『　雪と、紅椿　』〆

そりゃァ良かった。でもまァ、一番の気晴らしになるのは外に出る事だろーよ。偶にはお前も新兵の訓練に顔出してみたらどうだ？
（時間があるならだけど、と付け足すようにして述べた提案は、前々から指導教官に頼んでみてはくれないか、と言われていた事柄である。無論その事について相手に強要するつもりも無いのだが、上官である相手が出て来れば新兵たちの士気も上がるのでは無いか、との思いもあるのは事実である。外へと出て行けば丁度終わった頃合いなのだろう、其々に帰って行く新兵たちと片付けに勤しむ教官の姿が見える。真っ直ぐに教官の元へと歩みを進め、コソコソと耳打ちをした後に貸して貰ったのは訓練用の殺傷能力が低い二本のサーベル。自分が腰から提げている物を外し、地面へと置いてから相手へと借りた一本を渡して。中央付近へと立てば背筋をピンと立たせ、足は左足を前にして直角に開き。此処まですれば、騒ついていた新兵たちも何をするのかが分かったのだろう、十分過ぎるほどのスペースを空けて此方を見詰めている。片側の口角を上げ、サーベルの持ち手へと片手を掛けて相手が準備を終えるのを待ち）
実戦じゃねェんだから、流石に殺しまではしねェよ。──さて、早速手合わせ願いましょうかね。

…嗚呼、偶には顔を出せるようにする。
（相手の提案に頷きつつそう返事をして。司令という立場にいる以上、第一線で活躍せんとする新兵の訓練に関してはこれまでほとんど関わる事が無かったが、時間を取れる時はなるべく顔を出せるようにしようと約束し。相手が声を掛けに向かった指導教官と視線が合うと敬礼をしつつ、片付けを終えた新兵達が何事かと囁きを交わし始める。その中で相手からサーベルを受け取ると纏う空気は鋭いものへ。周りを囲うように緊迫した雰囲気で此方を見つめている新兵たちの視線を感じつつも相手と同じように構えの姿勢を取ると口を開き。）
──久し振りだな、お前とこうして向かい合うのも。好きな時に始めて良い。

おう、お前が出て来たらアイツらも喜ぶと思うよ。
（まさか受け入れられるとは。ほんの一瞬驚いたかのような表情を浮かべた後、すぐに笑みを浮かべ。何だかんだと律儀で仲間思いの相手の事だ、口約束で終わらせる心配などする事もないだろう。鞘から引き抜き、その切っ先を自分の右斜め下へと向けるようにスンと振り下ろせば、普段緩い弧を描いている口元を横一文字へと引き結び纏う空気は幾らか緊張を孕んだ物へと。司令を主とする相手だが、銃火器の方を得意とする自分との剣の腕前は恐らく互角。久し振りの良い緊張感を持った手合わせに、背筋を武者震いに震わせ。乾いた下唇を潤すように舌でそっとなぞってから口を開き。じい、と相手の動向を確認するかのように視線をそらす事は無く）
そうだな、俺らが軍に入った時以来か？──ああ、朔弥も好きなタイミングでかかって来い。

──それじゃあ、お言葉に甘えて。
（相手の言う通り、こうして手合わせをするのはほぼ軍に入って以来と言えるだろう。まだ彼らのような新人兵だった頃、相手と向き合って無我夢中で訓練に励んだ頃を思い出して一瞬笑みを浮かべ。相手の返答にはそう返事をしつつも暫く互いに見つめ合い、行動を窺い合う沈黙が続き、その両者の鋭い殺気に周囲で見ている新兵達の緊張も最高潮に達しようという頃、左手を腰へと当て、足を踏み出すと鋭く斬り込み。体格は軍の中では取り分け良い方ではないが、その分小回りが利き軽やかに身をこなせるのが昔からの持ち味だ。決して相手からは視線を逸らすことなく、初めの一手を相手が防ぎ斬り返して来たのを皮切りに、サーベル同士がぶつかり合う音が響き。）

（ジリジリと間合いを測るような、この緊張感が心地良い。周囲を取り囲むようにして行方を見守る新兵たちの息遣いまでもが聞こえて来そうな静けさの中、不意に踏み込みと同時に鋭く斬りかかってくる相手の刃を受け止めてから、左側へと流すように軽く手首を返し。力や経験では負ける事は無いだろうが、細身の相手は小回りが利く。訓練を共にしていた頃も何度と無くそれに苦戦を強いられて来た。互いの刃がぶつかり合う音が辺りへと響く。斬り返されればそれを受け止め、剣尖が乱れた所に斬りかかればそれを受け止められ。一進一退の攻防は相手と同じ身分であったときの事を思い出させる。半歩ほど後退しつつ相手の剣を受け止めれば小さく笑みを浮かべ）
──攻撃の手法が変わってないな。こうやって手合わせをしてると訓練兵の頃に戻ったみたいだ。

──幾度となく共に稽古を重ねたお前には、一手先まで読まれていそうだけどな。
（相手からの斬り返しを再び受け止め、一旦相手と同じように半歩下がりそう答えて。訓練兵の頃から2人で稽古を重ねた、そのため自分の強みも弱みも相手にとっては分かりきった事だろう。逆に相手は力が強く、その一振り一振りに威力があり経験も豊富で。相手との手合わせでは昔から変わらずその力に押されて防御に徹しがちになってしまうことが多々あり、また一瞬でも隙を見せれば急所を突かれ兼ねない鋭さを持ち合わせていて。互いの刃が激しい音を立てる度に、周りで見ている新兵達から息を飲む音が聞こえるようだった。相手の攻撃を交わしつつ、やや斜めから再び踏み込むと相手に斬りかかり。）

──俺の方こそ、お前に手の内を読まれてそうだけどな。
（手合わせをしていなかった時期は確かにあるが、こうやって剣を交えれば矢張り染み付いた癖も出て来る。今日だってそうだ、力で押し切る事が多い分スタミナが切れるのも早い。斬りかかってきた刃を寸前の所で受け止めるものの、無理な体勢で力を込めることなど出来るわけもなく、代わりにバランスを崩して片膝を付いてしまい。ギリ、と奥歯を噛み締めいっそのこと降参をしてしまおうか、とも考えるもののそれをさせないのは己のプライド。訓練兵たちが見ておらず、此処が二人だけの空間であったのならばちんけなプライドなど捨てても構わないのだが、戦場へ出た時の自分の立場を考えれば捨てる訳にはいかないのだ。相手の剣を受けていた力をふっと抜けば、間合いを詰め己の剣尖を相手の首筋へと当てようと）

──…！
（バランスを崩した相手を見て掛かったと思ったのも束の間。そのまま力を込めて押し切ろうとした刃は、不意に抑えが無くなり次にバランスを崩したのは此方の方で。ぎりぎりの所で態勢を立て直そうとしたものの既に首筋には刃が添えられており、その時点で張り詰めていた鋭い殺気はふと緩み。僅かに表情を和らげると態勢を立て直し服に付いた汚れを軽く払いつつ相手に手を差し出して立ち上がらせ。やはり実戦でいざという時に機転が利くのは相手の方だ。周りの兵士達も一瞬の事にまだ決着が着いたことがわかって居ないようだったが、久し振りに身体を動かしたことで気持ちがすっきりしたのは確かで。）
──…さすが、お前の勝ちだ。もうひと押しだったんだけどな…実戦だったら、俺は即死だ。

（右手を左斜め前方へと上げ、相手の首筋へと当たるか当たらないか程度の場所に刃を突きつけ上がった息を整えるかのように肩を上下させて。相手が纏っていた殺気が無くなった事に気づけば、此方も肩の力を抜きふっと表情を和らげて。差し出された手を借りて立ち上がれば、膝についた砂をぱんぱんと軽く叩き落としてから、サーベルは鞘の中へ。戸惑うかのような静けさの後、少しずつ大きくなっていく歓声に辺りを見回した後に笑顔を覗かせ）
──…嫌、俺も危うかった。普通なら上官に華を持たせるべきなんだろうが、新兵たちが見てる中だ。許せよ。

気にするな、こういうのは第一線で活躍してる奴が花を持つべきだ。実際に俺も手加減はしてない、お前の実績だよ。
（兵士達の前で笑顔を見せる事などこれまでも滅多に無かったが、相手の言葉にはそう言って表情を緩め。実際に司令という立場に着いてからは稽古をする時間も無く、実戦からは暫く離れていたため身体が鈍っているのを痛感させられた、相手にも勧められた通り定期的に稽古に顔を出すべきだろうと考えつつ。大きくなる周りの歓声を聞きながらも、基地の二階に戻ればまた無機質な地図や書類が待っていると溜め息を吐き。その場に居た面々が各々訓練場を去る準備を始めた頃、まだ興奮冷め止まぬ新兵達の喧騒の中、相手に届く程度の大きさで声を掛け。）
──新、久し振りに今夜一杯飲みに行かないか。任務も今日は早めに切り上げる。

そう言ってくれると助かるよ。
（大勢の人がいる場の前で笑みを浮かべる事などあまり無かった相手の表情に驚きはしたものの、相手とて笑わないわけではない。他が取っ付きにくいと思っている相手も、こんな表情をするのだ、と言いたい所ではあるが新兵たちは興奮覚めやらぬ様子で付近にいるもの同士で会話をしている。そんな様子に苦笑を浮かべるものの、隣から聞こえて来た名を呼ぶ声に小さく首を傾げつつ見やり。相手の部屋で語らうことは多けれ、外へと出る事は久しい。少しの驚きと多くの喜びが混じり合った表情は形容し難いものとなっただろうが、きっと相手には届いているはず）
──朔弥からの誘いなんて珍しいな。断るわけ無いだろ、何処かで落ち合うか？それともお前の部屋まで呼びに行くか？

決まりだな。…手間で無ければ呼びに来てくれると助かる。作業に没頭してすっぽかしでもしたら困るしな。
（相手と居る時だけは随分と自然に喜怒哀楽を表現できるものだと自分でも不思議に思いつつ、相手の返答には満足気な表情を。相手の反応を見る限り、久しい自分からの誘いを喜んでくれているのだろう。此の所互いに忙しく、ゆっくり食事に行く暇も無かったため良い機会だろうと考えつつ。仕事に関しては一度一つの事に集中するとそれ以外見えなくなる性質のため、約束をすっぽかさない為にも、と約束の時間になったら呼びに来て欲しいと伝えつつ、そうと決まれば早々に片付けてしまわねばと服を整え軽く片手を上げると、将校室へと再び戻って行き。）
──それじゃあ、また夜に。

背後が失礼したばかりなのにすみません。明日より数日間、リアルの方の事情によりレスの頻度が下がってしまうかと思います。もしかするとお待たせしてしまう可能性もあります事、ご了承いただければ幸いです！

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ああ、わかった。それじゃあ、手が空いたくらいの時間に呼びに行くな。──ああ、夜に。
（小さく一度頷いた後、笑みを浮かべ去って行く相手の後ろ姿を見送り。相手の執務が終わるまでにはまだ時間はある、一度充てがわれている自室へと戻り先程の手合わせでかいた汗を流そうと。自室へと戻る足取りを止めるのは、手合わせの様子を見ていた新兵たち。何やら興奮が収まらぬ様子で言葉をかけられるものの、その全てが耳へと入って来ている訳ではない。借りていたサーベルを教官の元へと返し、己の物を再び腰へと提げてから部屋へと。軽くシャワーを浴び、軍服から私服姿へと着替えてからロッキングチェアへと腰をかけ、時間が過ぎるのを待とうか）

承知致しました！ご報告ありがとうございます。
ご無理はなさらず、ご自分のペースで大丈夫ですので！

…………

（相手と別れ将校室へと戻ると再び机に向かい地図を広げて万年筆で必要な情報を書き込んで行き。時折上官からの電話を受けたり、書類を纏めたりと仕事をこなしている間に気づけば窓の外は日が沈んでいて、兵士達の声も聞こえなくなっており。約束の時間が近づいた頃、ようやくその日中にこなそうと考えていた全ての執務を終えると息を吐いて椅子の背凭れへと身体を預け。少し開けた窓から吹き込んでくる優しい風が心地良い。掛け時計に視線を向ければ、約束の時間まではあと半刻ほど、相手が迎えに来てくれるため少しくらい良いだろうと気を緩めた所で、椅子に凭れたままうつらうつらと微睡み始め。）

下がって来たから一旦上げておく。
無理し過ぎるなよ。

遅れててすまない。少し多忙期が長引いててな。
もう既に待たせてしまってて言えた事じゃねェが、もう少し待っててもらっても構わないか？

連絡ありがとう、勿論待ってる。
声が聞けて安心したよ、無理し過ぎないようにな。
此処で待ってるから、安心して頑張って来い。

お前がすぐ見つけられるように、上げておく。

もうすぐ一ヶ月経つのを前に、もう一度上げておく。
落ち着いて、また戻ってきてくれると嬉しいんだが…まだ、忙しくしているんだろうか。
もう少し此処で待ってる。

朔弥、待たせてしまってすまない。
実を言うと忙しくしていた間に、なりきり自体に触れていなかった分ロルを巧く回せなくなってさ。──まァ、所謂スランプってヤツだ。待たせたぶん、しっかりとしたものを返したいと思っている内に、ドツボにはまってて書きたい事は分かるのに、言葉が浮かんで来ないんだ。
お前にはもっと相応しい人が居るんじゃないか、なんて考えてこのまま行方を晦まそうかとも考えた。でも、お前とのやり取りが楽しい事は曲がりも無い事実でさ…。きっと、これまで以上に拙い描写回しになると思うし、時間も掛かるとは思う。それでも、お前と、──朔弥と話したい。朔弥が待てないと言うんだったら、俺は大人しく身を引く。少し考えてみてくれないか？