白む空に燻る紫煙　---〆

そっか。私の勘違いか。
( 返って来た返答はノー。動揺らしい動揺は見られないがあの時見た姿は100%相手では無かったと言い切れない。それでもそれ以上追及する事がを避ける選択を取ればあっという間に引き下がり。「これ以上時間も掛けたくない、明日有益な電話報告期待して待ってて。…おやすみなさいエバンズさん。」自らハードルを上げる自信は何処から来るのか。まるで野良犬でも追い払うかのような仕草に臆する事無くニィと口角持ち上げた笑みを浮かべて見せればぺこりと頭を下げた後、今度こそ職場を後にして。＿＿翌日。署へ立ち寄ったのは出勤記録を残す為だけ。廊下をすれ違う同僚達に挨拶を済ませ足早に外へと出ればハンスが勤めている職場へと向かい。まだ少し早い時間という事もあり管理職の人達だけが来ていれば好都合とばかりに話を聞いて周り )

　




（　何を追求するでもなく引き下がり普段通りの調子で帰って行く相手の背中が見えなくなると1人息を吐いて。---相手は早くから指示通りハンスの周りの人間に聞き込みに行っていて職場で顔を合わせる事はなく。自分はマークかアダムを詰める必要があると思いつつパソコンを睨み付けていると、捜査員の1人に声を掛けられる。ようやく被害者の通話記録が開示されたとの事で資料を渡されると礼を言いすぐさま記録に目を通し。最後の記録は15:53、恋人のマークと3分ほど会話をしているようだった。通話内容を本人に確認するためコートを掴み足速に署を後にするとマークの通う大学へと向かい。次の講義までの10分間ならと顔を合わせた彼は相変わらず気落ちした様子だったが、そこに偽りが無いかその一挙一動に目を光らせる。『ほんの数分の他愛もない会話です。講義終わりに僕から掛けたら、ローズはずっと欲しかったマフラーを買いに行くんだと言っていて…給料日だから、銀行にお金をおろしに行くと嬉しそうに話していました。』と、彼は話した。それを書き止めまた連絡するとだけ伝え別れると、明るく平穏なキャンパスのベンチに腰掛け、そこから小屋までのローズの足取りを考えて。　）





　

( “特別目立った様子も無い何処にでもいるような一般人”というのがハンスの大半の印象。だが『ここだけの話』と周りに人が居ないのを確認し耳打ちするようにこっそりと教えてくれた一つの内容は非常に有益なもので。手ぶらで帰らなくて済むと事件の早期解決に貢献しそうな内容を引っ提げ次はハンスの自宅周辺の聞き込みを開始する。人付き合いがあまり得意じゃ無かったのか別の理由があるのか、彼の姿を外で見る事はあまり無いという近所の人達の話の中、たった一つだけ確かな目撃情報を得る事が出来ればお礼も早々にスマートフォンの相手の番号に指が伸びており。画面越しに相手の声が聞こえたならば「＿＿お疲れ様です。エバンズさんが待ちに待っているだろう有益な情報取れたよ。」という嬉々とした前置きの後「表向きは大人しいタイプだったようだけど、数年前に当時付き合ってた女性に暴力を振るって破局したらしい。…それから近所の人が事件当日の夕方四時頃、車で出掛けるのを見たって。間違いなくハンスだって言ってる。」少しばかり感情の昂りが伺える声色で以て普段より幾分か早口でとれたてホヤホヤの情報を伝え )

　




良いぞ、良くやった。当日の4時前、ローズが銀行に寄ってから買い物に行くと言ったとマークの証言が取れた所だ。初めて時間が合致した！今からハンスに会う、10分以内に大学の正門前まで車を回してくれ。
（　電話が鳴りすぐに出ると、昂った声色で語られる情報を聞きながら内容を手早くメモする。ここに来て初めて疑惑だけに留まらず、事実として被害者と被疑者に「午後4時」という接点が生まれた。ようやく動き出したように思える状況に初めて皮肉無しに相手を褒め、普段冷めきったその口調も声色も、間違いなくこれまでで一番興奮した物だった事だろう。情報不足だったハンスへの疑惑が一気に高まり第一容疑者へと躍り出ると、今すぐにでも本人に確認を取る必要があり。近場の大学の為車両は使用しておらず、相手に今すぐ大学の正門に迎えに来いという指示だけ飛ばして返事を待つ事なく一方的に電話を切った。それはいつもと変わらない上、相手がどこに居るかによって所要時間も変わるだろうが、それを確認する事もなく10分という制限付き。手帳をポケットにしまい急く気持ちを抑えつつ足速に正門前へと向かい。　）





　

( 電話越しでもわかるくらいに相手の声もまた興奮している。それに加えて共に仕事をして来た中で初めて褒められた。たったそれだけの事。それだけの事なのにまるで幼子のように舞い上がりそうになる気持ちを懸命に抑え付け、にやける口元を誤魔化す為人差し指で一度唇に触れて車に戻る。大学まで近い訳では無いが10分あれば行けるだろう。誰に言う訳でも無い「よし！」という気合いの言葉を落として車を走らせれば信号がスムーズだった事もありきっちり言われた時間内に大学の正門前へと車を停め。「この時間ならもう職場にいるはず。」相手を見つけるや否や、窓を大きく開け声を張り、再びハンスの勤める職場に戻る事になるがそんな手間はお構い無しとばかりにキラキラとした瞳を向けて )

　





ああ、向かってくれ。不審な点があればなるべく早く署での取り調べに移行したい。
（　車は時間通りに正門前に到着し、すぐに助手席のドアを開けて乗り込むとすぐに相手に指示を飛ばし。現時点では、午後4時頃に偶然、あるいはハンスとしては狙いを付けての事だったかもしれないが、2人が外で会い彼女を乗せて車で小屋に向かった可能性が考えられた。前回一度アリバイを聞いた時の様子からも気の強いような印象は受けず、何か嘘があれば動揺を見せると思っていたのだ、が。---職場でハンスに会い当日の動向を尋ねると、家に居たという変わらない答え。4時頃に車で出掛けたのを見た人物が居るとかまを掛けると『そういえば、買い物をしにスーパーに行きました。ショックで失念していた。』と、あまり動揺する様子なく供述が変わり。何か嘘があるのは感じたが、それなら事実を確認するのみ。相手と車に戻るとすぐに周辺の防犯カメラ映像を解析している別の捜査員に電話を掛け、午後4時以降彼が供述したスーパーの駐車場にハンスの車の出入りはあったのか今すぐ調べろと命令。相手にも署に戻るよう告げて。　）
ミラー、戻るぞ。スーパーの駐車場の監視カメラ映像を手分けして確認する。





　

了解。…また誰かさんの時みたく『本当は万引きしててバレるのが怖かった。』みたいなのにならないといいけど。
( 終始落ち着きを払った様子は過去の暴力事件を知っているからこそ不気味に見えてならない。それが嘘で白を切るつもりならば此方は確実なる証拠を突き付けるだけ。ブライアンの件もありこれ以上同じような理由で相手の機嫌が急降下する事も己の気持ちが萎える事も避けたい。意気込む気持ちをそのまま宿し車を走らせ数十分後には署内へ。小走りで廊下を進み既に他の捜査員が調べているであろう監視カメラの映像の残りに視線を向ける表情は真剣そのもので、コートも脱がない辺り早い段階で証拠を見付け今日中に彼を署へ連れて来たいという気持ちの表れでもあり )

　





…その理由は想像すらしたく無いな。
（　前例があるだけに、相手の言うような検討外れな理由だった事を想像するだけでも腹が立つ。ハンスが行ったと供述したのは近所にある大きめのスーパーで、駐車場には監視カメラが4つ。事件現場から数キロ圏内という事で、既に監視カメラの映像を取り寄せていた場所だった事だけは救いだが、ナンバーが分かっているとはいえ車の色もこれといって特徴のあるわけでも無い白で、手分けしても1台ずつ見て行くのはかなり骨の折れる作業だった。念のため死亡推定時刻の8時まで、4台のカメラのそれぞれ4時間分の記録を6人でひたすら目視で確認した訳だがハンスの車が通る事は最後まで無く、供述は虚偽だった事が証明されて。この時点で既にかなりの疲労感があったが時刻は午後5時前、仕事を終えたハンスに取り調べを行う事を決めると相手には部屋の確保と準備を頼み、自分は鑑識の招集を担い。午後6時になってハンスを迎えに行くため再び相手と車に乗り込むと、自販機で買った暖かいココアを相手に差し出す。今日に関しては相手の働きを認め労う気があるようだった。---鑑識もハンスの自宅に到着し一気に物々しくなる住宅街。車内やガレージを重点的に捜査し何か分かった時点で連絡を貰う事を確認してから、取り調べを行うべく車に彼を乗せて再び署へと戻り。　）





　

( かつてこれまでこんなにも長い時間真剣に瞬き一つ惜しむくらい画面を凝視した事があっただろうか。目の奥が重く痛み変な頭痛までもしていたのが数時間前の話。言葉こそ無かったがほんの少しだけ認めてくれたのか、労うようにわたされた温かいココアは疲労の何もかもを吹っ飛ばしてしまうくらいの力が宿っており。冷めないうちにと中身を飲み干していざ次なる決戦。ハンスの聴取をする部屋の準備は万全。彼の話が偽りであった事で一気に疑いの目が集中力している今、家宅捜索の結果次第では短期解決も出来るかもしれない。取り調べ室の隣にマジックミラーを挟み隣接している部屋の中で今一度被害者と容疑者の資料にくまなく目を通せば「エバンズさん、私も聴取に立ち会いたい。」と記録係を申し出て )

　





分かった、記録はお前に任せる。
（　立ち会いを望む相手に許可を出すと、相手と共に取調室に入りハンスと向かい合う形で座りデスクの上にレコーダーを置き。ひとつひとつ事実を確認していかなければならない、自分が容疑者として取り調べを受けているというのにスーパーに行っていない事を指摘しても彼は顔色ひとつ変えず、別のスーパーだったかもしれない、などと供述を変えるのだ。事件のショックで記憶が曖昧だと言って。冷静になれと自分に言い聞かせても、その舐めた態度に取調べの語気は強まる。暴力の件を言ってもそれは過去の話だ、あの時はどうかしていたとまともに取り合わず、当日の行き先も言わない。いよいよ怒鳴り付けそうになった時、電話が鳴って。---鑑識からの報告は、事件解決に届きそうで届かないもので思わず天を仰ぐ。現場に車の痕跡はあるがタイヤの跡は照合不可、自宅に銃器類は一切なし。唯一、車内に被害者の指紋と毛髪があったため彼女を乗せた事は確かだと言うが、監視カメラの設置が少ない地域で足取りを追うまでには至らない。深々と溜め息を吐いてから電話を切り、飄々とした様子で座ったままの目の前の男を見据える。「…助手席に被害者を乗せたな。指紋と毛髪が出た。認めろ、あの日お前は午後4時に家を出て、銀行に向かう被害者を言い包めて車に乗せ小屋に向かった。違うのか、」と淡々と問い詰めて。『__僕を疑うのは自由ですけど、全てあなたの憶測ですよね。殺害に使われたっていう凶器を僕は持っていないし、、ねぇ、刑事さん。』と、まるで一人で妄言を喋り立てている人間を憐れむように困った表情で答えると、隣に座っている相手に同意を求めて。　）






　

( のらりくらり。まるで煙を巻くような飄々とした態度で質疑応答に望む男。余程の自信があるのか、もしくは本当に犯人では無いのか。キーボードを一心不乱に叩き二人の話を纏める中でも明らかに苛立っている様子が見て取れるがそれは自身とで同じ事で。唯一の頼みとなった鑑識からの電話もどれもこれも決定的な証拠にはならない事ばかり。一度聴取を終わらせて明日再度、という考えすらも頭に浮かんだその時、ふいに容疑者である彼より話しかけられれば一度指の動きを止めてそちらを見やり。「＿＿ローズさんのどんな所が好きだったんですか？」同意を求める言葉に返答はしない。代わりにたっぷりの間の後、まるで世間話でもするかのような口調で素朴な疑問と呼べる問いをぶつけて )

　




（　此方を小馬鹿にしたような、全て妄言に過ぎないと呆れているかのような返答に苛立たしげに眉根を寄せて。相手の問い掛けに一度隣に視線を向けたものの、口出しする事はせずにイスに座り直し。『一目惚れだったんです。彼女は心優しく謙虚で、いつも楽しそうに僕の話を聞いてくれた。…ローズにあの男は似合わない、嫉妬深い嫌な奴ですよ。レストランの裏で僕との関係を問い詰められて困っていました。あの男こそ犯人じゃないんですか」ハンスは今まではぐらかしていたのが嘘のように饒舌に質問に答え、話を始めた。同時にバイト先から家まで車で送ったことがあるので指紋があって当然だとも答えた。ローズが彼に優しくしたのは客だからに決まっている、それを好意と捉えたのなら執拗に迫っていたという証言も頷けるもので。---彼の話を引き出したという意味では、この取り調べは相手の方に軍配が上がる結果となった。結局この日は監視付きで彼を返し、後日再度取り調べを行う事となり。デスクに戻りイスに腰を下ろすと、溜め息を。今日で大きく捜査は動いたが証拠が足りない、凶器の特定にすら至っていない。何を見落としているのかと思考に耽っているようで。　）





　

( たまに居るのだ、自分に好意を持っているから優しくしてくれていると勘違いする人が。彼もまたそのタイプのようで＿＿されど特別な証拠が出た訳でも凶器が発見された訳でも無い。逮捕出来るだけの物証が足りていない中で彼を拘束しておく事は出来なく一先ず家に帰したのは致し方ない事。「お疲れ様です。」デスクの椅子へと腰を掛け疲労を露わにする相手の後ろから労いの言葉を掛けては、此処に戻って来るまでの間の自販機で買った微糖の缶珈琲を目前に置きつつ「エバンズさんはハンスが犯人だって思う？」先程ハンスにもしたような素朴な疑問、という言葉通りの声色でぷくりと浮かんだ問いを世間話でもするかのように投げ掛けて )

　





…何か余程の自信があって、こっちの出方を窺ってる気がしてならない。奴が犯人だとして何が証拠になる？
（　目の前に置かれた缶コーヒー。それをじっと見つめてから相手の質問に口を開き。マークとアダムも疑惑が晴れたわけでは無いが、ハンスの何かを知っているからこそ余裕を醸しているように思えるあの態度が引っ掛かる。証拠さえ突き付ける事が出来れば、観念して犯行を認めるような気がしていた。自分にとも相手にともなく疑問を投げ掛けつつ缶を手にしたのだが、プルタブに指を掛けるのと時を同じくして急に視界が歪む感覚がして思わず眉を顰め。幸運にもその感覚が気分の悪さや息苦しさを引き起こす事も無く数秒で消えた事に密かに安堵しつつ缶を開けると中身を煽り。「至近距離で撃ったなら返り血を浴びていておかしくない。……ミラー、あいつがどんな靴を履いてたか覚えてるか？」証拠になり得る物を何とか手繰り寄せようと考えながら、服なら血が付着した事に気付きやすいが靴なら見落とされている可能性もあると考え、相手に尋ねて。　）





　

余程の自信……例えば、凶器に使ったライフルが絶対に見付からないとか。後は血液。
( 本当に何も知らないからこそのあの態度では無く、重要な事を知っていてそれでも尚バレない自信があるからこそのあの人を小馬鹿にしたような態度なれば落とされた疑問に瞬時に浮かんだ答えを伝え。＿その一瞬は文字通り一瞬だった。普段ならば気にも止めないような細やかな変化だが確かに相手の動きは止まったのだ。「…エバンズさん？」ハンスの思う様に進まない聴取、疲労、それらが重なり思考が一瞬停止したのかとも思う小さな呼び掛けではあったが直ぐに珈琲を呷る姿に気のせいかと思う事にして。返り血については証拠と成りうるその意見に賛同だ。立ち姿、椅子に座っていた時、ありとあらゆる場面を思い返し出た答えは一つ。「＿＿黒のスニーカー。間違いないよ。黒だから返り血に気が付かなくてもおかしくない。」デスクに両手をつきやや身を乗り出した形で「私、今からハンスの靴とってくる！」と免許証の入った鞄だけを肩に引っ提げて )

　





気を付けろ、事故を起こすなよ。
（　捜査に同行する中で相手は被疑者の姿をしっかり目に焼き付けていたようで、間違いないという言葉は心強く。今すぐ靴を取りに行くと言って、返事をするより先にフロアを出て行く相手の背中に向けてそう声を掛けておき。1人になると、凶器の発見を急がなければならないと考えを巡らせる。エリックは小屋にライフルは置いていないと話していたし、ハンスの家からも銃器は見つからず、趣味で猟をしていたという話も聞いていない。殺害の為だけに銃器を購入して何処かに棄てたとも考えられるが、それならライフルである必要は無くもっと小さく扱い易い拳銃で事足りる。狩猟用のライフルが使われた理由もその行き先も分からず、改めて情報を整理するため立ち上がろうと。__その時、先程よりも明らかに大きく視界が歪み平衡感覚が失われて咄嗟にデスクに手をつく。その波が治るのを待ってからすぐに薬を口にしたが、此処に来て体調が思わしくないのは痛手だった。---一方。ハンスは確かに黒いスニーカーを履いていたのだが、靴を調べると聞くとどことなく嬉しそうに答える。「どうぞ、数日前に買い替えたばかりなんです。このブランドが気に入って、また同じ靴を買ってしまったんですけどね」と。言う通りスニーカーはまだ硬く、おろしたてである事がすぐに分かるもので。　）






　

( 何故に彼はこうも人の神経を逆撫でするのが上手いのか。そしてどれだけ用意周到なのか。すっかり彼のペースに乗せられてしまっている事にギリ、と奥歯を噛み締めるもこんな所で取り乱して次は『刑事に脅された』なんて言われたらたまったものじゃない。自身を落ち着かせるように一度瞳を閉じ深い深い息を吐けば「確かに素敵なデザインですもんね。買い換えたので問題ないので、申し訳ないですが数日お借りします。後、前に使っていた靴を捨てたのは何日だったか覚えていますか？」と最早貼り付けたも同然の笑みを浮かべつつ。一先ず新品同様の現在の靴を手袋をした手で証拠品回収袋に入れて鞄へ。彼の返事を聞いたならば何だってやってやろう、早急に車に戻りもしかしたらまだ燃やされていない、もしくは土への埋め立ての可能性を信じてゴミ処理所へと向かおうか )

　





（　靴を捨てたのは数日前、ちょうど2人が聞き込みに来た日の翌日だと彼は答えた。自分が被疑者に上がっている事を知り、靴の存在を思い出しての行動なのかは分からないが、既に棄てたという報告は捜査を続ける者を落胆させるものである事は間違いなく。---相手が靴の回収を終えて車に戻った頃、ちょうど電話が鳴り。発信者は以前レシート回収の為に2人で会った被疑者の1人、小屋の持ち主のエリックだった。「以前ライフルは持ってないと言ったけど、小屋は施錠してなくて自分の友人たちも自由に使ってた。実は昨日その中の1人からメールがあって「久しぶりに仲間と猟に行こうと思ったんだけどお前の小屋には入れないのか？あそこに道具置いてたんだけど」という連絡があった。自分が把握していなかっただけで、ライフルは小屋にあった可能性が高い」という旨の話。親しくしていたローズ殺害に関わる証拠かもしれないと思って電話をしたというもので。　）






　

( エリックのアリバイは成立している。加えてそんな重要な話を提供してくれるとなれば今回に限り違法な地区での密猟等＿＿とFBIに有るまじき考えが一瞬頭を過ぎり。されどすぐに思考を元に戻せば直ぐにエバンズへと電話を掛け。繋がったのならば、ハンスの黒いスニーカーは聞き込みの翌日に棄てられ同じブランドの同じ物を新たに購入している事、それを一応持って帰る事、もしかしたらの希望に掛けてゴミ処理所へ行く事。そうしてエリックからの新しく有力的な情報を伝える。ふぅ、と重苦しい溜息を一つだけ落としエンジンを掛ければ何処の場所へ行けと唐突に言われてもいいようにある程度のルートを絞った道を進み始めて )

　





（　聞き込みの翌日に靴を処分していた事を聞き、電話を耳に当てたまま天井を見上げる。もし、もしも、聞き込みの時点で血痕が付着している可能性に思い至っていれば違う結果だったのかもしれないというのに、悠長に話の内容にばかり意識を向けていたのは自分。溜め息を吐き、エリックの情報も含め分かったと一言告げて電話を切り。朝から働き通しでハンスに翻弄されている事もありお互い声は沈んでいるものだった。---銃が元から小屋にあったものとして、現場には凶器は残されていなかった。__ふと、凶器が見つからないという絶対の自信があるのではと話した相手の言葉が脳裏を過り。“木を隠すなら森の中”という言葉がある、ライフルを既に狩猟用品店に売ってしまったと考えるのはどうだろうか。ややして再度相手に電話を掛け「ミラー、ゴミ処理所はお前1人じゃ無理だ、靴は諦める。気付かなかった俺が悪い。…署には戻らなくて良いから、今日はもう帰れ」と伝え。1人で広大な処理場からたった一足のスニーカーを見付けるのはあまりに負担だ。その上朝から働き通しなのだから、良い加減上司として休ませるべきで。明日は州内でライフルを扱っている狩猟用品店を当たり該当するライフルが売られてないか調べたいとだけ告げ電話を切り。自分は何か少し腹に入れて作業を続けるかと考えつつ。　）