ヒーローと日本刀【非募集】

では、こっちをもらおう。
(ありがとうと にこやかに一言添えては、スポンジの方を手に取り。早速洗い物に取り掛かるため流しに立つと、水を流し皿を洗い始め。一枚目を洗っている最中ふと口を開くと「なぁ、加州。さっき、何やら思い詰めたような顔をしていたが…どうしたんだ、何か悩み事でもあるのか？」と手を動かしたまま、先程気になったことを問い。洗い終わった皿を渡すため振り返ると、本心が聞きたいのだろうか相手の目を見つめ)

これからのことを考えてただけ。悩みなんかじゃない…けど、
(振り向いた相手と目が合えば、なにやら真摯なその瞳に促され口を開き。食器を受け取って布巾で拭きつつ淡々と答えるも、きっとこの場を凌ぐために嘘をついたところで相手にはお見通しなのだろうと察すると、躊躇うように茶を濁し視線を彷徨わせて。皿を拭く手を止め一息ついては、慎重に言葉を選びながら困ったような表情で「─…主は、俺が近いうちにひとりで出陣したいって言ったら反対する？」と尋ねて。)

…反対はしないぞ！お前も刀だ。きっと無意味に飾られているより、戦場に出た方が開放されるのだろうな
(出陣したいという気持ちは、相手が前に進もうとしている証拠。そうだと分かってはいるものの、大切な相手だからこそ不安な気持ちが心に渦巻き。再び背を向け手を動かしつつ、ここで相手を信じなければ道を閉ざしてしまう事になると考え。気を遣わせないため、そして悟られないように普段と変わらない口振りで述べ。二枚目の皿を洗い終えたところで振り返ると「だから、お前が行きたいと…大丈夫だと言うのなら、俺はその背中を押そう」と皿を渡しつつ柔らかな笑みを向け)

大丈夫、出陣自体は何度もしたことあるから。鳥羽辺りなら俺一人でも無傷で制圧できるし？
(あんなにも優しい相手が仮にも恋仲である自分の出陣を何とも思わないわけがないことくらい、いくら相手がいつも通りの声音を装ったとしても十分理解していて。自身の感情を押してまでこちらの意思を尊重してくれたことを感謝せずにはいられず、拭き終えた食器を傍らに置くとあっけらかんとした口調で述べた後に「…ありがとね、千秋くん」と小さな微笑で応じて皿を受け取り。)

お前を信じているだけだ。それに…敵に立ち向かっていくなんてカッコイイじゃないか！まさにヒーローっ ！
(相手の頼しげな言葉にいくらか不安が取り除かれたのか内心ほっとしつつ、お礼を言われれば口角を上げ緩く首を傾げ。再び皿洗いに戻りつつ言葉を続ければ、大好きなヒーローのようだと語り方に熱がこもっていき。そんな事を話しながら次々に皿を洗っていき、最後の一枚を相手に渡すと「よし、皿洗い終了！」と手を拭いつつ満足気に頷き)

ヒーローかぁ…なんか照れるね。
(自分の場合はそこまで格好の良いものではないとは思いつつ、相手の大好きなものに例えられるのは素直に嬉しく思われて。真っ直ぐな信頼も褒め言葉も少し照れくさくはにかむように答えると、気を紛らわすべく次々と食器を拭いていき。最後の一枚を拭き終えるとそれらをまとめて食器棚に戻し、相手を振り返り「こっちも終了。次は洗濯ー！」と楽しそうに告げ、その腕に自分の腕を絡ませて意気揚々と脱衣場の方へと向かい。)

おっと…！なんだなんだ、楽しそうだなぁ。
(その行動に驚いたように反応するも、やはり嬉しいのか自然と笑みがこぼれクスクスと笑い。じゃれるのが好きなのか応えるように絡まれた方の脇を軽く締めれば、相手と寄り添うようにして脱衣場へ向かい。目的地に着くと、状態はそのままに足を止め「ブレザーもスラックスもネクタイも…おぉ、ベルトもか。これは選択せずに部屋へ持ち帰らないとな」と昨晩雑に脱いだままである衣類を見つけては、軽く笑い)

昨日は急いでたから気がつかなかったけど…主、脱いだら畳まなきゃ。皺になっちゃうでしょ。
(脱ぎっぱなしの制服を見れば顔をしかめ、腕を絡めたままじとりと見上げて相手を叱り。洗わなければならない物とそうでない物を分けるため腕を解くと、一先ずブレザーやスラックスなどを簡単に畳み。一つの籠に洗濯する衣類を集め、政府からの支給品である脱衣場の隅の洗濯機の前まで持って行くも、洗濯も以前は得意な刀が進んで引き受けてくれていたため自分で操作したことはなく。使い方がよくわからないのか洗剤片手に立ち往生すると、眉を下げて相手を振り返り「……あるじ、これやって」と洗濯機を指差し。)

うっ…。こ、今度から気をつける…
(そのまま流されるかと思っていたのか、指摘されてはギクリと肩を揺らし。己の元を離れ衣服の仕分けをする相手の背中を見つめながら、苦笑を浮かべ頬を掻き。そうしながら洗濯機があるのなら自分の出る幕はないと少し残念に考えていると、相手が困ったように振り向いたためどうしたのかと軽く首を傾げ相手を見つめ。洗濯機の使い方が分からないと聞けば頼られた嬉しさやら、何だか相手が可愛いらしいく思えてニッと笑み「おう、任せろ！…やはり、現代の物は苦手なのか？」と洗濯物を入れては洗剤を受け取り適量を入れ、洗濯機のボタンも押していき淡々と操作を済ませ)

干したり畳んだりはよく手伝ってたけど、これは使ったことなかったから。
(からかい混じりの問いかけではなかったためか特に恥じ入る様子もなく答えて、慣れた手付きで洗濯機を操作する相手に尊敬の眼差しを送り。手持ち無沙汰になってしばらくの間は動く洗濯機をじっと見つめていたものの、それすら飽きてしまうと相手に視線を戻し「─…ねー主、昨日言ってた"アイドル"って何？」と唐突な問いを投げかけて。相手のことをもっと知りたいという気持ちが強く、そのためには昨日は理解できなかった横文字の意味を知らなければ、といつになく熱心な様子で。)

…おぉっ、これはまた急だな！
(話を聞きながら、機械等に馴染みのない相手に携帯などを見せたらもっと驚くのだろうかなんて思いつき。携帯はポケットに入っていたはずだから今度見せてみようと企んでいると、突然の質問に顔を向け思わず小さく笑いをこぼし。しかし相手が真面目に聞こうとしているのだと分かれば「ふむ…そうだな。舞台上に立ち、歌ったり踊ったりして最高に輝いているものだ。自分の想いを歌にのせて、皆を幸せな気持ちに…笑顔にすることができる。夢や希望を与えられる。アイドルはとても格好良いものだ！」と強い意志を秘めた目で見つめながら語ると、最後には満面の笑みを浮かべ)

それって、誰にでもできることじゃないよね。主だからこそできることじゃん？
(目指しているものについて語る相手はいつも以上にきらきらと輝いて見え、眩しそうに目を細めて微笑むと穏やかな声で相槌を打ち。誰かに夢や希望を与えるなど刀の自分には到底真似出来ないことであるため、口先だけでなく言葉のままに実現できる相手が誇らしくて。輝いていて、格好良くて、誰かに幸せを与える人…と心の中で復唱しているうちにふと気がつけば、目を丸くし「…ってことは、主は俺のヒーローでアイドルなんだ」と大真面目に零してから破顔して。)

…。ふっ、くくっ…はっはっは！そうか、そうだなぁ！俺は、お前の主でヒーローでアイドルだな！
(まだまだアイドルとしては未熟者の自分を肯定してくれるような言葉に、嬉しくも照れくさそうにヘラリと頬を緩め。しかし続いて出てきた言葉を聞けば、真面目な様子の相手を思わずキョトンと見つめ。内容的には間違っていないが、これらが並ぶと何だか可笑しくなってしまい。じわじわと笑いが込み上げれば、堪えきれない笑い声を上げ相手の頭を楽しげに撫で。途中で何か思いついたように撫でるのを止めると「…それと、“恋人”だろ？」と顔を近づけ愛おしげに見つめれば、頬に軽く唇で触れ)

なんで笑うの、間違ったこと言ってない……え、何、
(なぜ笑われたのかが理解できず、頭を撫でられても唇を尖らせ不満げな様子で言い返し。しかし恋人としての距離感には未だに慣れないのか、途端に借りてきた猫のように大人しくなると頬への口づけも静かに受け入れて。じわじわと熱が滲むにつれ次第に振り回されたことへの仕返しがしたくなってきて、今度はこちらから相手の唇に軽く口づけると、すぐに顔を離してくすりと笑い「俺みたいな川の下の子は、ほっぺにちゅーじゃ物足りませーん」とからかうように舌を出し。)

―っ！それは…すまなかったな。では改めて、これなら満足するか？
(相手の反応を笑い油断していたためやり返されては目を見開き、感触の残る己の唇を指でなぞっては釣られて笑み。今ので簡単にグラリときてしまったのか、触れ合いたいとばかりに相手の頬を両手で包み込むと軽く上を向けさせ、普段見せないような熱っぽい視線を注ぎつつ顔を寄せていき。そのままあと少しで触れるというところまでいくが、突然終りを告げる洗濯機の電子音が鳴り響くとそれと同時に思わず動きもピタリと止まり「…。まったく、なんてタイミングの悪い…」と盛大な溜息をこぼしつつ、ゆっくり顔を離し洗濯機に向き直り)

ちょ、…待って、っ！
(自分の計画ではこちらの仕返しに相手が照れておしまい、というつもりであったため、反撃の如く両頬を包み込まれればあからさまに慌てた様子で制止の声を上げ。普段と違う熱っぽい眼差しから逃れるようにぎゅっと目を瞑り、唇が重なる瞬間を期待半分不安半分で待つものの、いざ無粋な電子音に邪魔をされてみればほっとするよりもむしろ惜しさが勝り。不貞腐れ気味に「おあずけかよー…空気読めない洗濯機」と呟けば、軽く蓋にデコピンしてから中の洗濯物を取り出して。)

まったくだ。…せっかくお前とイチャつけるチャンスだったのにな？
(腕組みをしつつ眉間にシワを寄せ大きく頷いた後、ニッと口角を上げては笑い混じりに首を傾げ。本当に残念だとは思いつつも、あのまま止まらなければ歯止めが利かなくなっていたかもしれないとも思えばどこかで安心している自分がいて。そんな考えを振り切るように洗濯物の入った籠を勢いよく持ち上げると「さっ、加州！お前はこの籠を頼むぞ。俺は自分の服を持っていく」と相手に渡した後、自分は制服等を手に持ち)

初めてちゅーできたしまあいっか。…じゃ、行きますかね。
(冷静になった途端沸き起こったのは羞恥心でも名残惜しさでもなく'拒絶されなかった'という安心感、それだけで十分満足したのか心なしか嬉しそうに答えると、両手で籠を抱え脱衣場を後にして。廊下を進み自室の前まで来れば一旦縁側に籠を置き、部屋に入ると相手の手にある制服をてきぱきとハンガーに引っ掛けていき。自分の外套と同じようにそれを鴨居に掛けると、「主の布団ー…ちょっと待ってね」と零しつつ押入れの戸を引き、両膝と片手を突いて真っ暗なそこに頭を突っ込み布団を引っ張り出そうと格闘して。)

大変そうだな…？手を貸すぞ！
(部屋についた後も相変わらずテキパキと動く相手に感心していたが、なかなか布団が出せず苦戦している様子を見ては可愛いものだとクスリと笑い。相手の隣に膝をつき、同じように頭を突っ込み布団を掴むと「ふむ、これか。…ではいくぞ！せーのっ…ぉお！？」と勝手な掛け声でグイッと引っ張り。相手よりは力があるため難無く出せたものの明らからに勢いをつけすぎてしまったようで、思い切り引きすぎたと気づいた時には既に遅く、布団は2人を覆うように飛び出してきて)

ありがと…うわっ！？
(どこかに引っかかっているのかなかなか引っ張り出せず、相手の申し出をありがたく受け入れることにして。掛け声に一瞬反応が遅れてしまい慌てて力を込めるも、予想以上に軽々と引っ張り出せたためか、反動で尻餅をついた後そのまま畳の上に勢いよく倒れ込み。その際に後頭部を思い切り打ち付けてしまい、摩ろうと手を伸ばすも上から覆い被さる布団のせいでそれすら叶わず。真っ暗な視界の中じわりと生理的な涙を浮かべ、手探りで相手の手首を掴むと「─…頭打ったぁ」と痛みを訴えて。)