201号室（ 〆 ）

…外が寒いんだか俺が暑いんだかわかんねえ奴だな、これは。（ 喫煙所を出れば肌を刺す冷気に眉を顰め。ポケットに手を突っ込んだままぼやきと共に相手を待ち ）

其の儘凍えてみたら分かるんじゃないかな…。と言うかせめて人の話を聞いてから連出して欲しかったよ (　やや相手より遅れて扉開け出て来れば歩寄りつつぼやいた其の言葉に容赦無く放ち　)

…今度こそマジでぐうの音も出ねえや。本当ごめんね。どうかしてたわ、さっきの俺は（ 最もな指摘に上げた顔をさりげなく逸らし。ばつの悪い半笑いを浮かべながら手招いて歩き出し、停めてあった車の前まで来れば助手席側のドアを開けて ）続きは俺の部屋でって言ったけど、やっぱ遊佐くんちまで送ってくよ。何だかんだで時間も時間だし──返事なんかいつだって良いからさ。

怒っては無いよ…ただ余りに突拍子も無いから、色々とまごついたじゃないか。此方も遅れて御免（　逸れた顔を視線で追いつつ半笑い浮べる相手に静に述べると手招かれる儘歩を進め。車のドア開ける相手に礼を入れるが降って来た台詞に相手の方へ振り向き　）…別に送ってくれるのは純粋に有難いけど、返事に関しては今言えるでしょ。

いやいや、こうして来てくれただけで万々歳。…本当、君の前だと駄目人間に磨きがかかるから嫌んなるな（ 謝罪に自然と振り返っては安堵を隠さぬ声音で答え。ドアを押さえたまま自戒とも自嘲ともつかない呟きを零すも、眼下の相手と目が合えば「…そりゃそうだ」と短く答えて運転席に乗り込み。エンジンはかけず、街灯の仄かな明かりに照らされた横顔を見つめて ）──そんじゃ、改めて聞かせてよ。遊佐くんの話。

ああ言われたら来るしか選択肢が無いだろう。ふぅん……あんたが嫌いな所が僕に需要あるとは思わないんだ。（　安堵の色に絆された様な感覚すら覚えふっと口許緩めては自嘲に上塗りとばかりに呟き零し。相手の短い返答に其の儘車に乗り込み助手席に座って片手でシートベルト付けつつ薄闇の中此方を見る瞳の輝きを見詰めては　）正直、こう力技で来られちゃ話す話もなくなったよ。返事は当然OKに決まってる、だって僕は…自分の感情が制御出来ないくらい春彦さん、あんたが欲しいと焦がれてたのだから。

客観的に考えりゃそうだけどさあ、小っ恥ずかしい長台詞を吐いた身としてはこう、それこそ身の凍るような数分間だった訳よ。…遊佐くんの唯一の欠点見っけ。男の趣味。（ 緩む表情につられるように馬鹿正直な本心を明かし、思わぬ呟きに目を丸めては一言相手を指差して ）……こんな時に呼んでくれるんだもんなあ、狡ぃよ全く。焦がれるも何も、端っから君のモンだったのに（ 詰まる息を細く吐き表情隠すように項垂れて。鼓動が落ち着けば告白にも呼ばれる名にも未だ脈打つ胸をトンと指で示し、愛おしげな微笑みと共に相手の頬へとその手を伸ばして ）良いよ。何もかも全部君にやる。──幸せにするから（ 短い言葉に想いを詰め、柔らかな弧を描く唇を寄せ ）

台詞は扠置き其処は寧ろ堂々とする所だから、逃げ出しちゃうとは愛おしい人だね。僕だって、あんたみたいなタイプは初めてだよ…まァ例え欠点だらけだったとしても僕が補えば問題無いでしょ (　相手の本音に呆れた様な声色で指摘し、指差す指を摘んで下ろさせつつ特段気にする様子も無くさらり言放ち　）あぁ…名前？心配しなくても此れからは呼ぶよ。（　項垂れる相手を見詰めた儘静かに答え、胸差し発する相手の端っからと言う台詞に追求したい気持ちが膨らむも愛し気な微笑で手を伸ばされれば胸にしまい込み　）当然だよ、僕の全部をあげるんだしね。ん…＿＿で、一体何時エンジンかけんの？凍えるよ（　心地良く響く声に自然と鼓動が早まり、小さく返事し寄せられた唇に軽く触れた所で其の間に指滑り込ませ遮断しては意地悪くも上気述べ　）

…揶揄われてる気しかしねえのに喜んでしまう浅ましさよ。俺どんだけ君の事が好きなんだろうな（ 懐疑的な眼差しを作るも連なる言葉に吊り上がる口角は誤魔化せず、降参と素直ににやけながら他人事のようにぼやいて ）──はい、今かけます。ただでさえひんやりしてる恋人を凍えさせる訳にはいかないからね……正直あと1秒だけ我慢してほしかったけど。じゃ、帰したくなくなる前に今日の所は帰ろうか（ あまりに魅力的な台詞に思わず喉を鳴らすが、お預けを食らえば微かに熱を帯びた瞳を細めて身を引き。エンジンの音に紛れて冗句めいた欲を零しつつ緩くアクセルを踏み案内のままに車を走らせ ）


──なんつーか、謎が謎を呼ぶ数日間だったなあ。とんでもねえ幸運と我が世の春が訪れた事だけは分かるんだけど。…という訳でこれ、遊佐くんに（ 相手の家の前に停まるとすっかり普段のペースでポケットを探り、銀色の鍵を差し出して ）俺の部屋の鍵。送ってもらった事あるし、場所は分かるだろうから気が向いたらいつでも寄ってよ。二人で話したい事が多すぎるからさ──あ、何なら俺が居ない時でも好きなだけゴロゴロしてな。（ 指先で揺らす鍵を相手に渡しどこか楽しげに誘って ）

夜明けまで散々振り回しちゃったけど、お陰でめちゃくちゃ良い夢見れそう。ありがとね。レスは蹴っちゃって良いから、遊佐くんも少しは横んなって休みなよ。それじゃあおやすみ。

好きなだけ此方に嵌って行きなよ…そしたら今後愛想が尽きる様な事が起きても少しは残るからね？（　にやける口許に視線遣りつつ相手のぼやきに返答しては愛おしさから其の表情綻ばせ　）正直僕の心配より自分の心配をして欲しいんだけど。いや…駄目だよ。彼処で妥協してたら僕が我慢出来なくなる（　相手が素直に引き下がるのを認めては指下ろし、エンジン音をバックに耳聡く拾い上げては発進する車の振動に負けそうな程小さく呟いては視線を窓へと移し「懸命な判断どうも」等と述べながら流れる景色を眺め　）

＿＿現実は小説より奇なり、で納得しときな。あぁ…覚えてるけど…居ない時には無用心過ぎるでしょ。まァ…話したい事があるのは了解した、気が向いたらね（　淡々と返答しがてらシートベルト外し相手の長指の間を揺れる鍵抜取ればさっさとドア開け降り。掌に光る鍵を少し眺めてはゆっくり握り込め、振り向き際に相手へ微笑送り　）いや、此方こそ何時も遅くまで無理させて御免。でも感謝してる…お休み、次会った時は続きするから覚悟しときなよ。

(　業務終わり会社から車で一度自宅マンションへ戻り、シャワーと簡単な荷物纏め済ませてはトランクに詰み其の儘直接相手宅へと向かい。停車スペースに車停め詰んだ紙袋提げ降り、部屋の前までやって来るとインターホン鳴らして。返事が無いのを確認すれば若干気が引きつつ昨晩手渡された鍵取出して解錠し、入室するもそれ以上は足踏み入れるのが憚られ。玄関と部屋を区切る僅かな段差に腰下ろし隻手で膝抱える格好になれば手元の鍵見詰め　) …連絡先より鍵とは。…あー…用事があるなら其方を優先して、都合良くなったら顔出して貰えれば構わないから。

──俺は携帯を携帯しない男だからね。もう一つ言うなら何をするにも好きな子の事をいの一番に考えてしまう、顔に似合わず純情な男でもある（ ネクタイを緩めながら気怠げな足取りで帰路に就くも、見覚えのある車が視界に入れば足早にアパートの階段を上り。扉の向こうから聞こえた声に緩む表情を抑えつつドアノブ回し、したり顔で答えてみせるも座り込む相手を不思議そうに見下ろして ）…いやいや、寒いだろそこは。中で寛いでくれて良かったのに。

…棚上げしてないで文明の利器を使って。それは知ってるよ、浮かれて連絡先教える事も頭にないくらいだしね（　開扉の音に反応し顔上げると真っ先に視界に映ったのは相手他ならぬ姿で。其の儘上目で返答にぴしゃり言放てば緩慢と立上がり　）…家主不在の住居に我が物顔でいれるほど僕はそこまで神経図太く無いから。＿…取り敢えずお帰り、待ってたよ。 (　皺伸ばし改めて向き直れば控えめに述べ　)

浮かれてんだかテンパってんだかねえ、その事に気付いたのつい5分前くらい。というわけで、今日こそ後でメアドだかラインだか教えて。遊佐くんの名前が入ってりゃ絶対忘れずに携帯するから（ 歯に衣着せぬ物言いが小気味良く、からりと自分を笑い飛ばしては親指立てて自信ありげに提案し。しかし立ち上がった相手と視線が揃えば控えめな言葉を味わうように無駄口を閉ざし、ふっと複雑な笑み零しつつ伸ばしかけた手を下ろして靴を脱ぎ ）……本当、未だに自分の目を疑うわ。夢だって言われても普通に信じるね…取り敢えずリビング行こうか、寒ぃから。

何方もでしょ、まァ帰り際に教えとけば良かったのにしなかった僕も同義だけど。言われなくても教えるから今日来たんだ…登録しときなよ（　相手の反応に吐息混じりながら零しては提案にさも当然だと言った様子で親指立つ其の手を取り、胸ポケットからペン抜取れば相手の手の甲にメアドを書記し。不意に見せた様々な感情含ませた笑みに心拍が上がるも気取られぬ様さり気無く靴へ視線落とし、促しに此方も靴脱ぎ揃えては床に足裏付け　）勝手に夢オチにするんじゃないよ。…お邪魔します。

全く何でもかんでもお見通しだなあ、片想い以外全部バレてんじゃないの。俺の分までしっかりしといてくんないと困るよ…ちなみに"遊佐くん"って登録しときゃいいの？（ 感心半分揶揄半分の冗談を返しつつ昨夜の言葉を思い返して口角吊り上げ。手に刻まれたアドレスに一層笑みを深めるも、欲が顔を出せば遠回しに未だ明かされていない本名を尋ねて ）俺にとっちゃあ夢より夢なんだよ、君が此処に居るってのは。まあ自分んちだと思ってのんびりしていきな、汚い所だけど──マジで汚ねえな（ 短い廊下を歩きながら他人事のように遠く答えるもリビングに足を踏み入れればしまったと言うように呟いて。ソファーやローテーブルに散らばる本と書類を拾い上げては雑に積み上げ、その裏にビールの空き缶を隠しながら「何か飲む？」と何事もない顔で提案し ）

…その片想いってのがずっと引っ掛かってるんだけど。先ず自分でしっかりとしようとは思わない訳ね。…分かったよ。言やァ良いんでしょ (　僅に片眉上げては永らく抱いていた疑問口にし。続く台詞と深みを帯びた笑顔に降参とばかりに吐捨てると暫し沈黙の後「芳樹って書いて…よしき。序に言うけど誕生日は1月2日」静に名を告げ　) なら紛れも無い現実だと思うまで…傍に居れば良いよ。＿＿ッ…、本当に予想を裏切らないなぁ…（　続く様にリビング入れば相手の呟きに瞬きするも直ぐその意図を察しては込み上げる笑いに抗う事無く口許抑え肩揺らし。落着き取戻せば「御構なく…それより着替えて。片すから」とあっさり提案蹴りスーツ姿の相手を指差し　）

時間も時間だし…ロル長くて大変だったら大幅に削って良いよ、此方は返事しなくて平気。

え、聞きたい？……芳樹、芳樹くんね。皆には黙っとこう。あと一、二週間早く会えてりゃ誕生日祝えたのになあ、とんだニアミスだわ（ 疑問形の体を取りつつ"何故？"という表情で相手の指摘をはぐらかし。教えられた名を大事そうに繰り返しては悪戯っぽく目を細め、再び普段の調子で無念を嘆き ）いいよいいよ、それこそお構いなく。空いてるとこ座って荷物も置いちゃって。…変なモン出てきたらアレだしな（ 楽しげな相手に喜ぶべきか恥じるべきか曖昧な苦笑を浮かべ、手に持つ紙袋を指しながら寝室へ向かい。さりげなく告げられた言葉に今更胸の疼きを感じつつ、緩いカーディガンに着替えると素知らぬ素振りでリビングへ戻り ）


了解、頭働かなくなってきたらさっくり短縮させてもらうよ。俺もだらだら喋ってるから、そこらへんは遊佐くんも好きにカットしちゃって良いからね。ありがとう。

それはそうでしょ。好きにしなよ…誕生日なんて書類に記載するから覚えてるだけだし、いきなり祝われても忘れてると思うよ (　はぐらかされ面白く無いのか雑に答え。己の名を復唱する姿を愛おし気な眼差し送るも嘆き聞けば瞠目しぽつり呟いて　）ふぅん…其れなら今日はお言葉に甘えさせて貰おうかな。（　返答にまた笑い込上げ目許細めつつ承諾しては端に紙袋置き自身も着座して待ち。軈て緩い格好で戻って来た相手を捉えては招く様に手伸ばし　）＿＿昨日言った事覚えてる？其れだけしたら寝ようか

…まあ、初めはただの憧憬だったんだけどね。君の在り方とか言葉の一つ一つとか、若干とんがった所とか。そういう所がただただ好きで──はい、続きはまた今度。…自分の誕生日にまでドライな人間初めて見たわ。じゃ、来年は覚えておいて（ 宥めるようにくつくつと笑い声を零せば懐かしむ眼差しで相手を見つめ、ほんの一部を語った所でふっと区切り。身も蓋もない呟きへ率直に零すもすぐ切り替え肩を叩いて ）──あぁ、あれね。覚悟だっけ……良いよ、一体何してくれるんだか（ 誘われるまま歩み寄ると隣へ腰下ろし、意地悪く唇へ弧を描けば受け入れつつも揶揄うように相手の顔を覗き込んで ）