Dr,リン

Dr,リン

ハナミズキ  2014-10-10 16:57:40 
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この小説は「俺様、何様?女神様。」の続編になります。
こちらだけ読んでも話は分かるとは思いますが、詳しい馴初め等は下記をご覧になられると良いかと思います。

↓↓↓

何とかなるさ(高校生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534187/
俺様、何様?女神様。(大学生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534766/

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  • No.121 by ハナミズキ  2014-11-05 23:18:28 


事態もひと段落し、この地域は、後は食料の配給だけとなった。

「ソウレン、配給の手配は進んでいるんでしょうね」
「手配?」

「まだしてないの!?いったいここに何しに来たのよ!!」

また怒られる。
良い雰囲気になど一向になれる気配がしない。

「ここにいつまでも突っ立ってないで、屋敷に戻ってとっとと準備しなさい!」

鈴に怒られたソウレンは、従者を連れて屋敷に戻り、ありったけの食料を持って来た。

「・・・・ソウレン・・・。」
「なんだ? 礼ならいいぞ」

沢山の食料を持って来たソウレンは、満足げな顔をして言った。
しかし鈴の口から出た言葉は、

「いったい何考えてるの!?
 食料に困ってる人はここだけじゃないのよ!?
 全部持って来てどうするの!
 他の地域の人は死んでもいいって言うの!?
 あなたのその頭は飾りなの!?
 ・・・・まったく・・信じられない・・・。」

鈴はプルプルと体を震わせながら言った。

「おぃ、この食料、分散して車に積んで俺が運ぶわ。
 その方が確実そうだし」

「ありがとう、和也。
 そうしてもらえる?」

ソウレンのやることなす事が、すべて裏目に出るのだった。

しかしここの領主、どれだけ年貢を霞め取っていたのだろうか。
不作の割には、かなりの量の食料が倉庫に眠っていたようだ。

地域の調査と食料の手配。
全てが終わるのに一週間がかかった。
ようやく落ち着いた頃、とうとう鈴と二人だけの時間が出来たソウレンは、鈴の労をねぎらい、少し散歩をしようと言う。

鈴にしてみれば、散歩をするよりベッドで横になりたかったのだが、ソウレンに子犬のような目をしてお願いされては、むげに断るのもはばかれた。

近くの川辺を散歩しながら、ソウレンは鈴に問う。

「私では、そなたの伴侶には不足か?」
「・・・そうね、私とは価値観が違うと思うから、不足と言うより相性自体が会わないかも」

「そんな事はない。私は鈴が好きだ。他に何がいる」
「ごめんね。私はあなたの事を弟以上に見た事が無いわ」

「今はそうでも、そのうち一人の男として見て貰えるように努力する」
「・・・ごめん。私、好きな人がいるのよ」

「それは・・和也の事か?」
「ええ。」

鈴の答えを聞き、ソウレンは愕然とした。
今まで自分が望めば何でも手に入った。
逆に言えば、手に入らない物など無かったのだ。
それを何度求愛をしても断り、好きな人がいるから無理だと言われた。
頭が真っ白になる様な虚無感がソウレンを襲う。
そして一つの感情が生まれた。

―― 和也さえいなければ・・・と。












  • No.122 by ハナミズキ  2014-11-08 18:56:18 


◆ 旅立ち ◆


仕事がひと段落した鈴と和也は、その晩、車内で2人、お疲れ様と言う意味での打ち上げをした。
大きな仕事をした後には、必ずと言ってもいいほどやる、飲み会だ。
現代から持って来ていたワインを開け、それを飲み深い眠りにつく。
この1週間、殆ど睡眠を取っていなかった2人は、ぐっすりと深い眠りについた。

気が付くと、鈴の顔には、窓のカーテンの隙間から差し込む朝日が注がれている。
明るさを感じ、重い瞼を開けると、鈴の目の前には和也の顔があった。

『あっ・・そっか・・昨日あのまま寝ちゃったんだ・・・』

鈴は、朝日に照らされている和也の柔らかそうな髪を見つめ、昨日の事を少し思い出してしまった。
思い出すと恥ずかしさが込み上げてき、顔を赤くさせる。

鈴の熱い視線に気が付いたのか、和也も目を覚まし、「・・・起きてたのか」少しかすれた声で言った。
その声が耳元近くだったので、鈴の顔は益々赤くなる。

しかし、いつまでも昨日の余韻に浸っている2人ではない。
やる事はやる主義だ。
いつもの様に身支度を整えると、王都に帰る準備をしはじめる。

  • No.123 by ハナミズキ  2014-11-08 18:57:44 



その頃ソウレンの所では、何やら親密な話が進んでいた。

「本当にやってしまうんですか?」

武官の顔に戸惑いが隠せない。

「これは命令だ。どんな手を使ったもかまわん。和也を殺せ」

とうとう嫉妬に狂ったソウレンがとんでもない事を言い出した。

「だが、鈴には傷一つ付けるな。
もし、怪我などさせたら、その時は、貴様の首が胴と繋がってるとは思うなよ」

そう付け加えたのだった。

「それでは、王都に戻る道中で葬ればよいのですね」
「そうだ。鈴には悟られないようにしろ」

ソウレンは、思いを達成するためには手段を選ばないようだ。
武官たちは、今まで国の為、人々のために働いて来た二人の事を知っていた。
時には流行病から国を救い、また、王妃の命さえも救った二人だ。
そんな二人を手にかけるのは、なんとも言い難い心境だった。
しかし、皇子の命令となれば従うしかない。
命令に背けば自分の命が無くなる。
やるしかなかったのだった。

  • No.124 by ハナミズキ  2014-11-08 19:00:51 


王都に戻る道のりで、1ヵ所だけ宿屋に泊らない場所がある。
そこではテントを張り野営をするのだ。
その時に1人で行動をする和也を狙うと言う作戦だった。

「今日はここで野営にする。準備しろ」

武官たちが慌ただしくテントの準備を始める。
最後尾から付いて来た鈴達の車も、テントの近くに止め、鈴と和也は手分けをして、具合の悪そうな武官たちの診療に走り回っていた。

和也が鈴から離れた所を確認した数人の武官が、和也に近付き言う。

「あっちのテントに具合が悪そうなやつがいるんだが、見て貰えないか?」と。

武官に連れられてテントに行ってみると、中に数人の人がおり、テントの中で囲まれる状態になった。

「なんだ?いきなり」
「すまん。これは命令なんだ。悪く思ないでくれよ」

そう言いながら刀を抜き、切り掛かって来た。
この時代に来てから、幾度となく同じような事があった和也は、とっさに身をひるがえし、武官たちを指輪に仕込まれているスタンガンモードで気絶させ、その場から逃げて車の中に入る。

慌てて走って行く和也の後姿を見た鈴は、何事が起ったのかと後を追う。
和也の背後から、スタンガンから逃れた武官が、剣を振りかざして追っているのが分かる。
それを見た鈴は、レーザーモードでその一人を気絶させ、和也の後から車に乗り込んだ。

「いったい何があったの!?」
「わからん。命令がどうのとか言ってたな」

―― 命令

その言葉で何かを思い出したのか、鈴はすぐさま車を出すと言った。

「何か知ってるのか?」
「これは推測だけど、たぶん・・・ソウレンね・・。」

「ソウレンが何で?」
「和也さえいなければ、私がソウレンの愛人にでもなると思ったんじゃないかな」

少し考えた和也は、『そう言う事か』と納得をした。

「で、どうするんだ?」

「もう、この国には居られないわね。
 ソウレンの事だもの、何処に行ったって追って来るわ。
 隠れて暮らすなんてまっぴらごめんよ!
 このまま1度診療所に戻って、この国で稼いだお金を全部置いて、後は診療所の
 みんなに任せて、私たちはこの国を出ましょう」

「それで何処に行くつもりなんだ?」

「決まってるじゃない!日本よ!」

鈴はにっこりと笑い決断をする。
和也は、いつも鈴は突拍子もない事を言い、それを実行する鈴には慣れていた。
そして、その突拍子もない事が、ほとんどの場合良い方向に向かっていくのも知っている。

「お前がそう決めたなら、俺は何処までも付いて行くさ」

口角を少し上げながら、クールに笑う和也だった。

  • No.125 by ハナミズキ  2014-11-08 19:04:55 



和也の暗殺に失敗をしたと報告を受けたソウレンが外に出てみると、鈴達の乗っている車が宙に浮かび、そのまま消えて行ってしまうのが見えた。
事の重大さに全く気が付いていないソウレンは、暗殺に失敗した者達を葬ってしまったのだった。


夜になり、診療所に戻った二人は、全員を呼び今後の事について話し出した。

「急で申し訳ないんだけど、この診療所は今後、あなた達に任せます。
 今まで通り、バジルは内科的症状を見てあげてね。
 ウンデグ、貴方は軽度の外傷なら技術を教えたわよね。
 頑張ってちょうだい。
 シュンイ、貴方には診療所内の全ての権限を与えるわ。
 今まで通り、分け隔てなくお願いね。
 ホウミン、貴方にはもっとも重要な任務をしてもらう事になります。
 ここに今まで稼いだお金の全てが入っています。
 これをうまく活用して診療所を運営して行ってちょうだい」

そう言って大きな金庫を差し出した。

「これはいったいどう言う事ですか?」

いきなり任せると言われた台所番のホウミンが尋ねる。

「和也が命を狙われてるの。
 この国に居ては殺されてしまうから、私たちは遠い国へ行きます」

「遠い国とはどちらですか?」

鈴は少し考えた。
行先を告げずに行けば、ここの人達が拷問にあうかもしれない。
そんな事態は避けたい。

「私たちの祖国に行きます。行先は日本です」

この時代での日本の呼び名は『和国』だ。
『日本』と言っても差し支えは無いだろうと、鈴は本当の事を言った。
もし日本まで追って来たとしても、この時代の日本は戦国時代だ。
まともに上陸などできるわけがない。
それは日本史ですでに学んでいる事だ。

そして次の日の朝早く、2人を乗せた車両は、今日の目的地である南の領地『淡憐』に向かって飛んだ。
そこで一旦充電をし、夜になるのを待つと、再び日本へ向かって飛び立って行ったのだった。

着いた場所は『長崎』。
ここの港町でしばらくお金を稼ぎ、最終目的は京都である。

しかし、あの白い霧が発生した場所を後にした二人は、どうやって元の時代に戻るつもりなのか疑問である。
元の時代にはもう戻らないと決めたのだろうか。
そんな疑問は残るが、この2人の事だ、『なんとかなるさ!』で乗り切ってしまうのだろう。


また、機会があれば、その後の2人の様子でも覗きに来よう思う。














―  完  ―

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