日溜まりを縫いつけて ( 〆 )　

(　会話も自然と途切れ、いつの間にか静かになった車内。助手席で瞳を閉じる幼馴染の顔は、よく見知った幼い頃を彷彿させるもので。懐古に浸りながら車をナビ通りに運転する事一時間、目的地である水族館が近くなり　)
俺の事見誤り過ぎじゃね？家以外ではしっかりしてんの。揉め事前提かよ…。まあいいよ、貸しひとつな。

…あれ、いつの間にか寝てた…。透くんの運転ヤバすぎ。
（　一度も起きる事なく自然と目を覚ませば両腕を前にぐーっと伸ばし欠伸をしながら呟いて。あれからどれくらい走っているのか分からないが少し申し訳ない気持ちになり「なんか私だけ寝ちゃってごめん」と素直に謝り　）
だって家の中の透くんしか知らないもん。うわー、女の子に貸し作るなんて…後が怖いんですけどー。

全く気にしてねぇよ。つーか、朝から頑張ってくれてるし寝不足が解消出来たんならよくね？それよりほら、もう少しで着くぞ。
(　微塵も気に留めていない様子でさらりと述べれば、カーナビを指差し示して。漸く目的地──の前に水族館専用の立体駐車場に進入し、ハンドルを握りながら休日故か空きの少なさに眉根を寄せて　)
…あ、そりゃあそうか。労力によって、貸し分はでっかくなるからな。

んー、まあそれもそっか！…うわ、停める場所あるのかな。最悪臨時駐車場になっちゃいそうじゃない？
（　幼馴染の言葉に納得するように頷き。あまりの車の多さに驚愕しながらも見落とさないように目を凝らして一つ一つ確認し。「あ！あった！」と偶然にも空いたスペース見つければ指差し相手に伝え　）
あーやだやだ。ほんと私には容赦ないよね。

お、菜月ナイスー。…っし、行くか。
(　助手席の幼馴染が指差した先には空きの駐車スペース。ぱっと表情を明るくし、他意のないまま優しく頭をぽふりと撫で。バック駐車で停めれば大きく伸びをして横目で相手を見遣り　)
そう見えんの？透お兄さん、大分お前に優しいけど。

運転お疲れ様でした！じゃあ、レッツゴー！
（　長時間運転してくれた相手に一応労いの言葉掛けつつ頭撫でられると嬉しそうに頬緩め、悟られないように無邪気に振る舞い。車が停るとシートベルト外し車外に出ればぐーっと伸びをし　）
ん～、まあ優しい事は否定しないけど。優しくなかったら即追い出すだろうし、こうやって一緒に出掛けてくれる訳ないもんね！

はいはい、どうも。多分入り口──…は、あっちだな。おいで、菜月。
(　自身も車外に出ればロックを掛け、そのままキーケースへと戻し。伸びをする姿視界に留めれば仔猫を彷彿とさせ小さく笑い、こちらに来るよう手招いて　)
正面切って言われると恥ずいな、なんか。…好きに解釈してくれ。

ん？はーい、水族館っていつ来てもわくわくするよね！
（　相手の隣に並んで歩きながら心底楽しげにはしゃぎ。水族館入口に近付くと親子連れやカップル等で賑わっており「うーわ、やっぱ休日って混んでるね」とあまりの人の多さに驚きながら相手に視線向けて　）
透くん照れちゃってる～！私の好きなように解釈させて頂きまーす！

チケット販売、あっちだって。俺に掴まっといて良いから着いて来いよー。
(　賑わいを見せる中、長身を活かし受け付け窓口を見つけては相手に視線落とし。丁度交じりあった瞳が無邪気さを湛えていると見え、思わず頬が緩みそうになりそっぽを向き。兎にも角にも進むしかなく、人混みの中待機列に近寄ろうと足先を向け　)
照れてねぇよ。…楽しそうだな、若いってすげぇ。んや、菜月だからか？

じゃあここ掴んどく。
（　幼馴染の後ろを着いて行き逸れないように服の裾を控えめにきゅっと掴み。順番待ちをしている中で周りの男性に比べて身長がある相手は一際目立っていて、行き交う人達の視線を集めていれば自然と自分も相手に視線を向けていて　）
透くんだってまだ若い部類に入るって！まっ、私はいつだってポジティブ思考だからね～！

…ん、逸れんなよ。
(　想定外に控えめな挙動に瞠目し、不思議と幼馴染に対し胸奥がきゅっと音を立てた事実は無視し。幸い待機列の短な窓口を見つければ、そちら側に歩を進めながら相手を気にするように一度振り返り　)
お前のそのポジティブ加減は尊敬するよ。…偶に。

あ、透くん。私自分の分は払うよ。
（　窓口が近付くと上部に表示されている料金表を見れば財布取り出し。仮にデートと言えど実際には交際している訳ではない為、幼馴染に払ってもらうのも違う気がし相手の服を軽く引っ張ればそう伝えて　）
偶にじゃなくて毎日尊敬して欲しいくらいなんですけどー。

要らねぇ。お兄さんはお前より稼いでんの。…あ゛ー……じゃあ代わりにパンフレット貰って来てくんね？此処の事なんも知らねぇからさ。
(　相手の財布を収めるよう手を翳し、緩く首を左右に振り。逡巡した後に駄目押しで代打案を提示し、至る所に置かれている様子のパンフレットを一瞥し。勝手に役目与えた後に、前列が退き空いたらしい窓口と遣り取りを始め　)
いや、それは遠慮しとく。社畜はポジティブにはなれねぇの。

もー…分かりましたよ～。じゃあパンフレット取ってくる！
（　相手の言う通りJKと社会人では財布の中身も天と地程の差がある訳で。やや拗ね気味で口尖らせ近くに置いてあるパンフレットを取りに向かい。そこにあった館内マップを手に取ると、相手が窓口で購入するのを待っている間にマップに目を通し館内の場所を確認し始め　）
あーあ、社畜って可哀想…。

お、頼もしいじゃん。気になる場所見つかった？
(　大人2名分の入場チケットを購入するなり、それを片手にパンフレットと睨めっこ状態の幼馴染と落ち合い。人波に飲まれず見つけられた事を安堵しながら自ずと覗き込むように視線を落とし　)
…お前はこんな大人になるなよ。

やっぱりイルカショーは外せないよね。あとは…ペンギンのお散歩だって！絶対可愛いやつじゃん。透くん見たい所ある？
（　久々の水族館ともあってか、パンフレットに夢中になり幼馴染が覗き込んでいる事に気付かず徐に顔上げれば、思いの外至近距離にあり。「…わ！ごめんっ…全然気付かなかった、これ透くん持ってて！」と慌てて距離を取ってパンフレットを相手に渡し　）
私ならだいじょーぶ！心配してくれてありがと。

っふは、なんで謝んだよ。じゃあその2つは必ず見るとして…、あ。俺クラゲ見たいわ。
(　半ば押し付けるように手渡されたパンフレットを受け止め、幼馴染と相反する呑気な調子で応え。一度パンフレットを開き腕時計と視線を往復させては、「今日は時間的にイルカショーで〆だな」と零して　)
お前なら持ち前のポジティブでやれそうだけど、まあ…油断大敵っつー言葉もあるくらいだから気ぃ付けて。って、こんなん花盛りの女子高生に言うもんじゃねぇな。

それはだって…。先ずどこ見に行く？距離的に…クラゲが先かな。
（　自分とは真逆の反応に若干言葉を濁らせ。ここからの1番近い場所はパンフレットを見ながらクラゲの場所指差し。「よーし！イルカショーに間に合うようにサクッと見に行こ～ッ」と先導きって館内に向かい　）
人生の先輩の言うことは聞いておきまーす。ま、こういう事言ってくれるのは透くんだけだと思うし…いいんじゃない？

ん？…そうだな、入り口潜ってわりと近くにある。っと──待て待て、これお前の分のチケット。
(　珍しく言い淀んだ幼馴染に首を傾げ。渡し損ねる前に先陣切って進む相手の小さな手に入場チケットを握らせ「館内は薄暗いから迷子になんなよ」と過保護な一言。会社と自宅の往復でなにが癒しかと言えば幼馴染の存在。礼として少しでも楽しんで貰いたい気持ちが先行し過ぎないよう、普段通り落ち着く為に浅く息を吐き　)
貴重な社畜からのアドバイス、よーく覚えておくように。っはは、まあそうだろうな。他に居たら流石に俺も妬く、し…──今のは聞かなかった事にしといて。

あ、チケットありがと。
（　館内に入るとチケットを係員に渡し契ってもらい。半券は思い出として大切に取っておこうと財布の中に大事に収め。「子供じゃないんだから大丈夫です～。仮に迷子になったとしても透くん背高いし案外すぐ見つけれるって！」と過保護な相手を余所に呑気な返しを。薄暗い館内を順路の通りに進んでいくと、相手が見たがっていたクラゲの水槽が見えてきて　）
え、無理無理。普通にバッチリ聞こえちゃったんですけど。さっき妬くって言ったよね！？それってどういう意味？