夕暮れ、届かないキス。 /〆

 夕暮れ、届かないキス。 /〆

匿名さん  2018-06-10 21:12:24 
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お声掛けしてくださった方待ち、





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  • No.81 by 爆豪/耳郎  2018-08-19 16:45:13 





爆豪

あん? んなの俺の自由だろが
( 本当の乙女は自分をそうやって呼ばねえ。見るなって、寝顔のことでも言ってんのか。いやここで寝ることを了承したっつーのは、この公共の場で寝顔晒しても構わないってことと同義だろ。と言うものの元より大して見る気もしない。眠らせたいのに俺が見詰めていては視線の圧迫がどうのとかで寝れんだろ。「先に言っとくが途中で起きやがったら脳天爆破させんぞ」掴んでいた鞄を床に下ろしながら横目で奴を捉える。こうでも言っとかねえとコイツは絶対眠らねえだろ。奴が来る前のように再びソファの端に腰を下ろして「はよ寝ろ」そもそも時間があまり無いに加えて眠るまでにも少々時間は必要なのだからと、急かすようにべしべしソファの隣を叩く。中に詰められた綿が柔らかいので、大体の音を吸収してさして部屋には響かなかった。 )

耳郎

( 平日の夕方ってのもあって、レジは結構空いていた。でもまあCDの発売日って多少重なるものだから少しは並んだけどアイドルの握手会レベルじゃないので楽なもの。ていうかよくよく考えたら好きな人と好きな物買いに来るってめっちゃ凄いことなんじゃないかな。だってハッピーアンドハッピーって訳だし、あーやばいまた顔が緩んでくる。えへとかへけとかもう笑顔満開で今後一週間は持つな。ともあれレジも済んだんだから、早く上鳴の所に戻ろう。ちょっとここからは少し入り組んだ道だったから遠めなんだよねと来た道をきょろと頭を動かして探していく、)
…え、あ…あ~うん、久しぶりー…。
( 背後から急に響香って呼ぶ声がするものだから本当に驚いた。久しぶりとかさっき見かけたからとか声をかけられたけど、急過ぎてぼんやりとした返事しかできなかった。あんまりこういう体験無いから断言しにくいけど、多分、絡まれた。中学の同級生だった、男子女子混合グループ。でも話しかけてきたのは男子二人で、女子二人は後ろの方で男子一人混じえて楽しげに話しているのが隙間から見えた。懐かしい、と言えばまあその通り。でも会いたいわけじゃなかった。タイプが何となく合わない人達だったから。クラスでも比較的派手なグループで、ウチも趣味がアレなもんだから結構この人達には話しかけられたりしてた。そんなに悪い人達でもない。でもまあ、時々暴走する人が集まってるんだよね。学校行事でそういう権力発揮してクラス振り回したりとかしてた。ウチもまあ多少止めようとかしてたけど、それに意味があったのか今になっては分からない。普通の学校にいる普通の中学生。ウチも、この人達も。ぺらぺら話してくれる男子達には取りあえず愛想良く笑いながら、できるだけ棘のない言葉を選んで返す。正直この場から逃げたかった。上鳴引っ張って早く店から出て行きたかった。でも上鳴の名前なんか出したら余計めんどくなりそうだし、上鳴にも悪いから、取りあえず彼らの気が済むまで話に付き合うことにして。 )



  • No.82 by 成合/上鳴  2018-08-20 12:06:41 







成合

( 隣を叩かれた。って、もしかして本当にもしかしてだけど隣で寝ていいってことだろうか。今一瞬でも気を抜いたら頬が緩みきってしまいそうで困る。ああどうしよ、本当にどうしよう。寝られる気がしないんだけど本当にこの人私が自分のこと好きって分かってるのかな大丈夫だよねそこら辺。忘れ去られてたらそれはそれで悲しいんだけど可能性ちょっとあるよね?…でもとりあえず、寝るまで退いてくれなさそうなのは伝わる。戸惑いながらも近付いて彼の隣に腰掛け、靴を脱ぐ。一瞬迷うも欲には逆らえず彼のいる方へ頭を向ける形で横になり、背もたれに顔を向ければ小さく縮こまって。 )
…おやすみ、爆豪、
( 声をかけようかかけまいか数秒迷った後そう控えめに挨拶をし、心臓はドキドキで眠れる気がしないのだけど脳天は大事なので目を閉じておく。するとまあより隣の存在感っていうのが感じられるようになるわけで、今更なんでこっちに頭を向けたんだろうなんて軽い後悔と幸福感に襲われながらも寝不足で蓄積された眠気にぼんやりと頭を溶かされ寝息を立て始め。 )


上鳴

( 耳郎遅くね?ってことに気付いたのはちょっと気に入ってきた例のアーティストの歌を3回聴き終えた後だった。音が消えたヘッドフォンを所定の位置に戻し、電源を切っておいてやる。流石におせえからどっかで迷子になってるかもしんねーし探しに行ってやるか〜なんて激ユル思考でその場から離れると、程なくして耳郎は見つかった。と言ってももちろん道に迷ってるわけじゃなくて、よく見えねーけどなんかグループと話し込んでる最中らしい。えー大事な話なら俺待ってよっかな、まあでも連れだし問題ねーか、と2秒で割り込む決意をすれば、背後から近付き軽く耳郎の背中を叩いて。 )
おっせーよ耳郎、俺もう歌詞覚えるとこよ?何してんの?
( その勢いでグループの方に目を向けると、耳郎に話しかけていた奴らは同い年くらいか少し上にも見える。何つーか、耳郎と合ってるってよりか俺に近いタイプの人たちだ、実際俺のダチってこーゆー奴ら多いし。あーあーなるほどね、理解しましたよ上鳴くん。同級生かなんかがバッタリ再会しちゃった感じ?じゃあ俺結構マズイことしてるかもじゃね?いいや俺連れだし。つか女の子いんじゃんうわ超羨ましい俺も男女グループで出かけてー…。でも話してんのは前にいる男2人だけっぽいな。元カレ的なあれなんかなーなんて視線を向けるけど、まあなんかじろじろ見んのもなんか申し訳ねーし挨拶でもしとくか。「…えーっと、俺コイツの連れなんスけど…、」できるだけ朗らかに笑みを浮かべて相手のレスポンスを待ち。 )




  • No.83 by 爆豪/耳郎  2018-08-20 14:38:27 





爆豪

( 寝ろと言えば寝るので楽な奴だ。しかし、この女を連れている所を見られたくないが故に登校を早めるつもりだったんだが、とんだ展開になった。大体何で寝不足なんだコイツ。寝ろっつったろ。本人が眠り始めた頃にようやくイライラし始めて、見るなと言われた傍から寝顔を睨むように見詰める。そしてしばらくして再び考え込んだ。最近一人になると、自然に頭に浮かぶ煩わしい悩み。あの女を振れば俺達の関係は解消する。全て崩れて朽ち果てるのは、恐らく遠い未来の話じゃない。そうしたら、コイツと俺は一体どこへ行くのだろう。今のようには、ましてや昔のような二人にも戻らない。戻れない。やってしまったことは覆らない。だからアイツを振るタイミングでらしくなく悩んでいる。 )
…前に、『されたい』っつってたよな
( 年寄りみてえに考え込んで陰気くせえ。気晴らしを交えて目の前で呑気に眠りこける女の、頬に軽くキスを落とす。ついさっきまで自分で触れていた頬に口付けたというのが何だか変だった。離れるかもしれない女の唇に触れる気はなかった。…だからこんな風にコイツが俺の隣で眠ることもこれが最初で最後かも分からない。ならば一日、人目に付こうが朝共に登校しても同じなのだろう。俺と成合の最期の記憶になる。そうすれば俺はコイツの記憶の断片に永遠に居座るようになる。例えコイツ自体が忘れてしまおうが、この女は俺から離れられず、 )
………は、
( …俺も、コイツからは離れられない。今になって分かった。俺はもう、ずっと前に、心臓を奪われ、この女の存在に依存していた。異常な程に俺はコイツに囚われている。病だ。誰も治せない、憎たらしい病気。乾いた笑みが零れた。気が付くのが、遅いだろ。イカれてんのか。成合が俺から離れられないんじゃない。俺が、離れることを許さない。こんな所まで縺れ込んだ今になって、馬鹿か。嬉しさなんて無い。喜びも、何だって感じていないのに笑みばかりが零れる。今だけでもこの女と離れたくはないと願って寝顔を見詰めていたら、気が付けば自分も眠りに落ちていた。 )

耳郎

え、か、かみな、
( 恐れていたことが起きた。びゃっとか気持ち悪い声が出そうになるぐらいにはショッキングな展開だった。あーこれやばいよ、顔覚えられちゃうよ上鳴、この人達同じタイプっぽい人の顔すぐ覚えるもんとか勝手に一人で焦ってたら上鳴も勝手に話しちゃうし、ってか、連れ!?いやまそうなんだけど、そんな言い方すると絶対付き合ってるって思われちゃうでしょとか慌てメーターは最高潮。最初こそはぽかんとしてた男子も、上鳴が自分らとタイプ同じそうって思ったんだろう、にかーって眩しい笑顔浮かべてそうなんだーとか邪魔したねーとか色々口々にし始める。あ、待ってもしかして今が逃げ時かもしれない。脳が一瞬で判断して、また顔に愛想良い笑顔が浮かんだことを確認した後、「んーじゃ、ウチそろそろ行かなきゃだからっ、また今度ね!」空振りしてるように思うぐらい明るく別れの挨拶をしながら、背後の出口の方へちょっと強めに上鳴を追いやる。何も知らない上鳴には除け者扱いしているようで悪いかもだけど、勘の良い上鳴なら大人しく出口へ向かってくれるだろう。するとおっけーまたねーと後ろで話していた女子たちも皆手を振ってくれるので上手く行った様子。ほっとしながらこっちも手を振って、ゆっくり後退りしながら上鳴に向き直りかけたら、 )
――、え
( 強く腕を引かれて無意識に声が出た。体が少しよろける。さっき一番ウチに話しかけていた男子が、何か耳元で呟いているようだった。顔の方向の問題で彼の顔は見ていない。一分に満たない時間だったから何だか現実ではないようで不思議な気分。すぐに腕は離されたけど、まだ頭の中が茫然としていてぼんやりしながら彼の方を見遣ると、既にみんなはこっちに背を向けてもう一つの出口から出て行っていた。今度は一緒に回ろうな、って言っていたような気がする。昔からあの人達スキンシップとか多くて無駄に距離近いから、別にああいうのって何も考えてないんだろな。ていうかわざわざ今言わなくてもラインとかで言えば良いのに。あ、でもウチ適当にはぐらかして多分一緒には行かないな多分。掴まれた腕をもう一度見てみるけど、当然跡も無いから面白味も無い。まあ、取りあえず今はいっかと頭を切り替え、先に出口へ行かせていた上鳴の元に駈け寄って。 )



  • No.84 by 成合/上鳴  2018-08-20 17:05:16 







成合

( パチリと目が覚めると目の前は柔らかそうなソファの背もたれで、数秒かけて事態を何とか理解した。そういえば寝かされてたんだっけ。爆豪に起こされてないってことはまだ時間じゃないんだろうけど、隣に爆豪がいるって考えたらもう二度寝もできる気がしない。ぼんやりした頭では途中で起きたら脳天が大変な惨劇になることも思い出せず、ゆっくりと体を起こしてみることにした。何分ほど寝ていたのか彼に尋ねようと視線を這わせた先、寝息を立てている彼を見て思わず声を上げそうになったと同時に目を疑った。 )
ば、ッ!?
( 起こしてしまうかもしれないと言う欠片ほどの理性が働き大声を出す前に何とか両手を口に当てたものの、さてどうすべきか。とりあえず今は何時だろうと携帯を確認し、まだ40分ほどしか経っていないのだと安堵した。これで授業の時間まで眠ってたとかだったら真面目に笑えないしこの静けさからしてまだ誰も降りて来ていない…はず。お願いそうであってくれ。続いて無駄にゆっくりした動作で彼に顔を近付け、寝息も確認。すごいしっかりと眠っていらっしゃる。…どうしよう、本当は起こしてあげた方がいいのかもだけど、寝顔も見れるしでこれは起こさない方がいいのかもしれない。よし決めた、時間が来るまで寝かせておいてあげよう。そう決めればルンルンとした気分で寝顔を眺め、肌綺麗だなあ〜髪いい匂いしそ〜とかなり危なめの思考を回しつつ時間が過ぎるのを待って。 )


上鳴

うおっ、え、何!?
( 別に急いでるわけじゃねーよとか気を利かせようとしたら出口の方に追いやられ、一瞬戸惑うものの何となく理解する。俺が来ちゃまずかったっつーか、多分耳郎にとって都合が悪かったんだろう。じゃあ大人しく退散しようと顔だけを振り返らせながら出口の方へ向かえば、耳郎と話していたうちの1人が何か耳郎に耳打ちをしていた。2人の様子までは流石に見えねえから耳郎がどんな顔をしているかなんて分からなくて、とりあえずその場で一旦立ち止まった。いや俺も男だから何を言ったかなんて大体想像がつくってもので、まず間違いなく男の方は気がある、と思う。いや確実にそう。だから何だって話だけど、何だ、上手くまとまらないけど何となく気に入らない。いや俺も恋する男子を応援したいって気持ちはあるよ?いやこれはマジ。でもでも今日耳郎とデートしてんのは俺っつーか、そんな日に良いところを他の奴に取られたくねーっつーか、まあとにかくなんだ、よくありがちな嫉妬ってやつ。 )
…えーと、友達なんじゃねーの?
( 駆け寄って来た彼女にすぐ別れて良かったのかと尋ね、後ろ姿だけが見える友人たちを一瞥する。曖昧に笑って形容しがたい気持ちをどうすべきかと思案するも特に何か浮かぶ訳じゃない。とにかく聞きたいことはそうじゃない。答えを聞く前にまた後ろ姿へ視線をやれば、「何話してたん?」となるべく明るく尋ねる。自分ではなるべく雰囲気を重くしないような感じで尋ねたつもりだったけど大丈夫だろうか。そんなの自分で分かるはずもなくて。 )





  • No.85 by 爆豪/耳郎  2018-08-20 22:58:51 





爆豪

……じろじろ、見んな
( ふと目が覚めた。夜はしっかり眠ったというのにどうやら寝ていたらしい。しかし頭はかなりサッパリしていて濁りも無い。そういえば眠っている間に奴が起きていたとしても証拠がねえから爆破できねえ。しくじった。起きて早々不機嫌気味に眉根寄せると強い視線を感じる。顔を上げて睨み返してみると案の定奴は起きていた。思考はしっかりしているというのに、微妙にぼーっとした声しか出ない上に、声もあまり張れずに音量も小さい。ついでに俺の寝顔も見たんだろコイツ。何だか俺が上にいないようで腹立つ。自分が滅茶滅茶彼女の寝顔をガン見してたのを棚に上げてイラつきが凄まじい。「くそカス強盗女…」ということでふて寝をかますことにする。勿論強盗は心臓強盗の事である。ぽす、と頭から奴の方にもたれかかって顔が首元に埋めるような形になった。寝惚けてると思って別に後から追及されることもないだろう。こんなことをするなんて、本当はまだ少し寝惚けているのかもしれない。ただこれは意外にも居心地が良い。適度な温度の人肌に気分が落ち着き、再び眠りについてしまって、 )

耳郎

あ、あー…、うん、友達なんだけどね。
長話はあんまりしたくなかったっていうか、しょっちゅうラインでも話してるからさ、
( 今日はいいかなってと付け加えながら苦笑い交じりに返事する。喋り方が少しおかしいのは薄々気が付いていた。巻き込んでしまったから彼らの事を説明するのは当然なんだけど、いや何しろ親友だよ!とか言える人達ではないので若干言いよどむところも多い訳で。好きな人に暗い話とか、マイナスっぽい話題は振りたくないって思うからなんだけど、どうなんだろう。好きな人相手だからこそ正々堂々あんまり好きな人達じゃないから大丈夫!って言った方が良いのか。「何、って…普通の世間話?」とかなんとか悩みつつ、取りあえずは上手く隠して決して突き放さないような言い方で返事をすることに。正直うんうんそうだねーとばっか言うばっかりでマトモに話聞いてなかったのもあって、具体的なことが言えない。マジでだねだね言い過ぎてフシギダネみたいだったと思う。ともあれ変な話でなかったのは事実なので、そう言って誤魔化すように小首を傾げておく。なんとなく嘘を吐いているようで聊か罪悪感を感じながら。 )



  • No.86 by 成合/上鳴  2018-08-21 01:55:02 







成合

( 感動やら悶絶やら歓喜やらで声は押さえ付けられ、そうしている間に見た目よりふわふわしている髪の毛が触れた。瞬間身体が石のようにピシリと固まり、全ての動きは活動を止め、ただ唯一心臓だけが生を表すかのように早鐘を打っていた。どうしよう、本当にどうしようさっきよりマズい。何がマズいって私とか私とか私とかここに他の人が降りてきたらとかそこら辺の問題が色々山積みなのだ。爆豪のことだし、もしかしなくても私は精神から殺されようとしている可能性がある。むしろデカい。コレだ。間違いない。てかそもそもくそカス強盗女とかいうパワーワード何。なんか私盗…ったんだろうなそう言うからには。心当たりはないけど後で返しておこう。 )
あ、ッの、ば、くご、
( やっと絞り出した声はどうもひ弱で貧弱なもので自分で笑ってしまう。笑える余裕があったらの話だけど。ちょっとほんと起きないと私が怖い私が1番怖い。と怯えながらどうしようかと思案していると、1番恐れていた事態が起きてしまった。エレベーターが軽くベルの音を立て、扉が開いてしまったのだ。つまり誰かが降りてきた。いやマズいマズいどうしようマズい本当にヤバい。とりあえずどうするべきか考え、咄嗟に寝る前に脱いでいた自身のブレザーを彼の顔を隠すかのようにかければ、エレベーターに乗っていた主らしい梅雨ちゃんに元気よく朝の挨拶を。 )
…お、おはよう梅雨ちゃん!え、あ、これ?えーっとその…あ、そう!緑谷!ウン!そう!なんか寝ちゃって、ほら最近疲れてたみたいで!
( 当然のように隣のブレザーを被る何者かを不思議がる彼女にうまい言い訳が思い付かず、体格から何となく想像したらしい梅雨ちゃんの『緑谷ちゃんかしら』なんて神の一声に便乗して何とか難を逃れた。水を取りに来ただけらしい彼女は上に戻っていき、ホッと息を吐く。このまま居座られでもしたらマジで死ぬところだった。 )


上鳴

( まあ多分嘘じゃない。そもそも耳郎の言葉を疑う気だってそんなにないんだけど、友達って雰囲気だったしそんな喋り方だった。何となくちょっと耳郎が気まずそうな顔をしていたのだけは置いといてだけど。話していた内容も世間話だろう。最近どうしてるーとか、耳郎が雄英に行ったのは中学じゃ有名だろうからその話とかそこらへんなんだろう。俺もこないだ中学のダチと会った時はそんな話してたし。「あー…と、そーじゃなくて、」でも聞きたいのはそんなことじゃなくて、あの耳打ちの時の話だ。流石にあの場面で世間話したわけじゃないだろうし、表情すら見えなかったけど去り際に残していくものってそこそこデカいものが多い気がする。俺なら爆弾は最後まで取っておく。電話番号なり徹夜で考えた最高の口説き文句なり、まあ口説き文句の方は俺の経験談なんだけど、そう言ったものが大半で。 )
耳打ち、されてたっぽくね?
( いつもの様に何コソコソしてたん?とかって言い方ができないのが酷く不自然で仕方がない。それが分かっていても何となくいつも通りのはっきりした言葉で質問ができなかった。したところで誰目線?ってなるのがオチだし、ただの友達に落とされた爆弾の話するってのもなんかちげーと思うし。それくらい俺でも分かってる。俺が1番分かってる。けど気になるのだから仕方がない。だって今デート中なのは俺じゃん?さっきも思ったけどさ、やっぱそーゆー見せ場奪われんのっていい気持ちしねーよ。さっきだって戸惑ってかっこつけらんなかったんだからそれくらいくれてもいいはずじゃん。なのにとられちゃったんなら聞くくらい許せよ。 )





  • No.87 by 爆豪/耳郎  2018-08-21 07:12:03 





爆豪

……、む
( 自分がしでかしたことだと言うのに当の本人呑気な様子で、上の方で何やら慌てふためいているような奴の声がして、ようやく瞼が開いた。一瞬周りが暗すぎてここは何処なのかとも思ったが、所々から光が差していたり温かさは依然として消えていないことから布でも被せられているのだろうと寝起きのポンコツ頭が納得する。眠気は既に消えていて二度寝をしたいとは思わなかった。寝ぼけにかまけてここまで距離を縮めたことに甘え、もう少しだけ、例え許されなくてもこのままでいたかった。暗闇の中でそっと控えめに手を伸ばす。何か、恐らく制服のシャツと思しき記事に指先が触れて、軽く掴む。まるっきり自分が自分ではないようだった。俺はこの女の目の前にいると自分らしくいられない。共にいる時が多くなる度に自分が弱くなっているようでやりきれない。俺は強く在る必要があるってのに、コイツは何も知らないふりをして。そうやってまた零れるのは弱音で、情けない。「…すきだ」こんな形で思いを告げるなんて卑怯者のすることで、正しくはない。だが奴の顔を見たら、本当に俺達はどうなるのか、分からなかった。これで声がこもって上手く聞き取れなかったと言われたらどうしようもないが、その時はその時で良いような気もした。それほどに今は気持ちが吹っ切れていたのだと思う。すこしだけ、シャツを掴む力を強くして。 )

耳郎

ああ、さっきの? 別に大したこと話してたわけじゃないよ、今度は一緒に回ろうなって言われただけだし…。
( なんだ、見てたのか。全然気が付かなかった。改めて耳打ちと言われると流石に若干気恥ずかしい。別に変なことしてたんじゃないから何もないよって言えばそれだけなんだけど、軽く親密な関係に見られてもおかしくない図だったのかもしれない。ってところで上鳴もそういう風に勘違いしてたりと思考が一つの可能性を導き出した所で、何となく声が小さくなって、どんな顔をしたら良いのかも分からなくなった。ウチらには何も無いのは本当だけど、それを主張すればするだけ信じてもらえないような気がした。もともと変に距離が近くて、って話した方が良いんだろうか。いやいや、好きな人相手にそんな他の男子の話なんてしたくない。うーんと考えていると、何だか上鳴の表情が印象的に見えた。なんでかな、笑顔は優しいんだけど、なんとなく固い。そういう顔もできるんだって初めて知った。ふと気が付いたら上鳴の顔ばかり見ていて。 )



  • No.88 by 成合/上鳴  2018-08-21 12:42:40 






成合

な、
( 難を逃れて達成感に包まれていた自分の脳内はシャツを掴まれた感覚を認識しなかった。それに気付いたのは随分とこもった声を拾った後で、また同じようにピシリと動きは止まり声はひとつも発することができなくなったのだ。今なんて言ったのかって聞き返すこともできなくて、もちろん何か気の利いた返しを思いつくわけでもない。ただひどく小さくてこもった声を頭の中でリピートし続けるだけで時間が経っていって、気付けば噛んでいた下唇を放っておいたまま彼から視線を外すこともできない。「…な、んで」ぽつりと零れたのは小さな不満と本音で。なんか、正規のものじゃない気がしてた。好きと言われて付き合うような関係にはあてはまないのだと認識して、でもそれでいいと昨日悩みに悩んで決めた。だから今日は遠慮しなかった。それでもいいって、私は満足するって、そう決めたのに。なのに何でそんなことを言うんだ。なんで夢を見せるんだ。私はそれで良かったのに。 )


上鳴

( あの距離であのタイミングで次は一緒に回ろうって、そういうことじゃね?いや耳郎は何でもなさそうな顔してるけど、相手はそうじゃないかもしれない。少なくとも俺ならそうだ。デートの約束取り付けてるってことじゃん。うわあ、俺が彼氏だったらどーすんだよ。いや彼氏だと思ったからこそあーゆーことしてんのか?…まあ俺はどっちにしろ彼氏じゃないんだけど、いやでも俺はデートしてるじゃん!そういうことじゃん!って、少しモヤは残ったままだけど問い詰めても面倒な男に成り下がるだけなのは分かっている。ならそれはそれで納得して、いや納得はしてねーから納得したフリで次に目を向ける。次は雑貨屋に行くのが近いだろうか。心の中で自分の頬を叩き、リセットさせた。 )
…おし、んじゃ、次行こーぜ!
( 雑貨だっけ?俺さっきそれっぽいの見たような気がすんだよなー、と言葉を紡いで彼女を見やる。どうする?と目線で尋ねながらニッと口角を上げ、まるで気にしていませんよーとか、俺はめんどくさくないですよーってことをアピールしてみる。そんなことをしてみてもモヤは晴れないし見せ場を持ってかれたとは思ってしまうけど、かっこつけ損ねたのだから見せかけくらい作っていいはずで。 )




  • No.89 by 爆豪/耳郎  2018-08-22 18:14:47 





爆豪

( なんで、なんてそれはこっちも同じだ。答えを探して懸命に頭を動かそうが、頭痛がするほど考えようが、そんなもんが浮かぶこともない。ただ労力を費やして空を掴んでいるだけ。情けない自分が不甲斐ないとも感じた。ようやく体が動いたのは大分間を置いてからのことで、シャツから手を離し、体を起こしながら被せられていた物も手前に引いて頭から落とす。一瞬で急激に明るくなった視界に思わず目を細めながらも顔は未だ上げられず、 )
…… 勝手に踏み込んで、俺の全部持ってったのはお前だろ。
…なぁ?成合、テメェなんだ。
( 俯いたまま声を出す。自然と口が勝手に話し始めておかしかった。コイツが何を返せばいいのか分からなくなるだろうに、何を伝えたいのかが明確じゃない話し方をしてんのは返事を聞きたくなかったからなのかもしれない。コイツの考えていることなんて分からねえ。色んな感情が無造作に入り混ざって自分自身理解できてねえのかもしれない。ただ俺がこんな慕情を抱いているとは思ってもみなかったような面はしている。初めも今も、非があるのは俺だ。もうこれ以上何も言いたくないから話し続けるのが酷く苦痛で、笑っていないとやってられなかった。少しだけ顔を上げ、奴の目を静かに捉えて。 )

耳郎

うん…?
( 妙な違和感を感じながら頷いて返事をする。上鳴の笑顔が変な気がしていた。笑顔に変も普通も無いけど、やっぱりさっきから何となく固いっていうか。それに今はまるで同級生たちのことには興味がないみたい。上鳴のことなら、もっとこのまま深く色々追求してくるのかなと思ってたけど、なんだか拍子抜け。凄くよそよそしい訳じゃない。でも何かがあるのは間違いないと思う。だってこんなの絶対上鳴らしくない。視線を落として考えてみる。このまま上鳴の心情を想像していたら日が暮れる。でも…いや、なら今の上鳴がもし自分だったら、ウチは何を思う? でもこれも違うな、どうしても主観的になって上鳴のことは分からない。上鳴の話し方とか違和感には、なんか覚えがある。具体的に名前が出てこない。ウチがよく知っていて、上鳴も同じように感じていること。……あ、そうだ置き換えてみよう。もし上鳴がウチだったら、あの一部始終を見て…、 )
………やきもち?
( すぐにぴんと来て、いつの間にやら俯いていた顔を上げた。というか置き換えて考えてみたらほとんど秒速でひらめいた。…いやでも言ってみてからどうにも違うような気もしてくる。あくまでも朝みたいにすぐやきもちギレする私だったらって話だし、上鳴の態度に大分当てはまるような気はするけど、うーん。また視線は気付かぬうちに横へ移動し、悶々とした表情で考え込んで。 )



  • No.90 by 成合/上鳴  2018-08-23 18:18:09 






成合

( なんで、本当になんでなんだろう。真っ赤な瞳と目が合って思わずびくりと反応してしまう。なんで、今、こんなの。それで良いと吹っ切れて、もう高望みはしないんだって腹をくくった私が諦めていた言葉を投げかけてくるのだ。すきだって、私もすきだよ。なのに嬉しさよりも戸惑いが先に脳天を刺激するのだから本当に腹が立つ。ずっと欲しかった言葉を貰ったのだから素直に喜べばいいのに、相反した感情同士のぶつかり合いはそれを許してくれない。鼻がぎゅうと掴まれたように痛くなる。目尻の冷たさを何よりも感じたのは、きっと目頭が熱かったからで。 )
ばくご、ッ
( もうどうしていいか分からなくて、それでも助けを求めたいから彼の名前を呼んだ。ただその前に意味の分からない涙がボロボロ出てくるのだから本当に意味が分からない。私もだと答える前に変な疑問が渦巻いてしまう意味だって知らない。でも止めなくちゃいけないのは分かったから、昨夜アイロンもかけたワイシャツの袖でごしごしと目を拭う。そのせいで気合いを入れた前髪も崩れてしまったし、目もヒリヒリするし赤くなってしまいそう。それでもなんとか目から溢れでる雫を止めると「…もう意味わかんない、」目を合わせることもできなくってポツリと弱音を。 )


上鳴

は?
( 反射的にそんな言葉が飛び出て、浮かべていた笑顔も余裕もめんどくさくないですよアピールも全てが崩れ落ちた。いや確かに大きな爆弾を投下したあいつに嫉妬はしていたし、でもそれを表に出すのはダセーからなんとか頑張ろうって持ち直したところではあったけど。あった、けども。なんかそう、やきもちって形容されると俺がいい雰囲気の2人を僻んでるみてーな、いや実際そうだったんだけどそこになんか思春期みてーな感情っつーか、はっきり言って仕舞えば恋愛感情が含まれているような言い方になってしまうじゃないか。今デートをしているのはそうなんだけど、そういった目で見たことがないみたいな…女の子だとは意識しても別物っていうか、いや俺誰に言い訳してんだろう。 )
えーっと、いや、そうじゃ…いやそうじゃねーけど、そうだけど!いや違くて、
( 言い訳もしどろもどろ。心の中では否定しても言葉にしたらこんな曖昧になってしまうのに建前は通用しなかった。数秒の間の後うなだれたように俯き、力なく頭をかく。どれだけ心の中で言い訳しようと自分っていうのは正直で、真っ向から否定できないあたりその通りだったのだろう。うわー俺ダセー…、両手で顔を覆うとちらと指の隙間から相手を見て「……そう、…デス、」紡いだ言葉も自然と敬語になってしまった。 )




  • No.91 by 爆豪/耳郎  2018-08-23 21:13:57 





爆豪

( 情動に駆られてようやく話せていたぐらいだというのに、一度声を出せば脳は場違いなほど生き生きと活動し始めた。そのまま現状を冷静に捉え、ただの解読コードのように淡々と頭へ伝達する。目の前で女が泣く所を初めて見た。人の唇がこんな風に震えるだなんて初めて知った。何よりも睫毛に絡んだ雫を見た瞬間体に衝撃が走った。ああ俺は今、あれほど恐怖していた終息を自分が引き起こしたのかと。それが予想以上に強いショックで、今は指一本だって動かないような気がした。 )
……、だろうな。
( 俺も、分からない。口ばかりが達者で余裕ぶった返事をする。今となっては、笑顔が浮かべられているのかも分かりっこない。成合を泣かせたのは俺で、そして俺の言葉だ。あんな事言ったりしなければ、せめて泣かせはしなかった。だが自分を、この慕情を、抑えきれるわけねえんだよ。望めばすぐに触れられるような距離にいるというのに、この情を死ぬまで心の内に抱えたままの暮らしなんざ想像できなかった。 )
………初めっから俺はこういう奴だ。テメェも嫌気差しただろ。
……俺は、別れる。
( 別れ。今は現実味が無くてもすぐに慣れる。関係は解消して、関わりも途絶える。互いに干渉しない他人になる。そういう別れだ。さっきとは人が変わったようにすらすら声が出る。きっと頭の何処かで、こうなることは想定していたからだろう。むしろこうなる可能性がほとんどだった。俺らはもともと隣にいて成り立つような二人じゃない。簡単なことですぐに破綻し崩壊するに決まってる。コイツの傍にいるのは違う奴がいい。その為に俺がしてやれんのは、コイツに関わらねえよう離れることだけだ。せめてと思って瞳だけは逸らさない。僅かな時間ではあったが、泣き跡が色濃く残ったその面を見つめて頭ん中に刷り込ませた。鞄を引っ掴んで立ち上がり、ひと目視線を寄越すがすぐに踵を返す。さっさと登校しようと、早くも遅くもないスピードで寮玄関へ歩を進め。 )

耳郎

………、っふ、ふふ、…んふふッ、
( にへ、って気持ち悪そうな顔で笑ってたと思うので服の袖で口元は隠して俯いておく。でも笑い声は大きくないとはいえ笑い方が確実にヤバいので引かれたかも。どうしよう、今凄く面白い。試しに言っただけなのに、上鳴ばっちり動揺して図星のようだし顔隠してるのは超かわいい。「……、うれし」それはもう、とっても。目を細めて上鳴には微笑んでみせる。内心では大はしゃぎだけどね。BGMとかで多少騒がしいモール内だから、そんなに小さい声で呟いた訳ではなかったけど聞き取れなかったと信じておく。上鳴のことだから、友愛の嫉妬なんだって分かってる。でも嬉しくて、それで少しだけ恥ずかしい。好きな人のやきもちでこんなに気持ちになるんだ。こんなに喜んで不謹慎かもしれないけど、でも悪いことじゃないと思うから神様許して欲しい。 )
じゃあ雑貨屋、だっけ?早く行こ…、う、や、フフっ、
( あ、やば、ツボったかもしれない。行こうかって言おうとしたのに、まだ笑いが止まらなくてままならない。上鳴キレたらどうしよ、今度こそ嫌われるかも。だけどこればかりは自分で止められないから仕方がない。ふ、ふ、なんて最早不気味な笑い方になってきたような気がしながら、口元押さえ笑顔をこぼして。 )



  • No.92 by 成合/上鳴  2018-08-25 07:53:55 







成合

( もう何が何だか理解するのに時間がかかったのだ。爆豪がずっとほしかった言葉を言ってくれて、でもそれを信じることができなくって、そんなことで泣いてしまって。きっと彼は悪くなかった。ただ自分がほんの少しでもそれに疑いを持ってしまったことが、何よりも好きだと思っていた彼の言葉を信じられなかったことがダメで。なのに相手に責任を感じさせてしまったことが何よりも心を揺らす。胸がひどく痛んで心臓が止まりそうだ。嫌気なんかさしていない。それが嘘でも本当でも別れたくない。彼にどんな理由があろうと今のこの状況をラッキーとして付き合おうって寝不足になりながら決めたのは私なのに。 )
…ッう、
( その時だけ力の抜けたように垂れ下がる足は、彼を見送ったまま動かない。動かせ動かせって、何かして引き止めてって、そう言っても少しだって動きやしないし言葉は出やしない。まだ少しだけ残った疑問が大きく身体を支配して、収めたはずの涙が噴水のように流れ出してきた。声を上げても制服を濡らしても彼は戻って来なくって、それだけで一生もう話せない気だってして、それじゃダメなことは少しでも分かるからよたよたと立ち上がる。もう泣き止むのを待たないまま扉に向かって歩き出した。爆豪に合わなくっちゃ心とか精神とかそういうものが全部壊れてしまう気がして。 )


上鳴

( 今の俺の状況を一言で表すのなら、全俺が満場一致で『クソカッコ悪い』だった。見せ場も奪われて爆弾を落とされて、それにちょっとした嫉妬をしているのを見抜かれた上絶賛赤面中。少女マンガだったら俺の方がヒロインなんじゃねえかと錯覚するくらいの大惨事だろこれ…この後もうマトモにデートとかできる気がしねえもん…。…まあとにかく、これから挽回しなくちゃなんねえことは嫌でも分かる。それができるかは別として、…いや、やらなくちゃダメだ。だって俺超ダセーし!このままじゃデート大失敗で終わるし!耳打ちしたあいつよりかっこいいとこ見せて終わんなきゃダメだろ! )
…わすれて。
( やっとのことでまだ少し熱の残る顔から手を離し、雑貨屋の方へ足を進める。未だ笑っている耳郎にはしどろもどろになりながらもそう覇気のない言葉を返し、小さく肩を落とした。もうマジでダセー…。これ相手耳郎じゃなかったら本気で1週間凹んでたかもしれない。…いや耳郎だからこそダメージ大きいのかもわかんねえな。仲の良い、それも女子にこんな姿を見られた精神的なアレってのはかなりデカいみたいで。「挽回する、から。笑ってられんのも今のうちだかんな、」不満そうにそう言ってみせる。でもやっぱりまだ顔はちょっと熱かったからそれほどかっこよくはなかったかもしれない。そうだろうと半分は自分への自己暗示として、もう半分は意思表明としてそう伝えて。 )




  • No.93 by 爆豪/耳郎  2018-08-25 23:05:59 




爆豪

…、おい…。
( 不意にまた啜り泣く声が聞こえてきて、止めてしまいそうになる足に鼓舞する。けれどもその声は奇妙に遠ざかって行かないからつい後ろを振り返ると、案の定零れる涙も拭かずよたよた歩いていた。本当に今にでも水分不足でブッ倒れてしまいそうに思うぐらいぼろぼろと泣いていたから、流石にと思ってそんな声が出る。この状態だと、このまま俺が外に出ようが付いて来そうな勢いだから取りあえずその場で立ち止まる。もう俺には、コイツに触れて良い資格が無いのは分かっていた。それほどのことをした。好きで好きで、きっと愛していたから傷付けた。正しいことは何もしてやれていない。でも、それだけで俺は満足して、よかったと思える。記憶は嘘をつかない。全部が愛しい時間だったのは偽りなんかじゃない。今がどんだけ悲しかろうが、いつか必ず悲哀は和らぐ。成合の涙もきっと止まる。自分では止められずとも他の誰かが成合を奪い、拭うだろう。 )
……拭け
( けれど、今だけは許して欲しい。制服が濡れるほど泣いている今となっては遅いが、無いよりはマシだろう。手持ちのタオルを鞄から取り出し奴の頭に被せる。タオルは長いからそれだけで奴の顔は隠されて、「…今後俺に近寄んな」どんなに情けない面をしてようが、今ならコイツに見られることは無いだろうと鷹を括って最後に付け足して、今度こそ玄関の方へ向かう。もう呼び止められようが二度と立ち止まる気は無くそのまま歩き続けて、 )

耳郎

( 大変不服そうな顔で言われてしまった。いやいや、だってさ、どうしても嬉しいよ。例えこの一瞬だけでも上鳴がウチのこと、思ってくれてたってことでしょ。ごめんね、でも嬉しいよ。 )
はいはい、あんまり期待しないで待ってるわ。
( 挽回って、ウチが笑いすぎたからやっぱり恥ずかしいのかな。でもその赤い顔見てると説得力足りないって。怒られるかもしれないなと思いながら、またちょっとだけ笑ってしまった。先に歩き始めた上鳴に付いて行きながら、そうして返事する。上鳴はよく笑うことはあっても、こういう顔を見る機会はあまり無い。だから余計にこういうのは特別な気持ちになる。あーまた気持ち悪いこと考えてるなウチ。駄目だな、笑えちゃって仕方ない。 )
…あ。
( …違う、その前に、上鳴に言わなきゃいけないことがある。大切なこと。「…さっきさ、来てくれて助かった。…ありがと」些細なことだけど、大事なことだった。あの時、凄くほっとしてたんだ。友達相手にこんなの変だって思う。好きじゃないと思ってたけど、本当は嫌いだったんだろうか。そうやってずっと逃げてたのかもしれない。上鳴が変な気持ちになるって分かっていて言う。相手が上鳴だからこそ言わなきゃいけないと思った。嘘をついているようなのが嫌だったんだ。目を伏せて、でも薄い笑みは絶やさないままで。 )


  • No.94 by 成合/上鳴  2018-08-26 04:30:51 






成合

( 頭にかけられたふわりとした感触。見るまでもなくタオルだと分かって、嗚咽が一瞬だけ止まった。それでも言葉だけがぐさりと刺さって抜けない。遠ざかっていく足音とタオルから香るニトロの甘さがもう終わったことなのだと指し示してくる。それがとんでもなく怖くて、目元を必死に拭ってみても止まらない。それどころか彼の匂いが余計に鼻腔をくすぐって嗚咽がひどくなるだけだ。彼の名前を呼んでみても、待ってなんで引き止める言葉を紡いでみてもそれらは全て嗚咽になるだけで、涙で視界はぼやけるし顔も前髪も制服だって全てボロボロだ。アイロンだってかけたのに。ずっと鏡や反射した携帯で前髪を気にしていたのに。やらないよりはましだって、マッサージもしたのに。全部が全部、抱いてしまった疑問に、迷いに台無しにされてしまった。もう彼との繋がりは濡れてしまったタオルしか残っていなくて、それすら繋がりだと主張できるかも怪しい。 )
ッぐ、
( あの時ただ嬉しさだけを感じていられたら、笑顔で頷いていられれば。そんなたらればはもう通用しないんだって分かりきっていた。それでも希望だけが捨てきれなくて、その場にへたり込む。ぼやけた視界を何度擦ってももう彼の後ろ姿だって見えない。一緒に登校することなんてできやしなかった。結局その後私に優しく声をかけてくれたのは先ほど挨拶をした梅雨ちゃんで、とんでもなく優しい彼女は誰にも言わないと約束をして学校まで一緒に行ってくれた。教室に入っても爆豪のいる方は見れなかった。 )


上鳴

( 両手でパタパタと顔の熱を冷ますように扇いでみるけど、弱風よりも弱風といった風圧のそれが上手く機能しているかは怪しかった。でも早くこの赤みを消さないと挽回なんて夢のまた夢のような話で、女の子にそんな顔をさせることはあっても男が赤面なんぞしちゃいけないのだ。…まあそのご法度をおれはさっきやらかしちゃったわけなんだけど。頭の中で必死に両親の顔を思い浮かべれば自然と顔の熱は冷めてきて、だいぶ平常に戻ったような気がする。いや戻ったとしておこう。安堵のため息を吐いていれば耳郎から聞こえたのは珍しいお礼の言葉で、俺なんかしたっけ、なんてしばし考えてみた。…けど、まあ何も思い浮かばないのが俺のバカな頭。なんか真意が分からないままあーいーよいーよとかも言えねー気がして、そのお礼の意味を聞いてみることにした。 )
どゆこと?俺なんかした?
( 来てくれて助かったって、なんかまるで話すのが嫌だったみてーな言い方じゃん?でも別にあいつらはマジで耳郎のダチなんだろうし、何話してたって質問には自然と答えてたしでまあ意味がわからん。そんなことを小難しく考えているとポンと思い浮かんだ可能性に「あ、」と声を上げ、個人的に真面目に見えそうだと思っている顔で近付き「なんかされたん?」と尋ねた。だって考えられるのってそれしかなくて、なんかやなことでもされてたならそのアフターケアは男である俺がしなくちゃならない。それがなくても単純に仲良いやつの役に立ちたいってのがあるんだけど。 )





  • No.95 by 爆豪/耳郎  2018-08-26 18:23:58 




爆豪

( 窓から漏れる夕日が廊下を満たしている。その上を踏み越えて歩いているとリノリウムの床と靴が擦れて時折甲高い音が鳴った。何事も無くまた一日が終わりかけている。運が良いことに朝の騒動のことを知る野郎共はおらず、それが唯一の救いでもあった。能天気に俺を構う奴らといると余計なことを考えなくて済んだ。戦闘訓練も同じ要領で多分に集中できて満足したが、訓練後にタオルが無いことを思い出してしまったのが悪かった。ともあれ今は放課後。今日の昼休み、告白女には放課後に返事の約束を取りつけた。ダラダラ何かが続いているというのは異常にイライラするのでさっさと片付けるに限る。わざわざ場所を選ぶことでも無いだろうと思って奴のクラスを訪ねることにして、カバンは教室に残して今向かっているところだ。できるだけ生徒の気配が少なくなるのを待っていたのだから、これも誰かに聞かれるようなことも無いだろう。最後がこんなことになるのなら、アイツと付き合っているフリなんてしなくても良いだろうと何処からか声が聞こえてくるようだった。ついでに今朝の約束も自分から滅茶苦茶にして、現実的な話すると実際その通りだ。だがそれでも意味はあった。あのうざったい感情の名前は、距離が近くならない限り分からなかった。 )
…テメェとは付き合わねえ。
( 女のクラスに着いて中を覗いてみると奴以外はいなかった。依然として今日も大人しそうに笑っている。下らねえ前置きなんてしたくもないから単刀直入に待たせていた返事をして「……惚れた奴がいる」仮にも惚れていた野郎に振られたというのに、その笑顔が一瞬でも揺らぐことは無い。理由はあるのかな、と遠慮無く理由を問いてくる。もうここまで来れば何一つ隠す気も無く、この執拗な女が納得行くように正直に話すことにして。 )

耳郎

あ、いや、そういう訳じゃないよ。…でも、なんだろ。
( なんかされた、ってのはきっと確実に違うから胸の前で右手を左右に振ってバツサインを。改めて考えてみたら変なことは一切無いし、普通の話しかしてない。ウチはそれが何となく嫌だったみたいなこと言ってんだからめちゃ神経質だなーって思われそう。でもまあ、「…もし上鳴が来てくれなかったらって考えたら、お礼言っといた方が良いなって、思った」根拠が無いから少し言葉が詰まりそうになった。多分あの状態のままではとてもウチ一人で上鳴を呼びになんて行かなかったし、行けなかった。いつまで経っても、どうしてもあの人達とは一歩引いた姿勢でしか関われないのが今日ので証明されてしまった。情けなさすぎて思わず溜め息が出そうになる。「それにあのままずっと雑談続いてたら絶対遊ぶ時間減ってたし、うーんまあ、そんな感じ」言葉を濁して喋っているようで、これじゃあ結局言う意味あるのか無いのか分かんないけど仕方がない。だって今の自分のことなのによく分かってないんだから。小さく苦笑を零しながらそうして返事して。 )


  • No.96 by 成合/上鳴  2018-08-27 22:24:09 







成合

( そりゃあもう朝の私は酷い顔だったろうと思う。仲の良い1A女子はこちらを見るなり化け物を見つけてしまったような反応をするし、実際自分で鏡を見たら化け物がそこに映っていた。何とか2時間目が終わるまでには目の腫れも引いたから良しとして、それでも表情は自分で分かるくらい沈んでいたのだからよほど応えたらしい。授業が終わるまで爆豪を視界に入れないようにしたし思い起こさないようにって努力したつもりなのにこれ。…いやそれはタオルを肌身離さず持っていたのが原因なのだろうけど、持っていないと本当に全てが終わってしまう気がして嫌だったのだ。 )
…どうしよう。
( 訪れた放課後。タオルは早々に寮へ帰った私の手の中にあって、どうしたものかと思案する。返すしかないのだけど今彼と話せる元気はないし、かといって仲の良い切島なんかに渡してもらうのは嫌だ。呆れたことに幻滅されていてもおかしくはない私はまだ爆豪のことが大好きで、ならもうこれは自分で返すしかない。腹を括って共有スペースにいた切島に彼の居場所を聞けばまだ寮には帰っていないらしい。なら待っていてもいいけど男子の棟に入るのは気持ち的にアレだし、玄関で返すのは人の目があるから駄目。なら学校へ出向く。思い立ったらすぐ行動とばかりに駆け足で学校へ戻ってみればまだ鞄は席に置かれたままで、きゅっとタオルを握りしめたまま彼の席の前で立ち止まった。洗濯して返した方が良かっただろうか。でも爆豪の気持ちを考えれば早めに返してしまった方がいいように思う。好きな人の邪魔はできないから彼の中で決着をつけさせてあげないと。 )


上鳴

…。おー、そんくらい気にすんなよ。
( 理解できたか理解できなかったかで言うと圧倒的に理解できていない。これは俺の頭が弱いだけなのかどうなのか、とりあえず俺じゃ理解できなかったってことだ。まあでもお礼を言われて悪い気はしないし、それで耳郎が助かったっつってんならそれでいい気もするからそのまま置いといて納得しとく。人の役に立つってのは案外悪くねーし、俺だってヒーロー志望だからそれでいい。はず。いやぜってーそう。 )
ね、なに見んの?俺どんなんあるか全く知らねーんだけど。
( 大抵ここのショッピングモールに来て足を運ぶのは服屋とかゲーセンとかってのばっかで、たまーに行くのだってCDショップだの本屋だのだから雑貨屋の類は寄り付かないどころの話じゃない。どんなのがあるかも知らねーからワクワクしつつも不慣れなとこでかっこわりー姿見せんのもなーなんて不安もあるのが本音だ。いやたかが雑貨屋ごときっつったらそれまでだけどさ、こちとらデート中だからな。初デートでどこにランチ行くかくらい重要なんだわ。雑貨屋デートの神を呼び寄せようとしてるくらいには必死だから。視界の端に可愛い女の子が好みそうな可愛いぬいぐるみを捉え、耳郎の方に目を向ければ朗らかにそう尋ねて。 )





  • No.97 by 爆豪/耳郎  2018-08-28 20:17:09 





爆豪

…ソイツの為に費やしたなら、時間も労力も代償も全部どうだって良い。
……テメェは、ソイツとは違う。
( そう言って、もう一度奴の顔を見てみたが、表情に変化は無かった。すぐに分かったと、それで、目を細めて笑っていた。それからは、不思議と勝手に体が動いてその場からは立ち去った。今は再び廊下を歩いている。最後まで分からん女だった。俺がただの盲目野郎だと内心思っていそうでいなさそうな面をしていた気がする。つまり結局分からない。今の感情を、敢えて言葉にするのならまるで夢を見ているようだった。あの瞬間まで誰にも打ち明けず、自分自身も表現できなかった奴への想いも、全部言葉となって口から滑り落ちた。思えば相当くさい台詞だったような。とても奴には聞かせられない。…閑話休題。この夢見心地の原因は、ただ笑って引き留めず且つ冷静たったあの女だけが異質だったからなのかもしれない。ただ、俺とアイツがもしも共通点があるのなら、それは俺とアイツを縛っていた縄が消えたということだ。まあそれにも実感が湧いていないのも原因の一つになるのかもしれないが、もう良い。今の俺を悩ませていた案件は全て終わらせた。後に待つのは普段の日々。 )
…、……。
( …そうだろが普通。どうして、教室戻ったら奴がいる?しかも何故今この時このタイミングで。おかしい。絶対におかしい。素数を数えたら現実に戻るかもしれないと軽く頭がトリップしかけたところ、ばっと脳裏をよぎったのはさっき口から出た馬鹿みてぇに小っ恥ずかしい言葉の羅列で。迷わず入室しかけていた教室から飛び出して、当てもなく廊下を歩く。んだ、これ。いつもより心臓の鼓動が少し早いような気がした。それに伴って意味も無く足を動かす速度も上がっていて。 )

耳郎

( 当然のことながら若干分からなさそうな顔をしてる。ですよね。にしてもやっぱり、というかせめて上鳴と一緒にいる時はあの人達に会いたくないな。今日みたいに上鳴にも迷惑かけるかもしれないし。それにふっつーに絡まれそうだもん上鳴。タイプ似てるし。この際言っちゃうけどかっこいいし。あの女の子達に言い寄られてたらどうしようもないし。だってやめてとか、そんな強く言えないよ。とにかくそういう色々があって、どうにもあの人達に感じる嫌な予感だけが抜けない。こんなのは考え過ぎかな。そしてめちゃ笑えるほど考えが暗過ぎで陰気臭いなこれ。あの人達どっか行ったんだし、もうこんなのはやめよう。うん。 )
んー、まあお店によるけど、取りあえずアクセとかネイルとか?
あとは…適当にお店の中見て回る感じかな。
( 実際お店によって色々置いてあるものって変わるから一概には言えないけど、基本そんな感じ。このモールに入ってる雑貨屋は確かアクセがそこそこ置いてある記憶があるし、それ見たら言った通り店内をぐるぐる回ることになりそう。何しろ雑貨屋だから、ウチの趣味だけじゃなくて大分可愛い感じの〜って商品も多いし、見てるだけでも楽しい。別に趣味じゃなくても可愛いものは可愛いしね。それにたまにしか雑貨店って行かないし、色々見てみたい気持ちが強い。「…、あ、ていうか次は上鳴の行きたい所に行く予定だったのに、良いの?」そういえば色々あってすっかりすっきり頭から飛んでいたけど、次に行く場所は上鳴が決めるって約束をしていたのを思い出す。話の流れ的に次行くのって完全うちが行きたい雑貨屋のことだよねこれ。言ったのは自分の方なのにそれでは上鳴に悪くて、控えめにそう尋ねて。 )



  • No.98 by 成合/上鳴  2018-08-29 03:19:37 







成合

( 自然から生まれる音以外はただひたすら静かな空間だった。寮はあれほど騒がしかったというのに、少し離れればこうだ。そのせいで緊張も増すし不安も募るのだからいいことがない。そんな中微かに響いていたのは誰かの足音で、上履き特有の軽い音が更に鼓動を速くさせた。私の待っている人かは分からないのだけど、無意識にタオルをぎゅうと掴む。返すものにシワをつけてしまうようだったけど、今だけはちょっとだけ許してほしかった。やがて音は大きくなり、A組の教室の前で止まる。扉に背を向けているせいで誰かは分からないのにもう確信を持ってしまっていた。来てほしいようでほしくはなかったような、そんな人。 )
爆豪、
( 予想していなかったわけじゃなかった。逃げられてしまうんじゃないかって、最悪の予想。起きてほしくなかったからこそ頭の中から放り出そうとしていた予想がぴしゃりと当たってしまってまた泣きそうだ。届かないであろう小さな声で彼の名を呼び、重い足取りで同じように教室を出る。廊下の先にいる小さな人影は、その背中は間違いなく待っていた人で、嬉しいのか悲しいのか分からなかった。「爆豪!」そう叫んださっきよりは大きな声。「…タオル、返しに来ただけ。ごめんね」近寄るなと言われたのに破ってしまってごめんなさいと、そう言った。 )


上鳴

あー…、んー、別に。どっちもちけーし、何なら今日デートじゃん?
( そういえば試聴したCDと妙な感情…いや嫉妬なんだけど、まあそれで次行くとこのことなんて忘れ去っていた。確かに目的ではあるけど早急に買わなきゃ死ぬって訳でもないし、今日はデートなのだから耳郎の行きたいところを優先していい。なんならあいつはさっき良くない思いをしたわけだし、機嫌を直すってことじゃないけど気くらい使っていいはずだ。にまーと緊張感のない笑顔を浮かべて理由を並べれば、すぐそこまで近付いてきた雑貨屋を示して「もう着いたし」と付け足して。 )
…あ、俺アクセだのネイルだのって全く知らねーからそこらへん勘弁な!
( 雑貨屋には勉強の目的もあったはず。なんか女の子とこういうとこ来てただ見てるだけじゃ今後つまんねー奴とか思われてもおかしくねーし、詳しくなって行くことが大事…だと思う。ぜってーそう。男物は見ることはあっても女物ってチラ見くらいしかしねーし、そう言ってカラフルな店内を見渡し、手近な棚に置いてあったネックレスを手に取った。なんとなく黄色のストーンが目を引いただけだけど、そのまま振り返って耳郎の首に当ててやる。「お、割と似合う」何となくで選んだけど似合うっちゃ似合う。俺センスあんのかもーなんて考えて笑った。 )





  • No.99 by 爆豪/耳郎  2018-08-29 21:11:05 





爆豪

( 名前を呼ぶその声に、一度心臓がどくんと音を立てて響いた。思わず反応してはたと足を止めてしまう。未だ頬からは火照りが引いていない。波打つ心臓の音が鬱陶しいほど体に鼓動しているのがよく分かっていて、奴にまで振動が届かないかと心配しそうにもなる。咄嗟に体が動いて逃げてしまったが、これからどうすんだ。タオルなんていらねえのに、その今にも泣き出してしそうな声を振り払える度胸も無い。意味があまり無いように思いながら、気分を落ちつけるため声が出ない程度に深く長い息をつく。それから奴の元へ、さして速くはない速度で歩いて、 )
………さっき、
( タオルを受け取るぐらいならギリギリ届くぐらいの距離で立ち止まる。顔なんてとても上げられなかった。目の前に誰でもない奴がいるのだと思うと、ふいに日中あれほど思い出していた今朝の泣きそうな顔が頭をよぎるからおかしい。ただタオルを受け取るだけじゃなくて、その前に何か話した方がいいんじゃないかとそんな変な事を思った。話しかける資格も役目も無いのは重々承知している。けれど逃げた理由を伝えないまま勘違いされたら気分は良くない。無駄なことでコイツを悩ませたくなかった。ようやく熱が引いてきたのを感じて、ぼそぼそと声を出す。「……俺に、告った奴に。テメェが好きだから付き合えねえって、言ってきた」自分の声は想像していたよりも細く覇気がなく、口が上手く動かせないからなんだがそれが余計に情けなくて上手く言葉も紡げない。 )
…それなのに、そんな後に限って、教室戻りゃテメェはいるし、
( 自分が何を伝えたいのか分からなくなってきた。好んでコイツから逃げたのを否定したいのか、好きだから泣いて欲しくないのか、また整理がつかなくなってきて言い終えていないのに言葉が出なくなった。イライラするような、もどかしいような感情が湧いてまた顔が熱を帯びてんのが気色悪くて、手持ち無沙汰の右手でぐしゃぐしゃ前髪を引っ張って。 )

耳郎

…デートだから、ウチのことばっか優先させるってこと?
……だったらウチも同じことしても別にいいよね。
( なんだか、ずっと始めから感じていた縺れの正体がようやく分かった気がした。上鳴がデートデートと連呼する度に感じていた違和感みたいなものの正体が。いや、間違いない。「…ウチも、上鳴と『デート』してるんですけど」不服そうな顔だったと思う。当然だよ、ちょっとむっとしてたんだから。上鳴は気が利くし空気は読めるし、そこが良いと思うけど、程度があるじゃん。今してるのが男女のデートでも、ウチと上鳴は友達だ。…これからでも恋人にはなりたいけど!でも今は置いといて、とにかく今はまだ友達。デートだからって女の子扱いして、こっちに遠慮するのはなんだか嫌。上手く言えなくて、こんな気持ちが伝わるかなんてわからないけど、今言わなきゃいけないことだと思った。 )
あ、うん。最初から期待してないから心配してくれなくていいよ
( 気が付いたら着いていたお店の中に入り、ぼーっとヘアピンとか髪ゴムとかを眺めながら若干日本語がおかしい気がするもあしらっておく。いや逆にめちゃ知ってたらびっくりするわ。それにウチだって男の人のファッションとか大して知らないし、同じことだよ。とか思ってたら急に上鳴が振り返ってネックレスと思われる何かを首に当ててくるものだからびっくりした。それでまた小さい子みたいに笑うものだから、これではまるで本当の本当に付き合ってるカップルで、「…ッ、そういうとこ嫌い!」いーっと睨んでぷいと背を向けてしまう。もっと可愛い言い方すればいいんだけど、これは上鳴が悪い。わざとじゃなくて素なんでしょ、どうせ。心臓もたないっつーの。そうしてアクセと睨めっこしながら、少しずつ店の奥に入っていって。 )



  • No.100 by 成合/上鳴  2018-08-30 21:25:07 







成合

こ、
( 思わず声が出た。だって初めて知った。そんなことがあったってことも、私を理由に断ってくれることだって想像がつかなかったのだ。彼はきちんと、ちゃんと、好きでいてくれて。同じ気持ちであるはずなのになぜこんな状態になってしまっているのかって、それは私のせいなのだけど。でも嬉しかった。もう心の中に不安だとか疑問だとかっていうのは全くなくて、今朝もこんな心境だったら話はまた違ってきていたのだろう。爆豪が離れていってしまうことも、私が泣くこともきっと。…いや、私が泣くことはあったかもしれないな。「……そっか。…ありがと、」気の利いた言葉のひとつでもかけられればよかったのに、出て来たのはそれだけ。嬉しくて、愛しくて、でも心のどこかでは悲しかったのだ。今手に持つタオルを渡してしまえば本当にそれまでで何もかもが終わってしまうような気がしてならなかった。関わるななんて言葉を肯定しきってしまいたくない。だってすっごく好きなのに、「…や、っぱ、ごめん、」そう思ったらふと声が飛び出ていたのだ。 )
返したく、ない。やだ、
( 迷惑をかけてばかりだ。彼の言ったことを無視して近付いて、今度はそれを反故にしようとしている。わがままで強欲で嫌になる。それが本心なのだからもっと嫌になる。痛くなる鼻も暑くなる目頭もなにもかもが涙を溢れ出してしまいたいと叫んでいたからぎゅうと堪えた。どこにも行ってほしくなくて、他の誰かを見てほしくもなくて、そうなってしまいそうなものならこのまま時が止まればいいと思ったの。 )


上鳴

( 驚いた。ちょっとどころじゃなくて、結構驚いた。俺が今までデートしてきた女の子って、まあ同じようにデートだからって女の子の方を優先させてきたわけだけど。さすがにじゃあこっちも同じなんて言う相手は1人もいなくて、それがちょっぴり異端だったからか、ときめいたからかとにかく嬉しかった。ありがとうとか悪いよーとかの言葉で返されることはあっても張り合ってくる子なんて初めてだ。他の女の子が違ったのか耳郎が特別なのか、きっと後者だ。なんかなんだか相手からそう言われるとデートだってそんな実感が湧いてくる。驚き一色だった顔は嬉しそうに歪み、多分今の俺の顔は相当カッコイイってのには程遠い。でもまあ、女の子に気を使ってカッコつけるだけがデートじゃないってことで。 )
えー、ヒドくね!?俺ちゃんと選んだのに!
( 続く期待してないだの嫌いだのパンチが効いた耳郎節にもダメージはゼロで、文句は言いつつも顔はやはり嬉しそうに歪んだままだ。ニッコニコ笑顔のままぶつくさ言うっていう絵面も相当なモンだけどデートって感じがしてこれはこれでいい。「でもマジで似合ってると思ったんだけどなー…」なんて店に並ぶものをキョロキョロと見渡しながら呟けば、先ほどのネックレスに埋め込まれていた黄色のストーンを思い出してなんかちょっと重かったかな、なんて反省。目を引いたから選んだだけなのだけど、自分の髪の色と同じなんて傍目から見たら独占欲丸出しみてーだ。また目を引いたピアスを指差して「なー耳郎、これは?」と尋ねてみる。またまた黄色いストーンがはめられたものが一際似合いそうとか思ったけど、今度はちゃんと意識して黒いものを選んでみたりちゃんと考えているのだ。 )





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