俺様、何様?女神様。

俺様、何様?女神様。

ハナミズキ  2014-10-01 16:30:45 
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この小説は、「なんとかなるさ!」の続編になります。

なんとかなるさ!(高校生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534187/
初めての方は、こちらを読むとつじつまが合うかもしれません。


俺様、何様?女神様。(大学生編)になります。

更新に遅れを生じる事が多々あると思いますが、ご了承ください。

それと、初めにお詫びを申し上げておきます。
セイチャで目にいしたニックを何個か使用させて頂きました。<m(__)m>

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  • No.23 by ハナミズキ  2014-10-04 21:24:43 

メスを握った鈴の表情が一変し、それは鮮やかな手つきでスイスイと患部を切り離していく。
あっという間の出来事であった。
手術を変わってからほんの15分程度であった。

手術をしている間も、和也達に説明をしながらこなしていき、こういう場合はこちら側からメスを入れるとか、この部分に触ると破裂をするから絶対に触ってはいけないとか。
それは丁寧に、かつ、分かりやすく説明付だ。

先ほどまで眺めていた佐々木先生とは、雲泥の差があったのは言うまでもないが、それは言わないでおこう。

助手を断った研修医も、初めは遠巻きに見ていたが、その手さばきと説明を聞いているうちに、徐々に前の方に出てきていた。
そして、真後ろに立ち、その手さばきを垣間見るのであった。



八代先生が手術室に到着をした時には、既に手術も終わっており、後は閉腹を残すのみとなっている。

「おや?終わってしまったのか。
 僕もDr,リン先生の手術を見たかったのにな」

「「「「 !!!!!! 」」」」

その場にいた者が皆驚いた。
医師や、医師を目指す者がその名を知らないはずがないからだ。
正体不明の日本人で、分かってる事は、Dr,リンと言う名前だけ。
年齢や、性別さえも知られてはいなかった。
ただ、風の噂では、今は日本のどこかに居るらしいという事だけは知っていたが、まさか学生をやっていたとは、夢にも思わなかったようである。

ひょんな事から鈴の正体がバレてしまい、この後から、各科の先生や教授たちから引っ張りだこになったのであった。

治療方針の相談に始まり、病気の見解を求められたり、あげくの果てには自分の研究の相談事もあった。

そして春の実習が終わる頃、教授たちが皆、口をそろえて言った。

「来年は是非にうちの病院に来てください」と。



















  • No.24 by ハナミズキ  2014-10-04 22:16:47 


◆ 沖縄 ◆


前回居た北海道に比べると、沖縄はかなり温かく感じた。
今回実習する病院は、沖縄でも南の方にある離島だ。

人口三千人程度の島にある、唯一の診療所である。
島の周りにはサンゴ礁がその顔を覗かせ、青い海がキラキラと輝いているようにも見える。
都会を離れ、広い大地と自然に囲まれて過ごした後、今は青々と輝くマリンブルーの元へやって来た。

実習に出てから半年、いよいよ折り返し地点だ。
二つの大きな病院で、外科・内科、その他色々な科に臨時で呼ばれ、鈴を含む4人の知識は大幅に増えた。
鈴が呼ばれる手術には、必ず3人が見学をしていたので、普通では考えられない様な手術にも立ち会っていた。
そのため、どの同期よりも知識量が豊富になったのだ。

この半年の成果を見せるために、この離島を選んだと言うわけだ。
離島の診療所は1軒しかないため、外科・内科・皮膚科・耳鼻科、下手をすれば産科まで請け負わなければならない。

和也は外科志望で、圭太も外科を志望しているが、内科的役割が大きい。
青華は手術が苦手なようで、外科以外を希望したいようだ。
ここで4人の役割が決まる。
外科:和也
内科:圭太・青華
All :鈴
と、なった。

診療所には医師が一人と年配の看護師が一人いる。
和気あいあいとした、アットホームの様な実習が開始された。

ここでは人手が足りないので、レントゲンなどの機械はすべて実習生である4人が担当する事になった。
機材の使い方は、暇を見つけては鈴が教えている。

  • No.25 by ハナミズキ  2014-10-04 22:19:05 

一日に訪れる患者は20~30人程度で、その殆どが高血圧・糖尿病・などで、受診を伴いながらお喋りをしに来るようなものだ。
この様な場合は、圭太が担当するのがうってつけだ。
普段の何気ない会話の中から、新たな病気を発見する能力が長けているからだ。

そして一般診療の他にも、島民のための健康診断が定期的にある。
お年寄りが多いため、往診のような形を取り、各地域に出向いて行き診療をするのだ。

その他、各学校や施設でも同じだった。
学校や福祉施設などでは、健康診断やワクチンの投与などがあるが、その時に担当医の松田先生と一緒に出向くのが、圭太と青華である。
圭太と青華は、優しい顔をしているので、子供とお年寄りには人気がある。

鈴も童顔のため、お年寄りからは孫の様に可愛がられていたが、この場合においての鈴の役割は、診療所に残り通常業務をこなす事であった。
まだ学生である実習生に、診療を任せていいものなのか、長年勤めていた看護師が疑問に思い松田に聞いてきた。

「先生。学生に診療を任せても良いんですか?」
「彼女なら問題は無いよ」

「でも、今までそんな事一度もしたことが無かったじゃないですか」
「今まではね」

「では何故です?」
「君は彼女を見てて何か感じなかったかい?」

「確かに宍戸先生は的確な診察をします。それに、こういう離島の事も良く知ってるようですが、
 でも・・・」

何か腑に落ちないと言う様な顔つきだ。

「彼女はね、本来なら僕より優秀な医者なんだよ。

  • No.26 by ハナミズキ  2014-10-04 22:21:21 

僕が離島で仕事をしてみたいと思うきっかけを作ってくれた人なんだ」

「それはどう言う事なんですか?」
「あれは6年前。僕は医者としてのスキルアップのために、海外ボランティアに参加した事が
 あるんだ。
 その時に出会ったのが、彼女だったんだよ」

松田はその時の事を語り始めた。

ボランティアで、カンボジアの奥地に派遣された時、まだ経験の浅い若者で、日本人であったと言う事もあり、同じチームに鈴が配属されたのだった。
松田にしてみれば、まだ子供が何故ここに居るのか疑問だったが、松田と鈴以外はすべて外国人で、国もバラバラのようだ。

しかし、他のボランティアの人達は、鈴の周りに集まり、意見やアドバイスを乞うている。
そして鈴は、その人に分かり易いように、彼らの母国語で話していたのだった。

松田はそんな鈴の事を他のチームメイトに尋ねてみた。

「彼女はいったい何者なんだい?」
「知らないのか、松田。彼女があのDr,リンだよ」

Dr,リンの事は勿論知っている。
日本に居てもその名は聞いていた。
Dr,リンに不可能な手術は存在しないと・・。
しかし、まさかあの子供が?

松田がそう思ったのも頷ける。
その時Dr,リンこと鈴は、まだ17歳だったのだから。

ある時、地面に埋め込まれていた地雷を、誤って踏んでしまった少年が、巡回している仮設診療所に、吹き飛ばされた足と共に連れてこられた。
右足が片方吹き飛び、体中に金属の破片のような物が刺さっていた。
こんなひどい状態の患者は見た事が無かった。

  • No.27 by ハナミズキ  2014-10-04 22:24:09 

設備の整った大きな病院なら治す事も出来るかも知れないが、こんな何もない所では無理だ。
誰もがそう思っていた。
精々、破片を取り除き、足を切断するくらいしか出来ないだろうと。

しかし鈴は、見事にやってのけた。
マイクロスコープを使わずに、拡大鏡1つで細かい血管まで縫い合わせてしまったのだ。
それも、何の迷いも躊躇もなくだ。
それはまさに、「神の手」と言うに相応しい手術であった。

ほんの数か月間一緒に働いてただけだったが、松田にとってそれは、どんな僻地に行っても、腕さえしっかりし、周りにある道具を応用して使えば、殆どの患者は救えると言う事を、この時、初めて心から感じたのであった。

そして日本に帰国後、各専門科で学び、この離島に赴任してきたのであった。

「そうだったんですか・・・ん?って事はですよ先生。
 宍戸先生って、実習生ではなくて医者なんですか?」

「そうだね。彼女は医療の国際免許を所持してるからね。
 日本でも普通に医療には関われるよ」

そんな話をしながら休憩時間を過ごしていたのだった。

  • No.28 by ハナミズキ  2014-10-04 22:25:07 


その頃、鈴たちの居る診療所に、一人の若い男性が運ばれてきた。
仕事をしながら話をしていたら、頭痛を訴え始めたかと思ったら、急にろれつが回らなくなり、左の手足に力が入らなくなったようだ。
一緒に居た同僚が、慌ててこの診療所に運び込んだというわけだったが、いつも居る松田先生が居ない。
困った顔をしていると、鈴がすかさず診察をしだした。

「患者をこちらに寝かせてください」

付き添ってきた人は、その言葉に素直に従い、いわれた場所へ寝かせた。

「私の手をギュッと握ってください。」

患者は鈴の手を握るが力が入っていない。
付き添いから聞いた話と、この症状で、鈴は脳卒中だと判断をする。

  • No.29 by ハナミズキ  2014-10-04 22:25:48 

「直ぐ手術を始めたいと思いますが、ご家族の方に連絡はもうしましたか?」
「はい。もうすぐここに着くと思います」

ストレッチャーに乗せて手術室に運び、検診で出かけている松田にも連絡を入れる。
連絡が入った松田は大急ぎで診療所に戻り、和也は到着をした家族に対し、同意書を貰っていた。

手術の準備も整った頃、松田達4人も到着をし、手術を行う事になった。

「執刀は私がしてもいいですか?松田先生」
「ぜひお願いします。宍戸先生」

「じゃ、青華と圭太は麻酔を担当してちょうだい。要領は分かってるわね?」
「「 はい!大丈夫です! 」」

「松田先生は第一助手をお願いします」
「わかりました」

「和也は第二助手」
「了解」

本来ならば第二助手の出番など無いに等しい。
しかし鈴の考えでは、途中で第一助手の松田と変わり、松田の代わりに和也を入れようとしていたのだった。
危険んな場所さえ終われば、後はマイクロスコープを使わないで行えるからだ。
そう、ここにはマイクロスコープが無かったのだった。

マイクロスコープを使わず患部を切除できるのは鈴だけ。
内臓の位置や、それらを取り巻く血管の位置を、正確に記憶をしており、レントゲンを見ただけでその全貌が画像となって脳内に流れてくるのだ。
これは数々の手術をこなし、つちかった経験から来ているものであった。

  • No.30 by ハナミズキ  2014-10-04 22:26:58 

普段この様な、脳卒中の患者がこの診療所に来たとしても、手術は無理だ。
船かドクターヘリを使い本土まで運ぶ事となる。
その時は大概手遅れになっている事が多い。
良くても麻痺が残るだろう。
そう考えるとこの患者は運が良い。
運び込まれてから30分程度で手術をしてもらえたのだから。

手術が終わり、松田が手術室から出てきて家族に報告をする。

「手術は無事成功しました。リハビリをすれば後遺症もほとんど残らないと思います」

患者の家族は、有難うございます、ありがこうございます、と何度もお礼を言い、安堵の涙を流していた。
運び込まれた男性は、まだ34歳と若く、小さな子供も二人いる。

「患者さんは本当に運が良かったですよ。
 普通でしたら脳卒中の場合は、この診療所では対処しかねるんですが、今回は 
 神の手を持つと言われている先生が来てましてね、その方が執刀をしてくれたんです」

その噂があっという間に島中に広がり、果てには近隣の島国にも噂が流れ、一日20~30人程度だった患者が、多い時には100人近い時もあった。
そうなると、松田と鈴だけでは診察は不可能だ。
当然の如く、他の3人にも患者を診療してもらう事になる。
それは必然的に、まだ実習生である3人にとっては、飛躍的な進歩を果たす事になるのだった。

  • No.31 by ハナミズキ  2014-10-04 22:28:04 



ある時、台湾から、どうしても子供を見て欲しいと言う両親が、子供を連れて現れた。
海外からの患者と言う事もあり、語学が堪能な鈴が診察をする事になった。

その子供は12歳で、半年ほど前から足首・手首・首・等の、身体の主な関節痛を訴えていた。
時折微熱も出ていたため、普通の病院では風邪と診断されて、様子を見るも一向に改善の見込みがない。
そこで鈴の噂を仕事仲間から聞き、ここにやって来たのだった。

「検査をしないと詳しい事は分かりませんが、甲状腺ですね」

鈴は首の腫れ具合からみて、まず間違いが無いだろうと考えた。
しかし、どうしてここまでほっといたのだろうとも考えていた。
聞けば半年前から病院には掛かってはいたが、初めのうちは風と診断され、一時は治るものの、また症状が出てくるの繰り返しだった。

大きな病院にも行っては見たが、そこでは甲状腺と診断され、ブレトニンの投与を行ったらしい。
それを聞いた鈴は大慌てで検査入院を促した。

ブレトニンの長期・大量投与は大腿骨頭壊死症を引き起こすからだ。
歩く姿を見たところ、まだ大丈夫のようだったが、一応念のために検査をする事にした。

検査の結果、まだそれほど緊迫をした状態ではなかったので、そのまま入院をし、手術をする事になった。

12歳の女の子と言う事もあり、首に付ける傷跡も、小さく切除をして目立たない位置にて開喉する事にする。
そしてこの時は、松田のみが通常業務である診察に当たり、手術は実習生のみで行われたのである。

何度も鈴の術法を見てきている3人には慣れたものである。
半年以上に渡り、このメンバーでチームを組んで色んな事をやって来た。
そのおかげでこの3人の実力は、研修を終わらせる頃の医師と、何ら変わりがないくらいにまで成長をしていたのだ。














  • No.32 by ハナミズキ  2014-10-04 22:29:24 

◆ 本家本元に帰って来たぞぉ! ◆


そしてとうとう、今年度最後の実習地になる、慶清大学病院にやって来た。
ここでは、鈴・和也・圭太の3人がERを希望し、そこで患者に対する瞬時判断力を養えとの、鈴からのお達しだ。

時間との勝負、誤診をしない的確な判断能力が必要となる。
この一年間の中で、最も過酷な実習になるのは一目瞭然だった。

ERの方でも、ただの実習生が使い物になるとは思ってはいないので、いつもの様に受け入れる事になる。
どうやらこの大学では、各科との連携はあまり取られてはいないようだ。
鈴の事を知らなかったのだから。

今回ERに配属になったのは、鈴を含め5人だ。
意外と多い。
それも何の因果か、その中の一人に小泉あいがいた。
そしてもう一人、研修中の水島琉希も居たのだった。
例の軽井沢事件の時に会った人物だ。

水島琉希は、鈴の姿を見たとたんに「あっ!」っと言う声を上げた。
だがすかさず目で「それ以上何も言うな」と合図を送る。
その空気を察知した琉希は、それ以上何も言う事はなかった。

医局で待機していると、急患の電話が鳴る。
乗用車とバスの衝突事故だった。
5名の患者がこちらに搬送されてくるらしい。
各自スタンバイをする。

患者が運ばれてきて、猫の手も借りたいほどの忙しさにいきなりなり、処置室の中に怒涛が飛び交う。

「誰かライン取って!」
「こっち挿管して!」
「手の空いてる奴は早くしろ!!」

  • No.33 by ハナミズキ  2014-10-04 22:30:10 


そこですかさず、圭太がラインを取りだした。
怪我人を見るのが初めてではない二人は、慣れた手つきでその場をこなす。

「俺が挿管します」

和也も挿管器を手にし、素早く装着をする。
全体の患者の様子をパッと見て、鈴は重症者の患者に付き、担当医の指示を仰ぐ。

「レントゲン室に運んで、レントゲンと血液検査だ。手術室の準備もしろ」
「先生!手術室が開いていません!」
「どかせろ!こっちが最優先だ!」

レントゲン室に患者を運ぼうとした時に、ポータブルのレントゲン器が運び込まれてきた。

「こっちに持って来て」

鈴が言う。

「何をする気だ!?実習生のくせに余計な事はするな!」
「事は一刻を争います。このままここでレントゲンを撮りながら手術する方が賢明です」

「何もわからない素人が偉そうな事を言うな!!」
「でも、手術室が開いていないのが現状ですよ?
いまはこれしか方法が無いと思いますが」

そんな修羅場のような状態が数時間続き、やっと一息入れれる事になる。
医局では先ほどの感想が飛んでいた。

「いやぁ~さっきは凄かったな。
 でも君達、意外と使えるな」

「本当ですよね。ラインの取り方や挿管も俺たちより上手かったよな」

和也と圭太が絶賛されていた。
あいは何もできずにただオロオロとしているだけで、大した役には立っていない。

  • No.34 by ハナミズキ  2014-10-04 22:30:53 

もう一人の実習生もそうだった。

「てか、一番すごかったのは宍戸先生だな。
 第一助手を完璧にやりこなしたんだからな」

「本当に実習生なのか?!」

笑ながら話をしていると、負けず嫌いのあいが、嫌味混じりに言う。

「地方の実習って、人手が足りなくて大変だったみたいね」
「そのおかげで大概の事は出来るようになったけどな」

和也が言い返す。
流石に和也に反論されると、あいは黙るしかなかった。

その後も次々と急患が運ばれてきたが、鈴達3人の手際の良い準備や介助に、唸らせられる事になる。
ここまで使える実習生に、今まで出会った事が無かったからだ。

普通の実習生は、担当医の指示を待ち、その指示通りに動く。
だがこの3人は、指示が出る前に、いま指示をしようとしていた事をやってのけていたのだった。

3人の実習が終わる頃には、他の病院でも言われたが、やはりこのERでも同じことを言われた。

「研修は是非うちに来てくれ」と。















  • No.35 by ハナミズキ  2014-10-06 22:02:19 


◆ 研修スタート ◆


無事に国家試験も通り、晴れて医者となった鈴達。
そして、その人材の奪い合いが始まった。
少しでも優秀な研修医が欲しい各科では、事前にその事を打診していた。
和也は脳神経外科に進み、青華は内科へ、圭太と鈴はERへと決めた。

「これから1年間お世話になる宍戸鈴です。
 よろしくお願いします」

「高橋圭太です。よろしくお願いします」

去年実習に来た時と顔ぶれが少し違うようだ。
流石にERともなると、長続きをしないと見える。
初対面の人達は皆、他の病院からの引き抜きで来た人たちで、医者になりたての研修医の事を上から目線で話すのであった。

「君たちは何日もつかな。みなさん賭けませんか?」

「俺は1週間に1口」
「僕は3日に1口で」
「俺は2週間だな」

「なら私は半年に3口賭けましょうかね」

医局長が賭けに乗って来た。

「医局長、それじゃあ医局長の一人負けになりますよ」

そう言ってみんなが大笑いをしていた。
しかし、笑わなかった人物もいた。
それは去年の事を知っている医師と看護師たちであった。

研修を終えてまだ数年の医師達は、たかが研修医よりは自分たちの方が、遥かにレベルが高いと思っていたのだ。
そしてその思い上がりが、目の前の現実を突きつける。

  • No.36 by ハナミズキ  2014-10-06 22:03:09 

コールが鳴り、国道にてトンネル内で乗用車同士の事故により、後続車が巻き込まれ、火災が発生したと連絡が入り、ドクターヘリの要請が来た。
さっそくヘリの準備をし、ヘリに乗る医師を決める。

倉田啓介(28歳)医師3年目。
神道 明(33歳)医師6年目。
佐藤大樹(35歳)医師9年目。
宍戸 鈴(24歳)医師9年目(1年目)。

この4人だ。

この中では最年長である神道が、張り切って出陣をした。
各自2機のヘリに分かれて乗り、鈴とバディーを組むのは佐藤だった。
佐藤は先輩風を吹かしながら、鈴に色々とアドバイスをする。
現場に到着をしたら自分の指示に従う事。
安全確認が出来てから突入をする事などだ。

現場に到着をすると、先に来ていた消防隊員の指示に従い、安全確認が出来るまでトンネルの外で待つ事になった。
その間にも隊員が運んでくる負傷者がいるので、設置してあるテントにて応急処置を施し、重症患者からヘリや救急車に運び込む。

あまりにも負傷者が多いので、鈴はすかさずトリアージ(患者を選別して、重症患者を優先的に見る事)を行った。

「宍戸先生、何をしてるんだ。こっちに来て患者を処置しろ!」
「お言葉ですが佐藤先生。この場合はトリアージが妥当かと思います」

佐藤はそこでハッと気が付く。
こういう災害時には、トリアージをして、助かる見込みのある者から優先的に助け、重症患者を先に搬送するのだと言う事を。

鈴は重症患者をトリアージしながら、その治療にあたっていた。

  • No.37 by ハナミズキ  2014-10-06 22:03:48 

その中に、かなり激しい腹痛を訴えている患者が居た。
鈴がお腹を触ってみると、内臓が損傷しているようだった。
急いでテントの中で、応急処置の準備に入る。

あらかじめ持って来ていた開腹セットを出し、その場で緊急オペをする。
やはり腹部内に損傷があり、そこからかなりの量の出血が見られた。
出血部分を素早く縫合し、損傷を受けている血管は糸で結び固定をして、止血の為のガーゼを何枚も入れて閉じ、そしてそのまま注意事項を書きヘリで搬送させた。

そして搬送された病院では、その注意事項を見ながら、再手術が施されると言う連係プレイを見せたのだった。

現場の状態が少し落ち着いた頃、鈴の姿が見えない事に気が付いた同僚たちが、鈴の事を探した。
あまりの悲惨な現場で、鈴がどこかで倒れているかも知れないと思ったからだ。
しかし、鈴が姿を現したのは重症患者用のテントの中からで、救急隊員に指示を出していた。

「この人は救急車で良いわ。脳外科の準備をしておくように伝えてね」
「はい!」

「お前はそんなとこで何をやってるんだ」
「見ての通り処置を行ってますが」

「お前はそんな事をしなくてもいい!向こうで怪我人でも見てろ」

佐藤はイライラしながら怒鳴った。
それを見ていた救急隊員の隊長が、口を開く。

「彼女は的確で素早い処置をしてくれてますよ。
 さっきの患者も、今までの経験から言わせて貰えば、助からなかったはずの
 患者だったんですよ。
 それを見事な手術でもたせてくれたんです」

それを聞いた佐藤は、なんだか腑に落ちず、またイラつく。
自分は医師9年目、かたや鈴は試験に受かったばかりの医師1年目だ。
そんな自分が医者になりたてのひよっこに負けるはずがないと思っていた。
佐藤のプライドが傷ついたのである。

  • No.38 by ハナミズキ  2014-10-06 22:04:24 

医局に戻ってからも、そのイラつきは収まらず、同僚に愚痴をこぼした。

「最近の若い奴は自分勝手な行動ばかりしやがって、目上の者に従うってことを 
 知らないのかね」

「何かあったんですか?佐藤先生」

「何かあったなんてもんじゃないよ。今日の現場は散々だった」
「そんなに酷かったんですか?」

「研修医だよ。俺の指示を無視して、重症患者を診てたんだぞ?!
 それも搬送病院まで指定してな」

「え!?あの患者たちの応急処置をしたのって、佐藤先生じゃなかったんですか?」
「どう言う事だ」

「運ばれてきた患者達には、完璧な応急処置が施されてたんですよ。
 それに分かり易く、病院でする検査法や術式まで書いてあったんです。
 ですからてっきり僕は佐藤先生が書いてくれた物だと思ってましたよ」

それを聞いた佐藤はハッとし、以前に風の噂で聞いた事を思い出した。
天才医師Dr,リンが日本に来日していて、それもまだ若い医師だと言う噂を。
まさか、そんなはずはない。
頭の中ではそう拒絶をしていたが、たった今同僚が言った言葉が本当だとしたら、その人物とは、もしかして鈴の事ではないかとさえ思ってしまう。

しかし、そうだとしても若すぎる。
もしそうだとしたなら、何故、医大に通ってまで医師の免許が必要なのか。
既に免許は持っているはずだ。
釈然としない。

  • No.39 by ハナミズキ  2014-10-06 22:05:33 



研修期間が終わる半年の間で、鈴と圭太は一人前の医師の役割を果たしていた。
下手な医者よりも手早く、判断も的確だった。
半年で次の科に研修に行かれるのが勿体ないほどの腕前だ。

「君たちは、次は何処の科に行くんだ?」

佐藤が聞いてきた。

「僕は宍戸先生の行く所に付いて行くつもりです」

圭太がストーカー宣言並みの言葉を発した。

「本当に付いてくる気なの?圭太」
「・・・うん。僕の目標は鈴ちゃんだし、鈴ちゃんは僕の女神さまだから」

「女神様か!?こりゃ大きく出たな高橋先生」
「いえ、本当の事ですから。
 僕は昔、鈴ちゃんに命を助けて貰った事があるんです。
 誰にも治せなかった僕の病気を、鈴ちゃんが治してくれたんですよ。
 その事実を知った日から、僕は、鈴ちゃんの側で、鈴ちゃんに技術を学ぼうと
決めたんです」

黙って聞いていた鈴が、静かに口を開く。

「ねぇ、圭太。私ね、次は国境なき医師団に行くけど、本当に付いてくるの?」
「えっ?!」

思いもよらない言葉に圭太は驚いた。
だが答えはすでに決まっていた。

「もちろん!どこまでも付いて行きます!よろしくお願いします!!」
「おぃおぃ、急に入れてくれって言われて入れるもんじゃないだろ」

佐藤が呆れ顔で言った。

「大丈夫ですよ、佐藤先生。
 助手を連れてきても良いと言われてますから」

佐藤は、呆れ顔が更に呆れたような顔になり、鈴に対してこう言った。

「お前はいったい何様だ?!」

「女神さまです!」

圭太がすかさずそう言ったのだった。

そうして二人は、国境なき医師団へと行くのであった。














―  完  ―

  • No.40 by 匿名  2014-10-06 22:22:51 

拍手
完結…?続編か番外編を期待

  • No.41 by ハナミズキ  2014-10-06 23:39:06 

続編はとりあえず考えてありますが、今までの話しとか流れから脱します(汗;

元々は、これから書く話を書きたかったのですが、その話に行く前の長~いプロローグの様な物が頭の中にあったので、こうなってしまいました。(笑

次の話しが出来上がるとしたら、ファンタジー爆裂するかもしれません。
日常的にはあり得ない事のオンパレードかと・・・(汗;

なので、構想をまとめるまで少々時間がかかりそうです。
ご了承ください。

  • No.42 by 匿名  2014-10-06 23:43:19 

丁寧な解説を感謝
楽しみにしてます

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