健二 2017-09-28 22:32:08 ID:c196a580b |
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はっ、はい。
(キョロキョロするのを一旦止めて綺麗に靴を揃えて上がる)
すごいよう……。なんでこんなすごいところ知ってるの?
家族でよく来てたんだ。
まあ、俺がまだ小学生くらいのときだけどね。
(中居に案内されて廊下を歩くと、庭を見渡せる縁側に出る。さっき見た竹林が迫るように枝葉を伸ばし、苔むした大きな石がカクテル光線に照らされて、なんとも神秘的な趣を浮かび上がらせている)
(中居の「こちらです」との声で障子が開かれ部屋へ通される。畳にして8畳くらいの座敷。大きなテーブルに座椅子が向かい合わせに設えてあり)
ここは完全個室なんだ。
ゆったり寛げるし、何を話してもプライベートは守られる。だから、政治家なんかがよく使ったりしてるんだよ。
(ジャケットを脱いでハンガーに掛け)
これでも手軽で安いほうなんだよ。
予約なしでも利用できるし。
ご家族できてたんですね。
みんな仲いいんですか?……
すごいですね、わたしの家の居間と同じくらいあるし、この建物はわたしの家の十倍くらいあるし……
(キョロキョロする)
まさか
(ククッと笑って)
仲良さそうに見せてるだけだよ。
親父は代議士で、お袋は巨大病院の理事長。世間的に仲睦まじいところを見せるのも、あの人らの仕事なのさ。
(さあ、と有紗に座椅子を勧める。襖が開くと、中居が品書きと暖かいお茶を運んでテーブルへ置き)
今日は焼肉でお願いします。
(馴れたような口調で中居に言うと、有紗を見て)
何か食べたいものはある?
コースでもいいけど、食べたいものがあるならそれをもらおう。
そうなんだ……それって一緒にご飯食べててなんか気まずくないのかな……
(家族でも気を置けない間柄っていうのが有紗にはあまりよく理解できなくてちょっと首をかしげる)
ありがとうございます(仲居さんにぺこっとおじぎして)
……なんか見たことがないメニューばっかりでわからないなあ……
健二くんがいいなって思うものがほしいな。牛タンだっけ……健二くんがおいしいっていうもの食べてみたい
気まずいどころの話じゃないよ。
(顔をしかめて笑い)
兄貴と姉ちゃんは上手いこと親父に合わせてたけどね、俺にはそういうのできなかった。
(品書きを指差して注文する)
じゃあ、このコース料理と、これと、これ、それから飲み物は…、烏龍茶を二つで。
(中居がお辞儀して襖を閉じると、暖かいおしぼりで手を拭きながら)
ここは米沢牛専門店なんだ。
きっと気に入ると思うよ。
(あれそういえば…値段書いてなかった?)
お金持ちって大変なんだなあ(貧乏だしよく体調崩す母だけどそれなりに毎日楽しくはしてて)
なんかちょっとびっくりしちゃう。
本当ですか?どんな高級なお肉食べたことないからすごく嬉しいです……
んー、お金持ちとか、そういうの関係ないと思う。
あいつらにとって子供はファッションなんだよ。世間体を繕うのに必要なんだ…。
(両親のことを「あいつら」なんて呼ぶ健二には、実の親に対して一体どれだけの憎しみがあるのか…、有紗には到底理解できるものではなくて)
あ、そうそう、今度の有紗の試合、絶対に観に行くから!
観たことないんだよなぁ、体操の大会って。
(思いがけずレオタード姿の有紗が脳裏にぼんやり浮かんで…)
ん…(コホン)
東京体育館だよね、いくいく!
楽しみだなぁ。
(キラキラした笑顔を有紗に向けて)
(「あいつら」って単語が聞こえてなかったわけじゃないけどそこはスルーした。
本来なら「あいつらなんて言っちゃいけないよ」とかいうべきところなんだとは思うけれど、
今この人にこれを言ったところで絶対響かないだろうし、事情も分かっていないのにそういうこと言うのは無責任だなと思ったからである。)
うん、そうだよ。
体操って見てるときれいだよ!自分があんなに上手かなあって思うと自信ないんだけど…
健二くんは何か部活ってやっていたの?(この人のこともっと知りたいなって思って)
俺は…
一応、高校のときバスケやってたけど…
(そこで一旦口ごもる)
中途半端に終わっちゃったよ…
ケガしちゃってね…
(襖が開いて飲み物と七輪が運ばれてきてテーブルに置かれる。長方形の七輪の中にはすでに煌々と赤い火をおこした炭がたっぷりと入っていて、目に眩しいくらいで)
さ、お肉がくるぞー
(続けざまに入ってきた中居がテーブルに何枚かの皿を並べる。鮮やかにサシの入ったステーキ肉のような分厚い一枚肉。白い大粒の真珠と見まごうかのホルモン。見るだけでそのつややかさに食欲をそそられる赤身の肉はたっぷりのタレがかけられており、横には赤い光沢を放つレバーがトロリとした佇まいで脇を固める)
これこれ、まずはこのタン塩…食べてみて!
(銀色の長い菜箸で、厚く切ってある柔らかそうな肉を取ると、網の上へ運ぶ。食欲を掻き立てる肉が焼ける音と香り、それらを含んだ煙が立ち上る)
さあ、いっぱい食べてね!
(バスケの話もあとあときこうかなと思ってるけど、七輪とお肉を見て思わず言葉を失ってしまう)
わっ……すごいきれい!こんなお肉見たことない……!(と目をキラキラさせる)
ありがとう(お皿に盛られたお肉を貴重そうに食べる)
……わ、すごくおいしい……こんなお肉食べたことない……(逆に貴重そうにちょこちょこ食べる)
いつもこんなお肉食べてるの??すごいなあ……
(柔らかい米沢牛は、口に入れた途端ほろりと崩れて、とろけるような旨味が口いっぱいに広がる。その美味しさに目を輝かせて、焼きたての肉を頬張る有紗を見て嬉しくなる)
美味しいでしょー?
たくさんあるからどんどん食べてね!
(やっぱりここの店でよかった。彼女が食べる姿を見るだけで幸せな気持ちになる)
いつもは焼肉なんてそんなに食べないよ。うちは菜食主義でね(笑)
だからたまーに、こっそりここに来て食べたりするんだ。
(そう言いながら肉を次々と網の上に載せる。ロースター付きのテーブルは煙をどんどん吸い込んで、部屋に油や匂いが充満しないような仕組みになっていて、こんな風情のある和室でも焼肉が楽しめる工夫が凝らしてあり)
ここへは、よく先輩が連れてきてくれたんだ…。
(先輩とは、前に有紗に話した健二が慕う大学の先輩。卒業後は健二の父であり政治家である「須賀努(つとむ)」の側近秘書として献身的に支え、父のみならず須賀家のことも常に考えていてくれていた。健二を初めて真剣に叱ってくれたのも、将来の夢ついて熱く語ってくれたのも、先輩が唯一の人だった。それなのに……)
さ、どんどん食べて
(思いに耽ってしまい肉が焦げそうになるのに慌てて気付き、菜箸で取っては有紗の皿に乗せる)
このあとスープもビビンバも来るから覚悟しとけー(笑)
ここの石焼ビビンバがまた堪らなく美味しいんだ!
わっ……そんなにいきなりいっぱい食べられないよ(クスクス笑いながらも嬉しそうに食べる)
こんなにお肉たくさん食べたの初めてだな……(小さい声で)お母さんにも食べさせてあげたいな……(ちょっと切なそうな顔をする)
菜食主義なんだ。
でも野菜って確かに高いから……お金持ちは菜食主義なのかもなあって思う(よく家の買い物するけど野菜って高いよなって思う)
あ、それなんだけど……
(お母さんにも食べさせてあげたいな…という彼女の小さな声が耳に届いて)
お母さんも今度、ぜひ連れてこよう!
(唐突に真面目な顔で有紗を見て)
えっ大丈夫だよ(聞こえたんだって思って)
お母さんも連れて行きたいなって思ったのは本当だけど、健二くんの迷惑はかけたくないから……その……いつか私が稼げたら行きたいなって……
いや、そうじゃないんだ
(有紗の言葉を遮って)
お母さんに会いたい。
会って、話がしたい…。
(そして箸を置いて)
なあ有紗…
俺のこと…どう思う?
(見せたこともないような真剣な面持ちで)
えっ……(真剣な面持ちで見つめられて真っ赤になる)
えっと……(どういう意味なのかなと思って)
その……本当は優しい人なのかなって。
(人間的なこと聞かれてるのかなーとか思ってる。
もちろん健二のことは好きだけど正直有紗には理解できない部分も多くて)
優しい…だけ?
(問いかけたあと、姿勢を正して)
俺は…
有紗のことが好きだ。
これからもずっとそばにいてほしい…。
こんな俺だけど…付き合ってください!
(真っ直ぐに有紗を見て)
(告白を聞いてちょっとびっくりする)
私……でいいんですか?
私も大好きです……その……よろしければ付き合ってください(じっと健二を見る)
(見つめ合ったままお互いしばらく固まる。健二は息を止めてたみたいで…)
…っ、
っはあぁぁぁぁ……っ
(緊張から解放されたように肩の力を抜いて)
どうなるかと思った
俺の生まれて初めての告白…
(それからニコッと笑って)
ありがとう有紗。
いま正直、思いっきり抱きしめたい気分だけど…
この…七輪が邪魔で…
(二人の間には美味しそうな焼き肉がジュージューと音を立てて煙を出している七輪が)
ここを出たら…
抱きしめていい?
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