Dr,リン

Dr,リン

ハナミズキ  2014-10-10 16:57:40 
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この小説は「俺様、何様?女神様。」の続編になります。
こちらだけ読んでも話は分かるとは思いますが、詳しい馴初め等は下記をご覧になられると良いかと思います。

↓↓↓

何とかなるさ(高校生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534187/
俺様、何様?女神様。(大学生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534766/

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  • No.81 by ハナミズキ  2014-10-25 22:37:12 

すると、隣に座っている娘が、母親の袖を引っ張り、小声で何かを言っている。

「あぁ、そうね。そうだったわ。」

母親がそう囁くと、鈴に向かって言う。

「この診療所は、随分と繁盛しているみたいですね。
 人手が足りないんじゃないんですか?」

「そうですね、あと2人ばかり増やそうかと考えてますが」

それを聞いた母親は、自分の娘はどうかと尋ねて来た。
働き者だし、それに器量良しだと褒めたたえる。
鈴にとっては、器量などどうでも良い事だったのだが、この親子にとっては、美人か美人ではないのかが重要な事の様だ。

  • No.82 by ハナミズキ  2014-10-25 22:38:12 


村の中では、村一番の器量良しのようだが、色んな人を見てきている鈴にしてみれば、それ程美人とは言えないだろう。
いいところで、中の下と言ったところだろうか。

あまりにもしつこく進めるので、再来週から見習いで来るように言うと、今日から勤めさせて欲しいと言い出した。
この母親は、どうしても温泉に行きたいようだ。

そこで鈴は言った。

「今日から働いたとしても、来週の温泉旅行には、あなたの娘さんは行けませんよ?」

そう言うと母親は、何故うちの娘だけのけ者にする、と騒ぎ出し、ウソ泣きまでし始めた。

「今回の温泉旅行は、今まで頑張って働いてくれた者達への、感謝の気持ちの旅行なん
 ですよ。
 ですから、勤めたばかりの人にはその資格は無いんです。
 どうしても一緒に行きたいと仰るんでしたら、旅費は実費でお願いしますね」

実費と聞き、母親はやっと諦めたようだった。
鈴は、呆れ果てて物も言えなかったのであった。

そこへ、午前の診療が終わった和也が部屋に入って来た。

「お疲れ様。もうそんな時間?」
「ああ、飯はここで良いのか?」

親子の方をチラッと見ながら言う。
入院患者が居ない時は、その部屋でみんな一緒に食事をするからだ。

「ここでいいわ。
 あなた方もご一緒にいかが?」

シュンイの親戚にそう言うと、二つ返事で食べると言う。
鈴は部屋を出て台所に行き、2人分追加を伝える。
シュンイは申し訳なさそうな顔をしながら、ホウミンを手伝っていたので、鈴は気にしなくていいと言い、先ほど決まった、シュンイの従姉の雇用を伝えた。
すると、シュンイは少し困ったような顔をしたが、『はい』と頷く。

  • No.83 by ハナミズキ  2014-10-25 22:40:03 



いつもならテーブルを二つ並べ、和やかに昼食を食べるのだが、この日は違った。
あの母親が、休む暇もなく喋り続けている。

「この子は本当に気が利くし、料理や裁縫、何でもできるんですよ。
 それに、この子を嫁に欲しいって人も大勢来るくらいの器量良しですしね。
 この診療所の看板娘になること間違いなしですよ」

母親が、和也の方を見ながら、娘のアピールをしている。
娘の方も、どうやら和也を街で見かけた時、一目ぼれをしたらしく、うつむきかげんで和也の方を見ながら顔を赤くしていた。

母親の喋り攻撃は止まらず、更に喋り続けた。

「和也先生は、まだお一人で?」
「はい」

「そろそろお嫁さんを貰った方が良いと思うけど、良い人は居ないのかい?」
「まだ考えた事はないですね」

「うちの娘なんてどうです?」

全員が食べていた物を吹き出しかけた・・・。
やっぱり狙いはそこかと、お互いの顔を見合わせ苦笑する。

「そっちの女先生はまだ若そうだけど幾つなんだい?」
「25です」

「そんなに歳を食っちまってるのかい。
 うちの娘と同じくらいの年かと思ってたよ・・・」

「そう言えばまだ聞いてませんでしたね。
 娘さんの名前と歳は幾つなんですか?」

「この子は今年で17歳で、名前はミャルと言うんだよ」
「さっきからずっと黙ったままですけど、本当に働けるんですか?」

「は・・はい。頑張ります」

聞こえるか聞こえ無いかの小さな声だった。

「ここで働くなら、そんなに小さな声では仕事になりませんよ。
 もっと大きな声ではっきりと喋ってください。
 それが出来ないなら、雇う事は無理ですよ」

きつい一言を言われる。
それに追い打ちをかけるかのように、和也も言葉を発した。

「鈴、使い物にならなそうなら辞めてもらえばいいだけだろ?
 うちには無駄飯を食わす余裕なんてないんだし」

「それもそうね。
 今日から働けるんでしたっけ?
 では、今から5日間、本採用にするかどうかの試験期間とします。
 試験期間の間は、1日30元で働いてもらいます。
 いいですね?」

「はい」

「それから、ミャル。あなたの仕事は患者の世話になります。
 シュンイからやり方を聞いて、真似をしてください」

「はい」

  • No.84 by ハナミズキ  2014-10-25 22:41:02 



昼食が終わると、各々食べた物を台所に運び、その後片付けはホウミンがやる。
シュンイとミャルは、患者に使用したタオルなどの洗濯と、部屋の中の掃除だ。

鈴が、ミャルの様子を伺いに行くと、ミャルが洗濯をするはずだったのに、なぜかシュンイがそれをやっていた。
鈴は何故ミャルではなくシュンイがやっているのか尋ねると、水が冷たいからシュンイがやってくれと言ったそうだ。
さっそくミャルが鈴に呼ばれた。

「あなたね・・やる気があるの!?
 なぜ自分の仕事をシュンイに押し付けるの?」

「押し付けてなんかいません。シュンイが代わってやるって言ったんです」

そこにバジルがやって来て、鈴に言う。

「鈴先生、俺見てたよ。
 その人がシュンイに代わりにやれってタオル投げつけて言ってた」

鈴は大きな溜息を付くと、ミャルに対し静かに言った。

「ミャル。あなた帰っていいわ。
 うちには必要のない人材みたいだから」

鈴にそう言われたミャルは、いきなりウソ泣きをし、すみません、もうしませんと、鈴の足にしがみ付く。
同情を買うためにそうしたのかと思っていると、庭の方から和也がこちらを見ていたせいだろう。
弱い女の子を演出し、和也に助けてもらおうとしていたのだった。

「どうした?」

あまりの騒がしさに、和也が庭に回って様子を見に来たのだ。

「和也先生・・・鈴先生に私を追い出さないように言ってください・・・」

泣きながら訴える。

「・・・・鈴がそう判断したなら、いいんじゃね?」

あっさりと見捨てられてしまう。

ミャルのウソ泣きで落とせなかった男は居なかったのだが、和也だけには通用がしない様だ。
ミャルは作戦を変える事にし、今度は鈴に媚びようとした。

「今度はちゃんとやります!だから鈴先生が教えてください!」

「・・・あなたの指導はシュンイに任せてるから、シュンイから教えてもらいなさい。
 それが嫌なら出て行きなさい」

この作戦も失敗の様だ。
結局、ミャルはシュンイの指導の下、仕事を教えてもらう事になる。

  • No.85 by ハナミズキ  2014-10-25 22:41:56 



ミャルはシュンイの方が格下だと思っていたため、なかなか素直に言う事を聞けないでいたようだが、なんとか言われた事はこなしていた。
しかし、診療時間が終わり、プライベートになると態度が一変する。
昼間の仕事がよほど疲れたのか、どっしりと座って動かない。

「ごちそうさまでした」

晩御飯が済み、自分の使った食器は自分で片づけるのだが、ミャルはシュンイにやらせようとする。

「シュンイ、これも持ってって」

しかし、シュンイは自分の分しか持ってはいかなかった。

「ちょっと~、私疲れてるんだけど~、これも持ってってよ」

疲れてるのはみんなも同じだ。
シュンイは立ち止まり少し考えていると、そこに食事を終えた鈴と和也が入って来た。
シュンイはそのまま立ち去り、ミャルも慌てて食器を片付け始める。

「明日から旅行だけど、ミャルはどうするの?」

鈴が聞いてきた。
何を勘違いしたのか、自分も連れて行ってもらえると思い、即答で返事をする。

「行きます!」
「じゃ、これから帰るって事でいいのね?」

「えっ?・・・・帰るって?」
「あなたは家に帰るんでしょ?」

「お金なら払います。だから一緒に連れてって下さい」

ミャルはどうしても一緒に行きたかったのである。
ある目的のために。

その目的とは、この旅行中に、和也に急接近をし、仲良くなろうと考えていた事だ。
そしてゆくゆくは、和也と結婚をして、優雅な生活を送ろうと考えていたのだ。

  • No.86 by ハナミズキ  2014-10-25 22:43:04 



次の日、診療所の一行は、朝早くから準備に取り掛かっていた。
歩いて3日かかる距離だが、鈴達は車で飛んで行くつもりであった。
空から行けば、1時間もかからないだろう。
その為に、車の中を厳重に施錠し、勝手に中に入って行けないようにした。

みんなが乗る所は、運転席部分にある座席だ。
運転席とその横には、二人ほど乗れ、後部座席は2か所あるので、後部座席は詰めれば6人ずつ12人乗れる。
前と合わせても15人は乗れると言う代物だ。

前列には、運転手の鈴、助手席に和也とミャルが座り、中列には、ウンデグと両親、ホウミンと母親、それにお婆ちゃんが座る。
後部座席には、シュンイと友達親子、バジルの母親とお婆ちゃんが座る事になった。

ホウミンの子供とバジルの兄弟は、バジルと一緒に、2階部分にある談話室に連れて行かれた。
談話室には、絵本や落書き帳、クレヨンなどが置いてあり、子供たちが退屈しないように配慮されている。

バジルは、この車の中への出入りがある程度許されており、たまに夜遅くまで、この談話室で、鈴に勉強を教えてもらっている事もあるので慣れたものだ。

すると、いきなり天井から鈴の声が聞こえて来た。

「バジル、そこの壁に付いてる椅子を引き出してちょうだい」

バジルは、何処から声がしてくるのかキョロキョロしていたが、言われた通りに備え付けの椅子を壁から引き出した。

「出した?」
「出しました」

「それじゃあ、その椅子にみんなを座らせてちょうだい」

バジルは子供達を座らせると、鈴の言葉を待った。

「そうそう、言い忘れてたけど、あなた達の声は聞こえてるから、何かあったらすぐ
呼ぶのよ」

「はい!鈴先生!」

「準備が出来たら安全ベルトをしてあげてね。この間やり方を教えたでしょ?
 出来る?」

「出来ます!」
「バジルは物覚えが早くて本当に助かるわぁ」

などと、他愛もない会話をした後、いよいよ出発の時間となる。
いまから出発をすれば、お昼ごろには着く予定だ。

「では、出発しま~す」

エンジンをかけ、飛行モードに切り替える。
すると、車は徐々に上昇をしはじめ、身体にGがかかる。
それと同時に、窓から見えていた景色が変化をもたらし、みんなが一斉に窓の外にくぎ付けだ。

これはいったいどうなっているのだと、驚きの声が上がる。
より一層驚いているのが、助手席に座っていたミャルだ。
フロントガラスから見える景色は、地上を離れ空に浮かび上がって行くように見えたからだ。
キャーキャー言いながら、隣の和也にしがみ付いて離れようとしない。

耳元で叫ばれるものだから、和也にとっては煩くてしょうがなかった。

「そんなに怖いならウンデグと変わるか?」

と、聞く。
しかしミャルは、それは嫌だと言う。
嫌だと言いながら騒ぐので、和也はうんざりしていたのであったが、ミャルにはそんな事は関係が無いかのようにしがみ付くのであった。

  • No.87 by ハナミズキ  2014-10-25 22:44:01 


外の景色に慣れて来た他の人達は、この様な珍しい乗り物に乗れた事に感謝をし、後部座席同士が対面式だったという事もあり、和やかな雰囲気で移動を楽しんでいた。
一方、2階の子供たちは、外の景色にも飽きたのか、絵を描いたり、鈴から渡された水を飲んだりして遊んでいる。

陸路でミョンレンまで行くとしたら、途中に大きな山があるので、大幅に迂回をするか山越えをしなければならない。
だが鈴達はその山の上を飛行し、空から山を眺める形で移動をしていた。
身を乗り出すように下を眺めると、豆粒の様な人影が見える。
初めての体験に、大の大人がかなりの興奮気味だ。

しかし、1時間程度の飛行だと、あっという間に着いてしまった。
窓の外には、あちらこちらから湯気が立ち上る温泉街の姿が見え始めてきた。
何処に止めようかと、鈴はカメラを下に向け、温泉街からあまり離れていない場所で、ちょうど良い所を見つけた。

その場所に車を着地させると、温泉のすぐ裏手の方だった。
温泉街までは歩いて10分と言う所だ。

みんなは自分たちの荷物を持ち、今日から泊まる宿屋を探す事にする。
1家族で1部屋を取りたいので、ウンデグ・バジル・ホウミン・シュンイの4家族分の部屋は確保したい。
残りの鈴・和也・ミャルは、1人部屋にしようかどうか悩んでいた。
せっかく温泉に来たのに1人は味気ないが、和也と一緒と言うのも、いつもと変わり映えがしないので面白くない。
かと言って、ミャルと同室と言うのは、何かと疲れそうだと考えていた。

結局、残りの3人は個室と言う事に決まり、7部屋をいっぺんに取るという事で、少し大きい宿屋を探し、そこに泊まる事になった。
食事は1階の食堂で取るという形式の宿で、これから1週間は、各自自由行動となる。

宿に着いた時はお昼を大分過ぎていたが、食堂も兼ねていたので、みんなで軽く食べる事にした。

  • No.88 by ハナミズキ  2014-10-25 22:44:47 


食べ終われば自由行動だ。
何処に行こうが、何をしようが好きにして良い。
そしてここで、鈴のサプライズが出た。

「ホウミン・シュンイ・ウンデグ・バジル。
 はい、これ♪」

鈴は可愛い柄の封筒を手渡すとニコニコしていた。

「何ですか・・・?」

みんなは不思議そうに中身を見ると、驚きの表情をする。

「こ・・・これは!?」

「1週間分のお小遣いよ♪
 それで好きな物を食べて、好きな物を買いなさい♪」

封筒の中には500元が入っていた。
1週間前に、特別給金だと言い1銀もくれたのに、更に小遣いだと言い500元もくれたのだ。

「何故こんなに良くしてくれるんですか?」

ホウミンが聞いてきた。

「私と和也はね、あなた達のおかげでとても助かってるの。
 お金で解決するような事は、本当は好きじゃないんだけど、あなた達ってば何も要求
しないじゃない?
だから、何が欲しいとか、どうして欲しいとかが分からなかったのよ。

こんな事はいつもあるわけじゃないし、ほんの感謝の気持ちなのよ。
受け取ってもらえるわね?」

鈴がそう言うと、和也もその後に続き言う。

「くれるって言う物は貰っとけ。
 そのかわり、帰ったらまた、休みなく働いてもらわなきゃならないかもな」

少し笑顔を浮かべそう言った。
するとミャルが、シュンイに近寄り言う。

「いいなぁ~・・・そんなに貰って。
 私になんか何にもないのよ!?
 そのお金で何か買ってよ~、シュンイ~」

シュンイは少し困った顔をするが、後で何か買うね、と言い、その場をおさめた。

  • No.89 by ハナミズキ  2014-10-25 22:45:40 



とりあえずは温泉だ!
日頃の疲れを取り、のんびり過ごす事にする。

浴槽は広く、軽く畳15枚分ほどの物が2つ並んでいた。
外にも露天風呂があり、その縁取りは、天然の大きな岩で囲まれ、側には川も流れている。
鈴は露天風呂にゆったりと浸かり、川の流れを見ながら物思いにふける時間が大好きであった。
目を瞑れば、川のせせらぎと小鳥の声が聞こえてくる。
日差しも心地よく、のぼせた身体には丁度良い風も吹いてくる。
言う気は無くても、つい口から出てしまった。

「極楽、極楽~♪」

調子に乗って、1時間余りも露天風呂に使っていた鈴は、湯あたりをしてのぼせてしまった。
フラフラしながら歩いていると、和也と出会うのだった。

「おまえ・・・またのぼせたな・・・」

実家に居た時も、鈴はたまに長湯をしすぎてのぼせる事があったので、和也は『またか』と言う思いであった。

「えへへ・・そうみたい・・・」

のぼせているせいで思考回路が定まっていない鈴は、にへらと笑い真っ赤な顔をしていた。
和也は慣れたもので、鈴を抱え部屋に連れて行く。

「1人で歩けるわよ・・・」
「そんな気味悪い顔でそこら辺歩かれたら人様の迷惑だ」

そう言われた鈴は返す言葉もない。
部屋に運ばれ、床の上に寝かせられると、和也は呆れ顔で鈴をうちわで扇いでくれる。

「おまえってさ、頭は良いくせにこういう所は学習能力無いよな・・・」
「・・・・・・・・ごめん。」

その様子を隠れて見ていたミャルは、今度は自分もその手で和也に介抱してもらおうと考えていたのだった。

  • No.90 by ハナミズキ  2014-10-25 22:55:49 

この章は、別荘の方へ置いてあります。

  • No.91 by ハナミズキ  2014-10-25 22:56:33 



温泉街を、鈴と和也の2人で見物しながら歩いていると、見慣れた男性が近づいて来た。
その男性は鈴の姿を見るや否や、手を振りながら駆け寄ってくる。

「鈴先生!やっと見つけましたよ!!」
「あなたは・・・親衛隊の・・・・」

「鈴先生、お願いします。王妃様を助けてください!」

その男が言うには、どうやら王妃がここに静養に来ていたらしいのだが、突然大きな発作に見舞われ、意識を失ってしまったらしい。
その事を王宮に鷹便で知らせると、ちょうど鈴達がこの地にやって来ている事を伝えられ、大急ぎで探しに来たと言う訳だった。

王妃が居る場所は、ここから馬を走らせても30分はかかる。
当然、鈴と和也は馬などには乗れない。
そうなると歩いて行くしかなく、徒歩なら2・3時間はかかるだろう。

事は急を要する。
鈴と和也は大急ぎで宿屋に戻ろうとした。
すると、近くの店屋の中に、バジルとシュンイの姿を見つけた。

「シュンイ!バジル!良い所に居たわ!
 あなた達にお願いがあるの。
 休暇中悪いけど、仕事をしてちょうだい」

「「はい!急患ですね!」」

2人は二つ返事で答えた。
2人と一緒に居た身内たちは、何が何やら分からなかったらしいが、4人の緊迫をした会話からすると、とんでもない緊急事態が起こっている事だけは分かる。
そして、自分たちの事は良いから、しっかり仕事をして来なさいと、送り出されたのだった。











  • No.92 by ハナミズキ  2014-10-29 20:58:45 


◆ ライバル出現?! ◆


温泉地ミョンレンで、離宮から来た親衛隊の使いの者により、王妃が大きな発作を起こしたと知らされた鈴と和也は、バジルとシュンイを連れて大急ぎで医療車両に向かった。
ちょっとした手術、例えば、盲腸や切られ傷などならその場で出来るが、大掛かりな手術は、どうしても最新の機器類があった方が確実かつ安全にできる。
そのため、車両ごと移動しようと思ったからだ。

車に乗り込んだ4人は、離宮を目指して離陸した。
陸から馬を走らせて30分の所なら、空から向かえば5分もかからない。
あっという間に離宮に到着をし、王妃の居る建物の前に着陸をする。

離宮の兵士たちは、王様から話を聞いてはいたが、本当に空から彼らがやって来るとは思いもよらなかった。
鉄の箱から4人が出て来たかと思うと、2人は棒状の何かを運び、王妃の居る建物の中に入って行く。
入って行ったかと思うと直ぐに出てき、先ほどの棒状の物の上に、王妃が寝かされ再び箱の中に入って行ってしまった。

  • No.93 by ハナミズキ  2014-10-29 20:59:57 



「心電図を取るわよ。シュンイ準備をして」
「はい!」

「バジル、造影剤の準備だ。それとラインも取れ」
「はい!」

2人は、今の王妃の状態を把握するために、迅速に検査を行う。
その結果、王妃の心臓の状態はあまり良いとは言えなかった。
緊急オペが必要なレベルだ。

「和也が執刀医で、冠動脈大動脈バイパス移植術を行いわよ。出来るわね?」
「ふん、任せておけ」

「シュンイは機械出しをお願い」
「はい!頑張ります!」

「バジル、あなたは麻酔の管理をお願いね」
「任せといてください!」

この2人、手術の度に同伴をしていたので、結構慣れたものである。
手順や和也と鈴の癖も、しっかりと把握していた。

そしていよいよ、和也の執刀で、冠動脈大動脈バイパス移植手術が行われる。

「これより、冠動脈大動脈バイパス移植術を行う。メス。」

開胸をし、心膜を切開する。
初めて人間の心臓を見た2人は、少し動揺をしたが、鈴と和也の腕前を最も信頼している2人にとっては、こんな所で気絶などしている場合ではなかった。
もし自分が気絶などすれば、2人に迷惑をかける。
それだけは避けたかった。
意識を、今自分に課せられている仕事だけに集中をさせ、なんとかその場を乗り切った。

「よし。後はペースメーカーを埋めれば終わりだ」

そして手術は無事終了となる。
終了と同時に、バジルとシュンイはその場に倒れ、気を失ってしまった。

「あらら・・・、よく最後まで頑張ってくれたわね。ご苦労様」

気を失っている2人に、優しく声を掛ける鈴であった。

  • No.94 by ハナミズキ  2014-10-29 21:00:43 



王妃はそのまま、2階にあるICUに移され、しばらくの間そこで様子を見る事になる。
その事を外で待っていた女官に伝えると、中に入れてくれ、様子を見させてくれとしつこい。
しかし、この時代の人に、この車両の内部を見せるわけにはいかない。
ICUに入っている間は、面会謝絶だ。
王様以外は・・・。

  • No.95 by ハナミズキ  2014-10-29 21:02:38 



王妃がICUに入ってから1週間が経とうとしていた。
術後の経過も順調だ。
しかし離宮では、王妃死亡説が流れていた。

王妃が鉄の箱の中に入り、いまだ出て来ないのは、王妃が死んだからだと噂が広まっている。
その噂は遠く離れた王宮にも届き、王様は気がきではなかった。
しかし、前回の皇后の事もあるので、心配ではあったが、鈴達の腕は信用していた。
あの時も、面会謝絶だと言うのを、無理に頼み込んで中に入れてもらった。
今までに見た事もない機械類が山の様にあり、それが患者の命を繋ぐ道具だと言っていたのだ。
そしてこの事は誰にも言ってはいけないと。
その言葉を思い出しながら、離宮から『無事』の便りが来るのを待っていたのである。

その一方で、後宮では側室たちが、次の王妃候補の事で盛り上がっていた。
我こそは次の王妃にと、周りに根回しをし始めている者も居た。
ある者は、皇子を産んだ私こそが次の王妃だと言い、またある者は、自分の寝所に一番通ってくれたので、私こそが次の王妃だと言う。
側室たちの醜い争いは、後宮を取り巻くどす黒い渦の様に広がっていく。

そんな中、第1皇子ソウレンが、母親である王妃の事を心配して、離宮に行って真相を確かめたいと、王様に願い出た。
この皇子は鈴達の事を知らない。
が、あまりにも心配をするので、王様は皇子に言った。

「大丈夫だ。王妃を診てくれているのは、ファンミンを治してくれた医者だ」
「ですが、父上。いまだ無事の知らせが来ないのはおかしいです!」

ソウレン皇子が声を大にして訴える。
そこへ、内管が文を持ってやって来た。
王様はその文を読むと、安堵の顔をする。

「ソウレン、王妃は無事だそうだ。
 順調に回復してると、鷹便で文を持送って来た」

「それは本当ですね!?父上!」
「ああ」

「では、私がこの目で無事を確かめに行きとうございます」
「・・・・お前が行っても、はたして会えるかどうか・・・」

「それはどう言う意味でございますか」
「あの者達は頑固だぞ?」

そう言いながら、王様は少し口角を上げながら笑う。

  • No.96 by ハナミズキ  2014-10-29 21:04:34 


王様の許可をもらった第1皇子ソウレンは、馬にまたがり、速駆けでミョンレンまで行く事に。
通常歩いて3日の所を、1日で辿り着き、王妃が居ると言われている車の前に来た。
しかし、その扉は固く閉ざされ、びくともしない。
近くに居る者に中の様子を伺うが、誰も中には入れてくれないと言う。
時折、中から人が出てくる事があるので、その時に中の様子を聞くだけだと言った。
そして、そろそろ出てくる時間だから、ここで待っているのだと言う。

その時、車の扉が開き、中からシュンイと鈴が出て来た。
シュンイは洗濯をするために出てき、鈴は王妃の病状経過を報告する為に出て来たのだ。

ソウレンは鈴の前に行き、いきなり声を荒げて言った。

「おぃ!私をその箱の中に入れろ!」

その頃、王宮に居る王様は、『あっ、礼儀をわきまえて接しろ、と言うのを忘れておったわ』と、独り言を呟いていたのであった。

いきなり中に入れろと、見ず知らずの男に言われて、「はい、どうぞ」などと言う訳がない。
身なりからして王族なのだと言う事は分かる。
そして、見た感じ20歳前後なので、たぶん息子であろうと判断をした。
だが鈴は、ソウレンにこう言った。

「お断りします。この中には大事な人が居ますので、見知らぬ人など入れるわけには
 いきません」

「無礼な!私を誰だと思っておる!」

「あなたが誰なのかなんて知りませんよ。
 勝手にやって来て、大声で怒鳴り散らす迷惑な方だという事だけは分かりますよ」

そう言い放ったのだ。
そして、隣で怯えているシュンイに「あなたは自分の仕事をしに行きなさい」と言い、今度はいつも居る女官に向かって話し出す。

「王妃様の様子ですが、昨日の夜から熱も出なくなりましたので、今日あたりに抜糸を
 行おうと思います」

「では、いつその中から出してもらえるのでしょうか」

「それなんですが、王妃様と相談をした結果、このまま私たちと一緒に王宮まで行く
事になりました」

王妃様に付いて来た女官や内管たちは、王妃にもしもの事があれば、ファンミンを治してくれた女医を探し、その者の言う事を聞け、そう言われていた。
その女医に任せておけば、何も心配をする事はないと。

「お二人が決めた事でしたら、私どもは何も言いません。
 王妃様をどうぞよろしくお願い致します」

その会話を聞いていたソウレンが、またもや騒ぎ出す。

「お前達はいったい、母上をどうする気だ!
 母上は、命に係わる病気にかかったと聞いた。
 その母上の無事を確認しないで、この私がそのような事を許すと思うのか!?」

鈴は大きな溜息を付き、ソウレンの目を真っ直ぐに見て言った。

「王妃様は無事です。峠は越しました。
 ですが、この車の中に入れるのは、王妃様の身内1人だけです。
 それに、あなたは私を信用していない様なので、中に入れる事は出来ません」

きっぱりと、そう言う。

  • No.97 by ハナミズキ  2014-10-29 21:05:57 


「私はこの国の第1皇子だ!その私の命令が聞けないと言うのか!」

「残念ながら、私たちは自分の信念の下に治療を行っているので、誰の命令も聞く
 訳にはいきません。
 それが例え王様であったとしてもです。
 もし、無理やり命令を聞かせようとするなら、私たちはこの国を去ります」

生まれた時から、次期王となる為の教育を受け、周りの者みんながソウレンの命令に従っていた。
今まで自分に反論する者は居ても、命令を聞かない者など居なかったのだ。
そんな生活に慣れてしまっていたソウレンは、鈴のような人間が珍しかった。
自分の使命の為なら、一国の王の命令も聞かないと言う、真っ直ぐに相手の目を見据え凛とした姿勢を崩さない、そんな鈴に興味を引かれた。

「母上は本当に無事なんだろうな」
「何度言えばわかるんです?」

「せめて、一目だけでも姿を見たい・・・頼む・・会わせてくれ」

少々弱腰になり、『頼む』と言う言葉を聞いた鈴は、にこりと微笑み言った。

「そうよ。初めから『お願いします』って言えば、私だって鬼じゃないんだから考えて
 あげたのに、いきなりやって来て『車の中に入れろ』とかは人として論外よね。
 初対面の人に対して礼儀がなってないわ。
 私はあなたが誰かも知らなかったのよ?
 もしあなたが暗殺者だったらどうするの?
 そんな得体も知れない危険人物を、私が中に入れるとでも思って?」

そう言われればそうかも知れないとソウレンは思い、自分が無礼だったと鈴に謝るのだった。

「申し訳ない。いままでの非礼は許して欲しい」

素直に非を認め、謝るソウレンを見た鈴は、親を思う子の気持ちも分かるので、中に入れてあげる事にした。

「しょうがないわね、あまり長い時間は王妃様の体に障るから、10分だけよ?」
「入っても良いのか?!」

「ただし!私の言う事はちゃんと聞いて守ってもらいますからね」
「約束しよう」

そうしてソウレンは鈴に連れられて、車の中に入って行った。

  • No.98 by ハナミズキ  2014-10-29 21:07:25 


入り口の段差を上ると車の中に入り、誰も触っていないのに扉が勝手に閉まった事に、ソウレンはまず驚いた。

「戸が勝手に閉まったぞ!」
「静かにして下さい。この車はそういう造りなんです」

初めて見る、木の壁ではなく鉄の壁。
床も鉄でできている。
左手に少し進むと、今度は鉄でできた階段がある。
その階段を上ると、鈴が壁に手をかざし扉が勝手に開いた。

「おぉ~」

小さな声で驚くソウレン。
扉の中に入ると、無色の液体を渡され、手を洗えと言う。
ソウレンは素直に鈴の言う事に従い、鈴の真似をして手を消毒する。

今度は人が1人やっと通れるくらいの狭い通路を進むと、そこには沢山のベッドがあり、その1つに王妃が寝かされていた。

「母上・・・」

その声で目を覚ました王妃は、ソウレンの姿を見ると「ソウレン・・何故あなたがここに?」
そう語りかけて来た。

「母上の事が心配で、無事を確かめに来たんですよ」
「私の事なら何も心配はいらぬ。鈴先生たちが付いているからな」

そう言い、笑みを浮かべた。

王妃の無事を確認したソウレンは、王妃に沢山の管が取り付けられているのを見て、それはなんなのかと尋ねる。

「これは王妃様の心臓の状態を見る機械と、栄養を補給するための装置です」

そこに丁度、和也が検診の為に現れた。

  • No.99 by ハナミズキ  2014-10-29 21:08:46 


「居たのか」
「うん。こちらは王妃様の息子さんのソウレンよ」

和也はソウレンに軽く会釈をする。

「では、今日は抜糸をしますから、服を脱いでください」
「はい」

術後、傷口の消毒などは、担当医の和也がやっており、その行為は毎日の事だったので、王妃には何の抵抗もなかった。
しかし、その光景を初めて見るソウレンにとっては、自分の母親の裸を、王様以外の男の人に見せると言う事に違和感を覚え、声を張り上げたい所だったが、また鈴に怒られると思い、黙って見守る事にした。

服を脱いだ王妃は、そのままベッドに横たわり、和也が聴診器で胸の周りを押し当てるが、
王妃の胸には大きな傷痕があった。

「その傷は・・・」

ソウレンが恐る恐る鈴に聞いた。

「それは、今回の手術の痕よ。
 胸を開いて悪い所を治したのよ」

「心臓を切っただと・・・・・?!」
「そうよ?じゃないと王妃様の命が危なかったし」

「切ったら死ぬではないか!」
「ちゃんと見てよ。王妃様は生きてるでしょ?!」

「し・・・しかし・・・」

「他の医者にはできなくても、私達にはできるの。
 それが私たちの仕事なんだから・・・ね♪」

鈴はにこりと笑いソウレンに言った。
そして一言。
「ソウレン、そろそろ時間だから出てって♪」

ニコニコしながら鈴に促され、ソウレンは渋々外に出て行った。

「皇子様、王妃様のご様子はいかがで御座いましたか!?」

口々に聞いてくる。

「大事ない。元気なご様子だった」

  • No.100 by ハナミズキ  2014-10-29 21:09:36 


王妃付の女官や内管たちは、皆ホッと胸を撫でおろした。
そして鈴は「私達は明日王都に帰ります。王妃様を連れて先に行きますので、皆さんはゆっくり帰って来ていいですよ」そう言った。
するとソウレンは、自分も一緒に行くと言い出す。
その気持ちも分からないわけではないので、移動中は王妃の側から絶対に離れない事を条件に許可をした。

「あ~ぁ・・・折角の温泉旅行だったのに・・・温泉に2回しか入ってないや・・・」

ポツリと呟くと、ソウレンがこの離宮にも温泉が湧いていると教えてくれた。
鈴は喜んでその場所を聞き、早速入りに行く事にし、皆に声を掛け交代で入りに行く事になった。

離宮の奥の方に、ひっそりとたたずむその温泉は、とてもゴージャスな造りであった。
所々に置いてある仏像に、これはプールか!?と思う様な広い木の浴槽。
その隣にはこじんまりとはしているが、岩風呂もある。
風呂の周りには小石や植木、花が所狭しと植えられていて、なんとも解放感たっぷりの露天風呂がそこにあった。
そして、湯船には花が浮かんでおり、まるでお姫様にでもなったような気分がする。

「はぁ~♪やっぱり温泉は最高よね~♪」

鼻歌を歌いながら温泉を堪能し、長湯をしてまたのぼせない様に、早々にあがるのであった。

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