＊ シザンサスの願い / 非募 ＊

同じ匂いを共有すると、親近感が湧くらしいよー。あ、下着はご心配なく。
( ぼふぼふと座ったまま少しばかり跳ね、今日出来たばかりの寝床の感触を楽しんでいた刹那、ふいに相手からお風呂を先に使っていいと促されば相変わらず言わなくてもいいような情報をさらりと口にしつつボストンバッグから下着を引っ張り出し、お風呂場へと小走りに駆けて行き。後、扉の隙間から顔を出し「簡単にわかったら面白くないよ！」何て声をあげ、今度こそその身をバスルームへと消して )

うるせぇとっとと入れ！（匂いがどうの、下着がどうの面白さが...etcと言っている相手に、少し大きめの声で風呂場へ投げかけ。シャワーの音から入ったことを確認すると、まだ夕飯を食べていなかったことを思い出し冷蔵庫を開けて中身を見るも、自分だけならば2日は持ちそうな量だが二人となると足りなくなりそうで、ほんとうに明日は大量の買い物になるなと少し気が重くなり。とりあえず、余っているもので作れた卵雑炊を作って相手が風呂を上がってくるのを待ち）

──お待たせー。え、あ、何かいい匂いするっ！
( シャワーの音に混じって相手の怒声が聞こえてくればそれすらも嬉しいのかにんまりと口元笑みを浮かべ。言われた通り相手が使っているのだろうボディソープとシャンプーを使いささっと済ませては、最後に泡や髪の毛を丁寧に流していき風呂場を出、下着は新しいモノを、服はパジャマがなかったために先程まで着ていたものを着用し。リビングへとその姿を表してすぐ、鼻腔を擽るいい匂いにぱあっと表情を瞬かせ、ぱたぱたと小走りに相手の元へと駆けていき )

お前...それ以外の服無いのか？...ちっ、待ってろ（先ほどと同じ服を着ている相手にほかの服はまだ用意出来ていないのかと思い、舌打ちをして面倒臭いと思いながらも雑炊の方はほぼ出来上がっているので火を止めて一度寝室へ入り。タンスから適当に自分の持っている中で一番小さいシャツとジャージを出すがどれも相手にはなかなか大きいだろうと思ったが同じものを着て、ましてや潮風に当たっていた服を着たままソファで寝られるのが嫌なので我慢させようと出した服を持ちまたリビングへ戻り。｢食う前に、これ着てこい｣と相手の方に持ってきたシャツとジャージを渡して、顎で脱衣所の方を指し）

ん、明日パジャマも買わなきゃ。ちゃんと洗って返すからね。
( 出来上がっている雑炊に顔を近付け香る匂いを肺いっぱいに蓄えてたその時にふいに自分が着ている服を話題に出されれば視線一度服へと向け苦笑いを浮かべ。そうしているうちにわたされたのはどう見ても大きい相手の服で。されど今それを拒否する理由など何処にもなければ今一度脱衣場へとその姿を消し。それからすぐ、ぶかぶかなそれを来て戻ってくると、「イチさんの匂いがする気がする」と笑い )

洗って返すも何も、どうせうちの洗濯機使うんだから変わらねぇよ。...あぁ、さっきの服洗濯機の中入れたか？明日着る服もないんだろう。今からやれば間に合うか...（渡したままの足でキッチンへ入り、雑炊を用意してあった椀に入れてテーブルに置き。相手と入れ替わりで脱衣所に行くと洗剤などを入れてスイッチを押し、今から洗濯して明日の朝に間に合うかと思考を巡らしながらブツブツと呟き、まぁ何とかなるかという考えに落ち着き。｢だからうるせぇっての、黙ってそれ食って寝ろ｣自分の匂いがするという相手の頭を小突き眉間にシワをよせ、いつも自分の座るドアに近い所の椅子に腰掛けると蓮華で食べ始め。猫舌なのか眉間のシワは取れずはふはふと冷まし）

じゃあ私が干すよ。食べ終わった食器も洗っておくから、イチさんその間お風呂入って。
( 服も下着もちゃんと洗濯機の中に入れていれば小突かれた額を押さえつつ一つ頷くだけで終え、相手が戻って来、席についたのを見て己も目前へと腰を下ろしては腕捲りをした後にぱちんと手をあわせ、頂きますの合図を。熱々のそれを口にして口内に広がる旨味に表情綻ばせては無意識のうちに美味しいと口にし。そうして黙々と食べ勧めていく最中、途中ぴたりと手を止めると皿に視線向けたまま「こういうの久しぶり。⋯家族、みたいな気持ちになる」と控えめな呟きを落として )

わかった。俺の洗濯物は後から別に洗うからお前は自分のだけどっかに干しとけ。それが終わったら電気消して寝てていいぞ(早食いなのか、もう既に半分以上食べ終えたところで、自分も今日一日でかなり疲労が溜まっていると感じて相手の申し出にのり。｢…そうかよ。けど、俺とお前は同じ家に住んでるだけの他人だ。忘れるなよ｣相手の小さな呟きが耳に入ると、後残り僅かな雑炊をかきこんで小さくご馳走さんと言うなり立ち上がり流し台に置き、水を溜めながら冷たく言い放ち着替えを持ちバスルームへ消え)

うん、じゃあそうするね。⋯、⋯⋯ごちそうさまでした。
(ㅤ自分は一体何を期待していたのだろうか。相手から返ってきた返答に少なからず寂しさと苦しさを覚えると同時、どう頑張っても家族にはなれぬ事、そうして家族は戻って来ない事をまざまざと突き付けられたような気持ちになり。バスルームへと消えるその背中に「厳しいなぁ、もう。」とぽつり呟いては、ややして食べ終えた食器を持ち台所へと向かい、そこで相手のと自分のとを丁寧に洗いながら再度、何かを振り払うかのような深い息をついて )

…ちっ！なんだってんだ。うざってぇ
(リビングから脱衣所まで無表情を貫いてきたが、もう大声で叫ばない限り相手には聞こえないだろうと盛大に舌打ちし、とても険しい顔でガシガシと頭を掻き。先ほど言ったことは事実であり自分もその時まで全くなんとも思っていなかったし正しいことを言ったはずなのに、相手の寂しそうな顔が頭から離れず罪悪感が胸に広がり。その何とも言えない靄を晴らすようにか又は何度も思い浮かぶあの顔を忘れるようにか、荒々しく髪や体を洗うとザブッと浴槽に浸かり大きくため息をつき。湯の熱さから頭に血が上り思考力が落ちて来るも、その後しばらくぼーっと浸かっており、結局上がったのは入ったときから時計の長針が180度以上進んだところで、さすがにすべて終わらせて寝ているだろうとリビングへ進み)

布団と飴と服は絶対だよね。──歯ブラシはあるし⋯あ、お弁当箱とか⋯は、今じゃなくていいか。
( 皿を全て洗い終わり、いつの間にか終わりを告げていた洗濯機の中身も当たり障りない、邪魔にならなさそうな場所に干し、さぁやる事は終わりだ眠ろう、となった時、どうにも目が冴えてしまっている事に気が付くと眠るのは諦めたようで食卓の所の電気だけを付け明日買うべきものをメモに纏めていき。そんな事をしてとのくらいの時間が経っただろうか、お風呂からあがった相手がリビングに戻ってくるのをちらりと確認すると、「 おかえりなさーい。何か眠れなくて 」と先程の事など全く気にしていないように笑いかけて )

まだ寝てなかったのか？...はぁ、明日も早いからこれ飲んだらもう寝ろ
（ てっきり寝ていると思った相手がまだ起きており首に巻いていたタオルで頭をガシガシと拭いていた手をそのままに目を開いて驚いたような表情をすると、相変わらずの笑顔を向ける相手に少しバツの悪そうな顔で目をそらし。キッチンへ入ると冷蔵庫から牛乳などを取り出したり小さな片手鍋を用意したりとゴソゴソ作業して。完成したミルクティを少し乱雑にゴトっと相手の前に置き、自分用の紅茶も用意すると先ほどご飯を食べたのと同じ位置に座りメガネをかけて手のひらサイズの文庫本を取り出し ）

何買っとくべきか纏めておこうかと思ってね。じゃーん！ちゃんと飴も入れてるから大丈夫っ。
( 驚いたような表情の相手に今まで書いていた紙を突き付けるようにして見せると、飴、という字の所を一度トントンと指で叩き。それからキッチンへと消えた相手が戻ってくるまでの間をまた紙と睨めっこするも、ふいに目の前にミルクティが置かれればビックリしたように目を丸くし、後、幸せそうに表情綻ばせマグカップへと口をつけ。温かなそれが喉を通る感覚にふぅ、と溜息をついては「美味しい。凄く。」と呟いて )

...ここ、間違ってるぞ
（ ずいっと出された紙は近くて見えずらかったのか、少し体を仰け反らせて目を細め書かれた文字に目を通し。キッチンから二つのカップを手にして戻って、本を読もうと思ったがもう1度チラリと紙を見て内容を改めて確認し。本を膝の上に開いたままで置くと相手の手元から紙を抜き取りテーブルに置いてあったペンで飴のところに“×3”と、先ほどリクエストした物よりも量を増やして書き込み。｢ただ紅茶に牛乳入れただけだろ｣紙を机の上にパサりと置いて自分も紅茶を一口飲むと、我ながら上手くいれられたなと満足そうにふっと息を漏らし ）

ミント以外にもたくさん種類あるんだよ？三袋もあったら飽きちゃわない？
( 目の前に差し出した紙が奪われ飴の所に言っていたよりも多い数を書かれればキョトンとした後、やや真面目な顔でそう問いかけ。確かにミルクティなど誰でもいれる事が出来るかもしれない。されど何故だかとても美味しく感じてしまうと「作った人の愛情が込められてるのかもー。」とからかうような口振りでそう言葉にし、次いで何を考えているのか徐に立ち上がり相手の側でぴたりと立ち止まり )

俺はミントでいい。あれが気に入った
（ 甘いものも食べられない訳では無いが、どちらかというと辛いものや苦いものが好きということと、ミント味の飴が丁度よく自分の舌にあったのでミント味で十分だと告げ。｢ 馬鹿なこと言うな。...なんだよ ｣少し慣れてきたのかハァとため息を一つ付いて受け流すようになり。相手が不意に立ち上がり自分の横に来たのでなんだと訝しむように下から見上げ ）

そっか、イチさんはミントが好きなんだね。うんうん、ちゃんと覚えておかなきゃ。
( 相手の好きなものが一つ知れた瞬間をけして忘れぬと言うように大袈裟に頷いて見せると、適当にあしらうようになった相手にまるでそれが心地よいとでも言わんばかりに笑ってみせ。そうしてその笑みのまま、徐に両手を広げると、「もう寝るからおやすみのハグしてー」なんて更なる戯言を紡いで )

んなこと、一文にもならないから忘れろ
(どんなに冷たくあしらってもいちいち嬉しそうに反応を返す相手に最早呆れではなく新鮮味が湧くが、顔には一切出さず無表情で。｢…はぁぁ…馬鹿かお前は。それにな、俺の抱擁は安くねぇぞ。お前が寄越したあの金、全部使っちまうかもな｣ジトッと出方を伺うと想像の斜め上な言動をしたのでビシッと固まり、感覚が戻って来ると深い深いため息をつき、はっと鼻で笑い)

わかんないよー。何かお強請りしたい時は飴をチラつかせるかも。
( 相手の好みを覚えておくのは単なる好奇心なのか、それとも別の策があるからなのか。どちらにせよわざとらしく肩を竦めると同時、先程の嬉しそうなものではない悪戯を思い付いたようなにんまりとした笑みを浮かべ。されどそれも一瞬で。自らがこの家に居れるまさに命綱のようなお金を対価として全部払わなきゃならないとなればハグなど望むはずもなく、「やっぱり今のは聞かなかった事でお願いします」と、ギギギ、と音がしそうな動きで背を向けまた自分の席へと戻っていき )

あーはいはいそうだな
（ 何故そこまで興味があるのか逆に聞きたいが、自分の時間の方が大事だと、本をまた手に取り目線も本に落として片手間に返事をし。｢ちっ！...ほんと面倒臭い奴だな。こっち来い｣相手が戻る途中で、こんな事でいちいち一喜一憂する様子に舌打ちをし、心底面倒臭いと表情に出ていがちょいちょいと手招きして ）