白む空に燻る紫煙　---〆

( 最後の最後までハンスの人を小馬鹿にしたような態度は崩れなかった。人を一人殺.しておいて一体どういう神経をしているのだと怒りに任せて詰め寄りたくなる気持ちは少しも消えなかったが何はともあれ解決出来た事は本当に喜ばしい。＿＿バタバタと慌ただしかった一日ももう既に外が薄暗くなりかけている。右も左もわからない初めての殺人事件で、それなのに組む事になった相手は本部から来たエリート。それもなかなか問題があると噂になっていた人物。第一印象は『最悪』だったのに今は心の底から相手と組めた事を誇りに思い、喜ばしく、そして寂しさすらも感じているのだ。「お疲れ様です。…終わったね。」背凭れに深く腰掛け座る相手の元に歩み寄る。以前にもわたした事のあるそれと同じ微糖の缶珈琲を一つ目前に置き、労いの言葉を。「＿＿エバンズさんがどう思ってるかはわからないけど、一緒に組む事が出来て光栄でした。」今生の別れという訳では無いが、伝えておきたい事は素直に伝えよう。深々と頭を下げて )

　





そりゃあ物好きだな。子どものお守りも勉強にはなったが、俺は得意じゃない。
（　“いつもの”缶コーヒーが目の前に置かれ、相手に視線を向ける。自分と組んでも捜査が終われば皆一様にそそくさと離れて行くのが通常だが、光栄だったなんて言われるとは思いもせず、変わった奴も居た物だと肩を竦めて。初めて殺人事件に関わる若手女性刑事などやはり子どもと同じだという言い分は初めから変わらない。ただその純粋な疑問や熱意が事件解決の鍵を握る事もあるのだという気付きはは新しい発見と言えるのかもしれない__当然本人には言わないが。面倒を見る大変さは改めて学んだが、新人の育成はどう考えても自分のガラでは無いししばらくは遠慮したいと、捜査が終わったからと言って優しい労りの言葉を掛ける気は無い様子。その辺りは相変わらずだったが、自分と組む事で相手が被る被害があるとも密かに考えていて。働き方や職場の人間関係に至るまで、自分と組んでいて良い事があるとは思えない。特に相手のような年齢の刑事であれば尚の事。「…で、俺に奢らせる物は決めたのか」と尋ね。事件を解決に導いた当日に何か新しい仕事が降ってくる事は無いため、今日はいつでも退勤出来る貴重な日。自分には、相手に夕飯をご馳走するという任務がまだ残っていたが、どこにするか決めたのかと。　）






　

( 既に24歳を迎えた己を“子供”と表す相手に自然と表情は困ったような苦笑いになる。“子守り”に“子供”まで付いてしまったのなら余計に悪いでは無いか。されど出会った当初と変わらないその態度に慣れてしまったせいか、それとも相手の言う通り自分は本当に物好きなのか、居心地が良いとさえ思える始末で。下手に反論する事も何も無い沈黙の中で『奢らせる』なんて嫌な言葉を使いながらも約束を守ってくれようとする相手の言葉には一つ大きく頭を縦に動かし。「此処がいい。栄養価の高いメニューが揃ってるんだって。…ほら、これとか美味しそう。」スマホで検索したお店は此処から車で10分と少しくらいの所に位置する比較的何でも取り揃えているカジュアルなレストラン。画面に写るサーモンのソテーとエビとチキンのサラダの写真を見せつつ「よろしくお願いします。」と付け足して )

　





（　相手は自分の吐いた皮肉に文句を付けてくる事もなく、店だけはしっかり決めていたようで見せられたスマートフォンの画面に視線を向け。「…最近はそこら中にこういう店が並んでるな。やたら彩りの豊かなサラダを出しとけば客が来るなら安上がりで良い」と、美味しそうな食事を見せられたとは思えないような怪訝な顔で何とも捻くれた返答。当然こういう店には入った事が無いし、そもそも行こうと思った事さえ無い、が、町を歩けばそこら中にヘルシーを謳った店が並び、決まってメニューにはカラフルなサラダが添えられ若者で溢れていると。散々憎まれ口を叩きながらも自分の仕事は相手に食事を奢る事、相手がこの店が良いと言うならそれで構わないと却下する事はなく立ち上がり。食事に行くのに警察車両を使う訳には行かず、自分は車通勤はしていない。「此処からならお前の車かタクシーだな。」と言いつつ立ち上がるとコートに袖を通し歩き始め。　）







　

全然素直じゃないなぁ、もう。
( 美味しそうな彩りの良い食事の写真を見ての感想とは思えない言葉にあからさまなジト目を向ける。栄養さえとれていれば最早手軽なサプリメントで事足りると思っているのだろう相手にはピッタリの発言だが、結局何だかんだで付き合ってくれるというのならばそれ以上の文句も無い。奢って貰える代わりに運転すると自身の車を用意すれば、警察車両とはまた違う愛車の乗り心地の良さに改めて満足そうに頷き。＿＿お店に着いたのは丁度夕飯時だったが生憎そんなに混んでいる雰囲気も無い。ウェイトレスに窓側の席へ案内されれば二冊あるうちの一冊のメニューを相手に向けわたすように机に置きつつ「私はさっきのでいいかな。エバンズさんは？」とこれこそが正しく本題。それを口にはせずに肉、魚、卵、と様々な種類の料理の果たして相手は何を選び確りと食べてくれるだろうか )

　





（　ディナータイムのサービスなのか、メニューと一緒に置かれたキャンドル。寒い時期にも関わらずストーブの置かれたテラス席で食事を楽しむ人々。職業柄、と言って良いのか店内のあれこれに視線を向けてから差し出されたメニューを開き。カラフルなサラダやヘルシー思考な肉料理、フルーツやナッツの乗ったヨーグルトボウル。これは健康志向な女性にウケるのだろうと思いつつも選んだのはある意味変わり映えのしないサンドイッチ。普段と違う点と言えば、いつもよりも野菜が多くヘルシーな蒸し鶏やチーズが使われている事だろうか、新しいものにチャレンジしてみる気は無いらしい。「俺はこれで良い」と言いつつメニューを閉じると、ウェイトレスに合図をして2人分の食事の注文を。　）






　

( 栄養価の高い肉を選んで欲しいという母親のような気持ちが少し。されど好みやその時食べたいものは人それぞれというもので、結果的に頼んだ物はサンドイッチであったがサプリメントよりはマシだろう。ややして愛想の良いウェイトレスが互いの頼んだ物を持って戻って来る。写真通り綺麗な色のサーモンには焦がしバターが使われたホワイトソースが、サラダには食感にアクセントを加える事を目的としているのだろう刻みナッツが。どれをとっても美味しそうに見え、それは矢張り見た目だけじゃなく。ナイフとフォークで一口大に切ったサーモンは身がふっくりとしており旨味という旨味が口内へと広がれば幸せそうに笑みを浮かべ。「ん、美味しい。＿＿そう言えばエバンズさんはいつかワシントンに戻っちゃうの？」初の殺人事件解決もこうして共にとった食事もいつかは思い出となるのだろうか。目前に座る相手にちらりと自然向けつつ素朴な疑問を問い掛けて )

　





（　ディナータイムであっても軽食と呼べる物がメニューにあるのは自分としては助かる、実際はオードブルのような感覚でカクテルと一緒にそうした軽食を摘んでいる客もいるようだった。運ばれて来た、カジュアルながら食べやすいよう上品なサイズにカットされたサンドイッチを口に運び、具のたっぷりと挟まったそれを咀嚼して。全粒粉のパンが使われているのかその香りも強く、しっとりとした胸肉とマスタードやチーズとの相性も良い、多すぎるように思えた野菜もそれらと一緒であれば意外に食べられる。セットで付いてきたポタージュをスプーンで口に運び相手の質問に視線を向けると「いつかはな。数年は此処で勤務する事になると思うが、」と答えて。心身の不調を上層部に伝えた事はこれまで無かったが以前不覚にも捜査中に体調を崩した事があり、今回のレイクウッドへの赴任も多少なりそれが絡んで仕事を減らす意図があってのことだったと思っている。当然不服だったが、伝えられた理由は事件捜査に関わる人手が足りていないので行って欲しいという物だったため結局は赴任に至ったのだが。「希望すればお前も本部や他の署に移動する事もできるだろ。さすがに4、5年はここだろうが…考えてるのか？」今後相手も希望次第では本部での勤務になる事もあるだろうと尋ね。　）






　

そっか。
( サンドイッチを口にする姿に内心満足そうにほくそ笑む。そうやって質問の答えに至極簡単な返事を返せば次は相手からの質問に先ずは視線だけを向けて。少しばかり何かを考える間を。「＿＿此処好きだしまだ特別考えてはいないけど。…エバンズさんがいつか本部に戻る時、私も連れてって下さい。」ややして返した言葉は表情からも声色からも本気か冗談か判別が難しいもので。いつの間にかお皿のサーモンは残り一切れに。それを口に入れ最後の旨味を存分に味わえば「ご馳走様でした」と挨拶をして。＿時間も良い具合に夜と呼べる。「エバンズさんの家まで行くね。」帰る支度も済ましているだろう相手を送る事に何の躊躇いも無ければ普段の調子でそう申し出つつ最後にグラスの水を一口飲んで )

　






（　告げられた言葉にイエスともノーとも返さなかったものの、相手を連れて本部に戻ればレイクウッドで変なのに懐かれて帰ってきたと好奇の目を向けられるに決まっていると呆れたように言い。何かとねだられるかと思っていたのだがそんな事も無く、捜査とは関係の無い他愛も無い話をしつつ久しぶりにゆっくりと食事を取る事ができ。食事を終え帰りは相手に甘える事にしようと思いつつ自分は会計を済ませて来ると立ち上がったのだが、此処でまた眩暈に襲われて動きが一瞬止まる。長く動けなくなる程の物では無いのだが、此の所悩まされている症状のひとつ。程なく「…先に車に戻ってろ。」とだけ相手に告げて会計に向かい。---会計横のスペースで見つけたフルーツのキャンディーを一袋買い、薬を飲んでから相手の車に戻る。助手席を開け「子どものご褒美にはちょうどいいだろ。」と言って包みを渡すとシートベルトを締めて。明日以降は各々別の業務に関わるようになるのだろうから、自分なりの労いの気持ちではあるよう。その後、レストランからは10分と掛からない自宅の場所を伝えて。　）






　

( 何も詮索する事が無く言われるがまま大人しく車へと戻り運転席へと座る。座る、が＿＿あの日珈琲をわたした時もそうだった。見逃してもおかしくは無いほんの数秒の静止だが明らかに異変があったのだ。本当にただの疲労だけなのか。そんな疑惑が脳裏を掠めたその時、助手席の扉が開き相手が乗り込んで来れば思考はピタリと止まり。差し出されたのは言葉通り如何にも子供が喜びそうなキャンディー。「こんなナイスバディが子供に見えてるならエバンズさんもまだまだだね。」受け取る時こそはジト目で不服そうな視線を送るが、それを鞄にしまい込み車を発進させる頃には表情には悪戯な笑みが。そんな戯言が口を付くのもすっかり相手に慣れ、あの時の言葉を借りるなら懐いた証拠。それから程なくして案内された相手の家に辿り着くと目前で車を停めつつ「いろいろありがとうございました。おやすみなさい。」と本日何度目かのお礼を口にして )

　





…助かった、今日はゆっくり休め。しっかりやれよ。
（　家の前に停まると相手に礼を述べ、片手を上げて車を降りると扉を閉めて。---それから暫くは発生した個々の盗難などの事案に対処していたのだが、1週間ほど経ったある日、別の警官と外にいると上司からの電話。緊急の事件が発生したため急遽対応に当たって欲しいとの事。捜査本部を立ち上げるため今回も指揮を取れとの命令で。場所を告げられタクシーを迎えにやったと聞けばそのまま対応していた業務は別の警官に引き継ぎ取り急ぎタクシーに乗り現場へ、道中スマートフォンに送られてきた事件の概要に深く息を吐く。---此れに酷似した事件を知っている、幼稚園で起きた銃撃事件。気持ちを落ち着かせつつ隣町の教会に向かうと規制線の引かれた現場の前に佇み。既にパトカーが停まっているため鑑識は中に居るのだろうが、もう1人の刑事を向かわせると聞いていたためその到着を待つくらいは許されるだろうか。　）






　

( 相手と別れた後、数件の事件を担当したが殺人事件は一件も無かった。そしていつもの日常が戻ったかのように思われたが＿＿緊急の事件が発生したと上司からの命令が下ったのがつい先刻の事。ゆっくりとしたランチタイム等無かったかのような知らせに急いでサンドイッチを頬張れば大至急隣町の教会まで車を走らせ。既に数台のパトカーが停まっている。疎らに居る警官達に軽く頭を下げ挨拶をしつつ規制線が張られている現場前まで小走りで向かい＿＿そこに居たのは紛れもなく初の殺人事件を共に捜査した相手。上司から優秀なパートナーを先に向かわせている、と聞いていたがまさかこんなに早く再び顔を合わせる事になるなんて。「お疲れ様です、エバンズさん」気を引き締めなければならないという事は重々承知だが確かな喜びを感じてしまうのだ。真っ直ぐに見上げた視線で挨拶を交わし「よろしくお願いします。」と続けて )

　






（　先に入るかと尋ねられるも人を待っていると答えその場に佇む事ほんの数分。聞こえてきた足音に顔を上げると、聞き慣れた声に振り返り「…またお前か、」と一言。つい数日前に互いの健闘を祈り別れたばかりだというのに再び顔を合わせる事になるとは思わなかった、それもまた殺人の現場で。ただこの陰鬱極まる事件下で相手がペアであるというのは精神衛生的には悪く無いのかもしれないとも。同時にこの短期間で相手は自分との捜査を押し付けられているようにも思えるがそれは一先ず目を瞑ろうか。「行くぞ、…凄惨な現場だ、気をしっかり持て。」と声を掛け規制線を潜り敷地の中へ。資料によると幼稚園児を含む6名が被害者となった凄惨な事件で、以前の事件以上に相手にとっても精神的な衝撃が大きいだろう。それを忠告して園の中へと足を踏み入れ。　）







　

( 相手にとってはまた“子守り”の始まりだと思うか。ぽつりと落とされた言葉に苦笑いを浮かべる。それでもこの事件をおりるなんて事は出来ないしやるつもりも無ければあの時遺体を見て一歩も動けず、ただただ足でまといとなったあの日のようになる訳にはいかないと忠告の言葉に大きく頷き気持ちを落ち着かせるよう一つ息を吐き出して。相手の後に続くように園内へと足を踏み入れ一番初めに目に飛び込んで来たのは、まだ幼い園児の遺体とその子を庇うようにして倒れている先生の遺体。血の海という言葉がピッタリなくらい床には赤、赤、赤。噎せ返るような鉄の匂いと悲惨過ぎる現場に立ち眩みすら覚えそうな気持ちを奮い立たせる。指先の震えを抑える事は出来ないがそれでも以前のようにそこから去る事はせず徐にしゃがみ込むと亡くなった園児の血に濡れた髪に手袋をはめた指を這わせ「痛かったね…」震える唇を噛み締め、ただただその行動を繰り返して )

　





（　想像していたとはいえ、あまりの凄惨な現場に身が竦む。目に入る殆どが赤く染まり、子どもに覆いかぶさるように倒れた女性教員の姿が妹と重なる。落ち着けと何度も頭の中で繰り返しているのに少しでも気を抜けば十数年前のあの記憶が一気に蘇りそうで固く拳を握り締める事で必死に意識を保ち。足が動かず、吐く息が自然と震えるのを感じながら一度目を閉じて。---少ししてようやく遺体の確認を済ませ、全員の死因が銃で撃たれた事による失血死である事含め、道に面した窓ガラスの割れた跡などを確認して現場を後にして。殺人現場にはこれまで幾度と足を運んでいたが、少し気分が悪く外に出てから深く息を吐き。怪しい人物を割り出す為に聞き込みに行く必要があるのだが、相手と会話を交わす事も無いまま車の助手席に乗り込んで。　）






　

( あの時とは違う、確りしなければという自身への鼓舞は思いの外上手くいっている。最早暗示や洗脳の類に近い事になっているかもしれないがそれで正気を保てているのなら何だってOKだろう。こんな残虐非道な行為を平気で行える犯人は直ぐに逮捕しなければならないのに＿＿FBIとして目の前の事件解決が最優先事項だと頭ではわかっているが気付いてしまった“もう一つ”を後回しには出来ないのだ。一言も言葉を発する事なく助手席へと座る相手に車に備えていたミネラルウォーターをわたす。「さっきこの近くに住んでる同僚から連絡があって、数年前にヘンリーっていう先生が居たらしいんだけど園児へのわいせつ行為で解雇になったんだって。少なからず園に恨みはあるはずだから話聞きに行くね。」相手が遺体の確認をしている間に届いた一本の情報の話をしながら静かに車を発進させる表情は複雑だ。少しだけ相手の近くに居ただけで何もかもを知った訳では無い。こんな時、休めと言えばいいのか何も気付かない振りをして仕事を進めればいいのか、それとも慰めの言葉を欲するだろうか。何かあったのは間違い無いのに踏み込めない。ミネラルウォーターを手渡すだけだなんて。「＿＿エバンズさん、今何を考えてますか？」真っ直ぐ前を見据えたまま、それでもややして開いた唇からは自分でも驚く程に至極穏やかな声色の問い掛けが漏れていて )

　





（　ほんの数週間前に初めて遺体を目の当たりにし動く事の出来なくなっていた相手が、今は“刑事らしい”確りとした対応をしているのだから驚かされる。それに比べて自分はどうだ、もう二度とあんな事が起きないよう、遺族へのせめてもの償いに仕事を続けて来たというのに状況が似ているというだけでこの有様だ。手渡されたミネラルウォーターのキャップを開けほんのひと口水を口にしたが、この泥々とした不安感や脳裏に焼き付いた情景を拭い去る事が出来ない。せめて、気を抜けば勝手に浅くなり始めるであろう呼吸を意識的に整える事くらいしか。相手が自分に行き先を聞いて来なかった事には僅かながら安堵し、目的地に着くまでに気持ちを切り替えようとイスの背を少し倒して車窓を眺めているうちに、少しずつ平常心を取り戻す。特定の状況に対するこの反応は自分ではどうする事も出来ない物、元凶となり得るストレスやプレッシャーをなるべく排除して仕事を離れ療養に専念しろと言ってきた医者からしてみれば、この状態は最悪だろうし自分にとっても最悪な物なのだが。けれど解決する必要があった。静かに問われると少しの間を空けて「___お前と同じような事だ。酷い現場だった。…1日も早く犯人を炙り出して終身刑にしてやる。」と普段通りの返事を一言だけ返し。　）





　

…そうだね。
( 返って来た言葉は聞く人が聞けば物騒だがいつもの相手らしく力強いエネルギーが宿っている。それに一言同意の言葉を返すだけで終えて。ややして車はヘンリーの自宅へ。扉を数回ノックしてFBIだと言う事を告げれば思いの外あっさりと中へ招いてくれて話も聞かせてくれた。＿＿二年前出来心で当時まだ四歳だった女の子にわいせつな行為をし、それがいつの間にか保護者の間で広まり園内にバレた。すぐ様解雇となりそれからは就職活動も上手くいかずに苦労をしたと。確かに園を恨んだがそれは最初の頃で今は寧ろ申し訳ない気持ちが大きい。それにいくら恨んでたとは言え殺しはしない、と。「御協力感謝します」とだけ告げて一先ず車へと戻る。相手の様子が何かおかしい以上この事件自分が頑張らなければという気持ちが膨れ上がる一方で、駄目だとわかっていても事件を後回しにして相手に寄り添いたいという気持ちもある。「エバンズさん寄る？」前方に見えて来たコンビニエンスストアの手前で少しスピードを緩めては確認をとって )

　






（　質問を主導する相手の隣に立ち、ひとつひとつ答えていく男の顔をじっと見据えていて。気の弱そうな青年だったが、申し訳無い気持ちが大きいと言う答えには若干の違和感を覚える。園を恨む気持ちが、状況が好転した訳でもないのに罪悪感へとそう簡単に変わるだろうか。当日のアリバイについても尋ねたが、仕事はしていない上に一人暮らしなので家に居たがそれを証明する事は困難だと聞きもう少し調べる必要があると。---前々から相手は観察眼が鋭く敏い所があると思っていたが、今日もそれは同じ。何かと気遣われている事には気付いていたが、それは有り難くもあり避けたくもある事だった。自分がこれまでひた隠しにして来た物が露見する事だけは避けたくて、普段通りに振る舞おうとするのだが今日の現場は中々にダメージが大きかったようでそれが上手くいかない。コンビニに寄るかと尋ねられると頷いて駐車場に車を停めてもらうと普段は相手に買い物を頼むのだが、今日は自ら車を降り店内へと向かい。トイレに入るなり錠剤を2つ口にして息を吐く、確りしろ、事件と向き合えと言い聞かせつつ、店内ではミネラルウォーターを1本だけ買い車に戻り。ストックされていた物を貰ってしまったためそれを相手に手渡しつつ「…ヘンリーの最近の動向や、知人からの証言を集めろ。気弱なフリをしてるがある意味前科持ちだ、流されるなよ」と捜査の話をして。　）