2人掛けの玉座 【〆】

…はぁ、お前は本当に呑気だな。、……おい、もっと口を開けろ。スプーンが入らん。
(こちらが緊張気味に食卓へ向かおうとしているのにこいつと来たら元気に腹の虫を鳴らして目の前のオムライスに夢中になっている。そこである程度の気恥しさは吹き飛んで呆れ気味のため息が漏れる。こっちが考えすぎているだけだ、ただ責任を果たすと言ったからその言葉を有言実行するまで。いくらか緊張も解けて食卓に座ったはずなのに隣を見れば今度は向こうがいつもと違う様子だ。こうやって隣に座って食事をするまでならばいつもの風景なのにこれからすることを意識すれば当然体は固くなり、反比例して鼓動は速くなっていく。緊張が伝搬してしまったようだ。スプーンで1口分のオムライスをすくい上げ、もう片方の手で手皿を作りつつ相手の口元にオムライスを運ぶが中途半端な開きではスプーンが入らず、口に先端を挿入したところでスプーンは止まってしまう。冷静に考えればこれは付き合っているもの同士がやる行為ではないか、余計に鼓動が早くなるような考えを必死に払いつつこの場にウォズがいなくて良かったと心底感謝していて)

っ、ごめん。 その、…こう？
（食事とはここまで緊張する物だっただろうか。恥ずかしさに中途半端しか開けられない口では当然スプーンは入らず、指摘を受け反射的に謝罪を口にして。怪我の責任を果たすとは言われたものの何処かズレた手伝われ方をしてる気がする。この行為に彼がどう思ってるか気になって視線を向けると相手も緊張しているみたいなのが読み取れて初々しいカップルみたい…なんて邪な思考抱けばますます顔が赤くなっていく気がして必死にその思考を逸らそうと唯一動く左手を膝の上でギュと握りしめ。少し迷ってから素直に更に口を開き相手のスプーンを受け入れる状態になり。一方でスプーンさし出す目の前の相手の事を意識すると変なとこを見せてしまう気がして、逃げる様に目を瞑り口を開けた状態で相手に行動委ねて）

あぁ、それでいい。……なぜ緊張する。俺にも移るからやめろっ
(自分から言い出した上責任を取るなんて宣言してしまったせいでどうにも取り返しのつかないことをしている気がする。口の中にスプーンが全てはいると先端を少々下に向けてスプーン上のものを口の中に全て落としてやり、最後に引っこ抜く。たったこれだけの行為のはずなのに今こいつの食事をする行動は全て自分によるものだと思うと妙にゾクゾクとした間隔が体を覆う。加えて羞恥からか頬を僅かに染め緊張している相手にスプーンでものを食べさせるのは、餌付け以上にけしからん事をしている気分になって落ち着かない。こんな至近距離で正面からこいつの食事風景を見ることも無く。つい咀嚼で動く頬や飲み込む時に動作する喉仏に目がいってしまって)

ん…美味しい。 だって、なんかこういう事したの初めてだし…。
（口に入れて貰ったオムライスを咀嚼すれば流石大叔父の作ったご飯という事もあり、顔を綻ばせて素直な感想告げ。 緊張するなと言われてもこんな事をするのは初めてで、自分が知らないだけで親しい仲では普通にやる事なんだろうかなどぐるぐる思考回し。目の前の相手と直接視線が合わないのだけは幸いだが、何処か観察されてる様な雰囲気にますます意識してしまう。テーブルの上にはまだ1口目という事もありまだまだオムライスを残っている。このペースでいけば幾ら時間があっても足りず、相手のオムライスも冷めてしまうと思えば邪な思考振り払うように再び口を開け、二口目促して）

普通こんなことする物じゃない、恋人でもあるまいし……
(二口目分をスプーンですくい上げると、手さらをしつつケチャップ付きの部分を相手の口の中へ入れる。生まれた時より戦火にあった自分の時代ではこんな風な恋人との戯れなどする余裕もなかったし、そもそも恋人はいない。第一自身の性格でいえばこういうことは絶対にしないタイプなのだが、成り行きというものは恐ろしい。不意に口をついて出てしまった言葉は、まるでこの行為が恋人のものだと認めているようなもので、思わぬ失言に自分で言っておいて自分で身を固める。動揺が伝わらぬよう早々にスプーンを引っ込めると自分の用のものに持ち替えて一旦目線を逸らした。丁寧に作られたオムライスは美味しいのだがそれ以上にこの状況で心は穏やかでなく、よく噛まずにオムライスを飲み込んで)

ん。 …じゃあ、俺だけの特別なんだ。
（二口目となれば少し慣れて口に入ってきたオムライスを味わい。“恋人”という単語にやっぱりこの行為は相手にとっても異例な事だと再確認して。一方でそんな行為を怪我をさせた責任とはいえ、相手から提案して実際にしてくれている現状が特別だと認められたような気がしてくれば自然と口元緩んで独り言のようにぽつりと吐いて。先程からこの状況恥ずかしくて早く終わらせたいと思っていたが、実際に相手が自分の食事に専念し始めると寂しいと思う自分がいて。仕方なくテーブルの方向き直れば使える方の左手でスプーン手に取り、慣れない手つきでオムライス食べ始め）

っ、……特別なのはこの状況の方であれってだな＿＿、おい、責任を取ると言っただろ。俺の分を少し食べただけだ。無茶するな、零すだろう。
(確かにご飯を食べさせてやるなんてそうそうすることではないが、それを改めて口にされるとより深い意味を持つようだ。自分たちは特別な事をしている、と自覚してしまえば焦って上手くオムライスが飲み込めず、胸を数度叩いた。相手の手伝いをするだけ、そう割り切って平常心を保てばいいのにいつもと違う角度で行う食事は新鮮なことが多すぎる。反射的に反論しようとするも、隣をみれば勝手に逆の手でオムライスを食べようとしているではないか。少しの間自分のを食べただけだったが飽きたとでも思ったのだろうか。そんな軽薄な人間と思われるなど、勘違い甚だしい。慣れない手つきの左手を制すと、その勢いのまま自分が持っていたスプーン、すなわち自分用のスプーンで相手のオムライスをすくうと再度相手に差し出して)

大丈夫？ あ、そうだったんだ…。ありがと、っ…
（何だか言いながらも特別な事態というのは認めてくれている様でご機嫌なのは変わらないままでいて。喉に詰まらせたような動きをする相手に心配そうな顔向けつつ食事再開しようとして。それを見た相手が声をあげ、ただ中断していただけと聞けば何処かホッとしてる自分がいて。多少ツンとした口調ながらも優しさを感じられる言葉の数々に口元緩むの止められずに素直に甘えることにした。礼を言い差し出されたスプーンに再び口を開こうとして左手に自分のスプーンを持ったままである事に気付く。つまり今口元にあるのはさっきゲイツが食べるのに使ったものであって。関節キス、という単語が浮かんだ瞬間、鼓動が大きく跳ねた。大丈夫大丈夫と頭の中で唱えるも一旦意識すると駄目だった。だが尚も差し出されるスプーンは引っ込む気配もなく、当の本人も気付いてないようだ。ならば相手に気づかれる前に済ませてしまおうと決意すればドキドキとうるさい胸を押さえつけ、恐る恐る口を開けてスプーンごと口に含み）

お前がおかしなことを言うからこうなるんだろう。ん…？なんだ？お前いい加減に慣れ、……
(先程までどこか暗い顔をしていたかと思えば次の瞬間にはまた緩い笑顔が浮かんでいる。本当に見ていて飽きないやつだ。そしてやはり沈んでいるよりもこうやって笑顔でいる方がいい。腑抜けているとは思うが、これを見ていると張り詰めていたいろいろなものがとき解されていくような気がする。三口目となれば体を巡っていた緊張感も抜けてきたというのに、何故だがこいつはまだ緊張の最中にいるのうで動きが固い。確かに特殊なことで本来は恋人同士でやることであるが、慣れれば多少の胸の鼓動はあるものの、ただ食事のやり取りをしているだけ。それまで緊張することもないだろう、何かこちらに不備があるのかと思案しながら自分の分のオムライスを一口食べる。そこまで来てようやくこいつが固まった理由を理解して、こちらも動作が止まる。今あいつの左手にはスプーンがあるわけで、つまり今この瞬間に自分の手の中にあるスプーンは二人共が使ったものということになる。先程食べた一口で関節キス、ということである。もちろん向こうも同様だ。事実を理解する度に胸が強く高鳴っていく。とりあえず誤魔化そうと向こうがもつスプーンを奪い取りまた一口すくって口元へ持っていったが当然それで誤魔化せるものでもなく)

…その、俺はそんな気にしてないから。ん、
（口に入れたオムライスの咀嚼行うも緊張と胸の高鳴りに大して味が分からずにいて。こちらの態度に不審そうにしながらも自らも使ったスプーンが相手の口に運ばれていく様子に思わず目を奪われる。クラスの中でも中の良い友人同士でジュースを回し飲みしたり、同じものを食べる所は何度か見たことがある。だが、彼らは平然としているように見えた。ならば今ゲイツと間接キスをして、ここまでドキドキしているのは何故なんだろうか。相手も動きが止まり、同じことを察したのに気付けばお互い無言が続き。何とか空気を変えようと声をかけるも言葉とは裏腹に相手の事を直視する事が出来ずに若干挙動不審の様子を見せて。再び差し出されたスプーンは自分が使っていたもので問題ないものの先程の事をつい意識してしまって。頬に熱が集まるのを感じつつもまた口に含み。）

あ、あぁ……気にしていないなら照れるなっ！
(先程の流れで誤魔化せるわけが無いことは当然分かっていたが、相手の一言でお互いに事態に気がついていることを思い知らされる。こちらも気にしていないと意志表示すべく短く返事をするもそれでどうにかなるわけでもなく、互いが間接キスを自覚しているその事実にも胸の鼓動が早くなっていた。たかだかこんな、スプーンを介したものなのに。唇同士が触れ合ったらどうなるんだ、とそこまで考えて一瞬脳裏に口付けの図が浮かんで一層胸が早鐘を打つ。それを悪くないと思っていたことにも同時に動揺した。余計な思考のせいで脳内はパニックだが、向こうへ目を向けると向こうは向こうで頬を染めてこちらが差し出したスプーンを口に含んでいて、その様子を直感で愛おしいと思ってしまった。それにもまた何故そんな直感に至ったのか自分で分からず脳内は情報で渋滞していく。もはや八つ当たりに近い形で文句を言うも、それを言うこちらも耳の端が赤く染まっていて、一口にしてはやや大きめの分をすくい上げると、むんずと口元に差し出し)

無茶だって。それにゲイツだって、耳赤いじゃん…。
（傍から見れば馬鹿みたいなやり取りと思われるかもしれないが当人にとっては軽いパニックで精一杯だ。ここまで感情を振り回されるのは初めてで自分でも制御が効いてない気がする。それもこれも目の前の彼のせいがきっと大きい。ただでさえ恋人の様なやり取りや行動をした上で間接キスまでして照れるなという難しい注文に強めに言い返し。相手だって動揺したように耳が真っ赤だと子供っぽく指摘して。また口元に差し出されたスプーンを口を開けて咥えるも若干量が多く、零さないよう口いっぱいに頬張り。スプーンから離れ咀嚼続けつつも口端にケチャップついて、それに気付かぬにいて）

な、それはっ、お前のせいだろう。……まったく、子供か。
(先程から心臓の音がうるさいとは思っていたがまさか耳が赤くなっているとは思わず、分かりやすく動揺していた事がバレてしまっていたという事実、不甲斐なさと相手に動揺が知られてしまったことでさらに動きがカクついてしまう。またも八つ当たりのような返事を返して向こうを見てみると、そこには口いっぱいにオムライスを頬張りながら口の端にケチャップをつけている姿になっていて。こんな時でさえどこか抜けている相手にすっかり脱力して、思わず口元を緩める。こいつはどうも他人に影響を及ぼす力が強い気がする、特に自分にとっては。ティッシュを手に取り口の端についたケチャップを拭ってやると、最後の一口たるオムライスをスプーンにのせて差し出した。動揺もするし、心身ともに穏やかではないし、傍から見たら馬鹿みたいなやり取りだろうが、こんな時間を楽しいと思っている自分もいた。)

何でそうなるの。ゲイツのせいでもあるんだからね。…あ、付いてたんだ、ありがと。
（ゲイツがここまで動揺したり耳を赤くしているのも自分の影響らしい。そう思えば何処か満たされた気分になる。一方で全て自分のせいにされてしまえば子供っぽく拗ねる様に声をあげて、相手も共犯だと告げて。言い合いの様なやり取りさえずっと一人だった自分にはとても新鮮でとても楽しい。口元をティッシュで拭われるとやっと付いていたことに気付き、この事については子供っぽいことは否定出来ずに少し恥ずかしそうに視線反らしつつ御礼伝えて。動揺しきって気づかなかったが大きく見えたオムライスも最後の一掬いのようで少し寂しくなるも素直に差し出されたスプーンを口にして。自分の皿が空になったもののゲイツの皿にはまだオムライスがあり、やる事も無くなったからと食事風景観察することにして）

なぜそうなる。俺はただお前にオムライスを食べさせようと、……しただけだ。
(一度お前のせいだと言った手前また自分の意見の引っ込みがつかなくなったのか、非を認める気はない。最後の一口が終わり、相手のスプーンを置く。これでオムライスを食べさせてやるのも、口の端についたケチャップを拭うのも終わりだ。こいつの食事風景を真正面からみるなんて貴重な時間は終わってしまったらしい。少々名残惜しくはあるが、この動悸を抑えられるのだがらそれはそれで良い。とっとと自分の分を食べようとスプーンを持ったところで声を詰まらせ動きが止まる。思えばこのスプーンはこいつも口にしたものだった。よく考えればこの言い合いもこのスプーンから始まったようなもの、そうなると一番最初にミスを侵したのは自分のスプーンを差し出してしまったこちらということになる。これを使えばまた間接キス、そんな考えを振り払うように軽く頭を振ると一口自分のオムライスを食べ平常心を装って)

分かってるよ。…腕が治ったら俺がゲイツに食べさせて上げたいな。
（相手の好意や責任故の行動なのは十分わかっている。食事風景を観察していれば二人で使ったスプーンを手に取って固まったり頭を軽く振ったりと少なからずまだ動揺している様子が分かり、面白くても口元が緩み。一方で彼自身の手で運ばれていくオムライスがもし自分の手で運んだらどんな反応するか気になった。食べないと意地を張るのかそれとも先程みたいに耳まで赤くして渋々食べてくれるだろうか。本音を言えば今やってみたいけど、怪我人は大人しくしてろと言われるのが関の山だ。手がちゃんと使えるようになったらと条件付けて願望の口にしながらちらと相手の反応窺ってみて）

なっ……馬鹿な事を言うなっ！これは俺がお前を怪我させたからやっている事で、……俺達は、恋人じゃないだろう。
(大口でオムライスを食べ進めていると予想だにしない言葉が飛んできて向こうの顔を見てフリーズしてしまった。危うくスプーンを落としそうになったところで我に帰って、今何を言われたかを飲み込んでしまうと落ち着いていた胸は再びドクンと痛いほど強く脈打ち始める。これは特別だとか恋人同士のだとか言っているのに、それをやりたいだなんて。こいつは自分と特別なことをもっとやりたいのかと、そう期待してしまうと嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが綯い交ぜになってまたパニックに陥っていく。耳の端どころか耳全体が赤色に変わった。しかしこいつに何かを食べさせてもらうなんて、あの緩い笑顔でこっちにスプーンを差し出すのだろうか、なんてその時のことを想像してしまうと余計に鼓動は早くなっていく。たっぷりと間を置いてから反論するがその声は上擦ってしどろもどろだ。まともに向こうの顔を見ることが出来ず、オムライスに視線を戻すとガツガツと残りの分を一気に口の中へ放り込んでいき)

そうだけど、ゲイツの特別ならなってみたいなって。凄く楽しかったし。
（語りかけた願望への反応は思ったよりも大きかった。自らの言動でここまで揺さぶられているのを見ると嬉しいと同時に少し楽しいと思う自分もいて。彼の言う通り今は怪我しているから特別扱いされていて、その距離感がとても心地よく好ましく思う。同時に怪我が治ってしまったら元の距離感に戻ってしまう、と考えれば酷く寂しく感じられた。それに目の前で耳全体を赤くして上擦った声をあげる彼は年相応の男の子で、もっと色んな顔が見てみたいという欲すら出て来る。確かに自分は彼の恋人ではないが、それに並ぶくらいの距離でいたい。それが今まで1人で寂しかった事への反動なのか相手への特別な想いなのか自分でも分からないまま素直な心情口にして、目を細めて笑みを浮かべ。）

ぁ、ぐ、っ、…………お、れは………俺も、…お前なら、悪くない…
(ようやくオムライスは全て腹の中にかき込んだというのに、相手の言葉と自分の感情とで様々なものが溢れだしそうだ。こいつの言う「特別」が何を示す言葉なのか計りかねて、どう返事をしたらいいのかも分からず言葉にならない呻き声ばかりが口を突いて出る。こうなればもういつも通りお前は魔王だからと言い切ってこの時間を寸断してやろうと顔を向けるが柔和な笑みがこちらに向けられていて言葉が詰まった。そして今言おうとしていた言葉が自分の心とあまりにかけ離れていたものだと思い知る。心にも無いことを面と向かっては言えなかった。再び目線を逸らして一呼吸おく。自分の本音と向き合った今頭には否定の言葉が浮かばず、しかし上手く文章として繋げられない。意を決して自分の心の内を零れさせるようにそう言うと手早く自分と相手の食器を片付けてしまうと逃げるようにして洗い場へ持っていき)

……！…俺なら、悪くない…
（言葉にならない声が上がる様子見ればやっぱり困らせてしまったかと一瞬目線伏せるも続いて紡がれる言葉の一つ一つを拾いあげる様に耳を傾け。色んな葛藤が窺える表情で告げられた言葉は自分の言葉を肯定し、同意するものでまたいつもの様にツンと突き返されると思っていれば予想外の言葉に驚きに身が固まる。それが溢れ出た本音だと裏付けるように素早く食器を持って逃げてしまい、食卓に一人残されながらも彼の言った言葉を繰り返す。漸く自分の告げた言葉に含まれる意味に気付き、それに対する相手の答えの意味を噛み締めれば遅れて恥ずかしさと嬉しさがじわじわと湧き上がってきた。衝動的に熱もった顔を机に突っ伏して相手が帰ってくるまでに何とか冷まそうと試みて）