201号室（ 〆 ）

（ 微睡みの中ふと思い至れば再度瞼と携帯開き『無論、どっかで一服やって来たって良いからね。どのみち春彦さんは休日に予約済みな訳だし、たまには羽根伸ばすのも大事よ』甘え通しの連日を思い苦笑滲ませつつ2通目送り、今度こそ眠気に負けてスマホを手放して ）

(　漸く業務終わりフロントにて2通とも確認しては疲労の窺える其の文面に少し眉を寄せ『お疲れ様。昨日は寝落ちて御免、ベッドには連れったし身体は平気だと思うけど。一先ず了解した、あんたの気遣いに甘えて羽伸ばしに今から帰る…』まで打った所で相手の睡眠を邪魔しかねないかと気が咎めればメール文を破棄して携帯を閉じ、家路に着いて。相手の意向に背き帰宅した足で最初は寝室覗くも其処には居ず、ソファで微睡む相手を発見すると緩む表情に反し呆れ声零しつつ髪撫でて　) …何で此処で寝てるんだか…。

…君の匂いがするから。──えー…あれ、どうしたの、羽休めのほうは。（ 夢現に足音を聞き、髪を撫でる手によって夢の方に意識が傾けば問われるまま微かに零し。しかし声を使った事で目が覚めると失態に気づいて寝起きの顔歪め、上体起こそうとしつつ回らない頭ではぐらかし ）

…そう。何でも良いけど、そんな何も掛けずに寝てたら身体冷えるよ (　独言に微かな回答が耳に入り、僅に見張った双眸を其方へ向け。途端に顔歪める相手と相対し滔々と湧く愛しさで微笑零し、敢えて素っ気無く述べつつ相手の胸元に両腕乗せ阻めば"してるじゃないか、今"等とはぐらかしに対し曰い、胸上で両手を重ね手の甲に頬宛がって　)

…あっためてくれてるじゃない、芳樹くんが今。今日こそ俺が熱烈に出迎えようって狙ってたんだけどねえ…これじゃおかえりのキスも届かねえや。（ あっさり受け流される事で余計羞恥心を煽られ、動揺する胸に相手が頭を乗せてくれば普段以上に鼓動高鳴り。相手の言葉を借りて誤魔化すも愛らしさに参る表情は隠せず、せめて視界覆うように両手でくしゃくしゃ黒髪を撫で ）

…流石に分かるか。其れは残念だったね、ベッドで寝てなかったのが敗因…＿キスは届かないけどさっきから嬉しい反応してくれてるし僕は満足かな。 (　温もりを堪能してたが、ふと掌から伝う鼓動が些か早いのに気付き横目で見遣れば相手の緩んだ面持捉え。間もなく両手により遮られるが其の様子に嬉々滲む愛慕込上げ、掻き撫でられる儘其の手に擦り寄ると悪戯な言葉並べて　)

そりゃあ分かるよ。でなきゃこんなワンコっぽい事しないだろ、うちのにゃんこは。…歳上を揶揄う悪い口はこの口か。こんな美人がこんな可愛いアングルでおはようしてくれたらしょうがねえだろ、もう。（ 乱雑さを徐々に労り込めた手つきに変えながら寄せられる頭を撫で続けるも、足掻きも虚しく見抜かれればぐっと言葉詰まらせ。せめてもの抵抗に相手の唇を柔く摘み、楽しげなやけくそで開き直っては"もう寝る"と態とらしく顔を背け、数秒後耐え切れず付け足してから本格的に狸寝入り始め ）…明日は日ぃ出てるうちに帰ってくるから、多分。そん時までキスのツケ、覚えといてくれるかな。それじゃあおやすみワンコくん、癒してくれてありがとね──これ寝言なんで返事不要ね。君もゆっくり休んでよ、無論、ちゃんとベッドで。

ワンコっぽいニャンコって何なんだか。幾ら当たってても不本意だね……ふ、僕の所為だと言いたいの、あんた。年上なのに大人気ないな。 (　不服申立てる傍ら、段々と梳く様に撫でられる心地好さと黙り込む姿に満悦気な微笑浮かばせれば徐に唇摘まれ。其の儘静に開き直りへ耳傾けるも終わるや否や顔を背ける相手に出た、とばかりに喉奥鳴らして卑怯な口上を述べ。漸く顔を上げた所で付言を掛けられると弛緩した唇の笑みを深めつつ其の頬に口付けた後、立ち上がってはリビングを後にし　) 別に帰って来さえしてくれれば何時でも構わないよ…忠犬ハチ公の其れらしくは出来ないけど、待っててはあげるから。はいはい…此方こそ疲れてるのにどうも、僕はシャワー浴びて来るから其の間にでもベッド行きな、煩わせたくないってならね。じゃあお休み春彦さん、遅れて御免。

雨だの休日返上だの嫌んなるわな、本当。一個くらい良い事──…お。（ 車内であるのを良い事に予定より遅れる帰宅へぶつくさ文句を並べ、マンションに続く道を行き。道すがら癖で喫煙所に目をやればつい声弾ませ車停め『休日出勤お疲れ様、忠犬ハル公が迎えに来てるからチラっと外見てみ』自然と口元を緩ませつつ"一箱空ける勢いでゆっくりして来な"とも付け足したメールを送信し、助手席の荷物を退けると煙草とノートPCのみ膝上に乗せ ）

…語呂良いな。 (　喫煙所内で1人、震えたスマホを操作しメールに目を通せば相好崩して。返信はせず懐に携帯を仕舞いつつ扉開けて外へ出るなり回視し、直ぐ路肩に停まる見慣れた車を発見すると傘立てから抜いた傘を開いて其方へ歩み寄り。其の儘運転席にてPCを触る相手を認めれば煙草咥えた唇に笑み萌した面持で窓を1回ノックし　)

…おー、来た来た、待ってたよご主人様。こんな日に仕事なんて災難だったねえ、せめて晴れてりゃマシだけど。（ 雨音混じりの物音に顔を上げ、相手の姿を捉えれば驚きと喜びから普段以上にオーバーに破顔して。キーボードに触れていた手で窓を開け"湿気ちゃう前に乗りなよ"と己も煙草くわえたまま促し、犬らしく浮かれる心地を隠さず声弾ませ ）

ん、出待ち含め色々とお疲れ様…＿＿その言葉、其の儘そっくり返すよ。別に僕はマイナスな印象も然程無いしね（　窓越しに驚喜で花咲く様な笑顔と見合せ、胸に迫る悦びでくすくすと忍笑うと促しに頷いた後労いの言葉掛け。弾む声音が愛しく窓へ手を差入れ、相手の髪撫ぜてから助手席側に回り込めば傘畳んで乗車し会話を再開して　）

へー、やっぱサラサラストレートの子は言う事違うね、夜な夜な彼氏の天パで楽しんでるだけあるわ…ま、出迎えの口実って一点だけは雨も悪かないと思うけど。（ バニラの香りが残る乱れ髪をそのままに、隣へ乗り込む相手に撫でられ通しの連日を思えば茶化すような言葉添え、1束髪を掬って。暫し弄ぶも続きを堪えてPC片すとワイパーやライトの調整に気を取られて本音漏らしつつ、ひとまずマンションへと移動始め ）

何分苦労知らずな物で。後は…あんたの髪、撫でてる実感があって好きなんだよ＿…口実、ね。其れだけ厄介事だと思ってる、あんたの唯一の美点だと言うなら悪くないかな (　髪は放り茶化す相手へ対抗の如く、流し目と共にさも憎まれ口叩き。髪に指通ると大人しく其の心地を味わう傍ら携帯灰皿へ煙草の灰落とし、軈て手が離れればつい視線寄越しつつ相手の本音を受けて。単調な物言いで述べ発進する車窓に瞳移すが、再び髪に触れては嬉々を示す様手櫛で整え　)

実感の無い髪って何よ、誰と比べてくれちゃってんのかしら。猫？…芳樹くんが絡んでりゃ何だって美点になるからねえ、梅雨でも冬でも。この調子で夏も頼むよ、馬鹿みてえな猛暑を乗り切れるように。（ 可笑しな理由にくっと喉奥鳴らし、半端な嫉妬の芝居を打ちつつ短くなった煙草を灰皿へ落として。手櫛に気付けば濡れたフロントガラスに目を凝らしたまま自然と助手席側に頭傾げ、しみじみ語っては"露出が増える的な美点とかね"と下らない妄想付け足し ）

な訳…今まで撫でて来た人間に決まってるでしょ、直毛で矢鱈細い髪質の子が多かったから印象深いって言えば分かる。…そう。まァそんな事言われなくても、僕の家に居る分には苦労はさせないよ。（　可笑しそうな笑声に次ぎ生半可な芝居打つ相手に緩り指摘し、些か肩竦ませ雑に言い直し。心持ち傾げる頭に目許緩めつつ直し終るとするり指滑らせて離し、染々な語りに耳傾ければ紫煙と共に安穏と言葉吐き"出て精々腕くらいだけどね"等と見えて来たマンションを眺めた儘現実的な返しも加えて　）

…芳樹くんも頭撫でたりしてやんのね、って若い子らにはよくやってたか。仰る通り剛毛と歳上枠は俺だけの特権だけど。…梅雨明けまでにはそっちに避難、もとい引っ越したいモンだ。ただまあ、クソ暑い春彦邸で君の半裸狙うってのもアリだなあ、服なんか着てらんない室温だから今。（ 具体的な修正が相手の過去を想起させると意外性から素で零し、ついそちらへ向いた視線を戻しながら元通りふざけた声音ではぐらかし。穏やかな言葉に近づくマンションを羨ましげに見上げ、離れる指の名残惜しさから下心と現実案をごちゃ混ぜにしつつ車停め。片手で相手を留めて先にドア開き、傘を差し助手席側に回ってから降りろと手招きし ）

喫煙所のは例外…あんな圧が凄い撫でろムーヴかまされて断る方が面倒でしょ、別に嫌な訳では無いし。まァ其の剛毛を撫でたくて僕から行ったのだから当然だろう＿…僕もそうする事を勧めるね。…ナシだよ、大体そんなサウナ染みた家に居たら熱中症になる（　一瞥する相手の意外そうな声に目瞬かせ、其の横顔を見つつ茶目ないなしへ緩くも明瞭に述べ。煙草の後始末の傍ら返された案を心配から突慳貪に却下し、制止される儘待てば先に降りた相手が眼前で手招き。直ぐ意図を察し逡巡するも軈て薄く微笑むと荷物を手に相手の傘へ入り肩同士をくっ付け。ロックをする時間を設けた後に歩き出しては濡れぬ内に入口潜りエレベーターに乗込んで　）

御免、また寝落ちたね……悪いけど此の儘持ち越しで続けて良いかな。折角なら迎えに来てくれたあんたに礼したいからもう1日だけ付き合ってくれると嬉しい。何時も通り自由にして貰って構わないし、ロルも短くするなり何なら帰宅した後まで飛ばしても平気だから。じゃあ此方は蹴って。

ははっ、モテる男は辛いなあ。あんだけ引っ張りだこだったのは君くらいのモンよ……っつーか、んな上手い事言われたら妬くに妬けなくなるでしょうが。（ 相手が述べた光景を思い出し微笑ましげな笑声弾ませ、それが収まる頃合いにふっと吐息交じりに冗談めかし。施錠終えた車の鍵をポケットに落としつつ傘閉じ、相手に続いて上階へ向かうと部屋の前で"お先にどうぞ"と傘の水滴を落とす傍ら促して ）


阿吽の呼吸って奴かねえ、俺も続行頼みでがっつり寝落ちてたとこ…って惚気たかっただけなんでこっちこそスルー案件ね。お言葉に甘えて若干カットしたし、お陰様で普段の朝帰り生活に戻ったからさ、芳樹くんが眠くなるまでお礼とやらをエンジョイさせてよ。じゃ、こんな時間だけども引き続きもうちょいよろしく。

…どんなモテ方なんだか。其れはそうでしょ、他は引っ張ら無くても撫でるんだからね…逆に今ので妬こうとしてたの、あんた。（　和んだ笑声立てる相手と同様な光景を彷彿しやれやれと言った具合に呟き、吐息混じる冗談聞けば訊ねと共に小さく喉奥鳴らし。ドア前での促される儘礼添え、傘を立て掛け先に家に上がれば身を翻し"偶には荷物渡して"と続いて来る相手へ手を差出して　)