Dr,リン

Dr,リン

ハナミズキ  2014-10-10 16:57:40 
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この小説は「俺様、何様?女神様。」の続編になります。
こちらだけ読んでも話は分かるとは思いますが、詳しい馴初め等は下記をご覧になられると良いかと思います。

↓↓↓

何とかなるさ(高校生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534187/
俺様、何様?女神様。(大学生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534766/

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  • No.61 by ハナミズキ  2014-10-19 22:59:42 



ようやく王都に辿り着いた二人は、しばらくの間ここに本拠地を構える事にした。
その為にはここ王都で、住居を構えなければならない。
手元には、今までの道中で稼いだお金1800銀(1800万)がある。
このお金で手ごろな家を借りる事が出来そうだ。

庭付きで少し大きめの民家を借りるとしても、相場は3銀と格安だ。
だがこれは、鈴達の金銭感覚での格安で、普通の平民での給料が月1銀と言うのだから、一般人にとっての3銀は、とても高いと言えるだろう。
しかし二人は、繁華街から少し離れた場所で、医療車両ごと敷地内に入れるような家を選び、そこを本拠地とする事にした。

この時代の家の造りは、玄関が無いと言うか、鍵をかけるという習慣自体が無いために、とても物騒に思えた。
そこで二人は、身の安全のために、就寝時は車で寝る事にする。
車の中なら、誰かに襲われたとしても、鍵がかかっているので中までは入って来れない。
それに、危なくなれば車ごと走り去るか、飛行モードに切り替えて飛んで逃げる事が出来る。
いま、この世界で最も安全な場所が、この医療車両の中だろう。

では、借りた家はどうするのか、二人は相談し合う。

「入り口から左に二部屋と、右に3部屋か・・・」

鈴がそう呟くと、和也が提案をする。

「なら左の部屋を診察室と薬剤室でいいんじゃないか?」
「じゃあ、右はどうする?」

「右は入院患者用の部屋と、患者の世話をする使用人の部屋で良くないか?」

鈴は、和也が自分と全く同じ事を考えていた事にビックリをした。
そして和也の話をじっくり聞くのであった。

「この家なら、一部屋に4人は寝せられそうだろ?
 一部屋を病室に使ったとしても、あと二部屋は空いてる。
 そこを使用人の部屋にすれば、住民の雇用にもつながるし、俺達の負担も減る」

「その案いただき!早速そのように手配しましょうか」

そうして家の門構えには『診療所』と書かれた看板が掲げられ、求人募集もかけられる。

――  求む。 気配りができ、住み込み可能な方。
    10月18日 午前10時までにおいで下さい。  ――

  • No.62 by ハナミズキ  2014-10-19 23:00:21 



18日の午前10時には、大人から子供まで、10人程やって来た。
早くに来た者では、午前7時から家の前で待っている者もいた。

そこに鈴達が車両の中から現れ、面接を始める。

「みなさん、こんにちは。
 早速ですが、今回こちらで雇わせてもらう人数は3人となっています。
張り紙にも書いてある通り、住み込みが可能な方に限ります。」

そう説明が始まると、遅れて来た面接志願者がやって来る。

「おぉ、良かった。まだ始まったばかりか。
 ちょうどいい時間だな」

そう言いながら中に入って来た。
それを見た鈴が、その男に対して話しかける。

「すみませんが、すでに面接が始まってるので、御用の無い方はお引き取り願います」
「始まったって、今始まったばかりだろ。少し遅れたくらい良いじゃないか」

鈴は呆れた顔をし、その男に言う。

「張り紙には10時までと書いてあります。
1分でも遅れた方にはその資格はありませんので」

「たった1分くらいでケチケチするなよ、姉ちゃん」

その言葉にカチンときた鈴は怒り出した。

「私は気配りのできる人を募集したのであって、貴方の様に、雇主に対して姉ちゃん
 呼ばわりするような人は募集していません。
 それに、ここは診療所です。
 1分1秒が大事な時間になるんです。
 時間にルーズな方は、問題外です!とっととお帰り下さい!」

そう言われ、渋々と男は帰って行ったのだった。

  • No.63 by ハナミズキ  2014-10-19 23:01:06 



朝の7時から来ていたのは、まだ12歳くらいの男の子だ。
その子供から応募動機を聞いてみる。

「私が欲しい人材は、患者の世話が出来る人。
 食事の世話や身の回りの世話が出来る人。
 外周りの仕事や力仕事が出来る人です。

 君はどの仕事が自分に出来ると思う?」

「俺はなんでもできます」

自信満々に答えた。
すると鈴が、和也が車から降ろした薬草づくりの道具が入った箱を指さし、子供に言う。

「じゃあ、あの箱をその左側の部屋まで運んでくれる?」
「お安い御用さ」

そう言うと、意気揚々と走りだし箱の前まで行く。
ところが、箱が重すぎて持ち上がらない。

「それくらい持てなきゃ、力仕事は任せられないわね」

それを見ていた男の希望者の1人が、俺が持って行ってやると、いとも簡単に箱を持ち上げ移動させる。
鈴はその男性の体つきをジッと見ると、急に上着を脱げと言い出す。

急に上着を脱げと言われて少し躊躇をしたが、そこは素直に脱ぎ始めた。

「・・・・あなた、何か武術をやっているわね?
 筋肉の付き方を見ればわかるわ。」

見事に言い当てられた男は驚き、自分は武官になる事が子供の頃からの夢で、武官になる為に修業をして来たと言う。
そしてこうも言った。

「平民以下が武官になるには、強力な後ろ盾が必要なんですよ。
 俺にはその後ろ盾がないもんでな、たとえ雇われたとしても精々雑兵がいいとこさ
 昇進なんてものは望めやしねぇ。」

「それで、諦めてうちへ?」
「俺は代替え人なんで、まともな仕事なんか回っちゃ来ないんですよ」

この男の他にも3人程希望者の男が来ていたが、あまりやる気がなさそうな気配だった。
単なる外周りと力仕事なら楽な仕事だと思い応募しただけの事だ。
その表情を見て取ると、鈴は一人目の内定者を決めた。

残すは患者の世話役と、食事などをこまごまとしれくれる者が必要になる。
そこで5人の女の人と、さっきの子供とで食事の支度にとりかかってもらう事にした。

大勢で支度をさせると、その人柄がよく表れる。
1人が指揮を取り、他のみんなを回そうとする。

「あなた、水を汲んで来てちょうだい」
「わかった。」

子供が水を汲みに行く。
その後にも、火をくべる薪を持って来いだの、食材を運んで来いなどと指示を出すが、自分はほとんど準備をせずに、調理だけをしていた。

その中に1人、指示が出る前に行動をし、黙々と働く女性が居る。
そして、水を汲みに行った子供が、戻って来る途中で転び桶の水をこぼしてしまう。
それを見た、指示を出していた女性が、気遣うどころか叱咤し始める。

「何やってるの!もう一回汲んできなさい!本当にトロイ子ね!」

それを聞いていた違う女性が、子供の側に近寄っていくと、子供を励まし始めた。

「大丈夫よ。私も手伝うから。一緒に汲みに行きましょ」

水を汲み終わり、台所に持ってくと、指示を出していた女性は、当たり前の様にそれを受け取り、次の指示を出し始める。
指示より先に動いていた女性が、子供に向かい言う。

「ご苦労様」

お礼を言われた子供は、人差し指で鼻の下を擦りながら、「えへへ」と笑うのであった。
鈴は満足げな顔をして、笑顔になっていた。

  • No.64 by ハナミズキ  2014-10-19 23:02:11 



出来上がった食事を、今日やって来た希望者全員に振る舞い、どれが一番おいしかったのかを聞いてみると、指示より先に行動をしていた、女性の作った物が一番おいしかったと言う。

そうして残り2人の人員が決まったのである。

「では、採用する方を発表いたします。
 一人目は、外周りと力仕事が主な仕事にはなりますが、往診時にもついて来て貰う
 事になります。
 あなた、お名前は?」

鈴は代替え人の男の前に立ち、名前を尋ねる。

「チャンシ・ウンデグと申します」
「では、いつから来れますか?」

ウンデグは、自分が採用になった事に驚いた。
自分より身なりが綺麗で、賢そうな人が他に居るにもかかわらず、なぜ自分が選ばれたのか不思議だった。

「今からでも大丈夫です!」
「えっ?着替えとかの荷物はどうするの?」

「あっ・・・・」

鈴はクスクスと笑いながら、ウンデグに言う。

「夕方までには準備をしてここに戻って来てちょうだいね」
「分かりました!」

そう言うと同時に、ウンデグは走って家に着替えを取りに戻るのであった。

「次に、患者の世話係ですが、あなたにお願いします」

鈴は、子供が転んだ時に、一緒に水を汲みに行った女性の前に立ち言う。

「お名前は?」
「はい。ミン・シュンイと申します。」

「あなたはいつから来れるかしら?」
「今日から来れます!有難うございます!」

そう言って、彼女も着替えを取りに家に戻って行く。
残すは一人だ。
当然自分がその一人に選ばれるだろうと思っていた、指示を出し、人を上手にまわしていた女性が自信満々な顔でこちらを見ている。

鈴は、指示をする前に行動をしていた女性の前に立ち、その旨を伝えると、指示だし女性の顔色が変わり、金切り声で理由を聞いてきた。

「そうですね・・一番の原因は、あなたのその態度と声ですね。
 ここは診療所です。 
 具合の悪い人が大勢やってきます。
 その人達が、今の様に甲高い声で怒鳴るように話す人が側に居ると、治る病気も悪化
 しかねません。

 それに、ここでの仕事は、これから一人でこなさなければならないんですよ。
 もし、シュンイの手が空いてるからと言って、シュンイの事を使われたら困りますからね。
 シュンイにはシュンイの仕事と言うものがあるんですよ。
 ですから、あなたでは役不足なんです。

 人を回して使いたいのでしたら、他の大きなお屋敷にでも行ってください」

指示だし女性は、鈴に言い負かされ黙ってしまう。
そして鈴は、最後の一人に問う。

「名前は?」
「ハツ・ホウミンです」

「いつから来れますか?」
「明日でもいいでしょうか」

「明日?」
「はい。子供が居まして、子供たちを預かってもらう所を探したいんです」

「子供は何人いるの?」
「3歳と5歳の2人です」

「まだ小さいのね・・・いいわ。一緒に連れてらっしゃい」
「でも・・・」

鈴は子供の前に立ち、聞いた。

「あなた、子守は出来るわね?」
「うん。子守は得意だ!」

満面の笑みで答える。

「これで決まりね。君、名前は?」

「俺の名前は、チョ・バジルと言います。
 有難うございます、お嬢様!」

これで全ての役割を満たす人材が決まった。
採用された者達には、夕方までに準備をして、またここに戻って来るように言う。
採用された者も、されなかった者も、皆この場から去っていった。

  • No.65 by ハナミズキ  2014-10-19 23:03:13 



夕方になると、採用が決まった4人が集まって来た。
そこで、泊まり込みに必要な布団などを買いに町に繰り出す事にする。

「荷物を運ぶには荷車が必要よね・・まずはそれを買いましょう」

貴族の様な衣装を着ている鈴と和也は、何処となく気品に溢れてはいるが、お付きの者が着ている、着物のボロさが気になる。
とりあえずは、入院患者の分も含めて、布団を10人分を購入する。
その後、雇った人の身なりを整えるために、新しい着物も購入した。
1人当たり、3着分も買って貰った4人と子供たちは大喜びをし、それを大事そうに抱えて次の店に行き、そこでは着物を入れるツヅラを人数分買う。

しかし1回の買物では、量が多すぎて全てを買いきれない。
数回に分けて買い物をする事にする。
一度家に戻り、荷物を降ろし、また町に行く。

日常生活で使いそうな調度品を、みんなに選んでもらい、それらを買う。
全てを買い揃えても、3銀行くかどうかと言うところだ。

その日は買い物だけで日が暮れてしまい、ホウミンが食事の準備をする。

食事をしながら、鈴は今後の事について話し出した。
鈴達の食事と、身の回りの世話を担当するホウミンは、鈴達が起きてから、夜寝る時に車に戻るまでの間が仕事時間となる。
月給は月に1銀。
住む所と食べる物が付いてこの給金なら、物凄く待遇が良いと言えよう。

そして患者の世話を担当するシュンイは、診察をする二人の手伝いも含まれ、基本は診療時間内だが、入院患者が入った場合は、その時間は延長される。
シュンイの給金も、基本1銀だが、入院患者が入る事によって、拘束時間が延びれば残業手当が出る。

次に、力仕事担当のウンデグは、暇な時間や手の空いている時は、他の人の手伝いもするという条件が付け足される。
そしてその給金も1銀だというが、ウンデグはそれに不服は無かった。

バジルの場合は、まだ子供でやれる事の範囲が狭い。
子守と雑用とで、給金は半額の500元だ。
しかし、子供特有の、吸収力の速さに目を付けた鈴は、バジルに医学の心得を叩き込むことにした。

医術の勉強をしながらお金が貰える。
それは、この時代ではあり得ない事であった。
皆より半分の給金だが、当然の事ながら、バジルに不満は無い。

これから患者が増えて来たなら、その時はまた、人員を募集すると鈴が言う。
そうなる様に、みんなには頑張ってほしいと説明をした。

  • No.66 by ハナミズキ  2014-10-19 23:04:05 



家の中や、外周りの掃除と整理をし、やっと開業準備が整ったのが5日後の事である。
この5日間で、使用人たちは外出をするたびに、この診療所の事を宣伝して歩いていたため、初日にしてはポツポツと患者がやって来た。

患者とは言っても、診療が必要な患者ではなく、調合した薬草を分けてほしいと言う人ばかりだったが、諸症状の為に調合した薬を、相場の値段で売り、その薬の評判が町中に流れ始めた。

その噂を聞き、薬を求めて買いに来た客と世間話をしていると、頭痛がするとか、咳が止まらないと言い始める。
そうすると、軽く診察をし、その症状に合った薬も出してくれる。
その薬が、薬草とは違い、効き目が物凄く良いのだ。

噂が噂を呼び、薬を買いに来る客や、診察を頼みに来る患者の家族が増えていった。
増えた事により、鈴と和也には1つの不安がよぎる。

――  流行病が起こる前に予防接種をしなければ  ―― と。

この時期に起こり得る可能性があるのは、麻疹と水疱瘡だ。
大概の人は子供の頃にかかっているだろう。
水疱瘡ならまだいいが、麻疹は運が悪ければ合併症を伴い、死に至る病気だ。
それに、この時代では治療法がまだないので、大人がかかればひとたまりもない。

そこで、診療所に勤める使用人全てに、はしかの予防接種をする事になった。
初めての注射に、みんなの顔が怯えている。

「これは、麻疹と言う流行病にかからないようにする、お薬です。
 少しチクッとするけど、すぐ終わるから我慢してね」

そう言い、晩御飯を食べ、お風呂に入った者から順に注射を打った。
予防接種と言う言葉は聞きなれないが、これをすれば流行病にかからないと言う鈴の言葉を信じ、大人も子供も多少痛いのを我慢して腕を出したのだった。

「これでもう大丈夫よ。麻疹にはかからないけど、他の流行病にはかかるかも」

真顔で鈴が言うので、皆は少し不安になる。
和也はフォローのつもりで説明をした。

「もし他の病気にかかったとしても、ここは診療所で、俺達は優秀な医者だ。
 死ぬ事はないから安心しろ」

なんの説明にもなっていなかった・・・・。
とりあえずは、二人を信用しようと思う使用人たちであった。

  • No.67 by ハナミズキ  2014-10-19 23:05:00 



しばらくすると、鈴の予感は的中し、風邪の諸症状から始まり、高熱を出し、そのまま熱が下がらず、息を引き取る者達が続出しだした。

咳と鼻水、そして38度前後の熱が出る。
その症状だけだと、ただの風邪だ。
しかし、一旦熱が引きかけたと思ったら、顔面と全身に赤い発疹がポツポツと出始め、40度を超える熱が出る事もある。

赤い発疹が出始めると、家の者が慌てはじめる。
裕福な家の者は、医者を呼び診て貰うが、お金がない人には、診てくれる医者も居ない。
だが、この診療所の医者は、たとえお金が無くても診てくれると噂になっていた。
藁にもすがる思いで、貧乏な人たちは、この診療所にやって来た。

「先生!子供を診てやってください。お願いします」

担ぎ込まれてくる子供は、どの子も麻疹の症状が出ており、赤い発疹が全身を覆っている。
そうなってしまっては、家に帰して感染を広げるよりは、ここに入院をさせ感染を防いだ方が無難だ。

「お母さん、大丈夫ですよ。
お子さんは預かりますから、お母さんは家で待っていてくださいね」

子供の事が心配な母親は、なかなか帰ろうとはしない。
鈴は仕方がないので、小さな子供に限っては、その付き添いを認めた。

発熱が続く子供には抗生剤が投与され、脱水症状を防ぐために点滴をし、24時間体制で経過を見守っていた。

抗生剤を投与された子供は、見る見るうちに快方へと向かっていく。
点滴もしているので、空腹になり体力が著しく落ちると言う事もなかった。
熱が下がれば、どの子も元気に退院をしていく。
そして、この診療所に運ばれて来た子供のうち、誰一人として死んではいなかったのである。

一方、この時代では正規の医者として活躍している、町医者たちの所に運ばれた患者や、往診を頼んだ家の患者達の半分は合併症を患い、症状を悪化させ、その命の灯が消えていったのであった。

不運な事に、お金を持っている人たちの方が命を落とし、貧乏で医者にかかれない者達の方が、その命を拾っている。
自分の子供が流行病にかかったと分かると、その医者を紹介してくれと、治った者達に医者の居場所を聞き出し始めたのだった。

居場所を聞いたお金持ちの家族は、貧乏人とは一緒の部屋になどなりたくはないと、往診を頼みに来るようになり、そうなると、どちらか一人が診療所に残り、もう一人は往診に出かけると言う事になる。
この場合、往診に出かけるのは和也の役目となった。
以前、鈴が妬みから同業者に命を狙われた事があるからだ。
そしてお金持ちからは、法外な値段の治療費を貰うのであった。

そんな噂を聞いても、可愛い我が子を助けて欲しいと、何人ものお金持ちたちが現れ、麻疹が落ち着く頃には、結構な大金を手にしたのである。

しかしそのお金は、今までの様に、お金がない人達を無料で診るための資金となる。
薬草を買い、それを調合し、無料で配る。
それが、鈴と和也の仕事の様なものだからだ。

  • No.68 by ハナミズキ  2014-10-19 23:05:38 



流行病が少し落ち着いてきた頃、王宮で第5皇子が流行病にかかったと言う噂が流れて来た。
鈴が1人で診療をしていると、兵士たちがやって来た。
そして、鈴を捕まえ、一緒に来てほしいと言う。
理由も告げず、ただ一緒に来いと言われても、行けるわけがない。
だが、その兵士たちは、拒絶する鈴に対し刀を抜いたのであった。
しかたがないので、鈴は大人しく付いては行くが、使用人たちには、和也が戻って来るまでの間、しっかりと患者を診る事と、バジルには、今までのような症状の人が来たら、そのまま待機させて薬を飲ませておくように言った。

この数日間、バジルは助手として働いていたので、手順は分かっている。
未来の道具である体温計の使い方もマスターした。
どのくらいの熱が出たら、どの薬を渡せば良いのかも覚えた。

「バジル。後は頼んだわよ。」
「任せといてください、鈴先生!」

そうして鈴は、医療バッグを抱え、兵士たちに連れて行かれたのであった。


















  • No.69 by ハナミズキ  2014-10-24 19:54:31 

◆ 珍曇の貴族 ◆


兵士数人に周りを囲まれ、行先も告げられずに連れて行かれた鈴だったが、兵士の格好からして、王様付き親衛隊の様だ。
この人達が本当に親衛隊ならば、あの噂が本当なのではないかと思う鈴であった。

―――― 第5皇子が流行病にかかったらしいよ・・・

だとすれば、今持ってきた道具は役に立つだろう。
とにかく行ってみなければ分からない。

しばらく歩くと、目の前にそびえ立っているのは、何処からどう見ても王宮の門である。
その門をくぐり中に入る。

王宮の中には初めて入ったが、広い・・・!
門の中に、1つの町でも造れそうなくらいに広かった。
更に門から歩く事15分。
大きな建物が数か所に分けて建てられている場所に来た。

その中にある1つの建物の入り口まで連れて行かれると、そこで待つように言われ、兵士の1人が女官に何かを話している。
女官はすぐさま建物の中に入り、また直ぐに出て来た。

「お前が鈴と言う者か?」

高圧的な言い方だ。
この時代の階級制度なら仕方がない事だとは分かってはいるが、こういう態度の人間には慣れていない鈴だった。

「だとしたら、何だって言うんです!?
 人を無理やりこんな所まで連れてきて、何の用ですか!?」

「無礼な!口をわきまえなさい!」

「無礼なのは貴方も同じでしょ?
 お気に障ったのなら帰ります!さようなら!」

慌てたのは女官の方だ。
鈴が「帰る」と言い出した事もそうだが、鈴を迎え入れる時には、礼儀をわきまえて接するようにと、王様から言われていたからだ。

  • No.70 by ハナミズキ  2014-10-24 19:55:51 


この、『礼儀をわきまえる』と言う言葉の意味を、女官は勘違いをしてしまっていたのだった。
階級から言えば、医者より王室付の女官の方が、位が高い。
だから先程の様に、上から目線で尋ねたのだろう。

「まて!待つのだ!」

「待て」と言われても、待つ様な鈴ではなかった。
そのまま後ろも振り返らず、スタスタと歩きだしている。
焦った女官は、今度は下手に出て呼びかけた。

「お待ちください!どうぞファンミン様をお助け下さいませ・・」

その言葉を聞いた鈴は立ち止まり、後ろを振り返ると、女官の方へ向かい歩き出した。

「で、ご病気なのは、そのファンミンって子供ね?」
「さようでございます」

「連れて行ってちょうだい」
「はい、こちらにございます」

鈴は女官の後について建物の中に入っていくと、そこには2歳位の子供と、医者と助手が2名、そして、王都に来る前に出会った貴族と女の人が居た。

子供は布団の中で、息を荒くして苦しそうな顔をしている。
その傍らで、医者が脈を取り、薬を飲まそうとしていた。

貴族の男は、鈴を見るなり懇願をして来た。

「そなた、来てくれたか。
 世の子供を診てはくれぬか。
 そなただけが頼りなのだ」

鈴は子供の側に行き、まず熱を測るために体温計を取りだす。
それを子供の耳に当て、― ピッ ― と音がすると熱を確認する。

「40度・・・高いわね・・・。
 いつからこの熱が出てます?」

「3日ほど前から高熱が出ておる」
「分かりました。これは麻疹ですね」

「麻疹と言うと、やはり流行病か・・・。
 ファンミンは助かるのか?」

「とりあえず、治療いたします」
「頼む・・」

鈴は点滴をし、点滴の横に付いている小さな口から抗生物質を入れる。
太い針を子供の腕に刺したものだから、周りに居た医者や大人たちは驚愕の声を上げた。

「ファンミン様に何て事を・・・」
「誰か止めさせなくていいのか?」

貴族の男性と母親らしき女の人は、黙って事の成り行きを見守っている。

「熱を下げる薬を体に入れますね」

そう言うと、子供の布団をはぎ、お尻をペロンと剥き出すと、鈴はティッシュに挟んだ薬を持ち、そのままお尻の中に入れてしまった。

「「「「「 ・・・・・・・・・・・・・・・。」」」」」

全員が無言であった。
鈴が一体何をしたのか、そして何を入れたのか、誰も想像さえできないでいた。

  • No.71 by ハナミズキ  2014-10-24 19:57:21 


「いま・・・そなたは何をしたのだ・・?」
「解熱剤と言う、熱を下げる座薬を入れました。
 30分もすれば熱は引くはずです」

「それで助かるのか?」

「まだ油断はできませんよ。
 一時的に熱を下げて、患者の体を楽にしただけですから」

こんなに小さいのに、こんなに苦しそうで可哀想だと、母親がすすり泣いている。
しかし、15分もすると、子供の呼吸が少しずつ落ち着き始めてきた。

「呼吸が・・普通に戻り始めているぞ・・・」

貴族の男性が、胸を撫でおろしながら言う。
その時、なぜあの貴族が王宮に居るのかが分かった。
他の人とは着ている着物が違う。
女の人の着物もそうだった。
2人とも、着物の一部に金の刺繍がほどこしてある。
金糸を使えるような人物を、鈴は一人しか知らない。
それは・・・・王様だ。
つまり、あの時に会った貴族の男性は王様だったのだ。

これで鈴の目的が果たせたというわけなのだが、目的を果たしたので「はい、さようなら」と言う訳にもいかない。
今日は、ここで朝まで様子を見る事にした。

「後は私が付いてますので、もうお休みになってくださって結構ですよ」

そう言ったのだが、みんなは帰ろうとはしなかった。
訳を聞いてみると、王様と王妃様は、我が子が心配なので付いていると言う。
そして、医者の方はこう言った。

「この様な珍しい医術を見逃すなど、医術を学ぶ者にとっては言語道断。
 今後の為に、是非とも御伝授願いたい」

そう言ったのだった。

鈴はこの言葉に驚いた。
珍曇で会った主治医と言う人は、鈴の技術や腕前に妬み嫉妬し、闇に葬ろうとしたのだが、この人は違っていた。
自分の子供と言ってもいいくらいの、年の差があるにもかかわらず、鈴からその医術を学びたいと言っている。
その言葉に心を打たれた鈴は、朝が来るまで、麻疹や水疱瘡などの、これからも流行病として国を襲うであろう病の説明や、それを予防する為の手段を教えるのであった。

そしてこの医者は、鈴に言われたわけでもないのに、一字一句漏らすまいと、紙に書いているのだ。
そこで鈴は、この医者にだけ特別に、鈴が開発改良をした薬の作り方を伝授する事にしたのであった。

  • No.72 by ハナミズキ  2014-10-24 19:58:53 



日も暮れ、夜になると、診療所のみんなが心配しているので、1度帰して欲しいと言う。
もし明日も帰れないとなれば、着替えや薬剤も足りなくなる。
それらを持って来たいので、戻りたいと言い出した。

「もし、そなたが診療所に戻っている間に、病状が悪化したらどうする」

王様がそう言うと、鈴は側に居る医者に目を向け言う。

「ティガン先生にも、治療のやり方を教えたので出来ると思います」
 
王様は、ティガン医師の方を見ると、ティガンは「お任せ下さい、王様」と、言った。
王様は二人の言葉を信じ、鈴を一度診療所に戻すのであった。

診療所に帰ると、往診から戻って来ていた和也と他のみんなが、一斉に聞いてくる。

「いったい何があったんだ」
「大丈夫でしたか?!」
「良くご無事で・・」

バジルは、鈴に抱き付き「鈴せんせ~」と、半分泣きながら離れない。
鈴は簡単に説明をすると、道具を持ってまた行かなければならないと言う。

幸いな事に、いま診療所には入院患者が居ない。
夜道の一人歩きは危険だと、和也とウンデグが一緒に付いて行く事にする。
が、ここで鈴が少し気がかりな事を和也に告げた。

「何かあったのか?」

「王妃様の事なんだけど、あの方、少し心臓が悪いみたいね。
 検査をしてみないと何とも言えないんだけど、顔色も良くないし、呼吸も時々
 荒く感じたのよね」

「どうする気だ」

「そうね、第5皇子の容態が落ち着いたら、この車両を王宮に持って行こうと思うの。
 隠せそうな場所を見つけたから、夜にでも運ぼうかと思って」

「分かった。その代り、俺も行くからな」
「当然でしょ?!一人でなんて出来ないわよ」

笑ながら鈴が言った。
そして鈴はウンデグに、自分が戻るまで、朝と晩に点滴を届けるように言う。
他に必要な物が出来れば、その都度手紙を書いて渡すと言い、王宮の門の中に消えていった。

  • No.73 by ハナミズキ  2014-10-24 20:00:08 



第5皇子ファンミンの容態は一進一退で、なかなか熱が下がらない。
しかし、治療を始めてから3日目、朝方になりようやく熱が引き始めてきた。

熱が下がると、子供の回復力はとても速い。
1週間近くも飲まず食わずだったにもかかわらず、お昼頃には布団から起き上がっていた。
王様や王妃様、それにティガン医師も驚いている。

「なぜファンミンはこんなに元気なのだ?」

「それは、この点滴と言う物のおかげです。
 この袋の中には、人間が一日に必要なエネルギーの最低限が入ってますので
 お腹が空くと言う事はありませんから」

「なんと便利な物だ。早速それを作らせよう」

「王様。それは出来ません。
 これの中身を作るには、その機材が必要になります。
 しかし、その機材は、ここ鮮朝国にはありませんし、機材を作るにあたって必要な
 材料もないので無理です」

「では、その材料とやらはいったい何処で手に入るのだ」

鈴はしばらく考えた後に、言葉を選びながら答える。

「私たちの国でなら可能ですが、私の国は遥か遠くにありますので、取り寄せるのは
 無理なんですよ。
 ですが、似たような物なら作れますよ。
 それでいいのならお教えしますが」

そう言うと、ティガン医師にその作り方を教える。
そして、腕の良い職人を集め、針と管を作らせた。
しかし、それはあまりにも細く、精密さや正確さを追及され、匙を投げる職人が続出する。
腕の良い職人と言っても、所詮は自称『匠』なのか、それ程腕がいいとは言えないだろう。
根気も無ければ追及心もない。
ただ見栄えよくできればそれでいい、そういう人がほとんどであった。
したがって、点滴用の管と針を製作するには、かなり時間がかかりそうだ。
王様には諦めてもらうしかないだろう。と言う事になった。

  • No.74 by ハナミズキ  2014-10-24 20:01:54 



第5皇子もすっかり回復をした頃、鈴はやっと診療所の方に帰れる事になる。
そして帰り際に鈴は、王妃に向かってこう言う。

「王妃様、王妃様は少し心臓が悪くありませんか?」

王妃は驚いた顔をし、心臓は持病だと言う。

「私に検査をさせては貰えませんか?」
「検査とな?」

「はい。何処がどの様に悪いのかを見定めたいと思います」

王妃は少し考えさせて欲しいと言い、返事は貰えなかった。
鈴は、もし検査を受けるのなら、その返事を診療所まで持って来て欲しいと言う。

王妃としては、心臓は持病ではあるが、今まで大きな発作を起こした事が無かったのか、
病気の事を軽く考えていた。
多少胸が苦しくなる事もあるが、そう頻繁には起こらないからだ。
それに、常に主治医が側に付いていて、直ぐに薬を調合され、発作は十数分で収まる。
おさまった後は普通に戻り、何の障害もなかった。

鈴は、もし何かあったら、いつでも呼んでくれと言い、帰って行ったのだった。
しかし、王妃様からの使いの者は来なかった。

















  • No.75 by ハナミズキ  2014-10-25 22:29:35 


◆ 台風の目が来た! ◆


過去に飛ばされてから半年が経った。
季節は春の声が聞こえてくる。
雪は解けはじめ、その下からはフキノトウが顔を覗かせ、日差しも柔らかく、小鳥のさえずりが、2人の心を和ませてくれていた。

「春ねぇ~・・・・」
「ああ・・・」

2人はいつもの様に、車の窓越しに朝の景色を眺めていた。
この車は冷暖房完備なので、それほど寒さは感じないが、外に一歩出ればまだ寒い。

圭太が居なくなってからは、夜寝てから朝起きるまで、ずっと鈴と和也は車両の中で二人きりだ。
だからと言って、何かが起こったわけでも変わったわけでもない。
だが、少しだけ変わった所があるとしたなら、それは、鈴が和也を頼りにするようになった事ぐらいだろうか。

「ねぇ、和也。温泉に浸かりたくない?」

鈴はいきなり変わった事を言い出す。
それはいつもの事なので、別に驚きもしないが、なぜ温泉!?と思う和也だった。

「いきなりどうした」
「・・・ん~、急にね、日本の温泉が恋しくなっちゃったって言うか・・」

「フッ」思わず鼻で笑ってしまう和也だ。

「王都に来てから、ほとんど休みなく働いたじゃない?
 少しくらい休暇があっても良いと思うのよ」

「そうだな」
「和也もそう思うでしょ?」

「確かに、そろそろまとまった休みが欲しいな」
「じゃあ、決まりね!来週から1週間ほど温泉に行きましょうよ」

何処の温泉が良いのか、朝ご飯を食べながら、使用人たちに聞いてみる事にした。

「来週から1週間、診療所はお休みしま~す」

鈴がそう言うと、使用人たちは「えっ?!」と言う顔をし驚いた。
自分たちはどうすればいいのかと考えたからだ。

「それで、休暇を利用して温泉に行きたいと思うんだけど、みんなはどうする?
 家に帰ってゆっくりするのも良いし、一緒に温泉に行くのは、もちろん大歓迎よ」

「温泉なんて行った事が無いです・・・」
「俺も無いな・・・」

使用人たちは、温泉に行った事が無いと言う。

「じゃ、一緒に行きましょうよ。どこの温泉がおすすめかな?」

みんなは口々に、噂で聞いた温泉の名前を挙げていった。

「ミンニャンなんてどう?美肌効果があるらしいわよ」
「やっぱスイレンだろ。疲労に良く効くらしいって噂だぜ」
「ミュンレンの温泉が、色んな種類があって、町も賑やかだって聞いた事があるわ」

「ミョンレン?私もその噂なら聞いた事があるわ」
「俺も」

「なら、ミョンレンにする?」
「でも、ミョンレンは遠いですよ?3日はかかります」

歩きで片道3日と言う事は、往復で6日だ。
とても1週間の休暇中に行くような所ではない。
誰もがそう思っていた。

「じゃ、ミョンレンで決まりね!」

みんなは、なぜわざわざそんな遠い所まで行くと言うのか不思議だった。
疲れを癒しに行くのではなく、疲れに行く様なものではないかとさえ思ったのだ。
それでも初めての温泉旅行なので、みんなはどことなく嬉しそうだ。

  • No.76 by ハナミズキ  2014-10-25 22:30:28 


その話の後に、またもや鈴がとんでもない事を言い出した。

「それとね、みんなの家族が居るじゃない?
 二人までなら同伴を許可するわ」

使用人たちは再度驚く。

「で・・でも・・、母ちゃんはまだ歩けるとしても、婆ちゃんはそんなに歩けない
 と思います・・・」

「うちは兄弟が多いからな・・・隣の婆ちゃんでもいいかな?
 小さい頃から世話になってたんだ」

「誰でもいいわよ?旅費の事は心配しないで。
 全部私たちが持つから。
 家族以外でお世話になった人に、恩返しをするチャンスなんだから、遠慮しないで
 連れてらっしゃい。」

みんなは、誰を誘おうか1日悩んでいた。
ウンデグは、両親を誘う事にし。
ホウミンは、母親と足の悪い祖母を。
シュンイは、両親が他界し、意地の悪い身内しかいなかったので、仲の良かった友だちとその母親を招待する事にした。
バジルは、母親だけしかいなく、バジルの下に3人の弟妹がいる。
小さい頃から世話になった、隣の婆ちゃんも連れて行きたい、悩んでいた。

  • No.77 by ハナミズキ  2014-10-25 22:31:12 


1日悩んだが、結論が出なかった。
すると鈴が、悩んでいるバジルを見かねて言う。

「バジル。今回だけよ?
 お母さんと弟妹とお婆ちゃん、みんなで行きましょ?」

「いいんですか?!」

「しょうがないじゃない。
 小さな弟妹だけを置いて行くわけにもいかないし、かと言って、お婆ちゃんだけを
 連れて行くのも変だし・・・ね?」

「ありがとうございます!鈴先生!」

バジルの顔がぱっと明るくなり、笑顔が戻るのであった。

  • No.78 by ハナミズキ  2014-10-25 22:31:51 



診療時間が終わると、みんなは各々その事を伝えに家に帰って行き、各家庭では歓喜の声が上がっていた。

「本当かい?!ウンデグ!」
「本当だよ、母ちゃん!」

「でも、何着て行こうかね・・こんな恰好じゃ笑われちまうねぇ・・」
「へへへ、母ちゃん、これ見なよ」

ウンデグは、1銀に相当する1000元を見せた。

「それ、どうしたんだぃ!?」

「鈴先生が、よく働いてくれたから特別給金(ボーナス)だってくれたんだ。
 これで必要な物を買えってさ!」

ホウミンの家でも驚きの声が上がっていた。

「あんたは良い所に奉公に行けたね・・」

涙ながらに話す母親と、足が痛くて歩けないと言う祖母。

「わしは、足が痛くてそんなに遠いところにゃ行けんよ・・・」
「婆ちゃん、鈴先生や和也先生が付いてるから心配ないよ」

「でもな・・・」
「きっと鈴先生たちに何か考えがあると思うから大丈夫だって!」

それぞれの家庭で、それぞれの不安材料はあったが、どの家族も喜び、その日が来るのを楽しみにしていた。

  • No.79 by ハナミズキ  2014-10-25 22:34:44 



2・3日してから、シュンイの親戚だと言う親子が訪ねて来た。
前にシュンイが話してくれたが、この親戚は、1年前シュンイの両親がたて続けに、流行病で亡くなった時、当時16歳だったシュンイを、一応引き取ってはくれたが、シュンイの両親が残してくれた少しばかりの財産を、全て奪い取ったあげく、シュンイを奴隷の様にこき使っていた。

食べる物は、そこの家族の食べ残ししか与えて貰えず、着る物もボロボロの着物しか着せて貰えなかった。
シュンイから奪った遺産は、自分の2人の娘たちの着物代や飾り物に消え、1年もしないうちに無くなってしまったのである。

贅沢をする事に慣れてしまったその家族は、お金欲しさにシュンイを娼館に売ろうと考えていたのだ。
その事を知ったシュンイは、その親戚の家を飛び出し、仕事を探していた時に、この診療所の募集を目にしたのだった。

そして今回、この親戚親子がここに来た理由は、風の噂で、シュンイが診療所に勤めていて、
住み込みの割には給金が良い事と、身内を誘って温泉に行くと言う噂を聞いたからだ。
身内と言えば自分たちしかおらず、いくら待っても連絡が来ないため、痺れを切らせて自分からやって来たと言うわけだ。

この親子、シュンイが仕事中だと言うのにもかかわらず、ずかずかと診療所の中までやってき、大声でシュンイに話しかける。

「シュンイ!あんた温泉に行くって言うじゃないか。
 身内も一緒に連れてってくれるって言うのに、どうしてうちに帰って来ないんだい」

診療中だと言うのに大声で話すのを止めようとはしない。
さらに追い打ちをかけるかのように、親戚の母親は喋りだす。

「うちのシュンイがお世話になって・・おや?先生様はどこだい?
まったくこの子ときたらトロ臭くてご迷惑をかけてやしませんかね」

「そんな事はありませんよ。とてもよく働いてくれてます」

そう答えたのは鈴だ。
親戚の母親は、見た感じ、自分の子供と大差ない娘が患者の診療をしているのを見て、そう言えば、若い男の先生と女の先生の2人が居ると聞いた事を思い出す。

「その子よりうちの娘なんてどうです?
 うちの子は気が利くし、器量だってほら、この通り」

そう言って自分の娘の背中を押し、一歩前へ出させると、褒めちぎりだす。
娘の方は、どこかで和也を見たのだろう。
辺りを見回し、誰かを探している風だ。

「今日は男の先生は居ないの?」
「和也ならこの時間は往診中よ」

「なぁ~んだ、残念だわ・・・」

あからさまにガッカリをした表情を見せる。

「あの、御用がないのなら、外で待っててもらえますか?
 見ての通り、今は仕事中なものなので、はっきり言って、邪魔です」

自分の娘と同じような歳の若い女医に言われ、ムッとする母親。

  • No.80 by ハナミズキ  2014-10-25 22:36:14 


「なんてことだい!?この娘は年上に対しての口の利き方も知らないのかね!」

そう言われて黙っている鈴ではない。

「年上だと言うなら常識をわきまえなさい。
 ここをどこだと思ってるんです。
 診療所ですよ?
 病気の人が来る場所であって、あなたの様に井戸端会議をしに来る場所では
 ありません。
 出て行きなさい!」

そう言って腕を伸ばし、人差し指で出口を指す。
そこに丁度、往診から帰って来た和也が入って来る。

「ただいま。どうした?何かあったのか?」

間近で見る和也の姿は、背が高くイケメンだ。
その姿に一瞬ポーッとなる親戚の親子だったが、母親の方が気を取り直し、和也に言い寄る。

「先生、この人ったら酷いんですよ!?
 私は姪のシュンイが心配で来たってのに、いきなり出て行けって言うんですよ。」

和也は、鈴が何の理由も無しに、そのような事など言わない事を知っている。
この親子が何か失礼な事でもしたのだろう。
そう思った和也は、鈴に向かい言った。

「俺が患者を診るから、お前はこの人達の話を聞いてやれ」
「わかった」

鈴は親子と一緒に外に出て行き、別室で話しをしはじめた。

「改めて聞きますが、ご用件はいったい何ですか?」
「あんたじゃ話にならないね。男先生を呼んどくれ」

「和也はいま診療中です」
「お前が変わればいいじゃないか」

「どっちが話を聞いても同じだと思いますけどね・・・」
「私はね、ここの責任者を呼んどくれと言ってるんだよ」

「ですから、その責任者は私です」

その親子はビックリをして、信じられない、と言う様な顔をしている。

「で?ご用件は何です?」

「いえね、こちらでは身内を誘って温泉旅行に行くって言うじゃないですか。
 私どもの家は隣村なんで、シュンイが来れないんじゃないかと思いましてね。
 だから、わざわざ来てやったんですよ」

この親子は何処まで厚かましいのだろうか。

「その件でしたら、既に人員は決まっております。
 シュンイは友達を誘うそうですよ」

母親は激怒していたが、鈴は知らん顔だ。

「用件はそれだけですか?」

鈴は、少し呆れ顔で聞いた。

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