ハナミズキ 2014-10-10 16:57:40 |
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◆ 台風の目が来た! ◆
過去に飛ばされてから半年が経った。
季節は春の声が聞こえてくる。
雪は解けはじめ、その下からはフキノトウが顔を覗かせ、日差しも柔らかく、小鳥のさえずりが、2人の心を和ませてくれていた。
「春ねぇ~・・・・」
「ああ・・・」
2人はいつもの様に、車の窓越しに朝の景色を眺めていた。
この車は冷暖房完備なので、それほど寒さは感じないが、外に一歩出ればまだ寒い。
圭太が居なくなってからは、夜寝てから朝起きるまで、ずっと鈴と和也は車両の中で二人きりだ。
だからと言って、何かが起こったわけでも変わったわけでもない。
だが、少しだけ変わった所があるとしたなら、それは、鈴が和也を頼りにするようになった事ぐらいだろうか。
「ねぇ、和也。温泉に浸かりたくない?」
鈴はいきなり変わった事を言い出す。
それはいつもの事なので、別に驚きもしないが、なぜ温泉!?と思う和也だった。
「いきなりどうした」
「・・・ん~、急にね、日本の温泉が恋しくなっちゃったって言うか・・」
「フッ」思わず鼻で笑ってしまう和也だ。
「王都に来てから、ほとんど休みなく働いたじゃない?
少しくらい休暇があっても良いと思うのよ」
「そうだな」
「和也もそう思うでしょ?」
「確かに、そろそろまとまった休みが欲しいな」
「じゃあ、決まりね!来週から1週間ほど温泉に行きましょうよ」
何処の温泉が良いのか、朝ご飯を食べながら、使用人たちに聞いてみる事にした。
「来週から1週間、診療所はお休みしま~す」
鈴がそう言うと、使用人たちは「えっ?!」と言う顔をし驚いた。
自分たちはどうすればいいのかと考えたからだ。
「それで、休暇を利用して温泉に行きたいと思うんだけど、みんなはどうする?
家に帰ってゆっくりするのも良いし、一緒に温泉に行くのは、もちろん大歓迎よ」
「温泉なんて行った事が無いです・・・」
「俺も無いな・・・」
使用人たちは、温泉に行った事が無いと言う。
「じゃ、一緒に行きましょうよ。どこの温泉がおすすめかな?」
みんなは口々に、噂で聞いた温泉の名前を挙げていった。
「ミンニャンなんてどう?美肌効果があるらしいわよ」
「やっぱスイレンだろ。疲労に良く効くらしいって噂だぜ」
「ミュンレンの温泉が、色んな種類があって、町も賑やかだって聞いた事があるわ」
「ミョンレン?私もその噂なら聞いた事があるわ」
「俺も」
「なら、ミョンレンにする?」
「でも、ミョンレンは遠いですよ?3日はかかります」
歩きで片道3日と言う事は、往復で6日だ。
とても1週間の休暇中に行くような所ではない。
誰もがそう思っていた。
「じゃ、ミョンレンで決まりね!」
みんなは、なぜわざわざそんな遠い所まで行くと言うのか不思議だった。
疲れを癒しに行くのではなく、疲れに行く様なものではないかとさえ思ったのだ。
それでも初めての温泉旅行なので、みんなはどことなく嬉しそうだ。
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