〖 非募集 〗砂糖と昼寝。

…なぁに言ってんの。晴は俺の可愛い彼女クンでしょ？(差し出した手は躊躇いの色が見られぬ相手によって柔らかく握られれば、緩く口角上げて。不満気に呟かれた相手の言葉が耳に入れば小さく首を傾げ。漸く足を運び出したのにつられるように再び歩みを進め、出入り口付近へと近付けば振り返り対応をしてくれた店員へと笑を向け小さく会釈を)

彼女クン…。…いや、彼氏だって。(一瞬相手の言葉に納得してしまいかけるも、復唱すると湧き上がる違和感に苦々しく表情を歪め。譲る訳にはいかないとばかりに食い下がったが、その時相手が会釈していた方を見遣ると先程ほんの少し顔を合わせた店員がにこやかに笑みながら立っているのが見え。そこで彼の目の前で平然と手を繋いでしまっている事に僅かに頬を染めるが、相手に倣い小さく頭を下げ)

えー、晴は彼氏って言うより彼女って方がしっくりくんだけどな。(苦い表情を浮かべる相手を視界の隅に捉えれば、けたりと小さく声を上げて。此方を見ている店員の視線に気が付いたのであろうか、小さく会釈をする頬はほんの少し赤く染まっているような気がする。片手繋いだまま、扉を開ければ先に出るように促し)…足元気をつけてね。

(笑われてしまえばむすっと唇を尖らせるものの、相手に当て嵌まる言葉が少なくとも“彼女”ではないという事を自分でも納得してしまっているために、それ以上は何も言う事無く口を噤み。先導して扉を開けてもらったばかりか足元への注意を促され、あまりに紳士的な立ち振る舞いに先程から胸が高鳴ったままなのを実感しつつ、ついに女性的な扱いへの反発をやめると諦めを含んだ声で礼を呟き)……ん、ありがと…。

…どういたしまして？(普段通りの声色、とは言えないものの素直に礼を述べる相手の様子に柔らかく表情崩して。店から出ればジリジリと日差しが遠慮なく照りつけてくる。過ごし易かった店内と比べれば多少の暑さは感じるものの、時折吹く風が程良くその熱を吹き飛ばしてくれる。さり気無く車道側へと回ればそのまま家までの道を辿るはずで)

…なんか今日、いつもより格好良い。(相手の笑顔にすっかり毒気を抜かれてしまい、気付けば車道側に居る相手の気遣いにも文句を口にする事は無く。ただ何となくもやもやとした不満は残り、微妙に眉間に皺を寄せてぽつりと呟き)

最近忙しさに託けて晴の事全然可愛がってあげられなかったからさ、格好良いとこ見せて惚れ直させなきゃじゃん。(不平を垂れることは無くなったものの未だに眉根に残る皺を見ればくすり、と小さく笑零し。帰路の途中、周囲に誰もいないとは言え出先、相手の唇にキス落としたいと考えるものの流石にそれは憚れる。悩んだ末に然程位置の変わらない耳辺りに髪の上からキスを)

…早く家帰ろ。(相手の言葉に胸元を擽るような熱は募るばかりで、そんな時耳元に柔らかく触れた感触に相手を見遣り。つい物足りなさを感じずには居られず繋いだ手を僅かに引き寄せるものの、寸でのところで思い留まると小さく息を吐き。相手から視線を外したかと思えばぽつりと呟き、一歩先を歩き始め)

…ふは、そうだな。(微かに相手の方へと引き寄せられるような力がかかるも、直ぐにそれは無くなり。視線を外されればやり過ぎたか、と目尻下げ反省の色を滲ませ。しかし、小さく聞こえてきた相手の声に普段通りの表情を戻せば残りの帰路は小走り気味に足を運ばせようか)ほら晴、早く早く。

そんな焦んなくて良いって。(帰りを急かしたのは自分なのだが、小走りの相手に手を引かれると思わず破顔し。それでも相手と同じく小走りに足を進め、漸く家に着くと僅かに上がった息を整えながら扉を開き)…あー、疲れた…。ただーいま。

(手を引く形で家まで帰ることになるのかと思っていたのだが、己が歩みを早めた後すぐに相手も小走りになり。家へと到着する頃には微かに息が上がり、口を小さく開いて呼吸を整え。扉が開かれれば相手の後に身を滑り込ませつつ)すげぇ久々に走った気がするわ…。たーだいま。

綾、ちょっとごめん。レス後で返させて。先に報告しときたい事があってさ。

実は少し前から、俺が前好きだった人と少しやり取りしてた。半年ぶりくらいに急に戻って来て、俺が偶然それに気付いちまって。で、まぁ色々話はしたんだけど…ちゃんと別れてきた。彼奴も色んな事腹割って話してくれて、前と変わらない良い奴だったよ。それは安心した。俺に今大事な人が居るって事も伝えたら分かってくれた。…泣かないで、別れられたよ。綾が居てくれたお陰。
事後報告みたいになってごめんな。

ん、わかった。

そっか、良かった。…正直言うと一言言って欲しかったけど、そんな事言われたら意地でも引き止めてただろうし結果的には良かったのかな。
と言うか、晴はホントに俺で良かったの？晴が俺の事好きでいてくれてるのは分かってんだけど、それでもやっぱソイツの方が良いんじゃないか、とか不安になる。…なんか女々しいな、俺。ごめんな。晴の事疑ってる訳じゃ無いのは分かって。

言ったら綾の事不安にさせるかと思った…けど、今言っても不安になるよな。ごめん…俺の考えが足りなかった。
ん、良かったよ。綾で良かった。ていうより、綾じゃなきゃダメだったよ、俺。今すげえ幸せだしさ。…全然不安になんねえんだ。辛かった事も、綾に会ったから良い思い出になったし。あの時の事があって、今綾と一緒に居られてんだなって思える。俺は何一つ後悔してない。だから、綾もあんま不安拗らせねえで。
女々しくねえよ。それに、綾にも俺が必要なんだなあって思える。疑われてるとも全然思ってねえから。綾が不安になったら、俺が無くす。これからも、そうさせてほしい。

不安にはなったけど、晴が前好きだったヤツと話してたっての知らない方が嫌だから。言ってくれてありがとうな。
ふは、可愛い事言ってくれんじゃん。ありがとう、俺も晴と出会ってからの事に後悔してないし晴に出会えて心の底から良かったって思ってる。実を言うと、チャット形式のとこでこんな続くのも、恋人が出来てこんな不安になんのも、こんな誰かを必要とすんのも初めての事だから自分でもちょっと戸惑ってる。そこは嘘でも、もう不安にさせねぇって言うとこじゃねぇのかよ…。

晴も言いにくい事言ってくれたし、俺も隠し事すんの嫌だから俺からの報告も聞いて。

俺が前に好きだったヤツとは、掲示板形式のとこじゃなくてメールでやり取りしててさ。アイツとの思い出が入ってるアドレス開くのが嫌で昨日まで触ってなかったんだけど、いつまでも思い出にしがみ付いてんの辞めようって思って開いたらアイツからメール来てて。気付かないフリしてようか迷ってまだ返事して無かったんだけど、俺もちゃんとアイツと話し付けてこようと思う。晴と違って半年空いてるとかそんなんじゃ無いから、最低だって思われるかも知んないけど、今の俺には晴が居るからってちゃんと言ってくる。

…そっか。良かった。綾怒るんじゃねえかなって…ちょっと心配してた。
可愛い事なんか言ってねえよ、俺は真面目な話をしたんですー。…ふは、良かった。結構たくさん初めてがあって。…ごめん、嘘は言わない。できれば不安にはさせたくねえけど、いつどんな事で綾が不安になるのか、俺だって全部分かってるわけじゃねえし…今回みたいに、考えて決めた事でも綾を不安にさせるかもしれねえからさ。だからせめて、綾の不安は無くしてやりたい。…そういう考え方じゃだめ？

…ん、分かった。それが綾のため、なんだよな。

そんな事で怒んねぇよ。だって晴は俺の事思って言ってくれたんだろ？
真面目な話でも晴は可愛いって事なんだから素直に受け取れよー。晴が思ってるより俺の中で晴が初めてな事多いんだからな。ふは、真面目に考えすぎ。晴の口から「大丈夫だ」とか「綾が一番」とか聞けたら不安とか吹き飛んでくチョロいヤツなんだから、そんな深く考えなくていーの。俺も大分考え方浅いんだから、晴にだけそんな深く考えさせてる俺にムカつく。

俺だけの為、って言うよりかは晴とアイツの為でもある、かな。
ごめんな、やっぱ嫌だよな。でも今の俺には晴が一番だし、アイツんとこ戻るつもりもねぇし。それに浮気なんていう器用な真似もできねぇから。不安にさせちまうかも知んねぇけどちゃんと話付いたら晴にも報告するから。

そうなんだけど…後から言うのも嫌だよなあって言ってから気付いたからさ。
どういう意味だよー…そんなん言うの綾だけだぞ。そうだなあ、すげえ嬉しい。…ちょっとそれはチョロすぎて俺心配になる…。それに、俺が綾の事たくさん考えんのなんて当たり前じゃん？それをしなくて良いって言われたって結構難しい…。

…嫌じゃない、俺の綾の事信じてるし…。綾がそう決めたんだったら、気い済むまで話したら良い、と思う…。…ん、待ってる。

嫌だったけど、晴がソイツの事じゃなくて俺の事選んでくれた、って事実だけで十分だから。
どんな晴も可愛いって意味。ふは、俺だけで十分だよ。これから先誰にも晴の可愛いとこ見せねぇつもりなんだから。俺がそんなにチョロいのは晴限定だから。考えるなって訳じゃ無くて、これから先不安にさせる事があったら、とか今考えても分んねぇじゃん。だから、見えない先の事考えるより今の俺の事を見てて欲しいし、俺が見てるのも”未来”の晴じゃなくて”今”の晴なんだから。

そーそー、俺は晴のなんだから安心して。話付かねぇみたいだったらアドレスごと思い出全部消しても良いか、とか考えるくらいにはアイツに未練なんて無いし。

…ん、そっか。良かった。
…もー、そんなん言ったら俺が何でも許すと思ってんだろー…。俺にはそんなチョロいんだあ。へぇー…綾可愛い。……分かった。ごめん。今の綾だけ見とく…。

…それは…できればやんないで、欲しい…。