匿名さん 2018-06-10 21:12:24 |
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爆豪
( 名前を呼ぶその声に、一度心臓がどくんと音を立てて響いた。思わず反応してはたと足を止めてしまう。未だ頬からは火照りが引いていない。波打つ心臓の音が鬱陶しいほど体に鼓動しているのがよく分かっていて、奴にまで振動が届かないかと心配しそうにもなる。咄嗟に体が動いて逃げてしまったが、これからどうすんだ。タオルなんていらねえのに、その今にも泣き出してしそうな声を振り払える度胸も無い。意味があまり無いように思いながら、気分を落ちつけるため声が出ない程度に深く長い息をつく。それから奴の元へ、さして速くはない速度で歩いて、 )
………さっき、
( タオルを受け取るぐらいならギリギリ届くぐらいの距離で立ち止まる。顔なんてとても上げられなかった。目の前に誰でもない奴がいるのだと思うと、ふいに日中あれほど思い出していた今朝の泣きそうな顔が頭をよぎるからおかしい。ただタオルを受け取るだけじゃなくて、その前に何か話した方がいいんじゃないかとそんな変な事を思った。話しかける資格も役目も無いのは重々承知している。けれど逃げた理由を伝えないまま勘違いされたら気分は良くない。無駄なことでコイツを悩ませたくなかった。ようやく熱が引いてきたのを感じて、ぼそぼそと声を出す。「……俺に、告った奴に。テメェが好きだから付き合えねえって、言ってきた」自分の声は想像していたよりも細く覇気がなく、口が上手く動かせないからなんだがそれが余計に情けなくて上手く言葉も紡げない。 )
…それなのに、そんな後に限って、教室戻りゃテメェはいるし、
( 自分が何を伝えたいのか分からなくなってきた。好んでコイツから逃げたのを否定したいのか、好きだから泣いて欲しくないのか、また整理がつかなくなってきて言い終えていないのに言葉が出なくなった。イライラするような、もどかしいような感情が湧いてまた顔が熱を帯びてんのが気色悪くて、手持ち無沙汰の右手でぐしゃぐしゃ前髪を引っ張って。 )
耳郎
…デートだから、ウチのことばっか優先させるってこと?
……だったらウチも同じことしても別にいいよね。
( なんだか、ずっと始めから感じていた縺れの正体がようやく分かった気がした。上鳴がデートデートと連呼する度に感じていた違和感みたいなものの正体が。いや、間違いない。「…ウチも、上鳴と『デート』してるんですけど」不服そうな顔だったと思う。当然だよ、ちょっとむっとしてたんだから。上鳴は気が利くし空気は読めるし、そこが良いと思うけど、程度があるじゃん。今してるのが男女のデートでも、ウチと上鳴は友達だ。…これからでも恋人にはなりたいけど!でも今は置いといて、とにかく今はまだ友達。デートだからって女の子扱いして、こっちに遠慮するのはなんだか嫌。上手く言えなくて、こんな気持ちが伝わるかなんてわからないけど、今言わなきゃいけないことだと思った。 )
あ、うん。最初から期待してないから心配してくれなくていいよ
( 気が付いたら着いていたお店の中に入り、ぼーっとヘアピンとか髪ゴムとかを眺めながら若干日本語がおかしい気がするもあしらっておく。いや逆にめちゃ知ってたらびっくりするわ。それにウチだって男の人のファッションとか大して知らないし、同じことだよ。とか思ってたら急に上鳴が振り返ってネックレスと思われる何かを首に当ててくるものだからびっくりした。それでまた小さい子みたいに笑うものだから、これではまるで本当の本当に付き合ってるカップルで、「…ッ、そういうとこ嫌い!」いーっと睨んでぷいと背を向けてしまう。もっと可愛い言い方すればいいんだけど、これは上鳴が悪い。わざとじゃなくて素なんでしょ、どうせ。心臓もたないっつーの。そうしてアクセと睨めっこしながら、少しずつ店の奥に入っていって。 )
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