車掌 2020-02-25 21:27:29 |
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「…アンレスタ…。」
若い女性にしては良い暮らしと思わせるマンションの一室、男から託されたカンテラをソファに寝転びながらぼんやりと眺めながら口にするのは何度でも読んでも飽き足らない男の名前。もう二度と会えないことも、名前を呼んだとしても無意味だということは重々理解している、だが…。
「…本当。大馬鹿者で嘘つき、なんだから…。」
ソファのクッションへと顔を埋めながら憎まれ口を叩く、片時も離してほしくないとそう言ったのに、男の酷な選択の結果、今己は男が居ない本来の世界で生きている。胸にぽっかりとあいた穴を残したままで、男の不器用な優しさから下した決断だからこそ、己も寂しくて苦しくて辛い気持ちを懸命に飲み込みこんだ。男と別れるとき己はちゃんと笑えていただろうか、疑問がわいたとしてもそれを問いかけて答えてくれる主はいない。ふと、顔を埋めたクッションが濡れていることに気付き、いつの間にかまた男の事を思い出して泣いていたようで、男と別れた直後散々泣いたというのにまだ男に対して泣き足りない自分を嘲笑う。
「…そろそろ、時間ね。」
何気なく部屋の壁掛け時計に目をやれば仕事の時間が迫っており、ごしごしと服の袖で涙を拭い、仕事用のメイクと服装等諸々の準備を済ませ、部屋のありとあらゆる戸締りを念入りに確認してから、テーブルの上にカンテラを持って玄関先へと歩を進める。
「…いってきます。」
静かにカンテラを玄関先から入ってきていの一番に視界に入る位置へ置くと、服装に合わせた靴を履き、玄関の内側から掛けられた二重ロックを解除してから、顔だけをカンテラの方へと向けて、穏やかで柔らかい笑みを口元に浮かべながら家を出るときの挨拶をし、扉を開くと外に出て外側から鍵をかけると仕事先へと向かって歩き出す、家主の帰りは物言わぬカンテラだけが待ち続ける。-これから先彼女が生き続ける間、ずっとー。
*カンテラに添えられた火に焦げて焼けない特殊なコーティングが施された手紙
アンレスタへ
こうして貴方に届くはずもない手紙を書くなんて我ながら滑稽よね?でもね、どうしても書かずにはいられなかったの。
そうでもしないと自分の気持ちの整理がつきそうもなかったから。
貴方が好きだって言ってくれた時、私も貴方に惹かれていることに気付くことが出来たの。
貴方は唯一私の生き方を否定しなかった、それどころが理解し労ってくれた。
これから先、貴方みたいな人に出会うことも好きになることもないでしょうね。
見る目がない?それはお互い様よ。貴方だって私の様な罪人じゃなくて、もっと相応しい人がいたはずなのに、私を選んだ時点で見る目がないわ。
ごめんなさい、こんな下らないことを言いたくて書いているわけじゃないのにね。
だって、仕方ないでしょ?貴方に言いたいことはまだまだ山ほどあったんだから。
でもキリがないからここでやめておくわ。最後にこれだけは伝えたかったの。
I'm always thinking about you even though we are apart. With all my love…
貴方に愛をこめて、花音より
(/物語は閉幕し、主様が散々迷って下した決断を揺らがせるつもりは毛頭ございませんが、ちょっとどこかとんでもなく予想外の餞別に、背後も娘もこの物語の一区切りのピリオドを打つためにこうして馳せ参じた次第です。背後の語彙力不足で何が言いたいのか意味不明となってしまいましたが、アンレスタに対して娘と背後の気持ちはこれでもかというほど詰め込んだものとなっております。願わくば、このトピックが再始動した時に再び主様と息子様達と再会し楽しく交流できる日が来ることを心の底から願っています。今まで愚娘と背後にお付き合いくださって本当にありがとうございました!)
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