〖 非募集 〗砂糖と昼寝。

(しゃがみ込んでいく相手の姿を背中に、店員の元へと歩を進め。落ち着いた雰囲気に合った静かな店内、あまり大きな声を出せば考えている事が相手にもバレてしまうか、と少々小声でする相談は指輪に文字を入れられるか、という事。可能だ、という返答を受ければ思わず頬を緩め。先程相手が指さしたものの特徴と掘る文字を伝えた後に相手の元へと戻り。そこで始めて相手がしゃがみ込んでいる事を見れば眉尻下げた笑みを浮かべつつ)…どしたの、晴。

えっ、あっ、いや、何でもないです…。(一刻も早く熱を冷まそうと奮闘していた時頭上から相手の声が聞こえると、パッと顔を上げぎこちない笑みを浮かべながら立ち上がり。しかしてっきり指輪を見せてもらいにでも行ったのかと思った相手の傍に店員の姿が無いのを見ると、目を瞬きながら首を傾げ)…あれ、何の話してきたの？

ん、なら良いんだけど。(ぎこちない笑みと出てきた敬語口調には気が付かない振りをして。ただし、納得のいっていない返答なのには変わりなく、少し首を傾げてみて。次いで投げかけられた質問には自身の唇の前へとピンと立てた人差し指を当て悪戯を思いついた子のような笑みを浮かべ)んー？ナーイショ。

…此処では教えなーい。(相手が自分の返事に納得していないらしい事は十分すぎる程伝わって来て、視線を泳がせた後に暗に後程教える事を小声で伝え。相手の仕草にまたも鼓動が高鳴るのを感じながらも隠された秘密の方が気になってしまい、不服気に眉間に皺を寄せると唇を尖らせて)何だよー、気になる。

ふは、じゃあ家帰ったら教えてな。(小声でそっと伝えられた事を素直に受け取るならば、家に帰れば教えてくれるという事であろうか。無論、そうでなくとも家に帰った後には多少無理矢理にでも聞き出そうと考えつつ。皺のよった眉間を人差し指でツン、とつつけば相手の反応を楽しみに)んな顔しなくてもすぐ分かるからさ。

…ん。(頷きはするもののこんな事を説明しなければならないのかと思うと途端に気恥ずかしさが押し寄せ、帰宅した頃には忘れてくれている事を願い。すぐに分かる事とは一体何なのかを考えてみても見当さえつかず、暫し考え込むものの程無くして諦めたように一つ息を吐き。ふと指輪はどうなったのだろうかと首を傾げて)……そういえば指輪…どうする事になった？

(嫌がること無く頷いてくれる相手に少し吃驚しつつも口角を少し上げて笑みを作るだけに留め。暫く考えを巡らせていたのであろうが、程なくしてそれを諦めるかのように息を吐く相手。その後思い出したかのように指輪の事を聞かれれば、先程話を付けた店員の姿を横目に見て。未だ動いている様子を見れば準備は整っていないのであろうか。視線を斜め上へと持っていき、はぐらかすにはどうすれば良いかと思考を巡らせつつ)んー…。さっき晴が言ってたヤツが良いかなって俺も思ってる。

だよなぁ！じゃあ見せてもらお。(指輪のデザインに対し相手の意見を聞いていなかったために、賛同の言葉が返ってくると嬉々として頷き。嬉しそうに笑みながら相手の手を掴むと、近くの店員にそれを伝えようと何処か弾んだ足取りで歩き出し)

え、あ、ちょっと待って。(腕を掴み嬉々とした様子で歩み始める相手に驚きの表情を隠す事が出来ず発する声は思っていたよりも少し大きいものとなり。幸いにも近くに居た店員は先程声を掛け話を付けた人らしく。安心したように腕を掴んでいた相手の手を握れば隣に並び。例の指輪が並ぶガラスケースの方指差しつつその店員に再び声を掛け)…すいません、あの指輪見せてもらっても良いですか？

っ、…え、どうした？(突然背後から聞こえた店内に居るにしては大きな制止の声にびくっと肩を揺らすと、反射的に足を止めつつ驚いたように目を見開いて振り返り。目を瞬かせながら相手を見るも既に視線は近くに居た店員に向いており、脳内に疑問符を浮かべながら其方を見るもふと手を握られると再び驚いて動きを止め。二人で指輪を買いに来た理由が応対してくれた店員に伝わってしまう事は分かっていたが、こんなにも堂々と手を繋ぐ事になるとは想定外で、謎の緊張も相俟っておろおろと視線を彷徨わせており)

(繋いでいる手を見て一瞬驚きの表情を浮かべる店員もこういう事は儘あるのだろうか、すぐににこやかな笑みへと戻れば「それじゃあ取ってきます」と言ってバックヤードの方へと姿を消し。先程声をかけてからそんなに時間も経っていない為にまだ出来上がっていないだろう、という予想は見事に裏切られたようで。そう言えば相手が気に入ったのであろうデザインのもので頼んだが許可を得ていない事に気付き、眉尻下げつつ視線を相手の方へと戻せば、ちろりと舌をのぞかせて)…ごめんな晴、勝手に頼んじゃった。

…頼んだ…って、さっきの？(店員から向けられる視線に気付くと、自分でも一体何をこんなにも恥ずかしがっているのか分からないまま頬を赤く染め。しかしすぐに平素の様子で振る舞ってくれた事に救われ、店員が何処かへ歩いて行ったのを見ると此方からも緩く手を握り。しかし二人の間で交わされた言葉の意味はすぐには理解できず、不思議そうに店員の背を見守っていたところ横から掛けられた言葉に目を見開いて首を傾げ)

そ、しかも晴が喜んでくれねぇと結構ヘコむ仕込みもしてもらったからさ。(流石に先程の会話と相手に投げ掛けた言葉で気付くようで。にへら、とした笑み浮かべ柔らかく握り返してくれた手へと指絡め件の店員が戻ってくるのを待って。暫くすれば指輪の入ったケースを手に此方へと向かって来る人影。相手に見られないように入れてもらった文字の確認をすれば満足気に軽く頷き)…ん、大丈夫です。

仕込み？指輪に？(相手の口から飛び出す言葉には先程から疑問ばかりで、あまり状況を把握できていないまま続けられる言葉に更に問いを重ね。指輪にできる仕込みというのが一向に分からず、きょとんとして首を傾げている間に戻って来た店員の手には恐らく指輪が入っているのであろうケースがあり。何はともあれどんな物なのかは気になり身を乗り出すも、相手に阻まれてしまうと焦れったそうに眉間に皺を寄せながら相手の服の袖を引っ張り)…なぁ、俺も見たいー。

そ、仕込み。(きょとんとした表情を浮かべる相手の頭をぽん、と軽く撫で。背後で動く相手をある程度カバーしつつ確認を終えればそのまま支払いに移ろうかと。然し、くいと着ている服の裾を引っ張る相手に気付けば、額に軽くキス落とし。視線合わせれば言い聞かせるような口調で)だーめ、晴が見るのは家帰ってからな。

…お、まえ、…ちょっとは場所考えろよ…。(明らかに意思を持って視線を阻まれているのを感じ不服気に相手を見るも、ふと額に唇の感触があると一気に頬が熱くなってしまい。告げられた言葉にも文句はあるのだが何一つ出て来る事は無く、額に手を当てながら向けられているかも分からない周囲の視線から逃れるように相手の背後へ移動し。相手の背に思いの外強く額をぶつけながらぽつりと呟いて)

場所考えた上だし、皆周りの事なんて気にしてないと思うけどな。(トンと、背中から思いの外強く感じる相手の額をぶつけたのであろう感覚にふはりと吹き出して。辺り見渡せばガラスケースの中を眺めていたり談笑していたりと思い思いの時間を楽しみ、周囲の様子には注意を払っていないように思え。支払いを終えれば代わりに渡された小さな紙袋を片手に背後を向き直り相手へと笑見せて)…ほら、晴、帰ろう。

そ、だけど…。(確かに相手の言う事は一理あるのであろうが、何処と無く腑に落ちない声色でぼそぼそと答え。そうしているうちにいつの間に支払いを済ませたのか、未だ指輪も見ていないままに帰宅を促されるとその場に踏み止まり)…帰るって、俺何も払ってねぇんだけど…？

ココは彼氏に花持たせてよ。(出入口の方へと数歩、歩みを進めるものの相手が立ち止まっている事に気づけば目尻を下げ困ったような笑みを浮かべ。空いてる方の手を相手へと差し出し、握る事に成功したならそのまま指絡めるつもりで)…ほら、帰んないの？

……俺も彼氏なんですけどー。(相手の表情を見れば困らせている事は分かるのだが、時々目にするそんな表情に惹かれてしまうのも確かで。差し出された手を然程躊躇う事無く取ると、指を絡めて緩く握り。相手の言葉に不服気に呟くものの漸く歩き出し)