Dr,リン

Dr,リン

ハナミズキ  2014-10-10 16:57:40 
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この小説は「俺様、何様?女神様。」の続編になります。
こちらだけ読んでも話は分かるとは思いますが、詳しい馴初め等は下記をご覧になられると良いかと思います。

↓↓↓

何とかなるさ(高校生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534187/
俺様、何様?女神様。(大学生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534766/

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  • No.1 by ハナミズキ  2014-10-10 16:59:04 

◆ いざ新天地へ ◆


鈴と圭太はいま、船の上に居た。
これから華国に向かうためだ。

ひと月ほど前に、朝国が弾道ミサイルを日本海に向かって打ち上げていたが、距離がだんだん縮まり、とうとう鮮国の小島に打ち込んだ。
それをきっかけに戦争が始まってしまったのだった。

初めは島でやっていた争いが、お互いの国の闘争心に火が付いたようで、とうとう朝国と鮮国の国境にまで飛び火をし、その近くにある大都市ソルトにもミサイルが落された。
住民たちはいち早く避難をしていたので、大きな被害にはならなかったが、街は壊滅状態になっていた。

朝国は、15歳以上の男なら、強制的に軍に徴集され、軍人とは無関係の一般兵士が最前線へと送られて行った。
鮮国も同様に、徴兵された者が先に前線へと送られて行くのだった。

中には他国に亡命をしようとする人もいて、空港や港は封鎖されていた。
したがって鈴達は、華国から陸路で朝国に行かなくてはならなかったのだ。

「鈴ちゃん、この医療車両って、僕たち二人だけで運ぶの?」
「そうよ。私たちが遅れて出発したのは、この車両が来るのを待ってたからなのよ」

鈴達が運ぼうとしているこの医療車両は、日本の優秀な技術者が終結をして作り出した、最新鋭の車両だ。
大きさは2階建てバス程あり、1階部分は手術室・レントゲン室・MRIも完備されている。
2階部分はほぼ住居の様な物で、トイレ・シャワー・ベッドが数個完備されていた。

薬剤などはバスの下腹部に収納スペースがあり、大量に詰め込まれている。
車の原動力は、電気を使うソーラーカー仕様で、車の屋根にはソーラー圧縮装置が付けられていた。

そして何より、この車の凄い所は、陸・海・空の特殊機能を持つところだろう。
陸は普通に走行をするとして、海は車体の両脇から浮き袋の様な物が出て、水面を進行する。

  • No.2 by ハナミズキ  2014-10-10 17:00:20 

空は、屋根に格納してあったプロペラを出し、ヘリの様に空を舞うのだ。
いざと言う時には、何処にいても離脱できるようにとの配慮であった。

鈴達の最初の目的地は、朝国の農村地域だ。
そこに取り残されている人々の健康状態を把握する事、及び治療に当たるのが第一目的である。

船が港に着くと、そこは華やかな華国の港町。
隣の国で戦争が起こっているとは思えないほどの賑わいだ。
その港町をすぐさま後にし、二人は朝国へと向かった。

  • No.3 by ハナミズキ  2014-10-10 17:01:14 



朝国へ近づくにつれ、周りの風景も一変してくる。
ガヤガヤと賑やかだった町並みは、ポツリ、ポツリとしか家が無くなり、家の代わりに大きな工場のような建物が目につくようになる。
路面もひび割れが入っており、少し車の運転もしづらい。

華国と朝国との国境では検問が行われており、そこでパスポートと国境なき医師団の身分証明書を提示する。

なんとか国境を抜け、とうとう朝国に入って来た。
そこで目にした光景は、やせ細った赤茶色の土地と、浮浪者の様な人々の姿だった。
力なく道端に座り込む人。
壁に寄りかかってる人。
生きているのか死んでいるのか、道端に倒れ込んでいる人とさまざまだ。

本来ならば急いで目的地に行かなければならないのだが、病人を見捨てるわけにもいかず、倒れている人を診る事にした。

「大丈夫ですか?分かりますか?」

鈴が声を掛けるが、倒れていた男性は指を少し動かすだけだった。
そこに、12歳くらいの女の子が駆け寄ってきて、鈴に泣きながら訴え始めた。

「お願いします。お父さんを助けてください。お願いします」

「それじゃあ、キャンプに運びましょうね。あなたも一緒に入らっしゃい」

そう言って、その男性を医療車両に乗せ、点滴を打ちながら汚れている身体を綺麗に拭くと、2階のベッドルームに運び安静に寝かせた。
女の子はずっと父親から離れず、側で手を握っていた。

  • No.4 by ハナミズキ  2014-10-10 17:02:12 

目的地の高梁(こうりゃん)に行くまでの間に、この様な状態の人を何人も医療車両に乗せ、二人は予定よりも随分と遅れて到着をした。

「リン、遅かったな。今回は何人拾って来たんだ?!」

そう話しかけて来たのは、昔馴染みの医師である。

「店員オーバーよ」
「ははは。相変わらずだなリンは」

医療車両から患者を降ろし、キャンプの中に運び込んだ後、戦場の最新情報を聞いた。
国境付近で何日も争いが続いていたが、朝国の食料不足と、旧式武器の損傷が相次いで、部隊は少々後退気味だと言う。
一方鮮国の方が有利なのかと思えば、そちらの方も少し問題が生じているようだ。
ミサイルを放つも、あさっての方向に飛んで行く車両が続出しているらしい。
酷いものになると、大砲の首の部分が外れて落下をする物も中にはあるらしく、最新鋭の機体なのに決着がなかなかつかないと言う。

とりあえず鈴達の任務は、怪我人やお腹を空かせた人達の保護から始まる。
もしその中に外国人が居たなら、祖国に連絡をし、迎えに来てもらわなければならない。
各農村地域を回り、NPOから送られてきた物資を渡しつつ、診療をしていた。

物資を渡す時は、何処から集まって来るのか、わらわらとゆっくり歩きながら支援団体の方へやって来て、順序良く並ぶと言う事を知らないのか、スタッフの周りを囲みあちこちから手が差し出されている。
そして、出した荷物を奪い取るように持ち去っていくのだ。

医療班は医療車両の横にテントを張り、そこで人々を診察するが、隙を見ては薬を盗もうとしている人もいた。
しかし、しばらく食事らしい食事をしていない彼らは、直ぐに体力が尽きてしまい、スタッフに捕まってしまう。

  • No.5 by ハナミズキ  2014-10-10 17:03:07 


彼らは、この国の政治体制が好きではないらしく、文句を言いたいようだがそれもままならないようだ。
文句を言えば即捕まり、問答無用で死刑だからだ。
だから彼らの暮らしは一向に良くはならないのだった。

仮設キャンプ場の近隣をぐるりと回ってみたが、栄養失調の人が殆どで、怪我人や重病患者は見当たらなかった。
そこで、鈴と圭太は、少し戦場に近い場所まで移動をする事になった。
そして、この場所での最後の巡回診療をしようと準備をしていた時に、突然地震にみまわれた。
直下型の地震で、震度は5弱といったところだろう。
日本ではそれほど大きな被害は出ないが、ここは朝国である。
建物も土台が有るのか無いのか、掘立小屋のような所に住んでいる人が殆どだ。

鈴と圭太がちょうど医療車両に乗り込んだ瞬間であった。
車体が小刻みに上下に揺れたかと思うと、今度は大きく左右に揺れだした。
しばらく揺れた後、揺れが収まったかと思うと、竜巻の様な白い霧が渦巻き、車両の周りを取り囲んだ。
こんな地震は今までに経験をした事が無い。
必死に車のドアに捕まり、揺れをおさまるのを待つ事1分。
やっとおさまった揺れを確認し、キャンプ場のみんなの所に戻ろうとしたが、そこには何も無かったのだった。

ついさっきまであった、仮設キャンプ場の建物が綺麗に無くなっている。
潰れたり倒壊したりしたわけではない。
本当に何もないのだ。

  • No.6 by ハナミズキ  2014-10-10 17:06:34 



一方、仮設キャンプ場の方では、揺れが始まり危険を感じたスタッフたちが、安全確保のために患者達を外に誘導していた。
そして見てしまったのだ。
鈴達が乗っている車両が、揺れと共に消えていくのを・・・。

1人だけが見たなら、それは目の錯覚で終わらされてしまうだろう。
しかし、目撃者は数人いた。
揺れが収まった瞬間に、白い渦が車両を取り巻き、渦が消えると車両も消えていたのだ。

辺りをくまなく探すが、それらしい物は見当たらない。
いったい鈴達は何処へ行ってしまったのだろうか。

だがしかし、今はそれどころではない。
倒壊した建物の下敷きになってしまった人の救出の方が先だ。
鈴達が運んできた最新鋭の車両が無いのはいたいが、それが無くても今までの様に治療をする事は出来る。
その車両があれば救命率はぐんと上がるが、そんな事を言ってる場合ではない。
いま出来る事を精一杯やるだけだった。

しかし、医師の数が圧倒的に足りなかった。
そこで、医師団に登録をしていた者の中から、一番近い国の医師が緊急招集される事になり、その中に和也の名前も挙がっていた。

そして、朝国で鈴達が消えた事を、日本に居る家族にも伝えられたが、特定地域である朝国に一般人が来ることは許されないと言う事で、探しに行く事も出来なかった。
慶清大学病院でもその事は話題になり、みんなが心配をしていたが、やはり、医師と言う立場だけでは入国は許されず、なすすべが無かったのだった。

そんな時、和也の元に1本の電話がかかって来る。

「草薙和也さんですね。私共は国境なき医師団の者ですが、至急朝国に出向いてもらう
事は可能ですか?」

「はい。大丈夫です。直ぐに出発の準備をいたします」

地獄に仏とはこの事だと、鈴の家族や圭太の家族たちが安堵し胸をなでおろした。

「和也君。鈴達の事必ず探し出してね」
「圭太の事もよろしくお願いします。あなただけが頼りなんです」

涙を流しながら和也の手を握り、何度も何度も頭を下げるのだった。

  • No.7 by ハナミズキ  2014-10-10 17:08:01 


次の日の便で急いで華国に入り、そこからは用意されていた車に乗り込み、朝国に行った和也だったが、あまりの惨状に目を疑った。
地震災害での召集だったが、キャンプの中で横たわっている人は、怪我人だけではなく、明らかに栄養不足で動けない人たちの方が多かったからだ。

建物も倒壊はしているが、あばら家が壊れたような感じにしか見えない。
多くの人々は、食べ物を乞うために路上に居たため、それほど酷い怪我はしていないが、動けないで家の中に居た者達が大怪我を覆っているようだった。

体力が無い分回復は遅く、家を失った者達のために、炊き出しや怪我人には包帯などを取り換えると言う作業が和也を待っていた。
そんな和也の焦る気持ちとは裏腹に、鈴達二人を探しに行く暇など無かったのだ。

そうしている間にも時間は刻々と過ぎて行き、和也が朝国に来てから1週間が経とうとしていた。
朝早くから炊き出しの準備をしているボランティアの人の側に行き、地震の時の事を聞いてみた。

「あの時は不思議でしたね。地震の直後に白い霧が地面から出たんですよ。
 そして、そこにあった車両を包み込むように覆ったかと思ったら、霧がだんだん
 晴れてきましてね、そうしたら・・・車が消えてたんですよ・・・」

「車でどこかに避難したとかではないんですか?」

「それは無いと思いますよ。ごらんの通りここは見晴らしが良いですからね。
 移動をしたなら霧が晴れてから見えると思うんですよ。
 精々1分ほどの出来事でしたから。
 それに、霧自体が車の周りにしか発生してなかったですし・・・」

その話を聞いた和也は、車両が消えたと思われる場所まで移動し、辺りを見回した。
すると、突然余震が起きたのだ。
上下に揺れる余震と共に、さっきボランティアの人が言っていたように、地面から白い霧のような物が出始める。
その霧にすっぽり包み込まれるように、和也は霧の中へ消えて行ったのだった。
遠くで誰かの悲鳴が聞こえていた様な気もしたが、左右前後の間隔が無くなり、今は動くのは危険だと判断をし、その霧が晴れるのを待つしかなかった。












  • No.8 by ハナミズキ  2014-10-12 12:25:40 


◆ 医師として ◆


車両ごと霧の中に消えて行ってしまった鈴と圭太は、揺れと霧が収まったのを見計らい、車の外に出ていた。
辺りを見回すも、そこには何もない草原であった。
遠くに道らしきものも見えたが、先ほどまであった舗装された道ではなく、土肌が顔を出す路面である。

「・・・・・鈴ちゃん・・・ここ、どこだろうね?」
「何処って、朝国でしょ?・・・・たぶん・・・。」

「あのさ・・・これってどういう事なのかな?
 さっきまであったキャンプ場が無くなってるし・・・・それに・・・」

「それに?なに?」
「人の気配が全く感じられないんだけど・・・」

「やっぱり圭太も感じた?
 なら、ここが何処なのかはっきりさせる方法が1つだけあるわよ」

「方法って?」
「この車ね、GPS機能が付いてたでしょ?それで確認しましょう」

鈴は医療車両に搭載されているGPS機能を使い、現在地を把握しようとしたが、スイッチを入れても反応が無かった。
地震の影響で壊れてしまったのだろうか。
昨日まではしっかりと現在地を示していたのに、今は真っ白な画面が出るだけだ。

GPSが使えないとなれば、緊急無線を使用するしかない。
そう思い電源を入れてはみるも、― ザー ザー ―としか言わないのであった。
これは明らかにおかしい。
ふと空を見上げると、昨日までは満月だった月が、いまは三日月だ。
たった1日で満月が三日月になどなるはずがない。

  • No.9 by ハナミズキ  2014-10-12 12:27:18 

鈴は記憶をたどってみる事にした。

上下に揺れる地震の後に霧が発生。
霧に覆われている最中に、青白い稲妻が発生していた。
その光はどこかで見た事がある。

「そうだ!あれは磁場だわ!!」
「磁場?」

「そうよ!磁場よ!
 って事は・・・文献で読んだ事があるけど、もしかしたら・・・」

「・・・・もしかしたら?」

「タイムスリップしたかも!・・・過去に」
「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

圭太が大声をあげて驚いた。
その時、再び地面から霧が発生し、その中から和也が姿を現せたのである。

「「 !! 和也(君)!」」

霧の中から現れた和也は、二人の姿を見て駆け寄って来た。

「お前たちいったいどこに居たんだ!」

何故か大声で怒られた二人である。

「何処って、ずっとここに居たけど?
 それより、なんで和也がここに居るのよ!?
 あなた日本に居るはずなんじゃないの?」

「お前らが行方不明だって言うから、俺がわざわざ探しに来たんだろ!」

「えっと・・・ちょっと待ってね・・・。
 私たちが行方不明で、探しに来てくれたって言う事は分かったわ。
 でもね・・・私たちがここに来たのって、ついさっきよ?
 ほんの10分くらい前。
 ねっ!?圭太」

「・・・うん。」

「何言ってんだ!?お前らが居なくなったって聞いて、次の日に俺がここに来て、
 それから1週間は経ってるんだぞ!?」

さすがの和也も直ぐには理解が出来ていないようだった。

  • No.10 by ハナミズキ  2014-10-12 12:28:32 

そこで鈴は和也に向かい、人差し指を空に向けて掲げる。

「あの月を見てよ。和也」

鈴に言われた通り空を見上げてみると、三日月が顔を覗かせていた。

「あれ?あの月ってあんなに細かったか?」

鈴は溜息を付きつつ仮説を話し始めたのだった。

「私たちは10分くらい前に、この場所に来たのね。
 そして10分後に和也が来たの。」

「ああ。それで?」

「私たちが昨日まで見ていた月は、満月だった。
 だけど今は三日月。
 たった1日でこんなに月が欠けるはずがないわよね?」

「そうだな」

「つまり、私たちは、何らかの形で時空間を移動してしまったと考えた方が
 つじつまが合うと思うのよ」

「映画やアニメの世界じゃあるまいし、そんなこと有り得ないだろ」

「和也は見なかった?霧の中に居た時に、青白い稲妻を・・」

和也は少し考え、確かに青白い何かを見たような気がした。
それが稲妻なのかはわからないが、所々光っていたのは感じていたのだ。

  • No.11 by ハナミズキ  2014-10-12 12:29:41 

「稲妻かどうかは分からないが、確かに光っている所はあったな」

「それ、たぶんプリズマを発生させた磁場よ・・・。
 何らかの化学変化が生じて、時空を歪めてしまったんだと思うわ」

「おぃ。もったいつけないで結論を言えよ」
「つまりね・・・・私たちは過去の飛ばされてしまったんだと思う」

「・・・・なんで過去だと断定できるんだ?未来かも知れないだろ」

「私たちが居た時代は飽食の時代でしょ?それに・・・。
 今まで居た場所の土地は痩せてて赤茶色の土しかなかったはず。
 それが今はどう?青々とした草木が生い茂っているわ。
 未来ならこの土地も近代化をしてそうな物なのに、何もないだけじゃなく、
 自然が豊かすぎると思わない?」

「確かに・・・・」
「それにね。衛星を介した機器が使えないのよ」

3人はこの事態を把握するために、空から確認をする事にした。
車両を飛行タイプにし、地上3000mまで上昇をする。
すると、今まで居た場所は、山の谷間にある草原だと言う事が分かった。
辺りに民家らしき建物もない。
しかし、東の方向に川が見えたのだ。
その川の方向へ移動して行くと、川の地形が華国から朝国に渡って来た川とよく似ている。
それを確認した後、鈴達3人は、再び朝国の方向へと移動をした。

  • No.12 by ハナミズキ  2014-10-12 12:30:39 

5分くらい移動をすると、遠くの方に村の様な集落が見えて来た。
車体前方に搭載されているカメラを望遠拡大モードにし、その集落の様子を見てみると、屋根は茅葺(かやぶき)で壁は土で出来ているようだった。

所々の家からは、屋根から白い煙が出ており、その造りも日本古来の造りとは少し違うようだ。
これは、テレビなどで見た事がある、昔の華国や鮮朝国の建物によく似ている。
更に拡大をして、人の姿を映し出してみると、まぎれもなく鮮朝国の民族衣装をまとっていた。

これは間違いない。
不思議な話だが、3人は本当に過去に来てしまったようだった。

  • No.13 by ハナミズキ  2014-10-12 12:31:53 




3人で話し合った結果、村から少し離れた場所に車両を降ろし、そこから徒歩で村の中に入り、ここが一体いつの時代なのかを調査をしようと言う事になった。
朝国にいる限り、元の時代に戻った時に都合が良いだろうと言う事だ。
他の国に入ると、色々とややこしい事になりそうだと言う事は、直感で分かっていた。

村の少し手前の草原に降りた3人は、もしもの時の為に最低限の医療セットと薬剤を持ち、村に潜入をした。

3人が村に入ると、見知らぬ人物に行き交う人々がチラチラとは見るが、不思議な事に不審がられはしなかったのだ。
それはきっと、この3人が着ていた服装に関係があるのだろう。
医療スタッフの証ともいうべき、白の上下を纏っていたからだ。
見ようによってはこの国の医者とあまり変わらないかもしれない。
ただ、着ている生地が、サラサラとした綿とポリエステルの混合生地で、真っ白な着物だと言う違いだけだった。

村の中心部に入ると、そこは少しばかり賑やかな街並みで、道の端には行商が店を開き、市場らしき物もある。
食べ物を売っている所もあれば、食堂のような所もある。
食事と一緒に酒も出しているのか、客の殆どが男性客で、仲間と話しをしながら楽しそうに飲み食いをしていた。

少し小腹が空いた3人だったが、この時代のお金など持ってはいなかった為、食事をする事が出来ないでいた。
もしこの時代に何日も居るとしたのなら、一文無しでは生きてはいけない。
そこで出した答えは、この時代でお金を稼ぐ事であった。

  • No.14 by ハナミズキ  2014-10-12 12:33:25 


幸いな事に鈴達は医者であり、薬剤も豊富に積み込まれている車両が手元にある。
だがそれにも限りがある為、あらかじめ稼いだお金で、この時代で売っている薬草などを買い、それを調合して稼ごうと言う事になった。
そして、今一番重要な情報は、この時代がいつの時代なのかを確かめる事である。

鈴は、食堂の経営者でもありそうな1人の女性に声を掛けた。

「こんにちは。私たちは西の方から来た旅の医者なんですが、この国の王様は
 今は誰がなっているんですか?」

無難な聞き方である。
さり気なく旅人を装い、王様の名前を聞けば、その時代がいつの時代なのが解るからだ。

「あんたたち、相当な田舎から来たんだねぇ。
 王様の名前も知らないなんてさ・・・王様の名前はね、「莉 眸頴(り しゅんえい)」
 様だよ」

「有難うございます」

莉 眸頴・・・・確か千年近く前の、鮮朝国の王様の名前だ。

「・・・・おぃ。莉 眸頴って言えば、鮮朝国の創立者じゃなかったか?」
「記憶が正しければ、私もそう思う」

「あっ・・・僕、1つ思い出したことがあるんだけど、その人、医術に凄い関心が
あったみたいで、若い頃に医術を華国で学んだって話だよ」

「私、なんだかその人に会ってみたくなっちゃった」

クスクスと笑いながら、冗談なのか本気なのか、鈴の目は爛々と輝いていたのだった。
そうは言っても、王様になどそう簡単に会えるものではない。
だが、会える方法は1つだけある。
鈴達がこの国で医者として働き、その名を王宮まで届かせればいいのだ。
しかし、そこには問題もあった。
本来なら寿命で死ぬはずの人間が、未来の医療で命を延ばすと言う事は、未来の歴史をも変えてしまうかもしれないと言う事だ。
例え病人や怪我人が居たとしても、未来から来た人物がその命を救ってはいけない。
ただ見ているだけしか出来ないと言う事になる。
たとえ自分たちに、その者の命を救う技術があったとしてもだ。

  • No.15 by ハナミズキ  2014-10-12 12:34:24 

だが圭太はこうつぶやいた。

「もしも、もしもだよ?未来が変わったとしたらね?
 僕たちが知っている未来より、もっと酷い事になるとは思えないんだけど・・・」

『確かに!(そうね!)』

2人も圭太の言葉に頷いた。
あの、餓死寸前の未来よりはましになるのではないかと言う思いが、3人の気持ちを固めさせたのだった。

そしてその日は、とりあえず医療車に戻ろうと言う事になり、来た道を歩いていると、子供が役人の通行の邪魔をしたとかで囚われ、殴られていた。
母親は泣きながら役人に土下座をして、慈悲を乞うていた。
しかし役人は、その母親さえも邪魔だといい足で蹴っているのだ。
そして事態は急変をする。

  • No.16 by ハナミズキ  2014-10-12 12:35:55 


今まで殴ったり蹴ったりしていた役人が、いきなり刀を抜いて母親を切り付けたのだった。
その役人の行動を、周りの人達は遠巻きに見ているだけで、誰も助けようとはしない。
助けに入れば自分も殺されると言う事を分かっているからだ。
力なく倒れ込む母親に、殴られていた子供が駆け寄り泣いている。
その姿を見ていた役人は、その子供まで蹴りつけ、その場を去って行ってしまった。

役人が去って行ったのを確認した鈴達は、その親子の所に行き、切られた母親を診察し始めた。

「圭太、気道確保!和也はライン取って!」
「「了解!」

圭太は切られた部分がよく見えるように、母親を抱えるような体勢を取り、持っていたタオルで傷口を押さえ止血し、和也は脈と血圧を測った後に点滴をする。
その間、鈴は軒先を貸してくれそうな家を探すが、誰も良い顔をしなかった。

「その女は代替え人だろ?そんな奴に軒先でも貸せるわけがないだろ」

【 代替え人 】とは、奴隷のような人の事を指す言葉である。
この時代はまだ階級差別が激しく、上から王様・貴族・平民・代替え人となっている。
平民はかろうじて人間扱いをしてくれるが、代替え人ともなると人間扱いはしてもらえない。
家畜以下の扱いだ。
だから、この代替え人親子には、どこも自分の家を貸そうとはしないのであった。

そこに、この親子を知っている人が現れ、自分の家を使っても良いと申し出てくれ、その人の店先を借りる事にした。
近くにあった板に母親を乗せ、急いでその人の家まで行くと、3人はすぐさま手術に取り掛かる。

  • No.17 by ハナミズキ  2014-10-12 12:37:39 

まず、傷口を消毒し、その傷の深さを、ライトを当てて確認する。
幸いな事に、傷は内臓まで達してはいなかったが、出血の量が多すぎる。
しかし、和也の的確な判断で、点滴を打つと同時に凝固剤も注入をしていたため、あらかたの出血は止まりかけていたのだった。

「これ位の怪我なら圭太でも出来るわね。やってみて」
「はい!」

圭太が傷口をえぐるように消毒をし、その後に縫合をした。
患者は気を失ってはいたものの、一応麻酔を打っていたため、死んだように眠っている。
この時代でこれだけの怪我をすれば、よほど運がよくない限り生きているのは不可能だろう。
麻酔を打たれているせいで、死んだように眠っているが、その事を知らない子供と知り合いらしき女性は、もうダメだと思っていた。

  • No.18 by ハナミズキ  2014-10-12 12:38:35 


傷の治療も終わり、また板に乗せ、子供の案内で家まで運んでいくと、そこにはとても家とは言えない様な、隙間だらけのボロ小屋が建っている集落にたどり着いた。
どうやらここは、代替え人たちが住む集落のようだ。
どの家もみすぼらしく、壁にはあちこちに隙間が空いている。
その隙間から目だけをギョロギョロとさせながら覗き見ている住人達。
いったい何事かと側に寄って来る人。
そして板の上で死んだように眠っている代替え人の母親。
人々の視線が突き刺さる。

「いったい何があったんですか?」

勇気を出して聞いてきた人がいた。
鈴が先ほどの事件をかいつまんで話し、怪我の治療はもう終わっているので、後は安静にして寝かせておく必要があると説明をした。

「生きているのか?こりゃあたいしたもんだ。
 あなた方はお医者様ですかぃ?」

「はい、そうです。
 私たちは通りすがりの医者ですよ。
 あなた方に危害を加える者ではありませんから、どうぞ安心してください」

その言葉を聞いた住民たちは、少し安心をしたのか、家から1人、また一人と出てきはじめた。
そして話しながら患者を家の中に運び入れたのだった。

しかし、家の中も、どことなく不衛生で、この様なところに病人を置いておくのがはばかれるような所であった。

そこで鈴は医療車をこの場所まで運んで来て、車内で容態が落ち着くまで患者を診る事にした。
圭太をその場に残し、鈴と和也はいったん車両へと向かったのだった。

  • No.19 by ハナミズキ  2014-10-12 12:39:28 


車がある場所まで来た二人は、そのまま車両に乗り込み、道幅の狭い街中を通るより、安全重視の為に空から向かう事にした。

突然空から変な音が聞こえたかと思うと、鉄の塊がゆっくりと落ちてくる。
住人達は一斉に、家に中に逃げ込み、先ほど同様に、板張りの壁の隙間からこちらの様子を伺っている。

空から降って来た鉄の塊の音が消えたかと思うと、その中からさっきの二人が姿を現し、なにやら長い二つの棒に布が巻き付いているような物を運んで、女性の家の中に入って行った。
そして出て来たと思ったら、その棒の真ん中に布が敷かれ、その上に女性を乗せていた。
乗せられたその女性は、鉄の塊の中に運び入れられ、そのまま出ては来なかったのである。

  • No.20 by ハナミズキ  2014-10-12 12:43:40 




車内に運ばれた患者はストレッチャーに移され、専用エレベーターへと乗せられた。
エレベーターが上昇すると、真上にある天井の扉が開き、そのまま2階まで移動できる。
エレベーターがあった1階の床は、上昇と共に新たな床が左右から出てき、そのまま床として機能するのであった。

ストレッチャーに乗せられたまま2階に運ばれた女性は、着ている衣類を脱がされ、身体を綺麗に拭いた後、医療用寝巻を着せられベッドに寝かせられた。

患者の処置が全て終わった頃、外で心配そうに立って待っている子供を、車両の中に入れて、
感染症を防ぐために、子供をシャワーで綺麗に洗うと新しい服を着せてから母親の元に連れて行った。

この親子は母一人子一人のようで、子供の面倒を見てくれるような人はいなそうだ。
みんな自分の家族を食べさせるのが精一杯のようだった。
この子供も、栄養状態があまり良いとはお世辞にも言えないような状態で、お腹もかなり空かせているようである。

この車両には、当面の缶詰やレトルト食品が大量に積み込まれていた事と、次のキャンプ場に運ぶ物資も大量に詰め込まれていたことが幸いし、しばらくの間は米には困らないが、野菜の方が少々不安である。
普段野菜はどうしているかと言うと、2階の一角でLED栽培をしているのだが、なにぶんにも狭い空間なので多くは栽培できないのである。

3人は自分たちの晩御飯のついでに、子供の分を用意すると、子供は大喜びをしてむしゃぶりつく様に食べだした。
いったいどのくらいご飯をまともに食べていなかったのだろうか。

「誰も取らないから慌てなくてもいいのよ?ゆっくり食べなさい」

鈴が優しく声を掛けた。
子供は少し落ち着いたのか、ゆっくりと食べ始めるのだった。

食事も終わり、家に帰そうとも思ったが、子供一人を返すわけにもいかず、母親の抜糸が済むまで車両での寝泊りを許可した。
そして子供は、母親の隣にある、サラサラの布団にくるまり、スヤスヤと寝息を立て始めたのだった。

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