日溜まりを縫いつけて ( 〆 )　

まあ…そりゃそうだけど。うおー、すげぇ綺麗。
(　相手の発言は正論の筈なのに、どこか納得し切れない自身がいるのは何故か。解消しきれないまま道順に沿って歩けば、目的の一つである大きな水槽が並ぶエリアに辿り着き。ふよふよと泳ぐ姿に「来世はクラゲになりてぇ」と社畜渾身の一言　)
うるせ、聞かなかった事にって言っただろ。…ただ、お前が別の奴と仲睦まじくこうやって会話してたら、なんかモヤッとするだけ。はい、お終い！これ以上は話さねぇ。

ほんとだ、綺麗…！このクラゲ赤ちゃんかな、まだ小さいよ～！
（　沢山の種類があるクラゲの中で一際小さなクラゲが泳いでいる水槽を見つけ釘付けになり。小さいながらも一生懸命泳ぐクラゲを指先で追いかけながら楽しそうに相手を見た矢先、幼馴染の一言に「…あー、クラゲって自由だもんね…」と同情の眼差し向け　）
…何それ、なんか変に期待させるような事言わないでよ。

本当だ、ちっせぇ。可愛いな。
(　一際小さなクラゲを指で追う仕草に微笑ましそうに双眸細め同調の旨を語るも、次いで同情の色濃い眼差しに戯れに脅すように「んな事言ってられんのもいつまでだろうなぁ」と間延びした声で応じ。薄暗い中水槽の水が照明に反射し照らされクラゲの展示に気を惹かれて数分、次は何処を見ようかとパンフレットを開き　)
っはは、拗ねんなよ。なに期待してたの。

次何見に行くー？
（　パンフレットを開いた幼馴染の傍に向かうと同じ様に覗き込み視線上げて。まるで脅しのように聞こえる言葉に「うーわ、その台詞これからっていうJKに言う？」と半分呆れ顔で問いかけ再びパンフレットに目線移し　）
べっつに～？今の透くんには言わない！

ペンギンの散歩まで少し時間があるな。適当に展示眺めつつ移動すっかね。…手ぇ、出して。
(　記載されたタイムスケジュールを確認後、無難な行先を提案し。呆れ顔で物言う相手には「社畜の英才教育」と冗談ともつかぬ短な返答を述べ。クラゲの展示場にも徐々に人が満ち、パンフレットを眺める相手と逸れる事を危惧し何気ない雰囲気を装いながら告げ　)
いつの透くんなら聞けんだよ、それ。……まあ似た事考えてりゃいいな、とは思うけど。お前のポジティブさ、俺にも移ったかな。

そろそろ人も増えてきたもんね。…え、手って…こう？
（　気がつけば疎らだった客も賑やかさを増し行き交う人と接触しそうになっていて。幼馴染の言う通り場所を移動する事に同意し、英才教育と言われてしまえば返す言葉なく静かに頷き。その後発せられた言葉に驚き僅かに反応遅らせ、もしかしたら聞き間違いかと思い遠慮気味に右手をゆっくり差し出し　）
それは私にも分かんないけど…。明らかに私のポジティブ移ってるじゃん！…で、似た事って透くんは何考えてたの？

これなら逸れねぇだろ。少しは〝デート〟っぽくなったな？
(　遠慮気味に差し出された手を、割れ物を包むよう優しく自身の左手と繋ぎ。自身の掌より幾分も小さく確かに温もりを感じるそれに満足気に口角上げ、仄暗い中相手の顔を覗き込むようにして悪戯っぽく笑み。「嫌だったら振り解いてくれていいから」と遅れ馳せながらも気を配り、道順に沿う形で進行しようと　)
ポジティブな社畜とかワーカホリック直葬じゃねぇかよ。流石の俺も潰れるわ。…それ聞く？

へ？…あ、うん！だねっ。
（　優しく包み込まれるような感覚に不覚にもドキッと胸が高鳴り、何ともだらしない声が初めに出てしまいその後の言葉も上手く繋がらず。顔覗き込まれると気まずさからか少し視線ずらし「今はデートなんだし…逆に振りほどくのは違う気がするからこのままでいる」とほんの僅かにきゅ、と力強めるように握り返し順路を進んでいくと、円形状の水槽に大量の鰯達が群れを為していて　）
ですよねー。ま、もし潰れたら私が介抱してあげるから安心して！え、聞いちゃダメなやつだった？

…すげぇ迫力。──ん？
(　ほんの僅か握り返された手に意識が向き、驚愕から言葉疎かに「おー…」と生返事を放つも、徐々に安堵と喜色が勝り。足取り軽く、と言えども歩幅を合わせて歩んでいけば眼前の水槽に自然と瞳奪われ。ぽつり呟いた直後、幼馴染と繋いだ手の反対側から引っ張られる感覚があり。視線を落とすと幼い女の子が一人、双眸を潤ませこちらを見上げており　)
更に菜月に世話ばっか掛ける事になんだろ。それは不本意。駄目ではねぇけど……あ、「今の菜月には言わない」。

キラキラしてて綺麗…！透くんどうしたの？
（　薄暗い館内の中、水槽を照らす照明に反射しながら泳ぐ姿はとても幻想的で。片手でスマホ操作し鰯の群れを動画に撮り。ふと相手の様子が気になれば同じ様に視線落とし女の子の姿捉え、直感で迷子だと悟れば辺りを見渡し女の子の目線に合わせしゃがみ込み「もしかしてママ達とはぐれちゃった？」と怖がらせないように柔らかい口調で問いかけ　）
私は別に苦じゃないからいいんだけどなー。どうせ透くんは頼る人居ないんだし！…あー！！その返しは卑怯！

んー…子供探してるような人はこの辺りには居ねぇけど。もしかして一人で移動して来たのか。
(　幼馴染の柔い口調に安心したのか、ぽろぽろと大粒の涙を溢しながら頷く少女を視認すれば、長身を活かし辺りを確りと見渡して。少なくとも現在のエリアに親御と見受けられる人物は居らず　)
…なんつーかね、俺が嫌なんだよ。わーお、すげぇ刺さる事言うじゃん、全く以てその通りなんだけどさ。先に言ったの菜月だろ。卑怯で結構。

イルカショー迄にはまだ時間あるし、一緒に探してあげようよ。
（　涙を流して俯く女の子の頭を優しく撫で持っていたハンカチで拭いてやり。近くに両親が居ないとなれば、移動している内に両親に会えるのではと考え提案して　）
プライド的なやつ？…あ、ごめんつい。そりゃあ…先に言ったけどさ、真似する事ないじゃん。

いいよ、探すか。
(　提案に躊躇う事なく一つ返事で同意して。名残惜しさを感じながら幼馴染と繋いだ手を解き「多分お前の方が安心すると思うし、繋いでてやって」更なる迷子防止策として促し。代わりにパンフレットを開き、親子連れならば何処へ行くものかと思案して　)
プライドも多少あるけど、お前の時間奪っちまうのが申し訳ない。拗ねた？ふ、…ごめん。菜月が反応良いから、たまーに意地悪してみたくなんだよな。

…また後で繋いでくれる？
（　自然と解かれた手に若干の寂しさが残れば相手に視線向け問いかけて。その後は女の子と手を繋ぎ、女の子が不安にならないように様々な話題を話して。パンフレットを開く相手に「ね、ここは？触れ合いコーナーって親子イベント開催してるみたいだし」と現在地からさほど距離のない場所を指差し　）
もーう！そんなの気にしなくていいのに。私だって自由にさせてもらってるんだから。…拗ねるに決まってんじゃん、透くんのばか。

…そのつもり。
(　可愛らしい要望に口角を緩め頷き。対幼子に一生懸命な姿勢を誇らしくさえ思えば、そう遠くも無い未来の幼馴染の片鱗を視たような錯覚に陥り眩しげに双眸を細め。パンフレット上にて指し示された箇所に合点がいき「親子イベント…。遠くもねぇし行ってみるか」と賛同し。人避けも兼ねて自身が先頭に立ち、後ろに着いて来るよう一声掛けてはマップに沿い歩み始め　)
自由云々は仕方ないだろ。頼ってくれた限りは力になりてぇし。あ゛ー……あのなぁ、お前…。

…ありがと。
（　予想外の返答に頬緩め嬉しさ滲ませ。他愛もない会話で女の子にも次第に笑顔が垣間見えればホッと胸を撫で下ろし。「そこに居るといいんだけど…」と自分から提案したは良いものの、若干の不安があるのか語尾は小さく、女の子の手をギュッと握り直し幼馴染の後を着いて行き　）
ほんっと、優しいというかなんというか…透くんが幼馴染で私は幸せ者だ～。…何か問題でもー？

取り敢えず一周してみるか。──っと、すみません。大丈夫ですか？
(　凡そメインであろう水槽や子供達が輪になり集うカワウソとの触れ合い場には、迷子の親らしき人物は居らず。入れ違った可能性もあるかと不安要素が脳裏を掠めた瞬間、急ぎ足の男性とぶつかり僅かによろめき。長身を屈め顔を覗き込めば男性に腕を掴まれ、女の子見てないですか、と涙ながらに問われ　)
お前の幸せ安いなぁ…。そう言って貰えんのはすげぇ嬉しいけど。……いや、何でもない。何の問題もない。多分。

透くんどしたの？
（　女の子と話に夢中でやや幼馴染と距離が空いた事に気付けば手を引き急ぎ足で近付いて。幼馴染が誰かに腕を掴まれた様子を見受ければひょこっと顔を覗かせて。その時「パパ！」と女の子が声を上げその男性の元へ駆け寄っていき　）
安くてもいーのっ。え、なになに？もっと感謝してくれてもいいんだよ？…ふうん、変なの。

ん、早速見つかったらしい。お前の見立てで正解だな。
(　特徴を聞こうと口を開いた瞬間、背後から駆け寄ったのは先程幼馴染と保護した女の子で。腕を掴んでいた男性はふらふらと膝をつき、思い切り娘を抱き締め「よかったあ！」と人目気にせず涙しており。微笑ましさの余り緩く表情崩しつつ、幼馴染に端的な説明を施し　)
ああでも、俺だってお前が幼馴染でよかったと思うよ。こら、感謝のカツアゲをするんじゃない。…変にさせてんの誰だよ。

ほんと？よかった…。ね、透くん行こ？
（　親子の感動の再会にこちらも涙腺が緩めば指で軽く拭い。一件落着すれば幼馴染の腕辺りを軽く触り移動を促し。イルカショーにはもう少し時間があり、タイミング良くペンギンのお散歩が開始するというアナウンスが流れ「あ！透くん、ペンギンのお散歩だって！」と一人でテンションMAXになり　）
それってどういう所が？やっぱお世話してくれるから？やだなあ、カツアゲなんて人聞きの悪い。お強請りって言ってよ～。…え、私のせい？