白む空に燻る紫煙　---〆

( 駐車場に車を停めて相手の帰りを待つ。何かを買って来てくれと言わず水から店内へと入る背中をぼんやりと見やりつつこの後の流れを考えれば時間はあっという間に経つもので、戻って来た手には新しいミネラルウォーターが。そんな律儀な事をしなくたって構わないのに。何も気にせず事件を＿＿自分の事だけを考えればいいのに。口にはせずに素直なお礼の言葉と共に受け取ればキャップを外し一口だけ喉に流し込み。「凶器の特定は残った銃弾から鑑識に任せるとして、先ずは聞き込みかな。園での再就職は犯した罪が罪だから難しいってわかってる筈なのに何で拘るんだろう。…もしかしたらまだそう言った感情が残ってる可能性も否定出来ないし、何にせよ情報が足りないよね。」いつにも増してペラペラとよく回る口。相手の忠告に力強く頷きキャップを閉めたミネラルウォーターをドリンクホルダーへと差し込み車を走らせれば「一度署に戻って被害者とヘンリー、後他にも容疑者として上がる人達の繋がりを探してみる。」と先ずは捜査の話を。続けて「…不謹慎だってわかってるけど、亡くなった人達は皆即死だったらいいなって思う。」ぽつり心中を口にして )

　






（　自分も署に戻ったら他の署員による近隣住民たちへの聞き込みの結果を踏まえて被疑者を絞っていく事にしようと頷いて。相手の呟きは、自分もこれまで何度も考えて来た事。___あの日目の前で行われた虐殺が、せめて痛みも恐怖も感じる暇が無い程一瞬で被害者たちを天国へ連れて行ったのなら。そうだな、と一言同意を示したものの、祈るような、それでいて確かな信頼を宿した瞳を此方に向けていた妹の顔が浮かびそうになり思わずそれを遮るように相手の名前を呼び止める。「悪い、家の前で一度降ろしてくれ。忘れ物をした。先に署に戻っていて構わない。」と、署に戻る途中の自宅に降ろして欲しいと頼み。今日は精神安定剤が無ければ仕事になりそうもない、自宅に処方された薬があるためそれを取りに一度戻ろうと決め。自宅からは歩いていける距離のため、待っている必要は無いと告げておき。　）






　

＿＿署で待ってるね。
( 署へ向けて車を走らせる道中、相手の家付近に差し掛かった所で急に立ち寄ってくれと言われれば従う以外の選択肢はある筈が無く家の前の道路に車を横付けして。確かに車が無くとも徒歩で余裕で戻れる距離ではある。けれども違う不安が胸の奥に巣食い消える事が無ければ「此処に居る」という言葉を無理矢理飲み込み、暗に絶対に戻って来てという願いを込めた言葉を送り。相手が家の中へ消えるまで背中を見やった後、やけに重たい気持ちを抱えながら署へ戻ればやれる事をやっておこうとデスクでノートパソコンを開いて。＿＿園児を除けば被害者は大人二名。その内の一名エミリー・ブラウンの元夫、ライアンがDVとストーカー行為で警察の名簿に名前が載っている事もわかった。容疑者としては十分に考えられる。明日はヘンリーについて近所の人達への聞き込み と、ライアンへ事件当時のアリバイ確認に行こうと決めつつ更なる情報が出て来ないかとキーボードを打ち続けて )

　






（　家に戻り精神安定剤を服用してから10分ほどソファーに腰掛け気持ちを落ち着ける。これ程気持ちがやられてしまうのは珍しかったが、例の事件にあまりに酷似した状況だけに仕方が無いのかもしれない。心身の負担を考えれば捜査を降りるべきなのだろうが、それでは仕事を続けてきた意味さえ無くなってしまう。酷似した事件だからこそ、あの時のような負の連鎖にならないよう、遺族のケアに至るまで完璧にやらなければならないのだと自分自身にも強く言い聞かせて、署へと戻り。その残虐性や、被害者が園児や教諭6名にものぼる事、加えて容疑者が未だ不明な犯行である事。それらを加味すれば夜のニュースでは恐らく各局大々的に取り上げる、規模の大きな事件だけに、それまでに済ませなくてはならない事があり。署に戻り程なく、園児を含め被害者全員の身元が分かったとの報告。「ミラー、全員の身元が分かった。遺族の所に行く、車を出してくれ」とそのまま資料を手に相手のデスクへと向かい。他の園児や教諭は既に別の教会に避難し家族が迎えに来ているため、我が子の姿がない事に取り乱している家族がいるはずだった。戻って数分と経たずに相手と共に再び車に乗り込む事となり。　）





　

私もわかった事があるの！エミリー・ブラウンにはDVが原因で別れた夫が居て、その後も数回ストーカー行為があったって。
( キーボードと紙を捲る音が響くフロア内でひたすらに画面と睨めっこを繰り返していた時間はそんなに長いものではなかった。一度自宅へと戻った相手が戻って来たのだ。もしかしたら倒れているのではないかと嫌な想像ばかりが頭も心も支配していたのだからその姿を見た喜びもひとしおな訳で、されど仕事柄いつまでも一つの感情に縛られる訳にもいかない。言われるがままにコートを羽織り再び席を立てば車へと乗り込み。一先ず己が調べた情報の共有を。続いて相手の言う遺族の元へ向かうべく車を走らせて。「最初は誰の所に？」何か考える事があるのだろう。それにしてもパッと見た今現在、相手に先程までの揺らぎは見受けられない。心身の何らかの不調が少し和らいでいるのだろうか )

　





（　新たに得た情報を少し興奮した様子で報告する相手はブンブンと振られている犬の尻尾が見えるような気さえするもので、その真っ直ぐな姿に強張っていた気持ちが少し和らぐように思えてしまう。ようやく不安定だった気分が落ち着いてきたようで、いつもの調子が戻って来ては「元夫が今どこに住んでいるかにもよるが、恨みや執着心を一方的に募らせて反抗に及んだ可能性もあるな。身辺を洗ってくれ、戻ったらデータベースでも確認してみる。」と、被害者の元夫についても手帳に書き加え。一旦避難先の教会に向かい、未だその場に留まっている家族にはその場で説明を、家に戻っているのなら牧師に住所を聞き訪ねる必要があると言って。目的地が近づく頃には先ほど感じていた強い不安も幾分マシになっていて、このまま極力冷静に捜査に当たる事を誓う。「…お前は車で待ってろ。立ち会うのはまだ早い。」家族に子どもの死を宣告するのは、殺人事件の捜査に関わるようになって日が浅い上に共感性の強い相手にはまだ酷な業務だと思えば、教会の塔が見え始めた頃になって口を開き。今回は車で待機させた方が良いだろう。　）






　

明日必ずいい話を持ってくる。
( 『良くやった』そう言って貰う為に仕事をしている訳では無いがその言葉は少しだけ肯定感と安心を運んで来る。明日の聞き込みでより良い情報を取れればその分事件解決も早まるかもしれないのだ。静かで比較的治安の良い雰囲気の場所なだけありこの物騒な事件はマスコミも放っておかないだろう。実際避難先になっている教会にも何処から嗅ぎ付けたのかカメラが数台居た。この時ばかりは空気を読めと腹立たしい気持ちになる。＿＿目的地の教会までもう目の前との所でふいに掛けられた言葉。「え、」と思わず隣の相手を見やる。直ぐに頭を前に戻しその意図を考えるも気持ち的には共に付き添いたい。「＿＿無理だと思ったら直ぐ車に戻るから、私にも立ち会わせて欲しい。」何かを考える少しの間を置いてからこれもまた命令無視だろうか、一先ずの要望を伝えるも次駄目だと言われたら大人しく引き下がる気持ちも持ち合わせていて )

　





（　同行し捜査担当の刑事とバレれば事件解決までの間マスコミにも追い回される心配がある、酷く動揺し取り乱す家族を目の前にすれば苦しい気持ちにもなるだろう。それでもどうしても立ち合いたいと言うのなら無理に止める事は無いが、同行を決めたのなら途中で根を上げる事は許さないと厳しい一言。「一度遺族と相対したら途中で出るのは無理だ、不誠実な印象を与える。最後まで向き合え。マスコミには何も答えるなよ。」---結局相手を連れて教会に向かうと気付いたマスコミにカメラを向けられる。幾つも浴びせられる質問に正式な報道発表を待てとだけ答えて中に入ると、待機場所となっていた礼拝堂には4組の家族。皆一様に肩を落とし、祈りを捧げている者も居たが一斉にその視線が自分達に注がれて。それぞれの名前を確認し全員が被害者の家族である事を確認すると、ゆっくりと話し始める。被害者があなた方のお子さんであると言う事、窓の外からの銃撃でほぼ即死であったであろう事、犯人が未だ特定されて居ない事、遺体との対面は警察病院で可能だが葬儀を執り行うのは犯人逮捕まで待って貰いたいという事。最後に、自分達が必ず犯人を逮捕すると約束し。ひとつひとつを話す度に悲痛な嗚咽が礼拝堂に響き、胸を締め付けられるような気分になるのだ。その後家に戻っていた2組の家族の元を訪れ同様の話をし、夕方になってようやくその全てを終える。子を失った家族の悲しみが身体に重く纏わりついていて、お互い会話は無く。その中で、にわかに怪しい人物が家族の口から語られ、ジャックという老人が容疑者として浮上した。戻るぞ、とだけ相手に告げると暗くなりつつある車窓に視線を向けて。　）






　

( 犯行現場も悲惨だったがこの場所もまたそれとは異なる意味で悲惨だった。相手が一つ一つを説明していく中で聞こえる嗚咽。やり場の無い怒りや悔しさをどうする事も出来ずにぶつけてくる父親。顔面蒼白で今にも倒れてしまうのではないかと思えるくらいに生気の無くなってしまった母親。そんな遺族達にカメラを向けるマスコミ。泥のように混濁した悲しみや憎しみが今だけは確かに目に見える気がして僅かに俯く。ピリピリと肌の表面が痛むのは本当に気のせいなのか。言われた通りにマスコミ相手に口を開く事は無く遺族の方達に小さく頭を下げ全てを終わらせて車に戻れば無言のままにハンドルを握り。立ち会うと言ったのは紛れも無く自分自身。これからこの事件と向き合う者として後悔はしていない。それでも血に濡れた園児の顔と泣き崩れる母親の顔を拭う事が出来なければ血が滲む程に唇を噛み締め、それでもけして泣かないと前を見据えたまま署まで車を走らせて )

　





（　署の駐車場に車が停まり、いつもならすぐに降りてフロアに戻るのだが今日はエンジンが切れてもドアを開ける事は無く座ったままでいて。涙を溢す事も何かを語る事も無く、必死に感情を押さえつけるように車を走らせていた相手だが心は疲弊しきっているはずだった。捜査を任された初日から酷く心を擦り減らしてしまう程凄惨な事件、相手にとっても衝撃が大きいのは当然で。「…どう足掻いても亡くなった人が戻る事は二度と無いが、それでも遺族は犯人を逮捕してくれと俺たちに縋る。悲しみを取り払う事は出来なくても、犯人が裁かれて、ようやく何か一歩を踏み出せる事もあるかもしれない。___それが俺たちの存在意義だと、俺は思ってる。」暗い車の中で、前を見据えたまま静かに口を開く。自分達は無力だと心が押し潰されそうになる事は何度もあるが、犯人を逮捕する事で開ける未来があるはずだと、自分の考えを口にして。同時に涙や感情を押さえつけて、心が壊れてしまってからでは取り返しが付かないという事も知っている。優しい言葉こそ掛けないが、器が一杯になって溢れ出す前に相手にその事に気付いて欲しくて。　）


（／2人の関係性もしっかりしてきて、エバンズの抱えている物がミラーに露見するシーンが近いかと思うのですが、イメージやご希望などありますでしょうか？タイミングとしては2人きりの残業中が最適かと考えていますが、心の方であれば前に少し話したような仮眠中の夢きっかけや、夜で薬の効果が薄れていたタイミングで急にフラッシュバックしてしまうとか、教室内の監視カメラの映像を確認していて銃声がきっかけになるとかが思い付きました。ミラーの目の色と妹の目の色が同じだったというのも設定としては良いかもしてないとも思っています。体調の方であれば単純に具合が悪くなって薬の存在がバレるとか、より大事にするのであれば倒れて病院に同伴するとかが妥当でしょうか？。）







　

＿＿遺族が話してたジャックって人、さっき調べた犯罪者名簿に名前があった。牧師を脅した脅迫罪。
( 道中の記憶は殆ど無くただただ署までひたすらに車を走らせただけというのが正しい。だからこそ駐車場に車を停めて相手が降りなかった事に違和感を覚える余裕が無かったのだが、しんと静まり返った暗い車内、冷静で、それでも確かな意思の篭った相手の声は何の障害も無く真っ直ぐに響いて来て。その声・言葉はまるで萎れ掛けた花に水を与えるようにじんわりと確かな熱を持って心に落ちる。それと同時にせき止めていた何かが消えボロボロと零れる涙。それでも気持ちは折れない。赤くなった瞳ながらにも言葉に後押しされたように力強い意思を宿し相手を真っ直ぐに見遣れば遺族の話に出て来た“ジャック”の名前に覚えがある事を伝え。手の甲で頬を伝う涙を拭って車を降りる。もう大丈夫だと言う事、泣いた事による少しの羞恥や居心地の悪さを小さな小さな笑みに変えて送り、気持ちを切り替えるべくやるべき仕事をしようとフロアへ向かって歩き出し )


（ ／ お世話になっております！いろんな感情や行動を共にして関係性が少し変化した今、エバンズさんの苦しみに触れるのはそろそろなのかなと思っておりました。個人的にはどちらかと言えば体調よりも心の方がいいかなと思っています。トイレで飲んだ薬の効果が酷似している事件だという事もありいつも以上に効き目が薄くなっていて、それに気が付かないまま夜監視カメラの銃声でフラッシュバック…をやってみたいです…！そこからの流れ的には薬が何なのかバレ、気持ちを持ち直すでも心身共に疲労がピークを向かえ倒れて病院へでもどちらもやり甲斐のある展開だなと！個人的にシリアスや闇は全く萎えにならないので、主様がこれ以上は…と思わなければ何でも来いです！また、ベルと妹さんの瞳の色が同じなのは賛成です！ベルと視線が合う度に妹を思い出すエバンズさんが切ないけど愛おしくも感じます…！ ）

　





（　相手が涙を流した事に何処か安堵している自分が居た。張り詰めた気持ちをそのまま抱えておくのは辛いだろう、同時に涙を見せても尚力強く強い意志の消える事無い相手の瞳を見つめて頷く。「怪しいな、牧師を脅した理由を調べてから明日にでもアリバイの聞き込みに行こう。今回は前科持ちばかりだ、嘘を吐いてると思って疑って掛かった方が良い。」相手にもそう忠告し、フロアに戻るとパソコンを立ち上げ被疑者として上がった男たちについての調査を始めて。---被害者の元夫についての情報を読み込み、1年半ほど前にストーカー行為で厳重注意を受けている事を知る。エミリーが隣町に越してきたのとあの幼稚園で働き始めたのはちょうど1年前の事。エミリーの行き先は伝わっていないはずだが、知人などに聞いて回っていた可能性も否めない。周辺への聞き込みが必要だと思いつつ仕事を進める内に、いつもの如く日を跨いでしまう。…と、デスクトップにメールの通知が入りボックスを開くと園内の監視カメラのデータが園長と牧師の許可がありすぐに開示されたという旨のメール。当日中に映像データの確認が出来るのは珍しいと思いつつ、添付されていたデータへとアクセスして。　）


（／心の状態からというのには賛成です！とても良い流れですね…！フラッシュバックと過呼吸の症状が出てしまい、それをミラーに見られてしまった事で明日以降若干距離を置こうとしたりするかもしれません。その後容疑者の絞り込みが上手くいかずに時間が経ち焦り始めた事で仕事の進め方も無茶なものになって行き、倒れてしまうとかが良いかなと…！この事件を解決したくらいのタイミングでまた食事にでも行って、改めて2人で協定的な話が出来たら良いなとも思います。上に報告しない代わりに何かミラーの出す条件に従うとか、そういう取り引きのような…。此方もシリアスは全く萎では無いので、あまりに陰鬱な状況にならないよう気を付けなければと思っていたのでそう言っていただけて有難いです！此方からも重め暗めな展開を多々提案するかと思いますので、是非背後様のアイディアなどもいつでも聞かせていただければと思います…！では妹に関しては、薄い緑色の瞳とエバンズと同じ髪色、当時22歳だったセシリア・エバンズとしておきますね。遅い時間に長々と申し訳ありません。）






　

わかった。明日中にジャックを含めた三人のアリバイ確認とその他の有力な情報を集めよう。
( 誰かの言葉一つで幾らも気持ちを強く持てる事が出来て大袈裟にも“生きていける”のかもしれない。巣食った不安や恐怖等を少しでも取り除けるFBIになりたい。それはもしかしたら警察の仕事では無いのかもしれないけれど。＿＿そんな想いを密かに胸の奥にしまい込みつつ作業を始める。ヘンリーの件については明日近所の人達への聞き込みが早いはず。となるとジャックが牧師と揉め事を起こした事件について警察のファイルの中に何らかの情報が入っている筈だと一つのデータフォルダをクリックして。案の定確りと残っていた。事の発端は幼稚園が出来た事による騒音問題。「子供だもん仕方ないじゃんねぇ…」呆れたように小さな独り言を漏らしつつ画面をスクロールしていき更なる情報＿＿刃物をチラつかせ幼稚園を解体しろと喚き散らし牧師に怪我こそはさせなかったが精神的苦痛を与えた事。騒ぎを聞き付けた近所の人が警察に連絡をして逮捕された事。それ以来逮捕歴は無い事を確認して。それらを手帳に纏め終えればぐ、と伸びをして体を解し )


（ ／ 距離を置かれた事に最初は戸惑うかもしれませんが、どうにか寄り添いたいと意気込むベルトの姿が浮かびます…！倒れて救急車で病院に運ばれるとなると上にバレてしまう可能性があるので、もしそうなれば何とかベルの車にだけ乗って病院に行くっていうのがいいのかもしれないですね。最初はきっと上司に報告しないのが相手の体調諸々を考え本当に正しいのかと甲藤もあると思いますが、食事の時までに良さげな取り引きを考えたいと思います！シリアスの中に小さな光を見出す事が出来るのって素敵ですよね…！いい感じのアイディアが出るか不安ではありますが物語の進みに少しでも寄り添い共に紡いでいけるように頑張ります！そしてセシリアちゃん可愛いお名前。いつか写真とか見せて貰えるようにベルトには頑張ってもらいます！ ）

　





（　パソコン上に表示されたデータをクリックすると、初めの内は子どもたちが楽しげに遊ぶ平穏な園の様子が流れる。銃弾が撃ち込まれたのは東側の窓、犯人が車で来たのなら微かにでも砂利を踏むタイヤの音がしないだろうかと集中して。映像に変化があったのは5分程経っての事。つんざくような銃声が数発聞こえ、ガラスの割れる音と悲鳴が響く。その音がやけに不快に耳に纏わり付いて来て、しまったと咄嗟に映像を止めようとした時には既に押し寄せるようにして過去の断片的な記憶が流れ込んで来た後だった。___響き渡る銃声と一瞬にして真っ赤に染まる視界。不敵な笑みを浮かべ自らを撃ち抜いた犯人の顔と血溜まりの中に伸ばされた妹の白い手。罵倒する遺族の声、そして無惨にも首を吊った夫婦の恨めしげで光の宿らない瞳。ほんの一瞬の間にこれらの情景が一気に目の前を駆け抜けて、喉の奥に息が引っ掛かるのを感じた。水に手を伸ばそうとしたのだが、冷めたコーヒーが少し残ったマグカップに手が当たり、それが床に叩き付けられる。勝手に浅くなる呼吸も、痙攣するように震え始める身体も自分の意志ではどうする事も出来ず、画面上に流れる映像は既に泣き喚く子どもたちの声に変わっていたが、あっという間に上手く呼吸をする事が出来なくなっていて。　）


（そうですね、ベルの車で行くか、救急車で運ばれた事で上司にバレたもののベルに口裏合わせを依頼するとかでしょうか。食事の際に一連の事は忘れてくれと言われて、忘れられる訳が無いと言い争った末にお互いの妥協案で落ち着く、とかでも良いかもしれません。エバンズからの提案は口封じになると思うので、何か良い取引き内容があれば…！ありがとうございます、希望があれば教えていただくくらいのふわっとしたので構いませんので色々盛り込みながら進めていきましょう。これはちょっと、などの意見も遠慮せずおっしゃって下さいね。いつか見せる時用にセシリアのイメージを膨らませておきます！）






　

( 窮屈に縮こまっていた筋肉が多少なりとも伸びた事で作業の続きを再開させようとマウスに片手を伸ばした丁度その時、夜中と言う事もあり静まり返ったフロア内でパソコンから漏れた銃声や泣き声はやけに大きく響き。ビクリと肩を揺らすも直ぐに監視カメラの映像を確認しているのだと理解すれば「見るなら私にも、」と。その後の言葉は続かなかった。硬いガラス物が地面に落ちた音に続いて明らかに様子のおかしい相手の姿。「っ、エバンズさん！？」嫌な汗が瞬間的に背中に流れ勢いよく立ち上がった事でキャスター付きの椅子が後ろの椅子と衝突したがそんな事はお構い無し。「どうしたの！？」相手の元に駆け寄り近付いた事で良くない状況である事を鮮明に知る。混乱する頭を必死で動かし伸ばした手で背中を摩り、反対の手で近くにあったミネラルウォーターのペットボトルを乱暴に引っ付かめばキャップを外しそれを口元に近付けて「お願い飲んで…っ」ドクン、ドクン、と脈打つ心臓の音が大きく聞こえるのは恐怖からだろうか )


（ ／ あ、そうですね！それでしたら例え上司にバレたとしても切り抜けられそうです。食事の場での初の言い争いもそこから更に膨らませる材料となりそうで良さげ今から楽しみです！重ね重ねですがよろしくお願い致します。何かアイディアや要望等出てき次第その都度お伝えします。そしてセシリアちゃんの件もその時を楽しみにしています…！ありがとうございます！ ）

　




__ッは、…ぁ゛、はっ…
（　自分を呼ぶ相手の声がして背中に手が添えられる。来るな、見ないでくれと伝えたいのにそれを言葉として発する事は到底困難で、上手く酸素が取り入れられない苦しさに喘ぐような呼吸が漏れる。差し出された水を飲もうと試みはするのだが、飲み込むという動作が困難で咽せてしまい振動で溢れた水がワイシャツの一部を濡らす事になり。流れていた映像は既に止まっていて、フロアは静まり返っている。苦しさからネクタイを緩め呼吸を整えようとしても、一度狂ったそれは中々落ち着かず、空気の漏れるような引き攣った音を立てて唇から吐き出されるばかり。発作が自然に治まるのを待つ他無いのだが、背を摩り続けてくれている相手の掌から伝わる一定のリズムに意識を向けている内に、少しずつ少しずつ、浅い呼吸の中に肺まで酸素を届けられる物が混じり始めて。　）


（諸々ありがとうございます、了解しました！引き続き何とぞ宜しくお願いいたします。また物語が進行するタイミングで背後からお声掛けさせていただきますね。）






　

大丈夫、大丈夫だよエバンズさん。何も心配いらない。直ぐに元に戻れるから。
( 呼吸音が普通じゃない事くらい何の知識も無いその辺の子供が見たってわかる。吸い込む酸素が上手く肺まで回らずに停滞しそれが障壁となって呼吸が上手く出来ていないのだろう。結果的に飲んでくれと懇願したミネラルウォーターも口内とワイシャツの一部を濡らすだけとなってしまえばネクタイに伸ばされた手が何を表しているのかを感じ取り、半ば強引に結び目を解き重力に逆らう事無く床へと落ちたネクタイに構う事無く第一ボタンを外し少しでも窮屈さを払拭しよう。救急車を呼び今すぐ病院へと向かう事も考えたが先程よりもほんの少しだけ呼吸に雑音が混じらなくなっている事もあり、自身もまた僅かに冷静さを取り戻す事が出来る。大丈夫、大丈夫、と相手にも己自身にも繰り返しながら背中を摩る手を止めずに不安が少しでも移らないようにと穏やかで何でもない声色を精一杯心掛けて )

　





（　首元を緩められ、語り掛けるような穏やかな声色と共に背中を摩られているうちに徐々に上擦っていた呼吸が落ち着き、元のテンポに戻り始める。脳裏に強烈に焼き付いていた嫌な赤も少しずつ色褪せて行き、程無くしてようやく息苦しさから解放されると少し青褪めた顔を覆い深く息を吐いて。それから、もう大丈夫だと断りを入れるように背中を摩り続けている相手を手で制止し。まさか職場で、それも相手の前でフラッシュバックを起こす事になるとはという気不味い気持ちが大きかったが、症状が酷くならないうちに薬を飲んでおかなければ。ジャケットからいつもの錠剤を2つ取り出し、既にキャップの空いている水で飲み込んでから息を吐き。静まり返ったフロアですぐ隣に居る相手がどんな顔で自分を見ているのか、目を合わせる事が出来ず「…悪い、驚かせたな。」と静かなトーンで一言。デスク周りは酷い状態で、落としたマグカップも割れてはいなかったがフチが欠けてしまっている。緩慢な動作でネクタイを拾い上げデスクに置き、少し休んでから床を片付けようと。　）






　

一回見ればもう後は驚かないよ。
( だから＿＿隠さないで。と続けられる程相手の事を何もかも知らないのだ。今度は確りと喉を通るミネラルウォーターと一緒に飲み込まれた二粒の薬はあの日相手がビタミン剤だと言ったもの。やっぱり違ったではないか。何故かはわからぬ行き場のない悔しさと苛立ちを覚えるのが当人ではない自分という事に理解が追い付かず。「…病院、やっぱりエバンズさんだったんだね。」前回の事件のアリバイ確認の帰りに病院の入口で見た人は見間違いや勘違いではなく紛れも無い相手自身だったのだと言う確証が今漸く出来て。それをわざわざ口にする当たり、感情のやり場を失った子供じみた八つ当たりだろうか。相手のデスクの上から落ちた数枚の書類を拾い上げて元に位置へと戻しては「少しでいいから休んでほしい」と合わない視線を向けつつ願いを口にして )

　





（　病院に行ったかと尋ねられたあの日、それ以上追求される事は無かったが疑念はずっと相手の中に燻っていたようだった。何処か責めるような、悲しそうな口調で告げられた言葉には相変わらず否定も肯定もする事無くイスの背に体重を預けたまま。取り乱した自分を見て相手はどう感じただろうか、体調が優れないのだと理解したか、はたまた精神的な負荷による物だと感じたか。出来る事なら、過去のトラウマに精神を蝕まれている事は知られたくない。しかし、少し疲れが溜まって体調が優れないと言っても、そんな言葉で相手は納得しないようにも思えた。こういう時でさえ、言い訳ばかりが浮かんでしまうのだ。「…少し休んだら今日は帰る。」と相手の言葉に頷いたものの、相手はその場を立ち去る気配を見せない。「__紅茶を一杯頼めるか、」と沈黙に耐えかねて口を開く。気持ちを落ち着かせる為に熱い飲み物を口にしたかった事もあり、相手に何かを尋ねられるのを避けたかった事もある。紅茶を淹れて貰ったら、もう大丈夫だと言って帰らせる口実にもなると思っての事だった。　）