2人掛けの玉座 【〆】

___この場所で花火を見るのは2回目だな。
(相手の言葉に頷く。分かりきっている事でも改めて言葉で聞くとその響きは胸に優しく広がる。この選択は間違っていなかったと、何度でも愛しい人に手を伸ばしていいのだと、ずっと隣に居られるのだと、様々な思いを肯定していくれる。今回の選択は間違いなく険しい道を選んでしまうものだった。これからも敵はやってくるし今回のように仲を裂こうとする奴も出てくるかもしれない。そうだとしても自分は何度でもこの選択をするだろう、ただ相手と一緒に居るために。そしてきっと相手も同じことをしてくれる、こちらが次元の狭間に巻き込まれたって救い出してくれるだろう。お互いにお互いを諦めない、そう確信を持って思うことができた。周囲が暗くなり一瞬身構える、しかし相手の指に従って空を見上げるとそこにはあの時と同じ花火があがっていた。あの日に初めてみた花火、そして人生2度目の花火も相手と見ることができた。花火を見上げたまま呟くように声をかける。またひとつ相手との思い出が増えたと同時、数少ない2回見たものが増えたのだ。次々に夜空を彩る花火をじっと眺めていて)

こんな形で見ることになるとは思わなかったけどね。あ、でも恋人としては初めてじゃない？ 今度はちゃんとデートとしてまた遊園地に来たいな
（色とりどりの花火が打ち上がって辺りを照らす。盛大なそれは二人の再会をお祝いしてくれているようにも見える。お互い散々な目にあって寂しい想いも心が引き裂かれるような想いも抱いたが結果的にまた二人で思い出の花火を見ることが出来たのは悪くなかった気がする。少し冗談混じりに語りながらも2人並んで空を見上げる。せっかくの機会だ、もう少し距離を詰めて相手と手を繋ぐ。2回目の花火で、恋人としては初めての花火。これもきっと大切な想い出になって、ちょっとやそっとの妨害では揺るがない頑固な物になるかもしれない。今回は騒動に巻き込まれての結果だったが、またここに来て色んなアトラクションに乗るのも楽しそうだと願望口にして）

俺たちはここでこの花火を見ながら付き合った、遊園地に来た時点ではまだ恋人じゃなかったな。また来るのは構わんが、お化け屋敷には行かんぞ。
(この遊園地で2人の繋がりにとって重要なもの、観覧車ともうひとつがこの花火だ。暗い園内で次々花火があがる中、相手の側近では満足出来ないことを自覚した瞬間、もっと近くへ行きたいと願ったあの瞬間がこの花火の空の下だった。手を繋ぐだけでまともに相手を見られなかった頃から随分と余裕が出てきて、今は自然と繋がれた手を自ら握り返すこともできる。普段なら照れで積極的に行動はしないが、今はもっと相手との距離を近づけたくて繋いでいた手を組み替えて指同士を絡めた恋人繋ぎにした。遊園地に再び来るのはまったく構わないがやはり苦手なものは苦手なまま、お化けや妖怪といった類は一生克服できそうにない。花火があがる夜空からすぐ側に来た恋人の方に顔を向け釘を刺すように言っておき)

そうだね、何か大分昔のことみたい。え、何で俺の考えてたことバレたの！？ ゲイツのビビってる所割と好きだったんだけどな
（この地で花火を見た日は付き合い始めた日でもある。あれからそんなに日は経ってないはずだが二人で過ごした日々が濃密であるせいか随分昔のことに感じる。あの時は手を繋ぐだけで顔を赤くしてたじたじになっていた相手だが今は自然と握り返してくれて、それどころか自ら指を絡ませて繋ぎ直してくれるようになった。それだけ二人で同じ時間を過ごしこの距離感に慣れていった結果だろう。今度遊園地に来るのならまたジェットコースターに乗るのも良いし、観覧車に乗るのも欠かせないだろう。ついでに良い反応を見せてくれたお化け屋敷に行くのも楽しそうだ…という思考を読んだように釘を刺されるとタイミングの良さに視線を相手に向け驚きを見せる。繋いだ手越しに考えている事が伝わっているのかと疑うレベルだ。普段どちらかと言えば相手の方がしっかりしていて自分の方が頼る場面が多い。だからこそ相手が弱気になるお化け屋敷で頼りにされたり縋られるのはちょっと優越感が湧くのだがこの調子では難しそうだと少し残念そうに呟き）

それだけ思い出深い時間を過ごしたという事か。買い物に行って文化祭に行って……これからも行きたい所は山ほどある。っ、やはりそうか……人が怖がるのを面白がるな！魔王め！
(あの日遊園地を訪れてから今日再びここへ来るまで様々な事があった。そのどれもが一筋縄では行かない思い出ばかりで、それ故に記憶にしっかりと刻みつけられている。当然相手と一緒でなければ刻めなかった出来事ばかりだ。そしてまだ果たせていない約束はいくつもあって、これからも一癖も二癖もある思い出が増えていくだろう。きっとその時々で相手の隣にいる幸せを噛み締める時間があるような気がする。2人一緒で良かったと様々な風景を見る度思うだろう。当然この花火もそのひとつだ。そうやって感慨深い感情に浸っていたのに、相手と言えばこちらの気も知らずによからぬ事を企てている。お化け屋敷は当然拒否だ、さらにこちらが怖がるのを望むなんて意地が悪い。繋いでいない手で相手の両頬を挟むようにして持ち叫んでいて)

ふふ、そうだね。 俺達の仲を裂こうとする人がさ、諦めちゃうくらいこれからも思い出作らないと。 いはい、いはいってば。だって、俺に頼ってくれるゲイツが見れるじゃん
（思い返せば1つの場所でも新しい相手の一面や新たに結んだ約束もあってどれも一人では過ごすことの出来なかった時間だ。すっかりこっちの距離感の方が慣れてしまってきっと出会った時の距離ではもう物足りないだろう。そういう意味でも相手には相当寂しい想いをさせてしまったし辛かったはずだ。時間軸は簡単に歪んでしまうが逆に言えばクジゴジ堂や公園、ゲームセンター、そしてこの遊園地を消さなければ完璧に改変するのが難しいということでもある。ならばいっその事もっと思い出の数を増やして強固にすれば消すのも苦労するはずだ。敵の目的を知った上で揶揄うような対抗策打ち出せばくすくすと笑ってみせ。その道中でまた相手の違う表情を…と思ったのだがお化け屋敷には反対らしく両頬を潰され少し大袈裟に痛いとリアクションを取る。周りの客は花火を見るために広場に向かったのか相手が叫んでも注目を集めることは無かった。掴まれるまま相手を見上げるがその表情には悪びれた様子はなくちょっと楽しげに言い訳重ね）

あぁ、そのうちどれだけ時間を曲げようとも必ず忘れないほど強い繋がりになる。まったく……お化け屋敷のあれは頼っているわけじゃない…それにこれでも前よりかは頼りにしてる。今回の件だって真っ先にお前の所に行っただろ。
(相手の言葉に一瞬呆気に取られる、そして笑みが零れた。仲を裂きにきた奴はまた倒せばいいとそんな思考しかなかったが、相手はそもそも裂けない絆を作ろうと言うのだ。その視点にはいつも驚かされて、自分では思いつかないもので、それでいて一緒に叶えたいと思えるものだ。それを悪戯っぽく笑って言ってみせる姿はやはり魔王のようなのだが。相手の両頬を掴んでいた手を離してやると首を振る。正直お化け屋敷での自分の行動はあまり覚えていないのだが、それを言うとまた笑みが深くなりそうなので黙っておく。ビビって腕を掴んでいるのは相手を信用しているからと言えばそうだが生身の人間がいるという意味も大きい。縋って乞うている姿が見たいと言うのならお化け屋敷なのだろうが、信頼という意味の頼るならばまさに今日の行動こそが該当する。相手が一緒ならば何とかなるはずだと連れ出したのだ、一昔前ならば1人で何とかしようと奮闘していただろう。そんなふうにお化け屋敷をなんとか回避しようと話をそらし始め)

その頃にはウォズの持ってる本にもデカデカとゲイツの名前が書いてあったりして。……ほんとだ。前までのゲイツなら一人で何とかしそうだもんね
（相手が笑みを零して賛成してくれると本格的に出来そうな気がしてくる。実際に作っていく思い出もそうだがこうやってずっと隣に居たいとお互いに想う気持ちこそが強い繋がりになるに違いない。ウォズは相手のことを必要ないと言ったが、かけがいのない人物であるのはもう紛れもない。いづれは自らの覇道を示すというあの本にも相手の名前が大きく並ぶ未来になると思えば楽しみになってくる。両頬を解放されると今日1日を振り返る。初めに記憶のない自分と接触した後、確かに相手から協力して欲しいと頼まれた。少し前の相手なら記憶が無いのなら尚更自分を巻き込もうとせずに一人で原因を探っていたに違いない。だが今回はちゃんと自分に声をかけて状況を説明して頼ってくれた。頼りにされている。何だか誤魔化されているような気もするが今は其方の嬉しさの方が強く、口元緩んでは上機嫌に同意して）

俺の名前が現れた時の奴の顔が楽しみだな。___花火も終わりのようだな。クジゴジ堂に帰るか。
(ウォズがいつも得意げにチラつかせている本、自分が相手の覇道に必要ないというのもあの本を根拠に言っているらしいが、もしそこにこの名前が刻まれたら今日以上に目を丸くすることになるだろう。因縁ある奴がどんな表情でどんな言葉を言ってくるのか楽しみだと思うあたり自分も意地が悪いと思うが、今日散々振り回されたお返しだと思うことにする。お化け屋敷から話を逸らすことは成功したようで上機嫌に笑っている様に内心ほっとする。何だかんだ相手に頼み込まれたら断れない事になるのは目に見えていて今度遊園地に来た時も同じような攻防が起こる気がしてやれやれと首を振った。そんな他愛ない話をしているうち空には特大の花火と、それを彩るように様々な種類の花火が打ち上がった。大きな音と光に包まれ息を飲んでそれを眺めたあと、そろそろ今日は閉園のようだと声をかけ)

終わっちゃったね。うん、俺達の家に帰ろ。……あ、行きはゲイツが運転したし、帰りは俺の後ろ乗る？
（二人して悪いことを考えている気がするが今回の仕返しとするなら許容範囲の話だろう。いつかはウォズにも相手のことを認めて欲しいがまだまだ時間がかかりそうだ。そんな話をしていればラストスパートとばかりに特大の花火と色とりどりの花火が一斉に打ち上がる。そちらに目を奪われしばしその景色を眺める。いつだって祭りや楽しい事の終わりは寂しさを感じてしまうがまたデートに来る約束をしたのだ、何時でも来ることは出来るだろう。繋いだ手はそのままに退場ゲートに向かって歩き出す。別々ではない、二人の家であるクジゴジ堂に帰るのだ。同じく花火を見終わった客に紛れて遊園地を後にすれば何かいいアイデアが浮かんだように声を洩らし、今度は来た時とは逆の立場での2人乗り提案してみて）

お前の後ろに？……まぁ、構わんが……途中で転けるなよ
(花火が終わり園内は再び色とりどりのイルミネーションで照らされる。花火が終わったばかりで浮き足立った人々の中を手を繋ぎながら歩く。幸せな空気が満ち溢れる園内を、さらに強固な絆をもった相手と歩くのはまた忘れられない一幕になりそうだ。帰りも当然バイクだろうと思っていたが、考えもしていなかった提案に目を瞬かせる。これまで他人の操縦するバイクに乗る機会はほとんどなく、さらに恋人の後ろに乗るとなればどこをどうつかんで乗れば良いのか咄嗟に思い浮かばなかった。しかし相手のことを頼ると言ったばかりなのだ、ここで断るのも理由がない。相手が後ろに乗っていた時の感触を思い出すも、ようは相手に抱きつく姿勢になるわけで、なんとなく気恥しい。妙な緊張感を覚えながら歯切れの悪い返事をすると、ソワソワと落ち着かない気持ちを悟られぬように要らぬ心配をしていて)

たまには人に運転任せるってのも悪くないでしょ？ そこは大丈夫だって、ゲイツを怪我させる訳にはいかないからね
（自らの提案が意外だったのか目を瞬かせたと思ったら何処か落ち着かないような態度だ。確かに体格的にも相手が運転する方が安定しそうな気もするが、さっき頼ってくれると言う話をしたばかりでもあるし運転する側というのもちょっとした憧れだったのだ。だが二人乗りの運転手をするということは相手の命を預かるということでもある。ワクワクする事ではあるが気を引き締めなければ。駐車場にたどり着いてバイクライドウォッチを起動させてバイクを出現させる。片方のヘルメットを相手に手渡せば先にバイクに跨っては後ろに乗り込むの待って）

まぁな。いつも俺が乗せていたしたまには立場を入れ替えてみてもいいが……こうか？いや、ここ？
(本当に相手の運転を心配しているわけではないのだが、ヘルメットを手渡されてもまだ変な緊張は解けずにいる。抱きつかれるのは大丈夫なのにこちらから抱きつくのは二の足を踏むとはおかしな話だが、現に落ち着かないのだから仕方がない。促されるまま相手の後ろへ乗り込む、当然このままでは振り落とされてしまうので掴む場所が必要なわけだが暫く相手の背中を眺めたまま固まってしまった。ようやく手を伸ばすも変な遠慮が発動し、手を脇腹へと添える形になってしまう。当然しっかりと掴まることはできない。これではダメかとそのまま腹側へ手を滑らせるも中途半端な所でとまり、もっと上かと胸板に移動したりして、結果的に暫く相手の体を柔くさする形になってしまっていて)

もう、擽ったいって。こういうのはピッタリくっ付いた方が安定するらしいし、もっと前に寄って全部預けてやるって感じでぎゅーって抱きつけば良いんだよ
（こちらもヘルメットを被り発進の準備をしていれば後ろに乗り込んだのは分かったがいつまでも腕が回ってこない。ちらりと後ろに視線向ければどうしていいかと分からない顔をしていた。珍しい表情を少し堪能したくて暫く口を挟まずにどうするか見ていたのだが脇腹に手が添えられたかと思えば腹部、胸部と試行錯誤する様に我慢しきれずに笑い声零し。このままでは当分出発出来そうに無いよう思えれば自分なりのアドバイスと共に相手の腕掴めば軽く自分の方に引き寄せもっとくっ付くこと促し）

す、すまん…っ、全部預けてやる、か。……これで、いいか？
(反射的に謝るもやはり緊張感は解れない。やはりどうにも他人に甘えるような行為は慣れていなくて、バイクに乗るためとはいえ相手に背後から抱きつくのは気恥しい。煮え切らないこちらに耐えかねたのか腕を掴まれ軽く引っ張られると、2人の距離は近づいて不意に緊張の糸が少し解れた。相手の言葉を繰り返す、ようは気の持ちようなのかもしれない。最近では相手を守らなければと、それが自分の新たな使命だからと思っていたが、隣に並び立つ存在ならば自分を委ねる覚悟や信頼も必要なのかもしれない。相手に言われたまま体をもう少し寄せると腕を回してぎゅっと抱きつく。体勢の都合上、相手の背中に少々体重を預ける形になってやはり慣れないと思いつつもその背中は暖かくて心穏やかにしてくれる。これでもう自分には何も出来ない、まさに相手と一心同体状態だ。まだ妙な緊張感はなくなっていないがその気にはなったようで、相手にしっかりと抱きつきながら発車を待って)

おっけー。 …ふふ、何か役得かも。じゃあ、そのまましっかり掴まっててね
（相手ほどでは無いがこちらも背後から抱きつかれるのは初めてで若干緊張してきた。相手のが移ったのかもしれない。そんな心境で待っていると自らのアドバイスに従ってもっと身体が近付いて今度こそ腕を回されて抱きつかれた。密着した背中に相手の体温と体重を感じられて不思議と安心出来る。一人で運転する時よりは身動きは多少取りにくいだろうがそれ以上にこの状況への幸せが強い。こうやって分かりやすく相手に甘えたり頼られたりする機会は少ないから思い付いて提案して良かった。相手から顔が見られないことをいい事に緩んだ口元はそのままで感想零しながらエンジンを掛けバイクを発進させる。初めはゆっくりと慎重だったが2人乗りのコツ掴めば徐々にいつも通りのスピードで道路を走り抜けていき。このままクジゴジ堂に帰る…という予定だったが少しいい事思いつけば前回の帰り道とは違う道に入っていき）

なにが役得だ。…、……___ん？おい、クジゴジ堂に帰るんじゃなかったのか？
(バイクがゆっくりと走り始めた。自らの運転ではなく走り体が風を切っていくのに最初は慣れなくて、無意識により相手を強く抱きしめる。しかしそんな向かい来る風に負けないほど抱きつく体は暖かくて次第に心は落ち着いていった。それと同じくして周囲を見回す余裕も出てくる、相手にこの身を預けたまま夜空を見上げるといつにも増して安心できる気がした。恋人に身を任せるのはまるで自分の居場所にすっぽりと収まっているようだ。こんな腑抜けた顔は相手に見せられないくらいにはただ星を眺め風を感じてリラックスすることが出来た。しかしふと周囲の風景が見慣れないものであることに気がつく。この方向はクジゴジ堂ではない、何か思い出した事でもあったのかと背中越しに問いかけて)

んー、その前にちょっとだけ遠回りしようかなって。＿…右側、見える？
（運転の最中も不意に強く抱き締められるとつい心臓が跳ねる。あの時の相手もこんな気持ちで帰っていたのだろうか。全てを委ねられているようなこの空気感は心を満たしていく。だからこそこの時間をもうちょっとだけ伸ばしたくてわざと遠い道を選んでバイクを走らせる。相手も周りの景色が普段と違うことに気付いたのか問い掛けられるが正直に理由を言うのもちょっと照れ臭くて誤魔化す様な言い方で返事をする。景色は人の多い道路を抜けて坂道を登っていく。確かこっちで合ってたはず…。曖昧な記憶を頼りに進んでいけばどうやら合っていたみたいで相手に右側を見ることを促し。周りよりも高台になったこの道路は普段暮らす街から先程までいた遊園地の観覧車まで一望出来るちょっとした有名スポットだ。速度を落としながらちらりと自分も右を見ればちょっとした夜景みたいな風景が広がっていてこれが目的だと告げ）

右？＿＿＿この時代にはまだまだ見た事のない風景が溢れてるいな。……綺麗だ。
(また相手の突拍子もない提案だ、こうやって後ろに乗るのも慣れてきた所、このまま足早に帰ってしまうのは確かにもったいないと思っていた。どちらにせよこの体勢では自分1人の意思では何も出来ない、なにせ相手に全部を預けているのだから。大人しくバイクに乗っていると不意に速度が落ちる。どうした？と声をかける前に相手に促されると言われるままに目線を横へ反らす。すると眼下には煌めく街と遊園地とが広がっていて息を飲んだ、同時に無意識の位置に相手に抱きつく腕に僅かに力が籠る。見たことも想像したこともない景色に一瞬気圧されて、そして感動というものに飲まれて、体を預ける相手にさらに近づこうとしてしまったのだ。夜といえば敵に見つからぬよう小さな火を灯すだけの暗く静かなものだった。しかし今目の前に広がるのは人々の息づく姿が反映されているように瞬く光で、その美しさに思わずため息がでる。相手の暖かな体を腕に感じ煌めく夜景を眺めながら素直な気持ちがスルスルと口をついて出ていて)

観覧車で見た時は明るかったから夜バージョンもきっと綺麗かなと思って。良い景色でしょ？…ゲイツに見せたい景色まだまだいっぱいあるから後ろに乗るのも慣れて貰わないとね
（観覧車で周りを一望した時にはまだ明るく陽に満ちていた。その時も当然良い景色だったが夜になるとまた印象が変わる。顔は見えずとも息遣いと回された腕の力の籠り方で感動してくれているのが伝わって企みが成功したことに口端が上がる。人々の営みを感じる光は自分達が守りたい物で、同時に思い出の詰まった土地でもある。未来でもずっとこの景色が続いて欲しいし、時間軸の捻れでこの時間から消えてもならない大切なものだ。素直に感想を述べる相手に得意げな声色で問い掛ける。一緒に歩いて色んな所を回るのも当然好きだが、たまにはこうやって相手を後ろに乗せてこの時代の様々な綺麗な風景などを見せに出掛けるのも悪くないだろう。自分の好きな景色を相手も気に入ってくれたら嬉しい。その為にも今の2人乗りの状況に慣れて貰わなければとくすくす笑いながら告げ、夜景の綺麗な一直線の道をゆっくり走り終えれば「今度こそ帰ろっか」と帰路の道に戻っていき）