手離したくない。そっと離れると此方も改めて決意を口にする。何度でも出会っては恋に落ちるだろうが今の自分が目指す先は目の前の相手とではないと成し遂げられない。今は難しいだろうがいづれはウォズが認めてくれる位の立派な王様になる。そんなことを話していれば突然周りの電灯が消えて辺りが真っ暗になる。また何か起こるのかと身構えるが数秒経って空に大きな花火が打ち上がる。それに気付けば興奮したように空を指さし見上げ）