相乗りで何処までも 【 〆 】

外で靴を脱ぐと言うのも変な感じだね。 …ああ、絶好のお花見スポットだ。
(二人がゆったりと過ごせるようなスペースを見つければ早速そこに行って相手がレジャーシートを広げる。靴を脱いで相手がシートに上がるのを見ればそれに倣って自分もそのスペースに踏み込むが公園という屋外に二人がお花見する為の場所が出来たのが不思議な感覚で少し落ち着かない様子で腰を下ろした。一息つくように空を見上げると満開の桜があって風.都.の風によってゆらゆらと揺れている。隣に居る相手の表情も何処と無く上機嫌で穏やかに流れる平和な日常の幸せを噛み締めていた。このままのんびりするのも良いが今日は良い物を奮発して買ったのだ、バッグからオードブルとお茶等を取り出し二人の間に並べ「美味しそうだ」と期待を募らせながら蓋を開けて)

そういう意味でもお花見ってのは特別だな。……おぉ、なんか並べただけですげぇ豪華だ……早速食おうぜ
(相手はどこか落ち着かない様子で靴を脱いでシートにあがり腰を下ろす。この歳になればそもそもレジャーシートを使う機会もなく、外で自分達だけの寛ぐ空間を作るというのはかなり珍しい状況だ。こういうところも花見の特別感のひとつなのかもしれない。二人で並んで座り桜を見上げる、ちらりと相手の方を盗み見れば幸せそうに桜を見上げていてそれだけでも連れてきた甲斐があったと内心思えてしまう。だが花見の本番はある意味ここからだ。相手が動き出したのをみてこちらも購入したものを二人の間に並べる、少々奮発したかいがあって美味しそうな料理が桜舞うレジャーシートの上に置かれるだけで既に日常にはない光景になっていた。思わず感嘆の声を漏らしつつ、早速メインのサンドイッチへと手を伸ばすと「いただきます」と手をあわせてからかぶりつき)

奮発した甲斐があったね、じゃあ僕も…いただきます。 …うん、シンプルだけど間違いない美味しさだ。
(お花見を楽しむ特等席を確保出来れば早速買ってきたものを並べていく。そもそも屋外で何かを食べるということも普段は珍しくレジャーシートを敷いて座って食べるとなると尚更特別感が増す。美味しそうな料理と時折桜がひらひらと落ちてくる光景を見れば自然と笑みが浮かぶ。ランクアップを頼んで良かったとご機嫌に告げながらこちらも手を合わせてサンドイッチに手を伸ばした。一番手前にあったたまごサンドにかぶりつけば潰しすぎず程よく食感が残ったゆで卵とちょうど良い味付けに満足そうに感想を述べる。続いてピックに刺さったミートボールを口に運ぶとこちらも絶品で「桜を満喫しきる前に食べてしまいそうだ」と笑って)

シンプルなもんがめちゃくちゃ美味いのがデパ地下の良いとこだよな。……そういうのを花より団子って言うんだぜ？
(かぶりついたたまごサンドは濃厚な卵の味と僅かに甘みを感じる食パンが相まってシンプルな見た目ながらワンランク上の味がする、さすがデパ地下のお惣菜といったところだ。あの時相手のオネダリに乗って大正解だった。相手も同じものを食べてご満悦な様子で、さらにミートボールへと手を伸ばせばまた満足気に笑っている。桜よりも食事に夢中な相手に笑い声を漏らすとこの状況にピッタリなことわざを教えてやる。大体の花見客も桜をじっくりみるのは最初だけなのは黙っておいた。そうやって笑っていると軽くそよ風が吹いて木々を揺らす、満開の桜は枝から落ちやすい状態になっていて一斉に花びらの雨が二人の上に降り注いだ。相手の周りに桜のピンクが舞い散る、その中で幸せそうに食事をする姿に目を奪われると無意識のうちにゆっくりと口角があがった。今自分は恋人と共に季節の行事を楽しんでいるのだと改めて実感すればゆっくりと息を吐いて「ほんと、桜見る暇がねぇな」と相手を見つめながら呟いて)

花より団子…言い得て妙だね。…、…見惚れたかい？
（普段食べる物とはワンランク上の贅沢なお惣菜に満足そうに笑って食事を進める。本来桜を見るのがメインの行事のはずだが二人で選んだ料理を特別な場所で食べるとなればつい夢中になってしまう。その様子を見た相手に今の状況にピッタリなことわざを教えて貰うと復唱しながらくすくすと笑みを零した。桜は食べ終わった後でも楽しめるのだから今は少々食欲を優先しても許されるだろう。気持ちの良い風が吹くと枝が揺れ桜の雨が降ってくる。幻想的な景色と食事を楽しんでいるとふと視線を感じて相手の方を向く。そこには桜を見る訳でもなく食事をするわけでもなく柔らかな笑みを口元に浮かべながらこちらを見つめる相手の姿があって目が合うと鼓動が跳ねた。穏やかな幸せを感じられるその表情は嬉しく思う一方照れ臭くもあってわざとからかうように問いかけた。再び風が吹いて桜が舞う。その一部がひらひらと相手の跳ねた髪の先に落ちて桜色に彩ると「ついてるよ」と言いながら近づき手を伸ばして花弁を取って）

……まぁな。……っ、……
(相手が宙を舞う花びらに埋もれる様子を見つめる、大切な人の絵になる瞬間をずっと心に焼き付けるために全ての動きを止めて相手だけを視界に収めていた。やがてこちらの視線に気がついた相手と目が合う、照れくさそうに笑う姿もこの胸を暖かくも掻き乱した。揶揄うような問いかけには素直な返事をしたい所だが周囲には同じように花見を楽しむ客も多くおおっぴらに気持ちを伝えるのはさすがに抵抗がある、結果小さく呟くような声で肯定の返事をするだけに留めておいた。そうやって恋人のことで胸がいっぱいになっている状態で不意に相手がこちらへ近づいてくれば軽く目を開く、桜色の背景を背負いこちらに近づく相手に鼓動が跳ねて思わず手を伸ばしそうになるがなんとか動きを止めて結果体を固めた状態で相手に花弁を取ってもらうことになった。変に跳ねてしまった鼓動は簡単に収まる気配はなく、なかなか平常心を取り戻せないまま「こういう時はむしろ花びらが乗ってた方がいいんじゃねぇか？」と理屈に合わないことを口にするとレジャーシートに落ちた花弁をいくつかつまみ上げ相手の右側に添えられたクリップの周りに桜の花びらを添えて)

…君がそう言うなら帰るまでこのままで居ようかな。…このお揃いならセーフだろう？
（周りに花見を楽しみ人たちが居れば家の中のように気持ちを伝えることは出来ないが自分だけが聞き取れるような声で肯定の返事がされると何とも擽ったい気持ちになる。幸せな心地の中、落ちた花弁に誘われるように近づいて手を伸ばせばその瞳と表情に動揺と恋情のような物が読み取れて無意識に口角を上げながら毛先に触れて花弁を取る。そのまま指先で摘まんだままでいると相手がレジャーシートに落ちた花弁をつまみあげて右側のクリップのある辺りに触れた。こちらからは見えないが髪飾りのように桜の花びらが乗っているのだろう。普段なら簡単に振り払ってしまう物も相手がくれたならば特別なプレゼントのように思えてその部位に軽く触れながら嬉しそうに微笑んだ。ならば、と手に持っていた花弁を相手のハットのリボン辺りに乗せて春色に彩る。これならば単に散った桜が乗っているだけに見られるだろうと秘密のお揃いにしてしまえば内緒話をするように小声でそのことを告げる。お互いに桜を纏うとちょっとだけ距離を詰めるように座り直してからオードブルに手を伸ばして唐揚げのピックを摘まんで）

あぁ、今日だけの春の装いって奴だ。…ん、……まぁ…そうだな、…
(こちらの気持ちを無理やり誤魔化すために特に理由もなく相手のクリップ周りに花びらを飾りつける。いつもの装いに桜色が足された光景も胸を暖かくしたが、それに軽く触れながら嬉しそうに笑う相手を見れば胸は幸せに満ちて、同時に乱暴に掴まれるような心地に陥る。叶うならば目に映るこの光景をそのまま映像として残しておきたいくらいだ。鼓動が跳ねて荒れそうになる息をゆっくり吐き出してなだめていれば先程毛先に落ちた花びらを持ったまま相手がハットへと触れる、どうやらこちらのハットにも桜が飾り付けられたようだ。柔らかく口元を緩めていればそれを『お揃い』だと称され秘め事のように小声で囁かれると、その小悪魔のような所業にまた胸を掴まれ掻き乱される。相手がこちらと少しだけ距離をつめて座り直す、それ以上近寄ることは無いが本当ならこのまま相手とピタリと寄り添って桜を見上げていたい。だがさすがにここでは無理だ、人の目が多すぎる。なんとも消化不良の想いを抱えたまま「もっと人気のねぇとこにするんだった…」と呟けば頬が赤くなる前にポテトを引っつかむと口へと放り込み)

今日一日落とさないようにしなければ。 …これを食べ終わったら別のお花見スポットに行ってみるかい？ 今日が満開のピークなら散ってしまう前に別の桜を楽しむのも悪くない。
(相手のハットに桜色が乗れば自分に飾りつけられた分も合わせて秘密のお揃いになる。それを相手にだけ聞こえるように囁くと分かりやすく反応するものだからついつい口元が緩んでしまう。弾んだ声で風で飛んでいかないことを祈りつつ座り直した場所で唐揚げを口に運んでいると隣から呟きが聞こえてきた。イベントか行われるような大きめの公園である為か周りには花見客は多く絶えず賑やかな声が聞こえてくる。各々で楽しんでいる様子とはいえここでくっついたりするのは二人で結んだルール違反だ。だが誤魔化すようにポテトを口に運ぶ様子を見ていれば浮ついた頭はそれを解決する為の案を口にしていた。今日で満開の桜が見納めならば次に見られるのは来年の春だ。ならば今日の内に二箇所で桜を見てしまうのもお花見を満喫する為の一つの案だろう。そんな屁理屈をこねてみながらちらり相手の様子を伺って)

…、……まぁ、……まだ桜餅あるしな。せっかく満開の日なら別の角度で桜を見て損はねぇだろ
(少々ヤケクソ気味にポテトを次々に口の中へと放り込んでいれば、相手から場所を移すことを提案されて思わず相手の方を見る。今日が今年最後の桜満開の日ならばそれを存分に楽しまなければならない、そんな理由は建前であるのは十分分かっている。相手も自分と同じような気持ちを抱えているのだと理解すれば余計に心臓の鼓動が早くなっていく気がした。だがせっかくこんなに桜が綺麗な日に相手と恋人の距離でいられないのはやはり物足りない。相手と同じく二人きりになる為の理由を重ねようとするが胸中が乱れている状態ではどうにも上手く言葉が出なくて言い訳に近い状態だった。気を取り直すように軽く咳払いすると「ここじゃねぇもっと特別な場所もあるしな」ともう1つ理由を付け加える。再びサンドイッチに手を伸ばして一口齧るが気持ちが逸るせいでその大きさは先程よりも大きくなっていて)

もっと特別な場所…それは楽しみだ。
(場所を移すことを提案すれば相手と目が合った。別の桜も見てみたいというのは嘘では無いが本当の理由でもない。そんな事は相手も分かっているのが多少ぎこちなくも同調するような返事がされて口元が緩んだ。名言はしないが思うことは同じだろう。一つ咳払いした後、気になる言い方をされてしまえば言葉を繰り返して興味を示す。何が特別なのか分からないが相手が連れて行ってくれるなら良い所に違いない。期待を寄せるように呟くとこちらもサンドイッチに手を伸ばす。先程とは違う意味で食事に集中して時折思い出したように桜を見上げたりしながらオードブルを食べ進めていく。期待に脈がいつもより早くなるのを感じながら他の花見客もいる賑やかなお花見を楽しんでいると気付けばオードブルは空に近くなっていき)

さすが、奮発しただけ美味かったな
(お互いに同様の秘めた想いを持ちつつ桜の下で食事を進めていく。二人分にしては十分な量でかついつもよりも美味しい料理にどんどん箸は進むが、それ以上に募った想いを消化したくて気もそぞろだった。時折二人に落ちてくる桜を楽しんでいればやがて皿の中身は空になる、手を合わせて「ご馳走様でした」と言うもこれで移動の口実ができたと思えばやはり気持ちが逸ってしまう。お茶を飲んで一息ついたあとに「そこそこ腹も膨れたし、桜餅食う前に運動がてら移動しちまうか」とまたひとつ言い訳を重ねる。実際桜餅を食べるには腹の空き具合的にはまだ早い、食事の余韻に浸るように少しだけゆったりとした時間を設けたあとにレジャーシートを畳んで移動を開始する。目的地までは少し距離がありその間に公園の中を進むことになれば同じような花見客や公園で遊ぶ人々の姿が見られて、それをどこか満足気にみながら公園内を進んでいく。公園の奥へ奥へと進んでいけばだんだんと人気はなくなってきて、やがて道の脇に細くて長い階段が現れた。先が見えない程上に続いている階段を前に「この先が特別な場所だ」と期待を煽るようなことを言えば階段を登り始めて)

ごちそうさまでした。ああ、デパートの総菜を選んで正解だった。…ん、そうしようか。
（相手に続いて手を合わせる。そこそこ量はあったが贅沢な食事とはやる気持ちに煽られて早いペースで食べきってしまった。ワンランク上の食事を頼んで良かったと若干誇らしげにしつつお茶を飲んで一息つく。相手の移動の提案に頷くと今一度この場所の桜を見上げてこの場所の景色を記憶に納める。程よく余韻に浸った所でレジャーシートを片付けて案内してくれる相手の横に並んで移動を始めた。公園内もあらゆる所に桜が咲いていてあらゆる所から賑やかな声が聞こえてくる。自分達が守っている平和な日常の景色とそれを満足そうに見つめる相棒の姿があれば胸は暖かな物で満たされていくようだ。相手に導かれるまま公園の奥に進むと知る人ぞ知るといった雰囲気の細く長い階段が現れる。先が見えないほど続いているのを見れば思わず「…これを登るのかい？」と自信なさげに問いかける。普段この街を歩き回って体力のある相手ならともかく基本的に出不精であまり動かない自分にとっては過酷としか言えない道のりだ。相手の特別な場所に案内してもらう為とはいえ目の前の階段に尻込みしていたが相棒が先に登り始めてしまえば覚悟を決めて後に続く。それほど角度や高さは急ではないが半分すぎの所まで登ると息が切れてくる。漸く目的地らしき到達点は見えてくると残り分も登りきる為にも「…翔太郎、手貸してくれ」と声を掛けながら手を伸ばして）

特別な場所なんだから多少の努力は必要ってことだ、ほらいくぞ
(相手は上へと長く続く階段を前に尻込みしている。整備された階段ではあるがそこそこの段数はあって、そのおかげで人が寄り付かないというのが良い所だ。相手を鼓舞するような声をかけたあと階段を登り始める。最初こそ問題なく登れていたようだが後ろから聞こえる相手の息遣いはだんだんと短くなっていく、もう少し登るスピードを落とした方が良いかと思った所で相手から助けを求められると後ろを振り返って既にへばっている相手に小さく笑う。どうやら最後まで着いてきてくれる気はあるらしい、差し出された手を取ると「もうちょっとだから気合い入れていくぞ」と声をかけ先程よりもゆっくりと相手の手を軽く引きながら階段を登っていった。そうして暫く階段を登り続ければようやく終わりが見えて最後の一段を登りきる。目の前にはひっそりとした小さな建物とその横に小さな広場があって、そこにも桜が少しだけ並んでいた。だがメインはここではない、相手の手を引くと特別な場所へと相手を連れていく。そこは公園内を一望できる展望台のようになっていて、上を見上げれば桜が咲いているのはもちろん、眼下には一面の桜色がカーペットのように広がっていた。相手の方を見れば「桜を上から見るってのもいいもんだろ？」と得意げな顔を向け)

やっと、着いた…。…！ ああ、凄く綺麗だ…桜の中に居るみたいだね。
（相手の言う特別な場所の為に階段を登り始めるが目的地はかなり高い場所にあるようで登っても登っても無限に階段が現れているような気分だ。半分ほど進んだところで体力と気力がばててしまって助けを求めるように手を差し出すとその手はがっしりと握られて引っ張られるような形で階段を登っていく。励ますような言葉と繋がった手のぬくもりがあればもう少しだけ頑張れそうな気がした。その手を握り返しながらゆっくりとなったペースで上がっていけば漸く終わりが見えてきた。最後の一段を登りきると疲れと達成感の入り混じった声で呟きを零す。この長い階段を登る物好きは他には居ないのか辺りに人影はなく広場のような所で数本の桜が風に揺れている。だが相手の言う特別はここではないようで手を引かれて先に進む。辿り着いた展望台のような場所からは先程花見をしていた公園を見下ろせるようで一面に桜色が広がっている。白っぽい物から紅が強いものまで品種の違いはあれど初めて見る光景に目を奪われて声も出ないで見つめていた。相手が得意げに尋ねてくれば期待した以上の光景に頷き、素直な感想を伝える。この場所にも桜の木があって時折桜の花びらが降ってくると上下ともに味わえる春の景色に「確かに特別な場所だ」と無邪気に笑って）

頑張って登った甲斐があっただろ？ここ、元々は公園の管理するために作られたスペースでな。今は全然使われてねぇんだ。だから…誰も来ねぇ
(桜をより一層満喫できる特別な場所、公園を一望できる場所へと案内すれば相手はしばらくその光景に釘付けになっていて、言葉にせずとも相手が何を感じているのか分かって思わず繋いだ手に力が入る。こちらを向いた相手の顔には無邪気な笑顔が浮かんでいて、それに釣られて自然とこちらの顔にも笑顔が浮かんだ。元より一般人が立ち入る事がない不便な場所にあるここは他人がやって来ないまさに特別な場所だ。先程の場所では叶えられなかったことがここでは叶える事が出来る。再びバックからレジャーシートを取り出す、先程は周りの花見客のこともあって二人分と少しのスペースしか広げなかったが、二人きりのこの場所ならば遠慮せずに自分たちのスペースを作ることが出来る。二人が寝転べる位の大きさにレジャーシートを広げると早速靴を脱いで座り「フィリップ、」と名前を呼んで自分のすぐ隣に座るように手招きして)

へぇ、…なら好都合だ。…やっぱり君とはこの距離の方が落ち着くよ。
(目の前で広がるのは正に絶景とも呼べる景色で一面の桜にここまで登ってきた疲れも吹き飛んでしまう。その感想を相手と共有していればこの場所の説明がされる。一応誰でも入れる公園の敷地ではあるらしいが知る人ぞ知るという入口に加えあの階段を見れば大抵の人は登るのを諦めてしまうだろう。つまり2人きりであると告げられるとずっと秘めていた期待が煽られて鼓動が跳ねた。少し照れ混じりに笑うとお花見の準備を手伝う。二人しか居ないことをいいことに目一杯レジャーシートを広げると先に相手が靴を脱いで座り隣へと誘われる。自分もレジャーシートに上がると今度は間を空けずに相手の隣に座ってぴたりとくっついた。春先の暖かさとはまた違う相手の体温を感じると無意識に息を吐く。所長や情報屋の皆などとお花見に来ていたならば先程の距離感でも問題は無かっただろう。だけど今日は相手と二人でのお花見で、一度自覚してしまえばどうしても相棒として恋人としての位置を求めてしまう。くっついたまま近い方の手を緩く繋ぐと柔らかな笑みを浮かべながら思ったことを口にして)

…、…だな……あぁ、二人でいるならやっぱこうじゃねぇと
(一面に広がる桜を見つつ二人きりになれる場所、ここをそう説明すれば好都合だと返事が返ってくる。これまでお互い自覚しながらも口には出さなかった二人きりの空間が強く意識させられれば、落ち着き始めていた心音は再び強く跳ねてそれを誤魔化すために短く返事をした。隣へと相手を招けば今度は二人の距離が開くことはなくて、ピタリと体を寄り添わせて並んで座る。相手から力が抜けるように息を吐く音が聞こえれば、愛おしさが胸に溢れて互いの頭さえくっ付けてさらに触れ合う面積を増やした。二人の間にある手が繋がれる、先程は決して叶わなかった恋人の距離に胸が暖かく満たされていくのを感じて繋いだ手を指を絡ませる繋ぎ方へと変えた。今年最後の満開の桜、それを上からと下から同時に見ながら時折降ってくる花びらに包まれただ二人で寄り添っている。そんな穏やかな時間を相手と過ごしている事が今はただ愛おしくて堪らなくて、心を動かされるままに体を動かすと相手の頬に短く口付けを送って)

…ん、…今日の翔太郎は何だか温かくて甘いね。
(広くレジャーシートを敷いたはずなのに二人寄り添って座っていてこつんと頭同士もくっついた。浮つく頭は心のままに動いて相手の手を取って緩く繋げば更に面接を増やすように指を絡めて繋ぎ直される。大好きな人の温もりを感じながら満開の桜を楽しむなんて何よりも平和で贅沢な時間だ。存在を確かめるように手を握り返していれば不意に相手の顔が近付いてきて頬にキスが落とされる。その行為に心底嬉しそうに口元を緩ませて離れていく相手に視線を向ける。春の陽気のせいか今日の相手は一段と甘い気がする。欲しい物を強請ればあっさり買ってくれたし、人が寄り付かない場所とはいえ完全な屋外でキスをしてくるなんて珍しい。この答えは何となく想像がつくものの相手の声でそれが聞きたくて軽く擦り寄りながらも「何か良い事でもあったかい？」と惚けたフリをして問いかけて)

そうだな……恋人と一緒に満開の桜見れたし、そいつの頭にはまだ俺が乗っけた桜があるし、しかもそいつが笑ってるからな
(すぐ側にいる相手の頬に口付けを送る、柔らかな感触のそこにまた愛おしさを感じながら顔を僅かに離すと相手は嬉しそうに口角を上げていて胸はさらに暖かく包まれていく。相手と目が合えば口元は自然と弧を描く、いつもよりも甘いと言われれば本来ならば反論しなければならないのに、なまじ自覚があるだけに否定することは出来なくてさらに緩みそうになる口元を無理やり引き締めながら短く返事をした。そんな中で相手がこちらへ擦り寄りながらその理由を聞いてくる、きっと答えなど分かっているはずなのにこちらの言葉を求めて甘えてくる相手がさらに愛おしくなって胸が詰まりそうだった。繋いでいた手を離すと相手の腰へと回してこちらへと引き寄せる、さらに近くなった距離で相手を見つめながら質問へと答えた。他にも言葉にしきれない理由は山ほどあるが今はこれらが一番大きな所だろう。周囲は桜色に染まり二人だけの秘密の空間となればここが屋外であるという事実は春風に攫われてしまって、顔をさらに近づけると短く唇へと口付けを送って)