真夜中の車掌さん 2019-06-29 06:07:22 |
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>鶴橋様
「……切符に書いてある通り。この列車は
海底世界行きだよ……乗るの?乗らないの?」
青年は早口に捲し立てると、また問う。
>車掌さん
「海底世界……それって、海のずっと深いところってこと? 海に潜っていったりとかするのかな……変わった列車だね。それに……」
(自分がいつこの切符を買ったのかは未だに思い出せないが、どこか夢心地のようなふわふわした感覚は列車への不信感よりも好奇心を優先し、ここに至るまでの前後の記憶が曖昧なことはもはや気にならなくなっていた。
それよりも気になること、というかのようにちら、と言葉を交わす目の前の人物に目をやり)
「きみ、アルバイトしてるの? わたしより年下よね。えらいなあ」
(そう言うと『年上のお姉さん』といった感じのふわっとした笑みを向ける)
>車掌さん
「うん? そうなの? うふふ、ごめんね」
(不機嫌そうな様子を見て冗談っぽく笑うが『自分よりもずっと年上』がどんな意味を持つのかは曖昧に捉えており、あまり深く考えないまま流してしまう。
お姉さん風を吹かしていたのをやめると、改めて行儀よく相手に向き直り)
「それでは車掌さん、こちらの列車に乗せて頂いても良いですか?」
>車掌さん
「ふふ、ありがとう! じゃあ、どこに座ろうかなあ。窓際が良いよね、景色見たいし……」
(そう言うと洋風のトラベルケースをコロコロと引きながらゆっくりと列車に乗り込む。
くるりと車内を見直すと、入口近くの窓際の席に腰を下ろし、座り心地の良いシートにふふ、と満足げに笑い)
>車掌さん
えー、何それ……っていうか車掌さんってここの正規の職員なんですか?にしてはちょっと若いような……ひょっとして高卒?
(望んだ回答ではなかったようで、振り向きながら不満の声をあげて更に余裕が出てきたのか男自身にも興味がわいて口数多めに話しかけて)
>車掌さん
「……? 急におっかない事言うのね、きみ。わたし、そんなに壮絶に生きてないよ。この列車もね、乗ったらいい予感がする気がしたから乗ったの。そんな感じ。それだけだよ」
(表情の見えない後ろ姿に何故そんなことを聞かれたのか意図が読めないものの、やわらかい口調のまま明るく返す。どこかそういった受け答えに慣れているような、流すような口振りは『絶望』とは縁がない、という様子を表向きに出していて、瞳をくりくりさせた後こちらを見ていない相手に笑いかけ)
「ねえ、聞いていい? 海底世界ってどんな場所?」
>根来様
「………失礼ですが、お客様よりは年上です」
その年若く美しい車掌は冷淡に呟く。
振り向いた彼の美しい顔には年を
感じさせるものは一切存在しなかった。
>鶴橋様
「………へぇ」
車掌は納得したような、不満げな声を上げる。
「……凄く静かな場所だよ。
……嫌なこと、全部忘れられるくらいには」
>車掌さん
「へぇ……静かなところなんだね。泳ぐ海よりもずっと深くて暗い所かな、テレビでも見たことある。水族館みたいな感じだったら良いなあ。……きみはその海底世界、好き?」
(車掌の不満げな様子を後目に窓の外を眺めながら、まだ見ぬ未知の世界へ思いを馳せ)
>車掌さん
「え、出られないの? どうして……って、そっか。お仕事だもんね。えらいなあ……あ、年上だったね。きみ……えーと、名前、なんていうの?」
(ふと浮かんだ疑問を自分で簡単に解釈しながらまた年上のような振る舞いをするが、相手が不機嫌になるかもしれないと察すると軽く笑ってごまかし)
>車掌さん
「ルイ、くん。ルイくんって言うんだ、綺麗な名前だね。わたしは鶴橋冬紀。短い間だけど、海底世界までよろしくね」
(心地よい名前の響きを何度か確かめるように口の中で転がし、また違う世界を感じるような感覚を微かに覚える。
自分も聞き取りやすいようにゆっくり名乗ると、見えない表情に笑いかけ)
>車掌さん
「あらら、残念。ルイくん、あんまりつんつんしてると友達できないぞお」
(淡白な反応に肩を落とす仕草をすると、また冗談のように笑い)
>車掌さん
え、あ、ご、ごめんなさい。
(調子の乗ってしまった、と穴があったら入ってしまいたいぐらいの恥ずかしさを感じ窓からの景色を見るのも忘れてしゅんとして)
あ、えっと、黄泉世界ってやっぱり遠いんですか?
>根来様
「………………詳細は私にも解りません」
車掌はまた冷淡に言うと、
ふいと顔を前に戻した。
>鶴橋様
「………友人?……そんなの、作れないから
この列車に囚われてるんだよ…」
車掌は、ぽつりと呟く。
振り向いた顔は、
深海のように深く蒼い瞳と髪をした、
まだ年若い青年だった。
>車掌さん
「……。それはきみの絶望? 寂しくはないの? それじゃあまるできみはひとりでここに居るみたいだよ……」
(深く吸い込まれるような瞳の中に海を見た、と感じた。改めて正面から見た姿は思っていたよりももう少し若く、それでいてどこか自分とは違う時間の流れの中にいる……などと思っている内に無意識に席から立ち上がり、引き寄せられるように数歩近付いており)
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