ブバルディア 2019-05-18 22:32:54 ID:cf2b77bae |
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「…そうじゃなくて…【ジェイド】は
【ジェイク】が自分を守るために作った
第二の精神なんだ。それに、【ジェイク】と
【ジェイド】は記憶を共有してなくて…。
【ジェイド】のしたことは【ジェイク】には
何一つ分からないんだ」
リリィはまた目を伏せる。
痛ましい話に涙が滲んできた。
「……そ、そうですか。ジェイクさんはお疲れでしたか……。
たしかに、何か理由がなければ二人も存在しませんよね……。」
涙は堪えたものの、ついには顔を覆った。
顔を上げたらリリィがにこにこしていたので、つられて悲しげな表情もやわらぐ。
「たしかに、どちらかが欠けたら彼と思えないですね。でも、複雑な気持ちは隅に残るかも……。」
《…俺とジェイクは表裏一体。
表がジェイクで、裏が俺。それで良いんだよ》
【ジェイド】がぼそりと呟く。
ジェイドの言葉を聞き、目を伏せてこう言った。
「そんな、それでよろしいだなんて……。
たしかに……ジェイドさんは二番目にできた人格でしょうが、ジェイクさんもジェイドさんも、どちらも表だと思います。」
《…お優しいジェイクはそれでも許してくれる。
でも、それは俺が許せねぇんだ。
…ジェイクは、俺を作ってくれた。だから
俺は、ジェイクを守る。この身体に、傷一つ
だって付ける訳にゃいかねぇんだ》
【ジェイド】の瞳はどこか哀しげであった。
「ジェイドさんは誇り高いのですね……。
これ以上、何かを申してはいけないというものです。」
悲しくも勇ましい決意を語るジェイドに、切なげな顔をしながらこう言った。
「そのかわりに応援いたします。
その体に傷がついたら、ジェイクさんが起きたときに痛みを感じないように跡形なく治しますから、遠慮なく頼ってくださいね。」
ジェイドにひらひらと手を振り返したあと、不安げにリリィたちに声をかけた。
「あの、改めて質問したいのですが……、本当に悪の星を倒すお手伝いをしてくださるのですか?
私は……恥ずかしいですが、戦いを見たことすらありません。それでも、きっとひどい旅路になると予想します……。」
「大丈夫だよ。…血にまみれるのは、
僕たちで良い。君は、汚れちゃいけないんだ」
リリィはにこり、と微笑んだ後ぼそりと呟く。
《………ああ、心配するな…守ってやる》
「お二人に心から感謝いたします……!」
ほっとしたシルクだが、次第に声色が暗くなる。
「しかし、リリィさん、汚れちゃいけないだなんて……おっしゃらないでください。
参戦を頼んだ私にこそ責任があります。
剣を振るうことはできませんが、汚れるのは私です。」
「その……。…………出発はどういたしましょうか。それから、倒し方も決めたいですね。」
何かを言いかけたが、悪の星を倒す計画について話し合うことにした。
「…そうだね……ルイ!」
《…何のご用でしょうか》
「…今までありがとう。ルイは帰って良いよ」
《……承知しかねます》
執事はリリィの言葉に、首を横に振った。
《私はリリィ坊っちゃまの執事です。
リリィ坊っちゃまが危険に晒されれば
命を張って守り、支える。…それ以外に、
あの家での存在意義など私にはないのです》
執事の鉄仮面のような顔が、哀しげに歪む。
「…ルイ。…辛かったんだね」
リリィの瞳からは、大粒の涙が溢れる。
《…出発……この近くに、街がある。悪の星の
支配がかなり強い所。とりあえず、そこまで》
ジェイクはぼそぼそと呟く。
(ルイさんとリリィさん……なんだか弟くんとお兄ちゃんみたいね。少しそっとしておいたほうがいいかも。)
そう思っていると、ジェイクから返事をもらった。
「ジェイクさん、情報をありがとうございます。まずは隣街に参りましょうか、お二人が落ち着いたらね。」
「………ルイ、おいで」
リリィはその言葉を紡ぐ。
《承知いたしました、リリィ坊ちゃま》
ルイは鉄仮面にどこか嬉しそうな表情を
浮かべ、リリィの元へと歩み寄る。
《あーもー!落ち着いたじゃんか!
早く闘いに行こうぜー!誰か殺りたくて
しょうがねーんだよ!》
【ジェイド】は頭をボリボリと掻きむしる。
(あらまあ。本当に兄弟みたい。可愛らしいこと。)
微笑ましく思っていると、ジェイドから催促をうけた。
「え、殺り?!……は、はい。出発しましょうか、ジェイドさん。」
リリィとルイのほうを向いて、複雑な感情を滲ませながらこう言った。
「リリィさん、ルイさん、先程ジェイクさんから提案があったのです。まずは隣街に参りませんか。」
「うん、行こうか」
リリィはにこりと微笑む。
《…承知いたしました》
《レッツゴー!》
ルイは静かに、【ジェイド】は元気に。
二人は、返事をした。
(他の方々は隣街からお願いします)
着いた隣街には人がたくさん歩いているが、
色あせた無地の服を着ている。
商店街はまだ寂れていないが、
売られている野菜や家畜は良い品質と言えない。
「……ここは商業で栄えた街だと習いました。
王都とは大きな河川で繋がっていて、
各地から集まる商品を船に乗せて王都に運んでいたようです……。」
思わず自らの服装を見てしまった。
シルクは学校に支給された、
腰をしめる白いワンピースを着ている。
しかし、街の人々よりいくらかきれいだ。
「………酷いね」
リリィの服のきめ細かい繊維が、
光を反射してきらきらと光る。
《……つまんなさそーな街……ぜぇんぶ、
あいつのせいだろ?》
「その通りです、ジェイドさん。
許したくありませんし、許してはなりませんね。」
目を伏せて眉間にしわを寄せながら言った。
商店街を過ぎて歩いていると、宿屋を見つけた。
「まあ。石造りの宿屋さんです。
きっとお腹がすいたでしょうし、ここで休みませんか。
それからこの街にいる幹部を探しましょう。」
『なんだか皆さん疲れてるみたいですね。早めに食事をとってグッスリおやすみになって。』
受付で宿泊手続きを済ませたところ、
親切な宿屋の女主人が早めに食事を出してくれることになった。
いまシルクたちがいるのは宿屋内の小さな食堂である。
道中では保存食ばかりだったので、ついウキウキしてしまう。
「うふふ。どんなお料理を作ってくださるのかしら。」
「あら、ジェイクさんすごい。
機会があったら、ぜひいただいてみたいです。
名家の方々はお肉をよく召しあがると聞きましたが、ジェイクさんの得意料理は肉料理でしょうか。」
ひそひそニコニコと質問をしたところで、どこからか魚の香りがただよってきた。
「ふふ。失念してしまいましたか?思い出したら聞かせてくださいね。」
そう言ったところで、女主人が木製の食器と料理を運んできた。
『お待たせしましたね。久しぶりのお客さんですから、はりきってみたんですよ。どうぞ召し上がって!』
運ばれてきたのはライ麦パン、野菜スープ、焼きニシン、エールで、シルクは思わず声を大きくしてしまった。
「わあ、こんなご馳走は久しぶりです!ありがとうございます!」
『では、ごゆっくり過ごしてくださいね。4部屋の準備を進めてきます。』
女主人は朗らかに声をかけて去っていった。
シルクたちは本当に久しぶりの客のようで、食堂は貸切も同然だった。
「では、冷める前にいただきましょうか。
ん!おいしい。このパン、果物が練ってありますよ。」
パンをちぎって一口食べるとブドウの味がしたので、飲み込むとみんなに話しかけてしまった。
「……えっと、お昼ごはんが終わったら、誰かの部屋に集まってお話をしましょうか。」
「ありがとうございます。では、ジェイドさんのお部屋に集合しましょうか。」
にっこり返事をすると、おいしい食事を楽しんだ。
しばらく経って、ジェイドの部屋をたずねたシルクたちは話し合いを始めた。
「まずは、この商業都市のどこに支配者がいるかを予測したいですね。
王都と繋がる河川を管理する家……かしら……。」
「それなら…心当たりがあるよ。
僕の幼馴染なんだ」
リリィはポンと手を打つ。
《……リリィは、顔馴染みが多いからな》
「まあ。お友達が多いのですね。いい情報をありがとうございます。」
ぱあっと笑顔を見せたが、胸元で手を握りしめて、言いにくそうに発言した。
「……あの、その、王都とやり取りをするお家は調べておきたいのですが……。」
「リリィさんのお友達の家を疑うことになってしまうから、なんだか申し訳なくて……。」
気遣うように聞かれて、つい目を逸らしてしまった。
「…………特別なかたのご家族なんですから…きっと、無事でいらっしゃるでしょう。
……あの、幹部探しはどうしましょうか。早く倒したら、そのお友達も喜ばれるでしょうね。」
「そうだね…ジェイド、頼める?」
《りょーかーい!》
ジェイドはハンティングナイフを片手に
宿屋を飛び出していく。
「ジェイドさん、くれぐれもお気をつけて!!」
ジェイドを見送った後、シルクは両手を頬へ持っていき、苦笑した。
「始めからジェイドさんに頼んだらよかったみたいですね。
場所や人物を確認したら、そのときこそ倒しにまいりましょう。」
「待ってて、もう少しで…」
《リリィ!見つけたからさ、殺っていい!?》
ジェイドの喜びに満ちた声が響く。
「待って、今行くから」
「ええっ?ジェイドさんたら早い!すごい!」
ジェイドの帰りに目を見開いた後、
すぐにワンピースの裾を握りしめて入口へ向かった。
「私もまいります。治癒ならお任せください!」
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