夜が明けるその前に　（〆.）

どういたしまして。どうって事ないぞ、そんなに汚れてなかったし。

(コートを受け取り着る相手の姿を眺めながらゆるりと首を振って。コートを着ると何処にでもいる優しげな男性からどこか張りつめた雰囲気になる変化があり、思わず凄いなと考えてしまった。コートを着ていない姿でも、コートを来ている姿でも魅力的に見えてしまい恋は盲目、との言葉を思い出して。そこで、この後の予定はどうするのかが気になって。自分はこの後服装を整えたら拠点へ行こうと考えていたが、もし相手も同じなら一緒に行っても問題は無いなと思いつつ帰宅するなら借りていた服を返そうと考えて、洗濯し畳んで置いた服を入れた紙袋を取り出しておき)

クラウスはこの後どうするんだ？拠点に行くのか、家に帰るか？

…僕は一旦家に戻ろうかな、もう少し休んでから拠点に行く事にする。

（ハンターであると証明する事で自分を隠してしまえるこのコートを羽織って居ないと、直ぐに吸血鬼だと誰かに嗅ぎつけられてしまいそうで時に不安になるものの、相手の前では何の躊躇もなくコートを手放すことが出来ていた。コートに袖を通すといつもの自分に戻ったような気がして、ほんの数刻前の穏やかな時間が既に若干恋しくもあった。相手に今後の動向を尋ねられると、家に帰る事を伝えて。拠点に足を踏み入れることは相変わらず避けていたし、今は明るい陽射しを避け路地裏の日陰を通って自分の家に戻りたい気持ちもあった。相手とはまたBarで会うだろうと思いつつ。）

そうか･･･じゃあ次会うのはあのBarで、だな。次会う時こそお互い怪我をしてない状態でゆっくり飲みたいな。

(相手は一旦帰宅してから拠点に行くということでここでお別れか･･･と少し寂しく思ってしまい。日時こそ約束はしていないが、次会う時はまたあのBarであることを確信してそう告げる。短ければ今夜にでも会えるだろうと思っているのでその時こそ互いに無傷でゆったり楽しんで飲めるようにと希望を口に出して。最近はお互い怪我が多く満足に飲めることなんぞ出来なかったため、そろそろ隣り合わせに座って好きなことなどを話しながらカクテルを飲みたかった。一旦家に帰るのならばと借りた服を入れた紙袋を相手に差し出し、服を借りたことへのお礼と帰り道を気をつけて行く旨を伝え、後ろ姿を見送って)

帰るなら借りてた服を返すぞ。助かったよ、ありがとう。･･･帰り道気をつけろよ。

そうだね、近々またBarで会おう。その時は僕が奢るよ。ありがとう、それじゃあ。

（相手の言葉に頷きつつ、詳細な約束を取り決めなくてもまたすぐに会えるだろう事が嬉しくて微笑んで。昨日今日の相手の献身的な手助けを思い返せば、次に一緒に飲む時にはお礼も兼ねて自分が奢ると伝えて。紙袋を受け取り片手をあげて応えると、扉を開けて昼間の街へ。この時間に外に出る事は滅多になく、見送ってくれている相手から見えないであろう場所まで来た所で早々に路地裏の日陰へと移動して。太陽の光は眩しくて好きではないし、肌を灼くような熱さをじわじわと感じる事がある。やはり夜のひんやりとした空気が自分には合っていると思いつつ、路地裏の日陰を通って家へと戻っていき。）

あぁ、またな。

(明るい日の光の下で別れるのは初めてで新鮮な気分になる。相手の背中が見えなくなるまで玄関で見送ってからそっと扉を閉じるとシンクに残る洗い物を綺麗にし、身支度を整えてから自分も家を出て。賑やかな昼の街で食べ物を買って拠点へ向かうと怪我の具合を聞かれつつ今日の任務について述べられ、怪我の方は特に問題はなくなったので普通に任務に行けると答え。
夜は昼に告げられた任務を行うべく言われた方面へ行きパトロールをしながら吸血鬼を狩っていく。少し日空いたことで自分の中で銃を扱う時に違和感があったが直ぐに慣れ、怪我もなく任務を終えることが出来て。任務が終えると昼に奢ると言っていた相手がいるであろうBarに赴いて)

（昨晩の狩りでは、思いがけない襲撃に遭ったせいで満足な量の血を得ることは出来ていなかったが、今晩は狩りをする気も起きず、日が暮れるまでカーテンを閉め切った家に篭っていて。相手と過ごした時間が懐かしく幸せに思い出されてしまい、柄にも無くいつもより早めに家を出る自分に恥ずかしくなる。Barへと向かいマスターと挨拶を交わすといつもの席に腰を下ろし、カクテルを頼むのと同時に、些か浮き足立ったような自分の気持ちを収めるためにも早々に煙草に火をつけて相手を待ち。
ドアベルの音に視線を向ければ相手の姿があり、今朝会ったばかりだと言うのに、ひさしぶりにこの場所で再会できた事に嬉しさが募る。隣の椅子を引いてやりつつ、挨拶を。）

…良かった、ようやく此処で会えたね。お疲れ様。

お疲れ様。･･･お互い怪我なくて良かったな。


(Barの中に入ればいつもの場所に座ってる相手の姿が見え、嬉しいと思う気持ちが溢れ出て笑みが浮かぶ。相手からも喜んでいるだろう空気が感じ取れれば余計に嬉しくなり、椅子が引かれると"ありがとう"と言いながら座り。マスターにギムレットハイボールを頼むと挨拶を交し、無傷で出会いを迎えられたことを伝える。最近は傷だらけでの出会いだったので、比較的穏やかな夜を迎えられそうだとご機嫌な様子でいて)

もう怪我は懲り懲りだよね、

（2人して怪我をしてはお互いに助けられるという状況が続き、少し笑いながら暫くは平穏に過ごしたいと本音を告げて。2人並んでこのカウンターで飲むカクテルはやはり美味しいと、久しぶりに頼んだ甘いカシスベースのカクテルを口にしつつ考えて。煙草の煙を吐き出しつつ、いつまで相手とこうしていられるだろうと考えて、ふと視線を向ける。機嫌の良さそうな相手の様子を見て、今考えても仕方のない事かと思い直し、思わず表情を緩めつつ煙草の灰を灰皿に軽く落として。）

だなぁ。そういえばクラウスの姓･･･ファミリーネームってなんだ？聞いたこと無かった気がして･･･。

(受け取ったカクテルを飲みながらくすり、と笑って同意して。相手が漂わせる紫煙の匂いも今の空間を楽しませる一因となり、グラスを傾けるスピードが普段より少し早くなってしまう。ふとそこで相手のファミリーネームが気になった。名前を聞いた時にファミリーネームは告げられなかったことを思い出し問いかけてみる。もしファミリーネームが無い家柄だったら申し訳ないな、と思いつつ相手に合うファミリーネームはどんなものなのだろうか、と想像してみては相手から紡がれる言葉を楽しみに待って)

…ああ、そういえば言ってなかったっけ。
バートンだよ、クラウス・バートン。

（ファミリーネームを問う相手の言葉に、初めて会ったあの日を思い返す。長く付き合う事のない、Barでの一時の関係であれば、フルネームを伝えて身元がバレる危険を犯す必要はないと考えたはず。今なら、相手にならフルネームを伝えても良いだろうと思えば、名前を告げて。相手になら、というこうした小さな緩みがいずれ自分の身を破滅させるかもしれないとも考えていたが、それでも良いとさえ思えた。名前を口にするのは久々の事、いつしか自分の物として吐いている名前の裏には、死んでいった一人のハンターがいる事がふと思い出されて、また口を付けた煙草の煙を深く吐き出して。）

クラウス・バートンか･･･うん、似合ってる。

(相手のファミリーネームを聞き、口に出してみると相手の風貌とどこかしっくりくる名前に納得がいき、数回頷く。やっと相手のフルネームが聞けて、自分に心を許してくれる気がして余計に嬉しくなった。そこで初めて会った日のことを思い出してみた。まだ1ヶ月と少ししか経っていないのに、しかもその間合わない期間もあったのにもっと長く会っているような感覚があり、自分たちはどれだけ仲が良いのだろうと面白くもなってきてしまい、2杯目のカクテルを頼んで。どうやらいつもよりアルコールの回りが早いようで、頭の中がほわほわとした空気に飲まれて始めて来てしまった。相手とこうして飲める喜びと摂取しているアルコールが頭の中で混ざり合い酔いやすくなっているようで、相手の顔を見ながらくすくすと笑って)

…そう？ありがとう、っていうのも可笑しいか。

（相手の言葉に首を傾げつつ、似合っていると言われた事に礼を述べたもののそれも可笑しな話だと思い笑って。他愛のないことでこうして笑いながら酒を飲み交わせる夜が、いつの間にか幸せな時間になっている。クスクスと楽しそうに笑う相手に視線を向けると、何が可笑しいのかと尋ねつつ自分も釣られて笑ってしまい。冗談めかして聞きながら相手の方に肘を寄せてじっと見つめて。）

何が可笑しいの？僕の顔、何か付いてる？

んー？惚れ惚れするくらい綺麗な顔のパーツがついてるだけだな。

(軽く首を傾げて返答する。鮮やかな碧色の瞳、長いまつ毛などパッと目を引く作り物のような綺麗な顔のパーツがバランスよく配置されてて見ていて飽きない。素面の時にじっと顔を見つめてしまうと顔立ちの良さに呆れつつ心の奥底には綺麗すぎるがゆえの苛立ちがほんの少し湧いてしまうが、思考が緩くなっていると出会った時無意識に一目惚れしていた時のことを思い出してずっと見続けて痛くなってしまう。注文したギムレットを受け取ると足を組み相手の顔を肴にしながらグラスに口をつけて飲み)

なにそれ、揶揄ってるでしょ。

（此方に緩い視線を向けたままグラスに口を付ける相手の瞳を見つめ返しつつ、冗談めかした言い回しに笑いながら返事をする。相手がその気ならとちょっとした悪戯心が働き、頬杖をつき此方に向けられている相手の顔に不意に顔を近づけ、額に触れるだけのキスを落として。相手が避ける間も無く顔を離すと笑みを浮かべる。見惚れる、と言うくらいならこのBarでも稀に見かける男を引き連れた美しい女性のように、こんな事をしても許されるだろうか。ぼんやりしていると隙を突かれると冗談めかして楽しそうにクスクスと笑いながら、此方もカクテルに口を付けて。）

──あんまり見惚れてると危ないよ、

(ゆったりとカクテルを口にしていれば相手の顔が近づいてきてなんだろうと思うまもなく額に柔い感覚があり、ふわりと煙草の匂いが鼻を掠めていく。一体彼は何をしたのだろうか。額にキスをされたことを緩くなった思考で考えれば呆然としたまま相手の想像しなかった行動に目をぱちくりと丸くさせ、驚いた感情をそのまま口に出してからガクリと頭を下げて手玉に取られたことを自覚して。)

･･････びっくりした･･･。
しかも1本取られた･･･。

…ふふ、テオがぼんやりしてるから。

（目をぱちくりさせて、一瞬思考が追いついていない様子で此方を見つめている相手の暗いブルーの瞳と視線を重ねながら、可笑しそうに笑う。少しの間を置いて自分の行動を理解するのと同時に、手玉に取られたと項垂れる様子の相手を見て悪戯な笑みを浮かべ揶揄うような口調でそう言いながら、自分も少しアルコールの強いカクテルで酔ってしまいたくてロブロイを注文して。唇に一瞬だけ触れた彼の温もりがまだ残っているような気がしていた。）

･･･そんなぼんやりしてたか？うわ、恥ずかし･･･。

(片手で額を押え小さく唸りながら、相手に隙だらけの姿を見られ、突かれたことを恥ずかしそうに呟く。初めてここまで緩んだ姿を見せただろうという羞恥心だけでなく、相手からのキスで頬だけでなく耳まで赤くするとその熱を冷ますようにグラスに残ったカクテルを飲み干し手で顔を仰いで。自分も仕返ししてやろうかと、相手の隙を伺いながらマティーニを頼み)

久しぶりだから、きっと酔いが回ってるんだ。

（耳まで赤くしている相手を見てクスリと笑いながら、Barで2人して飲むのも久しぶりの事、その上ここ最近任務での怪我などもあり疲れているせいで酔いの回りが早いせいだろうと言って。頬を赤らめて酔っている相手の姿を見る機会もそう多いものではないため、こんな日も楽しいものだと思いながらカクテルグラスの上に添えられたチェリーを口にしつつ少量のカクテルを口に含むと、ゆっくりと流れる時間を堪能して。）

あー･･･それもあるかもな･･･。

(注文したマティーニを受け取り1口飲むと、久しぶりに飲んで酔いが回りやすくなりぼんやりしているのだと言われ最近の状況を思い出して同意する。だがそれだけではないだろうと思えば、手を伸ばして相手の耳を隠している髪をかきあげると、形のいい耳を露わにして。店内の照明を受けてキラリと光る赤い石のピアスにふっ、と微笑み。また、きょとんとする表情を眺めると相手といることが楽しいことも1番の要因であることを伝えて)

でも、やっぱりクラウスといるのが楽しいからぼんやりしたのかもな。

（不意に相手の手が伸びてきて、優しい手付きで髪を耳に掛けられると驚いて相手と視線を重ねて。温かい体温が肌に触れ、普段は髪で隠れている耳元に風を感じる。満月の夜、自分の瞳がこの石のように紅く染まる事を彼は知らない。それでも、優しい目で此方を見つめる相手に自分といる時間が心地よいと言われれば思わず表情を綻ばせて。照れているのを知られたくなくて、いつものように冗談めかした返事を返しつつも僅かに耳元を赤く染めていて。）

──…僕の事、口説こうとしてる？