〖 非募集 〗砂糖と昼寝。

んな事ねぇよ。お前にはお前の良さがあるだろうし、だからこそソイツも晴の事選んだんじゃねぇの。(微かに震えの交じる声に所々小さな相槌を打ちつつ聞いていれば、此方へと体を向け肩口に顔を埋める相手。その様子に少し驚いた表情を見せるも直ぐに相手の背中へと手を回し、その程度で落ち着くかは不安であるが緩く背中を摩りつつ。空いている方の手でその前髪を掻き上げ額に軽い口付けを落とし)…晴も頑張ってんだから、ソイツも少しくらい頑張ってたらいいと思うんだけどなぁ。……よしよし、辛いな、しんどいな。

そ、かなぁ…。…少しは傍に居た意味、あったら良いな。(相手の腕に包まれる事でまた少しずつ落ち着きを取り戻すと、目を閉じて与えられる温もりに意識を傾けながら小さな声で呟き。そこへ前髪を掻き上げられると薄く目を開くも、額に触れた優しい感触に再び瞼を下ろして。労いの言葉が限りなく無いに等しかった自己肯定感を潤し、胸に込み上げる温かな思いにまた涙を誘われると、わけもなく相手の名前を呼びながら首元に手を回して弱い力で抱き締め)ん、…綾ー…。

絶対あったはず、だから自信持て、な？(とんとん、と小さなリズムを刻みつつ子供をあやす様にしてその背中を撫でていれば突然首に回った相手の腕。弱い、力の入っていないものではあるものの意識のしていない所からのそれは驚き軽くバランスを崩すには十分なもので。少し後ろへと倒れかけるものの持ち直せば抱き締められる事に応えるように相手の背中へと回している腕に力を入れ直し)…ふは、なぁに不安になっちった？大丈夫大丈夫、俺はここに居るから。

…ん、ありがと。(僅かに傾いた相手の体が安定したと分かると、僅かな距離を埋めるように両腕にほんの少し力を込め。言い聞かせるように告げられる言葉に小さく何度か首肯しては、漸く幾分か晴れやかな声で礼を口にする事ができ。問い掛けに答えて自分の心中を吐露する程気持ちが昂り、大粒の涙がまた相手の服を濡らす上に治まったはずの嗚咽が漏れる中、上擦った声で呟き)いっぱいいっぱいで、…不安だし…。でも、辛いって思って良いんだ、って思えた。頑張ったの、やっと分かってもらえた、って、思って、…涙止まんねえ…。

(相手が首元へと回す腕へと力を込めれば密着度の高まる距離。少し晴れやかに聞こえた声も少しの間、再び嗚咽混じりの上擦ったような声へと変わっていき。とんとん、と一定のリズムを刻む手の動きは止めること無く、空いた片手を頬へと添えれば顔を上げさせて。目元へとその指を往復させつつ涙拭えば小さく笑い声上げ)なぁに、また泣いてんの？そろそろ晴の笑った顔見たいんだけど？

何言ってんだよー…今泣いてんのは綾のせいじゃん。(背中を優しく叩かれ気持ちは徐々に落ち着いていき、乱れていた呼吸も次第に治まり。頬に触れた手にされるがまま顔を上げるも、泣き腫らした酷い有様を見られる事に少々抵抗を感じ、目を伏せながら涙を拭ってくれる指先に甘んじていて。いい加減泣き疲れた上に泣き過ぎで頭痛を感じ始め、揶揄うような言葉に眉を寄せるものの、威勢に欠いた言葉で反論する事しかできず)

っは、確かにそうだわ。…結構泣いたけど頭とか痛くねぇ？(促すままに顔を上げる相手に、そのまま表情を見せてくれるかと期待していたものの瞳は伏せられたままで。一通り流れてくる涙を拭い終えればふと思った疑問を口に。頬に当てていた手は心配をするようにそのまま頭の方へと伸びていけば、優しく押さえるようにして。小さく首を傾げつつその返答を待ち)

…少し。(散々流した涙も拭ってもらい漸く少し腫れてしまった目を開いた時、今正にズキズキと痛みを催す頭について問われると短く肯定の言葉を返し。衝撃が痛みに繋がるのを懸念してゆっくりとソファーに体を沈めると、相手の肩に頭をのせて小さく息をついてからぽつ、と問い掛け)…すげえな、何で分かんの。

…やっぱな。(素直に肯定の言葉を返してくれる相手に苦笑混じりの笑み浮を見せつつ。己の肩へと相手の頭が乗っかる感覚を感じれば、くつりと笑い声を上げ。人差し指をぴんと立たせ、相手の方へと顔を向ければぱちん、とウインクをして冗談めかした表情で)んー、魔法、つったら怒る？

…ふはっ、何だそれ、無駄にかっこつけやがって。頭痛いんだから笑わせんなよ。(突然何を言い出すのかと思えば、あまりにも拍子抜けな言動に一瞬言葉を失って目を見開くも、込み上げる可笑しさに弾かれたように肩を震わせて笑い出し。笑ったお陰で滲んできた涙の名残を指で拭うと、未だ緩んだままの表情で文句を口にして)

おー、笑った笑った。泣いてるよりそっちの方が断然好きだよ、俺。(笑わせようとした訳では無い、それでも笑みを見せてくれた相手の頭をわしゃわしゃと軽く撫で。緩んだ表情で紡がれる文句は痛くも痒くもない、ふはりと吐息と共に出した笑い声は予期していない産物を素直に喜んだもので。思い出したように頬をぽり、と掻きつつ)あー、そういや頭痛てぇんだったな。薬いる？

…あー、今ちょっときゅんってした。(不意に頭を撫でられると目を伏せてされるがままにしているも、その手が離れていくと乱れた髪を軽く整えるように指を通し。その間にもすぐ傍にある笑顔にほんの少し孤独感が薄れるのを感じ、わけもなく前髪を撫で付けながら呟いて。思い出したような問い掛けに笑みを浮かべながら答え)いや要らねえ。たぶんそのうち治るし、このままで居たい。

ちょっと、じゃなくてきゅんってしてくれて良いんだけど？(目を細めつつ、相手の様子をじっと見つめ。前髪を撫で付ける相手の手首を掴み、そこから離せば前髪へと軽いキスを落とし。にっ、と笑を浮かべればそのまま相手の髪を梳くようにして撫で。相手の肩へと腕を回し、己の肩に乗っかっている頭の上に軽く顎を乗せつつ)あーもう、ほんとかぁわいい事言うな。んな事言ったら離してやんねぇよ？

ん、する。…けど今好きになったら綾に迷惑掛けるから、あんま気い持たせんなよ。(思いもよらず手首を掴まれると驚きに身を固めたまま相手を見詰めるも、互いの距離が縮まれば咄嗟に目を閉じ。しかし僅かに前髪が揺れた程度で離れて行く気配がすれば、それに応じて目を開いた時目の前にあった笑みに思わず鼓動が跳ね。相手の言葉には小さく頷くも、堪えるように目を伏せて髪を撫でる指先の感触に意識を向けながら告げ。可愛い、と言われた事に関し少々遺憾ではあるものの、それについては言及せずに表情を緩め)良いよ、離さなくて。…すげえ安心する。

んー、今好きになってくれても俺は構わねぇんだけど？(髪を梳く手を止める事は無く、そのままゆっくりと頭を撫で続け。何処かで聞いたことのある言葉が相手の口から出てくれば、今表情が見えていないのを良い事にツンと鼻の奥が痛む感覚を放っておけば、薄らと目元に涙が滲み。先程までと変わらぬ声色を装うものの時折すん、と短く鼻を啜る音を我慢する事は出来ず)…ほんと、かぁいいわ。晴の事離したヤツの気が知れねぇ。

だめ。俺の気持ちも完全に整理できたわけじゃねえし、綾だってもう少し時間が必要だろ。…ちゃんと綾の事、大切にさせて。(相手の言葉は甘美な響きを持って脳裏に残るが、自らを律するように小さく首を左右に振り。静かな声で相手に対する自分の気持ちを吐露するも、声の調子やその様子から相手自身に何かしらの変化が起こっている事に気が付き。甘ったるい言葉が胸の内を擽っても相手の事が気になってしまい、目を開いてゆっくりと体を起こすと顔を覗き込んで)…綾？

よく出来た良いヤツだな、晴は。…ほんと、俺なんかには勿体無いくらい良いヤツだよ。(小さく首を左右へと振り、先程の己の言葉を否定するように、それでも己の事も確りと考えてくれている言葉に小さく吹き出して。相手が目を開き、此方を覗き込んでくれば、ふいと視線を逸らし赤くなっているであろう瞳は見られないように。ぐい、と涙の溜まった目元をパーカーの袖口で拭いつつ)…ごめんごめん、泣くつもりなんて無かったんだけどな。やっぱ俺も弱ぇわ…。

…まだ忘れられない奴が居る中途半端な俺を受け入れてくれる人が居たら、その人を絶対大切にしようって決めてたんだ。そういう存在って、すげえ貴重でなかなか手に入らないだろ。だから全然勿体無くねえし、俺が特別良い奴なわけでもない。(身に余る程の褒め言葉にも、吹き出す相手にも言いたい事は諸々あったのだが、何より優先して伝えておくべき気持ちをできる限り簡潔に告げ。逸らされた視線を追おうとはせず、ただ僅かに眉を下げて相手の様子を見詰め。次第に胸が締め付けられるような苦しさを感じると、両手を相手に向かって広げ)…なあ、抱き締めさせて。

…んなの、俺だって忘れられてねぇヤツ居るんだからお互い様じゃん。(相手が思っているであろう事を素直に伝えられれば、一呼吸挟んだ後にぼそりと呟くように。微かに震える口元を腕で覆い隠すようにして、相手の方へと視線を向ければ両腕を広げた状態の相手の姿を捉え。素直にその中へと体を預け、相手の胸元へと顔を埋めつつ)…俺の場合さ、引き止められたかもしんねぇの。ってか、アイツが出てったってより期間限定だったからさ…俺が我侭言ったらアイツとの関係続いてたかもしんねぇの。

そうだけど…それでも良いって思えるくらい惹かれたから。それは前言っただろ。(先程よりも翳りがある相手の様子に漠然とした不安を抱いて眉を下げながらぽつりと答え。予想に反し素直に身を任せられると微かに頬を緩めながら優しく背中に腕を回し、相手の言葉に耳を傾け)…でも我儘言わなかったんだ。