‥ お薬一錠　( 〆 )

お生憎様、アタシは拘束も薬も好きじゃねェのよ。(　 一度鷲掴みにした頭から手を離せばそのままグシャグシャと髪の毛を掻き回すように撫で回し　 )喚き散らしたい？それとも落ち着きたい？好きな方選びな。＿＿あぁ、それはいらねェわ。(　 騒ぎを聞きつけた看護師が鎮静剤の注射を持ってきたが片手で拒否し　 )

ハァ、ハ…ァ頭がくらくらする ( 舌出し天を仰ぎ )生憎さっき珈琲飲んじまったからな、──暴れると吐きそうだ ( 浅い呼吸を整えながら冗談を挟めるまでは回復し )
ほら、注射打つんだろ？ ( まだ汗ばんでいる左手を上げるとそこには夥しい程の注射痕があり )

酸欠になってンのよ。大きく息して暫くじっとしてれば直に良くなるわ。(　 挟まれた冗談にやれやれと肩を竦めると同時に片手を後頭部に移動させ支える形を取り　 )注射は打たねェって言ったでしょ。野良犬じゃあるまいし。＿ほら、さっさと行きな。(　 未だ注射器片手にオロオロしている看護師に今一度去るように伝えれば、そこで漸く居なくなり　 )

あ゛──…疲れた ( 態とらしく頭に重心を掛けてみせ/そのままの体制で目を細め天井を見つめて )打たねぇのか、そっか ( 支えられたまま顔だけ相手の方に向けると眉を下げ口元が僅かに緩んで )ん、なんか気ぃ抜けた。メシ食いてぇ ( 目の前から去っていく看護婦の背中を見遣ると年相応の様に我儘を言い )

そりゃあ爆発的な体力使えば疲れもするでしょうよ。＿＿ほら、オシマイ。(　 口元にうっすら浮かんだ笑みを見れば後頭部を支えていた手を退け　 )…何がいいの。夕飯食べれなくなる量はやれないわよ。(　 腕時計ちらりと見やり　 )アンタ、さっきの発作前任にも見せたの？(　 時計から視線向け直し　 )

毎回注射打たれて即ベット、だったからな。今オレ自身が疲れを実感してるのが不思議だ ( 支えが急になくなり口を窄ませると少しバランスを崩して体が揺れ )そだなー、麺！麺にしよーぜ ( 口元に手をかざして一考し )勿論、前の奴とは初会話からあんな感じだったな。とりあえず数人で押さえ付けられて注射からの軟禁、みたいな流れだったか( さも遠い記憶を語るように無感情でサラッと話し )

疲れりゃあ眠くもなるし食欲だって湧くのよ。基本的にはね。(　 例外もある事を暗に含ませつつ自論展開　 )はいはい。好きなの食べりゃあいいわよ。(　 仕方なさそうに立ち上がり　 )ハハッ、そりゃあ傑作ね。ま、そんな事でお手上げ状態になる前任もどうかと思うけど。(　 さらりと毒吐き ／ スタスタと歩み進め　 )

言い方が何か悟ってて腹立つ ( 返ってきた返答が妙に大人びて聞こえ眉間に皺を寄せながらも渋々椅子から立って )麺だったらなんでもいーわ、特にこれとかねぇし ( 欠伸をし )まぁそん時は向こうがオレの気に触る事ばっかしてたからな、フツーに手が出たしオレも流血してた…らしい ( "聞いた話だけどな"と付け加えるとゆっくり歩き始め )

じゃあざる蕎麦でいいわね。暑ィし。(　 先の言葉はさらりと流し　 )へぇ、随分盛り上がってたのね。(　 ケラケラ　 )＿＿ほら、着いたわよ。そこ座って待ってな。(　 軽食が食べれる待合室まで来ればその辺の席を指差し　 )

ん、オレも行く。 ( 待合室にいる人の密度を横目でちらっと確認すると待てと言われたにも関わらず相手の後ろに付き )此処あンま来たことねぇから分かんねぇ… ( 個室食だったからか待合室を利用したことが片手で数えるくらいしかなく、加えて人の多い所は大の苦手で機嫌が斜めになり )

ほら、じゃあこれ持ちな。(　 後ろを着いて来る相手を"犬のようだ"と思いつつ出てきたざる蕎麦の一つを持たせ　 )＿＿風通しのいい所行きましょう。暑くてやってらんねェわ。(　 嫌でも察してしまえば仕方なさそうな溜息を一つついた後にスタスタと待合室を出てベランダに設置された飲食スペースに向かい　 )知ってると思うけど普段は此処、患者入れねェわよ。

あ？此処オレ達患者は入れねぇの…？──いいのかよオレ入って( 言われるがままに蕎麦を手に持つと迷子にならない様に相手に付いて歩き始め )暑ぃな、ホント。( 久しぶりの外だからかやけに日が眩しく感じ肌がジリジリとしているのが見受けられて )

そりゃそうでしょ。飛び降りでもされたらたまったもんじゃねェわ。＿＿そう出来ちゃう人達も此処にはたくさん居ンのよ。今はアタシが居るからまぁ、いいわ。(　 適当　 )ほら、さっさと食べな。(　 近くの椅子に腰を下ろせば己もまた同じざる蕎麦を食べ進め　 )

あ──…なるほどな。確かに飛び降りる高さ的にも"丁度いい"って訳だ ( ベランダから少し身を乗り出し地面までの高度を確認すると思わず舌舐めずりしてしまい )まァ安心しな、オレはそんな事しねぇから ( ほとほと興味が無さそうにベランダ端から離れて大人しく同じテーブルに座れば蕎麦を啜り始め )……個室食じゃなくてたまには此処でメシ食えたりできんのか、アンタ同伴だったら( 視線も移さず蕎麦を啜る手も止めず小声で問いかけ )

そう言う事。ま、飛び降りたくなったら一声掛けて頂戴。(　 さらりと言葉落としつつまた蕎麦を啜り　 )アタシ同伴でも死にたがりは駄目よ。目の前で死なれたら飯が不味くなるわ。(　 本気か嘘かわからぬ声色で　 )

んな事はしねぇよ、面倒臭いだろーが。オレは死ぬことに意味を見出したりはしない主義なんだよ ( "此処にいる奴は死にたがりばっかだけどな"と鼻で笑いながら付け加えるとそのまま蕎麦を啜るのを再開し )──…なんつーか、アンタ割とドライなんだな。第一印象と色々違ぇわ ( 目の前で蕎麦を啜る相手に視線を移し少し眉間に皺を寄せて溜息混じりに言葉吐いて )

そりゃあいい事ね。"死"は救いじゃねェのよ。(　 その言葉を信じているのかどうか定かでは無い相変わらず適当な声色で返事をし　 )あら、第一印象からドライだったと思うけど？(　 クツクツ　 )珈琲も蕎麦も奢ってやったんだ、少しは感謝してもらわねェとね。(　 戯言　 )

その妙に達観してる感じやめろ、腹立つ ( 久方ぶりの人との会話に少し浮足立つも若干宥められている感覚になり口窄ませて抗議して )そうか？パッと見た感じはそんな風には見えねーよ、個性的なオッサン位がいいとこだろ ( 首を横に2.3回振りピシッと指さすとにやりと笑みを作り )オレから返せるもンなんて何もねーからな、先に言っとく ( 蕎麦を平らげ )

それは諦めるのね。こんな仕事してたら嫌でもそうなンのよ。(　 あっさりと諦めを共有させればあっという間のスピードで蕎麦を食べきり　 )個性的って所は認めるけどオッサンはやめて頂戴。どう見てもオッサンって容姿じゃないでしょ。(　 ふん　 )だったらさっさと退院する事ね。＿＿あぁ、明日血液検査あるからね。昼ご飯食べたら検査室よ。(　 思い出したように　 )

ははっ、冗談冗談！オッサンには見えねーよ ( クツクツと喉の奥で笑いながらゆっくり相手に向き直ると )ほら、おーにーさんでどうだ？( こてんと首傾げ )──検査？だりぃな。オレ低血圧で朝昼起きれねーんだけど ( 検査というワードを聞くなりムスッとした顔付きになりただを捏ね始めて )